以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信システムの一例を示す概念図である。通信システム1は、基地局装置10と、基地局装置10と通信可能な複数の通信端末装置としての移動局装置(「ユーザ装置(UE)」、「端末」又は「移動機」ともいう。)20(1),20(2)とを備える。基地局装置10は、複数のアンテナを用いて、多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に対してそれぞれ異なる信号を同一周波数で同一時刻に送信することができる。なお、図1の例では、基地局装置10の無線通信エリアであるセル10A内に、多重化された2つの移動局装置20(1),20(2)が在圏している例を示しているが、セル10Aに在圏する多重化された移動局装置の数は3以上であってもよい。また、以下の説明において、2つの移動局装置20(1),20(2)を区別しない構成例及び動作例の場合は移動局装置20として説明する。
図1において、基地局装置10は、まず、伝送路情報を取得するための参照信号であるCRIRS(Channel State Information Reference Signal)を各移動局装置20(1),20(2)に送信する。CRIRSは、下りリンクの伝搬路行列(チャネル行列)Hを移動局装置側で測定するための参照信号であり、移動局装置20(1),20(2)側で干渉電力、雑音電力又は干渉を含む雑音電力を測定(推定)する用途にも適用可能である。
移動局装置20(1),20(2)はそれぞれ、基地局装置10が送信したCSIRSに基づいて、下りリンクの伝搬路情報(伝搬路行列H)を推定するとともに下りリンクの雑音電力を測定(推定)し、その伝送路情報(伝搬路行列H)及び雑音電力の情報を基地局装置10に通知する。基地局装置10は、各移動局装置20(1),20(2)から受信した伝送路情報(伝搬路行列H)及び雑音電力の情報を用いて、後述のデータ信号に施す非線形プリコーディング処理を行う。
基地局装置10は、多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に対して、復調用参照信号であるDMRS(DeModulation Reference Signal)及びデータ信号を送信する。DMRSは、データ信号を復調するための参照信号であり、移動局装置への無線リソース割り当てがあった場合に限り送信される。各移動局装置20は、DMRSに基づいて主に送信側の非線形プリコーディング処理における摂動ベクトル減算処理を除いた処理部分の応答と伝搬路の応答とを合成した応答を推定し、その推定結果をデータの復調に用いる。
本実施形態において、例えば、基地局装置10は、送信対象のデータ信号に対して非線形プリコーディングを施し、その非線形プリコーディング後のデータ信号を、多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に送信する。複数の移動局装置20(1),20(2)はそれぞれ、基地局装置10から受信したDMRSに基づいて、摂動ベクトル減算処理を行う部分を除く非線形プリコーディング処理を伝搬路の一部とみなした等価伝搬路(以下、単に「等価伝搬路」と称する。)の伝搬路状態を推定し、推定した等価伝搬路の伝搬路状態を示す等価伝搬路状態情報に基づいてデータ信号を検出する。
図2及び図3はそれぞれ、基地局装置10の送信アンテナ数及びストリーム数がそれぞれの4の場合のLTE(Long Term Evolution)/Advancedの標準に準拠した参照信号(DMRS、CSIRS)の多重化法を示すサブフレームフォーマットの一例を示す説明図である。図2は線形プリコーディングを用いる場合のCSIRSを含まないサブフレームの例であり、図3は非線形プリコーディングを用いる場合のCSIRSを含むサブフレームの例である。
図2及び図3に示すように、第1ストリーム用のDMRSと第2ストリーム用のDMRSとの間及び第3ストリーム用のDMRSと第4ストリーム用のDMRSとの間は周波数多重化法(FDM)で多重化されている。また、第1ストリーム用のDMRS及び第2ストリーム用のDMRSと、第3ストリーム用のDMRS及び第4ストリーム用のDMRSとの間は、符号多重化法(CDM)で多重化されている。また、図3に示すように、第1送信アンテナ用のCSIRSと第2送信アンテナ用のCSIRSとの間及び第3送信アンテナ用のCSIRSと第4送信アンテナ用のCSIRSとの間は周波数多重化法(FDM)で多重化されている。また、第1送信アンテナ用のCSIRS及び第2送信アンテナ用のCSIRSと、第3送信アンテナ用のCSIRS及び第4送信アンテナ用のCSIRSとの間は、符号多重化法(CDM)で多重化されている。DMRSとCSIRSとの間は周波数多重化法(FDM)で多重化されている。
図4は、本実施形態に係る通信システムにおいて基地局装置10から多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に下りリンクのデータ信号を送信するときの動作例を示すシーケンス図である。図4の例は、各移動局装置20(1),20(2)から基地局装置10に下りリンクの伝搬路情報を直接フィードバックするエクスプリシットフィードバックを用いる場合の動作例である。
図4において、基地局装置10は、多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に下りリンクのデータ信号を送信する際、まず、各移動局装置20(1),20(2)にCSIRSを送信する(S101)。各移動局装置20(1),20(2)は、基地局装置10から受信したCSIRSから、下りリンクの伝搬路情報(伝搬路行列H)を推定するとともに下りリンクの雑音電力を推定し(S102、S103)、その伝搬路情報(伝搬路行列H)及び雑音電力の情報を含む伝搬路フィードバック情報を生成する(S104、S105)。この生成された雑音電力の情報を含む伝搬路フィードバック情報は、各移動局装置20(1),20(2)から基地局装置10に送信される(S106)。なお、各移動局装置20(1),20(2)が下りリンクのデータ通信中の場合は、基地局装置10からデータ信号とともに受信したDMRSから下りリンクの雑音電力を推定してもよい。
基地局装置10は、各移動局装置20(1),20(2)から受信した雑音電力の情報を含む伝搬路フィードバック情報に基づいて、データ信号とDMRSとを含む送信信号を生成し(S107)、各移動局装置20(1),20(2)に送信する(S108)。
各移動局装置20(1),20(2)は、基地局装置10から送信された送信信号に含まれるDMRSから等価伝搬路を推定し(S109,S110)、送信信号に含まれるデータ信号を復調して復号する(S111,S112)。
図5は、本実施形態に係る通信システムにおいて基地局装置10から多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に下りリンクのデータ信号を送信するときの他の動作例を示すシーケンス図である。図5の例は、時間分割複信方式(TDD)において伝搬路の上下リンクの可逆性に着目したインプリシットフィードバックを用いる場合の動作例である。
図5において、基地局装置10は、多重化された複数の移動局装置20(1),20(2)に下りリンクのデータ信号を送信する際、まず、SRS送信スケジュール情報を生成して各移動局装置20(1),20(2)に送信する(S201,S202)。ここで、上りリンクの参照信号であるSRS(Sounding Reference Signal)を各移動局装置20(1),20(2)が送信する時間を指定するための情報である。SRSは、上りリンクの周波数スケジューリング、変調・符号化方式の識別情報であるMCS(Modulation and Coding Scheme)の決定、プリコーディング方式の選択などを目的として移動局装置から基地局装置に送信される参照信号である。なお、上記SRS送信スケジュール情報の生成は、移動局装置と基地局装置との間の最初の接続時のみに実行してもよい。
各移動局装置20(1),20(2)は、基地局装置10から受信したSRS送信スケジュール情報に基づいてSRSを生成する(S203,S204)。
基地局装置10は、上記SRS送信スケジュール情報の生成及び送信の後、上下リンクについて送信部及び受信部のRF回路における位相回転と振幅変動とを測定して補償する回路キャリブレーションを行い(S205)、各移動局装置20(1),20(2)にCSIRSを送信する(S206)。なお、上記回路キャリブレーションは低い頻度で実施してもよい。
各移動局装置20(1),20(2)は、基地局装置10から受信したCSIRSから下りリンクの雑音電力を推定し(S207、S208)、その雑音電力の情報を含むフィードバック情報を生成する。各移動局装置20(1),20(2)は、所定のSRS送信タイミングに、雑音電力の情報を含むフィードバック情報とともにSRSを基地局装置10に送信する(S209)。なお、各移動局装置20(1),20(2)が下りリンクのデータ通信中の場合は、基地局装置10からデータ信号とともに受信したDMRSから下りリンクの雑音電力を推定してもよい。
基地局装置10は、各移動局装置20(1),20(2)から受信したSRSから上り伝搬路を推定し、上記回路キャリブレーションの結果に基づいて下り伝搬路情報を取得する(S210)。この下り伝搬路情報に基づいて、基地局装置10は、データ信号とDMRSとを含む送信信号を生成し(S211)、各移動局装置20(1),20(2)に送信する(S212)。
各移動局装置20(1),20(2)は、基地局装置10から送信された送信信号に含まれるDMRSから等価伝搬路を推定し(S213,S214)、送信信号に含まれるデータ信号を復調して復号する(S215,S216)。
図6は、本実施形態に係る無線通信システムの移動局装置20の構成例を示すブロック図である。図6の例は、基地局装置10に下りリンクの伝搬路情報を直接フィードバックするエクスプリシットフィードバックを用いる場合の構成例である。
図6において、移動局装置20は、アンテナ201、送受信切替部(DUP:duplexer)202、受信部203、CP除去部204、FFT部205、信号分離部206、伝搬路補償部207、Modulo演算部208、復調部209、複合部210、CSIRS用伝搬路推定部211、雑音電力推定部212、DMRS用伝搬路推定部213、フィードバック用信号生成部214、信号多重部215、IFFT部216、CP挿入部217及び送信部218を備える。
アンテナ201、送受信切替部(DUP:duplexer)202、受信部203、CP除去部204、FFT部205、信号分離部206、伝搬路補償部207、Modulo演算部208、復調部209、複合部210、CSIRS用伝搬路推定部211、雑音電力推定部212、DMRS用伝搬路推定部213、フィードバック用信号生成部214、信号多重部215、IFFT部216、CP挿入部217及び送信部218
受信部203は、アンテナ201及び送受信切替部(DUP)202を介して、基地局装置10から送信された信号(搬送波周波数の信号)を受信する。受信部203は、受信した信号をダウンコンバージョンし、A/D(アナログ/デジタル)変換することで、ベースバンドのデジタル信号を生成する。受信部203は、生成したデジタル信号をCP除去部204に出力する。
CP除去部204は、受信部203から入力されたデジタル信号のガードインターバル(GI)に挿入されているサイクリック・プレフィックス(CP)を除去し、除去後の信号をFFT部205に出力する。
FFT部205は、CP除去部203から入力された信号に対して、高速フーリエ変換(FFT)処理を行うことで、周波数領域の信号を生成する。FFT部205は、生成した周波数領域の信号を信号分離部206に出力する。
信号分離部206は、基地局装置10から通知されたマッピング情報に基づいて、FFT部205から入力された信号を分離する。信号分離部206は、分離した信号のうち、CSIRSをCSIRS用伝搬路推定部207及び雑音電力推定部208それぞれに出力し、DMRSをDMRS用伝搬路推定部209に出力する。信号分離部206は、CSIRS、雑音電力情報の信号及びDMRS以外の信号(例えば、データ信号)を伝搬路補償部210に出力する。
CSIRS用伝搬路推定部207は、信号分離部206から入力されたCSIRSに基づいて伝搬路状態を推定し、推定した伝搬路状態を示す情報をフィードバック用信号生成部214に出力する。
雑音電力推定部208は、信号分離部206から入力されたCSIRSに基づいて下りリンクの雑音電力を推定し、推定した雑音電力を示す情報を伝搬路補償部210、復調部212及びフィードバック用信号生成部214それぞれに出力する。
DMRS用伝搬路推定部209は、信号分離部206から入力されたDMRSに基づいて伝搬路状態を推定し、推定した伝搬路状態を示す情報をフィードバック用信号生成部214に出力する。
フィードバック用信号生成部214は、CRS用伝搬路推定部207から入力された伝搬路状態に基づいて伝搬路状態情報を生成する。ここで、伝搬路状態情報は、基地局装置10の各アンテナとn番目の移動局装置20の各アンテナ201との間の伝搬路の複素利得を各成分に持つ行ベクトルhnであり、次式(1)で表すことができる。なお、本例では、基地局装置10及び移動局装置20それぞれのアンテナの数が同じM本の場合について示している。
フィードバック用信号生成部214は、伝搬路状態情報として上記行ベクトルhnを基地局装置10に通知してもよいが、上記式(1)のノルムを値Cnに正規化した次式(2)の行ベクトルhnorm−nを伝搬路状態情報としてもよい。
なお、上記値Cnは、例えば全通信帯域の平均受信電力(フェージングの影響を除いたパスロスとシャドウイングとから求められる平均受信電力)の平方根でもよいし、他の値でもよい。また、式(1)又は式(2)で表される行ベクトルを量子化又は近似したものを伝搬路状態情報として通知してもよい。
また、後述の基地局装置10における情報取得部105では、伝搬路行列Hの各行を構成する行ベクトルとして、フィードバック用信号生成部214に対応して上記式(1)を量子化又は近似したものを用いてもよい。また、正規化した式(2)、又は式(2)を量子化若しくは近似したものを用いてもよい。
フィードバック用信号生成部214は、生成した伝搬路状態情報と雑音電力の情報とを含むフィードバック用の信号を変調し、信号多重部215を介してIFFT部216に出力する。
IFFT部216は、フィードバック用信号生成部214から入力された信号に対して、逆高速フーリエ変換(IFFT)処理を行うことで、時間領域の信号を生成する。IFFT部216は、生成した時間領域の信号をCP挿入部217に出力する。
GI挿入部217は、IFFT部216から入力された信号のガードインターバルにCPを付与し、CP付与後の信号を送信部218に出力する。
送信部218は、CP挿入部217から入力された信号(ベースバンドのデジタル信号)をD/A(デジタル/アナログ)変換し、変換後の信号をアップコンバージョンすることで搬送波周波数の信号を生成する。送信部218は、生成した信号を、送受信切替部(DUP)202及びアンテナ201を介して送信する。
DMRS用伝搬路推定部209は、信号分離部206から入力されたDMRSに基づいて非線形プリコーディング処理を伝搬路の一部とみなした等価伝搬路の伝搬路状態を推定する。ここで、DMRS信号及びデータ信号送信時の移動局装置20の伝搬路状態をHdとし、フィードバック用信号生成部214で生成した伝搬路状態情報が示す伝搬路状態をHfbとする。
後述のように、基地局装置10の非線形プリコーディング処理部における非線形プリコーディング処理は、摂動ベクトルの減算を除けば、空間フィルタW(=H−1)を変調信号sに乗算していることと等価である。しかし、フィルタWは、hdではなく、移動局装置20がフィードバックした伝搬路状態ベクトルに基づいて、後述の基地局装置10のフィルタ算出部で算出されているので、移動局装置20は、等価伝搬路Heq_n(1次元複素数)として、次式(3)を得る。
ここで、wnはフィルタWの第n列である。また、式(3)中のβは、後述の基地局装置10の非線形プリコーディング処理部が算出したデータ信号xの電力の電力正規化単位に亘る総和をPxとし、データ信号xの送信に基地局装置10が割り当て可能な総電力をPtrとしたとき、次式(4)で算出される電力正規化係数である。
DMRSと所定の周波数・所定の時刻(例えば同じリソースブロック内)に配置されたデータ信号は、heq_nとほぼ同じ等価伝搬路を通って移動局装置20に受信される。
DMRS用伝搬路推定部207は、推定した等価伝搬路heq_nの伝搬路状態を示す
等価伝搬路状態情報を伝搬路補償部208に出力する。
伝搬路補償部210は、DMRS用伝搬路推定部209から入力された等価伝搬路状態情報を用いて、信号分離部206から入力された信号に対して伝搬路補償を行う。すなわち、データ信号をyとすると、伝搬路補償後のデータ信号yccは、ycc=y/heq_nとなる。伝搬路補償部208は、伝搬路補償後の信号yccをModulo演算部211に出力する。
Modulo演算部211は、伝搬路補償部210から入力されたデータ信号yccに対して、Modulo演算を行う。Modulo演算は、次式(5)で表される。
ここで、jは虚数単位、floor(γ)はγを超えない最大の整数をそれぞれ表す。またRe{α}はαの実部,Im{α}はαの虚部をそれぞれ表す。τは、変調信号の平均電力を1に正規化した場合、変調方式に応じて、あらかじめ送受信側で既知な所定の値となる。例えば、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying)ではτ=2(√2)、16QAM(Quadrature Amplitude Modulation)ではτ=8/(√10)、64QAMではτ=16/(√42)とする。ただし、基地局装置と移動局装置で共通であれば、これらの値と異なる値を用いてもよい。
Modulo演算部211は、Modulo演算後の信号mod(ycc)を復調部212に出力する。
復調部212は、Modulo演算部211から入力された信号を復調する。復調部212は、復調後の情報(硬判定した符号化ビット又は符号化ビットの軟推定値)を復号部213に出力する。
復号部213は、復調部212から入力された情報を復号することで、情報ビットを取得し、取得した情報ビットを出力する。
図7は、本実施形態に係る無線通信システムの移動局装置20の他の構成例を示すブロック図である。図7の例は、時間分割多重複信方式(TDD)において伝搬路の上下リンクの可逆性に着目したインプリシットフィードバックを用いる場合の構成例である。なお、図6と同様な部分については同じ符号を付し、説明を省略する。
図7において、図6のCSIRS用伝搬路推定部207の代えて、SRS生成部219を備えている。SRS生成部219は、所定のタイミングに上りリンクの参照信号であるSRSを生成して信号多重部215に出力する。信号多重部215は、フィードバック用信号生成部214から出力された伝搬路状態情報と雑音電力の情報とを含むフィードバック用の信号と、SRS生成部219から出力されたSRSとを所定の多重方式で多重化処理してIFFT部216に出力する。
図8は、本実施形態に係る無線通信システムの基地局装置10の構成例を示すブロック図である。
図8において、基地局装置10は、アンテナ101(1)〜101(M)、第1から第Mまでの受信部102(1)〜102(M)、第1から第MまでのCP除去部103(1)〜103(M)、第1から第MまでのFFT部104(1)〜104(M)、情報取得部105、変換行列生成部106、フィルタ計算部107、DMRS生成部108、DMRS用空間フィルタ乗算部109、第1から第Nまでの符号化部110(1)〜110(N)、第1から第Nまでの変調部111(1)−111(N)、非線形プリコーディング処理部112、DMRS多重部113、電力正規化部114、フレーム構成部115、第1から第MまでのIFFT部116(1)−116(M)、第1から第NまでのCP挿入部117(1)〜117(M)、第1から第Mまでの送信部118(1)〜118(M)、及び、第1から第Mまでの送受信切替部(DUP)119(1)〜119(M)を備えている。
なお、図8の基地局装置10は、各移動局装置と同じ数のM本のアンテナ101(1)〜101(M)を備え、N個の移動局装置20(1)〜20(M)を多重する場合(N個の送信ストリームの場合)の基地局装置である。また、図8の基地局装置10では、一例として上りリンクおよび下りリンクともに直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)方式を用いる場合について説明するが、本発明はこれに限らず、OFDMではない周波数分割多重(Frequency Division Multiplexing:FDM)方式を用いてもよい。
また、以下の説明では、説明の便宜上、M本のアンテナ101(1)〜101(M)それぞれを互いに区別しない場合はm番目のアンテナ101(m)について説明し、N個の移動局装置20(1)〜20(N)それぞれを互いに区別しない場合はn番目の送信ストリームに対応するn番目の移動局装置20(n)について説明する。nは1からNまでの任意の整数であり、mは1からMまでの任意の整数である。
受信部102(m)はそれぞれ、送受信切替部119(m)及びアンテナ101(m)を介して、移動局装置20(n)から送信された信号(搬送波周波数の信号)を受信する。この信号には、前述の伝搬路状態情報(CSI情報)が含まれる。受信部102(m)は、受信した信号をダウンコンバージョンし、A/D(アナログ/デジタル)変換することで、ベースバンドのデジタル信号を生成する。受信部102(m)は、生成したデジタル信号をCP除去部103(m)に出力する。
CP除去部103(m)は、受信部102(m)から入力されたデジタル信号のガードインターバル(GI)からCPを除去し、除去後の信号をFFT部104(m)に出力する。
FFT部104(m)は、CP除去部103(m)から入力された信号に対して、FFTを行うことで、周波数領域の信号を生成する。FFT部104(m)は、生成した周波数領域の信号を情報取得部105に出力する。
情報取得部105は、各FFT部104(1)〜104(M)から入力された信号を復調し、復調した情報から伝搬路状態情報としての複素数からなる伝搬路行列(チャネル行列)と、移動局装置ごとの干渉雑音電力とを抽出する。情報取得部105は、伝搬路状態情報からサブキャリア毎に伝搬路行列Hを構成する。
ここで、n番目の移動局装置20(n)の伝搬路状態情報は、複素数の成分を持つM次元の行ベクトルで表す。この行ベクトルの第m成分は、基地局装置10のm番目のアンテナ101(m)と移動局装置20(n)と間の伝搬路の複素利得を示す。伝搬路状態情報取得部105は、各行ベクトルを全移動局装置20(1)〜20(N)について各行に順番に並べることで伝搬路行列Hを生成する。Hは、N行M列の行列であり、n行m列成分が、n番目の移動局装置20(n)と基地局装置10のm番目のアンテナ101(m)の間の伝搬路の複素利得を示す。
なお、後述するように、各移動局装置20(n)は、伝搬路状態情報を示す行ベクトルについて、ノルムの正規化や近似を行ってから基地局装置10に通知してもよい。このとき、情報取得部105は、各移動局装置20(n)から通知された行ベクトルを用いて伝搬路行列Hを生成する。
情報取得部105は、生成したサブキャリア毎の伝搬路行列Hを変換行列生成部106に入力する。なお、ここでは、一例としてサブキャリア毎に伝搬路行列Hを取得する場合について示したが、あらかじめ決められた複数の連続するサブキャリア(サブチャネル)単位で1つずつ伝搬路行列Hを取得してもよい。
また、情報取得部105は、FFT部104(m)が出力する信号のうち、伝搬路状態情報の信号以外の信号(例えば、雑音電力情報の信号)を復調して取得する。復調された情報のうち、雑音電力情報は変換行列生成部106で用いられ、制御情報は基地局装置10の制御に用いられ、また、雑音電力の情報や制御情報以外のデータは他の基地局装置やサーバ装置等へ送信される。
行列生成部120は、変換行列生成部106とフィルタ計算部107とを備え、情報取得部105から入力されたサブキャリア毎の伝搬路行列Hと雑音電力の情報とに基づいて、非線形プリコーディング処理部112で用いる各種フィルタなどの行列を生成する。
変換行列生成部106は、情報取得部105から入力されたサブキャリア毎の伝搬路行列H(N×M行列,N≦M)を、次式(6)に示すように実数空間上で表現した実数伝搬路行列Hrに変換する。ここで、Nは送信ストリーム数であり、Mは送信アンテナ数である。
更に、変換行列生成部106は、次式(7)に示すように、実数伝搬路行列Hrに情報取得部105から入力された受信アンテナ毎の雑音電力値σ1〜σNに相当する次元要素を加えることにより、実数伝搬路行列Hrを次元拡張して拡張実数伝搬路行列Hreを計算する。ここで、Psは各送信アンテナにおける平均送信電力であり、σnの二乗は第n受信アンテナブランチにおける雑音電力値である。
また、変換行列生成部106は、上記次元拡張した実数伝搬路行列Hreの転置行列に格子基底縮小処理を施した後、QR分解により、次式(8)〜(10)及び|det(T)|=1を満たす、実数伝搬路行列Hreの転置行列の準直交化行列である変換行列(ユニモジュラ行列)T(2N×2N行列)と、次式(9)に示すMMSE(最小平均二乗誤差)規範の空間フィルタ行列Qの部分行列QW(2M×2N行列)と、上三角行列R(2N×2N行列)とを生成する。
ここで、行列QはQHQ=I2N(2N×2Nの単位行列)を満たすユニタリ行列(2(M+N)×2N行列)であり、行列Rは次式(11)で表される上三角行列(2N×2N行列)であり、行列Q0はQの部分行列(2N×2Nの単位行列)であり、行列Gは格子基底縮小により準直交変換された実数伝搬路行列である。
変換行列生成部106は、生成した変換行列(ユニモジュラ行列)Tと行列QWと上三角行列Rをフィルタ計算部107に入力し、変換行列(ユニモジュラ行列)Tを非線形フィリコーディング処理部112に入力する。
フィルタ計算部107は、上記QR分解により得られた行列等を用いて、次式(12)〜(14)に示すように、MMSE(最小平均二乗誤差)規範のフィードフォワードフィルタ行列(データ用空間フィルタ行列)W(2M×2N行列)と、空間多重レイヤ間干渉に対応したフィードバックフィルタ行列F(M×N行列)とを生成する。ここで、Dは上記上三角行列Rの対角要素から構成される対角行列(2N×2N行列)である。
また、フィルタ計算部107は、次式(15)により、DMRS用の空間フィルタWDMRSを計算する。DMRSには摂動ベクトル減算や事前の変換行列操作TTが適用されないためデータ用空間フィルタWとは異なるDMRS用の空間フィルタWDMRSが計算される。
なお、本実施形態では、隣接する周波数に対応する伝搬路行列Hは互いに相関を持った(互いに似た)伝搬路行列となっていることを利用してフィルタ算出に要する演算量を削減してもよい。このようにある1つのサブキャリアについてのフィルタを演算する過程で得られる情報を他のサブキャリアに再利用することで、全サブキャリアについて独立にフィルタを算出するよりも演算量を低減することができる。また、隣接する時間(送信タイミング)に対応する伝搬路行列Hは互いに相関を持った(互いに似た)伝搬路行列となっていることを利用してフィルタ算出に要する演算量を削減してもよい。ある送信タイミングのシンボルについてのフィルタを演算する過程で得られる情報を以降の送信タイミングのシンボルに再利用することで、各送信タイミングについて独立にフィルタを算出するよりも演算量を低減することができる。
変換行列生成部106は、生成したMMSE規範のフィードフォワードフィルタ行列(データ用空間フィルタ)Wとフィードバックフィルタ行列Fとを非線形プリコーディング処理部112に入力し、生成したDMRS用の空間フィルタWDMRSをDMRS多重部113に入力する。
DMRS用空間フィルタ乗算部109は、DMRS生成部108で生成されたDMRSにフィルタ計算部107で計算されたDMRS用の空間フィルタWDMRSを乗算してアンテナ101(n)ごとのDMRSを生成し、DMRS多重部113に出力する。
符号部110(n)には、移動局装置20(n)宛(例えば、図1の例では、N=2)の情報ビット(希望データ)が入力される。符号部110(n)は、入力された情報ビットを誤り訂正符号化し、符号化後の符号化ビットを変調部111(n)に出力する。
変調部111(n)は、符号部110(n)から入力された希望データの符号化ビットを変調することにより、移動局装置20(n)に対する希望データ信号の変調信号を生成する。変調部111(n)は、生成した変調信号を非線形プリコーディング処理部112に入力する。
非線形プリコーディング処理部112は、入力された全変調信号を、各移動局装置20(1)〜20(N)宛の変調信号を1つずつ含むグループに分けて、当該グループを送信するOFDMシンボルおよびサブキャリアを決める。例えば、前述の図3に示したようなフレームフォーマットに従ってOFDMシンボルおよびサブキャリアの関係付けを行う。
非線形プリコーディング処理部112は、例えば図3に示したフレームフォーマットに従って、各グループの変調信号を送信するリソースエレメントを決定する。その後、各グループを送信するリソースエレメントに対応するサブキャリアに基づいて、当該グループに対して非線形プリコーディング処理を施す。
非線形プリコーディング処理部112は、例えば、あるグループ内の各移動局装置20(n)の変調信号をdnとおき、全d1〜dNを各成分に持つ列ベクトルである変調信号ベクトルをdとし、変換行列生成部106から入力された変換行列Tとフィルタ算出部107から入力されたフィルタW,Fとを用いて当該変調信号ベクトルdに対して非線形プリコーディング処理を施す。各グループに対して非線形プリコーディング処理を行うと、送信信号を表すM次元列ベクトルである変調信号ベクトルsが得られる。sの第n成分(n=1,2,…,M)は、それぞれアンテナ101(n)(n=1,2,…,M)で送信する信号を示す。非線形プリコーディング処理部112は、非線形プリコーディング処理後の変調信号sをDMRS多重部113に入力する。
DMRS多重部113は、アンテナ101(n)ごとに、非線形プリコーディング処理部112から入力された非線形プリコーディング処理後の変調信号sと、MRS用空間フィルタ乗算部109DMRS用空間フィルタ乗算部109から入力されたDMRSとの多重化を行い、電力正規化部114に出力する。
電力正規化部114は、DMRSが多重化された非線形プリコーディング処理後の変調信号sに基づいて電力正規化係数βを算出する。基地局装置10は、送信電力を一定にするために、一定数のサブキャリアおよび一定数のOFDMシンボル(以下、「電力正規化単位」という。)内の変調信号の総送信電力を正規化する。電力正規化単位は、例えば図3に示したフレーム単位全体を示す。
電力正規化部114は、まず、DMRSが多重化された非線形プリコーディング処理後の変調信号sの電力の電力正規化単位にわたる総和Pxを算出する。電力正規化部114は、1つの電力正規化単位の変調信号snの送信に基地局装置10が割り当て可能な総電力がPtrであるとすると、前述の式(4)で電力正規化係数βを算出する。
電力正規化部114は、算出した電力正規化係数βを変調信号に乗算して変調信号の電力正規化を行い、電力正規化後の変調信号をフレーム構成部115に出力する。
DMRS生成部108は、電力正規化部114から入力された電力正規化係数βに基づいて各移動局装置10(n)宛のDMRSを生成し、DMRS用空間フィルタ乗算部109に出力する。
CSIRS生成部120は、基地局装置10と移動局装置20(n)で既知の信号点(基準信号)を有するCSIRSを生成し、生成したCSIRSをフレーム構成部115に出力する。
フレーム構成部115は、例えば前述の図2又は図3に示すように、電力正規化部114から入力された変調信号(データ信号)及びDMRSをマッピングし、必要に応じて、CSIRS生成部120から入力されたCSIRSをマッピングする。ここで、フレーム構成部115は、送信アンテナ101(m)毎に予め定められた時間単位で、つまり、送信アンテナ101(m)毎にフレーム単位で信号をマッピングする。
フレーム構成部115は、MMSE規範のフィードフォワードフィルタ行列が乗算された変換後実数変調信号ベクトルを、送信アンテナ101(m)毎の複素数の変調信号ベクトルに変換する第2の信号ベクトル変換部としても機能する。
なお、フレーム構成部115は、変調信号(データ信号)、DMRS及びCSIRSを別のフレームにマッピングしてもよいし、同じフレームにマッピングしてもよい。例えば、CSIRSのみを、あるフレームにマッピングし、DMRS及び変調信号(データ信号)を他のフレームにマッピングしてもよい。
基地局装置10は、あらかじめ決められたマッピングに従って、変調信号(データ信号)及びDMRS(必要に応じてCSIRS)をフレームにマッピングし、移動局装置20(n)は上記マッピングをあらかじめ把握している。
なお、フレーム構成部115は、他の信号(例えば制御信号など)を、CSIRS、DMRS及び変調信号(データ信号)と異なるリソースエレメントに配置してもよい。このとき、基地局装置10と移動局装置20(n)は制御信号が配置される場所をあらかじめ把握している。
フレーム構成部115は、マッピング後の信号の複数のアンテナ101(1)〜101(M)で送信する信号をそれぞれ、対応するIFFT部116(1)〜116(M)にフレーム単位で出力する。
IFFT部116(m)は、フレーム構成部115から入力された信号に対して、IFFTをフレーム単位で行うことにより、時間領域の信号を生成する。ここで、IFFT部116(m)は、生成した時間領域の信号をCP挿入部117(m)に出力する。
CP挿入部117(m)は、IFFT部116(m)から入力された信号のガードインターバルにCPを付与し、付与後の信号を送信部118(m)に出力する。
送信部118(m)は、CP挿入部117(m)から入力された信号(ベースバンドのデジタル信号)をD/A(デジタル/アナログ)変換する。また、送信部118(m)は、変換後の信号をアップコンバージョンすることで搬送波周波数の信号を生成し、送受信切替部(DUP)119(m)及び送信アンテナ101(m)を介して送信する。
次に、非線形プリコーディング処理部112における非線形プリコーディング処理について説明する。本実施形態では、以下に示すように下りリンクの送信信号の非線形プリコーディング処理に演算量の削減が可能なLR−VPを採用したNLP DL−MU−MIMO方式を用いている。
図9は、本実施形態に係る基地局装置10における非線形プリコーディング処理部112の構成例を示すブロック図である。
図9において、非線形プリコーディング処理部112は、第1の信号ベクトル変換部としての変換行列乗算部130、摂動ベクトル探索・減算部131、データ用空間フィルタ乗算部132、空間多重レイヤ間干渉算出部133及び空間多重レイヤ間干渉減算部134を備える。
変換行列乗算部130は、希望データ信号に対応するの変調信号ベクトルを実数空間上で表現した実数変調信号ベクトル(Re{d1},Im{d1},Re{d1},Im{d1},・・・,Re{dN},Im{dN})に、変換行列生成部106から取得した変換行列(ユニモジュラ行列)Tの転置行列TTを乗算して変換後実数変調信号ベクトル(d’1,d’2,・・・,d’2N)に変換する。
摂動ベクトル探索・減算部131における摂動ベクトル探索部は、変換行列乗算部130で変換された変換後実数変調信号ベクトル(d’1,d’2,・・・,d’2N)と、フィルタ計算部107から取得したMMSE規範のフィードフォワードフィルタ行列Wとに基づいて、無限に存在する摂動ベクトルの全ての候補を探索対象とした木構造を有する階層化探索において累積メトリックを最小化する摂動ベクトルτzを最適性が保証された深さ優先探索において最適でないことが確定した候補に対して探索を打ち切る操作または探索範囲の限定操作を行う分枝限定法を組み合わせることで効率的に探索する。この摂動ベクトル探索・減算部131における摂動ベクトルの探索については後で詳述する。
摂動ベクトル探索・減算部131における減算部は、変換後実数変調信号ベクトル(d’1,d’2,・・・,d’2N)からフィードバックフィルタ行列Fが減算された後に、前記摂動ベクトル探索部で探索された摂動ベクトルτzを減算する。フィードバックフィルタ行列F及び摂動ベクトルτzが減算された変換後実数変調信号ベクトル(ν1,ν2,・・・,ν2N)は、データ用空間フィルタ乗算部132及び空間多重レイヤ間干渉算出部133に出力される。
データ用空間フィルタ乗算部132は、摂動ベクトル探索・減算部131における減算部から入力された変換後実数変調信号ベクトル(ν1,ν2,・・・,ν2N)に、フィルター計算部107から取得したMMSE規範のフィードフォワードフィルタ行列Wを乗算することにより、送信アンテナ101(m)ごとの変換後実数変調信号ベクトル(Re{s1},Im{s1},Re{s2},Im{s2},・・・,Re{sM},Im{sM})を生成する。ここで、例えば、フィードフォワードフィルタ行列Wが乗算される前の変換後実数変調信号ベクトルν,sをそれぞれ式(16)及び式(17)のように表すと、データ用空間フィルタ乗算部132における処理は次式(18)で表される。フィードフォワードフィルタ行列Wが乗算された送信アンテナ101(m)ごとの変換後実数変調信号ベクトル(Re{s1},Im{s1},Re{s2},Im{s2},・・・,Re{sM},Im{sM})はDMRS乗算部113(図8参照)に出力される。
空間多重レイヤ間干渉算出部133は、フィルタ計算部107から取得したフィードバックフィルタ行列Fから、第1の送信レイヤ(送信ストリーム)を基準にした空間多重レイヤ間干渉を算出する。
空間多重レイヤ間干渉減算部134は、変換行列乗算部130で変換された変換後実数変調信号ベクトル(d’1,d’2,・・・,d’2N)のうち第2番目の変換後実数変調信号ベクトル(d’2,・・・,d’2N)から、空間多重レイヤ間干渉算出部133で算出した空間多重レイヤ間干渉を減算する。
次に、非線形プリコーディング処理部112におけるプリコーディング処理、特に摂動ベクトル探索・減算部131の摂動ベクトル探索部における摂動ベクトルτzの探索および摂動ベクトル減算後の実変調信号(送信信号)を生成する処理について説明する。本実施形態では、上記下りリンクの送信信号の非線形プリコーディング処理に演算量の削減が可能なLR−VPを採用したNLP DL−MU−MIMO方式において、併用する空間フィルタとして理論的に最適なMMSE規範に基づく空間フィルタWと組合せた場合の最適摂動ベクトルを効率的に探索することにより、演算量の増加を抑制している。
図10は、本実施形態に係る基地局装置10の非線形プリコーディング処理部112におけるプリコーディング処理、特に摂動ベクトル探索・減算部131の摂動ベクトル探索部における摂動ベクトルτzの探索処理および摂動ベクトル減算後の実変調信号(送信信号)を生成する処理の一例を示すフローチャートである。また、図11は、摂動ベクトルτzの探索に用いられる半径Cを有する超球と摂動ベクトルによって与えられる送信信号の候補点との関係を示す説明図である。また、図12(a)及び(b)はそれぞれ摂動ベクトルτzの候補(摂動項候補)のランキングの説明図である。
図10において、まず、実数ストリーム番号n、累積メトリックM及び超球半径Cの初期化を行う(S401)。この段階では超球半径Cは定まらないためCの値は無限大(C=∞)に設定される。
次に、第n番目の実数ストリーム(#n)に対する干渉fnを上記変換後実変調信号d’nから減算する(S402)。
次に、第n番目の実数ストリーム(#n)に対する最上位にランキングされる(もっともらしい)摂動項τzn (1)を求め(S403)、上記干渉fnを減算した後の変換後実変調信号からランク#lnの摂動ベクトルτzn (ln)を減算し、二乗累積メトリックM2(n)を計算する(S404)。なお、S403中のτzn (1)を求める演算処理中のfloor(・)は、式(5)と同様括弧内の値を超えない最大の整数を表す。
ここで、最適摂動ベクトルτzは、次式(19)で算出される。
上記式(19)において、QW(2M×2N行列)はユニタリ行列Q(MMSE規範の空間フィルタ行列)であるため、一般的には次式(20)の関係が成り立つため、演算量が増大すると考えられている。
しかしながら、本願の発明者の独自調査により、次式(21)に示す経験的な性質を用いて上記式(19)に示すように近似を行って最適摂動ベクトルを算出できることがわかった。
空間フィルタWとして理論的に最適なMMSEに基づく空間フィルタ(送信ウェイト)を適用した場合、上記性質(近似)を利用するため、完全に最適な摂動ベクトルτzを探索できることは必ずしも保証されず、さらには非特許文献5に開示の従来技術LR−VPより特性劣化が発生する恐れも考えられる。しかしながら、本願の発明者の経験から上記式(21)が非常によい近似であり、ほとんどの場合、完全に最適な摂動ベクトルτzを探索・選択できることがわかった。さらに非特許文献5に開示の従来技術LR−VPより特性劣化も発生しないこともわかった。このような上記式(19)で示す近似式の適用により、空間フィルタとして理論的に最適なMMSEに基づく空間フィルタと組合せた場合の最適摂動ベクトルτzを効率的に探索することができる。
また、上記最適摂動ベクトルτzの探索に用いられる二乗累積メトリックM2(n)は、次式(22)で計算することができる。なお、式(22)においてM(i)が累積メトリックであり、特にi=2Nの場合すなわちM(2N)が総メトリックである。
上記二乗累積メトリックM2(n)を計算した後、累積メトリックM(n)が、図11に示すの超球180の半径C内に入るか否かをチェックする(S405)。ここで、図11中の超球の内側及び外側それぞれに位置するグレー丸181、182は摂動ベクトルによって与えられる送信信号の候補点である。また、中央部の黒丸185は、すべての摂動ベクトルによって与えられる送信信号の候補点の中で最適な摂動ベクトル(総メトリックが最も小さい摂動ベクトル。)によって与えられる送信信号の候補点である。図11において各摂動ベクトルの候補の総メトリックは、対応する候補点の超球中心からの距離で表される。本実施形態における最適摂動ベクトルの探索は、超球内に含まれる候補点182を探索対象とする。
図10のステップS405において累積メトリックが超球外であれば(S405でNO)、これより下位にランキングされた摂動項も明らかに超球外になるため、この階層での摂動ベクトルの探索は打ち切られる。これにより、探索回数の大幅削減を実現することができる。そして、一つ前の階層での探索に移るため、後述のステップS409の処理に移る。
一方、図10のステップS405において、累積メトリックが超球内であれば(S405でYES)、計算した二乗累積メトリックM2(n)が全送信ストリームの合計分(二乗総メトリックM2(2N))か否か、すなわち累積メトリックが総メトリックか否か(n=2Nか否か)をチェックする(S406)。探索開始からはじめてn=2Nとなったとき、すなわちはじめて総メトリックM2(2N)が計算された場合に行われるステップS408において、無限大(∞)の値に初期化されていた超球半径Cが有限の値に設定される。
ここで、累積メトリックが総メトリックでない場合(S406でNO)、累積メトリックが超球の半径C内であれば、次の階層の摂動ベクトルの探索に移る(S407)。一方、累積メトリックが総メトリックである場合(S406でYES)、累積メトリックすなわち総メトリックが超球の半径C内であれば、より適した摂動ベクトルが得られたことになる。そのため、超球の半径Cを更新し、このときの摂動ベクトルに対応する摂動ベクトル減算後の実変調信号(送信信号)ベクトルνoptを保持する(S408)。そして、更に適した解がないかどうかを確認するため、次の処理(S409)に移る。なお、探索開始からはじめてn=2Nとなったとき、すなわちはじめて総メトリックM2(2N)が計算された場合に、ステップS408において、無限大(∞)の値に初期化されていた超球半径Cが有限の値に設定される。ステップS409では、1つ前の階層の探索を行うため、nの値をカウントダウンしてn=n−1とする。
次に、カウントダウンしたnの値が0でないとき(S410でNO)は、次の摂動ベクトルの候補に対するメトリック計算を行うためにlnをカウントアップしてln=ln+1とする(S411)。そして、カウントアップした後のln番目にランキングされた第n実数ストリームの摂動ベクトルτzn (ln)を求めるための計算を行う(S412)。なお、なお、S412中の演算処理のceil(・)は、括弧内の値以上となる最小の整数を表す。
上記ステップ410においてnの値が0のとき(S410でYES)は、すべての摂動ベクトル候補の探索が終了したことになるため、探索ループから抜けてステップS413に移り、保持されていたνoptを最終的な摂動ベクトル減算後の実変調信号(送信信号)ベクトルνとする(S413)。
以上示したように、本実施形態では、無限に存在する摂動ベクトルの全ての候補を探索対象とした木構造を有する階層化探索において最適性が保証された深さ優先探索で演算量を大幅に削減するため探索の打ち切り操作または探索範囲の限定操作(分岐限定操作)は、累積メトリックが超球外と判定される場合、すなわち最適解が得られないことが確定した場合のみ実行される。このように、本実施形態では、無限に存在する摂動ベクトル候補を候補対象としながら累積メトリックを最小化する最適摂動ベクトルを最適性が保証される深さ優先探索において最適でないことが確定した段階での分岐限定法の適用により効率的に探索する。
図13は、2×2MIMO構成の無線通信システムにおける最適摂動ベクトルの探索を視覚的に示す摂動ベクトルの候補(摂動項候補)の木構造の一例を示す説明図である。図13の縦方向には実数ストリーム番号n(=1〜4)に対応させて上から順番に第1実数ストリーム〜第4実数ストリームの4つの階層が図示されている。また、図13の横方向には各階層においてランキングされた摂動ベクトル(摂動項)τzの候補番号に対応させて図示されている。
図13において、木構造190における左端のパス191は、最初に探索される摂動ベクトル(従来のLR−THPで得られるものと同じ摂動ベクトル)のパスであり、このパスを出発点として他のパスがチェックされる。また、木構造190の最深部では、最上位にランキングされた枝(Modulo演算で得られる候補)だけが候補となり得るため、その他の破線で示した枝192は探索対象にならない。前述の探索ループの中で最深の階層(図示の例では第4実数ストリームの階層)に達した場合、そのときの総メトリックが、保持されている超球半径Cの値より小さければ、その総メトリックの値に超球半径Cを更新する。そして、摂動ベクトルの候補(摂動項候補)として明らかに最適でないものを除外しながら実質的にすべての摂動ベクトルの候補(摂動項候補)の探索を行い、最適なパスを見つけ出す。
次に、本実施形態に係る基地局装置におけるLR−VPを採用したNLP DL−MU−MIMO方式にMMSE規範の空間フィルタ行列を組み合わせた非線形プリコーディング処理の効果をコンピュータシミュレーションで定量的に評価した結果について説明する。本評価では簡単のため、伝搬路はアンテナ間完全無想間の準静的レイリーフェージング、全ユーザ(移動局装置)の平均伝搬利得が互いに等しいものとし、フィードバック制御遅延はないものとした。表1は、本コンピュータシミュレーションの諸元をまとめたものである。
図14は、本実施形態のコンピュータシミュレーションによって得られたM(送信アンテナ数)=N(送信ストリーム数)=4のときの正規化正規化総送信電力に対する平均ビット誤り率(BER)特性を示すグラフである。また、図14には、従来のLR−VP方式(非特許文献5参照)の非線形プリコーディング処理を用いた場合の結果も示す。図15により、LR−SE−VPにおける空間フィルタリングとしてMMSE規範のフィルタリングを適用する本実施形態の非線形プリコーディング処理を用いた場合、従来のLR−VP方式の非線形プリコーディング処理に比べ所要送信電力を約4dB低減できることがわかる。
以上、本実施形態によれば、下りリンクの送信信号の非線形プリコーディング処理に演算量の削減が可能なLR−VPを採用したNLP DL−MU−MIMO方式において、併用する空間フィルタとして理論的に最適なMMSEに基づく空間フィルタと組合せた場合の最適摂動ベクトルを効率的に探索することにより、演算量の増加を抑制しつつ、複数の伝搬路間の相関が大きくなった場合でも端末側における希望信号受信電力を最大化して伝送品質の劣化を防止することができる。
なお、本実施形態では、LTE/LTE−Advancedへの適用を前提に説明したが、LTE/LTE−Advancedと類似のチャネル構成を用いるシステムであれば、本発明の概念はどのようなシステムにも適用可能である。
また、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信システム、基地局装置及び移動局装置(ユーザ端末装置、移動機)の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、Node B、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。