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JP4833835B2 - バウシンガー効果の発現が小さい鋼管およびその製造方法 - Google Patents

バウシンガー効果の発現が小さい鋼管およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、バウシンガー効果の発現が小さい鋼管とその製造方法、特に5%以上拡管した際の周方向の圧縮強度の低下が小さい、すなわちバウシンガー効果の発現が小さい油井用鋼管やラインパイプ等に使用される鋼管とその製造方法に関するものである。
鋼管に、拡管によって周方向に引張塑性歪が導入されると、外圧による周方向への圧縮応力に対する耐力(以下、圧縮耐力)が低下し、鋼管が外圧で潰れる圧力(以下、圧潰圧力)が低下する。これは、バウシンガー効果としてよく知られているように、塑性変形後、塑性歪を加えた方向とは反対方向に応力を加えると、元の降伏強度よりも低い応力で変形が生じる現象である。
ラインパイプとして使用されるUOE鋼管では、最終工程で真円度を高めるために拡管を行い、周方向に引張塑性歪が導入されるために、圧潰圧力が低下するという問題がある。また、鋼板を冷間加工して使用する場合にも、例えば引張加工歪を加えた際に圧縮降伏応力が低下するなど、バウシンガー効果が問題となることがある。
例えば、UOE鋼管の製造工程で導入される冷間加工歪に起因するバウシンガー効果により低下した圧縮耐力を熱処理によって回復させる方法が、特開平9−3545号公報、特開平9−49025号公報に開示されている。特開平9−3545号公報は鋼板をUプレスおよびOプレスで管状に加工し溶接した後、拡管し、700℃未満に加熱する方法を、特開平9−49025号公報は、更に温間加工による塑性加工を行って拡管を施す方法を開示するものである。
また、特開2004−35925号公報には加熱温度を550℃以下、特に250℃以下と低くしても、バウシンガー効果により低下した圧縮耐力の回復が可能な鋼管の製造方法が開示されている。更に、造管時に導入される歪に起因するバウシンガー効果の発現そのものが小さい鋼管とその製造方法が特開平9−49050号公報、特開平10−176239号公報、特開2002−212680号公報に開示されている。
しかし、これらの発明に開示されている造管時に導入される歪は、約1〜3%の範囲か、高くとも4%以下であり、5%以上の歪が導入される鋼板および鋼管のバウシンガー効果については不明である。
このような状況において、近年、例えば、油井内やガス井内で10〜30%拡管して使用する技術(Expandable Tubular)が開発されるなど、高い歪が導入される鋼板および鋼管のバウシンガー効果が問題になっている。Expandable Tubularは、従来、井戸内に挿入してそのまま使用されていた油井用鋼管を油井・ガス井内で拡管することにより、掘削費用を削減する技術である。
このExpandable Tubularに適用し得る鋼管が、例えば、特開2002−266055号公報、特開2002−129283号公報、特開2002−349177号公報に開示されている。しかし、これらは、拡管加工性、拡管後の圧潰強度又は耐食性に優れた鋼管であり、油井内での拡管を想定した歪の導入に起因するバウシンガー効果による圧潰強度の低下については何ら開示されていない。
すなわち、冷間加工で5%以上の歪が導入される鋼板や、油井管を油井内で拡管する際に10〜30%の歪が導入される鋼管のバウシンガー効果の発現を抑制するために最適な鋼のミクロ組織に関する知見は皆無であった。
特開平9−3545号公報 特開平9−49025号公報 特開2004−35925号公報 特開平9−49050号公報 特開平10−176239号公報 特開2002−212680号公報 特開2002−266055号公報 特開2002−129283号公報 特開2002−349177号公報
本発明は、5%以上の引張歪を導入され、圧縮方向の耐力の低下が少ない鋼管、特に、油井内又はガス井内で10%以上拡管された後外圧を受ける用途に適したバウシンガー効果の発現が小さい鋼管を提供し、更に、これらの製造方法を提供するものである。
本発明者らは、バウシンガー効果の発現におよぼす金属組織、化学成分の影響について詳細に検討した結果、5%以上の歪を導入した際に、バウシンガー効果の発現を小さくするためには、鋼の組織を実質的にフェライト組織と微細なマルテンサイトからなるものとし、かつフェライト組織中に微細なマルテンサイトが分散した状態の組織とするのが最も良いことを知見した。
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は次のとおりである。
(1)母材の成分組成が、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなる鋼管を、オーステナイト、フェライト二相域に加熱し、その後焼入れすることで得られ、前記母材が、フェライト組織中に微細マルテンサイトが分散して存在し、フェライト組織と微細マルテンサイトからなる二相組織を有することを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
(2)微細マルテンサイトの結晶粒の長径が10μm以下であり、該微細マルテンサイトの面積率が10〜30%であることを特徴とする(1)記載のバウシンガー効果の発現の小さい鋼
(3)鋼管の拡管前後の周方向圧縮応力歪曲線での比例限の比が0.7以上であることを特徴とする(1)または(2)記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
(4)前記オーステナイト、フェライト二相域の加熱温度が760〜830℃であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
(5)鋼管をオーステナイト、フェライト二相域に加熱する前の母材の組織がフェライト・パーライトまたはフェライト・ベイナイト組織であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
(6)質量%で、C:0.03〜0.10%を含有し、−20℃における周方向のVノッチシャルピー値が40J以上であり、変形付与前後における圧縮応力歪曲線での比例限の比が0.7以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
(7)(4)に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法であって、母材の成分が、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなる鋼管を760〜830℃に加熱し、その後焼入れすることを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
(8)(4)または(5)に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法であって、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなるスラブを熱延鋼板とし、これをロール成形により筒状にした後、電縫溶接を行って電縫管とし、次いで760〜830℃に加熱後、水冷することを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
(9)電縫溶接後、シーム溶接部をAc3点以上に加熱するシーム熱処理を施し、760〜830℃に加熱し、水冷することを特徴とする(8)記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
(10)熱延鋼板がフェライト・パーライト組織またはフェライト・ベイナイト組織を有することを特徴とする(8)または(9)記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
本発明者らは、バウシンガー効果の発現におよぼす鋼板および鋼管の製造方法、金属組織、化学成分の影響について詳細に検討した。基本的な検討は、素材そのままから採取した圧縮試験片と、素材から引張試験片を採取して8%の引張歪を付与して更に機械加工した圧縮試験片を用いて圧縮試験を行い、両者の応力歪曲線、比例限、0.1%オフセット耐力、0.2%オフセット耐力を比較することによって行った。
特に、素材そのものの比例限(PL−b)と引張変形後の比例限(PL−a)の比、(PL−a)/(PL−b)をバウシンガー効果比と呼ぶ。この値が高い方がバウシンガー効果の発現力が小さいことを示している。なお、本発明において、比例限(PL−b)および(PL−a)は、0.05%オフセット耐力を見かけの比例限として、これを使用した。
金属組織の観察は光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いて行った。なお、金属組織の観察に用いた試料は、鋼板の場合は圧延方向に垂直な方向の断面を観察面とし、鋼管の場合は周方向の断面を観察面として鋼板または鋼管の肉厚中央部から採取し、試料の観察面を鏡面研磨した後、ナイタールエッチを行った。
表1に示す低合金鋼を表2に示す方法で製造し、それぞれ、例1〜例3とした。各々から圧縮試験片(径8mm、高さ18mm)と引張試験片(径10mm、平行部長さ30mmの丸棒)を作製した。
Figure 0004833835
Figure 0004833835
引張試験片の平行部に伸び計を取り付け、引張試験機によって8%歪を加えた後、平行部の径を8mmに機械加工し、圧縮試験片を作製した。引張歪を導入した圧縮試験片および加工ままの圧縮試験片を用いて圧縮試験を行い、圧縮の応力・歪曲線を測定し、見かけの比例限(0.05%オフセット耐力)を測定した。圧縮試験での歪の測定は、円柱側面120度毎に歪ゲージを貼付して行い、その平均値を使用した。
例1〜例3のそれぞれの応力・歪曲線の例を図1〜3に示した。例1では、図1に示すように引張変形の前後で応力・歪曲線の形は450MPa近傍まで何ら変化がない。例2、例3では、図2、図3に示すように、引張変形後の圧縮応力・歪曲線は比例限が大幅に低下しており、特に例3が著しい。
例1〜3の、それぞれの組織写真を図4〜6に示す。例1の金属組織は図4(a)光学顕微鏡写真、図4(b)走査型電子顕微鏡写真に示すようにフェライト組織中に、数μmの微細なマルテンサイトが分散した二相組織である。図4(b)に示した例1の2000倍に拡大した走査型電子顕微鏡写真には微細な炭化物が観察されないことから、例1の金属組織はパーライト、セメンタイト、ベイナイトや、マルテンサイトとオーステナイトの混成物(Martensite Austenite constituent、MAという。)等を含まず、実質的にフェライト組織と微細マルテンサイトの二相のみからなる二相組織であることが明らかである。一方、例2の金属組織は図5に示すようにフェライト・パーライト組織である。例3は図5に示すように焼戻しマルテンサイト組織である。
表2に示すように実質的にフェライト組織と微細マルテンサイトからなる二相組織を有するフェライト+マルテンサイト二相鋼(発明例A)のバウシンガー効果比は高く、次がフェライトとパーライトの二相組織であるフェライト・パーライト鋼(比較例A)であり、焼戻しマルテンサイト(比較例B)のバウシンガー効果比が最も低い。このように、二相組織を有する鋼はバウシンガー効果比が大きく、特に第二相がマルテンサイトの場合にバウシンガー効果比が最も大きくなる。すなわちフェライト+マルテンサイトの二相組織を有する鋼のバウシンガー効果の発現が最も小さい。
なお、フェライト+マルテンサイトの二相組織を有する鋼に粗大なマルテンサイト相が少量形成されるとバウシンガー効果の発現が抑制されにくいばかりでなく、低温靭性も低下するので、マルテンサイトはフェライト組織中に微細に分散して形成される必要がある。これにより、フェライト組織に分散した微細マルテンサイトがフェライト粒の変形を拘束し、バウシンガー効果の発現が抑制されると考えられる。
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、バウシンガー効果の発現を最小にするためには、鋼の組織を、フェライト組織中に微細マルテンサイトが分散して存在し、フェライト組織と微細マルテンサイトからなる二相組織とすることが必要である。ここで、フェライト組織中に微細マルテンサイトが分散して存在するとは、図4(a)に例示した光学顕微鏡組織写真および図4(b)に例示した走査型電子顕微鏡組織写真のように、フェライト組織中の微細マルテンサイトが偏在していないことを意味しており、マルテンサイト同士の間隔はほぼ均一であることが好ましい。
なお、本発明において、フェライト組織と微細マルテンサイトからなる二相組織を有することは、走査型電子顕微鏡で2000倍に拡大した組織を観察し、5視野程度の組織写真に炭化物を含む組織が観察されないことを意味し、透過型電子顕微鏡で観察した場合には炭化物が観察されることも有り得る。また、本発明において、フェライト組織中に微細マルテンサイトが分散した状態とは、光学顕微鏡で500倍に拡大した組織を観察し、撮影した5視野程度の組織写真において、図4(a)に示した組織写真と同様にマルテンサイト組織が偏在していないことと定義する。
次に、長径が10μmを超えるマルテンサイトの結晶粒が存在すると、バウシンガー効果の発現を抑制する効果および靭性がやや低下する。したがって、微細マルテンサイトの結晶粒の長径は10μm以下であることが好ましい。一方、バウシンガー効果の発現を抑制する効果は、微細マルテンサイトの結晶粒の長径が1μm以上の場合に、特に顕著である。ここで、マルテンサイトの結晶粒の長径とは、結晶粒の隣接または対向する頂部の距離のうち最大のものをいい、図4(b)に例示した走査型電子顕微鏡組織写真から求めることができる。
また、微細マルテンサイトの面積率は10%未満では強度がやや低下し、30%を超えるとバウシンガー効果の発現を抑制する効果および靭性がやや低下するため、10〜30%であることが好ましい。
更に、フェライト組織の結晶粒径は、10〜20μmであることが好ましい。これはフェライト組織の結晶粒径を10μm未満にするには熱間圧延を低温で行う必要があるなど、製造性を損なうことがあり、フェライト組織の結晶粒径が20μm超になると靭性を損なうことがあるためである。フェライト組織の結晶粒径はJIS G 0552に準拠して切断法により求めることができる。
バウシンガー効果に対する本発明の効果は鋼板、鋼管で変わりがない。また、形鋼等他の形状においても本発明と同様な効果は当然発揮される。
本発明が目的とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼板または鋼管を得るには、化学成分組成を、特に以下に説明する範囲とすることが好ましい。
Cは焼入れ性を高め、鋼の強度向上に必須の元素であり、目標とする強度およびフェライト・マルテンサイト組織を得るために必要な下限は、0.03%である。しかし、C量が多過ぎると、本発明でのプロセスでは高強度になり過ぎ、さらに低温靱性が著しい劣化を招くので、その上限を0.30%とした。特に、高い低温靭性を必要とする場合は、C量の上限を0.10%とすることが好ましい。
Siは脱酸や強度向上のために添加する元素であるが、多く添加すると低温靭性を著しく劣化させるので、上限を0.8%とした。鋼の脱酸はAlでもTiでも十分可能であり、Siは必ずしも添加する必要はない。従って、下限は規定する必要はないが、通常、不純物として0.01%以上含まれるので、0.01%とする。
Mnは焼入れ性を高め高強度を確保する上で不可欠な元素である。その下限は0.3%である。しかし、Mnが多過ぎると、偏析を助長して微細マルテンサイトが層状に分散するようになり、均一分散を妨げられるため、上限を2.5%とした。
Alは通常脱酸材として鋼に含まれる元素であり、組織の微細化にも効果を有する。しかし、Al量が0.1%を越えるとAl系非金属介在物が増加して鋼の清浄度を害するので、上限を0.1%とした。しかし、脱酸はTiあるいはSiでも可能であり、Alは必ずしも添加する必要はない。従って、下限は限定する必要はないが、通常、不純物として0.001%以上含まれるので、0.001%以上とする。
NはTiNを形成し、スラブ再加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制して母材の低温靱性を向上させる。この効果を得るためにはNを0.001%以上添加することが好ましい。しかし、N量が多過ぎるとTiNが粗大化して、表面疵、靭性劣化等の弊害が生じるので、その上限は0.01%に抑える必要がある。
さらに、本発明では、不純物元素であるP、S量をそれぞれ0.03%、0.01%以下とする。この主たる理由は母材の低温靱性をより一層向上させ、溶接部の靭性を改善するためである。P量の低減は連続鋳造スラブの中心偏析を軽減するとともに、粒界破壊を防止して低温靱性を向上させる。また、S量の低減は熱間圧延で延伸化するMnSを低減して延靱性を向上させる効果がある。P、Sは、両者共、少ない程望ましいが、特性とコストのバランスで決定する必要がある。
次に、選択元素であるNb、Ti、Ni、Mo、Cr、Cu、V、B、Caを添加する目的について説明する。これらの元素を添加する主たる目的は、本発明鋼の優れた特徴を損なうことなく、強度・靱性の一層の向上や製造可能な鋼材サイズ(厚み)の拡大を図るためであるので、特に下限は規定しないが、上限値の十分の一程度の添加量で添加効果が顕著になる。
Nbは圧延時にオーステナイトの再結晶を抑制して組織を微細化するだけでなく、焼入れ性増大にも寄与し、鋼を強靱化する。さらに、時効によるバウシンガー効果の回復に寄与する。Nb添加量は、この効果を得るためには0.01%以上の添加が好ましく、0.1%よりも多過ぎると、低温靭性に悪影響をもたらすので、その上限を0.1%とすることが好ましい。
Ti添加は微細なTiNを形成し、スラブ再加熱時のオーステナイト粒の粗大化を抑制してミクロ組織を微細化し、低温靱性を改善する。また、Al量が例えば0.005%以下と低い場合には、Tiは酸化物を形成し脱酸効果も有する。これらの効果を得るためには0.01%以上の添加が好ましいが、Ti量が多過ぎると、TiNの粗大化やTiCによる析出硬化が生じ、低温靱性を劣化させるので、その上限を0.1%にすることが好ましい。
Niを添加する目的は低温靱性の劣化を抑制することである。Ni添加はMnやCr、Mo添加に比較して圧延組織中、特に連続鋳造鋼片の中心偏析帯中に低温靱性に有害な硬化組織を形成することが少ない。これらの効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましいが、添加量が多過ぎると、熱処理前の鋼の組織がマルテンサイト・ベイナイト系になるため、その上限を1.0%とすることが好ましい。
Moは鋼の焼入れ性を向上させ、高強度を得るために添加する。さらに、100℃程度での低温時効によるバウシンガー効果の回復を促進する働きもある。これらの効果を得るためには0.05%以上の添加が好ましいが、過剰なMo添加は熱処理前の鋼の組織がマルテンサイト・ベイナイト系になるため、その上限を0.5%とすることが好ましい。
Cuを添加する目的は低温靱性の劣化を抑制することである。Cu添加はMnやCr、Mo添加に比較して圧延組織中、特に連続鋳造鋼片の中心偏析帯中に低温靱性に有害な硬化組織を形成することが少ない。これらの効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましいが、添加量が多過ぎると、熱処理前の鋼の組織がマルテンサイト・ベイナイト系になるため、その上限を1.0%とすることが好ましい。
Crは母材、溶接部の強度を増加させるが、この効果を得るためには0.1%以上の添加が好ましいが、Cr量が多過ぎると熱処理前の鋼の組織がマルテンサイト・ベイナイト系になるため、上限は1.0%とすることが好ましい。
VはNbとほぼ同様の効果を有する。この効果を得るためには0.01%以上の添加が好ましいが、添加量が多過ぎると低温靭性を劣化させるので上限を0.3%とすることが好ましい。
Bは焼入れ性を高める効果を有する。この効果を得るためには0.0003%以上の添加が好ましいが、添加量が多すぎると、焼入れ性効果が却って低下するばかりでなく、低温靭性が低下したり、スラブに割れが生じたりしやすくなるため、上限を0.003%とすることが好ましい。
Caは酸化物の粗大化を防止し、拡管特性を向上する効果を有する。この効果を得るためには0.0004%以上の添加が好ましく、0.001%以上の添加により顕著な効果を発現する。一方、Caの添加量が多すぎると粗大なCa酸化物が生成して拡管特性が低下することがあるため、上限を0.004%以下とすることが好ましい。
次に本発明のフェライト+マルテンサイトの二相組織を有する鋼の製造方法について説明する。本発明のフェライト+マルテンサイト二相鋼は、鋼をオーステナイト、フェライト二相域に加熱し、その後焼入れすることで得ることが可能である。加熱温度は低すぎるとマルテンサイトが形成されず、高すぎるとオーステナイトへの変態率が大きくなり過ぎてオーステナイト中のC量が低くなるため焼入れ時にマルテンサイトに変態できなくなる。従って、加熱温度は760〜830℃が最適である。なお、二相域に加熱した後の焼入れは、水冷によって行うことが好ましい。
更に、フェライト+マルテンサイト二相鋼は、加熱前の組織がフェライト・パーライトまたはフェライト・ベイナイト組織であれば生成しやすい。加熱前の鋼板である熱延鋼板の組織をフェライト・パーライト組織とするには、熱延後の巻取り温度を700〜500℃にすれば良く、フェライト・ベイナイト組織とするには、熱延後の冷却開始温度を750℃以下として巻取り温度を500℃以下にすれば良い。
本発明に使用できる鋼管は、継目無し鋼管、鋼板を円筒状に成形して端部同士をアーク溶接したUOE鋼管等であるが、電縫管が好ましい。この理由は、電縫管は熱延鋼板を素材として製造するため、肉厚が均一であって、継目無し鋼管と比較して拡管性や圧潰強度に優れるという特徴があるためである。鋼管の肉厚が均一であれば拡管性や拡管後の圧潰強度は向上し、一方、肉厚が均一でないと、拡管した時に曲がり易くなる。
電縫溶接部は加熱された部分が圧縮され急冷されているため微細な均一組織になっており、フェライト・パーライトを主体とした母材および溶接熱影響部と比べて、760〜830℃に加熱した後の組織がフェライト+マルテンサイト二相組織になりにくい。シーム部、すなわち電縫溶接部の近傍を一旦Ac3点以上に加熱するとフェライト・パーライト組織に近くなるため、管体をオーステナイト+フェライト二相域に加熱、焼入れした後の電縫溶接部の組織が母材および溶接熱影響部の組織と近くなる。
本発明により得られた鋼管をExpandable Tubularとして使用する場合は、高い拡管率まで拡管できる必要がある。本発明のフェライト組織中に微細マルテンサイトが分散した二相組織を有する鋼管は変形特性が優れており、また高い加工硬化率を有しており局部変形が生じにくいので、45%の拡管率まで拡管できる。
表3に示した化学成分を有する熱延鋼板を使用し、直径194mm、肉厚9.6mmの電縫管を製造した。熱延加熱温度は1200℃、圧延温度終了温度は850℃とし、ランアウトテーブルの水冷後、600℃で巻き取った。熱延鋼板の組織は、冷却条件等を変えることで変化させた。
また、表4に示したように、一部の電縫管にはシーム部の熱処理を実施した。これらの鋼管を表4に示した条件で加熱しその後速やかに水冷した。これらの鋼管の母材から周方向の断面を観察面として試料を採取し、肉厚中心部近傍の光学顕微鏡組織写真および走査型電子顕微鏡組織写真を撮影した。
Figure 0004833835
Figure 0004833835
拡管前の鋼管から周方向を長手としてJIS Z 2202に準拠してVノッチシャルピー試験片を採取し、−20℃でJIS Z 2242に準拠してシャルピー試験を行い、測定した吸収エネルギーを、周方向シャルピー値として表4に示した。これらの鋼管を20%拡管した。拡管前後の鋼管から周方向を長手とした圧縮試験片(径8mm、高さ18mm)を採取し、周方向が圧縮方向になる圧縮試験を実施し、0.05%オフセット耐力を測定してバウシンガー効果比を算出した。これらの試験結果を表4に示す。なお、本発明の鋼管は45%の拡管率まで拡管できることを確認した。
また、一部の20%拡管後の鋼管を圧潰試験に供し、圧潰圧力を測定した。圧潰試験はAPI規格5C3に準拠し、直径と試験体長さの比を8として行った。表4の発明鋼(試験No.1)と比較鋼(試験No.9)の圧潰試験の結果を表5に示す。本発明鋼の圧潰強度は比較鋼に比べて向上しているが、これはバウシンガー効果が抑制されたことによって強度が向上したためであると考えられる。
比較例の鋼管は焼戻しマルテンサイト組織を呈する焼入れ・焼戻し鋼であり、現状Expandable Tubularとして使用されているものである。
Figure 0004833835
本発明は、天然ガス、原油輸送用のラインパイプ、或いは油井管等の電縫鋼管の製造において、拡管した際に発生するバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の提供を可能にするものである。
発明(例1)による鋼板(鋼管)の応力・歪み曲線を示す図である。 来(例2)の熱延まま鋼板(鋼管)の応力・歪み曲線を示す図である。 来(例3)のCr−Mo鋼による鋼板(鋼管)の応力・歪み曲線を示す図である。 a)は本発明(例1)の鋼板(鋼管)の光学組織写真、(b)は本発明(例1)の鋼板(鋼管)の走査電子顕微鏡写真である。 来(例2)の熱延まま鋼板(鋼管)の光学組織写真である。 来(例3)のCr−Mo鋼(焼戻しマルテンサイト組織)の鋼板(鋼管)の光学組織写真である。

Claims (10)

  1. 母材の成分組成が、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなる鋼管を、オーステナイト、フェライト二相域に加熱し、その後焼入れすることで得られ、前記母材が、フェライト組織中に微細マルテンサイトが分散して存在し、フェライト組織と微細マルテンサイトからなる二相組織を有することを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
  2. 微細マルテンサイトの結晶粒の長径が10μm以下であり、該微細マルテンサイトの面積率が10〜30%であることを特徴とする請求項1記載のバウシンガー効果の発現の小さい鋼
  3. 鋼管の拡管前後の周方向圧縮応力歪曲線での比例限の比が0.7以上であることを特徴とする請求項1または2記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
  4. 前記オーステナイト、フェライト二相域の加熱温度が760〜830℃であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
  5. 鋼管をオーステナイト、フェライト二相域に加熱する前の母材の組織がフェライト・パーライトまたはフェライト・ベイナイト組織であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
  6. 質量%で、C:0.03〜0.10%を含有し、−20℃における周方向のVノッチシャルピー値が40J以上であり、変形付与前後における圧縮応力歪曲線での比例限の比が0.7以上であることを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管。
  7. 請求項に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法であって、母材の成分が、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなる鋼管を760〜830℃に加熱し、その後焼入れすることを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
  8. 請求項4または5に記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法であって、質量%で、C:0.03〜0.30%、Si:0.01〜0.8%、Mn:0.3〜2.5%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Al:0.001〜0.1%、N:0.01%以下を含み、さらに、選択的に、Nb:0.1%以下、V:0.3%以下、Mo:0.5%以下、Ti:0.1%以下、Cr:1.0%以下、Ni:1.0%以下、Cu:1.0%以下、B:0.003%以下、Ca:0.004%以下の1種または2種以上を含有し、残部鉄および不可避的な不純物からなるスラブを熱延鋼板とし、これをロール成形により筒状にした後、電縫溶接を行って電縫管とし、次いで760〜830℃に加熱後、水冷することを特徴とするバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
  9. 電縫溶接後、シーム溶接部をAc3点以上に加熱するシーム熱処理を施し、760〜830℃に加熱し、水冷することを特徴とする請求項8記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
  10. 熱延鋼板がフェライト・パーライト組織またはフェライト・ベイナイト組織を有することを特徴とする請求項8または9記載のバウシンガー効果の発現が小さい鋼管の製造方法。
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