[実施形態1]
以下、本発明に係る時計の脱進機の第1の実施形態(実施形態1)について、図面を用いて説明する。
<脱進機の構成>
図1は、本発明の実施形態1である携帯用時計(例えば腕時計)における脱進機1を示す斜視図である。図2Aは、脱進機1の動作を示す平面図(その1)であり、出爪56によりがんぎ車10を停止した状態、図2Bは、脱進機1の動作を示す平面図(その1)であり、出爪56によるがんぎ車10の停止が解除された衝撃入力の前半の期間の状態、をそれぞれ表す。図3Aは、脱進機1の動作を示す平面図(その2)であり、衝撃入力の前半の期間から後半の期間に切り替わる状態、図3Bは、脱進機1の動作を示す平面図(その2)であり、衝撃入力の後半の期間の状態、をそれぞれ表す。図4は、脱進機1の動作を示す平面図(その3)であり、衝撃入力が終了し入爪55によりがんぎ車10が停止した状態を表す。
図示の脱進機1は、図1に示すように、がんぎ車10とアンクル50と振り石60とを備えたスイスレバー式の脱進機である。なお、がんぎ車10は、アンクル50以外の他の回転体等に対してトルクを付与することがない。例えばコアクシャル(同軸)脱進機のようにがんぎ車がアンクル以外の、てんぷ等の他の回転体に対してトルクを付与するものは、がんぎ車、アンクルを大きなサイズに設定する必要があり、かつ1振動当たりの回転角度を大きくする必要がある。この結果、がんぎ車とアンクルを駆動するために、脱進機1に比べて大きなトルクを必要とする。
(振り石)
振り石60は、てんぷの振り座70に設けられている。振り座70は、てんぷと一体に、軸心C3回りに振動する。振り石60は、この振動により、軸心C3回りに、図示の時計回り方向と反時計回り方向とに往復動する。
(がんぎ車)
がんぎ車10は、輪列を介して付与された駆動力(エネルギ、トルク)により、軸心C1回りに図示の時計回り方向R1に回転する。がんぎ車10は軸心C1側の中心部に近い内輪部10a、中心部から遠い外輪部10b及び内輪部10aと外輪部10bとを繋ぐ、放射状に延びた4つのリンク部10cとを備えている。また、がんぎ車10は、外輪部10bから回転方向に傾斜しつつ外方に延びた複数の歯11を、周方向に沿って等間隔に備えている。
図1に示したがんぎ車10は、15個の歯11を備えている。がんぎ車10の歯11の数は、本実施形態の15個に限定されるものではなく、15個より多くてもよいし、15個より少なくてもよい。
図2A,2B,3A、3B,4に示すように、がんぎ車10の歯11の外方に向いた面12は、アンクル50の入爪55及び出爪56にそれぞれ接し、がんぎ車10の回転により、歯11が入爪55及び出爪56を押してがんぎ車10からアンクル50にトルクを付与する。
また、がんぎ車10は、各歯11の付け根の近傍の外輪部10bに、本発明におけるトルク付与部材の一例としての凸部材13が形成されている。したがって、凸部材13は、歯11の面12よりも、軸心C1からの半径が短い部位に形成されている。なお、凸部材13は、歯11の面12よりも、軸心C1からの半径が短い部位に形成されているものに限定されない。
凸部材13は歯11と同じ数量だけ形成されている。各凸部材13は、がんぎ車10の、軸心C1に直交する端面14から突出して形成されている。本実施形態では、凸部材13は、短円柱状に形成されているが、本発明におけるトルク付与部材は、短円柱状の形態に限定されない。
また、凸部材13は、端面14から突出して形成されたものに限定されず、がんぎ車10の半径方向に突出して形成されたものであってもよい。凸部材13は、歯11、入爪55及び出爪56とは別の経路で、がんぎ車10からアンクル50にトルクを付与するものであるが、詳細は後述する。
なお、がんぎ車10は、DeepRIE(深堀反応性イオンエッチング)プロセス等で形成されたシリコン製であってもよい。
(アンクル)
アンクル50は、がんぎ車10の回転を、てんぷの振動のタイミングに対応した所定の周期で停止させ、また、回転するがんぎ車10からトルクを受け、そのトルクをてんぷに伝達する。
図5はアンクル50の詳細を示す平面図である。アンクル50は、図5に示すように、サオ51の一方の端部にウデ52が交差して設けられ、その交差する部分に設けられたアンクル真54の軸心C2回りに回転自在に形成されている。ウデ52の一方の端には石で形成された入爪55が設けられ、他方の端には同じく石で形成された出爪56が設けられている。
また、ウデ52のうちアンクル真54の近傍(入爪55や出爪56よりも近い位置)で、入爪55と出爪56との間の部分に、所定のタイミングで図3A,3Bに示すようにがんぎ車10の凸部材13に接触する第3の爪58(トルク受け部材の一例)が設けられている。第3の爪58は、入爪55や出爪56と同様に、石で形成されている。
第3の爪58は、本発明におけるトルク受け部材の一例である。なお、第3の爪58は、後述するように、がんぎ車10の端面14から突出した凸部材13にのみ接触するように、入爪55や出爪56よりも、軸心C2方向の厚さが薄く形成されている。
また、第3の爪58には、入爪55と出爪56のように、回転しているがんぎ車10の歯11に当ててがんぎ車10の回転を停止させるような衝撃力が加わることがない。したがって、第3の爪58は、入爪55や出爪56ほどの太さ(がんぎ車10の回転方向に沿った寸法)は必要なく、入爪55や出爪56よりも細く形成されている。さらに、第3の爪58は、軸心C2から第3の爪58の先端面58aまでの長さが、軸心C1から凸部材13の外周面までの長さよりも短くなる位置に形成されている。
サオ51のウデ52とは反対の端には、振り石60が嵌め合わされる空間であるハコ53が形成されている。そして、往復動する振り石60がハコ53に進入してハコ53を形成する側壁を押すことで、アンクル50はアンクル真54の軸心C2回りに、図示の時計回り方向R1と反時計回り方向R2とに揺動する。
アンクル50の揺動する角度を所定の範囲に規制するために、アンクル50が所定の角度だけ揺動したとき、サオ51の側面に当たってアンクル50の動きを規制する2つのドテピン81,82が設けられている。一方のドテピン82は、アンクル50の時計回り方向R1への揺動を規制し、他方のドテピン81は、アンクル50の反時計回り方向R2への揺動を規制している。
アンクル50の揺動する方向に応じて、アンクル50は、入爪55と出爪56とが交互にがんぎ車10の歯11に噛んでがんぎ車10の回転を停止させたり、歯11から離れてがんぎ車10の停止状態を解除させたりして、がんぎ車10の回転と停止とを切り替え、がんぎ車10を一定の時間間隔で時計回り方向R1に回転させる。
アンクルの入爪55は、がんぎ車10の回転の停止を解除した直後に、その衝撃面ががんぎ車10の歯11のロッキングコーナ(がんぎ車10の歯11が入爪55で停止している状態において、歯11の面12のうち入爪55に近い側の端に対応した角部)に接触し、がんぎ車10の歯11のロッキングコーナからがんぎ車10の時計回り方向R1への回転に伴う衝撃(トルク)を受ける。その後、アンクル50の入爪55は歯11の面12に接触し、その面12から、がんぎ車10の時計回り方向R1への回転に伴う衝撃(トルク)を受ける。
アンクルの出爪56は、がんぎ車10の回転の停止を解除した直後に、がんぎ車10の歯11の面12に接触し、その面12から、がんぎ車10の時計回り方向R1への回転に伴う衝撃(トルク)を受ける。これにより、アンクル50は、振り石60を介しててんぷが備えるひげぜんまいにエネルギを付与する。
また、第3の爪58は、がんぎ車10の歯11と出爪56とが接触している期間中(がんぎ車10の歯11と出爪56との接触が終了する以前)に、がんぎ車10の凸部材13に接触を開始し、凸部材13からがんぎ車10の時計回り方向R1への回転に伴う衝撃(トルク)を受ける。これにより、アンクル50は、振り石60を介しててんぷが備えるひげぜんまいにエネルギを付与する。
出爪56の、がんぎ車10の歯11から衝撃を受ける衝撃面56aは、従前とは異なり、アンクル50の外方を向くように傾斜して形成されている。すなわち、図5に示すように、出爪56の衝撃面56aがアンクル50の揺動中心である軸心C2側に面を向けていない状態、つまり、衝撃面56aの法線Pが軸心C2から遠ざかる方向に向いている。
なお、衝撃面56aがアンクル50の外方を向いた傾斜面であるときは、出爪56の内側(軸心C2からの距離が短い側)の面(歯11に当たってがんぎ車10の回転を停止させている停止面56b(図2A参照))の長さが、外側(軸心C2からの距離が長い側)の面(外側面56d)の長さよりも長く形成されて、停止面56bの端部(ロッキングコーナ56c;衝撃面56aと停止面56bとを繋ぐ角部)と外側面56dの端部(外側コーナ56e;衝撃面56aと外側面56dとを繋ぐ角部)とを通る衝撃面56aの法線Pが、軸心C2から遠ざかる方向となるように傾斜している。
衝撃面56aをこのような傾斜で構成することで、出爪56によるがんぎ車10の停止状態が解除されたとき、がんぎ車10の歯11の面12に、ロッキングコーナ56cが接触しながら、歯11から出爪56にトルクが付与される。
一方、がんぎ車10の回転が進んで、がんぎ車10の凸部材13の外周面がアンクル50の第3の爪58の先端面58aに接触し始めると、がんぎ車10の歯11の面12とアンクル50の出爪56のロッキングコーナ56cとの接触が終了する。そして、入爪55にがんぎ車10の歯11が当たってがんぎ車10の回転が停止する前のタイミングで、凸部材13の外周面と第3の爪58の先端面58aとの接触は終了する。凸部材13の外周面が第3の爪58の先端面58aに接触している期間中、凸部材13から第3の爪58にトルクが付与される。
なお、アンクル50も、がんぎ車10と同様に、DeepRIEプロセス等で形成されたシリコン製であってもよい。
<脱進機の作用>
次に、本実施形態の携帯用時計における脱進機1の作用について説明する。まず、図2Aに示すように、アンクル50の出爪56の停止面56bががんぎ車10の歯11に当たって、がんぎ車10の回転を停止している。ここから、てんぷの振動により、振り石60が軸心C3回りの時計回り方向R1に回転し、振り石60がアンクル50のハコ53の側壁を押すことで、アンクル50が、図2Bに示すように、軸心C2回りの反時計回り方向R2に回転する。これにより、出爪56が歯11から外れ始め、振り石60の回転が進むにしたがってアンクル50の回転も進み、図2Bに示すように、出爪56の停止面56bが歯11から外れる。
すると、出爪56の衝撃面56aがアンクル50の外方を向くように傾斜しているため、がんぎ車10の歯11の面12に、出爪56のロッキングコーナ56cが接触する。そして、がんぎ車10の時計回り方向R1への回転により、歯11が時計回り方向R1に進んでいる期間中、ロッキングコーナ56cが歯11の面12に接触し続け、がんぎ車10から出爪56に、アンクル50を反時計回り方向R2に回転させるトルクが付与される。なお、がんぎ車10の歯11から出爪56にトルクが付与されている期間を、衝撃入力の前半の期間と称するものとする。
がんぎ車10の回転が進み、図3Aに示すように、がんぎ車10の凸部材13の外周面に、アンクル50の第3の爪58の先端面58aが接触し始めると、がんぎ車10の歯11の面12がロッキングコーナ56cから離れる。
そして、がんぎ車10の時計回り方向R1への回転により、凸部材13が時計回り方向R1に進んでいる期間中、図3Bに示すように、凸部材13の外周面が第3の爪58の先端面58aに接触し続け、がんぎ車10から出爪56に、アンクル50を反時計回り方向R2に回転させるトルクが付与される。なお、がんぎ車10の凸部材13から第3の爪58にトルクが付与されている期間を、衝撃入力の後半の期間と称するものとする。
がんぎ車10の回転が進み、がんぎ車10の凸部材13の外周面が第3の爪58の先端面58aから離れると、図4に示すように、がんぎ車10の別の歯11がアンクル50の入爪55の停止面55bに当たって、がんぎ車10は回転を停止する。
この後、てんぷの回転方向が反転して反時計回り方向R2となることで、反時計回り方向R2に回転する振り石60が、アンクル50を軸心C2回りに時計回り方向R1に回転させ、これにより、入爪55が歯11から離れて、がんぎ車10の回転が再開し、がんぎ車10の歯11から入爪55にトルクが付与され、その後、歯11が出爪56に当たって、がんぎ車10が回転を停止した図2Aの状態となり、以下、上述した一連の動作を繰り返す。
このように構成された本実施形態の脱進機1によると、がんぎ車10の歯11からアンクル50の出爪56へのトルクの付与に加えて、凸部材13から第3の爪58にトルクを付与する。したがって、本実施形態の脱進機1は、がんぎ車10からアンクル50へのトルクの伝達量を増大させることができ、エネルギの伝達効率を向上させることができる。
ここで、本実施形態の脱進機1は、出爪56によるがんぎ車10の回転の停止が解除され、がんぎ車10が回転し始めると、がんぎ車10の歯11の面12がアンクル50の出爪56(のロッキングコーナ56c)に接しながら移動する。このとき、がんぎ車10の歯11からアンクル50の出爪56に作用する荷重は、がんぎ車10の歯11の面12に直交する向きとなる。
本発明が適用されていない従来の脱進機では、アンクルの出爪の衝撃面は、アンクルの内方を向くように傾斜(爪の内側(揺動中心からの距離が短い側)の長さが外側(揺動中心からの距離が長い側)の長さよりも短いことで、内側の端部と外側の端部とを結んだ衝撃面の法線方向が、揺動中心に近づく方向となるように傾斜)している。したがって、がんぎ車が回転し始めると、がんぎ車の歯の角部がアンクルの出爪の衝撃面に接しながら移動する。これにより、がんぎ車の歯からアンクルの出爪に作用する荷重は、出爪の衝撃面に直交する向きとなる。
これに対して、本実施形態の脱進機1は、衝撃入力の前半の期間は、がんぎ車10の歯11からアンクル50の出爪56に作用する荷重が、がんぎ車10の歯11の面12に直交する向きとなる、したがって、本実施形態の脱進機1は、従来の、出爪の衝撃面に直交する向きにがんぎ車から荷重が作用するものに比べて、アンクル50に付与されるトルクを大きくすることができる。
ここで、従来の脱進機は、がんぎ車から出爪にトルクが伝達されている期間中に、てんぷが振動中心を跨ぐ。そして、がんぎ車から出爪にトルクが伝達され始めた初期(てんぷが振動中心に近づいている期間)には、出爪に伝達されたトルクがてんぷの振動周期を短くする(時計を進める)方向に作用し、がんぎ車から出爪にトルクが伝達された終盤(てんぷが振動中心にから離れている期間)には、出爪に伝達されたトルクがてんぷの振動周期を長くする(時計を遅らせる)方向に作用する。
この結果、従来の脱進機は、がんぎ車の歯からアンクルの出爪に対するトルクの伝達量は、時計を進ませる方向へのトルクの伝達量に比べて時計を遅らせる方向へのトルクの伝達量が多かった。
これに対して本実施形態の脱進機1は、がんぎ車10からアンクル50へのトルクの伝達期間を、衝撃入力の前半の期間と後半の期間とに分け、前半の期間では、がんぎ車10の歯11からアンクル50の出爪56へのトルクの伝達期間とし、後半の期間では、がんぎ車10の凸部材13から第3の爪58へのトルクの伝達期間としている。
そして、前半の期間で、上述したように、がんぎ車10の歯11からアンクル50の出爪56に伝達されるトルクを大きくすることで、前半の期間での時計を進めるように作用するトルクの伝達量を増大することができる。
したがって、がんぎ車10からアンクル50に伝達されるトルクのうち、時計を進める方向に作用する割合を、時計を遅らせる方向に作用する割合に近づけることができ、進みと遅れとの均衡により脱進機1の誤差を低減することができる。
なお、本発明に係る時計の脱進機は、アンクルの出爪の衝撃面を、アンクルの内方を向くように傾斜させることを排除するものではない。
また、本実施形態の脱進機1は、がんぎ車10からトルクを付与する凸部材13が、がんぎ車10の軸心C1からの半径が歯11の面12よりも短い部位に形成されている。脱進機1は、凸部材13と第3の爪58の位置をこのように最適化することにより、凸部材13がアンクル50に伝達するトルクを、従来の脱進機におけるがんぎ車の歯のロッキングコーナがアンクルに伝達するトルクよりも大きくすることができる。
したがって、がんぎ車10からの衝撃入力の全体の期間でのトルク伝達効率を容易に大きくすることができる。なお、本発明に係る時計の脱進機は、がんぎ車からトルクを付与するトルク付与部材が、がんぎ車の軸心からの半径ががんぎ車の歯の面よりも長い部位や同一の距離の部位に形成されているものを排除するものではない。
また、本実施形態の脱進機1は、凸部材13と第3の爪58とが、がんぎ車10の歯11と出爪56との接触が終了する前に、接触するように配置されているため、がんぎ車10からアンクル50へのトルクの伝達を途切れずに長く確保することができる。
本実施形態の脱進機1は、がんぎ車10に設けられた凸部材13が、がんぎ車10の端面14から突出して形成されているため、凸部材13ががんぎ車10の半径方向の外方に突出されている場合に生じ得る、入爪55や出爪56との接触を回避することができる。
また、凸部材13が、がんぎ車10の端面14から突出して形成されていることにより、入爪55や出爪56との接触を回避するための凸部材13の形状や配置に大きな制約を受けたりするのを回避することもできる。
図6Aは、出爪56に関して、てんぷの回転角度に対するトルク比を示したグラフであり、実施形態の脱進機1のもの、図6Bは、出爪56に関して、てんぷの回転角度に対するトルク比を示したグラフであり、比較例の脱進機(従来)のもの、をそれぞれ表す。
図6Aにおける、てんぷの回転角度のθ1[°]は、図2Bに示す衝撃入力の前半の期間の開始の位置に対応し、てんぷの回転角度のθ2[°]は、図3Aに示す衝撃入力の前半の期間と後半の期間との切り替えの位置に対応し、てんぷの回転角度のθ3[°]は、図3Bに示す衝撃入力の後半の期間の最後の位置(凸部材13と第3の爪58とが離れるタイミングに対応した位置)に対応している。なお、図6Aにおけるてんぷの回転角度が0[°]の位置は、てんぷの振動中心に対応している。
本実施形態の脱進機1は、図6Aのトルク比を示した。ここで、てんぷの回転角度が負の範囲で、かつトルク比が正の範囲、すなわち、てんぷの回転角度のθ1[°]から0[°]までの範囲は、時計を進める方向に作用するトルク比(+で表記)となる。
一方、てんぷの回転角度が負の範囲で、かつトルク比が負の範囲、すなわち、てんぷの回転角度の−27,−26[°]からθ1[°]までの範囲は、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記)となる。また、てんぷの回転角度が正の範囲で、かつトルク比が正の範囲、すなわち、てんぷの回転角度の0[°]からθ3[°]までの範囲も、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記)となる。
本発明が適用されない比較例(従来)の脱進機は、図6Bのトルク比を示した。この比較例の脱進機は、凸部材13を備えないがんぎ車と、第3の爪58を有さず、かつ出爪56の衝撃面56aがアンクル50の内方を向いたアンクル50である点以外は、実施形態の脱進機1と同じ構成である。
図6A,6Bを参照して実施形態の脱進機1のトルク比と比較例の脱進機のトルク比とを比較すると、実施形態の脱進機1は、比較例の脱進機に比べて、正となるトルク比の面積(図において斜線を付した部分)と負となるトルク比の面積との差が小さくなったため、がんぎ車10からアンクル50へのトルクの伝達効率が向上した。
また、実施形態の脱進機1は、比較例の脱進機に比べて、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記)に対する、時計を進める方向に作用するトルク比(+で表記)の割合が増大し、脱進機1の誤差が低減した。
なお、凸部材13は、軸心C1に近い位置に形成されているほど、がんぎ車10のトルクをアンクル50に伝達し易く、エネルギの伝達効率を向上させる観点では好ましい。
しかし一方で、凸部材13が、接触する第3の爪58の先端面58aとの間で、アンクル50の揺動に伴う第3の爪58の動きよりも長い距離を移動しないと、第3の爪58の先端面58aにトルクを付与することができない。そして、凸部材13を軸心C1に近付けるにしたがって、凸部材13の移動長さは短くなる。
図7Aは、凸部材13から第3の爪58にトルクを伝達する条件の一例を説明する図であり、凸部材13と第3の爪58とが接触し始める状態を示し、図7Bは、凸部材13から第3の爪58にトルクを伝達する条件の一例を説明する図であり、凸部材13と第3の爪58との接触が終了した後で、がんぎ車10が入爪55で停止した状態を示す。
ここで、図7Aに示すように、凸部材13と第3の爪58とが接触し始める部位をAとする。また、図7Bに示すように、凸部材13と第3の爪58との接触が終了した後で、がんぎ車10が入爪55で停止した状態における、第3の爪58のリービングコーナ(第3の爪58のうち、先端面58aの、凸部材13との接触が終了する側の端に対応する角部)を部位Bとし、凸部材13において軸心C1から最も離れた部位をCとする。なお、部位Cは、凸部材13における、第3の爪58との接触が終了したときの第3の爪58の先端面58aとの接触部位である。
凸部材13と第3の爪58とが接触し始めてから、がんぎ車10が入爪55で停止するまでの期間中におけるがんぎ車10の回転角度をα(∠AC1C)、凸部材13と第3の爪58とが接触し始めてから、がんぎ車10が入爪55で停止するまでの期間中におけるアンクル50の回転角度をβ(∠BC2C)、接触し始めのときの軸心C1と部位Aとの間の長さをr1、接触し始めのときの軸心C2と部位Bとの間の長さをL1、がんぎ車10が入爪55で停止した状態での軸心C1と部位Cとの間の長さをr2、がんぎ車10が入爪55で停止した状態での軸心C2と部位Cとの間の長さをL2とすると、長さAC及び長さBCはそれぞれ以下のように算出される。
AC={(r1)2+(r2)2−2(r1)(r2)cosα}1/2
BC={(L1)2+(L2)2−2(L1)(L2)cosβ}1/2
このように算出される長さACが長さBCよりも長くなるように設計することができる。
図8は、実施形態の脱進機1におけるアンクル50の具体例を示す図である。一例として、がんぎ車10の軸心C1とアンクル50の軸心C2との間の長さC1C2を2800[μm]、凸部材13を、軸心C1からの長さが1800[μm]の位置に中心を有し直径が100[μm]の外周面を有する円柱状の部材とし、第3の爪58を、図8に示すように入爪55側の側面を軸心C1と軸心C2とを結んだy軸に沿わせ、先端面58aの出爪56側の端縁を、軸心C2からy軸に対して角度θ(=11.00[°])の位置で、軸心C2からの半径がL(=1013[μm])の位置に設定したとき、上記の長さr1,r2,L1,L2、角度α,βは以下のように算出される。なお、第3の爪58の先端面58aは、y軸に直交するx軸に対して、右肩上がりの角度γ(=21.6[°])で傾斜して形成されている。
r1=1847[μm]
r2=1850[μm]
L1=959[μm]
L2=1013[μm]
α=7.47[°]
β=12.28[°]
したがって、長さACは241[μm]、長さBCは217[μm]となり、BC<ACを満たす。上記の具体的な数値は一例にすぎず、これらの数値以外の値を採用することができ、BC<ACとなるように設計すればよい。
<変形例>
実施形態の脱進機1における凸部材13は、短円柱状に形成されたものであるが、その外周面の輪郭形状は、円形状に限定されるものではない。また、第3の爪58も、先端面58aがいずれの方向に傾いていてもよい。
図9Aは、本発明の脱進機におけるトルク授受部材の他の例である凸部材13,113,213及び第3の爪58,158を示す模式図であり、円柱状の凸部材13と先端面158aが第3の爪58とは反対方向に傾いた第3の爪158とを組み合わせた形態、図9Bは、本発明の脱進機におけるトルク授受部材の他の例である凸部材13,113,213及び第3の爪58,158を示す模式図であり、三角柱状の凸部材113と先端面158aが第3の爪58とは反対方向に傾いた第3の爪158とを組み合わせた形態、図9Cは、本発明の脱進機におけるトルク授受部材の他の例である凸部材13,113,213及び第3の爪58,158を示す模式図であり、三角柱状の凸部材213と図5に示した第3の爪58とを組み合わせた形態、をそれぞれ示す。
本発明の脱進機におけるトルク授受部材は、例えば、図9Aに示すように、凸部材13は短円柱状で、先端面158aの傾斜方向が図5に示した先端面58aとは反対に傾斜して形成された第3の爪158を適用し、凸部材13の外周面が、第3の爪158のうち、先端面158aの一方の端部に繋がる角部158cを矢印方向に押す構成により、凸部材13から第3の爪158にトルクを付与するものであってもよい。なお、凸部材の外周面の輪郭形状は、厳密に円形状である必要はなく、楕円形状や曲率が不定の曲線形状であってもよい。
また、本発明の脱進機におけるトルク授受部材は、例えば、図9Bに示すように、凸部材113は三角柱状で、先端面158aの傾斜方向が図5に示した先端面58aとは反対に傾斜して形成された第3の爪158を適用し、凸部材113の外周面の平面部分が、第3の爪158のうち、先端面158aの一方の端部に繋がる角部158cを矢印方向に押す構成により、凸部材113から第3の爪158にトルクを付与するものであってもよい。
また、本発明の脱進機におけるトルク授受部材は、例えば、図9Cに示すように、凸部材213は三角柱状で、図5に示した第3の爪58を適用し、凸部材213の外周面の角部213cが、第3の爪58の先端面58aを矢印方向に押す構成により、凸部材213から第3の爪58にトルクを付与するものであってもよい。
また、凸部材13,113,213は、図1に示したように、中実の塊として突出した形状でなくてもよい。すなわち、第3の爪58,158の先端面58a,158aを押すように接する面や部分があればよく、凸部材13,113,213の外周面となる部分だけ、すなわち板状の壁面だけが形成されたものであってもよい。
実施形態1や変形例の脱進機1は、アンクル50に設けられた入爪55、出爪56及び第3の爪58がそれぞれ、アンクル50の本体であるサオ51及びウデ52とは別材料の石で形成されたものである。しかし、本発明に係る脱進機は、アンクルの本体と入爪、出爪及び第3の爪とが同一材料(例えば、シリコンや金属など)で、一体的に形成されたものであってもよい。
図10は、図1に示した脱進機1におけるがんぎ車10に代えて別のがんぎ車310、アンクル50に代えて別のアンクル350を備えた脱進機301を示す斜視図である。図示の脱進機301は、本発明に係る別の実施形態を示す。脱進機301におけるアンクル350は、サオ351、ウデ352、入爪355、出爪356及び第3の爪358が、シリコン等で一体に形成されている。また、この脱進機301のがんぎ車310は、短円柱状の凸部材13に代えて、略三角柱状の凸部材313を備えている。このように構成された脱進機301によっても、図1に示した脱進機1と同様の作用効果を得ることができる。
上述した各実施形態や変形例の脱進機は、トルク授受部材の一例としての凸部材及び第3の爪が、隣接する2つの歯11,11の間及び入爪と出爪との間にそれぞれ1つずつ備えられた構成であるが、2つ以上ずつ備えられた構成であってもよく、エネルギの伝達効率を高め易い。
一方で、隣接する2つの歯11,11の間及び入爪と出爪との間にそれぞれ設けられるトルク授受部材の数が増えるにしたがって、トルク授受部材が接触するタイミング等を精度よく調整するのは難しくなる。したがって、トルク授受部材を設ける数は、向上させようとするエネルギ伝達効率と精度の調整のために要するコストとのバランスで決定すればよい。
[実施形態2]
以下、本発明に係る時計の脱進機の第2の実施形態(実施形態2)について、図面を用いて説明する。
<脱進機の構成>
図11は、本発明の実施形態2である携帯用時計(例えば腕時計)における脱進機501を示す斜視図である。図12A〜図12Eは脱進機501の動作を示す平面図であり、図12Aは入爪555によりがんぎ車510を停止した状態、図12Bは入爪555ががんぎ車510の歯511から離れる直前の状態、図12Cは入爪555ががんぎ車510の歯511から離れてがんぎ車510が回転し、アーム部557ががんぎ車510の凸部材513(トルク付与部材)に接触している状態、図12Dはアーム部557ががんぎ車510の凸部材513から離れる直前の状態、図12Eは出爪556によりがんぎ車510を停止した状態、をそれぞれ表す。
図示の脱進機501は、図11に示すように、がんぎ車510とアンクル550と振り石560とを備えたスイスレバー式の脱進機である。なお、がんぎ車510は、アンクル550以外の他の回転体等に対してトルクを付与することがないため、脱進機501は、実施形態1の脱進機1と同様に、例えばコアクシャル(同軸)脱進機のようにがんぎ車がアンクル以外の、てんぷ等の他の回転体に対してトルクを付与するものに比べて、駆動するために必要なトルクが小さい。
(振り石)
振り石560は、実施形態1の振り石60と同じである。
(がんぎ車)
がんぎ車510は、シリコン製であり、例えば、DeepRIE(深堀反応性イオンエッチング)プロセスで形成されている。がんぎ車510は、輪列を介して付与された駆動力(エネルギ、トルク)により、軸心C1回りに図示の時計回り方向R1に回転する。がんぎ車510は軸心C1側の中心部に近い内輪部510a、中心部から遠い外輪部510b及び内輪部10aと外輪部10bとを繋ぐ、放射状に延びた4つのリンク部510cを備えている。また、がんぎ車510は、外輪部510bから外方に延び、先端が回転方向(時計回り方向R1)に傾斜して形成された複数の歯511を、軸心C1回りの周方向に沿って等角度間隔に備えている。
図11に示したがんぎ車510は、例えば15個の歯511を備えている。がんぎ車510の歯511の数は、本実施形態の15個に限定されるものではなく、15個より多くてもよいし、15個より少なくてもよい。
がんぎ車510は、アンクル550の位置に応じて、歯511の回転方向R1に向いた面(以下、回転前面という。)512aが入爪555の停止面555a又は出爪556の停止面556aに当たることで、その回転が停止される。
また、がんぎ車510は、アンクル550の位置に応じて、歯511の、がんぎ車510の半径方向の外方に向いた面(以下、外周面という。)512bが、出爪556の半径方向の外方を向いた面(以下、衝撃面という。)556bに接する。そして、がんぎ車510の回転により、外周面512bやその端部の角部が衝撃面556bを押すことで、がんぎ車510から出爪556を通じてアンクル550にトルクを付与する。
一方、歯511の外周面512bは入爪555の外方を向いた面(以下、外周面という。)555bには接しない。したがって、がんぎ車510は、入爪555を通じてアンクル550にトルクを付与しない。歯511の外周面512bが入爪555の外周面555bに接しないのは、後述するように、外周面555bの傾斜方向が、従来のアンクルにおける入爪の外周面とは傾斜方向が反対になっているためである。
従来のアンクルにおける入爪の外周面は、出爪556の衝撃面556bと同じ方向に傾斜していて、がんぎ車510の回転により、外周面512bやその端部の角部が入爪の外周面を押すことで、がんぎ車510から入爪を通じてアンクル550にトルクを付与している。したがって、従来の脱進機における入爪の外周面は、がんぎ車510からトルクを受ける衝撃面となっている。
また、がんぎ車510は、外輪部510bの、各歯511には、本発明におけるトルク付与部の一例としての凸部材513が形成されている。凸部材513は歯511と同じ数の15個である。
凸部材513は、がんぎ車510の、軸心C1に直交する端面514から軸心C1方向に突出した三角柱状で、歯511の外周面512bに達する位置まで形成されている。なお、凸部材513は、歯511の外周面512bよりも半径方向の外側に突出していてもよいし、外周面512bよりも半径方向の内側に引っ込んでいてもよい。凸部材513は、歯511から出爪556とは別の経路で、がんぎ車510からアンクル550にトルクを付与するが、詳細は後述する。
(アンクル)
アンクル550は、がんぎ車510と同様にシリコン製であり、例えばDeepRIEプロセスで形成されている。アンクル550は、がんぎ車510の回転を、てんぷの振動のタイミングに対応した所定の周期で停止させ、また、回転するがんぎ車510からトルクを受け、そのトルクをてんぷに伝達する。
アンクル550は、図11に示すように、サオ551の一方の端部にウデ552が交差して略T字状に形成されている。サオ551とウデ552とが交差する部分にアンクル真554が設けられていて、アンクル550は、アンクル真554の軸心C2を中心として回転自在に形成されている。
サオ551の、ウデ552とは反対側の端には、振り石560が嵌め合わされる空間であるハコ553が形成されている。そして、往復動する振り石560がハコ553に進入してハコ553を形成する側壁を押すことでアンクル550にトルクを与え、アンクル550は軸心C2回りに、図示の時計回り方向R1と反時計回り方向R2とに揺動する。
アンクル550の揺動する角度を所定の範囲に規制するために、アンクル550が所定の角度だけ揺動したとき、サオ551の側面に当たってアンクル550の動きを規制する2つのドテピン581,582が設けられている。一方のドテピン582は、アンクル550の時計回り方向R1への揺動を規制し、他方のドテピン581は、アンクル550の反時計回り方向R2への揺動を規制している。
ウデ552には、出爪556、入爪555及び第3の爪557(トルク受け部材の一例であり、以下、アーム部557という。)が形成されている。入爪555及びアーム部557は、軸心C2を挟んで、出爪556の反対側に形成されている。入爪555、出爪556、アーム部557、ウデ552及びサオ551は一体に成形されている。
アーム部557は、軸心C2から見て入爪555の外側に形成されている。アーム部557は、円弧状に湾曲した形状であり、その先端部557aは、軸心C2から入爪555の外周面555bまでの距離よりも長い位置まで延びている。アーム部557は、入爪555や出爪556よりも軸心C2方向の厚さが薄く形成されていて、がんぎ車510の歯511には接触せず、凸部材513にのみ接触する。
先端部557aは、がんぎ車510の凸部材513に接触して、がんぎ車510の回転により凸部材513に押されて、アンクル550を時計回り方向R1に回転させるトルクを受ける。アーム部557は、本発明におけるトルク受け部材の一例である。
アンクル550は、軸心C2回りに揺動する方向に応じて、入爪555と出爪556とが交互にがんぎ車510の歯511に噛み合ってがんぎ車510の回転を停止させ、また、入爪555と出爪556とが歯511から離れてがんぎ車510の停止状態を解除させて回転を再開させる。つまり、アンクル50は、がんぎ車510の回転と停止とを切り替えて、がんぎ車510を一定の時間間隔で断続的に回転させる。
入爪555ががんぎ車510の回転を停止させるときは、アンクル550が反時計回り方向R2に回転して、入爪555の停止面555aが、がんぎ車510の歯511の回転前面512aに当たる。この状態から、アンクル550が時計回り方向R1に回転して、入爪555ががんぎ車510の歯511から外れると、がんぎ車510の停止が解除されてがんぎ車510は回転を再開する。
一方、出爪56ががんぎ車510の回転を停止させるときは、アンクル550が時計回り方向R1に回転して、出爪556の停止面556aが、がんぎ車510の歯511の回転前面512aに当たる。この状態から、アンクル550が反時計回り方向R2に回転して、出爪556ががんぎ車510の歯511から外れると、がんぎ車510の停止が解除されてがんぎ車510は回転を再開する。
また、出爪556ががんぎ車510の歯511から外れてがんぎ車510が回転を再開するとき、前述したように、歯511の外周面512bが出爪556の衝撃面556bを押して、がんぎ車510から出爪556を通じてアンクル550に、揺動させるトルクを付与する。アンクル550に付与されたトルクにより、ハコ553を形成する側壁が振り石560を押すことで、てんぷにトルクを付与する。
入爪555ががんぎ車510の歯511から外れてがんぎ車510が回転を再開するときは、歯511の外周面512bは、入爪555の外周面555bに接触しないため、がんぎ車510から入爪555を通じてアンクル550にトルクは付与されない。
つまり、出爪556は、がんぎ車510の回転の停止と回転停止の解除(回転)とを切り替えるとともに、がんぎ車510からトルクを受けるが、入爪555は、がんぎ車510の回転の停止と回転停止の解除(回転)とを切り替えるだけであり、がんぎ車510からトルクを受けない。なお、入爪555及び出爪556は、がんぎ車510の歯511には接触するが凸部材513には接触しない。
アーム部557は、入爪555が歯511から離れてがんぎ車510が回転を再開してから出爪556が歯511に接触してがんぎ車510が停止するまでの間に、アーム部557の先端部557aは、がんぎ車510の凸部材513に接触する。これにより、アンクル550は、がんぎ車510の回転に伴って動く凸部材513から、時計回り方向R1に押されてトルクを受ける。アーム部557が受けたトルクは、アンクル550のハコ553を形成する側壁が振り石560を押し、てんぷにトルクを付与する。
なお、アーム部557の先端部557aが接触する凸部材513は、がんぎ車510を停止するために入爪555が接触していた歯511に対して、がんぎ車510の回転方向R1に沿って2つ後方の歯511に形成された凸部材513である。ただし、アーム部557の先端部557aが接触する凸部材513は、入爪555が接触していた歯511に対して、がんぎ車510の回転方向R1に沿って2つ後方の歯511に形成されたものに限定されず、1つ後方の歯511に形成されたものであってもよいし、3つ以上後方の歯511に形成されたものであってもよい。
先端部557aが接触する凸部材513を、軸心C2からの距離が長い凸部材513に設定することで、アンクル550に伝達されるトルクのトルク比を高め、トルクの伝達効率を向上させることができるが、軸心C2からの距離が長くなるほど、接触期間を長く確保するために凸部材513の接触面(後述する前面513a)を長くする必要がある。
アーム部557には、入爪555や出爪556のように、回転しているがんぎ車510の歯511に当ててがんぎ車510の回転を停止させるような衝撃力が加わることがない。したがって、アーム部557は、入爪555や出爪556ほどの太さ(がんぎ車510の回転方向R1に沿った寸法)は必要なく、入爪555や出爪556よりも細く形成されている。なお、アーム部557は、出爪556が歯511に接触してがんぎ車510を停止してから、入爪555が歯511から離れてがんぎ車510の回転が再開するまでの期間中は、凸部材513に一切接触しないような形状に形成されている。
<脱進機の作用>
次に、本実施形態の携帯用時計における脱進機501の作用について説明する。まず、脱進機501は、図12Aに示すように、アンクル550の入爪555の停止面555aがんぎ車510の歯511の回転前面512aに当たって、がんぎ車510の回転を停止している。
ここから、てんぷの振動により、振り石560が軸心C3回りの反時計回り方向R2に回転し、振り石560がアンクル550のハコ553の側壁を押すことで、アンクル550が、図12Bに示すように、軸心C2回りの時計回り方向R1に回転する。これにより、入爪555が歯511から外れ始め、振り石560の回転が進むにしたがってアンクル550の回転も進む。なお、入爪555が歯511に接触してがんぎ車510の回転が停止している間(図12A,図12B参照)は、アーム部557の先端部557aは、がんぎ車510の凸部材513に接触していない。
そして、図12Cに示すように、入爪555が歯511から外れると、がんぎ車510は回転停止が解除されて、時計回り方向R1に回転を再開するが、がんぎ車510が回転している間、入爪555の外周面555b(従来のアンクルにおいて入爪の衝撃面に相当する面)は、歯511の外周面512bに一切接触しない。
がんぎ車510が回転すると、回転直後から、入爪555に接触していた歯511よりも回転方向R1の後方2つ目の歯511に形成された凸部材513が、アーム部557の先端部557aに接触する。具体的には、凸部材513の三角柱の周面のうち回転方向R1に向いた前面513aが、アーム部557の先端部557aに接触する。
そして、図12Dに示すように、がんぎ車510の時計回り方向R1への回転が進む間、前面513aがアーム部557の先端部557aを、入爪555が歯511から外れたときのアンクル550の時計回り方向R1にアンクル550を回転させるように押す。アンクル550は、がんぎ車510からトルクを受けて振り石560を押し、てんぷを反時計回り方向R2に回転させるトルクを付与し、てんぷが備えるひげぜんまいにエネルギを付与する。
図12Eに示すように、がんぎ車510の時計回り方向R1への回転がさらに進むと、前面513aがアーム部557の先端部557aから外れ、がんぎ車510からアーム部557を通じてのアンクル550へのトルクの付与が終わる。その後、図12Eに示すように、出爪556の停止面556aが歯511の回転前面512aに接触してがんぎ車510の回転を停止させ、アンクル550は、サオ551がアンクル550の反時計回り方向R2への回転を規制するドテピン582に当たって、回転が停止する。
以下、てんぷの振動によって振り石560の回転の向きが時計回り方向R1に切り替わり、アンクル550が軸心C2回りに反時計回り方向R2に回転して、出爪556の停止面556aが歯511の回転前面512aから外れ、がんぎ車510の回転停止が解除されてがんぎ車510は、時計回り方向R1への回転を再開する。
がんぎ車510の回転が再開すると、出爪556によって止められていた歯511の外周面512bが、出爪556の衝撃面556bに接しながら回転することで、アンクル550を反時計回り方向R2に回転させるトルクを、出爪556に付与する。アンクル550は、このように、がんぎ車510からトルクを受けて振り石560を押し、てんぷを時計回り方向R1に回転させるトルクを付与し、てんぷが備えるひげぜんまいにエネルギを付与する。
がんぎ車510の時計回り方向R1への回転がさらに進むと、歯511の外周面512bが出爪556の衝撃面556bから外れ、がんぎ車510から出爪556を通じてのアンクル550へのトルクの付与が終わる。
その後、図12Aに示すように、入爪555の停止面555aが歯511の回転前面512aに接触してがんぎ車510の回転を停止させ、アンクル550は、サオ551がアンクル550の時計回り方向R1への回転を規制するドテピン581に当たって回転が停止する。以下、脱進機1は上述した一連の動作を繰り返す。
このように、本実施形態の脱進機501によれば、アンクル550は、軸心C2からの距離が、入爪555の、がんぎ車510と接触する部分までより長い距離の、アーム部557の先端部557aで、がんぎ車510からトルクを受けるため、がんぎ車510からアンクル550で受けるトルクのトルク比を大きくすることができ、がんぎ車510からアンクル550へのトルクの伝達効率を向上させることができる。つまり、脱進機501は一般的なスイスレバー方式の脱進機に比べて、トルクの伝達効率を高めることができる。
また、本実施形態の脱進機501は、入爪555に代わってがんぎ車510からトルクを受けるアーム部557の先端部557aは、アンクル550を、入爪555ががんぎ車510の歯511から外れる際のアンクル550の回転方向と同じ方向に回転させるトルクを受けるように、出爪556よりも入爪555に近い側に配置されているため、入爪555が歯511から外れたときのアンクル550の回転を阻害せずに、がんぎ車510からアーム部557にトルクを付与することができる。
図13Aは、アーム部557でトルクを受ける脱進機501の、アンクル550の時計回り方向R1に関する、てんぷの回転角度に対するトルク比(てんぷのトルク/がんぎ車のトルク)を示したグラフであり、図13Bは、比較例である、入爪の衝撃面でトルクを受けていた従来の脱進機の、アンクルの時計回り方向R1に関する、てんぷの回転角度に対するトルク比を示したグラフである。なお、図13A及び図13Bにおけるてんぷの回転角度が0[°]の位置は、てんぷの振動中心に対応している。
本実施形態の脱進機501は、図13Aに示すように、てんぷの回転角度が負の範囲で、かつトルク比が正の範囲、すなわち、てんぷの回転角度のθ2[°]から0[°]までの範囲は、時計を進める方向に作用するトルク比(+で表記)となる。
一方、てんぷの回転角度が負の範囲で、かつトルク比が負の範囲、すなわち、てんぷの回転角度のθ1[°]からθ2[°]までの範囲は、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記)となる。また、てんぷの回転角度が正の範囲で、かつトルク比が正の範囲、すなわち、てんぷの回転角度の0[°]からθ3[°]までの範囲も、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記)となる。
実施形態の脱進機501のトルク比(図13A参照)と比較例の脱進機のトルク比(図13B参照)とを比較すると、実施形態の脱進機501は、比較例の脱進機に比べて、正となるトルク比の面積(図において斜線を付した部分)が増大し、がんぎ車510からアンクル550へのトルクの伝達効率が向上することが実証された。
また、実施形態の脱進機501は、比較例の脱進機に比べて、時計を遅らせる方向に作用するトルク比(−で表記した面積)に対する、時計を進める方向に作用するトルク比(+で表記した面積)の割合が増大し、正負の面積が均等になる方向に近づき、脱進機1の誤差を低減することができる。
また、入爪でトルクを受ける比較例の場合、がんぎ車510の歯511から衝撃面でトルクを受けている期間中に、歯511との接触形態が変化(面接触から角による線接触に変化)することで、図13Bに示すように、回転角度θ4[°]において、受けるトルクが急激に変動してトルク値の不連続が生じるが、トルクを受けている期間中、がんぎ車510の凸部材513とアーム部557の先端部557aとの接触形態が変化しない本実施形態の脱進機501では、アンクル550が受けるトルクは連続し、急激にトルク値が変動するのを避けることができる。
図14Aは、アーム部557の先端部557aと凸部材513の前面513aとが、接触しながら相対移動する部分の詳細を示す図である。図14Bは、比較例である、入爪555の衝撃面555b′でトルクを受けていた従来の脱進機の、衝撃面555b′と外周面512bとが、接触しながら相対移動する部分の詳細を示す図である。
図14Aに示すように、本実施形態の脱進機501は、アーム部557の先端部557aと凸部材513の前面513aとが接触しながら相対移動する部位においては、時計回り方向R1に回転するがんぎ車510の移動方向V1(時計回り方向R1の接線方向)と、時計回り方向R1に回転するアンクル550の移動方向V2(時計回り方向R1の接線方向)とが交差する角度αは略60[°]である。アーム部557は、がんぎ車510の歯511の回転を停止させる機能を有しないため、回転するがんぎ車510を確実に停止させる目的でがんぎ車510の回転方向R1に対して略垂直な方向に移動する必要がない。
一方、図14Bに示すように、比較例の脱進機は、入爪555の衝撃面555b′と歯511の外周面512bとが接触しながら相対移動する部分においては、時計回り方向R1に回転するがんぎ車510の移動方向V3(時計回り方向R1の接線方向)と、時計回り方向R1に回転するアンクル550の移動方向V4(時計回り方向R1の接線方向)とが交差する角度βは略90[°]である。
つまり、アーム部557の先端部557aと凸部材513の前面513aとが互いに接触する部位におけるがんぎ車510の移動方向V1とアンクル550の移動方向V2とが交差する角度αは、比較例の入爪555の衝撃面555b′と歯511の外周面512bとが互いに接触する部位におけるがんぎ車510の移動方向V3とアンクル550の移動方向V4とが交差する角度βよりも小さい。
一般的に、接触する2つの部材が相対的に動く場合、交差角度が小さくなるにしたがって、接触部分で受け渡されるトルクに対する摩擦力の影響は低下する。また、摩擦力は接触部分の表面の状態(摩擦係数)に依存し、表面の状態は経年により一般的には悪化するため、経年により摩擦係数は増加する傾向にある。
つまり、経年による表面の状態の変化により摩擦力が増加したとき、比較例の角度βより小さい角度αで交差している本実施形態の脱進機501は、比較例に比べて、摩擦力の増大による影響を受け難く、トルクの伝達効率の低下の程度を少なくすることができる。
本実施形態の脱進機501は、角度αが略60[°]であるが、本発明の脱進機における上記角度αは、略60[°]に限定されるものではなく、本発明が適用されない従来の脱進機における、がんぎ車の歯の外周面とアンクルの入爪の衝撃面とが接触している部位でのがんぎ車の回転方向とアンクルの回転(揺動)する方向とが交差する角度よりも小さければよく、例えば60[°]以下の角度であってもよいし、例えば60[°]を超える角度であってもよい。
また、本実施形態の脱進機501は、がんぎ車510に設けられた凸部材513が、がんぎ車510の端面514から軸心C1方向に突出して形成されているため、凸部材513が入爪555や出爪556と接触するのを回避することができる。
さらに、凸部材513が、がんぎ車510の端面514から突出して形成されていることにより、入爪555や出爪556との接触を回避するための凸部材513の形状や配置に大きな制約を受けたりするのを回避することもできる。
また、本実施形態の脱進機501は、入爪555が停止面555aでのみがんぎ車510と接触し、外方を向いた外周面555bではがんぎ車510と接触しないため、つまり、入爪555は、がんぎ車510を停止させる面(停止面555a)でのみがんぎ車510と接触するため、入爪555はがんぎ車510の回転停止と回転停止の解除(回転)とを切り替える機能のみを発揮するものとすればよい。
一方、アーム部557は、がんぎ車510の回転停止と回転停止の解除とを切り替える機能を有さず、がんぎ車510からトルクを受ける機能のみを発揮するものとすればよい。これにより、本実施形態の脱進機501は、入爪555とアーム部557とで機能を分離して、それぞれを最適な形状にすることができる。
<変形例>
実施形態の脱進機501は、アンクル550が例えばシリコンで一体に形成されたものであるが、シリコンに限らず金属等で形成されたものであってもよい。また、本発明に係る脱進機は、入爪555、出爪556及びアーム部557などが、アンクル550の本体であるサオ551及びウデ552とは別材料の石等で形成されたものであってもよい。
実施形態の脱進機501における凸部材513は、三角柱状に形成されたものであるが、本発明に係る脱進機における凸部材は、三角柱状の形態のものに限定されず、四角柱状のものであってもよいし、他の形状のものであってもよい。また、凸部材513は、角柱状などの塊の部材でなくてもよい。すなわち、少なくとも、アーム部557の先端部557aと接触して、アーム部557にトルクを付与し得る面(前面513a)さえ備えていればよく、強度面での制約が無ければ、そのようなトルクを付与し得る面を有する薄板状のものであってもよい。
実施形態の脱進機501は、アーム部557が円弧状に湾曲した形状で形成されたものであるが、アーム部557は直線状に形成されたものであってもよい。
図15Aは、図11に示した実施形態の脱進機501におけるアーム部557を、直線状に形成されたアーム部657に代えた変形例の脱進機601を示す、図11相当の斜視図である。この脱進機601も、本発明に係る脱進機の一実施形態である。
図11に示した脱進機501は、アーム部557が凸部材513と同じ高さ位置(軸心C1方向に沿った位置)に形成されていたが、図15Aの脱進機601は、アーム部657が、アンクル650のサオ551、ウデ552、入爪555及び出爪556からなるアンクル本体よりも、高さ方向(軸心C1方向)に突出して形成されている。そして、アーム部657の本体部657bは、がんぎ車510の凸部材513よりも高い位置であるため、本体部657bは凸部材513に接触しない。
本体部657bの先端には、高さ方向の下方に突出した、例えば円柱状の突出部657aが形成されている。そして、この突出部657aの周面が、脱進機501のアーム部557における先端部557aと同様に、入爪555が歯511から離れてから出爪556が歯511に接触するまでの間にがんぎ車510の凸部材513の前面513aに接触して、がんぎ車510からトルクを受ける。
これにより、変形例の脱進機601によっても、図11に示した脱進機501と同様の作用効果を得ることができる。
また、アーム部657の本体部657bは凸部材513よりも高い位置に配置されるため、図11に示した脱進機501のアーム部557に比べて、凸部材513や歯511に接触しない本体部657bの形状を選択する自由度が高く、設計の自由度を高めることができる。
図15Bは、図15Aに示した変形例の脱進機601におけるアーム部657を長くしたアーム部757に代えるとともに、このアーム部757の突出部757aの周面と接触する対象となる凸部材が変わったことにより、凸部材513を、形状の異なる凸部材813に代え、さらに、歯511も形状を変えた歯811に代えた変形例の脱進機701を示す、図15A相当の斜視図である。この脱進機701も、本発明に係る脱進機の一実施形態である。
図15Aに示した脱進機601は、アーム部657の突出部657aが、入爪555が接触していた歯511に対して、がんぎ車510の回転方向R1に沿って2つ後方の歯511に形成された凸部材513の前面513aに接触して、アンクル650がトルクを受ける構成であるが、図15Bに示した脱進機701は、アーム部757の突出部757aが、入爪555が接触していた歯811に対して、がんぎ車810の回転方向R1に沿って3つ後方の歯811に形成された凸部材813の前面813aに接触して、アンクル750がトルクを受ける構成である。
このように構成された変形例の脱進機701によっても、図15Aに示した脱進機601と同様の作用効果を得ることができる。なお、脱進機701における凸部材813の形状が脱進機601における凸部材513の形状と異なるのは、アンクル750のアーム部757の突出部757aが接触する対象の凸部材の位置が異なるためである。また、脱進機701におけるがんぎ車810の歯811の形状が脱進機601におけるがんぎ車510の歯511の形状と異なるのは、凸部材813の形状が凸部材513の形状と異なるためである。
実施形態及び各変形例における凸部材513,813は、歯511又は歯811に形成されているが、凸部材513,813は、2つの歯511,511又は2つの歯811,811の間に形成されていてもよい。また、凸部材513,813は、歯511又は歯811と一体に形成されなくてもよい。
凸部材513,813は、上述した実施形態や各変形例で示した三角柱状の形態に限定されず、適宜の形状を採り得る。つまり、凸部材513,813は、アーム部557,657,757の先端部557a又は突出部657a,757aと接触する前面513a,813aが確保されていればよく、接触に対する強度があれば、前面513a,813aを有する薄板状に形成されていてもよい。
図16は、図11に示した脱進機501の変形例であり、脱進機501のアンクル550に代えて別のアンクル550′を備えた構成の脱進機501′を示す図12A相当の図である。ここで、アンクル550は、図12Aに示すように、ウデ552がサオ551に対して直交する程度に交差した形状である。すなわち、サオ551の中心線Laとウデ552の中心線Lbとが交差する角度θaは90[°]に近い角度である。
一方、脱進機501′のアンクル550′は、図16に示すように、ウデ552′がサオ551′に対して90度よりも小さい角度で交差した形状である。すなわち、サオ551′の中心線La′とウデ552′の中心線Lb′とが交差する角度θa′は90[°]の半分の45[°]程度である。そして、アンクル550′は、ウデ552′の出爪556′側がサオ551′に近づいたように傾いた形状となっている。つまり、アンクル550′は、ウデ552′の、出爪556′とは反対側に形成されているアーム部557′がサオ551′から遠ざかる方向に傾いた形状である。
アンクル550のウデ552には、入爪555よりも外側に、寸法の長いアーム部557が形成されているため、アンクル550の回転中心であるアンクル真554の軸心C2に対して、重量バランスが入爪555側に偏っている。したがって、アンクル550の全体としても、重心の位置がアンクル真554の軸心C2から入爪555の側にずれる。
ここで、アンクル550′も、ウデ552′の重心は入爪555′の側に偏るが、アンクル550′の全体では、入爪555′の側にずれたウデ552′の重心は、アンクル真554の軸心C2を挟んで反対側に形成されているサオ551′の重量と相殺される方向に位置するため、アンクル550′の全体の重心を、アンクル真554の軸心C2に近づけることができる。したがって、脱進機501′は脱進機501に比べて、アンクル550′の軸心C2回りの揺動(振動)の減衰を抑制することができる。
上述した実施形態1の脱進機1は、がんぎ車10がトルク付与部材の一例として凸部材13を備え、アンクル50がトルク受け部材の一例として第3の爪58を備えた構成であり、実施形態2の脱進機501は、がんぎ車510がトルク付与部材の一例として凸部材513を備え、アンクル550がトルク受け部材の一例としてアーム部557を備えた構成であるが、本発明に係る時計の脱進機は、脱進機1と脱進機501とを組み合わせた構成とすることもできる。
すなわち、アンクルは、入爪と出爪との間に、第1のトルク受け部材として第3の爪を備えるとともに、入爪よりも外側に、第2のトルク受け部材としてアーム部を備え、がんぎ車は、一方の面側に、第3の爪にトルクを付与する第1のトルク付与部材として第1の凸部材を備えるとともに、他方の面側に、アーム部にトルクを付与する第2のトルク付与部材として第2の凸部材を備え、これらアンクルと脱進機とを備えた構成の脱進機は、脱進機1と脱進機501とを組み合わせた脱進機であり、本発明に係る時計の脱進機の一例である。
関連出願の相互参照
本出願は、2015年8月25日に日本国特許庁に出願された特願2015−165649及び2015年11月26日に日本国特許庁に出願された特願2015−230669に基づいて優先権を主張し、その全ての開示は完全に本明細書で参照により組み込まれる。