以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1及びその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部とするディーゼルエンジンシステムとして構成されている。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、ECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ(吸気絞り弁)62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
また、この吸気系6には、燃焼室3内でのスワール流(水平方向の旋回流)を可変とするためのスワールコントロールバルブ(スワール速度可変機構)66が備えられている(図2参照)。具体的に、上記吸気ポート15aとしては、ノーマルポート及びスワールポートの2系統が各気筒毎に備えられており、そのうち図2に示されているノーマルポート15aに、開度調整可能なバタフライバルブで成るスワールコントロールバルブ66が配置されている。このスワールコントロールバルブ66には図示しないアクチュエータが連繋されており、このアクチュエータの駆動によって調整されるスワールコントロールバルブ66の開度に応じてノーマルポート15aを通過する空気の流量が変更できるようになっている。そして、スワールコントロールバルブ66の開度が大きいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が増加する。このため、スワールポート(図2では図示省略)により発生したスワールは相対的に弱まり、気筒内は低スワール(スワール速度が低い状態)となる。逆に、スワールコントロールバルブ66の開度が小さいほど、ノーマルポート15aから気筒内に吸入される空気量が減少する。このため、スワールポートにより発生したスワールは相対的に強められ、気筒内は高スワール(スワール速度が高い状態)となる。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された上記排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、NOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75及びDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75及びDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。即ち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3及びその周辺部の構成について、図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ(凹陥部)13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
尚、このキャビティ13bの形状としては、その中央部分(シリンダ中心線P上)では凹陥寸法が小さく、外周側に向かうに従って凹陥寸法が大きくなっている。つまり、図2に示すようにピストン13が圧縮上死点付近にある際、このキャビティ13bによって形成される燃焼室3としては、中央部分では比較的容積の小さい狭小空間とされ、外周側に向かって次第に空間が拡大される(拡大空間とされる)構成となっている。
上記ピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する上記吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16及び排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16及び排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジン1はクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト51を介して連結されたタービンホイール52及びコンプレッサホイール53を備えている。コンプレッサホイール53は吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール52は排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール52が受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール53を回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール52側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。
このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。これらEGR通路8、EGRバルブ81、EGRクーラ82等によってEGR装置(排気還流装置)が構成されている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリである。バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103及びバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40、外気の圧力を検出する外気圧センサ4A、及び、筒内圧力を検出する筒内圧センサ4Bなどが接続されている。
一方、出力インターフェース106には、上記サプライポンプ21、インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、スワールコントロールバルブ66、及び、EGRバルブ81などが接続されている。また、出力インターフェース106には、その他に、上記ターボチャージャ5の可変ノズルベーン機構に備えられたアクチュエータ(図示省略)も接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサからの出力、その出力値を利用する演算式により求められた演算値、または、上記ROM102に記憶された各種マップに基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。
例えば、ECU100は、インジェクタ23の燃料噴射制御として、パイロット噴射(副噴射)とメイン噴射(主噴射)とを実行する。
上記パイロット噴射は、インジェクタ23からのメイン噴射に先立ち、予め少量の燃料を噴射する動作である。また、このパイロット噴射は、メイン噴射による燃料の着火遅れを抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作であって、副噴射とも呼ばれる。また、本実施形態におけるパイロット噴射は、上述したメイン噴射による初期燃焼速度を抑制する機能ばかりでなく、気筒内温度を高める予熱機能をも有するものとなっている。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度(例えば1000K)に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するようにしている。
上記メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。このメイン噴射での噴射量は、基本的には、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じ、要求トルクが得られるように決定される。例えば、エンジン回転数(クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されるエンジン回転数)が高いほど、また、アクセル操作量(アクセル開度センサ47により検出されるアクセルペダルの踏み込み量)が大きいほど(アクセル開度が大きいほど)エンジン1のトルク要求値としては高く得られ、それに応じてメイン噴射での燃料噴射量としても多く設定されることになる。また、上記パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われている場合には、メイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
具体的に、ディーゼルエンジンにおける燃料の着火遅れとしては、物理的遅れと化学的遅れとがある。物理的遅れは、燃料液滴の蒸発・混合に要する時間であり、燃焼場のガス温度に左右される。一方、化学的遅れは、燃料蒸気の化学的結合・分解かつ酸化発熱に要する時間である。そして、上述した如く気筒内の予熱が十分になされている状況では上記物理的遅れを最小限に抑えることができ、その結果、着火遅れも最小限に抑えられることになる。従って、メイン噴射によって噴射された燃料の燃焼形態としては、予混合燃焼が殆ど行われないことになり、大部分が拡散燃焼となる。その結果、メイン噴射の噴射タイミングを制御することがそのまま拡散燃焼の開始タイミングを制御することに略等しくなり、燃焼の制御性を大幅に改善することができる。つまり、メイン噴射で噴射された燃料の予混合燃焼の割合を最小限に抑えることで、メイン噴射での燃料噴射タイミング及び燃料噴射量を制御する(噴射率波形を制御する)ことによる熱発生率波形(着火時期及び熱発生量)の制御によって燃焼の制御性を大幅に改善することが可能になる。
尚、上述したパイロット噴射及びメイン噴射の他に、アフタ噴射やポスト噴射が必要に応じて行われる。アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的には、供給された燃料の燃焼エネルギがエンジン1のトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射は実行される。また、ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
また、ECU100は、エンジン1の運転状態に応じてEGRバルブ81の開度を制御し、吸気マニホールド63に向けての排気還流量(EGR量)を調整する。このEGR量は、上記ROM102に予め記憶されたEGRマップに従って設定される。具体的に、このEGRマップは、エンジン回転数及びエンジン負荷をパラメータとしてEGR量(EGR率)を決定するためのマップである。尚、このEGRマップは、予め実験やシミュレーション等によって作成されたものとなっている。つまり、上記クランクポジションセンサ40の検出値に基づいて算出されたエンジン回転数及びスロットル開度センサ42によって検出されたスロットルバルブ62の開度(エンジン負荷に相当)とをEGRマップに当て嵌めることでEGR量(EGRバルブ81の開度)が得られるようになっている。
更に、ECU100は、上記スワールコントロールバルブ66の開度制御を実行する。このスワールコントロールバルブ66の開度制御としては、燃焼室3内に噴射された燃料の噴霧の単位時間当たり(または単位クランク回転角度当たり)における気筒内の周方向の移動量を変更するように行われる。
−燃料噴射圧−
燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧として、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、即ち目標レール圧は、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、及び、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。即ち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23から燃焼室3内に向けて多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射可能な期間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷及びエンジン回転数に基づいて設定される。尚、この目標レール圧は例えば上記ROM102に記憶された燃圧設定マップに従って設定される。つまり、この燃圧設定マップに従って燃料圧力を決定することで、インジェクタ23の開弁期間(噴射率波形)が制御され、その開弁期間中における燃料噴射量を規定することが可能になる。
尚、本実施形態では、エンジン負荷等に応じて燃料圧力が30MPa〜200MPaの間で調整されるようになっている。
上記パイロット噴射やメイン噴射などの燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジン1や吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量及び燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度及びアクセル開度に基づいて総燃料噴射量(パイロット噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)を決定する。
−目標燃料圧力の設定−
次に、上記目標燃料圧力の設定手法について説明する。ディーゼルエンジン1においては、NOx発生量やスモーク発生量を削減することによる排気エミッションの改善、燃焼行程時の燃焼音の低減、エンジントルクの十分な確保といった各要求を連立することが重要である。これら要求を連立するための手法として、燃焼行程時における気筒内での熱発生率の変化状態(熱発生率波形で表される変化状態)を適切にコントロールすることが有効である。
図4の上段に示す波形のうちの実線は、横軸をクランク角度、縦軸を熱発生率とし、パイロット噴射及びメイン噴射で噴射された燃料の燃焼に係る理想的な熱発生率波形を示している。図中のTDCはピストン13の圧縮上死点に対応したクランク角度位置を示している。また、図4の下段に示す波形は、インジェクタ23から噴射される燃料の噴射率(クランク軸の単位回転角度当たりの燃料噴射量)波形を示している。
上記熱発生率波形としては、例えば、ピストン13の圧縮上死点(TDC)付近からメイン噴射で噴射された燃料の燃焼が開始され、ピストン13の圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点)で熱発生率が極大値(ピーク値)に達し、更に、圧縮上死点後の所定ピストン位置(例えば、圧縮上死点後25度(ATDC25°)の時点)で上記メイン噴射において噴射された燃料の燃焼が終了するようになっている。このような熱発生率の変化状態で混合気の燃焼を行わせるようにすれば、例えば圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点で気筒内の混合気のうちの50%が燃焼を完了した状況となる。つまり、圧縮上死点後10度(ATDC10°)の時点が燃焼重心となって、膨張行程における総熱発生量の約50%がATDC10°までに発生し、高い熱効率でエンジン1を運転させることが可能となる。
また、この燃焼重心に到達した時点でのクランク角度と燃料噴射率波形との関係としては、インジェクタ23に対して燃料噴射停止信号を送信した時点から燃料噴射が完全に停止するまでの期間(図4における期間T1)に燃焼重心が位置することになる。
このような理想的な熱発生率波形による燃焼が行われる状況にあっては、パイロット噴射によって気筒内の予熱が十分に行われ、この予熱により、メイン噴射で噴射された燃料は、直ちに自着火温度以上の温度環境下に晒されて熱分解が進み、噴射後は直ちに燃焼が開始されることになる。
また、図4に二点鎖線αで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも高く設定された場合の熱発生率波形であり、燃焼速度及び熱発生率のピーク値が共に高くなりすぎており、燃焼音の増大やNOx発生量の増加が懸念される状態である。一方、図4に二点鎖線βで示す波形は、燃料噴射圧力が、適正値よりも低く設定された場合の熱発生率波形であり、燃焼速度が低く且つ熱発生率のピークの現れるタイミングが大きく遅角側に移行していることで十分なエンジントルクが確保できないことが懸念される状態である。
−燃焼形態の概略説明−
次に、本実施形態に係るエンジン1における燃焼室3内での燃焼形態の概略について説明する。
図5は、エンジン1の一つの気筒に対して吸気マニホールド63及び吸気ポート15aを経てガス(空気)が吸入され、燃焼室3内へインジェクタ23からの燃料噴射によって燃焼が行われると共に、その燃焼後のガスが排気ポート71を経て排気マニホールド72へ排出される様子を模式的に示した図である。
この図5に示すように、気筒内に吸入されるガスには、吸気管64からスロットルバルブ62を介して吸入された新気と、上記EGRバルブ81が開弁された場合にEGR通路8から吸入されるEGRガスとが含まれる。吸入される新気量(質量)と吸入されるEGRガス量(質量)との和に対するEGRガス量の割合(即ち、EGR率)は、運転状態に応じて上記ECU100により適宜制御されるEGRバルブ81の開度に応じて変化する。
このようにして気筒内に吸入された新気及びEGRガスは、吸気行程において開弁している吸気バルブ16を介し、ピストン13(図5では図示省略)の下降に伴って気筒内に吸入されて筒内ガスとなる。この筒内ガスは、エンジン1の運転状態に応じて決定されるバルブ閉弁時にて吸気バルブ16が閉弁することにより筒内に密閉され(筒内ガスの閉じ込め状態)、その後の圧縮行程においてピストン13の上昇に伴って圧縮される。そして、ピストン13が上死点近傍に達すると、上述したECU100による噴射量制御によって所定時間だけインジェクタ23が開弁されることで燃料を燃焼室3内に直接噴射する。具体的には、ピストン13が上死点に達する前に上記パイロット噴射が実行され、燃料噴射が一旦停止された後、所定のインターバルを経て、ピストン13が上死点近傍に達した時点で上記メイン噴射が実行されることになる。
図6は、この燃料噴射時における燃焼室3及びその周辺部を示す断面図であり、図7は、この燃料噴射時における燃焼室3の平面図(ピストン13の上面を示す図)である。図7に示すように、本実施形態に係るエンジン1のインジェクタ23には、周方向に亘って等間隔に8個の噴孔が設けられており、これら噴孔からそれぞれ均等に燃料が噴射されるようになっている。尚、この噴孔数としては8個に限るものではない。
そして、この各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は略円錐状に拡散していく。また、各噴孔からの燃料噴射(上記パイロット噴射やメイン噴射)は、ピストン13が圧縮上死点近傍に達した時点で行われるため、図6に示すように、各燃料の噴霧A,A,…は上記キャビティ13b内で拡散していくことになる。
このように、インジェクタ23に形成されている各噴孔から噴射された燃料の噴霧A,A,…は、時間の経過に伴って筒内ガスと混ざり合いながら混合気となって筒内においてそれぞれ円錐状に拡散していき、自己着火によって燃焼する。つまり、この各燃料の噴霧A,A,…は、それぞれ筒内ガスと共に略円錐状の燃焼場を形成し、その燃焼場(本実施形態では8箇所の燃焼場)でそれぞれ燃焼が開始されることになる。
そして、この燃焼により発生したエネルギは、ピストン13を下死点に向かって押し下げるための運動エネルギ(エンジン出力となるエネルギ)、燃焼室3内を温度上昇させる熱エネルギ、シリンダブロック11やシリンダヘッド15を経て外部(例えば冷却水)に放熱される熱エネルギとなる。
そして、燃焼後の筒内ガスは、排気行程において開弁する排気バルブ17を介し、ピストン13の上昇に伴って排気ポート71及び排気マニホールド72へ排出されて排ガスとなる。
−メイン噴射燃焼開始時期制御動作−
本発明の特徴は、上記メイン噴射で噴射された燃料の燃焼開始時期(拡散燃焼の開始時期)を制御することにある。具体的には、上記パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧(メイン噴射開始時点におけるパイロット噴射での燃焼場)とメイン噴射で噴射された燃料の噴霧とを部分的に重ね合わせるように、パイロット噴射とメイン噴射との間の噴射インターバル(パイロット噴射の終了時点からメイン噴射の開始時点までの燃料噴射停止期間)を調整し、また、この噴霧同士の重なり領域(以下「重畳部」と呼ぶ場合もある)での温度をパイロット噴射量によって調整するようにしている。
このメイン噴射燃焼開始時期制御の概略としては、パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼場とメイン噴射で噴射された燃料の噴霧との重ね合わせ部分である重畳部の体積と、この重畳部の温度とが、メイン噴射での目標着火時期(例えば、ピストン13の圧縮上死点:TDC)において燃料の着火(拡散燃焼の開始)が可能な状態となっているか否かを判定する。つまり、上述した各種バラツキ(製造バラツキ、燃料性状のバラツキ、噴射量のバラツキ等)によってメイン噴射で噴射された燃料の着火時期が目標とする適正時期として得られる状況にあるか否かを判定する。そして、重畳部の体積が不足している又は重畳部が存在していないことに起因して着火時期が目標着火時期からずれる状況である場合には、噴射インターバルを変更することで重畳部の体積を増大させ、着火時期が目標とする適正時期として得られるようにする。一方、重畳部の温度が不足していることに起因して着火時期が目標着火時期からずれる状況である場合には、パイロット噴射での噴射量を増量補正することで筒内予熱量を増大させ、着火時期が目標とする適正時期として得られるようにしている。
以下、本実施形態におけるメイン噴射燃焼開始時期制御について具体的に説明する。図8は、このメイン噴射燃焼開始時期制御の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、エンジン1の始動後、所定時間(例えば数msec)毎に繰り返して実行される。
先ず、ステップST1で、メイン噴射で噴射された燃料の目標着火時期(例えば、ピストン13の圧縮上死点:TDC)における重畳部の体積Voverlapを算出する。この重畳部体積Voverlapの算出は以下の式(1)〜(4)により行われる(重畳部体積算出手段による重畳部体積の算出動作)。
式(1)及び式(2)は、メイン噴射で噴射された燃料の噴霧長さLspの算出式であり、「広安の式」と呼ばれる周知のものである。また、式(3)は、パイロット噴射とメイン噴射との重なり角度θoverlap(図9(b)を参照。この図9の噴霧重なり合い状態については後述する)の算出式である。この式(3)におけるθはインジェクタ23から噴射される燃焼の噴霧角である。更に、式(4)は、上記重畳部体積Voverlapを算出する式である。つまり、メイン噴射で噴射された燃料の目標着火時期をメイン噴射開始時点からの経過時間tで特定し(式(1)及び式(2)において特定し)、その目標着火時期における噴霧長さLsp及び重なり角度θoverlapから重畳部体積Voverlapを算出する。
図9は、上記パイロット噴射及びメイン噴射が行われる際の気筒内における一部の噴霧(2つの噴孔から噴射された噴霧)の状態を模式的に示す平面図である。図9(a)はパイロット噴射終了時点での噴霧の状態を、図9(b)はメイン噴射終了時点での各噴霧の状態を模式的に示している。また、この図9(b)では、メイン噴射で噴射された燃料の噴霧を実線で示し、このメイン噴射の直前に実行されたパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧(スワール流により移動したパイロット噴霧:パイロット噴射での燃焼場)を破線で示している。
この図9(b)に示すように、パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧はスワール流によって周方向に流され、その後に噴射されるメイン噴射での噴霧(スワール流の下流側に位置する噴孔から噴射されたメイン噴射での噴霧)に一部が重なることになる。そして、これら各噴霧(パイロット噴射での噴霧とメイン噴射での噴霧)の重なり角度(図9(b)におけるθoverlap)は、パイロット噴射の終了時点からメイン噴射の開始時点までの燃料噴射停止期間である上記噴射インターバルに応じて変化する(この重なり角度θoverlapが上記式(3)によって算出される)。つまり、図9(b)に示す重なり角度θoverlapとなる噴射インターバルから、噴射インターバルを長くしていけば重なり角度θoverlapは次第に大きくなり、逆に、噴射インターバルを短くしていけば重なり角度θoverlapは次第に小さくなる。
上記式(4)によって重畳部体積Voverlapが算出された後、ステップST2に移り、この算出した重畳部体積Voverlapが予め設定された目標重畳部体積Vtrg以上に達しているか否かを判定する。この判定は、メイン噴射で噴射された燃料がパイロット噴射で噴射された燃料の燃焼(予混合燃焼)に伴う熱量を十分に受けることができる重畳部体積となっているか否かを判定するものである。
上記目標重畳部体積Vtrgとしては以下のように設定される。メイン噴射で噴射された燃料が着火(拡散燃焼が開始)するためには、このメイン噴射で噴射された燃料の噴霧中に燃料の自着火温度(例えば1000K)となっている領域の体積が所定の大きさ(例えば4π/3mm3)以上得られている必要がある。つまり、燃料の自着火温度(燃料着火可能温度)となっている燃焼場が存在していてもその体積が上記所定値未満である場合には燃料は着火しない。このため、この着火条件のパラメータの一つである重畳部体積を着火可能とするものとして上記目標重畳部体積Vtrgは規定される。
上記目標重畳部体積Vtrgの値としては上記のものには限定されず、実験やシミュレーションにより決定され、燃料の性状(セタン価)やエンジン1の圧縮比等の各種パラメータに応じた値として設定される。また、この目標重畳部体積Vtrgは、エンジン1の種類毎に設定された固定値であってもよいし、エンジン1の運転条件や環境条件に応じて目標重畳部体積Vtrgを決定するマップを参照するなどして取得されるようにしてもよい。つまり、エンジン1の運転条件や環境条件に応じて目標重畳部体積Vtrgを設定する目標重畳部体積設定マップを上記ROM102に記憶させておき、この目標重畳部体積設定マップを参照することで目標重畳部体積Vtrgを設定するものである。
上記重畳部体積Voverlapが目標重畳部体積Vtrg以上である場合には、ステップST2でYES判定され、噴射インターバルの変更を行うことなしにステップST4に移る。
一方、上記重畳部体積Voverlapが目標重畳部体積Vtrg未満であって、ステップST2でNO判定された場合には、ステップST3に移りパイロット噴射とメイン噴射との間の噴射インターバルを変更する(重畳部体積増大手段による重畳部体積の増大動作)。具体的には、上記目標重畳部体積Vtrgに対する重畳部体積Voverlapの乖離量に基づいて、この重畳部体積Voverlapを目標重畳部体積Vtrgに一致させるためのインターバル変更量を演算またはマップ(実験やシミュレーションにより決定され上記ROM102に予め記憶されたマップ)により求め、この求められたインターバル変更量だけ噴射インターバルを変更することになる。より具体的には、上記噴射インターバルの変更に伴う重畳部体積Voverlapの変化量はスワール速度に応じて異なるものとなる。また、スワール速度は吸入空気量やスワールコントロールバルブ66の開度に応じて変化する。このため、上記乖離量(目標重畳部体積Vtrgに対する重畳部体積Voverlapの乖離量)、エアフローメータ43の出力信号に基づく吸入空気量、スワールコントロールバルブ66の開度等をパラメータとして噴射インターバルの変更量を求めるようにする。
上記噴射インターバルの変更動作として具体的には、メイン噴射の噴射タイミングを上記インターバル変更量だけ遅角側に移行させてインターバルを長くし、それによって上記重畳部体積Voverlapを目標重畳部体積Vtrgに一致させる。また、パイロット噴射の噴射タイミングを上記インターバル変更量だけ進角側に移行させてインターバルを長く設定するようにしてもよい。また、メイン噴射の噴射タイミングを遅角側に、パイロット噴射の噴射タイミングを進角側にそれぞれ移行させてインターバルを長く設定するようにしてもよい。
ステップST4では、メイン噴射で噴射された燃料の目標着火時期における重畳部の温度Toverlapを算出する。この重畳部温度Toverlapの算出は以下の式(5)〜(9)により行われる(重畳部温度算出手段による重畳部温度の算出動作)。
式(5)は、メイン噴射で噴射された燃料の噴霧の体積Vmainの算出式であり、式(6)は、パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧の体積Vplの算出式である。式(5)のLspmainは上記式(1)または(2)から求められるメイン噴射での噴霧長さであり、式(6)のLspplは上記式(1)または(2)から求められるパイロット噴射での噴霧長さである。また、式(7)は、上記メイン噴射で噴射された燃料の噴霧の体積Vmain及びパイロット噴射で噴射された燃料の噴霧の体積Vplを利用した重畳部質量Goverlapの算出式である。更に、式(8)は、重畳部の予熱量Qoverlapの算出式である。そして、式(9)は上記各式(7),(8)で求められた値を利用した重畳部温度Toverlapの算出式である。つまり、各噴霧の体積Vmain,Vplから求まる重畳部質量Goverlapと、重畳部の予熱量Qoverlapと、ガス(吸入空気)の比熱Cpと、燃焼室3内の着火時温度Tig(圧縮端における空気圧縮により上昇した温度に相当)とによって重畳部温度Toverlapを算出する。この式(9)は、重畳部の温度がその全体に亘って均一であると仮定した上で重畳部温度Toverlapを算出するものである。
尚、上記式(8)におけるパイロット発熱量Qplは上記筒内圧センサ4Bによって検出された筒内圧力から、パイロット噴射で噴射された燃料の燃焼による熱発生率を積算していくこと(図4で示した熱発生率波形におけるパイロット噴射での熱発生部の面積に相当)により求められる。つまり、燃焼室3内での燃焼に伴う熱発生率は筒内圧力に相関があるため、このことを利用し、上記筒内圧センサ4Bによって検出された筒内圧力からパイロット発熱量Qplを求めることが可能である。
上記式(9)によって、メイン噴射で噴射された燃料の目標着火時期における重畳部温度Toverlapが算出された後、ステップST5に移り、この算出した重畳部温度Toverlapがメイン噴射着火可能温度(1000K)以上に達しているか否かを判定する。
上記重畳部温度Toverlapが1000K以上である場合には、パイロット噴射量の増量補正を行うことなくリターンされる。つまり、上記重畳部の体積及び温度が、メイン噴射での目標着火時期において燃料の着火(拡散燃焼の開始)が可能な状態となっていると判定し、パイロット噴射量の増量補正を行うことなくリターンされる。
一方、上記重畳部温度Toverlapが1000K未満であって、ステップST5でNO判定された場合には、ステップST6に移りパイロット噴射量の増量補正を行う(重畳部温度上昇手段による重畳部温度の上昇動作)。具体的には、上記重畳部温度Toverlapが1000Kとなるために必要なパイロット噴射量を演算またはマップにより求め、この求められたパイロット補正量だけパイロット噴射量を変更することになる。つまり、パイロット噴射の噴射期間を長くすることで上記パイロット噴射量を変更する。これによりパイロット噴射による筒内予熱量を高め、メイン噴射で噴射された燃料が上記目標着火時期で着火するようにしている。
以上のようなメイン噴射燃焼開始時期制御が、エンジン1の運転中、継続して行われる。尚、上述したメイン噴射燃焼開始時期制御では、メイン噴射が実行された後に噴射インターバルの変更やパイロット噴射量の増量補正が行われる。このため、実際の制御では、このメイン噴射燃焼開始時期制御を実行した気筒の次に燃焼行程を迎える気筒に対して、または、このメイン噴射燃焼開始時期制御を実行した気筒が次の燃焼行程を迎える際に、上記噴射インターバルの変更やパイロット噴射量の増量補正が行われることになる。
以上説明したように、本実施形態では、各種バラツキ(製造バラツキ、燃料性状のバラツキ、噴射量のバラツキ等)によってメイン噴射で噴射された燃料の着火時期が目標とする適正時期として得られない状況において、重畳部体積が不足していることに起因して着火時期が目標着火時期からずれる状況では、噴射インターバルの変更により重畳部体積を増大させる。また、重畳部温度が不足していることに起因して着火時期が目標着火時期からずれる状況では、パイロット噴射量を増量補正することによって重畳部温度を上昇させる。また、重畳部体積が不足しており且つ重畳部温度が不足していることに起因して着火時期が目標着火時期からずれる状況では、噴射インターバルの変更及びパイロット噴射量を増量補正を共に行うようにしている。これにより、メイン噴射の着火時期を目標着火時期に近付けることができ、失火を防止しながらも排気エミッションの改善を図ることが可能となる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態では、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン、水平対向型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、パイロット噴射量の補正動作として、重畳部温度Toverlapが1000K未満である場合にパイロット噴射量の増量補正を行うようにしていたが、重畳部温度Toverlapが1000Kを超えている場合に、この重畳部温度Toverlapを1000Kに近付けるようにパイロット噴射量の減量補正を行うようにしてもよい。例えば、重畳部温度Toverlapから1000Kを減算することで求められる重畳部過剰温度分の温度を下げるためのパイロット噴射量を演算またはマップによって求め、それに従ってパイロット噴射量の減量補正を行うものである。これによれば、パイロット噴射量を必要最小限に抑えることができ、燃料消費量の削減を図ることができる。また、重畳部温度Toverlapが1000Kを下回っている状況で、重畳部体積Voverlapが目標重畳部体積Vtrgよりも大きい場合には、この重畳部体積Voverlapを目標重畳部体積Vtrgを下限として小さくするように噴射インターバルを変更し、重畳部温度Toverlapが1000Kに近付くように(重畳部体積Voverlapを小さくすることによる吸熱量(メイン噴射で噴射された燃料の蒸発に伴う吸熱量)を少なくすることにより重畳部温度Toverlapを高めるように)してもよい。
また、上記実施形態では、重畳部体積を増大させるための手段として噴射インターバルを変更するものとしていた。本発明はこれに限らず、他の手法によって重畳部体積を増大させるものも技術的思想の範疇に含まれる。例えば、スワール速度を変更する(スワールコントロールバルブ66の開度を変更する)ことによって重畳部体積を調整するものや、パイロット噴射やメイン噴射を多段分割噴射することによって重畳部体積を調整するものなどが挙げられる。
同様に、上記実施形態では、重畳部温度を上昇させるための手段としてパイロット噴射量の増量補正を行うようにしていた。本発明はこれに限らず、他の手法によって重畳部温度を上昇させるものも技術的思想の範疇に含まれる。例えば、インタークーラ61やEGRクーラ82の冷却能力を調整することで吸気温度を制御し、これによって重畳部温度を調整するものなどが挙げられる。
また、上述した実施形態では、通電期間においてのみ全開の開弁状態となることにより燃料噴射率を変更するピエゾインジェクタ23を適用したエンジンについて説明したが、本発明は、可変噴射率インジェクタを適用したエンジンへの適用も可能である。
加えて、上記実施形態では、マニバータ77として、NSR触媒75及びDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75及びDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。