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JP5252699B2 - 広帯域吸音構造及び吸音材 - Google Patents

広帯域吸音構造及び吸音材 Download PDF

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JP5252699B2 JP2008165362A JP2008165362A JP5252699B2 JP 5252699 B2 JP5252699 B2 JP 5252699B2 JP 2008165362 A JP2008165362 A JP 2008165362A JP 2008165362 A JP2008165362 A JP 2008165362A JP 5252699 B2 JP5252699 B2 JP 5252699B2
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Description

本発明は広帯域吸音構造に関し、とくに複数種類の吸音構造を組み合わせて吸音帯域幅を広げた吸音構造及び吸音材に関する。
従来から、建物内のコンサートホールや集会場等の屋内空間における音響改善、屋外の道路や線路等の周囲空間における騒音対策等を目的として、図14に示す吸音構造ないし吸音材が利用されている(非特許文献1)。図14(A)は、薄いベニヤ板やカンバス等の非通気性の気密振動板(又は膜)7を吸音材として用いた板(又は膜)振動型吸音構造を示す。音響改善又は騒音対策を必要とする空間(以下、音場ということがある)の内部又は周囲の剛性壁に背後空気層を介して対向配置された気密振動板又は気密振動膜(以下、両者を纏めて気密振動板ということがある)7は、その板を質量とし背後空気層の弾性をバネとした質量−バネ振動系(単一共振系)を構成し、その共振周波数の音が入射するとよく振動し、その内部摩擦により音のエネルギーを消費して吸音する。同図(C)は、板(又は膜)振動型吸音構造による周波数毎の吸音率(=1−(反射音の強さIr/入射音の強さIi))を示したグラフである。
図14(B)は、空胴に孔があいた形の共鳴器(ヘルムホルツ共鳴器)1を吸音材として用いた共鳴型吸音構造を示す。共鳴器1の一例は、石膏ボード・合板等に数〜数十mmの孔径のそれぞれ独立した貫通孔が穿たれた孔あき板、または特許文献1及び2が開示するように孔径0. 1〜1mm程度の多数のそれぞれ独立した微細貫通孔が穿たれた孔あき板(Micro Perforated Panel;以下、微細穿孔板という)を用いたものである。音場内又は周囲の剛性壁に背後空気層を介して対向配置された微細穿孔板は、その貫通孔中の空気を質量とし背後空気層(同図の空胴に相当)の弾性をバネとした質量−バネ振動系(単一共振系)を構成し、その共振周波数(共鳴周波数)の音が入射すると微細貫通孔内の空気が激しく振動し、周辺との摩擦により音のエネルギーを消費して吸音する。同図(D)は、共鳴型吸音構造の周波数毎の吸音率を示したグラフである。
図14に示す吸音材は何れも、材料の選定によって耐水性・耐久性等を高めて屋外においても使用できる利点があり、とくに微細穿孔板は板厚、孔径、開孔率、背後空気層の厚さ等の調節によって吸音特性を比較的容易に選択できる利点を有している。しかし、これらの吸音材は、単独では吸音率の高い周波数(以下、ピーク周波数という)の帯域幅が狭い問題点がある。そこで、ピーク周波数の帯域幅(以下、吸音帯域幅ということがある)の広帯域化を目的として、複数種類の吸音材を組み合わせた吸音構造の研究開発が進められている(非特許文献2参照)。ただし、例えばピーク周波数の異なる吸音率α、αの吸音材を等面積比で配置した(例えば建築空間の天井と壁とで吸音特性の異なる吸音材を使用した)だけでは、各吸音材の吸音率のエネルギー平均値が全体の吸音率αavg(=(α+α)/2)となるため、図13に示すように吸音帯域幅を広げることはできるもののピーク周波数の吸音率が大きく低下してしまう。吸音帯域幅を広げる際にピーク周波数の吸音率をできるだけ低下させない吸音構造の開発が望まれている。
非特許文献2は、ピーク周波数の異なる複数種類の共鳴型吸音構造を、図10に示すように過剰吸音が発生するような周期wで交互に配置した吸音構造を提案している。過剰吸音とは、異なる吸音率の吸音材が周期wで分散配置された面に音波が入射した場合に、吸音材の境界において両吸音材の吸音率α、αの平均として予想される吸音率αavg(=(α+α)/2)よりも音波が過剰に減衰する現象である。例えば吸音率の異なる吸音材の配置周期wが入射音波の半波長以下(w≦λ/2)である場合に、過剰吸音によって音波の減衰が漸近的に大きくなることが知られている(非特許文献3及び4参照)。図10(A)は、孔径φを相違させてピーク周波数を変えた2種類の微細穿孔板1a、1bを、剛性壁28の表面に一定厚さの背後空気層27を介して、過剰吸音が発生する周期dで対向配置した吸音構造を示す。また図10(C)は、板厚t、孔径φ、開孔率Pが一定の微細穿孔板1を、過剰吸音が発生する周期dで厚さを相違させた剛性壁28の表面に背後空気層27を介して対向配置することにより、隣接する微細穿孔板1の背後空気層27の厚さDを相違させた吸音構造を示す。非特許文献2は、ピーク周波数の異なる吸音材を過剰吸音が発生する周期dで配置した同図(A)及び(C)の吸音構造により、理論的には全体の吸音率を各吸音材の吸音率の平均値より大きくできる可能性があるとしている。
前川純一ほか「建築・環境音響学第2版」共立出版、2004年9月25日第5刷発行、72〜92頁 長山佳樹ほか「2種の微細穿孔板の並列配置による広帯域化の可能性について」日本音響学会2007年秋季研究発表会、2007年9月19−21日 高橋大弐「周期的に配置された吸音材による過剰吸音」日本建築学会大会学術講演梗概集(北海道)、昭和61年8月 高橋大弐「周期的に配置された吸音材による過剰吸音その2。実験的検討」日本建築学会大会学術講演梗概集(近畿)、昭和62年10月 日本工業規格「音響−インピーダンス管による吸音率及びインピーダンスの測定−定在波比法」JIS−A−1405 特表平9−502490号公報 特表平8−510020号公報
しかし、図10(A)及び(C)の吸音構造では、実際に吸音帯域幅を広げることは困難であると考えられる。一般に単一共振系の共鳴型吸音構造の吸音率(音波が垂直に入射したときの垂直入射吸音率)αは、板厚t、孔径φ、開孔率P等で定まる微細穿孔板の音響インピーダンス(抵抗)ZMPPと、背後空気層の厚さDで定まる音響リアクタンスCと、空気の密度ρ及び音速cとを用いて(1)〜(2)式のように表される(非特許文献1参照)。図10(A)の吸音構造は、孔径φの異なる2種類の微細穿孔板1a、1bを用いているが、両穿孔板1a、1bの背後空気層27が連続(連通)しているため、両穿孔板1a、1bで形成された合成抵抗Z及び合成リアクタンスCが共通の単一バネ上で振動する点では単一共振系の共鳴器型吸音構造と同一である。従って、図10(A)のように異なる微細穿孔板1a、1bを等面積比で配置した吸音構造の等価回路は同図(B)のように表され、その吸音構造の平均吸音率αavgは各穿孔板1a、1bの音響インピーダンス(抵抗)ZMPP1、ZMPP2を用いて(3)〜(4)式のように表される。(3)〜(4)式に基づく理論的な平均吸音率αavgは、図11に示すように一方の穿孔板1a又は1bのみを用いた吸音構造の吸音率α、αに比してピーク周波数は移動しているものの吸音帯域幅は広帯域化されていない。
また図10(C)の吸音構造も、背後空気層27の厚さD1、D2が場所によって相違しているが、異なる厚さD1、D2の空気層27の相互間で空気の流入出があるため、両空気層で形成された合成バネ(単一バネ)上で微細穿孔板1の(共通の)抵抗及びリアクタンスが振動する点では単一共振系の鳴器型吸音構造に変わりはない。従って、その等価回路は同図(D)のように表され、その吸音構造の平均吸音率αavgは厚さD1、D2の異なる空気層のリアクタンスC、Cを用いて(5)〜(6)式のように表される。(5)〜(6)式に基づく理論的な平均吸音率αavgは、図12に示すように背後空気層27の厚さD1(=15mm)又はD2(=50mm)が一定の吸音構造の吸音率α、αに比してピーク周波数は移動しているものの吸音帯域幅は広帯域化されていない。本発明者は、図10(C)の吸音構造では実際に吸音帯域幅の広帯域化が実現できないことを実験的に確認している(後述の実験例1及び図4のグラフα参照)。
そもそも過剰吸音の理論に基づく図10の吸音構造は、周期dを細かくすればするほど吸音帯域幅が広帯域化すること(すなわち吸音率が全周波数帯域に亘って1に近付くこと)になるが、そのような広帯域化は実際には発生し得ない点で不合理である。耐水性・耐久性等の利点を有する微細穿孔板1又は気密振動板7を組み合わせて実際に吸音帯域幅を広げることができれば、様々な使用条件の音場に利用可能な吸音構造及び吸音材とすることができる。
そこで本発明の目的は、ピーク周波数の異なる微細穿孔板又は気密振動板を組み合わせて吸音帯域幅を広げることができる広帯域吸音構造及び吸音材を提供することにある。
の実施例を参照するに、本発明による広帯域吸音構造は、表面を音場2(図(B)参照)に臨ませた微細穿孔板1又は気密振動板7の背面を音場2内の剛壁8に所定厚さD2の空気層9を介して対向させ、穿孔板1又は振動板7の背面上に音場2からの入射音の波長λより小さい口径w(<λ)で所定厚さD2未満の高さD1の筒状周壁3を有する複数の蓋5付き無底筒状体4をその筒状体4の口径wの相互間隔で千鳥状に並べ各筒状体4内の空気層の厚さD1を隣接する筒状体4外の空気層の所定厚さD2と相違させてなるものである。
また図の実施例を参照するに、本発明による広帯域吸音材10は、表面を音場2(図(B)参照)に臨ませて背面を音場2内の剛壁8に所定厚さD2の空気層9を介して対向させる微細穿孔板1又は気密振動板7、及び音場2からの入射音の波長λより小さい口径w(<λ)で所定厚さD2未満の高さD1の筒状周壁3を有し且つその口径wの相互間隔で穿孔板1又は振動板7の背面上に千鳥状に並べる複数の蓋5付き無底筒状体4を備え、各筒状体4内の空気層の厚さD1を隣接する筒状体4外の空気層の所定厚さD2と相違させてなるものである。
好ましくは、微細穿孔板1又は気密振動板7の背面に、蓋5付き無底筒状体4を相互間隔と等面積比で並べる。
本発明による広帯域吸音構造及び吸音材は、微細穿孔板1又は気密振動板7の表面を音場2に臨ませると共にその背面を音場2内の剛壁8に所定厚さD2の空気層9を介して対向させ、穿孔板1又は振動板7の背面上に音場2からの入射音の波長λより小さい口径w(<λ)で所定厚さD2未満の高さD1の筒状周壁(気密隔壁)3を有する複数の蓋5付き無底筒状体4をその筒状体4の口径wの相互間隔で千鳥状に並べ各筒状体4内の空気層の厚さD1を隣接する筒状体4外の空気層の所定厚さD2と相違させるので、次の有利な効果をする。
(イ)微細穿孔板1又は気密振動板7の裏面に接する空気層を蓋付き無底筒状体4によって空気の流入出のない筒状空隙6a、6bに区画し、各筒状体4内の空気層と隣接する筒状体4外の空気層とを相互に独立な複数の共鳴型又は振動型の吸音構造を並列に配置した構造とするので、音場2からの入射音を並列に配置された複数の吸音構造でそれぞれ独立に吸音することができる。
(ロ)また、隣接する各筒状体4内の空気層と筒状体4外の空気層とで空気層の厚さD1、D2を相違させ、隣接する共鳴型又は振動型の吸音構造のピーク周波数を相違させるので、音場2からの入射音をピーク周波数の異なる複数の吸音構造で吸音することにより全体としての吸音帯域幅を広げることができ、広帯域の吸音特性を示す吸音体とすることができる。
(ハ)しかも、各筒状体4及びその相互間隔の口径wを音場2からの入射音の波長λより小さくし(w<λ)、音場2からの音波を複数の筒状体4及び相互間隔に跨って入射させるので、入射音の多くのエネルギーを空気の音響インピーダンスにマッチングの良い筒状体4及び相互間隔の何れかへ流入させることができ、入射音のエネルギーを均等に流入させる場合に比してピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えることができる。
(ニ)耐水性・耐久性を有する共鳴型又は振動型の吸音構造及び吸音材の吸音帯域幅をピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えつつ広げることができ、共鳴型又は振動型の吸音構造及び吸音材の利用範囲の拡大に寄与することが期待できる。
図5に示す本発明の吸音材10を説明する前に、先ず図1を参照して本発明の吸音材10の原理を説明する。図1は、微細穿孔板1と、その穿孔板1の片側面に接する空気層を複数の筒状空隙6a、6bに区画する気密隔壁3と、その各筒状空隙6a、6bの空気層の厚さを限定する蓋5a、5bとを用いた本発明の吸音材10の実施例を示す。図示例の微細穿孔板1は、例えば孔径φ=0.1〜1mm程度の多数の微細な貫通孔が所要開孔率(ピッチ)Pで穿たれた所要板厚tのパネルであり、貫通孔を精度よく穿孔できればとくに材質の制限はなく、例えばガラス製、金属製、木材製、プラスチック製、プラスターボード製等とすることができる。微細穿孔板1の板厚t、孔径φ、開孔率Pは、本発明の適用対象の音場2の特性(例えば主に吸音すべき音波の周波数)に応じて適当に選択することができる。
図示例の気密隔壁3は、微細穿孔板1と直交する隔壁により相互に仕切られた複数の筒状空隙6a、6bを有する。図示例では各筒状空隙6の断面形状を方形としているが、各筒状空隙6の断面形状は方形に限られず、後述するように音場2からの入射音の波長λより小さい口径wの断面形状であれば足りる。例えば図9(C)及び(D)に示すように、断面形状が多角形又は円形の各筒状空隙6を有する気密隔壁3としてもよい。また同図(D)に示すように、各筒状空隙6a、6bの口径wが入射音の波長λより小さい範囲内であれば、異なる断面形状の筒状空隙6を組み合わせて気密隔壁3としてもよい。
図1(A)に示すように、表面を音場2に臨ませた微細穿孔板1の背面(裏面)に気密隔壁3の各筒状空隙6a、6bの一端側を重ね合わせ、その穿孔板1と対向する各筒状空隙6a、6bの反対側を蓋5a、5bで塞ぐことにより本発明の吸音材10とする。微細穿孔板1と気密隔壁3とは接触させ又は貼り合わせることが望ましいが、穿孔板1の背後空気層を複数の筒状空隙6a、6bに区画できれば両者を接触させずに多少離していてもよい。微細穿孔板1の貫通孔と気密隔壁3の筒状空隙6とは1:1に対応する必要はなく、各筒状空隙6の口径wは穿孔板1の開孔ピッチより大きくすることができる。
気密隔壁3は、穿孔板1に接する空気層を複数の筒状空隙6a、6bに区画できる気密性材質であれば足り、微細穿孔板1の剛性の増加等を目的としないので材質にとくに制限はない。また蓋5a、5bも、筒状空隙6a、6b内の空気の流入出を阻止できる気密性のもの(気密蓋)であれば足り、その材質にとくに制限はない。例えば気密隔壁3及び蓋5a、5bを紙製、繊維強化プラスチック製、ポリカーボネート製として軽量化を図ることができる。更に、気密隔壁3と蓋5とを同じ材質製として一体成形することも考えられる。なお、蓋5は筒状空隙6毎に独立したものとする必要はなく、例えば図6(A)に示すように複数の筒状空隙6bに対して空気層の厚さを限定する共通の蓋5bを設けてもよい。
気密隔壁3の各筒状空隙6a、6bの一端側を微細穿孔板1に重ね合わせると共に、他端側を蓋5a、5bで塞ぐことにより、穿孔板1の背面に直交する相互に独立した複数の空気層を形成する。また本発明の吸音材10は、各筒状空隙6a、6bに設ける蓋5a、5bの位置を、隔壁3を介して隣接する各空気層の厚さD1、D2が相互に相違するように選択する。隣接する筒状空隙6a、6bの空気層の厚さD1、D2を相違させることにより、微細穿孔板と背面空気層とで構成されたピーク周波数の異なる複数の共鳴型吸音材を、相互に独立させて並列に隣接配置した構造とすることができる。ただし本発明の吸音材10では、図5を参照して後述するように、空気層の厚さD1、D2の異なる筒状空隙6a、6bが相互に独立していれば足り、厚さDが共通の筒状空隙6(例えば空隙6b)は相互に連通させ(非独立とし)てもよい。
図13を参照して上述したように、ピーク周波数の異なる吸音材を並列に配置した吸音構造は、各吸音材のピーク周波数においてそれぞれ音のエネルギーが消費されて吸音されるので、単独の吸音材を用いた構造に比して吸音帯域幅を広げることができる。図示例では、厚さD1、D2の異なる2種類の筒状空隙6a、6bが隔壁3を介して交互に並ぶように、空気層を厚さD1とする蓋5aと空気層を厚さD2とする蓋5bとを千鳥状に設置している(図9(A)も参照)。ただし、筒状空隙6a、6bの厚さは2種類に限定されるものではない。例えば図9(B)及び(C)に示すように、厚さの異なる3種類又はそれ以上の種類の筒状空隙6a、6b、6cが周期的に又はランダムに配置されるように、蓋5a、5b、5cを設置してもよい。微細穿孔板1の背面に形成する筒状空隙の種類及び厚さは、本発明の適用対象音場2の特性(例えば主に吸音すべき音波の周波数帯域)に応じて定めることができる。好ましくは、穿孔板1の背面に、厚さの異なる複数種類の筒状空隙を等面積比となるように配置する。
また本発明の吸音材10は、穿孔板1と直交する各筒状空隙6a、6bの口径w(すなわち並列に配置された共鳴型吸音材の間隔w)を、音場2からの入射音の波長λより小さくする(w<λ)。吸音材の間隔wを入射音の波長λより小さくすることにより、音響インピーダンスの異なる複数の吸音材に跨って音場2からの入射音を入射させ、空気のインピーダンスとのマッチングのよい吸音材に入射音の多くのエネルギーを流入させることができる。図13を参照して説明したように、入射音のエネルギーを複数の吸音材に均等に入射した場合はピーク周波数の吸音率が各吸音材の吸音率α、αの平均値αavg(=(α+α)/2)にまで低下しうるが、入射音の多くのエネルギーをインピーダンスとのマッチングのよい吸音材へ流入させることにより、ピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えることができる。このため本発明の吸音材10は、ピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えつつ吸音帯域幅を広げることができる。
気密隔壁3の各筒状空隙6a、6bの口径wは、適用対象音場2の特性(例えば主に吸音すべき音波の波長)に応じて定め得るが、製造できる範囲内で可能な限り小さく(細く)することが望ましい。例えば、建物空間内のスピーチ等の周波数帯域は約500〜1000Hzであるから、その音波の最小波長(例えば30cm程度)より小さくなるように各筒状空隙6a、6bの口径wを定めるが、音波の入射角θの相違を考慮して各筒状空隙6の口径wを入射音の波長λの0.5〜0.6倍以下(例えば15cm程度)とすることができる。また、音場2からの音波の入射角θ(微細穿孔板1の法線に対する入射角)が特定できる場合は、その入射角θを考慮して複数の筒状空隙6に音波が入射されるように、各筒状空隙6の口径wを入射音の波長λと入射角θの正弦との積(λsinθ)より小さくする(w<λsinθ)。
図1(C)は、音場2からの入射音の波長λより小さい口径wの2種類の筒状空隙6a、6bを穿孔板1の背面に等面積比で配置した本発明の吸音構造の等価回路を示す。この吸音構造の平均吸音率αavgは(11)〜(12)式のように表すことができる。(11)〜(12)式において、C及びCは厚さD1、D2で定まる各筒状空隙6a、6bの音響リアクタンス、ZMPP1及びZMPP2は微細穿孔板1の各筒状空隙6a、6bに接する部位の板厚t、孔径φ、開孔率Pにより定まる音響インピーダンス、ρ及びcはそれぞれ空気の密度及び音速を示す。ただし、図1の実施例では共通の微細穿孔板1を用いているのでZMPP1=ZMPP2である。図3は、2種類の筒状空隙6a、6bの空気層の厚さをそれぞれD1=15mm、D2=50mmとした場合(微細穿孔板1は共通)の平均吸音率αavgを(11)〜(12)式に基づき算出した理論値を示す。同図と図13との比較から分かるように、空気層が一定の厚さD1(=15mm)又はD2(=50mm)の吸音材の理論的吸音率α、αに比して、本発明の吸音材10の理論的吸音率αavgはピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えつつ吸音帯域幅が広帯域化されている。
[実験例1]
本発明の吸音材10の吸音特性を実際に確認するため、図2(A)に示す音響管22を用いて吸音率αを測定する実験を行った。本実験では、非特許文献5に準拠した吸音管22の一端側に、空気層27を介して微細穿孔板1(板厚t=0.5mm、孔径φ=0.5mm、開孔率P=0.64%)を用いた吸音材を対向させて設置し、他端に設けたスピーカー23から微細穿孔板1に対してノイズ・ジェネレーター24により所定強さIiの入射音(平面波)を周波数掃引しながら垂直に入射し、微細穿孔板1からの反射音の強さIrをマイク25及びリアルタイム・アナライザー26で測定して周波数別の吸音率(=1−(反射音の強さIr/入射音の強さIi))を求めた。同図(B)〜(D)に示すように、微細穿孔板1から見てスピーカー23と反対側に異なる剛性壁28a〜28dを蓋5として設置し、微細穿孔板1の背後空気層27の厚さDを切り換えながら吸音材の吸音率の相違を確認する実験を繰り返した。同図(B)は背後空気層27を厚さ=15mmで一定とした吸音材、同図(C)は背後空気層27を厚さ=50mmで一定とした吸音材、同図(D)は厚さ50mmの背後空気層27aと厚さ15mmの背後空気層27bとを組み合わせているが両空気層の間に隔壁(仕切り壁)29を設置していない吸音材、同図(E)は厚さ50mm及び15mmの背後空気層27a及び27bを組み合わせると共に両空気層の間に隔壁(仕切り壁)29を設置して本発明の吸音材10とした場合を示す。
図4は、図2(B)〜(E)の吸音材についてそれぞれ測定した垂直入射射吸音率α〜αの実験結果を示す。図2(B)及び(C)の吸音材の吸音率α及びαは、それぞれ図3に示す空気層が一定の厚さD1(=15mm)又はD2(=50mm)の吸音材の理論的吸音率α及びαとほぼ一致している。また図2(D)の吸音材の吸音率αは、同図(B)及び(C)の吸音率α、αに比してピーク周波数は移動しているものの吸音帯域幅は広帯域化されていない。このことは、図10(C)及び図12を参照して上述したように、背後空気層27の厚さD1、D2を周期wで相違させた非特許文献2の吸音構造では吸音帯域幅の広帯域化が実現できないことを示している。これに対して本発明の吸音材10の吸音率αは、図3の理論的吸音率αavgに比してピーク周波数の吸音率が若干低下しているものの、同図(B)及び(C)の吸音率α、αの平均値αavg(=(α+α)/2)にまでは低下しておらず、しかも吸音帯域幅が大幅に広帯域化されていることが分かる。この実験結果から、本発明の吸音材10によれば、ピーク周波数の吸音率を大きく低下させることなく吸音帯域幅を大幅に広帯域化できることが確認できた。
こうして本発明の目的である「ピーク周波数の異なる微細穿孔板又は気密振動板を組み合わせて吸音帯域幅を広げることができる広帯域吸音構造及び吸音材」の提供を達成することができる。
以上、図1を参照して微細穿孔板1を用いた本発明の吸音材10について説明したが、微細穿孔板1に代えて、図14(A)に示す気密振動板(又は膜)7を用いて本発明の吸音材10とすることができる。すなわち、表面を音場2に臨ませた気密振動板7の背面に気密隔壁3を重ね合わせて背面空気層を複数の筒状空隙6a、6bに区画し、各筒状空隙6a、6bに蓋5a、5bを設けて隣接する空隙6a、6b毎に空気層の厚さD1、D2を相違させて吸音材10とする。気密隔壁3及び蓋5は、微細穿孔板1を用いた場合と同じものを利用することができる。必要に応じて、微細穿孔板1と気密振動板(又は膜)7とを混在させた平面又は曲面上に気密隔壁3及び蓋5を適用して本発明の吸音材10とすることもできる。
なお、気密隔壁3と蓋5とは分離可能としてもよいが、例えば一体成形された筒状体(箱体)4とすることができる。例えば図1(B)に示すように、音場2からの入射音の波長λより小さい口径w(<λ)で高さD1、D2の異なる筒状周壁を有する複数種類の蓋5a、5b付き無底筒状体4a、4bを、隣接する筒状体4a、4bの高さD1、D2を相違させつつ周壁が接触するように穿孔板1の背面上に密に並べることにより、穿孔板1の背面に接する空気層を複数の筒状空隙6a、6bに区画してもよい。同図(B)の実施例では、微細細孔板1の表面を音場2に臨ませると共にその背面を音場2内の天井又は壁等の剛壁8に背後空気層9を介して対向させ、その背後空気層9に複数種類の蓋付き無底筒状体4a、4bを挿入して密に並べることにより、本発明の吸音材10としている。
また、微細穿孔板1の背面空気層の厚さD1、D2を相違させることに代えて、図6(B)に示すように、微細穿孔板1の各筒状空隙6と接する部位毎の音響インピーダンスZMPPを隣接する部位毎に相違させて本発明の吸音材10とすることも可能である。この場合は、全ての筒状空隙6の空気層を一定の厚さDとすることができる。例えば、気密隔壁3の各筒状空隙6の一端側にそれぞれ所要の板厚t、孔径φ、開孔率Pの微細穿孔板1を重ね合わせ、隣接する筒状空隙6a、6bの微細穿孔板1の板厚t、孔径φ、又は開孔率Pを変化させてインピーダンスZMPP1、ZMPP2を相違させ、インピーダンスZMPP1、ZMPP2の異なる微細穿孔板1と一定の厚さDの背面空気層のリアクタンスC、C(この場合はC=C)とで構成された異なる複数の共鳴型吸音材を相互に独立させて並列に配置した構造とする。このような構造の吸音材10についても、図1(C)の等価回路及び(11)〜(12)式を適用することができ、ピーク周波数の吸音率の低下を小さく抑えて吸音帯域幅が広帯域化された図3の理論的平均吸音率αavgと同様の吸音特性が得られる。
図5は、例えばオフィス等の建物空間の天井に本発明の吸音材10を適用した他の実施例を示す。建物空間の天井材として微細穿孔板1又は気密振動板7を用い、その天井裏を空気層として利用して本発明の吸音材10を形成する。図示例では、穿孔板1又は振動板7の背面を天井の剛壁8に所定厚さD2の空気層9を介して対向させ、その穿孔板1又は振動板7の背面上に、音場2からの入射音の波長λより小さい口径w(<λ)で所定厚さD2未満の高さD1の筒状周壁を有する複数の蓋付き無底筒状体4(気密隔壁3+蓋5)を、その口径wの相互間隔で千鳥状に(例えば図9(A)のハッチング部分のように)並べている。千鳥状に並べた各筒状体4内の筒状空隙(空気層)6aは厚さD1であるのに対し、隣接する筒状体4外の筒状空隙(空気層)6bは空気層D2と空気層(D2−D1)との平均の厚さ(=(D2+(D2−D1))/2=D2−D1/2)となるので、穿孔板1又は振動板7の背面に厚さD1、(D2−D1/2)の異なる相互に独立した共鳴型吸音材が並列に配置された吸音構造とすることができる。すなわち図5の実施例では、筒状体4の蓋5(蓋5a)によって筒状体4内の筒状空隙6aの厚さD1を限定すると共に、剛壁8(蓋5b)によって筒状体4外の筒状空隙6bの厚さ(D2−D1/2)を限定し、剛壁8により厚さを限定した筒状体4外の筒状空隙6bを相互に連通させている。
図5の実施例においても筒状体4の口径wは、音場2からの入射音の波長λより小さく(w<λ)なる範囲内において、適用対象音場2の特性に応じて定めることができる。例えば500〜1000Hz程度の入射音を吸音する場合は、筒状体4の口径wを15〜18cm程度とする。図5の吸音構造の平均吸音率αavgは(21)〜(22)式のように表すことができる。図7は、天井の剛壁8に厚さD2(=70cm)の空気層9を介して対向配置した微細穿孔板1(板厚t=0.5mm、孔径φ=0.5mm、開孔率P=0.64%)を天井材とし、その穿孔板1の背面上に口径w(≒17cm)で高さD1(=20cm)の筒状体4をその口径wの相互間隔で千鳥状に並べ、穿孔板1の背面に厚さ20cm、(70+(70−20)/2)cmの異なる空気層を形成した吸音構造の平均吸音率αavgの理論値を示す((21)〜(22)式に基づき算出)。同図と図13との比較から分かるように、背面空気層が一定の厚さD1(=70cm)又はD2(=20cm)である理論的吸音率α、αに比して、図5のように筒状体4を千鳥状に並べた吸音構造の理論的吸音率αavgも吸音帯域幅が広帯域化されており、しかもピーク周波数の吸音率の低下が小さく抑えられていることが分かる。
図6は、例えば高速道路等の周囲の防音壁(遮音塀)に本発明の吸音材10を適用した実施例を示す。高速道路等の防音壁は、道路で発生する交通騒音が近隣へ伝搬しないように道路の両側に立ち上げ、遮音壁による遮音と回折減衰効果とにより道路周囲への伝搬騒音を低減するものである。従来の遮音壁は、道路の両側に立ち上げ遮音壁の間で騒音が多重反射され、両側の遮音壁で挟まれた領域(道路)の音圧が上がってしまう問題点がある。このうな多重反射の影響を低減するため、表面が吸音性の遮音壁が必要とされる場合がある。とくに視覚的な環境効果の観点から防音壁自体を透光性のあるアクリル製又はポリカーボネート製とする場合があり、そのような遮蔽板の表面に吸音性を確保するために微細穿孔板1を用いた共鳴型吸音材の利用が検討されている。しかし、従来の微細穿孔板1を用いた共鳴型吸音材は吸音帯域幅が非常に狭いという問題点がある。例えば高速道路の遮音壁では、400Hzの入射音に対して70%以上の吸音率で、かつ、1000Hzの入射音に対して80%以上の吸音率といった比較的広帯域の吸音性能が要求されることがある。本発明による微細穿孔板を用いた吸音材は、吸音帯域幅が広く、しかもピーク周波数の吸音率が比較的大きいので、このように比較的広帯域の吸音性能が要求される遮音材として利用することが期待できる。
図6(A)は、表面を道路内側に臨ませた微細穿孔板1(板厚t=0.2mm、孔径φ=0.2mm、開孔率P=0.64%)の背面空気層を、気密隔壁3により口径w(≒17cm程度)の筒状空隙6a、6bに区画し、隔壁3を介して隣接する各筒状空隙6a、6bの空気層の厚さD1(=35mm)、D2(=130mm)を蓋5a、5bによって相違させた本発明の吸音材10を示す。蓋5bは、厚さD2の筒状空隙6bに対して共通のものとしている。この吸音材10の平均吸音率αavgは(11)〜(12)式で表すことができ、図8は(11)〜(12)式に基づき算出した平均吸音率αavgの理論値を示す。同図には、各筒状空隙6の空気層を一定の厚さD1(=35mm)又はD2(=130mm)とした吸音材の理論的吸音率α、αも併せて示す。図8のグラフは、図6(A)の本発明の吸音材10の理論的吸音率αavgが、400Hzの入射音に対して70%以上であり、1000Hzの入射音に対して80%以上であることを示している。すなわち本発明の吸音材10は、比較的広帯域の吸音性能が要求される高速道路の遮音壁として利用することが期待できる。なお、図6(B)に示すように各筒状空隙6a、6bの空気層の厚さD1、D2を一定とし、各筒状空隙6a、6bと接する部位の音響インピーダンスを隣接する部位毎に相違させた微細穿孔板1(1a+1b)を用いた吸音材10によっても、同様な理論的吸音率αavgを得ることが可能である。
は、本発明の吸音構造及び吸音材の実施例の説明図である。 は、本発明の吸音構造の吸音率を測定する実験装置の説明図である。 は、本発明の吸音材の理論的吸音率を示すグラフである。 は、図2の実験装置で測定した本発明の吸音構造の吸音率を示すグラフである。 は、本発明の吸音材の他の実施例の説明図である。 は、本発明の吸音材の更に他の実施例の説明図である。 は、図5の実施例の理論的吸音率を示すグラフである。 は、図6の実施例の理論的吸音率を示すグラフである。 は、本発明の吸音構造及び吸音材で用いる気密隔壁及び蓋の一例の説明図である。 は、従来の微細穿孔板を用いた吸音周波数帯域の広帯域化の提案の説明図である。 は、図10(A)の提案による理論的吸音率を示すグラフである。 は、図10(B)の提案による理論的吸音率を示すグラフである。 は、従来の微細穿孔板を複数組み合わせた吸音構造及び吸音材の理論的吸音率を示すグラフである。 は、従来の板(又は膜)振動型吸音構造及び共鳴器型吸音構造と、それらの吸音特性(吸音率)の説明図である。
符号の説明
1…微細穿孔板 2…音場
3…気密隔壁 4…無底筒状体
5…蓋 6…筒状空隙
7…気密振動板又は膜 8…剛壁(天井又は壁)
8a…吊り金具 9…空気層
10…吸音材
22…音響管 23…スピーカー
23…ノイズ・ジェネレーター 25…マイク
26…リアルタイム・アナライザー
27…空気層 28…剛性壁周期
29…隔壁(仕切り壁)

Claims (4)

  1. 表面を音場に臨ませた微細穿孔板又は気密振動板の背面を音場内の剛壁に所定厚さの空気層を介して対向させ、前記板の背面上に音場からの入射音の波長より小さい口径で前記所定厚さ未満の高さの筒状周壁を有する複数の蓋付き無底筒状体を当該筒状体の口径の相互間隔で千鳥状に並べ、前記各筒状体内の空気層厚さを隣接する筒状体外の空気層の所定厚さと相違させてなる広帯域吸音構造。
  2. 請求項1の吸音構造において、前記微細穿孔板又は気密振動板の背面に、前記蓋付き無底筒状体を相互間隔と等面積比で並べてなる広帯域吸音構造。
  3. 表面を音場に臨ませて背面を音場内の剛壁に所定厚さの空気層を介して対向させる微細穿孔板又は気密振動板、及び前記音場からの入射音の波長より小さい口径で前記所定厚さ未満の高さの筒状周壁を有し且つ当該口径の相互間隔で前記板の背面上に千鳥状に並べる複数の蓋付き無底筒状体を備え、前記各筒状体内の空気層厚さを隣接する筒状体外の空気層の所定厚さと相違させてなる広帯域吸音材。
  4. 請求項の吸音材において、前記微細穿孔板又は気密振動板の背面に、前記蓋付き無底筒状体を相互間隔と等面積比で並べてなる広帯域吸音材。
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