以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々変形して実施することができる。
[I.塗布液]
本発明の感光層形成用塗布液(以下適宜「本発明の塗布液」という)は、電子写真感光体(感光体)の感光層を形成するための塗布液である。感光体は、導電性支持体(基体)上に感光層を有して構成されたものである。
感光体の感光層は、導電性支持体上に設けられ、また、感光体が下引き層を有する場合は下引き層上に(即ち、下引き層を介して導電性支持体上に)設けられる。感光層の型式としては、通常は、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダ樹脂中に分散又は溶解された型(単層型、又は、分散型)の感光層;電荷発生物質がバインダ樹脂中に分散又は溶解された電荷発生層、及び、電荷輸送物質がバインダ樹脂中に分散又は溶解された電荷輸送層の二つに機能分離された複層構造を有する型(積層型、又は、機能分離型)の感光層が挙げられる。単層型の感光層を有する感光体は、いわゆる単層型感光体(又は、分散型感光体)であり、積層型の感光層を有する感光体は、いわゆる積層型感光体(又は、機能分離型感光体)であるが、感光層としては、何れの構成のものを用いてもよい。
さらに、積層型感光層としては、導電性支持体側から電荷発生層、電荷輸送層をこの順に積層して設ける順積層型感光層と、逆に電荷輸送層、電荷発生層の順に積層して設ける逆積層型感光層とがあり、いずれを採用することも可能である。中でも、最もバランスの取れた光導電性を発揮できる順積層型感光層が好ましい。
本発明の塗布液は、上記の感光層を形成するために用いられるものである。また、感光層が2以上の層(例えば、電荷発生層及び電荷輸送層)から構成されている場合、本発明の塗布液は、当該感光層を構成する層のうち少なくとも1層を形成するために用いられるものである。
さらに、本発明の塗布液は、特定の繰り返し構造を有するポリエステル樹脂(以下適宜「本発明にかかるポリエステル樹脂」という)と、酸化防止剤とを含有する。また、本発明の塗布液は、適宜、溶剤、電荷発生物質、電荷輸送物質、添加剤等をさらに含有する。
[I−1.ポリエステル樹脂]
本発明にかかるポリエステル樹脂は、下記式(1)で表される繰り返し構造を含むポリエステル樹脂である。
(前記式(1)中、Ar
1〜Ar
4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表わし、X
1は単結合または二価基を表わす。)
前記式(1)において、Ar1〜Ar4は、それぞれ独立に、アリーレン基を表わす。
Ar1〜Ar4の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、Ar1、Ar2の炭素数は通常6以上、また、通常20以下、好ましくは12以下であり、特に好ましくは7である。また、Ar3、Ar4の炭素数は通常6以上、また、通常20以下、好ましくは12以下であり、特に好ましくは6である。
また、Ar1〜Ar4の環の数も本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1以上、また、通常3以下、好ましくは2以下であり、特に好ましくは1である。
これらのAr1〜Ar4の具体例を挙げると、フェニレン基、ナフチレン基、3−メチルフェニレン基、3−フェニルフェニレン基などが挙げられる。また、例えば、アントリレン基、フェナントリレン基、ピレニレン基等も挙げられる。これらの中でも、製造コストの面から、フェニレン基とナフチレン基が特に好ましい。また、フェニレン基とナフチレン基を比較した場合、製造コストの面に加えて合成のし易さの面で、フェニレン基がより好ましい。
また、Ar1〜Ar4を構成するアリーレン基は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい。置換基の具体例を挙げると、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、アルコキシ基、縮合多環基などが挙げられる。このうち、感光層用のバインダ樹脂としての機械的特性と感光層形成用塗布液に対する溶解性とを勘案すれば、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基等が好ましく、ハロゲン基としてフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が好ましく例示される。なお、置換基がアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は通常1以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは2以下であり、具体的にはメチル基が特に好ましい。また、Ar1〜Ar4それぞれの置換基の数に特に制限は無く、中でも、3個以下であることが好ましく、2個以下であることがより好ましく、1個以下であることが特に好ましい。
さらに、式(1)中、Ar1とAr2が置換基を有する場合には、Ar1とAr2は同じ置換基を有する同じアリーレン基であることが好ましく、メチル基を置換基として有するフェニレン基であることがより好ましい。また、Ar3とAr4も同じアリーレン基であることが好ましく、中でも、置換基を有さないフェニレン基であることが特に好ましい。
また、前記式(1)において、X1は単結合または二価基を表わす。好適なX1の例を挙げると、硫黄原子、酸素原子、スルホニル基、シクロアルキレン基、−CR2R3−などが挙げられる。ここで、R2及びR3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、ハロゲン基、またはアルコキシ基を表わす。また、R2及びR3のうち、感光層用のバインダ樹脂としての機械的特性と感光層形成用塗布液に対する溶解性とを勘案すれば、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基などが好ましく、ハロゲン基としてはフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が好ましく、アルコキシ基としてはメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基等が好ましく例示される。なお、R2又はR3がアルキル基である場合、そのアルキル基の炭素数は、通常1以上、また、通常10以下、好ましくは8以下、より好ましくは2以下である。
さらに、本発明にかかるポリエステル樹脂を製造する際に用いる二価ヒドロキシ化合物の製造の簡便性を勘案すれば、X1として好ましい基の例としては、−O−、−S−、−SO−、−SO2−、−CO−、−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、シクロヘキシリデンが挙げられる。中でも好ましくは、−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、シクロヘキシリデンであり、特に好ましくは−CH2−、−CH(CH3)−、シクロヘキシリデンである。
ところで、前記の式(1)で表される繰り返し構造は、二価ヒドロキシ残基(下記式(3)で表される部分構造)と、ジカルボン酸残基(下記式(4)で表される部分構造)とで構成されることになる。これらの二価ヒドロキシ残基及びジカルボン酸残基の構造は、本発明にかかるポリエステル樹脂に様々な影響を与える。したがって、二価ヒドロキシ残基及びジカルボン酸残基の構造は、適宜好ましい構造とすることが望ましい。
(式(3),(4)において、Ar
1〜Ar
4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基を表わし、X
1は単結合または二価基を表わす。)
以下、上記の二価ヒドロキシ残基及びジカルボン酸残基の好ましい構造について説明する。
まず、二価ヒドロキシ残基は、前記式(3)で表される。式(3)において、Ar1、Ar2及びX1は、それぞれ前記式(1)で説明したものと同様である。
前記の式(3)で表される二価ヒドロキシ残基の中でも、特に、下記式(5)で表される二価フェノール残基が好ましい。
(式(5)中、Ar
5、Ar
6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表わし、R
1は水素原子またはメチル基を表わす。)
前記式(5)において、Ar5、Ar6は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表わす。この際、Ar5、Ar6の置換基は、Ar1〜Ar4の置換基として上述したものと同様である。
また、前記式(5)においてR1は水素原子またはメチル基を表わす。
式(5)の具体例としては、以下に例示する二価フェノール化合物のヒドロキシル基から水素原子を取り除いた構造の二価フェノール残基が挙げられる。
即ち、R1が水素原子の場合、前記式(5)で表される二価フェノール残基に対応する二価フェノール化合物の例としては、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(3−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシフェニル)メタン、(3−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)メタン、(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)メタン、ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)メタン、等が挙げられる。
また、R1がメチル基の場合は、前記式(5)で表される二価フェノール残基に対応する二価フェノール化合物の例としては、1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(3−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1−(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)−1−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エタン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エタン、等が挙げられる。
この中でも、二価フェノール化合物の製造の簡便性を考慮すれば、R1が水素原子の場合、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタンが特に好ましい。また、R1がメチル基の場合には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1−(2−ヒドロキシフェニル)−1−(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、等が好ましい。
また、式(3)中、式(5)には含まれない二価ヒドロキシ残基の例を挙げると、以下に例示する二価ヒドロキシ化合物のヒドロキシル基から水素原子を取り除いた構造の二価ヒドロキシ残基が挙げられる。
即ち、前記式(3)で表される二価ヒドロキシ残基に対応する二価ヒドロキシ化合物の例としては、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,4,3’,5’−テトラメチル−3,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’,4,4’−テトラメチル−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)プロパン、
ビス−(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−1−(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、
ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(3−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシ−4−メチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、(3−ヒドロキシ−4−エチルフェニル)(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エーテル、ビス(3−ヒドロキシ−2,4−ジメチルフェニル)エーテル、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、等が挙げられる。
これらの中でも、二価ヒドロキシ化合物の製造の簡便性を考慮すれば、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、あるいは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、(2−ヒドロキシフェニル)(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エーテル、等が好ましい。
なお、上述した二価ヒドロキシ化合物及び二価ヒドロキシ残基は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
一方、ジカルボン酸残基は、前記式(4)で表される。式(4)において、Ar3及びAr4は、それぞれ前記式(1)で説明したものと同様である。上記式(4)で表される構造を有するジカルボン酸残基の具体例としては、以下に例示するジカルボン酸化合物のカルボキシル基からヒドロキシル基を取り除いた構造のジカルボン酸残基が挙げられる。
即ち、例えば、前記式(4)で表されるジカルボン酸残基に対応するジカルボン酸化合物の例としては、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、ジカルボン酸化合物の製造の簡便性を考慮すれば、ジフェニルエーテル−2,2’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−2,4’−ジカルボン酸、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸が好ましく、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸が特に好ましい。
なお、上述したジカルボン酸化合物及びジカルボン酸残基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
したがって、二価ヒドロキシ残基及びジカルボン酸残基の構造を当該好ましい構造とするべく、前記のAr
1〜Ar
4及びX
1も適切に選択することが好ましい。
上記の点から、上述した本発明にかかるポリエステル樹脂の中でも、特に、下記式(2)で表される繰り返し構造を含むものが好ましい。
(式(2)中、Ar
5〜Ar
8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表わし、R
1は水素原子またはメチル基を表わす。)
前記式(2)において、Ar5、Ar6及びR1は、それぞれ式(5)において説明したものと同様である。
また、前記式(2)において、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基を表わす。この際、Ar7、Ar8の置換基は、Ar1〜Ar4の置換基として上述したものと同様である。
また、前記式(1)で表される繰り返し構造は、本発明にかかるポリエステル樹脂において1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。したがって、前記の二価ヒドロキシ残基及びジカルボン酸残基は1種を単独で用いてもよく2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。また、Ar1〜Ar4及びX1も、それぞれ、1種を単独で用いてもよく2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、本発明にかかるポリエステル樹脂は、前記の式(3)で表わされる二価ヒドロキシ残基又は式(4)で表わされるジカルボン酸残基以外の成分を、その部分構造として含んでいてもよい。例えば、式(4)で表わされるジカルボン酸残基の他のジカルボン酸残基を含み、構造の一部に式(1)の繰り返し構造を内包する樹脂でもよい。その他のジカルボン酸残基の具体例としては、アジピン酸残基、スベリン酸残基、セバシン酸残基、フタル酸残基、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基、トルエン−2,5−ジカルボン酸残基、p−キシレン−2,5−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,3−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,4−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,5−ジカルボン酸残基、ピリジン−2,6−ジカルボン酸残基、ピリジン−3,4−ジカルボン酸残基、ピリジン−3,5−ジカルボン酸残基、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,3−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸残基、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸残基、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸残基などが挙げられる。中でも、好ましくは、アジピン酸残基、セバシン酸残基、フタル酸残基、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸残基、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸残基、ビフェニル−2,2’−ジカルボン酸残基、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸残基が挙げられ、特に好ましくは、イソフタル酸残基、テレフタル酸残基が挙げられる。なお、前記の式(3)で表わされる二価ヒドロキシ残基又は式(4)で表わされるジカルボン酸残基以外の繰り返し単位(残基)も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
ただし、本発明にかかるポリエステル樹脂において、前記の式(3)で表わされる二価ヒドロキシ残基又は式(4)で表わされるジカルボン酸残基以外の繰り返し単位は少ないほうが好ましい。よって、式(3)で表わされる以外の二価ヒドロキシ残基、式(4)で表わされる以外のジカルボン酸残基の量も、少ないことが好ましい。具体的な比率に制限は無いが、例えばジカルボン酸残基については、繰り返し単位の数の比率で、ジカルボン酸残基全量に占める式(4)で表わされるジカルボン酸残基の比率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上であり、特に好ましくは100%である。
次に、本発明にかかるポリエステル樹脂の製造方法について説明する。本発明にかかるポリエステル樹脂の製造方法としては、公知の重合方法を用いることができる。例えば、界面重合法、溶融重合法、溶液重合法などが挙げられる。
例えば、界面重合法による製造の場合は、二価ヒドロキシ化合物をアルカリ水溶液に溶解した溶液と、芳香族ジカルボン酸クロライドを溶解したハロゲン化炭化水素の溶液とを混合する。この際、触媒として、四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩を存在させることも可能である。重合温度は0〜40℃の範囲、重合時間は2〜20時間の範囲であるのが生産性の点で好ましい。重合終了後、水相と有機相を分離し、有機相中に溶解しているポリマーを公知の方法で、洗浄、回収することにより、目的とする樹脂を得られる。
界面重合法で用いられるアルカリ成分としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等を挙げることができる。アルカリの使用量としては、反応系中に含まれるフェノール性水酸基の1.01〜3倍当量の範囲が好ましい。
また、ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロルベンゼンなどを挙げることができる。なお、ハロゲン化炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、触媒として用いられる四級アンモニウム塩もしくは四級ホスホニウム塩としては、例えば、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等の三級アルキルアミンの塩酸、臭素酸、ヨウ素酸等の塩;ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロライド、テトラブチルホスホニウムブロマイド、トリエチルオクタデシルホスホニウムブロマイド、N−ラウリルピリジニウムクロライド、ラウリルピコリニウムクロライドなどが挙げられる。なお、触媒も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、界面重合法では、分子量調節剤を使用することができる。分子量調節剤としては、例えば、フェノール、o,m,p−クレゾール、o,m,p−エチルフェノール、o,m,p−プロピルフェノール、o,m,p−(tert−ブチル)フェノール、ペンチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、2,6−ジメチルフェノール誘導体および2−メチルフェノール誘導体等のアルキルフェノール類、o,m,p−フェニルフェノール等の一官能性のフェノール、酢酸クロリド、酪酸クロリド、オクチル酸クロリド、塩化ベンゾイル、ベンゼンスルフォニルクロリド、ベンゼンスルフィニルクロリド、スルフィニルクロリド、ベンゼンホスホニルクロリドやそれらの置換体等の一官能性酸ハロゲン化物等が挙げられる。
これら分子量調節剤の中でも分子量調節能が高く、かつ溶液安定性の点で好ましいものとしては、o,m,p−(tert−ブチル)フェノール、2,6−ジメチルフェノール誘導体、2−メチルフェノール誘導体であり、特に好ましくは、p−(tert−ブチル)フェノール、2,3,6−テトラメチルフェノール、2,3,5−テトラメチルフェノールが挙げられる。なお、分子量調節剤も、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、本発明にかかるポリエステル樹脂において、それぞれ、粘度平均分子量は、感光層を塗布形成するのに適するよう、通常10,000以上、好ましくは15,000以上、さらに好ましくは20,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下である。粘度平均分子量が10,000未満であると樹脂の機械的強度が低下し実用的でなくなる可能性があり、300,000より大きいと、感光層を適当な膜厚に塗布形成する事が困難となる可能性がある。
なお、本発明にかかるポリエステル樹脂は、他の樹脂を併用して、電子写真感光体に用いることも可能である。したがって、本発明の塗布液に、その他の樹脂を含有させるようにしてもよい。ここで併用される他の樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体、およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルポリカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂などが挙げられる。これら樹脂のなかでも、ポリカーボネート樹脂が好ましい。
また、併用する樹脂の使用割合は特に限定されないが、本発明の効果を十分に得るためには、本発明にかかるポリエステル樹脂の割合を超えない範囲で併用することが好ましい。さらに、特には、他の樹脂は併用しないことが好ましい。
[I−2.酸化防止剤]
酸化防止剤としては、公知のものを任意に用いることができる。例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等のラジカル連鎖反応禁止剤;紫外線吸収剤、光安定剤、金属不活性化剤、オゾン劣化防止剤等の連鎖反応開始阻害剤;硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤等の過酸化物分解剤などが挙げられる。
ラジカル連鎖反応禁止剤は、感光体にあたる熱や光、ガスなどの影響で発生したラジカルを捕捉してラジカルの連鎖反応を止める働きがある。連鎖反応開始阻害剤は、光や熱等の要因で引き起こされる連鎖開始反応を抑える働きがある。過酸化物分解剤は、帯電時に生成するオゾンに起因する過酸化物(パーオキサイド)を不活性な化合物に分解して連鎖反応への寄与を切断する作用を有する。
ラジカル連鎖反応禁止剤の中で、フェノール系酸化防止剤としては、例えば、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、4,4′−チオビス(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2′−ブチリデンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、α−トコフェロール、β−トコフェロール、2,2,4−トリメチル−6−ヒドロキシ−7−t−ブチルクロマン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2′−チオエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオールビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシアニソール、1−[2−{(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−[3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペラジル、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、1−[2−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−4−{3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、等を挙げることができる。
中でも、分子中のフェノール環にt−ブチル基を1個以上有するものが好ましく、特にその中でも、そのt−ブチル基がフェノール性水酸基の隣接した位置に結合したものがより好適である。その具体例を挙げると、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系酸化防止剤;2,2′−メチレンビス(6−t−ブチル−4−メチルフェノール)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスリチルテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のポリフェノール系酸化防止剤などが好適である。
また、その他に、ラジカル連鎖反応禁止剤としては、例えばハイドロキノン類を使用することもできる。その具体例としては、2,5−ジ−t−オクチルハイドロキノン、2,6−ジドデシルハイドロキノン、2−ドデシルハイドロキノン、2−ドデシル−5−クロロハイドロキノン、2−t−オクチル−5−メチルハイドロキノン、2−(2−オクタデセニル)−5−メチルハイドロキノンなどが挙げられる。また、アミン系酸化防止剤としては、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、トリベンジルアミンなどが挙げられる。
更に、これらの中でも、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、n−オクタデシル−3−(4′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが、電気特性の面で特に好ましい。
さらに、連鎖反応開始阻害剤の中で、紫外線吸収剤及び光安定剤としては、例えば、フェニルサリチレート、モノグリコールサリチレート、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、レゾルシノールモノベンゾエートなどが挙げられる。また、金属不活性化剤としては、例えば、N−サリシロイル−N’−アルデヒドヒドラジン、N,N’−ジフェニルオキサミドなどが挙げられる。さらに、オゾン劣化防止剤としては、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、N−フェニル−N’−イソプロピル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
また、過酸化物分解剤の中では、硫黄系酸化防止剤として、例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジテトラデシル−3,3’−チオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾールなどが挙げられる。さらに、りん系酸化防止剤しては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリ(ノニルフェニル)ホスフィン、トリ(ジノニルフェニル)ホスフィン、トリクレジルホスフィン、トリ(2,4−ジブチルフェノキシ)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィンなどが挙げられる。
これら酸化防止剤の中では、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。塗布液の安定性を高めることができるからである。なかでも、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが良好である。
なお、酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、酸化防止剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、酸化防止剤は、バインダ樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、より好ましくは0.1重量部以上、また、通常100重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは16重量部以下である。この範囲の上限を上回ると電気特性を悪化させる可能性があり、下限を下回ると本発明の効果が十分に得られなくなる可能性がある。
[I−3.溶剤]
本発明の塗布液は、通常は溶剤を含有する。そして、上記の本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤は、本発明の塗布液内において、溶剤に溶解又は分散した状態で存在するようになっている。中でも、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤は、溶剤に溶解した状態で存在することが好ましい。
溶剤の種類に特に制限は無く、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を溶解又は分散させるものであれば、本発明の効果を著しく損なわない範囲において任意のものを用いることができる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸エチル、等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類などが挙げられる。
なお、溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、溶剤を使用する場合、その使用量にも制限は無い。ただし、本発明の塗布液を単層型感光体の感光層又は積層型感光体の電荷輸送層の形成に用いる場合には、塗布液の固形分濃度が、通常10重量%以上、好ましくは15重量%以上、また、通常40重量%以下、好ましくは35重量%以下の範囲となるように、溶剤の使用量を調整することが望ましい。また、塗布液の塗布性を良好に保つためには、本発明の塗布液の粘度が、通常50mPa・s以上、好ましくは100mPa・s以上、また、通常1000mPa・s以下、好ましくは600mPa・s以下の範囲となるように、溶剤の組成及び使用量を調整することが望ましい。
さらに、本発明の塗布液を積層型感光体の電荷発生層の形成に用いる場合には、塗布液の固形分濃度が、通常1重量%以上、好ましくは2重量%以上、また、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下の範囲となるように、溶剤の使用量を調整することが望ましい。また、塗布液の塗布性を良好に保つためには、本発明の塗布液の粘度が、通常0.1mPa・s以上、好ましくは0.5mPa・s以上、また、通常10mPa・s以下、好ましくは8mPa・s以下の範囲となるように、溶剤の組成及び使用量を調整することが望ましい。
[I−4.電荷発生物質]
本発明の塗布液を単層型感光体の感光層又は積層型感光体の電荷発生層に用いる場合には、本発明の塗布液は、通常、電荷発生物質を含有する。この電荷発生物質は、感光層を形成した場合に、上記の単層型感光体の感光層又は積層型感光体の電荷発生層に含有される物質である。
電荷発生物質としては、例えば、セレン及びその合金、硫化カドミウム、その他無機系光導電材料;フタロシアニン顔料、アゾ顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料;などの各種光導電材料が使用できる。中でも、特に有機顔料が好ましく、更に、フタロシアニン顔料、アゾ顔料がより好ましい。
特に、電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類などが使用される。3価以上の金属原子への配位子の例としては、上に示した酸素原子、塩素原子の他、水酸基、アルコキシ基などが挙げられる。中でも、特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B型、D型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。
なお、ここで挙げたチタニルフタロシアニンの結晶型のうち、A型、B型についてはW.HellerらによってそれぞれI相、II相として示されており(Zeit. Kristallogr.159(1982)173)、A型は安定型として知られているものである。D型は、CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2゜が27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とする結晶型である。
また、電荷発生物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。さらに、電荷発生物質を2種以上併用する場合、併用する電荷発生物質、及び、その結晶状態における混合状態としては、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成、顔料化、結晶化等の電荷発生物質の製造・処理工程において混合状態を生じせしめて用いてもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
また、特に単層型感光体の感光層においては、電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが望ましい。具体的には、通常1μm以下、好ましくは0.5μm以下とすることが望ましい。
さらに、本発明の塗布液中における電荷発生物質の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液を積層型感光体の電荷発生層に用いる場合には、本発明の塗布液中の電荷発生物質の量は、本発明の塗布液中のバインダ樹脂(即ち、本発明にかかるポリエステル樹脂とその他の樹脂との合計)100重量部に対して、通常30重量部以上、好ましくは50重量部以上、より好ましくは100重量部以上、また、通常500重量部以下、好ましくは300重量部以下、より好ましくは200重量部以下とすることが望ましい。電荷発生物質の量は少なすぎると充分な感度が得られない可能性があり、多すぎると感光体が帯電性の低下、感度の低下などを生じる可能性がある。
さらに、単層型感光体の感光層に用いる場合には、本発明の塗布液中の電荷発生物質の量は、感光層内の電荷発生物質の量を、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下とするように調製することが望ましい。電荷発生物質の量は少なすぎると充分な感度が得られない可能性があり、多すぎると感光体が帯電性の低下、感度の低下などを生じる可能性があるためである。
[I−5.電荷輸送材料]
本発明の塗布液を単層型感光体の感光層又は積層型感光体の電荷輸送層に用いる場合には、本発明の塗布液は、通常、電荷輸送物質を含有する。この電荷輸送物質は、感光層を形成した場合に、上記の単層型感光体の感光層又は積層型感光体の電荷輸送層に含有される物質である。
電荷輸送物質としては特に限定されず、任意の物質を用いることが可能である。電荷輸送物質の例としては、2,4,7−トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖又は側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等が挙げられる。これらの中でも、カルバゾール誘導体、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体、及びこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。これらの電荷輸送物質は、何れか1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
前記電荷輸送物質の好適な構造の具体例を以下に示す。ただし、これら具体例は例示のために示したものであり、本発明の趣旨に反しない限りはいかなる公知の電荷輸送物質を用いてもよい。なお、「t−Bu」はt−ブチル基を表わす。
さらに、本発明の塗布液中における電荷輸送物質の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液を単層型感光体の感光層及び積層型感光体の電荷輸送層のいずれに用いる場合でも、本発明の塗布液中の電荷輸送物質の量は、本発明の塗布液中のバインダ樹脂(即ち、本発明にかかるポリエステル樹脂とその他の樹脂との合計)100重量部に対して、通常30重量部以上、好ましくは40重量部以上、より好ましくは50重量部以上、また、通常200重量部以下、好ましくは150重量部以下、より好ましくは100重量部以下とすることが望ましい。電荷輸送物質の量は少なすぎると電気特性が悪化する可能性があり、多すぎると塗布膜が脆くなり耐摩耗性が悪化する可能性がある。
[I−6.添加剤等]
本発明の塗布液には、適宜、上述したもの以外の成分を含有させても良い。
例えば、本発明の塗布液には、公知の添加剤を含有させても良い。これらの添加剤は、感光層の成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性、機械的強度等を向上させるために用いられるものである。添加剤の例を挙げると、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、染料、顔料などが挙げられる。特に、染料、顔料の例としては、各種の色素化合物、アゾ化合物などが挙げられる。また、残留電位を抑制するための残留電位抑制剤、分散安定性向上のための分散補助剤、塗布性を改善するためのレベリング剤(例えば、シリコ−ンオイル、フッ素系オイル等)、界面活性剤などを添加剤として用いることもできる。
なお、添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
[I−7.塗布方法]
本発明の塗布液を導電性支持体上に塗布して感光層、電荷発生層、電荷輸送層などの層を形成する場合、本発明の塗布液の塗布方法に制限は無い。したがって、本発明の塗布液を塗布する際には任意の塗布方法を採用することができる。塗布方法の例を挙げると、浸漬塗布法、スプレー塗布法、ノズル塗布法、バーコート法、ロールコート法、ブレード塗布法等が挙げられる。これらの中でも、生産性の高さから浸漬塗布方法が好ましい。なお、これらの塗布方法は、1つの方法のみを行なうようにしてもよいが、2以上の方法を組み合わせて行なうようにしてもよい。
[I−8.本発明の塗布液の利点]
本発明の塗布液は、電気特性が経時的に安定である。即ち、調製後に時間が経過した後であっても得られる感光層の電気特性が悪化しにくい。この効果は、特に電荷輸送物質を含有する塗布液が酸化防止剤を含有する場合に顕著である。この利点は、本発明の構成により電荷輸送物質の分解が抑えられることによるものと推察される。
また、本発明の塗布液は、液性が経時的に安定である。即ち、時間が経過しても析出物やゲルの発生などによる液の状態の変化が生じにくい。なお、塗布液の液性は粘度の経時的変化により評価でき、塗布液の粘度の経時的変化が小さいほど(例えば3ヶ月経過時の粘度変化率が10%以下である場合)当該塗布液が経時的に安定であるといえる。
また、本発明の塗布液を用いて感光層を形成することにより、電気特性及び耐摩耗性に優れる感光層を有する感光体を得ることができる。
[II.電子写真感光体]
感光体は、導電性支持体上に感光層を有して構成されたものである。また、本発明においては、感光層には、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤が含有される。本発明にかかるポリエステル樹脂は感光層においてバインダ樹脂として機能し、酸化防止剤は感光層において添加剤として機能する。
また、上述したとおり、感光層の型式としては単層型と積層型とがあり、積層型の感光層は電荷発生層と電荷輸送層とを備えている。ここで、感光層が2以上の層(例えば、電荷発生層及び電荷輸送層)から構成されている場合、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤は前記感光層を形成する層の少なくともいずれか1層に含有されていれば良いが、好ましくは積層型感光体の電荷輸送層に含有される。即ち、上述した本発明の塗布液は、電荷輸送層を形成するために用いることが好ましい。
[II−1.導電性支持体]
導電性支持体に特に制限は無いが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料;金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を混合して導電性を付与した樹脂材料;アルミニウム、ニッケル、ITO(インジウム−スズ酸化物)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙などが主として使用される。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、導電性支持体の形態としては、例えば、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。また、金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
さらに、導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化処理、化成被膜処理等を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
支持体表面は、平滑であっても良いし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていても良い。また、導電性支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものでも良い。
[II−2.下引き層]
導電性支持体と後述する感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子(通常は無機粒子)を分散したものなどが用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。これらは一種類の粒子を単独で用いても良いし、複数の種類の粒子を混合して用いても良い。
これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又は、ステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていても良い。なお、酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性および液の安定性の面から、平均一次粒径として、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下が望ましい。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダ樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダ樹脂としては、例えば、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が挙げられる。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性、塗布性を示し好ましい。なお、下引き層のバインダ樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。さらに、バインダ樹脂は、バインダ樹脂のみで用いるほか、硬化剤とともに硬化した形で使用することもできる。
また、バインダ樹脂に対する粒子の使用比率は任意に選べるが、通常10重量%から500重量%の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。
さらに、下引き層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、感光体特性および塗布性から、通常、0.1μmから25μmが好ましい。また下引き層にも酸化防止剤等の添加剤を含有させても良い。
[II−3.感光層]
感光層は、導電性支持体上に設けられた層であり、その型式は、電荷発生層及び電荷輸送層を有する積層型感光層と、電荷輸送物質及び電荷発生物質の両方を同一層内に含有する単層型感光層とがある。そして、この感光層は、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有する。
<電荷発生層>
電荷発生層は、電荷発生物質を含有する層である。また、本発明においては感光層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させるので、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤は、この電荷発生層に含有させるようにしてもよい。
電荷発生物質については、上述したとおりである。
また、電荷発生層において、電荷発生物質はバインダ樹脂で結着した状態で電荷発生層を形成する。
このとき、電荷発生層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させる場合には、バインダ樹脂としては、本発明にかかるポリエステル樹脂を用いる。この際、本発明にかかるポリエステル樹脂と併用して、その他のバインダ樹脂を使用することも可能である。
一方、感光層を構成する電荷発生層以外の層(電荷輸送層など)に本発明にかかるバインダ樹脂及び酸化防止剤を含有させる場合には、電荷発生層のバインダ樹脂として、本発明にかかるポリエステル樹脂以外のバインダ樹脂のみを用いるようにしても構わない。この場合に使用するバインダ樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテルなどが挙げられる。なお、電荷発生層において、バインダ樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、電荷発生物質の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる電荷発生物質とバインダ樹脂との比率の条件を満たす範囲とすることが望ましい。
さらに、電荷発生層の膜厚にも制限は無いが、通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常1μm以下、好ましくは0.6μm以下が好適である。
さらに、本発明にかかるポリエステル樹脂を電荷発生層に含有させる場合には、電荷発生層には、酸化防止剤を含有させることが好ましい。このように、電荷発生層に本発明にかかるポリエステル樹脂と酸化防止剤とを組み合わせて含有させることにより、電荷発生層の電気特性を向上させることができる。
この際、酸化防止剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる酸化防止剤とバインダ樹脂との比率の条件を満たす範囲とすることが望ましい。
なお、電荷発生層に、その他の添加剤を含有させても良い。また、電荷発生層に本発明にかかるポリエステル樹脂を含有させない場合でも、酸化防止剤やその他の添加剤を電荷発生層に含有させるようにしてもよい。
電荷発生層の形成方法に制限は無く任意である。例えば、電荷発生層に含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して塗布するなどの公知の方法が適用できる。したがって、例えば、電荷発生層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤の両方を含有させる場合には、以下の方法により形成することが可能である。即ち、電荷発生物質、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤、並びに、必要に応じて溶剤、添加剤等を含有する本発明の塗布液を用意する。そして、当該塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して塗布する。その後、乾燥により溶剤を除去することにより、電荷発生層を形成することができる。
<電荷輸送層>
電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有する層である。また、本発明においては感光層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させるが、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤は、この電荷輸送層に含有させることが好ましい。
電荷輸送物質については、上述したとおりである。
また、電荷輸送層においては、電荷輸送物質はバインダ樹脂で結着した状態で電荷輸送層を形成する。
このとき、電荷輸送層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させる場合には、バインダ樹脂としては、本発明にかかるポリエステル樹脂を用いる。この際、本発明にかかるポリエステル樹脂と併用して、その他のバインダ樹脂を使用することも可能である。
一方、感光層を構成する電荷輸送層以外の層(電荷発生層など)に本発明にかかるバインダ樹脂及び酸化防止剤を含有させる場合には、電荷輸送層のバインダ樹脂として、本発明にかかるポリエステル樹脂以外のバインダ樹脂のみを用いるようにしても構わない。この場合に使用するバインダ樹脂としては、本発明にかかるポリエステル樹脂と併用するバインダ樹脂として上述したものと同様のものが挙げられる。
なお、電荷輸送層において、バインダ樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、電荷輸送物質の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる電荷輸送物質とバインダ樹脂との比率の条件を満たす範囲とすることが望ましい。
さらに、電荷輸送層の膜厚にも制限は無いが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下が好適である。
さらに、本発明にかかるポリエステル樹脂を電荷輸送層に含有させる場合には、電荷輸送層には、酸化防止剤を含有させることが好ましい。このように、電荷輸送層に本発明にかかるポリエステル樹脂と酸化防止剤とを組み合わせて含有させることにより、電荷輸送層の電気特性を向上させることができるとともに、電荷輸送層の耐摩耗性を向上させることができる。これにより、感光層の電気特性及び耐摩耗性を向上させることが可能となる。
この際、酸化防止剤の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる酸化防止剤とバインダ樹脂との比率の条件を満たす範囲とすることが望ましい。
なお、電荷輸送層に、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために、その他の添加剤を含有させても良い。また、電荷輸送層に本発明にかかるポリエステル樹脂を含有させない場合でも、酸化防止剤やその他の添加剤を電荷輸送層に含有させるようにしてもよい。
さらに、電荷輸送層は、単一の層から成っていても良いし、構成成分あるいは組成比の異なる複数の層を重ねたものでも良い。電荷輸送層が複数の層から形成されている場合、少なくとも1つの層には、本発明にかかるポリエステル樹脂と酸化防止剤とを含有させることが好ましい。
電荷輸送層の形成方法に制限は無く任意である。例えば、電荷輸送層に含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して塗布するなどの公知の方法が適用できる。したがって、例えば、電荷輸送層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤の両方を含有させる場合には、以下の方法により形成することが可能である。即ち、電荷輸送物質、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤、並びに、必要に応じて溶剤、添加剤等を含有する本発明の塗布液を用意する。そして、当該塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して(順積層型感光層の場合には電荷発生層上に、また、逆積層型感光層の場合には導電性支持体上に(下引き層を設ける場合は下引き層上に))塗布する。その後、乾燥により溶剤を除去することにより、電荷輸送層を形成することができる。
<単層型(分散型)感光層>
単層型感光層は、上記のような配合比の電荷輸送層中に、前出の電荷発生物質が分散されて構成される。ただし、単層型の感光層には、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を必ず含有させるようにする。これにより、感光層の電気特性及び耐摩耗性を向上させることが可能となる。
単層型の感光層においては、電荷輸送物質、バインダ樹脂及び酸化防止剤の種類並びにこれらの使用割合は、本発明のポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有する場合の積層型感光層の電荷輸送層について説明したものと同様である。よって、単層型の感光体においては、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤も、感光層に含有される。
また、電荷発生物質の種類は、上述した通りである。ただし、この場合、電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが望ましい。具体的には、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる電荷発生物質の望ましい粒径の範囲に収まるようにする。
さらに、感光層内に分散される電荷発生物質の量は少なすぎると充分な感度が得られない可能性があり、多すぎると帯電性の低下、感度の低下などの弊害がある。よって、単層型感光層内の電荷発生物質の量は、本発明の塗布液の説明において挙げた、塗布液に含有させる電荷発生物質とバインダ樹脂との比率の条件を満たす範囲とすることが望ましい。
また、単層型感光層の膜厚は任意であるが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常50μm以下、好ましくは45μm以下である。
さらに、単層型感光層にも、電荷発生層と同様に、酸化防止剤以外にも添加剤を含有させても良い。
単層型感光層の形成方法に制限は無く任意である。例えば、感光層に含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して塗布するなどの公知の方法が適用できる。したがって、例えば、以下の方法により形成することが可能である。即ち、電荷発生物質、電荷輸送物質、本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤、並びに、必要に応じて溶剤、添加剤等を含有する本発明の塗布液を用意する。そして、当該塗布液を、導電性支持体の上に、直接又は他の層を介して(下引き層を設ける場合は下引き層上に)塗布する。その後、乾燥により溶剤を除去することにより、単層型感光層を形成することができる。
[II−4.その他の層]
感光体には、上記の下引き層、電荷発生層、電荷輸送層、単層型感光層のほかにも、その他の層をさらに設けても良い。
例えば、感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で保護層を設けても良い。また、最表面層には、感光体表面の摩擦抵抗や、摩耗を軽減する目的で、例えばフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含有させても良く、さらに、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含有させても良い。
前記保護層などのその他の層の形成方法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、層に含有させる物質を溶剤に溶解または分散させて得られた塗布液を順次塗布するなどの公知の方法が適用できる。
[II−5.効果]
上記のように、感光層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させることにより、電気特性及び耐磨耗性に優れた感光層を得ることができる。
本発明にかかるポリエステル樹脂と酸化防止剤とを組み合わせて感光層に含有させることにより、上記の利点を得られる理由は定かではないが、次のように推察される。即ち、本発明にかかるポリエステル樹脂を用いたことで耐摩耗性が良くなるが、本発明にかかるポリエステル樹脂に限っては特異的に分解することがあると推察される。しかし、上記の分解が酸化防止剤により防止されるため、本発明の構成により、上記の利点が得られるものと推察される。
また、上述したとおり、感光層を積層型に形成する場合には電荷輸送層に本発明にかかるポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させることが好ましいが、これは、電荷輸送層の膜厚が電荷発生層の膜厚よりも大きくなることが多いため、上記のポリエステル樹脂及び酸化防止剤を含有させる効果をより顕著に得られるからである。
ところで、本発明の感光体は、画像形成の際には、露光手段から書き込み光によって露光を行なわれて静電潜像を形成されることになる。この際に用いられる書き込み光は静電潜像の形成が可能である限り任意であるが、中でも、露光波長が通常380nm以上、中でも400nm以上、また、通常500nm以下、中でも480nm以下の単色光を用いることが好ましい。これにより、耐摩耗性に優れた感光体を、より小さなスポットサイズの光で露光することができ、高解像度で高階調性を有する高品質の画像を形成することができる。
この点について従来の技術と比較して考察すると、従来のポリエステル樹脂を用いた感光体は、必ずしも380nm〜500nmの露光波長で画像形成しえるものではなかった。例えば、テレフタル酸残基等の、1つの芳香環に複数のエステル結合が置換された化合物からなるバインダ樹脂と、電子供与性の大きい電荷輸送物質とは、いずれも380〜500nmの露光波長に対して十分な透過率を有するものであった。しかし、それにも拘らず、両者を組み合わせて電荷輸送層を形成した場合には、電荷移動吸収が形成されるため、当該電荷輸送層は380〜500nmの露光波長に対する透過率は悪くなっていた。その点、本発明のポリエステル樹脂は、380〜500nmの露光波長の画像形成装置においても用いることが可能である。
[III.画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置(本発明の画像形成装置)の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置(帯電手段)2、露光装置(露光手段;像露光手段)3及び現像装置(現像手段)4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置(転写手段)5、クリーニング装置(クリーニング手段)6及び定着装置(定着手段)7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。
なお、電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(本発明の電子写真感光体カートリッジ。以下適宜、「感光体カートリッジ」という)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。ただし、帯電装置2は、カートリッジとは別体に、例えば、画像形成装置の本体に設けられていてもよい。そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1、帯電装置2、トナーが全て備えられたカートリッジを用いることもある。
露光装置3は、電子写真感光体1に対し露光(像露光)を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED(発光ダイオード)などが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、一般に単色光が好ましく、例えば、波長(露光波長)が700nm〜850nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長300nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。これらの中でも、[II−5.効果]で説明したように、波長380nm〜500nmの単色光で露光を行なうことが好ましい。
現像装置4は、露光した電子写真感光体1上の静電潜像を目に見える像に現像することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。ただし、現像ローラ44と電子写真感光体1とは当接せず、近接していてもよい。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、通常、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は0.05〜5N/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は必要に応じて設けられ、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法などを用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト上の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体,被転写体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆ど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
定着装置7は、上部定着部材(加圧ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73が備えられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73が備えられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
なお、感光体1は、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6、及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(電子写真感光体カートリッジ)として構成し、この電子写真感光体カートリッジを複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成にしてもよい。例えば、帯電装置2、露光装置3、現像装置4及び転写装置5の内、少なくとも1つを感光体1と共に一体に支持してカートリッジとすることが出来る。この場合も、上記実施形態で説明したカートリッジと同様に、例えば電子写真感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその趣旨に著しく反しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例、比較例及び製造例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「重量部」を示す。
<粘度平均分子量の測定方法>
まず、樹脂の粘度平均分子量の測定について説明する。
測定対象である樹脂をジクロロメタンに溶解し、濃度Cが6.00g/Lの溶液を調製する。溶媒(ジクロロメタン)の流下時間t0が136.16秒のウベローデ型毛細管粘
度計を用いて、20.0℃に設定した恒温水槽中で試料溶液の流下時間tを測定する。以下の式に従って粘度平均分子量Mvを算出する。
a=0.438×ηsp+1 ηsp=(t/t0)−1
b=100×ηsp/C C=6.00
η=b/a
Mv=3207×η1.205
<樹脂の製造>
以下、ポリエステル樹脂の製造方法について説明する。
[製造例1(樹脂Xの製造)]
1000mLビーカーに水酸化ナトリウム23.01gとH2O940mLを量り取り
、攪拌しながら溶解させた。そこにビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン(以下適宜「BP−a」という)49.36gを添加、攪拌、溶解した後、このアルカリ水溶液を2L反応槽に移した。次いで、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.5766g及び2,3,5−トリメチルフェノール1.2955gを順次反応槽に添加した。
次に、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸クロライド65.27gとジクロロメタン470mLとの混合溶液を滴下ロート内に移した。重合槽の外温を20℃に保ち、反応槽内のアルカリ水溶液を攪拌しながら、滴下ロートよりジクロロメタン溶液を1時間かけて滴下した。さらに5時間攪拌を続けた後、ジクロロメタン783mLを加え、撹拌を7時間続けた。
その後、酢酸8.34mLを加え30分攪拌した後、攪拌を停止し有機層を分離した。この有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液942mLにて洗浄を2回行ない、次に0.1N塩酸942mLにて洗浄を2回行ない、さらにH
2O942mLにて洗浄を2回行
なった。洗浄後の有機層をメタノール6266mLに注いで得られた沈殿物を濾過にて取り出し、乾燥して目的の樹脂Xを得た。得られた樹脂Xの粘度平均分子量を上記の測定方法で測定したところ、51,400であった。樹脂Xの繰り返し構造を以下に示す。
[製造例2(樹脂Yの製造)]
反応槽1に、脱塩水392Lと25重量%水酸化ナトリウム水溶液40.58kgと、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン(以下適宜「BP−b」という)23.01kgとを投入、攪拌し、BP−bのアルカリ水溶液を調製した。その後、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド0.2552kgと2,3,5−トリメチルフェノール0.6725kgとを順次反応槽に投入した。
また、反応槽2に、ジクロロメタン286kgとジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸クロライド28.20kgとを投入、撹拌し、ジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸クロライドのジクロロメタン溶液を調製した。
反応槽1の外温を20℃に保ち、反応槽1を攪拌しながら、反応槽2のジクロロメタン溶液を1時間かけて反応槽1へ投入した。反応槽1の攪拌を4時間続けた後、ジクロロメタン468kgを加え、撹拌を8時間続けた。その後、酢酸3.86kgを加え30分攪拌した後、攪拌を停止し有機層を分離した。
この有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液424Lで洗浄し、有機層を分離した後、有機層の遠心分離操作を行ない、有機相中に残存している水分を除去した。再度、得られた有機層を0.1N水酸化ナトリウム水溶液424Lで洗浄し、有機層を分離した後、有機層の遠心分離操作を行ない、有機相中に残存している水分を除去した。
この有機層を0.1N塩酸424Lで4回洗浄し、さらに脱塩水424Lで2回洗浄した後、分離した有機層の遠心分離操作を行ない、有機層中に残存している水分を除去した。温水造粒装置にて有機相中に溶解している樹脂を取り出し、ろ過、乾燥して目的の樹脂41.7kgを得た。得られた樹脂Yの粘度平均分子量を上記の測定方法で測定したところ、41,000であった。樹脂Yの繰り返し構造を以下に示す。
[製造例3(樹脂Zの製造)]
製造例2において、反応槽1にジクロロメタン468kgを加えたあとの撹拌を、8時間から6時間に短縮した以外は、製造例2と同様にして、製造例2と同じ繰り返し構造の樹脂Zを得た。得られた樹脂Zの粘度平均分子量を上記の測定方法で測定したところ、40,000であった。
<感光体シートの製造>
[実施例1]
下引き層用分散液は、次のようにして製造した。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入し、回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の下引き層用分散液とした。
このようにして得られた下引き層形成用塗布液を、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシート上に、乾燥後の膜厚が1.2μmになるようにワイアバーで塗布、乾燥して下引き層を設けた。
次に、CuKα線によるX線回折においてブラッグ角(2θ±0.2)が27.3゜に強い回折ピークを示し、図2に示す粉末X線回折スペクトルを有するオキシチタニウムフタロシアニン10重量部を1,2−ジメトキシエタン150重量部に加え、サンドグラインドミルにて粉砕分散処理を行ない顔料分散液を作製した。こうして得られた160重量部の顔料分散液をポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名#6000C)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部と適量の1,2−ジメトキシエタンに加え、最終的に固形分濃度4.0重量%の分散液を作製した。
この分散液を、上述の下引き層上に乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにワイアバーで塗布した後、乾燥して電荷発生層を形成した。
次に、特開2002−80432号公報中に示された以下式(A)で表わされる構造に代表される幾何異性体の組成物からなる電荷輸送物質(A)50重量部、製造例1で製造した樹脂X100重量部、酸化防止剤として下記式(a)で表わされる構造を有するオクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバガイギー社製、商品名Irganox1076)8重量部、及び、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05重量部を、テトラヒドロフランとトルエンとの混合溶媒(テトラヒドロフラン80重量%、トルエン20重量%)640重量部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液Aを調製した。このとき、樹脂の溶媒に対する溶解性は良好であった。
この電荷輸送層形成用塗布液Aを上述の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、125℃で20分間乾燥して電荷輸送層を形成して、感光体シートA1を作製した。
次に、塗布液の安定性を調べるために、電荷輸送層形成用塗布液Aを室温で1ヶ月間保存した。この1ヶ月間常温保管された電荷輸送層形成用塗布液Aを用いたこと以外は、感光体シートA1を作製したのと同様にして、感光体シートA2を作製した。
電荷輸送層形成用塗布液Aを、室温でさらに2ヶ月(合計3ヶ月)間保存し、同様にして感光体シートA3を作製した。
[実施例2]
実施例1の電荷輸送層形成用塗布液Aに用いた樹脂Xを製造例2で製造した樹脂Yにした以外は、実施例1と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液B、塗布液調製直後の感光体シートB1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートB2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートB3を作製した。このときも、樹脂の溶媒に対する溶解性は良好であった。
[実施例3]
実施例1の電荷輸送層形成用塗布液Aに用いた樹脂Xを製造例3で製造した樹脂Zにした以外は、実施例1と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液C、塗布液調製直後の感光体シートC1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートC2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートC3を作製した。このときも、樹脂の溶媒に対する溶解性は良好であった。
[実施例4]
実施例2の電荷輸送層形成用塗布液Bに用いた酸化防止剤を、Irganox1076からBHT(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)にした以外は、実施例2と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液D、塗布液調製直後の感光体シートD1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートD2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートD3を作製した。
[実施例5]
実施例2の電荷輸送層形成用塗布液Bに用いた電荷輸送物質を、以下式(B)で表わされる構造を有する化合物(B)にした以外は、実施例2と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液E、塗布液調製直後の感光体シートE1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートE2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートE3を作製した。
[実施例6]
実施例5の電荷輸送層形成用塗布液Eに用いた樹脂Yを製造例3で製造した樹脂Zにした以外は、実施例5と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液F、塗布液調製直後の感光体シートF1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートF2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートF3を作製した。
[実施例7]
実施例3の電荷輸送層形成用塗布液Cに用いた電荷輸送物質に代えて、下記式(C)で表わされる構造を有するジアミン化合物(C)を25重量部と、下記式(D)で表わされる構造を有するジアミン化合物(D)を25重量部とを混合したもの計50重量部を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液G、塗布液調製直後の感光体シートG1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートG2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートG3を作製した。
[実施例8]
電荷輸送層形成用塗布液Bに用いた酸化防止剤を、Irganox1076から1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(以下、酸化防止剤AOX1と呼ぶことがある)に代えた以外は、実施例2と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液Q、塗布液調製直後の感光体シートQ1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートQ2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートQ3を作製した。
[比較例1]
実施例2の電荷輸送層形成用塗布液Bにおいて、酸化防止剤Irganox1076を含有させない以外は、実施例2と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液H、塗布液調製直後の感光体シートH1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートH2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体H3を得た。
[比較例2]
実施例3の電荷輸送層形成用塗布液Cにおいて、酸化防止剤Irganox1076を含有させない以外は、実施例3と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液I、塗布液調製直後の感光体シートI1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートI2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体I3を得た。
[比較例3]
実施例5の電荷輸送層形成用塗布液Eにおいて、酸化防止剤Irganox1076を含有させない以外は、実施例5と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液J、塗布液調製直後の感光体シートJ1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートJ2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体J3を得た。
[比較例4]
実施例6の電荷輸送層形成用塗布液Fにおいて、酸化防止剤Irganox1076を含有させない以外は、実施例6と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液K、塗布液調製直後の感光体シートK1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートK2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体K3を得た。
[比較例5]
実施例7の電荷輸送層形成用塗布液Gにおいて、酸化防止剤Irganox1076を含有させない以外は、実施例7と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液L、塗布液調製直後の感光体シートL1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートL2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体L3を得た。
[比較例6]
実施例2の電荷輸送層形成用塗布液Bに用いた樹脂Yの代わりに下記繰り返し構造単位で形成されるポリカーボネート樹脂Wを用いた以外は、実施例2と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液M、塗布液調製直後の感光体シートM1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートM2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートM3を作製した。樹脂Wの粘度平均分子量は40,000である。
[比較例7]
実施例5の電荷輸送層形成用塗布液Eに用いた樹脂Yの代わりにポリカーボネート樹脂Wを用いた以外は、実施例5と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液N、塗布液調製直後の感光体シートN1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートN2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートN3を作製した。
[比較例8]
比較例1の電荷輸送層形成用塗布液Hに用いた樹脂Yの代わりにポリカーボネート樹脂Wを用いた以外は、比較例1と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液O、塗布液調製直後の感光体シートO1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートO2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートO3を作製した。
[比較例9]
比較例3の電荷輸送層形成用塗布液Jに用いた樹脂Yの代わりにポリカーボネート樹脂Wを用いた以外は、比較例3と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液P、塗布液調製直後の感光体シートP1、塗布液室温保管1ヶ月後の感光体シートP2、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体シートP3を作製した。
[試験]
作製した感光体シートA1〜P1について、以下の電気特性試験と摩耗試験とを行ない、感光体シートA2〜P2及びA3〜P3については電気特性試験のみを行なった。これらの結果を表1にまとめた。
<電気特性試験1>
電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)を使用し、上記感光体シートを直径80mmのアルミニウム製ドラムに貼り付けて円筒状にし、アルミニウム製ドラムと感光体シートのアルミニウム基体との導通を取った上で、ドラムを一定回転数60rpmで回転させ、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性評価試験を行なった。その際、感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを0.8μJ/cm2で露光
したときの露光後表面電位(以下、VLと呼ぶことがある)を測定した。VL測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を100msとし、高速応答の条件とした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
<摩耗試験>
上記感光体シートを直径10cmの円状に切断しテーバー摩耗試験機(Taber社製)により、摩耗評価を行なった。試験条件は、23℃、50%RHの雰囲気下、摩耗輪CS−10Fを用いて、荷重なし(摩耗輪の自重)で1000回回転後の摩耗量を試験前後の重量を比較することにより測定した。
この結果から、実施例1〜8の感光体形成用塗布液A〜G,Qを用いて作製された感光体は、塗布液調製から3ヶ月を経過しても安定な電気特性を発現し、しかも、良好な耐磨耗性を示すことがわかる。これは、塗布液中に、本発明のバインダ樹脂を含有するとともに酸化防止剤を含有することによって効果が得られているものと考えられる。
ところで、バインダ樹脂として、従前からあるポリカーボネートを使用した比較例6〜9の感光層形成用塗布液M〜Pによって作製された感光体は、酸化防止剤の有無に依らず経時で安定な電気特性は示すが、耐磨耗性に劣っている。また、酸化防止剤を含有した方が、含有しないものに比べた場合に電気特性が若干悪化している。
一方、本発明にかかるポリエステル樹脂を含み、酸化防止剤を含有しない比較例1〜5の感光層形成用塗布液H〜Lによって作製された感光体は、耐磨耗性は優れるものの、経時で電気特性の劣化を示す上に、電荷輸送物質の種類によっては初期の電気特性が、酸化防止剤有りのものに比べて悪化している。これは、樹脂を合成した際の残存モノマー等の影響で、電荷輸送物質を初期的にも経時でも分解しているものと推定される。これは、樹脂の重合条件を変えた樹脂Yと樹脂Zに於いて、樹脂Yの方がより重合が進んでいると思われることと、樹脂Yを用いた塗布液の方が樹脂Zを用いた塗布液よりは劣化度合いが小さいこととも整合している。
以上の結果より、本発明にかかるポリエステル樹脂および酸化防止剤を含有する感光層形成用塗布液は高い塗布液安定性を示し、且つ、それを用いて作製された感光体は耐磨耗性および電気特性に優れることがわかる。
[実施例9]
次に、ドラム状の感光体での評価を行なった。
表面が鏡面仕上げされた外径30mm、長さ375.8mm、肉厚1.0mmのアルミニウム合金よりなるシリンダーの表面に、陽極酸化処理を行ない、その後、酢酸ニッケルを主成分とする封孔剤によって封孔処理を行なうことにより、約6μmの陽極酸化被膜(アルマイト被膜)を形成した。
また、電荷発生物質として下記構造を有する電荷発生物質15部に1,2−ジメトキシエタン300部を加え、サンドグラインドミルで8時間粉砕し、微粒化分散処理を行なった。続いて、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)7.5部、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイド社製品、PKHH)7.5部を1,2−ジメトキシエタン285部に溶解したバインダー溶液と混合し、最後に1,2−ジメトキシエタンと4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノンの任意混合液135部を加えて、固形分(顔料+樹脂)濃度4.0重量%のアゾ顔料分散液を調製した。
このアゾ顔料分散液と、実施例1で調製した電荷発生層形成用分散液とを1対1の重量比で混合し、アゾ顔料とチタニルフタロシアニンの両方を含む電荷発生層形成用塗布液を調製した。
この電荷発生層形成用塗布液に、陽極酸化処理したアルミニウムシリンダーを浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が0.6μmとなるように電荷発生層を作製した。
次に、電荷輸送物質として下記構造を有する化合物(E)及び化合物(F)をそれぞれ35部ずつ、合計70部と、バインダ樹脂として製造例3で製造したポリエステル樹脂Zを100部と、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを2部と、レベリング剤としてシリコーンオイル(商品名 KF96 信越化学工業(株))0.05部とを、テトラヒドロフラン/トルエン(8/2)混合溶媒640部に混合し、電荷輸送層形成用塗布液(感光層形成用塗布液)Rを調製した。
この電荷輸送層形成用塗布液を、上述の電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が18μmとなるように浸漬塗布することで電荷輸送層を形成し、積層型感光層を有する感光体ドラムR1を得た。
次に、塗布液の安定性を調べるために、電荷輸送層形成用塗布液Rを室温で3ヶ月間保存した。この3ヶ月間常温保管された電荷輸送層形成用塗布液Nを用いたこと以外は、感光体シートR1を作製したのと同様にして、感光体シートR3を作製した。このとき、塗布液Rにはゲル化などの症状は見られなかった。
[比較例10]
実施例9の電荷輸送層形成用塗布液Rに用いた1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンを用いない他は実施例9と同様にして、電荷輸送層形成用塗布液S、塗布液調整直後の感光体ドラムS1、及び、塗布液室温保管3ヶ月後の感光体S3を得た。
[評価]
以上で得られた電子写真感光体R1,R3,S1,S3について、以下の電気特性試験と実機評価とを行なった。これらの結果を表2にまとめた。
<電気特性試験2>
電子写真学会測定標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで405nmの単色光としたものを照射して、表面電位が−350Vとなる時の照射エネルギー(μJ/cm2)を感度E1とした。また、2.0μJ/cm2で露光したときの露光後表面電位(−V)をVL1とした。
同様に、干渉フィルターを用いて760nmの単色光としたものを用い、まったく同様の手順で感度E2と露光後表面電位VL2を測定した。こちらは、いずれの感光体も測定できた。
上記のE1、VL1、E2及びVL2の測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を200msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
この結果から、実施例9の塗布液Rは、調製直後であっても調製3ヶ月後であっても、405nm露光及び760nm露光のいずれの条件でも良好な電気特性を示すことがわかった。
<実機評価>
作製した感光体ドラムを、A3印刷対応である市販のタンデム型カラープリンター(沖データ社製 Microline Pro 9800PS−E)のブラックドラムカートリッジに装着し、上記プリンターに装着した。
MICROLINE Pro 9800PS−Eの仕様
・4連タンデム
・カラー36ppm、モノクロ40ppm
・1200dpi
・DC接触ローラ帯電
・LEDによる書き込み
・除電光あり
・重合トナー
次に本プリンターにパソコンを繋ぎ、グレイスケール(ハーフトーン)の画像を入力し、出力されるプリントアウトの濃度を確認したところ、実施例の塗布液Nを使用した感光体R1及びR3では、いずれも良好な濃度の画像が得られた。また、比較例10の塗布液Sを使用した場合、3ヶ月経過した塗布液を用いた感光体S3を用いて印刷を繰り返すと濃度の低下が見られた。
また、同カラープリンター(沖データ社製 Microline Pro 9800PS−E)の露光部を改造し、日進電子製、小型スポット照射型青色LED(B3MP−8:470nm)の光が感光体に照射できるように改造した。
この改造装置に、感光体R1及びR3を装着し、線を描かせたところ、良好な画像が得られた。また、上記小型スポット照射型青色LEDに、ストロボ照明電源LPS−203KSを接続し、点を書かせたところ、半径8mmの点画像を得ることができた。