以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の第一は、ガス拡散層および触媒層からなるガス拡散電極であって、水電解活性を有する触媒がガス拡散層および触媒層の界面に配置されてなる、ガス拡散電極に関するものである。本発明は、水電解活性を有する触媒をガス拡散層と触媒層との界面に配置することを特徴とするものである。このような構造をとることによって、触媒層とガス拡散層との界面付近で水電解を行なうため、界面付近で水電解活性を有する触媒による作用により水電解反応が進行するため、触媒層から水をひきつけ易く、それによって触媒層で生成する水分が拡散によりガス拡散層側に移動する。このような水分の移動により、触媒層、特に従来問題となっているカソード側電極触媒層内での水の滞留が起こらないまたは起こりにくくなる。ゆえに、触媒層、特にカソード側電極触媒層内の反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象、特に高電流密度におけるフラッディング現象を有効に抑制・防止することができる。さらに、本発明によると、触媒層内で生成した水をスムーズに触媒層から排出できるため、カソード触媒層における電子伝導性物質(カーボン担体)に対するC+2H2O→CO2+4H++4e−の反応を有効に防止できる。ゆえに、本発明のガス拡散電極は、カーボン腐食、特にカソード側の電極触媒層内のカーボンの腐食をも有効に抑制・防止することができる。上記利点に加えて、本発明では、触媒層から生成水を排出するのに最も有効な触媒層とガス拡散層との界面付近に水電解活性を有する触媒を配置しているため、少ない水電解活性を有する触媒量で、フラッディング現象及びカーボン腐食を抑制・防止できる。
本発明において、水電解活性を有する触媒の配置形態は、ガス拡散層と触媒層との界面に位置し、かつ界面付近での水電解反応により触媒層から水をひきつけることができる形態であれば特に制限されない。具体的には、(ア)水電解活性を有する触媒を有する層をガス拡散層と触媒層との間に挿入する形態;(イ)水電解活性を有する触媒をガス拡散層中に配置する形態などが好ましく挙げられる。なお、本発明では、触媒層は、水電解活性を有する触媒を実質的に含まない。
上記(ア)の形態は、ガス拡散層と触媒層との間に、水電解活性を有する触媒を有する層を新たに設けるものである。当該形態をとることにより、水電解活性を有する触媒の層中への配合量の調節が容易であり、ゆえに、フラッディング現象及びカーボン腐食の抑制・防止効果を所望レベルにまで容易に達成することができる。当該形態(ア)において、水電解活性を有する触媒を有する層は、ガス拡散層と触媒層との界面全体にわたって上記層間に挿入されても、あるいは生成水のたまり易いガス出口部に対応するガス拡散層と触媒層との界面部分になど、ガス拡散層と触媒層との界面の一部に、上記層間に挿入されてもよいが、ガス出口部付近など、生成水のたまり易い部分に対応する場所には少なくとも、水電解活性を有する触媒を有する層が配置されていることが好ましい。また、後者の場合には、水電解活性を有する触媒は、比較的大きな面積の層をガス拡散層及び触媒層の間に単独で若しくは複数挿入してもまたは比較的面積の小さいスポット状にガス拡散層及び触媒層の間に複数挿入してもよい。
さらに、水電解活性を有する触媒は、水電解活性を有する触媒を層中、同一の量で配置しても、あるいは異なる量で配置しても、いずれでもよい。後者の場合には、水電解活性を有する触媒は、層中、触媒層と接触する側におよび/またはガス出口部付近に、特に触媒層と接触する側に多く配置されることが好ましい。ガス出口部付近は、生成水のたまり易い部分であるため、このような場所に水電解活性を有する触媒を多く配置することによって、生成した水を効率よく水電解反応に供して、触媒層から水をひきつけ、触媒層内に生成する水の滞留を抑制・防止することができるからである。この際、水電解活性を有する触媒は、層の面方向に対して、ガス出口部付近にのみ配置してもあるいはガス入口部からガス出口部付近にかけて配合量が漸増するように配置してもいずれでもよい。また、触媒層と接触する側に水電解活性を有する触媒を多く配置することによって、触媒層で生成した水を効率よく水電解反応に供することができ、触媒層からガス拡散層までの水濃度勾配によって、生成水が水分の少ないガス拡散層へと良好に移動することができる。この際、水電解活性を有する触媒は、層中、ガス拡散層側から触媒層側に向かって配合量が漸増するように配置されてもあるいは、触媒層と接する部分に所定の厚みで配置されてもいずれでもよい。
水電解活性を有する触媒を層中に配置する量は、触媒層で生成した水の滞留を良好に抑制・防止できる量であれば特に制限されず、水電解活性を有する触媒の種類や層中の配置形態などによっても異なる。例えば、水電解活性を有する触媒を層中、同一の量で配置する場合には、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。また、水電解活性を有する触媒が、層中、ガス拡散層側から触媒層側に向かってまたはガス入口部からガス出口部付近にかけて配合量を漸増させて配置する場合には、触媒層と接触する側の配合量が、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%であり、ガス拡散層と接触する側の配合量が、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%となるような濃度勾配とすることができる。この際、濃度勾配は、連続的であってもあるいは段階的であってもよい。
上記(ア)の形態において、水電解活性を有する触媒を有する層は、電子伝導性粒子をさらに含むことが好ましい。これにより、水電解活性を有する触媒を有する層の電子伝導性が高まり、絶縁抵抗(IR)の増大に伴うセル性能の低下を有意に抑制・防止できる。この際使用できる電子伝導性粒子は、電子伝導性を有するものであれば特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、活性炭、黒鉛、膨張黒鉛、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボン粒子が挙げられる。これらのうち、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、カーボンブラック、アセチレンブラック及び活性炭が好ましい。電子伝導性粒子はまた、市販品を用いてもよく、このような場合には、キャボット社製バルカンXC−72、バルカンXC−72R、バルカンP、ブラックパールズ880、ブラックパールズ1100、ブラックパールズ1300、ブラックパールズ2000、リーガル400、ライオン社製ケッチェンブラックEC、三菱化学社製#3150、#3250などのオイルファーネスブラック;電気化学工業社製デンカブラックなどのアセチレンブラック等が使用できる。また、カーボンブラックのほか、天然の黒鉛、ピッチ、コークス、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、フラン樹脂などの有機化合物から得られる人工黒鉛や炭素などもまた使用できる。上記電子伝導性粒子は、単独で使用されてあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、電子伝導性粒子の粒径は、特に制限されないが、排水性や電極触媒層との接触性を考慮すると、10〜100nm、より好ましくは30〜70nm程度とするのがよい。
また、電子伝導性粒子を層中に配置する量は、触媒層で生成した水の滞留を水電解活性を有する触媒が良好に抑制・防止するのを妨げない量であれば特に制限されず、電子伝導性粒子の種類などによっても異なる。例えば、電子伝導性粒子の配合量は、水電解活性を有する触媒に対して、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜75質量%である。
上記(ア)の形態は、ガス拡散層と触媒層との間に、水電解活性を有する触媒を有する層を新たに設けるものである。水電解活性を有する触媒を有する層の形成方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは修飾を加えて適用できる。以下、好ましい方法を記載するが、本発明は、当該方法に限定されるものではない。例えば、水電解活性を有する触媒、電子伝導性粒子、溶媒を適当量混合・分散してスラリー(溶液)を形成し、このスラリー(溶液)をガス拡散層用基材上に塗布した後、乾燥させる。その後、マッフル炉や焼成炉を用いて250〜400℃、より好ましくは300〜400℃程度で熱処理を施すのが好ましい。この際、水電解活性を有する触媒及び電子伝導性粒子の添加量は、上述したとおりである。また、溶媒は、特に制限されず、水電解活性を有する触媒及び電子伝導性粒子の種類に応じて適宜選択できる。例えば、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などが使用できる。なお、水電解活性を有する触媒および電子伝導性粒子は、そのまま使用されてもあるいは溶液の形態で使用されてもよい。後者の場合に使用される溶媒は、特に制限されず、例えば、上述したような溶媒が使用できる。また、前記スラリー(溶液)をガス拡散層用基材上に塗布し乾燥する代わりに、スラリー(溶液)を一度乾燥させ粉砕することで粉体にし、これを前記ガス拡散層用基材上に塗布する方法などを用いてもよい。また、前記スラリーは、撥水剤をさらに含んでもよい。これにより、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことができる。この際、撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。撥水剤の添加量は、特に制限されないが、例えば、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、20〜80質量%程度である。なお、特に撥水剤がフッ素系の高分子材料である場合には、水電解活性を有する触媒を有する層におけるフッ素原子を含有する高分子の含量が、電子伝導性粒子の質量1に対して、0.1から2.0が好ましく、より好ましくは0.2から1.8、さらに好ましくは0.3から1.5である。水電解活性を有する触媒を有する層の、撥水性の観点から0.1以上であることが好ましく、導電性の観点から2.0以下であることが好ましい。
または、特に水電解活性を有する触媒を電子伝導性粒子と組合わせて使用する場合には、上記方法に加えて、水電解活性を有する触媒を電子伝導性粒子上に担持させてもよい。この際、水電解活性を有する触媒の電子伝導性粒子上への担持方法は、特に制限されず、公知の担持方法が同様にしてあるいは修飾して使用できる。例えば、イリジウムやルテニウムを水電解活性を有する触媒として使用する場合には、下記に詳述するような触媒粒子の担持方法が同様にして使用できる。また、酸化イリジウムや酸化ルテニウムを水電解活性を有する触媒として使用する場合には、下記に詳述するような触媒粒子の担持方法に加えて、溶液還元法や加熱酸化法や電析法などが好ましく使用できる。この際、溶液還元法では、例えば、硝酸イリジウムや塩化イリジウムの水溶液をイリジウム前駆体として用い、そこへ、還元剤、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸等の還元剤及び電子伝導性粒子を混合し、約90℃で4時間加熱攪拌後、ろ過し、乾燥することで、イリジウム前駆体あるいはイリジウムを電子伝導性粒子上に担持できる。さらに、含酸素雰囲気で150℃〜400℃の間で加熱処理をすることで、酸化イリジウムとして担持することもできる。また、加熱酸化法としては、特に制限されないが、例えば、塩化イリジウム(IrCl4・H2O)、塩化イリジウム酸(H2IrCl6・6H2O)、及び樹脂酸イリジウムを、水、エタノール、ブタノール等の溶媒に溶解してイリジウム前駆体溶液を調製し、このイリジウム前駆体溶液を、電子伝導性粒子に塗布して、これを酸素雰囲気(例えば、酸素分圧が0.1〜0.5気圧の条件)下で、200〜800℃の温度で、5〜120分間の条件下で、加熱処理する方法が好ましく使用される。また、電析法としては、特に制限されないが、例えば、イリジウム錯体(例えば、Na2IrO4の水溶液中に、電子伝導性粒子を浸漬して、酸化イリジウム(IrO2)を電着する方法が使用できる。なお、上記方法では、水電解活性を有する触媒として酸化イリジウムを電子伝導性粒子上に担持させる方法について詳述したが、酸化ルテニウムなどの他の水電解活性を有する触媒についても同様の方法が使用できる。
上記(ア)の形態で用いられるガス拡散層としては、従来公知のものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料;金属メッシュなどが挙げられる。より具体的には、カーボン布、カーボン紙(カーボンペーパー)、カーボンクロス、カーボン不織布、金属メッシュなどが好ましく使用でき、カーボン布、カーボン紙(カーボンペーパー)、カーボン不織布、金属メッシュがより好ましい。これらの材料は、高い電子電導性を有し、絶縁抵抗(IR)の増大に伴うセル性能の低下を有意に抑制・防止できる。また、ガス拡散層は、市販品を用いることもでき、例えば、東レ株式会社製カーボンペーパーTGPシリーズ、E−TEK社製カーボンクロスなどが挙げられる。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、ガス拡散層に用いられる基材を撥水剤の分散液に浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。
上記(ア)の形態において、水電解活性を有する触媒を有する層の厚みは、特に制限されず、フラッディング現象を十分抑制・防止できる厚みであればよい。具体的には、ガス拡散層及び水電解活性を有する触媒を有する層の合計厚さが、100〜500μm、より好ましくは200〜500μm、さらにより好ましくは200〜400μm、最も好ましくは200〜300μmであることが好ましい。このような厚みであれば、ガス拡散層の機械的強度及び排水性双方を十分確保できる。このうち、ガス拡散層の厚みは、199〜400μm、より好ましくは199〜350μm、最も好ましくは199〜290μmであることが好ましい。このような厚みであれば、ガス拡散層の機械的強度及び排水性双方を十分確保できる。また、水電解活性を有する触媒を有する層の厚みは、1〜100μm、より好ましくは1〜50μm、最も好ましくは1〜10μmであることが好ましい。このような厚みであれば、フラッディング現象及び触媒層の劣化を十分抑制・防止できる。
次に、上記(イ)の形態は、水電解活性を有する触媒をガス拡散層中に配置するものである。当該形態をとることにより、触媒層とガス拡散層との間に余分な層を介することがないため、ガス拡散電極の薄膜化が可能であり、また、触媒層と接しているガス拡散層側に水電解活性を有する触媒を高分散できるため、ここで水電解反応が進行して、触媒層中で生成する水をスムーズに排出することができるため、少ない水電解活性を有する触媒量で、フラッディング現象及びカーボン腐食を抑制・防止できる。当該形態(イ)において、水電解活性を有する触媒は、触媒層とガス拡散層との接触面全体にわたって配置されても、あるいは生成水のたまり易いガス出口部に対応する触媒層とガス拡散層との接触面になど、ガス拡散層と触媒層との界面の一部に、配置されてもよいが、ガス出口部付近など、生成水のたまり易い部分に対応する場所には少なくとも、水電解活性を有する触媒を配置することが好ましい。また、後者の場合には、水電解活性を有する触媒は、比較的大きな面積で単独で若しくは複数触媒層とガス拡散層との接触面に配置してもまたは比較的面積の小さいスポットを触媒層とガス拡散層との接触面に複数配置してもよい。
さらに、水電解活性を有する触媒は、触媒層とガス拡散層との接触面方向で、同一の量で配置しても、あるいは異なる量で配置しても、いずれでもよい。後者の場合には、水電解活性を有する触媒は、触媒層とガス拡散層との接触面において、触媒層と接触する側におよび/またはガス出口部付近に、特に触媒層と接触する側に特に多く配置されることが好ましい。ガス出口部付近は、生成水のたまり易い部分であるため、このような場所に水電解活性を有する触媒を多く配置することによって、生成した水を効率よく水電解反応に供して、水の滞留を抑制・防止することができるからである。この際、水電解活性を有する触媒は、触媒層とガス拡散層との接触面方向に対して、ガス出口部付近にのみ配置してもあるいはガス入口部からガス出口部付近にかけて配合量が漸増するように配置してもいずれでもよい。また、触媒層とガス拡散層との接触面に水電解活性を有する触媒を多く配置することによって、触媒層で生成した水を効率よく水電解反応に供することができ、触媒層からガス拡散層までの水濃度勾配を速やかに形成して、生成水が水分の少ないガス拡散層へと良好に移動することができる。この際、水電解活性を有する触媒は、ガス拡散層の厚み方向において、ガス拡散層の触媒層とは接しない側から触媒層と接する側に向かって配合量が漸増するように配置されてもあるいは、触媒層と接するガス拡散層部分に所定の厚みで配置されてもいずれでもよい。後者の場合、水電解活性を有する触媒は、ガス拡散層の厚みに対して、1〜20%、より好ましくは1〜10%程度、配置されることが好ましい。このような範囲にあれば、水電解活性を有する触媒が効率よく触媒層内の生成水を水電解反応により排出することができる。
水電解活性を有する触媒を層中に配置する量は、触媒層で生成した水の滞留を良好に抑制・防止できる量であれば特に制限されず、水電解活性を有する触媒の種類やガス拡散層中の配置形態などによっても異なる。例えば、水電解活性を有する触媒をガス拡散層中、同一の量で配置する場合には、水電解活性を有する触媒を有する部分において、当該層部分を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは5〜50質量%、より好ましくは10〜30質量%である。また、水電解活性を有する触媒が、層中、ガス拡散層側から触媒層側に向かってまたはガス入口部からガス出口部付近にかけて配合量を漸増させて配置する場合には、触媒層と接触する側の配合量が、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%であり、水電解活性を有する触媒が配置されているガス拡散層の中で触媒層とは最も離れている部分での配合量が、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは1〜20質量%、より好ましくは5〜15質量%となるような濃度勾配とすることができる。この際、濃度勾配は、連続的であってもあるいは段階的であってもよい。
上記(イ)の形態において、ガス拡散層は、電子伝導性粒子をさらに含んでもよい。これにより、水電解活性を有する触媒を有する層の電子伝導性がさらに高まり、絶縁抵抗(IR)の増大に伴うセル性能の低下を有意に抑制・防止できる。この際使用できる電子伝導性粒子は、電子伝導性を有するものであれば特に制限されず、上記(ア)の形態で列挙されたものと同様のものが使用できる。電子伝導性粒子の粒径は、特に制限されないが、排水性や電極触媒層との接触性を考慮すると、10〜100nm、より好ましくは30〜70nm程度とするのがよい。また、電子伝導性粒子を層中に配置する量は、触媒層で生成した水の滞留を水電解活性を有する触媒が良好に抑制・防止するのを妨げない量であれば特に制限されず、電子伝導性粒子の種類などによっても異なる。例えば、電子伝導性粒子の配合量は、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜75質量%である。
上記(イ)の形態は、電解活性を有する触媒をガス拡散層中に配置するものである。電解活性を有する触媒をガス拡散層中に配置する方法は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは修飾を加えて適用できる。以下、好ましい方法を記載するが、本発明は、当該方法に限定されるものではない。例えば、水電解活性を有する触媒を、溶媒中に分散してスラリー(溶液)を形成する。次に、ガス拡散層に用いられる基材を、このスラリー(溶液)中に所定の深さまで浸漬した後、取り出して、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。この際、水電解活性を有する触媒の添加量は、上述したとおりであり、上記方法では記載しなかったが、水電解活性を有する触媒に加えて、電子伝導性粒子をさらに加えてもよく、この時の電子伝導性粒子の添加量もまた上述したのと同様である。また、溶媒は、特に制限されず、水電解活性を有する触媒及び必要であれば電子伝導性粒子の種類に応じて適宜選択できる。例えば、水、パーフルオロベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒などが使用できる。上記方法において、ガス拡散層に用いられる基材をスラリー中に浸漬する深さは、触媒中で生成した水を効率よく水電解反応に供することができる深さであれば特に制限されないが、好ましくは、水電解活性を有する触媒が、触媒層と接するガス拡散層側から1〜30μm、より好ましくは1〜10μm程度配置されるような深さである。なお、上記したような水電解活性を有する触媒の配合量に達しない場合は、所定量に達するまで、上記工程を複数回繰り返してもよい。また、上記方法において、浸漬条件は、ガス拡散層中に所望の水電解活性を有する触媒が配置できる条件であれば特に制限されないが、通常、60〜120℃で10〜180分間程度、ガス拡散層に用いられる基材をスラリー中に浸漬することが好ましい。また、前記スラリーは、撥水剤をさらに含んでもよい。これにより、ガス拡散層により高い撥水性が付与されるため、フラッディング現象などをより効果的に防ぐことができる。この際、撥水剤としては、特に限定されず、上記(ア)の形態で列挙したのと同様のものが使用でき、また、撥水剤の添加量は、特に制限されないが、例えば、層を構成する成分の合計質量(固形分換算)に対して、5〜80質量%程度である。
または、ガス拡散層に用いられる基材に、水電解活性を有する触媒を溶媒中に分散したスラリー(溶液)を塗布することによって、電解活性を有する触媒をガス拡散層中に配置してもよい。この際、ガス拡散層に用いられる基材上へのスラリーの塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。このような方法における、塗布部分、溶媒などは、特記しない限り、上記方法と同様である。
または、特に水電解活性を有する触媒を電子伝導性粒子と組合わせて使用する場合には、上記と同様、ガス拡散層中に、水電解活性を有する触媒を電子伝導性粒子上に担持させたものが配置されてもよい。これは、上記と同様の方法によって達成できる。例えば、硝酸イリジウムや塩化イリジウムの水溶液をイリジウム前駆体として用い、そこへ、還元剤、例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸等の還元剤及び電子伝導性粒子を混合して混合液を調製し、この混合液にガス拡散層に用いられる基材を上記したような温度及び時間浸漬した後、取り出し、これを約90℃で4時間加熱、乾燥することによって、少なくとも一部電子伝導性粒子上に担持したイリジウムをガス拡散層中に配置する溶液還元法を用いることができる。この際、さらに、含酸素雰囲気で150℃〜400℃の間で加熱処理をすることで、酸化イリジウムが電子伝導性粒子状に担持したものをガス拡散層中に配置することもできる。または、上記と同様にして作製された水電解活性を有する触媒を電子伝導性粒子上に担持させたもの;塩化イリジウム(IrCl4・H2O)、塩化イリジウム酸(H2IrCl6・6H2O)、及び樹脂酸イリジウムを、水、エタノール、ブタノール等の溶媒に溶解してイリジウム前駆体溶液を調製し、このイリジウム前駆体溶液を、電子伝導性粒子に塗布して、これを酸素雰囲気(例えば、酸素分圧が0.1〜0.5気圧の条件)下で、200〜800℃の温度で、5〜120分間の条件下で、加熱処理したもの;イリジウム錯体(例えば、Na2IrO4の水溶液中に、電子伝導性粒子を浸漬して、酸化イリジウム(IrO2)を電着したものなどを、前記スラリーを塗布する方法において、水電解活性を有する触媒として使用してもよい。
上記(イ)の形態で用いられるガス拡散層に用いられる基材としては、従来公知のものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性及び多孔質性を有するシート状材料;金属メッシュなどが挙げられる。より具体的には、カーボン布、カーボン紙(カーボンペーパー)、カーボンクロス、カーボン不織布、金属メッシュなどが好ましく使用でき、カーボン布、カーボン紙(カーボンペーパー)、カーボン不織布、金属メッシュがより好ましい。これらの材料は、高い電子電導性を有し、絶縁抵抗(IR)の増大に伴うセル性能の低下を有意に抑制・防止できる。また、ガス拡散層に用いられる基材は、市販品を用いることもでき、例えば、東レ株式会社製カーボンペーパーTGPシリーズ、E−TEK社製カーボンクロスなどが挙げられる。また、基材の厚みは、特に制限されず、フラッディング現象を十分抑制・防止できる厚みであればよい。具体的には、ガス拡散層に用いられる基材の厚さが、100〜500μm、より好ましくは150〜400μm、最も好ましくは200〜350μmであることが好ましい。このような厚みであれば、ガス拡散層の機械的強度及び排水性双方を十分確保できる。
前記ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象などを防ぐことを目的として、前記基材に撥水剤を含ませることが好ましい。前記撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。ガス拡散層に撥水剤を含有させる場合には、一般的な撥水処理方法を用いて行えばよい。例えば、撥水剤の分散水溶液またはアルコール分散溶液に、ガス拡散層に用いられる基材を浸漬した後、オーブン等で加熱乾燥させる方法などが挙げられる。乾燥時の排ガス処理の容易さからは、撥水剤の分散水溶液を用いるのが好ましい。
本発明は、水電解活性を有する触媒をガス拡散層と触媒層との界面に配置することを特徴とする。この際、水電解活性を有する触媒は、水電解反応を誘導できるものであれば特に制限されないが、例えば、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、チタンから選ばれる金属単体;酸化イリジウム、酸化ロジウム、酸化ルテニウム、酸化チタンなどの、前記金属の酸化物;ならびにイリジウムとルテニウムとの合金などの前記金属を含む合金などが挙げられる。これらのうち、イリジウム、ロジウム、ルテニウム及びチタンから選ばれる金属、前記金属の酸化物ならびに前記金属を含む合金が好ましい。イリジウム、ロジウム、ルテニウム、チタンは、白金等の他の金属に比して水電解活性が高いため、フラッディング現象を有効に抑制できるガス拡散層を提供することができるからである。また、上記金属形態として種々ある化合物の中でも、金属単体、合金及び酸化物の形態は、他の形態に比して水電解活性が高いため、このような形態の上記金属を水電解活性を有する触媒として使用することにより、フラッディング現象を抑制できるガス拡散層を提供することができる。より具体的には、イリジウム、ルテニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、イリジウムとルテニウムとの合金がより好ましく、酸化イリジウム、イリジウム、ルテニウム、酸化ルテニウムが特に好ましい。
水電解活性を有する触媒の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒と同様の形状及び大きさが使用できる。例えば、水電解活性を有する触媒は、略粒状や楕円状なども包含する。この際、粒状である場合の水電解活性を有する触媒の平均粒子径は、特に制限されないが、平均粒子径が1〜10nm、より好ましくは3〜5nmの粒状であることが好ましい。このような範囲であれば、水電解活性を有する触媒は、十分な水電解活性を発揮でき、触媒層中で生成した水を効率よく電解できる。なお、本発明における「水電解活性を有する触媒の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
上述したように、本発明は、水電解活性を有する触媒をガス拡散層と触媒層との界面に配置することを特徴とするものであり、触媒層などそれ以外については、公知のものが同様にして使用される。以下、本発明のガス拡散電極の好ましい形成方法について述べるが、本発明は、下記方法に限定されるものではない。
本発明において、カソード触媒層に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード触媒層に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、及びそれらの合金等などから選択される。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード触媒をして合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、カソード触媒層に用いられる触媒成分及びアノード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。以下の説明では、特記しない限り、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、カソード触媒層及びアノード触媒層用の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
触媒成分の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒成分と同様の形状及び大きさが使用できるが、触媒成分は、粒状であることが好ましい。この際、触媒インクに用いられる触媒粒子の平均粒子径は、小さいほど電気化学反応が進行する有効電極面積が増加するため酸素還元活性も高くなり好ましいが、実際には平均粒子径が小さすぎると却って酸素還元活性が低下する現象が見られる。従って、触媒インクに含まれる触媒粒子の平均粒子径は、1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらにより好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmの粒状であることが好ましい。担持の容易さという観点から1nm以上であることが好ましく、触媒利用率の観点から30nm以下であることが好ましい。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径あるいは透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値により測定することができる。
本発明において、上述した触媒粒子は導電性担体に担持された電極触媒として触媒インクに含まれる。
前記導電性担体としては、触媒粒子を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。具体的には、カーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、本発明において「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
前記導電性担体のBET比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gとするのがよい。前記比表面積が上記範囲であると、前記導電性担体への触媒成分および高分子電解質の分散性が良好であり、十分な発電性能が得られ、また、十分な触媒成分および高分子電解質の有効利用率が達成できる。
また、前記導電性担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよい。
前記導電性担体に触媒成分が担持された電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%とするのがよい。前記担持量が上記範囲であると、触媒成分の導電性担体上での高い分散性、優れた発電性能の向上、及び単位質量あたりの満足できる触媒活性が得られる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって調べることができる。
本発明のカソード触媒層/アノード触媒層(以下、単に「触媒層」とも称する)には、電極触媒の他に、高分子電解質が含まれる。前記高分子電解質としては、特に限定されず公知のものを用いることができるが、少なくとも高いプロトン伝導性を有する部材であればよい。この際使用できる高分子電解質は、ポリマー骨格の全部又は一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質とに大別される。
前記フッ素系電解質として、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、ポリトリフルオロスチレンスルフォン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーなどが好適な一例として挙げられる。
前記炭化水素系電解質として、具体的には、ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸等が好適な一例として挙げられる。
高分子電解質は、耐熱性、化学的安定性などに優れることから、フッ素原子を含むのが好ましく、なかでも、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などのフッ素系電解質が好ましく挙げられる。
また、導電性担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。または、電極触媒は、市販品を用いてもよい。
本発明の方法では、上記したような電極触媒、高分子電解質及び溶剤からなる触媒インクを、ガス拡散層上に形成された水電解活性を有する触媒を有する層表面、または水電解活性を有する触媒が予め所定の位置に配置されたガス拡散層表面(この際、触媒層は水電解活性を有する触媒が配置される側に形成される)に塗布することによって、触媒層が形成される。この際、溶剤としては、特に制限されず、触媒層を形成するのに使用される通常の溶剤が同様にして使用できる。具体的には、水、シクロヘキサノールやエタノールや2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。また、溶剤の使用量もまた、特に制限されず公知と同様の量が使用できるが、触媒インクにおいて、電極触媒は、所望の作用、即ち、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)を触媒する作用を十分発揮できる量であればいずれの量で、使用されてもよい。電極触媒が、触媒インク中、5〜30質量%、より好ましくは9〜20質量%となるような量で存在することが好ましい。
本発明の触媒インクは、増粘剤を含んでもよい。増粘剤の使用は、触媒インクが転写用台紙上にうまく塗布できない場合などに有効である。この際使用できる増粘剤は、特に制限されず、公知の増粘剤が使用できるが、例えば、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)などが挙げられる。増粘剤を使用する際の、増粘剤の添加量は、本発明の上記効果を妨げない程度の量であれば特に制限されないが、触媒インクの全質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
本発明の触媒インクは、電極触媒、電解質及び溶剤、ならびに必要であれば撥水性高分子および/または増粘剤、が適宜混合されたものであればその調製方法は特に制限されない。例えば、電解質を極性溶媒に添加し、この混合液を加熱・攪拌して、電解質を極性溶媒に溶解した後、これに電極触媒を添加することによって、触媒インクが調製できる。または、電解質を、溶剤中に一旦分散/懸濁された後、上記分散/懸濁液を電極触媒と混合して、触媒インクを調製してもよい。また、電解質が予め上記他の溶媒中に調製されている市販の電解質溶液(例えば、デュポン製のナフィオン溶液:1−プロパノール中に5wt%の濃度でナフィオンが分散/懸濁したもの)をそのまま上記方法に使用してもよい。
上記したような高分子電解質及び溶剤からなる触媒インクを、ガス拡散層上に形成された水電解活性を有する触媒を有する層表面、または水電解活性を有する触媒が予め所定の位置に配置されたガス拡散層表面(この際、触媒層は水電解活性を有する触媒が配置される側に形成される)上に、塗布して、各触媒層が形成される。この際、高分子電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。
このようにして得られた本発明のガス拡散電極は、触媒層とガス拡散層との界面に水電解活性を有する触媒が配置されてなる構造を有する。このため、水電解活性を有する触媒が界面付近で水電解反応を触媒するため、触媒層から水をひきつけ易く、それによって水蒸気の濃度勾配が触媒層からガス拡散層にかけて形成される。このような勾配により、水分が多く存在する触媒層から水分の少ないガス拡散層へと水分が移動し、このような水分の移動により、触媒層、特に従来問題となっているカソード側電極触媒層内での水の滞留が起こらないまたは起こりにくくなる。ゆえに、本発明のガス拡散電極は、触媒層、特にカソード側電極触媒層内の反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象、特に高電流密度におけるフラッディング現象;さらにはカーボン腐食、特にカソード側の電極触媒層内のカーボンの腐食をも有効に抑制・防止することができる。したがって、本発明のガス拡散電極は、電解質膜−電極接合体、特に燃料電池用の電解質膜−電極接合体に好適に使用できる。
したがって、本発明の第二は、電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に配置されたカソード側ガス拡散電極と、前記電解質膜の他方の側に配置されたアノード側ガス拡散電極とを有する電解質膜−電極接合体であって、カソード側ガス拡散電極およびアノード側ガス拡散電極の少なくとも一方が本発明のガス拡散電極である、電解質膜−電極接合体に関するものである。上記したように、本発明は、特にカソード側で生じるフラッディング現象及びカーボン腐食の問題を解消することを意図したものである。このため、少なくともカソード側ガス拡散電極に本発明のガス拡散電極を使用することが好ましく、より好ましくはカソード及びアノード側双方のガス拡散電極に本発明のガス拡散電極を使用する。
本発明の電解質膜−電極接合体は、上記本発明の第一のガス拡散電極をカソード側及びアノード側ガス拡散電極の少なくとも一方に使用するものであり、それ以外については、従来と同様の部材、製造方法などが適用できる。以下、本発明の電解質膜−電極接合体(MEA)の好ましい実施形態を説明する。しかしながら、本発明は、下記実施形態に限定されるものではない。また、下記実施形態は、アノード及びカソード双方のガス拡散電極が本発明のガス拡散電極である形態であるが、いずれか一方のガス拡散電極に一般的なガス拡散層を使用してもよく、この場合には公知のガス拡散層及びその形成方法が同様にして適用される。
本発明のガス拡散電極で電解質膜を挟持して積層体を形成し、この積層体についてホットプレスを行なうことにより、本発明のMEAが得られる。この際、ホットプレス条件は、電極触媒層及び電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより電解質膜と電極触媒層との接合性を高めることができる。
本発明のMEAに用いられる電解質膜としては、特に限定されず、触媒層に用いたものと同様の高分子電解質からなる膜が挙げられる。また、デュポン社製の各種のナフィオン(デュポン社登録商標)やフレミオンに代表されるパーフルオロスルホン酸膜、ダウケミカル社製のイオン交換樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体樹脂膜、トリフルオロスチレンをベースポリマーとする樹脂膜などのフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂系膜など、一般的に市販されている固体高分子型電解質膜、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜、多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。前記高分子電解質膜に用いられる高分子電解質と、各電極触媒層に用いられる高分子電解質とは、同じであっても異なっていてもよいが、各電極触媒層と高分子電解質膜との密着性を向上させる観点から、同じものを用いるのが好ましい。
本発明のMEAに用いられる電解質膜の厚みとしては、得られるMEAの特性を考慮して適宜決定すればよいが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは15〜100μmである。製膜時の強度やMEA作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、MEA作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
また、上記電解質膜としては、上記したようなフッ素系高分子電解質や、スルホン酸基を有する炭化水素系樹脂による膜に加えて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などから形成された多孔質状の薄膜に、リン酸やイオン性液体等の電解質成分を含浸したものを使用してもよい。
なお、上記では、本発明のMEAを、転写法によって製造する方法について述べたが、まず、電解質膜に触媒層を形成した後、これを上記したようにして形成されたガス拡散層上に形成された水電解活性を有する触媒を有する層を形成し、さらに当該水電解活性を有する触媒を有する触媒を有する層上にガス拡散層を形成する方法;または電解質膜に触媒層を形成した後、これに、水電解活性を有する触媒が予め所定の位置に配置されたガス拡散層を、触媒層と水電解活性を有する触媒が配置される側とが合わさるように、積層して、これをホットプレスなどにより接合して、本発明のMEAを製造してもよい。この際、電解質膜に触媒層を形成する方法は、特に制限されず、公知の方法が適用できる。具体的には、(A)上記したような触媒インクを電解質膜上に塗布して、カソード及びアノード用触媒層をそれぞれ形成する方法;(B)上記で調製したような触媒インクを転写用台紙上に塗布・乾燥して、カソード及びアノード用触媒層をそれぞれ形成し、これらの触媒層で電解質膜を挟持した後、この積層体についてホットプレスを行なう方法が好ましく使用できる。上記(A)の方法において、電解質膜上へのカソード/アノード触媒層の形成条件は、特に制限されず、公知の方法が同様にしてあるいは適宜修飾を加えて使用できる。例えば、触媒インクを高分子電解質膜上に、乾燥後の厚みが5〜20μmになるように、塗布し、真空乾燥機内にてまたは減圧下で、25〜150℃、より好ましくは60〜120℃で、5〜30分間、より好ましくは10〜20分間、乾燥する。なお、上記工程において、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。また、上記(B)の方法において、転写用台紙としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)シート、PET(ポリエチレンテレフタレート)シート等の、ポリエステルシートなどの公知のシートが使用できる。なお、転写用台紙は、使用する触媒インク(特にインク中のカーボン等の導電性担体)の種類に応じて適宜選択される。また、上記工程において、電極触媒層の厚みは、水素の酸化反応(アノード側)及び酸素の還元反応(カソード側)の触媒作用が十分発揮できる厚みであれば特に制限されず、従来と同様の厚みが使用できる。具体的には、電極触媒層の厚みは、1〜30μm、より好ましくは1〜20μmである。また、転写用台紙上への触媒インクの塗布方法は、特に制限されず、スクリーン印刷法、沈積法、あるいはスプレー法などの公知の方法が同様にして適用できる。また、塗布された電極触媒層の乾燥条件もまた、電極触媒層から極性溶媒を完全に除去できる条件であれば特に制限されない。具体的には、触媒インクの塗布層(電極触媒層)を真空乾燥機内にて、室温〜100℃、より好ましくは50〜80℃で、30〜60分間、乾燥する。この際、触媒層の厚みが十分でない場合には、所望の厚みになるまで、上記塗布・乾燥工程を繰り返す。次に、触媒層で電解質膜を挟持した後、この積層体についてホットプレスを行なう条件は、触媒層及び電解質膜が十分密接に接合できる条件であれば特に制限されないが、100〜200℃、より好ましくは110〜170℃で、電極面に対して1〜5MPaのプレス圧力で行なうのが好ましい。これにより高分子電解質膜と電極触媒層との接合性を高めることができる。ホットプレスを行なった後、転写用台紙を剥がすことにより、電極触媒層と高分子電解質膜とからなるMEAを得ることができる。
本発明の電解質膜−電極接合体は、上述した通り、触媒層、特にカソード側電極触媒層内の反応ガス供給路となっていた細孔を閉塞するフラッディング現象、特に高電流密度におけるフラッディング現象;さらにはカーボン腐食、特にカソード側の電極触媒層内のカーボンの腐食をも有効に抑制・防止することができる。かような電解質膜−電極接合体を用いることにより、耐久性にも優れる信頼性の高い燃料電池を提供することができる。したがって、本発明の第三は、本発明の電解質膜−電極接合体を用いてなる燃料電池に関するものである。本発明の燃料電池は、カーボン腐食を抑制しつつ、通常運転時に排水性能が高く、触媒層がフラッディング現象を起こさない。
なお、本発明の燃料電池では、本発明のガス拡散電極中で水電解反応により酸素、オゾンおよび過酸化水素が生成するが、これらの酸素、オゾンおよび過酸化水素は、ガス拡散層及び触媒層中の高分子電解質を劣化させるおそれがある。このため、本発明の燃料電池では、起動中、特に起動直後に、瞬間的に供給ガスを過剰供給して、酸素、オゾンおよび過酸化水素をパージして除去することが好ましい。これにより、触媒層およびガス拡散層が上記好ましくない副生成ガス(酸素、オゾンおよび過酸化水素)による悪影響を受けることを有効に抑制・防止できる。
前記燃料電池の種類としては、特に限定されず、上記した説明中では高分子電解質型燃料電池を例に挙げて説明したが、この他にも、アルカリ型燃料電池、リン酸型燃料電池に代表される酸型電解質の燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、高分子電解質型燃料電池が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両などの移動体用電源の他、定置用電源などとして有用であるが、特にシステムの起動/停止や出力変動が頻繁に発生する自動車用途で特に好適に使用できる。
前記高分子電解質型燃料電池は、定置用電源の他、搭載スペースが限定される自動車などの移動体用電源などとして有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求されることによるカーボン担体の腐食、および、運転時に高い出力電圧が取り出されることにより高分子電解質の劣化が生じやすい自動車などの移動体用電源として用いられるのが特に好ましい。
前記燃料電池の構成としては、特に限定されず、従来公知の技術を適宜利用すればよいが、一般的にはMEAをセパレータで挟持した構造を有する。
前記セパレータとしては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボン製や、ステンレス等の金属製のものなど、従来公知のものであれば制限なく用いることができる。セパレータは、空気と燃料ガスとを分離する機能を有するものであり、それらの流路を確保するための流路溝が形成されてもよい。セパレータの厚さや大きさ、流路溝の形状などについては、特に限定されず、得られる燃料電池の出力特性などを考慮して適宜決定すればよい。
また、各触媒層に供給されるガスが外部にリークするのを防止するために、ガスケット層上の触媒層が形成されていない部位にさらにガスシール部が設けられてもよい。前記ガスシール部を構成する材料としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、ポリイソブチレンゴム等のゴム材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリオレフィンやポリエステル等の熱可塑性樹脂などが挙げられる。また、ガスシール部の厚さとしては、50μm〜2mm、望ましくは100μm〜1mm程度とすればよい。
さらに、燃料電池が所望する電圧等を得られるように、セパレータを介してMEAを複数積層して直列に繋いだスタックを形成してもよい。燃料電池の形状などは、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定すればよい。