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JP6382860B2 - Ni基合金軟化材、これを用いたNi基合金部材、ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼、ガスタービンディスク及びNi基合金構造物の製造方法。 - Google Patents

Ni基合金軟化材、これを用いたNi基合金部材、ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼、ガスタービンディスク及びNi基合金構造物の製造方法。 Download PDF

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Description

本発明は、Ni基合金軟化材に係り、特に、Ni基合金部材の製造過程における優れた加工性と、Ni基合金部材の優れた高温強度を両立させることができるNi基合金軟化材と、これを用いたNi基合金部材、ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼、ガスタービンディスク及びNi基合金構造物の製造方法に関する。
燃焼温度の高温化によるガスタービンの高効率化を目指して、タービン部品の耐熱温度の向上が求められている。このためガスタービン部品には、高温強度に優れる材料として、Ni基合金がタービンディスクや動静翼、さらには燃焼器まで幅広く用いられている。Ni基合金は、W,Mo,Co等の固溶強化元素添加による固溶強化や、Al,Ti,Nb,Ta等の析出強化元素添加による析出強化により、高い高温強度を実現している。析出強化型のNi基合金では、析出強化相であるγ´相(L12構造)の格子が母相のγ相(FCC構造)の格子と連続性を持って析出し、整合界面を形成することで強化に寄与する。従って、高温強度を向上させるには、γ´相の量を増加させれば良いが、γ´相の量が多いほど加工性が悪化する。このため、高強度材ほど大型鍛造品の作製が困難であったり、鍛造時の欠陥発生率上昇等により、鍛造が出来ないという問題がある。
Ni基合金の高温強度と熱間鍛造性とを両立させる技術として、特許文献1(特開2011‐52308号公報)に記載のものがある。特許文献1には、質量基準でC:0.001〜0.1%、Cr:12〜23%、Co:15〜25%、Al:3.5〜5.0%、Mo:4〜12%、W:0.1〜7.0%を含み、Ti、Ta及びNbの含有量の総和が質量基準で0.5%以下であり、式(1)(Ps=−7×(C量)−0.1×(Mo量)+0.5×(Al量))で表されるパラメータPsが0.6〜1.6であることを特徴とするNi基合金が開示されている。
特開2011‐052308号公報
γ´相の固溶温度が1050℃以上である高強度Ni基合金の熱間鍛造は、通常1000〜1250℃の範囲で行われる。これは、加工温度をγ´相の固溶温度付近またはそれ以上まで上げることで、強化因子であるγ´相の析出量を減らし、変形抵抗を減少させるためである。しかしながら、固溶温度付近またはそれ以上の温度で鍛造する場合、鍛造温度が被加工材の融点と近くなるため、部分溶融等により加工割れが生じやすい。加えて、γ´相の固溶温度が上述のように高い材料では、固溶温度以上で熱間鍛造すると、粒界移動を抑制し結晶粒の微細化に寄与するγ´相が消失するため、γ相の粒径が粗大化し、製品使用時の引張強度や疲労強度が低下する。
本発明の目的は、上記事情に鑑み、γ´相を多量に含有する析出強化型のNi基合金部材の製造過程における優れた加工性及びNi基合金部材の優れた高温強度を両立させることができるNi基合金軟化材と、これを用いたNi基合金部材、ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼、ガスタービンディスク及びNi基合金構造物の製造方法を提供することにある。
本発明は、Ni基合金の組成が、質量%で、10%以上25%以下のCr、30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物からなり、室温のビッカース硬さが400以下であり、900℃の0.2%耐力が250MPa以下であることを特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材を提供する。
本発明によれば、固溶温度が1050℃以上である高強度Ni基合金において、軟化処理工程後に室温のビッカース硬さが400以下であり、900℃の0.2%耐力が250MPa以下であるNi基合金軟化材を得ることで加工性を大幅に向上することができ、かつ製品使用時には従来材と同等以上の優れた高温強度を実現可能なNi基合金軟化材を提供することができる。
また、本発明に係るNi基合金軟化材を用いて製造されたNi基合金部材を用いることで、様々な形状を有する製品(ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼、ガスタービンディスク及びNi基合金構造物)を容易に製造することができる。
本発明に係るNi基合金部材の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。 図1の軟化処理工程の温度プロファイル及び結晶組織を模式的に示す図である。 γ相とγ´相の整合界面を示す模式図である。 γ相とγ´相の非整合界面を示す模式図である。 図1の溶体化‐時効処理工程の温度プロファイル及び結晶組織を模式的に示す図である。 本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材の一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金製薄板の一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を摩擦撹拌接合して得られたNi基合金構造物の一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするボイラーチューブの一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とする燃焼器ライナーの一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするガスタービン動翼の一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするガスタービンディスクの一例を示す模式図である。 本発明に係るNi基合金部材の製造方法の基本思想を説明する模式図である。
以下、本発明に係る実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
[本発明の基本思想]
本発明者らは、上記目的を達成することが可能なNi基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法について、鋭意検討を行った。その結果、母相であるγ相に対して非整合に析出したγ´相(以下、非整合γ´相と称する)は強化に寄与しないことに着目し、鍛造時には非整合γ´相の量を増加させることで、γ相に対して整合に析出したγ´相(以下、整合γ´相と称する)の析出量を減少させると同時に、主にγ相と非整合γ´相とからなる微細な二相組織とすることで、鍛造時の加工性を大幅に向上させることができることを見出した。さらに、この状態で所望の形状に加工を行った後に、溶体化‐時効処理を行うことによって、非整合γ´相を減少させ整合γ´相を再度析出させることで、製品使用時の優れた高温強度を実現できることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
以下に、本発明の基本思想についてより詳細に説明する。図6は本発明に係るNi基合金部材の製造方法の基本思想を説明する模式図である。図6では本発明に係るNi基合金部材の製造工程について、材料組織に着目して説明する。
図6の(I)に示すように、鋳造工程後又は鍛造工程後のNi基合金は、母相であるγ相と、γ相に対して整合に析出した整合γ´相とを含む。このNi基合金に対して、γ´相の固溶温度以下かつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上の温度で熱間鍛造し、(II)に示すように非整合γ´相を析出させる(第1の軟化処理工程)。次に、γ´相の固溶温度以下でかつ上記熱間鍛造の完了温度以上の温度から徐冷し、(III)に示すように非整合γ´相を成長させ、非整合γ´相の量を増加させる(第2の軟化処理工程)。このとき、非整合γ´相は強化に寄与せず、また主にγ相と非整合γ´相からなる微細な二相組織を形成しているため靱性も高いことから、非常に加工しやすい状態(軟化状態)となっている。この軟化状態で、γ´相の固溶温度以下の温度でNi基合金を所望の形状に成形する加工工程を行う。上記加工工程後、溶体化処理を行うことで非整合γ´相を再固溶させ、その後時効処理を行うことで(IV)に示すように整合γ´相を析出させる(溶体化‐時効処理工程)。このとき、強化に寄与する整合γ´相が多量に析出しているため、高強度状態となっている。
上述したように、本発明は、γ´相を減少または消失させた状態で加工するのではなく、γ´相の強化機能をなくすことで加工性を向上させるものである。上記製造工程によれば、加工時には材料を軟化させて加工性を大幅に向上することができ、使用時(製品完成時)には従来と同等以上の高温強度を有するNi基合金部材を得ることができるNi基合金軟化材及びNi基合金部材を得ることができる。
なお、本発明における「整合γ´相」及び「非整合γ´相」について説明する。図3Aはγ相とγ´相の整合界面を示す模式図であり、図3Bはγ相とγ´相の非整合界面を示す模式図である。図3Aに示すように、γ相を構成する原子7とγ´相を構成する原子8とが整合界面9を構成(格子整合)する場合、このγ´相を「整合γ´相」と称する。また、図3Bに示すように、γ相を構成する原子7とγ´相を構成する原子8とが非整合界面10を構成(格子不整合)する場合、このγ´相を「非整合γ´相」と称する。
[Ni基合金部材の製造方法]
次に、本発明に係るNi基合金の製造工程について説明する。図1は本発明に係るNi基合金部材の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。図1に示すように、本発明に係るNi基合金部材の製造方法は、素材であるNi基鋳造合金又は鋳造後に鍛造することで得られるNi基鍛造合金のいずれかを得るための素材準備工程(S1)と、Ni基合金素材を軟化処理してNi基合金軟化材を得る軟化処理工程(S2)と、Ni基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程(S4)と、加工工程後に溶体化処理及び時効処理してNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程(S5)とを含む。また、軟化処理工程(S2)は、第1の軟化処理工程(S21)と第2の軟化処理工程(S22)とを含む。さらに、加工工程(S4)は、最終形状にするまでに、軟化処理工程(S2)および複数の塑性加工法を繰り返し含んで良く、最終加工のみに限定するものではない。
なお、本発明において、素材準備工程(S1)を行って得られるものを「Ni基合金素材」と称し、軟化処理工程(S2)を行って得られる物を「Ni基合金軟化材」と称し、溶体化‐時効処理工程(S5)を行って得られるものを「Ni基合金部材」と称する。また、Ni基合金軟化材を、摩擦撹拌接合等を用いて接合した後に、溶体化‐時効処理工程(S5)を行って得られるものを「Ni基合金構造物(Ni基合金溶接構造物)」と称する。また、本発明において、「Ni基合金」は、上記「Ni基合金素材」及び「Ni基合金軟化材」を含み、「Ni基合金軟化材」に対して、加工工程(S4)を1回又は複数回施したものも含むものとする。
以下、上記S1〜S5の工程について詳細に説明する。
(S1:素材準備工程)
Ni基合金の素材準備方法については特に限定はなく、従前の方法を用いることができる。具体的には、既製の鋳造後の合金や鍛造後の合金を用いて、次に説明する軟化処理工程以降の工程を行う。なお、Ni基合金素材の組成としては、γ´相の固溶温度が1050℃以上のものを用いる。この根拠については、追って詳述する。
(S2:軟化処理工程)
加工工程時の加工性を向上させる本発明のNi基合金軟化材の製造方法は、γ´相の固溶温度以下の温度で熱間鍛造する第1の軟化処理工程(S21)と、第1の軟化処理工程後のNi基合金をγ´相の固溶温度以下かつ上記熱間鍛造完了温度以上の温度から徐冷して非整合γ´相を増加させる第2の工程(S22)とを含む。
(S21:第1の軟化処理工程)
図2は図1の軟化処理工程の温度プロファイル及び材料組織を模式的に示す図である。
上述したように、第1の軟化処理工程では、Ni基合金素材を、γ´相の固溶温度以下の温度(T)で熱間鍛造する。この熱間鍛造の後に冷却すると、図2の(I)に示すように、γ相(符号4)の粒界上に非整合γ´相(符号6)が析出する。符号5で示した析出物は、第1の軟化処理工程後の冷却中にγ相粒内に析出した整合γ´相である。なお、本発明において「γ相の粒界上」とは、「隣り合うγ結晶粒の境界」を意味するものとする。
前述の通り、析出強化型のNi基合金の強化機構は、γ相とγ´相が整合界面(図3Aの符号9)を形成することで強化に寄与するというもので、非整合界面(図3Bの符号10)は強化に寄与しない。すなわち、非整合γ´相の量を増加させ、整合γ´相の量を減少させることで、加工工程時に優れた加工性を確保することが可能となる。従って、本発明の効果を得るためには、第1の軟化処理工程での熱間鍛造により非整合γ´相を析出させることが必須であることから、γ´相の固溶温度以下で、かつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上での熱間鍛造加工が実施可能なNi基合金でなければならない。従って、本発明に係るNi基合金素材のγ´相の固溶温度は、1050℃以上が最も好ましい。γ´相の固溶温度が1000〜1050℃でも本発明の効果は得られるが、1000℃以下では非整合γ´相が析出しにくく、950℃以下では非整合γ´相を析出させることができないため、本発明の効果は得られない。さらに、γ´相の固溶温度がNi基合金素材の融点に近づくと、部分溶融等により加工中に割れが生じるため、γ´相の固溶温度は1250℃未満が望ましい。
第1の軟化処理工程での鍛造温度Tは、前述の通りγ相の再結晶が迅速に進む温度以上である必要がある。より具体的には、1000℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましい。Tが950℃未満では、非整合γ´相を析出させることができなく、本発明の効果は得られない。なお、Tの上限温度については、前述の通りγ´相の固溶温度以下である。
(S22:第2の軟化処理工程)
第2の軟化処理工程では、γ´相の固溶温度以下でかつ前述の第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度以上の温度(T)まで昇温し、γ相中に析出した整合γ´相を固溶させることで、主にγ相と非整合γ´相からなる2相組織とし(図2(II))、その後、温度Tまで徐冷を行い、非整合γ´相を成長させることで、主に徐冷終了時の温度から室温までの冷却過程で析出する整合γ´相を減少させられるため、加工性を向上させることが出来る(図2(III))。このとき、徐冷速度(T/t)が遅いほど非整合γ´相を成長させることが可能で、50℃/h以下が好ましく、10℃/h以下がより好ましい。100℃/hより早いと、非整合γ´相を十分に成長させられず、冷却過程で整合γ´相が析出して、本発明の効果が得られない。ここで熱間鍛造完了温度とは、鍛造の最終段階で被鍛造材を保持した温度を示す。
第2の軟化処理工程の徐冷開始温度Tは、主にγ相と非整合γ´相からなる2相組織とするために、γ´相の固溶温度以下でかつ前記第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度以上の温度で行うことが好ましい。これは、第1の軟化処理工程の鍛造温度T1より低い場合、γ相粒内に整合γ´相が残存するからであり、γ´相の固溶温度以上では非整合γ´相が消失してしまうからである。ただし、徐冷開始温度T3が前述した第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度より100℃低くても本発明の効果は得られる。
上記第2の軟化処理工程において、前述の通り非整合γ´相を増加させるほど、加工性を向上させることが可能となるので、非整合γ´相の量は20体積%以上が好ましく、より好ましくは30体積%以上である。ここで、非整合γ´相の含有量の割合(体積%)は、母相と他の析出物を含む合金全体に対する割合(絶対量)である。本発明の効果を得るための非整合γ´相の量について、析出可能なγ´相の全総量に対して非整合γ´相の割合をどこまで増加させられかの相対量で決定するというもので、好ましくは全γ´相量の50体積%以上であり、より好ましくは全γ´相量の60体積%以上である。また、上記徐冷終了時の温度(T)は、非整合γ´相が上記の量析出する温度まで下げる必要があり、好ましくは1000℃以下で、より好ましくは900℃以下である。また、徐冷終了温度Tから室温までの冷却方法は、冷却中の整合γ´相の析出を抑えるために冷却速度は速いほど良く、空冷が好ましい。より好ましくは水冷である。
良好な加工性を得るためには、室温におけるビッカース硬さ(Hv)は400以下が好ましく、より好ましくは370以下であり、900℃における0.2%耐力は300MPa以下が好ましく、250MPa以下がより好ましく、200MPaが最も好ましい。
上記第2の軟化処理工程を行うことで、第2の軟化処理工程後に得られるNi基合金軟化材は、室温におけるビッカース硬さ(Hv)が400以下であり、900℃における0.2%耐力の値は250MPa以下のものを得ることができる。上述した軟化処理工程により、熱間加工時に問題となる加工温度下限を引き下げることができ、後述する加工工程において、γ´相の固溶温度より100℃以上低い温度で加工可能となる。
図2では、第1の軟化処理工程後に冷却し、第2の軟化処理工程を行っているが、第1の軟化処理工程後に冷却せず、第2の軟化処理工程を行ってもよい。
(S4:加工工程)
上記した軟化処理工程で軟化状態となったNi基軟化材について、加工を行う。このときの加工方法については、特に限定は無く、鍛造加工のみならず、他の塑性加工法や接合方法にも適用可能であり、上記軟化処理と組み合わせることで繰り返し加工を行うことができる。具体的には、プレス加工、圧延加工、引抜き加工、押出し加工、切削加工及び摩擦攪拌接合等が適用できる。さらに、上述した軟化処理工程と塑性加工法等を組み合わせることで、本発明に係る高強度Ni基合金を用いたボイラーチューブや燃焼器ライナー、さらにはガスタービン動翼やディスク等の火力発電プラント用部材の提供も可能となる。本発明で提供できるNi基合金部材又はNi基合金構造物の具体例については、追って詳述する。
(S5:溶体化‐時効処理工程)
図4は図1の溶体化‐時効処理工程の温度プロファイル及び材料組織を模式的に示す図である。所定形状に加工を施した後、非整合γ´相を固溶させ整合γ´相を再析出させる溶体化時効処理を施すことで、高温強度を回復させることが可能で、整合γ´相を700℃において30体積%以上析出させることが望ましい。
本発明において溶体化処理及び時効処理の条件については特に限定は無く、一般的に用いられている条件を適用することができる。
(Ni基合金部材の組成)
次に、本発明に係るNi基合金素材の組成について説明する。
本発明に係るNi基合金素材は、質量%で、10%以上25%以下のCr、0%以上30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものが好ましい。
より好ましい形態の1つは、質量%で、12.5%以上14.5%以下のCr、24%以上26%以下のCo、5.5%以上7%以下のTi、1.5%以上3%以下のAl、3.5%以下のMo、2%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
また、その他のより好ましい形態の1つは、質量%で、15%以上17%以下のCr、14%以上16%以下のCo、4%以上6%以下のTi、1.5%以上3.5%以下のAl、0.5%以下のFe、4%以下のMo、2%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
また、その他のより好ましい形態の1つは、質量%で15%以上17%以下のCr、7.5%以上9.5%以下のCo、2.5%以上4.5%以下のTi、NbとTaの総和が0.5%以上2.5%以下、1.5%以上3.5%以下のAl、3%以上5%以下のFe、4%以下のMo、4%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
以下に、添加元素の量比及び選択の根拠を示す。
Crは、耐酸化性や高温耐食性を向上させる元素である。高温部材へ適用するためには、少なくとも10質量%以上の添加は必須である。しかし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、25質量%以下とする。
Coは、添加により母相を強化する効果がある固溶強化元素である。さらに、γ´相の固溶温度を下げる効果もあり、高温延性を向上する。過剰な添加は有害相の生成を助長するため、30質量%以下とする。
Alは、析出強化相であるγ´相を形成させる必須の元素である。また、耐酸化性を向上させる効果もある。目的とするγ´相の析出量により、添加量の調整がなされるが、過剰な添加はγ´相の固溶温度を上昇させることから加工性を悪化させる。従って、1質量%以上6質量%以下とする。
Ti、Nb及びTaもAl同様にγ´相を安定化させる重要な元素である。ただし、過剰な添加は有害相を含む他の金属間化合物の形成を引き起こしたり、γ´相の固溶温度を上昇することによる加工性の悪化を招く。従って、Ti、Nb及びTaの総和が3質量%以上9質量%以下とする。
Feは、CoやNiといった高価な元素と置き換えることが可能で、合金のコストを低減する。しかし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、10質量%以下とする。
Mo及びWは、マトリックス中に固溶し、マトリックスを強化する重要な元素である。ただし、これらは密度が大きな元素であるため、過剰な添加をすると密度の増加を引き起こす。また、延性も低下するため加工性も悪化する。従って、Moは10質量%以下、Wは8質量%以下とする。
C,B,Zrは、結晶粒界を強化し、高温延性やクリープ強度を向上するのに有効な元素である。ただし、過剰な添加は加工性を悪化させるため、Cは0.1質量%以下、Bは0.03質量%以下、Zrは0.08質量%以下とする。
Hfは、耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、Hfは、2.0%以下が好ましい。
Reは、マトリックス中に固溶し、マトリックスを強化する元素である。さらに、耐食性を向上させる効果もある。ただし、過剰な添加は有害相の生成を助長する。また、Reは高価な元素であるため、添加量の増加は合金のコスト増加を伴う。従って、Reは5.0質量%以下が好ましい。
[実施例]
以下に、本発明の実施例を説明する。
[熱間加工性の評価]
表1に供試材の組成を示す。
Figure 0006382860
表1に示した組成のNi基合金素材について、異なる製造条件のもとで供試材を作製し、各供試材について加工性の評価および高温強度の評価を行った。各供試材の製作においては、真空誘導加熱溶解法にて10kgずつ溶解し、均質化処理を施した後に、1150〜1250℃で熱間鍛造することでφ15mmの丸棒を作製し、上述した第1の軟化処理工程及び第2の軟化処理工程を施した。第1の軟化処理工程の条件を表2に示す。また、γ´相の固溶温度及び第1の軟化処理工程後のγ´相の存在の有無を評価した。γ´相の固溶温度は、熱力学計算に基づいたシミュレーションによって算出した。また、γ´相の存在の有無は、供試材について電子顕微鏡による組織観察を行うことで評価した。結果を表2に併記する。
Figure 0006382860
表2において、第1の軟化処理工程の温度T(熱間鍛造温度)については、上記の供試材作製における熱間鍛造時に大きな割れが発生した場合は後段の軟化処理工程を行わずに「−」と表記し、第1の軟化処理工程の熱間鍛造を実施していない場合は「実施せず」と表記し、熱間鍛造後に割れが確認されなかった場合は熱間鍛造時の温度を表記している。
表2に示すように、比較例1及び2は、供試材作製における熱間鍛造時に大きな割れが発生した。熱間鍛造後の組織観察により、非整合γ´相の存在が確認できたので、本発明の効果を得ることができるが、最も望ましくはγ´相の固溶温度は1250℃以下である。比較例3は、供試材作製直後の状態であり軟化処理第1の工程における熱間鍛造は施していないが、供試材作製時の熱間鍛造温度がγ´相の固溶温度以下であったため、非整合γ´相が存在している。また、比較例4は、γ´相の固溶温度以上で熱間鍛造を実施しているため、鍛造終了後に非整合γ´相が析出しなかった。これに対して、比較例5ではγ´相の固溶温度以上で熱間鍛造を実施しているが、鍛造中の温度低下により非整合γ´相が析出した。比較例6、8及び実施例1〜9は、いずれの供試材においてもγ´相の固溶温度以下で熱間鍛造を実施しているため、軟化処理第1の工程終了後にγ相の粒界上に非整合γ´相の存在を確認できた。比較例7では、γ´相の固溶温度以下で熱間鍛造を実施しているが、γ相の再結晶が迅速に進む温度(1000℃以上)よりも低い温度で鍛造しているため、非整合γ´相が析出しなかった。
以上の結果から、非整合γ´相を析出させるための第1の軟化処理工程での鍛造温度Tは、γ´相の固溶温度以下でかつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上が好ましいことが示された。より、具体的には、1000℃以上での鍛造が好ましく、950℃以下では非整合γ´相を析出させることができない。従って、γ´相の固溶温度は再結晶が迅速に進む温度以上である必要があり、1050℃以上が好ましい。
次に、供試材をそれぞれの第1の軟化処理工程の熱間鍛造温度Tから、徐冷終了温度Tまで冷却速度T(℃/h)で徐冷後に、水冷により室温まで冷却後した。第2の軟化処理工程の条件を表3に示す。また、冷却後の室温における非整合γ´相量及びビッカース硬さを評価した。非整合γ´相量は、鋳造後や熱間鍛造後または軟化処理後に組織観察を行うことで非整合γ´相の含有割合を決定した。具体的には、電子顕微鏡で得られた観察写真から非整合γ´相の面積比を算出し、この面積比を体積比に換算することによって非整合γ´相の含有割合を算出した。さらに、軟化処理後の熱間加工性を評価するために、各供試材を950℃において熱間鍛造を行い、問題が無かったものは「○」、軽微な割れが発生したものは「△」、大きな割れが発生し鍛造が困難だったものは「×」と評価した。
Figure 0006382860
表3に示すように、実施例1〜9では、いずれの供試材も軟化処理工程後の非整合γ´相の量が20体積%を超え、かつ硬さも400Hv以下を満たし、950℃の熱間鍛造が問題なく行えたことから、加工性の向上を確認できた。
これに対して、非整合γ´相の量が20体積%未満で硬さが400Hvより大きい比較例3〜6では、いずれも鍛造中または鍛造後に割れを確認した。比較例5及び6では、軟化処理工程後に非整合γ´相が存在しているが、鍛造時の整合γ´相の析出量を抑制するのに十分な量ではなかった。比較例7では、非整合γ´相は析出していないが、硬さが400Hvより小さく、950℃での熱間鍛造が行えている。しかし、比較例7のγ´相の固溶温度は950℃より低く、かつ熱力学計算に基づいたシミュレーションによって算出した700℃におけるγ´相の平衡析出量(熱力学的な平衡状態において安定なγ´相の析出量)は22体積%と、本発明のターゲットとなる高強度Ni基合金にはあてはまらない。従って、本発明の効果を十分に得るためには、軟化処理工程後の非整合γ´相の量は20体積%以上必要であることが確認された。
さらに、実施例1及び2又は、実施例3及び4を比較すると、700℃における平衡γ´相の平衡析出量が同程度かつ軟化処理第2の工程における徐冷温度域が同じ条件では、徐冷速度をより遅くするほど非整合γ´相量が増加し、硬さを低下することができる。これは、非整合γ´相をより大きく成長させることで、主に徐冷終了時温度から室温まで冷却する間に析出する整合γ´相の量を減少できたためと考えられる。これに対して、比較例8では第1の軟化処理工程後に非整合γ´相を析出させ、第2の軟化処理工程を施しているが、徐冷速度が速く、非整合γ´相が成長しなかったため、本発明の効果を十分に得ることが出来なかった。
以上の結果から、軟化処理第2の工程の徐冷速度は50℃/hより遅くすることが好ましく、より好ましくは10℃/h以下であり、100℃/hより早いと本発明の効果が得られないことが示された。
実施例1〜9では、いずれも900℃における0.2%耐力が250MPa以下であり、一例として実施例7では900℃における0.2%耐力が200MPaであり、非常に優れた熱間加工性を示した。
従って、Ni基合金の熱間鍛造前に本発明を適用することで、鍛造温度を従来の鍛造温度より100℃以上低くでき、熱間鍛造を容易に行うことが可能となる。なお、上述した優れた熱間鍛造性を見れば、本発明に係る軟化処理したNi基合金の加工工程は、熱間鍛造に限定されるものではなく、プレス加工、圧延加工、引抜き加工、押出し加工及び切削加工等であっても、優れた加工性を示すことは言うまでもない。
実施例1〜9では、950℃における熱間鍛造後に溶体化時効処理を施すことで、いずれも図4(III)に示すような非整合γ´相がほぼ消失し、かつ整合γ´相が多く析出した組織を有しており、700℃における整合γ´相の量が30体積%以上を含有しており、一例として実施例7では、500℃における引張強さ1518MPaと、従来の高強度Ni基合金と同等の強度を示した。
以上の結果から、本発明に係るNi基合金部材の製造方法を適用することで、難加工性である高強度Ni基合金の熱間加工性を大幅に向上できることが示された。
本発明に係るNi基合金部材の製造方法を用いて作製したNi基合金部材の例を以下に示す。
図5Aは本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材の一例を示す模式図である。この鍛造用Ni基合金素材は、上述した軟化処理工程S2後に得られる。従来は、高強度Ni基鋳造合金から構造物まで成形するには、強化相であるγ´相の量を減少させ強度を低下させるために、1000〜1250℃の高い温度域において最終加工まで行う必要があった。本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて作製された鍛造用Ni基合金素材11とすることで、加工時に極めて高い成形性を示すことが可能となる。
上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、図5Bに示すような高強度Ni基合金を用いた薄板12(厚さ3mm以下)を冷間または熱間圧延により製造することが可能となる。
また、摩擦攪拌接合において、加工中の部材の温度は900℃程度まで上昇することから、本発明を適用することで加工温度における0.2%耐力を250MPa以下にできることから、摩擦攪拌接合も可能となる。これにより、図5Cに示すような、摩擦攪拌接合により接合されたNi基合金構造物を得ることが可能となる。
また、また、加工性の高い本発明に係るNi基合金を用いることで、容易に図5Dに示すようなボイラーチューブ15を製造することが可能となる。
また、前述した薄板12は容易に曲げ加工が可能となることから、摩擦攪拌接合を組み合わせることで、図5Eに示すような、より信頼性に優れ、耐用温度を向上させた燃焼器ライナー16を製造することが可能となる。
また、上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、容易に型鍛造を行うことが可能であることから、切削加工を組み合わせることで、図5Fに示すような高温強度に優れたガスタービン動翼17の製造が可能となる。また、これらのガスタービン部材を適用した高効率火力発電プラントを実現することが可能となる。
また、上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、容易に図5Gに示すようなガスタービンディスク18を製造することが可能となる。
以上、説明したように、本発明によれば、γ´相を多量に含有する析出強化型のNi基合金部材の製造過程における優れた加工性及びNi基合金部材の優れた高温強度を両立させたNi基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法を提供できることが証明された。また、本発明に係るNi基合金軟化材の製造方法を用いることにより、様々な形状を有するNi基合金部材、Ni基合金部品及びNi基合金構造物を簡便に製造可能であることが証明された。
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
4…γ相、5…整合γ´相、6…非整合γ´相、7…γ相を構成する原子、8…γ´相を構成する原子、9…γ相とγ´相との整合界面、10…γ相とγ´相との非整合界面、11…本発明を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材、12…本発明を用いて製造された薄板、13…摩擦攪拌接合のツール、14…摩擦攪拌接合による接合部、15…本発明を用いて製造されたボイラーチューブ、16…本発明を用いて製造された燃焼器ライナー、17…本発明を用いて製造されたガスタービン後段動翼、18…本発明を用いて製造されたガスタービンディスク。

Claims (8)

  1. Ni基合金の組成が、質量%で、10%以上25%以下のCr、30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物からなり、
    室温のビッカース硬さが400以下であり、900℃の0.2%耐力が250MPa以下であることを特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材。
  2. 請求項1記載のNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、前記加工工程後に、前記Ni基合金軟化材の母相であるγ相と非整合な非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び前記γ相と整合な整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
  3. 前記溶体化‐時効処理工程によって700℃における前記整合γ´相を30体積%以上析出させることを特徴とする請求項2記載のNi基合金部材の製造方法。
  4. 請求項2又は3に記載のNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を用いて製造することを特徴とするボイラーチューブの製造方法。
  5. 請求項2又は3に記載のNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を用いて製造することを特徴とする燃焼器ライナーの製造方法。
  6. 請求項2又は3に記載のNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を用いて製造することを特徴とするガスタービン動翼の製造方法。
  7. 請求項2又は3に記載のNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を用いて製造することを特徴とするガスタービンディスクの製造方法。
  8. 請求項1記載のNi基合金軟化材を摩擦攪拌接合により接合する工程と、請求項2又は3に記載の溶体化‐時効処理工程により製造することを特徴とするNi基合金構造物の製造方法。
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