しかしながら、上述した従来の容積型膨張機は、固有の膨張比(吸入冷媒と排出冷媒の密度比)を有しているため、運転条件の変動によって動力回収効率が低下するという問題があった。つまり、上記膨張機が用いられる蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて、冷却対象の温度変化や放熱(加熱)対象の温度変化により該冷凍サイクルの高圧圧力および低圧圧力が変化するので、その圧力比も変動し、それに伴って膨張機の吸入冷媒と排出冷媒の密度もそれぞれ変動する。これにより、冷凍サイクルが上記膨張機の膨張比とは異なる膨張比で運転されることになり、上記膨張機における動力回収効率が低下してしまう。また、起動時においては、吸入冷媒の圧力が低いことから、やはり膨張機の膨張比とは異なる膨張比で起動することになる。この点について、以下に詳しく説明する。
一般に、膨張機は、定められた設計膨張比で運転が行われているときに最大限の動力回収効率が得られるように構成されている。図7は、理想的な運転条件での膨張室の容積変化と圧力変化との関係を示すグラフである。先ず、流体はa点からb点までの間で膨張室内に供給され、b点から膨張を開始する。このb点を過ぎると、流体の供給が停止するため、圧力が一旦c点まで急激に低下し、その後は膨張しながらd点まで緩やかに圧力が低下する。そして、d点で膨張室のシリンダ容積が最大になった後、排出側になって容積が縮小するとe点まで排出される。その後、a点に戻り、次のサイクルの吸入過程が開始される。この図の状態では、d点の圧力は冷凍サイクルの低圧圧力と一致しており、動力回収の効率のよい運転が行われる。
一方、上記膨張機を空調機に用いている場合は、冷房運転と暖房運転の切り換えや外気温度の変化などの運転条件の変動により、冷凍サイクルの実際の膨張比が該冷凍サイクルの設計膨張比ないし膨張機の固有膨張比を外れることがある。特に、運転条件の変動により冷凍サイクルの実際の膨張比が設計膨張比よりも小さくなると、膨張室の内圧が冷凍サイクルの低圧圧力よりも低くなり、膨張機の内部で過膨張が発生してしまう。また、起動時においては、運転中の場合と比べて吸入冷媒の圧力が低いため、固有膨張比の下で膨張した冷媒圧力が当然に冷凍サイクルの低圧圧力よりも低くなり、やはり過膨張が発生してしまう。
図8は、過膨張が発生したときの膨張室の容積変化と圧力変化との関係を示すグラフであり、冷凍サイクルの低圧圧力が図7の例よりも上昇した状態となっている。この場合、流体はa点からb点までの間で膨張室内に供給された後、膨張機の固有膨張比に従ってd点まで圧力が低下する。一方、冷凍サイクルの低圧圧力は、d点よりも高いd’点になっている。したがって、冷媒は、膨張過程の完了後、排出過程においてd点からd’点まで昇圧された後、e’点まで排出され、次のサイクルの吸入過程が開始されることになる。
このような状況においては、膨張機内で冷媒の排出のために動力の内部消費が行われることになる。つまり、過膨張の発生時には、回収動力は図8で示す(面積I)−(面積II)分しか得られないことになり、図7の場合と比べて回収動力が大幅に減少することになる。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ロータリ式膨張機における過膨張を防止し、動力回収効率の低下を抑制することである。
第1の発明は、シリンダ(71,81)と該シリンダ(71,81)の内周面に摺接するロータリピストン(75,85)との間の流体室(72,82)で流体を膨張させる膨張機構(60)を備えたロータリ式膨張機を前提としている。そして、上記膨張機構(60)は、ロータリピストン(75,85)に一体形成されて流体室(72,82)を高圧側と低圧側とに区画するブレード(76,86)を備える一方、上記シリンダ(71,81)の内周面から上記ロータリピストン(75,85)を離隔させるピストン離隔機構を備えている。さらに、上記ロータリピストン(75,85)は、回転軸(40)が貫通する貫通孔(91)がピストン離隔機構として形成され、上記ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)の内面には、回転軸(40)の軸径よりも大きい大径部(94)がシリンダ(71,81)内の過半分の流体室(72,82)が低圧側となる側に形成されている。
上記の発明では、ロータリピストン(75,85)がシリンダ(71,81)に内接しながら回転する。その回転に伴って、高圧の流体が流体室(72,82)に流入して膨張し、低圧となった流体が流体室(72,82)から流出する。ここで、運転条件の変動に伴って、または起動の際に流体室(72,82)で過膨張が生じると、つまり流体室(72,82)の圧力が流出側の圧力より低くなると、ピストン離隔機構(91)によってロータリピストン(75,85)がシリンダ(71,81)から離隔する。これにより、過膨張状態の流体室(72,82)へ流出側の流体が流れ込むので、流体室(72,82)の圧力が流出側の圧力まで上昇し、過膨張が解消される。
さらに、上記の発明では、揺動ピストン型の膨張機構(60)において、高圧の流体が流体室(72,82)の高圧側に流入して膨張した後、低圧側から流出する。したがって、実際の運転膨張比が膨張機の固有膨張比と一致している場合、流体室(72,82)において高圧側の圧力が低圧側の圧力より高くなり、つまり過膨張が生じないので、効率のよい動力回収が行われる。
一方、実際の運転膨張比が膨張機の固有膨張比より小さくなると、つまり過膨張が生じると、流体室(72,82)において低圧側の圧力が高圧側の圧力より高くなる。したがって、ロータリピストン(75,85)が低圧側から高圧側へ向かって押されることになる。そこで、本発明では、回転軸(40)の軸径よりも大きい大径部(94)がシリンダ(71,81)内の過半分の流体室(72,82)が低圧側となる側に形成されている。すなわち、上記大径部(94)が貫通孔(91)の内面の過半分に形成され、ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)における低圧側となる部分に回転軸(40)との間隙(S)が設けられる。これにより、ロータリピストン(75,85)は、低圧側から高圧側へ向かって回転軸(40)に対して可動自在になるので、シリンダ(71,81)の内周面から離隔可能になる。したがって、流体室(72,82)における高圧側の圧力が流出側である低圧側の圧力まで上昇し、過膨張が解消される。
また、第2の発明は、上記第1の発明において、上記膨張機構(60)は、互いに押しのけ容積が異なる流体室(72,82)を複数備え、流体が押しのけ容積の小さい流体室(72)から押しのけ容積の大きい流体室(82)へ順に流れて膨張するように構成されている。そして、上記ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)は、押しのけ容積が最大の流体室(82)を有するシリンダ(81)の内周面からそのロータリピストン(85)を離隔させるように構成されている。
上記の発明では、高圧の流体が押しのけ容積が小さい流体室(72)から順に流れて膨張し、最終的に膨張完了後の低圧の流体が押しのけ容積が最大の流体室(82)から流出する。つまり、押しのけ容積の小さい前段側の流体室(72)の流出側は、押しのけ容積の大きい流体室(82)の流入側に接続される。ここで、運転条件の変動に伴って過膨張が生じると、ピストン離隔機構(91)により、最大の押しのけ容積を有する流体室(82)においてロータリピストン(85)がシリンダ(81)から離隔する。これにより、膨張機構(60)における流出側の流体が確実に過膨張状態の流体室(82)へ流れるので、確実に過膨張が解消される。
また、第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)は、回転軸(40)との間隙(S)の最大距離がロータリピストン(75,85)の外径の1/500以上1/100以下である。
上記の発明では、ロータリピストン(75,85)とシリンダ(71,81)との離隔距離がロータリピストン(75,85)の大きさ(外径)に応じて適切に定められる。
また、第4の発明は、上記第1または第2の発明において、上記ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)の内面には、回転軸(40)の軸径と概ね等しい小径部(92)が形成されている。一方、上記ロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)は、回転軸(40)との間隙(S)の最大距離が上記小径部(92)の径の1/400以上1/50以下である。
上記の発明では、ロータリピストン(75,85)とシリンダ(71,81)との離隔距離がロータリピストン(75,85)の大きさ(内径)に応じて適切に定められる。
また、第5の発明は、上記第1の発明において、流体として冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路(20)に用いられる。
上記の発明では、例えば、空調機などの冷媒回路(20)に用いられ、膨張機構(60)において蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷媒の膨張行程が行われる。そして、この蒸気圧縮式冷凍サイクルでは、運転条件によって高圧圧力や低圧圧力が変動し、実際の膨張比が変化する。ここで、現在一般に使用されている冷媒(例えば、R104A)について、膨張比が暖房時では約4,冷房時では約3となる例を想定した場合、暖房時を基準として膨張比を選定すると、冷房時に過膨張が生じることになる。また、冷房負荷が小さいときなどは、さらに過膨張が生じやすくなる。ところが、本発明では、このような過膨張が効果的に解消される。
また、第6の発明は、上記第5の発明において、上記膨張機構(60)は、冷媒の圧縮機構(50)が機械的に連結されている。
上記の発明では、圧縮機構(50)において蒸気圧縮式冷凍サイクルの冷媒の圧縮行程が行われる。上記膨張機構(60)において冷媒の膨張により回転動力が回収され、この回転動力が圧縮機構(50)に機械的に伝達される。これにより、圧縮機構(50)の負荷トルクが低減される。
また、第7の発明は、上記第5または第6の発明において、上記冷媒が二酸化炭素である。
上記の発明では、二酸化炭素が臨界圧状態まで圧縮される超臨界サイクルが行われる。このサイクルでは、例えば膨張比が暖房時には約3,冷房には約2となり、一般の冷媒を用いた通常の冷凍サイクルに比べて、冷房時に生じる過膨張の度合いが増大する。ところが、このような過膨張が確実に且つ効果的に解消される。
したがって、第1の発明によれば、ロータリピストン(75,85)をシリンダ(71,81)の内周面から離隔させるピストン離隔機構(91)を設けるようにしたため、流体室(72,82)が過膨張状態になると、ロータリピストン(75,85)をシリンダ(71,81)から離隔させて流出側の流体を流体室(72,82)へ流すことができる。これにより、流体室(72,82)の圧力を上昇させることができるので、過膨張を解消することができる。したがって、膨張機構(60)による動力回収効率の低下を抑制することができ、運転効率を向上させることができる。
また、第1の発明によれば、ピストン離隔機構として、ロータリピストン(75,85)がシリンダ(71,81)から離隔する方向に可動自在となるようにロータリピストン(75,85)の貫通孔(91)を形成するようにしたので、簡易な機構でロータリピストン(75,85)をシリンダ(71,81)から離隔させることができる。これにより、安価で且つ故障の少ない機器を提供することができる。
特に、第2の発明によれば、押しのけ容積が異なる複数の流体室(72,82)を有する膨張機構(60)の場合、最大の押しのけ容積を有する流体室(82)においてロータリピストン(85)をシリンダ(81)から離隔させるようにしたので、流出側の流体を過膨張状態の流体室(82)へ流すことができる。したがって、確実に過膨張を解消することができる。
また、第3の発明によれば、間隙(S)の最大距離をロータリピストン(75,85)5)の外径に基づいて、また第4の発明によれば、間隙(S)の最大距離をロータリピストン(75,85)の小径部(92)の径に基づいてそれぞれ設定するようにしたので、膨張機容量の大小に応じて適切な間隙(S)を形成することができる。
また、第5の発明によれば、例えば、空調機などの蒸気圧縮式冷凍サイクルを行う冷媒回路(20)に用いるようにしたので、空調機などの運転条件は変化しやすいが、その際にも過膨張を確実に防止することができ、動力回収効率の低下を抑制することができる。したがって、機器の省エネ化を図ることができる。
また、第6の発明によれば、冷媒の圧縮機構(50)を膨張機構(60)に機械的に連結するようにしたため、圧縮機構(50)の負荷トルクを低減することができる。したがって、例えば、圧縮機構(50)を駆動するための電動機の必要トルクを低減できる。この結果、機器の省エネ化を一層図ることができる。
また、第7の発明によれば、冷媒に二酸化炭素を用いたため、過膨張の度合いが増大して動力損失が大きくなるが、その損失を効果的に抑制することができる。また、特に二酸化炭素の場合、地球環境に優しい機器および装置を提供することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の空調機(10)は、本発明に係るロータリ式膨張機を備えている。
〈空調機の全体構成〉
図1に示すように、上記空調機(10)は、いわゆるセパレート型のものであって、室外機(11)と室内機(13)とを備えている。上記室外機(11)には、室外ファン(12)、室外熱交換器(23)、第1四路切換弁(21)、第2四路切換弁(22)および圧縮膨張ユニット(30)が収納されている。上記室内機(13)には、室内ファン(14)および室内熱交換器(24)が収納されている。上記室外機(11)は屋外に設置され、上記室内機(13)は屋内に設置されている。また、上記室外機(11)と室内機(13)とは、一対の連絡配管(15,16)で接続されている。なお、上記圧縮膨張ユニット(30)の詳細は後述する。
上記空調機(10)には、冷媒回路(20)が設けられている。この冷媒回路(20)は、圧縮膨張ユニット(30)や室内熱交換器(24)などが接続された閉回路である。また、この冷媒回路(20)には、冷媒として二酸化炭素(CO2)が充填されている。
上記室外熱交換器(23)および室内熱交換器(24)は、何れもクロスフィン型のフィン・アンド・チューブ熱交換器により構成されている。上記室外熱交換器(23)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室外ファン(12)により取り込まれた室外空気と熱交換する。上記室内熱交換器(24)では、冷媒回路(20)を循環する冷媒が室内ファン(14)により取り込まれた室内空気と熱交換する。
上記第1四路切換弁(21)は、4つのポートを備えている。この第1四路切換弁(21)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吐出ポート(33)に、第2のポートが連絡配管(15)を介して室内熱交換器(24)の一端に、第3のポートが室外熱交換器(23)の一端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の吸入ポート(32)にそれぞれ接続されている。そして、上記第1四路切換弁(21)は、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
上記第2四路切換弁(22)は、4つのポートを備えている。この第2四路切換弁(22)は、第1のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流出ポート(35)に、第2のポートが室外熱交換器(23)の他端に、第3のポートが連絡配管(16)を介して室内熱交換器(24)の他端に、第4のポートが圧縮膨張ユニット(30)の流入ポート(34)にそれぞれ接続されている。そして、上記第2四路切換弁(22)は、第1のポートと第2のポートとが連通し且つ第3のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に実線で示す状態)と、第1のポートと第3のポートとが連通し且つ第2のポートと第4のポートとが連通する状態(図1に破線で示す状態)とに切り換わる。
〈圧縮膨張ユニットの構成〉
図2に示すように、圧縮膨張ユニット(30)は、横長で円筒形の密閉容器であるケーシング(31)を備えている。このケーシング(31)内には、図2における左から右に向かって順に、圧縮機構(50)と、電動機(45)と、膨張機構(60)とが配置されている。なお、以下の説明で用いる「右」「左」は、何れも参照する図面におけるものを意味する。
上記電動機(45)は、ケーシング(31)の長手方向における中央部に配置されている。この電動機(45)は、ステータ(46)とロータ(47)とにより構成されている。このステータ(46)は、上記ケーシング(31)に固定されている。上記ロータ(47)は、ステータ(46)の内側に配置され、同軸にシャフト(40)の主軸部(44)が貫通している。
上記シャフト(40)は、回転軸を構成している。このシャフト(40)では、左端側に1つの小径偏心部(43)が形成され、右端側に2つの大径偏心部(41,42)が形成されている。
上記小径偏心部(43)は、主軸部(44)よりも小径に形成され、主軸部(44)の軸心から所定量だけ偏心している。一方、上記各大径偏心部(41,42)は、主軸部(44)よりも大径に形成されている。左右に並んだ2つの大径偏心部(41,42)のうち、右側のものが第1大径偏心部(41)を、左側のものが第2大径偏心部(42)をそれぞれ構成している。上記第1大径偏心部(41)および第2大径偏心部(42)は、何れも主軸部(44)の軸心から同じ方向へ偏心している。その偏心量は、第2大径偏心部(42)の方が第1大径偏心部(41)よりも大きくなっている。また、上記第2大径偏心部(42)の外径は、第1大径偏心部(41)の外径よりも大きくなっている。
上記圧縮機構(50)は、いわゆるスクロール式圧縮機を構成している。この圧縮機構(50)は、固定スクロール(51)と、可動スクロール(54)と、フレーム(57)とを備えている。また、この圧縮機構(50)には、吸入ポート(32)および吐出ポート(33)が設けられている。この吸入ポート(32)および吐出ポート(33)は、それぞれ配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
上記固定スクロール(51)では、鏡板(52)に渦巻き壁状の固定側ラップ(53)が突設されている。この固定スクロール(51)の鏡板(52)は、ケーシング(31)の内壁に固定されている。一方、上記可動スクロール(54)では、板状の鏡板(55)に渦巻き壁状の可動側ラップ(56)が突設されている。上記固定スクロール(51)および可動スクロール(54)は、互いに対向する状態で配置されている。そして、上記固定側ラップ(53)と可動側ラップ(56)が噛み合うことにより、圧縮室(59)が区画される。
上記吸入ポート(32)は、一端が固定側ラップ(53)および可動側ラップ(56)の外周側に接続されている。一方、上記吐出ポート(33)は、一端が固定スクロール(51)の鏡板(52)の中央部に接続されて圧縮室(59)に開口している。
上記可動スクロール(54)の鏡板(55)は、右側面の中央部に突出部分が形成されており、この突出部分にシャフト(40)の小径偏心部(43)が回転自在に嵌合されている。また、上記可動スクロール(54)は、オルダムリング(58)を介してフレーム(57)に支持されている。このオルダムリング(58)は、可動スクロール(54)の自転を規制するためのものである。そして、上記可動スクロール(54)は、自転することなく、所定の旋回半径で公転する。
上記膨張機構(60)は、いわゆる揺動ピストン型の流体機械であって、本発明に係るロータリ式膨張機を構成している。この膨張機構(60)には、対になったシリンダ(81,82)およびピストン(75,85)が二組設けられている。また、上記膨張機構(60)には、フロントヘッド(61)と、中間プレート(63)と、リアヘッド(62)とが設けられている。
上記膨張機構(60)では、図2における左から右へ向かって順に、フロントヘッド(61)、第2シリンダ(81)、中間プレート(63)、第1シリンダ(71)およびリアヘッド(62)が積層された状態となっている。この状態において、第2シリンダ(81)は、左側端面がフロントヘッド(61)によって閉塞され、右側端面が中間プレート(63)によって閉塞されている。一方、上記第1シリンダ(71)は、左側端面が中間プレート(63)によって閉塞され、右側端面がリアヘッド(62)によって閉塞されている。また、上記第2シリンダ(81)の内径は、第1シリンダ(71)の内径よりも大きくなっている。
上記シャフト(40)は、積層された状態のフロントヘッド(61)、第2シリンダ(81)、中間プレート(63)、第1シリンダ(71)およびリアヘッド(62)を貫通している。また、上記シャフト(40)の第1大径偏心部(41)は第1シリンダ(71)内に位置し、第2大径偏心部(42)は第2シリンダ(81)内に位置している。
図3および図5に示すように、上記第1シリンダ(71)内には第1ピストン(75)が収納され、第2シリンダ(81)内には第2ピストン(85)が収納されている。これら第1ピストン(75)および第2ピストン(85)は、何れも円環状あるいは円筒状に形成されている。そして、上記第1ピストン(75)の外径と第2ピストン(85)の外径とは、互いに等しくなっている。すなわち、上述したように、第1シリンダ(71)の内径よりも第2シリンダ(81)の内径が大きいため、第2シリンダ(81)における第2流体室(82)の押しのけ容積が第1シリンダ(71)における第1流体室(72)の押しのけ容積よりも大きくなっている。
上記第1ピストン(75)は、外周面が第1シリンダ(71)の内周面に摺接すると共に、右側端面がリアヘッド(62)に、左側端面が中間プレート(63)にそれぞれ摺接している。上記第1シリンダ(71)の内周面と第1ピストン(75)の外周面との間には、第1流体室(72)が形成される。一方、上記第2ピストン(85)は、外周面が第2シリンダ(81)の内周面に摺接すると共に、右側端面が中間プレート(63)に、左側端面がフロントヘッド(61)にそれぞれ摺接している。上記第2シリンダ(81)の内周面と第2ピストン(85)の外周面との間には、第2流体室(82)が形成される。
上記各ピストン(75,85)には、ブレード(76,86)が1つずつ一体に設けられている。このブレード(76,86)は、ピストン(75,85)の径方向へ延びる板状に形成され、ピストン(75,85)の外周面から外側へ突出している。そして、上記第1シリンダ(71)内の第1流体室(72)は、第1ブレード(76)によって高圧側の第1高圧室(73)と低圧側の第1低圧室(74)とに仕切られている。上記第2シリンダ(81)内の第2流体室(82)は、第2ブレード(86)によって高圧側の第2高圧室(83)と低圧側の第2低圧室(84)とに仕切られている。
上記各シリンダ(71,81)には、一対のブッシュ(77,87)が一組ずつ設けられている。このブッシュ(77,87)は、内側面が平面となって外側面が円弧面となる略半月状に形成された小片である。このブッシュ(77,87)は、ブレード(76,86)を挟み込んだ状態で装着され、内側面がブレード(76,86)と、外側面がシリンダ(81,82)とそれぞれ摺動するように構成されている。そして、上記ブレード(76,86)は、ブッシュ(77,87)を介してシリンダ(71,81)に支持され、該シリンダ(71,81)に対して回動自在に且つ進退自在に構成されている。
上記第1シリンダ(71)と第2シリンダ(81)とは、それぞれの周方向におけるブッシュ(77,87)の位置が一致する状態で配置されている。つまり、上記第1シリンダ(71)に対する第2シリンダ(81)の配置角度が0°となっている。ここで、第1大径偏心部(41)および第2大径偏心部(42)が主軸部(44)の軸心に対して同じ方向へ偏心しているため、第1ブレード(76)が第1シリンダ(71)の外側へ最も退いた状態になるのと同時に、第2ブレード(86)が第2シリンダ(81)の外側へ最も退いた状態になる。要するに、上記2つのピストン(75,85)は、回転周期が同期している。
上記膨張機構(60)は、流入ポート(34)と流出ポート(35)が設けられている。上記流入ポート(34)は、第1シリンダ(71)を半径方向に貫通し、終端が第1シリンダ(71)の内周面のうち、図3および図5におけるブッシュ(77)のやや左側の箇所に開口している。つまり、この流入ポート(34)は、第1高圧室(73)と連通している。一方、上記流出ポート(35)は、第2シリンダ(81)を半径方向に貫通し、始端が第2シリンダ(81)の内周面のうち、図3および図5におけるブッシュ(87)のやや右側の箇所に開口している。つまり、この流出ポート(35)は、第2低圧室(84)と連通している。なお、上記流入ポート(34)および流出ポート(35)は、それぞれ配管によってケーシング(31)の外部へ延長されている。
上記中間プレート(63)は、厚さ方向に対して斜めに貫通する連通路(64)が設けられている。この連通路(64)は、入口側である一端が第1シリンダ(71)内における第1ブレード(76)の右側の位置に開口し、出口側である他端が第2シリンダ(81)内における第2ブレード(86)の左側の位置に開口している。つまり、上記連通路(64)は、第1流体室(72)の第1低圧室(74)と第2流体室(82)の第2高圧室(83)とを連通させる。そして、これら第1低圧室(74)と連通路(64)と第2高圧室(83)は、1つの閉空間である膨張室(66)を構成している。
本実施形態の膨張機構(60)では、第1シリンダ(71)と、そこに設けられたブッシュ(77)と、第1ピストン(75)と、第1ブレード(76)とが第1ロータリ機構部(70)を構成している。また、第2シリンダ(81)と、そこに設けられたブッシュ(87)と、第2ピストン(85)と、第2ブレード(86)とが第2ロータリ機構部(80)を構成している。つまり、上記第1ピストン(75)および第2ピストン(85)がロータリピストンを構成している。
上記膨張機構(60)では、2つのロータリ機構部(70,80)における回転周期が同期しているため、第1低圧室(74)の容積が減少してゆく過程と、第2高圧室(83)の容積が増加してゆく過程とが同期することになる(図5参照)。ここで、両シリンダ(71,81)における押しのけ容積に差があるため、その差分だけ第2高圧室(83)の容積増大量が第1低圧室(74)の容積減少量より大きくなり、結果として上記膨張室(66)の容積が増大することになる。したがって、上記膨張機構(60)では、膨張室(66)の容積がシャフト(40)の回転に伴って増大するので、冷媒が第1低圧室(74)から第2高圧室(83)へ膨張しながら流入する。
上記第2ピストン(85)は、図4〜図6に示すように、シャフト(40)の第2大径偏心部(42)が回転自在に貫通する貫通孔(91)が形成されている。この貫通孔(91)は、本発明の特徴として、第2低圧室(84)や流出ポート(35)の冷媒が第2高圧室(83)(膨張室(66))へ流れ込むように、第2ピストン(85)を第2シリンダ(81)の内周面から離隔させるコンプライアンス機構としてのピストン離隔機構を構成している。なお、上記第1ピストン(75)は、シャフト(40)の第1大径偏心部(41)が回転自在に貫通する貫通孔(図示せず)が形成されている。この貫通孔は、径が第1大径偏心部(41)の外径と概ね等しくなっている。
上記第2ピストン(85)の貫通孔(91)の内面は、小径部(92)と平面部(93)と大径部(94)から構成され、全体として略楕円形に形成されている。
上記小径部(92)の径は、第2大径偏心部(42)の外径と概ね等しくなっている。この小径部(92)は、図4における貫通孔(91)の内面のほぼ左半分に形成された円弧形状である。上記平面部(93)は、小径部(92)の両端(P0,P1)に連続して形成されている。つまり、この各平面部(93)は、小径部(92)の両端(P0,P1)における第2大径偏心部(42)の接線であり、該両端(P0,P1)から僅かな距離だけ延びている。上記大径部(94)は、各平面部(93)の延端を結んでなる円弧形状であり、図4における貫通孔(91)の内面のほぼ右半分に形成されている。そして、この大径部(94)の径は、第2大径偏心部(42)の外径よりも大きくなっている。なお、上記大径部(94)は、円弧形状に限らず、楕円弧形状に形成してもよい。
そして、上記第2ピストン(85)は、平面部(93)および大径部(94)と第2大径偏心部(42)との間に間隙(S)が形成されている。この間隙(S)は、図4および図5(図6)における第2ピストン(85)における貫通孔(91)の内面の右半分以上、すなわち第2流体室(82)における主として第2低圧室(84)となる側に形成されている。このように、第2ピストン(85)の貫通孔(91)は、第2低圧室(84)の冷媒圧力が第2高圧室(83)の冷媒圧力(即ち、膨張室(66)の冷媒圧力)よりも大きくなったときに、その圧力差によって第2ピストン(85)が押されて第2低圧室(84)側から第2高圧室(83)側へ向かって可動することにより、第2シリンダ(81)の内周面から離隔するように構成されている。
本実施形態では、図4におけるX0線とX1線との成す角度θが200°で設定されている。つまり、上記貫通孔(91)の大径部(94)が貫通孔(91)の内面の過半分を占め、間隙(S)が第2流体室(82)における第2低圧室(84)となる側に位置する。これにより、第2ピストン(85)は、低圧側から高圧側へ向かってシャフト(40)に対して可動自在となり、確実に第2シリンダ(81)の内周面から離隔可能となる。なお、上記X0線およびX1線は、小径部(92)の両端(P0,P1)における平面部(93)への垂線である。また、上記角度θは、200°に限られず、第2ピストン(85)が可動自在となる角度であればよい。
また、本実施形態では、間隙(S)の最大距離(Smax)が第2ピストン(85)の外径φDの1/500以上1/100以下に設定されている。例えば、第2ピストン(85)の外径φDが30mmの場合、間隙(S)の最大距離(Smax)は60μm〜300μmとなる。これにより、第2ピストン(85)の大きさ、つまり膨張機容量の大小に応じて適切な間隙(S)が形成される。
なお、上記間隙(S)の最大距離(Smax)は、第2ピストン(85)の貫通孔(91)における小径部(92)の内径φdの1/400以上1/50以下に設定されるようにしてもよい。この場合の同様に、膨張機容量に応じて適切な間隙(S)を形成できる。また、上述した間隙(S)の最大距離(Smax)の外径φDおよび内径φdに対する割合はより好ましい値であって、これに限られるものではない。
−運転動作−
次に、上記空調機(10)の運転動作について説明する。ここでは、空調機(10)の冷房運転時および暖房運転時の動作について説明し、続いて膨張機構(60)の動作について説明する。
〈冷房運転〉
この冷房運転時は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に破線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、吐出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、高圧冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室外熱交換器(23)へ送られ、室外空気へ放熱する。
上記室外熱交換器(23)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、流入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の膨張室(65)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。
上記室内熱交換器(24)では、低圧冷媒が室内空気から吸熱して蒸発し、室内空気が冷却される。上記室内熱交換器(24)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、吸入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を再び圧縮して吐出する。
〈暖房運転〉
この暖房運転時は、第1四路切換弁(21)および第2四路切換弁(22)が図1に実線で示す状態に切り換えられる。この状態で圧縮膨張ユニット(30)の電動機(45)に通電すると、冷媒回路(20)で冷媒が循環して蒸気圧縮式冷凍サイクルが行われる。
上記圧縮機構(50)で圧縮された高圧冷媒は、吐出ポート(33)を通って圧縮膨張ユニット(30)から吐出される。この状態で、高圧冷媒の圧力は、その臨界圧力よりも高くなっている。この高圧冷媒は、第1四路切換弁(21)を通って室内熱交換器(24)へ送られる。この室内熱交換器(24)では、高圧冷媒が室内空気へ放熱し、室内空気が加熱される。
上記室内熱交換器(24)で放熱した高圧冷媒は、第2四路切換弁(22)を通り、流入ポート(34)から圧縮膨張ユニット(30)の膨張機構(60)へ流入する。この膨張機構(60)の膨張室(65)では、高圧冷媒が膨張し、その内部エネルギがシャフト(40)の回転動力に変換される。そして、膨張後の低圧冷媒は、流出ポート(35)を通って圧縮膨張ユニット(30)から流出し、第2四路切換弁(22)を通って室外熱交換器(23)へ送られる。
上記室外熱交換器(23)では、流入した低圧冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。上記室外熱交換器(23)から出た低圧ガス冷媒は、第1四路切換弁(21)を通り、吸入ポート(32)から圧縮膨張ユニット(30)の圧縮機構(50)へ吸入される。そして、この圧縮機構(50)は、吸入した冷媒を再び圧縮して吐出する。
〈膨張機構の動作〉
上記膨張機構(60)の動作について図5〜図9を参照しながら説明する。なお、図5および図6は、シャフト(40)の反時計周りの回転を回転角45°毎に示したものである。
先ず、上記第1ロータリ機構部(70)の第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入する過程について、図5(図6)を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転すると、第1ピストン(75)と第1シリンダ(71)の接触位置が流入ポート(34)の開口部を通過し、流入ポート(34)から第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれて、第1高圧室(73)へ高圧冷媒が流入してゆく。この第1高圧室(73)への高圧冷媒の流入は、シャフト(40)の回転角が360°に達するまで続く。
その際、第1高圧室(73)へ流入する高圧冷媒の流速は、シャフト(40)の回転角が0°から180°に至るまでは次第に増大してゆき、その回転角が180°から360°に至るまでは次第に減少してゆく。そして、シャフト(40)の回転角が360°となって高圧冷媒の流速変化割合がゼロになった時点で、第1高圧室(73)への高圧冷媒の流入が終了する。
次に、上記膨張機構(60)で冷媒が膨張する過程について、図5(図6)を参照しながら説明する。回転角が0°の状態からシャフト(40)が僅かに回転すると、第1低圧室(74)と第2高圧室(83)の両方が連通路(64)と連通状態になり、第1低圧室(74)から第2高圧室(83)へと冷媒が流入し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなるにつれ、第1低圧室(74)の容積が次第に減少すると同時に第2高圧室(83)の容積が次第に増加し、結果として膨張室(66)の容積が次第に増加してゆく。この膨張室(66)の容積増加は、シャフト(40)の回転角が360°に達する直前まで続く。そして、この膨張室(66)の容積が増加する過程で該膨張室(66)内の冷媒が膨張し、この冷媒の膨張によってシャフト(40)が回転駆動される。このように、第1低圧室(74)内の冷媒は、連通路(64)を通って第2高圧室(83)へ膨張しながら流入してゆく。
続いて、第2ロータリ機構部(80)の第2低圧室(84)から膨張後の冷媒が流出してゆく過程について説明する。上記第2低圧室(84)は、シャフト(40)の回転角が0°の時点から流出ポート(35)に連通し始める。つまり、第2低圧室(84)から流出ポート(35)へと冷媒が流出し始める。その後、シャフト(40)の回転角が90°,180°,270°と次第に大きくなってゆき、その回転角が360°に達するまでの間に亘って、第2低圧室(84)から膨張後の低圧冷媒が流出してゆく。
ここで、蒸気圧縮式冷凍サイクルの理想的な動作が行われて、膨張室(62)で過膨張が発生していない場合は、図5に示すように、1回転中に亘って第1ピストン(75)および第2ピストン(85)の何れもが各シリンダ(71,81)の内周面から離隔することなく摺接している。
具体的に、上記膨張室(66)内における冷媒圧力は、シャフト(40)の回転に伴って次第に低下してゆくが、第2低圧室(84)内における冷媒圧力よりも低くなることはない。したがって、上記第2ロータリ機構部(80)において、1回転中に亘って第2ピストン(85)が第2高圧室(83)側(図5における左側)から第2低圧室(84)側(図5における右側)へその圧力差により押される。ところが、第2ピストン(85)は、内面の略左半分が第2大径偏心部(42)と密接しているため、第2高圧室(83)側から第2低圧室(84)側へ可動しない。特に、回転角90°のときは、第2ピストン(85)の第2シリンダ(81)から離隔する方向への動きが拘束される。
この場合、膨張室(66)の容積変化と圧力変化との関係は、図7に示す状態となる。つまり、高圧流体はa点からb点までの間に膨張室(66)に供給された後、b点から膨張が開始する。この膨張室(66)は高圧流体の導入が停止すると圧力が一旦c点まで急激に下がり、その後の膨張によりd点まで緩やかに圧力が低下していく。そして、膨張室(66)で排出過程が行われた後、a点に戻って次の吸入過程が開始される。このとき、吸入冷媒と流出冷媒の密度比は設計膨張比であり、動力回収効率のよい運転が行われる。
一方、冷房運転と暖房運転の切り換え、あるいは外気温度の変化などにより、高圧圧力や低圧圧力が設計圧力を外れて膨張室(66)で過膨張が発生する場合は、膨張機構(60)は図6に示す動作が行われる。
具体的に、膨張室(66)内における冷媒圧力は、シャフト(40)の回転に伴って次第に低下してゆき、回転角270°付近以降では第2低圧室(84)内における冷媒圧力よりも低くなる。したがって、上記第2ロータリ機構部(80)において、回転角270°付近で第2ピストン(85)が第2低圧室(84)側(図6における右側)から第2高圧室(83)側へ(図6における左側)へその圧力差により押される。押された第2ピストン(85)は、内側の間隙(S)の分だけ第2高圧室(83)側へ可動して第2シリンダ(81)から離隔する(図6のA部参照)。その結果、第2高圧室(83)と第2低圧室(84)とが連通するため、第2低圧室(84)や流出ポート(35)から冷媒が第2高圧室(83)へ流れ込んで、膨張室(66)内における冷媒圧力が蒸気圧縮式冷凍サイクルの低圧圧力まで上昇する。なお、上記のように第2ピストン(85)が第2シリンダ(81)から離隔した結果、第2ピストン(85)の内面の左半分(第2高圧室(83)側)に新たな間隙(S')が生じる。
この場合、図8において過膨張の領域を示す面積IIにおいて動力が消費され、膨張機構(60)の動力回収効率が大幅に低下するのに対して、上記間隙(S)を設けたことによって、図9に示すように図8の面積IIに示した動力消費が行われなくなる。したがって、面積Iの分だけは確実に動力回収を行うことができ、面積IIの分の回収効率低下を防止できる。
また、上述した図6に示す膨張機構(60)の動作は、起動時の過膨張が発生した際にも行われる。つまり、起動時は、第1低圧室(74)内の冷媒圧力が設計圧力よりも低いため、膨張室(66)内の冷媒圧力が蒸気圧縮式冷凍サイクルの低圧圧力よりも低くなり過膨張状態となるが、それが確実に解消される。したがって、起動時における動力回収効率が向上するので、電動機(45)に必要な起動トルクが軽減される。
−実施形態の効果−
以上説明したように、この実施形態によれば、第2シリンダ(81)の内周面に摺接して回転する第2ピストン(85)を該第2シリンダ(81)の内周面から離隔させるピストン離隔機構(91)を設けるようにしたため、第2低圧室(84)および流出ポート(35)の冷媒を膨張室(66)へ流すことができる。これにより、膨張室(66)内の圧力を蒸気圧縮式冷凍サイクルの低圧圧力まで上昇させることができ、過膨張の状態を解消することができる。したがって、過膨張の状態で冷媒を流出させる無駄な動力を消費しなくてもよいので、膨張機構(60)による動力回収効率が向上する。
特に、本実施形態では、ピストン離隔機構として、第2ピストン(85)の貫通孔(91)を第2大径偏心部(42)よりも大きく形成して該第2大径偏心部(42)との間に間隙(S)を設け、第2高圧室(83)と第2低圧室(84)との圧力差によって第2ピストン(85)を第2低圧室(84)側から第2高圧室(83)側へ向かって可動させるようにしたので、簡易な機構で第2ピストン(85)を第2シリンダ(81)から離隔させることができる。これにより、安価な機器を提供することができる。
また、第2ピストン(85)の間隙(S)が1回転中に亘ってほぼ第2低圧室(84)となる側に位置するようにしたので、過膨張の発生により生じた圧力差で確実に第2ピストン(85)を第2低圧室(84)側から第2高圧室(83)側へ可動させることができる。したがって、確実に過膨張を解消することができる。
また、上記間隙(S)の最大距離(Smax)を第2ピストン(85)の外径φDの1/500以上で1/100以下に設定するようにしたので、第2ピストン(85)の大きさ、つまり膨張機容量の大小に応じて適切な間隙(S)を形成することができる。
また、押しのけ容積が異なる2つの流体室(72,82)を有し、冷媒が押しのけ容積が小さい順に流体室(72,82)を流れて膨張する膨張機構(60)において、押しのけ容積が大きい第2流体室(82)の第2ピストン(85)を対象として第2シリンダ(81)から離隔させるようにしたので、流出ポート(35)の冷媒を膨張室(66)へ流すことができる。したがって、確実に膨張室(66)の圧力を蒸気圧縮式冷凍サイクルの低圧圧力まで上昇させることができ、過膨張を確実に解消することができる。
また、本実施形態では、膨張機構(60)に電動機(45)を介して圧縮機構(50)を機械的に連結するようにしたので、起動時などの電動機(45)の必要トルクを低減することができる。この結果、運転効率の向上を図ることができる。
また、冷媒として二酸化炭素(CO2)を用いるようにしたので、臨界圧力まで圧縮して行う蒸気圧縮式冷凍サイクルにおいて、例えば暖房運転を基準とする設計をした場合に冷房運転を行うと過膨張が生じやすくなるが、その過膨張の発生を効果的に且つ確実に防止することができる。さらに、二酸化炭素を用いることから、地球環境に優しい機器および装置を提供することができる。
《その他の実施形態》
例えば、上記実施形態では、互いに押しのけ容積が異なる2つの流体室(72,82)を有する膨張機構(60)について説明したが、本発明は、流体室を1つだけ有する膨張機構(60)を備えたロータリ式膨張機に適用してもよい。
また、上記第2ピストン(85)の貫通孔(91)の内面形状は、上記実施形態のものだけに限られず、膨張室(66)の冷媒圧力が第2低圧室(84)の冷媒圧力よりも大きくなったときに、その圧力差によって第2ピストン(85)が第2シリンダ(81)の内周面から離隔するように可動自在となれば如何なる形状であってもよい。
なお、以上の実施形態および変形例は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。