JP5758676B2 - 成形加工用アルミニウム合金板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
以下、本発明に係るアルミニウム合金板を実現するための形態について説明する。
(Si:0.4〜1.5質量%)
Siは、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、また、アルミニウム合金において固溶強化により強度を向上させる効果があり、さらにMgと共存する場合、塗装焼付け処理等の低温での人工時効処理時に、Mg−Si系金属間化合物(Mg2Si)を生成して強度向上に寄与する。これらの効果により十分な強度を得るために、Siの含有量は0.4質量%以上とし、好ましくは0.6質量%以上である。一方、Siの含有量が1.5質量%を超えると、鋳造における凝固時に晶出物が、その後の冷却時に析出物がそれぞれ粗大なものとして生成して、後続の工程においても残留するため、成形性が低下し、さらに粒界割れが発生するために溶接性が低下する。したがって、Siの含有量は1.5質量%以下とし、好ましくは1.3質量%以下である。
Mgは、アルミニウム合金において固溶強化により強度を向上させる効果があり、さらにSiと共存する場合、塗装焼付け処理等の低温での人工時効処理時に、Mg2SiのようなMg−Si系金属間化合物を生成して強度向上に寄与する。これらの効果により十分な強度を得るために、Mgの含有量は0.4質量%以上とする。一方、Mgの含有量が1.0質量%を超えると、鋳造時に前記金属間化合物が粗大なものとなって晶出、析出して、後続の工程を経ても残留するために成形性が低下する。したがって、Mgの含有量は1.0質量%以下とし、好ましくは0.8質量%以下である。
Feは、地金不純物としてアルミニウム合金中に混入するものであり、また、アルミニウム合金中で、Mn,Siと共にAl6(Mn,Fe)のようなAl−Mn−Fe系金属間化合物やAl12(Mn,Fe)3SiのようなAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物を生成する。鋳造時にこれらの金属間化合物が晶出することで、熱間圧延後においてこの晶出物を核に再結晶が進行して、微細かつランダムな集合組織となる。晶出物を適正な量として微細な再結晶組織を得るために、Feの含有量は0.1質量%以上とし、好ましくは0.15質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上である。なお、Feについてはある程度の含有量を許容することで、当該アルミニウム合金の原料にスクラップ材等を多く混合できて、リサイクル性が向上する。ただし、Feの含有量が1.0質量%を超えると、前記の金属間化合物が粗大に生成されて、強度や成形性が低下する。したがって、Feの含有量は1.0質量%以下とする。
Mnは、アルミニウム合金中で、Fe,Siと共にAl6(Mn,Fe)のようなAl−Mn−Fe系金属間化合物やAl12(Mn,Fe)3SiのようなAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物を生成する。鋳造時にこれらの金属間化合物が晶出することで、熱間圧延後においてこの晶出物を核に再結晶が進行して、微細かつランダムな集合組織となる。晶出物を適正な量として微細な再結晶組織を得るために、Mnの含有量は0.1質量%以上とする。一方、Mnの含有量が0.5質量%を超えると、前記の金属間化合物が粗大に生成されて、強度や成形性が低下する。したがって、Mnの含有量は0.5質量%以下とする。
Cuは、アルミニウム合金において固溶して、加工硬化性を高くしてプレス加工時の成形性が向上する。また、Cuは、塗装焼付け処理等の低温での人工時効処理で、時効析出物の形成を促進させる効果を有する。これらの効果を十分なものとするために、Cuの含有量は0.05質量%以上とすることが好ましい。一方、Cuの含有量が1.0質量%を超えると、加工硬化が過大となって成形性が低下し、また耐応力腐食割れ性や耐糸錆性が著しく劣化する。したがって、Cuの含有量は1.0質量%以下とする。
本発明に係るアルミニウム合金板は、前記成分以外に、例えばCr,Zn,Ti,Zr,Bが不可避的不純物として含まれていることが考えられ、これらの含有量は、Cr,Zr:各0.15質量%以下、Zn:0.5質量%以下、Ti:0.10質量%以下であれば、本発明の効果を阻害するものではなく許容される。また、TiおよびBを添加することにより、アルミニウム合金の鋳塊組織を微細化する作用が得られる。このような作用を得るために、通常、質量比でTiがBの5倍となる配合の鋳塊微細化剤(TiB)を、ワッフル状あるいはロッド状の形態で溶湯(溶解炉、介在物フィルタ、脱ガス装置、溶湯流量制御装置のいずれかに投入された、スラブ凝固前の溶湯)に添加する。この場合、アルミニウム合金板におけるTiの含有量が0.007質量%以上となる量のTi(TiB)の添加により、鋳塊の結晶粒が微細化され、アルミニウム合金板の成形性が向上する。すなわち、前記効果を得るためにはTiの含有量を0.007質量%以上とすることが好ましく、この場合、前記配合に応じたBも必然的に添加されることとなる。一方、アルミニウム合金板におけるTiの含有量が0.10質量%を超えると、粗大な晶出物が形成され、アルミニウム合金板の成形性が低下する。したがって、Tiの含有量は0.10質量%以下とし、また前記配合に応じてBの含有量を許容するものとする。
(圧延方向を含む断面の板厚方向中心部における円相当径が2.0μm以上のAl−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物の面積率:0.4%以上、個数密度:1350個/mm2以上)
本発明に係るアルミニウム合金板に存在する金属間化合物は、主にAl6(Mn,Fe)、Al12(Mn,Fe)3Si等のAl−Mn−Fe系、Al−Mn−Fe−Si系金属間化合物(以下、これらをまとめて「Al−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物」という)、およびMg2Si等のMg−Si系金属間化合物である。アルミニウム合金板において、これらの金属間化合物のうち、ある程度の大きさ以上のものが熱間圧延後において再結晶の核となる。ここで、本発明に係るアルミニウム合金板は、冷間圧延後に溶体化処理されているため、Si,Mgの一部は固溶する。したがって、アルミニウム合金板においては、熱間圧延後すなわち冷間圧延前において再結晶の核となったMg−Si系金属間化合物を特定することが困難であるため、Al−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物を指標とする。すなわちアルミニウム合金板の圧延方向を含む断面(L−ST面)の板厚方向中心部における円相当径が2.0μm以上のAl−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物が、熱間圧延後において再結晶の核となった金属間化合物であると推測される。
はじめに、アルミニウム合金を溶解し、DC鋳造法等の公知の半連続鋳造法により鋳造し、アルミニウム合金の固相線温度未満まで冷却して、鋳塊を得る。
鋳塊を圧延する前に、所定温度で均質化熱処理(均熱処理)することが必要である。鋳塊に熱処理を施すことによって、内部応力が除去され、鋳造時に偏析したβ−Mg2Siや組織が均質化され、また、鋳造冷却時に晶出したりそれ以降に析出した金属間化合物が成長して、熱間圧延後において再結晶の核となり得る適度な大きさになる。
均熱処理工程において、熱処理温度(鋳塊温度)が500℃未満では、鋳塊の組織の均質化に時間がかかるため、生産性が低くなり、さらに温度が低くなると本発明に係るアルミニウム合金板の成分の鋳塊を均質化することが困難となる。一方、熱処理温度が580℃を超えると、鋳塊が局所的に再溶融(バーニング)して板の表面の性状が悪化し、さらにはその後の熱間圧延が不可能となる。したがって、均熱処理工程において、熱処理温度は500℃以上580℃以下とする。また、熱処理時間は1時間未満では鋳塊の均質化が完了していない虞があるため、1時間以上とし、一方、上限は特に限定するものではないが、処理時間が長くなると生産性が低下するため、10時間以下が好ましい。
均質化された鋳塊を熱間圧延する。まず、所定の温度範囲の開始温度とした鋳塊に対して粗圧延をして、さらに仕上げ圧延により所望の板厚として、所定の温度以上の終了温度で巻き取って熱間圧延板を得る。熱間圧延板の板厚は、アルミニウム合金板としたときの板厚すなわち後続の冷間圧延工程後の冷間圧延板の板厚から、冷間圧延工程における総圧延率(冷間加工率)を逆算して設定し、具体的には、1.7〜10mm程度の範囲が好ましい。
450℃を超える温度の鋳塊等を圧延すると、熱間圧延の終了温度が高くなり過ぎる虞があり、その後の再結晶にて組織が粗大化し、最終的にアルミニウム合金板に製造されたときに肌荒れ等の不具合が発生するため、熱間圧延開始温度は450℃以下とする。一方、温度が低いと、変形抵抗が大きいために1パスの圧下率を高くすることが困難となり、所望の板厚とするまでのパス数が多くなって生産性が低下する上、パスを多く繰り返すことでさらに温度が降下する。熱間圧延の開始時において鋳塊の温度が350℃未満では、終了温度が低くなり過ぎて後記の所定温度を満足できないため、熱間圧延開始温度は350℃以上とする。このような開始温度は、先行の均熱処理の終了後に鋳塊を当該開始温度まで冷却するか、均熱処理後に冷却された鋳塊を予備加熱することにより制御する。
熱間圧延は、一般的なアルミニウム材の熱間圧延と同様に1パスの圧下率30〜50%程度の範囲で行うことができるが、本発明においては、パス数を低減して生産性を向上させるために、また、温度降下を抑制して終了温度を後記の所定値以上として再結晶させるために、各パスの圧下率はある程度高いことが好ましい。特に、板厚が100mm以下となってから30mmよりも薄くなる前に、圧下率40%以上の圧延パスを少なくとも1パス行う必要がある。熱間圧延(粗圧延)の初期〜中期において40%以上の高い圧下率で圧延されることがない場合、結晶粒が粗大化し、このような粗大組織が熱間圧延(仕上げ圧延)の終了まで残存する。その結果、その後の再結晶において、金属間化合物が十分に分布していても微細な結晶組織が得られ難い。この圧下率40%以上の圧延パスは、100mmを超える板厚の圧延板に行っても、当該圧延板の深部の圧延組織が残存し易く、一方、30mm未満の板厚の圧延板に行っても、かかる圧延パスによる板厚の変化量の絶対値が小さいために効果が十分に得られない。なお、100〜30mmに限定される板厚とは、圧下率40%以上のパスで圧延する直前の板厚を指す。
熱間圧延工程の終了時(熱間仕上げ圧延の終了時)で熱間圧延板の巻取り温度(終了温度)が低いと、熱間仕上げ圧延の最終パス後において再結晶の進行が不十分で、熱間圧延板に圧延組織が残存する。本発明に係るアルミニウム合金板は、前記した通り、熱間圧延後において、適正に分布した金属間化合物を核として微細な再結晶組織が形成される。したがって、冷間圧延前に完全に再結晶している必要があるため、圧延組織が残存している熱間圧延板は、冷間圧延前に焼鈍(中間焼鈍)を行う工程が必要になり、生産性が低下する。一方、最終パスの圧下率が高いほど、その後の再結晶が進行し易い傾向がある。この最終パスの圧下率(%)をrで表したとき、終了温度が(445−3r)℃以上であれば、再結晶が熱間圧延板の巻取り時において十分に進行して完了する(圧延組織が残存しない)。すなわち、熱間圧延の最終パスにおいて、圧下率が高いほど終了温度が低くなってもよいが、前記したように、圧延板の温度が低くなると、変形抵抗が大きいために圧下率を高くすることが困難になる。したがって、熱間圧延工程における終了温度は、前記最終パスの圧下率に応じた温度以上とする。なお、終了温度が400℃を超えると、前記したように再結晶にて組織が粗大化するが、開始温度の上限の規定により、終了温度が400℃を超えることは生じ難いため、本発明においては特に規定しない。
ここで、熱間圧延板の再結晶の進行状態を観察する方法を説明する。再結晶が完了すると、等軸状の再結晶粒、具体的には特許第3491819号公報に示すように、熱間圧延板の圧延面(表面)に平行な面と圧延方向を含む断面との各面において平均アスペクト比が1〜3の範囲である再結晶粒が得られる。詳しくは、熱間圧延板組織の、圧延方向における粒径dL、圧延直角(幅)方向における粒径dLT、板厚方向における粒径dSTが、1≦dL/dLT≦3、1≦dL/dST≦3となるものが等軸状の再結晶粒である。これに対して、アスペクト比dL/dLT、dL/dSTの平均が3を超えるということは圧延組織のファイバー組織が残留していることを示す。なお、1未満については、圧延によりdLがdLT、dSTよりも短くなることはないため、規定しない。dL/dLTは熱間圧延板の表面を、dL/dSTは熱間圧延板の圧延方向を含む断面を、それぞれ機械研磨した後に電解エッチングをして、光学顕微鏡(偏光板使用)を用いて観察することで測定できる。
(総圧延率:40%以上)
熱間圧延板を冷間圧延して、所定のアルミニウム合金板の板厚として冷間圧延板とする。冷間圧延は、総圧延率(冷間加工率)が高いほど歪みが多く蓄積して、後続の溶体化処理による再結晶組織の結晶粒が微細となって、表面性状が向上する。総圧延率が40%未満では溶体化処理にて再結晶粒が粗大化して、成形加工後の良好な表面性状が得られないため、総圧延率40%以上で冷間圧延する。総圧延率が大きくなると、冷間圧延パス数が増加して生産性が低下するため、90%以下とすることが好ましい。
(加熱温度:500〜560℃)
冷間圧延板を加熱することにより溶体化処理をし、その後に室温(50℃以下)に冷却することにより焼入れ処理をして、本発明に係るアルミニウム合金板となる。このような処理を行うことにより、冷間圧延板に金属間化合物として存在していたMg,Siのできるだけ多くを固溶させて、成形後の塗装、焼付けによるベークハード性を確保することができる。溶体化、焼入れ処理は、6000系のような公知のAl−Mg−Si系合金材と同様の方法で行うことができる。冷間圧延板の温度が500℃未満では、Mg,Siが十分に固溶せず、固溶量が不足するのでベークハード性が得られない。一方、冷間圧延板が560℃を超えると、共晶融解により伸びが顕著に低下したり、結晶粒が粗大化して板表面が肌荒れしたりして、塗装後の表面性状が劣化する。したがって、冷間圧延板の加熱温度は500〜560℃とする。冷間圧延板がこの範囲の温度に到達すれば前記効果を得ることができるため、かかる温度を保持する必要はなく、保持時間を長くしてもさらなる効果の向上はなく生産性が低下するので、30秒間以下が好ましい。そして、加熱温度に到達した後の冷却において、冷却速度が遅いと粒界に粗大なMg2Si,Si等が析出し易く、成形性が低下するため、水冷(水焼入れ)等により急冷することが好ましい。
溶体化、焼入れ処理されたAl−Mg−Si系合金材は、室温に放置されると自然時効(室温時効)により強度(耐力)が漸増して、これに伴い成形性が低下する。そこで、予め強度を十分に向上させて、かつその後の経時変化を抑制するため、アルミニウム合金板は、さらに、6000系のような公知のAl−Mg−Si系合金材と同様の方法で予備時効処理を行うことが好ましい。詳しくは、70〜120℃の温度で3時間以上保持した後、室温まで放冷する。処理温度が70℃未満では、塗装、焼付け後の強度が十分に得られない。一方、120℃を超える温度に保持されると、耐力が過大となって変形抵抗が大きいために成形性が低下する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、自動車のパネル構造体等に成形されるためのプレス加工やヘム加工が可能な成形性を有し、さらに成形後、塗装、焼付け後に十分な強度を有する。具体的には、板厚1.0mmとしたアルミニウム合金板の前記予備時効処理をされたものについて、引張強さ:200MPa以上、0.2%耐力:100MPa以上150MPa以下、伸び:20%以上となる。
(鋳造〜均質化熱処理)
表1に示す組成のアルミニウム合金を、溶解し、半連続鋳造法を用いて厚さ600mmの鋳塊を作製した。この鋳塊を、熱処理温度550℃で5時間保持することにより均質化してから、室温に冷却して、面削処理をした。
次に、鋳塊を予備加熱して、開始温度を400℃として熱間圧延(粗圧延、仕上げ圧延)をして、板厚4.0mmの熱間圧延板とした。粗圧延において、板厚80mmとして次の1パスにて板厚40mmにした(圧下率50%)。さらに熱間圧延(仕上げ圧延)の最終パスの直前の板厚を8mmになるようにして、圧下率50%で板厚4.0mmの熱間圧延板とし、終了温度320℃で巻き取った。この熱間圧延板を焼鈍することなく、冷間圧延をして、板厚1.0mmの冷間圧延板を作製した(総圧延率75%)。
冷間圧延板を、連続式の熱処理炉で加熱して到達温度550℃で10秒間保持し(溶体化処理)、水冷(水焼入れ)した。さらに70℃で5時間保持した後、室温まで放冷し(予備時効処理)、室温に3ヶ月間放置して(室温時効)アルミニウム合金板の供試材とした。
アルミニウム合金板を切り出して樹脂埋めし、圧延方向と板厚方向を含む面を観察面となるように研磨して鏡面とした。この鏡面化された面の板厚方向1/2の部位を中心とした板厚方向に±0.25mmの範囲内(板厚の50%の範囲)を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、加速電圧20kV、倍率100倍の組成(COMPO)像で20視野(合計5mm2)観察した。母相より白く写る部分をAl−Mn−Fe系金属間化合物およびAl−Mn−Fe−Si系金属間化合物(Al−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物)と見なして、円相当径が2.0μm以上の金属間化合物の面積の合計および個数を求め、面積率および個数密度を算出した。アルミニウム合金板の断面の板厚中心部における円相当径が2.0μm以上のAl−Mn−Fe(−Si)金属間化合物の面積率および個数密度を表1に示す。
アルミニウム合金板の供試材について、以下の方法でリジングマーク性、機械的特性、成形性、および曲げ性を評価し、結果を表1に示す。
リジングマーク性の指標として、特許文献6と同様に、プレス加工後におけるアルミニウム合金板表面の凹凸差を評価した。アルミニウム合金板から圧延方向長40mm×圧延直角方向長200mmの試験片と、圧延方向長100mm×圧延直角方向長300mmの試験片と、の2種類の形状の試験片を切り出した。これらの試験片に、プレス加工を模擬して、長手方向(圧延直角方向)にストレッチ(引張変形)を加えることにより、圧延方向長40mmの試験片には15%の塑性歪みを、圧延方向長100mmの試験片には10%の塑性歪みを、それぞれ付与した。
アルミニウム合金板を切り出して、圧延方向を長手方向として50mm×25mmのJIS5号引張試験片を作製した。この試験片を室温にてJISZ2241に準じて引張試験を行って、引張強さ、0.2%耐力(As耐力)、および伸びを測定した。また、前記と同様にアルミニウム合金板を切り出してJIS5号引張試験片を作製し、プレス加工および塗装、焼付け処理を模擬して、2%の予歪みを付与し、熱処理炉により170℃で20分の熱処理をした。この試験片について、引張試験を行って0.2%耐力(AB耐力)を測定した。合格基準は、引張強さ:200MPa以上、As耐力:100MPa以上150MPa以下、伸び:20%以上、AB耐力:170MPa以上とした。
アルミニウム合金板のプレス加工における割れの有無の評価に代えて、球頭張出し成形による限界張出し高さを評価した。試験片として、アルミニウム合金板を圧延方向長110mm×圧延直角方向長200mmに切り出した。この試験片を、図1に示すように、内径(穴径)102.8mm、肩半径Rd:5.0mm、外径220mmのダイスに、治具(ブランクホルダ)を用いて一定しわ押さえ力で固定した。そして、ダイス−治具間の隙間を試験片と同じ厚さ1mmのシム(図示省略)を挟むことにより一定に保ちながら、球頭直径100mm(半径Rp:50mm)の球頭ポンチを試験片表面に対して垂直方向に押し込んで張出し加工を行い、割れや括れが観察されるまでの張出し高さの限界値を求めた。限界張出しが30mm以上であるものを合格とする。
曲げ性の評価として、自動車のアウタパネルにプレス成形された後のフラットヘム加工を模擬した曲げ加工試験を行って評価した。アルミニウム合金板を圧延方向長180mm×圧延直角方向長30mmに切り出して、プレス成形された状態を模擬すべく10%の予歪みを付与して、曲げ加工試験片を作製し、圧延直角方向に沿って折り目が付くように、図2に示すフラットヘム加工を模擬した、以下の曲げ加工を行った。
これに対して、供試材No.16〜27は、アルミニウム合金の成分が本発明の要件を満たさない比較例である。供試材No.16,20,22は、それぞれSi,Fe,Mnが不足しているため、金属間化合物が十分に晶出、析出せず、その結果、塗装後の表面にリジングマークが発生した。また、供試材No.16,18はそれぞれSi,Mgが不足したことで、耐力等の強度が不足した。なお、供試材No.28は、成分のそれぞれは本発明の要件を満たすが、Feが本発明の範囲の下限であり、Mnが供試材No.4のように上限近傍まで多くなかったために、金属間化合物が十分に晶出、析出せず、その結果、塗装後の表面にリジングマークが発生した。
(鋳造〜均質化熱処理)
表2に示す組成(合金No.として実施例1の供試材No.を示す)のアルミニウム合金について、実施例1と同様に、厚さ600mmの鋳塊を作製し、550℃×5時間の均質化熱処理をして、面削処理をした。ただし、供試材No.33については480℃×9時間、供試材No.34については600℃×2時間の均質化熱処理をした。
次に、鋳塊を予備加熱にて開始温度を400℃として熱間圧延(粗圧延、仕上げ圧延)をして、板厚4.0mmの熱間圧延板とした。実施例1と同様に、粗圧延において、板厚80mmとして次の1パスにて板厚40mmにした(圧下率50%)。熱間圧延(仕上げ圧延)の最終パスにおいては、直前の板厚を調整して、表2に示す圧下率で板厚4.0mmの熱間圧延板とし、さらに表2に示す終了温度で巻き取った。
熱間圧延後に熱間圧延板を切り出して、熱間圧延板組織を観察して、再結晶の進行状態を判定した。熱間圧延板の表面を機械研磨して、前記表面から板厚の1/4の部位の圧延面に平行な面を観察面とした。また、熱間圧延板の圧延方向を含む断面を同様に機械研磨して観察面とし、この断面の板厚の1/2の部位を観察領域とした。それぞれの観察面に、さらに5%ほうフッ化水素酸水溶液(溶液温度20〜30℃)を用いて電圧30Vで60〜90秒間の電解エッチングをした後、光学顕微鏡(偏光板使用)にて倍率100倍で熱間圧延板組織を観察した。顕微鏡像から、ラインインターセプト法により圧延方向、圧延直角方向、板厚方向における各粒径dL、dLT、dSTを測定した。1回の測定ライン長は200μmとし、各方向毎に1視野あたり各5本で計5視野観察して、各粒径の平均値を算出した。各粒径の平均値から、熱間圧延板の表面に平行な面におけるアスペクト比dL/dLT、圧延方向を含む断面におけるアスペクト比dL/dSTを求め、1≦dL/dLT≦3、1≦dL/dST≦3となる熱間圧延板については、等軸状の再結晶粒が得られ、再結晶が完了していると判定して中間焼鈍を行わずに後続の冷間圧延を行った。これに対して、アスペクト比dL/dLT、dL/dSTの少なくとも一方が3を超えた熱間圧延板は、再結晶が完了していないと判定して、以下の中間焼鈍を行ってから冷間圧延を行った。
熱間圧延板組織の観察にて再結晶が完了していないと判定された熱間圧延板を、連続焼鈍炉にて500℃×10秒間、またはバッチ式の炉にて350℃×5時間の中間焼鈍を行った。詳しくは、連続焼鈍炉においては、熱間圧延板を、昇温速度20℃/秒で500℃に加熱し、焼鈍時間(通板時間)10秒間の後、降温速度100℃/秒で室温まで冷却した。バッチ式の炉においては、熱間圧延板を、昇温速度20℃/時で350℃に加熱し、焼鈍時間5時間を保持した後、降温速度20℃/時で室温まで冷却した。中間焼鈍を連続焼鈍炉にて行った供試材は「連続」で、バッチ式の炉にて行った供試材は「バッチ」でそれぞれ表2の中間焼鈍の仕様欄に示し、中間焼鈍を行わなかった供試材は「−」で示す。
熱間圧延板を、実施例1と同様に冷間圧延をして、板厚1.0mmの冷間圧延板を作製した(総圧延率75%)。さらに実施例1と同様に、冷間圧延板を、到達温度550℃で溶体化処理をして水冷(水焼入れ)し、70℃×5時間の予備時効処理をし、3ヶ月間の室温時効を経て、アルミニウム合金板の供試材とした。なお、供試材の作製において、途中以降の工程および測定、評価のできなかった供試材は、表2の各欄に「−」で示す。
実施例1と同様に、アルミニウム合金板の供試材について、Al−Mn−Fe(−Si)金属間化合物の分布(面積率および個数密度)を測定し、リジングマーク性、機械的特性、および成形性を評価し、結果を表2に示す。なお、実施例1の供試材No.1,5,7,14についても表2に併記する。
Claims (4)
- Si:0.4〜1.5質量%、Mg:0.4〜1.0質量%、Fe:0.1〜1.0質量%、Mn:0.1〜0.5質量%を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物からなるアルミニウム合金で形成され、
圧延方向を含む断面の板厚方向中心部において、円相当径が2.0μm以上のAl−Mn−Fe(−Si)系金属間化合物が、面積率:0.4%以上、個数密度:1350個/mm2以上であることを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板。 - 前記アルミニウム合金がさらにCu:0.05〜1.0質量%を含有する請求項1に記載の成形加工用アルミニウム合金板。
- 前記アルミニウム合金がさらにCr:0.15質量%以下、Zr:0.15質量%以下、Ti:0.007〜0.10質量%、Zn:0.5質量%以下の少なくとも一種を含有する請求項1または請求項2に記載の成形加工用アルミニウム合金板。
- 請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の成形加工用アルミニウム合金板の製造方法であって、
前記アルミニウム合金を溶解して鋳塊を鋳造する鋳造工程と、前記鋳塊を500〜580℃の範囲の温度で1時間以上の熱処理にて均質化する均質化熱処理工程と、前記均質化した鋳塊を350〜450℃の範囲の温度としてから熱間圧延して熱間圧延板を製造する熱間圧延工程と、前記熱間圧延板を総圧延率40%以上で冷間圧延して冷間圧延板を製造する冷間圧延工程と、前記冷間圧延板を500〜560℃の範囲の温度に到達するまで加熱した後に室温に冷却する溶体化処理工程と、を行い、
前記熱間圧延工程は、100mm以下30mm以上の板厚に到達しているときに圧下率40%以上の圧延パスを少なくとも1パス行い、最終圧延パスにおける圧下率(%)をrで表したとき、終了温度が(445−3r)℃以上になるように圧延することを特徴とする成形加工用アルミニウム合金板の製造方法。
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