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JP5561250B2 - 固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料及びこれを用いた固体高分子型燃料電池 - Google Patents

固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料及びこれを用いた固体高分子型燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料、及び、これを用いた固体高分子型燃料電池に関するものである。
本発明が関わる固体高分子形燃料電池の基本構造は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜を挟んでアノードとカソードとなる触媒層が配置され、これを挟んでさらに外側にガス拡散層が配置され、さらにその外側にセパレーターが配置され、単位セルを構成する。通常、必要な電流特性に合わせて単セルの電極面積を決め、更に出力電圧特性に応じて単セルを直列に積層し、実用に供するスタックを構成して燃料電池として用いる。
このような基本構造の燃料電池から電流を取り出すためには、アノードとカソードの両極に配されたセパレーターのガス流路から、カソード側に酸素あるいは空気等の酸化性ガスを、アノード側には水素等の還元性ガスを、ガス拡散層を介して触媒層までそれぞれ供給する。例えば、水素ガスと酸素ガスを利用する場合、アノードの触媒上で起こる
→ 2H+2e (E0=0V)
の化学反応と、カソードの触媒上で起こる
+4H+4e→2HO (E0=1.23V)
の化学反応のエネルギー差(電位差)を利用して、電流を取り出すこととなる。
従って、セパレーターのガス流路から触媒層内部の触媒まで酸素ガスあるいは水素ガスが移動できるガス拡散経路や、アノード触媒上で発生したプロトン(H+)がプロトン伝導性電解質膜を経由してカソードの触媒まで伝達できるプロトン伝導経路、さらにはアノード触媒上で発生した電子(e-)がガス拡散層、セパレーター、外部回路を通じてカソード触媒まで伝達できる電子伝達経路が、それぞれ分断されることなく連続して連なっていないと、効率よく電流を取り出すことができない。
触媒層内部では、一般に、材料の間隙に形成されガス拡散経路となる気孔、プロトン伝導経路となる電解質材料、及び、電子伝導経路となる炭素材料や金属材料などの導電性材料が、それぞれの連続したネットワークを形成していることが重要である。
また、プロトン伝導性電解質膜や触媒層中のプロトン伝導経路には、高分子電解質材料としてパーフルオロスルホン酸ポリマーに代表されるイオン交換樹脂が用いられている。これら一般に用いられる高分子電解質材料は、湿潤環境下で初めて高いプロトン伝導性を発現し、乾燥環境下ではプロトン導電性が低下してしまう。したがって、効率良く燃料電池を作動させるためには、高分子電解質材料が十分な湿潤状態であることが必須であり、両極に供給するガスと共に、常に水蒸気を供給する必要がある。
水蒸気を供給するために一般には、供給するガスをあらかじめ一定温度に保温された水中に通じて加湿する方法などが用いられ、セルとは別に加湿のための機器が必要となる。しかし、保温のためにエネルギーを消耗する加湿器はシステム全体のエネルギー効率を低下させる。また、システム全体を小型・軽量化する目的においても、加湿器は無い方が望ましい。
これに応えるために触媒は、1)高い保水能力、2)低加湿領域における十分な水蒸気放出能力、を併せもつことが課題となる。これを解決するために、従来から種々の提案がなされている。
特許文献1では、加湿量を低減した場合であっても高い電池性能を維持するために、アノードにゼオライトやチタニアなどの親水性微粒子や親水性の触媒担体を含有させた触媒材料が開示されている。特許文献2では、広範囲な加湿条件に対応可能な燃料電池を提供する目的で、触媒層中にテフロン(登録商標)粒子を担持したシリカ粒子のような疎水性粒子を担持した親水性粒子を含有させた触媒材料が開示されている。
しかしながら、特許文献1及び特許文献2で開示された触媒材料を用いると保水能力は向上するが、親水性であるが導電性あるいはプロトン伝導性を持たない材料を触媒層中に含有するため、電子あるいはプロトンの移動経路を分断してしまい、内部抵抗を増大するというあらたな問題を生じた。
特許文献3では、低温雰囲気下でも優れた始動性を示す燃料電池として、アノードの触媒層に水分保湿剤が含有され、該水分保湿剤が親水化処理された導電性材料として親水化処理されたカーボンブラック等が開示されている。
しかしながら、発明者らの検討によれば、親水化処理されたカーボンブラックは、低湿条件で保水能力の改善は認められるが、必ずしも実用上十分な発電特性が得られなかった。
特許文献4では、燃料電池に用いたときに従来の燃料電池用電極触媒よりも高い出力密度の燃料電池用電極触媒を提供することを課題として、メソポーラスカーボン粒子を一部に含む炭素材料からなる担体と当該担体に担持された触媒粒子を有する燃料電池用電極触媒を提供している。
特許文献5では、保水性が高く、低湿度環境下でも高い電池特性が得られる触媒層及びこれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することを課題として、平均細孔径3.0nm以下、飽和水蒸気吸着量の半分の値が0.15〜0.5cc/g有する球状カーボン多孔体を担体とした触媒を用いる固体高分子型燃料電池が開示されている。
特開2004−342505号公報 特開2005−174835号公報 特開2006−059634号公報 特開2004−071253号公報 特開2007−220414号公報
しかしながら、特許文献4及び特許文献5に開示された触媒材料には以下のような問題がある。
特許文献4に開示された触媒材料では、実用上重要な相対湿度50%以下で触媒層を充分に加湿できるだけの水蒸気量を放出する機能を有しない。
特許文献5に記載の触媒材料では、含有できる水蒸気の絶対量が少ないため触媒層の保湿機能は実用上十分ではない。
本発明は、高い保水能力と相対湿度50%以下の低加湿領域において十分な水蒸気放出能力を併せもつ固体高分子燃料電池用触媒材料を提供することにある。
発明者らは、触媒成分を担持する担体炭素材料を多孔質化することにより触媒の保水性が改善し、触媒層の低加湿特性が改善する可能性を見出した。
さらに、多孔質炭素材料の水蒸気の吸着脱離等温線の脱離特性、窒素ガスの吸着脱離等温線により解析されるミクロ孔分布と、多孔質炭素材料の酸素含有量が、触媒層の低加湿特性の改善に関する本質的制御因子であることを見出した。
加えて、ガス拡散性を高めるため、ストラクチャーが発達し、水蒸気吸着量が高いカーボンブラックを担体炭素材料に混合することにより、実用上重要な低加湿運転でも高加湿状態と同等の性能を発現し得ることを見出した。
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)保湿性炭素材料とカーボンブラックとを質量比で2:8〜9:1で混合させた固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料であって、前記保湿性炭素材料は、25℃における水蒸気吸着脱離等温線の脱離曲線にける相対水蒸気圧0.95のときの水蒸気吸着量(以下、「V0.95」という。)の値が、1250cm/g≦V0.95≦2500cm/gであり、且つ、V0.95の半分の水蒸気吸着量を示す相対水蒸気圧(以下、「P1/2」という。)がP1/2≦0.55を満たし、前記カーボンブラックは、DBP給油量(以下「ODBP」という。)がODBP ≧100mL/100gであり、V0.95がV0.95≧100cm/gを満たすことを特徴とする固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
(2)前記保湿性炭素材料がさらに、窒素ガス吸着脱離等温測定のBET法による比表面積(以下、「SBET」という。)がSBET≧2000m/gであり、SF法のよるミクロ孔容積(以下、「Vmicro」という。)が、Vmicro≧0.8mL/gであることを特徴とする(1)に記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
(3)前記保湿性炭素材料の酸素含有量が3質量%〜10質量%であることを特徴とする(1)ないし(2)のいずれか1つに記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
(4)(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒層用材料を用いることにより、実用上の固体高分子形燃料電池の運転環境である相対湿度50%以下の低加湿環境においても飽和加湿状態と同等の性能を発現するという顕著な効果を奏する。
また、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒層用材料を用いた気体高分子型燃料電池は、加湿状態を制御する機構を簡素化することが可能となり、燃料電池システムのコストを削減することによる固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速するという顕著な効果を奏する。
[第1の実施形態]
第1の実施形態は、保湿性炭素材料とカーボンブラックとを質量比で2:8〜9:1で混合させた固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料である。
前記保湿性炭素材料は、25℃における水蒸気吸着脱離等温線の脱離曲線にける相対水蒸気圧0.95のときの水蒸気吸着量(以下、「V0.95」という。)の値が、1250cm3/g≦V0.95≦2500cm/gであり、且つ、V0.95の半分の水蒸気吸着量を示す相対水蒸気圧(以下、「P1/2」という。)がP1/2≦0.55を満たす。
前記カーボンブラックは、DBP給油量(以下「ODBP」という。)がODBP≧100mL/100gであり、V0.95がV0.95≧100cm/gを満たす。
前記保湿性炭素材料はさらに、窒素ガス吸着脱離等温測定のBET法による比表面積(以下、「SBET」という。)がSBET≧2000m/gであり、SF法のよるミクロ孔容積(以下、「Vmicro」という。)が、Vmicro≧0.8mL/gを満足する。
さらに、前記保湿性炭素材料の酸素含有量が3質量%〜10質量%であることを満足する。
(保湿性炭素材料の保湿性)
炭素材料が吸蔵・放出する水分量を規定する物性指標には、一定温度において水蒸気の圧力を増加・減少させたときに炭素材料がどのくらいの水蒸気を吸蔵し放出するかという物性指標、いわゆる水蒸気吸着等温特性を採用した。
水蒸気吸着特性の評価温度には装置的に測定技術が確立されている25℃を採用した。
使用した測定装置は、日本ベル(株)製の水蒸気吸着装置ベルソープアクア(商品名)を用いた。実施例、比較例の測定値などは、この装置を用いて測定したものである。
一般に黒鉛、非晶質炭素と称される炭素材料の表面の極性が弱いため極性分子である水分子との相互作用は弱く、いわゆる疎水性を示す。そのため炭素材料の水蒸気吸着特性は、相対湿度50%以下(相対水蒸気圧0.5と同等)の低い相対圧では殆ど水蒸気を吸着・脱離せず、相対圧0.7以上から徐々に吸着量が増加し、水が凝縮する相対圧1.0近傍で大きく吸着量が増大するが、その吸着量は炭素材料の質量に対して数%以下と低いものである。即ち、一般に炭素材料は相対圧0.7以下では水蒸気に対して不活性であり、担体炭素材料を触媒層に用いた場合にも、実用上重要な相対湿度50%以下の領域では触媒層の保湿に対して担体炭素材料は何ら寄与しないと考えられる。
そこで、水蒸気吸着の原理的観点からの考察から、特殊な構造の炭素材料が相対圧0.5程度以下で水蒸気を吸蔵・放出し、且つ、その吸着・脱離量を炭素材料の質量と同等にまで高められることを見出し、燃料電池触媒層に適用した際に相対湿度50%以下の低加湿運転環境においても飽和加湿と同等の良好な出力特性を発揮するために最適な物性指標として、水蒸気の吸着脱離等温測定における相対圧0.95の水蒸気吸着量V0.95と、その半分の水蒸気吸着量を示す相対水蒸気圧P1/2とに着目した。
即ち、本発明において規定する保湿性担体炭素材料は、25℃等温下での水蒸気の吸着脱離特性である相対水蒸気圧0.95における水蒸気吸着量V0.95の値が、1250cm3/g≦V0.95≦2500cm3/gであり、且つ、V0.95の半分の水蒸気吸着量を示す相対水蒸気圧(以下P1/2と記す)が、0.55以下と、制御したものである。
V0.95が1250cm3/g未満では、触媒から放出される水分量が少ないために充分に触媒層を構成するプロトン伝導樹脂を保湿することができず、その結果、相対湿度50%以下の低加湿環境において触媒層の電気抵抗が大きくなり出力特性が低下してしまう。
また、2500cm3/gを超える触媒を触媒層に用いると、触媒から放出される水分量が多すぎるため、いわゆる高電流密度時にフラッディングを生じてしまう。
より好ましくは、1350cm3/g≦V0.95≦2500cm3/gである。
P1/2が0.55を超えると、相対湿度50%以下の運転環境において触媒層が乾燥するためにプロトン伝導抵抗が増大し出力が低下してしまう。より好ましくはP1/2≦0.50、更に好ましくはP1/2≦0.45である。特に好ましくはP1/2≦0.42である。
本発明の規定する上述の保湿性担体炭素材料の粒子径は10nm以上10μm以下が好ましい。10nm未満では実質的なガス拡散のための細孔を触媒相中で確保することが出来ず、他方、10μmを越える粒子径では触媒成分の触媒相中での分布が疎になり、大きな電流密度を取り出すことが困難となる。より好ましくは50nm以上5μm以下である。
(保湿性炭素材料の製造方法)
保湿性炭素材料は本発明の規定を満たすものであればその製造方法は限定させるものではないが、具体的な例としては、石油系、石炭系のピッチ、ピッチコークス、人造黒鉛、石油、石炭由来の樹脂を原料とした種々の炭素材料、天然植物を原料とした炭素材料、チャー、いわゆる炭素繊維等を粗原料として用い、いわゆる賦活処理をして多孔質化した炭素材料、また、ヤシガラ、竹、木材などの天然植物から製造される活性炭、を適用することができる。
賦活処理の方法を例示するならば、空気、酸素など酸化性雰囲気中での酸化処理、アルカリ賦活、水蒸気賦活、炭酸ガス賦活、塩化亜鉛賦活等の賦活処理を挙げることができる。賦活処理の後に更に不活性、還元性ガス、アンモニアガス、酸化性ガスを、各々単一ガス、或いは、複数のガスを混合したガス雰囲気で常圧、或いは、加圧状態で熱処理を行ったりして、炭素材料表面に種々の官能基を選択的に付与・制御し、水蒸気吸着特性、窒素ガス吸着特性を制御することができる。
また、いわゆる鋳型法(テンプレート法)を用いた多孔質炭素材料(独立行政法人 日本学術振興会 炭素材料 第117委員会発行(平成19年3月)炭素材料の新展開、24〜30貢、261〜271貢を参照)も本発明の保湿性担体炭素材料に好適に用いることが出来る。鋳型法の多孔質炭素の製造法は例えば鋳型を例示するならば、メソ孔領域の多孔質材料であるメソポーラスシリカ、ミクロ孔領域の多孔質材料であるゼオライト、種々の細孔径を制御可能なコロイダルシリカなどを挙げることが出来る。
特に本発明で規定する水蒸気吸着特性を発現するには、いわゆるミクロ孔の存在が必須である。ミクロ孔内部の水分子は、炭素材料のような疎水表面であっても、四方の内壁からのVan der Waals力の総和により、炭素材料表面に吸着するよりも、強く束縛される。そのため、低い相対圧でも水分子はミクロ孔内部に吸着されることになる。単にミクロ孔の存在だけでは、本発明の水蒸気吸着特性を満たすことは難しい。低い相対圧で相当量の水分子を吸着するには、ミクロ孔の中でも1nm以下の直径の細孔容積を大きくする、或いは、ミクロ孔内の親水性を高めることが重要である。ミクロ孔の中でもウルトラミクロ孔(<0.7nm)の容積は本発明の規定を満たすには重要な指標となり得る。細孔径が水分子の大きさに近くなればそれだけ細孔内壁と水分子とのVan der Waals力による相互作用が強まり、より低水蒸気圧から吸着が開始されることになると推察されるからである。
本発明に適したミクロ孔の導入には、たとえば、以下の製造方法を好適に用いることができる。先ず、水蒸気吸着量の絶対値を高めるために、少なくとも、比表面積(窒素ガス吸着によるBET値)は1500m2/g以上が好ましく、更に好ましくは、2000m2/g、より好ましくは2500m2/g以上の多孔質炭素を作製する。電気二重層キャパシター用の市販の2000m/g以上の活性炭を出発原料とし、更に、炭酸ガス、水蒸気による賦活処理を施すことにより、2500m/g以上の比表面積にすることができる。その上で、ミクロ孔の細孔径を更に小さくするために、不活性雰囲気中で1200℃以上の温度で熱処理する。
炭素材料の熱処理は、炭素材料を構成する炭素六角網面からなる組織構造を熱により再構成し、細孔を狭めることを意図するものである。本発明への適用は、1200℃以上2000℃以下が好ましい。2000℃以上の高温で熱処理すると、結晶性が高まりすぎて、細孔が完全に消失するためである。実質的には、1200℃以上、1600℃以下が好適である。1600℃以上ではほとんどの炭素材料は細孔が潰れてしまう。1200℃未満では、炭素網面の再配列は生じないため細孔の構造は変化しない。
本発明に規定する水蒸気吸着特性を満たす多孔質炭素材料を製造するには、上記の多孔質化(賦活処理)、熱処理に加えて、炭素材料表面の親水化が必須である。具体的には極性の高い含酸素官能基を炭素材料表面に賦与することである。その方法には、強い酸化作用を持つ酸化剤による処理が好ましく、例示するならば、発煙硝酸、発煙硫酸など強い酸化剤の溶液中に炭素材料を浸漬させ、加熱しながらの酸化処理が好ましい。その他の強い酸化処理として、NOxによる熱処理、NOxと酸素の混合による熱処理も、好適に用いることが可能である。特に、NOxと酸素の混合ガスによる熱処理は、窒素が炭素材料内に多量に導入されるため、極性を高めるためにも本発明に好適に用いることができる。また、両者の複合処理、他の酸化処理との複合も有効な手段である。例えば、炭素材料をNOと酸素との混合ガスの流通化で、400℃以上1000℃以下、好ましくは、400℃以上800℃以下で数時間処理することにより、多量の含酸素官能基を炭素材料表面に導入することが可能であり、更に、本処理により窒素原子が炭素材料内部にまで導入され、炭素材料の極性はより一層高まり、本発明に好適である。
更に、酸化処理後に再度不活性雰囲気中で熱処理することも本発明に好適に用いられる。白金などの担持触媒微粒子と炭素表面の強酸性官能基が相互作用し、特に貴な電位に触媒が保持された際に、触媒上で含酸素官能基が分解し、炭酸ガスとなって炭素材料表面を消耗させる。この炭素材料の消耗を抑制するために、1000℃以下の温度で不活性雰囲気中で熱処理することが有効である。1000℃以下、好ましくは800℃以下の不活性雰囲気下での熱処理により炭酸ガス化しやすいカルボキシル基などの強酸性基を選択的に除去することが可能であり、本発明には好適である。
(カーボンブラック)
カーボンブラックに求められる二次凝集構造の指標としてDBP給油量が重要な物性指標であり、その最適な物性範囲が100mL/100g以上であることを見出した。
DBP給油量(ジブチルフタレート:可塑剤の一種)はカーボンブラックの二次凝集構造の空隙量、即ちストラクチャーの発達の程度と正の相関の高い指標であり、本発明ではこの指標が触媒層の気孔率を決定する重要な指標となることに基づくものである。
DBP給油量が100mL/100g未満では、触媒層のガス拡散に必要な気孔率が確保できず、発電特性の低下を招いてしまう。DBP給油量の最適範囲に上限はないが実質的にはカーボンブラックの構造から1000mL/gが上限である。
なお、DBP給油量の測定はJIS K 6217-4に従って測定したものである。
本発明で規定するカーボンブラックとして求められる保湿性の指標として、V0.95が重要な物性指標であり、その最適な物性範囲が、V0.95≧100cm/gであることを見出した。
V0.95に関してより好ましくは、V0.95≧150cm/g、一層好ましくはV0.95≧200cm/gである。
V0.95が100cm/g未満では、保湿性担体炭素材料からなる触媒とカーボンブラックからなる触媒の混合による触媒層の低加湿特性が不十分となってしまう。本発明のカーボンブラックのV0.95の上限は特にないが、カーボンブラックという物質的制約から実質的には1000cm/gが上限である。
(保湿性担体炭素材料とカーボンブラックの混合)
保湿性担体炭素材料からなる触媒と上述のカーボンブラックからなる触媒との混合により「高い保湿性」と「低加湿領域における十分な水蒸気放出能力」を有する固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料を実現する。その混合比率は、質量比で2:8から9:1が好ましく、より好ましくは、質量比で3:7から8:2である。
保湿性担体炭素材料の質量比が2よりも小さいと保湿性の確保が不十分となり触媒層の低加湿特性が低下してしまう。また、保湿性担体炭素材料の質量比が9を超えると、触媒層のガス拡散性が低下し反応ガス供給律速による発電特性の低下という新たな問題を生じる。
保湿性担体炭素材料を用いた触媒とカーボンブラックを用いた触媒の混合状態は、均質に混合、或いは、各々が凝集体を形成していてもよい。本発明の2種の触媒の混合方法は特に限定されるものではない。例示するならば、乳鉢等による混合、ボールミル等による混合、溶媒に分散させた状態での攪拌混合などを挙げることができる。或いは、触媒を担持する前の炭素材料同士を混合した後に、触媒成分を担持させることも可能である。
(比表面積SBET・ミクロ孔容積Vmicro
多孔質であることが水分吸蔵特性に重要であるとの観点から、細孔径分布の構造を鋭意検討した結果、液体窒素温度における窒素ガスの吸着脱離等温測定におけるBET法解析による比表面積SBET、SF法解析によるミクロ孔容積Vmicroが触媒層の低加湿特性改善において、重要な指標であることを見出した。
即ち、当該炭素材料のBET法解析による比表面積SBETが2000m/g以上であり、SF法のよるミクロ孔容積Vmicroが0.8mL/g以上とすることにより、当該炭素材料を担体とした触媒を用いた触媒層の低加湿特性を大幅に改善することが可能である。
SBETが2000m/g未満では充分な水蒸気吸着量が確保できないため、触媒層の低加湿特性が確保できない。より好ましくは、SBETが2200m/g以上である。SBETは本発明においてその上限は特に規定されるものではなく、2000m/g以上であれば本発明に好適に用いられる。しかしながら、現時点の材料技術ではミクロ孔のみから構成されるゼオライトの鋳型炭素が最も質量あたりの比表面積が大きく、実質的なSBETの上限は5000m/gである。
Vmicroが0.8mL/g未満では、低加湿環境で運転した際の触媒層の保湿量が低下しプロトン伝導抵抗が増大し発電特性が低下する。好ましくは、Vmicroが0.9mL/g以上、更に好ましくは1.0mL/g以上である。Vmicroは本発明においてその上限は特に規定されるものではなく、0.8mL/gであれば本発明に好適に用いられる。しかしながら、現時点での材料技術では実質的なVmicroの上限は2500mL/gである。
低相対圧での水蒸気吸着量を多くするには、ミクロ孔の平均細孔径を小さくすることが重要である。窒素ガス吸着特性におけるSF法解析による平均細孔径(モード平均径)が1.5nm以下であることが好ましく、更に好ましくは1.3nm以下である。
ミクロ孔径が小さいほど0.5以下の低い相対圧での水蒸気吸着量が増加する。
なお、本発明における窒素ガスの吸着等温測定にはカンタクローム社(Quantachrome Instruments)のAutosorb(商品名)を用い、測定値の解析には、同装置に付属のソフトウエア(Autosorb 1 for Windows(登録商標) 1.24)を用いて解析した。
SF解析法は、A. Saito and H. C. Foleyにより提案されたガス吸着等温線データに基づきミクロ孔構造を解析する理論であり、細孔直径が0.7nm〜2.0nmのスーパーミクロ孔(IUPACにて規定された分類)の解析として提案されたもので、文献「Curvature and Parametric Sensitivity in Models for Adsorption in Micropores」AIChE Journal, 37,429-436 (1991)に掲載されている。スーパーミクロ孔の解析にはHK法とSF法の2つが一般に広く普及しており、現在市販されている窒素ガスの吸着等温線の測定装置には解析プログラムとして両者の解析プログラムが付属している。前者はスリット型の細孔、後者は円筒型の細孔構造に適した解析法であるが、本発明で用いているVmicroの値は、種々の多孔質材料で比較したところHK法とSF法の差は高々5%程度であり、両者の差は実質的に殆ど無しとみなすことが可能であり、HK法での解析値を本発明の規定に適用することも可能である。
(酸素含有量)
酸素含有量が3質量%以上、10質量%以下とすることでさらに向上することができる。
保湿性担体炭素材料の表面における水分子との相互作用の観点から鋭意検討した結果、炭素材料に含まれる酸素含有量が触媒層の低加湿特性改善に有効な指標であることを見出し、その最適な範囲を規定した。即ち、保湿性担体炭素材料の酸素含有量が3質量%以上、10質量%以下であることを規定するものである。
酸素含有量が3質量%未満では水分子と炭素材料表面との相互作用が小さく低相対圧での水蒸気吸着量が低下する。また酸素含有量が10質量%を超えると運転環境における炭素材料の酸化消耗が大きく触媒層の耐久性が低下するために本発明には不適である。
より好ましくは、酸素含有量が4質量%以上9質量%以下であり、さらに好ましくは、5質量%以上8質量%以下である。
本発明に好適な保湿性担体炭素材料の酸素含有量の制御には特に制限はないが、例示するならば、気相処理として、酸素含有雰囲気中での加熱処理、オゾン含有雰囲気中での加熱処理、酸素プラズマ中での(加熱)処理、液相での酸化処理として、硝酸、硫酸、過酸化水素などの一般的に知られた酸化剤中で炭素材料を加熱処理する方法を適用することが可能である。これらの酸化処理後に、不活性雰囲気、還元性雰囲気中で加熱処理することにより、酸素含有量を制御することも可能である。
本発明の酸素含有量の測定には、有機物の元素分析に広く用いられる、いわゆる燃焼法によるC,H,N分析、並びにSの分析値から、残量として酸素含有量を算出した。実施例の酸素含有量もこの方法で測定したものである。
[第2の実施形態]
第2の実施形態は、第1の実施形態として示された固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料を用いた固体高分子型燃料電池である。
(本発明に適用する触媒成分)
本発明の触媒層は、固体高分子形燃料電池のアノード電極とカソード電極の両方に適用することが可能である。カソード電極に本発明の触媒層を適用する場合には、触媒成分として酸素還元活性を有する触媒成分を用いることが必須となるが、触媒成分に関して、本発明は特に限定するものではない。
酸素還元活性を有する触媒成分の例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属、これらの貴金属を2種類以上複合化した貴金属の複合体や合金、貴金属と有機化合物や無機化合物との錯体、遷移金属、遷移金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等を挙げることができる。また、これらの2種類以上を複合したもの等も用いることもできる。また、酸素還元活性を有する非貴金属系の触媒、例示するならば、ポルフィリン、フタロシアニンに代表される3d鉄族元素のN4-大環状錯体なども適用することができる。また、貴金属系の触媒成分と非貴金属系の触媒成分の複合化も本発明に適用することが出来る。
同様にアノード電極に適用する場合には、触媒成分の担体炭素材料への担持の製造方法は特に限定されず、貴金属微粒子を炭素担体へ担持する一般的な方法を適用することが可能である。例示するならば、貴金属の塩化物、硝酸塩、乳酸塩、アセチルアセトン錯体など貴金属の有機錯体を水や有機溶剤等の溶媒に溶解した上で、還元剤で還元して、触媒活性成分を微粒子化して炭素担体に担持する製造方法が好ましい。前記還元剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エーテル類等が挙げられる。その際に、水酸化ナトリウムや塩酸等を加えてpHを調節し、更に、粒子の凝集を妨げるためにポリビニルピロリドン等の界面活性剤を添加してもよい。前記炭素担体に担持した触媒を、更に、再還元処理してもよい。前記再還元処理方法としては、還元雰囲気、若しくは、不活性雰囲気の中で、500℃以下の温度で熱処理を行う。また、蒸留水中に分散し、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類及びエーテル類から選ばれる還元剤で還元することもできる。
ポルフィリン、フタロシアニンに代表される3d鉄族元素のN4-大環状錯体を担持する場合には、錯体を適当な溶媒に溶解した錯体溶液に担体炭素材料を分散させ、溶媒を減圧、加熱蒸発させ、触媒成分である錯体を担体炭素材料の表面へ吸着させ、そのまま触媒として用いることが可能である。その他、錯体溶液に担体炭素材料を分散させた後、錯体の貧溶媒で且つ錯体の溶解溶媒と相溶する溶媒を投入して錯体成分を担体炭素材料上に析出させる方法なども好適に用いられるが、錯体の吸着の方法は上述の方法に限定されるものではない。更に好ましくは、炭素担体上に錯体を吸着させた後に、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性雰囲気下、窒素ガス雰囲気下で加熱処理することにより、担体炭素材料との電子的結合が強まりより触媒成分の活性を高めることが可能であり、本発明に好適に用いることが可能である。熱処理温度としては、300℃以上900℃以下が好ましい。
(本発明の触媒層とその製造方法)
本発明の触媒層は、前記触媒の他に、電解質材料としてプロトン伝導性樹脂を含むが、プロトン伝導性樹脂の種類や形態により限定されるものではない。本発明が規定する炭素担体からなる触媒とプロトン伝導樹脂に加えて、保湿性を高めるための金属酸化物微粒子の添加、撥水性を高めるためのテトラフルオロエチレンなどの樹脂を分散させた触媒層も本発明に好適に用いることが可能である。尚、プロトン伝導性を有する電解質材料としては、デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表されるスルホン酸基を導入したフッ素系高分子や、リン酸基、スルホン酸基等を導入した炭化水素系の高分子、例えば、ベンゼンスルホン酸が導入されたポリイミドなどの高分子等を挙げることができる。
本発明の触媒層は、本発明が規定する炭素担体を用いた触媒を含むものであれば、その製造方法は特に限定されないが、本発明の炭素担体からなる触媒と前記プロトン伝導性を有する電解質材料の入った溶媒からなる触媒層スラリーを作製し、テフロン(登録商標)シート等の高分子材料、ガス拡散層、又は、電解質膜に塗布、乾燥する方法が例として挙げられる。テフロン(登録商標)シート等の高分子材料に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のテフロン(登録商標)シート等の高分子材料で電解質膜を挟み、ホットプレスで触媒層を電解質膜に定着させた後、更に2枚のガス拡散層で挟んでホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を作製する方法を例として挙げることができる。また、ガス拡散層に塗布した場合には、触媒層と電解質膜が接触するように2枚のガス拡散層で電解質膜挟み、ホットプレス等、触媒層を電解質膜に圧着する方法等でMEAを作製することができる。電解質膜に触媒層を塗布した場合には、触媒層とガス拡散層が接触するように2枚のガス拡散層で挟み、触媒層をガス拡散層に圧着する方法等でMEAを作製することができる。
触媒層スラリーに用いる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
ガス拡散層の機能としては、セパレーターに形成されたガス流路から触媒層までガスを均一に拡散させる機能と、触媒層とセパレーター間に電子を伝導する機能が求められ、最低限、これらの機能を有していれば特に限定されるものではない。一般的な例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の炭素材料が主な構成材料として用いられる。
ガス拡散層の触媒層に接する側に、マイクロポア層と呼ばれる数μmから数十μmの厚みのカーボンブラックを主成分とするガス拡散の補助層を設けることができる。ミクロポア層の機能は、数μmから数十μmの細孔構造を持つガス拡散層により拡散されたガスをサブミクロン以下の細孔を有する触媒層へ均質に供給するために、触媒層と同一の構造体であるカーボンブラックによりガス拡散層からのガスをサブミクロン以下の細孔に均質に分散させて触媒層へガスを円滑に供給するものである。カーボンブラックに求められる物性としては、撥水性であること、化学的・電気化学的に安定であること、触媒層と同等の細孔分布を持つことである。撥水性を高めるために、カーボンブラックの結晶性を高めることも有効である。
(本発明の触媒層を用いた固体高分子形燃料電池とその製造方法)
上述のガス拡散層を両極に装着したMEAを、いわゆるガス流通経路のための溝を有するセパレーターで挟み込んで、固体高分子形燃料電池を製造することができる。固体高分子形燃料電池を作動させる温度、供給する燃料(水素ガス)、及び酸化剤である空気(酸素)のガス流通量と、ガスと共に供給する水蒸気量を制御することにより、用途に応じた出力特性を有する高効率な固体高分子形燃料電池を運転することが可能である。特に、本発明の触媒担体炭素材料を用いることにより、低加湿条件でも良好な出力特性を発揮させることができるものである。
(保湿性炭素材料の調製)
市販の活性炭(クラレカミカル社製、窒素BET比表面積公称1700と2000m/g)を出発物質として、炭酸ガス流通下で、1050℃〜1200℃で1時間〜5時間かけて賦活処理して、比表面積を増加させ、1700〜2200m2/g程度の活性炭を調製した。これらの活性炭素材料の水蒸気吸着量を制御する目的で、炭素材料の表面の極性を高めるため、一酸化窒素と酸素の混合ガス流通下で、450℃〜650℃で1〜3時間処理し、炭素表面に含酸素官能基を導入した。また、他の含酸素官能基の導入処理として、ビーカー内に発煙硝酸と炭素材料を入れ、ホットプレート上で1〜3時間加熱し、熱発煙硝酸処理を施した。酸素含有官能基量を制御する目的で、これらの炭素材料を窒素ガス雰囲気流通下で、700℃〜1100℃で数時間熱処理した。
更に水蒸気吸着量の高い炭素材料を得るために、以下の方法でミクロポアのみからなるZTC(Zeolite Temolated Carbon)を作成した。鋳型となるゼオライトには、東ソー社製Y型ゼオライト(商品名HZS-320NAA)を用いた。フラスコに数gのゼオライト粉末とPTFE被覆磁性撹拌子を入れ、室温で1日真空乾燥した後、更に、150℃で1日真空乾燥した。次に細孔内に充てんする炭素源としてフルフリルアルコール(和光純薬社製)を、真空状態のフラスコ内に滴下しながら約100mL加えた。この際、充てんに伴う発熱でフルフリルアルコールが重合することを防ぐため、フラスコは氷冷した。充てん後、窒素ガスを導入しフロー状態、室温で1日撹拌した。遠心分離機でゼオライトとフルフリルアルコールを分離し、取り出したゼオライトをメシチレン(和光純薬社製)200mLで10分程度撹拌した後に遠心分離させ同じ操作を5回繰り返す。最後に取り出したゼオライトをPTFE製免部蓮フィルターで減圧濾過し、石英ボートに入れて加熱炉にセットし窒素ガスをフローする。約1時間かけて85℃に昇温し1日保持した後2時間かけて160℃まで昇温し8時間保持し室温まで放冷し、フルフリルアルコールの重合(ポリフルフリルアルコール化)を終了させた。ポリフルフリルアルコール充てんゼオライトは、乳鉢で解砕後、石英ボートに入れ加熱炉にセットし窒素ガスを流通させた状態で、2.5時間かけて680〜720℃に昇温した状態でプロピレンガスを窒素ガスに混合する。プロピレンガスの濃度は5〜10vol%とした。680〜720℃で1〜2時間保持した後、プロピレンガスの導入を停止し再び窒素ガスのみを流通させ1時間かけて900℃に昇温し3時間保持、その後、室温まで放冷した。得られた粉末をフッ酸100mLに少しずつ加え、約5時間撹拌してゼオライトを溶解除去した。フッ酸を洗浄するため、メンブレンフィルターで減圧濾過した粉末を再度蒸留水に分散し撹拌し洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返し減圧乾燥して、ZTCを得た。
得られたZTCは、更に、本発明に適する水蒸気吸着特性にするために、含酸素官能基の導入処理として、ビーカー内に発煙硝酸と炭素材料を入れ、ホットプレート上で1〜3時間加熱し、熱発煙硝酸処理を施した。また、発煙硫酸を用いて同様の処理を施した。酸素含有官能基量を制御する目的で、これらの炭素材料を窒素ガス雰囲気流通下で、400℃〜1100℃で数時間熱処理して最終的な供試体とした。
(保湿性炭素材料の物性評価)
水蒸気吸着特性は、日本ベル(株)製の水蒸気吸着装置ベルソープアクア(商品名)を用いて測定した。100℃、4時間の真空脱気処理の後、25℃で水蒸気吸着・脱離特性を測定した。水蒸気吸着特性は相対圧0.95まで測定し、相対圧0.95のときの水蒸気吸着量をV0.95とした。また、脱離曲線における水蒸気吸着量がV0.95の半分を示す相対圧をP1/2とした。
炭素材料の窒素ガス吸着特性評価には、カンタクローム社(Quantachrome Instruments)のAutosorb(商品名)を用い、測定値の解析には、同装置に付属のソフトウエア(Autosorb 1 for Windows(登録商標) 1.24)を用いて解析した。前処理は水蒸気吸着特性と同じ条件で行った。
(触媒の調製)
蒸留水中に塩化白金酸水溶液とポリビニルピロリドンを溶解し、60℃で攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水に溶かした上で注ぎ入れ、塩化白金酸を還元した。その水溶液に触媒担体炭素材料を添加し、60分間撹拌した後に、濾過、洗浄を行った。得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕して、水素雰囲気中250℃で1時間熱処理することによって、白金担持触媒を作製した。尚、触媒の白金担持量は35質量%になるように調製した。
(触媒層、MEAの調製)
触媒を、アルゴン気流中で5%ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が1.2倍になるように加え、軽く撹拌後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が、2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、各触媒層スラリーを作製した。
前記触媒層スラリーをテフロン(登録商標)シートの片面にそれぞれスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中10分間、続いて120℃のアルゴン気流中1時間乾燥し、固体高分子型燃料電池用触媒層を得た。尚、それぞれの触媒層は白金使用量が0.25mg/cmとなるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後のテフロン(登録商標)シートの乾燥質量を測定し、その差から計算して求めた。
さらに、得られた固体高分子型燃料電池用触媒層から2.5cm角の大きさで2枚づつ切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)を挟み、130℃、90kg/cmで10分間ホットプレスを行った。室温まで冷却後、テフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥がし、アノード及びカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。更に、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC-CC1-060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cm2で10分間ホットプレスを行い、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly, MEA)を作製した。
(燃料電池による触媒層の性能評価)
作製したMEAは、セルに組み込み燃料電池測定装置にて、次の手順で燃料電池性能を評価した。
カソードに空気、アノードに純水素を、1000mA/cmの発電に必要なガス量を100%として、利用率がそれぞれ30%と60%となるように供給し、ガス圧は0.1MPaとした。セル温度は80℃とした。
先ず、供給する空気と純水素を、各々80℃に保温された蒸留水中でバブリングし加湿した。このような条件でセルにガスを供給した後、300mA/cmまで負荷を徐々に増加して300mA/cmで負荷を固定し、60分経過後のセル端子間電圧を飽和加湿出力とした。
次いで、供給ガスをそれぞれ55℃に保温された蒸留水中でバブリングを行い、加湿した。このような条件でセルにガスを供給した後、300mA/cmまで負荷を徐々に増加して300mA/cmで負荷を固定し、60分経過後のセル端子間電圧を低加湿出力とした。飽和加湿出力から低加湿出力を引いた値を、「出力低下量」とし、実施例における低加湿運転時の性能評価の指標とした。
更に、高負荷特性として、前述の出力低下量測定後に同一運転条件で、出力電流密度を徐々に高めていき、1000mA/cmの時の出力電圧の定常値を「高負荷特性」として、性能指標とした。
(実施形態1の実施例)
上述の方法で調製したミクロポアからなる鋳型炭素、水蒸気賦活処理したコークスと、市販の活性炭を、更に熱硝酸、熱硫酸、発煙硫酸処理した多孔質炭素を保湿性炭素材料に用い触媒を調製した。市販のカーボンブラックを基に、熱硝酸で酸化した後に不活性雰囲気下で熱処理、或いは、CO2気流中で950〜1150℃で熱処理することで賦活処理し、更に熱硝酸酸化後に不活性雰囲気中で熱処理して、種々の物性のカーボンブラックを調製した。このカーボンブラックを担体として用い触媒を調製した。保湿性炭素材料を担体とした触媒と、カーボンブラックを担体とした触媒を所定の質量比で混合して、上述の方法に従って触媒層を作製した。表1に実施形態1の実施例に用いた触媒の組成と各種物性値をまとめて示した。表1の触媒No.6からなる触媒層をアノード、触媒No.1〜26からなる触媒層をカソードに組合わせたMEAを作製し、その燃料電池特性を評価した。表1に触媒の物性と併せて、燃料電池評価の結果をまとめた。
尚、2種の触媒の混合には乳鉢を用いた。
Figure 0005561250
表1から、本発明の実施形態1の炭素担体を用いた触媒層が低加湿時に優れた出力特性を発揮することが判った。触媒No.24をカソードに用いた燃料電池では、高負荷運転中に電圧が急激に低下する、いわゆるフラッディング現象が生じ、継続的安定な高負荷特性を得ることが出来なかった。
(実施形態2の実施例)
実施形態1の実施例と同じアノードを用い、表2に示す触媒をカソードに用いてMEAを作製し、燃料電池特性を評価した。カソードの触媒担体物性と、燃料電池特性とをまとめて表2に示した。
Figure 0005561250
実施形態2の保湿性担体を用いた触媒と、実施形態1のカーボンブラックを担体に用いた触媒とを混合することにより、出力低下量と高負荷特性が大幅に改善することが判った。
(実施形態3の実施例)
水蒸気、炭酸ガス賦活処理条件を変えた活性炭、並びに、ミクロポアのみから形成される種々の結晶構造のゼオライトを鋳型とした鋳型炭素を調製した。これらを保湿性担体として触媒を合成し、実施形態2に用いたカーボンブラック触媒とを混合(質量比1:1)し触媒層を作製した。尚、2種の触媒の混合には乳鉢を用いた。表3に、用いた保湿性担体炭素材料、カーボンブラックの物性と、燃料電池特性の評価結果をまとめて示した。尚、アノードには実施形態1、実施形態2と同一のものを用いた。
Figure 0005561250
実施形態3の保湿性炭素を担体に用いた触媒と実施形態2のカーボンブラック触媒とを混合することにより、出力低下量と高負荷特性が大幅に改善することが判った。

Claims (4)

  1. 保湿性炭素材料とカーボンブラックとを質量比で2:8〜9:1で混合させた固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料であって、
    前記保湿性炭素材料は、25℃における水蒸気吸着脱離等温線の脱離曲線にける相対水蒸気圧0.95のときの水蒸気吸着量(以下、「V0.95」という。)の値が、
    1250cm/g≦V0.95≦2500cm/g
    であり、且つ、V0.95の半分の水蒸気吸着量を示す相対水蒸気圧(以下、「P1/2」という。)がP1/2≦0.55
    を満たし、
    前記カーボンブラックは、DBP給油量(以下「ODBP」という。)が
    ODBP ≧100mL/100g
    であり、V0.95
    V0.95≧100 cm/g
    を満たすことを特徴とする固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
  2. 前記保湿性炭素材料がさらに、窒素ガス吸着脱離等温測定のBET法による比表面積(以下、「SBET」という。)が
    SBET≧2000m/g
    であり、SF法のよるミクロ孔容積(以下、「Vmicro」という。)が、
    Vmicro≧0.8mL/g
    であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
  3. 前記保湿性炭素材料の酸素含有量が3質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1ないし2のいずれか1項に記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の固体高分子燃料電池用触媒層用担体炭素材料用いることを特徴とする固体高分子型燃料電池。
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