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JP4873705B2 - 窒化インジウム(InN)あるいは高インジウム組成を有する窒化インジウムガリウム(InGaN)エピタキシャル薄膜の形成方法 - Google Patents

窒化インジウム(InN)あるいは高インジウム組成を有する窒化インジウムガリウム(InGaN)エピタキシャル薄膜の形成方法 Download PDF

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本発明は、InNあるいは高いIn組成のInGaNエピタキシャル薄膜の形成方法に関し、より詳しくは、GaNバッファ層上へのInNあるいは高In組成のInGaNのエピタキシャル成長方法に関する。
GaNやAlGaNなど広いバンドギャップを持った窒化物半導体材料のエピタキシャル成長技術が大きく進展し、発光ダイオード(LED)やレーザダイオード、GaNとAlGANのヘテロ界面に発生する2次元電子ガスを利用した電界効果トランジスタ(HEMT, HFET)などの研究開発が活発になり、一部実用化も始まっている。特に、GaNやAlGaNをベースにした発光デバイスでは、原子濃度で10%〜20%程度のインジウム(In)を添加したGaInNやAlInN、AlGaInNのような混晶材料の果たす役割がきわめて重要になっている。それは、Inを添加することでバンドギャップが変化して所望の発光波長が得られるほか、結晶の平均的な格子定数が制御できエピタキシャル成長の下地となる基板結晶との格子不整合率を小さく出来るなどの利点があるからである。さらに、添加したIn原子が結晶中で自然に不均一に分布するため、ミクロな視点で見た際にIn濃度が多い部分のバンドギャップが小さくなってそこに自由な電子と正孔が局在し、その後再結合して発光に寄与する。そのため、発光領域が窒化物系の結晶中に多く存在する転位や欠陥から空間的に隔絶される確率が大きくなるので、転位と欠陥密度が高いにも関わらず実用化に値する高い発光効率が得られる。
上記のように従来は、In濃度の比較的小さな窒化物結晶材料が研究されてきたが、最近になってInNやIn濃度の大きなInGaNに注目が集まっている。歴史的な詳しい経緯は省略するが、InNのバンドギャップは従来まで2.1eVあるいは1.9eVの可視の発光波長域にあるとされてきた。しかし、ごく最近になって結晶成長技術の進展に伴って比較的良質なInN結晶が得られるようになり、そのバンドギャップは近赤外領域の0.7eV付近にあるという重要な報告が相次いだ。精度の高いバンドギャップの値の決定のため、現在でも詳しい調査が進行中である。InNのバンドギャップが0.7eV付近にあるという事実は、GaNやAlGaNが紫外域に対応するバンドギャップを持つことを合わせて考えると、紫外〜近赤外という極めて広い波長範囲を窒化物系材料だけでカバーできることになり、その技術的な意味は大きい。つまり、従来InGaAsやInGaAsPのようなAs, P系材料でしか得られなかった波長1.3−1.55μmの光通信波長帯への適用も視野に入ったのである。
また、InNの電子有効質量が非常に小さいこともあり、電子デバイスへの適用を考えた場合にも高周波動作が期待できるので大きな魅力がある。このような背景のため、InNあるいはIn組成の大きいInGaNに対する研究開発が近年大いに盛り上がっている状況にある。
しかしながら、InNあるいは高いIn組成のInGaNのエピタキシャル薄膜成長技術はまだ成熟した状況とは言えず、InNが本来持っている潜在能力(優れた物性値)を充分引き出して利用するに至っていない。InNは原子の結合力が弱く大気圧下での解離温度も約600℃と低いため、結晶中のNの抜け(Vacancy)に関連した欠陥の形成を抑制するため600℃以下の低温で成長することが望まれる。現在では、RF−MBE(radio frequency−molecular beam epitaxy)と呼ばれる成長技術を用いることで比較的純度と結晶性の高いInN結晶が得られるようになってきている。RF−MBEでは、13.56MHzの高周波コイルを設けたラズマ室にNガスを供給して原子状のNラジカルや電子励起状態にあるN分子を生成し、これを基板上に照射して窒素元素の原料として用いる。一方、インジウム元素の供給には一般的なクヌードセンセル(Kセル)が使われる。ところで、InNのエピタキシャル成長を行う場合、格子整合の取れる基板結晶が存在しない。そのため、GaNと同様にサファイア(Al)を基板として用いてその上に直接InNを成長したり、サファイア上にまずGaNバッファ層を成長し、その後InNの成長を行うなどの方法がある。一般的にはGaNのバッファ層を成長してからInNを成長するほうが、成長面内での回転ドメインの形成が抑えられるため結晶性が高いとされる。しかし、GaNバッファ層を用いる場合にも、GaNバッファ層の平坦性や結晶性などがその後成長するInNの結晶性に大きく影響するため、GaNバッファ層の成長条件を最適化し精密に制御する必要があった。
本発明は、表面の平坦性や結晶構造の完全性に優れ、かつ光学特性の良好なInNエピタキシャル薄膜を得るのに有用で簡便な成長方法を提供するものである。
上記のようにGaNバッファ層上にInNエピタキシャル薄膜を成長するに当たって、InNの成長層表面の平坦性が数原子層オーダー以下の凹凸であり、かつ結晶性や光学特性に優れたInN薄膜を得るには、GaNバッファ層の平坦性や結晶性が重要になる。しかし、GaNの結晶性は成長温度、V族元素(N)とIII族元素(Ga)の供給比であるV/III比、その他いろいろな成長条件に左右されるためその制御は難しい。このため、GaNバッファ層上への良質なInNエピタキシャル成長を行うにあたって、できるだけ簡便で効果があり、再現性と制御性に優れた手法の開発が望まれていた。
本発明の重要なポイントは、InN薄膜をGaNバッファ層上にエピタキシャル成長するに先立ち、GaNバッファ層表面上に窒素のプラズマソースの供給がない状態で1原子層−2原子層(ML)の厚さのIn金属を供給することにある。これによって、InNエピタキシャル成長層の表面モルフォロジが原子層オーダーで平坦になり、加えてX線により調べた回折強度の増大と半値幅の減少が実現される。また、フォトルミネッセンス(PL)強度が増大して結晶性の改善も起こる。
具体的には、
発明1のエピタキシャル成長方法は、InNあるいは高In組成のInGaN層の成長に先立ちGaNバッファ層上に1−2MLのIn金属層を堆積することを特徴とする構成を採用した。
また、発明1において、GaNバッファ層の極性がN極性((000−1)面、−c面)であることを特徴とする構成を採用した。
更に、発明1において、成長技術として窒素原子の供給手段として、高周波コイルを設けたプラズマ室にN ガスを供給して、ガスから発生するプラズマを用い、GaとInの供給手段としてKセル内でInあるいはGa金属元素を高温加熱して生成される原子ビームを利用することを特徴とする構成を採用した。(RF−MBEと呼ばれる手法)。
上記のように、本発明によってGaNバッファ層上に1−2ML相当の金属In層を堆積し、その後InNのエピタキシャル薄膜を成長すると、InN成長層の表面平坦性が数原子層レベルの凹凸まで改善される。
将来、InN層上に再度GaNやAlGaN、あるいはInGaAlNのようなバンドギャップの大きな窒化物材料をヘテロ成長する場合、その界面の平坦性は光デバイスや電子デバイスの性能に大きく影響するので、原子層レベルで平坦なInN表面を作製することは極めて需要である。また、本発明によってInNの結晶性も大いに向上するから、同じくInNを活性層に用いる光デバイスや電子デバイスの性能向上に大きく寄与する。なお、説明ではInN結晶を例にとったが、In組成の大きなInGaNでも同様の効果が期待できる。また、InNの成長方法としてRF−MBEを例にとって説明したが、本手法はMOCVD(MOVPE)やHVPEなど他のエピタキシャル成長方を用いたInNとIn組成のInGaNの成長にも有効であることは容易に想像できる。

本発明の適用例をRF−MBEを例に述べる。図1は本発明の実施に用いたRF−MBEの図を示す。図2にRF−MBEの成長に用いた温度プログラムを示す。MBEチャンバー中にc面のサファイア基板をセットし、880℃で1時間真空中で加熱することでクリーニングを行った。引き続き、30分間窒素のRFプラズマソースを照射して、サファイア基板の窒化処理を行った。窒素のRFガンへの投入電力は500Wであり、N2の流量は0.5sccmとした。この時、MBEチャンバーの圧力は2.5×10−6Torrであった。その後、同じく880℃の条件でGaNを約300 nm成長した。
なお、このGaNはN安定化面(−c面)で成長していることをKOHによるエッチングにより確認している。GaNの成長に引き続き、KセルのGaビームとNのRFラジカルビームを止めて、真空中で500℃まで基板温度を下げた。本発明の効果を調べるため、500℃で100nmのInNを成長する前にGaNバッファ層上にIn金属層を1.8ML堆積したもの、0.9ML堆積したもの、および全く堆積しないものの3種類を作製した。InNの成長は500℃で行い、InN結晶からのN元素の解離を防止するためInとNの原子供給比率をややNリッチの条件で行った。その後、InNの表面モルフォロジーを原子間力顕微鏡(AFM)で調べ、InNの結晶性を調べるためPLスペクトルをサンプル温度77Kの条件で測定した。PLの励起レーザにはArイオンレーザの514.5nmを用い、PL発光の検出にはGeのpinダイオードを用いた。
図3に3つのサンプルのAFM像を示す。InN層とGaNバッファ層界面にIn金属層を1.8ML挿入した(a)のサンプルでは、表面に約0.55nmのステップが観察され平坦性は極めて高い。0.55 nmはInN結晶のc軸方向の格子定数とほぼ一致している。c軸の格子定数の半分(c/2)=0.285nmはInとN原子層のペアであるバイレイヤー層と呼ばれることもあり、0.55 nmの表面ステップは2バイレイヤーに相当する。このように約2MLのIn金属層を挿入することで2次元成長が起こっていることがわかる。(b)は同様に0.9MLのIn金属層を挿入したもので、この場合にも1.10 nm, 1.65 nm, 2.2 nmの段差が観察された。この1.10 nm, 1.65 nm, 2.2 nmはそれぞれ4バイレイヤー、6バイレイヤー、8バイレイヤーに対応すると考えられる。このように、表面に観察される段差はいずれも原子層ステップを単位とした規則的な段差となっており、In金属層の挿入によって成長表面での原子の動きが活発化して2次元の平坦な成長が促進されていると言える。一方、全くIn層を挿入しない(c)のサンプルでは、表面に深さ50 nmもの大きな穴が所々に観察され、2次元成長ではなく3次元的な結晶成長モードが起こっていると考えられる。
このように、GaNバッファ層上に1−2MLのごく薄いIn金属層を堆積してからInNを成長すると、表面モルフォロジーが原子レベルで平坦化することが確認された。なお、本発明に効果的なIn金属層の堆積量の範囲であるが、3ML程度のInを挿入すると成長速度が低下してしまい、あまり良いInN結晶層は得られていない。このため、金属In層の堆積量は1ML〜2ML付近が最も効果的と言える。
図4は図3で説明したサンプルから得られたPLスペクトルである。作製したInNエピタキシャル薄膜の発光波長はいずれも0.75eV付近にあり、InN結晶層が比較的高純度であることを示している。重要なことは、Inの金属層を挿入することでその発光強度がIn金属層を挿入しないものに比べて劇的に改善されたことである。これは、In金属層の挿入によってInNエピタキシャル成長層の結晶性が大きく改善されていることを示している。Inの堆積量が0.9MLと1.8MLのものを比較した場合、1.8MLのサンプルのほうが発光強度は強く、図2に示した表面の平坦性の改善の具合とも良く一致している。
実施例のRF−MBEを実施する為の装置の模式図 実施例のRF−MBEの成長に用いた温度プログラム 実施サンプルを示すAFM像の写真とその表面の凹凸を示すグラフ 実施サンプルから得られたPLスペクトルを示すグラフ

Claims (1)

  1. GaNバッファ層上へのInNあるいは高In組成のInGaNのエピタキシャル成長において、
    成長技術として窒素原子の供給手段として、高周波コイルを設けたプラズマ室にN ガスを供給して、ガスから発生するプラズマを用い、GaとInの供給手段としてKセル内でInあるいはGa金属元素を高温加熱して生成される原子ビームを利用し、
    GaNバッファ層の極性がN極性((000−1)面、−c面)であり、
    InNあるいは高In組成のInGaN層の成長に先立ちGaNバッファ層上に1−2原子層のIn金属層を堆積することを特徴としたエピタキシャル成長方法。
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