磁石の残留磁束密度と高保磁力を両立させるためには、減磁曲線の角型性を高くする必要がある。残留磁束密度、高保磁力、角型性について全てを満足させるための最良の形態について以下に説明する。
残留磁束密度を高くするためには、磁石を構成する材料あるいは元素の全磁気モーメントを高くすることが有効である。安定な材料で最も飽和磁束密度が高い材料が、FeCo系合金である。また、準安定相では、窒素が格子間に侵入した化合物が高い磁束密度を有する。
フッ素を含む17族の元素は電気陰性度が高く、鉄やコバルトなどの電子状態密度の分布を大きく変えることから、上記高磁束密度の化合物あるいは合金に含有させることにより、さらに高い磁束密度になる。
フッ素は、原子間位置あるいは置換位置に配置されることにより、隣接する原子の電子状態を変えるとともに格子歪による結晶の変形をともない、磁気体積効果などによる磁気モーメントの増加も加わる。
保磁力を高くするためには、結晶磁気異方性を大きくする必要がある。フッ素などの17族元素は高電気陰性度のために、鉄やコバルトなどの原子の状態密度の分布に異方性を付加することができ、そのために結晶磁気異方性エネルギーが増加する。
飽和磁束密度が2.4TのFeCo合金にフッ素を5原子%含有させ結晶格子を約1%膨張させることにより、2MA/mの異方性磁界が得られる。このとき、残留磁束密度を高くするためには、減磁曲線の角型性を高くすることが重要である。
十分に高い磁界を引加した飽和磁束密度を維持しながら残留磁束密度を高めるには、保磁力を高くし、磁化が容易に反転あるいは回転しないようにすることが重要である。磁化の反転あるいは回転の生じ易い場所は、種々の欠陥をもった界面や結晶格子の不連続部、異相との界面などである。このような場所をできるだけなくすことで残留磁束密度を増加させる。そのためにフッ素などの17族元素を含有する化合物の結晶粒あるいは粉末において、17族元素の濃度が異なる化合物の結晶方位をそろえることが重要である。
フッ化物においてフッ素濃度が異なる化合物の結晶方位の制御のため、フッ素の濃度を制御すること、フッ素原子の配置する原子位置を制御すること、フッ化物の結晶安定性を高めることが重要である。
具体的にはフッ素を格子間位置に配置し、格子間位置に配置するフッ素濃度を0.1から15原子%の範囲にすること、フッ素及び鉄の規則度を高めること、粒界あるいは最表面に酸フッ化物などの主相よりもエネルギー的に安定なフッ化物を形成することが挙げられる。
結晶粒または磁粉の内部と外周部の結晶方位をそろえてフッ化物を形成させるためには、まずフッ化前の結晶粒または磁粉中の結晶方位がそろっていることが必須であり、さらにフッ化中に磁粉または結晶粒内に侵入型フッ化物とは格子整合性が悪いフッ化物やその他酸化物、炭化物などをできるだけ成長しないようにすることにより、整合性の悪い界面からの方位の異なる侵入型フッ化物の成長を抑えることが重要である。
このようにフッ素原子が鉄原子あるいは希土類原子の骨格とする格子に侵入した結晶の方位を結晶粒あるいは磁粉内部でそろえるためには、非磁性あるいは常磁性フッ化物が成長し易い温度よりも低温でフッ化させる必要がある。
低温でフッ化することにより、FeXFY(X, Yは整数)のような安定なフッ化物または酸フッ化物を結晶粒内部あるいは磁粉内部での成長よりも侵入型化合物を形成する。フッ化による母相結晶粒あるいは母相磁粉の最外周表面には、母相の構成元素を少なくとも1種含むフッ化物あるいは酸フッ化物が層状に形成される。
侵入型フッ化物を含有する磁粉あるいは結晶粒には、侵入型フッ化物以外のフッ素含有化合物が最表面の一部または粒界の一部に形成される。これは、結晶粒あるいは磁粉が
Rel(FemM1-m)Fx 、Res(FetM1-t)Fy 及び(Re, Fe, M)aObFcから構成されており、Rel(FemM1-m)Fxが中心部、 Res(FetM1-t)Fyが外周部及び外周部の外側あるいは粒界に(Re, Fe, M)aObFcが形成されており、ReはYを含む希土類元素、Feは鉄、Fはフッ素あるいは17族の元素またはフッ素とフッ素以外の侵入型元素、Mが遷移元素であり、さらに
Rel(FemM1-m)Fx のa軸と Res(FetM1-t)Fyのa軸のなす角度が平均して45度以内
あるいは
Rel(FemM1-m)Fx のc軸と Res(FetM1-t)Fyのc軸のなす角度が平均して45度以内
の関係を保持することが高保磁力化に必須である。
すなわち、等価の任意の結晶方向において、外周のフッ化物Res(FetM1-t)Fyと中心部フッ化物Rel(FemM1-m)Fx間の方向差が45度以内であることを意味している。ここで、l, m, x, s, t, y, a, b, cは有理数であり、l<m, s<t, x<yの関係となる。また、(Re, Fe, M)aObFcは、ReあるいはFe、Mの少なくとも一つの元素を含有するフッ化物, 酸フッ化物または酸化物であり、母相よりも磁化が小さい。
上記結晶軸の角度差が45度を超えると、角度差による欠陥や転移をともなった境界が形成され、磁化反転がしやすく保磁力が小さくなるとともに残留磁束密度も低下する傾向にある。
本発明では、フッ素(F)が重要な役割をもつ。フッ素は周期律表の中で最も高い電気陰性度をもつことが知られており、負イオンになり易い。これまでの磁性材料の歴史においてホウ素、炭素、窒素及び酸素は実用材料で使用されている。しかし、フッ素を含むハロゲン元素については十分な基礎物性や反応プロセスなどに関する情報がない。
周期律表において、フッ素に近い酸素、窒素、炭素はFeと種々の反応により合金や化合物が成長し、磁化が発現する。鉄―酸素系ではフェライトに関する種々の基礎データがあり、窒素や炭素を含有する強磁性鉄の知見もある。
これに対し、強磁性鉄フッ素系に関する報告は少ない。最近、フッ化物の溶液やフッ素含有ガス反応に関する基礎実験の検討結果より次のような結果が得られた。1)フッ素は鉄系あるいはコバルト系強磁性相に導入可能である。2)フッ素は鉄の結晶格子において侵入位置に配置可能である。3)フッ素が導入された鉄は室温で安定である。4)フッ素が導入された強磁性相は加熱分解する。
さらに、磁性材料に関してはフッ素の導入による次の効果を確認している。1)フッ素導入により結晶磁気異方性エネルギーが増大する。2)フッ素が単位格子体積を増加させ、磁気体積効果による磁気モーメントを増大させる。3)隣接原子の電子状態密度分布を異方化する。4)フッ素周辺の原子がフッ素を介して交換相互作用を示す。5)電気陰性度の小さい元素とともに化合物を形成することにより、電子の状態密度を著しく変形させ、スピン配列に影響する。6)他の軽元素を含有する化合物の形成により、フッ化物の安定性が向上する。
上記の各効果は、窒素のみの導入、酸素のみの導入ではみられない効果であり、窒素と酸素の両方の効果を兼ね備えているという見方も部分的に成り立つ。上記性質を磁性材料に取り入れることにより、これまでに不可欠であった重希土類元素や希土類元素の使用量を大幅に削減することが可能となった。さらに、応用製品に必要な磁石性能を最適設計すれば、フッ化磁性材料のプロセスならびに材料系選択により希土類元素を使用しない磁性材料が提供できることも見出した。
希土類元素を使用しない磁性材料について、その手段を以下に説明する。
磁性材料の基礎物性は、飽和磁束密度、キュリー温度、及び結晶磁気異方性エネルギーである。磁石の高性能化のためには、これらの3つの基本物性値を従来の希土類元素を使用する磁性材料よりも大きくする必要がある。
飽和磁束密度を高くするために、Fe-Co合金を主相に使用し、最高約2.4Tの飽和磁束密度を確保する。主相にFe-Co合金あるいはFe基合金を使用し、希土類元素を使用しないので、キュリー温度は、従来の希土類元素を主相に使用する場合よりも高くすることが可能である。
最も重要な値は結晶磁気異方性エネルギーであり、どのように保磁力を発現させるかということがこれまでの課題であった。保磁力を発現させるために、本発明では以下の手法を採用している。
1)希土類元素を含有しない強磁性の主相に形状異方性を付加する。2)主相に磁気的に結合する高結晶磁気異方性のフッ化物を形成し、主相の磁化反転を抑制する。3)主相の寸法を単磁区となる数100nm以下の大きさにする。4)主相結晶粒間に磁化の小さいフッ化物を形成し、主相粒子間の磁気的連続性をなくす。
これらの手法1)〜4)により保磁力を発現させる時に、フッ素が有効になる理由は、導入されたフッ素の原子位置あるいはフッ化物の組成と構造を制御することにより、保磁力を増大できることにある。すなわち、FeやCoあるいはMn, Crなどの近傍にフッ素原子が配置された場合、これらの元素の電子状態密度分布がフッ素の高電気陰性度により変化するために、電子状態密度に異方性が生じ、結晶磁気異方性が増加する。
また、フッ素原子を介して周辺の元素間に交換相互作用が生じ、スピン間に強い交換結合が生まれ磁化が拘束される。このような交換結合や結晶磁気異方性の増加は、フッ素の高電気陰性度に起因しており、電気陰性度が小さい元素を添加することにより、電子の状態密度分布はさらに異方性が増し、結晶磁気異方性を増大できる。
以下実施例を説明する。
[実施例1]
本実施例では、フッ素濃度が低い中心部の相と高い表面の相を有し、両者の結晶方位差が平均45度以内である磁性材料およびその磁性材料を用いた磁石の作成方法を説明する。
NdFe12F磁石を作製するために、Nd及び鉄の母合金をNdとFeの原子比が1:12になるように真空溶解する。母合金の組成を均一にするために数回溶解と冷却を繰り返した後に、再溶解し急冷することにより、厚さ約100μmの箔片を形成後水素雰囲気中で粉砕する。粉砕粉の平均粉末径は10〜100μmである。
この粉砕粉とフッ化アンモニウム粉とをアルコール溶媒中で混合し、酸化防止と不純物混入抑制のために表面フッ化が施されたステンレスボールと共に容器内に入れて外部ヒータにより100℃に加熱しながらボールミリングを進める。溶解急冷からボールミル、加熱成形まで酸化防止、磁気特性確保のため水素含有雰囲気中で進めた。加熱及びボールによる粉砕、水素による粉砕効果よりフッ化が進行し、平均粉末径が0.5から2μmのフッ化磁性粉が作成される。
ボールミリングは100時間実施した結果、F(フッ素)が粉末表面から拡散し、NdFe12F組成の磁性粉が形成される。粉末中心部はNdFe12F0.01-0.1である。粉末中心部のフッ化物よりもフッ素濃度が高濃度のフッ化物とは、結晶構造が同一で格子体積が異なり、高濃度のフッ化物の方が低濃度のフッ化物の格子体積よりも大きく、かつこれらのフッ化物の結晶方位には方位関係がある。
フッ化物のc軸あるいはa軸の軸方向が粉末中心部と外周部とではほぼ平行であることを電子顕微鏡の電子線回折像で確認している。この磁性粉を磁場10kOeで1t/cm2の圧力で成形後400℃、10t/cm2で加熱圧縮成形する。
加熱成形により磁性粉表面のフッ化物の一部が結着することでフッ化物磁性粉の全体に占める体積が90から99%のブロック体が得られる。このブロック体を成形温度以下の温度で時効急冷後、異方性方向に25kOeの磁界を印加することで磁石特性を確認したところ、残留磁束密度1.8T, 保磁力25kOe、キュリー温度520℃であった。
上記特性を示すNdFe12F磁石は、フッ素濃度が結晶粒界と結晶粒中心部でフッ素濃度が異なる。フッ素濃度は結晶粒界近傍で高く結晶粒中心部で低く、濃度差として0.1原子%以上認められる。このフッ素濃度差は波長分散型X線分析により確認できる。また、結晶粒界あるいは磁石表面にはNdOFやNdF 3 など体心正方晶あるいは立方晶構造をもった相が成長し、主相(NdFe12F)とは異なる組成の水素、炭素や窒素などの不純物を含有するフッ化物あるいは酸フッ化物が成長する。
このようなフッ化物あるいは酸フッ化物の全体に占める体積が増加すると、残留磁束密度が低下するため、平均粒径2μmの主相に対する体積率として10%以下が望ましく、残留磁束密度1.5T以上とするためには5%以下である必要がある。本実施例のような残留磁束密度1.8T, 保磁力25kOe、キュリー温度520℃と同等の磁石特性はNdFe12F以外に、Nd(Fe0.9Co0.1)12F, Nd(Fe0.9Mn0.1)12F CeFe12F, PrFe12F, YFe12F, La(Fe0.9Co0.1)12Fなどのフッ化物で得られ、希土類元素をRE、鉄及び希土類元素以外の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、
REx(FesMT)YFZ + REU(FeSMT)VFW
X, Y, Z, S, T, U, V, Wは正数であり、X<Y, Z<Y, S>T, U<V, W<V, Z<W で磁石特性を示し、第一項のREx(FesMT)yFzが結晶粒中心部あるいは磁粉中心部、第二項の REU(FesMT)VFWが結晶粒界近傍あるいは磁粉表面部のフッ化物である。
残留磁束密度を1.5T以上とするためには、X<Y/10, Z<3, Z<Y/4, T<0.4, S>T であること及び上記主相以外の強磁性を示さないフッ化物や酸フッ化物の体心正方晶あるいは六方晶構造の主相に対する体積比率を0.01から10%にすることが必要であり、主相中でフッ素濃度が異なる少なくとも一つの軸方向がほぼ平行な化合物が成長している。なお、フッ化物や酸フッ化物の形成、および軸方向が平行なフッ素濃度の異なる主相は、構造安定性を高めるために磁石特性確保には不可欠である。
本実施例の反応性ボールミルあるいは反応性メカニカルアロイ工程は、すべての粉末材料のフッ化処理に適用できる。即ち、20℃よりも高い温度に加熱可能な加熱温調により容器内を加熱し、容器内にフッ素を含有する粉末あるいはガスを充てんして反応性をもたせ、ボールによるメカニカルな反応(新生面形成、粉砕、摩擦部の活性化など)と化学反応や拡散反応を合わせることでフッ化が比較的低温(50℃から500℃)で進行する。この手法は、希土類鉄フッ素系磁性材料だけではなく、希土類コバルトフッ素系あるいはコバルト鉄フッ素系などの磁性材料にも適用でき、フッ素濃度が異なり、軸方向が平行な母相が成長することで高保磁力が得られる。
希土類元素を含有しないフッ化物の場合、鉄以外の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、磁粉または結晶粒には少なくとも二種類の組成のフッ化物が形成され、フッ素原子の一部が鉄あるいはM元素の格子間位置に配置し、次式で与えられる組成式で表現される。
(FeSMT)YFZ+(FeUMV)WFX
ここでS, T, Y, Z, U, V, W, Xは正数であり、第一項の(FeSMT)YFZが磁粉または結晶粒の中央部、第二項の(FeUMV)WFXが磁粉または結晶粒の外周部の組成に対応し、Z<Y, X<W, Z<Xである。また磁束密度を高くするためには、S>T, U>V が望ましく、20℃で1kOeから20kOeの高保磁力を得るために、(FeSMT)yFzのa軸と(FeuMv)wFxのa軸のなす角度が平均で45度以内、あるいは(FeSMT)yFzのc軸と(FeuMv)wFxのc軸のなす角度が平均で45度以内であることが条件となる。
[実施例2]
本実施例では、磁粉内部の結晶方位差を45度以下にすることが可能な磁性材料の作製工程ならびに作製した磁石の磁気特性について説明する。
粒径1〜10μmのSm2Fe17N3磁粉100gにフッ化アンモニウム粉100gを混合する。この混合粉を反応容器に挿入し外部ヒータで加熱する。加熱によりフッ化アンモニウムが熱分解し、NH3やフッ素含有ガスが発生する。このフッ素含有ガスにより50〜600℃で磁粉内のN原子の一部がF(フッ素)で置換され始まる。加熱温度200℃の場合、Nの一部がFで置換され、Th2Zn17あるいはTh2Ni17構造にフッ素や窒素が侵入位置に配置したSm2Fe17(N,F)3が成長する。加熱保持後の冷却速度を1℃/minとすることにより、NとF原子の一部は規則配列する。反応終了後、酸化防止のためにArガスで置換する。FがNと置換することにより、化合物の格子体積が局所的に膨張し、Feの磁気モーメントが増加する。また、一部のNあるいはF原子は反応前の侵入位置とは異なる位置に配置する。
このようなSm2Fe17(N,F)3を含有する磁粉は、フッ素を0.1原子%から15原子%含有し、磁粉内の粒界近傍の主相と粒内の主相とではフッ素濃度が約0.1から5%異なる。このようなフッ素濃度の差は電子線の径が100nmのエネルギー分散型X線分光(EDX)あるいは波長分散型X線分光によって分析可能である。また、ビーム径1〜200nmの電子線を用いた電子線回折を磁粉あるいは結晶粒の中心から移動させて観察される回折パターンの解析からフッ化物の結晶方位及び方位差を解析することが可能である。
フッ化は上記のように50〜600℃で進行するが、500〜600℃の高温側では磁粉内でフッ化物の方位差が平均で45度以上になる。これは、フッ素がTh2Zn17あるいはTh2Ni17構造に侵入する以外にFeF2やFeF3などのFe-F系鉄フッ化物やSmF3などの希土類フッ化物、SmOFなどの酸フッ化物を磁粉内部に形成し、母相との結晶構造や格子定数の違いによる結晶方位の乱れが起因している。
一方、500℃未満の低温度でフッ化した場合は、主相と材料系や結晶構造が異なるFeF2やFeF3などのFe-F系鉄フッ化物やSmF3などの希土類フッ化物、SmOFなどの酸フッ化物が磁粉中心部に成長せず、このような化合物や非晶質のフッ化物又は酸フッ化物あるいは酸化物は磁粉の最外周部に見られ、磁粉内部のフッ素濃度が異なるフッ化物の方位差は40度未満となる。
したがって、磁粉や結晶粒内のフッ素濃度が異なるフッ素が侵入したフッ化物の結晶方位の差を45度以下にするためには、フッ化アンモニウムによるフッ化反応温度を500℃未満とすることが必須である。
200℃で反応させた場合には、上記結晶方位の差は0度から20度であり、磁粉中心部に成長した0.1原子%のフッ化物のc軸と磁粉外周部に成長した5原子%のフッ化物のc軸がほぼ平行あるいは磁粉中心部に成長した0.1原子%のフッ化物のa軸と磁粉外周部に成長した5原子%のフッ化物のa軸がほぼ平行であることを100nmのビーム径で測定した透過電子線回折パターンで確認した。
このような磁粉の基本磁気物性は、キュリー温度が400℃〜600℃、飽和磁束密度1.4〜1.9T、異方性磁界が2〜20MA/mであり、磁粉を成形することで残留磁束密度1.5Tの磁石を作成できる。
フッ化反応温度や磁粉の粒径を変えて作成したフッ素侵入型化合物であるSm2Fe17F1-3を主相とする磁石の磁気特性と磁粉内のフッ化物のa軸のなす角度との関係を図1に示す。200℃で20時間、フッ化アンモニウムの分解ガスでフッ化させた粉のフッ素濃度は図2に示すようなフッ素濃度分布を示す。
フッ素濃度は主相表面で8.5原子%であり、主相の中心部方向にフッ素濃度が減少し、中心近傍では0.5〜1原子%となる。中心部及び主相表面近傍の結晶構造はTh2Zn17あるいはTh2Ni17構造であり、格子定数がフッ素濃度により変化する。中心部のフッ素0.5〜1原子%の主相の結晶方位と主相表面の高フッ素濃度部との結晶方位は電子線回折により方位差あるいは角度差として評価できる。その結果の一例を図1に示す。
フッ素が侵入したフッ化物のa軸の軸方向の差が磁気特性に大きく影響し、角度差が大きくなると保磁力及び残留磁束密度が減少する傾向にある。特に角度差が45度以上になると残留磁束密度が1Tよりも小さくなり保磁力も20kOeより小さくなることから、角度差は45度未満が望ましく、可能な限り小さくすることが望ましい。
種類の異なるフッ素含有磁粉の外周フッ化物と内部フッ化物のフッ素濃度差(原子%)と外周フッ化物と内部フッ化物との方位差(度)及び磁気特性について表1〜5に纏めている。外周フッ化物とは主相の外周側、内部フッ化物とは主相内部あるいは主相中心部のフッ素濃度の少ない部分を指し、外周側と内部の主相間にはフッ素濃度差が認められ、その結晶方位の角度差が小さいほど残留磁束密度や保磁力が増加する傾向を示している。
フッ素など第17族の元素の導入により磁粉内部の結晶方位差を45度以下にすることが可能な磁粉材料は、Sm2Fe17N3以外に、RelFemNn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelFemCn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelFemBn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelFem(Reは希土類元素、l及びmは正の整数)MlFem(Mは少なくとも1種のFe以外の遷移元素、Feは鉄、l, mは正の整数)である。このような磁粉表面にはReを含有する酸フッ化物が主相を還元した結果として成長し、主相の酸素濃度が低減される。尚、不可避不純物として主相の侵入位置に水素、酸素、炭素、窒素がフッ素濃度よりも少ない範囲で含有したり、主相の置換位置に遷移元素が結晶構造を変えない範囲で含有していても磁気特性は維持可能である。
[実施例3]
本実施例では蒸着Fe粒子とSmF系アルコール溶液を用いフッ素濃度が中心部と表面で異なり結晶方位の差が平均45度以内である磁性材料の作成工程ならびに作製した磁石の磁気特性についてを説明する。
真空容器内に蒸着源を配置し、Feを蒸発させる。真空度は1x10-4Torr以下であり、抵抗加熱により容器内にFeを蒸発させ、粒径100nmの粒子を作製する。このFe粒子表面にSmF2-3の組成成分を含有するアルコール溶液を塗布し、200℃で乾燥することにより、Fe粒表面に平均膜厚1〜10nmのフッ化物膜が形成される。このフッ化物膜が被覆されたFe粒子をフッ化アンモニウム(NH4F)と混合し、外部ヒータにより加熱する。加熱温度は200℃であり磁粉は(NH4)HF2のガスあるいはアンモニアとフッ化水素にさらされ1時間以上200℃で加熱保持後、50℃以下に最高100℃/分の冷却速度で急冷する。
Feの蒸発から急冷までの一連の工程を大気開放せずに処理することにより、酸素濃度が10〜1000ppmの粉が得られる。フッ素原子の一部はFeの単位格子の四面体あるいは八面体格子間位置にFeの原子位置を移動させて配置する。フッ化アンモニウムを使用するため、フッ素以外に窒素や水素がFe粒またはフッ化物膜中に侵入する。また、アルコール溶液中の炭素や水素または酸素原子もFe粒またはフッ化物膜中に混入する。前記急冷粉を100℃で20時間時効することにより、Th2Zn17構造がフッ素の導入により膨張した構造あるいはCaCu5構造のSm1-2Fe14-20F2-3の化合物が成長する。
フッ素原子の濃度分布が急冷粉の表面から中心方向にみられ、中心よりも急冷粉の外周側でフッ素濃度が高くなる傾向を示し、中心部のフッ素濃度は0.5原子%、外周部のフッ素濃度は9原子%であり、外周部のフッ化物の方が中心部のフッ化物よりも単位胞体積あるいは格子体積が大きく、磁粉外周部のフッ化物と中心部のフッ化物とでは結晶構造が類似であり、一部の格子定数には相似の関係も認められる。中心部のフッ素濃度が0.5原子%のTh2Zn17構造及び外周部のフッ素濃度が9原子%のTh2Zn17構造には、
Th2Zn17構造のa軸(中心部でフッ素濃度が0.5原子%)// Th2Zn17構造のa軸(外周部のフッ素濃度が9原子%)
あるいは、
Th2Zn17構造のc軸(中心部でフッ素濃度が0.5原子%)// Th2Zn17構造のc軸(外周部のフッ素濃度が9原子%)
が認められ、粉表面の一部にSmF3あるいはSmOFなどの希土類元素やフッ素を含有する化合物が成長する。この粉末を磁粉あるいは結晶粒中心部と磁粉あるいは結晶粒外周部の結晶方位の差を45度以内になるように500℃以下で圧縮成形あるいは部分焼結して得た磁石の磁気特性は残留磁束密度が1.3-1.5T、保磁力20-30kOeであり、キュリー温度が480℃となり、モータや医療機器など各種磁気回路に適用できる。
[実施例4]
本実施例ではSm2Fe17N3磁粉とSmF系フッ化物を用いフッ素濃度が中心部と表面で異なり結晶方位の差が平均45度以内である磁性材料の作成工程ならびに作製した磁石の磁気特性について説明する。
SmF系フッ化物を膨潤させたアルコール液を0.5wt%塗布した粒径1〜10μmのSm2Fe17N3磁粉100gに平均粒径0.1μmのフッ化アンモニウム粉100gを混合する。この混合粉を反応容器に挿入し外部ヒータで加熱する。加熱によりフッ化アンモニウムが熱分解し、NH3やフッ素含有ガスが発生する。このフッ素含有ガスにより200〜400℃で磁粉内のN原子の一部がF(フッ素)で置換され始まる。加熱温度300℃の場合、フッ素原子が母相の結晶構造を変形させながら拡散が進行しNの一部がFで置換される。反応が低温のため、フッ化反応前の母相の構造がほぼ維持されてフッ化されることから平均のフッ素濃度が高い磁粉外周部と平均のフッ素濃度が低い磁粉中心部とではその主軸方向がほぼ平行であり、結晶方位が45度以上異なる結晶は見当たらない。
このような条件でSm2Fe17(N,F)3あるいはSm2Fe17(N,F)2が粉末表面のSmOF形成とともに成長する。加熱保持後の冷却速度を1℃/minとすることにより、NとF原子の一部は規則配列する。反応終了後、酸化防止のためにArガスで置換する。FがNと置換することにより、化合物の格子体積が膨張し、Feの磁気モーメントが増加する。また、一部のNあるいはF原子は反応前の侵入位置とは異なる位置に配置する。
このようなSm2Fe17(N,F)3を含有する磁粉は、フッ素を磁粉中心部で0.5原子%、磁粉外周部近傍で12原子%含有し、これらのフッ素含有量が異なる主相の結晶構造は類似しておりその結晶方位においてa軸がほぼ平行である。
また、フッ素含有量が異なる主相の結晶方位の差が一つの結晶粒または磁粉において45度以内で作成できた場合、キュリー温度が400℃〜600℃、飽和磁束密度1.4〜1.9T、保磁力20kOe-30kOeの磁気特性を示した。フッ素の導入により磁気モーメントが増加し保磁力が20kOeを超えることが確認できる磁粉はSm2Fe17N3以外に、CaCu5構造や正方晶のRelFemNn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)あるいはRelComNn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelMnmNn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelCrmNn(Reは希土類元素,l,m,nは正の整数)、RelMnmOn(Reは希土類元素、l及びm, nは正の整数)であり、これらの磁粉内のフッ素濃度が異なる類似構造をもった主相の結晶方位差は一つの結晶粒あるいは磁粉において45度以下であり、残留磁束密度1.6T以上、保磁力20kOe以上とするためには、上記結晶方位差は10度以下であることが望ましい。
このようなフッ素原子の一部が格子の侵入位置に配置し、フッ素濃度に差があるフッ化物結晶の結晶方位差が10度以下にできる化合物は磁粉以外にも薄膜、厚膜、焼結体、箔体で作製可能であり、これらのフッ素含有強磁性材料内部の結晶粒界や磁粉表面でReを含有する酸フッ化物の成長や不純物として酸素、炭素、水素や主相結晶構造変化しない範囲で金属元素が含有していても磁気特性は大きく変化しない。
[実施例5]
本実施例では不定形Fe粉とNdF系フッ化物を用いたフッ素濃度と窒素濃度が中心部と表面で異なり結晶方位の差が平均45度以内である磁性材料の作成工程ならびに作製した磁石の磁気特性について説明する。
平均粒径が0.1μmの不定形形状Fe粉を水素還元し、表面の酸素を除去した後、NdF系アルコール溶液と混合し、表面に非晶質のNdF系膜を形成する。平均膜厚は1-10nmである。この非晶質フッ化物が被覆されたFe粉をフッ化アンモニウム粉と混合し200℃で100時間加熱後、150℃で100時間保持し時効することにより、Fe粉表面からフッ素及び窒素原子が拡散しかつフッ素や窒素の原子配列が単位格子で異方性のある格子が確認できる。一部のフッ素及び窒素原子は規則的に配列しFe原子間隔を広げることにより、Feの磁気モーメントを増加させる。Feの一部はフッ素と規則相であるFe16F2相あるいはFe8F相を形成する。またNdの一部もFe粉内に拡散し、Nd2Fe17(N, F)3が成長する。
このような粉末に100℃以下で磁界印加し、1t/cm2の荷重を加え、仮成形体を作製する。この仮成形体をフッ化アンモニウムガス中で電磁波を照射した加熱成形を実施することにより、Th2Zn17構造及び正方晶構造の強磁性相を含有する粉末を焼結させることができる。
焼結前に磁場により磁粉を結晶方向をそろえさせた異方性磁石を作製でき、磁粉中心部のNd2Fe17(N, F)は磁粉外周部のNd2Fe17(N, F)3と格子定数が異なるが結晶構造は同一であり、a軸またはc軸の方向が磁粉中心部と磁粉外周部とでほぼ平行である。20℃での磁気特性が、残留磁束密度1.6T、保磁力25kOeを示す。焼結後の粒界三重点には一部立方晶のNdOFが成長し主相の酸素濃度を低減している。また、フッ素及び窒素の比率がほぼ1:1において、キュリー温度は490℃である。
[実施例6]
本実施例では不定形Fe粉とSmF系フッ化物を用いたフッ素濃度が中心部と表面で異なり結晶方位の差が平均45度以内である磁性材料の作成工程ならびに作製した磁石の磁気特性について説明する。
平均粒径が0.1μmの不定形形状Fe粉を水素還元し、表面の酸素を除去した後、SmF系アルコール溶液と混合し、表面に非晶質のSmF系膜を形成する。平均膜厚は20nmである。この非晶質フッ化物が被覆されたFe粉をフッ化アンモニウム粉と混合し200℃で100時間加熱後、150℃で100時間保持し時効することにより、Fe粉表面からフッ素及び窒素原子が結晶構造を維持しながら拡散しかつフッ素や窒素の原子配列が単位格子で異方性のある格子が確認できる。一部のフッ素及び窒素原子は規則的に配列しFe原子間隔を広げることにより、Feの磁気モーメントを増加させる。またSmの一部もFe粉内に拡散し、Sm2Fe17(N, F)0.1-3が粒界または表面の酸フッ化物を伴って成長する。
このような粉末に100℃以下で磁界印加し、1t/cm2の荷重を加え、仮成形体を作製する。この仮成形体にSmF系アルコール溶液を含浸させ、アルコール分を乾燥除去後、フッ化アンモニウムガス中で電磁波を照射した加熱成形を実施することにより、Th2Zn17構造及び正方晶構造の強磁性相を含有する粉末を焼結させることができる。
焼結前に磁場により磁粉を配向させ、異方性磁石を作製でき、20℃での磁気特性が、残留磁束密度1.5T、保磁力30kOeを示す。粒界にはフッ素リッチ相が形成され、母相はフッ素及び窒素が含有する。粒界及び表面近傍のフッ素濃度は約10原子%であり、粒中心のフッ素濃度(約0.1から1%)よりも高く、格子定数も大きい傾向があり、これらのフッ素濃度が異なるフッ化物結晶のa軸の方位差は電子線回折パターンから0〜15度である。また一部のフッ素は酸素と結合して酸フッ化物を形成することでFe粉内部の酸素濃度が低減される。フッ素及び窒素の比率がほぼ1:1において、キュリー温度は490℃であり、母相のフッ素濃度が高くなるほどキュリー温度は高くなる傾向を示す。
[実施例7]
本実施例は溶液を用いたSm2Fe17磁粉のフッ素化により磁気特性に優れたSm2Fe17Fx磁粉を得ることに関するものである。
粒径が1〜20μmのSm2Fe17磁粉100gとフッ化アンモニウム粉末10gを共にスクアラン(主成分2,6,10,15,19,23−ヘキサメチルテトラコサン)中に入れ、この混合液を撹拌しながら150℃で加熱する。加熱によりフッ化アンモニウムが熱分解し、このフッ素含有分解生成物によりSm2Fe17磁粉が元の結晶構造を維持したままF原子が浸透拡散しSm2Fe17Fxが生成する。ここでxは3以下の正数である。溶液中撹拌しながら反応させるため、ガスを用いた方法に比べて磁粉に対する反応のばらつきが少ない。
ランダムに取り出した5つの粒子をSIMSにて深さ方向分析した結果、各粒子の表面下100nmでのフッ素濃度の平均値からのずれは30%以内であった。フッ素は主にTh2Ni17構造の侵入位置に存在し、反応は磁粉表面より進行するためフッ素濃度は粒子表面付近ほど高く、電子線の径が100nmの波長分散型X線分光による組成分析では磁粉外周より100nm内部ではフッ素濃度7原子%、磁粉中心部では0.5原子%であった。
このようなフッ素の導入はFe原子間距離を広げ、磁気モーメントを増加させる。また表面付近と中心付近では結晶方位の差は平均45度以内であった。なおフッ化アンモニウムの分解により生じるNH3由来の窒素や水素およびスクアラン由来の炭素や水素が侵入位置の一部に存在することもあるが、これらの元素にもFe原子間距離を広げる効果がある。反応終了後、酸化防止のために窒素ガス雰囲気下で磁粉を取り出し、付着しているスクアランをヘキサンで洗浄し真空乾燥する。
こうして得た磁粉を大気に曝すことなく磁界印加しつつ1 t/cm2の荷重を加え、仮成型体を作成する。これを500℃以下で圧縮成型あるいは部分焼結することで磁粉の方向がそろった異方性磁石が作成でき、20℃での磁気特性が、残留磁束密度1.5T、保磁力20kOeを示す。またフッ素化に用いることのできる化合物としてはフッ化アンモニウムのほかに、たとえばフッ化水素アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、トリエチルアミンやピリジンなどのアミンとフッ化水素からなる塩、フッ化セシウム、フッ化クリプトン、フッ化キセノンなどがあり、一方で使用可能な液体としてはスクアランの他に炭素数6以上のアルカン、アルケン、アルキン、カルボン酸、アルコール、ケトン、エーテル、アミン、パーフルオロアルキルエーテルなどが使用可能である。
[実施例8]
本実施例は溶液中にてFeとSmを含むのフッ化物を共沈させ、これを還元後フッ素化することで磁石原料として利用可能なSm2Fe17Fx粉末を得る工程について説明する。
クエン酸鉄アンモニウム100gと酢酸サマリウム13gを、イオン交換水2リットル中に加え撹拌して完全に溶解させた。これに、46重量%フッ化水素酸47gを加えて、鉄とサマリウムのフッ化物を共沈させた。液に溶解させてから共沈させることで鉄とサマリウムが均一に混合した沈殿が得られ、粒子径は0.05〜30μmである。これを、イオン交換水で洗浄後、300℃で真空乾燥し、さらに金属カリウム50gを混合しアルゴンなどの希ガス雰囲気下650℃で1時間加熱することで、フッ化物沈殿は還元されTh2Zn17型の結晶構造を有するSm2Fe17粒子となる。さらに、フッ化水素カリウム84gを加え、残留金属カリウムをフッ素化すると共に300℃で1〜20時間加熱することでフッ化水素カリウム分解物によりSm2Fe17粉がフッ素化され、Th2Zn17型の結晶構造が保たれたままフッ素が侵入位置に配置したSm2Fe17Fxが生成する。ここでxは3以下の正数である。
冷却後、この混合物を1重量%水酸化カリウム水溶液中に投入するとフッ化カリウムおよびフッ化水素カリウムは水に溶解し、Sm 2 Fe 17 F X 粉末が沈降した。そして上澄み液の除去、イオン交換水の追加、撹拌、沈降の操作を5回繰り返して洗浄し真空乾燥させてSm2Fe17Fx粉末を得た。
この粒子はもとの沈殿粒子の形態を反映して球状かつ粒径0.05〜30μmであり、粒子の外側からフッ素が侵入したことからフッ素濃度は表面で高く、中心部は低い。この両相の結晶方位差は平均40度以内であり、フッ素濃度が高い部分ほどFe原子間距離が広がり磁気モーメントが増加している。また本工程ではリチウム、ナトリウムおよびセシウムなどカリウム以外のアルカリ金属元素も使用可能である。
[実施例9]
本実施例は溶液中にてFeとNdとTiを含むフッ化物を共沈させ、これをボールミリングにより還元後フッ素化することで磁石原料として利用可能なNdFeTiF粉末を得る工程について説明する。
クエン酸鉄アンモニウム100gと酢酸ネオジム9g、チタンペルオキソクエン酸アンモニウム61gをイオン交換水2リットル中に加え撹拌して完全に溶解させた。これに46重量%フッ化水素酸47gを加えて鉄とネオジムおよびチタンを含有するフッ化物を共沈させた。
均一に混合させた液から共沈させるため鉄とネオジムおよびチタンが均一に混合した沈殿が得られ、粒子径は0.05〜25μmである。沈殿をイオン交換水で洗浄後、200℃で真空乾燥し、金属ナトリウム25gと混合し、ステンレスボールと共に容器に入れアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下1〜24時間ボールミリングすることで、フッ化物沈殿は還元されNd2Fe11Tiとなる。さらにフッ化水素ナトリウム67gを加えて250℃で1〜20時間ボールミリングすることで残留金属ナトリウムをフッ素化すると共にNd2Fe11Tiがその結晶構造を保ったままフッ素化されNdFe11TiFが形成される。フッ素濃度は粒子表面ほど高く、またフッ素の導入は結晶格子を膨張させ、Fe原子間距離を広げることで磁気モーメントを増加させる。
冷却後、混合物を1重量%水酸化ナトリウム水溶液中に投入し、フッ化ナトリウムおよびフッ化水素ナトリウムを溶解させ、NdFe11TiF粉を容器底部に沈降させる。そして上澄み液の除去、イオン交換水の追加、撹拌の操作を5回繰り返して洗浄し真空乾燥させてNd2Fe11TiF粉末を得た。Ti元素は結晶構造を安定化させ、さらに酸素が存在する雰囲気下では表面に酸化物を形成し耐食性の向上に寄与する。フッ化ナトリウムは水への溶解性がフッ化カリウムより低いが、ボールミリングにより粉砕することで溶解速度の低下を補うことが可能である。
[実施例10]
本実施例は溶液中にてFeとNdを含むフッ化物を共沈させ、これをカルシウムで還元およびボールミリングによりフッ素化することで磁性材料として利用可能なNd3Fe29F3粉末を得る工程について説明する。
クエン酸鉄アンモニウム100gと酢酸ネオジム11gをイオン交換水2リットル中に加え撹拌して完全に溶解させた。これに46重量%フッ化水素酸47gを加えて鉄とネオジムのフッ化物を共沈させた。これにより鉄とネオジムが均一に混合した沈殿が得られ、粒子径は0.05〜30μmである。これをイオン交換水で洗浄および200℃で真空乾燥し、金属カルシウム45gを混合し、600℃で2時間加熱することによりフッ化物が還元されNd3Fe29となる。
得られたNd3Fe29、金属カルシウム、およびフッ素との反応により生じたフッ化カルシウムの混合物を粒径50μm以下に粉砕後、無水トリエチルアミン3フッ化水素300ml中に入れ80℃で1〜24時間加熱した。これによりカルシウムはトリエチルアミン溶液に溶解し、Nd3Fe29は結晶構造を保ったままフッ素化されNd3Fe29F3となると共に容器底部に沈降した。これをデカンテーションにより取り出しイオン交換水で洗浄し真空乾燥させNd3Fe29F3粉末を得た。
こうして得られた粉末は、共沈物の粒子径を反映して0.05〜30μmであり、溶液中でフッ素化するため各粒子のフッ素化率のばらつきが少ない。またフッ素濃度は表面で高く中心部では低く、両相の結晶方位の差は平均45度以内である。
[実施例11]
本実施例は溶液を用いてSm3Fe29を生成しこれを熱分解させることでSm2Fe17FとFe−F系の2相からなる複合粒子を得るための工程について説明する。
クエン酸鉄アンモニウム100gと酢酸サマリウム11gをイオン交換水2リットル中に加え撹拌して完全に溶解させ、さらに46重量%フッ化水素酸47gを加えて鉄とサマリウムが均一に混合した粒子径0.5〜30μmの共沈生成物を得る。これをイオン交換水で洗浄後、200℃で真空乾燥し、金属カリウム22gを混合し、600℃で2時間加熱することによりフッ化物が還元されNd3Fe29が生じる。そして、フッ化水素カリウム50gを加え、400℃で2時間加熱するとNd3Fe29がフッ素化されつつ熱分解を起こしSm2Fe17F3とFeFxが複合した粒子が生成する。ここでxは2以下の正数である。冷却後反応物を1重量%水酸化カリウム水溶液に投入し、フッ化カリウムとフッ化水素カリウムを溶解除去し、水洗後真空乾燥させSm2Fe17F3とFeFxの複合粒子からなる粉末を得た。
この方法により得られた粒子はナノメートル単位のSm2Fe17F3とFeFxの2相が接しており、両者の結晶方位差は平均45度以下で、飽和磁化が大きいFeFxに磁気異方性の大きいSm2Fe17F3が交換相互作用を及ぼすために単純な2相の混合による場合よりも保磁力が高い磁石原料となる。
[実施例12]
本実施例では溶液を用いたSm 2 Fe 17 F 3 磁粉を用いたボンド磁石の製造方法を説明する。
粒径10〜100μmのSm2Fe17粉100gを無水トリエチルアミン3フッ化水素とともに容器に入れ、アルミナボールと共に容器内に入れて内部をアルゴンガスで置換し、外部ヒータにより80℃に加熱しながら10時間ボールミリングを進める。
加熱およびボールによる粉砕、トリエチルアミン3フッ化水素との反応によりSm2Fe17粉のフッ素化が進行し、平均粒径が0.5から5μmのフッ化物磁性粉が得られる。フッ素化は粒子表面から進行するため、粒子表面にはSmFe12F1-3が形成されているのに対し、粉末中心部はSm2Fe12F0.01-0.1 であり、両相の結晶方位差は平均45度以内である。このフッ素化された磁性粉末をバインダーであるフェノール樹脂と共に混合し、磁場中で成型固化しボンド磁石を得る。
バインダーとしては熱硬化性、熱可塑性樹脂問わず使用可能であるが、たとえばエポキシ樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶ポリマー、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂、などが使用でき、一方で無機バインダーとしてはシロキサンやシランの分解により生じるSiO2などが使用できる。
溶液を用いて得られた粒子は粉砕により得られるものに比べて粒径が揃っているため流動性が高く、樹脂に混練した場合にも流動しやすく成形性に優れたボンド磁石原料とすることができる。
[実施例13]
本実施例では耐圧容器を用いた磁粉のフッ素化によるSm2Fe17F3粉末の作製工程について説明する。
粒径1〜20μmのSm2Fe17磁粉100gとフッ化キセノン10gを混合し、内壁をフッ素樹脂で被覆したオートクレーブに入れ200℃で24時間加熱した。フッ化キセノンの熱分解によりフッ素含有ガスが発生し、これがSm2Fe17と反応して結晶格子の侵入位置にフッ素が位置したSm2Fe17F3が生成した。加熱しながら、容器内部のガスをアルゴンで置換し、残留フッ化キセノンを揮発させ内容物であるSm2Fe17F3粉末を得た。
キセノンは希ガスであるため磁粉との反応性は無くフッ素以外の元素の侵入が避けられる。得られた粉末は粒子表面からのフッ素侵入により表面でフッ素濃度が高く、中心部で低い。また、両部分の結晶方位に大きな差は無く平均で15度以内である。
この工程にはフッ化キセノンのほか、フッ化アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、酸性フッ化アンモニウム、トリエチルアミンやピリジンなどのアミンとフッ化水素からなる塩、フッ化クリプトンなどが使用できる。
[実施例14]
(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5磁石を作製するために、Sm, Zr, Co及び鉄の母合金をSmとZrの比率が3:1, FeとCoの原子比が7:3, Sm0.75Zr0.25とFe0.7Co0.3の原子比が1:10になるように真空溶解する。
母合金の組成を均一にするために数回溶解と冷却を繰り返した後に、再溶解し急冷することにより厚さ約100μmの箔片を形成後水素雰囲気中で粉砕する。粉砕粉の平均粉末径は1から5μmである。この粉砕粉とフッ化アンモニウム粉とをアルコール溶媒中で混合し、酸化防止と不純物混入抑制のために表面フッ化が施されたステンレスボールと共に容器内に入れて外部ヒータにより100℃に加熱しながらボールミリングを進める。溶解急冷からボールミル、加熱成形まで酸化防止、磁気特性確保のため水素含有雰囲気中で進めた。
加熱及びボールによる粉砕によりフッ化が進行し、平均粉末径が0.5から2μmのフッ化磁性粉で粉末中に粒径1から30nmの結晶粒が形成される。ボールミリングを100時間実施した結果、F(フッ素)が粉末表面から拡散し、(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5組成の磁性粉が形成される。
磁性粉は、上記のボールミリングを採用せずに前記粉砕粉とフッ化アンモニウム粉とを混合して加熱し250℃、10〜100時間の熱処理によりフッ化あるいはフッ素の拡散処理、あるいはフッ化物のアルコール膨潤溶液を塗布乾燥後200〜500℃で加熱拡散させる処理により形成可能である。
粉末あるいは結晶粒の中心部はフッ素濃度が最外周のフッ化物よりも低く、粉末外周側近傍の強磁性主相で(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F1-5の組成となる。主相の結晶構造は六方晶であり、粉末中心部のフッ化物よりもフッ素濃度が高濃度のフッ化物は粉末あるいは結晶粒中心部の結晶構造が同一で格子体積が異なり、高濃度のフッ化物の方が低濃度のフッ化物の格子体積よりも大きい。
磁粉内の一つの結晶粒において、六方晶構造をもつフッ化物のc軸あるいはa軸の軸方向が結晶粒中心部と外周部とでは45度以内であることを電子顕微鏡の電子線回折像で確認している。また、磁粉内部の粒界や磁粉最外周の一部に主相とは異なる結晶構造の立方晶、斜方晶、菱面体晶、正方晶をもったフッ化物あるいは酸フッ化物が成長している。磁性粉の磁気特性は、結晶構造、フッ素などの侵入元素による格子膨張、結晶粒径、粉末形状、フッ素の磁粉ならびに結晶粒における組成分布及び結晶粒内での結晶方位、粉末内での結晶方位分布、異相成長などに依存する。
ボールミリング条件や粉砕条件を変えて作成した粉末径0.1から200μmの磁粉一粒の磁気特性は、飽和磁束密度1.4〜2.0T, 残留磁束密度0.9〜1.6T, 異方性磁界5〜100kOe, キュリー温度330〜630℃という磁石物性値を示す。このような粉末は、急冷工程のために粉末内に複数の結晶粒を有しており、粉末の外周と中心とでは平均フッ素濃度が異なり、外周側の方がフッ素濃度が高く、主相中のフッ素濃度が外周側で高い。外周側とは粉末の最表面からな粉末の中心部に向かって一個目の主相結晶粒を指し、最外周の主相とは異なる結晶構造をもったフッ化物あるいは酸フッ化物ではない。また、中心部は粉末断面の向かい合う最外周面のほぼ中心の結晶粒を指す。なお、主相結晶粒が一個の粉末の場合、外周側から主相の結晶粒に一格子内側の位置であり、中心部は向かい合う最外周面から中央部の格子位置である。
上記磁気物性をもった粉末の特性をそろえるために、粉末径や組成分布、結晶方位分布がそろった粉末から高性能磁石を製造できる。結晶粒内の結晶方位のばらつきが45度以内であり、磁粉全体の平均フッ素濃度が1から30原子%である磁性粉を磁場10kOeで1t/cm2の圧力で成形後400℃、10t/cm2で急速加熱圧縮成形する。加熱成形により磁性粉表面のフッ化物の一部が結着することでフッ化物磁性粉の全体に占める体積が90から99%のブロック体が得られる。このブロック体を成形温度以下の温度で時効急冷後、異方性方向に25kOeの磁界を印加することで磁石特性を確認したところ、残留磁束密度1.9T, 保磁力25kOe、キュリー温度620℃であった。
上記特性を示す(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5磁石は、フッ素の拡散を伴うため、フッ素濃度が結晶粒界と結晶粒中心部で異なる。フッ素濃度は結晶粒界近傍で高く結晶粒中心部で低く、濃度差として0.01原子%以上認められる。このフッ素濃度差は波長分散型X線分析,エネルギーロス分析、あるいは質量分析計により確認できる。
本実施例のような残留磁束密度1.9T, 保磁力25kOe、キュリー温度620℃と同等の磁石特性は(Sm0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5以外に、(Sm0.75Zr0.24Cu0.01)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5, (La0.75Zr0.25)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5などのフッ化物で得られ、希土類元素をRE、鉄及び希土類元素以外の少なくとも1種類の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、
REx(FesMT)yFz + REU(FesMT)VFW
X, Y, Z, S, T, U, V, Wは正数であり、X<Y, Z<Y, S>T, U<V, W<V, Z<W で磁石特性を示し、第一項のREx(FesMT)yFz が結晶粒中心部あるいは磁粉中心部、第二項の REU(FesMT)VFWが結晶粒界近傍あるいは磁粉表面部のフッ化物である。
残留磁束密度を1.8T以上とするためには、X<Y/10, Z<3, Z<Y/4, T<0.4, S>T であること,遷移金属元素にCoを含むこと及び上記主相以外の強磁性を示さないフッ化物や酸フッ化物の立方晶、菱面体晶、体心正方晶あるいは六方晶構造の主相に対する体積比率を0.01から10%に抑えることが必要であり、主相中でフッ素濃度が異なる少なくとも一つの軸方向がほぼ平行な化合物が成長している。
なお、フッ化物や酸フッ化物の形成、および軸方向がほぼ平行なフッ素濃度の異なる主相は、構造安定性を高めるために磁石特性確保には不可欠である。本実施例の反応性ボールミルあるいは反応性メカニカルアロイ工程は、すべての粉末材料のフッ化処理に適用できる。即ち、20℃よりも高い温度に加熱可能な加熱温調により容器内を加熱し、容器内にフッ素を含有する粉末あるいはガスを充てんして反応性をもたせ、ボールによるメカニカルな反応(新生面形成、粉砕、摩擦部の活性化など)と化学反応や拡散反応を合わせることでフッ化が比較的低温(50℃から500℃)で進行する。
この手法は、希土類鉄フッ素系磁性材料だけではなく、希土類コバルトフッ素系あるいはマンガン鉄フッ素系などの磁性材料にも適用でき、フッ素濃度が異なり、軸方向が平行な母相が成長することで高保磁力が得られる。フッ素とともに他の軽元素であるSi, B, H, C, O, N, Alあるいは塩素など他のハロゲン元素が含有していても良い。
また、希土類元素を含有しないフッ化物の場合、鉄以外の1種以上の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、磁粉または結晶粒には少なくとも二種類の組成のフッ化物が形成され、フッ素原子の一部が鉄あるいはM元素の格子間位置に配置し、次式で与えられる組成式で表現される。
(FeSMT)yFz+(FeuMv)wFx
ここでS, T, Y, Z, U, V, W, Xは正数であり、第一項の(FeSMT)yFzが磁粉または結晶粒の中央部、第二項の(FeuMv)wFx が磁粉または結晶粒の外周部の組成に対応し、 Z<Y, X<W, Z<Xである。また、磁束密度を高くするためには、S>T, U>V が望ましく、20℃で1kOeから20kOeの高保磁力を得るために、(FeSMT)yFzのa軸と(FeuMv)wFxのa軸のなす角度が平均で±30度以内、あるいは(FeSMT)yFzのc軸と(FeuMv)wFxのc軸のなす角度が平均で±30度以内であることが条件となる。なお、これらのフッ化物の主相には水素、酸素、炭素、窒素、ホウ素、ケイ素などが主相の結晶構造を壊さない範囲で含有された複合化合物であり、これらの軽元素の濃度差が粒界と粒内で生じていても良い。
[実施例15]
(Nd0.8Ti0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5磁石を作製するために、Nd, Ti, Co及び鉄の母合金をNdとTiの比率が4:1, FeとCoの原子比が7:3, Nd0.8Ti0.2とFe0.7Co0.3の原子比がほぼ1:10になるように真空溶解する。
母合金の組成を均一にするために数回溶解と冷却を繰り返した後に、再溶解し急冷することにより厚さ約20μmの箔片を形成後水素雰囲気中で粉砕する。粉砕粉の平均粉末径は1から10μmである。
この粉砕粉とフッ化アンモニウム粉とをアルコール溶媒中で混合し、酸化防止と不純物混入抑制のために表面フッ化が施されたステンレスボールと共に容器内に入れて外部ヒータにより150℃に加熱しながらボールミリングを進める。
溶解急冷からボールミル、加熱成形まで酸化防止、磁気特性確保のため水素含有雰囲気中で進めた。加熱及びボールによる粉砕によりフッ化が進行し、平均粉末径が0.5から2μmのフッ化磁性粉で粉末中に粒径1から100nmの結晶粒が形成される。
ボールミリングを100時間実施した結果、F(フッ素)が粉末表面から拡散し、(Nd0.8Ti0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5組成の磁性粉が形成される。上記のボールミリングを採用せずに前記粉砕粉とフッ化アンモニウム粉とを混合して加熱し250℃、10〜100時間の熱処理によりフッ化あるいはフッ素の拡散処理が可能である。
粉末あるいは結晶粒の中心部はフッ素濃度が低くNd濃度も平均的に低く、粉末外周側近傍の主相で(Nd 0.75 Zr 0.25 )(Fe0.7Co0.3)10F1-5の組成となる。主相の結晶構造は六方晶あるいは六方晶に立方晶あるいは正方晶、斜方晶、単斜方晶、菱面体晶が混在しており、粉末中心部のフッ化物よりもフッ素濃度が高濃度のフッ化物は粉末あるいは結晶粒中心部の結晶構造が相似で格子体積が異なり、高濃度のフッ化物の方が低濃度のフッ化物の格子体積よりも大きい。
磁粉内の一つの結晶粒において、六方晶構造をもつフッ化物のc軸あるいはa軸の軸方向が結晶粒中心部と外周部とでは45度以内であることを電子顕微鏡の電子線回折像で確認している。
また、磁粉内部の粒界や磁粉最外周の一部に主相とは異なる結晶構造の立方晶、斜方晶、菱面体晶、正方晶、単斜方晶をもったフッ化物あるいは酸フッ化物が成長し、一部には希土類元素が結晶粒や粉末の外周側に拡散することにより粉末あるいは結晶粒中心部では希土類元素の濃度勾配がフッ化により大きくなる傾向を示し、希土類元素及びフッ素濃度の低いα-Feが成長している。
磁性粉の磁気特性は結晶構造、フッ素などの侵入元素による格子膨張、結晶粒径、粉末形状、フッ素の磁粉ならびに結晶粒における組成分布及び結晶粒内での結晶方位、粉末内での結晶方位分布、異相成長などに依存する。
ボールミリング条件や粉砕条件、熱処と時効処理条件を変えて作成した粉末径0.1から200μmの磁粉一粒の磁気特性は、飽和磁束密度1.4〜2.1T, 残留磁束密度0.9〜1.7T, 異方性磁界20〜100kOe, キュリー温度400〜650℃という磁石物性値を示す。
このような粉末は、急冷工程のために粉末内に複数の結晶粒を有しており、粉末の外周と中心とでは平均フッ素濃度が異なり、外周側の方がフッ素濃度が高く、主相中のフッ素濃度が外周側で高い。外周側とは粉末の最表面からな粉末の中心部に向かって一個目の結晶単位格子を指し、最外周の主相とは異なる結晶構造をもったフッ化物あるいは酸フッ化物ではない。また中心部は粉末断面の向かい合う最外周面のほぼ中心の結晶粒を指す。なお、主相結晶粒が一個の粉末の場合、外周側から主相の結晶粒に一格子内側の位置であり、中心部は向かい合う最外周面から中央部の格子位置である。
上記磁気物性をもった粉末の特性をそろえるために、粉末径や組成分布、結晶方位分布がそろった粉末から高性能磁石を製造できる。結晶粒内の結晶方位のばらつきが45度以内であり、磁粉全体の平均フッ素濃度が0.1から20原子%である磁性粉を磁場10kOeで1t/cm2の圧力で成形後400℃、1t/cm2で急速通電圧縮成形する。通電加熱成形により磁性粉表面のフッ化物の一部が結着することでフッ化物磁性粉の全体に占める体積が90から99%のブロック体が得られる。このブロック体を成形温度以下の温度で時効急冷後、異方性方向に25kOeの磁界を印加することで磁石特性を確認したところ、残留磁束密度1.9T, 保磁力20kOe、キュリー温度610℃であった。
上記特性を示す(Nd0.8Ti0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5磁石は、フッ素の拡散を伴うため、主相中のフッ素濃度が結晶粒界と結晶粒中心部で異なる。フッ素濃度は結晶粒界近傍で高く結晶粒中心部で低く、濃度差として0.01原子%以上EPMA分析により認められる。このフッ素濃度差は波長分散型X線分析,エネルギーロス分析、あるいは質量分析計によっても確認できる。
本実施例のような残留磁束密度1.9T, 保磁力25kOe、キュリー温度620℃と同等の磁石特性は(Nd0.8Ti0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-5以外に、希土類元素と鉄を含有した強磁性フッ化物で得られ、希土類元素をRE、鉄及び希土類元素以外の少なくとも1種類の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、
REx(FesMT)yFz + REU(FesMT)VFW
X, Y, Z, S, T, U, V, Wは正数であり、X<Y, Z<Y, S>T, U<V, W<V, Z<W で磁石特性を示し、第一項のREx(FesMT)yFz が結晶粒中心部あるいは磁粉中心部、第二項の REU(FesMT)VFWが結晶粒界近傍あるいは磁粉表面部のフッ化物である。
残留磁束密度を1.8T以上とするためには、X<Y/10, Z<3, Z<Y/4, T<0.4, S>T であること,遷移金属元素にCoを含むこと及び上記主相以外の強磁性を示さないフッ化物や酸フッ化物の立方晶、菱面体晶、体心正方晶、単斜方晶あるいは六方晶構造の主相に対する体積比率を0.01から20%に抑えることが必要であり、主相中でフッ素濃度が異なる少なくとも一つの軸方向がほぼ平行な化合物が成長している。なお、フッ化物や酸フッ化物の形成、および軸方向がほぼ平行なフッ素濃度の異なる主相は、構造安定性を高めるために磁石特性確保には不可欠である。
本実施例の反応性ボールミルあるいは反応性メカニカルアロイ工程は、すべての粉末材料のフッ化処理に適用できる。即ち、20℃よりも高い温度に加熱可能な加熱温調により容器内を加熱し、容器内にフッ素を含有する粉末あるいはガスを充てんして反応性をもたせ、ボールによるメカニカルな反応(新生面形成、粉砕、摩擦部の活性化など)と化学反応や拡散反応を合わせることでフッ化が比較的低温(50℃から500℃)で進行する。この手法は、希土類鉄フッ素系磁性材料だけではなく、希土類コバルトフッ素系あるいはマンガン鉄フッ素系などの磁性材料にも適用でき、フッ素濃度が異なり、軸方向が平行な母相が成長することで高保磁力が得られる。フッ素とともに他の軽元素であるSi, B, H, C, O, N, Alあるいは塩素など他のハロゲン元素が含有していても良い。
また、希土類元素を含有しないフッ化物の場合、鉄以外の1種以上の遷移金属元素をM、フッ素をFとすると、磁粉または結晶粒には少なくとも二種類の組成のフッ化物が形成され、フッ素原子の一部が鉄あるいはM元素の格子間位置に配置し、次式で与えられる組成式で表現される。
(FeSMT)yFz+(FeuMv)wFx
ここでS, T, Y, Z, U, V, W, Xは正数であり、第一項の(FeSMT)yFzが磁粉または結晶粒の中央部、第二項の(FeuMv)wFx が磁粉または結晶粒の外周部の組成に対応し、 Z<Y, X<W, Z<Xである。また磁束密度を高くするためには、S>T, U>V が望ましく、20℃で1kOeから20kOeの高保磁力を得るために、(FeSMT)yFzのa軸と(FeuMv)wFxのa軸のなす角度が平均で±30度以内、あるいは(FeSMT)yFzのc軸と(FeuMv)wFxのc軸のなす角度が平均で±30度以内であることが条件となる。なお、これらのフッ化物の主相には水素、酸素、炭素、窒素、ホウ素、ケイ素などが主相の結晶構造を壊さない範囲で含有された複合化合物であり、これらの軽元素の濃度差が粒界と粒内で生じていても良い。
尚、主相の外周側にフッ素濃度30原子%から80原子%のフッ化物あるいは酸フッ化物は、0.1〜10原子%の鉄あるいは希土類元素以外の遷移元素及び0.2〜20原子%の希土類元素を含有し、主相のキュリー温度近傍に加熱することによりその組成や結晶構造が変化する。主相のキュリー点以下の温度で準安定相として成長したフッ化物や酸フッ化物は超電導を示し、超電導磁石に使用できる。
[実施例16]
SmFe系粉を作成し、フッ化処理により磁石基本物性である飽和磁化、異方性磁界ならびにキュリー温度を改善させる。
まず、Sm, Zr, Fe, Co原料を秤量し、(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.7Co0.3)10を真空溶解後、40m/sの速度で回転するCuロールを用いArガス中で溶湯急冷してリボンを得る。このリボンには急冷により準安定相が形成され、100℃から500℃の熱処理により準安定相の結晶構造や粒径が変化するが、急冷したままのリボンまたは箔体または粉末内には平均粒径1から100nmの粒子が成長しており、これを大気にさらさずに粉末径を200μm以下に粉砕し、PrF3組成の平均厚さ1から500nmのナノ粒子膜を溶液処理により粉末の外側に形成する。ナノ粒子膜の平均結晶粒径は1から50nmであり(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.7Co0.3)10粉とPrF3ナノ粒子膜との界面では500℃以下の低温でフッ素や鉄、コバルトが相互拡散し易い。
ナノ粒子膜を形成後、還元雰囲気あるいは真空中で300から800℃の温度範囲に加熱し、加熱後1から5時間保持し急冷する。この加熱急冷熱処理により、フッ化と同時に組成及び構造制御することで磁気物性を向上させる。すなわち、フッ素が粉末の粒界あるいは種々の欠陥に沿って拡散し母相内に入り、同時にSmあるいはFe元素が主相から粉末外側のPr-F膜の方に拡散する。主相中の酸素の一部もPr-F膜の方に拡散し、粉末あるいは結晶粒の断面中心部付近にはSm濃度が5原子%以下のSmが少ないFeCo系合金相あるいはFe0.7Co0.3相が形成され、その外側に(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.7Co0.3)10や(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-3が成長し、これらの相の外側あるいは外周側に(Sm, Pr, Fe)F2, (Sm, Pr, Fe)F3, (Sm, Pr, Fe, Co)F2, (Sm, Pr, Fe, Co)F3, (Sm,Pr, Fe, Co)OFあるいは(Sm,Pr, Fe, Co)OFなどのフッ素濃度が15から80原子%のフッ化物あるいは酸フッ化物が形成される。
このような粉末の磁気特性は、飽和磁化170emu/g、異方性磁界50kOe, キュリー温度852Kであった。磁気特性の値は、フッ化により上昇し上記FeCo系合金相あるいはFe0.7Co0.3相が磁化増加に寄与し、(Sm0.8Zr0.2)(Fe0.7Co0.3)10F0.1-3が異方性エネルギーを増加させ、キュリー温度を上昇させており、これらの強磁性相間には交換結合が働くため残留磁化も増加する。
フッ化をさらに進行させて磁気特性を向上させるために、フッ化アンモニウムの分解生成ガスを使用したフッ化を上記加熱急冷後に試みた。磁性粉末の重量と同等の重量のフッ化アンモニウム粉を混合し200から500℃の温度範囲で5時間加熱し急冷した結果、磁気特性は、飽和磁化190emu/g、異方性磁界60kOe, キュリー温度892Kであり、エネルギー積、(BH)maxが10から30MGOeの磁石が得られる。磁粉にはbcc構造あるいはbct構造のFeやFe-Co合金相、TbCu7相及びフッ素濃度が30から80%の結晶粒径1から100nmのフッ化物や酸フッ化物が成長していることを確認できた。
このフッ化アンモニウムを使用したフッ化処理により成長したbcc構造あるいはbct構造のFeやFe-Co合金相はTbCu7相と直接接触しており一部の界面は整合界面となっていることで強磁性交換結合が働いているために残留磁束密度も増加する。このような交換結合の発現のためにはbccやbctnとTbCu7相の格子整合性を高めることが有効であり、それぞれの結晶の主軸方向の角度分散が小さいことが望ましく、角度分散は±30度以内であることが望ましい。
上記10から30MGOeのエネルギー積を有する磁石は、bcc構造あるいはbct構造のFeやFe-Co合金相からなる高磁化相、TbCu7やTh2Zn17 あるいはThMn12構造のフッ素原子やフッ素と窒素、フッ素と水素、フッ素と炭素、フッ素と酸素、フッ素とホウ素が侵入した化合物からなる高磁気異方性相、及びフッ素濃度が前記フッ素侵入化合物よりも高濃度の立方晶あるいは六方晶、または斜方晶、菱面体晶のフッ化物や酸フッ化物から構成されており、高磁化相と高磁気異方性相の一部は交換結合により高磁化相の磁化の一部が高磁気異方性相により磁気的に拘束されており、窒素侵入化合物であるSmZrFeCoN系よりも高い磁気特性を示す。
窒素侵入化合物よりも高い磁気特性となる理由は以下の通りである。1)フッ素原子は窒素原子よりも電気陰性度が高いため電子の局在化による鉄あるいはコバルト原子の磁気モーメントが高くなる。また、電子の局在化による電子状態密度あるいは電荷の分布にも偏りが生じるために異方性エネルギーも増加する。このため飽和磁化及び残留磁化が増加し、組成や組織及び構造制御により最大70MGOeが得られる。2)フッ化によりフッ素の拡散とともに希土類元素の拡散が進行しフッ素侵入化合物の形成と同時にフッ素侵入化合物と接触して鉄あるいは鉄コバルトリッチの強磁性交換結合相が形成される。フッ化による希土類元素の組成変調が生じることで磁気特性が上昇する。3)フッ化により粉末外周側あるいは結晶粒界の一部にフッ化物や酸フッ化物が成長しこれらの化合物は、還元作用があるため結晶粒内の不純物である酸素を除去し磁化が増加する。また、還元作用により微小酸化物の除去や酸素―希土類、酸素―鉄結合に起因する磁化反転サイトの減少ならびに交換結合界面の清浄化により磁気特性が向上し、フッ素侵入化合物の熱分解を抑制する。さらに過剰フッ化によるフッ化物の成長により粉末の粉砕による平均粒径の低減化が可能であり、フッ素を使用した粉砕により異方性粉の作製も可能である。4)フッ素の拡散による組織あるいは構造の変化に起因する磁気異方性の発現、5)フッ素導入及び鉄よりも電気陰性度の小さい元素の添加による電荷分布の制御に起因する磁石物性値の向上など、1)から5)の理由で磁気特性が窒素侵入型化合物よりも向上し、希土類元素使用量を削減可能である。
[実施例17]
純度99.8%以上のFe及びCo片を評量,真空溶解しFe-30原子%Co合金を作成する。この合金を蒸着源として真空蒸着する。基板はガラスを使用し、ガラス基板にはレジストによりパターンが形成されている。レジスト上にFe-30原子%Co合金膜を真空蒸着により形成する。基板温度は100℃、真空度は1〜0.1x10-5Torrである。パターンは12nm x 105nmでありこの矩形パターンの中に蒸着した合金以外はミリングにより除去し、12nm x105nmの中に堆積させた合金の膜のみ残留させる。膜厚は10nmである。
レジスト剥離前にアルコールにCoを0.1原子%含有するMgF2を膨潤させた結晶粒子を含有しない溶液を塗布し200℃に加熱することでレジストと合金膜界面にもMgF2-0.1%Co膜を形成でき、10 x 100 x 10nmのFe-30%Co合金の外周に厚さ約1nmのMgF2-0.1%Co膜が付着した扁平上のリボンを形成する。
上記リボンをアルコール溶液と混合させ、磁場印加可能な金型に挿入し、10kOeの磁場を印加し0.5t/cm2の荷重で成形することにより、磁場方向にFe-30%Co合金の100nm方向が平均的に平行になる。この時MgF2-0.1%Co膜の結晶構造は準安定状態にあるため磁場印加によりフッ化物溶液に添加されたCoは磁場方向に配列し、かつFe-30%Co合金との界面に偏在化する。これはフッ化物溶液中のCoが強磁性的に振舞うためであり、フッ化物の中のCo原子がクラスタ状あるいはネットワーク状に繋がった低次元形状で磁気異方性があるCoがFe-30%Co合金との界面に付着することで、磁気異方性エネルギーが増加する。
上記成形体の溶媒を加熱除去後さらに300℃で2t/cm2の荷重で成形し密度98%の成形体が得られる。成形体には磁場印加方向に平均的に平行に配列したFe-30%Coリボンとこのリボンにフッ化物膜が被覆され、フッ化物とFe-30%Coリボンの界面近傍のフッ化物側にCo粒子がc軸を磁界方向にほぼ平行にして配列している。
Fe-30%Coリボンの形状磁気異方性とCo粒子の一軸磁気異方性がほぼ同一方向に作用することで高い磁気異方性エネルギーが発現できる。リボン寸法の平均は10 x 100 x 10nm でありフォトリソ工程を経て形成されるためその寸法精度は高く、90%のリボンが±20%以内の寸法精度内に入り、リボン寸法の長軸及び短軸を周期として組成が変調された材料となる。なお、リボン角部は円形であってよい。
Fe-30%Co合金の成形体に占める体積率を80%, Co粒子を含むフッ化物を約20%とすることで残留磁束密度1.7T、保磁力11kOeを20℃で確認できる。保磁力が10kOeを超えるためにはフッ化物溶液から形成した粒径約1nmのCo粒子が必要であり、この粒子がない場合の保磁力は3kOeであり減磁しやすい。粒径2から20nmのCo粒子が0.05〜10%の範囲であれば保磁力増大効果が得られ、5kOe以上の保磁力となる。Co粒子10%以上のCo粒子の場合にはCo粒子が凝集し易くなり低次元配列しにくくFe-30%Co合金リボン間がCo粒子で繋がりやすくなり、リボン間のMgF2膜が不連続になることから保磁力が増大しにくい。
残留磁束密度1.5T以上、保磁力5kOe以上を満足する本実施例と類似の組み合わせとしてFe-30%Co合金の代わりにFe-0〜40%Co, Fe-0〜30%Co-0〜20%Niなどの合金及びこれらの合金に各種遷移金属元素を10原子%以下の濃度で添加した合金が適用でき、Co粒子の代わりに希土類元素を20原子%以下の濃度で含有する希土類コバルト系あるいは希土類鉄合金、あるいはNiAlCo合金系、MnAl合金系などの一軸磁気異方性をもった1から3nmの径の強磁性粒子、またはFeMn系やNiNn系、酸化鉄、フッ化鉄などのフェリ磁性や反強磁性粒子を使用でき、リボン寸法は1〜100nm x 10〜10000 x 1〜1000nm の範囲で縦横高さの寸法の中で最小寸法と最大寸法の比が5以上、望ましくは10から100であることが5kOe以上の保磁力発現に必要であり、上記リボン寸法に近い周期で上記強磁性の組成が変調される。
変調される組成の最大濃度と最小濃度の比(例えば最大Fe濃度を最小Fe濃度で割った値)は2から10000であり、Fe以外の強磁性構成元素についても1.5から50000が望ましく、5kOe以上の保磁力を出現させるためには、10以上が望ましい。これらの強磁性粒子と粒子表面または粒界には酸素、窒素、水素、炭素、ホウ素などの軽元素や金属不純物が含まれても軽元素の濃度が1000ppm以下、金属元素濃度が1%以下であれば磁気特性を大きく低下させず、これらの微量軽元素や金属元素が偏在し、その組成が変調されていても問題ない。
[実施例18]
酸素濃度200ppm以下のFe及びCo金属塊を秤量後アルゴンガス中で溶解する。溶解したFe-30%合金を真空蒸着装置の蒸着源加熱ヒータ上に設置し加熱蒸発させる。20℃に冷却された基板上にFe-30%合金の結晶粒子からなる不連続膜から、粒径約10nmのFe-30%Co合金粒子を作製しアルコール系溶媒に挿入する。このアルコール系溶媒にMgF2-1%Coを膨潤させた溶液及びフッ化アンモニウム(NH4F)を混合しフッ素が過飽和となったMgF2+α-1%Coの準安定結晶構造からなる膜をFe-30%Co合金粒子表面に形成する。
アルコール系溶媒とともにMgF2+α-1%Co膜が付着したFe-30%Co合金粒子を磁場印加可能な金型に挿入し、10kOeの磁場印加とともに1t/cm2の圧力で加圧する。加圧と同時に溶媒は金型の隙間から排出され、磁場配向したMgF2+α-1%Co膜付着Fe-30%Co合金粒子の成形体が得られる。
この成形体を大気中に曝さずに加熱成形することで球状のFe-30%Co合金粒子が扁平状に変形し、c軸が磁界方向に揃った粒径約1nmのCo粒子が短軸長と長軸長比1:5の扁平状の粒子に被覆される。加熱成形は500℃、1t/cm2の条件であり加熱中にフッ化アンモニアの分解反応によりCoあるいはFe-30%Co合金粒子の一部がフッ化され、フッ素濃度が0.1から10原子%含有したCoやFe-30%Co粒子となる。
加熱成形後の成形体にはFe-30%Co-0.2%F粒子の表面にc軸が配向したCo-0.1%F粒子が被覆されその外側にMgFx(X=1.5〜2.5)層が形成されており、Fe-30%Co-0.2%F粒子の体積率が80%, Co-0.1%F粒子の体積率が15%, MgFx(X=1.5〜2.5)層が5%の時に残留磁束密度1.7T, 保磁力12kOeとなる。
上記加熱成形体は、Fe-30%Co-0.2%FとCo-0.1%F及びMgFx(X=1.5〜2.5)の主に3相から構成された組成変調体と同等である。すなわちFeやCoの濃度分布が規則的あるいは周期的に変調された強磁性体であり、その変調周期は複数の周期から構成され、周期成分に結晶粒径及びフッ化物などのフッ素含有粒界相の幅を含んでおり、これらの周期を設計制御することにより保磁力や残留磁束密度、飽和磁束密度、異方性エネルギーなどの基礎磁気物性が制御でき、希土類元素を使用せずに保磁力と残留磁束密度をそれぞれ10kOe以上、1T以上とするためには、変調周期の変動幅の平均ばらつきを±50%以下、望ましくは±30%以下にする必要がある。
このようなフッ素を含有する粒界を有し、希土類元素を使用しないバルク強磁性体において、複数の周期から構成された周期構造を有し、平均的な結晶方位がほぼ一方向に配向し、フッ素を含有する粒界相の強磁性元素含有量を0.1から50原子%とすることで、5kOe以上の保磁力と残留磁束密度1.0T以上、キュリー温度500℃以上が達成できる。また、これらのバルク強磁性体に希土類元素を0.01から5原子%含有させることで添加前の保磁力の2から10倍の値を達成でき、従来のNd2Fe14BやSm2Fe17N3磁石よりも少ない希土類元素濃度で同等以上の磁石特性をもった材料が得られる。
[実施例19]
純度99%の鉄及びコバルトを秤量後真空中で乾燥後、アルゴンガス中でアーク溶解することによりFe-30原子%Co合金を作成する。この合金をガラス管に挿入し、アルゴンガス雰囲気中で高周波溶解後ガラス管の吹き出し孔より回転ロールに溶融した合金を吹き出し急冷する。急冷して作製した粉末は扁平状あるいはリボン状であり、大気解放せずに鉱油中に混合される。鉱油中にはフッ化アンモニウムが約1wt%溶解しており、150℃に加熱することにより鉱油中のフッ化アンモニウムの一部が分解し、分解ガス成分により急冷粉がフッ化される。
一部のフッ素原子はFe-30原子%Co合金の格子間に侵入し原子間距離を拡大することにより原子磁気モーメントを増加させる。200℃以上でフッ化させると安定なFeF2やFeF 3 などの化合物が成長しやすくなる。また100℃以下の低温ではフッ化が進行しにくい。フッ素原子が侵入したFe-30原子%Co合金はフッ素濃度0.01から1原子%で原子磁気モーメントの増加や結晶異方性エネルギーの増加が見られる。フッ素濃度1〜15原子%で一軸磁気異方性エネルギーが増加するため保磁力が増加し、フッ素濃度10原子%で5kOeの保磁力が確認された。
この溶液フッ化工程を得て作成したFe-30%Co-10%F合金粉を磁場中成形後200℃に加熱成形することで、bctあるいはfct構造のFe-Co-F合金と合金粉の表面に(Fe,Co)F2あるいは(Fe,Co)F3が成長した粉末が密度99%で成形され、粉末表面の一部に酸フッ化物が成長する。この時、飽和磁束密度は2.6T, 残留磁束密度が1.7Tの磁石を作成可能である。本実施例においてFe-30原子%Co合金にCrを5原子%添加したFe-30%Co-5%Cr合金を上記と同様に鉱油中に急冷後加熱フッ化させることにより、Crが粉末表面のフッ素が多い領域に偏在化する傾向を示し、粉末中心がFeリッチ相、粉末外周部がCoCrリッチ相となる。Feリッチ相はFe70原子%からFe95原子%の相、CoCrリッチ相はCo40〜60%Cr20〜40%F(フッ素)0.1〜15%の相であり、Crの偏在化により一部Feリッチ相とは異なる結晶構造のFeCoCrF系相が形成されることにより、保磁力が増加し残留磁束密度1.7T, 保磁力10.5kOeの磁気特性が確認できた。
このような添加元素の偏在化はフッ素を含有するガス成分を用いたフッ化処理により150〜200℃の低温で進行し、添加元素としてCr, Fe, Co以外の遷移金属元素や希土類元素についても粉末あるいは粒界近傍に組成が結晶粒の寸法に近い周期で変調されて偏在化させることが可能であり、偏在化相の結晶磁気異方性が増加することにより、磁粉あるいは成形体の磁気異方性エネルギーあるいは異方性磁界が増加するため、保磁力が増加する。フッ化剤としてフッ化アンモニウムをKHF2に変えた場合、一部の粒界あるいは表面にKCoF3などの反強磁性相が成長し、強磁性相との交換結合が働く結果、減磁界方向の保磁力が増加する。
[実施例20]
純度99%の鉄、コバルト、ジルコニウムを秤量後真空中で乾燥後、アルゴンガス圧力0.8気圧中でアーク溶解することによりFe-30原子%Co-5原子%Zr合金を作成する。この合金をガラス管に挿入し、アルゴンガス雰囲気(0.2気圧)中で高周波溶解後ガラス管の吹き出し孔より周速40m/sで回転し表面が10℃に水冷された回転ロールに溶融した合金を吹き出し急冷する。急冷して作製した粉末は扁平状あるいはリボン状であり、粉末中の結晶粒径は平均20nmであり、大気解放せずに沸点が250〜300℃の鉱油中に混合される。鉱油中にはフッ化アンモニウムが約5wt%溶解しており、150℃に加熱することにより鉱油中のフッ化アンモニウムの一部が分解し、急冷粉がフッ化される。
一部のフッ素原子はFe-30原子%Co-5原子%Zr合金の結晶粒界から結晶粒内の立方晶や六方晶の格子間や非晶質内に侵入あるいは置換し原子間距離を収縮することにより原子磁気モーメントあるいは結晶磁気異方性エネルギーを増加させる。200℃以上でフッ化させると安定な(Fe,Co)F2や(Fe,Co)F 3などの化合物が成長しやすくなる。また100℃以下の低温ではフッ化が進行しにくい。
フッ素原子が侵入したFe-30原子%Co-5原子%Zr合金はフッ素濃度0.01から1原子%で原子磁気モーメントの増加や結晶異方性エネルギーの増加が見られる。フッ化アンモニウムの分解成分である水素や窒素も一部反応する。フッ素濃度1〜15原子%で一軸磁気異方性エネルギーが増加するため保磁力が増加し、フッ素濃度10原子%で12kOeの保磁力が確認された。
この溶液フッ化工程を得て作成したFe-30%Co-5%Zr-10%F合金粉を磁場中成形後200℃に加熱成形することで、bctあるいはfct, hcp, などの立方晶(cubic)や正方晶(tetragonal)、六方晶(hexagonal)、斜方晶(orthorhombic)、菱面体晶(rhombohedral)、単斜晶(monoclinic)、三斜晶(triclinic)などの結晶構造のFe-Co-Zr-F合金と合金粉の表面に(Fe,Co, Zr)F2, (Fe,Co, Zr)(O,F)2, (Fe,Co, Zr)(C,O,F)2, (Fe,Co, Zr)(N,C,O,F)2あるいは(Fe,Co, Zr)F3、(Fe,Co, Zr)(O,F)3, (Fe,Co, Zr)(C,O,F)3, (Fe,Co, Zr)(N,C,O,F)3が成長した粉末が密度99%で成形され、粉末表面の一部に酸フッ化物が成長する。この時、飽和磁束密度は2.5T, 残留磁束密度が1.7Tの磁石を作成可能である。
本実施例において、Fe-30%Co-5%Zr-10%合金にCrを15原子%添加したFe-30%Co-15%Cr-5%Zr合金を上記と同様に鉱油中に急冷後加熱フッ化させることにより、Crが粉末表面のフッ素が多い領域に偏在化する傾向を示し、粉末中心がFeリッチ相、粉末外周部がCoCrリッチ相となる。Feリッチ相はFe70原子%からFe80〜90原子%の相、CoCrリッチ相はCo40〜70%Cr20〜40%F(フッ素)0.1〜15%の相であり、Crの偏在化により一部Feリッチ相とは異なる結晶構造のFeCoCrZrF系相が形成されることにより、保磁力が増加し残留磁束密度1.7T, 保磁力10.5kOeの磁気特性が確認できた。
このような添加元素の偏在化はフッ化アンモニウムや酸フッ化アンモニウムなどのフッ素含有ガスを使用したフッ化処理により150〜250℃の低温で進行し、添加元素としてCr, Fe, Co, Zr以外の遷移金属元素や希土類元素を0.1から30原子%添加した場合についても粉末あるいは粒界近傍に偏在化させることが可能であり、偏在化相の結晶磁気異方性が増加することにより、磁粉あるいは成形体の磁気異方性エネルギーあるいは異方性磁界が増加するため、保磁力が増加する。
[実施例21]
純度99%以上の鉄を水素雰囲気中で還元溶解後、不活性ガス雰囲気中で急冷後粉砕し、平均粉末径1〜20μmの粉末を得る。この粉末をフッ化アンモニウム(NH4F)10wt%溶解した鉱油に混合し170℃で20時間加熱しフッ化アンモニウムの分解により粉末のフッ化が進行する。この鉱油にはフッ化アンモニウム以外に種々の金属塩やゲル状金属フッ化物を溶解させることが可能であり、フッ化アンモニウムの分解と金属や金属フッ化物の析出を同時に進行させることも可能である。
フッ化アンモニウム10wt%と粒径1〜10nmのCo粒子を混合したスラリー状鉱油を上記扁平形状の平均粉末径1〜20μmの鉄粉末と混合し、メカニカルアロイあるいはボールミリングを進める。ボールには高純度フッ化鉄(FeF2)を使用し、170℃で反応性ボールミルを進めた結果、鉄粉の表面にCo-1〜30%Fe相及び(Co,Fe)F2や(Co,Fe)F3が成長し、一部のフッ素がCoFe系合金相やFeの格子間に侵入していることをX線回折、電子線回折あるいは中性子線回折、波長分散型X線分光分析により確認した。この鉱油と粉末の混合物を磁界中で仮成形後加熱成形し密度99%の成形体を得た。
成形体には扁平形状の粉の中心部にbccあるいはbct構造のFeあるいはFe-F, Fe-Co-F合金が体積率70%で形成され、その外周側にFe-50〜90%Co-0.1〜15%Fの強磁性フッ素含有相が体積率20%で粒界あるいは粉末表面に沿ってほぼ連続して成長し、さらに結晶粒界の一部または最表面には(Fe,Co)F2, (Fe, Co)F3が約5%の体積率で形成されている。この成形体を15kOeで着磁後磁気特性を評価した結果、残留磁束密度1.5T, 保磁力13kOeであった。フッ素化剤として、NH4HF2等のアンモニウムフルオリドを使用しても良い。
[実施例22]
純度99%以上のコバルトを水素雰囲気中で還元溶解後、不活性ガス雰囲気中で急冷後粉砕し、平均粉末径1〜20μmの扁平形状の粉末を得る。この粉末をフッ化アンモニウム10wt%及びフッ化鉄を溶解した鉱油に混合し170℃で20時間加熱しフッ化アンモニウムの分解による粉末のフッ化及び1〜30nmの粒径の鉄粒子析出が進行する。この鉱油にはフッ化アンモニウムやフッ化鉄以外に種々の金属塩やゲル状金属フッ化物を溶解させることが可能であり、フッ化アンモニウムの分解と鉄以外の金属フッ化物の析出を同時に進行させることも可能である。
フッ化アンモニウム10wt%と粒径1〜30nmのFe粒子を混合したスラリー状鉱油をメカニカルアロイあるいはボールミリングを進める。ボールには高純度フッ化鉄(FeF2)を使用し、170℃で反応性ボールミルを進めた結果、コバルト粉の表面にCo-1〜40%Fe相及び(Co,Fe)F2や(Co,Fe)F3、(Co,Fe)x(OF)y(Xとyは正数)が成長し、一部のフッ素及び水素あるいは炭素がCoFe系合金相やFeの格子間に侵入していることをX線回折、電子線回折あるいは中性子線回折、波長分散型X線分光分析により確認した。この鉱油と粉末の混合物を磁界中で仮成形後加熱成形し密度99%の成形体を得た。
成形体には扁平形状のコバルト粉の中心部にhcpあるいはfcc, bct構造のCoあるいはCo-F, Fe-Co-F合金が体積率80%で形成され、その外周側にFe-50〜90%Co-0.1〜15%Fの強磁性フッ素含有相が体積率10%で粒界あるいは粉末表面に沿ってほぼ連続して成長し、さらに結晶粒界の一部または最表面には(Fe,Co)F2, (Fe, Co)F3あるいはこれらの酸素や水素含有フッ化物が約10%の体積率で形成されている。この成形体を15kOeで着磁後磁気特性を評価した結果、残留磁束密度1.4T, 保磁力15kOeであった。本実施例の磁石は希土類元素を使用しないことから低コスト化可能であり、資源環境保護の点からも有効な材料である。
本実施例のような残留磁束密度1.4T, 保磁力15kOeの磁気特性と同等の特性を得るためには、飽和磁束密度が1.5T以上の強磁性体と、この強磁性体にフッ素を0.1原子%以上15原子%以下含有させた強磁性体、及び50原子%以上のフッ素またはフッ素と酸素濃度の和が50%以上である高濃度フッ素含有相の少なくとも3相がバルク材料の構成相として必要であり、前記バルク材料の組成あるいは構造が1から100nmの範囲で平均的な周期をもった材料を形成することが望ましく、高濃度フッ素含有相内の強磁性元素濃度は0.1から50%の範囲であることが高保磁力化に必要となる。
このような構成のバルク材料に希土類元素や非磁性金属元素を0.01から5原子%添加することにより未添加の材料の保磁力を2から10倍にすることが可能であり、この時希土類元素あるいは非磁性金属元素はフッ素含有相近傍に偏在化するため、粒界近傍の磁気異方性エネルギーが増加し、希土類元素や非磁性金属元素添加による残留磁束密度の減少は1%以下に低減できる。
尚、これらのフッ素含有粒界相を有する磁性材料には水素、炭素、窒素、酸素などの軽元素やフッ素以外のハロゲン元素並びに不可避不純物が含まれていても磁気特性の変動は少ない。
[実施例23]
アルコール溶媒中に(Fe0.6Co0.3Cr0.1)F2の組成で膨潤させたゲルを遠心分離器で非晶質の(Fe0.7Co0.3)F2組成物を分離する。遠心分離器内にAr-10%H2ガスを充てんし還元雰囲気とし150℃に加熱しながら遠心分離する。
遠心分離の際に(Fe0.7Co0.3Cr0.1)F2組成の非晶質からフッ素が還元されて除去されながら結晶化し、結晶粒径が1から100nmの(Fe0.7Co0.3Cr0.1)(H,F)0.001-2の組成物が成長する。この組成物を200〜700℃で磁場中熱処理することにより、組成物の一部がスピノーダル分解を起こし粒界を含む粒界近傍にフッ素を含有するCrリッチ相が成長する。Crリッチ相は10〜90原子%Crを含有する相であり隣接するFe-Coリッチ相中のCr濃度よりも高い。また一部の結晶は磁場方向に連続して成長し、磁気異方性の方向が磁場方向と平行になる。フッ素含有量が10%を超える結晶が粒界の一部に成長し、Fe-Coリッチ相の結晶と磁場方向に沿って整合関係にある。整合関係にあるFe-Coリッチ相には整合歪みが生じ、界面近傍の格子歪による磁気異方性エネルギーの増加が保磁力増大に繋がる。
Fe-Coリッチ相、Crリッチ相及びフッ素含有相の少なくとも三相からなる強磁性材料は、Crやフッ素の偏在と格子歪による高磁気異方性エネルギーのために保磁力が5〜10kOeとすることが可能であり、700℃での加熱成形により残留磁束密度1.4T, 保磁力10kOeの成形磁石を作成できる。このような希土類元素を使用しない成形磁石と同等の特性は、CrをAl, Mn, V, Ti, Mo, Asなど他の金属元素で置換した合金系でも達成でき、他の軽元素や不可避的不純物を含有していても問題ない。
尚、前記(Fe0.6Co0.3Cr0.1)F2の組成物に0.01〜5原子%のSmを添加した場合、Smは偏在化したフッ素近傍にFeやCo原子を伴って偏在し、粒界近傍の結晶磁気異方性エネルギーが増加するため、保磁力20〜50kOe, 残留磁束密度1.7Tの磁性材料が得られる。Smが5%を超えると保磁力は維持されるが、残留磁束密度が減少する傾向を示す。また0.01%未満のSm濃度の場合、保磁力の増大幅は1〜5kOeと小さいことから最適Sm添加量は0.01〜5原子%である。Smの代わりに他の希土類元素を使用しても保磁力増大効果が得られる。
本実施例のような磁石は上記(Fe0.6Co0.3Cr0.1)F2以外にも(Fe0.01-0.4Co0.5-0.89Cr0.1)F2(Ni0.5Al0.2Co0.3)F1-3, (Fe0.8Co0.1Zr0.1)F0.1-3, Mn0.4Al0.4C0.2, Mn0.4Bi0.4C0.2, Mn0.4V0.4C0.2などの組成物についてもスピノーダル分解に近い組成変調を自己組織化工程などを利用して変調周期が0.1〜100nmの組織を形成でき、フッ素偏在と構成元素の粒界近傍の偏在及び粒界の格子歪により、保磁力5kOe, 残留磁束密度1Tを超える磁石が希土類元素を使用せず得られる。
[実施例24]
(Fe0.7Co0.3Zr0.1)10F0.1粉を以下の手法で作成し磁性材料の原料とする。Fe、Co及びZr片を評量し、真空溶解炉に挿入しFe0.7Co0.3Zr0.1を作成する。このFe0.7Co0.3Zr0.1をArガス中雰囲気中で回転ロール上に溶解合金を吹き出して急冷する。急冷粉の平均結晶粒径は1〜50nmである。この急冷粉にSmF3を組成とする非晶質構造の溶液を約1重量%塗布し、加熱粉砕する。
粒径の増大を抑制するために、加熱は急速加熱条件を用い、600℃まで3分で加熱する。20℃/min以上の加熱速度で加熱することで異常結晶成長を抑制できる。結晶粒径が500nmを超える異常結晶成長を防止することにより、粉砕後の粒径を小さくかつSmやフッ素の偏在状態を同程度にすることが可能であり、10kOe以上の高保磁力を実現できる。
温度600℃のArガス雰囲気で粉砕することにより、急冷状態の急冷粉の粒径に近い粒子に粉砕される。600℃ではフッ素が粒界などの欠陥部に拡散し脆化するとともにフッ化物溶液の構成元素であるSmがフッ素原子の拡散と共に急冷粉の欠陥部を通して拡散し、粒界近傍にSmあるいはZr濃度が高い相が形成され、結晶磁気異方性エネルギーが増加する。
急速加熱粉砕後は10℃/min以上の冷却速度で急冷することにより、Smやフッ素の偏在状態を維持するとともに、準安定構造のフッ化物や酸フッ化物を形成させる。平均的な急速加熱粉砕後の組織は以下の通りのコアシェル構造を有している。
粉末中心には(Fe0.7Co0.3Zr0.1)10F0.1あり、外周側にSm(Fe0.7Co0.3Zr0.1)10F0.5が成長し、最外周にはSmF3やSm(OF)が成長する。フッ素が少ない領域では、粉末中心でFe0.7Co0.3Zr0.1あり、外周側にSm(Fe0.7Co0.3Zr0.1)10F0.1が成長し、最外周にはSm(OF)が成長する。
一部の最外周相は上記粉砕時に剥離し、コアシェル構造の磁性粉のSm濃度は0.01〜5原子%である。Sm濃度が5原子%を超えると飽和磁束密度が著しく減少するため、飽和磁束密度2.0T以上として1.7T以上の残留磁束密度を確保するためには、Sm濃度を5原子%以下にすることが必要である。またSmが0.01%未満の場合には、10kOe以上の保磁力を得ることが困難であり、減磁し易くなるので、パーミアンス係数が2以上の減磁しにくい磁気回路で使用されるのみである。
粉末内に成長した各相の結晶構造は、不可避不純物の混入や上記熱処理の温度履歴や粉砕条件により異なるが、その典型例は、中心部が体心立方晶や正方晶あるいはこれらの混合相、外周側が六方晶や正方晶、斜方晶、菱面体晶あるいは単斜晶とこれらの混合相、最外周のフッ素が高濃度で含まれる相は、酸素濃度に依存して非晶質を含む種々の結晶構造を有し、一部の酸フッ化物は準安定な立方晶あるいは面心立方構造を有している。
平均的な粉末中心部の強磁性相にSmは含有せず、強磁性相の外周側に平均的に偏在しているためSmの濃度は低減でき、残留磁束密度を増加させることが可能である。さらに上記材料のキュリー温度は490℃であり、NdFeB系磁石よりも高い。このような1.7T以上の残留磁束密度でかつキュリー温度を400℃以上となる材料は、上記コアシェル組織により達成でき、上記SmFeCoZrF系以外の材料系を使用しても満足でき、次のような一般組成式で説明できる。
A(FexCoyMz) + B(RhFeiCojMkFl)+ C(RoFepCoqMrFs) (1)
(1)式において、Feは鉄、Coはコバルト、Mは一種または複数のFeやCo以外の金属元素、Rは希土類元素、Fはフッ素あるいはフッ素及び水素、フッ素及び窒素、フッ素及び炭素、フッ素及び酸素など一種あるいは複数のフッ素を含む軽元素またはハロゲン元素であり、x, y, z, h, i, j, k, l, o, p, q, r, sは正数である。第1項が磁粉あるいは結晶粒中心付近の強磁性相、第二項が第一項の強磁性からみて外周側に接触しているフッ素含有強磁性相、第三項が最外周または粒界に成長するフッ化物相である。残留磁束密度を1.7T以上にするためには飽和磁束密度を高める必要があるためx>y>z, i>j>k>l, s>p>q>rである。フッ素は粉末あるいは結晶粒の最外周において最高濃度になることから、s>l>0であり、h+i+j+k>o+p+q+r となる。またそれぞれの相の体積率をA, B, Cで表しA+B+C=1(100%)とすると、A>C>0, B>C>0となる。
第一項と第二項の強磁性相の一部の結晶は類似の結晶構造を有し、相間の界面の一部には格子整合性のある界面が形成され、界面の一部に格子歪みが存在し、強磁性相の間の磁化が互いに平行に向くような磁気的結合が生じる。第二項の相の結晶磁気異方性エネルギの方が第一項の相の結晶磁気異方性エネルギよりも大きい。第二項のフッ素原子の一部は格子間位置に侵入し、格子体積を増大させる。
また、第三項のフッ素を含有する相の結晶構造は第二項のフッ素含有強磁性相の結晶構造と異なり、第二項と第三項の相間での整合性のある界面は第一項と第二項間の界面の整合界面よりもその面積が少なく、第一項や第二項の強磁性相の磁化は第三項のフッ素含有相の磁化よりも大きい。
A>B>C>0の場合に残留磁束密度が高く、C<0.1(10%) 望ましくはC<0.001(0.1%)にすることで1.7T以上の残留磁束密度を達成できる。また、第二項あるいは第三項の相には準安定相が形成され、加熱とともに構造あるいは組織が変化し、第一項の強磁性相の結晶構造は体心立方晶や正方晶あるいはこれらの混合相、第二項の強磁性相の結晶構造が六方晶や正方晶、斜方晶、菱面体晶あるいは単斜晶とこれらの混合相、第三項の最外周あるいは結晶粒界のフッ素が高濃度で含まれる相は、酸素濃度に依存して非晶質を含む種々の結晶構造を有し、一部に酸フッ化物を含み、その酸フッ化物の結晶構造は立方晶あるいは面心立方構造を有している。
上記一般式(1)で示される磁粉を酸化防止可能な溶媒と混合し、不活性ガス中で磁場中成形後、加熱加圧することにより、密度98%の異方性磁石を作成でき、粒界にはフッ素含有相、粒界に沿った粒界近傍にフッ素含有強磁性相あるいは反強磁性相、さらにその中心部にフッ素を含有しない強磁性相を形成でき、加熱加圧時に100℃/min以上の速度で急速加熱及び300℃以上の温度領域で150℃/min以上の急速冷却を実施した結果、粒界の酸素含有フッ化物は立方晶となり、残留磁束密度1.8T, 保磁力25kOe, キュリー温度570℃の磁石を磁石全体でのSm濃度を1から2原子%で達成できた。
このような磁石は従来のNd-Fe-B系、Sm-Fe-N系, Sm-Co系などの希土類元素濃度よりも小さくかつこれらの従来材料よりも高い残留磁束密度を示し、あらゆる磁気回路に適用することで磁石応用製品の小型高性能軽量化と性能向上を両立させることが可能である。上記(1)において、Coを含有しない系においても、第一項から第三項の相形成により高保磁力、高残留磁束密度の両立が可能であり、第二項には、Sm2Fe17F1-3, Sm2(Fe, Mo)17F1-3, Sm2(Fe, Ga)17F1-3, Sm2(Fe,Mo)17(N,F)1-3などの他、RxMyNzで示されるフッ素含有化合物または高電気陰性度元素含有化合物を使用できる。前記において、RxMyNzはRが1種以上の希土類元素、Mが一種以上の希土類元素以外の金属元素、Nが電気陰性度2.0以上の1種または複数の元素である。
[実施例25]
フッ素原子を20原子%含有するFe-20%F組成の原子層を一原子層、フッ素を含有するプラズマを利用した反応性スパッタリング法によりMgO(001)単結晶上に作成する。この原子層の上にFeを一原子層形成後、Fe-10%Ti組成の原子層を形成し、さらにFeを一原子層形成する。上記原子層の作成を繰り返すことにより、F含有原子層及びTi含有原子層を周期的にFe中に形成できる。フッ素原子の一部はFe-Fe原子間の侵入位置に配置する。またTi原子の一部はFe原子の置換位置に配列する。
TiとF原子の間にはFe原子が配置しており、Tiが放出する電子はFe原子を介してF原子が受け取ることが可能であり、このようなFeを介した電子の放出と受け取りは、電子分布に局在化をもたらし、電子分布に異方性が発生する。このようなFe原子を介した電子の授受はFe原子の近傍に電気陰性度あるいは電子親和力の大きい元素と小さい元素を対で配置させる必要がある。TiとFが結合したTi-F系化合物の成長は上記Feを介した電子の授受を消失させる傾向があることから、一個または複数個のFe原子をTiとF原子間に配置させることが必要である。
本実施例のような整合界面を有する人工積層膜を形成して、フッ素及び低電気陰性度元素を周期的に鉄を介して配置させることにより、電子分布の異方化による磁気異方性が発現し、異方性磁界を増大させることが可能である。また、フッ素原子の侵入配置及びTiの置換配置により、周辺の格子が変形するために結晶の対称性が変化し、結晶方位に異方性が生じる。電子授受及び格子歪みによりFeの磁気異方性が増加し、保磁力が発現する。Fe/Fe-20%F/Fe/Fe-10%Tiを繰り返し積層した材料の飽和磁束密度は1.8T, 残留磁束密度1.6T, 保磁力は7kOeである。
本実施例のような残留磁束密度1.5T以上, 保磁力5kOe以上を満足する材料は、鉄フッ素系にTiを配置する場合以外にTiの代わりに電気陰性度が3.0以下の一種または二種以上の元素を使用でき、フッ素と低電気陰性度元素をFeを介して周期的に配列することによりFeの電子状態を変化させる。一部のFe原子はフッ素や酸素原子と低電気陰性度元素を介して反強磁性的な結合を有していても上記磁気特性が達成できる。本実施例と類似の構成をもった磁性材料は下記式のように示すことができる。
FexMyFz (2)
(2)式において、Feは鉄、Mは電気陰性度(ポーリングの電気陰性度)が3.0以下の元素、Fはフッ素であり、X=0.8〜0.95 、Y=0.01〜0.1、 Z=0.001〜0.2であり、X+Y+Z=1.0(100%)の組成範囲であって、M-Fe-F, M-Fe-Fe----(n個のFe)-F、M-Fe-Fe---(n個のFe)-F-M のような配列(nは1〜10)または結合をもち、前記Fが配置した配列には方向性がある材料である。
ここで、フッ素原子の一部が侵入位置に配置し、低電気陰性度の元素Mが置換位置に配置することにより生じる格子歪がFeの磁気異方性増大に寄与し、保磁力が発現する。保磁力を10kOe以上にするためには低電気陰性度の元素Mの電気陰性度を2.0以下にすることにより電子の軌道の異方性を高めることが必要である。この磁性材料には不可避的に含有する酸素、水素、炭素、窒素あるいは他の金属元素が1000ppm程度混入していても磁気特性を大きく変えるものではなく、Fの代わりに部分的に塩素など他のハロゲン元素あるいは水素、窒素、硼素などの軽元素、Feの一部を他の遷移金属元素や希土類元素に変えても、上記のような電気陰性度の差が1以上の元素がFe原子を介して配列することにより、磁気異方性エネルギーが増加する。
結晶構造は、正方晶、斜方晶、単斜晶、六方晶、菱面体晶のいずれかが成長しており、フッ素や低電気性度元素の近傍で格子歪が生じている。(2)式において、Xが0.8未満では残留磁束密度が1.5T未満に低下し、Nd-Fe-B系磁石の磁気特性を超える特性を確保できない。また、Xが0.95を超えるとFeのみの強磁性元素で保磁力5kOe以上とすることが困難である。低電気陰性度の元素濃度Yは、0.1を超えると残留磁束密度を1.5T未満に低下させ、0.01未満では保磁力5kOe以上を示さない。フッ素濃度 Zが0.001未満では磁気異方性エネルギーを増大できず保磁力が5kOe未満であり、0.2を超えたフッ素濃度では安定なフッ化物が成長し易くなり、準安定な侵入配置のフッ素原子配列の割合が少なくなり磁気特性が低下する。
(2)式の組成と上記F, Fe, M元素の原子配列を満足する磁性材料は、上記のスパッタリング法以外にも蒸着法やレーザビーム蒸着、イオンビーム蒸着などの各種膜形成手法で作成でき、本発明の実施例1との組み合わせにより寸法形状を制御したリボン状高保磁力磁性材料を形成でき、有機あるいは無機バインダー材料によりバルク化が可能である。
本実施例のようなFe以外の元素MとFeとがM-Fe-F, M-Fe-Fe----(n個のFe)-F、M-Fe-Fe---(n個のFe)-F-M のような配列(nは1〜10)または結合をもった侵入配置F元素の配列は、Feの磁気モーメント増加、鉄のスピン構造の部分反強磁性化、磁気抵抗の増加、磁気異方性エネルギーの増加、磁気熱量効果の増加、磁気光学効果の増加、磁気冷凍効果の増加、磁気歪みの増加、超電導遷移温度の上昇などの効果があり、磁気ヘッドや磁気ディスクなどの磁気記録材料、磁性材料、磁石モータなどの磁気回路、磁気冷凍器、磁歪駆動機器、超電導応用機器、磁気シールド、磁気メモリーなどの磁気応用製品に応用でき、Feの一部または全てをCo, Ni, Mn, V, Crに置換し、Fの一部をH, O, C, N, B, Cl, S, Pで置換しても同様の効果が実現できる。
[実施例26]
Ce0.1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金を真空溶解しボタン状にする。これを母合金にして、フッ化アンモニウムが溶解した鉱油中に溶湯を流し込む。Ce0.1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は石英ノズルに挿入し、Arガス雰囲気中で石英ノズル内のCe0.1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金が高周波溶解され、ノズルの先端穴から加圧噴射される。噴射されたCe0.1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は箔体状, 円柱状あるいは扁平状の粉末またはリボンとなる。
噴射と同時に急速冷却され、フッ化アンモニウムとの反応が進行する。Ce0.1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は急速冷却により結晶粒が1〜300nmの平均粒径となり、フッ素や水素、窒素、炭素などが合金内に取り込まれる。上記噴射時には溶解温度以上に合金が加熱されるため、冷却速度は100〜500℃/秒になり、合金の表面近傍がフッ化される。急冷後の合金のフッ素濃度は表面から10nm以内の深さで1〜67%である。
上記のように急冷フッ化により形成されたフッ素濃度勾配は、粉体が扁平な形状であるため、扁平面で高い濃度勾配をもっている。急冷フッ化後にAr雰囲気中で熱処理することにより、フッ素濃度が高い表面あるいは粒界近傍にCeを偏在化させ、保磁力を増大させる。熱処理温度600℃2時間保持後急冷することでCeが偏在化することを質量分析から確認している。900℃を超えると結晶粒の粗大化がみられ、保磁力が低下する。
保磁力5kOe以上とするためには300℃から800℃の熱処理が必要である。600℃で2時間加熱保持後急冷した粉を脆性フッ化物の性質を利用して粉砕し、異方性のある磁粉を作成し、磁場中成形後加圧成形し、密度7.2〜7.6g/cm3の成形体を得た。この成形体の磁気特性は残留磁束密度1.7T, 保磁力12kOeである。
このように約1原子%のCe含有量で磁石特性が得られる理由は、(1)Ceが偏在し結晶磁気異方性を高くして磁化反転をしにくくしている。(2)フッ素がCe偏在化を助長している。(3)FeCo合金が粒子の中央付近に、Ce偏在化相が粒子の外周側に形成され、FeCo合金が高い残留磁束密度に寄与している。(4)粒界のフッ化相あるいは酸フッ化相が粒子間の強磁性結合を不連続にして磁化反転の連続性を消失させている。(5)フッ素の拡散方向あるいはフッ化後の組織に異方性があるため、磁気特性に異方性がある。(6)粒界近傍に六方晶や正方晶などの一軸異方性のある結晶が成長し結晶磁気異方性エネルギーを高める。(7)Alなど安定フッ化物を形成する元素がフッ素の拡散と偏在化ならびに偏在構造の安定性を促進させる。
本実施例のようなNd-Fe-B系あるいはSm-Fe-N系、Sm-Co系磁石の磁気特性を超える残留磁束密度を示す磁石は、以下のような場合に作成できる。その組成式は、
RexFeyCozMaFb (3)
であり、上記(3)式においてReは希土類元素Feは鉄、CoはコバルトMは希土類元素や鉄ならびにコバルト以外の金属元素、Fはフッ素、x+y+z+a+b=1、x≦0.05(5原子%以下), y>z>a>0, b>0.001である。この組成式は磁石全体の組成を示すもので、粒界、粒界近傍、磁粉表面、磁粉表面近傍と粒中心の組成は大きく異なる。
その特徴は、以下の通りである。(1)粒界が酸フッ化物またはフッ化物である。(2)粒中心部には希土類元素含有量が小さい。(3)粒界または粒界近傍に希土類元素が偏在している。(4)粒界あるいは粒界近傍に金属元素Mの偏在がみられる。(5)水素、炭素、窒素、酸素のいずれかの元素の偏在がみられる。(6)粒中心部と粒界3重点近傍では結晶構造が異なる。粒中心部が複数の結晶構造から構成されている場合、そのどちらかの結晶構造と粒界近傍の結晶構造が異なる。(7)粒界近傍に六方晶や正方晶などの一軸あるいは一方向対称性の結晶が形成され、六方晶のc軸、あるいは正方晶のc軸が粒中心部の結晶と特定の方位関係をもっている。ここで粒界近傍というのは粒界から5から10番目の原子までの範囲を指している。(8)フッ素原子の最隣接あるいは第二、第三隣接原子位置にポーリングの電気陰性度が3以下の元素、望ましくは電気陰性度が1.5以下の元素が部分的に配置している。
[実施例27]
Mn1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金を真空溶解しボタン状にする。これを母合金にして、フッ化アンモニウムが溶解した鉱油中に溶湯を流し込む。Mn1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は石英ノズルに挿入し、Arガス雰囲気中で石英ノズル内のMn1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金が高周波溶解され、ノズルの先端穴から加圧噴射される。噴射されたMn1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は箔体状, 円柱状あるいは扁平状の粉末またはリボンとなる。噴射と同時に急速冷却され、100℃に加熱保持されたフッ化アンモニウムとの反応が進行する。Mn1(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は急速冷却により結晶粒が1〜100nmの平均粒径となり、フッ素や水素、窒素、炭素などが100〜10000ppmの濃度で合金内に取り込まれる。上記噴射時には溶解温度以上に合金が加熱されるため、冷却速度は50〜300℃/秒になり、合金の表面近傍がフッ化される。急冷後の合金のフッ素濃度は表面から10nm以内の深さで10〜67%である。
上記のように急冷フッ化により形成されたフッ素濃度勾配は、最表面近傍で高い濃度勾配をもっている。急冷フッ化後にAr雰囲気中で熱処理することにより、フッ素濃度が高い表面あるいは粒界近傍にMnおよびAl, 炭素を偏在化させ、保磁力を増大させる。熱処理温度400℃で2時間保持後急冷することでMnあるいはAlが偏在化することをX線分光や質量分析などから確認している。1000℃を超えると結晶粒の粗大化がみられ、保磁力が低下する。
保磁力5kOe以上とするためには500℃から800℃の熱処理が必要である。400℃で2時間加熱保持後急冷した粉を脆性フッ化物の性質を利用して粉砕し、異方性のある磁粉を作成し、磁場中成形後加圧成形し、密度7.0〜7.6g/cm3の成形体を得た。この成形体の磁気特性は残留磁束密度1.65T, 保磁力10kOe、キュリー温度520℃である。
このように約9原子%のMn含有量で希土類元素を使用しない磁石が得られる理由は、次の(1)から(8)である。(1)MnやAlが偏在し結晶磁気異方性を高くして磁化反転をしにくくしている。(2)フッ素がAl偏在化を助長している。(3)FeCo合金が粒子の中央付近に、Mn偏在化相が粒子の外周側に形成され、FeCo合金が高い残留磁束密度に寄与している。(4)粒界の磁化の小さいフッ化相あるいは酸フッ化相が粒子間の強磁性結合を不連続にして磁化反転の連続性を消失させている。(5)フッ素の拡散方向あるいはフッ化後の組織に異方性があるため、磁気特性に異方性がある。(6)粒界近傍に反強磁性的な磁気配列をもった相が成長する。(7)Alなど安定フッ化物を形成する元素がフッ素の拡散と偏在化ならびに偏在構造の安定性を促進させる。(8)Mnとフッ素原子間に酸化鉄でみられるような超交換相互作用が働き磁化増加ならびに磁化反転防止に寄与する。
本実施例のようなNd-Fe-B系あるいはSm-Fe-N系、Sm-Co系磁石の磁気特性を超える残留磁束密度を示す磁石は、以下のような場合に作成できる。その組成式は、
MxFeyCozNaFb (4)
であり、(4)式においてMは希土類元素以外の金属元素 Feは鉄、 Coはコバルト Nは希土類元素や鉄ならびにコバルト及びM元素以外の金属元素でフッ化物形成元素、 Fはフッ素、x+y+z+a+b=1、0.09≦x≦0.18(18原子%以下9原子%以上), y>z>a>0, b>0.001である。この組成式は磁石全体の組成を示すもので、粒界、粒界近傍、磁粉表面、磁粉表面近傍と粒中心の組成は大きく異なる。
その特徴は、以下の通りである。(1)粒界が酸フッ化物またはフッ化物である。(2)希土類元素を含有しない。(3)粒界または粒界近傍に金属元素Nがフッ素とともに偏在している。(4)粒界あるいは粒界近傍に金属元素M及びNの偏在がみられる。(5)水素、炭素、窒素、酸素のいずれかの元素の偏在がみられる。(6)粒中心部と粒界3重点近傍では結晶構造が異なる。粒中心部が複数の結晶構造から構成されている場合、そのどちらかの結晶構造と粒界近傍の結晶構造が異なる。(7)粒界近傍に粒中心と磁気構造の異なる偏在相が成長する。ここで粒界近傍というのは粒界界面から5から10番目の原子までの範囲を指している。(8)フッ素原子の最隣接あるいは第二、第三隣接原子位置にポーリングの電気陰性度が3以下の元素が部分的に配置している。
Nd-Fe-B系磁石と同等の磁気特性を希土類元素を使用せずに達成させるには、(4)式の材料組成と上記特徴以外にも以下の特徴をもった材料で実現できる。
(1)Coを使用せずFeの磁化を固定するためにFeと磁気的に結合するフッ素含有反強磁性材料あるいはフッ素含有フェリ磁性材料を粒界あるいは粒界近傍に形成する。フッ素系反強磁性材料の例としてはMnFeF系、NiOF系、NiMnF系、MnIrF系、MnPtF系などがある。またフェリ磁性材料として、FeOF系などのフッ素含有フェライト相、MnAlF系、CrMnF系、NiFeRu積層系などがある。
(2)Coを使用せず、粒界近傍の磁気異方性エネルギーを高めるために、フッ素原子と鉄と電気陰性度の小さな元素の配列を一部規則化して鉄原子の電子分布に異方性を加える。このためには鉄原子からみて最隣接原子位置から第5隣接原子位置(5番目の隣接サイトにある原子)以内にフッ素原子と電気陰性度3以下の1種または複数の原子を配列させ、Fe原子の電子状態密度の分布を異方的にすることが必要である。保磁力を20kOe以上にするためには前記において、鉄原子からみて最隣接原子位置から第5隣接原子位置(5番目の隣接サイトにある原子)以内にフッ素原子と電気陰性度2以下の1種または複数の原子を配列させ、Fe原子の電子状態密度の分布を異方的にすることが必要である。この時フッ素原子位置と小電気陰性度元素が規則的に配列すること、及び小電気陰性度元素はフッ素原子の最隣接原子位置に配置していないことが重要である。このような元素の電気陰性度差を利用して鉄の電子状態密度分布を変えることにより磁気異方性エネルギーを増加させる手法は、フッ素以外にも酸素よりも電気陰性度の大きいハロゲン元素などで実現でき、残留磁束密度1.0T以上の磁性材料が実現でき、電気陰性度差を利用しFe以外のMnやCrなどの金属元素の電子状態密度を変えてスピン間の磁気的配列ならびに結合状態を変えることが可能である。Mnを使用した場合、MnとFの間にはMnn+ - F- Mnm+という交換相互作用(m, nは異なる正数)が働き反強磁性あるいは強磁性状態になることで磁化反転制御及び磁化増加に寄与する。
(3)Co原子を使用する場合、Co濃度が30〜100%のCo-Fe系合金が粒中心近傍の相として使用できる。粒界近傍には磁気異方性を高くするためにCoFeF系、CoF系、CoCr系、CoCrF系、CoMn系、CoMnAl系、CoMnSi系、CoMnF系、CoMnAlF系、CoMnSiF系、CoPtF系、CoCrPtF系などを粒界または粒界から10原子層以内の粒界に沿って形成する。この時、高保磁力を得るためにCoあるいはCoFe合金相の六方晶のc軸方向と上記高磁気異方性のために形成する相との間に方位関係があることが望ましく、粒界近傍の高磁気異方性のスピン方向とCoあるいはCoFe相のc軸方向が平行であることが磁石の高性能化に適している。また、Coの磁気異方性エネルギーを増加させるために、フッ素原子を侵入させる手法及び、フッ素と小電気陰性度元素をCo原子の周囲に配置させてCo原子の電子状態密度分布を変えることによりCoの磁気異方性エネルギーを大きくすることにより、希土類元素を使用せずNdFeB系磁石と同程度の磁石特性を得ることが可能である。
[実施例28]
Mnを真空溶解し、水素1%−アルゴン雰囲気中で再度700℃に加熱し還元することで酸素濃度を200〜2000ppmにする。この低酸素Mnを真空蒸着し粒径1〜100nmの微粒子を作成する。真空度1X10-5Pa以下で1nm/minの蒸着速度で基板上にMn粒子を形成後、リフトオフによりMn微粒子をArガス雰囲気中で取りだす。Mn微粒子をフッ化アンモニウムの溶液と混合し200℃に加熱することでフッ素、窒素及び水素をMn微粒子表面から拡散させる。Mn微粒子の表面にはMnF2が成長するが、その内側ではフッ素原子がMnの格子間位置にあるいは置換位置に配置し、Mn-F, Mn-N,あるいはMn-Hの結合が形成され、一部Mn2+ - F - Mn3+などの超交換結合も確認できる。フッ素を介した超交換相互作用によりフッ素原子に隣接する金属元素のスピンの向きが逆向きになる傾向がある。フッ素濃度は加熱拡散時間により異なり、拡散時間が長いほど濃度が高くなる傾向があり、加熱時間10時間で平均フッ素濃度2原子%である。不純物である酸素はMnOを形成し酸素の原子位置の一部がフッ素で置換される。この酸化物中のフッ素は、フッ素濃度1原子%〜20原子%の範囲で反強磁性酸化物を強磁性体にする効果がある。また、MnFx(X=0.1〜2)に水素や酸素が含有したフッ化物もフッ素濃度により,超電導性を示す反強磁性あるいは強磁性になる。MnF0.5O0.5はFの原子位置により強磁性を示し、フッ素原子の最隣接原子位置にMn原子が配置していることでMnのスピンが平行方向にそろう。
このような強磁性Mnフッ化物の形成は上記200℃の低温処理により実現でき、粒子全体の平均フッ素濃度が0.01〜20原子%で酸素濃度200〜2000ppmで実現でき、フッ化反応による強磁性化により自発磁化が発現する。本実施例のように加熱拡散過程において拡散元素であるフッ素の濃度に依存して反強磁性体が強磁性体に変化することを利用して、反強磁性体と強磁性体の間に磁気的な結合を生みだすことが可能であり、強磁性体の磁化を反転しにくくすることが可能である。このようなMnのフッ化を利用した硬質磁性材料の作成例を次の実施例に示す。
[実施例29]
純度99%のMn及びSrを真空溶解し、水素1%−アルゴン雰囲気中で再度700℃に加熱し還元することで酸素濃度を1000〜2000ppmにする。この酸素含有Mn-20%Sr合金を真空蒸着し粒径1〜100nmのMn-20%Sr微粒子を作成する。真空度1X10-5Pa以下で0.1nm/minの蒸着速度で基板上にMn-20%Sr粒子を形成後、リフトオフによりMn-20%Sr微粒子をArガス雰囲気中で取りだす。Mn-20%Sr微粒子をフッ化アンモニウムの溶液と混合し200℃に加熱することでフッ素、窒素及び水素をMn-20%Sr微粒子表面から拡散させる。
微粒子の表面には(Mn0.8Sr0.2)(O,F)2が成長し、その内側ではフッ素原子がMn-Sr合金の格子間位置にあるいは置換位置に配置し、Mn-F, Mn-N, Sr-F, Sr-NあるいはMn-H, Sr-Hの結合が形成され、一部Mn2+- F - Mn3+やSr2+ - F - Mn3+などの超交換結合も確認できる。フッ素濃度は加熱拡散時間により異なり、拡散時間が長いほど濃度が高くなる傾向があり、加熱時間10時間で平均フッ素濃度5原子%である。不純物である酸素はMnlSrmOnやMnlSrmOnFp(l,n,m,pは正数)を形成し酸素の原子位置の一部がフッ素で置換される。これらのフッ化物はFの原子位置により強磁性を示し、フッ素原子の最隣接から第三隣接原子位置にMn原子及びSrが配置していることでMnのスピンが平行方向にそろい、飽和磁束密度0.8T, キュリー温度650K、異方性磁界6MA/mの硬質磁性材料が形成できる。
このような飽和磁束密度0.8T, キュリー温度650K、異方性磁界6MA/mと同等以上の硬質磁性材料を鉄や希土類元素を用いずに実現できる材料として、次式を満足する材料が挙げられる。
AhBiCjFk (5)
ここで、AはMnあるいはCr, Bは電気陰性度が3以下の元素、Cは酸素、窒素、水素、ホウ素、塩素のいずれかの元素、Fはフッ素、h i j kはいずれも正数であり、h+i+j+k=1.0, h>i>j, 0.0001<k<0.3であり、フッ素の最隣接原子位置から第三隣接原子位置にA及びB元素が配置している構造が材料の一部に認められる。Bの元素が電気陰性度3を超えた場合、MnやCrの電子分布の偏りが変化し磁化が非常に小さくなる。また、フッ素が0.3(30原子%)を超えると安定な酸フッ化物やフッ化物が成長し、フッ素の最隣接原子位置から第三隣接原子位置にA及びB元素が配置している構造の割合が小さくなるため、飽和磁束密度は0.1〜0.5Tとなる。
また、フッ素が0.0001以下では電気陰性度の効果が小さいため、室温以上で強磁性にすることが困難である。A元素とフッ素の電気陰性度の差は、Mnの電気陰性度が1.5、Crが1.6、Fが3.98のため、Mn で1.48、 Crで 1.38であり、(5)式のBに対応する元素の電気陰性度は1.5よりも小さい方が電子状態密度分布に異方性が出易く、Zr, Hf, Mg, Ca, Ba, Li, Na, K, Sc, Srなどが望ましい。一部のMn原子の磁気モーメントはフッ素導入により増大し、4.6〜5.0μBとなる。この時一部のフッ素原子の磁気モーメントは-0.2〜+0.2μBとなる。
このような共有結合性とイオン結合性をあわせ持ったフッ化物において、電子状態密度の異方性は種々の物性に影響し、超電導特性の高温化、磁気光学効果の増大、磁気歪効果の増大、磁気比熱効果増加、熱電効果の増大、磁気抵抗効果の増大、反強磁性材料のネール点上昇が引き出せる他、硬質磁性材料のキュリー温度上昇と保磁力増加に貢献する。
[実施例30]
Fe及びCoを秤量し、Fe-60%Co合金を作成する。この合金にSmを1原子%添加し、Sm0.01(Fe0.4Co0.6)0.99を作成する。この合金とフッ化アンモニア粉末を混合後、加熱粉砕する。加熱温度200℃でフッ化アンモニアの分解生成ガスにSm0.01(Fe0.4Co0.6)0.99粉末が曝されることにより、粉砕とフッ化が進行する。フッ化はSm0.01(Fe0.4Co0.6)0.99粉の粒界で生じ、粒界を脆化させるためさらに粉砕が進行し、平均粒径が0.1から2μmにする。この磁粉の表面にはSmOFやSmF3などのフッ化物が成長し、これらのフッ化物が形成された磁粉の内周側にTh2Zn17構造あるいは六方晶のフッ化物が成長する。Th2Zn17構造のフッ化物の格子定数はa=0.85〜0.95nm, c=1.24〜1.31nmである。また六方晶の格子定数はa=0.49〜0.52nm, c=0.41〜0.45nmである。前記Th2Zn17構造あるいは六方晶のフッ化物が厚さ1〜500nmの範囲で磁粉の最表面に成長したフッ化物の内側に成長し、さらに内側にはbcc及びfccあるいはhcp構造のFe-Co相が成長する。
これらのFe-Co相の飽和磁束密度は1.8〜2.4Tであり、上記Th2Zn17構造あるいは六方晶の高結晶磁気異方性フッ化物と強磁性的な結合により磁化反転が起こりにくくなっており、保磁力が発現する。上記磁粉を用いて非磁性金属、有機あるいは無機バインダーを用いたボンド磁石を形成でき、残留磁束密度1.5T, 保磁力12kOeのボンド磁石を作成できる。また異方性磁粉を得るために250℃でフッ化アンモニウム粉とともに粉砕することで、さらにフッ化と粉砕が進行し、平均粒径0.01μmから0.1μmの磁粉を作成でき、磁場中成形後圧縮成形して上記ボンド磁石よりも高い磁気特性を示す異方性ボンド磁石や異方性成形磁石を得ることが可能である。このような磁石は希土類元素を1%使用するのみで希少な元素の削減が可能であるばかりでなく、低コストで磁石性能が向上でき、あらゆる磁気回路に適用でき、磁石応用製品の小型軽量化に寄与できる。
本実施例と同等の磁気特性をもった磁石は、次式で示される組成で実現できる。
RhFeiCojMkFx (6)
Rは1種以上の希土類元素、Feは鉄、Coはコバルト、Mは鉄及びコバルト以外の金属元素、Fはフッ素であり、h, i, j, k, xは正数であり、h+i+j+k+x=1(100%)である。またh=0.001〜0.08, i+j>h+k+x, x=0.005〜0.1、かつk<0.1であり、磁粉最表面には(6)式よりも高濃度のフッ素を含有するフッ化物が形成されており、強磁性相の結晶構造が2種以上成長していることで実現でき、最も飽和磁束密度の高い強磁性相はフッ素濃度が1原子%未満であることで実現できる。Hが0.08よりも高くなると残留磁束密度の低下が著しくなる。また、FeとCoの合計含有率が小さくなると残留磁束密度の減少とともにキュリー温度も低下する。粉末全体の平均フッ素濃度を示すxは0.1を超えると最表面の高濃度フッ素化合物が増加し希土類元素もこのフッ化物に濃縮されるため磁化及び保磁力が減少する。希土類元素を結晶磁気異方性エネルギーの大きな相に偏在化させるためのXの範囲は0.005〜0.1である。尚、不可避的に含有する不純物として酸素、水素、炭素、窒素は高磁気異方性エネルギーをもったフッ化物の成長を妨げない範囲で含有していても大きな影響はない。
[実施例31]
フッ化アンモニウム(NH4F)が溶解したアルコールにFeイオンを1%混合し、攪拌しながら1℃/時間の速度で加熱し200℃で10時間保持後冷却する。加熱によりフッ化アンモニウムが分解し非晶質構造あるいは部分的に結晶化した非晶質のFe-5原子%F粒子が溶液中に形成される。上記アルコール溶液中の水分は100ppm以下である。水分量が100ppmを超えるとFe粒子に酸素が含有し易くなり、磁気特性が大幅に低下する。
Fe-5原子%F粒子の形成時に10kOeの外部磁界を印加し粒子に異方性を付加する。磁場方向に粒子が繋がり易くなり、直径約1nm, 幅100〜1000nmの針状に粒子が繋がった一次元的な磁性体が形成できる。このFe-5原子%F粒子の平均粒径は約1nmである。平均粒径はアルコールの加熱速度、加熱温度、加熱時間、Feイオン添加量、攪拌速度などに依存するため、それぞれのパラメータを調整する。Fe粒子を形成後、アルコール中にCoイオンを添加し、再度加熱することによりFe粒子の表面に平均約0.3nmの厚さでCoを被覆する。Co被覆後さらにCrイオンを添加し平均0.2nmの厚さでCrを被覆する。作成した粒子の構造は平均的に粒子中心からFe-5%F, Co, Crとなり、平均粒径は2nmである。
この粒子を大気に曝さずに溶媒のまま磁場中仮成形後、大気解放せずに加熱圧縮し結晶化する。500℃で1t/cm2の荷重で加圧することにより、Fe-10%Co-3%F, Co-40%Cr-1%F合金が成形体に形成され、FeCoF系合金とCoCrF合金の変調周期1〜2nmの組成変調体が作成される。この組成変調周期は最初に作成する粒子径及びCo, Cr膜厚に依存する。変調周期と変調組成、変調結晶方位などにより磁気特性は異なるが、保磁力20kOe, 残留磁束密度1.6Tの磁性材料が作成できる。本実施例において、フッ素はFeやCoの磁気異方性エネルギーを増加させ、規則合金の規則化あるいは組成差の助長、変調界面の安定性向上に寄与し、磁気特性が向上する。
保磁力20kOe, 残留磁束密度1.6Tの磁気特性を超える磁石を本実施例と同様な工程によって形成する場合、上記組成以外に下記の式(7)が該当する。
A(FexMyFz) +B( FehMiFj) (7)
ここで、A≧B, x, y, z, h, i, jは正数、x>y>z, i>h, x+y+z=1, h+i+j=1,z=0.001〜0.1, j=0.005〜0.7であり、第一項の相の磁化は第二項の相の磁化よりも平均で10倍以上大きく、第一項と第二項の相を一周期とすると周期は1〜500nmであり、Aは第一項の体積率、Bは第二項の体積率、Feは鉄、Mは鉄以外の一種又は複数の元素、Fはフッ素あるいはハロゲン元素である。
不可避的に混入する酸素、窒素、水素、炭素などとこれらの元素を含有する化合物は上記組成変調が平均的に形成されれば大きく変化しない。最適なM元素は電気陰性度が小さな元素であり、鉄以外の元素でポーリングの電気陰性度2.0以下が望ましい。
(7)式についてさらに説明する。第一項は磁化を担う相であり、第二項は第一項の相と界面で接触し単軸化する相である。残留磁束密度を高くするためには、第一項の体積率を少なくとも第二項の体積率以上にする必要があり、第二項の体積率を低減することが望ましい。また、フッ素は強磁性相の磁気異方性を高める効果以外に、組成変調を助長し、M元素の選択により第二項のM及びフッ素の濃度を高めることにより、第一項の磁化を増加させることができる。また、フッ素は隣接原子のスピン配列を変えることが可能であり、スピン間の結合を利用して保磁力を発現させることができる。M元素に希土類元素が含まれる場合は、界面近傍の結晶磁気異方性が増加し、成形体全体の希土類元素濃度が1原子%で保磁力20kOeに達する。また、変調周期が100nm以下になると保磁力が最大となり、1nm以下になると保磁力は5kOe以下になる。
本実施例ではフッ化にフッ化アンモニウムを使用しているが、200℃以下で分解するフッ素含有溶液であれば同様のフッ化が可能である。またフッ化時に水素や窒素が発生し成長粒子に混入するが、組成変調周期にほとんど影響はなく、第二項に不純物元素とともにこれらの元素も偏在できれば磁気特性にも大きな影響はなく、磁力20kOe, 残留磁束密度1.6Tの磁性材料が作成できる。
[実施例32]
Dy0.01(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金を真空溶解しボタン状にする。これを母合金にして、酸性フッ化アンモニウムが溶解した鉱油中に溶湯を流し込む。Dy0.01(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は石英ノズルに挿入し、Arガス雰囲気中で石英ノズル内のDy0.01(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金が高周波溶解され、ノズルの先端穴から加圧噴射される。噴射されたDy0.01(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は箔体状, 円柱状あるいは扁平状の粉末またはリボンとなる。噴射と同時に急速冷却され、酸性フッ化アンモニウムとの反応が進行する。Dy0.01(Fe0.7Co0.3)10Al0.2合金は急速冷却により結晶粒が1〜30nmの平均粒径となり、フッ素や水素、窒素、炭素などが合金内に取り込まれる。上記噴射時には溶解温度以上に合金が加熱されるため、冷却速度は100〜200℃/秒になり、合金の表面近傍がフッ化される。急冷後の合金のフッ素濃度は表面から100nm以内の深さで平均10〜67%である。
上記のように金属の溶湯を急冷フッ化により形成したフッ素の濃度勾配は、粉体が扁平な形状であるため、扁平面に垂直な方向で高い濃度勾配をもっている。急冷フッ化後にAr雰囲気中で熱処理することにより、フッ素濃度が高い最表面あるいは粒界近傍にDyを偏在化させ、保磁力を増大させる。
一部のDyのスピンがFeのスピンと平行、一部のDyのスピンがFeのスピンと反平行に配列することで、反強磁性結合による保磁力の発現と強磁性結合による磁化の増加を実現する。熱処理温度600℃2時間保持後急冷することでDyが偏在化することを質量分析から確認し,一部のDyはFやFeと規則構造を有している。900℃を超えると結晶粒の粗大化がみられ、保磁力が低下する。保磁力5kOe以上とするためには300℃から800℃の熱処理によりDyの一部を規則化させる必要である。600℃で2時間加熱保持後急冷した粉を脆性フッ化物の性質を利用して粉砕し、異方性のある磁粉を作成し、磁場中成形後加圧成形し、密度7.2〜7.6g/cm3の成形体を得た。この成形体の磁気特性は残留磁束密度1.8T, 保磁力12kOeである。
このように0.1原子%のDy含有量で磁石特性が得られる理由は、(1)Dyが偏在し, 規則化することでFeと強磁性及び反強磁性結合するスピン配列により磁化を固定して磁化反転をしにくくしている。(2)フッ素がDy偏在化と規則化を助長している。(3)FeCo合金が粒子の中央付近に、Dy偏在化相が粒子の外周側に形成され、FeCo合金が高い残留磁束密度に寄与している。(4)粒界のフッ化相あるいは酸フッ化相が粒子間の強磁性結合を不連続にして磁化反転の連続性を消失させている。(5)フッ素の拡散方向あるいはフッ化後の組織に異方性があるため、磁気特性に異方性がある。(6)Alなど安定フッ化物を形成する元素がフッ素の拡散と偏在化ならびに偏在構造の安定性を促進させる。
本実施例のようなNd-Fe-B系あるいはSm-Fe-N系、Sm-Co系磁石の磁気特性を超える残留磁束密度を示す磁石は、以下のような場合に作成できる。その組成式は、
RexFeyCozMaFb (8)
であり、(8)式においてReは重希土類元素 Feは鉄、 Coはコバルト Mは希土類元素や鉄ならびにコバルト以外の金属元素、 Fはフッ素あるいは塩素などのハロゲン元素、x+y+z+a+b=1、0.0005≦x≦0.01(1原子%以下), y>z>a>0, b>0.001である。
この組成式は磁石全体の組成を示すもので、粒界、粒界近傍、磁粉表面、磁粉表面近傍と粒中心の組成は大きく異なる。重希土類元素Reは1〜12原子%の範囲においてもNd-Fe-B系磁石と同等の性能を有する磁石の作成が可能であるが、重希土類元素が高価なため1原子%に抑えることが望ましい。
その特徴は、以下の通りである。(1)粒界が酸フッ化物またはフッ化物である。(2)粒中心部には希土類元素濃度が小さい。(3)粒界または粒界近傍に希土類元素が偏在し、一部フッ素や鉄と規則化ている。(4)粒界あるいは粒界近傍に金属元素Mの偏在がみられる。(5)水素、炭素、窒素、酸素のいずれかの元素の偏在がみられる。(6)粒中心部と粒界3重点近傍では結晶構造が異なる。粒中心部が複数の結晶構造から構成されている場合、そのどちらかの結晶構造と粒界近傍の結晶構造が異なる。(7)フッ素原子の最隣接あるいは第二、第三隣接原子位置にポーリングの電気陰性度が3以下の元素、望ましくは電気陰性度が1.5以下の元素が部分的に配置している。
本実施例において、酸性フッ化アンモニウムが溶融した鉱油の代わりにフッ素を含有する鉱油またはアルコールなどの各種溶液を使用できる。フッ化反応を加速させるために、溶湯の噴出孔付近に上記フッ素含有溶液を噴射させることも可能である。フッ素含有粉末の成形には、マイクロ波加熱、プラズマ焼結、通電焼結、熱間押し出し成形、衝撃波成形、圧延成形などの各種成形手法を採用できる。
[実施例33]
Fe、Mn、Tiの不純物を除去し、純度99.99%にした母合金を用いて秤量し、Fe0.8Mn0.1Ti0.1合金を真空溶解後水素還元後Arガス雰囲気中で粉砕する。粉末径が100μmの粉末を酸性フッ化アンモニウム溶液と混合し、150℃に加熱してボールミルにより粉砕する。ボールミルによりFe0.8Mn0.1Ti0.1合金は粉砕されると同時にフッ化が進行する。150℃で100時間のボールミル工程により、粉末径0.1〜5μmとなる。
粉末の平均組成は、(Fe0.8Mn0.1Ti0.1)1-xFxでXは0.001〜0.1ある。Mn及びTiは粒界や粒表面近傍に偏在化し一部のフッ素はFe、MnあるいはTi原子間の八面体位置や四面体位置などの侵入位置に配置する。粒界近傍に偏在するMnあるいはTiの一部はFやFeと規則格子を形成し、Fe-F-Fe, Mn-F-Mn、Mn-F-Fe、Mn-F-TiあるいはFe-F-Tiの配列を有し、これらの原子配列においてFを介した超交換結合によりFe及びMnのスピン配列が変化する。一部のMnはFeとFを介した超交換相互作用により反強磁性的な結合を有し、一部のMnはFeと強磁性的な結合を有し、共有結合とイオン結合の共存により、磁化や磁気抵抗などの磁気物性値が大きく変化する。
電気陰性度の小さいTiにより、Ti原子に隣接するFeやMn原子の電子状態密度がFの影響を受けて変化する。Tiの最隣接位置にMnが配置した場合、Mnの電子はF原子に近いFe原子に引き寄せられ、Mn及びFeの電子状態密度に偏りが生じる。このような電子状態密度の偏りはMnやFeの物性に大きく影響し、Fe及びMnに磁気的な異方性が発現するとともに、スピン間結合状態も原子配置に依存して変化する。規則格子の形成により、規則格子の構成元素による原子配置と規則度に依存して保磁力が変化する。
フッ素原子がFe及びMn原子の原子間位置に侵入した規則相が形成され、フッ素の配置により結晶格子の体積が0.1から8%増加した場合、16kOeの保磁力と1.5Tの残留磁束密度を実現できる。磁気特性は規則相の規則度が低下するとともに低下する傾向を示し、規則度0.1以下では1kOe未満の保磁力となる。
本実施例と同等の磁気特性をもった磁石は、次式で示される組成で実現できる。
FeiMjFk (9)
Feは鉄、Mは鉄以外のポーリングの電気陰性度が1.5以下の元素、Fはフッ素あるいは塩素であり、 i, j, kは正数であり、i+j+k=1(100%)であり、k=0.001〜0.2, i>j, i>0.6であり、磁粉最表面には(9)式よりも高濃度のフッ素を含有するフッ化物あるいは酸フッ化物が形成されており、フッ素及びM含有相の一部が反強磁性であり、フッ素原子の隣接原子のスピン間で強磁性結合及び反強磁性結合をもった規則相が成長していることが条件である。
尚、フッ化工程は、他の実施例の手法や酸性フッ化アンモニウム以外に、フッ素を含有する溶液あるいはガスあるいはプラズマを使用することが可能である。また、不純物として酸素や窒素、炭素、水素などが1〜200ppm混入していても大きな差はない。また上記規則相に希土類元素が含有することによりさらに保磁力及び残留磁束密度は増大し、磁石全体の濃度で希土類元素が0.1〜5%の範囲であれば希土類元素のスピンを一部Feと平行に、また一部の希土類元素をFeと反平行あるいは反平行方向から±90度以内の角度で配列させることで反強磁性結合による保磁力増加とともに残留磁束密度が1.6〜1.7Tに増大できる。また、Feの一部をCoに置き換えることにより残留磁束密度を増加させることが可能である。さらにフッ素を他のハロゲン元素などの電気陰性度の大きな元素で置き換えてもよい。
[実施例34]
純度99%の鉄及びコバルトを秤量後水素雰囲気で加熱還元後、アルゴンガス中でアーク溶解することによりFe-10原子%Co合金を作成する。この合金をカーボン管に挿入し、アルゴンガス雰囲気中で高周波溶解後カーボン管の吹き出し孔より回転ロールに溶融した合金を吹き出し急冷する。
上記吹き出し孔の近傍にフッ化アンモニウムが約1wt%溶解した鉱油を吹き付ける。鉱油中のフッ化アンモニウムの一部が溶湯あるいは箔体表面で分解し、分解ガス成分により105から106K/秒の冷却速度で急冷させた箔体がフッ化される。一部のフッ素原子はFe-10原子%Co合金の格子間に侵入し原子間距離を拡大することにより原子磁気モーメントおよび結晶磁気エネルギーを増加させる。フッ素原子が侵入したFe-10原子%Co合金はフッ素濃度0.1から10原子%で原子磁気モーメントの増加や結晶異方性エネルギーの増加が見られる。フッ素濃度5〜10原子%で一軸磁気異方性エネルギーが増加するため保磁力が増加し、フッ素濃度10原子%で8kOeの保磁力が確認された。
この溶液フッ化工程を経て作成したFe-10%Co-10%F合金粉を磁場中成形後300℃に加熱成形することで、bctあるいはfct構造のFe-Co-F合金と合金粉の表面に(Fe,Co)(F,C)2あるいは(Fe,Co)(C,F)3が成長した粉末が密度98%で成形され、粉末表面の一部に酸フッ化物が成長する。この時、飽和磁束密度は2.3T, 残留磁束密度が1.6Tの磁石を作成可能である。
本実施例においてFe-10原子%Co合金にCrを10原子%添加したFe-10%Co-10%Cr合金を上記と同様に鉱油吹き付け手法による箔体のフッ化により、Crが粉末表面のフッ素が多い領域に偏在化する傾向を示し、粉末中心がFeリッチ相、粉末外周部がCoCrリッチ相となる。Feリッチ相はFe80原子%からFe95原子%の相、CoCrリッチ相はCo20〜60%Cr20〜70%F(フッ素)0.1〜15%の相であり、Crの偏在化により一部Feリッチ相とは異なる結晶構造のFeCoCrF系相が形成されることにより、保磁力が増加し残留磁束密度1.6T, 保磁力9.5kOeの磁気特性が確認できた。
添加元素としてCr, Fe, Co以外の遷移金属元素や希土類元素についても粉末あるいは粒界近傍に組成が結晶粒の寸法に近い周期で変調されて偏在化させることが可能であり、偏在化相の結晶磁気異方性が増加することにより、磁粉あるいは成形体の磁気異方性エネルギーあるいは異方性磁界が増加するため、保磁力が増加する。
[実施例35]
アルコール溶媒に溶解した鉄フッ化物とコバルトフッ化物からFe-Co-F系ナノ粒子を作成する。各フッ化物の組成を調整し、溶液中の高次構造フッ化物から非晶質構造を得て溶媒中にナノ粒子を形成する。上記ナノ粒子形成過程において溶液に10kOeの磁場を印加し、磁場印加方向に異方性を形成する。FeF1.7、CoF1.6の組成が混合したアルコール溶液またはコロイド溶液を磁場中加熱することにより10kOe, 250℃で非晶質粒子が成長し、300℃で平均粒径1〜30nmのナノ粒子が容易磁化方向をもって成長する。
フッ素の組成はFeF2やCoF2の化学量論組成より差をつけることで、粗大なFeF2やCoF2あるいは(Fe, Co)F2の粒子の成長を抑制しており、化学量論組成(FeF2やCoF2)のフッ素濃度よりも10%以上のフッ素濃度差をつけることにより粗大粒子成長を阻止できる。溶液から非晶質あるいは結晶質が成長する時に磁場を印加することでFe-Co, Fe-F-Fe, Co-F-Fe,あるいはCo-F-Coの原子配列が磁場方向に多く配列することができ、磁気異方性を有するようになる。
上記磁気異方性を有するナノ粒子を磁場中で成長させた後、さらに希土類元素を含有するフッ化物のアルコール溶液をナノ粒子の表面に塗布し、希土類元素及びフッ素を含有する粒界相を形成させる。希土類元素としてSmを選択した場合SmF2の組成の高次構造あるいは非晶質の溶液をFe-Co-F系粒子に塗布し、Fe-Co-F粒子の表面にSm-Fの粒子または膜を被覆し、150〜300℃で加熱することで溶媒を除去すると共にFe-Co-F粒子とSm-Fの粒子または膜の界面で反応が進行する。
非晶質に近い構造のSm-F粒子または膜はFe-Co-F粒子と反応し易く、低温でも容易に拡散が進行し、準安定相が成長する。Fe-Co-F粒子とSm-F粒子または膜との界面近傍よりSmx(Fe, Co)yFzが成長し、フッ素原子が八面体格子間位置に配置することにより界面近傍の結晶磁気異方性エネルギーが増加する。
上記Smx(Fe, Co)yFzにおいてXが0.1から3、yが10から30、Fが0.001から10のような範囲の組成で結晶磁気異方性を増大でき、ナノ粒子中心がFe-Co系合金、その中心からみて外側にFe-Co-F系合金、これらの外側に上記Smx(Fe, Co)yFzが成長する。
このような希土類元素―強磁性金属―フッ素三元系化合物が強磁性金属粒子の外周側に形成された磁粉は、希土類元素の使用量を削減でき、高残留磁束密度を実現できるため優れた磁石特性を示す。ナノ粒子中心部から外周側にかけて平均的な成長相がFe0.7Co0.3、Fe0.7Co0.3F0.01、Sm2(Fe0.7Co0.3)17F3、SmOFである場合、Smをほとんど含有しない中心部の強磁性相の比率を20から90体積%、強磁性希土類フッ化物の体積率を10から70%にすることにより高残留磁束密度と高保磁力を実現でき、Smが1原子%以下のFe0.7Co0.3相が20%、Smが5原子%以下のFe0.7Co0.3F0.01が30%、Sm2(Fe0.7Co0.3)17F3が40%、SmOFあるいはSm(O,F,C)が10%で残留磁束密度1.6T, 保磁力25kOe、キュリー温度570℃の磁気特性が得られる。
尚、Fe0.7Co0.3相はbcc構造、20%、Smが5原子%以下のFe0.7Co0.3F0.01が30%は正方晶あるいは六方晶、平均厚さ1〜40nmのSm2(Fe0.7Co0.3)17F3が六方晶あるいは正方晶、SmOFあるいはSm(O,F,C)が立方晶や菱面体晶、斜方晶であり、これらの結晶の一部は方位関係をもった界面を有し、平均径1〜30nmのFe0.7Co0.3相とSm2(Fe0.7Co0.3)17F3相の界面やFe0.7Co0.3F0.01相とSm2(Fe0.7Co0.3)17F3相の界面近傍には相間に強磁性的な結合が働くことにより、希土類元素含有量が少ない強磁性相の磁化反転を抑制することで高保磁力を実現できる。
本実施例においてアルコール溶媒に変えて沸点が200℃以上の鉱油を使用することにより、鉱油中にFeF1.7、CoF1.6の組成物のコロイドを作成しさらにSmF2の組成のコロイドと混合することで、固体強磁性粉末を使用せずにSm2(Fe0.7Co0.3)17F3相を平均粒径1〜100nmで成長させることが可能である。さらにカーボンナノチューブなどの中空体の中にフッ化物組成の溶液を入れて結晶を成長させた後、磁場印加させることで配向させ、他の溶液や薬品でチューブを消失させた後、種々の成形手法で高密度化することにより磁石を形成できる。
本実施例のような固体強磁性粉末を使用せずに強磁性ナノ粒子を製造できる材料を下記の組成式に示す。
RExMyFz (10)
(10)式において、REは1種以上の希土類元素、 MはFe,CoあるいはNiの中の少なくとも1種及びこれらの元素に添加される希土類元素以外の1種以上の非磁性金属元素、 Fはフッ素や塩素を含むハロゲン元素あるいは硫黄であり、0.01<X<3, 1<M<30, 0.001<z<10 である。Xが0.01以下の場合他の偏在化工程などを用いないと10kOe以上の保磁力が得られない。また3以上では希土類元素濃度が高く残留磁束密度が著しく低下する。Mが1以下では残留磁束密度が0.5T以下となり磁石特性が著しく低く、Mが30以上では高飽和磁束密度であるが低い残留磁束密度となる。
また、Zが0.001以下ではフッ素原子導入によるキュリー温度上昇幅が小さく、キュリー温度は300℃以下となり熱減磁が大きくなる。Zが10以上では強磁性元素の磁気配列が強磁性よりも反強磁性配列となるため磁化が減少するが、反強磁性配列した相と強磁性相の交換結合を生みだすか、磁気結合を変える元素の添加及び高規則度化によりフェリ磁性とすることで磁気特性を向上できる。Zの値はX, Y, Zの中で局所的なナノ粒子の位置によって変動しており、その変動幅は5〜50%である。
式(10)のフッ化物(フッ素化合物)はフッ素の濃度と原子位置により磁気構造や結晶構造は大きく変化し、ThMn12型構造の正方晶やCaCu5型やTh2Ni17型などの六方晶以外にも斜方晶、Th2Zn17型など菱面体晶、R3T29型などの単斜晶などの結晶構造をもっている。これらの結晶においてフッ素の濃度及び原子位置により、結晶格子の寸法が変化し、原子間位置へのフッ素原子配置によって格子体積が膨張する。
またフッ素原子から最隣接原子位置や第二隣接原子位置、第三、第四、第五原子位置まで高電気陰性度の影響が及び、これらのフッ素原子近傍に配置した原子の電子状態密度分布が変化するため、元素の種類と構造に依存して、磁気モーメント増加やスピン間交換結合の増大、電子分布の偏りに起因する異方性エネルギーの増加がみられる。本実施例において不可避的に混入する水素、窒素、酸素、炭素などの軽元素の含有、不純物の金属元素の混入とこれら金属元素の粒界や界面あるいはナノ粒子最表面への偏在はフッ化物の構造を大きく変えるものでなければ特に磁気特性を阻害しない。
上記ナノ粒子は有機材料あるいは無機材料をバインダー材としたボンド磁石に適用が可能であるとともに、500℃以下の成形温度で成形可能な熱間圧縮成形、衝撃成形、圧延成形、通電成形などの各種成形手法を採用した磁石成形体の原料に使用できる。
[実施例36]
アルコール溶媒に溶解した鉄フッ化物からFe-F系ナノ粒子を作成する。鉄フッ化物の組成を調整し、溶液中の高次構造をもった固体粉末ではなく透明に近いフッ化物から非晶質構造を経て溶媒中にナノ粒子を形成する。ナノ粒子形成過程において溶液に10kOeの磁場を印加し、磁場印加方向に異方性を付加する。FeF2.3の組成のコロイドが溶解したアルコール溶液を磁場中加熱することにより10kOe, 150℃で非晶質粒子が成長し、300℃で平均粒径1〜10nmのナノ粒子が容易磁化方向をもって成長する。
フッ素の組成はFeF2の化学量論組成より高濃度とすることで、粗大なFeF2粒子の成長を抑制しており、化学量論組成(FeF2)のフッ素濃度よりも10%以上のフッ素を含有ことにより粗大粒子成長および軟磁性を示す強磁性鉄の成長を阻止できる。溶液から非晶質あるいは結晶質が成長する時に磁場を印加することでFe-F-Feの原子配列が磁場方向に多く配列することができ、磁気異方性を有するようになる。
上記磁気異方性を有するナノ粒子を磁場中で成長させ、さらにフッ化アンモニウム含有アルコール溶液を添加し加熱することで異方性を有する鉄フッ素系化合物をフッ化する。フッ化アンモニウムが1wt%溶解したアルコール溶液中では、上記フッ化鉄がさらにフッ化され、FenFm(n<m,Nとmは正数)で示される高フッ素濃度の鉄が成長する。この高フッ素濃度のフッ化鉄は六方晶の置換型化合物である。六方晶フッ化物に価数の異なる元素を混合し、格子定数がa=5.3〜6.5オングストローム、c=15〜35オングストロームの結晶を成長させ、残留磁束密度0.3〜1.0Tの磁石が得られる。
また、本実施例において水分を100ppmから10000ppm含有するアルコールを溶媒に使用することにより、FenFmOl(n, m,lは正数)のフェリ磁性酸フッ化物が得られる。二価の金属イオンMを伴って、MOFe2(O,F)3やM(O,F)Fe2(O, F)3あるいはMFFe(O, F)3などのフッ素含有フェリ磁性体あるいはらせん状にスピンが配列した磁気構造をもったフッ素含有化合物が成長し、フッ素原子の一部は面心立方格子点に配置し、金属イオンは複数のサイトに配置し、フッ素と酸素原子が金属イオンや鉄を介して規則配列することにより、磁気モーメントが増加し、残留磁束密度0.6〜0.9Tを実現できる。なお、フッ化アンモニウム以外のフッ化剤としてフッ化水素アンモニウムなどフッ素を含有するすべてのフッ化剤を使用できる。
[実施例37]
鉱油に溶解した鉄フッ化物非晶質とコバルトフッ化物非晶質からFe-Co-F系ナノ粒子を作成する。非晶質構造の各フッ化物の組成を調整し、鉱油中の短距離秩序をもったフッ化物から微結晶の核発生を経て鉱油中にナノ粒子を形成する。上記ナノ粒子形成過程においてに100kOeの磁場を印加し、磁場印加方向にFe-F-FeあるいはFe-F-Coのようなフッ素原子とFeあるいはCo原子の配列が平行配列した構造の異方性を形成することで磁気異方性を付加する。FeF1.5、CoF1.4の組成が混合した鉱油またはコロイド状鉱油を磁場中加熱することにより100kOe, 150℃で結晶核が成長し、200℃で平均粒径5〜100nmのナノ粒子が容易磁化方向をもって成長する。
フッ素の組成はFeF2やCoF2の化学量論組成より差をつけることで,安定で粗大なFeF2やCoF2あるいは(Fe, Co)F2の粒子の成長を抑制しており、化学量論組成(FeF2やCoF2)のフッ素濃度よりも20%以上のフッ素濃度差をつけることにより粗大粒子成長を阻止できる。鉱油から0.5から2nm径の結晶核あるいは結晶質が成長する時に磁場を印加することでFe-Co, Fe-F-Fe, Co-F-Fe,あるいはCo-F-Coの原子配列が磁場方向に多く配列することができ、磁気異方性を有するようになる。上記磁気異方性を有するナノ粒子を磁場中で成長させた後、さらに希土類元素を含有する非晶質フッ化物の鉱油をナノ粒子の表面に塗布し、希土類元素及びフッ素を含有する表面相あるいは粒界相を形成させる。
希土類元素としてLaを選択した場合LaF2の組成の高次構造あるいは非晶質を含む鉱油をFe-Co-F系粒子に塗布し、Fe-Co-F粒子の表面にLa-Fの粒子または膜を被覆し、250〜500℃で急速加熱(100℃/秒以上の加熱速度)と急冷(50℃/秒程度の冷却速度)することで結晶粒の成長を抑えながら炭化水素系鉱油を除去すると共にFe-Co-F粒子とLa-Fの粒子または膜の界面で反応が進行する。非晶質のLa-F粒子または膜はFe-Co-F粒子と反応し易く、低温でも容易に拡散が進行し、準安定相が成長する。Fe-Co-F粒子とLa-F粒子または膜との界面近傍よりLax(Fe, Co)yFzが成長し、フッ素原子が八面体格子間位置あるいは四面体格子間位置に配置することにより格子歪が発生し界面近傍の結晶磁気異方性エネルギーが増加する。
上記Lax(Fe, Co)yFzにおいてXが0.01から3、yが10から30、Fが0.0001から5のような範囲の組成で結晶磁気異方性を増大でき、ナノ粒子中心がFe-Co系合金あるいはFe-Co-F系合金でこれらの外側に上記Lax(Fe, Co)yFzが成長する。このような希土類元素―強磁性金属―フッ素三元系化合物が強磁性金属粒子の外周側に形成された磁粉は、ほぼ中心部に希土類元素を含有しない強磁性相が形成されており、希土類元素の使用量を削減できるとともに高残留磁束密度を実現できるため、高価で希少な希土類元素の使用量を50から95%ほど削減でき、安価で優れた磁石特性を示す。
ナノ粒子中心部から外周側にかけて平均的な成長相がFe0.7Co0.3、Fe0.7Co0.3F0.01、La2(Fe0.7Co0.3)17F0.1-3、LaOFである場合、Laをほとんど含有しない中心部の強磁性相の比率を5から90体積%、強磁性希土類フッ化物の体積率を10から80%にすることにより高残留磁束密度と高保磁力を実現でき、Laが1原子%以下のFe0.7Co0.3相が50%、Laが5原子%以下のFe0.7Co0.3F0.01が10%、La2(Fe0.7Co0.3)17F0.1-3が35%、LaOFあるいはLa(O,F,C)が5%で残留磁束密度1.6T, 保磁力21kOe、キュリー温度560℃の磁気特性が得られる。
フッ素濃度や濃度分布は鉱油などの溶媒から形成した粒子の方が、粒径が0.1〜5μmの粉砕粉末を用いるよりも均一性が高い。粉砕粉末と同様、本実施例のようなナノ粒子でも粒径、表面状態、反応温度、他の軽元素(炭素、窒素、水素、酸素)濃度などに依存する。
尚、Fe0.7Co0.3相はbcc構造で、Laが5原子%以下のFe0.7Co0.3F0.01が正方晶あるいは六方晶、平均厚さ1〜40nmのLa2(Fe0.7Co0.3)17F0.1-3が六方晶あるいは正方晶、LaOFあるいはLa(O,F,C)が立方晶や菱面体晶、斜方晶であり、これらの結晶の一部は方位関係をもった界面を有し、平均径1〜30nmのFe0.7Co0.3相とLa2(Fe0.7Co0.3)17F0.1-3相の界面やFe0.7Co0.3F0.01相とLa2(Fe0.7Co0.3)17F0.1-3相の界面近傍には相間に強磁性的な結合が働くことにより、希土類元素含有量が少ない強磁性相の磁化反転を抑制することで高保磁力を実現できる。
前記La以外の希土類元素を使用した場合でも、Th2Zn17型構造あるいはTh2Ni17型構造、CaCu5型が成長し、フッ素の原子間位置への導入により単位格子体積が0.01〜7%増加することにより、キュリー温度上昇や結晶磁気異方性エネルギーの増加、残留磁束密度の増加、磁気抵抗効果の増加、磁気光学効果の増加、磁気比熱の増加、超電導遷移温度の上昇、熱電効果の増加、磁歪定数の増加、熱電効果の増加、ネール点上昇、蛍光特性の向上、水素吸収効果、耐食性向上などのいずれかが確認できた。
また、上記特性の中で、熱電効果や超電導遷移温度、蛍光特性、水素吸収特性、耐食性は外部磁界に依存して変化することを確認している。このような種々の物性値の特性向上を確認した材料の例は、Ce2Fe17F1, Ce2Fe17F2, Ce2Fe17C1F1, Pr2Fe17F2, Pr2Fe17C2F2, Nd2Fe17F2, Nd2Fe17C1F1, Sm2Fe17F0.001, Sm2Fe17F0.02, Sm2Fe17F0.1, Sm2Fe17F0.2, Sm2Fe17F0.3, Sm2Fe17F2, Sm2Fe17F2.9, Sm2Fe17F3.2, Sm2Fe17.2F2.9, Sm2Fe17H0.2F0.1, Sm2Fe17B0.1F0.1, Sm2Fe17C0.2F0.2, Sm2(Fe0.95Mn0.05)17F3, Sm2(Fe0.95Mn0.05)17F0.5, Sm2Fe17Ca0.05F2.9, Sm2(Fe0.9,Ga0.1)17F2.9, Sm2(Fe0.99Ga0.01)17F0.9, Sm2(Fe0.99Zr0.01)17F1.9, Sm2(Fe0.98Zr0.01Cu0.01)17F1.9, Sm2(Fe0.99Ga0.01)17F0.9,Sm2Fe17C0.3F1, Sm2Fe17C0.9F2, Sm2Fe17C2.5F3, Gd2Fe17F2, Gd2Fe17C2F1.3, Tb2Fe17F2, Tbd2Fe17C1F1.1, Dy2Fe17F2, Ho2Fe17F2.9, Er2Fe17F2, Er2Fe17C0.3F1, Tm2Fe17F2.9, Tm2Fe17C0.9F1, Yb2Fe17F2, Yb2Fe17C0.3F1, Y2Fe17F2, Th2Fe17F2,Sm2(Fe0.7Co0.3)17F2, Sm2(Fe0.1Co0.9)17F2,Sm2(Fe0.7Co0.3)17HF2, Sm2(Fe0.7Co0.3)17C0.1H0.2F2, (Sm0.9Pr0.1)2(Fe0.7Co0.3)17F2, (Sm0.9La0.1)2(Fe0.7Co0.3)17F2などを形成させた場合である。
また、正方晶構造のフッ素含有相において、上記のような種々の物性の特性向上が確認できた材料は、
YFe11TiF0.01-3, YFe11VF0.01-3, YFe11TiN0.2F0.01-2, CeFe11TiF0.01-3, CeFe11VF0.01-3, CeFe11TiN0.2F0.01-2, NdFe11TiF0.01-3, NdFe11VF0.01-3, NdFe11TiN0.2F0.01-2, SmFe11TiF0.01-3, SmFe11VF0.01-3.3, SmFe11TiN0.2F0.01-2.7, SmFe11TiN0.01F0.01-2.7, Sm(Fe0.9Co0.1)11TiN0.2F0.01-2.7, Sm(Fe0.4Co0.6)11TiN0.2F0.01-2.7, SmFe11MoF0.01-2.7, SmFe11MoH0.1F0.01-2.7, GdFe11TiF0.01-3, GdFe11VF0.01-3, GdFe11TiN0.2F0.01-2, TbFe11TiF0.01-3, TbFe11VF0.01-3, TbFe11TiN0.2F0.01-2, DyFe11TiF0.01-3, DyFe11VF0.01-3, DyFe11TiN0.2F0.01-2, ErFe11TiF0.01-3, ErFe11VF0.01-3, ErFe11TiN0.2F0.01-2, YFe10Si2F0.01-3, YFe10Si2C0.3F0.01-3などを成長させた場合である。
これらの化合物には上記組成の主構造を壊さずに種々の元素(金属元素や軽元素)が含有されていても良く、Fの代わりに他のハロゲン元素やハロゲン元素と軽元素(B, C, N, O, H, S, P)の混合であっても良い。
また、これらのフッ素含有化合物には4.2Kから300Kの温度範囲において磁気異方性の方向が変化したり、結晶構造の遷移、スピン配列の変化が確認される組成物が含まれる。上記フッ素含有化合物は、希土類元素を含んでいない鉄系やコバルト系ナノ粒子から構成された圧粉体あるいは焼結体を用いてその表面に希土類フッ化物を含有する溶液を塗布後加熱拡散することにより部分的に形成可能である。加熱拡散時にミリ波やマイクロ波などの電磁波を使用してフッ化物を選択的に加熱しながら拡散距離を確保して上記のような準安定相であるフッ素化合物を局所的に成長させることもできる。
本実施例のような初期原料として固体強磁性粉末を使用せずに強磁性ナノ粒子を製造できる材料を下記の組成式に示す。
RExMyHz (11)
(11)式において、REは1種以上の希土類元素、 MはFe,CoあるいはNiの中の少なくとも1種及びこれらの元素に添加される希土類元素以外の1種以上の非磁性金属元素、 Hはフッ素を含むハロゲン元素及び軽元素の1種以上であり、0.01<X<3, 1<M<20, 0.001<z<10 である。Xが0.01以下の場合他の偏在化工程などを用いないと10kOe以上の保磁力が得られない。
また3以上では希土類元素濃度が高く残留磁束密度が著しく低下する。Mが1以下では残留磁束密度が0.5T以下となり磁石特性が著しく低く、Mが20以上では高飽和磁束密度であるが低い残留磁束密度となる。また、Zが0.001以下ではハロゲン元素導入によるキュリー温度上昇幅が小さく、キュリー温度は350℃以下となり熱減磁が大きくなる。
Zが10以上では強磁性元素の磁気配列が強磁性よりも反強磁性配列あるいはフェリ磁性となるため磁化が減少するが、反強磁性やフェリ磁性にスピンが配列した相と強磁性相の交換結合を生みだすことで磁気特性を向上できる。Zの値はX, Y, Zの中で局所的なナノ粒子の位置によって変動しており、その変動幅は平均組成に対して5〜50%である。式(11)のハロゲン化物はハロゲン元素の濃度と原子位置及び規則度により磁気構造や結晶構造は大きく変化し、ThMn12型構造の正方晶やCaCu5型やTh2Ni17型などの六方晶以外にも斜方晶、Th2Zn17型など菱面体晶、R3T29型などの単斜晶などの結晶構造をもっている。
これらの結晶においてハロゲン元素の濃度及び原子位置により、結晶格子の寸法が変化し、原子間位置へのハロゲン元素原子配置によって格子体積が膨張する。またハロゲン元素から最隣接原子位置や第二隣接原子位置、第三から第六原子位置まで高電気陰性度の影響が及び、これらのハロゲン元素近傍に配置した原子の電子状態密度分布が変化するため、元素の種類と構造に依存して、磁気モーメント増加やスピン間交換結合の正負や結合力の増加、電子分布の偏りに起因する異方性エネルギーの増加がみられる。メスバウア効果により、鉄のサイトに依存する複数の内部磁場が検出され、内部磁場の値とアイソマーシフトは炭化物や窒化物とは異なる値を示す。
上記ナノ粒子は有機材料あるいは無機材料をバインダー材としたボンド磁石に適用が可能であるとともに、600℃以下の成形温度で成形可能な熱間圧縮成形、衝撃成形、圧延成形、通電成形、急速加熱成形、静水圧成形、強磁場加圧成形、攪拌摩擦成形、エアロゾルデポジション法、マイクロ波やミリ波を使用した成形などの各種成形手法を採用した磁石成形体の原料に使用でき、従来の粉末であるNdFeB系、SmFeN系、SmCo系、フェライト磁石磁粉、NdFeB系/Fe系ナノコンポジット粉、SmFeN系/Fe系ナノコンポジット粉と混合した複合磁粉あるいは積層膜や多層膜またはナノコンポジット膜を使用した成形体や薄膜、スラリーあるいは厚膜も作成可能である。
本実施例で作成したピニング型あるいはニュークリエーション型磁石は、発電機、モータなどの回転機やスピーカ、メモリーコア、ハードディスク用磁気ヘッド、ボイスコイルモータ、スピンドルモータ、MRIなどの医療機器などすべての磁気回路製品に適用できる。
[実施例38]
SmとFeからなる合金を溶解後、700℃に加熱した水素雰囲気中で還元後急冷することで粉末を作成し平均粒径1μmに粉砕する。この粉砕粉を水素とアンモニアの混合ガスで部分窒化する。窒化後の粉末の平均組成はSm2Fe17N0.1である。窒化することによりキュリー温度を200℃以上にし、次のフッ化工程中に磁場を印加してフッ化反応を進める。窒化粉末は磁場中反応器に挿入され、温度170℃、磁場10kOe、フッ素(F2)ガス圧力0.1気圧でフッ化させ、粉末中心付近の組成がSm2Fe17F2になる拡散時間で処理した。粉末表面近傍の組成はSm2Fe17F3N0.1であり最外周あるいは最表面には六方晶とは異なる結晶構造を有するSmOF, SmF2, SmaFebOcFd(ここでa, b, c, dはすべて正数)などが成長し一部の窒素や炭素あるいは水素を含んだフッ化物または酸フッ化物は鉄を0.1から30原子%含有し、反強磁性あるいはフェリ磁性を示す。
このような反強磁性あるいはフェリ磁性相は部分的に六方晶と磁気的な結合をもち、上記磁場印加方向に磁気的な結合の影響を受けた六方晶の磁化を固定し回転しにくくし、単磁区状態を維持する。磁気的結合を揃えるために、フッ化処理中の粉の方向を磁場方向にほぼ平行にしている。フッ化処理温度は120℃〜350℃で進めるためフッ化前のキュリー温度を上昇させ、磁場配向させている。部分窒化後フッ化することでフッ化によって成長する反強磁性相との磁気的な結合の方向をそろえることができ、減磁曲線がシフトし保磁力が増大する。粉末形状が扁平粉である場合、粉末の表面に沿って反強磁性相やフェリ磁性相を形成し磁気的な結合による保磁力増大が顕著になり、磁場中フッ化反応の磁粉挿入部を反応中に加圧して成形することが可能である。
本実施例のフッ化物は、磁化の温度依存性からキュリー温度及びネール温度が測定でき、複数の強磁性共鳴周波数をもち、メスバウア効果によって測定される複数の内部磁界をもっている。
これらの評価結果からつぎのようなことが明らかになっている。(1)フッ素は強磁性相と反強磁性相あるいはフェリ磁性または常磁性相の複数の相に存在する。(2)強磁性相に存在するフッ素の一部は格子間位置に配置し、隣接原子の強磁性結合を強くしている。(3)フッ素侵入により強磁性相のキュリー温度が上昇する。(4)フッ素侵入により強磁性相の結晶磁気異方性エネルギーが増加する。(5)フッ素侵入にいり強磁性相の単位格子体積が増加する。(6)反強磁性相あるいはフェリ磁性相へのフッ素導入により、磁気変態点が上昇する。(7)反強磁性相あるいはフェリ磁性相に存在するフッ素は置換位置あるいは侵入位置に配置し、一部のフッ素原子は規則相を形成する。また一部のフッ素原子とフッ素原子に隣接する原子は逆スピネル型構造をもつ。(8)一部の鉄原子の磁気モーメントは2.2μBを超える。(9)一部のフッ素原子は磁気モーメントを有している。(10)強磁性相と反強磁性、強磁性相とフェリ磁性相の一部の界面は整合界面であり界面において磁気的な結合がみられる。(11)フッ化物はイオン結合性と共有結合性を併せ持つ。(12)室温以下の低温で結晶磁気異方性エネルギーの方向依存性が変化する。(13)一部のフッ化物はイオン伝導性や圧電性を示す。(14)一部のフッ化物は着磁前後で電気抵抗が変化する。(15)フッ素を介した隣接原子のスピン間交換結合が変化する。
上記反強磁性相やフェリ磁性相との磁気的な結合を強めるために、反強磁性あるいはフェリ磁性の磁気変態点を高くする必要がある。そのために種々の添加物を使用でき、MxFy(Mは一種以上の金属元素、Fはフッ素、xとyは正数)を粒界や主相との界面に成長させることが有効である。本実施例においてF2ガスの代わりにCF4, C2F6, NF3, SF6、HF, SiF4, COF2、CIF3、IF3などのフッ素(F)含有ガスあるいは他のガス種と混合したガスを使用できる。
[実施例39]
Sm-Fe合金を真空溶解し、溶体化処理後粉砕する。粉砕後水素とフッ素の混合ガス雰囲気中で熱処理し、SmH2, SmF3, FeF2, FeF3などに分解した後、水素を真空中で除去し再結晶させる。合金にTi, Zr, Alなどの金属元素を添加することで水素放出後のSm-Fe-F系粉末に異方性を付加することが可能である。粉末中の酸化物はCa粉末と混合してArガス雰囲気中で加熱還元後CaOをCa(OH)2として除去し、高純度フッ素あるいはフッ素と水素や窒素などとの混合ガスによりSm-Fe-F系合金粉を製造することも可能である。このような手法で作成可能な希土類鉄フッ素系合金粉末の主相化合物を以下に示す。
Ce2Fe17F0.2, Ce2Fe17F2, Ce2Fe17C1F1, Pr2Fe17F2, Pr2Fe17C2F2, Nd2Fe17F2, Nd2Fe17C1F1, Sm2Fe17F0.001, Sm2Fe17F0.02, Sm2Fe17F0.1, Sm2Fe17F0.2, Sm2Fe17F0.3, Sm2Fe17F2, Sm2Fe17F2.9, Sm2Fe17F3.0, Sm2Fe17F3.5, Sm2Fe17(H0.1F0.9)3.0, Sm2Fe17(C0.1F0.9)3.0,Sm2Fe17(B0.1F0.9)3.0, Sm2Fe17F3N0.1, Sm2Fe17(N0.1F0.9)3.0, Sm2Fe17(H0.05C0.05F0.9)3.0, Sm2Fe17(N0.05C0.01F0.94)3.0 , Sm2Fe17.2F3.0, Sm2Fe16.8F3.0, Sm2.1Fe17F3.0, Sm2Fe17H0.2F0.1, Sm2Fe17B0.1F0.1, Sm2Fe17C0.2F0.2, Sm2Fe17Al0.05F2.9, Sm2(Fe0.95Mn0.05)17F3, Sm2(Fe0.95Mn0.05)17F0.5, Sm2Fe17Ca0.05F2.9, Sm2(Fe0.9,Ga0.1)17F2.9, Sm2(Fe0.99Ga0.01)17F0.9, Sm2(Fe0.99Zr0.01)17F1.9, Sm2(Fe0.99Nb0.01)17F2.9, Sm2(Fe0.99V0.01)17F3.0, Sm2(Fe0.99W0.01)17F3.0, Sm2(Fe0.98Zr0.01Cu0.01)17F1.9, Sm2(Fe0.98Zr0.01Al0.01)17F1.9, Sm2(Fe0.95Zr0.04Cu0.01)19F2.9, Sm2(Fe0.7Co0.2Zr0.05Cu0.05)19F1.5, Sm2(Fe0.99Ga0.01)17F0.9, Sm2Fe17C0.3F1, Sm2Fe17C0.9F2, Sm2Fe17C2.5F3, (Sm0.9Pr0.1)2Fe17F3.0, (Sm0.9La0.1)2Fe17F3.0, (Sm0.9Nd0.1)2Fe17F3.0, (Sm0.9Ce0.1)2Fe17F3.0, Gd2Fe17F2, Gd2Fe17C2F1.3, Tb2Fe17F2, Tb 2 Fe 17 C 1 F 1.1 , Dy2Fe17F2, Ho2Fe17F2.9, Er2Fe17F2, Er2Fe17C0.3F1, Tm2Fe17F2.9, Tm2Fe17C0.9F1, Yb2Fe17F2, Yb2Fe17C0.3F1, Y2Fe17F2, Y2Fe17F3,Y2(Fe0.9Cr0.1)17F2,Th2Fe17F2, Sm2(Fe0.7Co0.3)17F2,Sm2(Fe0.65Co0.3Mn0.05)17F3,Sm2(Fe0.1Co0.9)17F2,Sm2(Fe0.7Co0.3)17HF2, Sm2(Fe0.7Co0.3)17C0.1H0.2F2, (Sm0.9Pr0.1)2(Fe0.7Co0.3)17F2, (Sm0.9La0.1)2(Fe0.7Co0.3)17F2, YFe11TiF0.01-3, YFe11VF0.01-3, YFe11TiN0.2F0.01-2, CeFe11TiF0.01-3, CeFe11VF0.01-3, CeFe11TiN0.2F0.01-2, NdFe11TiF0.01-3, NdFe11VF0.01-3, NdFe11TiN0.2F0.01-2, SmFe11TiF0.01-3, SmFe13TiF0.01-3, SmFe15TiF0.01-3, SmFe11VF0.01-3.3, SmFe13VF0.01-3, SmFe11TiN0.2F0.01-2.7, SmFe11TiN0.01F0.01-2.7, Sm(Fe0.9Co0.1)11TiN0.2F0.01-2.7, Sm(Fe0.4Co0.6)11TiN0.2F0.01-2.7, Sm(Fe0.4Co0.6)13TiN0.2F0.01-2.7, Sm(Fe0.4Co0.6)15TiF0.01-2.7, Sm3(Fe0.4Co0.6)29TiF0.1-3, Sm2(Fe0.4Co0.6)29TiF0.1-4, Sm1(Fe0.4Co0.6)29TiF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29ZrF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29AlF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29CaF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29BiF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29LiF0.1-4, Sm2(Fe0.4Co0.6)29AsF0.1-4, SmFe11MoF0.01-2.7, SmFe11MoH0.1F0.01-2.7, GdFe11TiF0.01-3, GdFe11VF0.01-3, GdFe11TiN0.2F0.01-2, TbFe11TiF0.01-3, TbFe11VF0.01-3, TbFe11TiN0.2F0.01-2, DyFe11TiF0.01-3, DyFe11VF0.01-3, DyFe11TiN0.2F0.01-2, ErFe11TiF0.01-3, ErFe11VF0.01-3, ErFe11TiN0.2F0.01-2, YFe10Si2F0.01-3, YFe10Si2C0.3F0.01-3
上記の磁粉において、一部のフッ素原子が原子間位置に導入され、単位格子体積が0.01〜10%増加し、フッ素原子に隣接する原子の電子状態密度分布の偏りにより、フッ素導入前と比較して、キュリー温度上昇や結晶磁気異方性エネルギーの増加、残留磁束密度の増加、磁気抵抗効果の増加、磁気光学効果の増加、磁気比熱の増加、超電導遷移温度の上昇、熱電効果の増加、磁歪定数の増加、熱電効果の増加、ネール点上昇などのいずれかが確認できた。上記化合物には上記組成の主構造を壊さずに種々の元素(金属元素や軽元素)が含有されていても良く、Fの代わりに他のハロゲン元素やハロゲン元素と軽元素(B, C, N, O, H, P, S)の混合であっても良い。
上記主相以外に磁粉には主相よりも高濃度のフッ素を含み主相の磁化よりも小さい化合物が最表面あるいは粒界の一部に成長している。上記主相化合物の組成において、フッ素濃度が異なる化合物を表記の範囲で作成可能であり、結晶構造や構成元素の配列に依存するがフッ素濃度が増加すると共に単位胞体積は増加する傾向にある。上記フッ素化合物を含む粉を用い、有機化合物あるいは無機化合物で粉を結着させて作成した異方性ボンド磁石のエネルギー積は20〜40MGOeであり、種々の磁気回路製品に適用できる。また、上記フッ素含有化合物は、希土類元素を含んでいない鉄系粒子を圧縮成形した圧粉体あるいは加熱焼結させた焼結体を用い、その表面に希土類フッ化物を含有する溶液を塗布後、200〜500℃に加熱拡散させ急冷することによりフッ素が侵入した準安定相として形成可能である。加熱拡散時にミリ波やマイクロ波などの電磁波を使用してフッ化物を選択的に加熱しながら拡散距離を確保して上記のような高耐蝕性準安定相であるフッ素化合物を局所的に成長させることもできる。
[実施例40]
(Fe0.7Co0.3Zr0.05Cu0.05)10F0.1粉を以下の手法で作成し磁性材料の原料とする。Fe、Co、Cu及びZr片を評量し、真空溶解炉に挿入しFe0.7Co0.3Zr0.05Cu0.05を作成する。このFe0.7Co0.3Zr0.1をF2+Ar混合ガス中雰囲気中で回転ロール上に溶解合金を吹き出して急冷する。急冷粉の平均結晶粒径は1〜50nmである。この急冷粉にSmF2を組成とする非晶質構造の溶液を約0.1重量%塗布し、加熱粉砕する。粒径の増大を抑制するために、加熱は急速加熱条件を用い、400℃まで3分で加熱する。20℃/min以上の加熱速度で加熱することで異常結晶成長を抑制できる。結晶粒径が500nmを超える異常結晶成長を防止することにより、粉砕後の粒径を小さくかつSmやフッ素の偏在状態を同程度にすることが可能であり、10kOe以上の高保磁力を実現できる。平均的な急速加熱粉砕後の組織は以下の通りのコアシェル構造を有している。
粉末中心にはFe0.7Co0.3Zr0.05Cu0.05があり、外周側にSm(Fe0.7Co0.3Zr0.05Cu0.05)10F0.5が成長し、最外周にはSmF3やSm(OF)が成長する。フッ素が少ない領域では、粉末中心であり、外周側にSm(Fe0.7Co0.3Zr0.05Cu0.05)10F0.1が成長し、最外周にはSm(OF)などFe濃度の少ないフッ化物や酸フッ化物が成長する。すなわち、粉末には大きく分類して3種類の相から構成され、鉄コバルトリッチ相、希土類鉄コバルトフッ化物相、及び希土類フッ化物相である。これらの3種の相構成からなる典型的な組織を図3に示す。
図3の(1)から(12)において、希土類フッ化物相10、希土類鉄コバルトフッ化物相12、鉄コバルトリッチ相11の3相から構成され、外周側に希土類フッ化物相10が成長し、その内周側に希土類鉄コバルトフッ化物相12及び鉄コバルトリッチ相11が形成される。希土類鉄コバルトフッ化物相12及び鉄コバルトリッチ相11の分布は材料組成や熱処理、冷却速度や時効などの温度条件に大きく依存する。
最外周相である希土類フッ化物相10は反応が進行すると希土類鉄コバルトフッ化物相12にフッ素が拡散することで薄くなり被覆状態が(3),(5),(6),(8),(9),(10),(11),(12)のように不連続となる場合がある。希土類鉄コバルトフッ化物相12及び鉄コバルトリッチ相11の間には強磁性結合が生じる。また、外周側の希土類フッ化物相10と希土類鉄コバルトフッ化物相12あるいは鉄コバルトリッチ相11の界面には強磁性/強磁性あるいは強磁性/反強磁性の交換結合あるいはイオン性結合による超交換相互作用が生じる場合がある。
希土類鉄コバルトフッ化物相12により鉄コバルトリッチ相11が完全に被覆されている(1),(2),(3),(4),(5),(7),(8)では鉄コバルトリッチ相11の磁化が希土類鉄コバルトフッ化物相12の高結晶磁気異方性の影響を受けて反転しにくくなり、保磁力が増大する。また、(10),(11)の場合には希土類フッ化物相10により鉄コバルトリッチ相11の磁化は拘束されやすく磁化が反転しにくくなる。
粉末内に成長した各相の結晶構造は、不可避不純物の混入や上記熱処理の温度履歴や粉砕条件により異なるが、その典型例は、希土類フッ化物相10が立方晶系、斜方晶、六方晶などのフッ化物や酸素を含有した酸フッ化物または非晶質、希土類鉄コバルトフッ化物相12が六方晶や正方晶、斜方晶、菱面体晶あるいは単斜晶とこれらの混合相、鉄コバルトリッチ相11が立方晶や六方晶であり、これらのいずれかの結晶の一部は規則相が成長する。
平均的な粉末中心部の強磁性相にSmは含有せず、強磁性相の外周側に平均的に偏在しているためSmの濃度は低減でき、残留磁束密度を増加させることが可能である。さらに上記材料のキュリー温度は550℃であり、NdFeB系磁石よりも高い。また1.7T以上の残留磁束密度を示し、キュリー温度を400℃以上となる材料は、上記図3に示す組織により達成でき、上記SmFeCoZrCuF系以外の材料系を使用しても満足でき、次のような一般組成式で説明できる。
A(FexCoyMz) + B(RhFeiCojMkFl)+ C(RoFepCoqMrFs) (12)
上記(12)式において、Feは鉄、Coはコバルト、Mは一種または複数のFeやCo以外の金属元素、Rは希土類元素、Fはフッ素あるいはフッ素及び水素、フッ素及び窒素、フッ素及び炭素、フッ素及び酸素、フッ素及び硼素、フッ素及び塩素、フッ素及びリン、フッ素及び硫黄など一種あるいは複数のフッ素を含む軽元素またはハロゲン元素であり、x, y, z, h, i, j, k, l, o, p, q, r, sは正数である。第1項が磁粉あるいは結晶粒中心付近の強磁性相、第二項が第一項の強磁性からみて外周側に界面で接触しているフッ素含有強磁性相、第三項が最外周または粒界に成長するフッ化物相である。
残留磁束密度を1.7T以上にするためには飽和磁束密度を高める必要があるためx>y>z, i>j>k>l, s>p>q>rである(x+y+z=1, h+i+j+k+l=1, o+p+q+r+s=1)。 フッ素は粉末あるいは結晶粒の最外周において最高濃度になることから、s>l>0であり、h+i+j+k>o+p+q+r となる。またそれぞれの相の体積率をA, B, Cで表しA+B+C=1(100%)とすると、A>C>0, B>C>0となる。第一項と第二項の強磁性相の一部の結晶は類似の結晶構造を有し、相間の界面の一部には格子整合性あるいは結晶方位関係のある界面が形成され、界面の一部に格子歪みが存在し、強磁性相の間の磁化が互いに平行に向くような磁気的結合が生じる。前記結晶方位関係は第一項の相の(h k l)の面と第二項の強磁性相の面(i j k)が平行であり、h, k, l i, j,kが±n(nは0を含む自然数)である。
第二項の相の結晶磁気異方性エネルギの方が第一項の相の結晶磁気異方性エネルギよりも大きい。第二項のフッ素原子の一部は格子間位置に侵入し、格子体積を増大させる。また、第三項のフッ素を含有する相の結晶構造は第二項のフッ素含有強磁性相の結晶構造と異なり、第二項と第三項の相間での整合性のある界面は第一項と第二項間の界面の整合界面よりもその面積が少なく、第一項や第二項の強磁性相の磁化は第三項のフッ素含有相の磁化よりも大きい。
A>B>C>0の場合に残留磁束密度が高く、C<0.1(10%) 望ましくはC<0.001(0.1%)にすることで1.7T以上の残留磁束密度を達成できる。また、第二項あるいは第三項の相には準安定相が形成され、加熱とともに構造あるいは組織が変化し、第一項の強磁性相の結晶構造は体心立方晶や正方晶あるいはこれらの混合相、第二項の強磁性相の結晶構造が六方晶や正方晶、斜方晶、菱面体晶あるいは単斜晶とこれらの混合相、第三項の最外周あるいは結晶粒界のフッ素が高濃度で含まれる相は、酸素あるいは水素濃度に依存して非晶質を含む種々の結晶構造を有し、一部に酸フッ化物を含み、その酸フッ化物の結晶構造は菱面体晶、立方晶あるいは面心立方構造を有している。
上記一般式(12)で示される磁粉を酸化防止可能な溶媒と混合し、不活性ガス中で磁場中成形後、プラズマ中で加圧することにより、密度98%の異方性磁石を作成でき、粒界にはフッ素含有相、粒界に沿った粒界近傍にフッ素含有強磁性相あるいは反強磁性相、さらにその中心部にフッ素を含有しない強磁性相を形成でき、加熱加圧時に100℃/min以上の速度で急速加熱及び300℃以上の温度領域で150℃/min以上の急速冷却を実施した結果、粒界の酸素含有フッ化物は立方晶となり、残留磁束密度1.8T, 保磁力25kOe, キュリー温度570℃の磁石を磁石全体でのSm濃度を1から2原子%で達成でき、成形体内部には図3(1)から(12)で示すいずれかの組織を結晶粒で確認した。
このような磁石は従来のNd-Fe-B系、Sm-Fe-N系, Sm-Co系などの希土類元素濃度よりも小さくかつこれらの従来材料よりも高い残留磁束密度を示し、あらゆる磁気回路に適用することで磁石応用製品の小型高性能軽量化と性能向上を両立させることが可能である。
[実施例41]
スパッタリング装置を使用してアルミナ基板上にTa膜を基板温度400℃で膜形成し、この膜を下地としてSm2Fe17F2膜を形成する。Ta膜はTaターゲットを用い、Sm2Fe17ターゲットをArとF2の混合ガス中でスパッタした。使用した混合ガスはAr-10%F2ガスであり、スパッタ中のガス圧は1mTorrである。Sm2Fe17F2膜は六方晶の結晶構造をもち、基板温度やスパッタリング中のガス圧、及び膜中のフッ素組成や下地膜の結晶性と結晶構造などに依存して配向方向や格子歪と格子定数が変化する。結晶構造はTbCu7構造であり、格子定数は、a=0.47-0.52nm, c=0.40〜0.45nmでありc/aは1より小さい。Sm2Fe17F2膜の容易磁化方向はa軸あるいはc軸方向であり、Sm2Fe17F2膜の膜厚が0.1〜100μmにおいて、保磁力15kOe,残留磁束密度1.5Tであった。
基板や下地の種類ならびにスパッタリング条件により、配向方向が変化し上記格子定数や軸比も変化する。これらの格子定数や軸比及びフッ素濃度が磁気特性の決定因子になっており、Sm1.7-2.2Fe15-21F0.1-3膜においてc/aが0.8〜0.95の場合保磁力が高い。さらにSm2Fe17F2膜とFeCo系合金膜を積層させた多層膜において、層間に強磁性結合をもつ薄膜あるいは厚膜磁石を得ることができ、Sm2Fe17F2膜/Fe70Co30膜(それぞれの厚さ50nm/10nm)において保磁力15kOe,残留磁束密度1.6Tを実現でき、異方性の方向は膜厚や膜形成条件に依存して変化するが、このような強磁性膜との多層化により希土類元素使用量を削減可能である。また Sm2Fe17F2膜とFeCoF系合金膜を積層させることにより、FeCo合金の飽和磁束密度を増加させることが可能であり、Sm2Fe17F2膜/Fe65Co30F5膜(それぞれの平均厚さ30nm/10nm)において、10回から1000回積層した膜において、保磁力16kOe,残留磁束密度1.7Tを実現できた。
このような残留磁束密度1.6T、保磁力15kOeを確保可能な磁性材料は、フッ素濃度が0.01〜15原子%の希土類鉄フッ素系の膜と飽和磁束密度1.7T以上の鉄系合金膜を積層し、層間に強磁性的な結合を生じさせることで実現可能である。フッ素濃度が0.01原子%未満ではキュリー温度が150〜300℃と低く実用的な材料にならない。またフッ素濃度が15原子%を超えると磁化の小さいフッ化物や酸フッ化物が成長し易くなり組成の制御が困難となることと膜全体の磁化が減少する。
これらの積層膜に、一種以上の金属元素あるいはフッ素以外のハロゲン元素または半金属元素を含有させて保磁力を1.1〜2倍に増加させることが可能である。またフッ素を含むハロゲン元素の一部は単位格子の置換位置及び侵入位置のいずれかのサイトに配置し、格子歪や隣接原子位置を変動させるとともに、イオン結合性を有することで磁気モーメントの増加や結晶磁気異方性の増加ならびに層間の磁気的結合力の増加をもたらす。本発明のフッ素含有磁性膜を形成するための基板材料は種々の多結晶や単結晶の酸化物、窒化物、炭化物、ホウ化物あるいはフッ化物、各種半導体(Si, GaAsなど)を使用でき、下地としてNb, Zr, Tiなど貴金属を含む各種金属膜が使用でき、不可避的な酸素、水素、窒素などの軽元素不純物やMnなどの金属不純物を含有していても結晶構造や積層構造を大きく変えるものでなければ局所的に偏在化していても特に磁気特性に大きな影響はない。