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JP5446272B2 - 2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその製造方法 - Google Patents

2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその製造方法 Download PDF

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JP5446272B2 JP2008558119A JP2008558119A JP5446272B2 JP 5446272 B2 JP5446272 B2 JP 5446272B2 JP 2008558119 A JP2008558119 A JP 2008558119A JP 2008558119 A JP2008558119 A JP 2008558119A JP 5446272 B2 JP5446272 B2 JP 5446272B2
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Description

本発明は、香料として有用な高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその製造方法に関する。
香料としての匂いの特性は、香気を有する化合物とそれに含まれる僅かの不純物、あるいは別途混合する添加物の種類によって、大きく変化することが一般的に知られている。これらの物質の配合や組成の変更は、香料として、新たな香気を生み出したり、逆に不快なものになったりすることがある。従って、香気を有する化合物自体の品質やそこに含まれる微量成分の種類や組成比は、香料製品としての価値を決定づけるための非常に重要な要素である。そのため、香料製品の製造では、まず、香気のもととなる香料化合物の精製が、非常に重要である。
従来、香料化合物の精製方法としては、蒸留や深冷分離による不純物の分離、吸着による不純物の除去等が知られているが、蒸留以外の方法は特殊な設備等を必要とすることが多く、また、吸着法では、例えば、製品への吸着剤自身の溶出による品質劣化等の問題があった。一方、蒸留による精製は、操作は簡便であるが、目的とする香料化合物が高沸点留分の場合、低沸点不純物の混入を防ぐために、その初留分を大幅にカットする必要等が生じ、結果的に収率が低くなるという問題がある。さらに、蒸留に長時間をかけると、加熱により香料化合物の分解や副反応等が起きて不純物が増加し、この不純物が目的物に混入し、結果的に品質や香気が悪化するという問題もある。
ところで、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、例えば、香水、石けん、シャンプー、リンス、洗剤、化粧品、スプレー、芳香剤等の一般香粧品に広く用いられるマリン系の香料である(例えば、非特許文献1参照)。
この2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法としては、例えば、サッサフラス油からサフロールを精製取得し、ヘリオトロピン、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−2−プロペナールを経由して、最後に水素添加反応を行うことによる方法(例えば、特許文献1参照)、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを経て製造する方法(例えば、特許文献2及び3参照)等が知られている。また、特許文献4〜7には、1,2−メチレンジオキシベンゼンを出発物質として2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを製造する方法が記載されている。
特許文献2には、1,2−メチレンジオキシベンゼンと2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを反応させ、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを合成し、更にこの化合物を加水分解することにより、目的とする2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールが得られることが記載されている。しかし、得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールについて、香料製品として重要な不純物や香気に関しては、一切記載されていない。
Angew.Chem.Int.Ed.,2000,Vol.39(17),p.2980 米国特許第3008968号 特開昭57−45124号 特開2006−104151号 特開昭55−141437号 特開2005−239619号 国際公開第2004/054997号 国際公開第2006/120639号
発明者らは、特許文献2に記載の方法で2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを合成したり、特許文献4及び7に記載の方法で1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを合成した後、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを合成してみたが、いずれの製法で得られた化合物も香料製品として満足できる十分な香気を有していないことを確認した。そこで、この香気を低下させる要因を検討した結果、副生する酢酸に問題があることが判明した。この酢酸の生成過程の詳細は不明であるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの合成において、この化合物と副生する高沸点化合物から、その後の工程で生成してくる反応副生物が主要な発生源であることを確認した。また、僅かではあるが、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール自身も分解して酢酸を生成することも確認した。
本発明は、香料として有用な高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその効率的な製造方法を提供することを課題とする。
発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した結果、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール中の酢酸濃度を40ppm未満にすることで香気上の問題を解決しうることを見出した。
即ち、本発明は、下記の第1発明〔1〕(製造方法)及び第2発明〔2〕(物質)に関するものである。
〔1〕工程(1):下記式(1)で表される1,2−メチレンジオキシベンゼン及び下記式(2)で表される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを反応させる方法(A)、又は1,2−メチレンジオキシベンゼン、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させる方法(B)により、下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む反応混合物を得る工程、
Figure 0005446272
工程(2):工程(1)で得られた下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを、加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付して、下記式(4)で表される2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む反応混合物を得る工程、及び
Figure 0005446272
工程(3):工程(2)で得られた該反応混合物を蒸留精製する工程
を含む方法であって、
下記の操作(a)〜(d)の少なくとも一つを行う、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
操作(a):工程(1)の後で、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む反応混合物から、該化合物〔式(3)〕より高沸点の化合物を除去し、該化合物〔式(3)〕の粗製物を得る操作。
操作(b):工程(2)の後で、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕より高沸点の化合物を除去し、該化合物〔式(4)〕の粗製物を得る操作。
操作(c):工程(3)における蒸留精製を、蒸留釜の液温を210℃以下で行う操作。
操作(d):工程(3)の後で、洗浄、中和又は中和・吸着する操作。
〔2〕前記〔1〕の方法により得られる、酢酸含有量が、40ppm未満である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール。
本発明によれば、香料として有用な高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその効率的な製造方法を提供することができる。また、本発明の方法により得られる2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、例えば、特許文献1に記載のサフロールやヘリオトロピンを出発物質とした製法から得られたものと比べて、よりみずみずしくクリアな香りとなり、従来品とは異なる新たな香気を有する。
本発明の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法は、前記工程(1)〜(3)を含む方法であって、前記の操作(a)〜(d)の少なくとも一つを行うことを特徴とする。
以下、本発明の工程(1)〜(3)、及び操作(a)〜(d)について説明する。
工程(1)
工程(1)は、下記式(1)で表される1,2−メチレンジオキシベンゼン及び下記式(2)で表される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを反応させる方法(A)、又は1,2−メチレンジオキシベンゼン、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させる方法(B)により、下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む反応混合物を得る工程である。
Figure 0005446272
〔方法(A)〕
(2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンの製造)
方法(A)の原料として使用される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕の製造方法は特に限定されない。例えば、触媒存在下でメタクロレインと無水酢酸とを反応させる方法(特開昭61−151152号参照)により製造することができる。
これらの製造方法において使用される反応方式としては、連続方式、半連続方式、バッチ方式等が挙げられるが、これらの何れの方法を用いてもよい。
メタクロレインと無水酢酸とを反応させる場合、ルイス酸性を有する化合物やブレンステッド酸を触媒として使用することができる。
ルイス酸性を有する化合物としては、例えば、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、三フッ化ホウ素一酢酸錯体、三フッ化ホウ素二酢酸錯体、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、三フッ化ホウ素アセトニトリル錯体、三フッ化ホウ素二水和物、三フッ化ホウ素−n−ブチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素ジメチルエーテル錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、三フッ化ホウ素フェノール錯体又は三フッ化ホウ素リン酸錯体等のハロゲン化ホウ素化合物; フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、フッ化ガリウム、塩化ガリウム、臭化ガリウム、ヨウ化ガリウム、フッ化インジウム、塩化インジウム、臭化インジウム、ヨウ化インジウム、塩化スカンジウム、臭化スカンジウム、ヨウ化スカンジウム、塩化イットリウム、臭化イットリウム、ヨウ化イットリウム、四塩化チタン、四臭化チタン、四ヨウ化チタン、四塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、四塩化ハフニウム、四臭化ハフニウム、四ヨウ化ハフニウム、三フッ化鉄、三塩化鉄、三臭化鉄、三ヨウ化鉄、三フッ化ルテニウム、三塩化ルテニウム、三臭化ルテニウム、三ヨウ化ルテニウム、フッ化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、フッ化カドニウム、塩化カドニウム、臭化カドニウム、ヨウ化カドニウム、フッ化水銀、塩化水銀、臭化水銀、フッ化スズ、塩化スズ、臭化スズ、ヨウ化スズ、フッ化アンチモン、塩化アンチモン、臭化アンチモン、ヨウ化アンチモン、原子番号57〜71のランタノイド三ハロゲン化物等の金属ハロゲン化物; 銅トリフラート、銅トリフルオロアセテート、銀トリフラート、銀トリフルオロアセテート、亜鉛トリフラート、亜鉛トリフルオロアセテート、カドミウムトリフラート、カドミウムトリフルオロアセテート、スズトリフラート、スズトリフルオロアセテート、スカンジウムトリフラート、スカンジウムトリフルオロアセテート、イットリウムトリフラート、イットリウムトリフルオロアセテート、原子番号57〜71のランタノイドトリフラート及びトリフルオロアセテート等が挙げられる。
また、ブレンステッド酸としては、フッ化水素、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、シュウ酸、リン酸、硫酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸等が挙げられる。
なお、上記のルイス酸性を有する化合物、ブレンステッド酸は、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの触媒の使用量は特に制限されないが、通常はメタクロレインに対して触媒量、例えば当量以下で使用される。だだし、反応速度が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
溶媒は通常使用されないが、必要に応じて溶媒を使用することもできる。
メタクロレインと無水酢酸との仕込みのモル比は特に限定されないが、通常は無水酢酸/メタクロレイン(モル比)が0.5〜2.5、好ましくは1.0〜1.5である。
反応温度も特に制限されないが、通常は−30〜65℃、好ましくは0〜40℃である。
得られた2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンは、反応終了後に水洗や蒸留等の精製を行った後に、工程(1)の原料として使用されるが、精製せずに使用することもできる。
(1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの製造)
方法(A)における1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの製造方法は特に限定されないが、例えば、特許文献2、4〜7に記載の方法により合成することができる。
これらの製造方法において使用される反応方式としては、連続方式、半連続方式、バッチ方式等が挙げられるが、これらの何れの方法を用いてもよい。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕に対する1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕の仕込みのモル比(1,2−メチレンジオキシベンゼン/2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン)は特に制限されないが、通常は0.5〜50、好ましくは2〜10、更に好ましくは3〜6である。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕と1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕とを反応させる場合、前記ルイス酸性を有する化合物や前記ブレンステッド酸を触媒として使用することができる。これらの触媒の使用量は特に制限されないが、通常は2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン1モルに対して、好ましくは0.001以上1モル未満、より好ましくは0.003〜0.85モル、更に好ましくは0.004〜0.50モル、特に好ましくは0.005〜0.40モルである。ただし、反応速度が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンと1,2−メチレンジオキシベンゼンとの反応温度は、通常−10〜80℃、好ましくは10〜60℃である。この温度が80℃を超えると生成物である1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンが分解し始め、この温度が−10℃未満であると反応速度が遅くなり、生産性が悪くなるため好ましくない。
反応終了後、得られた反応混合物から、副生物や使用した触媒を除去するために、適宜、分解・洗浄等の後処理を行うことができる。また、酸、塩基又は塩を加えて触媒等を分解させるだけで、水洗浄等を行わずに次の操作を行うこともできる。
〔方法(B)〕
方法(B)は、1,2−メチレンジオキシベンゼン、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させる方法である。方法(B)の具体的手法は特に限定されないが、例えば、特許文献7に記載の方法により合成することができる。
これらの製造方法において使用される反応方式としては、連続方式、半連続方式、バッチ方式等が挙げられるが、これらの何れの方法を用いてもよい。
メタクロレインと無水酢酸との仕込みのモル比は特に限定されないが、無水酢酸/メタクロレイン(モル比)は、通常0.5〜2.5、好ましくは1.0〜1.5である。
また、メタクロレインと1,2−メチレンジオキシベンゼンとの仕込みモル比は特に限定されないが、1,2−メチレンジオキシベンゼン/メタクロレイン(モル比)は、通常0.5〜50、好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6である。
1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させる場合、ルイス酸性を有する化合物やブレンステッド酸を触媒として使用することができる。これらの触媒の使用量、反応温度、反応終了後の後処理は、方法(A)で説明した、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの製造条件と同じである。
工程(1)における方法(A)及び方法(B)においては、反応終了後の反応混合物中には、目的物の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕以外に、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕や1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンより高沸点の化合物群(以下、「高沸点化合物A」という)等が含まれている。
前記反応混合物は、例えば、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法で精製することができるが、工業的な製法を考慮した場合、蒸留、又は晶析で除去することが好ましい。前記反応混合物からの未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンの除去は、高沸点化合物Aの除去(操作(a))と同時に行うこともできるが、操作(a)に先立って行うことが望ましい。前記反応混合物中の、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを蒸留により除去する場合は、1,2−メチレンジオキシベンゼン(109℃/80torr)と目的物である1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン(170℃/5torr)の沸点を考慮して、通常、40〜175℃(1〜760torr)、好ましくは、50〜150℃(3〜300torr)で行われる。蒸留により回収された未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンは、工程(1)で再使用することができる。
ここで高沸点化合物Aは、種々の化合物の混合物を表わすが、その主成分は1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔下記式(5)〕であり、その他には、メタクロレイン、2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン由来の重合物等の化合物が含まれている。
Figure 0005446272
(高沸点化合物Aの除去)
高沸点化合物Aの除去操作(a)は、未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕を除去(回収)した後に行うことが好ましい。1,2−メチレンジオキシベンゼン除去後の反応混合物中に含まれる1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2―プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕の量は、1,2−メチレンジオキシベンゼン〔式(1)〕と2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン〔式(2)〕の仕込みのモル比等により異なるが、1,2−メチレンジオキシベンゼン/2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン(モル比)が1〜10の場合には、通常3〜60重量%程度である。
高沸点化合物Aを除去することにより、最終品である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕に含まれる酢酸濃度を大幅に低減することができ、従来品と比較して、よりみずみずしくクリアな香気を有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得ることができる。また、次工程である工程(2)の反応収率を大幅に向上させることができる。
上記操作(a)を行わずに、高沸点化合物Aが混在した反応混合物を次工程〔工程(2)及び(3)〕で反応させることもできるが、そうすると工程(2)において、この高沸点化合物A由来の不純物が更に生成する。これらの不純物を存在させたまま、工程(3)を行うと、目的物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールにこの不純物が混入したり、蒸留中にこの不純物から酢酸が副生するため、酢酸濃度を所望の範囲に制御することが困難になることがある。その結果、高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを高収率で得ることができないことがあり、前記操作(a)を行って、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕を主体とする粗製物を得ることが非常に重要であり、好ましい。また、操作(a)と後記の操作(c)の両方を行うことがより好ましい。もし、操作(a)を行わない場合は、後記の操作(b)、操作(c)の少なくとも一つを行うことが好ましく、操作(b)及び(c)の両方を行うことがより好ましい。
高沸点化合物Aを除去する操作(a)としては、蒸留精製や晶析が好ましい。
(蒸留精製)
高沸点化合物Aを除去するための精製法は、単蒸留精製、精留精製のいずれの方法でもよく、蒸留方式は、バッチ方式、半連続方式、連続方式のいずれの方式でもよい。
また、高沸点化合物Aの主留分への混入量を減らす観点から、これらの蒸留装置には、精留塔を設けることが好ましい。なお、精留塔の本数、蒸留回数は特に制限されない。
使用される精留塔としては、棚段式精留塔や充填式精留塔等の通常の蒸留精製で用いられるものを使用することができる。その際、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの熱分解を抑制するため滞留時間が短い薄膜蒸発器や流下膜式蒸発器を用いることが好ましい。
充填式精留塔を使用する場合、充填物の種類は特に限定されない。しかし、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、蒸留温度が高くなると分解し易くなるため、蒸留釜の液温を高温に設定しなくてすむよう、精留塔の塔頂部と塔底部との差圧が小さくなるように規則充填物を使用することが好ましい。
使用できる規則充填物としては、例えば、スルーザーケムテック株式会社製「スルーザーパッキング」(金網成型タイプ)、「メラパック」(多孔金属シート成型タイプ)、グリッチ社製「ジェムパック」、モンツ社製「モンツパック」、日本フイルコン株式会社製「グッドロールパッキング」、日本ガイシ株式会社製「ハニカムパック」、株式会社ナガオカ製「インパルスパッキング」、MCパック(金網成型タイプ又は金属シート成型タイプ)、テクノパック等が挙げられる。また、精留塔や充填物の材質は、例えばステンレス製、ハステロイ製、セラミックス製、樹脂製等の通常の蒸留精製で用いられるものを使用することができる。
蒸留の加熱方法に特に制限はなく、通常使用されるジャケット式、コイル式、流下膜式、薄膜式等の熱交換器を使用することができる。例えば、流下膜式リボイラー等の加熱装置を精留塔と接続すれば、蒸留の際に、前記反応混合物中の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕の熱分解を抑制できるため好ましい。
操作(a)の蒸留時の圧力は特に制限されないが、通常は0.1〜100torr(0.013〜13.332kPa)、好ましくは1〜20torr(0.133〜2.666kPa)である。主留分の留出温度は圧力によって異なるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕の沸点が170℃/5torr(0.666kPa)であり、高沸点化合物である1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕の沸点が236℃/5torr(0.666kPa)であることを考慮すれば、通常は120〜240℃、好ましくは150〜200℃である。
操作(a)で行う蒸留では、蒸留留分中に目的物である1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕が分離され、蒸留後の蒸留釜残物中に高沸点化合物Aが分離されるように蒸留することが好ましい。
蒸留精製塔の実段数は、通常1〜200段であり、好ましくは2〜120段、より好ましくは3〜70段である。
また、還流比は各精留塔の分離状態を確認して決定すればよいが、段数が低いと分離効率が低下し、また過剰な段数は好ましくない。蒸留における還流比(=還流量/留出量)は通常0〜50、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜15である。過剰な還流比では、加熱により、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの分解その他の反応が促進されるため好ましくない。
上記の条件で操作(a)の蒸留を行うことにより、高沸点化合物Aの含有量を、好ましくは15重量%以下、より好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下、特に好ましくは1重量%以下とした1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕の粗製物を得ることができる。
また、上記の条件で操作(a)の蒸留を行うことにより、高沸点化合物Aの主成分である1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼンの含有量を、好ましくは9.5mol%以下、より好ましくは6.0mol%以下、更に好ましくは3.0mol%以下、特に好ましくは0.5mol%以下とした1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕の粗製物を得ることができる。
(晶析)
一方、高沸点化合物Aを除去するための晶析方法や装置に特に制限はない。
晶析方法としては、冷却晶析、濃縮晶析、又は混合溶媒系の晶析等、通常の晶析方法が挙げられ、結晶化に際しては種晶を添加してもよい。
使用する溶媒についても特に制限はないが、例えば、メタノールやエタノール等のアルコール溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒やn−ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素化合物、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物の溶媒等が使用される。なお、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕の結晶物性や収率を改善するために、例えば、n−ヘキサン等の貧溶媒を予め適当量添加するか、晶析途中で添加することもできる。
このようにして得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの結晶は、通常の固液分離後に洗浄され、乾燥される。ただし晶析に使用した溶媒が次工程(2)に影響を与えなければ、乾燥せずに工程(2)を行うこともできる。固液分離の方法としては、加圧濾過、減圧濾過、遠心分離等の公知の方法が使用される。
また、乾燥は、常圧下又は減圧下で行うことができる。乾燥温度は、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの融点が58〜59℃であることを考慮すれば、通常は20〜55℃、好ましくは30〜50℃である。
上記の晶析操作により、次工程である工程(2)の反応収率は大きく向上する。
以上のとおり、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕中に含まれる1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕等の高沸点化合物Aの含有量が少なくなるほど、次の工程(2)での反応収率は向上する。
更に、工程(1)で高沸点化合物Aを除去することにより、最終品である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールに含まれる酢酸含有量を40ppm未満まで低減させ、従来とは異なる、よりみずみずしくクリアな香気を有する2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得ることができる。
工程(2)
工程(2)は、工程(1)で得られた下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを、加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付して、下記式(4)で表される2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む反応混合物を得る工程である。
Figure 0005446272
(加水分解反応)
加水分解反応の方式としては、バッチ式、半連続式、連続式の何れも使用できる。加水分解反応は水を添加して行うことができるが、水と1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンとの混合を良くするために有機溶媒を用いることもできる。使用する有機溶媒の種類や使用量は、この反応を妨げない限り特に限定されない。有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の脂肪族カルボン酸及び酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の極性溶媒が挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの有機溶媒は反応後に回収し、再利用することもできる。
加水分解反応で使用される触媒としては、酸触媒又は塩基触媒が挙げられる。
酸触媒としては、フッ化水素、塩酸、ヨウ化水素、シュウ酸、硫酸、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、硝酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸、プロピオン酸、酸性イオン交換樹脂、酸点を持つゼオライト等が挙げられる。
塩基触媒としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム等)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のアルコキシド(リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ルビジウムメトキシド、セシウムメトキシド、カルシウムメトキシド、マグネシウムメトキシド)、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリン酸塩(リン酸ナトリウム等)、塩基性イオン交換樹脂、塩基点を持つゼオライト等が挙げられる。
なお、上記の酸触媒、塩基触媒は、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
前記触媒の使用量は、その種類によって異なるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1モル以下、好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.3モルである。ただし、反応速度が遅い場合や、反応が進行しない場合には当モル以上の触媒を使用してもよい。
加水分解反応における、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対する水の使用量は、通常1〜50モル、好ましくは、1.5〜30モル、より好ましくは3〜20モルである。
加水分解反応の温度は、使用される触媒の種類や量、溶媒の種類によって異なるが、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜100℃である。
(アルコールとのエステル交換反応)
工程(2)では、工程(1)で得られた1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕をアルコールとエステル交換することもできる。この反応では、使用したアルコールの酢酸エステルが副生する。
エステル交換反応の方式としては、連続式、半連続式、バッチ式の何れも使用できる。
エステル交換反応で使用されるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、n-オクタノール等のモノアルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等の多価アルコール類を使用することができる。なお、これらのアルコールは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
上記アルコールの使用量は特に制限されないが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1〜50モル、好ましくは1.2〜30モル、より好ましくは1.5〜20モルである。未反応のアルコールは回収して、エステル交換反応に再使用することができる。
エステル交換反応に使用される触媒に特に制限はなく、公知の酸触媒、塩基触媒、有機金属触媒等を使用することができる。酸触媒、塩基触媒としては、前記の加水分解反応で説明したものと同じものが挙げられる。
有機金属触媒としては、亜鉛のカルボン酸塩(酢酸亜鉛等)、亜鉛アセチルアセトナート等の亜鉛化合物や、マンガンのカルボン酸塩(酢酸マンガン等)、マンガンアセチルアセトナート等のマンガン化合物や、ニッケルのカルボン酸塩(酢酸ニッケル等)、ニッケルアセチルアセトナート等のニッケル化合物や、アンチモンのカルボン酸塩(酢酸アンチモン等)、アンチモンアルコキシド等のアンチモン化合物や、ジルコニウムアルコキシド(ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド等)、ジルコニウムアセチルアセトナート等のジルコニウム化合物や、チタニウムアルコキシド(チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムテトラブトキシド等)等のチタン化合物や、スズ化合物(ジブチルチンオキシド、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、酸化スズ等)等が挙げられる。なお、これらの有機金属触媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
エステル交換反応の触媒の使用量は触媒の種類により異なるが、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン1モルに対して、通常1モル以下、好ましくは0.001〜0.5モル、より好ましくは0.005〜0.3モルである。
また、使用する触媒の溶解度を上げるために、別途に有機溶媒を添加して反応させることができる。使用する有機溶媒は使用する触媒の種類により適宜決定することができ、触媒の溶解度を上げ、反応に関与しないものであれば特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸、プロピオン酸、酪酸等の脂肪族カルボン酸及び酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン溶媒、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックトリアミド等の極性溶媒が挙げられる。なお、これらの溶媒は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。また、これらの有機溶媒は反応後に回収し再利用することもできる。
エステル交換反応の温度は、使用するアルコールの種類や触媒使用量により異なるが、通常0〜150℃、好ましくは20〜120℃、より好ましくは30〜100℃である。
工程(2)の反応において、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕が大量に残存すると、工程(3)で該化合物〔式(3)〕が徐々に分解し、酢酸発生の原因となるため、1−アセトキシ−2−メチルー3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上にすることが望ましい。
工程(2)の反応混合物には使用した触媒が含まれるため、後処理操作として、酸や塩基で触媒を中和するか、又は触媒を除去するために水、酸性水溶液、又は塩基性水溶液で洗浄することが好ましい。中和や洗浄を行わずに、水、アルコール、使用した有機溶媒の蒸留除去や2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの蒸留精製を行うこともできるが、その場合は、残存する触媒の作用によって、目的物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールが分解し、問題となるおそれがある。
また、前記加水分解反応においては、副生物として酢酸が生成するため、後処理操作として、前記溶液で洗浄を行うことにより、反応混合物中の酢酸を効果的に除去することができる。
(高沸点化合物Bの除去)
本発明において、操作(a)を行わずに工程(2)を行う場合は、反応終了後、得られた反応液から、アルコール、水、副生する酢酸エステル、使用した有機溶媒を除去した後、更に副生物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール(沸点:158℃/10torr)〔式(4)〕より高沸点の化合物群(以下、「高沸点化合物B」という)を除去する操作(b)を行うことが好ましい。この操作(b)により、次工程(3)で高沸点化合物Bから発生する酢酸の生成を抑制することができる。
ここで高沸点化合物Bは、種々の化合物の混合物であり、未反応の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔前記式(5)〕やそれら由来の不純物である1,2−ビス(2−メチル−3−オキソ−プロピル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔下記式(6)〕、1−(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−2−(2−メチル−3−オキソ−プロピル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔下記式(7)〕やこれらが分解して生成した化合物等が挙げられる。その他にもメタクロレイン、2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペン、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェ二ル)プロペン、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール由来の重合物等の化合物が含まれている。
Figure 0005446272
高沸点化合物Bを除去する操作(b)としては、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、晶析、カラムクロマトグラフィー等の公知の方法を採用することができるが、蒸留精製による方法が最も好ましい。
(蒸留精製)
蒸留精製の方式、回数、精留塔の種類等は操作(a)で記載した蒸留精製と同様である。
2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕は熱分解しやすいため、滞留時間が短い薄膜蒸発器や流下膜式蒸発器等で蒸留精製することが好ましい。なお、蒸留の仕込みや留分の取り出しは、不活性ガス下で行うことが好ましい。
充填式精留塔の場合、充填物の種類は特に限定はされないが、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、蒸留温度が高くなると分解が激しくなり、収率が低下するため、蒸留釜の液温を高温に設定しなくてすむよう、精留塔の塔頂部と塔底部の差圧が小さい規則充填物を使用することが望ましい。使用できる規則充填物の種類等は、操作(a)で説明したものと同様である。
上記の高沸点化合物Bを除去する蒸留条件は、特に制限されないが、精留塔頂部圧力で好ましくは0.1〜100torr(0.013〜13.33kPa)、より好ましくは1〜20torr(0.133〜2.66kPa)であり、留出温度はその時の圧力により異なるが、好ましくは120〜230℃、より好ましくは、130〜190℃である。
この高沸点化合物Bの蒸留除去においては、蒸留留分中に目的物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕が分離され、蒸留釜残物中に高沸点化合物Bが分離されるように行うことが好ましい。
蒸留精製の実段数及び還流比は、操作(a)と同様であり、各精留塔において1〜200段であり、好ましくは2〜100段、より好ましくは3〜60段であり、還流比(=還流量/留出量)は0〜50、好ましくは0.5〜20、より好ましくは1〜10である。還流比が0.1未満であると分離効率が低下し、過剰な還流比では、加熱により、1−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの分解、その他の反応が促進されるため好ましくない。
上記の条件で操作(b)の蒸留を行うことにより、高沸点化合物Bの含有量を、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、更に好ましくは0.5重量%以下とした2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物を得ることができる。
工程(3)
工程(3)は、工程(2)で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む反応混合物を蒸留精製し、高純度な2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得る工程である。
(蒸留精製)
工程(3)における蒸留精製の方式、回数、精留塔の種類、充填物の種類等は操作(a)、(b)で記載した蒸留精製と同様である。2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール〔式(4)〕は、蒸留時に徐々に熱分解するため滞留時間が短い連続方式や半連続方式が好ましい。
工程(3)において、蒸留精製の実段数、還流比(=還流量/留出量)についても、操作(b)と同様である。還流比が0.1未満であると分離効率が低下し、過剰な還流比では、加熱により、1−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの分解、その他の反応が促進されるため好ましくない。
(操作(c))
工程(3)の蒸留精製においては、蒸留装置の蒸留釜の液温を210℃以下で行うこと(操作(c))が好ましい。
より具体的には、減圧(0.1〜100torr(0.013〜13.332kPa))下、精留塔の塔頂部において、好ましくは100〜210℃、より好ましくは140〜210℃、更に好ましくは150〜200℃である。さらに、最終品取得時(主留留出時)の蒸留装置の蒸留釜の液温は、210℃以下、好ましくは125〜210℃、より好ましくは130〜200℃、更に好ましくは135〜190℃、特に好ましくは140〜185℃、最も好ましくは145〜180℃である。該温度が210℃を超えると、蒸留釜の溶液中に高沸点の副生物及び不純物が存在しなくても、高温度下では2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール自体が分解して酢酸が生成し、主留分に混入するおそれがあるので好ましくない。
一方、蒸留釜の液温を下げて蒸留するには、高真空にする必要があり、これには、高性能で特殊な真空ポンプを使用しなければならず、さらに精留塔のサイズが大きくなり、経済的に有利でない。そのため、最終品として、高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを取得する際には、操作(c)の条件で蒸留精製を行うことが好ましい。
特にバッチ方式で蒸留精製する場合は、連続式精留方法と比較して、精留塔内での2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの滞留時間が長くなるため熱分解しやすく、酢酸の生成量が多くなることがある。そのため、バッチ方式では、蒸留温度を好ましくは130〜210℃、より好ましくは140〜185℃で行う。なお、蒸留の仕込みや留分の取り出しは、不活性ガス下で行うことが望ましい。
工程(3)の蒸留精製により、酢酸含有量が40ppm未満の高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得ることができる。
(操作(d))
(洗浄、中和又は中和・吸着)
工程(3)の蒸留において、酢酸含有量が40ppm以上の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む粗製物も得ることができる。そこで、得られた該粗製物を水洗浄、塩基性化合物の水溶液による洗浄、中和又は中和・吸着する操作(d)を行うことができる。この操作(d)により、酢酸含有量を40ppm未満に低減させた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを最終品として得ることができる。
(水洗浄又は塩基性化合物の水溶液による洗浄、中和)
操作(d)の水洗浄に用いられる水の使用量は、特に制限されないが、通常は、工程(3)で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール1gに対して、重量比で通常0.1〜50倍、好ましくは0.2〜10倍、より好ましくは0.3〜5倍、更に好ましくは0.5〜1.5倍である。水のみで洗浄することもできるが、有機相と水相の分離が困難になる場合は、塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等の塩の水溶液で洗浄することもできる。
また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基性化合物の水溶液で洗浄することによって、酢酸を中和し、生成した酢酸塩を水相に分配させることにより、含有酢酸量を低減させることもできる。
洗浄回数に制限はなく、水、塩の水溶液や塩基性化合物の水溶液での洗浄を組み合わせてもよい。洗浄後の液分離の温度は、特に制限はないが、40〜70℃にすることで、有機相と水相の分離が良好になる。
水洗浄又は塩基性化合物の水溶液による洗浄後の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールには水分が含有されることもあるため、例えば、蒸留、減圧乾燥、脱水・乾燥剤により、必要に応じて水分を除去することができる。前記水分を除去する方法としては蒸留が好ましい。
蒸留条件は、圧力10torr〜常圧が好ましいが、温度が210℃以下であれば、特に制限はない。水を除去した後の蒸留釜残物を最終品とすることもできるが、工程(3)における操作(c)と同様の条件で、再度、蒸留精製してもよい。
(中和又は中和・吸着)
工程(3)で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを、例えば、カラム等に充填した塩基性化合物、特に塩基性イオン交換樹脂に、接触・通液することにより、含まれる酢酸を中和し、更に生じる酢酸塩を濾別したり、塩基性イオン交換樹脂に吸着させることで、酢酸含有量を40ppm未満に低減させることもできる。この操作は、通常0〜80℃で行われる。
本発明の製造方法によれば、酢酸含有量が40ppm未満である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを効率的に製造することができるが、酢酸の含有量が40ppm未満であれば、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールに混入されていても香気には影響がないことは、調香師により確認されている。
また、本発明の製造方法で得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、サフロールやヘリオトロピンから製造された2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールと比較して香気が異なるものである。
本発明を実施例と比較例を挙げて具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例において、「%」は特記しない限り「重量%」を意味する。
また、本発明において2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度〔1〕、酢酸含有量〔2〕、工程(2)終了後の反応収率、及び工程(3)の蒸留収率〔3〕の算出は、以下の方法により行った。
〔1〕2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度
株式会社島津製作所製の高速液体クロマトグラフィー装置(HPLC)「CLASS−VP」(分析カラム:東ソー株式会社製「TSKgel ODS−80Ts QA 4.6mm×250mm」を使用し、アセトニトリル/0.1%リン酸水溶液=40/60(体積比)の溶離液を使用し、pH2.5、流速1.0ml/分、カラムオーブン温度を40℃に設定した。UV検出器を使用し、測定波長252nm、サンプル注入量は20μlとした。
サンプルの調整は、測定する試料0.8gを50mL−メスフラスコに正確に秤取り、アセトニトリルでメスアップした。この溶液をホールピペットで5ml取り、50mL−メスフラスコに入れ、アセトニトリルでメスアップし、得られた溶液を分析に使用した。
〔2〕酢酸含有量
株式会社島津製作所製のガスクログラフィー装置「GC−14B」(検出器:FID方式、分析カラム:ジーエルサイエンス社製、TC−WAX(0.53mm×30m、膜厚1.0μm))を使用し、絶対検量線法により測定、算出した。
分析対象である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを、1μlのマイクロシリンジで0.6μl注入した。インジェクション温度は220℃、ディテクター温度は260℃、カラム温度は80℃で3分間保持した後に115℃まで5℃/分の速度で昇温させ、次いで230℃まで40℃/分で昇温させ、さらに230℃で20分間保持した。
〔3〕工程(2)終了後の反応収率(%)、及び工程(3)の蒸留収率(%)は、次式により算出した。
工程(2)終了後の反応収率(%)=[2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールのモル数/使用したメタクロレインのモル数]×100
工程(3)の蒸留収率(%)=[{主留分の重量/2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの分子量}/仕込み液中の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールのモル数]×100
実施例1(2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造)
〔工程(1)〕
窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、温度計、冷却管を備えた20L−セパラブルフラスコに、無水酢酸1703gと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.9gとを加え、液温を0〜20℃に維持しながら、メタクロレイン1021g(純度96.1%)を滴下した後、9〜11℃で2時間撹拌し、2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを含む混合液を得た。この混合液に1,2−メチレンジオキシベンゼン8200gを加えた後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体56.9gをゆるやかに滴下し、液温を38〜41℃にして4時間撹拌した。反応終了後、得られた反応混合物を水で洗浄した後、有機相を分液・抽出し、有機相から未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを蒸留回収し、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む残渣物3380gを得た。
残渣物の組成は、
1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン〔式(3)〕が82.8%、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕が8.6%であった。
〔工程(2)〕
この残渣物に、メタノール3044g、炭酸カリウム25.0gを混合し、30〜50℃で4時間撹拌し、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率が、99%になるまで、エステル交換反応を行った。反応終了後、得られた反応液を75%リン酸水溶液23.6gと混合し、撹拌を行った。
次いで、反応で生じた酢酸メチル、メタノールを留去し、得られた濃縮物を水で洗浄後、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応混合物2616gを得た。
得られた反応混合物を、前記の方法により分析した結果、純度は78.0%であり、約20%が高沸点化合物Bであった。また、HPLC分析による1−アセトキシ−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペン基準の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応収率は88.8%、メタクロレイン基準の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応収率は75.9%であった。
引き続き、得られた反応混合物2616gのうち、834g(純分651g)を撹拌機、温度計、冷却管を備えた1L−フラスコ付きの精留塔(充填物;スルーザーケムテック社製「ラボラトリーパッキングEX」(商品名)、φ25mm×高さ1100mm)を用いて、還流比7にて初留分32.6gを留去した後、圧力、7torr(0.933kPa)、ボトム温度177〜210℃、塔頂温度は152〜153℃、還流比1にて高沸点化合物Bを除去した粗製物を596g(純分589g、純度98.9%)取得した〔操作(b)〕。
〔工程(3)〕
次に得られた粗製物は、再度、撹拌機、温度計、冷却管を備えた1L−フラスコ付き精留塔にて、還流比10にて、初留分110gを留去した後、圧力7〜8torr、ボトム温度170〜180℃、塔頂温度153〜154℃、還流比1にて、主留分である最終品の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを450g取得した〔操作(c)〕。
得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は99.4%、酢酸含有量は19ppm、蒸留収率は69.1%であった。
また、主留分取得の際、留出画分を10に分けてサンプリングを行い、これらの留分を調香師が、下記の評価基準で判定した。結果を表1に示す。
(評価基準)
○:香気に酸臭がなく、香料として実使用できる。
×:異臭が感じられ、香料として実使用できない。
さらに、市販品(Acros organics社)との香気の違いについても、判定した。結果を表1に示す。
○:前記市販品とは、異なる香気である。
×:前記市販品とは、同じ香気である。
−:実施せず。
Figure 0005446272
表1から、酢酸含有量が40ppm以上であると異臭が感じられることから、酢酸含有量40ppm未満ものが香料として利用できることが分かった。さらに、酢酸含有量が40ppm未満のものは、市販品とは異なる、よりみずみずしくクリアな香気をする新規香料であることが分かった。しかし、留出区分(2、3、7、10、15)については、酢酸含有量(5〜39ppm)の違いに伴う、香気の細かな違いを区別することはできなかった。
実施例2(2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造)
〔工程(1)〕
窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、温度計、冷却管を備えた20L−セパラブルフラスコに、無水酢酸1736.5gと三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体4.1gとを混合し、液温を0〜20℃に維持しながら、次いで、メタクロレイン1071g(純度94.2%)を滴下し、2時間撹拌し、2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを含む混合液を得た。得られた混合液に1,2−メチレンジオキシベンゼン8200gを加えた後、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体61.7gをゆるやかに滴下した。
滴下終了後、液温38〜42℃にて4時間撹拌した。反応終了後、得られた溶液を水で洗浄し、分液・抽出にて有機相を取り出し、更に未反応の1,2−メチレンジオキシベンゼンを留去した。
得られた溶液3589gを、単蒸留装置に移して蒸留(圧力;3torr、温度;182℃)を行い、粗製物として主留分3058gを得た。主留分中の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの純度は94.4%、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕が1.3%であった〔操作(a)〕。
〔工程(2)〕
次に、窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、温度計、冷却管を備えた10L−セパラブルフラスコにメタノール3235gと炭酸カリウム24.4gとを混合し、30℃で撹拌しながら、78〜82℃に加熱した1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの溶液をゆるやかに滴下した。滴下終了後、30〜50℃で約5時間撹拌し、エステル交換反応を行った。反応終了後の1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率は98.0%であった。次に反応液に75%リン酸水溶液22.8gを添加し撹拌した後に、メタノールと反応により副生した酢酸メチルを減圧下で留去した。得られた濃縮物を水で洗浄し、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物を2424g(純度:94.1%)得た。
得られた粗製物の分析を行ったところ、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応収率は、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン基準で96.2%であり、また、メタクロレイン基準の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応収率は82.4%であった。
〔工程(3)〕
引き続き、得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの粗製物のうち783g(純分737g)を1L−フラスコ付きの精留塔(充填物;スルーザーケムテック社製「ラボラトリーパッキングEX」(商品名)、φ25mm×高さ1100mm)を用いて、還流比10にて初留分189gを留去した後、圧力6〜7torr、蒸留釜の液温を172〜200℃、塔頂温度を148〜151℃、還流比1にて主留分である最終品の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを480g(純度;99.7%、酢酸含有量;6ppm)取得した(蒸留収率:64.9%)〔操作(c)〕。
得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの香気は、酸臭がなく、調香師の評価も良好であった。蒸留収率は65.1%であった。
実施例3(方法(B)による1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロペンの製造)
攪拌装置と温度計を備えた300ml−3ッ口フラスコに、メタクロレイン22.1g(300mmol)、無水酢酸36.8g(360mmol)、及び1,2−メチレンジオキシベンゼン171.2g(1410mmol)を入れて混合し、内温5〜45℃を維持しながら塩化鉄(III)(無水物)0.97g(6.0mmol)をゆるやかに加え、5時間攪拌した。反応終了後、得られた反応物に水200mlを加え10分間攪拌を行った。次いで、水相を分離後、有機相に再び水200mlを加え10分間攪拌を行った。再度水相を分離し、得られた有機相をHPLCにて分析した結果、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの収量は54.9g(メタクロレイン基準の収率:78.1%)であった。また、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔式(5)〕の生成量は7.2g(収率7.1%)であった。
その後、実施例2における操作(a)、工程(2)、及び工程(3)(操作(c))と同様の操作を行ない、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール27.7gを得た。得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールに含まれる酢酸の量は18ppmであった。
参考例1(工程(2):金属触媒を用いたエステル交換反応)
実施例2における工程(1)及び操作(a)と同様の操作を行った後、窒素ガス雰囲気下にて、撹拌機、温度計、冷却管を備えた25mL−3つ口フラスコにメタノール2.24g(70.0mmol)とチタニウム(IV)イソプロポキシド0.284g(1.00mmol)とを混合し、30〜50℃にて撹拌しながら、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン2.34g(10.0mmol)をゆっくり滴下した。滴下終了後、30〜50℃で約1時間撹拌を行った。反応終了後に、得られた反応液をHPLCにて分析したところ、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率は100%、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの選択率は96%であった。
工程(2)は、チタニウム(IV)イソプロポキシドのような金属触媒を用いたエステル交換反応によっても、高選択率で2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得ることできる。
その後、実施例2における工程(3)、操作(c)及び(d)を行うことができる。
参考例2
実施例2と同様の方法で得られた、酢酸含有量5ppmの2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール(純度99.6%、高沸点化合物Bがないことを確認)1mlをステンレス製の2.5ml容器に入れ、栓をして封じ込めた。この容器4個をそれぞれ所定の温度(185℃、200℃、220℃、230℃)のオイルバスに入れて放置した。所定の経過時間にその容器をオイルバスから取り出して、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度と酢酸含有量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005446272
表2から、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、蒸留時の温度が220℃以上になると分解が激しくなり、酢酸の生成量も増加することが分かる。
また表1から、酢酸濃度が40ppm以上の濃度になると異臭が感じられるため、蒸留時の温度は210℃以下、好ましくは200℃以下にすることが望ましいことが分かる。
参考例3
実施例1と同様の方法で2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを合成し、精製工程も同様に行い主留分を取り出した後に、蒸留釜の液温を220℃まで上げて留出がなくなったことを確認した後に精留を止めた。蒸留後の釜残物40.0gは、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを20.6%含む高沸点化合物Bであり、種々の高分子混合物からなっていた。
次に、蒸留精製して得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール(純度99.6%)にこの高沸点化合物Bを入れて、その高沸点化合物Bの含有量が7.4%、16%になるように調整した。
この混合物を参考例2と同様にして、185℃での酢酸量等の経時変化を調べた。結果を表3に示す。
Figure 0005446272
表3から、高沸点化合物Bの含有量が多くなるほど、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの分解が激しくなり、さらに酢酸の発生量が多くなるため、最終品を得る前に高沸点化合物Bを除去することが、より好ましいことが分かる。
比較例1〔操作(a)〜(d)を行わない例〕
実施例1と同様の方法にて、工程(2)で操作(b)を行わずに得た2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの反応混合物2616g(純度78.0%)のうち、722g(純分563g)を1L−フラスコ付きの精留塔(充填物:スルーザーパッキングEX(商品名)、φ25mm×高さ1100mm)を用いて蒸留精製した。留分のガスクロマトグラフィー面積百分率が99%以上になった時点から主留分とした。初留分取得時の還流比は10で、主留分取得時の還流比は1で留出させた。主留分留出時の圧力は7〜8torr(0.933〜1.066kPa)であり、蒸留釜の液温は、175〜220℃、塔頂温度は152〜153℃であった。
初留分は182g、主留分は320gであり、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は99.7%であった。また、酢酸含有量は104ppmであり、香気には酸臭が強く香料として使用できるものではなかった。蒸留収率は56.8%であった。
比較例1の結果から、目的物の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの純度は99.7%であったとしても、酢酸含有量が40ppm以上(104ppm)であると酸臭が強く香料として使用することができないことが分かった。
実施例4
比較例1と同様の操作を行い、酢酸が122ppm含まれた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール350gを得た。このうち37.9gを分液ロートに入れ、さらに36.5gの飽和食塩水を加え、分液ロートをよく振とうさせた後、5分間静置させた。有機相(重液)を抜き出し、得られた有機相に含まれる酢酸濃度を分析したところ21ppmであった。さらに飽和食塩水で洗浄を行い、酢酸濃度6ppmの2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを得た。得られた2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの香気は良好であった。
参考例4
200mL−4つ口フラスコに、実施例2と同様にして調製した、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペン(純度97.9%、ガスクロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーで1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔前記式(5)〕が存在しないことを確認)46.8g(195.5mmol)、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン7.11g(20.5mmol、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼンが、9.5モル%含有)と混合した調製物に、メタノール52.3g(1634mmol)を加え、撹拌しながら混合液の温度を60℃にし、混合液が均一になった後に40℃に下げた。この混合液に無水炭酸カリウム0.53g(3.8mmol)を少しずつ添加し、添加終了後、さらに40℃で1.5時間反応を行った。反応終了後に85%リン酸0.56gを加えて中和した後に、未反応のメタノールと副生した酢酸メチルを単蒸留で留去した。単蒸留後の釜残物46.2gに水を37.8g添加して40〜50℃で撹拌した後に、これを分液ロートに移し、有機相42.5gを取得した。この有機相中の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの含量をHPLCで分析し、反応収率を求めたところ85.1%であった。
また、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼンの含有量(mol%)を変えた調製物を用いて、上記と同様の操作を行った。結果を表4に示す。
Figure 0005446272
参考例4において、工程(1)操作(a)を行わない場合に生成する1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼン〔前記式(5)〕が、工程(2)に与える影響を調べた結果、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼンが9.5mol%以上になると、目的物である2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの収率が85%以下になり、高沸点化合物Bの含有量が多くなるため、製品の香気に悪影響を及ぼし易く、また蒸留ロスも多くなることから経済的に好ましくないことが分かった。
本発明によれば、香料として有用な高純度の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナール及びその効率的な製造方法を提供することができる。また、本発明方法により得られる2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールは、サフロールやヘリオトロピンを出発物質として得られたものとは異なる新たな香気(よりみずみずしくクリアな香気)を有する。

Claims (5)

  1. 工程(1):下記式(1)で表される1,2−メチレンジオキシベンゼン及び下記式(2)で表される2−メチル−3,3−ジアセトキシプロペンを反応させる方法(A)、又は1,2−メチレンジオキシベンゼン、メタクロレイン及び無水酢酸を反応させる方法(B)により、下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む反応混合物を得る工程、
    Figure 0005446272
    工程(2):工程(1)で得られた下記式(3)で表される1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを、加水分解反応又はアルコールとのエステル交換反応に付して、下記式(4)で表される2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールを含む反応混合物を得る工程、及び
    Figure 0005446272
    工程(3):工程(2)で得られた該反応混合物を蒸留精製する工程
    を含む方法であって、
    下記の操作(a)〜(d)の少なくとも一つを行う、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
    操作(a):工程(1)の後で、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンを含む反応混合物から、該化合物より高沸点の化合物を除去し、該化合物の粗製物を得る操作。
    操作(b):工程(2)の後で、2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールより高沸点の化合物を除去し、該化合物の粗製物を得る操作。
    操作(c):工程(3)における蒸留精製を、蒸留釜の液温を210℃以下で行う操作。
    操作(d):工程(3)の後で、洗浄、中和又は中和・吸着する操作。
  2. 操作(a)又は操作(b)を行う請求項1に記載の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
  3. 操作(a)により、1,2−ビス(3−アセトキシ−2−メチル−2−プロペニル)−4,5−メチレンジオキシベンゼンの含有量を9.5mol%以下にする、請求項1に記載の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
  4. 工程(2)において、1−アセトキシ−2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)−1−プロペンの転化率を98%以上にする、請求項1に記載の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
  5. 工程(3)における蒸留精製を、蒸留釜の液温を130〜210℃で行う、請求項1に記載の2−メチル−3−(3,4−メチレンジオキシフェニル)プロパナールの製造方法。
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