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JP5888269B2 - 基材への塗布方法 - Google Patents

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Description

本発明は、基材に多層の塗布液を塗布処理する塗布方法および塗布装置に関するものである。
従来、連続して走行する基材、例えば鋼板に、耐食性、加工性、美観性、絶縁性等の性能を付与するために各種の塗膜を基材表面上に形成させる処理を行っている。この処理ではロールコーターが一般的に用いられており、ロールを2本用いる2ロールコーター、あるいは3本のロールを用いる3ロールコーターが広く使用されている。特に、3ロールコーターは塗膜厚の制御性に優れることと、表面外観が比較的美麗であることから、主流の塗布処理方式になっている。3ロールコーターは、塗布液が満たされているコーターパンより塗布液をくみ上げるピックアップロールとピックアップロールによりくみ上げられた塗布液量を調整するドクターロールと、調整された塗布液をピックアップロールから基材に転写するアプリケーターロールにより構成されている。各ロールの回転方向は、ロール間の近接点、あるいは密接点において同方向に回転するナチュラル回転の場合と逆方向に回転するリバース回転の場合があるが、一般的にはリバース回転の方が比較的平滑な塗膜面が得られやすいということから、アプリケーターロールと基材間ではリバース回転にする場合が多い。また、アプリケーターロールは基材の面に傷を付けないように鋼ロールにゴムをライニングしたゴムロールを用いている。
また、近年、高耐食性、高導電性など、高付加価値ニーズの高まりから、基材上に形成される塗膜の設計において、多層の塗膜が求められる場合がある。多層の塗膜を形成するための多層の塗布液の塗布方法としては、複数のスリットから塗布液を供給し、カーテン状に垂らすカーテンコーター方式や、複数のスリットを設けるダイコーター方式がある。(特許文献1、特許文献2)
しかしながら、カーテンコーターの場合、塗布液によってカーテンを形成できる最小液流量が決まるため、多層状態で基材へ薄膜塗布するためには基材の搬送速度を速くする必要がある。しかし、ライン速度を速くすることで空気同伴などによる塗布ムラが引き起こされ薄膜塗布は困難となる。
ダイコーター方式を用いた場合、薄膜化させるためには、基材と塗布液を供給するダイコーターとのギャップを所望する膜厚程度まで近接化させる必要があり、ガラス基板等の平滑な基材であれば近接化は可能であるが、連続して走行する鋼板などの場合、幅方向、長手方向とも形状変動が発生するためダイコーターの近接化は困難である。また、通常、スロットダイを適用して基材へ塗布を行う場合、基材のエッジ部の影響を排除するためスリットの幅は基材に比べ狭く設定されるため、鋼板への適用を考慮した場合、全幅に亘っての塗布液の塗布が困難となり歩留まり悪化を招く恐れがある。
一方、ロールコーターによる多層の塗布液を塗布する方法がある。ロールコーター単独で多層の塗布液の塗布処理を行う場合、1層目の塗布液が未乾燥状態のまま2層目の塗布液を塗ると1層目はかきとられてしまい積層状の塗膜を形成することができない。そのため、1層目の塗布液を塗布後に乾燥過程を経て、2層目の塗布液を塗布する必要がある。しかし、その場合、塗布工程と乾燥工程が2度必要となり、ランニングコストが増大する。
更に、近年ランニングコスト低減の観点から製造ラインの高速化が進められており、高速化により基材とロールの間のメニスカス部において基材上流からの空気同伴による塗布欠陥がより顕著に発生してしまう可能性が高い。また、鋼板の機能性を向上させるために様々な種類の塗布液が用いられているが、それぞれ液物性が異なっており、液物性の影響、特に高粘度の塗布液を用いる場合には塗布外観を均一とするために速度を低下させる等の塗布条件の変更が頻繁になされており、生産性を阻害されることがある。
特許第4598493号公報 特開2004-160274号公報
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、ロールコーターを用いて多層の塗布液を連続的に走行する基材に塗布する際に、高速に薄膜で美麗に塗布することができる基材への塗布方法および塗布装置を提供することを目的とする。
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]ダイコーターにより、回転するアプリケーターロールへ多層の塗布液を供給し、次いで、前記アプリケーターロールを連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写するにあたり、前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、コーターにより、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートし、前記プレコート後、基材上のプレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行い、最下層を形成する塗布液の温度は、40℃以上80℃以下であることを特徴とする基材への塗布方法。
[2]ダイコーターにより、回転する中間ロールへ多層の塗布液を供給し、次いで、前記中間ロールを、回転するアプリケーターロールとの接触部において前記アプリケーターロールと逆方向に回転させて、前記中間ロールにより前記アプリケーターロールへ前記多層の塗布液を転写し、次いで、前記アプリケーターロールを、連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写するにあたり、前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、コーターにより、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートし、前記プレコート後、基材上のプレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行い、最下層を形成する塗布液の温度は、40℃以上80℃以下であることを特徴とする基材への塗布方法。
[3]前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写された余分な塗布液を前記アプリケーターロールから除去することを特徴とする前記[1]に記載の基材への塗布方法。
[4]前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写され、さらに、前記中間ロールの回転によりアプリケーターロールから中間ロールへ転写された余分な塗布液を前記中間ロールから除去することを特徴とする前記[2]に記載の基材への塗布方法。
[5]前記ダイコーターでは、塗布部上流側に負圧を発生させることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれか一項に記載の基材への塗布方法。
[6]回転するアプリケーターロールへ多層の塗布液を供給するダイコーターと、連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写する前記アプリケーターロールと、前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートするコーターとを有する基材への塗布装置であり、前記アプリケーターロールは、前記プレコート後、基材上のプレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行う機能を有し、前記塗布装置内には、最下層を形成する塗布液の温度を40℃以上80℃以下に制御する温度制御装置を備えることを特徴とする基材への塗布装置。
[7]回転する中間ロールへ多層の塗布液を供給するダイコーターと、回転するアプリケーターロールとの接触部において前記アプリケーターロールと逆方向に回転し、前記多層の塗布液を前記アプリケーターロールへ転写する前記中間ロールと、連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写する前記アプリケーターロールと、前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートするコーターとを有する基材への塗布装置であり、前記アプリケーターロールは、前記プレコート後、基材上のプレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行う機能を有し、前記塗布装置内に、最下層を形成する塗布液の温度を40℃以上80℃以下に制御する温度制御装置を備えることを特徴とする基材への塗布装置。
[8]前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写された余分な塗布液を前記アプリケーターロールから除去するブレードを備えることを特徴とする前記[6]に記載の基材への塗布装置。
[9]前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写され、さらに、前記中間ロールの回転によりアプリケーターロールから中間ロールへ転写された余分な塗布液を前記中間ロールから除去するブレードを備えることを特徴とする前記[7]に記載の基材への塗布装置。
[10]上記記載のスロットダイの塗布部上流側に吸引装置を設けること特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の基材への塗布装置。
本発明によれば、多層の塗布液をロールコーターを用いて高速に薄膜で美麗に基材へ塗布することができる。
本発明の一実施形態に係る塗布装置の側面図である。 本発明の他の実施形態に係る塗布装置の側面図である。 本発明の実施形態に係るスロットダイコーターの拡大図である。 塗布液濃度と塗布液粘度の関係について示す図である。 塗布液温度と塗布液粘度の関係について示す図である。 塗布液粘度とローピング発生限界の速度比の関係について示す図である。 塗布液温度とローピング発生限界の速度比の関係について示す図である。 従来の一実施形態に係る塗布装置の側面図である。 従来の他の実施形態に係る塗布装置の側面図である。 従来の他の実施形態に係る塗布装置の側面図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、連続して通板される基材の片面または両面に、ダイコーターから供給された多層の塗布液を1本または複数本のロールを介して塗布する方法および塗布装置である。
図1は、本発明の一実施形態に係る塗布装置の側面図であり、本発明の基材への塗布方法を示す図である。図1において、1は基材、2はスロットダイコーター、3は中間ロール、4はアプリケーターロール、5はブレード、6は塗布液回収タンク、7は吸引装置、8はバックアップロール、9は上層塗布液供給ポンプ、10は上層塗布液、11は上層塗布液用タンク、12は下層塗布液供給ポンプ、13は下層塗布液、14は下層塗布液用タンク、15はヒーター、16は温度制御装置、17はロール、18はプレコート用パン皿である。図1によれば、多層の塗布液は、スロットダイコーター2から中間ロール3へ供給され、次いで、中間ロール3を介してアプリケーターロール4へ転写され、基材へと転写、塗布される。中間ロール3は、表面が鏡面加工されたフラット形状のロールを用いている。また、中間ロール3は、アプリケーターロール4との接触部においてアプリケーターロール4と逆方向に回転し、アプリケーターロール4は、基材1との接触部において基材1と逆方向に回転する。このように、各ロールの回転方向を、各ロール間、あるいはアプリケーターロールと基材との間において逆方向にすることで、多層の塗布液の積層状態が維持され基材上に積層状の塗膜を形成することができる。
また、アプリケーターロール4により多層の塗布液が基材1へ転写される以前に、基材1に対して、アプリケーターロール4上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートできるように、ロール17が設置されている。そして、プレコート後、プレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、アプリケーターロール4より基材1への転写が行われる。基材にプレコートする塗布液は、スロットダイコーター2により中間ロール3を介してアプリケーターロール4へ供給する多層の塗布液のうち、アプリケーターロール4上で最下層を形成する塗布液と同じものを用いる。プレコートを行うことでアプリケーターロール4による転写を行う際に基材1の走行ラインの上流側からの空気同伴を抑えることができる。また、最下層と同じ塗布液を用いてプレコートを行うことで、プレコートに用いた塗布液がアプリケーターロール4と基材1との間をすり抜けアプリケーターロール4と基材1との間に侵入した場合、最下層の液膜による安定化の効果を妨げることなく安定的に塗布を行うことができる。プレコートに上層の液もしくは粘度の高い塗布液を用いた場合には、塗布液のメニスカスの安定化の効果は低下しスジ欠陥が発生しやすくなる。
このように、本発明では、基材の走行方向の上流側で、プレコート装置を有している。図8に示すようにプレコート装置を有していない従来の塗布装置の場合、高速塗布条件および薄膜状態で塗布を施した際には、ライン方向に筋状の模様やカスレが発生しやすくなる。筋状の模様が発生してしまう理由は、基材に随伴される空気の流れが基材とアプリケーターロール間のメニスカスに乱れを与えるためである。カスレが発生する原因としては、塗布する膜厚が非常に薄い場合には、基材表面の凹凸の影響により、凸部へ転写される液量が極端に薄くなってしまうため液切れが発生しやすくなるためである。したがって、筋模様が発生せず、かつ、均一な膜厚を得るためには、基材に随伴される空気がアプリケーターロールと基材とのメニスカスに影響を及ぼさないようにすればよい。本発明では、プレコート用のロールを設置することによって基材への塗布液がアプリケーターロールと基材との隙間に流れ込み、基材に随伴する空気を効果的に遮断する働きをする。その結果、筋状の模様を発生させない。また、プレコート用のロールにて予め予備塗布を実施することで鋼板表面に塗布膜が形成された状態でアプリケーターロールと接触することが可能となるのでカスレの発生もなくなり、均一な塗布が可能となる。
プレコートにより塗布される塗布液の、膜厚の均一性、薄膜化に対する影響について調査を行った。プレコートする液膜の厚みの上限は空気(気泡)の巻込みにより制限される。ライン速度に比例してプレコート用のロールの速度も上昇するため、高速になると、基材、あるいはロールの表面に随伴される空気がロールと基材との間のメニスカスに巻込まれることにより気泡が発生しやすくなる。気泡は、基材、ロールともに高速になるほどメニスカスに巻込まれやすくなる。そして、気泡のメニスカスへ巻込まれる量は、液膜の厚みにも比例することがわかった。プレコートの液膜の厚みを変更させ、気泡の巻込みの有無を調べた結果、プレコートの液膜の厚みが30μm以下であれば、気泡の巻込みがないことが明らかとなった。よって、プレコートの液膜の厚みは30μm以下が好ましい。さらに、気泡の巻き込まれる量は塗布液の物性値によっても左右されるため、蒸発等で経時的に変化する塗布液を考慮すると、プレコートの液膜の厚みは15μm以下がより好ましい。
プレコートを行うに際し、例えば、プレコート用のロールを1本のみとした場合、プレコートの液膜の厚みを30μm以下で均一性を保ちつつ、薄膜化することは可能ではあるが難しい。一方で、ロールが2本以上であれば、膜厚の均一性と薄膜化を両立させることが可能になる。さらには、ロール2本を有する2ロール方式よりもロール3本を有する3ロール方式の方が膜厚制御性も高く、より有利なため望ましい。しかし、3ロール方式はコストが高くなる。また、プレコートの液膜の厚みは最終の膜厚とは無関係であり、ローピング程度の膜厚不均一性があっても本発明の効果に影響を与えるほどではない。以上の理由から、プレコートでは、2ロール方式が好ましい。また、ロール3本を用いる3ロール方式はもちろんのこと、ロールを2本用いる2ロール方式でも、特に意図した膜厚制御をしなくても、通常30μm以下の膜厚が得られるが、予めプレコート膜厚が30μm以下となるようにプリセットした方が確実である。
プレコート用のロールの回転方向としては、図1の場合は、プレコート用パン皿から塗布液をくみ上げるロールと基材へ塗布液を転写するロール間の回転方向が同一方向となっている。しかし、これに限定されず、回転方向としては逆方向でも良い。また、本発明ではプレコート用のロールとして表面の平滑なゴムロールを用いたが、ロール表面に凹凸加工を施したグルーブロールを用いてもよい。さらに、プレコート用の塗布液はプレコート用パン皿からくみ上げる方式に限定されず、ノズルから塗布液を塗出させる方式を採用してもよい。
スロットダイコーター2への塗布液の供給は、上層塗布液用タンク11および下層塗布液用タンク14から上層塗布液供給ポンプ9および下層塗布液供給ポンプ12、により行われる。下層塗布液用タンク14には、塗布液を加熱するためのヒーター15が設置されており、ヒーター15の外部にはヒーターの加熱量を制御することで塗布液の温度を40℃以上80℃以下に制御する温度制御装置16が設置されている。
また、プレコート用パン皿18内の下層塗布液が2つのロール17を介して予め基材にプレコートされる。ロール17はゴムがライニングされたゴムロールもしくは金属ロールを用いており、表面は平滑な状態に研磨されたものを用いている。また、プレコート用パン皿18内には、塗布液を加熱するためのヒーター15が設置されており、ヒーター15の外部にはヒーターの加熱量を制御することで塗布液の温度を40℃以上80℃以下に制御する温度制御装置16が設置されている。
このように、下層の塗布液の温度を40℃以上80℃以下と制御することで高速塗布が可能となる。詳細は後述する。
また、プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写され、さらに、前記中間ロールの回転によりアプリケーターロールから中間ロールへ転写された余分な塗布液を除去するために、中間ロール3上にはブレード5が設置されている。これは中間ロール3に残った塗布液が、スロットダイコーター2での塗布部に再度供給されると、塗布液のメニスカス形状を乱し安定塗布の妨げになり、かつ塗布膜厚が不均一となるからである。また、中間ロール3に加えてアプリケーターロール4にもブレードを設置することができる。ブレードは塗布液がかきとれればどのようなものでも良い。ブレードの素材は金属でもゴムでも良く均一なかきとりが実施できればよい。
なお、図1において、中間ロール3は、表面が鏡面加工されたフラット形状の金属ロールを用いている。基材1が鋼板等の金属板の場合は、アプリケーターロール4はゴムがライニングされたゴムロールを用いることができる。ゴムロールにすることにより偏芯の影響を弾性変形により吸収でき外観ムラや付着量変化を軽減できる。ゴムライニング厚は5〜40mm程度が好ましい。またゴム硬度は40Hs〜80Hs程度が好ましい。基材1はバックアップロール8に巻きついた状態で塗布されるのがよく用いられる方法ではあるが、基材1を挟んで両面にロールコーターが配置されているバックアップロールを必要としない両面同時塗布にも適用することができる。
図2に、本発明の基材への塗布方法の他の実施形態を示す。図2においては、中間ロール3を設けておらず、他の符号は図1と同様である。図2によれば、スロットダイコーター2からアプリケーターロール4へ多層の塗布液が供給され、次に基材1へと転写、塗布される。また、アプリケーターロール4は、基材1との接触部において基材1と逆方向に回転する。
また、プレコートにより基材1へ塗布され、前記アプリケーターロール4の回転により基材1からアプリケーターロール4へ転写された余分な塗布液を除去するために、アプリケーターロール4上にはブレード5が設置されている。
また、アプリケーターロール4により多層の塗布液が基材1を転写される以前に、基材1に対して、アプリケーターロール4上で最下層を形成する塗布液と同一の塗布液をプレコートできるように、ロール17が設置されている。そして、プレコート後、プレコートされた塗布液が液体の状態のうちに、アプリケーターロール4より基材1への転写が行われる。
また、下層塗布液用タンク14およびプレコート用パン皿18内には、それぞれ塗布液を加熱するためのヒーター15が設置されており、ヒーター15の外部にはヒーターの加熱量を制御することで塗布液の温度を40℃以上80℃以下に制御する温度制御装置16が設置されている。
塗布対象となる基材の量が少量の場合は、図2の方式で安定して塗布できるが、基材が大量となり連続塗布が必要な場合には、アプリケーターロールが磨耗して不均一形状となってしまい塗布欠陥が発生する場合がある。そのため連続運転での大量生産を実施する場合には、図1の方式が好ましい。
図3は、スロットダイコーター2の拡大図である。スロットダイコーター2は、例えば2層の塗布液を基材に塗布する場合、図3に示すように各々の液を供給する2本の塗布液供給部2a、2bと、好ましくは、塗布液供給部の上流側に負圧を発生させる吸引装置(サクション)7を備えることができる。中間ロールやアプリケーターロールの回転により塗布液供給部には空気の流れが随伴されてくる。そのため、吸引機構がないと液膜中に空気同伴が起こる確率が高まり、塗布欠陥となる場合がある。そこで、吸引装置7により負圧を発生させることで上記問題を解決し、供給される塗布液のメニスカス形状を安定して保ち、基材上に形成される膜厚に対して数倍程度のギャップを確保することが可能となり、基材厚み変動によるギャップ変動の影響を緩和して安定塗布することが可能となる。
スロットダイコーターへの塗布液の供給は、例えば、一定流量を安定して吐出できるポンプにより行うことができる。その際、吸引装置の負圧、塗布液供給先の中間ロールやアプリケーターロールとスロットダイコーター先端部とのギャップ等を調整することで中間ロール上やアプリケーターロール上に塗布液を安定して供給することができる。
次に、上記図1の塗布装置を用いて、多層の液膜形成が可能なスロットダイコーターと中間ロール間における均一塗布条件について基礎調査を実施した。スロットダイコーターのノズル出口における開口部の長さは上層、下層ともに50μm、スロットダイコーター先端部と中間ロールとの間のギャップを50μmに設定した。スロットダイコーターへの塗布液の供給は定量ポンプを用い、上層、下層それぞれ別の塗布液用タンクから塗布液を供給した。スロットダイコーターの上流部には吸引装置を設置し、さらに吸引装置で吸引された塗布液を回収する回収タンクを設置した。塗布液として水系の塗布液を用いた。
図4に塗布液の濃度と粘度の関係、図5に塗布液の温度と粘度の関係を示す。なお、図4において、塗布液の温度は20℃であり、図5において、塗布液の濃度は20%である。また、塗布液の粘度は塗布液の原液に希釈用薬液を添加することで調整を行い、塗布液の温度は、下層塗布液用タンクに設置されたヒーターおよび外部に設置された温度制御装置により制御した。図4より、塗布液の濃度の上昇とともに、塗布液の粘度が上昇していることがわかる。図5より、塗布液の温度の上昇とともに、塗布液の粘度が低下していることがわかる。
これらの結果をもとに、上記塗布液の温度、濃度、中間ロールの回転速度(以下、周速と称することもある)、アプリケーターロールの回転速度、および基材のライン速度を変更させて各ロール上および基材表面上での外観変化の確認を行った。基材には板厚0.6mmの亜鉛メッキ鋼板を用いた。はじめに、塗布液の粘度とロールとの間の外観良好条件について調査を行った。塗布液の濃度を1%〜20%の範囲で変化させ、中間ロールとアプリケーターロール間の外観変化を確認した。尚、基材の速度はアプリケーターロールの周速と同一とした。また、上層および下層の塗布膜厚はそれぞれ20μmとなるように設定した。代表的な塗布欠陥として、ローピングと呼ばれるロールの周方向の筋模様が鋼板に転写され、膜厚むらとなり外観劣化となる場合がある。ローピングは塗布液体の粘度が高いほど、また、ロールの回転速度が高速ほど発生しやすい傾向にある。外観変化の判定はこのローピングの有無を確認しローピング無しの場合を良好とした。
図6に、中間ロールの周速を50mpmとした場合の塗布液粘度とロール間のローピング発生限界の速度比との関係を示す。図6において、塗布液濃度は20%であり、塗布液の温度を20℃〜80℃に変化させた。尚、ローピング発生限界の速度比は中間ロールの回転速度をV1、アプリケーターロールの回転速度をV2とした場合、V2/V1で表した値で定義した。図6より、塗布液の粘度が高くなるにつれ、ローピング発生限界の速度比が低下しており、より低速状態でアプリケーターロールがローピングが発生しやすいことを示している。図6に示す結果から、低粘度の場合、例えば粘度が1.2mPa・s程度の場合、アプリケーターロールの回転速度を中間ロールの回転速度に対し4.8倍程度まで増速しても外観良好となることが明らかとなった。また、一方で、粘度が10mPa・sの場合にはアプリケーターロールの回転速度を中間ロールの回転速度に対し1.1倍程度までしか増速できないことが明らかとなり、高粘度の塗布液を用いた場合には高速での均一塗布が困難となることが明らかとなった。
次に、塗布液の温度を変更して塗布外観の変化を確認した。その他の条件は前述と同様にして、下層の塗布液およびプレコート塗布液を所定の温度まで加熱して中間ロールとアプリケーターロール間の外観変化を確認した。図7に結果を示す。なお、図7において、塗布液の濃度は20%とし、20℃にて粘度が10mPa・sの塗布液を用いた。図7より、下層の塗布液およびプレコートの塗布液の温度を40℃以上とすることで、高濃度の塗布液を用いた場合でもローピングの発生限界速度からアプリケーターロールの回転速度を中間ロール回転速度に対し2.0倍以上とすることが可能となり、100mpm以上の高速塗布が可能となることが明らかとなった。塗布液温度が40℃未満の場合には、塗布液の粘度が高く、ローピング発生限界速度が低く、アプリケーターロールの回転速度が中間ロールの観点速度に対し2倍未満となるため高速塗布が困難となる。一方、塗布液温度が80℃を超えた場合には、塗布直後に液膜が乾燥してしまい、塗布膜のレベリングが十分でなくなり、付着量ムラが発生してしまった。
以上より、本発明においては、多層の塗布液の温度は、40℃以上80℃以下とする。40℃以上80℃以下とすることで、塗布液粘度を低減させ、中間ロールとアプリケーターロールの速度比を2.0倍以上とすることが可能となり、高速且つ薄膜状態で多層皮膜を鋼板へ塗布することが可能となる。
本発明における塗布液の粘度範囲としては、40℃以上にて4 mPa・s以下となるものが好ましい。4 mPa・s超えとなった場合には、粘度の上昇に伴い、中間ロールとアプリケーターロール間の速度比をアップさせた場合に、中間ロールとアプリケーターロール間のメニスカス部が不安定となり、ローピングが発生し、外観不良となる場合がある。塗布液を高粘度化した場合には、塗布液の粘度が上昇してしまうため、塗布液温度を上昇させても粘度を低下させることが困難となる場合がある。また、塗布液の希釈率が高くなった場合、特に水系の塗布液の場合には、希釈に伴い塗布液の表面張力が上昇するため鋼板への濡れ性が劣化する。よって、塗布液の濃度範囲としては5%以上30%以下が好ましい。塗布液の表面張力としては、特に規定はしないが、鋼板への濡れ性を確保するために50dyn/cm以下が好ましい。
また、アプリケーターロールの周速は、基材の走行速度に対して1.0倍以上1.4倍以下とするのが望ましい。アプリケーターロールと基材との間においても中間ロールとアプリケーターロール間と同様、ライン速度に対してアプリケーターロール周速が遅いほど、ローピングが顕著に現れ、アプリケーターロール周速が速くなり、前記周速比が1.0以上になると、液膜状態が均一化し、良好な外観が得られる。しかし、アプリケーターロール周速を過度に速くしすぎると、外観が劣化する。この理由は、アプリケーターロール周速を速くしすぎた場合、中間ロールとアプリケーターロールとの間で発生するローピングが避けられなくなるからである。つまり、アプリケーターロールと鋼板間だけを考えた場合、アプリケーターロール周速は速い方が良好な外観が得られるが、中間ロールとアプリケーターロール間ではローピングが発生しやすくなり、ローピングが発生した場合はアプリケーターロールから基材にそのまま転写してしまう。中間ロールとアプリケーターロール間のローピングを避けるためには、前述したように中間ロール周速を速くすればよいが、アプリケーターロール周速が過度に速すぎると、中間ロール周速も非常に速くしなければならない。また、ライン速度に対してアプリケーターロール周速が1.4倍を超えると、基材とアプリケーターロール間の塗布液の液溜りが振動を起こしやすく、塗布ムラとなりやすいため、アプリケーターロール周速はライン速度の1.4倍以下にする必要がある。
図1に示した装置を用いて、板厚0.6mm、板幅1200mmの亜鉛メッキ鋼板のコイルに対して、表1に記載した塗布条件で塗布を行い、亜鉛メッキ鋼板上に液膜を形成した。次いで、塗布中のロール表面および基材の外観評価を実施し、さらに乾燥後の塗布外観の評価および付着量の確認を行った。
図1の塗布装置において、スロットダイコーター2は2層塗布用の塗布液供給部(図示せず)と吸引装置7を有する。各ロールの材質は、中間ロール3が硬質クロム鍍金をほどこした表面フラットな金属ロールであり、アプリケーターロール4がゴムをライニングしたゴムロールである。ゴムライニング厚は20mm、ゴムはウレタンゴムで硬度はHs55°である。各ロールのロール径は中間ロール3、アプリケーターロール4共に150mmである。下層塗布液用タンク14およびプレコート用パン皿18内にヒーター15を設置し、下層塗布液およびプレコート塗布用の塗布液温度を変更した。塗布液膜厚さは、上層、下層でそれぞれ15μm〜30μmの範囲で調整した。
また、比較例として上層と下層の膜厚の変更やロール周速を変更した場合について行い、本発明例と同様に塗布中のロール表面および基材の外観評価を実施し、さらに乾燥後の塗布外観の評価および付着量の確認を行った。
使用した塗布液は、温度20℃時において、粘度が10mPa・s、表面張力が40dyn/cmである。粘性係数は液温度20℃時の値である。液膜厚さは、図1では中間ロール3上の、図2ではアプリケーターロール4上の、上層、下層の塗布液厚さの比を変化させ、2層合わせて10μmとなるよう調整した。なお、プレコーターは、基材と逆向きに回転する1本ロールでアプリケーターロールと同じ仕様のものを用いた。
外観評価に関しては、スジ発生がなく平滑な皮膜が得られているものについて◎とし、全面にはっきりとしたスジ状のムラが見られるものについては、×とした。
乾燥後の外観は、十分に明るい蛍光灯の下で目視による観察によって行い、スジ発生がなく平滑な皮膜が得られているものについて◎とし、ほぼ全面にスジ状のムラが見受けられるものについては×とした。
乾燥後の付着量(g/m2)は、塗布後の鋼板において幅方向中央部、両エッジ100mm部より測定用サンプルを採取し、直径40mmに打ち抜き、それぞれについて蛍光X線分析装置を用いて液膜成分の強度を測定し、予め作成した検量線より付着量に換算することにより算出した。尚、表1に記載した全付着量は、幅方向各位置の付着量の平均値である。
以上により得られた結果を条件と併せて表1に示す。
Figure 0005888269
表1に示すように、本発明例では、プレコートロールを設置し、塗布液の温度を40℃から80℃の範囲で制御することにより、高粘度の塗布液を用いた場合でも多層状態で、高速、薄膜状態での均一塗布が可能となった。一方、比較例では、中間ロールとアプリケーターロールとの間でのメニスカス部が不安定となり、プレコート不使用時の空気混入により気泡が発生し、外観不良が発生し多層状態での均一塗布することは困難であった。
なお、前記実施例では基材として亜鉛メッキ鋼板を用いたが、特に鋼板に限定されることなく、アルミ等の他の金属板や紙、フィルムにも適用されるものである。
また、従来法として、図8、9、10に示す、プレコーターを設置しない場合、スロットダイコーター単独の場合、カーテンコーター単独の場合で前記実施例と同じ仕様の鋼板に塗布した場合について、乾燥後の塗布外観の評価を行った。
図8に示すロールコーターのアプリケーターロールと中間ロールは実施例1のアプリケーターロール、中間ロールと同じ仕様とした。結果、図8に示すロールコーターの場合は、ライン速度200mpm高速塗布条件の場合においてアプリケーターロールと基材間にて空気の巻き込みが発生し、塗布後の基材表面に気泡に起因した斑点状の模様が多数発生した。本発明例のように高粘度の塗布液を高速で美麗に塗布することは不可能であった。
図9に示すスロットダイコーターの場合は、各液において、鋼板厚み精度の問題からスリット塗吐口−鋼板ギャップを100μm以下に近づけることができず安定塗布するには乾燥前の膜厚60μmを超える厚い膜となった。また、薄膜化を試みて、ギャップをそのままの状態で供給液量を減少した場合には、液切れによるカスレが発生した。また、ギャップを更に近接化した場合には、板厚変動に伴うギャップ変動によりカスレやスジ模様が発生した。
図10に示すカーテンコーターの場合は、カーテン状の塗膜を安定して形成させるためには液膜厚を100μm程度とする必要があり、薄膜化のために供給液量を減少させた場合、カーテン形成不安定となり液切れが発生し外観欠陥となった。
以上のように、従来法としてロールコーター単独、スロットダイコーター単独、カーテンコーター単独で塗布した場合は、ローピング発生、カスレやカーテン液膜形成不能となり、多層状態の塗布液を高速で薄膜安定塗布することはできなかった。
1 基材
2 スロットダイコーター
2a、2b 塗布液供給部
2c サクション
3 中間ロール
4 アプリケーターロール
5 ブレード
6 塗布液回収タンク
7 吸引装置
8 バックアップロール
9 上層塗布液供給ポンプ
10 上層塗布液
11 上層塗布液用タンク
12 下層塗布液供給ポンプ
13 下層塗布液
14 下層塗布液用タンク
15 ヒーター
16 温度制御装置
17 ロール
18 プレコート用パン皿
19 カーテンダイ

Claims (5)

  1. ライン速度が100mpm以上である基材への塗布方法であって、
    ダイコーターにより、回転するアプリケーターロールへ多層の塗布液を供給し、
    次いで、前記アプリケーターロールを連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写するにあたり、
    前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、コーターにより、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する下層塗布液と同一のプレコート塗布液をプレコートし、
    前記プレコート後、基材上のプレコートされたプレコート塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行い、
    下層塗布液およびプレコート塗布液の温度は、40℃以上80℃以下であることを特徴とする基材への塗布方法。
  2. ライン速度が100mpm以上である基材への塗布方法であって、
    ダイコーターにより、回転する中間ロールへ多層の塗布液を供給し、
    次いで、前記中間ロールを、回転するアプリケーターロールとの接触部において前記アプリケーターロールと逆方向に回転させて、前記中間ロールにより前記アプリケーターロールへ前記多層の塗布液を転写し、
    次いで、前記アプリケーターロールを、連続的に走行する基材と接触させて前記多層の塗布液を基材へ転写するにあたり、
    前記アプリケーターロールにより多層の塗布液が基材へ転写される以前に、基材に対して、コーターにより、前記アプリケーターロール上で最下層を形成する下層塗布液と同一のプレコート塗布液をプレコートし、
    前記プレコート後、基材上のプレコートされたプレコート塗布液が液体の状態のうちに、前記アプリケーターロールが基材との接触部において基材と逆方向に回転しながら前記基材への転写を行い、
    下層塗布液およびプレコート塗布液の温度は、40℃以上80℃以下であることを特徴とする基材への塗布方法。
  3. 前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写された余分な塗布液を前記アプリケーターロールから除去することを特徴とする請求項1に記載の基材への塗布方法。
  4. 前記プレコートにより基材へ塗布され、前記アプリケーターロールの回転により基材からアプリケーターロールへ転写され、さらに、前記中間ロールの回転によりアプリケーターロールから中間ロールへ転写された余分な塗布液を前記中間ロールから除去することを特徴とする請求項2に記載の基材への塗布方法。
  5. 前記ダイコーターでは、塗布部上流側に負圧を発生させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の基材への塗布方法。
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