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JP5690058B2 - 金ナノロッド構造体とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、保持物質、リンカー、ロッド状の金微粒子(金ナノロッド)によって構成され、保持物質がリンカーを介して金微粒子に結合しており、金微粒子が近赤外光を熱に変換し、この発熱によってリンカーと保持物質の結合部位が切断され、保持物質と金微粒子が脱離する金ナノロッド構造体とその製造方法に関する。
本発明は、より具体的には、金ナノロッドの光熱変換反応による発生熱で起こる逆Diels-Alder反応によって、金ナノロッドと保持物質を結合するリンカー部位が開裂し、金ナノロッドから保持物質を分離することが可能な金微粒子構造体とその製造方法である。
本発明の金微粒子構造体によれば、保持物質が蛍光体(色素)である場合、金ナノロッドから蛍光体が脱離することによって、金ナノロッドにクエンチされていた状態から解かれるため、蛍光を発することができる状態となり、蛍光を検出信号とする検出方法やバイオイメージングとして有用である。また、保持物質が薬剤の場合、特定の部位に薬剤を放出するドラッグデリバリーシステムとして有用である。さらに、保持物質がポリエチレングリコールの場合、特定の部位でポリエチレングリコール(PEG)を放出させ、分散安定性が低下した金微粒子を凝集させることができるため、金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルで金微粒子の存在する部位を検出する検出方法やバイオイメージングとして有用である。
溶媒中に分散した金属微粒子に光を照射すると局在表面プラズモン共鳴(Localized Surface Plasmon resonance:LSPR)と呼ばれる共鳴吸収現象が生じる。この吸収現象は金属の種類と形状、そして金属微粒子周囲における媒体の屈折率によって吸収波長が決定される。例えば、球状の金微粒子が水に分散した場合は530nm付近に吸収域を持ち、金微粒子の形状を短軸10nm程度のロッド状(金ナノロッド)にすると、ロッドの短軸に起因する530nm付近の吸収の他に、ロッドの長軸に起因する長波長側の吸収を有することが知られている(非特許文献1)。このように、金ナノロッドについて長軸長さ、短軸長さの数値に基づいた吸収波長の理論計算が可能である。また、非特許文献2に記載されているように、金ナノロッドは表面には異なる結晶面が存在しており、単純な円柱ではなく多面体構造である。なお、本発明において、ロッド状とは、非特許文献1に記載されているように、形状が円柱状ないし棒状であって、長さが短い方向を短軸と云い、長い方向を長軸と云う。
これらの金属微粒子分散液は、低分子化合物や高分子化合物を保護剤として金属微粒子表面に吸着ないし結合させることによって、金属微粒子が凝集することなく安定に溶媒に分散させることができる。特に金ナノロッドは、形状の変化や凝集状態の変化、金ナノロッド周辺の環境によって分光特性が変化する特異な金微粒子であり(非特許文献3、4、5、6)、近赤外光をプローブとして用いる新しい分光分析の材料として可能性がある。
金ナノロッドはアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)が1より大きいロッド状のナノサイズ(例えば、長軸5〜100nm、短軸3〜30nm)の金微粒子であり、例えば、カチオン性界面活性剤である第4級アンモニウム塩のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)に溶解した水中で合成され、CTAB水溶液中の金イオンを化学還元、電気還元、光還元などによって合成することが可能であり、合成した金ナノロッドはCTABの保護作用によって水中で安定に分散している(特許文献1、2、3、4、非特許文献7、8)。
金ナノロッドの表面処理方法としては、近赤外域にプラズモン吸収のピークトップを有する金ナノロッドについて、金ナノロッド水分散液中の過剰なCTABを除去しておき、α−メトキシ−ω−メルカプトポリエチレングリコール(m-PEG-SH)を表面修飾して生体内での分散安定性を高める技術(非特許文献9)や、m-PEG-SHを表面修飾した金ナノロッドをシリカ処理することによって、シリカが金ナノロッドに表面処理された金ナノロッド/シリカ(コア/シェル)粒子を得る技術が報告されている(非特許文献10)。また、m-PEG-SHを表面処理した金ナノロッドをN−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)で埋包した粒子について、NIPAMの感温性と金ナノロッドの光熱変換特性を利用することによって、金ナノロッドを埋包しているNIPAMに親水性と疎水性を発現させる技術が報告されている(非特許文献11)。
金コロイドの表面処理方法としては、非特許文献12には、球状の金コロイド、またはシリカ粒子表面に金膜を形成したシリカ/金(コア/シェル)粒子に7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideをリンカーとしてフルオレセイン色素を導入しておき、逆Diels-Alder反応によってリンカー部位を開裂することによって、フルオレセイン色素を結合している粒子から分離する技術が報告されている。
また、非特許文献13には、金微粒子表面の近傍に化学的結合されている色素の蛍光はクエンチされて、蛍光強度が弱く観察されることが報告されている。
特開2004−292627号公報 特開2005−97718号公報 特開2006−169544号公報 特開2006−118036号公報
S. Link, M. B. Mohamed, M. A. El-Sayed, J. Phys. Chem. B, 103, p3073(1999) Z. L. Wang, M. B. Mohamed, S. Link, M. A. El-Sayed, Surface Science, 440, L809(1999) K. Honda, Y. Niidome, N. Nakashima, H. Kawazumi, S. Yamada, Chem. Lett., 35, p854(2006) Y. Niidome, H. Takahashi, S. Urakawa, K. Nishioka, S. Yamada, Chem. Lett., 33, p454(2004) S. Link, M. A. El-Sayed, J. Phys. Chem. B, 109, p10531(2005) P. K. Jain, S. Eustis, M. A. El-Sayed, J. Phys. Chem. B, 110, p18243 (2006) Y. Niidome, H. Kawasaki, S. Yamada, S. Chem. Commun, 18, p2376 (2003) H. Takahashi, Y. Niidome, T. Niidome, K. Kaneko, H. Kawasaki, S.Yamada, Langmuir, 22, p2 (2006) T. Niidome, M. Yamagata, Y. Okamoto, Y. Akiyama, H. Takahashi, T. Kawano, Y. Katayama, Y. Niidome, J. Control. Release, 114, p343 (2006) T. Kawano, Y. Niidome, T. Mori, Y. Katayama, T. Niidome, Bioconjugate Chem., 20, p209 (2009) A. Shiotani, T. Mori, T. Niidome, Y. Niidome, Y. Katayama, Langmuir, 23, p4012 (2007) A. B. S. Bakhtiari, D. Hsiao, G. Jin, B. D. Gates, N. R. Branda, Angew. Chem. Int. Ed., 48, p1 (2009) E. Duikeith, A. C. Morteani, T. Niedereichholz, T. A. Klar, J.Feldmann, Phys. Review Lett., 89, p203002 (2002)
金ナノロッドの表面に色素や薬剤などの機能性素子を修飾し、かつ特定の部位でそれらの機能性素子を分離することによって、生体内におけるバイオマーカーとして利用することや、ドラッグデリバリーシステム(DDS)の構築が可能となる。しかし、特許文献1〜4などに示されるように、金ナノロッドは一般にCTABが表面に吸着しており、色素や薬剤、あるいは分散剤となるPEGをそのまま吸着させた場合、任意のタイミングで分離操作を行うことはできない。また、CTABの毒性のために生体内への適用はできないという問題があった。
非特許文献12の方法では、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideをリンカーとして球状金コロイド表面に色素を修飾しているが、表面にCTABのない状態の球状金コロイド、またはシリカ/金(コア/シェル)粒子を対象としており、CTABが吸着している金ナノロッドの場合には適用できない。また、球状の金コロイドのプラズモン吸収は520nm付近であり、逆Diels-Alder反応を起こすエネルギーとして近赤外光を利用する場合には、吸収域が異なるため光熱変換に利用できないという問題がある。さらに、近赤外域にプラズモン吸収を有するシリカ/金(コア/シェル)粒子は、粒子径が200nm以上と大きいため沈降しやすく、プラズモン吸収はシャープではなくブロードな吸収特性となるために光熱変換の効率が低いという問題がある。
本発明は、従来の上記技術では知られていない金ナノロッドを利用した新規な金微粒子構造体と、その製造方法および用途を提供する。
本発明によれば以下の構成を有する金ナノロッド構造体とその製造方法が提供される。
〔1〕保持物質が以下の反応生成物を介して金ナノロッドに結合した構造であって、
保持物質がローダミンB、フルオレセイン、Cy3、Cy5、Alexa Fluor 488、およびAlexa Fluor750からなる群から選択される色素、あるいは、ドキソルビシンおよびパクリタキセルからなる群から選択される薬剤であり、
金ナノロッド表面にポリエチレングリコールが結合しており、該ポリエチレングリコールの上にシリカ層が形成されており、該シリカ層にポリエチレンイミン層が積層されており、該ポリエチレンイミン層にマレイミドが結合しており、
一方、保持物質にフランが結合しており、該フランが上記マレイミドとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによって結合していることを特徴とする金ナノロッド構造体。




〔2〕表面に界面活性剤が吸着した金ナノロッドの分散液にポリエチレングリコールを添加して金ナノロッド表面の界面活性剤をポリエチレングリコールに置換し、このポリエチレングリコールが結合した金ナノロッドの分散液に珪酸化合物の溶解液を添加して、ポリエチレングリコールを包むシリカ層を形成し、このシリカ層を有する金ナノロッドの分散液にポリエチレンイミン溶解液を添加して上記シリカ層の表面にポリエチレンイミン層を形成し、該ポリエチレンイミン層を有する金ナノロッドの分散液にマレイミド溶解液を添加して該マレイミドがポリエチレンイミン層の表面に結合した金ナノロッドを調製し、
一方、ローダミンB、フルオレセイン、Cy3、Cy5、Alexa Fluor 488、およびAlexa Fluor750からなる群から選択される色素、あるいは、ドキソルビシンおよびパクリタキセルからなる群から選択される薬剤である保持物質の溶解液に、フラン溶解液を添加して該保持物質にフランを結合させ、
マレイミドが表面に結合した上記金ナノロッドの分散液と、フランが結合した上記保持物質の分散液を混合し、上記マレイミドと上記フランとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドを形成することによって保持物質が金ナノロッドに結合した金ナノロッド構造体を製造する方法。


また、本発明によれば以下の構成を有する金ナノロッド構造体とその製造方法が提供される。
〔3〕保持物質がマレイミドを含むポリエチレングリコール(PEG)であり、チオール基を有するフランが上記マレイミドとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによって上記PEGと結合しており、さらに該反応生成物がそのチオール基によって金ナノロッド表面に結合していることを特徴とする金ナノロッド構造体。

〔4〕マレイミドを含むポリエチレングリコール(PEG)とチオール基を有するフランを反応させて、反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによってPEGとフランを結合させ、このフランが結合したPEGと、金ナノロッド の分散液とを混合し、該反応生成物のチオール基を金ナノロッド表面に結合させてPEGが反応生成物を介して金ナノロッドに結合した金ナノロッド構造体を製造する方法。






さらに、本発明によれば上記金微粒子構造体を用いた以下の用途が提供される。
〔15〕上記[6]または上記[7]に記載するロッド状金微粒子構造体を用い、近傍の金微粒子によって発光がクエンチされている色素を金微粒子から脱離させることによって蛍光を発生させる蛍光発光方法。
〔16〕上記[10]に記載するロッド状金微粒子構造体を用い、ポリエチレングリコールを金微粒子から脱離させることによって、金微粒子の分散安定性を失わせて金微粒子を凝集させる金微粒子の集積方法。
〔17〕上記[16]に記載する金微粒子の集積によって生じる局在表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルの変化で金微粒子の存在する部位を検出する方法。
〔18〕上記[15]に記載する蛍光発光検出、または上記[17]に記載する吸収スペクトル検出を情報とするバイオイメージング。
〔19〕上記[8]に記載するロッド状金微粒子構造体を用い、700〜2000nmの近赤外線を照射し、薬剤を金微粒子から脱離させることによって、特定の部位に薬剤を放出するドラッグデリバリーシステム(DDS)。
本発明の金微粒子構造体は、保持物質、リンカー、金ナノロッドによって構成されており、保持物質がリンカーを介して金ナノロッドに結合しており、金ナノロッドが近赤外光を熱に変換し、リンカーと保持物質を結合する部位が発生した熱によって切断できるため、目的の部位やタイミングで近赤外光を照射することによって、保持物質と金ナノロッドを脱離させることができる。また、金ナノロッド表面に吸着しているCTABはリンカーによって置換することによって除去し、またはシリカ層を形成してこれに埋包することも可能であるため、CTABの毒性が問題にならず、生体内への適用が可能である。
具体的には、本発明の金微粒子構造体およびその製造方法の一例では、CTABが吸着した金ナノロッド表面にm-PEG-SHを表面修飾することによって大部分のCTABを置換し、さらに金微粒子表面にシリカ層を形成することによって、金ナノロッド表面にCTABが僅かに残留している場合に、このCTABをシリカ層によって埋包するので、CTABの毒性の問題を解消することができる。
さらに、本発明の金微粒子構造体の一例では、色素や薬剤をあらかじめフランに結合しておき、金ナノロッドに修飾したマレイミドと上記フランとのDiels-Alder付加環化反応(Diels-Alder反応と云う)によって色素や薬剤を金ナノロッドに結合させるため、金ナノロッドに修飾する色素や薬剤の量をあらかじめ任意に調整することが可能である。また、フランに結合させる色素や薬剤などの機能性素子を適宜選択することによって、金ナノロッドに導入する機能性素子を選択しやすい利点がある。
また、本発明に係る金微粒子構造体およびその製造方法の他例では、保持物質のPEGに導入したマレイミドとチオール基を有するフランとをDiels-Alder反応させて結合し、次いでフランのチオール基によって金ナノロッド表面に結合するので、金ナノロッド表面に修飾しているCTABは該チオール基の結合によって大部分が置換されるので、CTABの毒性の問題を低下させることができる。また、この金微粒子構造体では、PEGはあらかじめフランに結合しているので、PEGの量や鎖長をあらかじめ任意に調整することが可能である。
さらに、本発明の金微粒子構造体は上記何れの場合でも、金ナノロッドは光熱変換機能を有するので、金ナノロッド固有のLSPRに相当する波長の光(近赤外光)を照射すると熱に変換され、保持物質と金ナノロッドとの結合部位7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミド(7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imide)に変換した熱を与えて逆Diels-Alder反応を起し、フランとマレイミドに開裂させることができるので、フランに結合している色素や薬剤を金ナノロッドから容易に分離することが可能であり、あるいはマレイミドに結合するPEG鎖を金ナノロッドから容易に分離することが可能である。





































































































































本発明の金微粒子構造体に用いられる金ナノロッドは、LSPRの最大吸収波長が700〜2000nmの範囲であり、特に波長750〜1100nmの近赤外光は水の吸収による影響が少なく(Water Window)、生体にも安全な波長域であり、生体内に投与された場合、金ナノロッドをバイオマーカーとしてLSPRの分光変化を確認することで、近赤外光を用いたバイオイメージングが可能であり、近赤外分析システムを構築するのに適している。さらに、金ナノロッドに光照射して色素や薬剤、更にはPEG鎖を分離することによって標的部位周辺組織に対するフォトサーマル治療のみならず、色素を用いたバイオイメージングを行うことができ、さらに、薬剤放出によるドラックデリバリーシステムの構築や金微粒子の集積によって生じるLSPRの吸収スペクトルによって金微粒子の存在する部位のイメージングが可能である。
実施例1のNRsへの保持物質導入の概念図 実施例1のローダミンBとフルフリルアミン縮合体の合成図 DA-NRsの吸収スペクトル図 実施例1の逆Deils-Alder反応により放出した保持物質ローダミンBの蛍光スペクトル図 実施例2のNRsへの保持物質PEG導入の概念図 実施例2のPEG-DA-SHの合成図 PEG-DA-NRsの吸収スペクトル図 図1に示したCTAB、PEG、PEI、クロスリンカー、ローダミンBの説明図
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、濃度の%は特に示さない限り質量%である。
本発明の金微粒子構造体は、保持物質、リンカー、ロッド状の金微粒子によって構成され、保持物質がリンカーを介して金微粒子に結合しており、保護物質とリンカーの結合部位がDiels-Alder反応生成物質によって形成されており、該反応生成物質は近赤外光の熱変換の発熱によって切断される性質を有し、該結合部位の切断によって保持物質と金微粒子が脱離することを特徴とするロッド状金微粒子構造体である。
本発明の金微粒子構造体において、Diels-Alder反応に関わるジエンとジエノフィルはそれぞれフランとマレイミドであり、これらの結合について以下の態様を含む。
(イ)保持物質の色素や薬剤がフランに修飾されており、このフランとリンカーの一部であるマレイミドとのDiels-Alder反応によって7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成し、これを結合部位として保持物質と金ナノロッドが結合されている態様。
(ロ)保持物質のPEGにマレイミドが導入されており、リンカーがチオール基を含む該フランであり、このフランとPEGのマレイミドとのDiels-Alder反応によって7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成し、これを結合部位としてPEGがリンカーに結合し、該リンカーのチオール基で金ナノロッド結合されている態様。
〔金ナノロッド〕
本発明の金微粒子構造体にはロッド状の金微粒子(金ナノロッド)が用いられる。この金ナノロッドは、長軸長さ5〜100nm、短軸長さ3〜30nmであって、アスペクト比2〜12であり、LSPRの最大吸収波長が700〜20000nmの範囲にある。さらに、この金ナノロッドは、長軸長さ20〜80nm、短軸長さ4〜10nmの粒子径であるものが分散安定性の面からより好ましい。長軸長さが100nmより長いと、金ナノロッドが自重で沈降しやすくなる傾向があるため、分散媒中での分散安定性が失われる。また、金ナノロッドのアスペクト比は、生体内に投与した場合でも、光照射や検出が可能な近赤外域にLSPRの最大吸収波長を有するものが好ましく、従って上記アスペクト比の範囲が適当である。
上記金ナノロッドは次式[I]で示される4級アンモニウム塩が溶解した水溶液中で金イオンを還元することによって合成することができる。例えば、n=15のヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)を使用することによって、CTABが表面に吸着した金ナノロッドを得ることができる。合成した段階での金ナノロッドはCTABが吸着した状態で水中に安定に分散している。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
金ナノロッド水分散液は、上記式[I]に示される水中に存在する余剰の界面活性剤を除去してから表面処理するとよい。具体的には、金ナノロッド水分散液を遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させ、界面活性剤を含む上澄みを除去する。沈降した金ナノロッドは水を添加して再分散させる。この操作を1〜3回繰り返すことによって余剰な界面活性剤を除去することができる。なお、界面活性剤を過剰に除去すると金ナノロッドが凝集して水に再分散しなくなる。
〔リンカー〕
本発明の金微粒子構造体において、金ナノロッドに吸着しているリンカーは、例えば、片末端がチオール基であるPEGを含有するシリカ層/ポリエチレンイミン層/マレイミドによって構成される。片末端がチオール基であるPEGと金ナノロッドは、チオール基で結合している。PEGはシリカ層に含有されており、シリカ層とポリエチレンイミン層は静電相互作用で吸着している。このポリエチレンイミン層とマレイミドはアミド結合しており、このマレイミドは保持物質に修飾しているフランと結合している
いる。
本発明の金微粒子構造体において、リンカーの他の例は、チオール基を有するフランによって構成されている。チオール基を有するフランと金ナノロッドはこのチオール基で結合している。
〔保持物質(色素、薬剤の場合)〕
保持物質が色素や薬剤の場合、あらかじめ色素や薬剤をフランに結合しておき、このフランとリンカーのマレイミドとのDiels-Alder反応によって、色素や薬剤をリンカーに結合し、このリンカーを介して金ナノロッドに結合することができる。
色素は金ナノロッドのLSPR吸収と重ならないような波長域に吸収を有するものが好ましい。金ナノロッドと色素の吸収が重なると、色素単体の吸収波長を確認することが困難になる傾向がある。色素としては、具体的には、例えば、ローダミンB、フルオレセイン、Cyシリーズ(Cy3, Cy5)、Alexa Fluorシリーズ(Alexa Fluor 488,Alexa Fluor750)などの商品名で市販されているものが挙げられる。これらは特に問題なく使用することができる。薬剤は特定の病巣で投与され改善が得られるような薬剤を選択すれば良い。薬剤としては、例えば、ドキソルビシン(DOX)、パクリタキセルなどの商品名で市販されているものが挙げられる。これらは特に問題なく使用することができる。
〔保持物質(PEGの場合)〕
保持物質がPEGの場合、あらかじめPEGにマレイミドを導入しておき、リンカーとしてチオール基を含むフランを用い、PEGのマレイミドとリンカーのフランとのDiels-Alder反応によって、PEGをリンカーに結合し、このリンカーのチオール基によって金ナノロッドに結合することができる。PEGとしては生体中で金ナノロッドが安定に分散できるようなものを選択すればよく、特に重量平均分子量1000以上のPEGを使用した場合、生体内において金ナノロッドの高い分散安定性が得られる。
〔表面処理方法(保持物質が色素、薬剤の場合)〕
次式[I]で示される4級アンモニウム塩(界面活性剤:CTABなど)が吸着した金ナノロッド表面にPEGを修飾し、これに珪酸化合物(TEOSなど)を反応させて金ナノロッド表面にPEG含有シリカ層を形成し、このシリカ層にポリエチレンイミン層を静電相互作用によって積層し、このポリエチレンイミンのアミノ基とマレイミドをアミド結合させることによって、PEG含有シリカ層/ポリエチレンイミン層/マレイミドからなるリンカーによって被覆された金ナノロッド(B)を調製する。一方、フランに色素を結合した保持物質(A)を調製する。この保持物質(A)と金ナノロッド(B)とを混合し、上記フランと上記マレイミドとのDiels-Alder反応によって、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成することにより、色素が金ナノロッド表面に結合されたロッド状金微粒子構造体を製造することができる。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
金ナノロッドに表面処理するPEGとしては、片方の末端がメトキシ基であり、もう一方の末端がチオール基を有する重量平均分子量1000〜40000のポリエチレングリコール(m-PEG-SH)を使用すればよく、好ましくは重量平均分子量2000〜20000のm-PEG-SHがよい。余剰のCTABを除去した金ナノロッド水分散液にm-PEG-SHを添加して攪拌すると、m-PEG-SHは末端のチオール基で金ナノロッド表面と結合し、金ナノロッド表面のCTABは大部分がm-PEG-SHによって置換され、m-PEG-SHで表面修飾された金ナノロッドが得られる。金ナノロッドに結合しない余剰のm-PEG-SHは遠心操作で除去するとよい。m-PEG-SHで表面処理した金ナノロッドは、アルコール(エタノールなど)に分散することができる。このとき、m-PEG-SHの重量平均分子量が1000より小さいとアルコール中の分散安定性が悪くなり、一方、重合平均分子量が20000より大きいと分散安定性に変化はなく、コスト的に不利である。
m-PEG-SHの添加量は、分散液中で、金濃度1mMに対して、0.01〜10mMになる濃度範囲がよく、好ましくは0.1〜1mMの範囲が良い。m-PEG-SHの濃度が0.01mMより低いと、アルコール中での分散が不安定となり、アルコール中に安定分散させることができない。一方、m-PEG-SHの濃度が10mMより高いと金ナノロッドに吸着しない余剰分が発生し、コスト的に不利である。なお、m-PEG-SHによって表面修飾しない金ナノロッドを用いてエタノール分散液を調製した場合、金ナノロッド表面に修飾していつ分散剤のCTABがエタノールに溶解するため、金ナノロッドが凝集する。
m-PEG-SHで表面修飾した金ナノロッドの水分散液に、オルト珪酸テトラエチル(TEOS)などの珪酸化合物を溶解したエタノールを添加し、攪拌すると、金ナノロッド表面にシリカ層が形成され、金ナノロッドをコアとし、シリカ層をシェルとするコア/シェル微粒子を得ることができる。このとき、金ナノロッド表面に吸着しているm-PEG-SHはシリカ層に埋包された状態になる。従って、金ナノロッド表面にCTABが僅かに残留している場合でも、このCTABはシリカ層に埋包されるので、CTABの毒性の問題を解消することができる。
TEOSの添加量は、金濃度1mMに対して、0.5〜100mMの濃度範囲がよく、好ましくは1〜50mMの範囲がよい。TEOSの濃度が0.5mMより低いと金ナノロッドを十分にシリカ被覆することができない。一方、TEOSの濃度が100mMより高いとシリカの金ナノロッド被覆量が多くなり、粒子径が大きくなって分散安定性が低下し、沈降物を生じるので好ましくない。またコスト的にも不利である。シリカ処置の際、アンモニアを触媒として5%程度添加するとよい。
金ナノロッドの表面に負の電荷であるシリカ層のシェルを形成することで、正の電荷であるポリエチレンイミンを静電相互作用によって吸着させることができる。余剰のTEOSを除去した金ナノロッド/シリカのコア/シェル粒子の90%エタノール分散液(10%は水)に、ポリエチレンイミン(PEI)を溶解した90%エタノールを添加し、攪拌すると、静電相互作用によってシリカ層の表面にPEI層が形成され、金ナノロッド/m-PEG-SH含有シリカ層/PEI層から形成される微粒子を得ることができる。
金ナノロッドに表面処理するPEIとしては、重量平均分子量1000〜100000のPEIを使用すればよく、好ましくは重量平均分子量1800〜60000のPEIがよい。PEIの重量平均分子量が1000より小さいとアルコール中の分散安定性が低下し、一方、重合平均分子量が100000より大きいと粒子の沈殿が認められる。
PEIの添加量は、金濃度1mMに対して、0.13〜12.5mMの濃度範囲がよく、好ましくは、0.21〜6.94mMの範囲がよい。PEIの濃度が0.13mMより低いとシリカ層を十分にPEIで被覆することができない。一方、PEIの濃度が12.5mMより高いとシリカ層上のPEI被覆量が多くなり、粒子径が大きくなって分散安定性が低下し、沈降物を生じるので好ましくない。
金ナノロッド表面のシリカ層とPEI層の膜厚が厚くなると、後の工程で修飾する色素などの蛍光物質の蛍光発光がクエンチされなくなる。具体的には、例えばシリカ層とPEI層の膜厚の合計が30nmを超えると蛍光発光のクエンチが起こらなくなるため、これより薄い膜厚がよい。
金ナノロッド表面に形成したm-PEG-SH含有シリカ層/PEI層の表面に、Diels-Alder反応に関わるジエノフィルであるマレイミド基を導入する。マレイミド基の導入は、PEI中のアミノ基と反応する官能基を末端に有し、もう片方の末端にはマレイミド基を有する化合物(クロスリンカー)を用いればよく、アミノ基との反応基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物、スクシンイミジル基などが挙げられる。
金ナノロッド表面にm-PEG-SH含有シリカ層/PEI層を有する金ナノロッド水分散液にクロスリンカーを溶解した水溶液を添加し、攪拌すると、PEI層のアミノ基とクロスリンカー中の反応基が反応して結合し、金ナノロッド/m-PEG-SH含有シリカ層/PEI層/マレイミドから形成される表面処理層を有する金ナノロッド(Ma-NRs)の分散液を得ることができる。
クロスリンカーの添加量は、金濃度1mMに対して、0.1〜20mMの濃度範囲がよく、好ましくは1〜10mMの範囲がよい。クロスリンカーの濃度が0.1mMより低いとマレイミド基を十分に導入することができないため、Diels-Alder反応で保持物質を十分に結合させることができない。一方、クロスリンカーの濃度が20mMより高いとPEIのアミノ基よりも過剰となるため未反応のクロスリンカーが発生する。
Ma-NRs表面のマレイミドとのDiels-Alder反応に関わるジエンとしてはフランを用いればよい。フランとしては保持物質である色素や薬剤を結合するための反応基を有していることが好ましく、例えば、フルフリルアミン(Furfurylamine)などが挙げられる。例えば、アミノ基を有するフランであるフルフリルアミンと、カルボキシ基を有する色素であるローダミンBを反応させると、保持物質である色素とフランの縮合体(Fu-RoB)が得られる。
Ma-NRsと色素や薬剤を結合したフランとのDiels-Alder反応によって、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成して、金ナノロッドに保持物質を結合することができる。例えば、Ma-NRsとFu-RoBのDiels-Alder反応によって、金ナノロッドに保持物質として色素ローダミンBを結合することができる。
〔表面処理方法(保持物質がPEGの場合)〕
マレイミドを導入した保持物質のPEGとして、例えば、重量平均分子量1000以上のマレイミド(α-[3-(3マレイミド-1-オキソプロピル)アミノ]プロピル-ω-メトキシポリエチレングリコール)を用い、一方、チオール基を有するフランをリンカーとして用い、PEGのマレイミドとフランとをDiels-Alder反応させて、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成し(PEG-DA-SH)、PEGにフランを結合し、このフランのチオール基によって、次式[I]で示される界面活性剤が吸着した金ナノロッド表面に結合させることによって、保持物質のPEGが結合した金ナノロッド(PEG-DA-NRs)を得ることができる。
CH3(CH2)n+(CH3)3Br- (nは1〜15の整数) …[I]
PEGはあらかじめフランにDiels-Alder反応で結合しておくので、金ナノロッドに修飾するPEGの量や鎖長を容易に調整することができる。
〔PEG-DA-NRの作製方法〕
フランは金微粒子と吸着するためのチオール基を有するものであればよい。また、マレイミドは、重量平均分子量1000以上のPEGが導入されたものであればよく、PEGの片方の末端がメトキシ基であり、もう一方の末端がマレイミド基である。PEGの重量平均分子量が1000より小さいと生体内での金ナノロッドの分散安定性が悪くなり、一方、重合平均分子量が20000より大きいと分散安定性に変化はなく、コスト的に不利である。
チオール基を有するフランと、PEGを有するマレイミドとをDiels-Alder反応させて、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成して得られた化合物(PEG-DA-SH)は、チオール基を有しているため、金ナノロッドに吸着させることが可能である。特に上記式[I]の界面活性剤が吸着した金ナノロッドに対しても、硫黄の吸着力が強いため、PEG-DA-SHを添加するだけで、金ナノロッド表面に修飾している界面活性剤はPEG-DA-SHによって置換され、PEG-DA-SHを金ナノロッドに表面修飾することができ、保持物質のPEGをリンカーを介して金ナノロッドに結合することができる。
PEG-DA-SHの添加量は、分散液中で、金濃度1mMに対して、0.01〜10mMになる濃度範囲がよく、好ましくは0.1〜1mMの範囲が良い。PEG-DA-SHの濃度が0.01mMより低いと水中での分散が不安定となり、安定に分散させることができない。一方、PEG-DA-SHの濃度が10mMより高いと金ナノロッドに吸着しない余剰分が発生し、コスト的に不利である。
なお、CTABによって表面修飾されている金ナノロッドの水分散液について、液中の余剰のCTABを透析して除去する場合、金ナノロッド表面のCTABも透析によって排除されるので金ナノロッドが凝集する。一方、CTABに代えてPEG-DA-SHによって表面修飾された金ナノロッドはPEGが分散剤として機能するので、このような凝集を生じない。
〔保持物質の脱離方法〕
本発明に使用する金ナノロッドは、700〜2000nmにLSPRの吸収ピークを有しており、金ナノロッドにLSPR吸収ピークの光を照射すると、光熱変換で熱が発生し、発生した熱によって、金ナノロッドと保持物質の結合部位を形成している7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideが逆Diels-Alder反応を起こすため、金ナノロッドから保持物質が脱離する。
特に波長800〜1200nmの近赤外光は水の吸収による影響が少なく(Near Infrared Window)、生体にも安全な波長域であり、生体外部から近赤外光を照射することによって、生体内に投与した金ナノロッドの光熱変換を起こすことが可能である。
〔検出方法・治療方法等〕
本発明の金微粒子構造体は、金ナノロッドが、照射された近赤外光を熱に変換し、この熱によってリンカーと保持物質の結合部位(7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imide)が逆Diels-Alder反応を起こして分離し、保持物質と金ナノロッドが脱離することを利用して、光照射による検出方法、バイオイメージング、ドラッグデリバリーシステムなどを構築することができる。近赤外光としては、近赤外線を発する近赤外線レーザー(CW、半導体レーザー)などを利用すればよい。また、保持物質を脱離するための逆Diels-Alder反応が起こる熱が加えられればよく、金ナノロッドの光熱変換機能による熱発生に限らず、本発明の金微粒子構造体が分散している系を加熱する方法でもよい。
保持物質が色素の場合、金ナノロッドから色素が脱離することによって、クエンチされた状態から解かれて、色素固有の蛍光発光を発するようになり、その蛍光を検出することが可能である。特に、生体内へ近赤外光を照射して色素の脱離を起こし、その蛍光を測定して画像化することにより、バイオイメージングが可能となる。
保持物質が薬剤の場合、特定部位にある金ナノロッドに近赤外光照射し光熱変換機能で熱を発生させ、この熱で逆Diels-Alder反応を起こして結合部位(7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imide)を開裂させ、薬剤を脱離させることによって、薬物を効率よく放出するドラッグデリバリーシステム(DDS)を構築することができる。特に、金は生体に安全な材料であり、キャリアーとして有用である。
PEGを保持物質として利用した場合は、PEG鎖が分散剤として機能するため生体内における金ナノロッドの分散安定性が得られるばかりでなく、近赤外光照射した場合、金ナノロッドの光熱変換機能で発生した熱で逆Diels-Alder反応が起こり、結合部位が開裂してマレイミド部位のPEGが金ナノロッドから脱離するため、分散安定性が失われて金ナノロッドが凝集し、あるいは、周辺組織に吸着させることができ、この金ナノロッドの集積によって生じるLSPRの吸収スペクトルによって金ナノロッドが凝集する部位のイメージングが可能である。
以下、本発明を実施例によって具体的に示す。また、比較例を示す。なお、以下の実施例において、金ナノロッドはCTABを保護剤として塩化金酸を水中で還元して合成された長軸40nm、短軸10nm、アスペクト比4のロッド形状の金微粒子であり(特許文献3参照)、主に900nm付近の波長域におけるLSPRの吸収波長シフトが測定されているが、金ナノロッドのアスペクト比を変更することによって700〜20000nmまでの波長域についても同様の吸収波長のシフトを測定することができる。また分光特性は日本分光株式会社製品(製品名V-570)を用いて測定した。
〔実施例1〕
以下の手順で、保持物質を結合した金微粒子を得た。製造工程の概念図を図1に示す。
〔金ナノロッド水分散液〕
CTABで表面修飾された金ナノロッドの水分散液を次の手順で準備した。
400mMのCTAB水溶液中で合成された金ナノロッド水分散液を遠沈管に入れ、14000(×g)の相対遠心加速度(遠心加速度を地球の重力加速度で除したもの)で10分間遠心分離して金ナノロッドを遠沈管の底に沈降させた。上澄み液を別の遠沈管に入れ、沈降した金ナノロッドを水で再分散させた。別の遠沈管に入れた上澄み液は、再び14000(×g)で10分間遠心分離して金ナノロッドを沈降させ、この上澄み液を除去することによって余剰のCTABを除去した。沈降した金ナノロッドを水で再分散させ、前の再分散液と合わせて、金ナノロッド水分散液(CTAB-NRs、金含有量:1.6mM)を得た。吸光度から金ナノロッド水分散液中の金原子濃度を求めた。
〔ローダミンBとフルフリルアミン縮合体の合成〕
保持物質として色素ローダミンBを準備した。Diels-Alder反応に関わるジエンとしてフランを準備した。ローダミンBに存在するカルボキシル基とフルフリルアミンに存在するアミノ基との縮合反応を行い、色素をフランに結合した(Fu-RoB、図2)。具体的には、50mlナスフラスコに、0.5mmolのローダミンB、0.6mmolのN−ヒドロキシスクシンイミド(N-hydroxysuccinimide;NHS)、0.6mmolの1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を入れ、10mlのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。この溶液にトリエチルアミン14μlを氷冷下条件で添加し、0.5mmolのフルフリルアミンを5mlのDMFで溶解した溶液を同様に氷冷下で滴下した。滴下終了から1時間後、室温にて23時間攪拌反応させた(図2)。
〔金微粒子表面へのリンカー導入〕
(イ)CTAB-NRs水分散液とm-PEG-SH(重量平均分子量20000)をモル比でNRs(金原子):m-PEG-SH=1:1になるように添加し、24時間攪拌して、m-PEG-SHが片末端のチオール基でNRs表面に結合した微粒子(PEG-NRs)の水分散液を得た。この水分散液を、MWCO=10000の透析膜にて透析して、過剰のCTABを取り除いた。透析後の水分散液を14000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離してNRsに結合していない余剰のm-PEG-SHを除去し、遠沈管の底に沈降させたNRsを水で再分散後、10mM(金原子)PEG-NRs水分散液を調整した。
(ロ)このPEG-NRs水分散液に、エタノール、1%TEOS、5%アンモニアを添加し、24時間攪拌してシリカ層を形成し、m-PEG-SHの吸着したNRsがシリカで埋包された微粒子(Si-NRs)のエタノール分散液を得た。調製したSi-NRsエタノール分散液を5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離してSi-NRsを遠沈管の底に沈降させ、90%エタノールで再分散させてSi-NRsエタノール分散液を調製した。
(ハ)このSi-NRsエタノール分散液に、PEIを溶解した90%エタノールを添加し、モル比でNRs(金原子):PEI=10:1になるように調整して24時間攪拌し、Si-NRs表面にPEIが静電相互作用により吸着した粒子(PEI-NRs)エタノール分散液を得た。
調製したPEI-NRsエタノール分散液を5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心し、PEI-NRsを遠沈管の底に沈降させた後、上澄みを除去し、0.2Mリン酸バッファー(pH8.0)に再分散した。
(ニ)再分散したPEI-NRsエタノール分散液にクロスリンカー(Linker、succinimidyl-[(N-maleimidopropionamido)-dodecaethyleneglycol]ester:NHS-PEO12-mal)を加え、モル比でNRs(金原子):クロスリンカー=1:6になるように調整して90分攪拌し、その後、5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離して上澄みを除去し、DMFで再分散させて、マレイミド部位を有するクロスリンカーが修飾されたNRs(Ma-NRs)のDMF分散液を得た。
〔保持物質ローダミンBの導入〕
上記Ma-NRsのDMF分散液と、図2の縮合体(Fu-RoB)のDMF分散液を混合し、NRs(金原子):Fu-RoB=1:9になるように調整し、60℃で24時間攪拌し、Diels-Alder反応によって、7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを形成し、金ナノロッドにローダミンBを結合させた(RoB-NRs、図1)。調製したRoB-NRsのDMF分散液を5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離し、RoB-NRsを遠沈管底に沈降させた後、上澄みを除去し、未反応のローダミンBを取り除くために、MWCO=10000の透析膜で透析した。透析後、5000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心し、上澄みを除去した後、水で再分散させて金濃度0.5mMに調整し、ローダミンBが7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを介して金ナノロッドに結合した微粒子(DA-NRs)の水分散液を得た。このDA-NRの分光特性を図3に示す。
〔保持物質(ローダミンB)の放出〕
上記Da-NRの水分散液100μlをガラス製チューブに入れ、近赤外線レーザー(CW、半導体レーザー、807nm)を500mWで1分間、5分間、10分間、20分間、30分間照射した。この結果、逆Diels-Alder反応によって、色素ローダミンBが金ナノロッドより放出され、クエンチされていたローダミンBの蛍光スペクトルが580nm付近に観察された。この蛍光スペクトルを図4に示す。
〔参考例1〕
上記DA-NRの水分散液100μlをガラス製チューブに入れ、90℃で3時間加熱した。この結果、逆Diels-Alder反応によって、ローダミンBが金ナノロッドより放出され、クエンチされていたローダミンBの蛍光スペクトルが580nm付近に観察された。この蛍光スペクトルを図4に示す。
〔実施例2〕
以下の手順で、保持物質を結合した金微粒子を得た。製造工程の概念図を図5に示す。
〔PEG修飾マレイミドとフランの反応〕
保持物質としてα−[3-(3-マレイミド-1-オキソプロピル)アミノ]プロピル-ω-メトキシポリエチレングリコールを準備した。Diels-Alder反応に関わるジエンとしてフランを準備した。10ml遠沈管に0.01mmolのα−[3-(3マレイミド-1-オキソプロピル)アミノ]プロピル-ω-メトキシポリエチレングリコール(重量平均分子量5000)、0.2mmolのフルフリルジスルフィドを入れ、5mlのDMFに溶解した。この溶液を60℃、72時間攪拌反応させた。反応後、室温に戻し、1mmolのジチオスレイトール(DTT)を添加し、24時間攪拌反応させ、スルフィド部位を開裂してチオール基とした。反応後、DMFをローターリーエバポレーターで留去し、MWCO=3500の透析膜にて、未反応のフランと残留DTTを取り除き、凍結乾燥にて目的物(PEG-DA-SH)を得た(図6)。
〔金微粒子表面へのリンカーと保持物質の導入〕
CTABを除去していないNRs水分散液と、上記PEG-DA-SH(重量平均分子量5000)をモル比で、NRs(金原子):PEG-DA-SH=1:0.2になるように添加し、24時間攪拌して、PEG-DA-SHが片末端のチオール基でNRs表面に結合した微粒子(PEG-DA-NRs)水分散液を得た(図5)。この水分散液を、MWCO=10000の透析膜にて透析して、過剰のCTABを取り除いた。透析後の水分散液を14000(×g)の相対遠心加速度で10分間遠心分離してNRsに結合していない余剰のPEG-DA-SHを除去し、遠沈管の底に沈降させたNRsを水で再分散させ、金濃度0.5mMに調整し、PEGが7-oxa-bicyclo[2.2.1]hept-5-ene-2,3-dicarboxylic imideを介してNRsに結合した金微粒子(PEG-DA-NRs)の水分散液を得た。このPEG-DA-NRsの分光特性を図7に示す。
〔保持物質(PEG)の放出〕
上記PEG-DA-NRsの水分散液100μlをガラス製チューブに入れ、近赤外線レーザー(CW、半導体レーザー、807nm)を500mWで10分間照射した。この結果、逆Diels-Alder反応によってPEGがNRsより放出された。このPEGについてバリウムーヨウ素法によって濁度として535nmの吸収波長を分光時計にて測定した。この結果を表1に示す。
〔参考例2〕
上記PEG-DA-NRsの水分散液100μlをガラス製チューブに入れ、90℃で2時間加熱した。この結果、逆Diels-Alder反応によってPEGがNRsより放出された。このPEGについてバリウムーヨウ素法によって濁度として535nmの吸収波長を分光時計にて測定した。この結果を表1に示す。

Claims (4)

  1. 保持物質が以下の反応生成物を介して金ナノロッドに結合した構造であって、
    保持物質がローダミンB、フルオレセイン、Cy3、Cy5、Alexa Fluor 488、およびAlexa Fluor750からなる群から選択される色素、あるいは、ドキソルビシンおよびパクリタキセルからなる群から選択される薬剤であり、
    金ナノロッド表面にポリエチレングリコールが結合しており、該ポリエチレングリコールの上にシリカ層が形成されており、該シリカ層にポリエチレンイミン層が積層されており、該ポリエチレンイミン層にマレイミドが結合しており、
    一方、保持物質にフランが結合しており、該フランが上記マレイミドとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによって結合していることを特徴とする金ナノロッド構造体。
  2. 表面に界面活性剤が吸着した金ナノロッドの分散液にポリエチレングリコールを添加して金ナノロッド表面の界面活性剤をポリエチレングリコールに置換し、このポリエチレングリコールが結合した金ナノロッドの分散液に珪酸化合物の溶解液を添加して、ポリエチレングリコールを包むシリカ層を形成し、このシリカ層を有する金ナノロッドの分散液にポリエチレンイミン溶解液を添加して上記シリカ層の表面にポリエチレンイミン層を形成し、該ポリエチレンイミン層を有する金ナノロッドの分散液にマレイミド溶解液を添加して該マレイミドがポリエチレンイミン層の表面に結合した金ナノロッドを調製し、
    一方、ローダミンB、フルオレセイン、Cy3、Cy5、Alexa Fluor 488、およびAlexa Fluor750からなる群から選択される色素、あるいは、ドキソルビシンおよびパクリタキセルからなる群から選択される薬剤である保持物質の溶解液に、フラン溶解液を添加して該保持物質にフランを結合させ、
    マレイミドが表面に結合した上記金ナノロッドの分散液と、フランが結合した上記保持物質の分散液を混合し、上記マレイミドと上記フランとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドを形成することによって保持物質が金ナノロッドに結合した金ナノロッド構造体を製造する方法。
  3. 保持物質がマレイミドを含むポリエチレングリコール(PEG)であり、チオール基を有するフランが上記マレイミドとの反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによって上記PEGと結合しており、さらに
    該反応生成物
    がそのチオール基によって金ナノロッド表面に結合していることを特徴とする金ナノロッド構造体。
  4. マレイミドを含むポリエチレングリコール(PEG)とチオール基を有するフランを反応させて、反応生成物である7−オキサ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸イミドによってPEGとフランを結合させ、
    このフランが結合したPEGと、金ナノロッド の分散液とを混合し、該反応生成物のチオール基を金ナノロッド表面に結合させてPEGが反応生成物を介して金ナノロッドに結合した金ナノロッド構造体を製造する方法。
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