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JP6977965B2 - 卵巣癌組織型鑑別方法 - Google Patents

卵巣癌組織型鑑別方法 Download PDF

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Description

本発明は、卵巣癌組織型鑑別方法に関する。
卵巣癌は初期症状の乏しく進行されてから発見されることが多いため、婦人科悪性腫瘍の中では予後不良であることが知られている。卵巣癌の基本治療は手術療法であるが、その主たる進展様式が腹膜播種であるため手術療法で完治する場合が少なく、多くの症例が化学療法の対象となる。1980年代より白金製剤を中心とした化学療法が導入され、1990年代に入りタキサン製剤を併用してから卵巣癌に対する奏効率が明らかに上昇し、白金製剤(カルボプラチン)+タキサン製剤(パクリタキセル)の化学療法が卵巣癌における標準化学療法となっている。
卵巣癌は、表層上皮性・間質性腫瘍、胚細胞腫瘍、性索間質性腫瘍の3つに大きく分類される。そのうち表層上皮性・間質性腫瘍の卵巣癌は、漿液性腺癌、明細胞腺癌、粘液性腺癌、類内膜腺癌の主に4つの組織型が含まれ、これらの組織型はそれぞれ性質や特徴が異なるため、卵巣癌の治療においては組織型の特定が重要であり、組織型に沿った治療が望ましい。特に、上記の4つの組織型のうち、明細胞腺癌は最も治療が困難な疾患である。卵巣癌の中で最も頻度が高い漿液性腺癌(欧米では約80%、日本では約40%)は化学療法に対する反応が良く、治療効果も期待できる。一方、明細胞腺癌の発症頻度は欧米では低いが(数%)日本では高く(約24%)、進行症例では明細胞腺癌患者は漿液性腺癌患者よりも有意に予後不良である。その主な理由の1つに、化学療法に対する薬剤応答性が低いことが挙げられる。このことから、明細胞腺癌は標準治療とは別の治療法の開発が進められている。
通常、臨床現場においては手術検体を病理組織学検査することにより卵巣癌の組織型の特定が行われている。しかしながら、明細胞腺癌のうち乳頭状の増殖を示す症例は、その形状が漿液性腺癌と非常に類似している。よって、そのような症例においては病理組織学的に漿液性腺癌と明細胞腺癌とを区別することが困難な場合もある。また両者が混在している場合があり、腫瘍の性格がどちらを強く反映しているかを判別し難い場合もある。明細胞腺癌の個別化医療を考慮すると、より正確に両者を診断する必要がある。
近年、卵巣癌の予後や分類をするために、遺伝子発現やタンパク質発現に着目した遺伝子マーカーによる解析手法が検討されてきている。例えば、特許文献1では、上皮性卵巣癌鑑別マーカーとして癌細胞に特異的な糖タンパク質を検出する手法を開示している。また、特許文献2では、特定のマイクロRNAの発現レベルと測定することにより化学療法介入に抵抗性である卵巣癌を診断する方法を開示している。
このように病理組織学的手法によらずに、卵巣癌の組織型の鑑別することのできる手法の開発が望まれていた。しかしながら、これまでに、卵巣癌における漿液性腺癌と明細胞腺癌とを明確に鑑別可能な遺伝子マーカーについては報告がない。
特開2016−048270号公報 特表2014−530612号公報
本発明は、卵巣癌において、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な方法を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するため、複数の漿液性腺癌患者と明細胞腺癌患者から摘出された癌組織に対して、網羅的遺伝子発現解析技術を用いて遺伝子発現プロファイルを取得し、漿液性腺癌と明細胞腺癌との間で発現レベルに大きく差のある29種の遺伝子群を見出した。そして、被験者の試料中におけるこれらの遺伝子の発現レベルを測定することによって、卵巣癌における組織型のうち、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを容易かつ正確に鑑別できる方法を開発した。
そこで、本発明者らは、29種の遺伝子のうちどの遺伝子を用いれば漿液性腺癌と明細胞腺癌とを精度高く鑑別できるのかを調べるため、29種の遺伝子のうち各試料間で遺伝子の発現レベルのばらつきが少ない7種の遺伝子を特定した。さらに、本発明者らは、漿液性腺癌および明細胞腺癌の間における遺伝子の発現レベルの差について遺伝子発現のスコア化を試み、当該スコア化によりいずれの遺伝子を選択すべきかについてさらに検討を重ねた。その結果、本発明者らは、上記7種の遺伝子のうちで遺伝子発現スコアの高かった3種の遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子)の遺伝子発現スコアの合計値を満たすように29種より遺伝子を選択することで、精度高く漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、当該知見に基づくものであって、以下を提供する。
すなわち、本発明は、
〔1〕卵巣癌患者由来の被検試料において遺伝子の発現プロファイルを得て、当該発現プロファイルに基づいて漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別する方法であって、
PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子を含む遺伝子セットにおける各遺伝子の発現レベルを測定する工程であって、
前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値と同等または合計値以上となるように各遺伝子が選択されたものである工程
を含む、鑑別方法に関する。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子発現スコアが、漿液性腺癌患者由来の試料および明細胞腺癌患者由来の試料間における特定の遺伝子の発現レベルの差の大きさであることを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔3〕上記〔2〕に記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットに含まれる遺伝子の組み合わせが、下記表に記載される遺伝子発現スコアを参照して、合計が7.006と同等または7.006以上になるように少なくとも3つの遺伝子が選択されたものであることを特徴とする。
Figure 0006977965
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットに含まれる少なくとも一つの遺伝子が、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択されることを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットに含まれる遺伝子の全てが、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択されることを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットがGLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子を含むことを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルと、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルとを比較することにより、前記被検試料の組織型を鑑別することを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルと、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルとを比較することにより、前記被検試料が、比較した組織型卵巣癌の遺伝子の発現プロファイルと同等の遺伝子の発現プロファイルを有する場合に比較した組織型の卵巣癌であると評価するか、または、比較した組織型卵巣癌の遺伝子の発現プロファイルと異なる遺伝子の発現プロファイルを有する場合に比較した組織型の卵巣癌ではないと評価することを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔9〕上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
前記遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルをクラスタ分析することにより前記被検試料の組織型を鑑別することを特徴とする。
また、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、
〔10〕上記〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の鑑別方法であって、
被検試料における前記遺伝子セットの各遺伝子の定量的な発現プロファイルを、所定の閾値と比較することにより組織型を鑑別することを特徴とする。
また、本発明は、別の態様として
〔11〕卵巣癌患者由来の被検試料において、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別するための鑑別マーカーセットであって、
前記鑑別マーカーセットは、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子の組み合わせを含み、
前記鑑別マーカーセットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値以上となるように各遺伝子が選択されたものである、鑑別マーカーセットに関する。
ここで、本発明の鑑別マーカーセットは、一実施の形態において、
〔12〕上記〔11〕に記載の鑑別マーカーセットであって、
前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子のmRNAの発現レベルが測定されることを特徴とする。
また、本発明のマーカー遺伝子セットは、一実施の形態において、
〔13〕上記〔11〕に記載の鑑別マーカーセットであって
前記鑑別マーカーセットは、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子によりコードされるmRNAの組み合わせである、鑑別マーカーセット。
また、本発明は、別の態様として
〔14〕卵巣癌患者由来の被検試料において、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別するためのキットであって、
前記キットは、PP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子を含む遺伝子セットにおける各遺伝子の発現レベルを測定する手段を含み、
前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値以上となるように各遺伝子が選択されたものである、キットに関する。
ここで、本発明のキットは、一実施の形態において、
〔15〕上記〔14〕に記載のキットであって、前記各遺伝子の発現レベルを測定する手段が、各遺伝子に対するプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの手段であることを特徴とする。
また、本発明のキットは、一実施の形態において、
〔16〕上記〔15〕に記載のキットであって、PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用である、キット。
また、本発明は、別の態様として、
〔17〕上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の鑑別方法の結果に基づいて
前記卵巣癌患者に対して、漿液性腺癌または明細胞腺癌に対する有効量の抗癌剤を投与する工程を含む、治療方法に関する。
本発明の方法によれば、卵巣癌患者由来の試料が、漿液性腺癌と明細胞腺癌とのいずれであるのかを鑑別することが可能となる。
図1は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータに基づき、ユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った結果を示す。 図2は、下記実施例4のスコアリングシステムに基づいて、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータを並び替えたものを示す。具体的には、漿液性腺癌由来または明細胞腺癌由来の各検体における鑑別マーカー29遺伝子の遺伝子発現スコアの合算値を算出して、左から合算値の小さい検体順に並べた。図2下段のグラフは、各検体における遺伝子発現スコアの合算値を示す。 図3は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図4は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図5は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づき、階層的クラスタ分析(ユークリッド距離による群平均法)を行った結果を示す。 図6は、スコアリングシステムに基づいて、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータを並び替えたものを示す。図6下段のグラフは、各検体における遺伝子発現スコアの合算値を示す。 図7は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図8は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図9は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、GABARAPL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図10は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、GABARAPL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図11は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー4遺伝子(LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子、A4GALT遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図12は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー4遺伝子(LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子、A4GALT遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図13は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(ANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子、APOL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図14は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(ANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子、APOL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図15は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、TMEM101遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図16は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、TMEM101遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図17は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(DLX5遺伝子、UQCRH遺伝子、ARG2遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図18は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(DLX5遺伝子、UQCRH遺伝子、ARG2遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図19は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(FBLN1遺伝子、AOC1遺伝子、TSPAN1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図20は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(FBLN1遺伝子、AOC1遺伝子、TSPAN1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図21は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(C12orf75遺伝子、DNER遺伝子、RIMKLB遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製した群散布図を示す。 図22は、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体における鑑別マーカー3遺伝子(C12orf75遺伝子、DNER遺伝子、RIMKLB遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づいて作製したROC曲線(上段)および感度・特異度曲線(下段)を示す。 図23Aは、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体に対して、さらに検証用の漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体を加えて漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体とし、それらの検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータに基づき、ユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った結果を示す。また、図23Bは、スコアリングシステムに基づいて、上記漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体における鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータを並び替えたものを示す。 図24Aは、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体に対して、さらに検証用の漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体を加えて漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体とし、それらの検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づき、ユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った結果を示す。また、図24Bは、スコアリングシステムに基づいて、上記漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体における鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータを並び替えたものを示す。 図25Aは、漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体に対して、さらに検証用の漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体を加えて漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体とし、それらの検体における鑑別マーカー3遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、GABARAPL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータに基づき、ユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った結果を示す。また、図25Bは、スコアリングシステムに基づいて、上記漿液性腺癌59検体および明細胞腺癌25検体における鑑別マーカー3遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、GABARAPL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータを並び替えたものを示す。
1.漿液性腺癌および明細胞腺癌を区別可能な鑑別マーカー
1−1.概要
本発明の第1の態様は漿液性腺癌および明細胞腺癌を区別可能な鑑別マーカーである。本発明の鑑別マーカーは、少なくとも29種の遺伝子群からなり、被験者の試料中におけるその発現レベルを測定することで、卵巣癌の組織型のうち、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型卵巣癌であるのかを正確に鑑別することができる。
1−2.定義
「卵巣癌」は、卵巣に発生する上皮性悪性腫瘍であり、漿液性腺癌、明細胞腺癌、粘液性腺癌、類内膜腺癌の組織型を含むことが知られている。
「漿液性腺癌」は、卵巣癌全体の約40%を占めており一番頻度が高く、抗癌剤の感受性が高いため、抗癌剤治療が適した組織型卵巣癌である。一方、「明細胞腺癌」は、欧米では数%であるが、特に日本人における発症率が高い(約24%)組織型であることが知られており、抗癌剤が効きにくいことが知られている。
本明細書において「鑑別遺伝子群」とは、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる。
本明細書において「鑑別マーカー」は、「鑑別遺伝子群」に含まれる遺伝子と関連するマーカーであり、表層上皮性・間質性腫瘍に分類される卵巣癌の組織型について、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別することのできるバイオマーカーをいう。本発明において、バイオマーカーは特に鑑別遺伝子群に含まれる各遺伝子の転写産物(mRNA)またはそのcDNAである。
本明細書において、「遺伝子発現スコア」とは、「鑑別遺伝子群」に含まれる各遺伝子において定まるスコアであり、漿液性腺癌患者由来の試料および明細胞腺癌患者由来の試料間における遺伝子の発現レベルの差の大きさを示す。より具体的には、特定の遺伝子について、漿液性腺癌患者群由来の複数の試料における発現プロファイルの平均値と、明細胞腺癌患者群由来の複数の試料における発現プロファイルの平均値との差の絶対値として求めることができる。
本明細書において「遺伝子の発現レベル」とは、鑑別遺伝子の発現プロファイル、転写産物量、発現強度又は発現頻度をいう。ここでいう遺伝子の発現レベルは、鑑別遺伝子の野生型遺伝子の発現レベルに限らず、点突然変異遺伝子等の変異遺伝子の発現レベルも含み得る。また、鑑別遺伝子の発現を示す転写産物には、スプライスバリアントのような異型転写産物(バリアント)及びそれらの断片も含み得る。変異遺伝子、転写産物、又はその断片に基づく情報であっても本発明における遺伝子の発現プロファイルの構築が可能だからである。遺伝子の発現レベルは、鑑別マーカーを構成する遺伝子群の転写産物、すなわちmRNA量等の測定により測定値として得ることができる。
なお、好ましい実施の形態において、遺伝子の発現プロファイルの測定は、mRNAの測定である。
本明細書において「測定値」とは、遺伝子発現レベルの測定方法によって得られた値である。測定値は、試料中のmRNA量等をng(ナノグラム)やμg(マイクログラム)等の容量で表した絶対値であってもよいし、また対照値に対する吸光度や標識分子による蛍光強度等で表した相対値であってもよい。
なお、各遺伝子の発現レベルの測定値は測定方法にもよるが、例えば、共通のサンプル(以下「共通リファレンス」という。)に対する相対比として算出することができる。発現比を算出する際の共通リファレンスは、比較する試料間の測定条件において同じであればどのようなものでも構わない。例えば、特定の細胞株でもよく、複数の細胞株を混合したものでもよい。または、市販のユニバーサルリファレンスや、公知のハウスキーピング遺伝子またはそれらの組み合わせを共通リファレンスとして用いることもできる。
本明細書において「鑑別」とは、表層上皮性・間質性腫瘍に分類される卵巣癌罹患歴のある被験者由来の試料について、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型に属するものであるかを鑑別すること、または、いずれの組織型に属する可能性が高いか鑑別することをいう。
1−3.構成
本態様の鑑別マーカーは、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子の29種の鑑別遺伝子群より選択される。卵巣癌患者由来の試料を鑑別する際には、これら29種の「鑑別遺伝子群」より少なくとも3種の遺伝子を含む遺伝子セットを選択して、当該試料における各遺伝子の発現を測定する。
なお、好ましい一実施の形態においては、遺伝子セットに含まれる少なくとも一つの遺伝子が、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択される。前記に列挙される7種の遺伝子は、鑑別遺伝子群に含まれる他の遺伝子と比べて、個体間における遺伝子の発現レベルのばらつきが少ない。よって、これらの遺伝子の発現レベルを測定することにより、より精度高く卵巣癌の組織型を鑑別することができる。よって、より好ましい一実施の形態においては、遺伝子セットに含まれる全ての遺伝子が、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択される。
上述のように、本態様の鑑別マーカーは、3種以上29種以下の鑑別遺伝子群に含まれる遺伝子の組み合わせで構成される。通常、本態様の鑑別マーカーは、構成する遺伝子の種類が多いほど漿液性腺癌と明細胞腺癌とのいずれの組織型であるのかについての鑑別精度が高くなる。
本明細書において鑑別マーカーは、原則的にはDNA(cDNA)で示す塩基配列からなる遺伝子であるが、その遺伝子の発現時に転写産物として生じ、RNA配列からなるmRNA及びそれらの部分断片もマーカーである遺伝子の発現を反映するため間接的に鑑別マーカーとなり得る。
ここで、「鑑別遺伝子群」より少なくとも3種の遺伝子を選択する方法は、各遺伝子の遺伝子発現スコアに基づいて選択することができる。具体的には、選択した遺伝子の組み合わせにおける遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値と同等またはそれ以上となるように、各遺伝子の遺伝子発現スコアを参照して組み合わせを選択する。このとき、「鑑別遺伝子群」より選択される少なくとも3種の遺伝子の組み合わせは、その遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値と同等またはそれ以上である限りにおいて限定されず、3種、4種、5種、6種、7種、8種、9種、10種、11種、12種、13種、14種、15種、16種、17種のあらゆる遺伝子の組み合わせを含む。遺伝子の選択方法は、遺伝子発現スコアの高い遺伝子から選択する方が好ましいが、特にそのような形態に限定されない。
また、好ましい一実施の形態は、鑑別遺伝子群より選択される遺伝子の組み合わせにおける遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値以上となる形態である。
なお、特定の遺伝子の遺伝子発現スコアは、上述のように、特定の遺伝子に関して、漿液性腺癌患者群由来の複数の試料における発現レベルの平均値と、明細胞腺癌患者群由来の複数の試料における特定の遺伝子の発現レベルの平均値との差の絶対値として求めることができる。
下記に限定されないが、一実施の形態において、「鑑別遺伝子群」に含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアは、一実施の形態においては、下記表2に記載されるとおりである。このとき、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値は7.006となる。すなわち、下記表2の遺伝子発現スコアを参照して「鑑別遺伝子群」より遺伝子の組み合わせを選択する場合、遺伝子発現スコアの合計値が7.006と同等またはそれ以上となるように「鑑別遺伝子群」より少なくとも3種の遺伝子の組み合わせを選択することができる。ここで、遺伝子発現スコアの合計値が7.006と同等であるとは、遺伝子発現スコアの合計値が6.9以上を含む。好ましい実施の形態においては、鑑別遺伝子群より選択される遺伝子の組み合わせにおける遺伝子発現スコアの合計値は7.006以上である。
Figure 0006977965
表2中、「gene name」は鑑別遺伝子名を、「symbol」は鑑別遺伝子の略称を、「Gene ID」は鑑別遺伝子のアクセッションナンバーを示す。
また、上記の表2中の遺伝子発現スコアを参照する際、鑑別遺伝子群より選択される遺伝子の組み合わせにおいて遺伝子発現スコアの合計値を、8以上、9以上、10以上とすることにより、鑑別の精度がより高まるため好ましい。当該遺伝子スコアの合計値を11〜50以上(例えば、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上、20以上、25以上、30以上、35以上、40以上、45以上、50以上)とするとさらに鑑別の精度が高まり好ましい。一方で、鑑別遺伝子群より選択される少なくとも3遺伝子以上の組み合わせについて、遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値より下回る場合、例えば6未満であった場合、臨床に耐えうる精度を担保できなかった。
また下記表3に、29遺伝子の全長塩基配列またはプローブの配列番号の対応を示す。下記表3においてAは鑑別遺伝子の全長塩基配列の配列番号を、Bはプローブに用いた塩基配列の配列番号を示す。
Figure 0006977965
このように、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子は、それぞれ配列番号1〜29に示される塩基配列を含む遺伝子である。
また、本明細書中、特定の配列番号で示される塩基配列を含む遺伝子というとき、当該塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、かつ、対象遺伝子の機能を保持する遺伝子を含む。
例えば、一実施の形態において、本発明に用いられるLRIG1遺伝子を配列番号25で示される塩基配列を含む遺伝子と特定するとき、配列番号25に示される塩基配列と70%以上(好ましくは75%以上、80%以上、85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上)の塩基同一性を有する塩基配列からなる遺伝子であって、LRIG1遺伝子の機能を保持する遺伝子を含む。なお、本明細書において「塩基同一性」とは、二つの塩基配列を整列(アラインメント)し、必要に応じてギャップを導入して、両塩基配列の塩基一致度が最も高くなるようにしたときの、遺伝子の全塩基数に対する比較するヌクレオチドの塩基配列中の同一塩基数の割合(%)をいう。
このような塩基配列を含む遺伝子の具体的な例として、同一アミノ酸配列をコードする縮重コドンを含む塩基配列からなる遺伝子、各遺伝子の各種変異体(バリアント)や点突然変異遺伝子等の変異遺伝子、及びチンパンジー等の他種生物のオルソログ遺伝子が挙げられる。
また、本明細書中、特定の配列番号で示される塩基配列を含む遺伝子というとき、前記遺伝子の部分塩基配列に相補的な塩基配列からなるヌクレオチド断片とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸で酵素活性を保持するヌクレオチドも含まれる。「ストリンジェントな条件」とは、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味する。一般に、低塩濃度で、かつ高温であるほど高ストリンジェントな条件となる。低ストリンジェントな条件とは、例えば、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、1×SSC、0.1% SDS、37℃程度で洗浄する条件であり、より厳しくは0.5×SSC、0.1% SDS、42℃〜50℃程度で洗浄する条件である。さらに厳しい高ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄において、例えば50℃〜70℃、55℃〜68℃、又は65℃〜68℃で、0.1×SSC及び0.1% SDSで洗浄する条件である。一般に高ストリンジェントな条件が好ましい。前記SSC、SDS及びに温度の組み合わせは、例示に過ぎない。当業者は、前記SSC、SDS及びに温度に加えて、プローブ濃度、プローブ塩基長、ハイブリダイゼーション時間等のその他の条件を適宜組み合わせてハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定することもできる。
2.漿液性腺癌と明細胞腺癌との鑑別方法
2−1.概要
本発明の別の態様は、被験者の卵巣癌における組織型のうち、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別する方法である。なお、本発明の鑑別する方法は、病理組織学的検査等との併用が可能であるため、一実施の形態においては、鑑別を補助する方法と言い換えることもできる。
本発明の鑑別方法は、被験者から採取された試料中に含まれる鑑別マーカーの発現プロファイルを得て、該発現プロファイルに基づいて該被験者における卵巣癌の組織型が、漿液性腺癌であるか、又は、明細胞腺癌であるかを鑑別する方法である。「鑑別マーカーの発現プロファイル」とは、鑑別マーカーを構成する各遺伝子の発現レベルに関する情報をいう。本明細書では、特に複数の鑑別遺伝子の発現レベルに関する情報を含む。一般に、取得する遺伝子の発現プロファイルが多いほど精度の高い鑑別が可能となる。
2−2.測定方法
本発明の鑑別方法は、鑑別遺伝子群に含まれる少なくとも3種の遺伝子の発現レベルを測定する工程を必須の工程として含む。以下、測定方法について具体的に説明をする。
「測定工程」とは、被験者から採取された試料において鑑別マーカーの発現レベルを測定してその測定値を得る工程である。鑑別マーカーの発現の測定は、各鑑別マーカーにおける単位量あたりの発現レベルを測定することが好ましい。
本明細書において「被験者」とは、試料を提供し、検査に供されるヒト個体をいう。被験者は、卵巣癌罹患歴のある個体又は卵巣癌罹患の疑いのある個体のいずれであってもよい。ここでいう「卵巣癌罹患歴のある個体」とは、現在卵巣癌に罹患している患者、及び過去卵巣癌に罹患した卵巣癌既往歴者を含む。明細胞腺癌のうち乳頭状の増殖を示す症例においては、病理組織学的に漿液性腺癌と明細胞腺癌とを区別することが困難であることから、病理組織学的に漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれかの疑いがあると診断された患者又は卵巣癌既往歴者は、被験者として好適である。
本明細書において「漿液性腺癌患者」とは、卵巣癌のうちの漿液性腺癌に罹患している患者のことをいう。特に、被験者または明細胞腺癌患者由来の試料との比較のため、試料を提供するものをいう場合がある。また、本明細書において「明細胞腺癌患者」とは、卵巣癌のうちの明細胞腺癌に罹患している患者のことをいう。特に、被験者または漿液性腺癌患者由来の試料との比較のため、試料を提供するものをいう場合がある。
本態様で用いる「被験者」、「漿液性腺癌患者」および「明細胞腺癌患者」は、性別、年齢、身長、体重等の身体的条件や、人数は特に制限はされないが、比較対象とされる「漿液性腺癌患者」および「明細胞腺癌患者」は、被験体と年齢、身長、及び体重等の身体的条件が同一又は近似であることが好ましい。なお、本明細書では複数の「漿液性腺癌患者」または「明細胞腺癌患者」からなる集団を「漿液性腺癌患者群」または「明細胞腺癌患者群」と称する。
本明細書において「試料」とは、前記被験者から採取され、本態様の鑑別方法に供されるものであって、例えば、組織、細胞、体液又は腹腔洗浄液が該当する。ここでいう「組織」及び「細胞」は、被験者のいずれの部位由来でもよいが、好ましくは生検により採取された、又は手術により切除された検体、より具体的には卵巣組織又は卵巣細胞である。特に好ましくは生検により採取された卵巣癌細胞又は卵巣癌罹患の疑いのある卵巣組織又は卵巣細胞である。なお、これらの組織又は細胞は、ホルマリン固定後パラフィンに包埋されたもの(FFPE:Formalin-Fixed Paraffin Embedded)でもよい。また、ここでいう「体液」とは、被験者から採取された液体状の生体試料をいう。例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、髄液(脳脊髄液)、尿、リンパ液、消化液、腹水、胸水、神経根周囲液、各組織若しくは細胞の抽出液等が挙げられる。好ましくは血液である。
試料の採取は、組織又は細胞であれば、生検又は手術による外科的摘出により入手すればよい。また、体液であれば、当該分野の公知の方法に基づいて行なえばよい。例えば、血液やリンパ液であれば公知の採血方法に従えばよい。本態様の鑑別方法において必要となる試料の量は、特に限定するものではない。組織又は細胞であれば少なくとも10μg、好ましくは少なくとも0.1mgあれば望ましいが、生検材料でも構わない。また血液、又はリンパ液のような体液であれば、少なくとも0.1mL、好ましくは少なくとも1mL、より好ましくは少なくとも10mLの容量があればよい。試料は、鑑別マーカーの測定が可能なように、必要に応じて調製、処理することができる。例えば、試料が組織又は細胞であれば、ホモジナイズ処理や細胞溶解処理、遠心や濾過による夾雑物除去、プロテアーゼインヒビターの添加等が挙げられる。これらの処理の詳細についてはGreen & Sambrook, Molecular Cloning, 2012, Fourth Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Pressに詳しく記載されており、参考にすることができる。
本明細書において「単位量」とは、任意に定められる試料の量をいう。例えば、容量(μL、mLで表される)や重量(μg、mg、gで表される)が該当する。単位量は特に特定しないが、一連の鑑別方法で測定される単位量は一定とすることが好ましい。本工程で測定に供される被験者由来の試料と、比較する漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料の単位量を一定とすることでより正確な鑑別が可能となる。特に、鑑別マーカーの発現レベルを絶対値として測定する際には、単位量を一定にする必要がある。
以下、遺伝子の転写産物の測定方法について具体的に説明をする。なお、遺伝子の転写産物の測定方法は公知である。以下では、特開2016−13081号公報の遺伝子の転写産物又は翻訳産物の測定方法に関する記載を参照または引用して記載する。なお、以下では代表的な遺伝子の転写産物又は翻訳産物の測定方法を説明するが、これらの方法に限定されず、公知の測定方法を用いることができる。
鑑別遺伝子の転写産物の測定は、mRNA量の測定であっても、またmRNAから逆転写されて得られたcDNA量の測定であってもよい。一般に遺伝子の転写産物の測定には、上記の遺伝子の塩基配列の全部又は一部を含むヌクレオチドをプライマー又はプローブに用いて、遺伝子の発現レベルを絶対値又は相対値として測定する方法が採用される。
本態様のプライマー又はプローブは、通常、DNA、RNA等の天然核酸で構成される。安定性が高く、合成が容易で低廉なDNAは特に好ましい。また、必要に応じて天然核酸と化学修飾核酸や擬似核酸を組み合わせることもできる。化学修飾核酸や擬似核酸には、例えば、PNA(Peptide Nucleic Acid)、LNA(Locked Nucleic Acid;登録商標)、メチルホスホネート型DNA、ホスホロチオエート型DNA、2'-O-メチル型RNA等が挙げられる。また、プライマー及びプローブは、蛍光物質及び/又はクエンチャー物質、又は放射性同位元素(例えば、32P、33P、35S)等の標識物質、あるいはビオチン若しくは(ストレプト)アビジン、又は磁気ビーズ等の修飾物質を用いて標識又は修飾してもよい。標識物質は、限定されず、市販のものを用いることができる。例えば、蛍光物質であればFITC、Texas、Cy3、Cy5、Cy7、Cyanine3、Cyanine5、Cyanine7、FAM、HEX、VIC、フルオレサミン及びその誘導体、及びローダミン及びその誘導体等を用いることができる。クエンチャー物質であれば、AMRA、DABCYL、BHQ-1、BHQ-2、又はBHQ-3等を用いることができる。プライマー及びプローブにおける標識物質の標識位置は、その修飾物質の特性や、使用目的に応じて適宜定めればよい。一般的には、5’又は3’末端部に修飾されることが多い。また、一つのプライマー及びプローブ分子が一以上の標識物質で標識されていても構わない。これらの物質のヌクレオチドへの標識は公知の方法で行うことができる。
プライマー又はプローブとして用いるヌクレオチドは、上記鑑別マーカーを構成する各遺伝子のセンス鎖、又はアンチセンス鎖からなるヌクレオチドのいずれであってもよい。
プライマー又はプローブの塩基長は特に限定しない。プローブの場合、後述するハイブリダイゼーション法に使用するのであれば、少なくとも10塩基長以上から遺伝子全長、好ましくは15塩基長以上から遺伝子全長、より好ましくは30塩基長以上から遺伝子全長、さらに好ましくは50塩基長以上から遺伝子全長であり、マイクロアレイに使用するのであれば、10〜200塩基長、好ましくは20〜150塩基長、より好ましくは30〜100塩基長である。一般にプローブは長いほどハイブリダイゼーション効率が上昇し、感度は高くなる。一方、プローブは短いほど感度は低くなるが、逆に特異性が上昇する。プローブの具体的な例として、表2のBにおいて配列番号30〜58で示す塩基配列からなる80塩基のヌクレオチドが挙げられる。一方、プライマーの場合、フォワードプライマー及びリバースプライマーのそれぞれが10〜50bp、好ましくは15〜30bpあればよい。
上記したプライマー又はプローブの調製は当業者に既知であり、例えば、前述のGreen & Sambrook, Molecular Cloning(2012)に記載された方法に準じて調製することができる。また、核酸合成受託メーカーに配列情報を提供し、委託製造することも可能である。
鑑別遺伝子の転写産物の測定は、公知の核酸検出・定量方法であればよく、特に限定はしない。例えば、ハイブリダイゼーション法、又は核酸増幅法が挙げられる。
「ハイブリダイゼーション法」とは、検出すべき標的核酸の塩基配列の全部又は一部に相補的な塩基配列を有する核酸断片をプローブとして用い、その核酸と該プローブ間の塩基対合を利用して、標的核酸若しくはその断片を検出、定量する方法である。本態様で標的核酸は、鑑別マーカーを構成する各遺伝子のmRNA若しくはcDNA、又はその断片が該当する。一般にハイブリダイゼーション法は、非特異的にハイブリダイズする目的外の核酸を排除するためストリンジェントな条件で行うことが好ましい。前述の低塩濃度かつ高温下の高ストリンジェントな条件はより好ましい。ハイブリダイゼーション法には、検出手段の異なるいくつかの方法が知られているが、例えば、ノザンブロット法(ノザンハイブリダイゼーション法)、マイクロアレイ法、表面プラズモン共鳴法又は水晶振動子マイクロバランス法が好適である。
「ノザンブロット法」は、遺伝子の発現を解析する最も一般的な方法で、試料より調製した全RNA又はmRNAを変性条件下でアガロースゲル若しくはポリアクリルアミドゲル等による電気泳動によって分離し、フィルターに転写(ブロッティング)した後に、標的RNAに特異的な塩基配列を有するプローブを用いて、標的核酸を検出する方法である。プローブを蛍光色素や放射性同位元素のような適当なマーカーで標識することで、例えば、ケミルミ(化学発光)撮影解析装置(例えば、ライトキャプチャー;アトー社)、シンチレーションカウンター、イメージングアナライザー(例えば、FUJIFILM社:BASシリーズ)等の測定装置を用いて標的核酸を定量することも可能である。ノザンブロット法は、当該分野において周知著名な技術であり、例えば、前述のGreen, M.R. and Sambrook, J.(2012)を参照すればよい。
「マイクロアレイ法」は、基板上に標的核酸の塩基配列の全部若しくは一部に相補的な核酸断片をプローブとして小スポット状に高密度で配置、固相化したマイクロアレイ又はマイクロチップに標的核酸を含む試料を反応させて、基盤スポットにハイブリダイズした核酸を蛍光等によって検出する方法である。標的核酸は、mRNAのようなRNA、又はcDNAのようなDNAのいずれであってもよい。検出、定量には、標的核酸等のハイブリダイゼーションに基づく蛍光等をマイクロプレートリーダーやスキャナにより検出、測定することによって達成できる。測定した蛍光強度により、mRNA量若しくはcDNA量又はレファレンスmRNA(参照mRNA)に対するそれらの存在比を決定することができる。マイクロアレイ法も当該分野において周知の技術である。例えば、DNAマイクロアレイ法(DNAマイクロアレイと最新PCR法(2000年)村松正明、那波宏之監修、秀潤社)等を参照すればよい。
「表面プラズモン共鳴(SPR:Surface Plasmon Resonance)法」とは、金属薄膜へ照射したレーザー光の入射角度を変化させると特定の入射角度(共鳴角)において反射光強度が著しく減衰するという表面プラズモン共鳴現象を利用して、金属薄膜表面上の吸着物を極めて高感度に検出、定量する方法である。本発明においては、例えば、金属薄膜表面に標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブを固定化し、その他の金属薄膜表面部分をブロッキング処理した後、被験体又は健常体若しくは健常体群から採取された試料を金属薄膜表面に流通させることによって標的核酸とプローブの塩基対合を形成させて、サンプル流通前後の測定値の差異から標的核酸を検出、定量することができる。表面プラズモン共鳴法による検出、定量は、例えば、Biacore社で市販されるSPRセンサを利用して行なうことができる。本技術は、当該分野において周知である。例えば、永田和弘、及び半田宏, 生体物質相互作用のリアルタイム解析実験法, シュプリンガー・フェアラーク東京, 東京, 2000を参照すればよい。
「水晶振動子マイクロバランス(QCM: Quarts Crystal Microbalance)法」とは、水晶振動子に取り付けた電極表面に物質が吸着するとその質量に応じて水晶振動子の共振周波数が減少する現象を利用して、共振周波数の変化量によって極微量な吸着物を定量的に捕らえる質量測定法である。本方法による検出、定量も、SPR法と同様に市販のQCMセンサを利用して、例えば、電極表面に固定した標的核酸の塩基配列に相補的な配列を有するプローブと被験体又は健常体若しくは健常体群から採取された試料中の標的核酸との塩基対合によって標的核酸を検出、定量することができる。本技術は、当該分野において周知であり、例えば、Christopher J. et al., 2005, Self-Assembled Monolayers of a Form of Nanotechnology, Chemical Review,105:1103-1169や森泉豊榮,中本高道,(1997) センサ工学,昭晃堂を参照すればよい。
「核酸増幅法」とは、フォワード/リバースプライマーを用いて、標的核酸の特定の領域を核酸ポリメラーゼによって増幅させる方法をいう。例えば、PCR法(RT-PCR法を含む)、NASBA法、ICAN法、LAMP(登録商標)法(RT-LAMP法を含む)が挙げられる。好ましくはPCR法である。核酸増幅法を用いた遺伝子の転写産物の測定方法には、リアルタイムRT-PCR法のような定量的核酸増幅法が使用される。リアルタイムRT-PCR法には、さらに、SYBR(登録商標)Green等を用いるインターカレーター法、Taqman(登録商標)プローブ法、デジタルPCR法、及びサイクリングプローブ法が知られているが、いずれの方法であってもよい。これらはいずれも公知の方法であり、当該技術分野における適当なプロトコルにも記載されているので、それらを参照すればよい。
リアルタイムRT-PCR法で遺伝子の転写産物を定量する方法について、以下で一例を挙げて簡単に説明をする。リアルタイムRT-PCR法は、試料中のmRNAから逆転写反応によって調製されたcDNAを鋳型として、PCRの増幅産物が特異的に蛍光標識される反応系で、増幅産物に由来する蛍光強度を検出する機能の備わった温度サイクラー装置を用いてPCRを行う核酸定量方法である。反応中の標的核酸の増幅産物量をリアルタイムでモニタリングして、その結果をコンピュータで回帰分析する。増幅産物を標識する方法としては、蛍光標識したプローブを用いる方法(例えば、TaqMan(登録商標)PCR法)と、2本鎖DNAに特異的に結合する試薬を用いるインターカレーター方法とがある。TaqMan(登録商標)PCR法は、5’末端部がクエンチャー物質で、また3’末端部が蛍光色素で修飾されたプローブを用いる。通常は、5’末端部のクエンチャー物質が3’末端部の蛍光色素を抑制しているが、PCRが行われるとTaqポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により当該プローブが分解され、それによってクエンチャー物質の抑制が解除されるため蛍光を発するようになる。その蛍光量は、増幅産物の量を反映する。増幅産物が検出限界に到達するときのサイクル数(CT)と初期鋳型量とは逆相関の関係にあることから、リアルタイム測定法ではCTを測定することによって初期鋳型量を定量している。数段階の既知量の鋳型を用いてCTを測定し、検量線を作製すれば、未知試料の初期鋳型量の絶対値を算出することができる。RT-PCRで使用する逆転写酵素は、例えば、M-MLV RTase、ExScript RTase(TaKaRa社)、Super Script II RT(Thermo Fisher Scientific社)等を使用することができる。
リアルタイムPCRの反応条件は、一般に、公知のPCR法を基礎として、増幅する核酸断片の塩基長及び鋳型用核酸の量、並びに使用するプライマーの塩基長及びTm値、使用する核酸ポリメラーゼの至適反応温度及び至適pH等により変動するため、これらの条件に応じて適宜定めればよい。一例として、通常、変性反応を94〜95℃で5秒〜5分間、アニーリング反応を50〜70℃で10秒〜1分間、伸長反応を68〜72℃で30秒〜3分間行い、これを1サイクルとして15〜40サイクルほど繰り返して伸長反応を行うことができる。前記メーカー市販のキットを使用する場合には、原則としてキットに添付のプロトコルに従って行えばよい。
リアルタイムPCRで用いられる核酸ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼ、特に熱耐性DNAポリメラーゼである。このような核酸ポリメラーゼは、様々な種類のものが市販されており、それらを利用することもできる。例えば、前記Applied Biosystems TaqMan MicroRNA Assays Kit(Thermo Fisher Scientific社)に添付のTaq DNAポリメラーゼが挙げられる。特にこのような市販のキットには、添付のDNAポリメラーゼの活性に最適化されたバッファ等が添付されているので有用である。
2−3.鑑別方法
本発明の鑑別方法は、上記のようにして測定した鑑別マーカーの発現プロファイルをもとに、被験試料が漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれに属するものであるのかを鑑別する。鑑別マーカーは、漿液性腺癌または明細胞腺癌との間で発現レベルに有意な差がある遺伝子であり、それらを組み合わせた遺伝子セットの発現プロファイルについて漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料と比較することで、被験試料がどちらの組織型の卵巣癌であるのかを鑑別することが可能となる。
すなわち、本発明の鑑別方法は、被験試料の鑑別遺伝子群より選択される遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルと、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルとを比較することにより、被検試料の組織型を鑑別する。
被験試料に対して比較対象となる漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料の遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現プロファイルは、予め測定したものを用いてもよいし、または、新たに漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料について遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベルを測定したものを用いても良い。
よって、本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料において、遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現レベルを測定する工程をさらに含む。この工程により得られた発現プロファイルと被験試料の発現プロファイルとを比較することができる。漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料は、それぞれ一つずつの試料でもよいし、二つ以上の試料を用いてもよい。試料の数が多いほど、試料ごとの個体差を平均化でき、鑑別の精度が高まるので好ましい。
本発明の一実施の形態においては、被験試料の遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルと、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルとを比較した際に、被検試料が、比較した組織型卵巣癌の遺伝子の発現プロファイルと同等の遺伝子の発現プロファイルを有する場合に比較した組織型の卵巣癌であると鑑別するか、または、比較した組織型卵巣癌の遺伝子の発現プロファイルと異なる遺伝子の発現プロファイルを有する場合に比較した組織型の卵巣癌ではないと鑑別することができる。
例えば、被験試料と漿液性腺癌患者由来試料とにおける発現プロファイルを比較した際、互いに同等の遺伝子の発現プロファイルを有していると判断された場合には、被験試料は、漿液性腺癌であると鑑別することができる。また、被験試料と明細胞腺癌患者由来試料とにおける発現プロファイルを比較した際、互いに同等の遺伝子の発現プロファイルを有していると判断された場合には、被験試料は、明細胞腺癌であると鑑別することができる。一方で、被験試料と漿液性腺癌患者由来試料とにおける発現プロファイルを比較した際、互いに異なる遺伝子の発現プロファイルを有していると判断された場合には、被験試料は、漿液性腺癌ではないと鑑別することができる。また、被験試料と明細胞腺癌患者由来試料とにおける発現プロファイルを比較した際、互いに異なる遺伝子の発現プロファイルを有していると判断された場合には、被験試料は、明細胞腺癌ではないと鑑別することができる。
ここで、「同等の遺伝子の発現プロファイルを有する」とは、遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現プロファイルが類似していることをいう。また、「異なる遺伝子の発現プロファイルを有する」とは、遺伝子セットに含まれる各遺伝子の発現プロファイルが類似していないことをいう。
遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルが同等であるか異なっているかについて鑑別する具体的な手法は、公知の方法を採用することができる。以下に限定されないが、例えば、(i)階層的クラスタリング分析に基づいて被験試料を漿液性腺癌または明細胞腺癌へ分類する方法、(ii)遺伝子の発現レベルの比較により評価する方法、(iii)閾値の設定により被験試料が漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれに属するか鑑別する方法などを挙げることができる。
(i)階層的クラスタリング分析
本発明の鑑別方法は、一実施の形態において、被験試料の遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルをクラスタ分析することにより被検試料の組織型を鑑別することができる。
より具体的には、被験試料において測定した遺伝子セットの発現プロファイルは、漿液性腺癌患者および明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットの発現プロファイルと比較して階層的クラスタ分析を行うことができる。階層的クラスタリング分析により被験試料の組織型を鑑別する際には、被験試料における遺伝子セットの発現プロファイルに加えて、漿液性腺癌患者および明細胞腺癌患者由来の試料における遺伝子セットの発現プロファイルが必要となる。階層的クラスタ分析の手法は公知であり、本発明における好ましい実施形態においては、ユークリッド距離による群平均法によるクラスタ分析である。クラスタ分析には公知のソフトウェアを用いることができ、以下に限定されないが、例えば、市販のソフトウェアとしてExpressionView Pro software(MicroDiagnostic)を用いることができる。
階層的クラスタ分析を行うことで、被験試料と、漿液性腺癌患者由来の試料と、明細胞腺癌患者由来の試料とからなる階層構造(樹形図)を描くことができ、漿液性腺癌のクラスタと、明細胞腺癌患の2つのクラスタに大きく分けることができる。これにより、被験試料がいずれの組織型のクラスタに分類されるのか確認することができ、いずれの組織型である可能性が高いかを鑑別することが可能となる。
(ii)遺伝子の発現レベルの比較により評価する方法
また、一実施の形態においては、被検試料における遺伝子セットに含まれる各遺伝子の組み合わせの遺伝子の発現レベルの合計値と、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における当該遺伝子の発現レベルの合計値とを比較することにより、被験試料の組織型を評価することができる。
以下に限定されないが、一形態を挙げて説明すると、漿液性腺癌患者群および明細胞腺癌患者群における遺伝子の発現レベルの合計値を群散布図として作図して、被験試料における遺伝子セットの遺伝子の発現レベルの合計値がどこにプロットされるかを確認する。プロットされた位置により、被験試料がいずれの組織型卵巣癌に属する可能性が高いか評価することができる。
なお、遺伝子の発現レベルの合計値を鑑別に用いる際、LRIG-1、LYPD1、CRIP1、UQCRH、IGF2の5遺伝子については得られた発現レベルの値を反転して用いる。例えば、遺伝子の発現レベルについてマイクロアレイ等の方法により得られた各遺伝子の発現量の合計値を利用する際には、LRIG-1、LYPD1、CRIP1、UQCRH、IGF2の5遺伝子の発現量(例えば、共通リファレンスに対するLog2比)に対して−1を乗じて反転した値を求め、反転した値と他の遺伝子の発現量との合計値を算出する。
(iii)閾値の設定により鑑別する方法
また、一実施の形態においては、被検試料における遺伝子セットの発現プロファイルを、所定の閾値と比較することにより組織型を鑑別することができる。
ここで、「所定の閾値」とは、漿液性腺癌患者群および明細胞腺癌患者群由来の試料における鑑別マーカーの発現プロファイルに基づく所定のカットオフ値をいう。カットオフ値の設定は、例えば、以下のようにして設定することができるが、これに限定されない。すなわち、漿液性腺癌患者群および明細胞腺癌患者群由来の試料について鑑別マーカーの遺伝子の発現レベルを測定し、各試料について遺伝子の発現レベルの合計値を算出する。そして、漿液性腺癌患者群または明細胞腺癌患者群由来の試料における遺伝子の発現レベルの合計値からROC曲線を作成することにより所定のカットオフ値を導くことができる。カットオフ値を設定することにより、当該カットオフ値を超えるか否かで、いずれの組織型卵巣癌である可能性が高いか鑑別することができる。
「ROC曲線(Receiver Operating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)」は、縦軸を真陽性率(TPF: True Positive Fraction)、すなわち感度、横軸を偽陽性率(FPF: False Positive Fraction)、すなわち(1−特異度)とし、検査結果のどの値を所見ありと判断するかの閾値、つまりカットオフポイント(cutoff point)を媒介変数として変化させてプロットしていくことで作成される。特異度とは、陰性者を正確に陰性と判断する率である。
作成したROC曲線からカットオフ値を設定する方法は、基本的に感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ように設定することができる。そのためには、カットオフ値がROC曲線上で点(0,1)に最も近い点を与える値に設定すればよい。最も好ましい実施の形態においては、漿液性腺癌患者群由来の試料と明細胞腺癌患者群由来の試料とを明確に鑑別可能なカットオフ値とすることである。
上記のように所定の閾値を設定した場合、当該閾値と被験者由来の試料における遺伝子セットの発現プロファイルとの比較は、当該閾値と被験試料における特定の鑑別マーカーの組み合わせについての遺伝子の発現レベルの合計値とを比較すればよい。
2−3.効果
本態様の鑑別方法によれば、生検や手術により摘出した検体を調べることで、その検体が漿液性腺癌か明細胞腺癌かを鑑別することができる。正診率の高い本態様の鑑別方法によって、いずれの組織型卵巣癌であるかの診断することが可能となり、再発リスクや治療法の判断を考慮し、対応できる利点がある。
また、従来、卵巣癌は、病理学的診断に基づいて組織型を判断されていたが、特に乳頭状に増殖した明細胞腺癌は漿液性腺癌と区別することが非常に困難であり、診断結果を判断する医師の差や病院間により異なる判断が生じていた。しかし、本態様の罹患鑑別方法によれば、漿液性腺癌であるか明細胞腺癌であるかの診断を補助するより正確な客観的なデータを提供することができる。
3.卵巣癌患者由来の被検試料において、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別するためのキット
3−1.概要
本発明の別の態様は、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別するための試薬(鑑別用試薬)である。本態様の鑑別用試薬は、例えば卵巣癌に罹患している被験者由来の試料に適用することで、その被験者の卵巣癌が漿液性腺癌であるか、明細胞腺癌であるかを鑑別することができる。
3−1−1.構成
本態様の鑑別用試薬は、鑑別マーカーを構成する鑑別遺伝子群の転写産物、すなわちmRNA又はcDNAを検出するためのプローブ又はプライマーセットを含む。これらの具体的な構成については、測定工程の欄に記載している。例えば、鑑別マーカーを構成する4種の鑑別遺伝子群の転写産物を検出する場合、鑑別用キットは、対応する遺伝子の転写産物を検出可能な4種のプローブ群を含むことができる。
本態様の鑑別用試薬が上記のようなプローブの場合、鑑別用試薬は、各プローブを基板上に固定したDNAマイクロアレイ又はDNAマイクロチップの状態で提供することもできる。各プローブを固定する基板の素材は、限定はしないが、ガラス板、石英板、シリコンウェハー等が通常使用される。基板の大きさは、例えば、3.5mm×5.5mm、18mm×18mm、22mm×75mmなどが挙げられるが、これはプローブのスポット数やそのスポットの大きさなどに応じて様々に設定することができる。プローブは、1スポットあたり通常0.1μg〜0.5μgのヌクレオチドが用いられる。ヌクレオチドの固定化方法には、ヌクレオチドの荷電を利用してポリリジン、ポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアルキルアミン等のポリ陽イオンで表面処理した固相担体に静電結合させる方法や、アミノ基、アルデヒド基、エポキシ基などの官能基を導入した固相表面に、アミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチンなどの官能基を導入したヌクレオチドを共有結合により結合させる方法が挙げられる。
3−2.効果
本態様の鑑別用キットを用いて、卵巣癌罹患歴のある被験者に適用することで、当該卵巣癌が、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型に属する卵巣癌であるのかを客観的かつ正確に鑑別することができる。
本発明の検出キットは、鑑別マーカーの検出に必要な他の試薬、例えば、バッファや二次抗体、検出及び結果鑑別に用いる説明書を含んでいてもよい。
4.鑑別結果に基づいた治療方法
本発明は、別の態様として、上記に記載の鑑別方法により漿液性腺癌であるか、明細胞腺癌であるかを鑑別した被験者に対して、当該鑑別結果に基づいて抗癌剤を投与する治療方法を提供する。
すなわち、本発明の鑑別方法により、漿液性腺癌であると鑑別された被験者に対しては、漿液性腺癌に有効な抗癌剤を有効量投与する。一方で、本発明の鑑別方法により、明細胞腺癌であると鑑別された被験者に対しては、明細胞腺癌に有効な抗癌剤を有効量投与する。
漿液性腺癌や明細胞腺癌に有効な抗癌剤(例えば、パクリタキセル、シスプラチン、カルボプラチン、ドセタキセル)やその組み合わせ、投与方法、投与量等は公知であり、当業者であれば適宜、組織型に対応した化学療法を実施することができる。
(実施例1.RNA 調製)
卵巣癌患者のうち漿液性腺癌(39検体)、または、明細胞腺癌(18検体)に罹患する患者より、卵巣癌の一部を外科的に採取した。採取した手術検体は凍結用保存チューブに入れ、液体窒素で凍結させた。凍結検体は、ISOGEN(Nippon Gene Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いてtotal RNAを抽出した。125μg以上のtotal RNAを取得できたサンプルは引き続き、MicroPoly(A)purist Kit(Ambion, Austin, TX, USA)を用いてpoly(A)+RNAを精製した。
ヒト共通リファレンスRNAは、22種類のヒト癌細胞株(A431、A549、AKI、HBL-100、HeLa、HepG2、HL60、IMR-32、Jurkat、K562、KP4、MKN7、NK-92、Raji、RD、Saos-2、SK-N-MC、SW-13、T24、U251、U937およびY79)から抽出したtotal RNAまたは精製したpoly(A)+RNAを等量混合したものを使用した。total RNAを等量混合したもの、または、精製したpoly(A)+RNAを等量混合したもののいずれを共通リファレンスとして用いるかは、解析対象のサンプルの調製方法と一致させた。
(実施例2.網羅的遺伝子発現解析)
poly(A)+RNAを用いた遺伝子発現プロファイル取得(「システム1」と名付ける)に使用するDNAマイクロアレイは、ヒト由来の転写産物に対応する31,797種類の合成DNA(80 mers)(MicroDiagnostic, Tokyo, Japan)をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。一方、total RNAを用いた遺伝子発現プロファイル取得(「システム2」と名付ける)のためのDNAマイクロアレイは、ヒト由来の転写産物に対応する14,400種類の合成DNA(80 mers)(MicroDiagnostic)をカスタムアレイヤーでスライドガラス上にアレイ化したものを用いた。
検体由来のRNAは、システム1の場合は2μgのpoly(A)+RNAから、システム2の場合は5 μgのtotal RNAからSuperScript II(Invitrogen Life Technologies, Carlsbad, CA, USA)およびCyanine 5-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。同様に、ヒト共通リファレンスRNAは、2μgのpoly(A)+RNAまたは5μgのtotal RNAからSupreScript IIおよびCyanine 3-dUTP(Perkin-Elmer Inc.)を用いて標識cDNAを合成した。
マイクロアレイとのハイブリダイゼーションは、Labeling and Hybridization kit(MicroDiagonostic)を用いて行なった。
マイクロアレイとのハイブリダイゼーション後の蛍光強度は、GenePix 4000B Scanner(Axon Instruments, Inc., Union city, CA, USA)を用いて測定した。また、検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度をヒト共通リファレンス由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度で徐することにより発現比(検体由来Cyanine-5標識cDNAの蛍光強度/ヒト共通リファレンス由来Cyanine-3標識cDNAの蛍光強度)を算出した。さらに、GenePix Pro 3.0 software(Axon Instruments, Inc.,)を用いて、算出した発現比にノーマライゼーションファクターを乗じてノーマライズを行なった。次に発現比をLog2に変換し、変換した値をLog2比(Log2 ratio)と名付けた。なお、発現比の変換はExcel software(Microsoft, Bellevue, WA, USA)およびMDI gene expression analysis software package(MicroDiagnostic)を用いて行なった。
(実施例3.統計分析)
漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能なマーカー遺伝子候補を絞り込むため、漿液性腺癌由来の検体と明細胞腺癌由来の検体とにおけるLog2比のデータを用いて次のi)〜iii)の順にデータ処理を行なった。
i) 漿液性腺癌39検体および明細胞腺癌18検体のうち1検体以上で蛍光強度が検出限界以下の遺伝子を除いた
ii) スチューデントのt検定(両側検定)によって漿液性腺癌群と明細胞腺癌群の統計的な差を検定し、有意と判断したp<1.0×10-5に該当する遺伝子を抽出した
iii) 遺伝子ごとに、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群におけるLog2比の平均値を算出した。漿液性腺癌群と明細胞腺癌群との平均値の差の絶対値が、2.0以上の29遺伝子を鑑別マーカー遺伝子候補として抽出した。全検体を用いて、抽出した29遺伝子の発現レベルを測定し、クラスタ分析を行なった。なお、全検体における29遺伝子の発現レベルの結果を表4〜9に示す。また、クラスタ分析はExpressionView Pro software(MicroDiagnostic)を用い、ユークリッド距離による群平均法にて行なった。クラスタ分析の結果を図1に記載する。図1に示すように、抽出した29遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成した。
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(実施例4.Construction of gene expression scoring system)
鑑別マーカー候補29遺伝子を利用した漿液性腺癌と明細胞腺癌とを区別するスコアリングシステムの構築を試みた。最初に、鑑別マーカー候補29遺伝子のうち、明細胞腺癌群でLog2比が低い5遺伝子(LRIG-1, LYPD1, CRIP1, UQCRH, IGF2)について、−1を乗じて+に反転した。数値を反転した5遺伝子と残りの24遺伝子のLog2比を総和して検体毎にスコアの合計値を算出した。左からスコア値の小さい順に並べ替えてスコアリングシステムとした(図2)。スコアリングシステムの診断精度を検証するために、ROC(Receiver Operating Characteristic curve)曲線を用いて、ROC曲線下面積(AUC:area under the curve)を求めた(図3)。また、感度・特異度曲線を作成し、至適カットオフ値を求めた(図3)。また、症例別に群散布図を作成した(図4)。ROC曲線、群散布図の作成はStatFlex ver.6.0 software(Artech Co., Ltd., Osaka, Japan)を用いて行ない、至適カットオフ値の設定は、感度と特異度の和が最大となる値とした(以下、至適カットオフ値の設定は同様とした)。その結果、群散布図において、漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が1.9487となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が74.9497となり、互いの群は、P=2.1488×10-10で有意差を有していた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、上記に列挙した鑑別マーカー候補遺伝子である29遺伝子の発現プロファイルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現プロファイルを測定・比較することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
また、ROC曲線において、AUCは0.9444となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は19.2648に定まり、このとき感度および特異度は89.7%となった(図3)。
(実施例5.遺伝子セットの検討1)
上記実施例において、鑑別マーカー候補29遺伝子は、漿液性腺癌と明細胞腺癌とで発現に有意な差を有する遺伝子群であることを見出した。よって、これらの遺伝子のいずれかを用いることで、漿液性腺癌と明細胞腺癌群とのどちらの組織型卵巣癌に属するかを鑑別することが可能である。そこで、少なくとも、いくつの遺伝子の組み合わせを用いれば漿液性腺癌と明細胞腺癌とを高い感度および特異度で区別可能であるのかについて検討した。
まず、鑑別マーカー候補29遺伝子について、遺伝子発現スコアを下記のようにして算出した。すなわち、上記実施例2で得られた各遺伝子のLog2比について、漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型サンプル群ごとに平均値を算出した。次に、算出した各遺伝子のLog2比の平均値について、漿液性腺癌群と明細胞腺癌群との間で差(絶対値)を求めた。この差(絶対値)を、各遺伝子の「遺伝子発現スコア」とした。各遺伝子の「遺伝子発現スコア」を下記表10に示す。
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次に、前記29遺伝子の中からより鑑別に有用かつばらつきの少ない遺伝子群を特定するために、漿液性腺癌群の標準偏差が1未満、かつ、明細胞腺癌群の標準偏差が1.5未満である遺伝子群(7遺伝子)を抽出した(表11)。図5に示すように、抽出した7遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成した。また、7遺伝子のスコア値を算出しスコア値の高い順に並び替えた(図6)。さらに、7遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図7)。Log2比の合計値を算出する際、LRIG-1、LYPD1、CRIP1、UQCRH、IGF2の5遺伝子のLog2比については−1を乗じて反転した値を求め、反転した値と他の遺伝子のLog2比との合計値を算出した(なお、以下の実施例においても同様に、Log2比の合計値を算出する際、LRIG-1、LYPD1、CRIP1、UQCRH、IGF2の5遺伝子のLog2比については−1を乗じて反転した値を用いた)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が−1.6402となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が13.6458となり、互いの群は、P=1.1607×10-10で有意差を有していた。また、ROC曲線において、AUCは0.9573となり、また、感度・特異度曲線において至適カットオフ値は3.5717に定まり、このとき感度および特異度は89.7%となった(図8)。
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次に、前記7遺伝子の中から遺伝子発現スコアの高かったものから遺伝子を複数個選択していき、実施例4で得られたデータに基づき、感度および特異度が89%以上となるカットオフ値を設定可能な最低個数の遺伝子の組み合わせを求めた。
その結果、前記7遺伝子の中から遺伝子発現スコアの高かった順に、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子の3つの遺伝子を選択することで、上記条件を満たすことを見出した。漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてGLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子の3つの遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図9)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣がんに属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が−1.9373となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が5.0687となり、互いの群は、P=4.129×10-10で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.9573となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は1.3432に定まり、このとき感度および特異度は89.7%となった(図10)。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例6.遺伝子セットAの検討2)
次に、実施例5と同様の高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについて検討した。
複数個の遺伝子の組み合わせの選択は、上記実施例5に記載する「遺伝子発現スコア」に基づいて行った。具体的には、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子の3つの遺伝子の「遺伝子発現スコア」の合計である7.006以上となる値を基準に、鑑別マーカー候補29遺伝子から複数個の遺伝子を選択した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子およびA4GALT遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は8.637832)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてLYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子およびA4GALT遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図11)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が-3.4530となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が5.1849となり、互いの群は、P=6.128×10-12で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.9501となり、また、感度・特異度曲線において至適カットオフ値は2.2401に定まり、このとき感度および特異度は94.4%となった(図12)。
また、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子およびA4GALT遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、LRIG1遺伝子およびA4GALT遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例7.遺伝子セットBの検討3)
また、高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについても検討した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、ANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子およびAPOL1遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は7.648277)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子およびAPOL1遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図13)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が0.9036となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が8.5519となり、互いの群は、P=2.685×10-10で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.9331となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は5.2992に定まり、このとき感度および特異度は88.9%となった(図14)。
また、ANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子およびAPOL1遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、ANXA4遺伝子、LAMB1遺伝子およびAPOL1遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例8.遺伝子セットCの検討4)
また、高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについても検討した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子およびTMEM101遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は9.911373)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてFXYD2遺伝子、GPX3遺伝子およびTMEM101遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図15)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が0.3106となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が10.2220となり、互いの群は、P=2.782×10-8で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.9331となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は3.6064に定まり、このとき感度および特異度は88.9%となった(図14)。
また、 FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子およびTMEM101遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子およびTMEM101遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例9.遺伝子セットDの検討5)
また、高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについても検討した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、DLX5遺伝子、UQCRH遺伝子およびARG2遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は7.541611)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてDLX5遺伝子、UQCRH遺伝子およびARG2遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図17)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が0.26930となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が7.8109となり、互いの群は、P=3.901×10-10で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.9388となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は4.0090に定まり、このとき感度および特異度は88.9%となった(図18)。
また、DLX5遺伝子、UQCRH遺伝子およびARG2遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、DLX5遺伝子、UQCRH遺伝子およびARG2遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例10.遺伝子セットEの検討6)
また、高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについても検討した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、FBLN1遺伝子、AOC1遺伝子およびTSPAN1遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は8.076977)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてFBLN1遺伝子、AOC1遺伝子およびTSPAN1遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図19)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が-1.8339となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が6.0301となり、互いの群は、P=3.829×10-7で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.88178となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は0.3689に定まり、このとき感度および特異度は82.1%となった(図20)。
また、FBLN1遺伝子、AOC1遺伝子およびTSPAN1遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、FBLN1遺伝子、AOC1遺伝子およびTSPAN1遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例11.遺伝子セットFの検討7)
また、高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能な他の遺伝子の組み合わせについても検討した。
遺伝子発現スコアの合計が7.006以上となるように、C12orf75遺伝子、DNER遺伝子およびRIMKLB遺伝子を選択し(遺伝子発現スコアの合計は8.127428)、これらの遺伝子発現の測定結果より、漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能
であるか検証した。
具体的には、漿液性腺癌群および明細胞腺癌群に属する各検体についてC12orf75遺伝子、DNER遺伝子およびRIMKLB遺伝子のLog2比の合計値を求め、その分布を群散布図として作図した(図21)。漿液性腺癌群または明細胞腺癌群のそれぞれの組織型卵巣癌に属する検体の合計値の平均を組織型ごとに求めたところ、漿液性腺癌は合計値の平均値が-1.3507となり、一方で明細胞腺癌の合計値の平均値が6.7768となり、互いの群は、P=1.245×10-8で有意差を有していた。
また、ROC曲線において、AUCは0.8803となり、また、感度・特異度曲線においては、至適カットオフ値は1.1226に定まり、このとき感度および特異度は88.9%となった(図22)。
また、C12orf75遺伝子、DNER遺伝子およびRIMKLB遺伝子の発現プロファイルに基づいて階層的クラスタ分析を行ったところ、漿液性腺癌群を主とするクラスタと明細胞腺癌群を主とするクラスタの2つのクラスタを形成し、29遺伝子(実施例3)や7遺伝子(実施例5)の発現プロファイルに基づく階層的クラスタ分析とほぼ同様の結果を得ることができた。
このように、漿液性腺癌と明細胞腺癌とでは、C12orf75遺伝子、DNER遺伝子およびRIMKLB遺伝子の発現レベルの合計値に有意な差を有しており、これらの遺伝子の組み合わせにおける発現レベルを測定することで、対象となる卵巣癌試料がいずれの組織型であるのか鑑別することができる。
(実施例12.追加検体を用いた追加試験)
上記の実施例1等で用いた検討とは別に、さらに検証用の漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体を用意し、これらの検体についても高い確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別可能か検証した。
具体的には、追加の検証用検体について上記実施例1および2に記載の方法と同様にしてRNA調製および網羅的遺伝子発現解析を行った。
追加検体について得られた鑑別マーカー29遺伝子に関するマイクロアレイデータを上記の実施例1等で用いた検体のマイクロアレイデータに加えてユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った。その結果を図23Aに示す。また、上記実施例4に記載のスコアリングシステムに基づいてマイクロアレイデータを並び替えたものを図23Bに示す。
図23AおよびBに示すように、追加の検証用検体については100%の確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別することができた。
(実施例13.追加検体を用いた追加試験2)
実施例12の追加の検証用検体(漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体)について、鑑別マーカー7遺伝子(PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、GDF15遺伝子)に関するマイクロアレイデータを上記の実施例1等で用いた検体のマイクロアレイデータに加えてユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った。その結果を図24Aに示す。また、スコアリングシステムに基づいてマイクロアレイデータを並び替えたものを図24Bに示す。
図24AおよびBに示すように、追加の検証用検体については100%の確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別することができた。
(実施例14.追加検体を用いた追加試験3)
実施例12の追加の検証用検体(漿液性腺癌19検体および明細胞腺癌7検体)について、鑑別マーカー3遺伝子(GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、GABARAPL1遺伝子)に関するマイクロアレイデータを上記の実施例1等で用いた検体のマイクロアレイデータに加えてユークリッド距離による群平均法のクラスタ分析を行った。その結果を図25Aに示す。また、スコアリングシステムに基づいてマイクロアレイデータを並び替えたものを図25Bに示す。
図25AおよびBに示すように、追加の検証用検体については100%の確度で漿液性腺癌と明細胞腺癌とを鑑別することができた。

Claims (11)

  1. 卵巣癌患者由来の被検試料において遺伝子の発現プロファイルを得て、当該発現プロファイルに基づいて漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型であるのかを鑑別を補助する方法であって、
    PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子を含む遺伝子セットにおける各遺伝子の発現レベルを測定する工程であって、
    前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値と同等または合計値以上となるように各遺伝子が選択されたものであり、かつ
    前記発現レベルの測定が前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子のmRNAの発現レベルの測定である工程
    を含み、
    前記遺伝子発現スコアが、漿液性腺癌患者由来の試料および明細胞腺癌患者由来の試料間における特定の遺伝子の発現レベルの差の大きさである、鑑別を補助する方法。
  2. 請求項1に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子発現スコアが測定した蛍光強度の数値のlog2値の合計であり、かつ、
    前記遺伝子セットに含まれる遺伝子の組み合わせが、下記表に記載される遺伝子発現スコアを参照して、合計が7.006と同等または7.006以上になるように少なくとも3つの遺伝子が選択されたものである、鑑別を補助する方法。
    Figure 0006977965
  3. 請求項1または2に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子セットに含まれる少なくとも一つの遺伝子が、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択される、鑑別を補助する方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子セットに含まれる遺伝子の全てが、PPP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、および、GDF15遺伝子からなる群より選択される、鑑別を補助する方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子セットがGLRX遺伝子、GDF15遺伝子およびGABARAPL1遺伝子を含む、鑑別を補助する方法。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルと、漿液性腺癌患者または明細胞腺癌患者由来の試料における対応する遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルとを比較する工程を含む、鑑別を補助する方法。
  7. 請求項1〜6のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
    前記遺伝子セットにおける各遺伝子の発現プロファイルをクラスタ分析する工程を含む、鑑別を補助する方法。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の鑑別を補助する方法であって、
    被検試料における前記遺伝子セットの各遺伝子の定量的な発現プロファイルを、所定の閾値と比較する工程を含む、鑑別を補助する方法。
  9. 卵巣癌患者由来の被検試料において、漿液性腺癌または明細胞腺癌のいずれの組織型で
    あるのかを鑑別するためのキットであって、
    前記キットは、PP1R3B遺伝子、TOB1遺伝子、RBPMS遺伝子、A4GALT遺伝子、RIMKLB遺伝子、GABARAPL1遺伝子、GLRX遺伝子、GSTM3遺伝子、LAMB1遺伝子、DNER遺伝子、ARG2遺伝子、TMEM101遺伝子、GDF15遺伝子、C12orf75遺伝子、DLX5遺伝子、AOC1遺伝子、ANXA4遺伝子、FBLN1遺伝子、TSPAN1遺伝子、APOL1遺伝子、FXYD2遺伝子、GPX3遺伝子、DEFB1遺伝子、FLJ43606遺伝子、LRIG1遺伝子、LYPD1遺伝子、CRIP1遺伝子、UQCRH遺伝子、および、IGF2遺伝子からなる群より選択される少なくとも3つの遺伝子を含む遺伝子セットにおける各遺伝子のmRNAの発現レベルを測定する手段を含み、
    前記遺伝子セットに含まれる各遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値が、GLRX遺伝子、GDF15遺伝子、および、GABARAPL1遺伝子の遺伝子発現スコアの合計値以上となるように各遺伝子が選択されたものである、キット。
  10. 請求項9に記載のキットであって、
    前記各遺伝子の発現レベルを測定する手段が、各遺伝子に対するプライマー、プローブ、または、それらの標識物からなる群より選択される少なくとも一つの手段である、キット。
  11. 請求項10に記載のキットであって、
    PCR用、マイクロアレイ用、または、RNAシークエンス用である、キット。
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