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JP5740055B2 - 電解銅箔、該電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池用電極、該電極を用いたリチウムイオン二次電池 - Google Patents

電解銅箔、該電解銅箔を用いたリチウムイオン二次電池用電極、該電極を用いたリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、電解析出面が低プロファイルであり、且つ、大きな機械的強度を備え、高温で加熱しても機械的強度が変化し難い電解銅箔に関するものである。
本発明は、前記電解銅箔を二次電池用集電体とし、該集電体に活物質を堆積して二次電池用電極とし、該電極を組み込んだ二次電池に関するものである。
本発明の電解銅箔は、該電解銅箔を導電材としたリジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料等に好適に採用することができる。
なお、本明細書では、電解銅箔、電解銅合金箔(箔中に銅と第三金属との合金を含む箔、箔中に第三金属を固溶状態で含む箔)を区別して表現する必要がない時は「電解銅箔」と表現し、また、機械的強度とは引張強度を指す。
銅箔は、リジッドプリント配線板、フレキシブルプリント配線板、電磁波シールド材料、電池の集電体等々、種々の分野で使用されている。
これらの分野の内、ポリイミドフィルムと張り合わせるプリント配線板(フレキシブル配線板、以下「FPC」と称する。)の分野において、ハードディスク(以下、「HDD」と称する。)サスペンション材料、或いはテープ・オートメーティド・ボンディング(以下、「TAB」と称する。)材料は、銅箔の強度向上を要求してきている。
HDDに搭載されているサスペンションは、HDDの高容量化が進むに従い従来使用されてきたワイヤタイプのサスペンションから、記憶媒体であるディスクに対しフライングヘッドの浮力と位置精度が安定した配線一体型のサスペンションへ大半が置き換わってきている。
この配線一体型サスペンションは、次の三種類のタイプがある。
a.FSA(フレックス サスペンション アッセンブリ)法と呼ばれるフレキシブルプリント基板を加工し接着剤を用いて張り合わせたタイプ
b.CIS(サーキット・インテグレーティッド・サスペンション)法と呼ばれるポリイミド樹脂の前駆体であるアミック酸を形状加工した後、イミド化し更にポリイミド上にメッキ加工を施すことにより配線を形成するタイプ
c.TSA(トレース・サスペンション・アッセンブリ)法と呼ばれるステンレス箔−ポリイミド樹脂−銅箔からなる積層体をエッチング加工により所定の形状に加工するタイプ
TSA法サスペンションは、高強度を有する銅合金箔を積層することによって、容易にフライングリードを形成させることが可能であり、形状加工での自由度が高いことや比較的安価で寸法精度が良いことから幅広く使用されている。
TSA法により形成される積層体は、ステンレス箔厚さは12〜30μm程度、ポリイミド層厚みは5〜20μm程度、銅合金箔厚さは7〜14μm程度の材料を用いて製造されている。
積層体の製造は、まず基体となるステンレス箔上にポリイミド樹脂液を塗布する。塗布後、予備加熱により溶媒を除去した後、さらに加熱処理してイミド化を行う。続いてイミド化したポリイミド樹脂層の上に銅合金箔を重ね合わせ、300℃程度の温度で加熱圧着してラミネートし、ステンレス層/ポリイミド層/銅合金層からなる積層体を製造する。
この300℃程度の加熱時において、ステンレス箔には寸法変化がほとんど見られない。しかし、従来の電解銅箔を使用すると、電解銅箔は300℃程度の温度で焼鈍され、再結晶が進み、軟化して寸法変化が生ずる。このため、ラミネート後に積層体に反りが生じ、製品の寸法精度が低下する。
ラミネート後に積層体に反りを生じさせないためには、加熱時の寸法変化ができるだけ小さい銅合金箔の提供が求められている。
また、TAB材料においてはHDDサスペンション材料と同様、銅箔の高強度化と共に箔表面の低粗度化が要求されている。
TAB製品においては、製品のほぼ中央部に位置するデバイスホールに配されるインナーリード(フライングリード)に対し、ICチップの複数の端子を直接ボンディングする。このボンディングはボンディング装置を用いて、瞬間的に通電加熱し、一定のボンディング圧を付加して行う。このとき、電解銅箔をエッチング形成して得られたインナーリードが、ボンディング圧で引っ張られて伸びるという問題がある。
さらには、電解銅箔の強度が低いと塑性変形してインナーリードにたるみが発生し、著しい場合には破断する可能性がある。
従って、インナーリードの線幅を細線化するには、使用する電解銅箔は低粗度化された粗面を持ち、かつ高強度であることが要求される。
この場合も、常態(常温・常圧状態)で銅箔が高強度であるとともに、加熱した後でも高強度であることが必要である。TAB用途の場合には、銅箔とポリイミドが張り合わされた2層または3層のFPCが使用される。3層のFPCでは銅箔にポリイミドを張り合わせる場合には、エポキシ系の接着剤を使用し、180℃前後の温度で張り合わせる。またポリイミド系の接着剤を使用した2層FPCでは、300℃前後の温度で張り合わせを行う。
仮に常態で機械的強度が大きい電解銅箔であっても、ポリイミドに接着した時に電解銅箔が軟化しては意味がない。従来の高強度電解銅箔は常態での機械的強度が大きく、180℃前後で加熱してもほとんど機械的強度は変化しないが、300℃程度で加熱した場合は、焼鈍され再結晶が進むため、急速に軟化して機械的強度が低下する。このような銅箔はTAB用途には不向きである。
また銅箔はリチウムイオン二次電池等の電池用集電体として使用されている。リチウムイオン二次電池は基本的に、正極、負極、電解液から構成される。負極は、集電体として用いられる銅箔の表面に負極活物質層をコーティングすることで形成される。
負極の形成法としては、負極活物質とバインダー樹脂(活物質と銅箔基板とを結着することを目的に添加される)を溶剤に溶かしたスラリーを銅箔基板上に塗布し、バインダー樹脂の硬化温度以上の温度で乾燥させた後、プレスすることで形成する方法が一般的である。
バインダー樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)やスチレンブタジエンゴム(SBR)等が広く用いられている。
近年、電池の高容量化に伴い着目されている、理論容量の高いケイ素、スズ、ゲルマニウム合金系材料などからなる活物質は、充放電時のリチウムの挿入脱離に伴う体積膨張率が大きく、上述したバインダー樹脂では強度が足りない。そこで、銅基板との接着強度の高いポリイミド系樹脂が好ましく使用されてきている。しかし、ポリイミド系樹脂は上述したバインダー樹脂と違い、硬化温度が300℃程度と高く、この加熱条件に耐え得る負極集電体(銅箔)が要求されている。
このように、FPC分野、二次電池分野では共に硬化温度が300℃程度と高いポリイミド系樹脂がバインダーとして使用されるようになってきており、この加熱条件に耐え得る銅箔が要求されている。
ところで、電解銅箔の電解液には硫酸銅と硫酸を含有する電解液を使用し、銅箔表面の光沢化や平滑化、銅箔の応力減少などを目的として、めっき浴には種々の添加剤が添加されている。添加剤を用いない場合には、銅箔に要求される表面形態や機械的特性などが得られないことから、添加剤の重要性は高い。特に硫酸銅めっき浴は単純酸性浴であるために均一電着性に劣り、添加剤無しでは好ましい電解銅箔の製造は困難である。硫酸銅めっき浴に用いられる添加剤としては、塩素イオン、ポリオキシエチレン系の界面活性剤、平滑剤、有機硫化物などの光沢剤、膠(にかわ)、ゼラチンなどが提案され、使用されている。
硫酸銅めっき浴に塩素や添加剤を添加しないと電気が流れやすい高電流部分(陽極に近い箇所や、陰極の端、とがったものの先端など)にめっきが集中し、一般的に言う「ヤケの状態(めっき面がより凸凹になる)」になる。
しかし、一般的に電解液中に塩素イオンが存在すると銅箔中に特定の金属を混入させて銅箔の特性を変化させることが困難となる。即ち、塩素イオンが存在しない電解液では銅箔中に他の金属を混入させることが可能であり、他の金属を混入させ(合金化し)銅箔の特性を変化させることができるが、電解液中に塩素イオンが入ると銅箔に他の金属が混入しづらくなり、銅箔の特性を他の金属で変化させることが困難となる。
例えば、特許文献1、2は、硫酸−硫酸銅電解液中にタングステンを加え、さらに膠と塩素イオンを加えた電解液で電解銅箔を製造する方法を開示しており、その効果として180℃における熱間伸び率が3%以上であり、粗面の粗さが大きく、ピンホール発生の少ない銅箔が製造可能であると記載している。
そこで本発明者等は、硫酸−硫酸銅電解液中にタングステンを加え、さらに膠と塩素イオンを加えた実験を繰り返し、特許文献1に開示されている電解銅箔が目的とする180℃における熱間伸び率が3%以上であり、粗面の粗さが大きく、ピンホール発生の少ない銅箔を製造することができた。しかし、この銅箔を300℃で1時間(以降、「300℃×1時間」とも記載する)の熱処理を施したところ、機械的強度が保持できないことが判明した。そこでこの銅箔を分析したところ、電析銅中にタングステンが共析していない結果となった。
即ち、特許文献1、2の方法では硫酸−硫酸銅電解液中にタングステンを加え、さらに膠10mg/L以下と塩素イオンを20〜100mg/L添加した電解液で電析を行ったため、銅箔中にタングステンが共析せず、300℃で加熱しても高い機械的強度を保持する電解銅合金箔を製造することができない結果となった。
上述したように、電解銅箔は硫酸銅と硫酸を含有する電解液に添加剤として塩素と有機化合物を添加して製箔している。
有機添加剤は通常は結晶の成長を抑制する効果のあるものが多く、結晶粒界に取り込まれると考えられている。
この場合、結晶粒界に取り込まれる有機添加剤の量が多いほど機械的強度が向上する傾向にある(非特許文献1:志賀章二;金属表面技術 Vol31, No10,p573 (1980))。
非特許文献1に記載されているように電解銅箔に取り込まれる有機添加剤は銅箔の機械的強度を向上する。この要因は、有機添加剤が主に結晶粒界に取り込まれ常温においては機械的強度を向上する、と考察できる。しかし、この有機添加剤を取り込んだ電解銅箔を300℃以上の高温で加熱すると機械的強度は低下する。その原因は有機添加剤が熱分解し、その結果として機械的強度が低下すると推測される。
一方、上記要求を満たす銅箔として圧延銅合金箔が使用されている。圧延銅合金箔は300℃程度の温度では焼鈍されにくく、加熱時の寸法変化が小さく、機械的強度変化も少ない。
しかし圧延銅箔は電解銅箔に比べると高価であり、幅、厚さ等の要求を満足させることが難しい。
そこで本発明者等はポリイミド樹脂基材と張り合わせる面が低プロファイルで、且つ、機械的強度にも優れた電解銅合金箔、及びポリイミド系樹脂をバインダー樹脂とする用途に適合する電解銅合金箔として、銅箔に種々の金属を添加し、その耐熱性を改善する試みを行った。
しかし、銅箔の耐熱性を改善できる金属を電解銅箔中に取り込むことは困難であった。即ち、銅箔の耐熱性を改善する金属は銅箔中に取り込み難い金属であることが問題となっていた。
特許第3238278号 特開平9−67693号公報
志賀章二;金属表面技術 Vol31, No10,p573 (1980)
本発明は、常温での引張強度が650MPa以上、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上の電解銅箔を提供することを目的とする。
また、本発明はポリイミドフィルムと張り合わせるプリント配線板分野における用途において機械的強度に優れた電解銅箔を提供することを目的とする。
更に本発明は、Si又はSn合金系活物質を用いるリチウムイオン二次電池で、Si又はSn合金系活物質の大きな膨張、収縮に対して、集電体(銅箔)と活物質との密着性をポリイミドバインダーにより保持し、集電体(銅箔)が変形しない電解銅箔を提供することを目的とする。
本発明者等は鋭意研究の結果、上述した課題を克服し、電解銅箔中にpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種類を取り込むことに成功し、その結果として、常温での引張強度が650MPa以上、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度が450MPa以上、導電率が60%以上の電解銅箔を製箔することに成功した。
また、本発明者等は、たとえば、HDDサスペンション材料、TAB材料として、或いはSi又はSn合金系活物質の大きな膨張、収縮を繰り返す活物質に対して、ポリイミドバインダーの使用を可能とし、集電体(銅箔)として変形しない電解銅箔の開発に成功した。
本発明の電解銅箔は、未処理銅箔中にpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属またはその酸化物を含有し、前記金属又は前記酸化物を構成する前記金属の含有量が0.0001〜1.320質量%であり、塩素を0.005〜0.04質量%含有することを特徴とする。
前記電解銅箔の前記金属成分はチタン(Ti)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、テルル(Te)から選ばれる1種以上の金属成分であることが好ましい。
前記電解銅箔の常温での引張強度は650MPa以上であり、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度は450MPa以上であることが好ましい。
前記電解銅箔の常温での導電率が60%IACS以上であることが好ましい。
本発明のリチウムイオン二次電池用電極は、本発明の電解銅箔を集電体として使用することを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の電池用電極を負極電極とすることを特徴とする。
本発明によれば、常態の機械的強度が大きく、かつ、300℃で1時間の熱処理をしても熱劣化がし難い電解銅箔を提供することができた。
SAXS(USAXS)の装置概略図である。
本発明の電解銅箔はpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属をその酸化物の超微粒子又は還元された金属の超微粒子として含有し、塩素を0.005〜0.04wt%含有することを特徴とする。
pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属は、本実施形態ではチタン(Ti)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、テルル(Te)が好ましく使用できる。
即ち、本実施形態の電解銅箔はTi、Mo、V、Bi、Teの少なくとも1種類を含有し、残部が実質的に銅からなる電解銅箔である。
なお、上記「Ti、Mo、V、Bi、Teの少なくとも1種類を含有し」とは、それぞれの金属が単独で、或いは2種類以上が同時に含有される、との意味である。また、「残部が実質的に銅からなる」とは、銅に、原料等に由来する不可避的不純物が含まれ、或いは電解製箔プロセス等による微量の添加物が含まれることを許容する、との意味である。
電解銅箔に含まれるpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の量は0.0001wt%以上が好ましい。
pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の含有量が0.0001wt%以下では前記金属を添加した効果が殆ど現れない。なお、箔中の前記金属の含有量のより好ましい範囲は0.001〜1.320wt%である。
電解銅箔に含まれる金属をpH4以下の酸性溶液中に存在する金属と限定するのは、電解液のpHが4以下であり、このような酸性電解液中で酸化物として存在する金属が銅箔中に取り込まれ易いためである。
即ち、前記金属を0.0001wt%未満含有した銅箔では300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した機械的強度は、前記金属を含有しない場合と同様、強度が低下する傾向を示す。
なお、本明細書において「pH4以下で酸化物として存在する金属」とは、M.Pourbaix のAtlas of electrochemical equilibria in aqueous solutions. Pergamon Press(1966)に示される電位−pH図において、4以下のpHで酸化物として存在する金属であり、該金属を添加した電解液のDLS(動的光散乱法:Dynamic Light Scattering)による粒度分布測定で、添加金属成分が固体粒子として検出される金属である。
電解銅箔を電池用集電体として、特にリチウムイオン二次電池用電極の集電体として使用するには、より機械的強度の強い銅箔が要求される。従って、集電体としての用途には電解銅箔に含まれる前記金属の量は0.001以上、好ましくは1.320wt%以下の範囲とすることが好ましい。
本実施形態の電解銅箔には塩素が0.005〜0.04wt%含有されている。
本実施形態において、塩素の含有量が0.005wt%以下の電解銅箔は、該電解銅箔を製箔する電解浴中の塩素濃度を低く抑える必要性から、製箔中にピンホールが発生しやすくなり、製箔した銅箔にピンホールが存在するため好ましくない。また、塩素の含有量が0.04wt%以上の電解銅箔は、銅箔にカールが発生しやすくなり好ましくない。
従って、塩素の含有量は0.005〜0.04wt%が好適である。
本発明者等は銅箔中に前記金属を銅合金として含有させ、或いは単体として混入させる製造方法を種々模索した。その結果、塩素イオンが含まれる電解液では、液中に前記金属を多く添加しても、製箔した銅箔中に前記金属が取り込まれることはなく、当然この様な電解液で製箔された銅箔の常温及び加熱後の箔の機械的強度は向上しなかった。
しかし、電解液に塩素イオンを添加しても、液中にチオ尿素系化合物を添加すると製箔条件によっては前記金属が箔中に取り込まれる、との知見を得た。
このような知見を踏まえて電解銅箔を以下の条件で製箔することで、耐熱性に優れた電解銅箔を製造することに成功した。
即ち、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張り強さが450MPa以上の銅箔を下記基本電解浴組成、電解条件で製箔することにより、前記金属が箔内に取り込まれた電解銅箔を製箔することができる。
基本電解浴組成:
Cu=50〜150g/L
2SO4=20〜200g/L
電解条件:
電流密度=30〜100A/dm
液温=30〜70℃
硫酸−硫酸銅系銅電解液に添加する添加剤は下記の通りである。
添加剤A:チオ尿素系化合物=3〜20mg/L
添加剤B:Ti、Mo、V、Bi、Teの塩の少なくとも1種(Ti、Mo、V、Bi、Teとして、複数の金属を添加するときはその合計量)=100〜10,000mg/L
添加剤C:塩素イオン=1〜100mg/L
添加剤A:チオ尿素系化合物とは下記構造をもつ有機化合物である。
>N−C(=S)−N<
チオ尿素系化合物の例としては、チオ尿素、N,N‐ジエチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素である。しかし、これらは後述する実施例で使用したものを例示しているに過ぎず、以上で述べたような構造的特徴を有し、同様の効果を発揮する化合物であれば、いずれの化合物も使用可能である。
添加剤B:硫酸銅と硫酸を含有する酸性電解液中で溶解し酸化物として存在するTi、Mo、V、Bi、Teの金属塩から選ばれる。例えばナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩等である。
添加剤C:塩素イオンの添加は、硫酸銅と硫酸を含有する電解液中で溶解する化合物から選ばれる。例えば塩酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム等である。
有機添加剤としてチオ尿素系化合物を使用する理由は、これらの化合物が溶液中で容易に[=S]の構造に変化し、[=S]構造が優先的に銅に吸着して有機分子の吸着層を形成し、該吸着層上にTi、Mo、V、Bi、Teの少なくとも1種の酸化物が吸着することで、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種はチオ尿素系化合物と一緒に箔中に取り込まれるためである。
Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属は酸性溶液中では酸化物として存在するが、塩素を含む電解液を用いた銅電析では銅の析出面上を塩素イオンが被覆しているため、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物は銅に吸着されず、箔中への取り込みが起こらない。該電解液にチオ尿素系化合物を添加すると、[=S]構造が塩素イオンよりも優先的に銅上に吸着して銅に有機分子の吸着層を形成する。該吸着層上にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物が吸着することにより、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属はチオ尿素系化合物と一緒に箔中に取り込まれるものと推考される。
このように、本発明電解銅箔は、硫酸−硫酸銅電解液にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属、チオ尿素系化合物、塩素を含む電解液から電解析出により形成する。このTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属、チオ尿素系化合物、塩素を含む硫酸−硫酸銅電解液中で銅を電解析出すると、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物がチオ尿素系化合物と一緒に銅の結晶粒界に吸着され、結晶核の成長を抑制し、結晶粒を微細化(低プロファイル化)し、常態で大きな機械的強度を備えた電解銅箔を形成するものと考えられる。
結晶粒界に存在するTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物は、バルクの銅結晶と結合、あるいは吸収されることなく、Ti、Mo、V、Bi、Te酸化物のまま結晶粒界にとどまると考えられる。
従って、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属を含有する電解銅箔は300℃程度の高温で加熱しても、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物は結晶粒界にとどまり、銅の微細結晶が熱により再結晶し、結晶が粗大化するのを防ぐ働きをすると考えられる。
よって、本発明の電解銅箔は、300℃程度の高温で加熱した後でも、低プロファイルで、機械的強度の低下が小さいという、これまでの有機添加剤を用いた硫酸−硫酸銅系の電解液により製造された電解銅箔には見られない優れた特徴を発揮する。
また、特許文献1、2に開示されているように、塩素イオンが含まれる電解液にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属と膠を添加しても、電解銅箔中にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属が取り込まれるようなことはなかった。
当然のことながら、このような電解液で製箔した電解銅箔は、300℃程度の高温で加熱した後に機械的強度が大きく低下した。
電解液中にチオ尿素系化合物を添加すると塩素イオンが含まれていても製箔条件によってはTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属が箔中に取り込まれる理由としては、硫酸−硫酸銅系の電解液に添加されるチオ尿素系化合物が電解液中で金属元素、塩素とともに錯体を形成すると考えられる。
Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属が添加されていない場合は、電解銅箔製箔用の電解液に添加されている金属元素は銅である。従って、硫酸銅と硫酸を含有する電解液中で銅−チオ尿素系化合物が形成される。この電解液による銅電析で電解銅箔を形成すると、銅−チオ尿素系化合物が結晶粒界に吸着され、結晶核の成長を抑制し、結晶粒を微細化し、常態で大きな機械的強度を備えた電解銅箔を形成する。
しかし、この銅箔は結晶粒界に存在する物質が、銅−チオ尿素系化合物であるため、銅はバルクの銅結晶と結合あるいは吸収され、結晶粒界に存在する物質が、チオ尿素系化合物のみとなり、このチオ尿素系化合物は300℃程度の高温に曝されると分解し、その結果として機械的強度が低下すると考えられる。
一般に銅箔を300℃程度の高温で加熱した場合に引張強度が著しく低下する理由は、上記のように結晶粒界に存在する化合物が有機化合物であり、該有機化合物は300℃程度の加熱により分解しやすいため、機械的強度が低下すると考えられる。
本発明は、硫酸銅と硫酸を含有する電解液にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種、チオ尿素系化合物、塩素を含む電解液により銅電析を行い、銅箔を形成するので、電解液に添加されるTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属は酸化物として存在し、チオ尿素系化合物と一緒に銅上に吸着する。吸着されたTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物及びチオ尿素系化合物により結晶核の成長が抑制され、結晶粒が微細化され、常態で大きな機械的強度を備えた電解銅箔が形成される。
このように、本発明の電解銅箔はTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物及びチオ尿素系化合物が結晶粒界に存在するため、銅−チオ尿素系化合物の場合とは異なり、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物はバルクの銅結晶と結合、あるいは吸収されることなく、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物及びチオ尿素系化合物のまま結晶粒界にとどまると考えられる。このため、300℃程度の高温に曝されても、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の酸化物は結晶粒界にとどまり、銅の微細結晶が熱により再結晶し、結晶が粗大化するのを防ぐ働きをする。
この観点からは、酸化物等の析出物のサイズは0.5〜20nmで最もピン止め効果が発揮され、高温でも結晶粒の成長を抑制できるため好ましい。析出物のサイズが20〜50nmでは、ピン止め効果が発揮されるものの、完全に結晶成長を抑制しているとは言えない。析出物のサイズが50〜100nmでもピン止め効果は発揮されるが、結晶粒の粗大化が多数観察される。
電解液中に添加するTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の量は100〜10,000mg/Lが好ましい。Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の添加量を100mg/L以上とするのは、これ以下ではTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属を含有させた効果が現れず、10,000mg/Lを超えて含有させると、浴中で添加元素由来の沈殿物を生じやすくなる。従ってTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の添加量は100〜10,000mg/Lとすることが好ましい。
本発明ではチオ尿素系化合物を添加することで、銅箔中にTi、Mo、V、Bi、Teを取り込むことに成功した。
添加するチオ尿素系化合物の量を3〜20mg/Lとするのは、3mg/L未満では銅箔中にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属を規定量取り込むことができず、300℃×1時間の熱処理後の常温での引張強度が450MPa以下となり、20mg/Lを超えて添加すると銅箔中にTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属が入りすぎ、引張強度が高くなり過ぎ、或いは伸びが小さくなり、好ましくない性質が現れるためで、添加量は3〜20mg/Lが好ましい範囲である。
塩素イオンの添加量は1〜100mg/Lである。塩素イオンが1mg/L未満の添加では、箔にピンホールが多く発生するため好ましくなく、また、塩素イオンを100mg/Lを超えて添加すると、表面粗さが著しく大きくなり、或いはカールが発生する等の不具合が発現すためで、従って、塩素イオンは1〜100mg/Lの範囲とすることが好ましく、特に好ましくは15〜50mg/Lである。このような量の塩素イオンを含有する電解液で製箔することで電解銅箔中に塩素を0.005〜0.04wt%含有させることができる。
電解銅箔は、Ti、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種、チオ尿素系化合物、塩素イオンを上記した規定量添加した硫酸銅溶液を電解液として、貴金属酸化物被覆チタンを陽極に、チタン製回転ドラムを陰極として、電流密度30〜100A/dm、液温30〜70℃の条件で電解処理することで製箔する。
好ましくは、本発明の電解液にアンモニウムイオン、または硝酸イオンを添加することで製箔される電解銅箔の300℃×1時間の熱処理後の常温での機械的強度をさらに向上させることができる。
電解液に添加するアンモニウムイオンの量は1〜15g/L、硝酸イオンの量は50〜200mg/Lが適している。加熱処理後の常温での機械的強度をさらに向上させる際には、電解液にアンモニアイオンまたは硝酸イオンを添加することが好ましい。
前記電解液を使用し、適正な電流密度と液温で製箔することで、300℃×1時間の熱処理後の常温での引張り強さが450MPa以上、導電率が60%IACS以上の電解銅箔を製造することができる。
上述したように、リチウムイオン二次電池の負極集電体を構成する集電体(銅箔)は、ポリイミドバインダーを使用する場合、通常300℃×1時間の熱処理に耐える必要性がある。即ち、リチウムイオン二次電池用集電体表面には活物質、導電材とバインダーの混合物に溶剤などを加えてペースト状に調製した活物質組成物が塗布され、乾燥工程を経て、リチウムイオン二次電池の負極電極とする。その乾燥工程において、300℃×1時間の熱処理を必要とする。この乾燥工程の加熱条件に耐え、かつ活物質の充放電サイクルによる膨張、収縮に耐える銅箔として、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張り強さが450MPa以上である、という条件を満足する性能が必要である。
また、SiやSnなどの活物質はカーボンなどの活物質と比べ電子伝導性が悪い。活物質の導電性が悪いと、電極の内部抵抗が上がるため、サイクル特性が劣化する。そのため、集電体としての銅箔には60%以上の導電率が要求される。
本発明のTi、Mo、V、Bi、TeなどのpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属を含有する銅箔は上記二次電池用集電体が要求する諸特性を満足する。従ってかかる電解銅箔を集電体とし、該集電体にシリコン、ゲルマニウム、錫又はそれらの合金化合物またはそれらを主成分とする活物質を堆積して電極とし、該電極を組み込むことで性能の優れたリチウムイオン二次電池を製造し、提供することができる。
〈実施例〉
下記の硫酸銅と硫酸を含有する電解液を基本浴組成とし、表1に示す量の塩素イオン、Ti、Mo、V、Bi、Te、チオ尿素系有機添加剤を添加した電解液を用いて貴金属酸化物被覆チタンを陽極に、チタン製回転ドラムを陰極として、下記電解条件で電解銅箔を製箔した。
基本電解浴組成
Cu=50〜150g/L
2SO4=20〜200g/L
電解条件
電流密度 30〜100A/dm
温度 30〜70℃
なお、表1において、「加熱後」とは、不活性ガス雰囲気中で、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した結果である。「加熱前」とは、上記熱処理を行う前に常温で測定した結果である。以下の実施例でも同様である。
Figure 0005740055
防錆処理
このようにして製箔した電解銅箔に下記条件で防錆処理を施した。
製箔した電解銅箔(未処理銅箔)をCrO;1g/L水溶液に5秒間浸漬して、クロメート処理を施し、水洗後乾燥させた。
なお、ここでは、クロメート処理を行ったが、ベンゾトリアゾール系処理、或いはシランカップリング剤処理、又はクロメート処理後にシランカップリング剤処理を行ってもよいことは勿論である。
〈比較例〉
表2に示す量の塩素、Mo、Fe、Ni、エチレンチオ尿素または膠を添加した硫酸銅と硫酸を含有する電解液を用いて貴金属酸化物被覆チタンを陽極に、チタン製回転ドラムを陰極として、下記電解条件で電解銅箔を製箔した。
電解条件
電流密度 30〜100A/dm
温度 30〜70℃
このようにして製箔した銅箔に実施例と同様の表面処理を行った。
Figure 0005740055
作成した銅箔について次の試験を実施した。
銅箔中のTi、Mo、V、Bi、Te、Fe、Ni、の含有量の測定
Ti、Mo、V、Bi、Teの含有量は、一定重量の電解銅箔を酸で溶解した後、溶液中のTi、Mo、V、Bi、TeをICP発光分光分析法により求めた。
使用機器 :ICPS−7000(島津製作所)
銅箔の引張強度の測定
銅箔の引張強度は、IPC−TM−650に基づいて箔の加熱前と加熱後に付き測定した。
使用機器 : AG−I (島津製作所)
導電率の測定
導電率は、まず20mm×200mmの銅箔の抵抗値を測定した後、測定した抵抗値を銅箔の断面積で割って算出した。
塩素含有量の測定
塩素含有量は、一定重量の電解銅箔を酸で溶解した後、溶液中の塩素を硝酸銀滴定により定量を行い、算出を行った。
酸化物の解析
電解銅合金中に含有される酸化物の化学結合状態や電子状態の解析をXAFS(X線微細吸収構造:X-ray Absorption Fine Structure)法で行った。XAFS法では、試料にX線エネルギーを変化させながらX線を照射し、得られたX線吸収スペクトルから試料中の化学結合状態や電子状態の解析を行うことができる。
その他、X線吸収スペクトルを得る手法として、入射したX線の強度と透過したX線の強度からX線吸収スペクトルを求める透過法、X線の吸収に伴って試料から発せられる蛍光X線の強度を測定する蛍光法がある。
金属材料などの添加元素を分析対象とするとき、その添加量は微量であり透過法でのXAFSスペクトルを得ることは困難である。この様な場合に有効なのが上記に記した蛍光法である。蛍光法の特徴としては、その光軸系よりX線の照射面積が広く取れることにより微量成分の元素でもXAFS測定が可能となる。
本測定では高強度銅箔中のTi、Mo、V、Bi、Teの化学結合状態や電子状態を知ることが目的であり、Ti、Mo、V、Bi、Teの量は微量であり、透過法でXAFSスペクトルを得るには困難であることから蛍光法を選択した。
測定に関してはSPring−8の産業利用ビームラインBL14B2を使用した。測定したX線のエネルギー範囲は10000〜10434eVとした。
実施例の箔の測定結果と、比較のために用意したTi、Mo、V、Bi、Teの各酸化物の測定結果とを比較したところ、Ti、Mo、V、Bi、Te含有銅箔のスペクトルは金属ではなく酸化物のスペクトルとほぼ一致したエネルギー領域にピークを持っている。このことから、電解銅箔中のTi、Mo、V、Bi、Te元素は酸化物状態として含有されていることを確認した。
箔中金属成分の粒径の測定
箔中における金属(無機添加物)の粒径は、SAXS(small angle X−ray scattering、小角X線散乱)とUSAXS(ultra small angle X−ray scattering、極小角X線散乱)測定の解析によって求めた。SAXS・USAXS測定においてはSpring−8の産業利用ビームラインBL19B2で行った。
図1(a)にSAXS(USAXS)測定の簡単な光軸図を示す。シャッター15を備えるX線源13から生じる入射X線14は、モノクロメーター17、第1ピンホール19、第2ピンホール21、第3ピンホール25を通って、試料27に照射される。試料27に照射された入射X線14から、試料27を透過する透過X線29と、試料27により散乱された散乱X線31を生じる。検出器35は、光軸の最後に設けられ、透過X線29または散乱X線31を検出する。
検出器35で散乱X線31を測定する場合は、図1(b)に示す通り、減衰器23を通さずに入射X線14を試料27に照射し、透過X線29をビームストッパー33で遮蔽し、検出器35で散乱X線31を測定する。
検出器35で透過X線29を測定する場合は、図1(c)に示す通り、減衰器23で入射X線14の強度を弱めた上で、入射X線14を試料27に照射し、透過X線29をビームストッパー33で遮蔽せずに検出器35で透過X線35を測定する。
試料27から検出器35までの距離をLとする。試料27を透過した透過X線29が検出器35に到達する場所をOとして、同じく試料27から角度θで散乱された散乱X線31が検出器35に到達する場所をAとする。AO=rとすればtanθ=r/Lとなりθが求まる。SAXS及びUSAXSのデータの横軸を式(1)で表すq(nm−1)で記述する。
q=4πsinθ/λ・・・(1)
λは入射X線の波長である。測定ではλ=0.068nm、試料から検出器までの距離をL=4.2m(SAXS)、L=42m(USAXS)とした。測定の範囲はq=0.05〜4(nm−1)である。検出器は半導体二次元検出器ピラタスを使用した。SAXS測定をした後、2次元のX線の強度のマッピングを見て異方性が無いのを確認して、一次元化を行った。銅箔と電解銅合金銅箔比較してq=0.4〜2の間でX線の強度が異なったのを確認した。これは電解銅合金銅箔中に10nm以下の介在物が存在していることを示唆している。
例えば、Mo入り電解銅箔に関しては、TEM観察とXAFS測定の結果から、微粒子はMoOであると考えられる。よって、Mo入り電解銅箔のSAXSデータから純銅箔のSAXS強度を差し引くことで、MoOからのX線の散乱を抽出できる。この抽出データを用いて、MoOの数密度を算出するために散乱X線から散乱断面積を求め、Fittingを行った。測定されるX線散乱強度I(q)と散乱断面積dΣ/dΩ(q)は式−(2)関係にある。
Figure 0005740055
Φ0はダイレクトビームの強度、ηは検出器による補正項、Sは照射面積、Tは透過率、Dは厚さである。基本的にはΦ0、η、Sは一定なのでΦ0・η・S=A=constとして装置固有の値とする。
Aに関しては予めΦ0、η、Sを決定している装置で測定したグラッシーカーボンをSPring−8, BL19B2でも測定を行い、Aを算出した。式−(2)のS、C、Nの記号はそれぞれSample、Cell、Noiseの略記号であり、本願ではSampleが電解銅合金箔、Cellが純銅箔となる。式−(2)から散乱断面積を求めると式−(3)となる。
Figure 0005740055
一方で散乱断面積は式−(4)で表される。
Figure 0005740055
dΣ/dΩ(q)は散乱断面積、Δρ2は原子散乱因子、dNは粒子数密度、Vは粒子体積、Fは粒子の形状因子、N(r)は粒径分布関数である。TEM観察の結果から、粒子の形状因子は球体とした(式−(5))。
Figure 0005740055
散乱X線強度から求めた散乱断面積:dΣ/dΩ(q)を変数qで式−(3)を用いてFittingを行った。その結果、平均粒子径(半径)が解析的に求められた。
電池性能試験
次に実施例で製箔した電解銅箔を集電体として、リチウムイオン二次電池を作成し、サイクル寿命試験を行った。
粉末状のSi合金系活物質(平均粒径0.1μm〜10μm)を85、バインダー(ポリイミド)を15の比率(重量比)で混合し、N−メチルピロリドン(溶剤)に分散させて活物質スラリーとした。
次いで、このスラリーを、作成した12μm厚の電解銅箔両面に塗布し、乾燥後ローラープレス機で圧縮形成し、その後、窒素雰囲気下、300℃で1時間焼結し、負極とした。この負極は、成形後の負極合剤の膜厚が両面共に20μmと同一であった。
リチウムイオン二次電池の作成
アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で、以下の構成で評価用三極式セルを構築した。
負極:上記で作製のSi合金系負極
対極、参照極:リチウム箔
電解液:1mol/L LiPF/EC+DEC(3:7vol%)
構築したセルをボックスから大気中に取り出し、25℃の雰囲気下で充放電測定を実施した。
充電はLiの標準単極電位基準に対して0.02Vまで定電流で行い、その後はCVで(定電位のまま)電流が0.05C低下した時点で充電終了とした。なお、Cは充放電レートを示す。放電は定電流にて0.1Cで1.5V(Li基準)まで行った。同じ0.1C相当電流で充放電を繰り返した。
充放電性能の評価として、放電容量が1サイクル目の放電容量の70%に達するまでのサイクル数を測定し、これをサイクル寿命とし、サイクル寿命100回以上の電極を実用上使用可能と判断し、合格レベルとした。各条件で製造した電極のサイクル寿命を表1及び表2に示す。サイクル寿命100回未満の電極を不合格、100回以上120回未満を良好な範囲、120回以上を最適な範囲とした。
また、充放電性能の評価として、充放電100サイクルを行った後電池を分解し、箔の変形、破断を観察した。その結果を箔の変形として表1、2に示す。シワ等の変形がないものに対しては○を、シワ等の変形が生じたものは不合格とし×を付した。
Ti、Mo、V、Bi、Teの少なくとも1種含有電解銅合金箔のTi、Mo、V、Bi、Te含有量は0.0001wt%以上であることが好ましく、特に0.001〜1.320wt%であることが好ましい。この範囲を外れると充放電試験後にしわの発生が見られた。
表1に示すように、電解浴中のTi、Mo、V、Bi、Te量を増加させると箔中へのTi、Mo、V、Bi、Teの取り込み量も増加する傾向にあることが分かる。300℃×1時間の熱処理後の常温での引張強度をみると、全ての箔において450MPa以上と耐熱性に優れている。
Ti、Mo、V、Bi、Teの取り込み量が0.001wt%以上となる条件においては、300℃×1時間の熱処理後の常温での引張強度が460MPa以上と特に耐熱性に優れている。
しかし、Ti、Mo、V、Bi、Te取り込み量が1.320wt%より多い箔においては、導電率が70%IACS未満と低くなる傾向にあるが、実用的には60%IACS以上であれば支障がなく、また、Ti、Mo、V、Bi、Te取り込み量が0.001wt%より少ない箔においては300℃×1時間の熱処理後の常温での引張強度の強さが460MPaより僅かに落ちるが450MPaよりは強く、実用的には支障のない範囲であることから、箔中のTi、Mo、V、Bi、Teの取り込み量は0.0001wt%以上、好ましくは0.001〜1.320wt%、より好ましく0.001〜1.000wt%である。
上記本実施例で確認したように本発明によれば、常温での引張強度が650MPa以上、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度が450MPa以上、導電率が60%IACS以上の電解銅箔を作成することができた。
また、本発明は機械的強度に優れた電解銅箔であり、ポリイミドフィルムと張り合わせるプリント配線板分野における用途においても好適に用いることができる。
更に本発明は、Si又はSn合金系活物質を用いるリチウムイオン二次電池で、Si又はSn合金系活物質の大きな膨張、収縮に対して、集電体(銅箔)と活物質との密着性をポリイミドバインダーで保持でき、充放電100サイクル以上の電池特性が得られ、集電体(銅箔)として変形しない優れた電解銅箔である。
表2に比較例1〜5の評価結果を示す。
比較例1は、エチレンチオ尿素とMoを添加した電解液で製箔しているが、Moの添加量が少なかったために、箔中にMoを取り込むことができなかった。従って常態での機械的強度は大きいが、300℃×1時間の熱処理後では機械的強度が著しく低下している。
比較例2、3は有機添加剤として膠を添加した組成で製箔したものである。
この銅箔は常態での機械的強度も小さく、300℃×1時間の熱処理後では機械的強度が250MPa以下と著しく低下する。この銅箔中のMo量の測定結果は検出下限の、0.0001wt%未満であった。
電解液中に膠を添加したが、膠は[=S]を持たないため、膠では、塩素イオンよりも優先的に銅上に吸着して銅上に有機分子の吸着層を形成することができず、Mo酸化物は銅上に吸着されず、箔中へのMoの取り込みが起こらず、電解Cu−Mo箔は形成されなかったものと推考される。
比較例4、5はpH4以下の電解液中で酸化物として存在せず、イオンとして溶解する例としてFe、Niを添加し製箔したものである。しかし、Fe、Niは箔中に取り込まれることなく、従って常態での機械的強度は大きいが、300℃×1時間の熱処理後では機械的強度が著しく低下している。
更に比較例1〜5の電解銅箔を集電体としたリチウムイオン二次電池では、充放電100サイクル以下で集電体(銅箔)に変形が発生し、実用的に使用するには電池特性に問題がある。
本発明によれば、上記いずれかに記載の電解銅箔を用いた、二次電池用負極集電体が提供される。
また、本発明によれば、上記いずれかに記載の電解銅箔を、二次電池用負極集電体として用い、その表面に、シリコン、ゲルマニウム、錫又はそれらの合金化合物またはそれらを主成分とする活物質が堆積されている、二次電池用電極が提供される。
本発明によれば、上記の二次電池用電極を使用した二次電池が提供される。
本発明によれば、硫酸−硫酸銅系電解液に、添加剤として、チオ尿素系化合物、pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属塩の少なくとも1種類、塩素イオンを添加し、電解析出により、pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種類を含有し、残部が銅からなる電解銅箔を製造する、電解銅箔の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属を0.0001wt%以上含み、常温での引張強度が650MPa以上で、300℃×1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度が450MPa以上で、導電率が60%IACS以上である銅箔の製造方法であって、該銅箔は、硫酸銅系電解液に、添加剤として、pH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属の少なくとも1種類を100〜10,000mg/L、チオ尿素系化合物を1〜20mg/L、塩素イオンを1〜100mg/L添加した、硫酸銅系電解液で製箔する銅箔の製造方法が提供される。
13・・・X線源
14・・・入射X線
15・・・シャッター
17・・・モノクロメーター
19・・・第1ピンホール
21・・・第2ピンホール
23・・・減衰器
25・・・第3ピンホール
27・・・試料
29・・・透過X線
31・・・散乱X線
33・・・ビームストッパー
35・・・検出器

Claims (6)

  1. 未処理銅箔中にpH4以下の酸性溶液中で酸化物として存在する金属またはその酸化物を含有し、前記金属の含有量又は前記酸化物を構成する前記金属の含有量が0.0001〜1.320質量%であり、塩素を0.005〜0.04質量%含有することを特徴とする電解銅箔。
  2. 前記金属またはその酸化物を構成する金属がチタン(Ti)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、ビスマス(Bi)、テルル(Te)から選ばれる1種以上である
    請求項1に記載の電解銅箔。
  3. 常温での引張強度が650MPa以上であり、
    300℃で1時間の熱処理後に常温で測定した引張強度が450MPa以上である
    請求項1または2に記載の電解銅箔。
  4. 常温での導電率が60%IACS以上である
    請求項1〜3のいずれかに記載の電解銅箔。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の電解銅箔を集電体として使用するリチウムイオン二次電池用電極。
  6. 請求項5に記載の電池用電極を負極とするリチウムイオン二次電池。
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