(画像形成装置例の概略構成)
図3は、本発明に係る定着装置(像加熱装置)20を備えた画像形成装置100の一例の概略構成を示す装置断面図である。この画像形成装置100は、電子写真方式を用いて、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のトナー像を重ね合わせることで記録材Sにフルカラー画像を形成するフルカラー画像形成装置(フルカラーレーザープリンタ)である。即ち、パソコン・イメージリーダ・相手方ファクシミリ装置等の外部ホスト装置400から画像形成装置100の制御回路部(制御手段:CPU)200に入力する電気的な画像信号に基づいてシート状の記録材Sに対する画像形成を実行する。制御回路部200は外部ホスト装置400や操作部300との間で各種の電気的情報の授受をすると共に、画像形成装置100の画像形成動作を所定の制御プログラムや参照テーブルに従って統括的に制御する。したがって、以下の説明する画像形成装置100の画像形成動作は制御回路部200によって動作制御されるものである。
この画像形成装置100は、循環移動する記録材搬送ベルト(静電吸着搬送ベルト)7の移動方向に沿って、第1乃至第4の電子写真画像形成部Y・C・M・Kを配列したタンデム型(インライン方式)の装置である。各電子写真画像形成部Y・C・M・Kは、それぞれ、像担持体である回転ドラム型の電子写真感光ドラム(以下、感光ドラムと記す)1(1Y・1C・1M・1K)を有する。また、感光ドラム1に作用するプロセス手段である、帯電手段2(2Y、2C、2M、2K)、画像露光手段6(6Y、6C、6M、6K)、現像手段3(3Y、3C、3M、3K)、クリーニング手段4(4Y、4C、4M、4K)を有する。帯電手段2は帯電ローラを用いている。画像露光手段6はレーザースキャナユニットを用いている。各電子写真画像形成部Y・C・M・Kにおいて、感光ドラム1、帯電ローラ2、現像手段3、クリーニング手段4は、ひとつの枠体にまとめて画像形成装置本体に対して着脱可能とした、所謂オールインワンカートリッジ(プロセスカートリッジ)にされている。
第1の電子写真画像形成部Yのカートリッジは、現像手段(現像器)3Yに現像剤としてイエロー色のトナーを充填したイエローカートリッジである。第2の電子写真画像形成部Cのカートリッジは、現像手段3Cに現像剤としてシアン色のトナーを充填したシアンカートリッジである。第3の電子写真画像形成部Mのカートリッジは、現像手段3Mに現像剤としてマゼンタ色のトナーを充填したマゼンタカートリッジである。第4の電子写真画像形成部Kのカートリッジは、現像手段3Kに現像剤としてブラック色のトナーを充填したブラックカートリッジである。
本例の画像形成装置100のプロセススピードは90mm/sec、印字速度はUSAで標準的に使用されるLTR(レター)サイズにおいて15枚/分である。
画像形成スタート信号に基づいて、第1乃至第4の電子写真画像形成部Y・C・M・Kの感光ドラム1がそれぞれ所定の制御タイミングで矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。また、記録材搬送ベルト7が矢印の反時計方向に感光ドラム1の回転速度にほぼ対応した速度で回転駆動される。ベルト7は駆動ローラ9aとテンションローラ9bとの間に張架されている。
そして、各電子写真画像形成部Y・C・M・Kにおいて、所定の制御タイミングにて、レーザースキャナユニット6(6Y、6C、6M、6K)がそれぞれ画像データに基づいた走査光を出力する。その走査光が帯電ローラ2により一様に帯電された感光ドラム1上を露光する。これにより、感光ドラム1面に露光画像に対応する静電潜像が形成される。そして、その静電潜像が現像手段3によりトナー像として現像される。本例においては、現像手段3の現像ローラにバイアス電源(不図示)より印加される現像バイアスを、帯電電位と潜像(露光部)電位の間の適切な値に設定する。これにより、負の極性に帯電されたトナーが、感光ドラム1の静電潜像に選択的に付着されることにより、現像が行われる。
このようにして、第1の電子写真画像形成部Yの感光ドラム1Yにはフルカラー画像のイエロー成分像に対応するイエロートナー像が形成される。第2の電子写真画像形成部Cの感光ドラム1Cにはフルカラー画像のシアン成分像に対応するシアンートナー像が形成される。第3の電子写真画像形成部Mの感光ドラム1Mにはフルカラー画像のマゼンタ成分像に対応するマゼンタトナー像が形成される。第4の電子写真画像形成部Kの感光ドラム1Kにはフルカラー画像のブラック成分像に対応するトナー像が形成される。
第1乃至第4の電子写真画像形成部Y・C・M・Kの各感光ドラム1(1Y、1C、1M、1K)上に現像された単色トナー像は、各感光ドラムの回転と同期して略等速で回転する記録材搬送ベルト7上を静電吸着されて搬送される記録材Sに転写される。記録材搬送ベルト7上を静電吸着されて搬送される記録材Sに感光ドラム1(1Y、1C、1M、1K)上のトナー像を転写する転写手段としては転写ローラ8(8Y、8C、8M、8K)を用いている。転写ローラ8に対してバイアス電源(不図示)よりトナーの帯電極性とは逆極性(本例では正極性)の転写バイアスが印加される。これにより、記録材搬送ベルト7に静電吸着されて搬送される記録材Sに対して第1乃至第4の電子写真画像形成部Y・C・M・Kの各感光ドラム1(1Y、1C、1M、1K)上のトナー像が順次に所定に重畳されて転写される。即ち、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のトナー像が所定に重ね合わされて記録材S上に転写される。
トナー像を記録材Sに転写した後に感光ドラム1(1Y、1C、1M、1K)上に転写残として残ったトナーはドラムクリーニング手段4(4Y、4C、4M、4K)により除去される。本例においては、クリーニング手段としてウレタンブレードによるブレードクリーニングを用いている。
また、記録材Sの供給部となる記録材カセット50に格納された記録材Sは、所定の制御タイミングにて給送ローラ対51により順次給送され、レジストローラ対45により所定の制御タイミングにて記録材搬送ベルト7上に送られる。
4色のトナー像の重畳転写を受けた記録材Sは記録材搬送ベルト7上から分離されて、定着手段たる像加熱装置20へ導入され、トナー像の定着処理を受けて、定着排紙ローラ対45を経て画像形成装置100の外へ排出される。
(像加熱装置)
図4は本例における定着手段たる像加熱装置20の構成説明図である。(a)は装置20の要部の横断面図である。(b)は装置の要部の正面図である。装置の正面とは記録材の導入口側から装置を見た面である。
この像加熱装置20はフィルム(ベルト)加熱方式の装置であり、支持部材であるヒータホルダ24に固定支持され、通電により発熱する通電発熱抵抗層を有する加熱体であるヒータ22を有する。また、内面がヒータ22に接触して回転可能な可撓性を有する加熱用回転体である定着スリーブ21と、定着スリーブ21の外面に接触してニップ部(定着ニップ部)Nを形成する加圧部材である加圧ローラ23を有する。また、ヒータ22の通紙部温度と非通紙部温度を検知する複数の温度検知手段としてのサーミスタ25(25−1、25−2、25−3)を有する。また、定着入り口ガイド30、定着排出ローラ対18f等を有する。
定着スリーブ21は、SUSの素管を塑性変形加工により、厚さ30μm・外径24mmのシームレススリーブ状に成型したSUS素管上にシリコーンゴム層をリングコート法により厚み250μmで形成してある。更に、離型層(表層)として厚み30μmのPFA樹脂チューブを被覆することで、可撓性を有する加熱用回転体としてある。シリコーンゴム層は熱伝導率に優れた材質が好ましく、また定着スリーブ21としての熱容量を可能な限り小さくすることがクイックスタートを実現する上では望ましい。本実施例においては、熱伝導性フィラーを添加することで熱伝導率を約1W/mKと高めたシリコーンゴムを用いた。
図5はヒータ22の構成説明図である。(a)はヒータ22の横断面模型図、(b)はヒータ22の表面側(定着スリーブ21の内面が摺動する側)の平面図、(c)はヒータ22の背面側(表面側とは反対面側)の平面図である。ヒータ22は、セラミックを基材とするセラミックヒータである。例えばアルミナ等の電気絶縁性・良熱伝導性・低熱容量のセラミック基板22−aを有する。このセラミック基板22−aの定着スリーブ21の内面と接する表面側に、基板長手方向に沿って、通電により発熱する銀パラジウム(Ag/Pd)・Ta2N等の通電発熱抵抗層22−bをスクリーン印刷等で形成具備させる。さらに、基板22−aの通電発熱抵抗層形成面が薄肉の保護ガラス層22−cで覆われている。保護ガラス層22−cは、通電発熱抵抗層22−bと定着スリーブ21の内面側であるSUS素管との間の耐圧絶縁性を満足するために、50μm程度の厚みで形成されている。
このヒータ22は、電源部10から電極部22−dを介して通電発熱抵抗層22−bに通電がなされることにより、通電発熱抵抗層22−bが発熱する。これにより、セラミック基板22−a、ガラス保護層22−cを含むヒータ22の有効発熱領域Aの全長域が急速昇温する。
このヒータ22の昇温がヒータ22の背面に配置された、ヒータの通紙部温度と非通紙部温度を検知する複数の温度検知素子であるサーミスタ25−1、25−2、25−3により検知される。そして、検知温度に関する電気的な情報がアナログ/デジタル変換器A/Dを介して、画像形成装置を制御する制御回路部200の通電制御機能部(通電制御手段)200Aへフィードバックされる。この通電制御機能部200Aを以下、通電制御部200Aと記す。
通電制御部200Aは、ヒータ22の通紙部温度を検知する第1の温度検知手段であるメインサーミスタ25−1で検知した温度が所定の制御温度(目標温度:以下、定着温度と称する)に維持されるように、電源部10から通電発熱抵抗層22−bに対する通電を制御する。これにより、ヒータ22は所定の定着温度に維持されることになる。
ガラス保護層22−cには、定着スリーブ21の内面との摺動性を高めるために耐熱性に優れるフッ素系のグリスを塗布している。
本実施例においては、アルミナ(Al2O3)をセラミック基板22−aとし、通電発熱抵抗層22−bの抵抗値は17Ω、ガラス保護層22−cは50μmの厚みとした。
加圧ローラ23は、鉄やアルミニウムなどの金属製の芯金23−aに、弾性層23−bであるシリコーンゴム層を形成し、その上に離型層(表層)23−cとして厚み約30〜50μmのPFA樹脂層を形成したものである。本実施例においては、芯金23−aとして快削鋼であるSUM24材からなる外径17mmの芯金に、導電シリコーンゴム層23−bを厚み約3.5mmで形成、表層23−cには50μm厚みのPFA樹脂チューブを被覆したものである。
ヒータホルダ24は、耐熱性の高い液晶ポリマー樹脂で成型されており、ヒータ22を保持するとともに、定着スリーブ21の回転をガイドする役割を担っている。本実施例においては、液晶ポリマーとして「住友化学株式会社製のスミカスーパーE5204L−B(商標)」を用いて成型した。スミカスーパーE5204L−B(商標)の荷重たわみ温度は約350℃である。
加圧ローラ23は、ヒータ22と対向する部分においてヒータ22との間に定着スリーブ21を挟んで圧接して、定着スリーブ21との間に、記録材搬送方向において所定幅の定着ニップ部Nを形成している。その定着ニップ部Nに、未定着トナー像Tが転写された記録材Sが定着入口ガイド30に沿って搬送される。そして、定着ニップ部Nで記録材Sが挟持搬送されることで、未定着トナー像Tが定着スリーブ21を介してヒータ22の熱で加熱され、またニップ圧を受けて、記録材の面に固着画像として定着されることになる。
定着入り口ガイド30は、記録材搬送ベルト7から分離搬送された記録材Sが、定着ニップ部Nに確実に搬送される役割を果たしている。本実施例の定着入り口ガイド30は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂により成型されている。
加圧ローラ23、定着入り口ガイド30は、それぞれ定着フレームFに組みこまれている。また、定着スリーブ21は定着フレームFに加圧ローラ23に対向する形で組みこまれている。定着スリーブ21は、定着スリーブユニットとして、ヒータホルダ24に支持されたヒータ22、サーミスタ25−1、25−2、25−3、安全素子であるサーモプロテクター26を内蔵物とし、フランジ27と合わせて定着フレームFに組み込まれる。そして、定着スリーブ21はフランジ27・ヒータホルダ24・ヒータ22を介して加圧バネ28により総圧で約176.4N(約18Kgf)の力で加圧ローラ23に加圧されている。加圧機構は、圧解除機構(不図示)を有し、ジャム処理時等に、加圧を解除、記録材Sの除去を容易とする構成となっている。
本例の像加熱装置20においては、加圧ローラ23が加圧ローラ駆動ギア29により図4の(a)の矢印の反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ23の回転により、定着ニップ部Nにおいて、定着スリーブ21に回転力が作用して、定着スリーブ21が従動回転する。その際、定着スリーブ21の内面とヒータ22及びヒータホルダ24は摺動する構成となっている。この摺動の際の抵抗力を低減する目的で定着スリーブ21の内面には摺動性グリスが塗布され、ヒータ22及びヒータホルダ24と定着スリーブ21の内面との摺動性を確保している。
サーミスタ25−1、25−2、25−3は、ヒータ22の裏面の通紙部温度と非通紙部温度を検知して、定着温度制御を実行するために配設されている。本実施例においては、ヒータ22の長手方向中央部付近にメインサーミスタ25−1を配置している。また、ヒータ22の長手方向の左側端部と右側端部に、それぞれ、サブサーミスタ右25−2とサブサーミスタ左25−3を配置している。
ここで、メインサーミスタ25−1がヒータ22の通紙部温度を検知する第1の温度検知手段である。サブサーミスタ右25−2又はサブサーミスタ左25−3が端部サーミスタとしてヒータ22の非通紙部温度を検知する第2の温度検知手段である。第1の温度検知手段は加熱用回転体である定着スリーブ21の通紙部温度を検知するように配設されていてもよい。
各サーミスタ25−1、25−2、25−3の温度検知信号はアナログ/デジタル変換器A/Dを介して、通電制御部200Aに入力する。通電制御部200Aは、メインサーミスタ25−1、サブサーミスタ右25−2、サブサーミスタ左25−3の出力値(温度検知結果)に基づき通電発熱抵抗層22−bへの通電を制御する。
各サーミスタ25−1、25−2、25−3の配置位置は、図5の(c)のように、ヒータ22の通電発熱抵抗層22−bの長手方向中心から25mm、100mm、反対側に100mmに設置した。本例においては記録材の通紙は中央基準搬送にて行われる。Oはその中央基準搬送線(仮想線)である。
また、ヒータ22の裏面には安全素子26も設置されている。安全素子26としては温度ヒューズやサーモスイッチ等のサーモプロテクターが当接されている。サーモプロテクター26はヒータ22の通電発熱抵抗層22−bに対する通電回路に直列に挿入されている。安全素子26を設置するのは、発熱源であるヒータ22が制御不可能となり異常昇温した場合に通電発熱抵抗層22−bへの通電をオフとし安全を確保するものである。
本例においては、通電発熱抵抗層22−bの長手方向中心からメインサーミスタ25−1とは反対側の25mmの位置にサーモプロテクター26を設置した。サーモプロテクター26は像加熱装置20が設定する最も高い定着温度以上で動作(通電をシャットダウンとする)するように設定する。また、最も高い定着温度とサーモプロテクター動作温度の間には、サーモプロテクター26を動作させないようにする異常高温検知温度を設けて通電発熱抵抗層22−bへの通電をオフとする制御を備えている。
(像加熱装置の通電制御)
画像形成装置100の作像プロセスが開始され、像加熱装置20の加圧ローラ23も回転状態となり、定着スリーブ21も従動回転を始め、通電発熱抵抗層22−bへの通電がなされる。ヒータ22の温度上昇とともに、定着スリーブ21の内面温度も上昇し、画像定着動作に備えることになる。次に、この際の定着温度制御に関して説明する。
定着温度制御の基本は、定着スリーブ21の表面温度が、定着不具合の発生しない温度範囲に収まるようにヒータ22への通電を制御するものである。温度範囲の下限は定着不良が発生しない温度以上とすること、上限は定着過多による不具合(以下に述べる高温オフセット)が発生しない温度以下とすることである。定着温度制御の設定中心値は、この上限と下限の中央から上限よりに設定するのが適切である。理由は、定着スリーブ21の表面温度は長手で均一となるよう努めているが、ヒータ22を含む定着スリーブユニットの構成上、長手端部からの放熱は避けられない。この放熱により定着スリーブ21の端部表面の温度が低下する現象(端部の温度ダレ)が発生することになる。この端部の温度ダレによる画像端部の定着不良を回避するため、温度制御の設定中心値は上限と下限の中央ではなく、中央から上限よりに設定することになる。
ヒータ22への通電は、各サーミスタ25−1、25−2、25−3の検知温度を出力信号としてアナログ/デジタル変換されたうえで、通電制御部200Aに取り込まれる。そこでの演算結果に基づきスイッチング手段であるトライアック(不図示)を介して、ヒータ22の通電発熱抵抗層22−bに通電する電源部10のAC電圧を、位相・波数制御によるPID制御をすることで制御している。ヒータ温度を検知するサンプリング周期は10〜100msec毎の極短時間で繰り返すことで、より精度の良い定着温度制御を実現している。
薄肉の定着スリーブ21を定着部材とする像加熱装置20は、極短時間で定着可能な状態に移行するクイックスタートを実現するために構成される部材の低熱容量化を図っている。そのため、連続した定着動作を実行すると各部材が昇温することになる。定着温度を一定温度とすると、温度過多の状態となり画像不良が発生する。発生する画像不良は「高温オフセット」と呼ばれる現象である。そのため、定着スリーブ21は定着に適した温度以上に昇温してしまい定着ニップ部N内で溶融したトナーが記録材Sと定着スリーブ21の間で分離し、定着スリーブ21の表面に転移する。その状態で定着スリーブ21が1周し、再び記録材Sと接した際に転移したトナーが記録材S上に再転移・定着されてしまうものである。そこで、連続した定着動作を実行する場合には、連続して通紙した記録材Sの枚数に応じて定着温度を段階的に下げる制御としている。
また、定着を開始する際のメインサーミスタ25−1の検知温度に応じて像加熱装置20の状態を識別する。即ち、開始時の検知温度が高ければ、像加熱装置20は過熱された状態にあると判断し、定着温度を低く設定する。反対に、開始時の検知温度が低ければ、像加熱装置20は冷えている状態にあると判断し、定着温度を高く設定する。このような通電制御(立上げ制御と称している)も一般的に行われている(特開平07−248700号公報)。
また、定着温度は、定着する記録材Sの種類に応じて、その基本温度が設定されている。例えば、広く一般的に事務用途に使用される記録材Sである坪量65〜80g/m2の紙を定着する定着温度、それよりも坪量の大きい記録材Sを定着する定着温度、プレゼンなどで使用するOHP(オーバーヘッドペアレンシー)を定着する定着温度を備えている。また、光沢紙を定着する定着温度、封筒やラベル紙を定着する定着温度、などを備えている。そして、像加熱装置20を含む画像形成装置の構成などに応じて、適宜、複数の定着温度を有する設定となっている。これらは定着モードと称している。
また、画像形成装置を使用する市場の拡大に伴い、画像形成装置が置かれる雰囲気下の環境温度や環境湿度を検知し、それらの環境条件に適した定着温度に切り替える設定も一般的となっている。これは、画像形成装置が置かれる環境が低温環境の場合は記録材SやトナーTの温度も低下することで、定着により多くの熱エネルギーを必要とするため、定着実行の基本温度をより高く設定し定着不良の発生を抑制している。反対に、画像形成装置が置かれる環境が高温環境の場合は、記録材SやトナーTの温度も暖かく、定着過多になる。そこで、定着実行の基本温度を低く設定することで、過多の熱エネルギーによる「高温オフセット」や「記録材Sの変形現象(カールと称される)」などの発生を抑制している。これらの制御を環境補正制御と称している。
また、最大通紙可能な記録材Sの幅がLTR(幅216mm)やA4(幅210mm)の画像形成装置において、A5(幅148mm)や日本での標準的な封筒「長型4号」(幅90mm)の幅の狭い記録材Sを通紙した場合を考える。この場合は、像加熱装置20の記録材Sの通過しない領域においては、ヒータ22からの熱エネルギーが記録材Sによって奪われない。そのため、その熱エネルギーが定着スリーブ21やヒータホルダ24や加圧ローラ23などの像加熱装置20の各部材に蓄積し、その温度が定着に必要な温度以上に高くなってしまう「非通紙部昇温」現象が発生することになる。非通紙部昇温の温度によっては、像加熱装置20で使用される部材の耐熱温度を超えてしまい、変形・溶融するなどの不具合を引き起こすことになる。また、非通紙部昇温している状態で幅の広い記録材Sを通紙すると、非通紙部昇温のある両端部では「高温オフセット」が発生することとなる。そこで、先に説明したサーミスタ右25−2やサーミスタ左25−3により非通紙部昇温を検知し、記録材Sの連続通紙時の通紙間隔を広げることで、ヒータ22への通電を減らすタイミングを設ける。これにより非通紙部昇温を抑制しながら画像形成を行う定着温度制御(スループットダウン制御)も実行している。非通紙部昇温は、幅の狭い記録材Sを通紙する場合以外に、記録材搬送中心が画像形成装置中心(中央通紙基準)にある画像形成装置において、記録材Sを片側に寄せて通紙することでも非通紙昇温として発生してしまう。
また、像加熱装置20は加熱源としてのヒータ22を昇温させることで未定着トナー像を記録材Sに定着している。そこで、先に述べた安全素子26が動作する前にヒータ22への通電を減少する。これにより、過剰昇温を抑制、安全素子26の動作を回避する定着温度制御として「異常高温検知制御」を設定している。これは、各サーミスタ25−1、25−2、25−3の検知温度が異常高温検知温度に達すると、ヒータ22への通電をオフとすることで、安全素子26の動作を回避する定着温度制御である。これは、定着不良の発生よりも安全性を優先した構成としているためである。
近年、画像形成装置の小型化・高速化に伴い、像加熱装置20を形成する各部材の小型化が図られる。一方で、高速化を実現するために従来よりも高い定着温度を設定する設計が必要となり、定着温度と異常高温検知温度の温度差が小さくなっている。そのため、以下に説明する「通電抑制制御(以下、リミッター制御と称する)」を加えることで異常高温の回避(即ち、定着不良の回避)を図っている。
リミッター制御とは、異常高温検知温度と定着温度の間に設定するものであり、異常高温に至ることを回避するためにヒータ22への通電をある割合で減ずる通電制御である。例えば、リミッター制御温度に達した時点でのヒータ22への通電が70%であった場合、強制的に半減する(35%とする)や30%減ずる(40%とする)といった通電を抑制する。これにより昇温を抑えることで、異常高温となることを回避、定着不良の発生を避けるものである。
即ち、通電制御部100Aは、ヒータ22の非通紙部温度を検知する第2の温度検知手段である端部サブサーミスタ25−2又は25−3による検知温度があらかじめ定められた上限温度T1に達した際に、像加熱装置が定める異常高温温度に至らないよう制御する。即ち、上限温度T1の到達時は通電発熱抵抗層22−bへの通電を減ずる通電抑制制御を開始する。その後に端部サーミスタ25−2又は25−3による検知温度が上限温度T1よりも低い温度に設定された第2の温度T2以下になった後に、前記通電抑制制御を解除する通電制御モードを実行する。つまり、通電発熱抵抗層22−bへの通電を強制的に抑制する通電抑制制御を開始・解除する制御温度に温度幅を持たせている。これにより、通電抑制制御の効果を高めることで異常高温検知が働くことを回避し、かつ画像加熱不良(定着不良)を抑制することが可能な像加熱装置及びそれを有した画像形成装置の提供が可能となる。
前記通電抑制制御は、単位時間当たりの通電比率を一定値減ずる、又は通電を停止するものである。
以上、説明してきたような定着温度制御を実行することで、常に安定した定着工程が成されるよう像加熱装置20は構成されている。
(実施形態の詳細)
以下に本発明の特徴であるリミッター制御の詳細に関して図に示しながら説明する。
(1)比較例
便宜上、最初に比較例に関して説明する。本実施形態を説明するのに使用する画像形成装置は、最大通紙可能な記録材SとしてLTRサイズを縦方向に基本搬送間隔64mmで毎分20枚通紙可能な構成である。また、定着温度制御は、坪量70g/m2の普通紙を対象とする定着モード(普通紙モード)は環境温度23℃における基本的な定着温度は185℃である。坪量120g/cm2以上の坪量の大きな厚紙を対象とするモード(厚紙モード)は環境温度23℃における基本的な定着温度は205℃となっている。先に説明した環境補制御により雰囲気温度が1℃下がる毎に、定着温度を1.5℃高くする仕様としている。例を挙げると、普通紙モードの20℃環境下における定着温度は次式となる。
基本温度+環境補正=185℃+(23−20)*1.5℃
=185℃+4.5℃=189.5℃
(四捨五入で190℃で制御)
スループットダウン制御は、サブサーミスタ25−2又は25−3が230℃を検知したら記録材Sの搬送間隔を+2秒広げる。240℃を検知したら更に+3秒、245℃を検知したら更に+3秒、250℃を検知したら更に+3秒と順次記録材Sの搬送間隔を広げる制御としている。異常高温検知温度262℃でヒータ22への通電をオフ、リミッター制御温度は256℃でヒータ22への通電比率を30%減とする設定としている。230℃でスループットダウン制御を開始する理由は、ヒータホルダ24やフランジ27などのヒータ22近傍の樹脂部材の耐熱性から設定している。本実施形態で用いているヒータホルダ24の樹脂は約350℃の荷重たわみ温度であるが、フランジ27はPET(デュポン社のFC51(商標))を用いており、その荷重たわみ温度は約220℃である。よって、本例で採用した像加熱装置20においてはフランジ材料のPETの耐熱性マージンがあるスループットダウン制御を検討した結果、スループットダウン制御の第一段階は230℃を検知した場合としている。フランジ27の荷重たわみ温度220℃よりもスループットダウンの第一段階温度を230℃と高く設定できるのは、図4や図5で示したように、端部サーミスタ25−2又は25−3はヒータ22に直接接触している。一方、フランジ27はヒータ22には直接は接しない構成となっているため、昇温による到達温度が低く抑えられるからである。
以上、説明した画像形成装置にてリミッター制御が働きやすい条件(即ち、非通紙部昇温が大きくなる)としては次のような場合である。即ち、紙幅の狭い記録材Sを通紙する、坪量の大きい(紙厚の厚い)記録材Sを通紙する、電源電圧を高くして投入する、定着温度が高くなる環境下(低温環境)で通紙する、等が重なった場合である。
像加熱装置20の定着温度設定としては、上記した条件が重なることがないように設定している。これは、紙幅の狭く坪量の大きい記録材Sを低温環境下で高い電源電圧で通紙してもリミッター制御が働かない定着温度となるように設計している。しかし、実際の市場においては上記条件にならないとは限らないので、そのような条件下でもリミッター制御を超えて異常高温とならないように鋭意検討したものが本発明の特徴である。
以下に、非通紙部昇温が大きくなる条件下での比較検討した結果を表−1に記す。記録材SとしてはLTRサイズ(216mm巾)とA5サイズ(148mm巾)、坪量は70g/m2と163g/m2、電源電圧は115Vと140Vを想定、環境は26℃と15℃、で比較した。表−1中の数値は何れかの端部サーミスタ25−2又は25−3が検知した最高到達温度である。検討は、先に説明したように像加熱装置20が冷えている状態からの方が定着温度が高くなるので、各検討の前には像加熱装置20を十分に冷却した後に実施している。
上記の表−1の確認結果のように、検討1〜8のLTRサイズ通紙では厚紙163g/m
2であっても最高到達温度は210℃程度に収まっている。これは、基本の何れもモードにおいても環境補正分(23−15)*1.5=12℃を加えた温度の数℃のオーバーであり、問題のない範囲である。一方、検討9以降のA5サイズを通紙した場合は、最低でも240℃を超えており小サイズを通紙した場合の非通紙部昇温が大きいことが分かる。この中でも検討10、13、14、16は環境補正による温度上昇が大きく250℃を超えている。検討13ではリミッター制御が働いた。また、検討16では異常高温となってしまった。検討16では異常高温で検討が中止となったため定着不良の発生は避けられた。しかし、検討13では異常高温とならなかったため定着不良が発生することになった。
上述した制御内容のフローチャートを図6に、メインサーミスタと端部サーミシタの検知温度の概念図を図7に示す。非通紙部昇温として、端部サーミスタ25−2又は25−3が256℃(上限温度T1)を検知した場合、ヒータ22への通電比率を30%減とすることで昇温を抑制、異常高温となることを回避している。256℃を検知した瞬間にヒータ22の通電を30%減とするが、次の温度検知周期において256℃以下を検知した場合は、ヒータ22への通電はPI制御で演算した結果に戻す制御とするので、概ね30%加算となる。256℃以上を検知した場合は、引き続きリミッター制御がオンとなり、ヒータ22への通電を30%減ずることとなる。次の検知タイミングにおいて、再び256℃以上となった場合はリミッター制御をオンとするのでヒータ22への通電は30%減となる。このようにヒータ22への通電比率が加減を繰り返すので、記録材Sが通紙されている領域は定着温度を維持することが出来なくなり、メインサーミスタ25−1の検知温度は定着温度から低下することになる。その結果、この状態(リミッター制御がオンオフを繰り返す)で記録材Sの通紙を続けると定着不良を発生することとなる。
この際のサーミスタ25の検知温度は図7に示したように、メインサーミスタ25−1は定着温度に沿っている。しかし、非通紙部昇温が発生する小サイズ紙への画像形成においては、端部サーミスタ25−2又は25−3はリミッター制御温度T1に向かって昇温してしまう。リミッター制御に到達するとヒータ22への通電を減ずるため、画像形成動作に伴ないメインサーミスタ25−1の検知温度は低下し、メインサーミスタ25−1と端部サーミスタ25−2又は25−3の温度差が大きくなってしまうのが問題である。その結果、記録材Sが通紙される範囲においては定着が実行可能な下限温度を下回ることになり、定着不良が発生することになる。
(2)本発明の第1の実施例
次に本発明の実施の形態で確認した結果を示す。リミッター制御の働く温度に制御幅を持たせたことが、本発明の特徴である。本制御の内容のフローチャートを図1に示す。また、メインサーミスタ25−1と端部サーミスタ25−2又は25−3の検知温度の概念図を図2に示して具体的に説明する。
本実施形態では非通紙部昇温として、端部サーミスタ25−2又は25−3が256℃(あらかじめ定められた上限温度T1)を検知した場合、ヒータ22への通電比率を30%減とすることで、昇温を抑制、異常高温となることを回避している。この点は従来の実施形態と同じである。
本発明のポイントは、リミッター制御を解除する(即ち、ヒータ22への通電比率を戻す)温度(第1の温度)は、リミッター制御が開始される温度(第2の温度)より低い温度とする温度幅を持たせたことである。具体的には、非通紙部昇温を検知した端部サーミスタ25−2又は25−3自身が230℃(前記上限温度T1よりも低い温度に設定された第2の温度T2)までの温度低下を検知した後に、リミッター制御を解除した上でPI制御で演算した結果の通電比率に戻す制御としている。本実施形態で230℃とした理由を述べる。
本実施形態で用いる像加熱装置20では異常高温検知温度は262℃、リミッター制御開始温度256℃(T1)に到達した像加熱装置20において、リミッター制御を解除する温度(T2)を検討した。250℃で解除した場合は直ぐにリミッター制御温度256℃に到達してしまった。245℃や240℃で解除する設定でも、250℃の場合より解除に要した時間は長くできるものの、同様の結果であった。220℃に設定した場合はリミッター制御が再び開始されるまでの時間を長くすることは出来た。しかし、220℃になるまでヒータ22への通電を減らしている時間が長くなり、その結果通紙域における温度低下が大きくなり、リミッター制御が解除された後(220℃到達後)の定着性が弱くなってしまった。このような「再びリミッター制御が開始される容易性」、「リミッター制御が解除された後の定着性」、「生産性」などを検討した結果、本実施形態の像加熱装置20においては230℃でリミッター制御を解除することが適していると判明した。
本実施の形態では、先に説明した比較例に比べて、メインサーミスタ251と端部サーミスタ25−2又は25−3の温度差を小さく抑えることが実現出来ている。また、記録材Sが通紙される通紙域の温度であるメインサーミスタ25−1の検知温度も定着が実行可能な下限温度を下回ることなくヒータ22への通電制御がなされていることが分かる。
本実施形態の効果は、先の検討でリミッター制御が働いた検討条件である検討13と検討16にて本実施形態を適用させることで確認した。
検討13においては、リミッター制御が開始される256℃(T1)には到達したものの、その後は非通紙部昇温が小さくなり定着不良の発生なく50枚の通紙を終えることができた。また、検討16においてもリミッター制御が開始される256℃(T1)には到達したものの、その後は非通紙部昇を抑えることが出来、こちらも定着不良の発生なく50枚の通紙を終えることができた。
尚、定着スリーブ21の端部の温度ダレによる画像端部の定着不良が発生することを先に説明したが、検討13や検討16のようにリミッター制御が働く状態では非通紙部昇温が発生している。そのため、記録材Sの端部に相当する定着スリーブ21の表面温度は定着性を満足するのに必要な温度以上であり、画像端部での定着不良が発生することはない。
(3)本発明の第2の実施例
本発明の第2の実施形態として、安全性は先に述べた第1の実施例と同様の効果を確保した上で、更に定着性にマージンを持たせる手段としては、以下も併せて実施すると良い。
その手段とは、一旦リミッター制御がオンとなった場合は、端部サーミスタ25−2又は25−3の検知温度が230℃(T2)になるまでヒータ22への通電比率を30%減らすことになる。そのため、非通紙部昇温していない通紙部の温度は定着実行温度を下回ることになり、記録材Sの種類・使用する環境温度・画像形成する画像パターンなどによっては定着性が損なわれる場合もある。そこで、端部サーミスタ25−2又は25−3の検知温度が230℃以下(第2の温度T2以下)となっても、記録材Sの搬送間隔を広げる(本実施形態では+2秒とした)ことを継続する。これにより、加圧ローラ23の温度を昇温させることでの定着性向上に加えて、通紙部が定着可能温度以下となっても定着可能温度に昇温する時間を持たせることで温度低下を解消する。これにより、次に搬送定着する記録材Sにおいては、PI制御に従ってヒータ22への通電を実行することで定着不良を回避するものである。
以上のような、記録材Sの搬送間隔を広げた状態での通紙とすることで、異常高温の発生を回避すると同時に、定着不良の回避をより積極的なものとすることが可能となる。
また、このような記録材Sの搬送間隔を広げた状態での通紙は、画像形成装置がスタンバイ状態(待機状態)となるまで継続することが、定着性をより確実なものとする点で望ましい。
上記の制御構成をまとめると次のとおりである。即ち、前記通電抑制制御が開始された場合は、定着ニップ部Nに連続的に搬送される記録材と記録材の間隔を通電抑制制御が開始される前よりも大きくするのである。
また、第2の温度検知手段である端部サーミスタ25−2又は25−3による検知温度が第2の温度T2以下になった場合でも、画像形成装置が待機状態になるまでは定着ニップ部Nに連続的に搬送される記録材と記録材の間隔を大きくした状態を継続する。
以上、本発明の実施形態に則して説明してきたように、定着温度制御であるリミッター制御の制御温度に幅を持たせる。これにより、非通紙部昇温の大きくなる通紙条件下においても、異常高温の発生を回避すると同時に画像加熱不良(定着不良)を回避することが可能となる像加熱装置20を提供することが可能となる。
以上、画像加熱定着装置を例にして説明してきたが、本発明の像加熱装置は、記録材に定着された画像を加熱することにより画像の光沢度を増大させる光沢増大装置としても使用することができる。
また、電子写真画像形成装置を例にして説明したが、画像形成装置は静電記録画像形成装置や磁気記録画像形成装置であってもよい。
20・・像加熱装置、21・・加熱用回転体(定着スリーブ)、22・・加熱体(ヒータ)、22−b・・通電発熱抵抗層、23・・加圧部材(加圧ローラ)、24・・支持部材(ヒータホルダ)、25−1・・第1の温度検知手段(メインサーミスタ)、25−2・・第2の温度検知手段(端部サーミスタ左)、25−3・・第2の温度検知手段(端部サーミスタ右)、200A・・電制御手段、N・・ニップ部(定着ニップ部)、S・・記録材、T・・画像