以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
(第1の実施の形態)
図1(a)及び図1(b)は、第1の実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図2(a)及び図2(b)は、第1の実施形態に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的平面図である。
図1(a)及び図1(b)は、図2(a)のA1−A2線断面または図2(b)のB1−B2線断面に相当する断面図である。
図1(a)に表したように、本実施形態に係る半導体発光素子110は、n形半導体層10と、p形半導体層20と、n形半導体層10とp形半導体層20との間に設けられた発光部30と、を備える。
ここで、n形半導体層10からp形半導体層20に向かう方向をZ軸方向(第1方向)とする。Z軸方向に対して垂直な1つの方向をX軸方向とする。Z軸方向とX軸方向とに対して垂直な方向をY軸方向とする。
n形半導体層10及びp形半導体層20は、窒化物半導体を含む。
発光部30は、単一量子井戸構造(SQW:Single Quantum Well)または多重量子井戸構造(MQW:Multi Quantum Well)構造を有する。図1(a)に示した半導体発光素子110においては、発光部30は、MQW構造を有している。
発光部30は、Z軸方向に沿って積層された複数の発光層32(井戸層を含む層)と、複数の発光層32どうしのそれぞれの間に設けられた障壁層31と、を含む。発光層32は、窒化物半導体を含む。
なお、本願明細書において、「積層」とは、直接重ねられる場合の他、他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。
発光層32のうちでn形半導体層10に最も近い発光層32を、第1発光層LE1とする。障壁層31のうちでn形半導体層10に最も近い障壁層31をn側障壁層BLnとする。第i障壁層BLi(iは1以上の整数)は、第i発光層LEiとp形半導体層20との間に設けられる。
発光層32のそれぞれは、第1方向に対して垂直な平面内(X−Y平面内)に並置された井戸層領域34と非井戸層領域33とを有する。井戸層領域34は、III族元素中におけるIn組成比が20%(原子パーセント)以上でInを含む。非井戸層領域33は、井戸層領域34よりもIn組成比が低い。非井戸層領域33におけるIn組成比は、例えば障壁層31におけるIn組成比と実質的に同じである。
井戸層領域34におけるIn組成比が20%以上であることは、井戸層領域34が緑系色の波長の光に対応するバンドギャップエネルギーを有することに対応する。井戸層領域34におけるIn組成比が20%以上28%以下である。すなわち、井戸層領域34は、500ナノメートル(nm)以上560nm以下の波長の光を発光する。
図2(a)及び図2(b)は、1つの発光層32における井戸層領域34及び非井戸層領域33のパターンの形状を模式的に例示している。
図2(a)に例示したパターンのように、例えば、1つの発光層32において、非井戸層領域33の中に、独立した島状の井戸層領域34が設けられる。
図2(b)に例示したパターンのように、例えば、1つの発光層32において、井戸層領域34の中に、独立した島状の非井戸層領域33が設けられる。
このように、井戸層領域34は連続的に設けられても良く、不連続的に(例えば島状)に設けられても良い。非井戸層領域33は連続的に設けられても良く、不連続的に(例えば島状)に設けられても良い。井戸層領域34及び非井戸層領域33のパターン形状は任意である。
このように、半導体発光素子110における発光部30は、第1発光層LE1と、n側障壁層BLnと、第1障壁層BL1と、を含む。
図1(a)に表したように、第1発光層LE1は、n形半導体層10とp形半導体層20との間に設けられる。第1発光層LE1は、窒化物半導体を含む。第1発光層LE1は、第1井戸層領域WR1と、第1非井戸層領域NR1と、を含む。第1井戸層領域WR1と、第1非井戸層領域NR1と、は、第1方向に対して垂直な平面内(X−Y平面内)に並置される。第1井戸層領域WR1は、III族元素中におけるIn組成比が20原子パーセント以上でInを含む。第1非井戸層領域NR1のIn組成比は、第1井戸層領域WR1のIn組成比よりも低い。第1非井戸層領域NR1におけるIn組成比は、例えばn側障壁層BLn及び第1障壁層BL1におけるIn組成比と実質的に同じである。例えば、第1非井戸層領域NR1は、実質的にInを含まない層であり、第1非井戸層領域NR1のIn組成比は実質的に0である。
第1障壁層BL1は、第1発光層LE1とp形半導体層20との間に設けられ、第1井戸層領域WR1のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
n側障壁層BLnは、第1発光層LE1とn形半導体層10との間に設けられ、第1井戸層領域WR1のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
本具体例では、発光部30は、第2発光層LE2と、第2障壁層BL2と、をさらに含む。
第2発光層LE2は、第1障壁層BL1とp形半導体層20との間に設けられる。第2発光層LE2は、窒化物半導体を含む。第2発光層LE2は、第1方向に対して垂直な平面内において並置された第2井戸層領域WR2と第2非井戸層領域NR2とを含む。第2井戸層領域WR2は第1井戸層領域WR1におけるIn組成比と同じIn組成比でInを含む。第2非井戸層領域NR2におけるIn組成比は、第2井戸層領域WR2におけるIn組成比よりも低い。
第2井戸層領域WR2のIn組成比が第1井戸層領域WR1におけるIn組成比と同じとは、第2井戸層領域WR2から放出される光の波長帯が、第1井戸層領域WR1から放出される光の波長帯と、実質的に同じであることを指す。すなわち、第1井戸層領域WR1から出射される光は緑系色であり、第2井戸層領域WR2から出射される光も緑系色である。例えば、第1井戸層領域WR1から放出される光が緑系色であるときに、第2井戸層領域WR2から出射される光は、青色ではなく、黄色ではなく、赤色ではない。
第2障壁層BL2は、第2発光層LE2とp形半導体層20との間に設けられ、第2井戸層領域WR2のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
本具体例では、発光部30は、第3発光層LE3と、第3障壁層BL3と、第4発光層LE4と、第4障壁層BL4と、をさらに含む。第3発光層LE3は、X−Y平面に並置された第3井戸層領域WR3と第3非井戸層領域NR3とを含む。第4発光層LE4は、X−Y平面に並置された第4井戸層領域WR4と第4非井戸層領域NR4とを含む。
このように、発光部30は、N個(Nは2以上の整数)の発光層32と、N個の障壁層31と、を含むことができる。
2以上N以下のiにおいて、発光部30は、第(i−1)障壁層BL(i−1)とp形半導体層20との間に設けられ、第1方向に対して垂直な平面内において並置された、第(i−1)井戸層領域WR(i−1)におけるIn組成比と同じIn組成比でInを含む第i井戸層領域WRiと、第i井戸層領域WRiよりもIn組成比が低い第i非井戸層領域NRiと、を含む第i発光層LEiと、第i発光層LEiとp形半導体層20との間に設けられ、第i井戸層領域WRiのバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する第i障壁層BLiと、をさらに含む。
第i井戸層領域WRiのIn組成比が第(i−1)井戸層領域WR(i−1)におけるIn組成比と同じとは、第i井戸層領域WRiから放出される光の波長帯が、第(i−1)井戸層領域WR(i−1)から放出される光の波長帯と、実質的に同じであることを指す。すなわち、第(i−1)井戸層領域WR(i−1)から出射される光は緑系色であり、第i井戸層領域WRiから出射される光も緑系色である。
このように、半導体発光素子110においては、発光部30の発光層32のそれぞれにおいて井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられる。すなわち、発光層32の全面で連続した井戸層を用いるのではなく、発光層32の面内において井戸層が設けられる領域(井戸層領域34)と、井戸層が設けられない領域(非井戸層領域33)と、が設けられる。
発明者は、発光層32の発光波長が青色よりも長い緑系色において、すなわち、In組成比が20%以上と高い場合において、発光層32の全面で連続した井戸層を用いるのではなく、発光層32の面内において井戸層が設けられる領域(井戸層領域34)と、井戸層が設けられない領域(非井戸層領域33)と、が設けられ、井戸層がX−Y平面内で分断された部分があるときに、発光効率が高くなることを見出した。
井戸層領域34は、X−Y平面における幅Wが50nm以上の部分を有する。複数の発光層32が設けられる場合において、複数の発光層32のうちの少なくともいずれかにおける井戸層領域34が、X−Y平面内における幅Wが50nm以上の部分を有する。
井戸層領域34と非井戸層領域33とは、例えば、発光部30の断面の透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)写真により判別できる。
後述するように、発光層32における井戸層領域34は、例えば、井戸層領域34となるベース層(例えばInGaN層)を形成した後に、そのベース層の上にキャップ層を部分的に形成し、キャップ層に覆われていない領域のベース層からInを消失させる(In組成比を減少させる)方法で形成できる。これにより、キャップ層に覆われた部分のベース層が井戸層領域34となり、キャップ層に覆われていなかった部分のベース層が非井戸層領域33となる。
すなわち、図1(b)に表したように、本実施形態に係る半導体発光素子110aにおいては、井戸層領域34の上(p形半導体層20の側)にキャップ層35が設けられている。キャップ層35は、非井戸層領域33には設けられていない。
このように、発光部30は、第1発光層LE1と、n側障壁層BLnと、第1障壁層BL1と、第1キャップ層CL1と、を含む。
第1発光層LE1は、n形半導体層10とp形半導体層20との間に設けられ、第1方向に対して垂直な平面内に並置された、Inを含む第1井戸層領域WR1と、第1井戸層領域WR1よりもIn組成比が低い第1非井戸層領域NR1と、を有する。第1発光層LE1は、窒化物半導体を含む。
n側障壁層BLnは、第1発光層LE1とn形半導体層10との間に設けられ、第1井戸層領域34のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
第1障壁層BL1は、第1発光層LE1とp形半導体層20との間に設けられ、第1井戸層領域34のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
第1キャップ層CL1は、第1発光層LE1の第1井戸層領域34と、第1障壁層BL1と、の間において第1井戸層領域34に接する。
さらに、発光部30は、第2発光層LE2と、第2障壁層BL2と、第2キャップ層CL2と、をさらに含む。
第2発光層LE2は、第1障壁層BL1とp形半導体層20との間に設けられ、第1方向に対して垂直な平面内において並置された、第1井戸層領域WR1におけるIn組成比と同じIn組成比でInを含む第2井戸層領域WR2と、第2井戸層領域WR2よりもIn組成比が低い第2非井戸層領域NR2と、を含む。第2発光層LE2は、窒化物半導体を含む。
第2障壁層BL2は、第2発光層LE2とp形半導体層20との間に設けられ、第2井戸層領域WR2のバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する。
第2キャップ層CL2は、第2発光層LE2の第2井戸層領域WR2と、第2障壁層BL2と、の間において第2井戸層領域WR2に接する。
半導体発光素子110aにおいては、さらに、発光部30は、第3発光層LE3と、第3障壁層BL3と、第3キャップ層CL3と、第4発光層LE4と、第4障壁層BL4と、第4キャップ層CL4と、をさらに含む。第3発光層LE3は、X−Y平面に並置された第3井戸層領域WR3と第3非井戸層領域NR3とを含む。第4発光層LE4は、X−Y平面に並置された第4井戸層領域WR4と第4非井戸層領域NR4とを含む。第3キャップ層CL3は、第3発光層LE3の第3井戸層領域WR3と、第3障壁層BL3と、の間において第3井戸層領域WR3に接する。第4キャップ層CL4は、第4発光層LE4の第4井戸層領域WR4と、第4障壁層BL4と、の間において第4井戸層領域WR4に接する。
このように、発光部30は、N個の発光層32と、N個の障壁層31と、N個のキャップ層35と、を含むことができる。
2以上N以下のiにおいて、発光部30は、第(i−1)障壁層BL(i−1)とp形半導体層20との間に設けられ、第1方向に対して垂直な平面内において並置された、第(i−1)井戸層領域WR(i−1)におけるIn組成比と同じIn組成比でInを含む第i井戸層領域WRiと、第i井戸層領域WRiよりもIn組成比が低い第i非井戸層領域NRiと、を含む第i発光層LEiと、第i発光層LEiとp形半導体層20との間に設けられ、第i井戸層領域WRiのバンドギャップエネルギーよりも大きいバンドギャップエネルギーを有する第i障壁層BLiと、第i発光層LEiの第i井戸層領域WRiと、第i障壁層BLiと、の間において第i井戸層領域WRiに接する第iキャップ層CLiと、をさらに含む。
このときも、第i井戸層領域WRiのIn組成比が第(i−1)井戸層領域WR(i−1)におけるIn組成比と同じとは、第i井戸層領域WRiから放出される光の波長帯が、第(i−1)井戸層領域WR(i−1)から放出される光の波長帯と、実質的に同じであることを指す。
このように、半導体発光素子110aにおいても、発光層32の面内において井戸層が設けられる領域(井戸層領域34)と、井戸層が設けられない領域(非井戸層領域33)と、が設けられ、井戸層がX−Y平面内で分断されることから、井戸層領域34におけるIn組成比が緑系色の20%以上であっても、結晶欠陥が抑制され、結果として、発光効率が高い半導体発光素子が得られる。
後述するように、キャップ層35は、TEMにより観察され得る。ただし、TEMの性能によってはキャップ層35の検出が困難な場合もある。
(実施例)
以下、第1の実施形態の実施例に係る半導体発光素子について説明する。
図3は、実施例に係る半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図3に表したように、実施例に係る半導体発光素子111においては、例えば基板5が設けられる。基板5には例えばサファイアが用いられる。
基板5の表面は、凹凸形状に加工される。基板5の上にバッファ層6が設けられる。バッファ層6には、例えばGaNが用いられる。バッファ層6の上に、n形半導体層10が設けられる。n形半導体層10には、例えばSiがドープされたGaNが用いられる。n形半導体層10は、n側コンタクト層となる。
n形半導体層10の上に例えば積層膜60が設けられる。積層膜60は、例えば超格子層である。積層膜60は、Z軸方向に沿って交互に積層された、複数の第1層61と、複数の第2層62と、を含む。第1層61は、例えばGaN層であり、第2層62は、例えばIn0.07Ga0.93N層である。第1層61の数は21であり、第2層62の数は20である。
積層膜60の上に、発光部30が設けられている。発光部30は、図1(a)及び図1(b)、並びに、図2(a)及び図2(b)に関して説明した構成を有している。半導体発光素子111においては、発光層32の数は8である。ただし、図3においては、簡単のために発光層32は4つ描かれている。n形半導体層10に最も近い(積層膜60に最も近い)第1発光層LE1の下にn側障壁層BLn(図示しない)が設けられる。一番上の第8発光層LE8の上に第8障壁層BL8(図示しない)が設けられる。
発光部30の上に、p形半導体層20が設けられる。p形半導体層20は、発光部30に接する第1p側層21と、第3p側層23と、第1p側層21と第3p側層23との間に設けられた第2p側層22と、を含む。第1p側層21には、例えば、MgをドープしたAl0.1Ga0.9Nが用いられる。第1p側層21は、例えば電子オーバーフロー抑制層として機能する。第2p側層22には、例えば、MgがドープされたGaNが用いられる。第3p側層23には、Mgが高濃度でドープされたGaNが用いられる。第3p側層23はp側コンタクト層となる。
n形半導体層10のp形半導体層20の側の一部が露出しており、n形半導体層10に電気的に接触されるn側電極40が設けられる。さらに、p形半導体層20に電気的に接触されるp側電極50が設けられる。p側電極50は、p形半導体層20の上に設けられたp側透明電極51と、p側透明電極51の上に設けられたp側導電層52と、を有する。
半導体発光素子111の製造方法の一例について説明する。半導体発光素子111の製造方法において、窒化物半導体の結晶成長には、例えば有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)装置が用いられる。
基板5が、MOCVD装置の反応室内のサセプタに載置される。次に、水素ガスを導入しつつ、反応室内部の圧力を500Torrに保持する。次に、基板5を1100℃に加熱して10分間保持する。
次に、基板5の温度を500℃に設定し、トリメチルガリウム(TMG)ガスを含む水素ガス、及び、NH3ガスを導入する。これにより、基板5上に、多結晶GaNからなる下層バッファ層を成長させる。下層バッファ層の厚さは、例えば20ナノメートル(nm)である。
TMGガスの導入を停止し、基板5の温度を1050℃に昇温する。
その後、TMGガスを含む水素ガス、及び、NH3ガスを導入することにより、GaNからなる上層バッファ層を成長させる。上層バッファ層の厚さは、例えば2マイクロメートル(μm)である。上記の下層バッファ層と上層バッファ層が、バッファ層6に対応する。
モノシランガスを導入し、バッファ層6の上(上層バッファ層の上)に、SiがドープされたGaNからなるn形半導体層10を成長させる。
TMGガス及びモノシランガスの導入を停止し、水素ガスを窒素ガスに切り替えると共に、基板5の温度を850℃に設定する。
その後TMGガスを導入し、GaNからなる第1層61を成長させる。第1層61の厚さは、例えば3nmである。
続いて、トリメチルインジウム(TMI)ガスをさらに導入する。これにより、第2層62を成長させる。第2層62には、例えばIII族元素中におけるIn組成比が7%(7原子パーセント)のInGaNが用いられる。第2層62の厚さは、例えば1nmである。
この後、第1層61と第2層62との組み合わせを、計19回繰り返してさらに成長させ、その後、その上に、上記と同じ条件で第1層61をさらに成長させる。これにより、第1層61と第2層62の組み合わせが20周期で積層された積層膜60が形成される。
次に、TMGガスの導入を停止し、基板5の温度を800℃に設定する。その後TMGガスを導入し、GaNからなる下側障壁層を成長させる。下側障壁層の厚さは、例えば6nmとされる。
次に、TMGガスの導入を停止し、基板5の温度を700℃に設定する。その後TMGガスを導入し、GaNからなる上側障壁層を成長させる。上側障壁の厚さは、例えば2nmとされる。
上記の下側障壁層と、上側障壁層と、がn側障壁層BLnに対応する。
続いて、TMIガスをさらに導入する。これにより、III族元素中におけるIn組成比が25%(25原子パーセント)のInGaNからなるベース層を成長させる。ベース層は、発光層32(第1発光層LE1)となる層である。ベース層の厚さは、2.5nmとされる。
続いて、TMIガスの導入を停止し、GaNからなるキャップ層35を成長させる。キャップ層35は、不均一に形成される。すなわち、ベース層はキャップ層35に覆われた部分とキャップ層35に覆われていない部分とを有する。キャップ層35は、例えば島状に形成される。キャップ層35は、例えば網目状に設けられる。キャップ層35の平均の厚さは、例えば2nm程度以下である。
次に、TMGガスの導入を停止し、基板5の温度を800℃に上昇する。この時、ベース層のうちのキャップ層35に覆われていない部分からInが放出され、この部分におけるIn組成比が低下する。そして、ベース層のうちのキャップ層35に覆われた部分においては、Inは消失し難い。これにより、ベース層のうちのキャップ層35に覆われた部分は井戸層領域34となり、ベース層のうちのキャップ層35に覆われていない部分が非井戸層領域33となる。非井戸層領域33におけるIn濃度は、障壁層31と同じ程度まで低下する。
その後TMGガスを導入し、GaNからなる障壁層31(第1障壁層BL1)を成長させる。第1障壁層BL1の厚さは例えば6nmとされる。
この後、上記のベース層と、キャップ層35と、障壁層31と、の組み合わせを、計7回繰り返してさらに成長させる。これにより、8周期の多重量子井戸構造の発光部30が形成される。
次に、TMGガス及びTMIガスの導入を停止し、基板5の温度を1000℃に昇温する。
この後、TMGガス、TMAガス及びCp2Mgガスを含む水素ガス、並びに、NH3ガスを導入し、MgドープAl0.1Ga0.9Nからなる第1p側層21を成長させる。
次に、TMAガスの導入を停止し、MgドープGaNからなる第2p側層22を成長させ、続いて、Cp2Mgガスの流量を調整して、第3p側層23を成長させる。
成長が終了した基板5を取り出し、例えば、結晶の積層膜を所定の形状に加工し、p側透明電極51及びp側導電層52を含むp側電極50と、n側電極40と、を形成し、半導体発光素子111が作製される。
図4(a)及び図4(b)は、実施例に係る半導体発光素子の構成を例示する透過型電子顕微鏡写真図である。
図4(a)は、半導体発光素子111の発光部30のTEM写真図であり、図4(b)は、図4(a)のTEM写真図に比較的明確に現れているキャップ層35の輪郭線を描いたものである。
図4(a)に表したように、半導体発光素子111においては、発光層32に相当する部分(X−Y平面に平行な平面)において、写真の像の濃度が高い部分と、濃度が低い部分とが観察される。発光層32どうしの間においては、写真の像の濃度は低く、この部分が障壁層31に対応する。発光層32に相当する部分(X−Y平面に平行な平面)において、写真の像の濃度が高い部分が井戸層領域34に対応し、濃度が低い部分が非井戸層領域33に対応する。非井戸層領域33に対応する部分の像の濃度は、障壁層31に対応する部分の像の濃度と同じ程度に低い。
このように、半導体発光素子111においては、発光層32の全面で連続した井戸層を用いるのではなく、発光層32の面内に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられ、井戸層領域34がX−Y平面内で分断されている。
なお、本具体例では、写真の像の濃度が低い部分が障壁層31及び非井戸層領域33に対応し、濃度が高い部分が井戸層領域34に対応しているが、TEMの撮像条件及び画像処理条件によっては、写真の像の濃度が高い部分が障壁層31及び非井戸層領域33に対応し、濃度が低い部分が井戸層領域34に対応する場合がある。In組成比が高い井戸層領域34と、In組成比が井戸層領域34よりも低い障壁層31及び非井戸層領域33と、で、少なくとも像の濃度が異なることで、井戸層領域34と、障壁層31及び非井戸層領域33と、が区別できる。
図4(b)に表したように、半導体発光素子111においては、井戸層領域34の上にキャップ層35が形成されている。本TEM写真において、井戸層領域34に対応する像の濃度が高い領域にキャップ層35が明確に観察されている。本TEM写真において、像の濃度が比較低い部分(例えば非井戸層領域33)には、キャップ層35は観察されない。
キャップ層35が明確に観察される部分では、井戸層領域34に対応する部分の濃度が高く、井戸層領域34が明確である。逆に、キャップ層35が明確に観察されない部分では、写真の像の濃度が低く、井戸層領域34が設けられておらず、非井戸層領域33が設けられている。
Z軸方向に積層された複数の発光層32において、井戸層領域34が設けられるX−Y平面内の位置は互いに異なっている。ベース層の上に形成されるキャップ層35は不特定の場所に不特定の形状で形成されると考えられる。キャップ層35の有無によって、井戸層領域34及び非井戸層領域33が形成されることから、X−Y平面内における不特定の場所に、井戸層領域34及び非井戸層領域33が形成されると考えられる。
ただし、井戸層領域34及び非井戸層領域33は、X−Y平面上に並置される。すなわち、Z軸方向における同じ位置の平面内に、井戸層領域34及び非井戸層領域33が形成される。これは、井戸層領域34及び非井戸層領域33がベース層を基にして形成されることに起因する。
図5は、実施例に係る半導体発光素子の構成を例示する表である。
すなわち、同図は、半導体発光素子111における各発光層32(第1〜第8発光層LE1〜LE8)の井戸層領域34の厚さの最大値tmaxと最小値tminを図4(a)及び図4(b)のTEM写真図から読み取った値を示している。
図5に表したように、第1発光層LE1〜第8発光層LE8において、井戸層領域34の厚さの最大値tmaxは、1.9nm〜2.5nmである。一方、第1発光層LE1〜第8発光層LE8において、井戸層領域34の厚さの最小値tminが0のものがある。すなわち、第2発光層LE2、第5発光層LE5及び第7発光層LE7においては、井戸層領域34の厚さの最小値tminが0である。井戸層領域34の厚さの最小値tminが0である部分は、井戸層領域34ではなく、非井戸層領域33に対応する。すなわち、本具体例では、第2発光層LE2、第5発光層LE5及び第7発光層LE7において、井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられている。
このように、複数の発光層32が設けられる場合において、複数の発光層32のうちの少なくともいずれかにおいて、井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられる。
図6は、実施例に係る別の半導体発光素子の構成を例示する透過型電子顕微鏡写真図である。
図6は、第1の実施形態の実施例に係る別の半導体発光素子112の発光部30のTEM写真図である。
半導体発光素子112は、半導体発光素子111の製造条件の一部を変更して製造されたものである。半導体発光素子112においても、発光層32の全面で連続した井戸層を用いるのではなく、発光層32の面内に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられ、井戸層領域34がX−Y平面内で分断されている。半導体発光素子112においては、非井戸層領域33の割合が半導体発光素子111に比べて大きい。
本実施形態に係る半導体発光素子において、井戸層領域34と非井戸層領域33との割合は、種々に変更することができる。
図7は、参考例の半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図7に表したように、第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、発光層32の全面が井戸層領域34である。すなわち、半導体発光素子119aにおいては、井戸層(発光層32)がX−Y平面の全面に渡って設けられている。半導体発光素子119aにおいても、発光層32におけるIn組成比は25%である。この他の条件は、半導体発光素子111と同様である。
このような半導体発光素子119aは、キャップ層35を設けず、ベース層(発光層32となる層)の全面に、障壁層31を形成することで作製される。すなわち、ベース層中のInが、ベース層の全面を被覆する障壁層31に遮断されてベース層から消失しない。これにより、X−Y平面の全面に井戸層(発光層32)が形成される。
図8は、参考例の半導体発光素子の構成を例示する透過型電子顕微鏡写真図である。
図8に表したように、半導体発光素子119aにおいては、発光部30の結晶に欠陥が発生している。半導体発光素子119aにおいては、井戸層(発光層32)が全面に連続的に設けられるために、井戸層(発光層32)において格子不整合に起因した格子歪みが発生し易い。この格子歪みにより、発光層32の結晶品質が劣化する。結晶品質の劣化は、発光層32の結晶成長中に発生すると共に、結晶成長が終了し、例えば電極等の形成工程中の種々の応力によっても発生する。
このように、発光層32の井戸層におけるIn組成比が20%以上で、かつ、発光層32がX−Y平面の全面に連続した層である場合には、結晶欠陥が発生し易い。
図9は、半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
すなわち、同図は、発光層32におけるIn組成比を変えた試料を作製し、そのときの発光光の主波波長(ピーク波長)と、光出力と、を評価した結果を例示している。同図には、発光層32の井戸層領域がX−Y平面の全面に連続している参考例の半導体発光素子と、発光層32において井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられる実施例の半導体発光素子と、の結果が示されている。同図の横軸は、発光波長の波長λであり、同図の縦軸は、20ミリアンペア(mA)の電流を通電したときの光出力OPである。
図9に表したように、発光層32の井戸層領域がX−Y平面の全面に連続しており、波長λが約500nm以下の第2参考例の半導体発光素子119bにおいては、光出力OPは大きい。しかしながら、発光層32の井戸層領域がX−Y平面の全面に連続している場合には、波長λが500nmよりも長くなると光出力OPは著しく低い。波長λが500nmよりも大きい第1参考例の半導体発光素子119aにおいては、波長λが約500nm以下の第2参考例の半導体発光素子119bに比べて、光出力OPが2分の1以下に低下している。
これに対し、波長λが500nmよりも長い領域において、発光層32が井戸層領域34と非井戸層領域33とを有する実施例に係る半導体発光素子111においては、光出力OPは高い値を維持していることが分かった。
この現象は、発明者の実験により新たに見出されたものである。
発光部30は、例えばGaNなどの下地層(例えばn形半導体層10など)の上に形成される。発光部30の発光層32においては、所望の波長の光を発光するように、GaNにInが添加される。GaNにInが添加されることで、GaNの下地層と、Inを含む井戸層との格子不整合が大きくなり、井戸層において結晶に欠陥が発生し易くなる。
青系色の波長の場合には、発光層32の井戸層におけるIn組成比は13%〜18%程度とされるが、緑系色の波長の場合には、発光層32の井戸層におけるIn組成比は20%〜28%程度とされる。このため、緑系色の波長を発光する半導体発光素子の場合においては、格子不整合が特に大きくなり、結晶欠陥が特に発生し易くなる。なお、井戸層のIn組成比が20%以上28%以下は井戸層から放出される光の波長が500nm以上560nm以下に対応する。
図9に例示したように、発光層32の井戸層領域がX−Y平面の全面に連続している参考例において、波長λが約500nm以下(第2参考例の半導体発光素子119b)に比べて、波長が500nmよりも長くなると(第1参考例の半導体発光素子119a)、光出力OPが著しく低下するのは、In組成比が高く格子不整合が大きくなり、その結果、図8に例示したような結晶欠陥が発生し、光出力が大幅に低下したものと考えられる。
これに対し、半導体発光素子111においては、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられるため、格子歪みが緩和され易く、結晶品質が高いため、その結果、光出力の低下が抑制されたものと考えられる。
本実施形態に係る半導体発光素子110及び110a(半導体発光素子111など)の構成は、今回初めて見出された上記の実験事実に基づいて構築されたものである。
すなわち、発光層32の全面で連続した井戸層を用いるのではなく、発光層32の面内において井戸層領域34と、井戸層が設けられない領域(非井戸層領域33)と、が設けられ、井戸層(井戸層領域34))がX−Y平面内で分断されている。このため、発光層32において結晶欠陥が発生し難い。これにより、井戸層領域34におけるIn組成比が緑系色の20%以上であっても、結晶欠陥が抑制され、結果として、発光効率が高い半導体発光素子が得られたと考えられる。
図10は、半導体発光素子の特性を例示するグラフ図である。
同図は、半導体発光素子において、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられる場合(実線)と、発光層32において非井戸層領域33が設けられず井戸層領域がX−Y平面の全面に連続している場合(破線)と、が示されている。
図10において破線で例示したように、発光層32において非井戸層領域33が設けられず井戸層領域がX−Y平面の全面に連続している場合は、波長λが短く、井戸層におけるIn組成比が低い場合(第2参考例の半導体発光素子119b)においては、格子不整合が小さく結晶品質が高いため、光出力OPが高い。しかしながら、波長λが長くなり、井戸層におけるIn組成比が高い場合(第1参考例の半導体発光素子119a)においては、格子不整合が大きくなり結晶品質が低くなり、光出力OPが著しく低下する。
一方、図10において実線で例示したように、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられ、波長λが短く井戸層領域34におけるIn組成比が低い場合(第3参考例の半導体発光素子119c)においては、格子不整合が小さく結晶品質が高いが、井戸層領域34のX−Y平面における面積比率が低い。このため、第3参考例の半導体発光素子119cにおける光出力は、第2参考例の半導体発光素子119bよりも低くなると考えられる。
このため、格子不整合が小さいIn組成比の場合には、井戸層を分断する方法は採用されなかったものと考えられる。
一方、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とが設けられ、波長λが長く井戸層領域34におけるIn組成比が高い場合(実施形態に係る半導体発光素子110及び110a)においては、井戸層領域34のX−Y平面における面積比率が低いことによってある程度光出力OPが低下するが、格子不整合が小さく結晶品質が高い。このため、半導体発光素子111(半導体発光素子110及び110a)における光出力は、第1参考例の半導体発光素子119aよりも高くなる。
このように、格子不整合が大きいIn組成比の場合には、井戸層を分断することによって井戸層領域34の面積比率が低くなるデメリットを上回って、結晶品質を高くすることのメリットが発揮される。これにより、長波長においても高い発光効率が得られる。
図11(a)及び図11(b)は、参考例の半導体発光素子の構成を例示する模式的断面図である。
図11(a)に表したように、第4参考例の半導体発光素子119dの発光部30においては、島状結晶39aが設けられている。島状結晶39aは、下地層となる例えばn形半導体層10(クラッド層)の上に、下地層の格子定数とは異なる層をMOCVD法により形成することで形成できるとされている。また、島状結晶39aの上に基層39bを形成し、さらにその上に島状結晶39aを形成する構造も知られている。島状結晶39aの平均直径(島状結晶の底面における平均直径)は、5nm〜30nmとされている。さらに、積層された各段に位置する島状結晶毎で発光波長を変えることで、白色光を生成する構成も知られている。島状結晶の大きさ(X−Y平面に沿った幅)を変えて島状結晶から波長の異なる光を得る。すなわち、この構成においては、島状結晶における量子効果を利用する。
図11(b)に表したように、第5参考例の半導体発光素子119eの発光部30においては、障壁層BLの中に多数の井戸箱WBが散在している。井戸箱WBは量子箱である。例えば、井戸箱WBのX−Y平面に沿った幅Wは約10nmであり、厚さは5nmであり、井戸箱WBは直方体である。井戸箱WBどうしの間隔は例えば10nmである。発光部30において、井戸箱WBは、規則性を持って散在している。このような井戸箱WBは、井戸箱WBとなる層と、障壁層BLと、の格子定数の制御によって形成できるとされている。井戸箱WBを用いることで、キャリアの3次元的な閉じ込めが可能となり発光効率が向上するとされている。
第4参考例の半導体発光素子119d及び第5参考例の半導体発光素子119eにおいては、量子効果を得るために、島状結晶39aまたは井戸箱WBが用いられている。このため、半導体発光素子119dにおいては、島状結晶39aの平均直径(X−Y平面に沿った幅W)は、5nm〜30nmのように、量子効果が顕著に表れる比較的小さい値に設定されている。そして、半導体発光素子119dにおいては、井戸箱WBのX−Y平面に沿った幅Wは、約10nmのように、量子効果が顕著に表れる比較的小さい値に設定されている。
これに対し、本実施形態に係る半導体発光素子110及び110a(例えば半導体発光素子111など)においては、発光層32における格子不整合による結晶品質の低下を井戸層領域34と非井戸層領域33とを設けることで抑制する。このため、井戸層領域34におけるX−Y平面内の量子効果を必要としない。この井戸層領域34のX−Y平面内における幅Wは任意であり、量子効果が発現しない大きさでも良い。井戸層領域34は、X−Y平面内における幅Wが50nm以上の部分を有する。例えば、第1井戸層領域WR1及び第2井戸層領域WR2の少なくともいずれかは、Z軸方向に対して垂直な方向に沿った幅が50nm以上の部分を有する。
なお、島状結晶や井戸箱のような量子ドットや量子箱を用いる構成においては、量子効果により発光波長が短波長化する。このため、目的とする発光波長(例えば緑色の波長)を得るために、In組成比がより高く設定される。In組成比が高いほど結晶品質が低下する傾向にあるため、量子ドットや量子箱を用いる構成においては発光効率が低下し易い。
これに対し、本実施形態においては、X−Y平面内の量子効果を必要としないため、発光波長の短波長化が抑制される。このため、量子効果を利用する場合に比べてIn組成比を低く設定できる。これにより高い結晶品質が得られ、その結果、発光効率が高い。
全面に連続した複数の井戸層を積層し、その井戸層ごとに発光色を変えて白色光を得ようとする構成においては、発光効率の高い井戸層において主に発光し発光効率の低い井戸層においては実質的には発光せず目的とする白色光が得られない。このため、井戸層のうちのいずれかを多数の量子点または結晶体(crystallites)とする構成により、白色光を得ようとする試みが知られている。すなわち、波長の長い井戸層を不連続にすることで、波長の短い井戸層への電流注入効率を高めることを目的として、波長の長い井戸層を多数の量子点または結晶体とする構成が知られている。また、上記の半導体発光素子119dのように、波長の異なる島状結晶を用いる構成が知られている。
これに対し、本実施形態に係る半導体発光素子110及び110a(例えば半導体発光素子111など)においては、複数の発光層32における発光色が互いに同系色で良い。 すなわち、本実施形態に係る半導体発光素子110及び110aにおいては、例えば、赤、青及び緑の光、または、互いに補色の関係の複数の色の光を用いて白色光を得ることが目的ではなく、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とを設け、発光層32における格子歪みを抑制することを目的としている。
このため、積層される複数の発光層32のそれぞれの井戸層領域34のIn組成比は実質的に同じとされる。すなわち、第2井戸層領域WR2におけるIn組成比は、第1井戸層領域WR1におけるIn組成比と実質的に同じとされる。ただし、既に説明したように、第2井戸層領域WR2における発光色と、第1井戸層領域WR1における発光色とが互いに同系色となれば良い。第2井戸層領域WR2におけるIn組成比は、第1井戸層領域WR1におけるIn組成比に対してプラスマイナス20%程度以下とされる。これにより、第2井戸層領域WR2における発光色と、第1井戸層領域WR1における発光色とが互いに同系色となれる。
なお、p形半導体層を成長して活性化アニールを行い、その後、島状結晶の発光層の成長、及び、n形半導体層の成長を行う構成も知られている。この構成においては、島状結晶における熱劣化が顕著であり、発光層の熱劣化を避けるために、p形半導体層の成長及び活性化アニールの後に、島状結晶(発光層)の成長が行われている。
これに対し、本実施形態に係る半導体発光素子110及び110aにおいては、n形半導体層10を形成した後に、井戸層領域34を含む発光層32が形成される。本実施形態に係る半導体発光素子110及び110aにおいては、発光層32に井戸層領域34と非井戸層領域33とを設けることで、例えば熱による結晶品質の劣化が抑制される。
本実施形態に係る半導体発光素子110及び110aにおいて、非井戸層領域33の発光層32に占める面積の割合は30%よりも大きいことが望ましい。非井戸層領域33の発光層32に占める面積の割合が30%以下だと、非井戸層領域33を設けることによる格子歪みの抑制効果が小さくなることがある。非井戸層領域33の発光層32に占める面積の割合は、50%以上であることがさらに望ましい。
複数の発光層32が設けられる場合においては、複数の発光層32のうちの少なくともいずれかにおける非井戸層領域33の発光層32に占める面積の割合が30%よりも大きければ良い。また、複数の発光層32のうちの少なくともいずれかにおける非井戸層領域33の発光層32に占める割合が50%以上であることがさらに望ましい。
非井戸層領域33の発光層32における面積の割合は、例えば図4(a)及び図4(b)並びに図5に例示したTEM写真像などによって見積もることができる。
すなわち、TEM像において、X軸方向(またはY軸方向)に沿った非井戸層領域33の長さの、X軸方向(またはY軸方向)に沿った全体(発光層32)の長さに対する比率から、非井戸層領域33の発光層32における面積の割合に相当する値を算出できる。
例えば、第1非井戸層領域NR1及び第2非井戸層領域NR2の少なくともいずれかのZ軸方向に対して垂直な第2方向(例えばX軸方向またはY軸方向など)に沿った長さは、第1発光層LE1及び第2発光層LE2の上記の第2方向に沿った長さの30%よりも長いことが望ましい。第1非井戸層領域NR1及び第2非井戸層領域NR2の少なくともいずれかのZ軸方向に対して垂直な第2方向に沿った長さは、第1発光層LE1及び第2発光層LE2の上記の第2方向に沿った長さの50%以上であることがさらに望ましい。
なお、井戸層の膜厚を不均一にして発光効率を向上させようと試みる構成(第6参考例)が知られているが、この場合には、井戸層の膜厚が0になる領域が存在すると発光出力の低下の原因になるため、井戸層の膜厚が0になる領域は少ない方が良いということが知られている。このような第6参考例においては、例えば、井戸層の膜厚が0である領域の井戸層全体に対する割合は30%以下が好ましく、20%以下がさらに好ましく、さらに10%以下がさらに好ましいことが知られている。
これに対し、本実施形態に係る半導体発光素子110及び110aにおいては、第6参考例とは逆に、非井戸層領域33を一定以上の割合で設けることで、格子不整合が大きい条件において特に発生する格子歪みを抑制する。
(第3の実施の形態)
図12は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法を例示するフローチャート図である。
図13(a)〜図13(d)は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
図12及び図13(a)に表したように、本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法においては、n形半導体層10の上に、Inを含む窒化物半導体を含む第1ベース層BF1を形成する(ステップS110)。
本願明細書においては、「上に層を形成する」とは、下地層に上層を直接形成する場合の他、下地層の上に別の層を形成し、その別の層の上に上層を形成することを含む。
図13(a)に示した例では、n形半導体層10の上に、n側障壁層BLn(例えばGaN層)が形成され、n側障壁層BLnの上に、第1ベース層BF1が形成されている。さらに、実施例に係る半導体発光素子111及びその製造方法に関して説明したように、n形半導体層10の上に積層膜60(例えば超格子層)を形成し、積層膜60の上にn側障壁層BLnを形成し、n側障壁層BLnの上に第1ベース層BF1を形成することもできる。
第1ベース層BF1として、例えば、In組成比が25%のInGaNからなる結晶が成長される。第1ベース層BF1の厚さは、2.0nm以上5.0nm以下とされる。
図12及び図13(b)に表したように、第1ベース層BF1の上の一部に第1キャップ層CL1を形成する(ステップS120)。第1ベース層BF1として、例えばGaNからなる結晶が成長される。第1ベース層BF1の一部は第1キャップ層CL1に覆われ、第1ベース層BF1の他の一部は第1キャップ層CL1に覆われていない。第1キャップ層CL1は、例えば島状に形成される。第1キャップ層CL1は、例えば網目状に設けられる。第1キャップ層CL1の平均の厚さは、例えば2nm程度以下とされる。
図12及び図13(c)に表したように、第1ベース層BF1うちの第1キャップ層CL1に覆われていない部分に含まれるInの含有比を減少させて、第1ベース層BF1のうちの第1キャップ層CL1に覆われていない上記の部分を第1非井戸層領域NR1に変化させ、第1ベース層BF1のうちの第1キャップ層CL1に覆われた部分からなる第1井戸層領域WR1と、第1非井戸層領域NR1と、を含む第1発光層LE1を形成する(ステップS130)。例えば、温度を上昇させることにより、第1ベース層BF1うちの第1キャップ層CL1に覆われていない部分に含まれるInが消失し、この部分のIn組成比が低下する。これにより、例えばInを実質的に含まない領域である第1非井戸層領域NR1が形成される。
図12及び図13(d)に表したように、第1発光層LE1の上、及び、第1キャップ層CL1の上に第1障壁層BL1を形成する(ステップS140)。第1障壁層BL1として、GaNからなる結晶が成長される。第1障壁層BL1の厚さは、例えば6nmとされる。
そして、第1障壁層BL1の上にp形半導体層20を形成する(ステップS150)。なお、既に説明したように、第1障壁層BL1の上に、p形半導体層20として、第1p側層21、第2p側層22及び第3p側層23が順次形成される。
本実施形態に係る半導体発光素子の製造方法によれば、井戸層領域34と非井戸層領域33とを有する発光層32が簡便に安定して形成でき、In組成比の高い発光層においても高い結晶品質を維持できる。これにより、長波長においても発光効率が高い半導体発光素子が製造できる。
図14は、第3の実施形態に係る半導体発光素子の別の製造方法を例示するフローチャート図である。
図15(a)〜図15(d)は、第3の実施形態に係る別の半導体発光素子の製造方法を例示する工程順模式的断面図である。
図14に表したように、本製造方法は、図12に例示した製造方法における第1障壁層BL1の形成(ステップS140)と、p形半導体層20の形成(ステップS150)と、の間において実施される以下の工程(ステップS210〜ステップS240)をさらに備える。
図15(a)に表したように、第1障壁層BL1の上に、第1ベース層BF1に含まれるIn組成比と同じIn組成比でInを含む窒化物半導体を含む第2ベース層BF2を形成する(ステップS210)。
図15(b)に表したように、第2ベース層BF2の上の一部に第2キャップ層CL2を形成する(ステップS220)。
図15(c)に表したように、第2ベース層BF2のうちの第2キャップ層CL2に覆われていない部分に含まれるInの含有比を減少させて、第2ベース層BF2のうちの第2キャップ層CL2に覆われていない上記の部分を第2非井戸層領域NR2に変化させ、第2ベース層BF2のうちの第2キャップ層CL2に覆われた部分からなる第2井戸層領域WR2と、第2非井戸層領域NR2と、を含む第2発光層LE2を形成する(ステップS230)。
第2発光層LE2の上、及び、第2キャップ層CL2の上に第2障壁層BL2を形成する(ステップS240)。
そして、p形半導体層20は、第2障壁層BL2の上に形成される。
さらに、上記のベース層の形成、キャップ層35の形成、ベース層の一部からInを消失させて井戸層領域34と非井戸層領域33とを含む発光層32の形成、及び、障壁層31の形成の組み合わせは、任意の回数で繰り返して実施することができる。これにより、MQW構造を有する発光部30を含む半導体発光素子が製造できる。
実施形態によれば、長波長においても発光効率が高い半導体発光素子及びその製造方法が提供できる。
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電型などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、半導体発光素子に含まれる基板、バッファ層、n形半導体層、p形半導体層、発光部、発光層、障壁層、井戸層領域、非井戸層領域、積層膜(超格子層)及び電極などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
その他、本発明の実施の形態として上述した半導体発光素子及びその製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての半導体発光素子及びその製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。