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JP6709913B2 - カーボンナノチューブ製造用触媒担持体の製造方法、およびカーボンナノチューブの製造方法 - Google Patents

カーボンナノチューブ製造用触媒担持体の製造方法、およびカーボンナノチューブの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、極めて大きな長さを有する単層カーボンナノチューブ(以下、CNTと記す)を高効率かつ高純度で製造するための触媒担持体、成長基材、およびこの基材を用いてCNTを成長させる方法に関する。
CNTは、sp2炭素原子だけで構成される円筒状の主骨格を有する物質であり、優れた機械特性、熱・電気伝導性、分子貯蔵能、金属触媒担持能等を有することから、樹脂やセラミックス、金属との複合材料、電池電極材料等への展開が期待されている。特に長さが100μm、好ましくは1mmを超える長尺なCNTは、会合しやすいために複合材料中で互いにコンタクトを取りやすい。このような特性に起因し、長尺なCNTは混合される材料に対して高い熱・電気伝導性の付与が可能であり、また高い機械強度を有する複合材料を提供することができる。
高純度のCNTを製造する方法として、化学気相成長(CVD)法において、炭素原料ガスとともに触媒賦活物質をCNT成長基材に担持された触媒に接触させる技術が知られている(非特許文献1から6)。ここで触媒は、FeやCo、Ni等のCNTの成長に活性を示す金属(以下活性金属と記す)を含む微粒子であり、CNT成長基材は触媒が互いに近接して触媒担持体に担持された構造をとる。この製造方法では、触媒担持体に酸化アルミニウムを用いることによって、CNTが基材の表面に対して垂直方向に成長し、CNTの垂直配向体を形成することができる。
基材上に成長したCNTを複合材料等へ利用するためには、基材から剥離する必要がある。通常、基材上に成長したCNTの垂直配向体を基材から分離する際には、根元から物理的にはがし取るという方法が採用される。この方法では、基材からCNTをはがし取るための機械が必要になるだけでなく、合成条件によってはCNTと基材とが強く固着されるために、全てのCNTを回収することができないことがある。一方、CNTの基材からの剥離方法としては他に、CNTが接する触媒担持体を溶解することによって、CNTを基材から分離する方法が知られている。(例えば、非特許文献2)。
ケンジ ハタ等、「サイエンス」、2004年、306巻、p.1362−1364 カロマー、J.−F.等、「ケミカル フィジックス レター」、2000年、317巻、p.83−89 グアン ヨン シオン等、「カーボン」、2005年、44巻、p.969−973 カリー ピント等、「ジャーナル オブ ナノサイエンス アンド ナノテクノロジー」、2008年、8巻、p.6158−6164 タエ ジャエ リー等、「ジャーナル オブ コーリアン フィジカル ソサエティー」、2008年、53巻、p.3236−3240 プラシダス B. アママ等、「カーボン」、2012年、50巻、p.2396−2406
本発明の目的は、垂直に配向した長さ1mm以上の単層CNTを成長させるための触媒担持体を提供し、さらに垂直方向に1mm以上成長させたCNTを酸性あるいは塩基性水溶液に浸してCNTを触媒担持体から剥離することができる触媒担持体を提供することである。さらに触媒担持体を備えるCNT成長基材、さらに触媒担持体を備えるCNT成長基材を用いて1mmを超える極めて長い垂直方向に配向した単層CNTを短時間で合成することが可能となるCNT成長方法を提供することである。
このような課題を解決するために本発明では、以下の手段を提供することとした。
[1] 酸化マグネシウムを含む触媒担持体であり、前記酸化マグネシウムの平均結晶子径Dは13nmよりも大きく100nmよりも小さく、ここで前記平均結晶子径Dは、前記触媒担持体のX線回折パターンに以下の数1を適用することによって算出され、
K、λ、B、θはそれぞれ、X線回折スペクトルにおけるシェラー定数、入射光の波長、回折線幅、ブラッグ角であり、前記シェラー定数は0.94である触媒担持体。
[2] 前記触媒担持体が基材上に設けられていることを特徴とする[1]に記載の触媒担持体
[3] 前記触媒担持体上に、活性金属を含む触媒を有することを特徴とする、[1]に記載の触媒担持体。
[4] 前記触媒は前記触媒担持体の表面から深さ7nmよりも浅い領域を備え、かつ前記領域は酸化数が0の前記活性金属を含み、前記深さおよび前記活性金属の酸化数は、前記カーボンナノチューブ成長基材を不活性ガスで満たされた750℃の加熱炉に導入して5分間保持した後、加熱炉から取り出し室温に冷却し、X線光電子分光法を用いて前記活性金属の深さ方向の分布と酸化状態を評価することで見積もられる、[3]に記載の触媒担持体。
[5] [1]に記載の触媒担持体上に触媒を備えるCNT成長基材。
[6] 酸化マグネシウムを備える触媒担持体を形成する工程と、前記触媒担持体を750℃以上1650℃以下の温度範囲でアニーリングを行う工程と、前記触媒担持体上に触媒を設ける工程と、前記触媒上にカーボンナノチューブを成長させる工程とを備えるカーボンナノチューブの製造方法。
垂直に配向した長さ1mm以上の単層CNTを成長させることができ、さらに垂直方向に1mm以上成長させたCNTを酸性あるいは塩基性水溶液に浸すことにより触媒担持体から剥離することができる。
(A)本発明の実施形態の一つである、触媒担持体の模式図、(B)本発明の実施形態の一つである、基材上に設けられた触媒担持体の模式図、(C)CNTの垂直配向体が形成された触媒担持体の模式図。 活性金属の失活を説明する模式図。 活性金属の触媒担持体内部への拡散を説明する模式図。 本発明の実施形態の一つである、CNTを成長させるための基材の作製方法を説明する断面模式図。 本発明の実施形態の一つである、CNTを成長させるための基材の作製方法を説明する断面模式図。 本発明の実施例、および比較例の基材を用いて合成したCNT垂直配向体の走査型電子顕微鏡像。 本発明の実施例、および比較例の基材を用いて合成したCNTの透過型電子顕微鏡像。 本発明の実施例、および比較例の基板上に形成された触媒担持体の微小角入射X線回折スペクトル、および各深さにおける触媒担持体のXPSスペクトル。
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
以下の実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
(第1実施形態)
図1(A)は触媒担持体の概略図、さらに、触媒担持体の上に触媒が担持された概略図を示す。図1(A)に示すように触媒担持体104の表面には、CNTを成長させるための触媒106が設けられる。触媒106はFe、Co、Niなどの金属を一種、あるいは複数種含むことができる。触媒担持体104の上に触媒106が担持された基材をCNT成長基材100とする。触媒担持体104には、酸化マグネシウム以外の酸化物が含まれていてもよいが、水溶液に浸漬させたときに成長したCNTを触媒担持体から剥離しやすくする観点から、触媒担持体における酸化マグネシウムの含有率は好ましくは50wt%以上、より好ましくは75wt%、より好ましくは85wt%以上、より好ましくは90wt%、より好ましくは95wt%以上であることが好ましい。触媒担持体104は特定な形状に限定されず、板状や球状であっても良い。
ここで触媒担持体104は酸化マネシウムの多結晶体を備える。この多結晶体は、X線回折パターンに対して以下に示すシェラー式(式1)を適用して算出した平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmより小さい、13nmよりも大きく50nmより小さい、あるいは20nmよりも大きく50nmより小さい結晶子を備える。
ここで、K、λ、B、θはそれぞれ、X線回折スペクトルにおけるシェラー定数、入射光の波長、回折線幅、ブラック角であり、シェラー定数にはK=0.94が適用される。また、平均結晶子径Dとは、X線回折パターンに現れる酸化マグネシウムの(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面由来の各回折ピークにシェラー式を適用して算出した結晶子径の平均である。
本実施形態では、酸化マグネシウムを含む触媒担持体104の平均結晶子径Dは13nmよりも大きく100nmより小さい範囲を備える。これにより、下記に述べる複合酸化物を含む層114の形成の抑制が可能となり、かつ、下記に述べるオストワルド熟成の抑制が可能となる。
平均結晶子径Dが13nmより小さい場合、触媒担持体104における結晶粒界が多いために、結晶粒界を経由した活性金属の触媒担持体104内部への拡散が起こりやすい。その結果、図2(A)に示すように、触媒106の粒子を構成する活性金属が触媒担持体104を構成する酸化マグネシウムと反応し、マグネシウムとの複合酸化物を含む層114が形成される。例えば触媒106中の活性金属がFeの場合には、以下の式(2)、(3)で示す反応が生じ、Feが+2価で存在するFexMg1-xOやFeが+3価で存在するMgFe24といった複合酸化物を含む層114を形成するため、短時間で触媒活性が失われる。その結果、CNTが成長しにくい。
層114ができていることを確かめるためには、“活性金属の拡散試験”と名付ける以下に定義した試験が有効である。
“活性金属の拡散試験”は以下の方法で行われる。触媒106が担持された触媒担持体104(すなわちCNT成長基材100)をヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで満たされた750℃の加熱炉に導入して5分間保持した後、加熱炉から取り出し室温に冷却する。この試料における活性金属の深さ方向の分布と酸化状態をX線光電子分光法(XPS)による深さ方向分析で評価する。
平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmよりも小さい場合、触媒担持体104における結晶粒界が少ないために、結晶粒界を経由した活性金属の触媒担持体104内部への拡散が起こりにくい。そのため、図3で示すように、活性金属が触媒担持体104内部へ拡散する領域116の最深部が触媒担持体104の表面(上面)から7nmに存在し、7nmより深い領域には存在しない、あるいはXPSで活性金属由来のピークが検出されない。さらに、この領域116には0価の状態の活性金属が含まれる。すなわち、CNT成長に活性な0価の活性金属が触媒担持体104表面近傍に存在するために、CNTが成長しやすい。
平均結晶子径Dが13nm以下の場合、触媒担持体104における結晶粒界が多いために、結晶粒界を経由した活性金属の触媒担持体104内部への拡散が起こりやすい。図3で示す活性金属が触媒担持体104内部へ拡散する領域116は触媒担持体104の表面(上面)から7nmよりも深く存在し、かつ活性金属は+2価あるいは+3価の酸化数で存在し、0価の酸化数は存在しない。あるいはXPSで0価の活性金属由来のピークが検出されない。
平均結晶子径Dが100nmを超える場合、結晶子表面で活性金属の拡散が起こりやすく、その結果、図2(B)に示すように、小さい粒子がより小さく、大きい粒子がより大きくなるオストワルド熟成と呼ばれる微粒子サイズの変化が誘発されるために、単層CNTが成長しにくい。例えば、エーシーエスナノ、2010年、第4巻、p.895−904には、平滑な酸化アルミニウムの単結晶を触媒担持体に用いた場合、蒸着膜を用いた場合と較べてオストワルド熟成が極めて容易に起こり、CNTの垂直配向体がほとんど成長しないことが報告されている。また、平均結晶子径Dが100nmを超える酸化マグネシウムの単結晶を触媒担持体に用いた場合、長さが2mmを超える長尺CNTが合成されたと報告されているが、得られるCNTは多層である(非特許文献3)。単層CNTも合成可能であるが、その長さは60μmにとどまっている(非特許文献4)。
本実施形態では、酸化マグネシウムを含む触媒担持体104の平均結晶子径Dを13nmよりも大きく100nmより小さい範囲で制御する。これにより、複合酸化物を含む層114の形成の抑制が可能となり、かつ、オストワルド熟成の抑制が可能となる。このように触媒担持体104の構造を制御することにより、後述するCNTの成長工程において、触媒106の数密度とサイズを長時間維持することができる。そのためCNTの成長が長時間持続され、図1(C)に示すように、長さLが1mmを超える長尺な単層CNT112を成長させることが可能である。
触媒担持体104の作製方法、およびこれを用いるCNTの合成方法を図4(A)乃至(C)および図1(C)を用いて説明する。
触媒担持体104は酸化マグネシウム粉末104をアニールして作られる(図4(A))。アニーリングは例えば電気炉などの炉内での熱処理によって行うことができる。この時のアニーリングの温度は、酸化マグネシウムの平均結晶子径を13nm以上とし、かつ酸化マグネシウムの融解を抑えるために600℃以上2800℃以下、より好ましくは700℃以上1650℃以下であることが好ましい。アニーリングは窒素やアルゴンなどの不活性ガス、あるいは空気や酸素の存在下で行ってもよいが、触媒担持体104中の酸素欠陥の発生を防止するため、酸素を含む雰囲気下でアニーリングを行うことが好ましい。アニーリング時間は適宜選択でき、例えば5分から1時間、10分から30分、あるいは15分から20分とすることができる。このアニーリングにより触媒担持体104の結晶が成長し、含有する酸化マグネシウムの平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmより小さく、13nmよりも大きく50nmより小さく、あるいは20nmよりも大きく50nmより小さい触媒担持体104が得られる。
引き続き、触媒106を形成する。まず触媒106に含まれる金属を含有する触媒層120を形成する(図4(B))。触媒層120の形成には真空蒸着法や有機金属CVD(MOCVD)法、スパッタリング法を適用することができ、典型的には高周波マグネトロンスパッタリング法が用いられる。触媒層120の厚さは1nm以上10nm以下、あるいは1nm以上3nm以下、典型的には1.8nmとすることができる。触媒106に含まれる金属としてFe、Co、Niなどの金属が挙げられる。
引き続き触媒層120に対して加熱を行い、粒子状の触媒106を形成する(図4(C)。加熱は電気炉などの炉内において、例えば600℃から700℃で行うことができる。加熱は還元雰囲気で行うことができ、例えば水素を含むガス中で行うことができる。以上の工程により、触媒106が作製される。
なお、触媒層120の形成工程を省き、触媒106の粒子を直接触媒担持体104上に形成してもよい。
CNTは熱CVD法によって形成することができる。具体的には、上述した工程で作製された触媒106を電気炉などの加熱炉に設置する。その後、ベンゼンやアセチレン、一酸化炭素、メタン、エタノールなどのCNT成長用のガス、および水などの触媒賦活物質を加熱炉内に供給し、600℃から1200℃の温度範囲で加熱することで、触媒106表面からCNTの化学的成長を開始することができる。炉内にはアセチレンを希薄するためのヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを供給してもよい。その結果、図1(C)に模式的に示すようにCNT成長基材100の表面に対して垂直な方向に配向した単層CNT112を得ることができる。
以上の工程により、単層構造を有し、かつ、長さが1mmを超える長尺のCNTを短時間で効率よく合成することができる。
酸化マグネシウムは、酸性あるいは塩基性水溶液に可溶性がある。したがって成長した1mmを超える極めて長い単層CNTが担持された触媒担持体104を酸性水溶液あるいは塩基性水溶液に浸漬させる工程により、全ての、あるいは実質的に全ての単層CNTを触媒担持体104から剥離することが可能となる。具体的には、酸性水溶液としてアンモニウム塩水溶液や塩酸、典型的には塩化アンモニウム水溶液を使用することができる。
(第2実施形態)
図1(B)は触媒担持体が基材上に設けられた概略図、さらに、前記触媒担持体の上に触媒が担持された概略図を示す。図1(B)に示すように、媒担持体104の表面には、CNTを成長するための触媒106が設けられる。触媒106はFe、Co、Niなどの金属を一種、あるいは複数種含むことができる。触媒担持体104には、酸化マグネシウム以外の酸化物が含まれていてもよいが、水溶液に浸漬させたときに成長したCNTを触媒担持体から剥離しやすくする観点から、触媒担持体における酸化マグネシウムの含有率は好ましくは50wt%以上、より好ましくは75wt%、より好ましくは85wt%以上、より好ましくは90wt%、より好ましくは95wt%以上であることが好ましい。触媒担持体104は基材102の上に設けられる。基材102の材料には特に制限はなく、石英やシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、サファイア(酸化アルミニウム)などであってもよい。シリコンやゲルマニウムを用いる場合、基材102の表面にシリコンやゲルマニウムの酸化物の薄膜が形成されていてもよい。基材102は特定な形状に限定されず、板状や球状であってもよい。
基材102上に設けられた触媒担持体104の作製方法、およびこれを用いるCNTの合成方法を図5(A)乃至(D)を用いて説明する。
まず、基材102上に酸化マグネシウムの薄膜を形成し、触媒担持体104を形成する(図5(A))。基材102に特に制限はないが、後述する加熱やアニーリング工程において耐熱性を示す材料であることが好ましい。具体的には石英やシリコン、ゲルマニウム、グラファイト、サファイア(酸化アルミニウム)などであることができる。シリコンやゲルマニウムを用いる場合、基材102の表面にシリコンやゲルマニウムの酸化物の薄膜が形成されていてもよい。
触媒担持体104は、例えばスパッタリング法、電子ビーム蒸着法、酸化マグネシウム微粒子の分散液を塗布し乾燥後焼成する方法(塗布法)、マグネシウム薄膜の酸化、典型的にはマグネトロンスパッタリング法などを用いて形成することができる。膜厚は15nm以上1000nm以下、あるいは50nm以上200nm以下とすることができる。
その後、アニーリングを行う。アニーリングは例えば電気炉などの炉内での熱処理によって行うことができる。この時のアニーリングの温度は、酸化マグネシウムの平均結晶子径を13nm以上とし、かつ酸化マグネシウムと基材102の融解を抑えるために600℃以上2800℃以下、より好ましくは700℃以上1650℃以下であることが好ましい。アニーリングは窒素やアルゴンなどの不活性ガス、あるいは空気や酸素の存在下で行ってもよいが、触媒担持体104中の酸素欠陥の発生を防止するため、酸素を含む雰囲気下でアニーリングを行うことが好ましい。アニーリング時間は適宜選択でき、例えば5分から1時間、10分から30分、あるいは15分から20分とすることができる。このアニーリングにより触媒担持体104の結晶が成長し、平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmより小さく、13nmよりも大きく50nmより小さく、あるいは20nmよりも大きく50nmより小さい触媒担持体104が得られる(図5(B))。
上述の工程で作製された触媒担持体104上に触媒106を形成する。触媒106は、まず触媒106に含まれる金属を含有する触媒層120を形成する(図5(C))。触媒層120には真空蒸着法や有機金属CVD(MOCVD)法、スパッタリング法を適用することができ、典型的には高周波マグネトロンスパッタリング法が用いられる。触媒層120の厚さは1nm以上10nm以下、あるいは1nm以上3nm以下、典型的には1.8nmとすることができる。触媒106に含まれる金属としてFe、Co、Niなどの金属が挙げられる。
引き続き触媒層120に対して加熱を行い、粒子状の触媒106を形成する(図5(D)。加熱は電気炉などの炉内において、例えば600℃から700℃で行うことができる。加熱は還元雰囲気で行うことができ、例えば水素を含むガス中で行うことができる。以上の工程により、触媒106が作製される。
なお、触媒層120の形成工程を省き、触媒106の粒子を直接触媒担持体104上に形成してもよい。
CNTは熱CVD法によって形成することができる。具体的には、上述した工程で作製されたCNT成長基材100を電気炉などの加熱炉に設置する。その後、ベンゼンやアセチレン、一酸化炭素、メタン、エタノールなどのCNT成長用のガス、および水などの触媒賦活物質を加熱炉内に供給し、600℃から1200℃の温度範囲で加熱することで、触媒106表面からCNTの化学的成長を開始することができる。炉内にはアセチレンを希薄するためのヘリウムやアルゴンなどの不活性ガスを供給してもよい。その結果、図1(C)に模式的に示すようにCNT成長基材100の表面に対して垂直な方向に配向した単層CNT112を得ることができる。
以上の工程により、単層構造を有し、かつ、長さが1mmを超える長尺のCNTを短時間で効率よく合成することができる。
酸化マグネシウムは、酸性あるいは塩基性水溶液に可溶性がある。したがって成長した1mmを超える極めて長い単層CNTが担持された触媒担持体104を酸性水溶液あるいは塩基性水溶液に浸漬させる工程により、全ての、あるいは実質的に全ての単層CNTを触媒担持体104から剥離することが可能となる。具体的には、酸性水溶液としてアンモニウム塩水溶液や塩酸、典型的には塩化アンモニウム水溶液を使用することができる。
本実施例では、触媒担持体104の作製、およびそれを用いたCNTの合成例に関して説明する。
[1.触媒担持体]
酸化マグネシウム粉末を予め750℃に加熱した電気炉に挿入し、空気環境下で20分間加熱した(アニーリング)後、室温まで冷却した。
[2.CNT垂直配向体の合成]
CNT垂直配向体の合成は、、図4(B)、(C)、および図1(C)に示すように、前記アニーリングの処理を行った酸化マグネシウム粉末に対して触媒層120の形成工程、触媒106の粒子の形成工程、およびCNT成長工程を順次行うことにより実施した。具体的には、前記酸化マグネシウム粉末に対して100Wで2分間スパッタ処理した後、高周波マグネトロンスパッタリング(20W、46sec)により1.8nmの鉄を蒸着し、触媒層120を形成した。
続いて触媒106の粒子の形成工程として、予め650℃に加熱した電気炉に触媒粒子形成工程用のガスを流し、担持体Aまたは担持体Bを導入した。粒子形成工程用のガスの流量と組成は以下の通りである。
全流量:1000sccm
2:90%
He:10%
引き続くCNT成長工程として、750℃に加熱した電気炉にCNT成長工程用のガスを流し、担持体Aまたは担持体Bを導入した。CNT成長工程用のガス流量と組成は以下の通りである。反応時間、すなわちガスと触媒106との接触時間は10分であった。
全流量:1000sccm
22:0.4%
2O:200 ppm
He:残部
以上により、1mmを超える長さの垂直方向に配向した単層CNTが得られた。
[3.CNTの担持体からの剥離]
触媒担持体の上に形成されたCNTの垂直配向体を基材から剥離するために、CNTの垂直配向体が成長した触媒担持体を、0.1Mの塩化アンモニウム水溶液10mLに24時間浸漬させた。CNTの垂直配向体が担持体から剥離され、水溶液中を浮遊した。
本実施例では、シリコン基板を基材102として用いた触媒担持体104とCNT成長基材100の作製、およびそれを用いたCNTの合成例に関して説明する。
[1.触媒担持体]
基材102として、表面に500nmの熱酸化膜を有する幅10mm、長さ10mm、厚さ0.625mmのシリコン基板を用いた。基材102上に触媒担持体104を形成するため、110nmの酸化マグネシウム薄膜を高周波マグネトロンスパッタリングにより蒸着した。スパッタリングターゲットには酸化マグネシウムを用い、アルゴン流量9.5SCCM、酸素流量0.5SCCMの条件下、200Wの電圧で100分間の蒸着を行った。続いて予め750℃に加熱した電気炉に上記基材102を挿入し、空気環境下で20分間加熱した(アニーリング)後、室温まで冷却した。以下この実施例で作製した触媒担持体を担持体Aと記す。
[2.比較担持体]
比較用の触媒担持体として、前記アニーリングを実施しないこと以外は担持体Aと同様の手順で触媒担持体を作製した。この担持体を担持体Bと記す。
[3.CNT垂直配向体の合成]
CNT垂直配向体の合成は、図5(C)、(D)、および図1(C)に示すように、担持体Aあるいは担持体Bに対して触媒層120の形成工程、触媒106の粒子の形成工程、およびCNT成長工程を順次行うことにより実施した。具体的には、担持体Aまたは担持体Bの表面を100Wで2分間スパッタ処理した後、高周波マグネトロンスパッタリング(20W、46sec)により1.8nmの鉄を蒸着し、触媒層120を形成した。
続いて触媒106の粒子の形成工程として、予め650℃に加熱した電気炉に触媒粒子形成工程用のガスを流し、担持体Aまたは担持体Bを導入した。粒子形成工程用のガスの流量と組成は以下の通りである。
全流量:1000sccm
2:90%
He:10%
引き続くCNT成長工程として、750℃に加熱した電気炉にCNT成長工程用のガスを流し、担持体Aまたは担持体Bを導入した。CNT成長工程用のガス流量と組成は以下の通りである。反応時間、すなわちガスと触媒106との接触時間は10分であった。
全流量:1000sccm
22:0.4%
2O:200 ppm
He:残部
[4.CNTの評価]
図6(A)、(B)はそれぞれ、担持体Aと担持体Bを用いて作製した単層CNTの垂直配向体の電子顕微鏡(SEM)像ある。アニーリング工程を含む担持体Aからは1mmを超える高さのCNT112が形成されていることがわかる(図6(A))。一方、アニーリング工程を含まない担持体B上に形成されたカーボンナノチューブ112の高さは50μm程度に留まったことがわかる(図6(B))。
図7(A)、(B)はそれぞれ、担持体Aと担持体Bを用いて作製した単層CNTの垂直配向体を担持体A、あるいは担持体Bからピンセットを用いて剥離し、溶媒中に分散させた後、透過型電子顕微鏡用グリッドに塗布し乾燥させた試料の電子顕微鏡(TEM)像である。担持体Aを用いた場合は単層CNTが主生成物として生成したこと(図7(A))、および担持体Bを用いた場合は2層CNTが主生成物として生成していることがわかる(図7(B))。生成したCNT垂直配向体(フォレスト)の高さと、TEM観察から評価した単層CNT、2層および3層以上の多層CNTの割合(%)を表1にまとめる。
[5.CNTの担持体からの剥離]
担持体Aの上に形成されたCNTの垂直配向体を基材から剥離するために、CNTの垂直配向体が成長した担持体Aを、0.1Mの塩化アンモニウム水溶液10mLに24時間浸漬させた。CNTの垂直配向体全体が担持体から剥離され、水溶液中を浮遊した。
[6.触媒担持体の結晶径の評価]
担持体Aと担持体Bにおける触媒担持体104である酸化マグネシウム薄膜の結晶子径を微小角入射X線回折によって評価した。図8(A)は、担持体Aと担持体Bの微小角入射X線回折の測定結果を示したものである。ここで、(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)、(オ)はそれぞれ、酸化マグネシウム(MgO)の(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面に由来する回折ピークである。図8(A)から明らかなように、担持体Aの方が担持体Bよりも尖鋭な回折ピークを与えており、アニーリングにより触媒担持体104を形成するMgOを含む結晶子が粒成長したと推察される。各回折ピークにシェラーの式を適用して算出された結晶子径をそれぞれ表2、3に示す。ここでシェラーの式は、以下の式4で表現され、D、K、B,θはそれぞれ結晶子径、シェラー定数、ピークの回折線幅、ブラック角を示す。なお、光学系による回折線の広がりの影響による補正は、Si単結晶(111)の測定を実施し、その回折線幅0.04°を用いた。ここで、結晶子の外形が立方体で大きさの分布を持たないと仮定し、シェラー定数Kには0.94を適用した。各ピークから求めた結晶子径の平均値、すなわち平均結晶子径Dは担持体Aでは20nm、担持体Bでは13nmであった。
[7.活性金属の拡散試験]
ここでは、触媒106を構成するFeと触媒担持体104を構成するMgOの反応がアニーリングによって抑制されるかどうかを明らかにすることを目的とし、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析を行った。
担持体Aおよび担持体Bに対して、前述の触媒層120の形成工程と触媒106の粒子形成工程を施した後、750℃のHe雰囲気下で5分間保持し、その後室温まで冷却した。これらの基材についてXPSにて深さ方向分析を行い、各深度におけるFeの半定量分析と電荷状態の評価を行った。図8(B)は各深度におけるFe2p軌道のエネルギーに対応する領域のXPSスペクトルを示す。担持体A、担持体BともにFe2p3/2とFe2p1/2に由来する光電子ピークがそれぞれ705eVから717eVの領域と720eVから730eVの領域に観測されており、Feの存在が確認できる。さらにFe2p3/2に由来する光電子ピークの電子結合エネルギーに着目すると、担持体Aではピークトップを707eV、711eVに有するピークが確認されたのに対し、担持体Bでは主にピークトップを711eVに有するピークのみが確認された。このことは、担持体BではほとんどのFeが+2価の酸化状態あるいは+3価の酸化状態で存在しているのに対し、担持体Aでは酸化状態だけでなく金属状態(すなわち0価)で存在するFeも含まれていることがわかる。したがって下記反応式(5)、(6)に基づくFeとMgOの反応がアニーリングを施した担持体Aでは抑制されているといえる。
また、Feの深さ分布に着目すると担持体Aでは最表面からの深さが少なくとも6.1nmでFe2p由来の光電子ピークが完全にノイズに埋もれて検出できないのに対し、担持体Bでは最表面からの深さが少なくとも10.9nmまで検出された。担持体Aでは、FeとMgOの反応が抑制されたことでFeの触媒担持体104内部への拡散が抑制されていると考えられる。
以上述べたように、本発明に係る触媒担持体は、極めて長い単層CNTを与え、かつ水溶液に浸漬させることで成長したCNTを基材から容易に剥離することが可能であることがわかった。
100:触媒を担持した触媒担持体(CNT成長基材)
102:基材
104:触媒担持体
106:触媒
112:カーボンナノチューブ
114:複合酸化物の含有層
116:領域
120:触媒層

Claims (9)

  1. 酸化マグネシウム粉末、または基材上の酸化マグネシウム薄膜を750℃以上1650℃以下の温度範囲でアニーリングを行って平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmより小さい複数の酸化マグネシウムの結晶を形成する工程と、
    アニーリング後の前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜上に、前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜に接する触媒を形成する工程と
    前記触媒上にカーボンナノチューブを成長させる工程とを備え
    前記平均結晶子径Dは、X線回折ピークに以下の式を適用することによって決定され、
    K、λ、B、θはそれぞれ、X線回折スペクトルにおけるシェラー定数、入射光の波長、回折線幅、ブラッグ角であり、前記シェラー定数は0.94であカーボンナノチューブの製造方法。
  2. 前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜における酸化マグネシウムの含有量は50wt%以上である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記触媒の厚さは1nm以上10nm以下である、請求項1に記載の製造方法。
  4. 前記触媒は、Fe、Co、及びNiから選択される一種または複数種を含む、請求項1に記載の製造方法。
  5. 前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜は、表面から深さ7nmまでの領域に前記触媒が拡散した領域を有する、請求項1に記載の製造方法。
  6. 前記領域は、酸化数がゼロの金属を含む、請求項5に記載の製造方法。
  7. 酸化マグネシウム粉末、または基材上の酸化マグネシウム薄膜を750℃以上1650℃以下の温度でアニーリングを行って平均結晶子径Dが13nmよりも大きく100nmより小さい複数の酸化マグネシウムの結晶を形成する工程と、
    前記アニーリング後の前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜上に、前記酸化マグネシウム粉末または前記酸化マグネシウム薄膜に接する触媒を形成する工程とを含み、
    前記平均結晶子径Dは、X線回折ピークに以下の式を適用することによって決定され、
    K、λ、B、θはそれぞれ、X線回折スペクトルにおけるシェラー定数、入射光の波長、回折線幅、ブラッグ角であり、前記シェラー定数は0.94である、カーボンナノチューブ製造用触媒担持体の製造方法。
  8. 前記アニーリングは酸素を含む雰囲気下で行われる、請求項7に記載の製造方法。
  9. 前記触媒の前記形成は、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法、または塗布法を用いて行われる、請求項7に記載の製造方法。
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