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JP4810903B2 - 転削工具および高送り用チップ - Google Patents

転削工具および高送り用チップ Download PDF

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Description

本発明は正面フライス、エンドミル等の転削工具およびそれに用いられるチップに関し、切刃形状が異なるチップを装着可能とした転削工具およびそのチップに関する。
切刃形状が異なるチップを装着可能とした転削工具を図13〜図16に示す。図13〜図15に図示する転削工具は、ポジの正八角形チップ5と円形チップ22を同一のチップ座33に選択的に装着するものである。すなわち、円形チップ22の下面25は正八角形チップ5と同一寸法の正八角形とし、その各辺から上面23の切刃24に向けて略山形の平面状の基準側面27をそれぞれ設ける。基準側面27は正八角形チップ5の側面9と同一角度とする。チップ座33の底面34に各チップ5、22の下面8、25を着座させ、突起36をチップの孔10、31の凹部10b、31bに嵌合させ、2つの側壁38、39に側面9、基準側面27を当接してねじ止めするものである(例えば、特許文献1参照)。
図16および図17に図示する切削工具10は、少なくとも1個のチップ座14を有する工具本体12、及びチップ座14内に相互に交換可能に受入れ可能な少なくとも2個のチップ16、18、20、22を備える。チップ座14は、チップ座14軸線に垂直な平面内で測定されたとき第2の横方向支持壁面28、30と角度θを形成している第1の横方向支持壁面26を持つ。チップ16、18、20、22の各は、横方向支持面26、28、30と当るように位置決めするために適切な角度を付けられた複数の当り特徴部分を提供するような形状にされた周囲フランク面42を持つ。一方のチップの周囲フランク面42が、更に、第1のノーズ角度を有する少なくとも2個の切削点を提供するような形状にされ、そして他方のチップの周囲フランク面42は、更に、第1のノーズ角度とは異なる第2のノーズ角度を有する少なくとも2個の切削点を提供するような形状にされる(例えば、特許文献2参照)。
これらの従来の転削工具および切削工具は、1つの工具本体にすくい面形状の異なる2種または2種以上のチップを装着可能とするものである。
特開平9−290306号公報 特表2002−506738号公報
しかしながら、前述した従来の転削工具および切削工具は、切削条件、適用被削材等の使用条件の異なる2種以上のチップを装着可能であるものの、これらチップを位置決め、支持するチップ座の側壁(支持壁面)において、広い面積を確保することが困難であった。そのため、高送り加工を行った場合、チップ座の側壁(支持壁面)は、チップを介して作用する切削抵抗に耐えられずに、塑性変形し、チップの位置決め精度が悪化するおそれがあった。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、送りの適用条件の異なる汎用チップと高送り用チップを選択的に装着可能とし、且つチップの位置決め精度が良好な転削工具およびそれに装着する高送り用チップを提供することにある。
上記の課題を解決するため、本発明は、略円筒状をなす工具本体の先端外周部に切欠き形成された、1つまたは複数のチップ座には、略多角形板状をなし、着座面に対向する上面がすくい面とされ、前記上面の辺稜部に少なくとも1つの主切刃が形成されたチップが、それぞれ装着されてなる転削工具において、前記チップ座には、汎用チップと、この汎用チップとは前記主切刃の形状が異なる、少なくとも1種の高送り用チップとが装着可能とされ、前記汎用チップおよび前記高送り用チップの各々は、その着座面が前記チップ座の座面に当接するとともに、少なくとも1つの基準側面が当該チップ座の座面から立ち上がる支持壁面に当接して、当該チップ座に装着され、前記汎用チップの基準側面の幅L1と、前記高送り用チップの基準側面の幅L2との関係が、0.5L1≦L2≦0.9L1とされ、且つ当該転削工具における前記汎用チップの前記主切刃のアプローチ角δ1と、前記高送り用チップの前記主切刃のアプローチ角δ2との関係が、δ1<δ2とされていることを特徴とする転削工具である。なお、前記汎用チップとは、切込み限界値が高送り用チップよりも大きく、低切込みから深切込みまで適用できる汎用性を備えたチップであり、具体的には、転削工具に装着したときのアプローチ角が15°〜45°の範囲にあるものをさす。一方、高送り用チップは、切込み限界値が汎用チップよりも小さい反面、高送りが可能であり且つ高送り時の高い切削性能を備えたチップであり、具体的には、転削工具に装着したときのアプローチ角が、前記汎用チップよりも大きくなるものをさす。
本発明の高送り用チップは、チップ座の座面に当接する着座面および当該チップ座の支持壁面に当接する基準側面が、汎用チップの着座面および基準側面の各々と同一の平面内に形成されていることを特徴とするものである。
本発明の転削工具によれば、汎用チップと、この汎用チップよりも高送り加工が可能な高送り用チップとが選択的に装着可能であるため、それぞれのチップごとに工具本体を用意する必要がなく経済的であるうえに、前記高送り用チップを装着することにより、汎用チップを装着したときよりも高能率な加工が可能となる。汎用チップ、本発明の高送り用チップの双方は、着座面および基準側面のそれぞれが同一の平面内に形成されていることから、1つの工具本体に装着可能とされる。
本発明の転削工具によれば、高送り用チップの基準側面の幅L2が、汎用チップの基準側面の幅L1の50%〜90%の範囲とされていることから、チップ座の支持壁面に支持された高送り用チップは、正確に位置決めされるとともに、高送り加工時においてもチップ座内で動くことがなくしっかりと支持固定される。さらに、チップ座の支持壁面の変形ならびに損傷が生じにくいため、高送り用チップならびに汎用チップの位置決め精度を長期間維持される。高送り用チップの基準側面の幅が、前記汎用チップの基準側面の幅の50%未満になると、高送りチップの位置決め精度が悪化したりチップ座の支持壁面が変形もしくは損傷したりするおそれがあり、90%を超えると高送り用チップの主切刃の形状に制約が生じるおそれがある。なお、前記の基準側面の幅とは、チップ座の支持壁面に接触する領域をチップの着座面に平行な方向に測定した幅の最大値である。
本発明の転削工具におけるアプローチ角は、汎用チップよりも高送り用チップの方が大きくなる。そのため、当該高送り用チップは、汎用チップとの比較において、主切刃の法線方向の正味切取り厚みが薄く前記主切刃への負荷が小さくなることに加え、切削抵抗における背分力の比率が高くなり当該切削抵抗の方向が工具軸心方向に近づくことによって工具びびりが抑制されることから高送り加工が可能となる。なお、高送り加工は、転削工具の全てのチップ座に高送り用チップが装着されることによって実現される。高送り用チップを装着した転削工具のアプローチ角δ2は50°〜75°の範囲とするのが好ましい。これは、50°未満になると、高送り加工時において主切刃の損傷や工具びびりが発生しやすくなり、75°を超えると、切込み限界値が小さすぎて実用性が低くなってしまうからである。
転削工具の工具本体に設けられたチップ座の座面および支持壁面は、汎用チップおよび高送り用チップにそれぞれ備えられた着座面および基準側面に当接可能とされることによって、汎用チップと高送り用チップが1つの工具本体に選択的に装着可能とされている。
本発明の高送り用チップにおいて、当該チップの厚さ方向からみた平面視で、上面の辺稜部に形成された主切刃の形状が、汎用チップの主切刃の形状とは異なっており、本発明の転削工具に装着されたとき、アプローチ角δ2が50°〜75°の範囲とされ、当該転削工具に汎用チップが装着されたときのアプローチ角δ1よりも大きくなっている。そのため、前述のとおり主切刃の負荷が小さくなることと、工具びびりが抑制されることから高送り加工が可能となる
前記の高送り用チップにおいて、主切刃の長さが3mm〜5mmの範囲とされている。これは切削抵抗の増大による工具びびりを抑制するためである。この主切刃の長さが3mm未満になると、切込み限界値が小さすぎて実用性が失われるおそれがあり、5mmを超えると切削抵抗が増大し工具びびりが生じるおそれがある。さらに、高送り用チップには、加工面を仕上げるための副切刃が形成され、当該副切刃の長さが1mm〜3mmの範囲とされているので、高送り加工における加工面の面粗さが良好となる。この副切刃の長さが1mm未満になると高送り時において加工面の面粗さが悪化するおそれがあり、3mmを超えると被削材に接触する切刃長さが長くなり、転削工具ならびに被削材にびびりが生じるおそれがある。
前記の高送り用チップの基準側面は、上面の辺稜部から延びる逃げ面の下方側領域に形成され、且つ前記逃げ面よりも内側に位置する平坦な平面から形成されている。そのため、当該高送り用チップの基準側面の幅は、汎用チップの基準側面の幅の50%〜90%の範囲の幅を確保できる。
図1〜図9は本発明を適用した高送り用チップおよびこのチップを装着した転削工具である正面フライスの一実施形態を示す図である。図1は高送り用チップをその厚さ方向からみた平面図である。図2は図1に示す高送り用チップの側面図である。図3は図1に示す高送り用チップの背面図である。図4は図1におけるS1−S1線切断部端面拡大図である。図5は汎用チップをその厚さ方向からみた平面図である。図6は図5に示す汎用チップの側面図である。図7は図5に示す汎用チップの背面図である。図8は図1に示す高送り用チップを装着した正面フライスを工具先端側からみた正面図である。図9は図8に示す正面フライスの軸心に直交する方向からみた側面図である。図10は図8に示す正面フライスの一部断面側面図である。図11は図5に示す汎用チップを装着した正面フライスの軸心に直交する方向からみた側面図である。図12は図11に示す正面フライスの一部断面側面図である。
まず、図5において、汎用チップ1Aは、略正方形板状をなし、その上面がすくい面2とされるとともに、下面が当該チップ1Aの厚さ方向に直交する方向に延びる実質的に平坦な平面からなる着座面3とされ、これら上面と下面との間の側面が逃げ面とされている。上面の略中央には上下面を貫通する取付け穴4が形成されている。この取付け穴4は、このチップ1Aをチップ座105に固定するためのクランプねじ109を挿通するためのものである。すくい面2となる上面の辺稜部には、4箇所のコーナ部A、B、C、Dにそれぞれ副切刃5が形成され、正面フライス100におけるアプローチ角δ1を15°〜45°の範囲とするために、副切刃5と、この副切刃に交差する主切刃6とのなす角度は、鈍角とされ、105°〜135°の範囲とされている。この主切刃6は隣接する2つの副切刃5間にわたって形成されている。さらに、副切刃5と主切刃6の交差部には、双方を滑らかに接続する曲線状のコーナ刃7が形成されている。
図6および図7において、副切刃5、主切刃6およびコーナ刃7から延びる側面には、それぞれ副切刃逃げ面15、主切刃逃げ面16およびコーナ刃逃げ面17が形成されている。主切刃逃げ面16は、当該主切刃6側に形成された主切刃第1逃げ面16aと、この主切刃第1逃げ面16aの下方側領域に形成され着座面3に交差する主切刃第2逃げ面16bとから構成される。これら主切刃逃げ面16はともにポジ(正)の逃げ角が付されているが、主切刃第2逃げ面16bは主切刃第1逃げ面16aよりも大きな逃げ角が付されている。1つのコーナ部A、B、C、Dを挟んで隣り合う主切刃第2逃げ面16bは、チップ座105の支持壁面105b、105cにそれぞれ当接支持される基準面16cとされる。副切刃逃げ面16およびコーナ刃逃げ面17においても、ポジの逃げ角が付されている。
一方、チップの厚さ方向からみた図1の平面図において、高送り用チップ1Bは、前記の汎用チップ1Aと同様に略正方形板状を基本形状としており、その上面がすくい面2とされるとともに、下面が当該チップ1Bの厚さ方向に対して直交し実質的に平坦な平面からなる着座面3とされている。高送り用チップ1Bの上面の正方形面は、汎用チップ1Aの上面の正方形面よりも内接円直径が若干大きくなるように形成されている。さらに、正方形面のコーナ部A、B、C、Dには、それぞれ副切刃5が形成され、これら副切刃5に隣接する主切刃6が当該正方形面の辺稜部を切欠くように形成されていて、汎用チップ1Aの主切刃6の形状とは相違させている。正面フライス100におけるアプローチ角δ2を50°〜75°の範囲とするために、主切刃6と副切刃5とのなす角度は、鈍角とされ、140°〜165°の範囲とされている。主切刃6に切欠かれた前記辺稜部の残部には、補助切刃8が形成されている。副切刃5と主切刃6の交差部には、双方を滑らかに接続する曲線状のコーナ刃7が形成されている。同様に主切刃6と補助切刃8との間にも、双方を滑らかに接続する曲線状の交差部が形成されている。
図2および図3において、副切刃5、主切刃6および補助切刃8から着座面3に延びる側面には、それぞれ副切刃逃げ面15、主切刃逃げ面16および補助切刃逃げ面18aが形成されている。補助切刃逃げ面18aの下方側領域には、チップ内方側に凹んだ湾曲部18bを介して着座面3まで延びる基準側面18cが形成される。この基準側面18cは、平坦な平面で構成され、前記補助切刃逃げ面18aを延長した平面よりもチップ内方側に配置されていて、その一部が主切刃逃げ面16に食い込むように形成されている。隣り合うコーナにそれぞれ形成され、直角な関係にある2つの基準側面18cは、正面フライス100の工具本体101に設けられたチップ座105の支持壁面105b、105cに当接支持される。ここで、図4から理解されるように、実線で示した高送り用チップ1Bと、2点鎖線で示した汎用チップとは、チップ中心軸Pを含む平面で切断した断面において、それぞれの着座面3および基準側面18c、16cが同一平面内に形成されている。したがって、汎用チップ1Aおよび高送り用チップ1Bの双方は、1つの工具本体101のチップ座105に、双方のチップ中心軸の位置が一致するように、装着することができる。
図4において、2点鎖線で示した、チップ座105の支持壁面105b、105cは、各チップ1A、1Bの基準側面16c、18cに面接触するか、もしくは前記基準側面16c、18cの上方側領域に線接触するように、前記基準側面16c、18cと同一か若干小さい傾斜角とされている。基準側面16c、18cにおいて、支持壁面105b、105cに接触する領域の着座面3に平行な方向の幅は、汎用チップ1AではL1、高送り用チップ1BではL2とされ(図2および図6参照)、0.5L1≦L2≦0.9L1の関係とされている。チップ座105の支持壁面105b、105cが基準側面16c、18cに線接触する場合には、図2および図6において2点鎖線で示した接触する線分の長さがそれぞれL1、L2とされ、面接触する場合には、着座面に平行な方向で測定した最大幅がそれぞれL1、L2とされる。
以上に説明した汎用チップ1Aおよび高送り用チップ1Bが装着される正面フライス100において、工具本体101は、図8および図9に示すように略円筒状をなし、その工具軸心CLに沿って先端面102と後端面103とを貫通する取付け穴104が形成されている。この工具本体101は、その後端面103を図示しない工作機械の主軸またはアーバの端面に密着させるとともに、その取付け穴104に前記端面から突出する軸を挿入された状態で、図示しない取付けボルト等の固定手段により工作機械の主軸に取付けられ、軸心まわりに回転可能とされている。
工具本体101の先端外周部には、5つのチップ座105が円周方向に略等間隔に切欠き形成されている。これらチップ座105の座面105aには、チップ1A、1Bを着座させるための敷板106が図示しない六角穴付きボルトによって取付けられている。前記六角穴付きボルトには、その軸心に沿って、チップ1A、1Bを固定するためのクランプねじが螺合する雌ねじ穴が形成されている。前記座面105aから立ち上がる2つの壁面には、チップ1A、1Bを位置決めするための拘束壁面105b、105cがそれぞれ形成されている。さらに、各々のチップ座105に連なる工具回転方向K前方側の領域にはチップポケット107がそれぞれ形成され、このチップポケット107の壁面には、工具本体101の外部から供給された切削油等を流通し、切削点近傍に噴射するための流体供給穴108が開口している。
図9および図11において、汎用チップ1Aおよび高送り用チップ1Bは、それぞれの着座面3を敷板106の一端面である座面106aに当接するとともに、工具後端側を向く2つの基準側面18c、16cをチップ座105の拘束壁面105b、105cにそれぞれ当接するように載置され、当該チップ1A、1Bの取付け穴5に挿通されたクランプねじ109を、敷板固定用の六角穴付きボルトに設けた雌ねじ穴にねじ込むことにより工具本体101に固定される。正面フライス100に装着された汎用チップ1Aおよび高送り用チップ1Bにおいて、工具先端側に位置する副切刃5は、工具軸心CLに対して直角とされる。工具外周側に位置し切削に供される主切刃6においては、工具軸心とのなす角度であるアプローチ角が付され、汎用チップ1Aを装着したときのアプローチ角δ1は45°とされ(図12参照)、高送り用チップ1Bを装着したときのアプローチ角δ2は50°〜75°とされている(図10参照)。さらに、高送り用1Bでは、主切刃6の工具後端側に補助切刃8が連設されており、この補助切刃8におけるアプローチ角δ3は45°とされている(図10参照)。
以上に説明した正面フライス(転削工具)100および高送り用チップ1Bの作用効果について以下に説明する。本実施形態の正面フライス100によれば、1つの工具本体101に、汎用チップ1Aと、この汎用チップ1Aよりも高送り加工が可能な高送り用チップ1Bが選択的に装着可能であるため、それぞれのチップ1A、1Bごとに工具本体101を用意する必要がなく経済的であるうえに、送りの適用領域が広がり高能率な加工が可能となる。切削加工の適用条件において、汎用チップ1Aは切込み限界値が高送り用チップよりも大きく、低切込みおよび深切込みに適用できる汎用性を備えたチップである。一方、高送り用チップ1Bは、切込み限界値が汎用チップ1Aよりも小さい反面、高送りが可能であり且つ高送り時の高い切削性能を備えたチップである。
高送り用チップは、チップ座の支持壁面に当接する基準側面の幅L2が、汎用チップの基準側面の幅L1の50%〜90%の範囲の幅を確保するように形成されているため、正確に位置決めされるとともに、高送り加工時においてもチップ座105内で動くことがなくしっかりと支持固定される。さらに、チップ座105の支持壁面105b、105cの変形ならびに損傷が生じにくいため、高送り用チップ1Bならびに汎用チップ1Aの位置決め精度を長期間維持される。高送り用チップ1Bの基準側面18cの幅L2が、汎用チップ1Aの基準側面16cの幅L1の50%未満になると、高送りチップ1Bの位置決め精度が悪化したりチップ座105の支持壁面105b、105cが変形もしくは損傷したりするおそれがあり、90%を超えると高送り用チップ1Bの主切刃6の形状に制約が生じるおそれがある。さらに、図3において、高送り用チップ1Bは、切削に供されるコーナ部Aの主切刃6に作用する切削抵抗によって、当該チップ1Bの中心軸を回転中心として図3の反時計回り方向に回転しようとするが、コーナ部Bおよびコーナ部Cの基準壁面18cが、図3の時計回り方向の隣接コーナ部Cおよびコーナ部D側にそれぞれ偏倚して形成されチップ座105の支持壁面105b、105cに支持されるため、前記反時計回り方向の回転を阻止される。図3に示すように隣接コーナ部AB、BC、CD、DA間に形成される基準側面18cは、当該コーナ部間の中央部を含めてその両側に形成されるのが好ましい。そうすれば当該チップ1Bをチップ座105に装着する時のすわりが良くなる。
本実施形態の正面フライス100において、高送り用チップ1Bが装着されたときのアプローチ角δ2は、汎用チップ1Aが装着されたときのアプローチ角δ1よりも大きくしてあることによって、当該高送り用チップ1Bは、汎用チップ1Aとの比較において、主切刃6の法線方向の正味切取り厚みが薄く当該主切刃6への負荷が小さくなることに加え、切削抵抗における背分力の比率が高くなり当該切削抵抗の方向が工具軸心CL方向に近づくことによって工具びびりが抑制されることになるので高送り加工が可能となる。なお、高送り加工は、正面フライス100の全てのチップ座105に高送り用チップ1Bが装着されることによって実現される。高送り用チップ1Bを装着した正面フライス100のアプローチ角δ2は50°〜75°の範囲とするのが好ましい。これは、50°未満になると、高送り加工時において主切刃6の損傷や工具びびりが発生しやすくなり、75°を超えると、切込み限界値が小さすぎて実用性が低くなってしまうからである。
正面フライス100の工具本体101に設けられたチップ座105の座面105aおよび支持壁面105b、105cは、汎用チップ1Aおよび高送り用チップ1Bに備えられた着座面3および基準側面16c、18cにそれぞれ当接可能とされることによって、汎用チップ1Aと高送り用チップ1Bが1つの工具本体101に選択的に装着可能とされている。
本実施形態の高送り用チップ1Bは、チップ座105の座面105aに当接する着座面3および当該チップ座105の支持壁面105b、105cに当接する基準側面18cが、汎用チップ1Aの着座面3および基準側面16cの各々と同一の平面内に形成されていることから、双方のチップ1A、1Bが1つの工具本体101に装着可能とされる。
高送り用チップ1Bにおいては、高送り性能の優位性が得られるように、当該チップ1Bの平面視における主切刃6の形状が汎用チップ1Aとは相違している。すなわち、正面フライス100におけるアプローチ角が大きくなるように、主切刃6と副切刃5とのなす角度が、汎用チップ1Aでは105°〜135°の範囲とされるのに対し、高送り用チップ1Bでは140°〜165°の範囲とされている。
本実施形態の高送り用チップ1Bにおいては、切削抵抗の増大を防止するため、主切刃6の長さが3mm〜5mmの範囲とされるのが好ましい。この主切刃6の長さが3mm未満になると切込みが制限されるため実用性が失われるおそれがあり、5mmを超えると切削抵抗が増大しびびり振動が生じるおそれがある。さらに、副切刃5の長さが1mm〜3mmの範囲とされるのが好ましい。これは、高送り加工における加工面の平坦度ならびに面粗さに配慮したものであり、この副切刃5の長さが1mm未満になると加工面の面粗さが悪化するおそれがあり、3mmを超えると正面フライス100や被削材にびびり振動が生じるおそれがある。
さらに、高送り用チップ1Bの基準側面18cは、補助切刃逃げ面18aの下方側領域に、この補助切刃逃げ面18aを延長した平面よりも当該チップ内方側に配置されていることから、その一部が主切刃6の下方側領域に食い込むように形成されている。そのため、この基準側面18cにおいて、チップ座105に当接する領域における着座面3に平行な方向の幅L2は、汎用チップ1Aの基準側面16cのチップ座105に当接する幅L1の50%〜90%相当の幅を確保することになり、チップ座105への取付け精度が良好であるとともに、高送り加工時の高い切削抵抗による支持壁面の変形が防止される。
主切刃6よりも工具後端側に形成された補助切刃8は、切込み量が主切刃6の切込み限界値を超過した場合、例えば、凹凸が大きい被加工部の表面を正面フライス加工するときのように、切込みが一様でなく突発的に大きくなる場合、前記超過した部分を切削することになり、チップ1ならびに工具本体101の損傷あるいは破損を防止する。
本実施形態の高送り用チップ1Bにおいて、高送り加工時の切刃5、6、7、8の耐欠損性を高めるため、すくい面2の辺稜部に連なる内側の領域には、当該辺稜部に沿って、略平坦なランド面が形成されてもよい。このランド面は少なくとも主切刃6に形成されていて、好ましくはすくい面の辺稜部全体にわたって形成される。より詳細には、前記ランド面の幅は、0.05mm〜0.30mmの範囲とされるのが好ましい。これは、0.05mm未満では切刃の耐欠損性が向上しないおそれがあり、0.30mmを超えると切削抵抗が増大し、びびり振動が発生するおそれがあるからである。前記ランド面と主切刃第1逃げ面16aとのなす角度は70°〜87°の範囲とされるとともに、前記ランド面と副切刃逃げ面15とのなす角度は60°〜80°の範囲とされるのが好ましい。このように角度を限定した理由は、下限値を下回ると、切刃の耐欠損性を高める効果が得られないおそれがあり、上限値を超えると切削抵抗が増大してしまうためである。
さらに、高送り加工時の切削抵抗を低減させるために、前記ランド面に連なる内側の領域には、当該ランド面から内側にいくにしたがって着座面3へ漸次近づくように傾斜した、正のすくい角が付与されたすくい面2aが形成されてもよい。前記すくい角は10°〜30°の範囲が好ましい。すくい面2を曲面でもって傾斜させた場合には、前記ランド面に交わる位置における接線のなす傾斜角がすくい角とされる。この正のすくい角が付与されたすくい面は、少なくとも主切刃6に形成されていればよい。また、前述した、正のすくい角を付与されたすくい面2aは、ランド面を介さずに辺稜部の切刃5、6、7、8に連接されてもよい。傾斜したすくい面2aの内側には、すくい面2の中央の取付け穴4を取り囲み、着座面3に平行な平坦面2bが形成される。すくい角を10°〜30°の範囲に限定したのは、10°未満では切削抵抗を低減する効果が得られにくく、30°を超えると切刃の刃先が鋭くなって耐欠損性が低下してしまうからである。
さらに、辺稜部に形成された切刃5、6、7、8には、当該切刃の耐欠損性を高めるためのホーニングが形成されてもよい。このホーニングは、辺稜部の全体にわたって形成されることによって耐欠損性を高める効果が大きくなる。このホーニングは、前記切刃5、6、7、8に直交する平面で切断した断面で、すくい面2またはランド面のいずれか一方と、逃げ面15、16、17、18aとに滑らかに接する円弧状あるいは曲線状とされる。より詳細には、断面が円弧状をなすホーニングにおいて、前記円弧の曲率半径は0.03mm〜0.10mmの範囲とされるのが好ましい。これは、0.03mm未満では切刃の耐欠損性を高める効果が得られにくく、0.10mmを超えるホーニングは成形が困難であるとともに、切削抵抗を増大させてしまうおそれがあるからである。断面が曲線状をなすホーニングにおいて、前記曲線は、すくい面2またはランド面のいずれか一方に滑らかにつながる円弧と、逃げ面15、16、17、18aに滑らかにつながる円弧とを互いに滑らかにつないだ曲線とされ、すくい面側の幅が0.04mm〜0.10mmの範囲とされるとともに、逃げ面側の幅が0.02mm〜0.05mmの範囲とされ、さらに、逃げ面15、16、17、18aに滑らかにつながる円弧の曲率半径が0.015mm〜0.040mmの範囲とされるのが好ましい。これは、前記のホーニングの幅および円弧の曲率半径の限定において、下限値を下回ると切刃の耐欠損性を高める効果が得られにくく、上限値を上回ると切削抵抗が増大してしまうからである。
チップ1Bの厚さ方向からみた平面視で、副切刃5は、直線状もしくは外側にわずかに突出した曲線状に形成されるのが望ましい。曲線状に形成された副切刃5は、当該副切刃5と正面フライス100の軸心CLとのなす角度が直角からわずかにずれたとしても、加工面の断面形状は前記曲線を連ねた波形形状を維持し、面粗さならびに加工面の外観品位を劣化させないことから特に望ましい。
以上、本発明の実施形態を図面に基づいて説明したが、これらはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。例えば、チップ1の平面視で、高送り用チップ1Bの主切刃6は直線状に限定されず、円弧状、曲線状または複数の直線から構成した近似曲線状に変更可能である。
本発明を適用した高送り用チップをその厚さ方向からみた平面図である。 図1に示す高送り用チップの側面図である。 図1に示す高送り用チップの背面図である。 図1におけるS1−S1線切断部端面拡大図である。 汎用チップをその厚さ方向からみた平面図である。 図5に示す汎用チップの側面図である。 図5に示す汎用チップの背面図である。 図1に示す高送り用チップを装着した正面フライスを工具先端側からみた正面図である。 図8に示す正面フライスの軸心に直交する方向からみた側面図である。 図8に示す正面フライスの一部断面側面図である。 図5に示す汎用チップを装着した正面フライスの軸心に直交する方向からみた側面図である。 図11に示す正面フライスの一部断面側面図である。 従来の転削工具のチップ座の平面図である。 図13に示すチップ座に装着されるチップの下面図である。 図13に示すチップ座に装着される他のチップの下面図である。 工具本体と、この工具本体に装着可能な4種のチップとからなる従来の切削工具の分解斜視図である。 図16に示す工具本体のチップ座の平面図である。
符号の説明
1A 汎用チップ
1B 高送り用チップ
2 すくい面
2a すくい角を付与されたすくい面
3 着座面
5 副切刃
6 主切刃
7 コーナ刃
8 補助切刃
15 副切刃逃げ面
16 主切刃逃げ面
17 コーナ刃逃げ面
18a 補助切刃逃げ面
18b 湾曲部
16c、18c 基準側面
100 正面フライス(転削工具)
101 工具本体
105 チップ座
105a チップ座の座面
105b、105c チップ座の支持壁面
106 敷板
106a 敷板の座面
A、B、C、D コーナ部
δ1 汎用チップを装着した正面フライスのアプローチ角
δ2、δ3 高送り用チップを装着した正面フライスのアプローチ角
L1、L2 基準側面の幅

Claims (10)

  1. 略円筒状をなす工具本体の先端外周部に切欠き形成された、1つまたは複数のチップ座には、略多角形板状をなし、着座面に対向する上面がすくい面とされ、前記上面の辺稜部に少なくとも1つの主切刃が形成されたチップが、それぞれ装着されてなる転削工具において、
    前記チップ座には、汎用チップと、この汎用チップとは前記主切刃の形状が異なる、少なくとも1種の高送り用チップとが装着可能とされ、
    前記汎用チップは、略正多角形板状、または略正多角形のコーナ部分に副切刃が形成された板状であり、
    前記高送り用チップは、略正多角形板状を基本形状とし、該略正多角形の辺稜を切欠くように主切刃が形成され、
    該転削工具に該汎用チップが装着されたときの前記主切刃のアプローチ角をδ1とし、前記高送り用チップが装着されたときの前記主切刃のアプローチ角をδ2とすると、δ1とδ2との関係が、δ1<δ2とされ、
    前記汎用チップおよび前記高送り用チップの各々は、その着座面が前記チップ座の座面に当接するとともに、少なくとも1つの基準側面が当該チップ座の座面から立ち上がる支持壁面に当接して、当該チップ座に装着され、
    前記汎用チップの基準側面の幅L1と、前記高送り用チップの基準側面の幅L2との関係が、0.5L1≦L2≦0.9L1とされていることを特徴とする転削工具。
  2. 前記転削工具における汎用チップの主切刃のアプローチ角δ1が15°〜45°とされ、前記高送り用チップの主切刃のアプローチ角δ2が50°〜75°とされていることを特徴とする請求項1記載の転削工具。
  3. 前記チップ座の座面および支持壁面が、前記汎用チップおよび前記高送り用チップのそれぞれの着座面および基準側面に当接可能とされていることを特徴とする請求項1または2記載の転削工具。
  4. 前記高送り用チップが全てのチップ座に装着されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の転削工具。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項記載の転削工具に装着される高送り用チップにおいて、
    当該高送り用チップの着座面および基準側面が、前記汎用チップの着座面および基準側面の各々と同一の平面内に形成され、
    当該高送り用チップの基準側面の幅L2と、前記汎用チップの基準側面の幅L1との関係が、0.5L1≦L2≦0.9L1とされていることを特徴とする高送り用チップ。
  6. チップの厚さ方向からみた平面視で、上面の辺稜部に形成された主切刃の形状が、前記汎用チップの主切刃の形状とは異なることを特徴とする請求項5記載の高送り用チップ。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項記載の転削工具に装着される高送り用チップにおいて、当該高送り用チップを装着したときのアプローチ角が、汎用チップを装着したときのアプローチ角よりも大きく、且つ50°〜75°の範囲とされていることを特徴とする請求項5または6記載の高送り用チップ。
  8. 主切刃の長さが3mm〜5mmの範囲とされていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項記載の高送り用チップ。
  9. 加工面を仕上げるための副切刃が形成され、当該副切刃の長さが1mm〜3mmの範囲とされていることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1項記載の高送り用チップ。
  10. 前記基準側面は、上面の辺稜部から延びる逃げ面の下方側領域に形成され、且つ前記逃げ面よりも内側に位置する平坦な平面から形成されていることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1項記載の高送り用チップ。
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