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JP5310964B1 - 鋼板製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明の鋼板製造方法は、鋼材を仕上圧延機で熱間圧延することにより、熱延鋼板を得る熱間圧延工程と;前記熱延鋼板を冷却する冷却工程と;を備え、前記熱間圧延工程は、前記熱延鋼板の耳波形状の急峻度と温度標準偏差Yと相関関係を示す第1の相関データに基づいて、前記耳波形状の目標急峻度を設定する目標急峻度設定工程と、前記耳波形状の急峻度が前記目標急峻度と一致するように、前記仕上圧延機の運転パラメータを制御する形状制御工程と、を含む。

Description

本発明は、鋼板製造方法に関する。
例えば自動車及び産業機械等に使用される熱延鋼板は、一般に、粗圧延工程及び仕上圧延工程を経て製造される。図19は、従来の熱延鋼板の製造方法を模式的に示す図である。熱延鋼板の製造工程においては、先ず、所定の組成に調整した溶鋼を連続鋳造して得たスラブSを粗圧延機101により圧延した後、さらに複数の圧延スタンド102a〜102dで構成される仕上圧延機103により熱間圧延して、所定の厚さの熱延鋼板Hを形成する。そして、この熱延鋼板Hは、冷却装置111から注水される冷却水によって冷却された後、巻取装置112によりコイル状に巻き取られる。
冷却装置111は、一般に仕上圧延機103から搬送される熱延鋼板Hに対していわゆるラミナー冷却を施すための設備である。この冷却装置111は、ランナウトテーブル上を移動する熱延鋼板Hの上面に対して、垂直方向の上方から冷却ノズルを介して冷却水を噴流水として噴射すると共に、熱延鋼板Hの下面に対して、パイプラミナーを介して噴流水として冷却水を噴射することにより、熱延鋼板Hを冷却する。
そして、従来において、例えば特許文献1には、厚鋼板の上下面の表面温度差を低減させることにより、その鋼板の形状不良を防止する技術が開示されている。この特許文献1に開示された技術によれば、冷却装置による冷却時において鋼板の上面及び下面の表面温度を温度計で同時に測定して得られた表面温度差に基づいて、鋼板の上面と下面に供給する冷却水の水量比を調整する。
また、例えば特許文献2には、圧延機の出口側に設置した急峻度計により、鋼板先端の急峻度を測定し、その測定した急峻度に応じて冷却水流量を幅方向に変えて調整することにより、鋼板の穴あきを防止する技術が開示されている。
さらに、例えば特許文献3には、熱延鋼板の板幅方向における波形状の板厚分布を解消し、板幅方向の板厚を均一化させることを目的とし、熱延鋼板の板幅方向における最高熱伝達率と最低熱伝達率との差が所定値の範囲に収まるように制御する技術が開示されている。
日本国特開2005−74463号公報 日本国特開2005−271052号公報 日本国特開2003−48003号公報
ここで、図19を用いて説明した従来の製造方法により製造される熱延鋼板Hは、例えば、図20に示すように、冷却装置111におけるランナウトテーブル(以降、「ROT」と記載する場合がある。)の搬送ロール120上で圧延方向(図20中の矢印方向)に波形状を生ずる場合がある。この場合、熱延鋼板Hの上面と下面の冷却にバラツキが生じてしまい、温度ムラが発生する。その結果、熱間圧延工程の後の鋼板冷却工程において、上記の温度ムラに起因して材質(すなわち、鋼板の硬度)のバラツキが生じる。さらに、後工程である冷間圧延工程において、上記の材質のバラツキに起因して鋼板の板厚変動が発生する。このような鋼板の板厚変動が所定の基準値を超えた場合、その鋼板は検査工程で不良品と判断されてしまうため、歩留まりの低下が顕著になるといった問題があった。
しかしながら、上記特許文献1の冷却方法は、熱延鋼板が圧延方向に波形状を有する場合を考慮していない。すなわち、特許文献1では、熱延鋼板の波の位置によって表面高さが異なるために、温度の標準偏差が圧延方向に異なることを考慮していない。したがって、特許文献1の冷却方法では、熱延鋼板に形成された波形状に起因して、熱延鋼板の冷却時に材質のバラツキが発生することについては考慮されていなかった。
また、特許文献2の冷却方法では、鋼板の幅方向の急峻度を測定して、その急峻度の高い部分の冷却水流量を調整している。しかしながら、特許文献2においても、熱延鋼板が圧延方向に波形状を有する場合を考慮しておらず、上述したように、熱延鋼板に形成された波形状に起因して、熱延鋼板の冷却時に材質のバラツキが発生することについては考慮されていなかった。
また、特許文献3の冷却は、仕上圧延機ロールバイトの直前における熱延鋼板の冷却であるため、仕上圧延されて所定の厚みになった熱延鋼板に適用できない。さらに、特許文献3においても、熱延鋼板の圧延方向に波形状が形成される場合を考慮しておらず、上述したように、熱延鋼板に形成された波形状に起因して、冷却時に材質のバラツキが発生することについては考慮されていなかった。
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、少なくとも熱間圧延工程及び冷却工程を経て製造される鋼板の歩留まり向上を実現可能な鋼板製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記課題を解決して係る目的を達成するために以下の手段を採用する。
すなわち、
(1)本発明の一態様に係る鋼板製造方法は、鋼材を仕上圧延機で熱間圧延することにより、圧延方向に周期的に波高さが変動する耳波形状が形成された熱延鋼板を得る熱間圧延工程と;前記熱延鋼板を、その通板経路上に設けられた冷却区間において冷却する冷却工程と;を備え、前記熱間圧延工程が、予め実験的に求めておいた、前記熱延鋼板の耳波形状の急峻度と前記熱延鋼板の冷却中または冷却後の温度標準偏差Yとの相関関係を示す第1の相関データに基づいて、前記耳波形状の目標急峻度を設定する目標急峻度設定工程と、前記耳波形状の急峻度が前記目標急峻度と一致するように、前記仕上圧延機の運転パラメータを制御する形状制御工程と、を含む。
(2)上記(1)に記載の鋼板製造方法において、前記目標急峻度設定工程では、前記目標急峻度を0%超1%以内に設定しても良い。
(3)上記(1)または(2)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却工程が、予め実験的に前記熱延鋼板の急峻度及び通板速度を一定値とする条件下で求めておいた、前記熱延鋼板の上下面の熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率Xと前記熱延鋼板の冷却中または冷却後の前記温度標準偏差Yとの相関関係を示す第2の相関データに基づいて、前記温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1を目標比率Xtとして設定する目標比率設定工程と;前記冷却区間における前記熱延鋼板の上下熱伝達係数比率Xが前記目標比率Xtと一致するように、前記冷却区間における前記熱延鋼板の上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との少なくとも一方を制御する冷却制御工程と;を有していても良い。
(4)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記目標比率設定工程では、前記第2の相関データに基づいて、前記温度標準偏差Yが最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まる上下熱伝達係数比率Xを前記目標比率Xtとして設定しても良い。
(5)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記第2の相関データは、前記急峻度及び前記通板速度の値が異なる複数の条件のそれぞれについて用意されており、前記目標比率設定工程では、前記複数の第2の相関データの内、前記急峻度及び前記通板速度の実測値に応じた第2の相関データに基づいて前記目標比率Xtを設定しても良い。
(6)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記第2の相関データは、前記上下熱伝達係数比率Xと前記温度標準偏差Yとの相関関係を回帰式で示すデータであっても良い。
(7)上記(6)に記載の鋼板製造方法において、前記回帰式は線形回帰によって導出されたものであっても良い。
(8)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記第2の相関データは、前記上下熱伝達係数比率Xと前記温度標準偏差Yとの相関関係をテーブルで示すデータであっても良い。
(9)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度を時系列で測定する温度測定工程と;前記温度の測定結果に基づいて前記温度の時系列平均値を算出する温度平均値算出工程と;前記温度の時系列平均値が所定の目標温度と一致するように、前記冷却区間における前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量と前記下面冷却抜熱量との合計値を調整する冷却抜熱量調整工程と;をさらに有していても良い。
(10)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度を時系列で測定する温度測定工程と;前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度測定箇所と同一箇所での前記熱延鋼板の鉛直方向の変動速度を時系列で測定する変動速度測定工程と;前記熱延鋼板の鉛直方向の上向きを正とした場合において、前記変動速度が正の領域で、前記熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が低い場合は、前記上面冷却抜熱量が減少する方向及び前記下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が高い場合は、前記上面冷却抜熱量が増加する方向及び前記下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定し、前記変動速度が負の領域で、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が低い場合は、前記上面冷却抜熱量が増加する方向及び前記下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定し、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が高い場合は、前記上面冷却抜熱量が減少する方向及び前記下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定する制御方向決定工程と;前記制御方向決定工程にて決定された前記制御方向に基づいて、前記冷却区間における前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整する冷却抜熱量調整工程と;をさらに有していても良い。
(11)上記(10)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間は、前記熱延鋼板の通板方向に沿って複数の分割冷却区間に分割されており、前記温度測定工程及び前記変動速度測定工程では、前記分割冷却区間の境のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の温度及び変動速度を時系列的に測定し、前記制御方向決定工程では、前記分割冷却区間の境のそれぞれにおける前記熱延鋼板の温度及び変動速度の測定結果に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれについて前記熱延鋼板の上下面の冷却抜熱量の増減方向を決定し、前記冷却抜熱量調整工程では、前記分割冷却区間のそれぞれについて決定された前記制御方向に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整するためにフィードバック制御又はフィードフォワード制御を行っても良い。
(12)上記(11)に記載の鋼板製造方法において、前記分割冷却区間の境のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の前記急峻度又は前記通板速度を測定する測定工程と;前記急峻度または前記通板速度の測定結果に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれにおける前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を補正する冷却抜熱量補正工程と;をさらに有していても良い。
(13)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間の下流側において、前記熱延鋼板の温度標準偏差が許容される範囲に入るように、前記熱延鋼板をさらに冷却する後冷却工程をさらに有していても良い。
(14)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間における前記熱延鋼板の通板速度は、550m/min以上から機械的な限界速度以下の範囲で設定されていても良い。
(15)上記(14)に記載の鋼板製造方法において、前記熱延鋼板の引張強度は800MPa以上であっても良い。
(16)上記(14)に記載の鋼板製造方法において、前記仕上圧延機は複数の圧延スタンドから構成されており、前記複数の圧延スタンド同士の間で前記熱延鋼板の補助冷却を行う補助冷却工程をさらに有していても良い。
(17)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間には、前記熱延鋼板の上面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する上側冷却装置と、前記熱延鋼板の下面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する下側冷却装置とが設けられており、前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量は、前記各ヘッダーをオンオフ制御することによって調整されても良い。
(18)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間には、前記熱延鋼板の上面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する上側冷却装置と、前記熱延鋼板の下面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する下側冷却装置とが設けられており、前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量は、前記各ヘッダーの水量密度、圧力及び水温の少なくとも一つを制御することによって調整されても良い。
(19)上記(3)に記載の鋼板製造方法において、前記冷却区間での冷却は、前記熱延鋼板の温度が600℃以上の範囲で行われても良い。
本願発明者は、熱間圧延工程から得られる熱延鋼板に形成された波形状と、その熱延鋼板の冷却中または冷却後の温度標準偏差との関係を鋭意調査したところ、熱延鋼板の波形状を耳波形状に制御すると、その耳波形状の急峻度に応じて熱延鋼板の温度標準偏差を任意の値に制御できることを見出した。
つまり、本発明によれば、熱間圧延工程において、予め実験的に求めておいた、熱延鋼板の耳波形状の急峻度と熱延鋼板の冷却中または冷却後の温度標準偏差Yとの相関関係を示す第1の相関データに基づいて、耳波形状の目標急峻度を設定し、熱延鋼板に形成される耳波形状の急峻度が上記の目標急峻度と一致するように仕上圧延機を制御することで、冷却後の熱延鋼板の温度標準偏差を小さく抑えることができる(熱延鋼板を均一に冷却できる)。
その結果、冷却後の熱延鋼板に材質バラツキが発生することを抑制することができるので、最終的に後工程である冷間圧延工程を経て得られる鋼板の板厚変動を抑えて歩留まりの向上を実現できる。
本発明の一実施形態における鋼板製造方法を実現するための熱間圧延設備1を示す説明図である。 熱間圧延設備1に設けられた冷却装置14の構成の概略を示す説明図である。 熱延鋼板Hの最下点が搬送ロール32と接触する様子を示す説明図である。 熱延鋼板Hに急峻度1%の中波形状が形成された場合と、急峻度1%の耳波形状が形成された場合の、熱延鋼板Hの各箇所における温度変動を示すグラフである。 熱延鋼板Hに急峻度1%の中波形状が形成された場合と、急峻度1%の耳波形状が形成された場合それぞれについての、後工程である冷間圧延工程における冷延ゲージ変動(板厚変動)を示すグラフである。 熱延鋼板Hの急峻度と通板速度を一定値とする条件下で求めた、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を示すグラフである。 図6に示す相関関係から温度標準偏差Yの最小点(最小値Ymin)を探索する方法を示す説明図である。 通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示すグラフであって、上側のグラフは、コイル先端からの距離或いは定点経過時間に対する温度変動を示し、下側のグラフは、コイル先端からの距離または定点経過時間に対する急峻度を示している。 通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。 熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低くなり、変動速度が負の領域で熱延鋼板Hの温度が高くなった場合に、上面冷却抜熱量を減少させ、下面冷却抜熱量を増加させたときの熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。なお、熱延鋼板Hの波形状の急峻度とは、波形状の振幅を1周期分の圧延方向の長さで割った値である。 熱延鋼板Hの変動速度が正の領域で熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低く、変動速度が負の領域で熱延鋼H板の温度が高くなった場合に、上面冷却抜熱量を増加させ、下面冷却抜熱量を減少させたときの熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示すグラフである。 上下熱伝達係数比率Xと通板速度を一定値とする条件下で求めた、熱延鋼板Hの急峻度と温度標準偏差Yとの相関関係を示すグラフである。 急峻度の値が異なる複数の条件(ただし、通板速度は一定)のそれぞれについて求めた、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を示したグラフである。 上下熱伝達係数比率Xと急峻度を一定値とする条件下で求めた、熱延鋼板Hの通板速度と温度標準偏差Yとの相関関係を示すグラフである。 通板速度の値が異なる複数の条件(ただし、急峻度は一定)のそれぞれについて求めた、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を示したグラフである。 熱間圧延設備1における冷却装置14の周辺の詳細を示す説明図である。 冷却装置14の変形例を示す説明図である。 熱延鋼板Hの板幅方向に温度標準偏差が形成された様子を示す説明図である。 従来の熱延鋼板Hの製造方法を示す説明図である。 従来の熱延鋼板Hの冷却方法を示す説明図である。
以下、本発明の一実施形態として、例えば自動車及び産業機械等に使用される鋼板の鋼板製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態における鋼板製造方法を実現するための熱間圧延設備1の例を模式的に示している。この熱間圧延設備1は、加熱したスラブSをロールで上下に挟んで連続的に圧延することで、最小1.2mmの板厚を有する鋼板(後述の熱延鋼板H)を製造し、この鋼板を巻き取ることを目的とした設備である。
この熱間圧延設備1は、スラブSを加熱するための加熱炉11と、この加熱炉11において加熱されたスラブSを幅方向に圧延する幅方向圧延機16と、この幅方向に圧延されたスラブSを上下方向から圧延して粗バーBrにする粗圧延機12と、粗バーBrを連続して熱間仕上圧延することで、所定の板厚を有する鋼板(以下、熱延鋼板と称す)Hを形成する仕上圧延機13と、この仕上圧延機13から搬送される熱延鋼板Hを冷却水により冷却する冷却装置14と、冷却装置14により冷却された熱延鋼板Hをコイル状に巻き取る巻取装置15とを備えている。
加熱炉11には、装入口を介して外部から搬入されてきたスラブSに対して、火炎を吹き出すことによりスラブSを加熱するサイドバーナ、軸流バーナ、ルーフバーナが配設されている。加熱炉11に搬入されたスラブSは、各ゾーンにおいて形成される各加熱帯において順次加熱され、さらに最終ゾーンにおいて形成される均熱帯において、ルーフバーナを利用してスラブSを均等加熱することにより、最適温度で搬送できるようにするための保熱処理を行う。加熱炉11における加熱処理が全て終了すると、スラブSは加熱炉11外へと搬送され、粗圧延機12による圧延工程へと移行することになる。
粗圧延機12は、搬送されてきたスラブSにつき、複数スタンドに亘って配設される円柱状の回転ロールの間隙を通過させる。例えば、この粗圧延機12は、第1スタンドにおいて上下に配設されたワークロール12aのみによりスラブSを熱間圧延して粗バーBrを形成する。次に、この第1スタンドを通過した粗バーBrをワークロールとバックアップロールとにより構成される複数の4重圧延機12bによりさらに連続的に圧延する。その結果、この粗圧延工程の終了時に、粗バーBrは、厚さ30〜60mm程度まで圧延され、仕上圧延機13へと搬送されることになる。
仕上圧延機13は、粗圧延機12から搬送されてきた粗バーBrを、その厚さが数mm程度になるまで熱間仕上げ圧延する。これら仕上圧延機13は、6〜7スタンドに亘って上下一直線に並べられた仕上げ圧延ロール13aの間隙に粗バーBrを通過させ、これを徐々に圧下していくことにより、所定の板厚を有する熱延鋼板Hを形成する。この仕上圧延機13によって形成された熱延鋼板Hは、後述する搬送ロール32によって冷却装置14へ搬送される。なお、この仕上圧延機13によって熱延鋼板Hの圧延方向に耳波形状が形成される。
冷却装置14は、仕上圧延機13から搬送される熱延鋼板Hに対してラミナーやスプレーによる冷却を施すための設備である。この冷却装置14は、図2に示すように、ランナウトテーブルの搬送ロール32上を移動する熱延鋼板Hの上面に対して、上側の冷却口31から冷却水を噴射する上側冷却装置14aと、熱延鋼板Hの下面に対して、下側の冷却口31から冷却水を噴射する下側冷却装置14bとを備えている。冷却口31は、上側冷却装置14a及び下側冷却装置14bのそれぞれについて複数個設けられている。
また、冷却口31には、冷却ヘッダー(図示省略)が接続されている。この冷却口31の個数によって、上側冷却装置14a及び下側冷却装置14bの冷却能力が決定される。なお、この冷却装置14は、上下スプリットラミナー、パイプラミナー、スプレー冷却等の少なくとも一つで構成されていてもよい。また、この冷却装置14によって熱延鋼板Hが冷却される区間が、本発明における冷却区間に相当する。
巻取装置15は、図1に示すように、冷却装置14から搬送される冷却後の熱延鋼板Hを所定の巻取温度で巻き取る。巻取装置15によりコイル状に巻き取られた熱延鋼板Hは、不図示の冷間圧延設備に送られて冷間圧延され、最終的な製品としての仕様を満たす鋼板に調製される。
以上のように構成された熱間圧延設備1の冷却装置14において、圧延方向に表面高さ(波高さ)が変動する波形状が形成されている熱延鋼板Hの冷却が行われる場合に、上述したように、上側冷却装置14aから噴射される冷却水と、下側冷却装置14bから噴射される冷却水の水量密度、圧力、水温等を好適に調整することで熱延鋼板Hの均一な冷却が行われる。しかしながら、特に通板速度が遅い場合には、熱延鋼板Hと搬送ロール32とが局所的に接触する時間が長くなり、熱延鋼板Hの搬送ロール32との接触部分が接触抜熱により冷却され易くなることから、冷却が不均一となってしまう。
図3に示すように、熱延鋼板Hが波形状を有する場合、その熱延鋼板Hは、波形状の底部において搬送ロール32と局所的に接触する場合がある。このように、熱延鋼板Hにおいて、搬送ロール32と局所的に接触する部分は、接触抜熱によって他の部分よりも冷却され易くなる。このため、熱延鋼板Hが不均一に冷却される。
一方、上述したように、熱間圧延設備1において、熱延鋼板Hに波形状が形成されていることに起因して、熱延鋼板Hの冷却が均一に行われない場合、冷却後の熱延鋼板Hの材質(硬度等)にバラツキが生じる。その結果、冷間圧延設備によって熱延鋼板Hを冷間圧延すると、最終的に製品として得られる鋼板(製品鋼板)に板厚変動が発生する。この製品鋼板の板厚変動は、歩留まり低下の要因となることから、検査工程で不良品と判断されないレベルにまで抑える必要がある。そこで、本願発明者らは、熱延鋼板Hに形成される波形状と後工程(冷間圧延工程)における板厚変動との関係を調べるため、以下に説明する検証を行った。
図4は、熱延鋼板Hに急峻度1%の中波形状が形成された場合と、急峻度1%の耳波形状が形成された場合の、熱延鋼板Hの各箇所における温度変動を示すグラフである。また、図5は、熱延鋼板Hに急峻度1%の中波形状が形成された場合と、急峻度1%の耳波形状が形成された場合とのそれぞれについての、冷間圧延工程における冷延ゲージ変動(板厚変動)を示すグラフである。なお、WS(ワークサイド)、DS(ドライブサイド)とは、熱延鋼板Hの一方の幅方向端部(WS)及び他方の幅方向端部(DS)を指すものである。
図4及び図5に示すように、熱間圧延設備1での冷却時の熱延鋼板Hの波形状を耳波形状とした方が、中波形状とした場合に比べて、板幅センター(C)及び幅平均の温度変動が抑制され、冷間圧延工程での板厚変動が抑えられている(図5に示すように、中波形状に比べて、耳波形状の方が約30%の板厚変動の抑制効果を得られる)ことがわかる。
これは、中波形状は、鋼板センター部で対称な形状となり、幅方向に一様な変位となるため、通板方向(圧延方向)に不均一な冷却偏差を生じやすいが、耳波形状は、一方のエッジ波(例えばWSの波形状)の影響が他方のエッジ波(例えばDSの波形状)に影響を及ぼす反対称の形状となることが原因である。
即ち、熱延鋼板Hの波形状が耳波形状の場合、熱延鋼板HのDSの波形状は、WSの波形状に対して、180度位相がずれているため、その位相のずれた波形状に対応した冷却偏差がそれぞれ生じており、板幅方向の温度平均を取ると、通板方向の温度標準偏差が小さくなる。
従って、熱延鋼板Hの波形状が耳波形状の場合、熱間圧延設備1において、冷間圧延工程での板厚変動に影響しない程度の実質的に均一な冷却が行われ、最終的に得られる製品鋼板の歩留まりを向上することができる。
さらに、本願発明者は、熱延鋼板Hに形成される耳波形状の急峻度と、冷却後の熱延鋼板Hの圧延方向の温度標準偏差Yとの相関関係を調査したところ、図12に示すように、急峻度と温度標準偏差Yがほぼ比例関係になるという調査結果を得た。なお、図12は、通板速度と後述の上下熱伝達係数比率Xとを一定値とする条件下で求めた、急峻度と温度標準偏差Yとの相関関係を示すデータである。
図4、図5及び図12に示す調査結果は、熱延鋼板Hの波形状を耳波形状に制御すると、その耳波形状の急峻度に応じて冷却後の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを任意の値に制御できることを示唆している。
つまり、図12に示す急峻度と温度標準偏差Yとの相関関係に基づき、実操業時に要求される温度標準偏差Y(冷間圧延工程での板厚変動を許容レベル内に抑えられる温度標準偏差Y)を実現できる急峻度を求め、その急峻度を目標急峻度として設定し、熱延鋼板Hに形成される耳波形状の急峻度が上記の目標急峻度と一致するように仕上圧延機13の運転パラメータを制御することにより、本発明の目的である、最終的に得られる製品鋼板の歩留まり向上を実現できる。
以下では、上記知見に基づいて、本実施形態の鋼板製造方法について説明する。本実施形態の鋼板製造方法は、鋼材(粗バーBr)を仕上圧延機13で熱間圧延することにより、圧延方向に周期的に波高さが変動する耳波形状が形成された熱延鋼板Hを得る熱間圧延工程と、熱間圧延工程から得られる熱延鋼板Hを、その通板経路上に設けられた冷却区間(つまり冷却装置14)において冷却する冷却工程と、を備えている。
ここで、熱間圧延工程は、予め実験的に求めておいた、熱延鋼板Hの急峻度と冷却後(冷却中でも良い)の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yとの相関関係(図12参照)を示す第1の相関データに基づいて、耳波形状の目標急峻度を設定する目標急峻度設定工程と、耳波形状の急峻度が上記の目標急峻度に一致するように、仕上圧延機13の運転パラメータを制御する形状制御工程と、を含んでいる。
目標急峻度設定工程では、上記の第1の相関データに基づいて、実操業時に要求される温度標準偏差Y(冷間圧延工程での板厚変動を許容レベル内に抑えられる温度標準偏差Y)を実現できる急峻度を求め、その急峻度を目標急峻度として設定する。例えば、図12を参照すると、実操業時に要求される温度標準偏差Yが10℃であった場合、目標急峻度は0.5%に設定される。
形状制御工程では、熱延鋼板Hに形成される耳波形状の急峻度が目標急峻度(例えば0.5%)と一致するように、仕上圧延機13の運転パラメータを制御する。仕上圧延機13の運転パラメータとして、通板速度、加熱温度、押圧力などが挙げられる。従って、これらの運転パラメータの値を調整することにより、熱延鋼板Hに形成される耳波形状の急峻度を目標急峻度に一致させることができる。
具体的には、仕上圧延機13の出口側に、熱延鋼板Hの表面(上面)との距離を測定する距離計を設置しておけば、その距離計から得られる距離測定結果に基づいて、熱延鋼板Hの耳形状の急峻度をリアルタイムで算出することができる。そして、その急峻度の算出結果が目標急峻度と一致するように、仕上圧延機13の運転パラメータをフィードバック制御すれば良い。急峻度の算出及びフィードバック制御には、一般的なマイクロコンピュータ等を備えたコントローラーを使用することができる。
なお、図4及び図5に示す調査結果からわかるように、上記の目標急峻度設定工程では、目標急峻度を0%超1%以内に設定することが好ましい。これにより、冷却後の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが約18℃以下(図12参照)に抑えられ、冷間圧延工程での製品鋼板の板厚変動を大きく抑えることができる。
さらに、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを可能な限り抑えるには、上記の目標急峻度設定工程において、目標急峻度を0%超0.5%以内に設定することがより好ましい。これによれば、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを約10℃以下に抑えることができる(図12参照)。
以上のように、本実施形態の鋼板製造方法によれば、少なくとも熱間圧延工程及び冷却工程を経て製造される鋼板の歩留まり向上を実現することが可能となる。
さらに、冷却後の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yをより低減させるために、上述した本実施形態の冷却工程に、目標比率設定工程と、冷却制御工程との2つの工程が含まれていることが好ましい。
詳細は後述するが、目標比率設定工程では、予め実験的に熱延鋼板Hの急峻度及び通板速度を一定値とする条件下で求めておいた、熱延鋼板Hの上下面の熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率Xと冷却中または冷却後の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yとの相関関係を示す第2の相関データに基づいて、温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1を目標比率Xtとして設定する。
また、冷却制御工程では、冷却区間(冷却装置14によって熱延鋼板Hが冷却される区間)における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xが上記の目標比率Xtと一致するように、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との少なくとも一方を制御する。
上記の目標比率設定工程で用いる第2の相関データは、実操業前(実際に熱延鋼板Hを製造する前)に、熱間圧延設備1を利用して、予め実験的に求めておく。以下では、目標比率設定工程で用いる第2の相関データの求め方について詳細に説明する。
先ず、冷却装置14で熱延鋼板Hを冷却する前に、予め冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力(上側冷却能力)と下側冷却装置14bの冷却能力(下側冷却能力)をそれぞれ調整する。これら上側冷却能力と下側冷却能力は、それぞれ上側冷却装置14aによって冷却される熱延鋼板Hの上面の熱伝達係数と、下側冷却装置14bによって冷却される熱延鋼板Hの下面の熱伝達係数とを用いて調整する。
ここで、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の算出方法について説明する。熱伝達係数は、単位面積からの単位時間当たりの冷却抜熱量(熱エネルギー)を、被熱伝達体と熱媒体との温度差で除した値である(熱伝達係数=冷却抜熱量/温度差)。ここでの温度差は、冷却装置14の入口側の温度計によって測定される熱延鋼板Hの温度と、冷却装置14で用いられる冷却水の温度との差である。
また、冷却抜熱量は、熱延鋼板Hの温度差と比熱と質量をそれぞれ乗じた値である(冷却抜熱量=温度差×比熱×質量)。すなわち、冷却抜熱量は冷却装置14における熱延鋼板Hの冷却抜熱量であって、冷却装置14の入口側の温度計と出口側の温度計によってそれぞれ測定される熱延鋼板Hの温度の差と、熱延鋼板Hの比熱と、冷却装置14で冷却される熱延鋼板Hの質量とをそれぞれ乗じた値である。
上述のように算出された熱延鋼板Hの熱伝達係数は、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数に分けられる。これら上面と下面の熱伝達係数は、例えば次のようにして予め得られる比率を用いて算出される。
すなわち、上側冷却装置14aのみで熱延鋼板Hを冷却する場合の熱延鋼板Hの熱伝達係数と、下側冷却装置14bのみで熱延鋼板Hを冷却する場合の熱延鋼板Hの熱伝達係数を測定する。
このとき、上側冷却装置14aからの冷却水量と下側冷却装置14bからの冷却水量を同一とする。測定された上側冷却装置14aを用いた場合の熱伝達係数と下側冷却装置14bを用いた場合の熱伝達係数との比率の逆数が、後述の上下熱伝達係数比率Xを“1”とする場合の上側冷却装置14aの冷却水量と下側冷却装置14bの冷却水量との上下比率となる。
そして、このようにして得られた冷却水量の上下比率を、熱延鋼板Hを冷却する際の上側冷却装置14aの冷却水量又は下側冷却装置14bの冷却水量に乗じて、上述した熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率(上下熱伝達係数比率X)を算出する。
また、上述では、上側冷却装置14aのみと下側冷却装置14bのみで冷却される熱延鋼板Hの熱伝達係数を用いたが、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの両方で冷却される熱延鋼板Hの熱伝達係数を用いてもよい。すなわち、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却水量を変更した場合の熱延鋼板Hの熱伝達係数を測定し、その熱伝達係数の比率を用いて熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の比率を算出してもよい。
以上のように、熱延鋼板Hの熱伝達係数を算出し、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数の上記比率(上下熱伝達係数比率X)に基づいて、熱延鋼板Hの上面と下面の熱伝達係数が算出される。
そして、この熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを用いて、図6に基づき、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をそれぞれ調整する。図6の横軸は熱延鋼板Hの上面の平均熱伝達係数と下面の平均熱伝達係数の比(すなわち、上下熱伝達係数比率Xと同義である)を表し、縦軸は熱延鋼板Hの圧延方向における最大温度と最小温度との温度の標準偏差(温度標準偏差Y)を表している。
また、図6は、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定値とする条件下で、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を調整することにより、熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを変動させながら、冷却後の熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを実測して得られた、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を示すデータ(第2の相関データ)である。
図6を参照すると、温度標準偏差Yと上下熱伝達係数比率Xとの相関関係は、上下熱伝達係数比率Xが“1”の時に温度標準偏差Yが最小値Yminとなる、V字状の関係になっていることが分かる。
なお、熱延鋼板Hの波形状の急峻度とは、波形状の振幅を1周期分の圧延方向の長さで割った値である。図6は、熱延鋼板Hの急峻度を2%とし、通板速度を600m/min(10m/sec)とする条件下で得られた上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を示している。温度標準偏差Yは、熱延鋼板Hの冷却中に測定しても良いし、冷却後に測定しても良い。また、図6において熱延鋼板Hの目標冷却温度は600℃以上の温度であって、例えば800℃である。
目標比率設定工程では、上記のように予め実験的に求めておいた第2の相関データに基づいて、温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1を目標比率Xtとして設定することになる。この第2の相関データは、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係をテーブル(表形式)で示すデータ(テーブルデータ)として用意しても良いし、または、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を数式(例えば回帰式)で示すデータとして用意しても良い。
例えば、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係を回帰式で示すデータとして第2の相関データを用意する場合、図6に示すV字の線は谷底部を挟んで両側でほぼ直線状に描かれているので、この線を直線回帰することにより回帰式を導出してもよい。線形分布であるとすれば、試験材で確認する回数や、計算予測するための較正の回数が少なくて済む。
そこで、例えば一般的に知られている探索アルゴリズムである、2分法、黄金分割法、ランダムサーチ等の様々な方法を用いて、温度標準偏差Yの最小値Yminを探索する。こうして、図6に示す第2の相関データに基づいて、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1を導出する。また、ここで、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、上下熱伝達係数比率Xに対する熱延鋼板Hの圧延方向の温度標準偏差Yの回帰式をそれぞれ求めておくとよい。
ここで、上述した2分法を用いて、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yの最小値Yminを探索する方法について説明する。
図7は、温度標準偏差Yの最小値Yminを挟んで互いに異なる回帰線が得られるような標準的な場合を示している。この図7に示すように、先ず、実測されたa点、b点、a点とb点の真中のc点における温度標準偏差Ya、Yb、Ycをそれぞれ抽出する。なお、a点とb点の真中とは、a点の上下熱伝達係数比率Xaとb点の上下熱伝達係数比率Xbとの間の値を有するc点を示し、以下においても同様である。そして、温度標準偏差YcがYa又はYbのどちらの値に近いかを判断する。本実施形態では、YcはYaに近い。
次に、a点とc点の真中のd点における温度標準偏差Ydを抽出する。そして、温度標準偏差YdがYa又はYcのどちらの値に近いかを判断する。本実施形態では、YdはYcに近い。
次に、c点とd点の真中のe点における温度標準偏差Yeを抽出する。そして、温度標準偏差YeがYc又はYdのどちらの値に近いかを判断する。本実施形態では、YeはYdに近い。
このような演算を繰り返し行い、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yの最小点f(最小値Ymin)を特定する。なお、実用的な最小点fを特定するためには、上述した演算を例えば5回程度行えばよい。また、探索対象の上下熱伝達係数比率Xの範囲を10分割し、それぞれの範囲で上述した演算を行って最小点fを特定してもよい。
また、いわゆるニュートン法を用いて上下熱伝達係数比率Xを較正してもよい。この場合、上述した回帰式を用いて、実際の温度標準偏差Yの値に対する上下熱伝達係数比率Xと、温度標準偏差Yがゼロとなる上下熱伝達係数比率Xとの偏差分を求め、その偏差分を用いて、熱延鋼板Hを冷却する際の上下熱伝達係数比率Xを修正してもよい。
以上のように、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminになる上下熱伝達係数比率X1(図7中のXf)が導出される。また、V字状になっている温度標準偏差Yと上下熱伝達係数比率Xとの関係については、その両側に分けて、最小2乗法などでそれぞれに回帰関数を求めることは容易である。
さらに、熱延鋼板Hに形成される波形状が耳波形状或いは中波形状のいずれの場合であろうとも、上述したように温度標準偏差Yと上下熱伝達係数比率Xとの関係がV字状になっていることを利用して、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminになる上下熱伝達係数比率X1を導出することができる。
なお、熱延鋼板Hの板幅方向には通常行われているとおり一様に水冷却している。また、板幅方向の温度標準偏差は、圧延方向の温度標準偏差Yが左右交互に発生していることにより生じているため、圧延方向の温度標準偏差Yが低減されれば、板幅方向の温度標準偏差もより低減される。
そして、図6を参照すれば、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1は“1”である。したがって、図6に示すような第2の相関データが得られた場合、温度標準偏差Yを最小値Yminにするため、すなわち熱延鋼板Hを均一に冷却するために、実操業時の目標比率設定工程において、目標比率Xtが“1”に設定されることになる。
そして、冷却制御工程において、冷却区間における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xが上記の目標比率Xt(つまり“1”)と一致するように、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との少なくとも一方が制御されることになる。
具体的には、冷却区間における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを目標比率Xt(つまり“1”)と一致させるためには、例えば、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を同等に調整することにより、熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量を等しくすれば良い。
表1は、図6に示した第2の相関データ(つまり、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係)と、各温度標準偏差Yから最小値Ymin(=2.3℃)を差し引いた値(最小値からの標準偏差の差分)と、各温度標準偏差Yの評価を示している。
表1中の上下熱伝達係数比率Xについては、分子が熱延鋼板Hの上面における熱伝達係数であり、分母が熱延鋼板Hの下面における熱伝達係数である。また、表1中の評価(上下熱伝達係数比率Xの条件についての評価)においては、温度標準偏差Yが最小値Yminとなる条件を“A”とし、後述するように最小値からの標準偏差の差分が10℃以内、すなわち操業が可能となる条件を“B”とし、上述した回帰式を得るために試行錯誤的に行った条件を“C”としている。そして、表1を参照しても、評価が“A”となる、すなわち熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminになる上下熱伝達係数比率X1は“1”である。
なお、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが少なくとも最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まれば、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できるといえる。すなわち、上記の目標比率設定工程では、予め実験的に得られた第2の相関データに基づいて、温度標準偏差Yが最小値Yから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まる上下熱伝達比率Xを目標比率Xtとして設定しても良い。
なお、熱延鋼板Hの温度測定には様々なノイズがあるため、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yの最小値Yminは厳密にはゼロにならない場合がある。そこで、このノイズの影響を除去するため、製造許容範囲を、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲としている。
温度標準偏差Yを最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収めるには、図6或いは図7において、温度標準偏差Yが最小値Ymin+10℃となる縦軸上の点から横軸方向に直線を引き、その直線とV字曲線の両側2本の回帰線との2つの交点を求め、それら2つの交点間の上下熱伝達係数比率Xから目標比率Xtを設定すればよいことになる。なお、表1においては、評価が“B”の上下熱伝達係数比率Xを目標比率Xtとして設定することにより、温度標準偏差Yを最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収めることができる。
また、上下熱伝達係数比率Xを目標比率Xtに一致させるには、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bとの少なくとも一方の冷却水量密度を操作することが最も容易である。そこで、例えば、図6及び図7において、横軸の値を上下水量密度比に読み替えて、平均熱伝達係数の上下で等しい点を挟んだ両側で、水量密度の上下の比率に対する熱延鋼板Hの温度標準偏差Yの回帰式を求めてもよい。ただし、平均熱伝達係数の上下で等しい点は、必ずしも冷却水量密度の上下で等しい点になるとは限らないので、少し広めに試験を行って回帰式を求めるとよい。
また、実操業時に、製造条件の変更により、急峻度及び通板速度の少なくとも一方の値が変化する可能性がある。急峻度及び通板速度の少なくとも一方の値が変化すると、上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの相関関係も変化する。従って、上記の第2の相関データを、急峻度及び通板速度の値が異なる複数の条件のそれぞれについて用意しておき、目標比率設定工程において、それらの複数の第2の相関データの内、実操業時の急峻度及び通板速度の実測値に応じた第2の相関データに基づいて、目標比率Xtを設定しても良い。これにより、実操業時の製造条件に適した均一冷却を行うことができるようになる。
ここで、熱延鋼板Hを均一に冷却するために、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を調整する(熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量とを制御する)ことについて、本願発明者らが鋭意検討した結果、さらに、以下の知見を得るに至った。
本願発明者らは、熱延鋼板Hの波形状が発生した状態での冷却によって発生した温度標準偏差Yの特徴について鋭意検討を重ねて来た結果、次の事を明らかにした。
一般的に、実操業時には、巻取装置15によって熱延鋼板Hを巻き取る時に、熱延鋼板Hの温度を所定の目標温度(巻取りに適した温度)に制御することで熱延鋼板Hの品質を維持する必要がある。
そこで、上述した目標比率設定工程及び冷却制御工程に、冷却区間(つまり冷却装置14)の下流側における熱延鋼板Hの温度を時系列で測定する温度測定工程と、その温度の測定結果に基づいて温度の時系列平均値を算出する温度平均値算出工程と、その温度の時系列平均値が所定の目標温度と一致するように、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との合計値を調整する冷却抜熱量調整工程と、を新たに加えても良い。
これらの新たな工程を実現するために、図16に示すように冷却装置14と巻取装置15との間に配置されている、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40を使用することができる。
温度測定工程では、冷却装置14から巻取装置15へ搬送される熱延鋼板Hに対し、温度計40によって熱延鋼板Hの圧延方向に定められた位置の温度測定を一定の時間間隔(サンプリング間隔)で行い、温度測定結果の時系列データを取得する。なお、温度計40による温度の測定領域は、熱延鋼板Hの幅方向の全域を含む。また、各温度測定結果のサンプリング時間に熱延鋼板Hの通板速度(搬送速度)を乗算すると、各温度測定結果が得られた熱延鋼板Hの圧延方向の位置を算出することができる。つまり、温度測定結果がサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度測定結果の時系列データを圧延方向の位置に紐付けすることが可能となる。
温度平均値算出工程では、上記の温度測定結果の時系列データを用いて、温度測定結果の時系列平均値を算出する。具体的には、温度測定結果が一定個数得られるごとに、それらの一定個数分の温度測定結果の平均値を算出すれば良い。そして、冷却抜熱量調整工程では、上記のように算出された温度測定結果の時系列平均値が所定の目標温度と一致するように、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との合計値を調整する。
ここで、冷却区間における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを目標比率Xtと一致させるという制御目標を達成しながら、上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との合計値を調整する必要がある。
具体的に、上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との合計値を調整する時には、例えば三塚の式等に代表される実験理論式を用いて予め求められた理論値に対して、実際の操業実績との誤差を補正する様に設定した学習値に基づき、冷却装置14に接続される冷却ヘッダーのオンオフ制御を行っても良い。或いは、実際に温度計40で測定された温度に基づいて、上記冷却ヘッダーのオンオフをフィードバック制御又はフィードフォワード制御してもよい。
次に、上述した温度計40と、図16に示すように冷却装置14と巻取装置15との間に配置されている、熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41から得られるデータを用いて従来のROTの冷却制御について説明をする。
なお、形状計41は、熱延鋼板H上に定められた温度計40と同一の測定位置(以下では、この測定位置を定点と呼ぶ場合がある)の形状を測定する。ここで、形状とは、定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量に熱延鋼板Hの通板方向の移動量を用いて、波のピッチ分の高さ或いは変動成分の線積分で求めた急峻度である。また、同時に単位時間当たりの変動量、つまり変動速度も求める。さらに、形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に、熱延鋼板Hの幅方向の全域を含む。温度測定結果と同じく、各測定結果(急峻度、変動速度等)がサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、各測定結果の時系列データを圧延方向の位置に紐付けすることが可能となる。
図8は、通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の熱延鋼板Hの温度変動と急峻度の関係を示している。図8における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xは1.2:1であり、上側冷却能力が下側冷却能力よりも高くなっている。図8の上側のグラフは、コイル先端からの距離或いは定点経過時間に対する温度変動を示し、図8の下側のグラフは、コイル先端からの距離または定点経過時間に対する急峻度を示している。
図8における領域Aは、図16に示すストリップ先端部が巻取装置15のコイラーに噛み込まれる前の領域(張力が無い為、形状が悪い領域)である。図8における領域Bは、ストリップ先端部がコイラーに噛み込まれた後の領域(ユニットテンションの影響で波形状がフラットに変化する領域)である。このような熱延鋼板Hの形状がフラットでない領域Aで発生する大きな温度変動(つまり温度標準偏差Y)を改善することが望まれる。
そこで、本願発明者らは、ROTにおける温度標準偏差Yの増大を抑制することを目標として、鋭意実験を行ってきた結果、以下のような知見を得るに至った。
図9は、図8と同様に通常の操業における代表的なストリップのROT内冷却の同一形状急峻度に対する温度変動成分を示している。この温度変動成分とは、実際の鋼板温度から温度の時系列平均(以下、「平均温度」という場合がある)を引いた残差である。例えば平均温度は、熱延鋼板Hの波形状1周期以上の範囲を平均としても良い。
なお、平均温度は、原則として周期単位での範囲の平均である。また、1周期の範囲の平均温度は、2周期以上の範囲の平均温度と大きな差がないことが操業データによって確認されている。
従って、少なくとも波形状1周期の範囲の平均温度を算出すればよい。熱延鋼板Hの波形状の範囲の上限は特に限定されないが、好ましくは5周期に設定すれば、十分な精度の平均温度を得られる。また、平均する範囲が周期単位の範囲でなくとも、2〜5周期の範囲であれば許容できる平均温度を得られる。
ここで、熱延鋼板Hの鉛直方向(熱延鋼板Hの上下面に直交する方向)の上向きを正とすると、定点で測定された変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度(定点で測定された温度)が低い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
また、定点で測定された変動速度が負の領域で、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
そして、上記のように決定された制御方向に基づいて、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整すると、図10に示すように、図9と比較して、熱延鋼板Hの形状がフラットでない領域Aで発生する温度変動を低減できることがわかった。
上記とは逆の操作を行った場合について以下に記す。定点で測定された変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
また、定点で測定された変動速度が負の領域で、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
そして、上記のように決定された制御方向に基づいて、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整すると、図11に示すように、図9と比較して、熱延鋼板Hの形状がフラットでない領域Aで発生する温度変動が拡大することがわかった。なお、ここで説明する例でも冷却停止温度を変えてよいという前提にはなっていない。すなわち、このように上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の増減方向(制御方向)を決定する場合でも、熱延鋼板Hの冷却停止温度が所定の目標冷却温度になるように冷却抜熱量が調整される。
この関係を利用すれば、温度変動、つまり温度標準偏差Yを低減させるために冷却装置14の上側冷却装置14aと下側冷却装置14bのどちらの冷却能力を調整すればよいのかが明確になる。なお、表2は上記関係をまとめた表である。
このように、上述した目標比率設定工程及び冷却制御工程に、冷却区間の下流側における熱延鋼板Hの温度(定点での温度)を時系列で測定する温度測定工程と、熱延鋼板Hの温度測定箇所と同一箇所(定点)での熱延鋼板Hの鉛直方向の変動速度を時系列で測定する変動速度測定工程と、温度測定結果及び変動速度測定結果に基づいて上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の制御方向を決定する制御方向決定工程と、決定された制御方向に基づいて、冷却区間における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整する冷却抜熱量調整工程と、を新たに追加しても良い。
ここで、制御方向決定工程では、上記のように、熱延鋼板Hの定点での変動速度が正の領域で、熱延鋼板Hの定点での平均温度に対して熱延鋼板Hの定点での温度が低い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
また、この制御方向決定工程では、上記の変動速度が負の領域で、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が低い場合は、上面冷却抜熱量が増加する方向及び下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、上記の平均温度に対して熱延鋼板Hの温度が高い場合は、上面冷却抜熱量が減少する方向及び下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定する。
なお、この冷却方法においても、冷却区間における熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを目標比率Xtと一致させるという制御目標を達成しながら、上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量を調整する必要がある。
なお、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力の調整する際には、例えば上側冷却装置14aの冷却口31に接続される冷却ヘッダーと下側冷却装置14bの冷却口31に接続される冷却ヘッダーとを、それぞれオンオフ制御してもよい。あるいは、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bにおける各冷却ヘッダーの冷却能力を制御してもよい。すなわち、各冷却口31から噴射される冷却水の水量密度、圧力、水温の少なくとも一つを調整してもよい。
また、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却ヘッダー(冷却口31)を間引いて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bから噴射される冷却水の流量や圧力を調整してもよい。例えば冷却ヘッダーを間引く前の上側冷却装置14aの冷却能力が、下側冷却装置14bの冷却能力よりも上回っている場合、上側冷却装置14aを構成する冷却ヘッダーを間引くことが好ましい。
こうして調整された冷却能力で、上側冷却装置14aから熱延鋼板Hの上面に冷却水を噴射すると共に、下側冷却装置14bから熱延鋼板Hの下面に冷却水を噴射することにより、熱延鋼板Hが均一に冷却される。
以上の実施形態では、図6に示す第2の相関データを、熱延鋼板Hの通板速度を600m/minに固定して求めた場合について説明したが、本願発明者らが鋭意検討した結果、前述した上下面抜熱量制御に加えて、通板速度を550m/min以上に設定すれば、熱延鋼板Hをより均一にできることが分かった。
熱延鋼板Hの通板速度を550m/min以上に設定すると、熱延鋼板Hに冷却水を噴射しても、熱延鋼板H上の乗り水の影響が顕著に少なくなることが分かった。このため、乗り水による熱延鋼板Hの不均一冷却も回避することができる。なお、熱延鋼板Hの通板速度は、高速であるほど良いが、機械的な限界速度(例えば、1550m/min)を越えることは不可能である。従って、実質的に、冷却区間における熱延鋼板Hの通板速度は、550m/min以上から機械的な限界速度以下までの範囲で設定されることになる。また、実操業時における通板速度の上限値(操業上限速度)が予め定められている場合には、熱延鋼板Hの通板速度を、550m/min以上から操業上限速度(例えば、1200m/min)以下までの範囲で設定することが好ましい。
また、一般的に、引張強度が大きい熱延鋼板H(特に、引張強度(TS)が800MPa以上であって、現実的には1400MPaを上限とする、いわゆるハイテンと呼ばれる鋼板など)である場合には、その熱延鋼板Hの硬度が高いことに起因して、熱間圧延設備1における圧延時に生じる加工発熱が大きくなることが知られている。従って、従来は、冷却装置14(つまり冷却区間)における熱延鋼板Hの通板速度を低く抑えることにより、冷却を十分に行うものとしていた。
そこで、本願発明者らは、熱間圧延設備1の仕上圧延機13において、例えば6〜7スタンドに亘って設けられる一対の仕上げ圧延ロール13a(即ち、圧延スタンド)同士の間で、冷却(いわゆるスタンド間冷却)を行うことにより、上記加工発熱を抑制し、冷却装置14における熱延鋼板Hの通板速度を550m/min以上に設定できることを見出した。特に熱延鋼板Hの引張強度(TS)が800MPa以上である場合に、スタンド間冷却を行うことで熱延鋼板Hの加工発熱が抑制され、冷却装置14における熱延鋼板Hの通板速度を550m/min以上に保つことが可能となる。
以上の実施形態において、冷却装置14による熱延鋼板Hの冷却は、仕上圧延機出側温度から、この熱延鋼板Hの温度が600℃までの範囲で行われるのが好ましい。熱延鋼板Hの温度が600℃以上の温度領域は、いわゆる膜沸騰領域である。すなわち、この場合、いわゆる遷移沸騰領域を回避し、膜沸騰領域で熱延鋼板Hを水冷することができる。遷移沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面に冷却水を噴射した際、この熱延鋼板H表面において、蒸気膜に覆われる部分と、冷却水が熱延鋼板Hに直接噴射される部分とが混在する。
このため、熱延鋼板Hを均一に冷却することができない。一方、膜沸騰領域では、熱延鋼板Hの表面全体が蒸気膜に覆われた状態で熱延鋼板Hの冷却が行われるので、熱延鋼板Hを均一に冷却することができる。したがって、本実施形態のように熱延鋼板Hの温度が600℃以上の範囲において、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
以上の実施形態では、図6に示すような第2の相関データを用いて、冷却装置14の上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整する際、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と熱延鋼板Hの通板速度を一定としていた。しかしながら、例えばコイル毎に、これら熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合もある。
本願発明者らが調べたところ、例えば図12に示すように、熱延鋼板Hの波形状の急峻度が大きくなれば、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが大きくなる。すなわち、図13に示すように、上下熱伝達係数比率Xが“1”から離れるにつれて、急峻度(急峻度の感度)に応じて温度標準偏差Yが大きくなる。図13では、上述したように上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの関係が、急峻度毎にV字の回帰線によって表されている。なお、図13において、熱延鋼板Hの通板速度は10m/sec(600m/min)で一定である。
また、例えば、図14に示すように、熱延鋼板Hの通板速度が高速になると、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが大きくなる。すなわち、図15に示すように、上下熱伝達係数比率Xが“1”から離れるにつれて、通板速度(通板速度の感度)に応じて温度標準偏差Yが大きくなる。図15では、上述したように上下熱伝達係数比率Xと温度標準偏差Yとの関係が、通板速度毎にV字の回帰線によって表されている。なお、図15において、熱延鋼板Hの波形状の急峻度は2%で一定である。
このように熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合、上下熱伝達係数比率Xに対する温度標準偏差Yの変化を定性的に評価できるものの、定量的に正確に評価することができない。
そこで、予め熱延鋼板Hの上下熱伝達係数比率Xを固定しておき、例えば図12に示すように、急峻度を3%から0%まで段階的に変更させて、各急峻度と熱延鋼板Hの冷却後の温度標準偏差Yとの相関関係を示すテーブルデータを求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの急峻度z%に対する温度標準偏差Yを、内挿関数によって所定の急峻度に対する温度標準偏差Y’に補正する。具体的には、補正条件として所定の急峻度を2%にする場合、急峻度z%における温度標準偏差Yzに基づいて、下記式(1)で温度標準偏差Yz’が算出される。あるいは、例えば図12における急峻度の勾配αを最小二乗法等で算出し、その勾配αを用いて温度標準偏差Yz’を算出してもよい。
Yz’=Yz×2/z・・・・(1)
また、図13に示すV字曲線の回帰式において、急峻度を所定の急峻度に補正し、その回帰式から温度標準偏差Yを導出してもよい。なお、表3は、図12中の急峻度に対して、図13に示したように上下熱伝達係数比率Xを変動させた場合の熱延鋼板Hの温度標準偏差Y、熱延鋼板Hの各温度標準偏差Yから最小値Ymin(急峻度が1%の場合はYmin=1.2℃、急峻度が2%の場合はYmin=2.3℃、急峻度が3%の場合はYmin=3.5℃)を差し引いた値(最小値からの標準偏差の差分)、及び各温度標準偏差Yの評価を示している。
この表3における上下熱伝達係数比率Xの表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図13又は表3を用いて、急峻度に応じた熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを導出できる。そして、例えば、急峻度を2%に補正する場合、表3における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達係数比率Xを1.1に設定することができる。
同様に、例えば、図14に示すように、通板速度を5m/sec(300m/min)から20m/sec(1200m/min)まで段階的に変更させて、通板速度と熱延鋼板Hの冷却後の温度標準偏差Yとの相関関係を示すテーブルデータを求めておく。そして、実際の熱延鋼板Hの通板速度v(m/sec)に対する温度標準偏差Yを、内挿関数によって所定の通板速度に対する温度標準偏差Y’に補正する。具体的には、補正条件として所定の通板速度を10(m/sec)にする場合、通板速度v(m/sec)における温度標準偏差Yvに基づいて、下記式(2)で温度標準偏差Yv’が算出される。あるいは、例えば、図14における通板速度の勾配βを最小二乗法等で算出し、その勾配βを用いて温度標準偏差Yv’を算出してもよい。
Yz’=Yv×10/v・・・・(2)
また、図15に示すV字曲線の回帰式において、通板速度を所定の通板速度に補正し、その回帰式から温度標準偏差Yを導出してもよい。なお、表4は、図14中の通板速度に対して、図15に示したように上下熱伝達係数比率Xを変動させた場合の熱延鋼板Hの温度標準偏差Y、各温度標準偏差Yから最小値Ymin(通板速度が5m/sの場合はYmin=1.2℃、通板速度が10m/sの場合はYmin=2.3℃、通板速度が15m/sの場合はYmin=3.5℃、通板速度が20m/sの場合はYmin=4.6℃)を差し引いた値(最小値からの標準偏差の差分)、及び各温度標準偏差Yの評価を示している。
この表4における上下熱伝達係数比率Xの表示と評価の基準については、表1の評価と同様であるので説明を省略する。この図15又は表4を用いて、通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度標準偏差Yを導出できる。そして、例えば、通板速度を10m/secに補正する場合、表4における評価が“B”となる、すなわち熱延鋼板Hの最小値からの標準偏差の差分が10℃以内となる上下熱伝達係数比率Xを1.1に設定することができる。
以上のように温度標準偏差Yを補正することによって、熱延鋼板Hの急峻度や通板速度が一定でない場合でも、上下熱伝達係数比率Xに対する温度標準偏差Yの変化を定量的に正確に評価することができる。
以上の実施形態において、冷却装置14で冷却された熱延鋼板Hの温度と波形状を測定し、その測定結果に基づいて、上側冷却装置14aの冷却能力と下側冷却装置14bの冷却能力を調整してもよい。すなわち、これら上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御してもよい。
この場合、図16に示すように冷却装置14と巻取装置15との間には、熱延鋼板Hの温度を測定する温度計40と、熱延鋼板Hの波形状を測定する形状計41とが配置されている。
そして、通板中の熱延鋼板Hに対し、温度計40と形状計41によって温度と形状をそれぞれ同一点で定点測定を行い、時系列データとして測定する。なお、温度の測定領域は、熱延鋼板Hの幅方向の全域を含む。また、形状とは、定点測定で観測される熱延鋼板Hの高さ方向の変動量を示す。さらに、形状の測定領域は、温度の測定領域と同様に熱延鋼板Hの幅方向の全域を含む。これらのサンプリングされた時間に通板速度を乗じると、温度及び変動速度などの測定結果の時系列データを圧延方向の位置に紐付けすることが可能となる。なお、温度計40と形状計41の測定点は厳密に同一点でなくてもよいが、測定精度を保つため、温度計40と形状計41の測定点のずれは、圧延方向にも板幅方向にも任意の方向に50mm以内であることが望ましい。
図8、図9、図10及び図11を使って説明したように、熱延鋼板Hの定点での変動速度が正の領域で、定点での平均温度に対して熱延鋼板Hの定点での温度が低い場合には、上側冷却能力(上面冷却抜熱量)を小さくすることにより、温度標準偏差Yを低減することができる。同様に、下側冷却能力(下面冷却抜熱量)を大きくすることにより、温度標準偏差Yを低減することができる。この関係を利用すれば、温度標準偏差Yを低減させるために、冷却装置14の上側冷却装置14aと下側冷却装置14bのどちらの冷却能力を調整すればよいのかが明確になる。
すなわち、これらの熱延鋼板Hの波形状と紐付けられる温度の変動位置を把握すれば、現在発生している温度標準偏差Yが上側冷却あるいは下側冷却のどちらによって発生しているかを明らかにすることが可能となる。したがって、温度標準偏差Yを小さくするための上側冷却能力(上面冷却抜熱量)と下側冷却能力(下面冷却抜熱量)の増減方向(制御方向)が決定され、上下熱伝達係数比率Xを調整することができる。
また、温度標準偏差Yの大きさに基づいて、その温度標準偏差Yが許容範囲、例えば最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まるように上下熱伝達係数比率Xを決定することができる。この上下熱伝達係数比率Xを決定する方法は、図6及び図7を用いて説明した上記実施形態と同様であるので、詳細な説明を省略する。なお、この温度標準偏差Yを最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収めることにより、降伏応力、引張強さなどのバラつきを製造許容範囲内に抑えられ、熱延鋼板Hを均一に冷却できる。
また、かなりのばらつきはあるものの、冷却水量密度比率が、温度標準偏差Yが最小値Yminとなる冷却水量密度比率に対して±5%以内であれば、温度標準偏差Yを最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収めることができる。すなわち、冷却水量密度を用いる場合、冷却水量密度の上下比率(冷却水量密度比率)を、温度標準偏差Yが最小値Yminとなる冷却水量密度比率に対して±5%以内に設定することが望ましい。ただし、この許容範囲は必ずしも上下同水量密度を含むとは限らない。
以上のように上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力をフィードバック制御して定性的及び定量的に適切な冷却能力に調整できるので、その後冷却される熱延鋼板Hの均一性をより向上させることができる。
以上の実施形態において、図17に示すように、熱延鋼板Hが冷却される冷却区間を圧延方向に複数、例えば2つの分割冷却区間Z1、Z2に分割してもよい。各分割冷却区間Z1、Z2には、それぞれ冷却装置14が設けられている。また、各分割冷却区間Z1、Z2の境、すなわち分割冷却区間Z1、Z2の下流側には、温度計40と形状計41がそれぞれ設けられている。なお、本実施形態では、冷却区間を2つの分割冷却区間に分割したが、分割数はこれに限定されず任意に設定できる。例えば冷却区間を、1つ〜5つの分割冷却区間に分割してもよい。
この場合、各温度計40と各形状計41によって、分割冷却区間Z1とZ2の下流側の熱延鋼板Hの温度と波形状をそれぞれ測定する。そして、これらの測定結果に基づき、各分割冷却区間Z1、Z2における上側冷却装置14a及び下側冷却装置14bの冷却能力を制御する。このとき、熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが許容範囲、例えば上述したように最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まるように冷却能力が制御される。こうして、各分割冷却区間Z1、Z2における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方が調整される。
例えば、分割冷却区間Z1においては、その下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードバック制御され、上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方が調整される。
また、分割冷却区間Z2においては、その下流側における温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力がフィードフォワード制御されてもよいし、或いはフィードバック制御されてもよい。いずれの場合においても、分割冷却区間Z2において、上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方が調整される。
なお、温度計40と形状計41の測定結果に基づいて、上側冷却装置14aと下側冷却装置14bの冷却能力を制御する方法は、図8〜図11を用いて説明した上記実施形態と同様であるので詳細な説明を省略する。
この場合、各分割冷却区間Z1、Z2のそれぞれにおいて、熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方が調整されるので、より細やかな制御が可能となる。したがって、熱延鋼板Hをより均一に冷却することができる。
以上の実施形態において、各分割冷却区間Z1、Z2のそれぞれにおいて、熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整する時に、温度計40と形状計41の測定結果に加えて、熱延鋼板Hの波形状の急峻度と通板速度の少なくとも一方を用いてもよい。この場合、図12〜図15を用いて説明した上記実施形態と同様の方法で、少なくとも急峻度又は通板速度に応じた熱延鋼板Hの温度標準偏差Yが補正される。そして、この補正された温度標準偏差Y(Y’)に基づいて、各分割冷却区間Z1、Z2における熱延鋼板Hの上面冷却抜熱量及び下面冷却抜熱量の少なくとも一方が補正される。これにより、熱延鋼板Hをさらに均一に冷却することができる。
また、本実施形態によれば、熱延鋼板Hの板幅方向においても均一な形状や材質となるように仕上げることが可能となる。熱延鋼板Hの板幅方向の温度標準偏差は、圧延方向の温度標準偏差Yが左右交互に発生していることにより生じているため、圧延方向の温度標準偏差Yが低減されれば、板幅方向の温度標準偏差もより低減される。図18は、中伸びによって、熱延鋼板Hの板幅方向に振幅の異なる波形状が形成された様子の一例を示している。このように、板幅方向に振幅の異なる波形状が生じて、板幅方向に温度標準偏差が形成される場合であっても、上述した本実施形態によれば、この板幅方向の温度標準偏差を低減することが可能となる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
(実施例1)
本願発明者は、実施例1として、板厚2.3mm、板幅1200mmのハイテン(いわゆる高張力鋼板)を材料とし、当該材料に中波形状、耳波形状をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例1および以下に説明する実施例2、3では、便宜上、中波形状を形成した場合の急峻度を−0.5%〜−2%と表し、耳波形状を形成した場合の急峻度を0.5%〜2%と表した。
また、中波形状及び耳波形状の測定は市販の形状測定器を用いて測定したものであり、中波形状の測定箇所は板中央から左右30mm以内の板中央部であり、耳波形状の測定箇所は板端から25mmの箇所とした。更に、本実施例1においては、冷却時の上下冷却比(上下熱伝達係数比率)は上冷却:下冷却=1.2:1とし、通板速度を400m/min、鋼板の巻き取り温度(CT)を500℃とした。
その測定結果及び評価結果を以下の表5に示す。このとき、以下の実施例における評価基準としては、後工程における冷延ゲージ変動が0〜25μmに抑えられたものをA(製品として良好)、25〜50μmであったものをB(許容範囲)、50μm超であったものをC(製品不良)として評価している。なお、表5中の総合評価については、後述する。また、表5中には、参考のため鋼板圧延方向における各波形状の温度標準偏差も記載した。
表5に示すように、鋼板に中波形状を形成した場合(表中、急峻度が−0.5%〜−2%の場合)、冷延工程における冷延ゲージ変動は30μm〜120μmであったのに対し、耳波形状を形成した場合(表中、急峻度が0.5%〜2%の場合)、冷延工程における冷延ゲージ変動は21μm〜84μmであった。即ち、同じ急峻度の波形状を鋼板に形成したとしても、中波形状を形成した場合に比べ、耳波形状を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)が小さく抑えられることが分かった。
また、表5の結果から、鋼板に中波形状を形成した場合と、耳波形状を形成した場合との板幅方向平均温度変動を比較すると、同じ急峻度でも、耳波形状を形成した場合の方が、中波形状を形成した場合に比べ板幅方向平均温度変動が低く抑えられていることが分かった。従って、中波形状を形成した場合に比べ、耳波形状を形成した場合には冷延時の鋼板幅方向の温度ムラが低減され、材質のバラツキが抑制されることが確認された。
また、一般的に鋼板の冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表5に示すように、鋼板に耳波形状を形成する場合において、その耳波形状の急峻度を0%超1%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表5中の評価A、B)に抑えられることが分かった。更には、耳波形状の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表5中の評価A)に抑えられることが分かった。
(実施例2)
次に、本願発明者は、実施例2として、上記実施例1と同様の材料に中波形状、耳波形状をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例2では、通板速度を600m/minとし、その他の条件は実施例1と同一とした。その測定結果及び評価結果を以下の表6に示す。
表6に示すように、上記実施例1と同様に、同じ急峻度の波形状を鋼板に形成したとしても、中波形状を形成した場合に比べ、耳波形状を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)及び板幅方向平均温度変動が低く抑えられることが分かった。加えて、表5と表6を比較して分かるように、本実施例2では通板速度を600m/minと実施例1に比べ高速化したことにより、中波形状を形成した場合及び耳波形状を形成した場合の両方において、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動が低減される。即ち、通板速度を高速化することにより、鋼板と搬送ロールとの接触時間が短くなり、接触抜熱による冷却の不均一性が緩和されて均一な冷却が行われるため、後工程における冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動が更に低減されることが実証された。
また、上記実施例1同様、冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表6に示すように、鋼板に耳波形状を形成する場合において、その耳波形状の急峻度を0%超1.5%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表6中の評価A、B)に抑えられることが分かった。従って、通板速度を高速化した場合は、耳波形状の制御範囲を1.5%にまで広げることも可能である。更には、耳波形状の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表6中の評価A)に抑えられることが分かった。
(実施例3)
次に、本願発明者は、実施例3として、上記実施例1、2と同様の材料に中波形状、耳波形状をそれぞれ形成させ、その急峻度を0%(波形成無し)〜2%までの種々の値に変更して冷却を行った場合の、後工程(即ち、冷延工程)における冷延ゲージ変動(板厚変動)と板幅方向平均温度変動を測定し、評価を行った。なお、本実施例3では、冷却時の上下冷却比(上下熱伝達係数比率)を上冷却:下冷却=1.1:1とし、その他の条件は上記実施例1と同一とした。その測定結果及び評価結果を以下の表7に示す。
表7に示すように、上記実施例1と同様に、同じ急峻度の波形状を鋼板に形成したとしても、中波形状を形成した場合に比べ、耳波形状を形成した場合の方が冷延工程における冷延ゲージ変動(即ち、板厚変動)及び板幅方向平均温度変動が低く抑えられることが分かった。加えて、表5と表7を比較して分かるように、鋼板冷却時の上下冷却比を、上冷却:下冷却1.1:1とすることで、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動がより低減されることが分かった。即ち、鋼板冷却時の上下冷却比を1:1に近づけることで、後工程での冷延ゲージ変動と板幅方向平均温度変動をより低減させられることが確認された。
また、本実施例3においても、上記実施例1同様、冷延工程における板厚変動は、製品不良等の歩留まりの低下を抑えるために小さいほうが望ましい。従って、上記表7に示すように、鋼板に耳波形状を形成する場合において、その耳波形状の急峻度を0%超1.5%以内とすると、冷延ゲージ変動を小さい値(例えば、表7中の評価A、B)に抑えられることが分かった。従って、鋼板冷却時の上下冷却比を、上冷却:下冷却=1.1:1とすることができる場合は、耳波形状の制御範囲を1.5%にまで広げることも可能である。更には、耳波形状の急峻度を0%超0.5%以内とすると、冷延ゲージ変動をより小さい値(例えば、表7中の評価A)に抑えられることが分かった。
ところで、表5〜表7において急峻度0%で評価がAである。急峻度0%にいつでも制御できればよいが、この急峻度0%で耳波形状と中波形状とでゲージ変動にかかるゲインを変更することになる。ゲインを常時変更するような制御はあまり好ましくないので、耳波形状の急峻度は、0.05%以上とする、あるいは0.1%以上とするなど、0%超となるように制御して熱延鋼板を冷却することが望ましい。このため、表5〜表7において、急峻度0%の総合評価をCとしている。
また、表5〜表7において急峻度−0.5%又は−1%で評価がBである。しかしながら、上述したように急峻度が−0.5%以下は熱延鋼板に中波形状を形成した場合であって、後工程における冷延ゲージ変動を十分に抑えることができない。このため、表5〜表7において急峻度−0.5%以下の総合評価をCとしている。
本発明は、仕上圧延機で熱間圧延され、圧延方向に表面高さが変動する波形状が形成された熱延鋼板を冷却する際に有用である。
1 熱間圧延設備
11 加熱炉
12 粗圧延機
12a ワークロール
12b 4重圧延機
13 仕上圧延機
13a 仕上げ圧延ロール
14 冷却装置
14a 上側冷却装置
14b 下側冷却装置
15 巻取装置
16 幅方向圧延機
31 冷却口
32 搬送ロール
40 温度計
41 形状計
H 熱延鋼板
S スラブ
Z1、Z2 分割冷却区間

Claims (19)

  1. 鋼材を仕上圧延機で熱間圧延することにより、圧延方向に周期的に波高さが変動する耳波形状が形成された熱延鋼板を得る熱間圧延工程と;
    前記熱延鋼板を、その通板経路上に設けられた冷却区間において冷却する冷却工程と;
    を備え、
    前記熱間圧延工程は、
    予め実験的に求めておいた、前記熱延鋼板の前記耳波形状の急峻度と前記熱延鋼板の冷却中または冷却後の温度標準偏差Yと相関関係を示す第1の相関データに基づいて、前記耳波形状の目標急峻度を設定する目標急峻度設定工程と、
    前記耳波形状の急峻度が前記目標急峻度と一致するように、前記仕上圧延機の運転パラメータを制御する形状制御工程と、
    を含むことを特徴とする鋼板製造方法。
  2. 前記目標急峻度設定工程では、前記目標急峻度を0%超1%以内に設定することを特徴とする請求項1に記載の鋼板製造方法。
  3. 前記冷却工程が、
    予め実験的に前記熱延鋼板の急峻度及び通板速度を一定値とする条件下で求めておいた、前記熱延鋼板の上下面の熱伝達係数の比率である上下熱伝達係数比率Xと前記熱延鋼板の冷却中または冷却後の前記温度標準偏差Yとの相関関係を示す第2の相関データに基づいて、前記温度標準偏差Yが最小値Yminとなる上下熱伝達係数比率X1を目標比率Xtとして設定する目標比率設定工程と;
    前記冷却区間における前記熱延鋼板の上下熱伝達係数比率Xが前記目標比率Xtと一致するように、前記冷却区間における前記熱延鋼板の上面冷却抜熱量と下面冷却抜熱量との少なくとも一方を制御する冷却制御工程と;
    を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板製造方法。
  4. 前記目標比率設定工程では、前記第2の相関データに基づいて、前記温度標準偏差Yが最小値Yminから最小値Ymin+10℃以内の範囲に収まる上下熱伝達係数比率Xを前記目標比率Xtとして設定することを特徴とする請求項3に記載の鋼板製造方法。
  5. 前記第2の相関データは、前記急峻度及び前記通板速度の値が異なる複数の条件のそれぞれについて用意されており、
    前記目標比率設定工程では、前記複数の第2の相関データの内、前記急峻度及び前記通板速度の実測値に応じた第2の相関データに基づいて前記目標比率Xtを設定することを特徴とする請求項3または4に記載の鋼板製造方法。
  6. 前記第2の相関データは、前記上下熱伝達係数比率Xと前記温度標準偏差Yとの相関関係を回帰式で示すデータであることを特徴とする請求項3〜5の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  7. 前記回帰式は線形回帰によって導出されたものであることを特徴とする請求項6に記載の鋼板製造方法。
  8. 前記第2の相関データは、前記上下熱伝達係数比率Xと前記温度標準偏差Yとの相関関係をテーブルで示すデータであることを特徴とする請求項3に記載の鋼板製造方法。
  9. 前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度を時系列で測定する温度測定工程と;
    前記温度の測定結果に基づいて前記温度の時系列平均値を算出する温度平均値算出工程と;
    前記温度の時系列平均値が所定の目標温度と一致するように、前記冷却区間における前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量と前記下面冷却抜熱量との合計値を調整する冷却抜熱量調整工程と;
    をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の鋼板製造方法。
  10. 前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度を時系列で測定する温度測定工程と;
    前記冷却区間の下流側における前記熱延鋼板の温度測定箇所と同一箇所での前記熱延鋼板の鉛直方向の変動速度を時系列で測定する変動速度測定工程と;
    前記熱延鋼板の鉛直方向の上向きを正とした場合において、前記変動速度が正の領域で、前記熱延鋼板の波形状1周期以上の範囲の平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が低い場合は、前記上面冷却抜熱量が減少する方向及び前記下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を制御方向として決定し、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が高い場合は、前記上面冷却抜熱量が増加する方向及び前記下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定し、
    前記変動速度が負の領域で、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が低い場合は、前記上面冷却抜熱量が増加する方向及び前記下面冷却抜熱量が減少する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定し、前記平均温度に対して前記熱延鋼板の温度が高い場合は、前記上面冷却抜熱量が減少する方向及び前記下面冷却抜熱量が増加する方向の少なくとも一方を前記制御方向として決定する制御方向決定工程と;
    前記制御方向決定工程にて決定された前記制御方向に基づいて、前記冷却区間における前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整する冷却抜熱量調整工程と;
    をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の鋼板製造方法。
  11. 前記冷却区間は、前記熱延鋼板の通板方向に沿って複数の分割冷却区間に分割されており、
    前記温度測定工程及び前記変動速度測定工程では、前記分割冷却区間の境のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の温度及び変動速度を時系列的に測定し、
    前記制御方向決定工程では、前記分割冷却区間の境のそれぞれにおける前記熱延鋼板の温度及び変動速度の測定結果に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれについて前記熱延鋼板の上下面の冷却抜熱量の増減方向を決定し、
    前記冷却抜熱量調整工程では、前記分割冷却区間のそれぞれについて決定された前記制御方向に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を調整するためにフィードバック制御又はフィードフォワード制御を行う
    ことを特徴とする請求項10に記載の鋼板製造方法。
  12. 前記分割冷却区間の境のそれぞれにおいて前記熱延鋼板の前記急峻度又は前記通板速度を測定する測定工程と;
    前記急峻度または前記通板速度の測定結果に基づいて、前記分割冷却区間のそれぞれにおける前記熱延鋼板の前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量の少なくとも一方を補正する冷却抜熱量補正工程と;
    をさらに有することを特徴とする請求項11に記載の鋼板製造方法。
  13. 前記冷却区間の下流側において、前記熱延鋼板の温度標準偏差が許容される範囲に入るように、前記熱延鋼板をさらに冷却する後冷却工程をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の鋼板製造方法。
  14. 前記冷却区間における前記熱延鋼板の通板速度は、550m/min以上から機械的な限界速度以下の範囲で設定されていることを特徴とする請求項1〜1の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  15. 前記熱延鋼板の引張強度は800MPa以上であることを特徴とする請求項1〜14の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  16. 前記仕上圧延機は複数の圧延スタンドから構成されており、
    前記複数の圧延スタンド同士の間で前記熱延鋼板の補助冷却を行う補助冷却工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜15の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  17. 前記冷却区間には、前記熱延鋼板の上面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する上側冷却装置と、前記熱延鋼板の下面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する下側冷却装置とが設けられており、
    前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量は、前記各ヘッダーをオンオフ制御することによって調整されることを特徴とする請求項3〜16の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  18. 前記冷却区間には、前記熱延鋼板の上面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する上側冷却装置と、前記熱延鋼板の下面に冷却水を噴射する複数のヘッダーを有する下側冷却装置とが設けられており、
    前記上面冷却抜熱量及び前記下面冷却抜熱量は、前記各ヘッダーの水量密度、圧力及び水温の少なくとも一つを制御することによって調整されることを特徴とする請求項3〜16の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
  19. 前記冷却区間での冷却は、前記熱延鋼板の温度が600℃以上の範囲で行われることを特徴とする請求項1〜18の何れか一項に記載の鋼板製造方法。
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