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JP5813297B2 - タイヤの製造方法 - Google Patents

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JP5813297B2
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Description

本発明は、タイヤの製造方法に関する。
従来、乗用車等の車両には、ゴム、有機繊維材料、スチール部材などから構成された空気入りタイヤが用いられており、例えば、有機繊維材料またはスチール部材のコードによるベルトにゴムが接着してタイヤが構成されている。
近年では、軽量化や、成形の容易さ、リサイクルのしやすさから、樹脂材料、特に熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性材料をタイヤ材料として用いることが求められている。
一方、樹脂材料と、スチール材料等の金属材料との接着体である樹脂−金属複合材料は、樹脂−金属間の接着強度が弱く、種々の試みがなされている。
例えば、特許文献1には、オレフィン系ポリマーと金属板とを接着する際に、予め金属板をアセトンで洗浄した上、シランカップリング剤を接着剤として用いることが開示されている。また、特許文献2には、金属鋼線(スチールコード)と樹脂との接着に、pHの異なるシランカップリング剤溶液を用いることが開示されている。
国際公開第2009/078389号 米国特許出願公開第2009/0181248号明細書
前記特許文献1及び2に記載の方法によれば金属と樹脂材料とを接着することはできたが、接着強度が不十分であった。タイヤには、自動車の走行のみならず、ブレーキをかけたり、コーナリング等で非常に大きな負担がかかるため、タイヤを構成する樹脂材料と金属鋼線との接着強度が大きいことが必要である。前記特許文献1及び2に記載の方法では、樹脂材料と金属鋼線との接着性は、タイヤに適用するには不十分であった。
また、金属鋼線と樹脂材料との接着にシランカップリング剤を用いる場合において、金属鋼線の表面におけるシランカップリング剤の付与量が不均一になると、金属鋼線と樹脂材料との充分な接着強度が得られないという問題もある。特に、2本以上撚り合わせた金属鋼線と樹脂材料とを接着させるような場合には、かかる問題はより顕著となる。
上記事情に鑑み、本発明は、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れた樹脂−金属複合材料の製造方法、該製造方法により得られた樹脂−金属複合材料、及び該樹脂−金属複合材料を備えたタイヤを提供することを課題とし、前記課題を解決することを目的とする。
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 金属鋼線の表面にpH7未満の処理液を付与する前処理工程と、前記前処理工程が実施された金属鋼線の表面に、少なくともシランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液を付与した後、熱可塑性エラストマーのみからなる樹脂材料を付与する樹脂材料層形成工程と、を有する樹脂−金属複合材料の製造方法により樹脂−金属複合材料を製造することを含む、樹脂−金属複合材料を備えたタイヤの製造方法である。
<2> 前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液が、アルコール及び界面活性剤から選択された少なくとも1種を含有する前記<1>に記載のタイヤの製造方法である。
<3> 前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液が、更に、水を含有する前記<1>又は<2>に記載のタイヤの製造方法である。
<4> 前記金属鋼線は、2本以上の金属鋼線を縒り合わせたものである前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法である。
<5> 前記金属鋼線の表面は、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、又は真鍮メッキでメッキ処理されたメッキ層である前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法である。
<6> 前記樹脂材料は、前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液を付与した後の前記金属鋼線に対して、射出成形又は押出成形により付与される前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法である。
本発明によれば、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れた樹脂−金属複合材料の製造方法、該製造方法により得られた樹脂−金属複合材料、及び該樹脂−金属複合材料を備えたタイヤを提供することができる。
(A)はタイヤのタイヤ幅方向に沿った断面図である。(B)はタイヤにリムを嵌合させた状態のビード部のタイヤ幅方向に沿った断面の拡大図である。
<樹脂−金属複合材料の製造方法>
本発明の樹脂−金属複合材料の製造方法は、金属鋼線の表面に、少なくともシランカップリング剤を含み且つ真鍮板に対する接触角が80°以下である処理液を付与した後、樹脂材料を付与する樹脂材料層形成工程を有する。
本発明の製造方法は、特定処理液を付与する前の金属鋼線の表面を、水や酸又は塩基を含む水溶液からなる処理液で処理する前処理工程、樹脂材料層形成工程において、金属鋼線の表面に特定処理液を付与した後、樹脂材料を付与する前に金属鋼線を焼き付ける焼き付け工程等を含んでいてもよい。
本発明の製造方法は、上記構成の工程を含むことで、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れ、接着強度が大きい。
本発明の製造方法により、タイヤに適用可能なほど樹脂材料と金属鋼線との接着性が優れることの理由は明らかではないが、本発明においては、少なくともシランカップリング剤を含み且つ真鍮板に対する接触角が80°以下である処理液を用いることで、金属鋼線の形態を問わず、その表面に均一にシランカップリング剤を付与することができるためと推測している。
本発明の製造方法で得られた樹脂−金属複合材料は、自動車走行等で金属と樹脂とに大きな負荷がかかるタイヤに適用した場合でも樹脂材料と金属鋼線とが剥離しにくいため、タイヤ用途にも好適である。
以下、本発明の製造方法につい詳細に説明する。
〔樹脂材料層形成工程〕
樹脂材料層形成工程は、金属鋼線の表面に、少なくともシランカップリング剤を含み且つ真鍮板に対する接触角が80°以下である処理液(以下、適宜「特定処理液」と称する。)を付与した後、樹脂材料を付与する工程である。
<特定処理液の付与>
樹脂材料層形成工程では、先ず、特定処理液を付与する。
特定処理液は、少なくともシランカップリング剤を含み且つ真鍮板に対する接触角が80°以下である処理液である。該接触角が80°以下であることで、特定処理液は濡れ性が高く、付与された金属鋼線の表面全体にシランカップリング剤を付与することができることから、均一で且つ金属鋼線の表面との接着性の高い樹脂材料層を形成することができる。
また、特定処理液が上記特性を有することで、金属鋼線が嵩高い形態に構成されてる場合(例えば、2本以上撚り合わされた形態(マルチフィラメント)、織物状の形態など)においても、特定処理液が複数の金属鋼線の間に容易に浸透しうることから、金属鋼線の表面の全体に亘って特定処理液を付与することができる。
特定処理液の真鍮板に対する接触角は80°以下であり、70°以下であることがより好ましい。
特定処理液の真鍮板に対する接触角が80°より大きい場合、金属鋼線の表面に付与されたシランカップリング剤の付与量が不均一となり、延いては金属鋼線と樹脂材料との接着性が低下する。
本明細書における特定処理液が示す接触角は、特定処理液を、25℃において、真鍮板上に滴下し、協和界面科学(株)製の自動極小接触角計(MCA−3)を用いて液滴の形状を観察することにより測定した測定値である。
特定処理液が示す接触角の制御方法としては、例えば、特定処理液に、アルコール及び界面活性剤から選択された少なくとも1種を含有させる方法が挙げられる。
特定処理液としては、アルコールのみを用いる態様、又はアルコールと界面活性剤とを併用する態様であることがより好ましく、アルコールのみを用いる態様が特に好ましい。
特定処理液は、更に、作業性の観点から、更に水を含有することが好ましい。
特定処理液において、アルコール及び/又は界面活性剤、並びに水は、シランカップリング剤の希釈液として用いられることが好ましい。
−アルコール−
特定処理液が含有しうるアルコールとしては、23℃において、液状を示すアルコールであることが好ましい。該アルコールとしては、炭素数1〜3のアルコールであることがより好ましく、具体的には、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
これらのアルコールの中でも、毒性及び作業性の観点からは、エタノールが特に好ましい。
アルコールは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
特定処理液におけるアルコールの含有量としては、特定処理液の全質量に対し、10質量%以上であることが好ましく、30質量%〜70質量%がより好ましく、100質量%が最も好ましい。
−界面活性剤−
特定処理液が含有しうる界面活性剤として特に制限はなく、公知の界面活性剤から適宜選択して用いることができるが、樹脂材料への影響を抑制する観点からは、ノニオン系界面活性剤又は両性界面活性剤がより好ましい。また、界面活性剤としては気泡性の低い界面活性剤が好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、モノアルキルリン酸塩、等が挙げれ、環境に対する影響、及び安全性の観点からは、アルキルエーテル硫酸エステル塩がより好ましい。
ノニオン系界面活性剤としては、脂肪族アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグリコシド、等が挙げられ、環境に対する影響、及び安全性の観点からは、脂肪族アルカノールアミドがより好ましい。
両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタイン、等が挙げられる。
カチオン系界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩、等が挙げれる。
界面活性剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
特定処理液における界面活性剤の含有量としては、特定処理液の全質量に対し、0.5質量%〜50質量%が好ましく、1質量%〜20質量%がより好ましく、1質量%〜10質量%が更に好ましい。
アルコールと界面活性剤とを併用する場合、その含有比(アルコール:界面活性剤)としては、質量基準で、50:50〜99:1が好ましく、70:30〜98:2がより好ましい。
また、アルコールを用いず界面活性剤のみを用いる場合には、特定処理液が水を含有することが好ましい。
−シランカップリング剤−
シランカップリング剤としては、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
特定処理液におけるシランカップリング剤の含有量としては、特定処理液の全質量に対し、0.2質量%〜2.0質量%が好ましく、0.5質量%〜1.0質量%がより好ましい。
−水−
特定処理液に用いうる水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、等を用いることができるが、特定処理液中に不純物を混入させないようイオン交換水、蒸留水を用いることがよりに好ましい。
特定処理液が水を含有する場合、その含有量は、特定処理液の構成成分により適宜設定されるが、特定処理液の全質量に対し、0質量%〜70質量%程度である。
−その他の添加剤−
特定処理液は、必要に応じて、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、pH調整の目的で添加される各種の塩等が挙げられる。
−特定処理液の調製−
特定処理液の調製は、例えば、アルコール及び/又は界面活性剤と必要に応じて水とを含有する液に、シランカップリング剤を混合することにより調製することができる。
−特定処理液の付与方法−
特定処理液の金属鋼線への付与方法としては、金属鋼線に特定処理液を塗布又は浸漬する方法が挙げられる。
金属鋼線表面への特定処理液の付与においては、接着性の観点から、シランカップリング剤が、金属鋼線表面1mあたり、1.66mg〜4.52mgとなるように付与されることが好ましく、1.79mg〜3.72mgとなるように付与されることがより好ましい。
−金属鋼線−
本発明において、金属鋼線とは、鋼、すなわち、鉄を主成分(金属鋼線の全質量に対する鉄の質量が50質量%を超える)とする線状の金属をいい、鉄のみで構成されていてもよいし、鉄以外の、例えば、亜鉛、銅、アルミニウム、スズ等の金属を含んでいてもよい。
金属鋼線は、表面がメッキ処理されていなくてもよいし、表面がメッキ処理されていてもよい。
金属鋼線の表面をメッキ処理されたメッキ層とする場合、メッキ処理の種類としては、特に制限されず、例えば、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、真鍮メッキ等が挙げられる。金属鋼線の表面がメッキ層であるとは、金属鋼線の表面に鉄が露出しているのではなく、鉄線(鉄100質量%)または鉄を含む金属線に対して、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、真鍮メッキ等のメッキ処理が施されていることをいう。なお、鉄線に対してメッキが施されている場合、メッキ層の表面を有する鉄線を金属鋼線という。また、鉄を含む金属線に対してメッキが施されている場合、メッキ層の表面を有する当該金属線を金属鋼線という。
メッキは、上記の中でも真鍮メッキが好ましい。なお、真鍮メッキは、ブラスメッキとも称し、通常、銅と亜鉛との割合(銅:亜鉛)が、質量基準で60〜70:30〜40である。また、メッキ層の層厚は、一般に100nm〜300nmである。
金属鋼線は、線径が0.1mm〜5.5mmであることが好ましい。ここで、金属鋼線の線径とは、金属鋼線の軸線に対して垂直の断面形状における最長の長さをいう。金属鋼線の軸線に対して垂直の断面形状は特に制限されず、楕円状、矩形状、三角形状、多角形状等であってもよいが、一般に、円状である。
タイヤのカーカスやベルトに用いられるスチールコードは、スチールコードを構成するフィラメントの素線の軸線に対して垂直の断面形状が、一般に円状であり、該断面形状の線径が0.1mm〜0.5mmである。また、ビードコアは、ビードコアの軸線に対して垂直の断面形状が、一般に円状であり、該断面形状の線径が1mm〜1.5mmである。
従って、本発明における金属鋼線の線径を上記範囲とすることで、本発明により得られる樹脂−金属複合材料をタイヤに適用し易くなる。
金属鋼線の線径は、0.15mm〜5.26mmであることがより好ましい。
<樹脂材料の付与>
樹脂材料層形成工程では、次いで、特定処理液を用いてシランカップリング剤が付与された金属鋼線表面に、樹脂材料を付与する。
樹脂材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマーから選択される少なくとも1種の樹脂材料が挙げられる。
なお、熱可塑性樹脂とは、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有しない高分子化合物をいい、熱可塑性エラストマーとは、温度上昇と共に材料が軟化、流動し、冷却すると比較的硬く強度のある状態になり、かつ、ゴム状弾性を有する高分子化合物をいう。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。樹脂材料として、熱硬化性樹脂1種のみを用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。樹脂材料として、熱可塑性樹脂1種のみを用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、JIS K6418に規定されるアミド系熱可塑性エラストマー(TPA)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、熱可塑性ゴム架橋体(TPV)、若しくはその他の熱可塑性エラストマー(TPZ)等が挙げられる。樹脂材料として、熱可塑性エラストマー1種のみを用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
樹脂材料は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、または、熱可塑性エラストマーのいずれか1種のみを用いてもよいし、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、及び熱可塑性エラストマーのうちの2種または3種を用いてもよい。
樹脂−金属複合材料をタイヤに適用する場合、樹脂材料としては、走行時の弾性と製造時の成形性等を考慮すると熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
これらの樹脂材料としては、例えば、ISO75−2又はASTM D648に規定される荷重たわみ温度(0.45MPa荷重時)が78°C以上、JIS K7113に規定される引張降伏強さが10MPa以上、同じくJIS K7113に規定される引張降伏伸びが10%以上、同じくJIS K7113に規定される引張破壊伸び(JIS K7113)が50%以上、JIS K7206に規定されるビカット軟化温度(A法)が130°C以上のものを用いることができる。
樹脂材料には、必要に応じて、無機フィラー、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加物を添加してもよく、前記添加物の樹脂材料中の含有量は、
金属鋼線表面に付与する樹脂材料全質量に対して20質量%以下である。
金属鋼線表面への樹脂材料の付与方法は、特定処理液を付与した後の金属表面に流動性を有する樹脂材料を塗布する方法や、金属鋼線を収めた金型に熱溶融した樹脂材料を流し込み冷却する射出成形、又は、ダイスに通した金属鋼線に熱溶融した樹脂を被覆する押出成形による方法を用いることができる。
樹脂材料の付与量は、金属鋼線の線径により異なるが、、樹脂材料層の層厚が0.1mm〜5.0mmとなるように、特定処理液を付与した後の金属鋼線表面に樹脂材料を付与することが好ましい。
例えば、金属撚り線の直径が、0.5mm〜2.0mmである場合、樹脂被覆した金属撚り線の外径は、0.6mm〜7.0mmであることが好ましく、2.0mm〜3.0mmであることがより好ましい。
また、金属鋼線の線径が、0.1mm〜5.5mmである場合、樹脂材料層の層厚は、0.1mm〜5.0mmであることが好ましく、0.5mm〜2.5mmであることがより好ましい。
〔任意工程〕
本発明の製造方法においては、必要に応じて、金属鋼線表面の前処理工程、焼き付け工程、等の任意工程を実施してもよい。
(金属鋼線表面の前処理工程)
本発明の製造方法においては、樹脂材料層形成工程に先立つ前処理工程として、金属鋼線の表面を、酸又は塩基を含有する液体等の処理液を用いて処理する活性化処理工程、及び洗浄工程を有していてもよい。
前処理工程を実施することにより、例えば、樹脂材料と金属鋼線との接着性阻害の要因となりうる金属鋼線の表面に付着した不純物(例えば、潤滑剤、防錆剤、等)を除去することができる。
前処理工程として、酸又は塩基を含有する液体等の処理液を用いて活性化処理を行う場合、該処理液を付与する時間(表面処理時間)は、処理液のpHにより適宜変更すればよく、通常、1秒〜30秒の範囲である。また、処理液の温度は、10℃〜30℃であることが好ましい。
活性化処理工程の好適な例としては、例えば、金属鋼線の表面に、少なくとも酸を含むpH7未満(好ましくは、pH5.5〜pH6.7)の処理液を付与する工程が挙げられる。当該処理液に用いられる酸としては、特に制限されず、塩酸や硝酸等の強酸を用いてもよいが、金属鋼線の耐久性の観点から、酢酸、シュウ酸、クエン酸、ギ酸等の弱酸を用いることが好ましく、中でも、酢酸が好ましい。また、酸は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
また、該処理液としては、pH3以上pH7未満(より好ましくは、pH5.5〜pH6.7の範囲)の範囲に緩衝能を有する緩衝液を好適に用いることができる。
緩衝液としては、酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液が特に好ましい。
処理液は、既述の酸をそのまま用いてもよいし、酸を水で希釈してpHを調整したり、必要に応じて無機塩やアルコール等を添加して調製してもよい。また、市販の酸や緩衝液を用いてもよい。
前処理工程において、活性化処理工程を行う場合には、さらに、処理液を付与した金属鋼線を水で洗浄する洗浄工程を含んでいることが好ましい。
処理液で表面処理された金属鋼線は、処理液が付着している限り腐食が進むため、金属鋼線の耐久性の観点から、処理液を付与した金属鋼線を水で洗浄することが好ましい。水は、イオン交換水であっても水道水であってもよい。
前処理工程における処理液や水の付与方法としては、処理液や水を金属鋼線に吹きかける方法、処理液に金属鋼線を浸漬する方法等が挙げられる。中でも、処理液に金属鋼線を浸漬する方法が好ましい。
(焼き付け工程)
樹脂材料層形成工程は、副次工程として焼き付け工程を含んでいてもよい。
焼き付け工程は、金属鋼線の表面に特定処理液を付与した後、樹脂材料を付与する前に金属鋼線を焼き付ける工程である。
特定処理液によりシランカップリング剤が付与された金属鋼線を焼き付けることで、表面処理工程で付与された処理液中の酸や無機塩が蒸発し、また、樹脂材料と金属鋼線との接着性を高めることができる。
焼付け時間は5分〜10分であることが好ましく、焼き付け温度は110℃以上であることが好ましい。
<樹脂−金属複合材料>
本発明の樹脂−金属複合材料は、上述した本発明の製造方法により得られたものであり、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れたものである。このため、本発明の樹脂−金属複合材料は、タイヤへの適用に好適である。
<タイヤ>
本発明の樹脂−金属複合材料の製造方法により製造された樹脂−金属複合材料は、既述のとおり、タイヤへの適用に好適である。
樹脂−金属複合材料を用いて構成されるタイヤの構成例を、図1を用いて説明する。
図1(A)に示すように、タイヤ10は、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと略同様の断面形状を呈している。なお、以下の説明において、「幅方向」と記載した場合は、タイヤケース17及びタイヤ10の幅方向を指し、「周方向」と記載した場合は、タイヤケース17及びタイヤ10の周方向を指す。
図1(A)及び(B)に示すように、タイヤ10は、リム20のビードシート21及びリムフランジ22に接触する一対のビード部12、ビード部12からタイヤ径方向外側に延びるサイド部14、一方のサイド部14のタイヤ径方向外側端と他方のサイド部14のタイヤ径方向外側端とを連結するクラウン部16からなる環状のタイヤケース17(タイヤ骨格部材の一例)を備えている。
タイヤケース17は、単一の樹脂材料28で形成されているが、本発明はこの構成に限定されず、従来一般のゴム製の空気入りタイヤと同様に、タイヤケース17の各部位毎(ビード部12、サイド部14、クラウン部16など)に異なる特徴を有する樹脂材料を用いてもよい。
また、タイヤケース17(例えば、ビード部12、サイド部14、クラウン部16等)に、補強材(高分子材料や金属製の繊維、コード、不織布、織布等)を埋設配置し、補強材でタイヤケース17を補強してもよい。
ビード部12には、従来一般の空気入りタイヤと同様の、金属鋼線(スチールコード)からなる円環状のビードコア18が埋設されている。ビード部12は、金属鋼線であるビードコア18がシランカップリング剤(図示せず)を介して形成された樹脂材料28の樹脂材料層を含み、本発明の樹脂−金属複合材料で構成されている。
また、ビード部12の剛性が確保され、リム20との嵌合に問題なければ、ビードコア18を省略してもよい。
また、図1(B)に示すように、ビード部12のリム20との接触部分、少なくともリム20のリムフランジ22と接触する部分にタイヤケース17を形成する樹脂材料よりも軟質である軟質材料からなる円環状のシール層24が形成されている。このシール層24はビードシート21と接触する部分にも形成されていてもよい。
シール層24を形成する上記軟質材料としては、弾性体の一例としてのゴムが好ましく、特に従来一般のゴム製の空気入りタイヤのビード部外面に用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。なお、タイヤケース17を形成する樹脂材料のみでリム20との間のシール性(気密性)が確保できれば、シール層24を省略してもよい。また、上記軟質材料としては、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも軟質な他の種類の樹脂材料を用いてもよい。
図1に示すように、クラウン部16には、金属鋼線のコード26が周方向に巻回されている。金属鋼線のコード26は、タイヤケース17の外周部を構成し、クラウン部16の周方向剛性を補強している。クラウン部16は、金属鋼線のコード26がシランカップリング剤(図示せず)を介して形成された樹脂材料28の樹脂材料層を含み、本発明の樹脂−金属複合材料で構成されている。
ビードコア18と金属鋼線のコード26とを、同じ金型に収納して溶融した樹脂材料28を射出成形することにより、ビード部12、サイド部14、及びクラウン部16が備わった樹脂−金属複合材料のタイヤケース17を製造することができる。
タイヤケース17は、製造の便宜上、ケース分割体17Aを溶接一体化して製造してもよい。
金属鋼線のコード26は、金属繊維のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚り線)などを用いるとよい。
本発明の製造方法では、特定処理液を用いることにより、金属鋼線として、マルチフィラメントが適用された場合においても、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れたものとなる。
トレッド30に用いるゴムは、従来のゴム製の空気入りタイヤに用いられているゴムと同種のゴムを用いることが好ましい。また、トレッド30の代わりに、タイヤケース17を形成する樹脂材料よりも耐摩耗性に優れる他の種類の樹脂材料で形成したトレッドを用いてもよい。また、トレッド30には、従来のゴム製の空気入りタイヤと同様に、路面との接地面に複数の溝からなるトレッドパターン(図示省略)が形成されている。
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
<樹脂−金属複合材料の製造>
(材料の用意)
金属鋼線、樹脂材料、及びシランカップリング剤として、次のものを用意した。
・金属鋼線
真鍮メッキスチールワイヤ(強力1124N、伸度3%、メッキ層の銅/亜鉛質量比=63/37、線径0.8mm)
・樹脂材料
宇部興産株式会社製、XPA9055X1(ナイロンエラストマー)
・シランカップリング剤
信越化学工業株式会社製、KBE−903(アミノ系シランカップリング剤;3−アミノプロピルトリエトキシシラン)
(特定処理液の調製)
KBE−903(信越化学工業株式会社製)を、イオン交換水とエチルアルコールとを70:30(質量比)で含む希釈液に溶解し、シランカップリング剤の含有量が0.5質量%である特定処理液Aを調製した。
−接触角の測定−
調製した特定処理液について、真鍮板(JIS No.CP2801、Cu/Zn=60:40、寸法60×25×3t)に対する接触角を、協和界面科学(株)製の自動極小接触角計(MCA−3)を用いて測定した。測定結果を下記表1に示す。
(活性化処理液の調製)
酢酸ナトリウムと酢酸と水とを混合し、pH6.5の酢酸−酢酸ナトリウム緩衝液を調製し、これを活性化処理液とした。
(樹脂−金属複合材料の製造)
用意した金属鋼線を、調製した活性化処理液中に10秒間浸漬した後、金属鋼線を流水で洗浄した(前処理工程)。次いで、前処理後の金属鋼線を、特定処理液に浸漬し、110℃で5分間焼き付けた後、金属鋼線を、円筒状の金型内に固定すると共に、金型温度を50℃に加熱し、溶融した樹脂材料を投入して射出成形した(樹脂材料層形成工程)。なお、射出成形機として、ファナック株式会社製、ロボショットα−15cを用い、ホッパー下の温度は40℃、ノズルの温度は210℃、シリンダーの温度は215〜220とした。
射出成形後、実施例1の樹脂−金属複合材料を得た。
なお、金属鋼線は、直径10mmの円筒状樹脂材料中に、樹脂材料の円筒中心(円筒の一方の円中心部から他方の円中心部)に、直線状に60mm埋め込まれた。
−接着性評価−
得られた実施例1の樹脂−金属複合材料について、樹脂−金属複合材料の樹脂材料層を固定すると共に、金属鋼線を、金属鋼線の長さ方向に引っ張る金属鋼線の引き抜き試験により、樹脂材料と金属鋼線との接着性を評価した。
引き抜き試験は、株式会社島津製作所性のオートグラフAG−5kNXを用い、試験温度23℃、引っ張り速度5mm/minとし、要した最大の力を引抜力〔N〕として評価した。評価結果を表1に示した。
〔実施例2〕
実施例1の樹脂−金属複合材料の製造において、下記に示すヤシノミ洗剤をイオン交換水にて希釈した界面活性剤1質量%含有水溶液を特定処理液として用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2の樹脂−金属複合材料を製造した。
・ヤシノミ洗剤: サラヤ(株)製、商品名:ヤシノミ洗剤(レギュラー)、界面活性剤としてアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム及び脂肪酸アルカノールアミドを16質量%含有
〔実施例3〜6、比較例1〕
実施例1の樹脂−金属複合材料の製造において、特定処理液を、下記表1に示すイオン交換水とエチルアルコールからなる希釈液を用いた特定処理液、又は、エチルアルコールのみを用いた特定処理液に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3〜6の樹脂−金属複合材料を製造した。
また、実施例1の樹脂−金属複合材料の製造に用いた特定処理液において、イオン交換水とエチルアルコールからなる希釈液を用いずに、同量のイオン交換水のみ希釈液として用いた比較用処理液に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の樹脂−金属複合材料を製造した。
−接触角の測定−
実施例2〜6に用いた各特定処理液及び比較例1に用いた比較用処理液の接触角を、実施例1と同様にした測定した。測定結果を下記表1に示す。
−接着性評価−
実施例2〜6、及び比較例1の樹脂−金属複合材料を用いて、実施例1の樹脂−金属複合材料と同様にして、金属鋼線の引き抜き試験により樹脂材料と金属鋼線との接着性を評価した。評価結果を表1に示す。
なお、表1に示されるイオン交換水及びエタノールの含有比は質量比である。
表1に示されるように、真鍮板に対する接触角が本発明の範囲内である特定処理液を用いて得られた各実施例の樹脂−金属複合材料は、比較例の樹脂−金属複合材料との対比において優れた接着性を発揮することが分る。
〔実施例7〕
<タイヤの製造>
金属鋼線として、線径φ1.8mm及び線径φ1.4mmからなる真鍮メッキスチール製のビードコア、及び直径1.13mm真鍮メッキスチール製の撚り線コードを用意した。
実施例6の樹脂−金属複合材料の製造において、金属鋼線を、用意したビードコアとコードに変更し、射出成形の金型を、図1に示すタイヤケースのケース分割体17Aの型に適合した形状の金型に変更したほかは、同様にして、タイヤケースのケース分割体を製造した。タイヤケースのケース分割体を2つ用意し、張り合わせて一体化した後、タイヤケースのクラウン部にトレッドゴムを溶融接着してタイヤを製造した。
10 タイヤ
17 タイヤケース
26 金属鋼線
28 樹脂材料(樹脂材料層)
30 トレッド

Claims (6)

  1. 金属鋼線の表面にpH7未満の処理液を付与する前処理工程と、
    前記前処理工程が実施された金属鋼線の表面に、少なくともシランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液を付与した後、熱可塑性エラストマーのみからなる樹脂材料を付与する樹脂材料層形成工程と、を有する樹脂−金属複合材料の製造方法により樹脂−金属複合材料を製造することを含む、樹脂−金属複合材料を備えたタイヤの製造方法
  2. 前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液が、アルコール及び界面活性剤から選択された少なくとも1種を含有する請求項1に記載のタイヤの製造方法
  3. 前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液が、更に、水を含有する請求項1又は請求項2に記載のタイヤの製造方法
  4. 前記金属鋼線は、2本以上の金属鋼線を縒り合わせたものである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法
  5. 前記金属鋼線の表面は、亜鉛メッキ、銅メッキ、ブロンズメッキ、又は真鍮メッキでメッキ処理されたメッキ層である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法
  6. 前記樹脂材料は、前記シランカップリング剤を0.2質量%〜2.0質量%含み且つ真鍮板に対する接触角が70°以下である処理液を付与した後の前記金属鋼線に対して、射出成形又は押出成形により付与される請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のタイヤの製造方法
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