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JP7032046B2 - 生理活性物質の連続的な定流速精製方法 - Google Patents

生理活性物質の連続的な定流速精製方法 Download PDF

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本発明は、生理活性物質の連続的な定流速精製方法に関する。
免疫グロブリン(抗体)は、免疫反応を司る生理活性物質である。近年、医薬品、診断薬あるいは対応する抗原タンパク質の分離精製材料等の用途において、抗体の利用価値が高まっている。抗体は免疫した動物の血液あるいは抗体産生能を保有する細胞の細胞培養液又は動物の腹水培養液から取得される。ただし、それらの抗体を含有する血液や培養液は、抗体以外のタンパク質、又は細胞培養に用いた原料液に由来する複雑な夾雑成分を包含し、それらの不純物成分から抗体を分離精製するには、煩雑で長時間を要する操作が通常必要である。
遠心分離や精密ろ過により、生産細胞から分離された抗体は、一般的には、まずプロテインAクロマトグラフィーに代表される、アフィニティークロマトグラフィーによって精製される。アフィニティークロマトグラフィー工程においては、一般的にはバインドエリュート様式と呼ばれる、下記(A)~(C)の工程を経て、不純物成分が低減し、濃度の高い抗体が生成される。
(A)抗体と不純物が混じった試料をカラムに負荷する工程(負荷工程)
(B)負荷したカラムから精製対象とする抗体以外の不純物を取り除く工程(洗浄工程)
(C)精製対象とする抗体をカラムから溶出し、回収する工程(溶出工程)
さらに抗体の精製度を高めるため、前記のアフィニティ―クロマトグラフィー工程を経た抗体をカチオン交換クロマトグラフィー及びアニオン交換クロマトグラフィー等のイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、及び逆相クロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィー等の手法を組み合わせて処理することが一般的である。
カチオン交換クロマトグラフィー工程では、抗体単量体と抗体2量体等の凝集体を分離することが、しばしば目的とされている。カチオン交換クロマトグラフィー工程では、低塩濃度の抗体溶液を吸着材に接触させることにより、抗体を吸着させるとともに不純物成分を通過させ、その後移動相の塩濃度を高めることにより、吸着させた抗体を溶出させる精製様式(バインドエリュート様式)が一般的に行われているが、近年、より簡便な方法として、フロースルー様式による目的物質の精製も提案されている。
フロースルー様式は、目的物質ではなく不純物を選択的に吸着材に吸着させ、目的抗体を通過させる精製方法の様式である。従来の吸着と溶出を利用したバインドエリュート方法に比べ、緩衝液(バッファー)の節約や工程の簡略化につながるといった利点がある。
アニオン交換クロマトグラフィー工程では、従来からフロースルー様式が一般的であり、抗体と宿主細胞由来タンパク質(HCP)、DNA、ウイルス等の、等電点の低い不純物を分離することが、しばしば目的とされている。
従来の伝統的な精製方法では、アフィニティークロマトグラフィー工程の後、バインドエリュート様式によるカチオン交換クロマトグラフィー工程を行い、さらにフロースルー様式によるアニオン交換クロマトグラフィー工程を行うことが一般的である。しかし近年、より効率の良い方法として、カチオン交換クロマトグラフィー工程もフロースルー様式で行うことが提案されている。
抗体はクロマトグラフィーで分離精製された後、さらに、ウイルス除去膜を用いて、混入の恐れのあるウイルスが除去される。このようなウイルス除去工程に用いられるウイルス除去膜は、微小なウイルスをサイズ排除メカニズムにより除去するため、小孔径の孔を有している。そのため、ウイルス除去工程の前の、クロマトグラフィー工程において抗体の精製度を十分に高めておかないと、ウイルス除去工程において、圧上昇や閉塞といった事象が発生し、十分な抗体の処理量が得られない。
上記、アフィニティークロマトグラフィー工程、アニオン交換クロマトグラフィー工程、カチオン交換クロマトグラフィー工程、そしてウイルス除去工程は、それぞれバッチプロセスであり、それぞれの工程の間に、バッファーの交換や、希釈という工程が必要であった。さらに、各々の精製工程によりバッチ処理された抗体溶液は、一時貯蔵のためにタンクに保存する必要があった。
近年、上記アフィニティークロマトグラフィー工程、カチオン交換クロマトグラフィー工程、そしてアニオン交換クロマトグラフィー工程などのクロマトグラフィー工程を、連続化することにより、より効率的な連続的な精製プロセスを構築する試みがなされている。
バインドエリュート様式の精製工程を連続化するために、擬似移動床クロマトグラフィー分離装置(SMB)を用いる方法や、多数のカラムを切り替えて使用するマルチカラム装置を用いる方法が、近年開発されている。しかしながら、SMB装置等の導入には設備投資が必要であり、操作が複雑であるといった欠点がある。さらに、バインドエリュート様式では、担体に結合した抗体が高濃度で溶出されるため、次の精製工程へ負荷するときの抗体濃度が大きく変動するといった欠点を有する。
また、アフィニティークロマトグラフィー工程、アニオン交換クロマトグラフィー工程、及びカチオン交換クロマトグラフィー工程等のクロマトグラフィー工程は、プロセス液の流速を一定に保つ、いわゆる定速処理が一般的であるのに対し、ウイルス除去工程は、ウイルス除去の工程管理の観点から、プロセス液の透過圧を一定に保つ、いわゆる定圧処理が一般的である。したがって精製工程を連続化するためには、定速処理と定圧処理を組み合わせる必要があり、連続プロセスを構築する際の問題となっている。
さらに、従来の非連続的なバッチ精製方法に適した精製デバイスについては、多くの検討がなされてきたが、連続的な精製方法に適したデバイスの組み合わせや、組み合わせたデバイスを用いた連続的な精製方法は、これまで十分に検討されていない。
また近年、連続的な細胞培養による抗体産生技術が発達してきており、パーフュージョン培養法やATF(Alternating Tangential Flow)法を利用した連続細胞培養が、工業的な抗体生産に採用され始めている。これらの連続的な細胞培養は、連続的な抗体精製と組み合わされることで、抗体製造のコストを大きく改善し得る。連続的な細胞培養は60日を超える長期にわたるため、抗体精製にも長期にわたって安定的に運用できることが要求される。このような抗体生産に最適な精製方法に適したデバイスの組み合わせや、組み合わせたデバイスを用いた連続的な精製方法は、これまで十分に検討されていない。
非特許文献1には、プロテインAカラムによるバインドエリュート様式による精製と、カチオン交換カラムによるバインドエリュート様式による精製を、マルチカラムシステムで連続的に行い、アニオン交換膜によるフロースルー様式による精製を連続的に行う方法が開示されている。ここで開示されている精製方法はクロマトグラフィー工程のみであり、ウイルス除去工程との連続性に関する記載はない。
特許文献1には、約1から約30mmol/Lの密度で1つ又は複数のカチオン交換結合基が結合した固体担体と接触させるステップを含み、固体担体がタンパク質凝集体に選択的に結合し、それにより、タンパク質凝集体から対象の単量体タンパク質を分離する、フロースルークロマトグラフィー方法が記載されている。特許文献1には、カチオン交換体とウイルス除去膜の連続性について記載されているが、それ以外の媒体(アニオン交換体等)との連続性については記載されていない。また、ウイルス除去工程の処理量は小さく、精製プロセスの効率は依然として不十分である。
特許文献2には、プロテインAカラムによるバインドエリュート様式による精製を行った後、アニオン交換膜、カチオン交換膜、及びウイルス除去膜によるフロースルー様式による精製を連続的に行う方法が開示されている。ここで開示されている精製方法は、沈殿剤の添加、活性炭による浄化、及びデプスフィルターによる浄化などの補助的な精製工程を組み合わせることで、連続的な精製を実現している。しかしながら、連続的な精製において、抗体の処理量が記載されているが、明確な値ではなく、詳細な条件が記載されていないために、当業者は、特許文献2の記載に基づき、処理量の大きいタンパク質の精製を実施することができない。
特開2013-189427号公報 特開2015-522019号公報
Journal of Biotechnology,Vol.213(2015),P13-19
抗体医薬品の工業的な生産において、精製工程を連続化することにより生産効率の大幅な改善が期待できる。しかしながら、連続的な精製工程を構築するために、最適な精製デバイスについて、これまで明らかにされてこなかった。さらに、一定流速に適したクロマトグラフィー工程と、一定圧力に適したウイルス除去工程を、どのように統合すれば、連続的かつ一定流速で行われる精製方法を実現できるのか、その条件や媒体について、検討されてこなかった。
本発明者らは上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、連続的で高効率な抗体精製プロセスを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の態様によれば、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程と、を備え、各工程間が連続的であり、かつ、各工程間が一定流速で行われる、生理活性物質の精製方法が提供される。
上記の方法が、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程をさらに備え、各工程間の少なくともいずれかが連続的であり、かつ、各工程間の少なくともいずれかが一定流速で行われてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の後に、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程が行われてもよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の後に、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程が行われてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の後に、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が行われてもよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の後に、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が行われてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程の間が連続的であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程における膜間差圧が一定となるように制御されてもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が最後に行われてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜による精製工程の間に、バッファー交換工程を含まなくともよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜による精製工程の間に、バッファー交換工程を含まなくともよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の間に、バッファー交換工程を含まなくともよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜による精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まなくともよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、ウイルス除去膜による精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まなくともよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程と、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まなくともよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程に、最大孔径が10nm以上100nm以下のウイルス除去膜であって、濃度が10mg/mLのヒト免疫グロブリン含有液を、294kPaの定圧で、当該ウイルス除去膜1m2あたり50Lから55L濾過した時の平均透過流束が50L/m2/h以上となるウイルス除去膜を用いてもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程に、最大孔径が10nm以上100nm以下のウイルス除去膜であって、濃度が10mg/mLのヒト免疫グロブリン含有液を、294kPaの定圧で、当該ウイルス除去膜1m2あたり50Lから55L濾過した時の平均透過流束Aと、当該ウイルス除去膜1m2あたり400Lから405L濾過した時の平均透過流束Bと、が、下記式(1)を満たすウイルス除去膜を用いてもよい。
平均透過流束B/平均透過流束A>0.50 (1)
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程にウイルス除去膜を用い、濾過開始からウイルス除去膜1m2あたり5L透過した時点におけるブタパルボウイルスの対数除去率と、濾過開始からウイルス除去膜1m2あたり50L透過した後、ウイルス除去膜1m2あたり5リットル透過した時点におけるブタパルボウイルスの対数除去率と、がいずれも3以上であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程に、粗大構造層と、緻密構造層と、を備える、熱可塑性樹脂を含む微多孔膜であって、粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、粗大構造層の厚みが2.0μm以上であり、緻密構造層の厚みが膜厚全体の50%以上であって、かつ粗大構造層と緻密構造層が一体化している多層微多孔膜を用いてもよい。
上記の方法において、ウイルス膜の材質が、親水化された合成高分子であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜の材質が、親水化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、親水化ポリエーテルスルホン(PES)、親水化ポリエチレン(PE)又は親水化ポリスルホン(PS)から選択される親水化された合成高分子であってもよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程がフロースルーモードであってもよい。
上記の方法における、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程において、カチオン交換膜を用いてもよい。
上記の方法における、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程において、グラフト高分子鎖を有するカチオン交換担体を用いてもよい。
上記の方法において、膜状基材と、膜状基材の表面に固定された共重合体と、を備えるカチオン交換クロマトグラフィー担体であって、共重合体がモノマー単位として(メタ)アクリルアミド類化合物及び/又は(メタ)アクリレート類化合物を含み、当該担体の体積あたり30mmol/Lより高い密度で、1又は複数種類のカチオン交換基を有する、カチオン交換クロマトグラフィー担体を、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程に用いてもよい。
上記の方法において、カチオン交換クロマトグラフィー担体1mLあたり、単量体と凝集体を含む抗体100mgを精製した時に、凝集体割合を50%以上低減させてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程がフロースルーモードであってもよい。
上記の方法における、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程において、アニオン交換膜を用いてもよい。
上記の方法における、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程において、グラフト高分子鎖を有するアニオン交換担体を用いてもよい。
上記の方法において、アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程に、3級アミノ基を含有するグラフト高分子鎖が固定された膜を用いてもよい。
上記の方法が、アフィニティ―クロマトグラフィー工程をさらに含んでいてもよい。
上記の方法が、ウイルス不活化工程をさらに含んでいてもよい。
上記の方法において、生理活性物質の精製工程に貯蔵容器を含まなくともよい。
上記の方法が、生理活性物質を活性炭素と接触させる工程を含まなくともよい。
上記の方法が、生理活性物質を沈殿剤と接触させる工程を含まなくともよい。
上記の方法が、生理活性物質をデプスフィルターと接触させる工程をさらに含んでいてもよい。
上記の方法において、生理活性物質含有溶液の電気伝導度が0.1~100mS/cmであってもよい。
上記の方法において、生理活性物質含有溶液の水素イオン指数がpH4.0~10.0にあってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜による精製工程で、精製される生理活性物質の濃度が5~100g/Lであってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜1m2あたり、精製される生理活性物質の液量が50~3000L/m2であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜1m2あたり、生理活性物質の処理量が4~30kg/m2であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜1m2あたり、生理活性物質の負荷量が5~30kg/m2であってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜1m2あたり、精製される生理活性物質の流束が30~200L/m2/hであってもよい。
上記の方法において、ウイルス除去膜1m2あたり、精製される生理活性物質の時間あたり負荷量が0.24~20kg/m2/hであってもよい。
上記の方法において、生理化活性物質の回収率が80%以上であってもよい。
本発明によれば、生理活性物質の連続的な定流速精製方法が提供される。
実施例で用いた装置の模式図である。 実施例1から14の結果を示す表である。 実施例で用いた装置の模式図である。
以下、本発明の実施の形態(以下、「実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお以下の示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部材の組み合わせ等を下記のものに特定するものではない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
実施の形態に係る生理活性物質の精製方法は、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、ウイルス除去膜による生理活性物質の精製工程と、を備え、各精製工程の間が連続的である。あるいは、実施の形態に係る生理活性物質の精製方法は、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、ウイルス除去膜による生理活性物質の精製工程と、を備え、各精製工程の間の少なくともいずれかが連続的である。またあるいは、実施の形態に係る生理活性物質の精製方法は、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程と、を備え、各工程間の少なくともいずれかが連続的であり、かつ一定流速で行われる。
実施の形態に係る生理活性物質の精製方法は、例えば、生理活性物質を活性炭素と接触させる工程を備えない。
上記アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程、及びウイルス除去膜による精製工程は、例えば、バインドエリュート様式のアフィニティークロマトグラフィー工程後に実施される。カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程を行うか否かは、適宜設定される。カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程と、の順序は限定されない。例えば、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程の後に、カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程が実施されてもよいし、カチオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程の後に、アニオン交換クロマトグラフィーによる生理活性物質の精製工程が実施されてもよい。
上記アニオン交換クロマトグラフィーによる精製工程、カチオン交換クロマトグラフィーによる精製工程、及びウイルス除去膜による精製工程は、例えば、フロースルー様式で行なわれる。
ここで「連続的」とは、処理時間の少なくとも一部において、2つ以上の精製工程に同時にプロセス液が流動していることをいう。精製工程とは、カチオン交換クロマトグラフィー工程、アニオン交換クロマトグラフィー工程、ウイルス除去工程から選択される。例えば、カチオン交換クロマトグラフィー工程後の溶液をそのままアニオン交換クロマトグラフィー工程で精製すること、アニオン交換クロマトグラフィー工程後の溶液をそのままカチオン交換クロマトグラフィー工程で精製すること、カチオン交換クロマトグラフィー工程後の溶液をそのままウイルス除去工程で精製すること、及びアニオン交換クロマトグラフィー工程後の溶液をそのままウイルス除去工程で精製することの少なくともいずれかをいう。
「そのまま」とは、例えば、バッファー交換をしたり、溶液を濃縮したり、溶液を2倍以上希釈したり、溶液を一定期間貯蔵したりしないことをいうが、各精製工程の間には、溶液を1つ以上の追加の媒体(例えば、スクリーンフィルター、デプスフィルター、混合モードクロマトグラフィー担体、疎水性相互作用クロマトグラフィー担体、活性炭素等)と接触する工程があってもよい。例えば、アニオン交換クロマトグラフィー担体とウイルス除去膜とが連通であってもよく、間に溶液を追加の媒体と接触させる工程があってもよいが、処理時間の少なくとも一部において、2つ以上の精製工程に同時にプロセス液が流動している。連通とは、ある処理工程からの透過液を、そのまま次の処理工程に供給することをいう。例えば、カチオン交換クロマトグラフィー担体とアニオン交換クロマトグラフィー担体とが連通していること、アニオン交換クロマトグラフィー担体とカチオン交換クロマトグラフィー担体とが連通していること、カチオン交換クロマトグラフィー担体とウイルス除去膜とが連通していること、及びアニオン交換クロマトグラフィー担体とウイルス除去膜とが連通していることの少なくともいずれかであれば、2つ以上の精製工程が連続的であることに該当する。精製工程を連続的に実施することにより、一時貯蔵時の不安定な状態に曝される時間を短縮することができる。これにより、生理活性物質の変性を抑制し、高い品質の生理活性物質を得ることができる。一般的に、生理活性物質の変性による凝集体は、ウイルス除去膜の閉塞を引き起こし、高処理量を達成する障害となりえる。
「負荷量」とは、精製媒体(例えば、アニオン交換体、カチオン交換体、ウイルス除去膜等)に負荷した生理活性物質の重量であり、負荷した生理活性物質の濃度(C0)と負荷した液量(V0)から算出(生理活性物質の負荷量=C0×V0)される。
「処理量」とは、精製媒体(例えば、アニオン交換体、カチオン交換体、ウイルス除去膜等)で精製した後の透過液中に回収された、生理活性物質の重量であり、透過液中の生理活性物質の濃度(C1)と透過した液量(V1)から算出(生理活性物質の処理量=C1×V1)される。
「回収率」とは、精製媒体(例えば、アニオン交換体、カチオン交換体、ウイルス除去膜)に負荷した生理活性物質の重量に対する、精製後に回収された生理活性物質の重量であり、(C1×V1)/(C0×V0)×100、から算出される。
実施の形態に係る生理活性物質とは、例えば、抗体タンパク質の単量体成分である。生理活性物質の一例である抗体タンパク質は、生化学における一般的な定義のとおり、脊椎動物の感染防禦機構としてBリンパ球が産生する糖タンパク質分子(ガンマグロブリン又は免疫グロブリンともいう)である。例えば、実施の形態で精製される抗体タンパク質は、ヒトの医薬品として使用され、投与対象であるヒトの体内にある抗体タンパク質と実質的に同一の構造を有する。
抗体タンパク質は、ヒト抗体タンパク質であってもよく、ヒト以外のウシ及びマウス等の哺乳動物由来抗体タンパク質であってもよい。あるいは、抗体タンパク質は、ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質、及びヒト化抗体タンパク質であってもよい。ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質とは、可変領域がマウスなどのヒト以外の生物由来であるが、その他の定常領域がヒト由来の免疫グロブリンに置換された抗体タンパク質である。また、ヒト化抗体タンパク質とは、可変領域のうち、相補性決定領域(complementarity-determining region: CDR)がヒト以外の生物由来であるが、その他のフレームワーク領域(framework region: FR)がヒト由来である抗体タンパク質である。ヒト化抗体タンパク質は、キメラ抗体タンパク質よりも免疫原性がさらに低減される。
実施の形態に係る精製対象の一例である抗体タンパク質のクラス(アイソタイプ)及びサブクラスは特に限定されない。例えば、抗体タンパク質は、定常領域の構造の違いにより、IgG,IgA,IgM,IgD,及びIgEの5種類のクラスに分類される。しかし、実施の形態に係る精製方法が精製対象とする抗体タンパク質は、5種類のクラスの何れであってもよい。また、ヒト抗体タンパク質においては、IgGにはIgG1~IgG4の4つのサブクラスがあり、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。しかし、実施の形態に係る精製方法が精製対象とする抗体タンパク質のサブクラスは、いずれであってもよい。なお、Fc領域にタンパク質を結合したFc融合タンパク質等の抗体関連タンパク質も、実施の形態に係る精製方法が対象とする抗体タンパク質に含まれ得る。
さらに、抗体タンパク質は、由来によっても分類することができる。しかし、実施の形態に係る精製方法が対象とする抗体タンパク質は、天然のヒト抗体タンパク質、遺伝子組換え技術により製造された組換えヒト抗体タンパク質、モノクローナル抗体タンパク質、及びポリクローナル抗体タンパク質の何れであってもよい。これらの抗体タンパク質の中でも、実施の形態に係る精製方法が対象とする抗体タンパク質としては、抗体医薬としての需要や重要性の観点から、ヒトIgGが好適であるが、これに限定されない。
実施の形態の精製方法で取り除かれる不純物としては、例えば、抗体の凝集体、宿主細胞由来タンパク質(HCP)、DNA、及びアフィニティークロマトグラフィー工程で脱離してくるプロテインA等がある。
アフィニティークロマトグラフィーとは、しばしば親和性クロマトグラフィーとも呼ばれ、目的物と親和性の高い物質をリガンドとし、リガンドに目的物を吸着させることにより、物質の分離精製を行う手法であり、リガンドとなる物質によって様々な目的物を選択的に分離精製できる。例えば、リガンドとしてプロテインAを用いるアフィニティ―クロマトグラフィーは、プロテインAクロマトグラフィー、あるいはプロテインAアフィニティークロマトグラフィーと呼ばれ、プロテインAと抗体との親和性を利用して、抗体を選択的に分離精製することができる。
プロテインAは、スタフィロコッカス属黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に由来する。上述の通り、プロテインAは、中性条件下で、抗体のFc領域に対して特異的に高い親和性を有する。そのため、天然のプロテインAを用いて抗体を精製する際には、まず、天然のプロテインAをリガンドとして有する固定相(以下、プロテインAカラムと称する。)に抗体を含む溶液を中性条件下で接触させて、固定相上の天然のプロテインAに抗体を特異的に吸着させる。そして、中性の緩衝液で担体に吸着しなかった成分を洗浄除去した後、pH3.0付近の酸性の溶液を用いて、固定相上の天然のプロテインAから抗体を遊離させる。
アフィニティークロマトグラフィー工程で用いるクロマトグラフィー材料はプロテインAを有しておれば特に限定されないが、該プロテインAは一般には固定相に固定されている。例えば、プロテインAレジンとして、MabSelect(商標)、MabSelect SuRe(商標)、MabSelect Xtra(商標)、Protein A Sepharose(商標)(GE Healthcare)、ProSep(登録商標)-vA、-vA High Capacity、-vA Ultra、Ultra Plus、Eshmuno(登録商標)A(Merck Millipore Corporation)、Protein A Ceramic HyperD(登録商標)F(Pall Corporation)、AbSolute(登録商標) High Cap(Novasep)、POROS(登録商標)MabCapture(商標)A(ThermoFisher)、UNOsphere SUPrA(商標)、Affi-Gel(登録商標)、Affi-Prep(登録商標)Protein A(Bio-Rad)、Toyopearl AF-rProtein A-650F(Tosoh)、Amsphere(商標)A3 Preotein A(JSR)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。プロテインA膜として、Sartobind(登録商標)Protein A(Sartorius Stedim Biotech)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。プロテインAモノリスとして、CIM(登録商標)Protein A(BIA Separations)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。プロテインAの担体形状は、ビーズ状であることにより、高吸着容量が可能となり、より効率の高い精製が可能となる。
実施の形態に係るアフィニティークロマトグラフィー工程を連続化するために、市販の擬似移動床クロマトグラフィー分離装置(SMB)や、多数のカラムを切り替えて使用するマルチカラム装置を用いるとよい。
実施の形態に係るアフィニティークロマトグラフィー工程は、一般的な方法で行って問題ないが、プロテインAカラムから抗体を溶出する前に、低電気伝導度の緩衝溶液で洗浄することが望ましい。この操作により、溶出した抗体溶液の電気伝導度を低く抑えることができ、後のイオン交換クロマトグラフィー工程における精製効率を担保することが出来る。
このような洗浄緩衝液の電気伝導度として、5.0mS/cm以下が好ましく、より好ましくは4.0mS/cm以下、さらに好ましくは3.0mS/cm以下である。特に好ましくは2.0mS/cm以下である。
プロテインAカラムから溶出させる際に用いるバッファーは、抗体の溶出が可能であれば特に限定されない。プロテインAカラムからの溶出液は、バッファー交換により、任意のバッファーに交換することができる。実施の形態では、プロテインAカラムからの溶出後、溶出液のバッファー交換を行わずにイオン交換クロマトグラフィー工程で生理活性物質の精製を行う。
溶出に用いられる溶出バッファーは、後に続くイオン交換クロマトグラフィー工程との連続性の観点から、濃度が低濃度であり、さらに電気伝導度が低いことが望ましい。
溶出バッファーの濃度として、pH調整後の電気伝導度を抑制するという観点から、100mmol/L以下が好ましく、より好ましくは50mmol/L以下、さらに好ましくは30mmol/L以下である。
ここで、バッファー濃度とは、バッファーの有効成分の濃度のことをいう。例えば、酢酸バッファーであれば、通常酢酸と酢酸ナトリウムから調整されるが、その時の、酢酸と酢酸ナトリウムの合計の濃度である。また、トリスバッファーでは、トリスヒドロキシメチルアミノメタンの濃度のことをいう。また、酢酸-トリスバッファー等のように表記されるバッファーについては、前者の濃度のことであり、酢酸-トリスでは酢酸、トリス-酢酸であればトリスの濃度のことである。
溶出バッファーの電気伝導度は、5.0mS/cm以下が好ましく、より好ましくは4.0mS/cm以下、さらに好ましくは3.0mS/cm以下、特に好ましくは2.0mS/cm以下である。
プロテインAカラムからの溶出液は、一時的にタンクに貯め、希釈、pH調整後、そのまま次のイオン交換クロマトグラフィー工程に用いてもよいし、低pH(酸性)処理により、ウイルスの不活化を行ってもよい。プロテインAカラムからの溶出液をタンク中で貯めて溶液調整することにより、実施の形態の連続的な精製プロセスにおける抗体濃度や溶液組成が均一化されるので好ましいが、インラインで連続的に行われてもよい。
ウイルス不活化は、低pH(酸性)処理、S/D(solvent/detergent)処理、UV(ultraviolet)照射等があるが、ウイルスを不活化する方法であれば、特に限定されない。また、連続プロセスでは、インラインで連続的にウイルス不活化を行うことが好ましい。低pH(酸性)処理によるウイルスの不活化は一般的な方法でよく、特に限定されないが、pHとしては、3.9以下が好ましく、より好ましくは3.7以下、さらに好ましくは3.5以下、特に好ましくは3.3以下である。
実施の形態では、アフィニティークロマトグラフィー工程後、又はウイルス不活化後にイオン交換クロマトグラフィー工程を行うとよい。カチオン交換クロマトグラフィー及びアニオン交換クロマトグラフィーのどちらを先に行うかは任意に選択できるが、実施の形態では、イオン交換クロマトグラフィーの前に、バッファー交換に依らないpH調整を行う。
一連の精製工程の中で、抗体溶液の希釈を行わないことが好ましいが、電気伝導度や抗体濃度を下げるために、希釈を行ってもよい。電気伝導度が低いとイオン交換クロマトグラフィー工程における不純物除去性が向上し、抗体濃度が低いとウイルス除去工程における濾過速度が低下しにくい。
希釈を行う場合には、脱塩水や電気伝導度の低い水溶液を加えること等により希釈し、電気伝導度を下げるが、精製プロセスの効率化の面から、希釈による体積増加としては、2.0倍以下が好ましく、より好ましくは、1.7倍以下、さらに好ましくは1.5倍以下、1.3倍以下、1.2倍以下、特に好ましくは1.1倍以下である。
一連の精製工程の中で、抗体溶液を濃縮してもよい。抗体溶液を濃縮することにより、抗体溶液の体積が小さくなるため、処理時間が短くなるという長所がある。抗体溶液の濃縮は、公知の方法で行うことができる。
カチオン交換クロマトグラフィー工程における抗体溶液等の生理活性物質含有溶液のpHは、含有する生理活性物質の等電点から離れていることが好ましく、pH下限は4.0以上が好ましく、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは6.0以上であり、特に好ましくは7.0以上である。pH上限は10.0以下が好ましく、より好ましくは9.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下である。また、抗体溶液等の生理活性物質含有溶液の電気伝導度上限は、100.0mS/cm以下が好ましく、より好ましくは50.0mS/cm以下であり、さらに好ましくは25.0mS/cm以下、5.0mS/cm以下、4.0mS/cm以下、3.0mS/cm以下であり、特に好ましくは2.0mS/cm以下である。電気伝導度下限は、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは1.0mS/cm以上である。
アニオン交換クロマトグラフィー工程における抗体溶液等の生理活性物質含有溶液のpHは、含有する生理活性物質の等電点から離れていることが好ましく、pH下限は4.0以上が好ましく、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは6.0以上であり、またさらに好ましくは7.0以上であり、特に好ましくは7.5以上である。pH上限は10.0以下が好ましく、より好ましくは9.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下である。また、生理活性物質含有溶液の電気伝導度上限は、100.0mS/cm以下が好ましく、より好ましくは50.0mS/cm以下であり、さらに好ましくは25.0mS/cm以下であり、さらに好ましくは5.0mS/cm以下、4.0mS/cm以下であり、3.0mS/cm以下であり、特に好ましくは2.0mS/cm以下である。電気伝導度下限は、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは1.0mS/cm以上である。
ウイルス除去膜によるウイルス除去工程における生理活性物質含有溶液は、pH2.0~10.0が好ましい。そのため、連続的な定流速精製において、生理活性物質含有溶液のpH下限は4.0以上が好ましく、より好ましくは5.0以上であり、さらに好ましくは6.0以上である。pH上限は10.0以下が好ましく、より好ましくは9.0以下であり、さらに好ましくは8.0以下である。また、生理活性物質含有溶液の電気伝導度上限は、100.0mS/cm以下が好ましく、より好ましくは50.0mS/cm以下であり、さらに好ましくは25.0mS/cm以下、5.0mS/cm以下、4.0mS/cm以下、3.0mS/cm以下であり、特に好ましくは2.0mS/cm以下である。電気伝導度下限は、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは1.0mS/cm以上である。
抗体溶液のpHを塩基性側に調整する際に用いる塩基としては、特に限定されないが、例えばトリス溶液が挙げられ、抗体溶液の濃度を薄めないために、トリス溶液の濃度としては、1mol/Lや2mol/Lといった濃い濃度が望ましい。抗体溶液のpHを酸性側に調整する際に用いる酸としては、特に限定されないが、酢酸や塩酸溶液等が挙げられる。
実施の形態に係るカチオン交換クロマトグラフィー工程に用いるカチオン交換担体又は陽イオン交換担体とは、負に帯電した官能基を備えている媒体である。カチオン交換基としては、不純物を除去できれば、強カチオン交換基でも弱カチオン交換基でも、特に限定を受けない。強カチオン交換基としては、スルホン酸基等がある。弱カチオン交換基としてはカルボキシル基等がある。また、負に帯電した官能基を備える、混合モードクロマトグラフィー担体も、カチオン交換担体のひとつとして含まれる。
実施の形態に係るカチオン交換クロマトグラフィー工程に用いるカチオン交換担体としては、市販のカチオン交換担体が利用できる。例えば、カチオン交換レジンとして、SP Sepharose(商標)Fast Flow、High Performance、XL、Capto(商標)S(GE Healthcare)、Fractogel(登録商標)COO-、SO3 -、SE Highcap、Eshumuno(登録商標)S、CPX(Merck Millipore Corporation)、POROS(登録商標)XS、HS(ThermoFisher)、Nuvia(商標)S、HR-S、UNOsphere(商標)S、Rapid S、Macro-Prep(登録商標)High S、CM、25 S(Bio-Rad)、Cellufine(登録商標)Max CM、Max S(JNC)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。カチオン交換膜として、Mustang(商標)S(Pall Corporation)、Sartobind(登録商標)S(Sartorius Stedim Biotech)、Natrix HD-Sb、Natrix HD-C(Natrix Separations)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。カチオン交換モノリスとして、CIM(登録商標)SO3(BIA Separations)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。カチオン交換担体の形状は、膜状担体、ビーズ状担体、モノリス担体等が挙げられるが、膜状基材であることが望ましい。膜状であることにより、高流速での処理が可能となり、より効率の高い精製が可能となる。
また、実施の形態に係る精製方法におけるカチオン交換担体として特に、フロースルー様式における凝集体の除去に優れたカチオン交換膜を用いることもできる。具体的には、当該担体の体積当たり30mmol/Lより高い密度、好ましくは40mmol/Lより高い密度、より好ましくは45mmol/Lより高い密度で、カチオン交換基を有するカチオン交換膜を用いることができる。
実施の形態に係るカチオン交換クロマトグラフィー担体は、強カチオン交換基を有していてもよく、弱カチオン交換基を有していてもよい。強カチオン交換基と弱カチオン交換基の合計で、当該担体の体積あたりのカチオン交換基の密度が30mmol/Lより高いとよい。
30mmol/Lよりもカチオン交換基の合計密度が低ければ、荷電させることが可能なカチオン交換基量が低くなり、吸着容量の低下に加え、適用できる抗体種が狭くなる、処理できる抗体の総量が低下するなどの傾向にある。
カチオン交換基として、不純物が除去出来れば、強カチオン交換基でも弱カチオン交換基でも、特に限定されないが、弱カチオン交換基を含む1又は複数種類のカチオン交換基を有していることが望ましい。弱カチオン交換基とはカルボン酸基、ホスホン酸基、及びリン酸基等が挙げられる。弱カチオン交換基は、移動相のpHにより、荷電量を変化させることが可能である。そのため、移動相のpHを変化させることにより、カチオン交換クロマトグラフィー担体の電荷密度の調整が可能となる。したがって、除去すべき不純物の特性に合わせて、pHを調整することにより、任意の不純物の除去が可能となる。
また、強カチオン交換基を導入することによって、pHに対する荷電量変化を鈍感にさせ、再現性を向上させることも可能である。ほぼ全ての強カチオン交換基は、抗体精製における実用的な抗体溶液のpH領域で荷電しているため、荷電量が一定である。したがって、カチオン交換クロマトグラフィー担体に強カチオン交換基が存在することで、常に一定以上の荷電量が保証される。カチオン交換クロマトグラフィー担体に強カチオン交換基が存在することで、pH微変化によってカチオン交換クロマトグラフィー担体の性能が大きく左右されることを抑制することができる。強カチオン交換基として、スルホン酸基等が挙げられる。
膜状基材の材料は、特に限定されないが、機械的性質保持のために、ポリオレフィン系重合体から構成されていることが好ましい。ポリオレフィン系重合体としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン及びフッ化ビニリデンなどのオレフィン単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体、又は1種もしくは2種以上のオレフィンと、パーハロゲン化オレフィンと、の共重合体などが挙げられる。パーハロゲン化オレフィンとしては、テトラフルオロエチレン及び/又はクロロトリフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの中でも、機械的強度に優れ、かつ目的タンパク質以外の夾雑成分の高い吸着容量が得られる点で、ポリエチレン又はポリフッ化ビニリデンが好ましい。
膜状基材は、例えば複数の細孔を有する。細孔径は、特に限定されないが、例えば5nm以上1000nm以下であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、さらに好ましくは100nm以上、特に好ましくは150nm以上、あるいは400nm以上である。また、基材膜表面積の観点から、好ましくは900nm以下、より好ましくは800nm以下、さらに好ましくは700nm以下、特に好ましくは650nm以下である。細孔径が5nm以下であると、分離できる抗体タンパク質の分子量が低くなる傾向にある。また細孔径が1000nm以上であると、当該膜状基材の表面積が少なくなり、不純物の結合容量が小さくなる傾向にある。
また、実施の形態に係るカチオン交換担体は、基材表面上にカチオン交換基を有する共重合体を有していてもよい。
膜状基材に共重合体を固定する方法として、グラフト重合がある。グラフト重合法としては、放射線グラフト重合法や、表面リビングラジカル重合法が挙げられる。
放射線グラフト重合法で膜状基材表面に共重合体を固定する場合、膜状基材にラジカルを生成させるためにはいかなる手段も採用しうるが、膜状基材に電離性放射線を照射すると、膜状基材全体に均一なラジカルが生成するため、好適である。電離性放射線の種類としては、γ線、電子線、β線、及び中性子線等が利用できるが、工業規模での実施には電子線又はγ線が好ましい。電離性放射線はコバルト60、ストロンチウム90、及びセシウム137などの放射性同位体から、又はX線撮影装置、電子線加速器及び紫外線照射装置等により得られる。
電離性放射線の照射線量は、1kGy以上1000kGy以下が好ましく、より好ましくは2kGy以上500kGy以下、さらに好ましくは5kGy以上200kGy以下である。照射線量が1kGy未満では、ラジカルが均一に生成しにくくなる傾向にある。また、照射線量が1000kGyを超えると、膜状基材の物理的強度の低下を引き起こす傾向にある。
電離性放射線の照射によるグラフト重合法には、一般に膜状基材にラジカルを生成した後、次いでラジカルを反応性化合物と接触させる前照射法と、膜状基材を反応性化合物と接触させた状態で膜状基材にラジカルを生成させる同時照射法と、に大別される。実施の形態においては、いかなる方法も適用しうるが、オリゴマーの生成が少ない前照射法が好ましい。
グラフト重合によるグラフト高分子鎖の結合率(グラフト率)は、基材膜の密度により、最適値が異なりうる。基材膜がポリエチレンの時は、吸着容量の観点から20%以上が好ましく、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上である。また、力学的に安定な強度を確保するという観点から、好ましくは200%以下、より好ましくは150%以下、さらに好ましくは100%以下である。グラフト率は以下の式によって表わされる。
グラフト率(%)=(w1-w0)/w0×100
ここで、w0は反応前の膜状基材の重量、w1はグラフト鎖が導入された膜状基材の重量である。
膜状基材がポリフッ化ビニリデンの時は、ポリフッ化ビニリデンはポリエチレンに比べ、密度が高いため、適したグラフト率がポリエチレンの時と異なる。膜状基材がポリフッ化ビニリデンの時は、吸着容量の観点から5%以上が好ましく、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。また、力学的に安定な強度を確保するという観点から、好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。
また、カチオン交換基を有する共重合体が膜状基材に固定されていることにより、膜状基材表面上にカチオン交換基が分布している場合に比べ、立体的に吸着することが可能となる。そのため、抗体単量体に比べ、抗体凝集体はより強固に吸着され、抗体単量体を高い純度で得ることが可能となる。
共重合体は、その組成に、カチオン交換基を有するモノマー単位に加え、電荷を持たない中性のモノマー単位を含むことが好ましい。そのような中性のモノマー単位として、アクリルアミド類、メタアクリルアミド類、アクリレート類、及びメタアクリレート類の化合物等があり、より具体的には、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、及びブチルメタクリレート等が挙げられる。
抗体単量体に対する吸着力と、抗体凝集体に対する吸着力と、を異ならせる観点から、共重合体における、カチオン交換基を有するモノマー単位の質量割合は、中性のモノマー単位の質量割合よりも低いことが好ましく、より好ましくは2倍以上であり、さらに好ましくは3倍以上である。質量割合をこのようにすることによって、カチオン交換基同士の距離を離し、より選択的に、不純物である抗体凝集体を吸着しやすくなると考えられる。
実施の形態において、共重合体は、カチオン交換基を有するモノマー及び中性モノマーのみから成り立っているため、カチオン交換基を有するモノマーの質量、及び中性モノマーの質量は、以下のように求めることが出来る。
(カチオン交換基モノマー質量)=
(カチオン交換基密度×担体体積×カチオン交換基モノマー分子量)
(中性モノマーの質量)=
(カチオン交換担体質量―基材担体質量―カチオン交換基モノマー質量)
これらの質量の比により、カチオン交換基を有するモノマー単位の質量割合、及び中性のモノマー単位の質量割合を求めることができる。
さらに、共重合体は、その組成に、中性モノマーとして、親水性及び/又は疎水性の化合物をモノマー単位として1又は複数種類含んでいてもよい。これらの親水性及び/又は疎水性モノマーを、カチオン交換基を有するモノマーと共重合させることにより、不純物の吸着力を向上させ得る。
抗体は疎水性相互作用の性質を有するため、膜状基材の疎水性が強いと、疎水性相互作用により、抗体が膜状基材に吸着され、目的の抗体の回収率が低下することがある。この現象に対し、共重合体の重合時に親水性モノマーを導入することにより、抗体が膜状基材へ吸着することを防ぐことが出来る。そのような親水性モノマーとして、アクリルアミド、メタアクリルアミド、並びにジメチルアクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジエチルメタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N-(ヒドロキシメチル)メタクリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、及びN-(2-ヒドロキシエチル)メタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド化合物が挙げられる。あるいは、上記のような親水性モノマーとして、アクリレート、メタアクリレート、並びに2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、及び2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート等の(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
あるいは、共重合体の重合時に疎水性モノマーを導入し、疎水性相互作用を活かすことにより、抗体単量体に対する抗体凝集体の吸着選択性を上げることもできる。一般に抗体凝集体は、抗体単量体よりも強い疎水性相互作用を示す。適した疎水性モノマーを選択することにより、抗体単量体に対する疎水性相互作用と、抗体凝集体に対する疎水性相互作用と、の差を顕著にし、高い選択性を実現し得る。そのような疎水性モノマーとして、スチレン類、アルキルアクリルアミド類、アルキルメタクリルアミド類、アルキルアクリレート類、及びアルキルメタクリレート類等があるが、力学的強度の観点から、アルキルアクリルアミド類、アルキルメタクリルアミド類、アルキルアクリレート類、及びアルキルメタクリレート類が望ましい。アルキル基に関しては、炭素数4以上の直鎖又は分岐状のアルキル基であれば、抗体に対し、実質的に疎水性相互作用を発現しうる。
また、共重合体は、モノマー単位中に重合性官能基を2つ以上含むモノマー単位を含んでいてもよく、このようなモノマーを共重合させることにより、架橋構造が構築される。架橋構造の利点は、グラフト鎖の立ち上がりを抑制し、通液圧を抑制させるという点にある。
モノマー中に重合性官能基を2つ以上含むモノマーは、特に限定されないが、重合性官能基としてはオレフィンが挙げられる。そのようなモノマーとして、(メタ)アクリルアミド系モノマーや(メタ)アクリレート系モノマー、又はそれらの官能基が混合したモノマーが挙げられる。(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-エチレンビスアクリルアミド、N,N’-プロピレンビスアクリルアミド、N,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、N,N’-メチレンビスメタクリルアミド、N,N’-エチレンビスメタクリルアミド、N,N’-プロピレンビスメタクリルアミド、及びN,N’-(1,2-ジヒドロキシエチレン)ビスメタクリルアミド等が挙げられる。
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、エチレングリコールジアクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジオールジアクリレート、4、4’-チオジベンゼンチオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,5-ペンタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジオールジメタクリレート、4、4’-チオジベンゼンチオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、及びペンタエリトリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。
また、実施の形態に係るカチオン交換担体では、基材表面上にカチオン交換基前駆体モノマーをモノマー単位として有する共重合体を製造し、その後、カチオン交換基前駆体をカチオン交換基に変換してもよい。
そのようなカチオン交換基前駆体の官能基として、エポキシ基や、エステル基を有するが挙げられ、それらの官能基を有するカチオン交換基前駆体モノマーを基材上に単独重合又は共重合して、官能基をカチオン交換基に変換によりカチオン交換担体を得てもよい。
実施の形態に係るカチオン交換クロマトグラフィー担体が備える共重合体は、例えば共有結合により膜状基材に固定されている。当該担体はカチオン交換基を有し、最終的に30mmol/Lよりも高い密度になるように1又は複数種類のカチオン交換基を有しておればよい。
カチオン交換クロマトグラフィー工程における抗体ロード量は、不純物を除去できれば特に限定されないが、効率的な精製という観点から、担体1mLあたり0.3g以上が好ましく、より好ましくは0.5g以上、さらに好ましくは0.7g以上、0.8g以上、特に好ましくは1g以上である。
実施の形態に係るアニオン交換クロマトグラフィー工程に用いるアニオン交換担体又は陰イオン交換担体とは、正に帯電した官能基を備えている媒体である。アニオン交換基としては、不純物を除去できれば、特に限定を受けない。主成分がアミノ基であることが好ましく、アミノ基上の官能基としては、特に限定を受けず、強アニオン交換基でも弱アニオン交換基があるが、弱アニオン交換基が好ましい。強アニオン交換基としては、トリメチルアミノ基、トリエチルアミノ基等を有する4級アンモニウムがある。弱アニオン交換基としては3級アミンが好ましく、適度に疎水性を持つといった観点から、炭素数が2以上のアルキル基を2つ以上有することが好ましく、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等があるが、ジエチルアミノ基が好ましい。また、正に帯電した官能基を備える、混合モードクロマトグラフィー担体も、アニオン交換担体のひとつとして含まれる。
実施の形態に係るアニオン交換クロマトグラフィー工程に用いるアニオン交換担体としては、市販のアニオン交換担体が利用できる。例えば、アニオン交換レジンとしては、Q Sepharose(商標)Fast Flow、High Performance、XL、QAE Sephadex(商標)(GE Healthcare)、Fractogel(登録商標)TMAE、TMAE Highcap、DMAE、DEAE、Eshmuno(登録商標)Q(Merck Millipore Corporation)、POROS(登録商標)XQ、HQ、D、PI(ThermoFisher)、DEAE―Cellulose(Sigma-Aldrich)、Nuvia(商標)Q、UNOsphere(商標)Q、Macro-Prep(登録商標)High Q、DEAE、25 Q(Bio-Rad)、CaptoQ(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)、Cellufine(登録商標)Max DEAE、Max Q(JNC)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。アニオン交換膜として、Chromasorb(商標)(Merck Millipore Corporation)、Mustang(登録商標)Q(Pall Corporation)、Sarotibind(登録商標)Q、STIC(登録商標)PA(Sartorius Stedim Biotech)、NatriFlo(登録商標)HD-Q(Natrix Separations)、QyuSpeed(商標)D(旭化成メディカル株式会社)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。アニオン交換モノリスとして、CIM(登録商標)QA、DEAE、EDA(BIA Separations)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。アニオン交換担体の形状は、膜状担体、ビーズ状担体、モノリス担体等が挙げられるが、カチオン交換膜と同様に、膜状基材であることが望ましい。膜状であることにより、カチオン交換膜と連結した時の高流速での処理が可能となり、より効率の高い精製が可能となる。
実施の形態に係るアニオン交換クロマトグラフィー担体は、膜状でもよく、あるいはビーズ状でもよく、特に限定されないが、膜状であれば、フロースルーモードで高流速が可能であり、より効率の良い精製工程の構築が可能である。
アニオン交換クロマトグラフィー担体の構造は、特に限定されないが、基材上にグラフト重合体(グラフト高分子鎖)を有する構造であれば、不純物を立体的に吸着することが出来るため、より高い不純物除去性が期待できる。
実施の形態において、アニオン交換クロマトグラフィー担体が含むアニオン交換基は、液中で負に帯電したタンパク質等を吸着することができればよく、例えば、特に限定されないが、3級アミノ基であるジエチルアミノ基(DEA、Et2N-)、4級アンモニウム基(Q、R3+-)、4級アミノエチル基(QAE、R3+-(CH22-)、ジエチルアミノエチル基(DEAE、Et2N-(CH22-)、ジエチルアミノプロピル基(DEAP、Et2N-(CH23-)などが挙げられる。ここで、Rは、特に限定されず、同一のNに結合するRが同一又は異なっていてもよく、好適には、アルキル基、フェニル基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。4級アンモニウム基としては、例えば、トリメチルアミノ基(トリメチルアンモニウム基、Me3+-)などが挙げられる。なお、3級アミノ基及び4級アミノ基は、それぞれ、ジアルキル置換アミノ基及びトリアルキル置換アミノ基ともいう。多孔膜への化学的な固定が容易であり、高い吸着容量が得られるという観点からは、アニオン交換基としてはDEA及びQが好ましく、DEAがより好ましい。
アニオン交換基は、例えば、グラフト高分子鎖に含有される。グラフト高分子鎖は、例えば、共有結合により膜に固定される。
実施の形態に係るウイルス除去工程に用いるウイルス除去膜としては、市販のウイルス除去膜が利用できる。ウイルス除去膜として、平坦なシートの形態で、例えば、EMD Millipore Corporation製のViresolve Pro、Pall Corporation製のUltipor VF Grade DV20、DV50、Pegasus(商標)SV4、Grade LV6、Sartorius Stedim Biotech製のVirosart CPV、HC、HF、Merck Millipore Corporation製のNFP、又は中空糸の形態で、例えば、Asahi Kasei Medical Co.製のPlanova 15N、20N、35N、BioEX等を用いることができる。特に、Planova BioEXをウイルス除去膜として用いれば、高濃度の抗体溶液を、連続的に精製することが可能となる。
実施の形態に係るウイルス除去膜においては、バブルポイント法で求める最大孔径が、グロブリン等の生理活性物質の透過性や濾過速度の点から10nm以上が好ましく、より好ましくは15nm以上である。また、バブルポイント法で求めた最大孔径の上限は100nm以下が好ましく、除去対象であるウイルス等のサイズによって変化するが、日本脳炎ウイルス等の中型ウイルスを除去するためには70nm以下、特にパルボウイルス等の小ウイルスを除去対象とする場合は36nm以下であることが好ましい。ここでいう最大孔径は、ASTM F316-86に準拠したバブルポイント法で測定した値である。
実施の形態に係るウイルス除去膜の表面にはスキン層が存在しないことが好ましい。スキン層が存在すると、タンパク等の生理活性物質を含有する溶液に含まれる懸濁物質が膜表面において堆積するため、透過性能の急激な低下が起きる可能性がある。ここでいうスキン層とは、膜表面に隣接して存在し、孔径が膜内部に比べて小さい層を指し、その厚みは通常1μm以下である。
実施の形態に係るウイルス除去工程の抗体濃度は好ましくは5mg/mL以上であり、さらに好ましくは10mg/mL以上、15mg/mL以上、20mg/mL以上、25mg/mL以上、30mg/mL以上、35mg/mL以上、40mg/mL以上、45mg/mL以上、50mg/mL以上、55mg/mL以上であり、特に好ましくは60mg/mL以上である。ウイルス除去工程の抗体濃度が5mg/mL以上であれば、抗体を短時間で効率的に精製することができる。また、抗体溶液の粘度やウイルス除去膜の透過流束の低下を考慮すると、300mg/mL以下が好ましく、より好ましくは250mg/mL以下であり、さらに好ましくは200mg/mL以下、150mg/mL以下であり、特に好ましくは100mg/mL以下である。
実施の形態に係るウイルス除去工程における膜間差圧は、例えば49kPa以上490kPa以下である。処理速度向上の観点から、98kPa以上が好ましく、より好ましくは147kPa以上である。また、膜強度の観点から441kPa以下が好ましく、より好ましくは392kPa以下である。
実施の形態に係るウイルス除去膜は、濃度が10mg/mLのヒト免疫グロブリン含有液を、294kPaの定圧で、ウイルス除去膜1m2あたり50Lから55L濾過した時の平均透過流束(以下、「透過流束A」と称する。)が、例えば50L/m2/h以上であり、好ましくは70L/m2/h以上、より好ましくは90L/m2/h以上、最も好ましくは110L/m2/h以上である。透過流束Aが50L/m2/hより大きければ、血漿分画製剤やバイオ医薬品等の製造における連続的な精製工程を工業規模で実施するに充分な透過流束を確保することができる。
実施の形態に係るウイルス除去膜は、濃度が10mg/mLのヒト免疫グロブリン含有溶液を294kPaで定圧濾過した時の、平均透過流束Aと、ウイルス除去膜1m2あたり400Lから405L濾過した時の平均透過流束(以下、「透過流束B」と称する。)が、下記式(2)を満たすことが好ましい。
透過流束B/平均透過流束A >0.50 (2)
連続精製にはろ過圧力が安定なウイルス除去膜が求められる。上記式(2)の左辺が0.50以上、好ましくは0.60以上、より好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.80以上、最も好ましくは0.90以上であれば、高濃度の抗体を連続的に処理することが可能になる。
実施の形態に係るウイルス除去膜は、濾過開始から5L/m2透過時点におけるブタパルボウイルスの対数除去率と、濾過開始から50L/m2透過後、5L/m2透過時点におけるブタパルボウイルスの対数除去率と、がいずれも3以上である。0から5L/m2濾過時におけるブタパルボウイルス対数除去率が3以上であれば、生理活性物質を含む溶液からヒトパルボウイルスB19やポリオウイルス等の小ウイルスを除去するウイルス除去膜としての使用に耐え得る。また、ヒトパルボウイルスB19やポリオウイルス等の小ウイルスを除去できるということは、さらに大きなC型肝炎ウイルスや、ヒト後天性免疫不全ウイルス等を、さらに高い確率で除去できることを示している。また、0から5L/m2濾過時と50から55L/m2濾過時におけるブタパルボウイルスがいずれも3以上であるということは、膜のウイルス除去能の持続性が充分に高いことを表す指標である。実施の形態に係るウイルス除去膜の上記ウイルス対数除去率は、3.0以上であるが、3.5以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、4.5以上がさらに好ましく、そして5.0以上が最も好ましい。
実施の形態に係るウイルス除去膜の形態は、平膜状、中空糸状等、いずれの形状でも適用可能であるが、スケールアップが容易であるとの観点から中空糸状が好ましい。
実施の形態に係るウイルス除去膜の膜厚は、好ましくは15μm以上1000μm以下、より好ましくは15μm以上500μm以下、そして最も好ましくは20μm以上100μm以下である。膜厚が15μm以上であれば、膜の強度が充分であるばかりでなく、ウイルス除去の確実性も充分である。1000μmを超えると透過性能が低下する傾向にあるので好ましくない。
実施の形態に係るウイルス除去膜は、最大孔径が10nmから100nmであることが好ましく、前記の式(2)を満足すればどのような構造の膜であってもよいが、開孔率が大きい粗大構造層と開孔率が小さい緻密構造層を有し、かつ上記粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、その厚みが2μm以上であり、上記緻密構造層が膜厚全体の50%以上である微多孔膜であって、該粗大構造層と該緻密構造層が一体化している構造の微多孔膜であることが好ましい。これは、そのような構造であれば、式(2)を満足し易くなるからである。
実施の形態に係るウイルス除去膜では、粗大構造層は少なくとも一方の膜表面に存在することが好ましく、該粗大構造層の厚みは2.0μm以上が好ましく、より好ましくは3.0μm以上、さらに好ましくは5.0μm以上、特に好ましくは8.0μm以上である。粗大構造層は、プレフィルター機能を有し、夾雑物の閉塞による濾過速度の低下を緩和する。孔径の小さな微多孔膜ほど、生理活性物質中に含まれる夾雑物が濾過速度の低下を引き起こしやすいため、粗大構造層の厚みが厚いことが好ましい。
また、緻密構造層の厚みは膜厚全体の50%以上が好ましい。緻密構造層の厚みが膜厚全体の50%以上であれば、ウイルス等の除去性能を低下させることなく使用できる。より好ましくは55%以上であり、特に好ましくは60%以上である。
上記粗大構造層は膜厚全体の中で相対的に開孔率が大きい部分であり、タンパク溶液等に含まれる懸濁物質に対してプレフィルター機能を発揮することにより膜の処理能力を向上させる。また、上記緻密構造層は膜厚全体の中で相対的に開孔率が小さく、実質的に膜の孔径を規定している部分である。ウイルス等の微粒子を除去する目的の微多孔膜においては該微粒子の除去機能を有する層である。
ここで、開孔率とは、ウイルス除去膜における空隙部分の容積比率に対応するものであり、膜の断面において、膜断面に対する空隙部分が占める面積比率であって、膜断面の電子顕微鏡写真の画像解析から求められる。なお、膜の断面積及び長さから求めた見かけ体積と該膜の質量及び膜素材の真密度とから求めた数値である空孔率とは異なる。開孔率は、膜厚方向に一定の厚み毎に測定され、膜厚方向の空隙部分の容積比率の変化を調べるために用いられ、測定の精度から厚み1μm毎に測定している。
具体的には、開孔率は、微多孔膜の膜表面に垂直な方向の断面構造の電子顕微鏡写真を、厚み方向に厚み1μm毎に分割し、画像処理解析によって各分割領域において開孔率を求め、前記開孔率をある一定の膜厚領域で平均した開孔率であり、膜厚全体の平均開孔率は各分割領域において求めた開孔率を膜厚全体で平均して求めた開孔率である。
また、粗大構造層とは、膜表面に隣接して存在する開孔率の大きい層であり、好ましくは開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%以上の層であり、より好ましくは+2.5%以上の層であり、特に好ましくは+3.0%以上の層である。粗大構造層の開孔率の上限は、膜厚全体の平均開孔率+30%以下が好ましく、より好ましくは膜厚全体の平均開孔率+25%以下、特に好ましくは平均開孔率20%以下である。粗大構造層の開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%以上であれば、緻密構造層との構造差も充分に大きく、プレフィルター効果を発現でき、微多孔膜の処理能力を増大させる効果がある。また、粗大構造層の開孔率が膜厚全体の平均開孔率+30%より大きい場合は、粗大構造層の構造が必要以上に粗になり、充分なプレフィルター機能を有しない傾向があり好ましくない。
さらに、粗大構造層は、膜表面から緻密構造層に向かって開孔率が連続的に減少する傾斜構造であることが好ましい。この好ましい理由は、開孔率が連続的に減少するとともに孔径も連続的に小さくなることにより、表面近傍で大きな夾雑成分が除去され、内部に入るにつれて小さな夾雑成分が段階的に除去されることにより、粗大構造層のプレフィルター機能を向上させているものと推察される。開孔率が粗大構造層と緻密構造層の境界で不連続に大きく変化する場合は、境界近傍に夾雑成分が堆積することによって濾過速度の低下を招くために好ましくない。ここでいう開孔率が連続的に減少する傾斜構造とは、膜厚方向における全体的な傾向を指しており、構造ムラや測定誤差に起因する開孔率の局所的な多少の逆転があってもよい。
粗大構造層は、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+5.0%以上である層を含むことが好ましく、膜厚全体の平均開孔率+8.0%以上の層を含むことがさらに好ましい。粗大構造層が、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+5.0%以上である層を含む場合は、緻密構造層より充分に大きな孔径の層を有していることを示しており、粗大構造層は充分なプレフィルター機能を発揮することが可能となる。開孔率の最大値を有する層は、膜表面に存在するか、あるいは膜表面近傍に存在することが好ましい。
また、実施の形態に係るウイルス除去膜において、粗大構造層に隣接する膜表面の平均孔径は、少なくともバブルポイント法で求めた最大孔径の2倍以上であることが好ましく、より好ましくは、バブルポイント法で求めた最大孔径の3倍以上である。粗大構造層に隣接する膜表面の平均孔径が、バブルポイント法で求めた最大孔径の2倍未満である場合は、孔径が小さすぎるため、表面で夾雑成分の堆積が起こり、濾過速度が低下する傾向があることから好ましくない。該ウイルス除去膜がウイルス等の微粒子除去用に用いられる場合には、粗大構造層に隣接する膜表面の平均孔径は3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。該平均孔径が3μm を超えると、プレフィルター機能が低下する傾向にあり好ましくない。
緻密構造層とは、開孔率が小さい層であり、好ましくは開孔率が、膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満であって、かつ(膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の層の開孔率の平均値)±2.0%(両端を含む)の範囲内にある層である。緻密構造層の開孔率が、(膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の層の開孔率の平均値)±2.0%(両端を含む)の範囲内にあるということは、緻密構造層が比較的均質な構造を持っていることを意味し、このことはデプス濾過によってウイルス等を除去する際に重要である。緻密構造層の均質性は高いほど好ましく、開孔率の変動幅は±2%の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは±1%の範囲内である。緻密構造層の構造例としては、国際公開第01/28667号に開示されている球晶内ボイド構造などが好ましく適用できる。
また、該ウイルス除去膜において、上記の粗大構造層及び緻密構造層のいずれにも属さない中間的領域が存在してもよい。ここで言う中間的領域とは、開孔率が膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満であるが、(膜厚全体の平均開孔率+2.0%未満の層の開孔率の平均値)±2.0%(両端を含む)の範囲内に入らない層に対応する。このような層は、通常は粗大構造層と緻密構造層の境界部分に存在する。
また、該ウイルス除去膜は、粗大構造層と緻密構造層が一体化していることが好ましい。この粗大構造層と緻密構造層が一体化しているとは、微多孔膜の製造時に粗大構造層と緻密構造層が、同時に形成されることをいう。この際、粗大構造層と緻密構造層の境界部分に中間的領域が存在してもよい。すなわち、大孔径の支持体上に比較的小孔径な層をコートすることによって製造される膜や、孔径の異なる膜を重ね合わせた積層膜よりも、粗大構造層と緻密構造層が一体化している膜が好ましい。コートすることによって製造される膜や、孔径の異なる膜を重ね合わせた積層膜は、二つの層の間で、孔の連結性が低くなったり、孔径が急激な不連続変化をしたりするため、支持体とコート層の間に夾雑成分が堆積しやすい傾向がある。
実施の形態に係るウイルス除去膜は、熱可塑性樹脂を含む。熱可塑性樹脂が膜中に占める割合は、全樹脂量に対し50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。熱可塑性樹脂の膜中に占める割合が、全樹脂量に対し50重量%未満の場合は、膜の力学強度が低くなる等の問題が発生するために好ましくない。
実施の形態に係るウイルス除去膜を製造するのに使用される熱可塑性樹脂は、通常の圧縮、押出、射出、インフレーション、及びブロー成型に使用される結晶性を有する熱可塑性樹脂であり、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ4一メチル1一ペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、エチレンテトラフルォロエチレン樹脂、ポリクロロトリフルォロエチレン樹脂等のフッ素系樹脂、ポレフエ二レンエーテル樹脂、及びポリアセタール樹脂等が使用できる。
また、蒸気滅菌を施すために必要な耐熱性を考慮すると、実施の形態に係るウイルス除去膜を構成する熱可塑性樹脂の少なくとも1種は、結晶融点が好ましくは140℃以上300℃以下、より好ましくは145℃以上250℃以下、特に好ましくは150℃以上200℃以下の熱可塑性樹脂である。なお、膜そのものが耐熱性を発現するためには、結晶融点が140℃未満の樹脂と混合する場合においても、結晶融点が140℃以上300℃以下の熱可塑性樹脂の含量は、全樹脂に対して50重量%以上であることが好ましく、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上である。
140℃以上300℃以下の結晶融点を持つ熱可塑性樹脂を少なくとも1種含有すると、医用分離膜用途において好ましく採用されている蒸気滅菌工程に対するウイルス除去膜の耐久性を付与することができる。一方、結晶融点が300℃を超える熱可塑性樹脂を使用すると、製造時に、樹脂と可塑剤を加熱して均一溶解させる操作が困難となる場合がある。
上記の熱可塑性樹脂の中で、ポリフッ化ビニリデン樹脂は、耐熱性と成型加工性のバランスが良く、特に好ましい。ここでいうポリフッ化ビニリデン樹脂とは、基本骨格にフッ化ビニリデン単位を含むフッ素系樹脂を指すものであり、一般にはPVDFの略称で呼ばれる樹脂である。このようなポリフッ化ビニリデン樹脂としては、フッ化ビニリデン(VDF)のホモ重合体や、へキサフルォロプロピレン(HFP)、ペンタフルォロプロピレン(PFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロ口トリフルォロエチレン(CTFE)、及ぴパーフルォロメチルビニルエーテル(PFMVE)のモノマー群から選んだ1種又は2種のモノマーとフッ化ビニリデン(VDF)との共重合体を使用することができる。また、上記ホモ重合体及び上記共重合体を混合して使用することもできる。例えば、ホモ重合体を30重量%以上100重量%以下含むポリフッ化ビニリデン樹脂を使用すると、ウイルス除去膜の結晶性が向上し高強度となるために好ましく、ホモ重合体のみを使用するとさらに好ましい。
一般的に、ウイルス除去工程は、ウイルス除去の工程管理の観点から、プロセス液の透過圧を一定に保つ、いわゆる定圧処理が好ましい。しかし、定圧処理では、ウイルス除去膜の透過圧をリアルタイムでモニタリングし、送液ポンプにフィードバックさせる複雑なシステムが必要である。この点、定速処理では送液ポンプのシステムが簡便であり、プロセス液を一定流速で流動させるため、工程が管理しやすく、連続的な精製において好ましい。例えば、後述する実施例1で図1を参照して説明するように、送液ポンプを用いて、各精製工程間を連続的に一定流速で流動させるとよい。ただし、ウイルス除去膜の前後に圧力計を設け、ウイルス除去膜にかかる膜間差圧を一定範囲に保つように送液ポンプの流速を制御してもよい。
ウイルス除去の工程管理の観点から、ウイルス除去膜の透過圧を管理することが重要である。よって、生理活性物質の連続的な定流速精製において、ウイルス除去膜の透過流束が律速になる。プロセス液がウイルス除去膜を透過する流束は、200L/m2/h以下が好ましく、より好ましくは180L/m2/h以下であり、さらに好ましくは160L/m2/hであり、特に好ましくは140L/m2/h以下である。処理時間を考慮すると、20L/m2/h以上が好ましく、より好ましくは30L/m2/h以上であり、さらに好ましくは40L/m2/h以上である。よって、連続プロセス全体の流束は、前記透過流束の範囲内で処理することが好ましい。
生理活性物質の連続的な定流速精製において、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の負荷量が低すぎると、各工程の媒体に吸着し、生理活性物質の回収率が低下してしまうことや、精製の費用や労力、処理時間が増加し、プロセスの効率が低下してしまうことがあるため、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の負荷量は、5kg/m2以上が好ましく、より好ましくは6kg/m2以上であり、さらに好ましくは7kg/m2以上であり、特に好ましくは8kg/m2以上である。また、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の負荷量上限は、ウイルス除去膜処理後の透過液中に漏れ出る不純物濃度を考慮すると、30kg/m2以下が好ましく、より好ましくは25kg/m2以下であり、さらに好ましくは20kg/m2以下であり、特に好ましくは15kg/m2以下である。
生理活性物質の連続的な定流速精製において、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の処理量が少なすぎると、プロセスの効率が低下してしまうため、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の処理量は、4kg/m2以上が好ましく、より好ましくは5kg/m2以上であり、さらに好ましくは6kg/m2以上であり、特に好ましくは7kg/m2以上である。また、ウイルス除去膜1m2あたりの生理活性物質の処理量が多すぎると、ウイルス除去膜処理後の透過液中に不純物が漏れ出て、透過液の品質が低下してしまうため、30kg/m2以下が好ましく、より好ましくは25kg/m2以下であり、さらに好ましくは20kg/m2以下であり、特に好ましくは15kg/m2以下である。
生理活性物質の連続的な定流速精製において、精製工程の生産性を考慮すると、生理活性物質の回収率は、80%以上が好ましく、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
実施の形態に係るウイルス除去膜の製造方法、粗大構造層の厚みの測定方法などについては、国際公開第2001/028667号、国際公開第2003/026779号、及び国際公開第2004/035180号等に詳しく開示されている。
実施の形態に係る精製工程において、デプスフィルターによる処理を備えることも可能である。デプスフィルターによる処理を備えることで、高い精製度で、目的の生理活性物質を回収できる傾向にある。用いるデプスフィルターとしては、市販のデプスフィルターが利用できる。デプスフィルターとして、Millistak+(登録商標)DEシリーズ、CEシリーズ、HCシリーズ(D0HC、C0HC、B1HC、A1HC、X0HC、F0HC)(Merck Millipore Corporation)、Supracap(商標)シリーズ(Pall Corporation)、Zeta Plus(商標)APシリーズ、SPシリーズ、LAシリーズ、ZAシリーズ、デリピッドシリーズ、VRシリーズ、マキシマイザーシリーズ、EXTシリーズ、SLPシリーズ、Emphaze(登録商標)AEX Hybrid Purifier(3M Company)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
実施の形態に係る精製工程において、混合モードクロマトグラフィー担体による処理を備えることも可能である。混合モードクロマトグラフィー担体による処理を備えることで、高い精製度で、目的の生理活性物質を回収できる傾向にある。用いる混合モードクロマトグラフィー担体としては、市販の混合モードクロマトグラフィー担体が利用できる。混合モードクロマトグラフィー担体として、Capto(商標)MMC、Adhere(GE Healthcare)、Eshmuno(登録商標)HCX(Merck Millipore Corporation)、HEA、PPA、MEP HyperCel(商標)(Pall Corporation)、BAKERBOND(登録商標)ABx(商標)(J.T. Baker)、Nuvia(商標)cPrime、CHT(商標)Ceramic Hydroxyapatite and Crystalline Hydroxyapatite、MPC(商標)Ceramic Hydroxyfluoroapatite、CFT(商標)Ceramix Fluoroapatite(Bio-Rad)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
実施の形態に係る精製工程において、疎水性相互作用クロマトグラフィー担体による処理を備えることも可能である。疎水性相互作用クロマトグラフィー担体による処理を備えることで、高い精製度で、目的の生理活性物質を回収できる傾向にある。用いる疎水性相互作用クロマトグラフィー担体としては、市販の疎水性クロマトグラフィー担体が利用できる。疎水性クロマトグラフィー担体として、Phenyl、Butyl Sepharose(商標)6 Fast Flow(GE Healthcare)、Fractogel(登録商標)Phenyl、Propyl(Merck Millipore Corporation)、Macro-Prep(登録商標)HIC(Bio-Rad)、Sartobind(登録商標)Phenyl(Sartorius Stedim Biotech)、CIM(登録商標)C4 A、C4 HLD、OH(BIA Separations)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
実施の形態に係る精製工程において、活性炭素による処理を備えることも可能である。活性炭素による処理を備えることで、目的の生理活性物質の更なる精製度を高めることができるが、生理活性物質自体も吸着してしまうため、生理活性物質の回収率が低下し、好ましくない。用いる活性炭素としては、市販の活性炭素が利用できる。活性炭素として、Nuchar(登録商標)RGC(MeadWestvaco Corporation)、Millistak+(登録商標)CR、Aシリーズ(Merck Millipore Corporation)、Seitz(登録商標)AKS(Pall Corporation)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
実施の形態に係る精製工程において、インラインミキサーを備えることも可能である。インラインミキサーを備えることで、適切な溶液液性に調製することができ、高い精製度で、目的の生理活性物質を回収できる傾向にある。インラインミキサーとは、2種類以上の液体や気体を配管中で混合する装置であり、混合流体の不均一さを低減させることができる。不均一さとは、例えば、濃度、温度、電気伝導度、pH等が挙げられる。特に駆動部のないスタティックミキサーが好ましく、精製プロセスのフットプリントや工程時間の削減や省力化に貢献しえる。
実施の形態に係る精製工程において、沈殿剤による処理を備えることも可能である。沈殿剤による処理を備えることで、目的の生理活性物質の更なる精製度を高めることができるが、沈殿剤の除去操作が加わり工程が煩雑になる。また、生理活性物質への沈殿剤の混入リスクが生じるため、好ましくない。沈殿剤とは、溶液中の溶解物、不純物を沈殿させるために用いる試薬である。例えば、培養液中に添加することで、目的ではない不純物を沈殿させ、濾過、遠心分離、デプスフィルター等で分離する。
実施の形態に係る精製工程において、貯蔵容器を備えることも可能である。しかし、貯蔵容器を必要としない連続的な精製は、フットプリントを小さくすることができ、効率的な精製プロセスの実現に貢献できる。貯蔵容器とは、各精製工程後に一時的に精製溶液を貯めておく容器であり、バッチ精製方法で一般的に使用されている。
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例において示される試験方法は次の通りである。
(1-1)実施例1から14に係るウイルス除去膜のヒト免疫グロブリン透過流束の測定方法
ヒト免疫グロブリンは、田辺三菱製薬株式会社製の献血ヴェノグロブリン溶液を、20mmol/L酢酸緩衝液+100mmol/L NaCl(pH4.5)で希釈して10g/Lとし、さらに濾過膜(旭化成メディカル株式会社、PLANOVA35N)で前濾過して夾雑成分を除いたものを濾過元液として用いた。該濾過原液を濾過圧力294kPa、濾過温度25℃の条件で、ウイルス除去膜に定圧デッドエンド濾過を行い、膜1m2当たり50L/m2濾過時の透過流束A、200L/m2濾過時の透過流束Bを測定した。
(1-2)実施例15から25及び比較例1に係るウイルス除去膜のヒト免疫グロブリン透過流束の測定方法
ヒト免疫グロブリンは、日本血液製剤機構製の献血ヴェノグロブリン溶液を、20mmol/L酢酸緩衝液+100mmol/L NaCl(pH4.5)で希釈して10g/Lとし、さらに濾過膜(旭化成メディカル株式会社、Planova 35N)で前濾過して夾雑成分を除いたものを濾過元液として用いた。該濾過原液を濾過圧力294kPa、濾過温度25℃の条件で、ウイルス除去膜に定圧デッドエンド濾過を行い、膜1m2当たり50Lから55L濾過した時の平均透過流束Aと、膜1m2当たり400Lから405L濾過した時の平均透過流束Bを測定した。
(2-1)実施例1から14に係るウイルス除去膜のブタパルボウイルス対数除去率(LRV)の測定方法
濾過元液として、5%牛胎児血清(Upstate社製)を含むダルベッコMEM培地溶液(日本生物医薬研究所製)で培養したESK細胞(ブタ腎臓細胞)に、ブタパルボウイルスを感染させた時の培養上清を微多孔膜(旭化成(株)製、PLANOVA35N)で前濾過したものを用いた。該濾過元液を濾過圧力294kPa、濾過温度25℃の条件で定圧デッドエンド濾過を行った。濾液は5mL(5L/m2)毎に11フラクションを採取し、濾過開始時から55リットル/m2濾過時におけるブタパルボウイルス対数除去率を測定するために、各フラクションから1mLずつ採取し混合した。濾過元液と濾液(混合液と最初及び最後のフラクション)中のブタパルボウイルス濃度の測定は、それぞれの液をESK細胞に加えて10日間培養した後、ニワトリ新鮮赤血球(日本バイオテスト研究所製)の凝集反応を利用して、TCID50測定法により行った。
(2-2)実施例15から25及び比較例1に係るウイルス除去膜のブタパルボウイルス対数除去率(LRV)の測定方法
生理活性物質溶液に、ブタパルボウイルス(PPV、社団法人動物用生物学的製剤協会)を1.0vol%添加し、よく撹拌して、ウイルス含有生理活性物質溶液を得た。
アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)より入手し、培養したPK-13細胞(ATCC No.CRL-6489)を用意した。また、56.0℃の水浴で30分間加熱し非働化させた後の牛血清(Upstate社製)3vol%と、ペニシリン/ストレプトマイシン(+10000 Units/mL ペニシリン、+10000μg/mL ストレプトマイシン、インビトロジェン製)1vol%含有D-MEM(インビトロジェン製、高グルコース)と、の混合液を用意した。以下、この混合液を、3vol%FBS/D-MEMという。次に、PK-13細胞を3vol%FBS/D-MEMで希釈し、細胞濃度2.0×105(細胞/mL)の希釈細胞懸濁液を調製した。次に、96ウェル丸底細胞培養プレート(Falcon社製)を10枚準備し、全てのウェルに、希釈細胞懸濁液を100μLずつ分注した。
希釈細胞懸濁液を分注した細胞培養プレートの8ウェルごとに、ウイルス含有生理活性物質溶液の濾液及び同濾液の10倍、102倍、103倍、104倍及び105倍希釈液と、元液の102倍、103倍、104倍、105倍、106倍及び107倍希釈液と、のそれぞれを、100μLずつ分注した。その後、37.0℃、5%二酸化炭素雰囲気下にあるインキュベーターの中に細胞培養プレートを配置し、細胞を10日間培養した。
10日間培養した細胞に対し、以下説明する赤血球吸着法(ウイルス実験学 総論 国立予防衛生研究所学友会編、p.173参照)を用いて、50%組織培養感染値(TCID50)の測定を行った。まず、ニワトリ保存血(日本バイオテスト製)をPBS(-)(日水製薬株式会社製、製品に添付の説明書に記載の方法で調製)で5倍に希釈した後、希釈したニワトリ保存血を2500rpm、4.0℃で5分間遠心して赤血球を分離し、沈殿させた。その後、上清を吸引除去して、得られた赤血球を含む沈殿物を、再度PBS(-)で200倍に希釈した。
次に、赤血球沈殿物のPBS(-)希釈液を、細胞培養プレートの全ウェルに100μLずつ分注し、2時間静置した。その後、培養した細胞組織の表面に対する赤血球の吸着の有無を目視で確認し、吸着が確認されたものをウイルス感染が起きたウェル、吸着が確認されなかったものをウイルス感染が起きなかったウェルとして数えた。さらに、ウイルス含有タンパク質溶液の濾液及び同濾液の希釈液と、元液希釈液のそれぞれが分注されたウェルごとに、ウイルス感染の割合を確認し、Reed-Muench法(ウイルス実験学総論、国立予防衛生研究所学友会編、p.479-480参照)により、感染価としてlog10(TCID50/mL)を算出し、下記式(3)を用いてウイルスの対数除去率(LRV)を算出した。
LRV=log10(C0/CF) (3)
ここで、C0は、ウイルス除去膜で濾過する前の元液(ウイルス含有生理活性物質溶液)中の感染価を表し、CFはウイルス除去膜で濾過した後の濾過液中の感染価を表す。
該濾過元液を濾過圧力294kPa、濾過温度25℃の条件で定圧デッドエンド濾過を行った。濾液は5mL(5L/m2)毎に11フラクションを採取し、濾過開始時から55リットル/m2濾過時におけるブタパルボウイルス対数除去率を測定するために、各フラクションから1mLずつ採取し混合した。濾過元液と濾液(混合液と最初及び最後のフラクション)中のブタパルボウイルス濃度は、TCID50の測定により求めた。
(3)抗体凝集体の定量方法
抗体凝集体は、下記の条件により、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size Exclusion Chromatography)装置を用いて測定した。
カラム:ACQUITY YPLC BEH200 SEC1.7um(Waters
社製)
カラム温度:30℃
システム:ACQUITY UPLC H CLASS(waters社製)
移動相:0.1mol/Lリン酸水素二ナトリウム+0.2mol/L L(+)-ア
ルギニン水溶液(塩酸でpH6.7に調整)
(4)宿主細胞由来タンパク質(HCP)の定量方法
抗体溶液中のHCP濃度は、市販の測定キット(CYGNUS TECHNOLOGIES社、カタログ番号#F550)を用いて測定した。測定は、測定キットに附属の使用説明書に従って実施した。
(5)脱離プロテインAの定量方法
抗体溶液中のHCP濃度は、市販の測定キット(CYGNUS TECHNOLOGIES社、カタログ番号#F400)測定は、測定キットに附属の使用説明書に従って実施した。
(Planova BioEXの抗体濾過試験)
Planova BioEX(0.0003m2)のヒト免疫グロブリンの透過流束を測定した結果、以下の透過流束であった。
透過流束A:119L/m2/h
透過流束B:109L/m2/h
透過流束B/透過流束A:0.92
(Planova BioEXのブタパルボウイルス除去試験)
Planova BioEX(0.0003m2)のブタパルボウイルス除去試験を行った結果、濾過開始から5L/m2透過時におけるブタパルボウイルスの対数除去率、及び50L/m2透過した後さらに5L/m2透過時におけるブタパルボウイルスの対数除去率は、いずれも5.1以上であった。
(実施例1)
(カチオン交換膜の製造例)
以下の手順で、放射線グラフト重合によって、カルボン酸基を有する中空糸状のカチオン交換膜を製造した。2-ヒドロキシエチルメタクリレート3.08g、ブチルメタクリレート1.54g、メタクリル酸0.57gを50容量%t-ブチルアルコール水溶液240mLに溶解させ、30分間窒素バブリングしたものを反応液として用いた。外径3.0mm、内径2.0mm、平均孔径0.25umのポリエチレン多孔質中空糸3.00g(15cm、15本)を密閉容器に入れて、容器内の空気を窒素で置換した。その後、容器の外側からドライアイスで冷却しながら、γ線25kGyを照射し、ラジカルを発生させた。得られたラジカルを有するポリエチレン多孔質中空糸をガラス容器に移し、200Pa以下に減圧することにより、反応管内の酸素を除いた。これに40℃に調整した上記反応液を、140mL導入し、16時間静置した。その後、中空糸をメタノールで洗浄し、真空乾燥機中で真空乾燥させ、5.31g、グラフト率77%のカチオン交換膜を得た。
得られた中空糸の1本の体積を測定したところ、1.05mLであった。この中空糸をエタノールにより親水化し、水に置換した。水を除去した後、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を10mL加えた。1時間放置した後、水酸化ナトリウム水溶液を取り出し、純水10mLを加えた。さらに1時間放置した後、純水を回収することにより、膜内に残った水酸化ナトリウムを回収した。回収した水酸化ナトリウム溶液を統合し、0.1mol/L塩酸により滴定をおこなったところ、中和に7.93mL要した。ブランクが9.77mLであったことから、水酸化ナトリウムと反応した、膜が有する弱カチオン交換基は184umolであることが分かった。これを測定した体積で除すると弱カチオン交換基密度を求めることが出来、カチオン交換基密度は175mmol/Lであった。これをモジュール化(膜体積0.25mL)し、カチオン交換膜の製造例に係るカチオン交換膜とした。また、カチオン交換基モノマー単位及び中性モノマー単位の質量割合は、それぞれ、0.103及び0.897であった。
実施例1では、抗体タンパク質として、AE6F4抗体(ヒトモノクロナール抗体、IgG1)を含む培養上澄みを用い、アフィニティークロマトグラフィー工程の溶出液を、カチオン交換膜、アニオン交換膜、及びウイルス除去膜を連結させた連結モジュールに通液することにより、連続的な精製を行った。
(アフィニティークロマトグラフィー工程)
実施例1に係るアフィニティークロマトグラフィー工程では、流速4mL/分(300cm/時間)で操作を行った。まず、Mabselect Sure(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)16mLを充填したカラムをリン酸緩衝液(20mmol/Lリン酸ナトリウム+150mmol/L NaCl(pH8.0))80mLで平衡化し、抗体を含む培養上澄み2.5L添加し、抗体を吸着させた。次に、リン酸緩衝液(20mmol/Lリン酸ナトリウム+150mmol/L NaCl(pH8.0))80mLを通液し、さらにトリス/酢酸緩衝液(100mmol/L(pH8.0))48mLを通液して洗浄した後、溶出液として25mmol/L酢酸緩衝液+10mmol/L NaCl(pH3.4)80mLを通液してカラムから抗体を溶出させた。溶出液に1mol/Lトリス緩衝液を加え、pHを7.0に調整し、抗体溶液1を得た。抗体溶液1に、最終濃度として10mmol/L相当のNaCl、及び同じ溶液であり凝集体を多く含む抗体溶液、及び20mmol/L Tris-Acetate+10mmol/L NaCl、pH7.0と混合することにより、後述する連続的なクロマトグラフィー工程に用いる、さまざまな抗体濃度を有する抗体溶液2から7を調整した。抗体溶液2の凝集体(2量体)の割合は0.72%であり、凝集体(3量体以上)の割合は1.04%、単量体の割合は98.24%であった。また、HCPの含有量は1932ppm、プロテインAの含有量は13ppmであった。
(連続的なクロマトグラフィー精製)
実施例1に係る連続的なクロマトグラフィー工程では、カチオン交換膜の製造例で製造したカチオン交換膜を用い、カチオン交換膜モジュール(膜体積0.75mL)、アニオン交換膜モジュールであるQyuSpeed D(旭化成メディカル株式会社、膜体積0.6mL)、ウイルス除去膜であるPlanova BioEX(旭化成メディカル株式会社、膜面積0.0003m2)を直列に連結した(以下、「連結モジュール」という。図1参照。)。また、Planova BioEXの前後に圧力計を配置し、Planova BioEXの膜間差圧が一定になるように流速を制御した。上記連結モジュールをクロマトグラフィー装置AKTA Explore(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)に接続した後、平衡化溶液(20mmol/L Tris-Acetate+10mmol/L NaCl、pH7.0)を通液し、電気伝導度が一定になるまで平衡化した。次に、上記アフィニティークロマトグラフィー工程で得た抗体溶液2(抗体濃度5.66mg/mL)250mLを、フロースルー様式で連結モジュールに通液し、連結モジュールを通過してきた抗体溶液をフラクションコレクターで10mLごとに回収した。通液時の流量は、Planova BioEXの前後に配置した圧力計の値を観測し、Planova BioEXの膜間差圧が196kPaの一定になるように流速を制御した。連結モジュールに抗体溶液2を透過させた後、抗体溶液2の溶媒と同じ組成の緩衝液を通液して洗浄し、連結モジュール中に残った抗体を回収した。フロースルー工程と洗浄工程で、合計280mLの溶液を回収した。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例2)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例1で調製された抗体溶液3(抗体濃度10.01mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例1と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されなかった。回収した溶液を抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例3)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例1で調製された抗体溶液4(抗体濃度16.88mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例1と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されなかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例4)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例1で調製された抗体溶液5(抗体濃度23.31mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例1と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は僅かに観察されたが、十分なろ過速度を維持した。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例5)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例1で調製された抗体溶液1を限外ろ過膜(UF膜)モジュールで濃縮した抗体溶液6(抗体濃度30.11mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例1と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は僅かに観察されたが、十分なろ過速度を維持した。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例6)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例1で調製された抗体溶液1を30kDaのUF膜モジュールで濃縮した抗体溶液7(抗体濃度55.31mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例1と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は僅かに観察されたが、十分なろ過速度を維持した。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例7)
連続的なクロマトグラフィー精製において、カチオン交換膜としてMustang S(日本ポール株式会社、膜体積1.80mL)を用いた以外、実施例2と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観察されなかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例8)
連続的なクロマトグラフィー精製において、アニオン交換膜としてMustang Q(日本ポール株式会社、膜体積0.36mL)を用いた以外、実施例2と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観察されなかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例9)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が49kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されなかったが処理時間は実施例3の4倍かかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例10)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が98kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されなかったが処理時間は実施例3の2倍かかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例11)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が147kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されなかったが処理時間は実施例3の1.33倍かかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例12)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が245kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されず、処理時間は実施例3の0.8倍になった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例13)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が294kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されず、処理時間は実施例3の0.67倍になった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例14)
連続的なクロマトグラフィー精製において、Planova BioEXの膜間差圧が392kPaの一定になるように流速を制御した以外は、実施例3と同様の方法で280mLの溶液を回収した。通液速度の低下は観測されず、処理時間は実施例3の0.5倍になった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。結果を図2に示す。
(実施例15)
(アフィニティークロマトグラフィー工程)
実施例15に係るアフィニティークロマトグラフィー工程では、流速4mL/分(300cm/時間)で操作を行った。まず、MabSelect SuRe(GE Healthcare)16mLを充填したカラムをリン酸緩衝液(20mmol/Lリン酸ナトリウム+150mmol/L NaCl(pH8.0))80mLで平衡化し、抗体を含む培養上澄み2.5L添加し、抗体を吸着させた。次に、リン酸緩衝液(20mmol/Lリン酸ナトリウム+150mmol/L NaCl(pH8.0))80mLを通液し、さらにトリス/酢酸緩衝液(100mmol/L(pH8.0))48mLを通液して洗浄した後、溶出液として25mmol/L酢酸緩衝液+10mmol/L NaCl(pH3.4)80mLを通液してカラムから抗体を溶出させた。溶出液に1mol/Lトリス緩衝液を加え、pHを7.0に調整し、抗体溶液8を得た。抗体溶液8に、最終濃度として10mmol/L相当のNaCl、及び同じ溶液であり凝集体を多く含む抗体溶液、及び20mmol/L Tris-Acetate+10mmol/L NaCl、pH7.0と混合することにより、後述する連続的なクロマトグラフィー工程に用いる、さまざまな抗体濃度を有する抗体溶液9から12を調整した。抗体溶液9から12の凝集体(2量体)の割合は0.75%であり、凝集体(3量体以上)の割合は1.06%、単量体の割合は98.19%%であった。また、HCPの含有量は1945ppm、プロテインAの含有量は14ppmであった。(ppmは、抗体重量に対する不純物重量の割合を表している。)
(連続的なクロマトグラフィー精製)
実施例15に係る連続的なクロマトグラフィー工程では、実施例1に係るカチオン交換膜の製造例で製造したカチオン交換膜を用い、カチオン交換膜モジュール(膜体積1.25mL)、アニオン交換膜モジュールであるQyuSpeed D(旭化成メディカル株式会社、膜体積0.6mL)、ウイルス除去膜であるPlanova BioEX(旭化成メディカル株式会社、膜面積0.0003m2)の順で直列に連結した(以下、「連結モジュール」という。図1参照)。また、Planova BioEXの前に圧力計を配置し、Planova BioEXの膜間差圧をモニターした。上記連結モジュールをクロマトグラフィー装置AKTA explorer(GE Healthcare)に接続した後、平衡化溶液(20mmol/L Tris-Acetate+10mmol/L NaCl、pH7.0)を通液し、電気伝導度が一定になるまで平衡化した。次に、上記アフィニティークロマトグラフィー工程で得た抗体溶液9(抗体濃度5.46mg/mL)100mLを、フロースルー様式で連結モジュールに通液し、連結モジュールを通過してきた抗体溶液をフラクションコレクターで10mLごとに回収した。プロセス液は0.2mL/min(ウイルス除去膜1m2あたり40L/m2/h)一定流速で透過させた。連結モジュールに抗体溶液9を透過させた後、抗体溶液9の溶媒と同じ組成の緩衝液を通液して洗浄し、連結モジュール中に残った抗体を回収した。フロースルー工程と洗浄工程で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の上昇は観測されなかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。しかし、抗体負荷量が少ないため、抗体回収率は70%以下であった。抗体回収率は69%、凝集体(2量体)の割合は0.11%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は6ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は1.26kg/m2であった。従来のバッチプロセスと比べ、精製時間を大幅に削減することができ、貯蔵による抗体の変性も抑制することができた。
(実施例16)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液10(抗体濃度16.53mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の上昇は確認されなかった。回収した溶液を抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は87%、凝集体(2量体)の割合は0.19%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は10ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は4.79kg/m2であった。
(実施例17)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液11(抗体濃度26.99mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。処理時間は8.3時間であった。抗体回収率は92%、凝集体(2量体)の割合は0.23%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は13ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は8.28kg/m2であった。
(比較例1)
実施例15で調製された抗体溶液11(抗体濃度26.99mg/mL)をカチオン交換膜の製造例で製造したカチオン交換膜モジュール(膜体積1.25mL)、アニオン交換膜モジュールであるQyuSpeed D(旭化成メディカル株式会社、膜体積0.6mL)、ウイルス除去膜であるPlanova BioEX(旭化成メディカル株式会社、膜面積0.0003m2)の順でバッチ精製を行った以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。ウイルス除去膜での通液圧上昇が確認された。これにより、十分な処理量を得られなかった。連続的な精製と比べて、バッチ精製の処理時間が3倍以上になったため、凝集体が生じ、ウイルス除去膜の閉塞が起きたと推測できる。
(実施例18)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液11(抗体濃度26.99mg/mL)を連結モジュールに、0.1mL/min(ウイルス除去膜1m2あたり20L/m2/h)の一定流速で通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。処理時間は16.7時間であった。抗体回収率は91%、凝集体(2量体)の割合は0.24%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は11ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は8.19kg/m2であった。
(実施例19)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液8を限外濾過膜(UF膜)モジュールで濃縮した抗体溶液12(抗体濃度55.68mg/mL)を連結モジュールに通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は90%、凝集体(2量体)の割合は0.31%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は18ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は16.70kg/m2であった。
(実施例20)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液8を30kDaのUF膜モジュールで濃縮した抗体溶液12(抗体濃度55.68mg/mL)を連結モジュールに、250mL通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。しかし、実施例19と比べ、抗体負荷量が大きいため、ウイルス除去膜の透過液に含まれるHCP含有量が20ppmを超えている。抗体回収率は88%、凝集体(2量体)の割合は0.41%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は27ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は40.83kg/m2であった。
(実施例21)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液9(抗体濃度5.46mg/mL)を連結モジュールに、0.5mL/min(ウイルス除去膜1m2あたり100L/m2/h)の一定流速で、250mL通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液圧の上昇は確認されなかった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は79%、凝集体(2量体)の割合は0.12%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は12ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は3.60kg/m2であった。
(実施例22)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液10(抗体濃度16.53mg/mL)を連結モジュールに、0.5mL/min(ウイルス除去膜1m2あたり100L/m2/h)の一定流速で、250mL通液した以外、実施例15と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は89%、凝集体(2量体)の割合は0.18%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は15ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は12.26kg/m2であった。
(実施例23)
連続的なクロマトグラフィー精製において、実施例15で調製された抗体溶液11(抗体濃度26.99mg/mL)を、アニオン交換膜モジュールであるQyuSpeed D(旭化成メディカル株式会社、膜体積0.6mL)、カチオン交換膜の製造例で製造したカチオン交換膜モジュール(膜体積1.25mL)、ウイルス除去膜であるPlanova BioEX(旭化成メディカル株式会社、膜面積0.0003m2)の順で直列に連結した(図3参照)以外、実施例15と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は91%、凝集体(2量体)の割合は0.22%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は14ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は8.19kg/m2であった。アニオン交換クロマトグラフィー工程、カチオン交換クロマトグラフィー工程、ウイルス除去工程の順で精製を実施しても、実施例17と同等の結果であった。
(実施例24)
連続的なクロマトグラフィー精製において、カチオン交換膜としてMustang S(Pall Corporation、膜体積1.80mL)を用いた以外、実施例17と同様の方法で、合計130mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は90%、凝集体(2量体)の割合は0.18%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は12ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は8.10kg/m2であった。
(実施例25)
連続的なクロマトグラフィー精製において、アニオン交換膜としてMustang Q(Pall Corporation、膜体積0.36mL)を用いた以外、実施例16と同様の方法で、合計280mLの溶液を回収した。通液圧の僅かな上昇は確認されたが、ウイルス除去膜の上限圧よりも低いものであった。回収した抗体溶液の、抗体回収率、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量を測定したところ、凝集体成分、HCP、及びプロテインAの含有量は減少していた。抗体回収率は91%、凝集体(2量体)の割合は0.21%、凝集体(3量体以上)の割合は0.01%未満、HCPの含有量は13ppm、プロテインAの含有量は1ppm未満であった。ウイルス除去膜1m2あたりの抗体処理量は8.19kg/m2であった。

Claims (40)

  1. アニオン交換膜を用いるアニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、ウイルス除去膜によるウイルス除去工程と、を備え、
    前記アニオン交換膜の上流に設けられた送液ポンプを用いて前記抗体が前記アニオン交換膜に送られ、
    各工程間が連続的であり、かつ、各工程間が一定流速で行われ、
    前記ウイルス除去膜の前後に圧力計を設けて、前記ウイルス除去膜膜間差圧が一定となるように前記送液ポンプの流速が制御される、
    抗体の精製方法。
  2. カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程をさらに備え、各工程間が連続的であり、かつ、各工程間が一定流速で行われる、請求項1に記載の抗体の精製方法。
  3. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程において、カチオン交換膜を用いる、請求項2に記載の抗体の精製方法。
  4. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の後に、前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程が行われる、請求項2又は3に記載の抗体の精製方法。
  5. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の後に、前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程が行われる、請求項2又は3に記載の抗体の精製方法。
  6. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の後に、前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が行われる、請求項1からのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  7. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の後に、前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が行われる、請求項2からのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  8. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程の間が連続的である、請求項2から、及びのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  9. 前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程が最後に行われる、請求項1からのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  10. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記ウイルス除去膜による精製工程の間に、バッファー交換工程を含まない、請求項1からのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  11. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記ウイルス除去膜による精製工程の間に、バッファー交換工程を含まない、請求項2から及びのいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  12. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の間に、バッファー交換工程を含まない、請求項2から、及び11のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  13. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記ウイルス除去膜による精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まない、請求項1から12のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  14. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記ウイルス除去膜による精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まない、請求項2から11、及び12のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  15. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程と、前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程の間に、精製対象物が2倍以上希釈される工程を含まない、請求項2から1112、及び14のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  16. 前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程に、粗大構造層と、緻密構造層と、を備える、熱可塑性樹脂を含む微多孔膜であって、前記粗大構造層が少なくとも一方の膜表面に存在し、前記粗大構造層の厚みが2.0μm以上であり、前記緻密構造層の厚みが膜厚全体の50%以上であって、かつ前記粗大構造層と前記緻密構造層が一体化している多層微多孔膜を用いる、請求項1から15のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  17. 前記ウイルス除去膜の材質が、親水化された合成高分子である、請求項16に記載の抗体の精製方法。
  18. 前記ウイルス除去膜の材質が、親水化ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、親水化ポリエーテルスルホン(PES)、親水化ポリエチレン(PE)又は親水化ポリスルホン(PS)から選択される親水化された合成高分子である、請求項17に記載の抗体の精製方法。
  19. 前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程がフロースルーモードである、請求項2から111214、及び15のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  20. 前記カチオン交換膜がグラフト高分子鎖を有する、請求項に記載の抗体の精製方法。
  21. 前記カチオン交換膜が、膜状基材と、前記膜状基材の表面に固定された共重合体と、を備えるカチオン交換クロマトグラフィー担体であって、前記共重合体がモノマー単位として(メタ)アクリルアミド類化合物及び/又は(メタ)アクリレート類化合物を含み、当該担体の体積あたり30mmol/Lより高い密度で、1又は複数種類のカチオン交換基を有する、カチオン交換クロマトグラフィー担体を、前記カチオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程に用いる、請求項20に記載の抗体の精製方法。
  22. 前記カチオン交換クロマトグラフィーで用いられる担体1mLあたり、単量体と凝集体を含む抗体100mgを精製した時に、凝集体割合を50%以上低減させる、請求項2から11121415及び19から21のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  23. 前記アニオン交換クロマトグラフィーによる抗体の精製工程がフロースルーモードである、請求項1から22のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  24. 前記アニオン交換膜が、グラフト高分子鎖を有する、請求項1から23のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  25. 前記アニオン交換膜に3級アミノ基を含有するグラフト高分子鎖が固定されている、請求項24に記載の抗体の精製方法。
  26. アフィニティークロマトグラフィー工程をさらに含む、請求項1から25のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  27. ウイルス不活化工程をさらに含む、請求項1から26のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  28. 前記抗体の精製工程に貯蔵容器を含まない、請求項1から27のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  29. 前記抗体を活性炭素と接触させる工程を含まない、請求項1から28のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  30. 前記抗体を沈殿剤と接触させる工程を含まない、請求項1から29のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  31. 前記抗体をデプスフィルターと接触させる工程をさらに含む、請求項1から30のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  32. 前記抗体の含有溶液の電気伝導度が0.1~100mS/cmである、請求項1から31のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  33. 前記抗体の含有溶液の水素イオン指数がpH4.0~10.0にある、請求項1から32のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  34. 前記ウイルス除去膜によるウイルス除去工程で、精製される前記抗体の濃度が5~100g/Lである、請求項1から33のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  35. 前記ウイルス除去膜1m2あたり、精製される前記抗体の液量が50~3000L/m2である、請求項1から34のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  36. 前記ウイルス除去膜1m2あたり、前記抗体の処理量が4~30kg/m2である、請求項1から35のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  37. 前記ウイルス除去膜1m2あたり、前記抗体の負荷量が5~30kg/m2である、請求項1から36のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  38. 前記ウイルス除去膜1m2あたり、精製される前記抗体の流束が30~200L/m2/hである、請求項1から37のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  39. 前記ウイルス除去膜1m2あたり、精製される前記抗体の時間あたり負荷量が0.24~20kg/m2/hである、請求項1から38のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
  40. 前記抗体の回収率が80%以上である、請求項1から39のいずれか1項に記載の抗体の精製方法。
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