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JP4604631B2 - 車両用操舵制御装置 - Google Patents

車両用操舵制御装置 Download PDF

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Description

本発明は、電動パワーステアリング装置等のように、運転者からの操舵トルクがステアリングホイール等を介して入力される操舵系にトルク制御用のアクチュエータを備えた車両用操舵制御装置の技術分野に属する。
従来、車両の電動パワーステアリング装置としては、モータの慣性補償を目的として、操舵トルク微分値と車速及び操舵速度が増加するにつれ減少する正のゲインとを積算した慣性補償制御量を用いてモータを制御駆動するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
特開2001−114121号公報
しかしながら、従来の車両の電動パワーステアリング装置にあっては、低速では慣性感を感じないように、モータ等の操舵系の慣性をすべて補償するように慣性補償制御量を算出している。また、高速では、低速に比べ慣性補償制御量を減らし、慣性感を運転者へわざと伝えることで、ハンドル操作時のしっかり感(ハンドル切る瞬間に操舵トルクが重い)を演出している。このため、高速では、本来においては補償して運転者に慣性感を伝えないようにするべき慣性を残しているので、操舵中に慣性感を感じてしまい、自然な操舵フィーリングとならない、という問題があった。
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させて、高速走行時に運転者にとって扱い易い操舵特性を実現できると共に、急激な操舵入力があった場合、入力開始時に不要に操舵トルクを重くすることなく応答性を向上させることができる車両用操舵制御装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明では、運転者からの操舵トルクが入力される操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両用操舵制御装置において、
前記操舵制御手段は、過渡的な操舵トルクの入力に対し、入力直後は操舵トルク減少方向へ、その後は操舵トルクが増加方向へ、そして所定の時間遅れをもって定常状態で発生するトルクとなるようにアクチュエータトルクを発生する制御を行うことを特徴とする。
よって、本発明の車両用操舵制御装置にあっては、操舵制御手段において、過渡的な操舵トルクの入力に対し、入力直後は操舵トルク減少方向へ、その後は操舵トルクが増加方向へ、そして所定の時間遅れをもって定常状態で発生するトルクとなるようにアクチュエータトルクを発生する制御が行われる。
すなわち、過渡的な操舵トルクが入った直後は運転者の操舵トルクを軽くする正アシストが実施され、その後は運転者の操舵トルクを重くする方向へ逆アシストが実施され、さらに、時間の推移と共に運転者の操舵トルクを軽くする方向ヘアシストが実施されることになる。
例えば、レーンチェンジを行い操舵トルクが変化した場合に、最初は操舵トルクが減少しスムーズな操作が可能であり、その後続く切り過程(操舵トルクが増加)では操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが増加し、戻し過程(操舵トルクが減少)でも操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが減少する構成になっているので、同じ車両挙動が発生しても操舵トルク変化が大きくなり、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを低下させる。
その結果、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させて、高速走行時に運転者にとって扱い易い操舵特性(良好な操舵フィーリング)を実現することができると共に、急激な操舵入力があった場合、入力開始時に不要に操舵トルクを重くすることなく応答性を向上させることができる。
以下、本発明の車両用操舵制御装置を実施するための最良の形態を、図面に示す実施例1〜実施例5に基づいて説明する。
まず、構成を説明する。
図1は実施例1の車両用操舵制御装置を適用した電動パワーステアリングシステムを示す全体図である。実施例1の電動パワーステアリングシステムの操舵系には、運転者の舵取り操作用のステアリングホイール1と、舵取り動作を行う舵取り機構2とを連結する操舵軸3に、ステアリングホイール1に加わる操舵トルクを検出するトルクセンサ4と運転者の操舵力を補助するモータ5(アクチュエータ)とが配置されている。
前記ステアリングホイール1は、図示しない車室内部の運転者と対向する位置に、軸周りに回動可能に設けられている。前記舵取り機構2は、操舵軸3の下端に一体形成されたピニオン6と、これに噛合するラック軸7とを備えるラック&ピニオン式の舵取り装置により構成されている。前記ラック軸7は、図示しない車両前部に、左右方向摺動可能に固定されており、その両端は、左右のタイロッド8,9を介して操向用の転舵輪10,11に連結されている。
前記モータ5は、モータ5の発生トルクを操舵軸3の回転トルクに変換する減速機12を介して、操舵軸3に結合されている。このモータ5に供給されるモータ電流は、コントローラ13(操舵制御手段)により制御されている。
続いて、図2に示す実施例1の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき、実施例1の制御系を説明する。
運転者によりステアリングホイール1が操舵されると、ステアリングホイール1と機械的に連結された転舵輪10,11が操向される。このとき、トルクセンサ4に入力される捩れ方向の負荷は、操舵トルクとしてコントローラ13へ入力される。さらに、このコントローラ13には、車両の走行速度を検出する車速センサ14等の信号が与えられる。
前記コントローラ13には、モータ端子間電圧を検出する電圧センサ13aやモータ電流を検出する電流センサ13bが内蔵され、モータ速度推定ブロック13cにおいて、モータ端子間電圧とモータ電流を用いてモータ5の回転速度を推定演算する。前記コントローラ13には、操舵トルク,モータ5の回転速度,車速等を用いて演算された電流指令値を入力する電流制御ブロック13dが内蔵され、電流制御ブロック13dにおいて、内蔵する電流センサ13bからのモータ電流を参照しつつ駆動電流を算出する。そして、コントローラ13内の駆動回路13eにおいて、バッテリ15により与えられた電源を用い、算出された駆動電流と一致するモータ駆動電流を作り出し、電流センサ13bを介してモータ5を制御駆動する。
更に、前記コントローラ13内では、過渡的な操舵トルクに入力に対し、所望のアシストトルク特性を得るために、三つの補償制御と、操舵トルク微分制御と、操舵トルク比例制御と、が並行して行われる。
一つ目は、応答性補償制御で、操舵系の慣性や摩擦等に起因する応答遅れを補償することを目的として応答性補償制御部B部(補償制御部)にて行われる。この応答性補償制御部B部は、微分器13fと応答性補償ゲイン演算ブロック13gとを有し、操舵トルクを微分した値に対し、正の相関を持つアシスト電流をモータ5に流すことで、操舵トルク入力時に図14(b)に示すB部の出力を実現する。
二つ目は、慣性補償制御で、操舵系の特にモータの慣性を補償することを目的として慣性補償制御部にて行われる。この慣性補償制御部は、微分器13hと慣性補償ゲイン演算ブロック13iとを有し、モータ5の逆起電力から推定したモータ速度を微分することでモータ角加速度を算出し(微分器13h)、算出されたモータ角加速度と事前に計測しておいたモータイナーシャを積算することでモータ5の慣性力として、モータ5の慣性力を打ち消す電流をモータ5に流している。
三つ目は、粘性補償制御で、操舵系の粘性を適切にすることを目的として粘性補償制御部にて行われる。この粘性補償制御部は、モータ5の逆起電力から推定したモータ速度に応じて粘性補償ゲインを演算する粘性補償ゲイン演算ブロック13jを有し、油圧パワーステアリング相当の特性再現を目指しており、油圧回路に起因する粘性を電動パワーステアリングにより実現するようにしている。なお、上記慣性補償、粘性補償は、一般的なものでよく、従来例等にあるように、車速や操舵速度等に応じてゲインを変更しても良い。
操舵トルク微分制御は、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを改善し、良好な操舵フィーリングを得ることを目的として操舵トルク微分制御部C部にて行われる。この操舵トルク微分制御部C部は、微分器13mとゲイン演算ブロック13nとを有し、操舵トルクを微分した値に対し、負の相関を持つアシスト電流をモータ5に流すことで、操舵トルク入力時に図14(b)に示すC部の出力を実現する。
操舵トルク比例制御は、操舵トルクと車速に比例したモータトルクを得ることを目的として操舵トルク比例制御部D部にて行われる。この操舵トルク比例制御部D部は、トルクセンサ4からの操舵トルク(図14(a)のA部の入力)と車速センサ14からの車速により電流指令値を演算する電流指令値演算ブロック13kを有する。操舵トルクと車速に比例したアシスト電流をモータ5に流すことで、操舵トルク入力時に図14(b)に示すD部の出力を実現する。
そして、加算器13p,13q,13r,13sにおいて、応答性補償電流指令値と、慣性補償電流指令値と、粘性補償電流指令値と、操舵トルク微分制御電流指令値と、操舵トルク比例制御電流指令値と、が加算され、この加算値を前記電流制御ブロック13dへの電流指令値とする。
前記操舵トルク微分制御部C部は、アシストトルクIacを、例えば、
Iac={K/(1+τden・S)}×dTs/dt
但し、S:ラプラス演算子、K:ゲイン(<0)、τden:1次遅れ時定数(≧0)、dTs/dt:操舵トルク微分値
による式にて計算する。
そして、前記操舵トルク微分制御部C部のゲインKを、操舵トルクや車速や操舵速度(モータ速度)に応じてその特性を変更している。
図3は、操舵トルクに対するゲインKの設定例であり、ゲインKは、操舵トルクが大きいときほど大きくなるように設定されている。すなわち、操舵トルクが大きいときほど、逆アシスト量は多くなる。
図4は、車速に対するゲインKの設定例であり、ゲインKは、車速に比例して大きくなるように設定されている。すなわち、車速が高いときほど、逆アシスト量は多くなる。
図5は、操舵速度に対するゲインKの設定例であり、ゲインKは、ステアリングホイール1の操舵速度が速いときほど、大きくなるように設定されている。すなわち、操舵速度が速いときほど、逆アシスト量は多くなる。
ここで、「操舵速度」は、モータ5の逆起電力を用いて算出する。モータ5の端子間電圧をV、モータ電流をI、モータ5の逆起電力係数をK、モータ5の内部抵抗をRとすると、モータ5の回転速度dθ/dtは、
dθ/dt=I×(V−RI)/K
の式となる。ここで、KとRは、ほぼ一定値と考えることができるので、モータ5の端子電圧Vとモータ電流Iを計測することで、モータ5の回転速度dθ/dtを算出できる。モータ5と操舵軸3は機械的に接続されているので、モータ5の回転速度dθ/dtに減速比を乗算したものが、ステアリングホイール1の操舵速度として推測される。
そして、前記操舵トルク微分制御部C部の1次遅れ時定数τdenを、操舵トルクや車速や操舵速度(モータ速度)に応じてその特性を変更している。
図6は、操舵トルクに対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、操舵トルクが大きいときほど大きくなるように設定されている。すなわち、操舵トルクが大きいときほど、出力の遅れは多くなる。
図7は、車速に対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、車速に比例して大きくなるように設定されている。すなわち、車速が高いときほど、出力の遅れは多くなる。
図8は、操舵速度に対する1次遅れ時定数τdenの設定例であり、1次遅れ時定数τdenは、ステアリングホイール1の操舵速度が大きいときほど、大きくなるように設定されている。すなわち、操舵速度が大きいときほど、出力の遅れは多くなる。
次に、作用を説明する。
[本発明の考え方について]
電動パワーステアリング装置や油圧ポンプ式パワーステアリング装置やステア・バイ・ワイヤ装置等は、モータの反力自由度(任意のタイミングで、任意のアシスト量を、任意の方向へ発生させる)を用いて運転者の感じる操舵反力を任意に調整できるメリットを持つが、従来制御ではその自由度を活用しきれていない。
高速走行時には、運転者は主に操舵トルク入力で運転しており、操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良い方が、運転者にとって扱い易い操舵特性になる。
操舵トルクを用いて操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングを良くするための、制御特性は以下のように求めることができる。
算出に用いる運動方程式のモデルを図9とすると、
車両系は車両2輪モデルとして、
Figure 0004604631
の式であらわされ、操舵系は、本質的な理解がしやすいように、低次化して、
Figure 0004604631
とする。但し、Iz:車両の慣性モーメント、γ:ヨーレート、lf:前軸-車両重心間距離、Cf:前輪コーナリングパワー、N:オーバーオールステアリング比、V:車速、β:スリップ角、lr:後軸-車両重心間距離、m:車両重量、Ih:操舵系慣性、Ch:操舵系粘性、θ:操舵角、ξ:トレール、Tm:モータトルク、Th:操舵トルクである。
図9のモデルを図10に示すように、電動パワーステアリングの制御モデルに書き換えて、操舵トルクに対するアシストトルクの制御特性を検討する。
ここで、操舵トルクに対するアシストトルクの伝達関数をF(S)とする(Sはラプラス演算子)。操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングを良くすることは、操舵トルク入力に対する操舵角のダンピングを良くすることと同意である。なぜなら、操舵角から車両挙動が発生し(車両2輪モデルの運動方程式)、車両挙動から操舵トルクが決まるからである(操舵系の運動方程式)。そこで、操舵トルクに対する操舵角の伝達関数をH(S)とすると、図10より
Figure 0004604631
となる。ここで、G(S)はすでに図10に示したように、操舵角入力に対するセルフアライニングトルクの伝達関数であり、
Figure 0004604631
であるため、分子と分母をそれぞれ、GnとGdと置いておく。
目標H(S)の特性を以下として、分子と分母をそれぞれHn*、Hd*とすると、
Figure 0004604631
となる。
ここで、操舵トルクから操舵角への伝達関数H(S)のダンピングが良くなるように、例えば、H(S)が2次系となるアシスト特性F(S)を逆算すると、
Figure 0004604631
となる。上記F(S)を計算すると、その厳密解のコントローラの周波数特性は、図11の実線特性となる。
また、その時の操舵トルクに対する操舵角の周波数応答は、図12の実線特性となり、ダンピングが良くなることが分かる。
F(S)のコントローラの周波数応答の物理的意味を解釈すると、操舵トルクに対する車両挙動のダンピングをよくするためには、操舵トルク入力が高周波になるにつれアシストトルクの位相遅れが大きくなり逆方向へアシストする特性が望ましいことが分かる。本解釈を踏まえたうえで、厳密解を1次/1次の形で近似すると、図11の点線で示す特性となり、厳密解と同様に操舵トルクに対する車両挙動のダンピングをよくすることが可能である。
以上の説明では、操舵系や車両のモデルを簡易な式で表現しているが、より現実に近い高次のモデルを使用してもよい。また、理想の特性を2次で表現しているが、1次またはより高次でもよいし、位相遅れが一定であったりしてもよいことはいうまでもない。
一方、従来例では、慣性補償を目的としたトルク微分の時定数は、一般的に数msecから10数msecであり、この時定数の場合にいくらゲインを変更したとしても、図11に示す周波数特性は実現できない。
すなわち、慣性補償を目的としたトルク微分制御量を増減させただけでは、操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性におけるダンピングが良くさせることはできない。例えば、図13に示すように、操舵トルク入力に対する横加速度の周波数特性をみると、高速でダンピングが悪化している。
本発明では、操舵トルク入力に対する車両挙動の理想形を実現することを狙いとする。つまり、人間−自動車系を考慮した場合、高速走行時において運転者は主に操舵トルクを入力として車両運動を制御しているといわれており、操舵トルクに対する車両挙動(横Gやヨーレート)のゲインを周波数に関係なく一定に保つことにより、人間にとって扱い易い車両になるはずである。
そこで、実際の操舵トルクに対する車両挙動をみると、車両の操舵トルク入力に対する車両挙動の周波数特性において、図13に示すように、高速になると悪化するダンピングを良くすることにあり、このためには、過渡的な操舵トルク変化に対し、瞬間反対方向へアシストし、さらに、アシストが遅れる特性を得るように設定する。
ただし、この場合、狙いであるダンピングの良さは実現できるものの、操舵開始直後から逆アシストとなるので、ハンドル操作力が重くなり、自然な操舵フィーリングであるとは言えない。
つまり、本発明は、自然な操舵フィーリングを実現した上で、狙いであるダンピングの良さ実現するように、「操舵開始直後は過渡的に正方向にアシスト」して応答性を上げ、その後は、「反対方向にアシストして、アシストを遅れさせ」、人間にとって扱い易い特性にする。しかも、上記特性を実現する最も簡単な制御は、時定数とゲインの極性が異なる「二つのトルク微分」を用いたものである。
[操舵トルク入力時のアシスト量制御作用について]
次に、実施例1のコントローラ13での操舵トルク入力時のアシスト量制御作用について説明する。
上記「二つのトルク微分」とは、応答性補償制御部B部にて行われる応答性補償制御(Bのトルク微分)と、操舵トルク微分制御部C部にて行われる操舵トルク微分制御(Cのトルク微分)とであり、この「二つのトルク微分」での時定数・ゲイン・ゲイン絶対値の設定関係について図14(d)により説明する。
前記応答性補償制御部B部のゲインの極性は正で、前記操舵トルク微分制御部C部のゲインの極性は負であり、且つ、操舵トルク微分制御部C部の時定数は、応答性補償制御部B部の時定数より大きな値に設定している。
また、操舵トルク微分制御部C部のゲイン絶対値を、応答性補償制御部B部のゲイン絶対値より小さい値に設定している。
これによって、第一のトルク微分である応答性補償制御部B部では、操舵トルク入力時に図14(b)に示すB部の出力、つまり、操舵トルクのステップ応答開始時にのみ一気にアシストトルクが立ち上がる正方向のアシストトルク特性を実現する。
また、第二のトルク微分である操舵トルク微分制御部C部では、操舵トルク入力時に図14(b)に示すC部の出力、つまり、操舵トルクのステップ応答領域でアシストトルクが負側に低下し、操舵トルク一定の領域で徐々に負からゼロに戻す方向のアシストトルク特性を実現する。
よって、操舵トルクのステップ入力時に、図14(b)に示すように、応答性補償制御部B部からのアシストトルクと、操舵トルク微分制御部C部からのアシストトルクと、操舵トルク比例制御部D部からのアシストトルクと、を加算すると、図14(c)に示すように、3つのアシストトルクの和による出力、つまり、操舵トルクの入力開始直後は過渡的に正のアシストトルクが出て、その後、アシストトルクが負側に移行し、さらに、アシストトルクが負から正に変わり、従来のアシストトルク(トルク比例分)に徐々に近づく時系列推移によるアシストトルク特性を実現する。つまり、B部とC部とD部の出力を加算すると、操舵トルク入力に対する車両挙動のダンピングを向上させ、初期応答性も向上できるモータ電流指令値を作成することができる。
以上説明したように、実施例1では、応答性補償制御部B部のゲインの極性は正で、前記操舵トルク微分制御部C部のゲインの極性は負であり、且つ、操舵トルク微分制御部C部の時定数は、応答性補償制御部B部の時定数より大きな値に設定したため、過渡的な操舵トルクが検出されたとき、例えば、レーンチェンジを行い操舵トルクが変化した場合、最初は操舵トルクが減少しスムーズな操作が可能であり,その後続く切り過程(操舵トルクが増加)では操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが増加し、戻し過程(操舵トルクが減少)でも操舵トルクの変化方向の略逆側へアシストトルクが発生し操舵トルクが減少する構成になっているので、同じ車両挙動が発生しても操舵トルク変化が大きくなり、操舵トルクに対する車両挙動のゲインを低下させる。その結果、図13に示したダンピングが改善され、ドライバへ違和感を与えることなく、良好な操舵フィーリングが得られる。
加えて、実施例1では、操舵トルク微分制御部C部のゲイン絶対値を、応答性補償制御部B部のゲイン絶対値より小さい値に設定したため、操舵初期に確実に正のアシストトルクが得られる。つまり、応答性が問題とならない低周波数域で、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させるというように、図13に示したダンピングが改善され、操舵トルクに対する車両挙動の周波数特性のゲインはより直線的になり、さらに良好な操舵フィーリングが得られる。
[ゲインの設定作用について]
図14からも明らかなように、ステップ状の操舵トルク入力があった場合、操舵初期に操舵トルク方向へ発生するアシストトルクは、ゲインKにより決まる。そこで、ゲインKの設定による作用について説明する。
実施例1では、ゲインKを操舵トルクが大きいほど大きくなるように設定している(図3)。よって、旋回時の保舵からの切り増し操舵、切り戻し操舵時に、保舵時の操舵トルクに応じて操舵トルク変化量が増減されるため、旋回保舵時のしっかり感を演出できる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にステアリングホイール1の中立感を出すことができる。さらに、操舵トルクが大きくなる場合は、ゲインKに所定の上限を設けているので、ステアリングホイール1が不要に重くなりすぎることを防止することができる。なお、ゲインKに所定の上限を設けるのではなく、制御量にリミット値を設定しても良い。
実施例1では、ゲインKを車速が高いほど大きくなるように設定している(図4)。よって、低速では操舵トルク変化量が少なくなるため、軽快なステアリング操舵が容易となる。一方、高速では操舵トルク変化量が増えるため、操舵トルクに対する車両挙動のゲインが低下し車両の走行安定性が高まる。
実施例1では、ゲインKを操舵速度が速いほど大きくなるように設定している(図5)。よって、操舵速度が速いほど、操舵トルク変化量は増加するため、急操舵になるほど、車両の走行安定性が高まる。さらに、逆起電力を利用したステアリングホイール1の操舵速度推定には、信号ノイズ等に起因して、所定の分解能以下の検知が困難となる。実施例1では操舵速度の低いところは一定の逆アシストのゲインKとしているので、変動を防いだ上で、微小な操舵時に中立感を出すことが可能となる。さらに、操舵速度が非常に速い場合は、ゲインKに所定の上限を設けているので、ステアリングホイール1が不要に重くなりすぎることを防止することができる。なお、ゲインKに所定の上限を設けるのではなく、制御量にリミット値を設定しても良い。
次に、効果を説明する。
実施例1の車両用操舵制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
(1) 運転者からの操舵トルクを入力するステアリングホイール1を有する操舵系に設けられたトルク制御用のモータ5と、該モータ5を制御するコントローラ13と、を備えた車両用操舵制御装置において、前記コントローラ13は、過渡的な操舵トルクの入力に対し、入力直後は操舵トルク減少方向へ、その後は操舵トルクが増加方向へ、そして所定の時間遅れをもって定常状態で発生するトルクとなるようにアクチュエータトルクを発生する制御を行うため、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させて、高速走行時に運転者にとって扱い易い操舵特性を実現できると共に、急激な操舵入力があった場合、不要に操舵トルクを重くすることなく応答性を向上させることができる。
(2) 前記コントローラ13は、操舵系の応答性補償を目的とした応答性補償制御部B部と、操舵トルク微分制御部C部と、を有し、前記応答性補償制御部B部のゲインの極性は正で、前記操舵トルク微分制御部C部のゲインの極性は負であり、且つ、前記操舵トルク微分制御部C部の時定数は、前記応答性補償制御部B部の時定数より大きな値に設定したため、簡単な制御ロジックにより、コントローラ13への実装が容易になると共に、発散による制御不安定化を解消することができる。
(3) 前記コントローラ13は、操舵トルク微分制御部C部のゲイン絶対値を、応答性補償制御部B部のゲイン絶対値より小さい値に設定したため、応答性が問題とならない低周波数域で、操舵トルク入力時の車両挙動のダンピングを大幅に向上させて,高速走行における操舵時に運転者にとって扱い易い操舵特性を実現できる。
(4) 前記操舵トルク微分制御部C部は、ゲインKを操舵トルクが大きくなるほど大きな値となるように設定したため、旋回時の保舵からの切り増しや切り戻しにおいて、旋回保舵時のしっかり感を演出することができる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にステアリングホイール1の中立感を出すことができる。
(5) 前記操舵トルク微分制御部C部は、ゲインKを車速が高くなるほど大きな値となるように設定したため、低速での軽快なステアリング操舵を容易としながら、高速での車両の走行安定性を高めることができる。
(6) 前記操舵トルク微分制御部C部は、ゲインKを操舵速度が速いほど大きな値となるように設定したため、急操舵になるほど車両の走行安定性を高めることができる。
(7) 前記操舵トルク微分制御部C部は、1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク、車速、操舵速度に応じて変化させる設定としたため、操舵トルク・車速・操舵速度の各値が高いほど1次遅れ時定数τdenが大きな値になるように設定することで、操舵トルク・車速・操舵速度により決まる走行状態に応じて最適の出力の遅れ特性によるモータアシスト制御を実行することができる。
実施例2は、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵や非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くするようにした例である。
実施例2の車両用操舵制御装置では、前記操舵トルク微分制御部C部は、図15に示すように、ゲインKを、操舵トルクが第1設定値TS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値TS2を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定している。
また、前記操舵トルク微分制御部C部は、図16に示すように、ゲインKを、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値VS2を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定している。なお、他の構成は、実施例1と同様であるので、図示並びに説明を省略する。
次に、作用を説明すると、実施例2では、通常の運転に使用する操舵トルクで決まる所定の操舵トルク以内(操舵トルク≦第2設定値TS2)では、旋回時の保舵からの切り増し操舵、切り戻し操舵時に、保舵時の操舵トルクに応じて操舵トルク変化量が増減されるため、旋回保舵時のしっかり感を演出できる。特に、操舵トルクが低いところでも、所定の操舵トルク変化が発生するため、直進時にステアリングホイール1の中立感を出すことができる。加えて、操舵トルクが第2設定値TS2を超える領域では、逆アシスト量を少なくしているため、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
また、通常の運転に使用する操舵速度で決まる所定の操舵速度以内(操舵速度≦第2設定値VS2)では、操舵速度が速いほど、操舵トルク変化量は増加するため、急操舵になるほど、車両の走行安定性が高まる。さらに、逆起電力を利用したステアリングホイール1の操舵速度推定には、信号ノイズ等に起因して、所定の分解能以下の検知が困難となる。これに対し、操舵速度の低い領域(操舵速度≦第1設定値TS1)は、一定値による逆アシストのゲインKとしているので、変動を防いだ上で、微小な操舵時に中立感を出すことが可能となる。加えて、操舵速度が第2設定値VS2を超える領域では、逆アシスト量を少なくしているため、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。尚、他の作用は実施例1と同様であるで、説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例2の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の(1),(2),(3)の効果に加え、下記に列挙する効果を得ることができる。
(8) 前記操舵トルク微分制御部C部は、ゲインKを、操舵トルクが第1設定値TS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値TS2を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定したため、操舵トルクが第1設定値TS1までの領域では、直進時にステアリングホイール1の中立感を出し、操舵トルクが第1設定値TS1から第2設定値TS2までの領域では旋回保舵時のしっかり感を演出し、操舵トルクが第2設定値TS2を超える領域、つまり、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の大きな操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
(9) 前記操舵トルク微分制御部C部は、ゲインKを、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値VS2を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定したため、操舵速度が第1設定値VS1までの直進操舵域では、変動を防いだ上で微小な操舵時に中立感を出し、操舵速度が第1設定値VS1から第2設定値VS2までの操舵領域では急操舵になるほど車両の走行安定性を高め、操舵速度が第2設定値VS2を超える領域、つまり、緊急回避や不安定車両挙動発生時の修正操舵時等の非常に速い操舵に対しては、不要に操舵トルクを重くすることなく、修正操舵をし易くすることができる。
実施例3は、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部を設け、操舵状態に応じて操舵トルク微分制御部の制御量を変更するようにした例である。
すなわち、図17に示す実施例3の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明する。実施例3では、操舵トルクと操舵速度を入力し、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部13t(ハンドル切り/戻し判断手段)と、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値を第一の制限値(切り時制限値)に制限する切り時制限値設定部13uと、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値を第二の制限値(戻し時制限値)に制限する戻し時制限値設定部13vと、前記操舵状態判断部13tの出力に応じて、切り時制限値設定部13uと戻し時制限値設定部13vとを切り替えるスイッチ部13wと、を有する。ここで、前記第一の制限値と前記第二の制限値の大小関係は、第一の制限値>第二の制限値である。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[操舵状態判断動作について]
操舵状態判断部13tの動作を図18で説明する。
図18(a)にレーンチェンジを行った場合の操舵パターンを示す。戻しまたはスラロームの判断は、操舵トルクの極性と操舵速度の極性が異なる場合に戻しFLGが1になり、操舵速度が0を含めた所定値となった場合に戻しFLGが0になることで実現される。
操舵状態判断制御ブロックを図18(b)に示す。操舵トルク(handle trq)と操舵速度(handle speed)の極性を判断し、正の場合は1を負の場合は−1をそれぞれ算出する(STEP101とSTEP102)。両者の積算を行い(STEP103)、積算値が負の場合は極性が異なるので1を出力し、積算値が正の場合は極性が同じとして0を出力する(STEP104)。積算値が0から1へ変わった瞬間に戻しFLGは0から1への変化する。一方、操舵速度が0を含めた所定値になった時を判定し(STEP105)、その瞬間に戻しFLGは1から0へと変化する。以上により操舵状態判定部13tは、切り過程であるか戻しまたはスラローム過程であるか判断する。
[操舵状態に応じたアシストトルク制御作用について]
操舵状態に応じたアシストトルク制御作用について、図19を用いて説明する。
一般的に操舵特性は、図19(b)に示すように、中立のしっかり感が出易く、かつ、微小な車両挙動変化を操舵反力変化として運転者へ伝達でき、大きな操舵量では操舵トルクの増加を抑制しハンドルが軽く操作できるように、操舵トルクの勾配は大きな操舵量範囲にくらべ微小な操舵量範囲が大きくなっている。
図19(a)に示す操舵角特性にてレーンチェンジを行うと、上述した操舵特性になっているため、図19(a)の操舵トルク特性のE部に示すように、操舵トルクの変化は、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近で大きくなる。しかし、レーンチェンジにおけるスラローム過程では、運転者は反力から車両挙動を感じながら操舵はしておらず、むしろ、フィードフォワード的に操舵しているため、操舵角に対する操舵トルクの変化は少ない方が操舵フィーリングは良い。ちなみに、中立の操舵トルク変化が大きくなると、スラローム操舵の途中で引っ掛かり感となり、スムースな操作を妨げる。
そこで、図19(a)の制御量特性に示すように、切り過程と戻し過程(スラローム含む)との最大値を制限し、切り過程にくらべ戻し過程(スラローム含む)の制限値を小さくすることにより、図19(c)に示すように、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近での操舵トルク変化を少なくし、操舵フィーリングは良くすることが可能となる。なお、他の作用は実施例1と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例3の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(10) ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断する操舵状態判断部17を設け、前記操舵トルク微分制御部C部は、ハンドルの切り過程では制御量を第一の制限値に制限し、ハンドルの戻し過程では制御量を第一の制限値より小さい第二の制限値に制限するため、運転者が積極的に操作する切り過程では有効にダンピングを働かせ、且つ、スムースなハンドル戻しを実現することができる。
実施例4は、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部を設け、操舵状態に応じて操舵トルク微分制御部のゲインを変更するようにした例である。
すなわち、図20に示す実施例4の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明する。実施例4では、操舵トルクと操舵速度を入力し、操舵状態(切り/戻し/スラローム)を判断する操舵状態判断部13t(ハンドル切り/戻し判断手段)と、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値(制御量)のゲインを第一のゲイン(切り時ゲイン)とする切り時ゲイン設定部13u’と、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値(制御量)のゲインを第二のゲイン(戻し時ゲイン)とする戻し時ゲイン設定部13v’と、前記操舵状態判断部13tの出力に応じて、切り時ゲイン設定部13u’と戻し時ゲイン設定部13v’とを切り替えるスイッチ部13wと、を有する。ここで、前記第一のゲインと前記第二のゲインの大小関係は、第一のゲイン>第二のゲインである。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明すると、操舵状態判断動作については、図18に示す実施例3と同様である。
[操舵状態に応じたアシストトルク制御作用について]
操舵状態に応じたアシストトルク制御作用について、図21を用いて説明する。
一般的に操舵特性は、図21(b)に示すように、中立のしっかり感が出易く、かつ、微小な車両挙動変化を操舵反力変化として運転者へ伝達でき、大きな操舵量では操舵トルクの増加を抑制しハンドルが軽く操作できるように、操舵トルクの勾配は大きな操舵量範囲にくらべ微小な操舵量範囲が大きくなっている。
図21(a)の操舵角特性に示す操舵角にてレーンチェンジを行うと、上述した操舵特性になっているため、図21(a)の操舵トルク特性に示すように、操舵トルクの変化は、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近で大きくなる。しかし、レーンチェンジにおけるスラローム過程では、運転者は反力から車両挙動を感じながら操舵はしておらず、むしろ、フィードフォワード的に操舵しているため、操舵角に対する操舵トルクの変化は少ない方が操舵フィーリングは良い。ちなみに、中立の操舵トルク変化が大きくなると、スラローム操舵の途中で引っ掛かり感となり、スムースな操作を妨げる。
そこで、図21(a)の制御量特性に示すように、切り過程と戻し過程(スラローム含む)との制御量のゲインを異なる値として、切り過程にくらべ戻し過程(スラローム含む)のゲインを小さくすることにより、スラローム過程における操舵角が0付近または操舵トルクが0付近での操舵トルク変化を少なくし、操舵フィーリングは良くすることが可能となる。なお、他の作用は実施例1と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例4の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(11) ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断する操舵状態判断部17を設け、前記操舵トルク微分制御部C部は、ハンドルの切り過程では制御出力に第一のゲインを積算し、ハンドルの戻し過程では制御出力に第一のゲインより小さい第二のゲインを積算するため、運転者が積極的に操作する切り過程では有効にダンピングを働かせ、且つ、スムースなハンドル戻しを実現することができる。
実施例5は、保舵状態を判断する保舵状態判断部を設け、保舵状態と操舵状態に応じて操舵トルク微分制御部の特性を変更する例である。
すなわち、図29に示す実施例5の車両用操舵制御装置の制御ブロック図に基づき制御系を説明すると、実施例5では、操舵トルクと操舵速度を入力し、保舵状態を判断する保舵状態判断部13x(保舵判断手段)と、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値(制御量)のゲインを第一のゲイン(操舵時ゲイン)とする操舵時ゲイン設定部13u"と、ゲイン演算ブロック13nからのアシスト電流値(制御量)のゲインを第二のゲイン(保舵時ゲイン)とする保舵時ゲイン設定部13v"と、前記操舵状態判断部13xの出力に応じて、操舵時ゲイン設定部13u"と保舵時ゲイン設定部13v"とを切り替えるスイッチ部13wと、を有する。ここで、前記第一のゲインと前記第二のゲインの大小関係は、第一のゲイン<第二のゲインである。なお、他の構成は実施例1と同様であるので、対応する構成に同一符号を付して説明を省略する。
次に、作用を説明する。
[保舵状態判断動作について]
保舵状態判断部13xの動作を図23で説明する。図23(a)にレーンチェンジを行った場合の操舵パターンを示す。保舵判断は、操舵トルクが所定値以上入力さているときに、操舵速度が所定値以下の場合に保舵と判断している。
保舵・操舵状態判断制御ブロックを図23(b)に示す。STEP131では、操舵トルクの絶対値算出し、STEP132では、操舵トルクの絶対値が所定のA以上の場合は1を出力し、それ以外は0を出力し、STEP133では、操舵速度の絶対値算出し、STEP134では、操舵速度の絶対値が所定のB以下の場合は1を出力し、それ以外は0を出力する。STEP135では、STEP132とSTEP133の論理積を取り、共に1の場合は1を出力、それ以外は0を出力する。STEP136では、STEP135の出力が0から1に変わった場合のみ戻し開始と判断する。STEP137では、操舵速度が絶対値が所定のC以上の場合は1を出力、それ以外は0を出力する。STEP136では、STEP137の出力が0から1に変わった場合のみ戻し終了と判断する。
[保舵・操舵状態に応じたアシストトルク制御作用について]
保舵・操舵状態に応じたアシストトルク制御作用を、図24を用いて説明する。
図24(a)に示す操舵角特性により操舵角にてレーンチェンジを行うと、本発明による制御を行わないと図24(a)に示す操舵トルク特性が必要となる。
一般に、操舵から保舵になる場合に操舵力と保舵力には差があり、保舵力が操舵力より軽い方が扱い易くなる。本制御を用いると図24(a)の制御量特性に示すように、保舵になった場合に制御量を増加させているので、図24(b)に示すように、操舵トルクのリサージュ波形において、操舵トルクと保舵トルクの差が大きくなる。なお、他の作用は実施例1と同様であるので説明を省略する。
次に、効果を説明する。
実施例5の車両用操舵制御装置にあっては、実施例1の効果に加えて、下記の効果を得ることができる。
(12) ハンドルの保舵を判断する保舵状態判断部20を設け、前記操舵トルク微分制御部C部は、保舵直後は制御のゲインを大きくするため、操舵時のダンピングだけでなく、保舵後の操舵時の操舵トルク変化を大きくし、扱い易い操舵特性を実現することができる。
以上、本発明の車両用操舵制御装置を実施例1〜実施例5に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
実施例1〜5では、操舵制御手段として、二つのトルク微分を用い、応答性補償制御部B部と操舵トルク微分制御部C部と操舵トルク比例制御部D部との和により過渡的な操舵トルクの入力に対し所望のモータアシストトルク特性を出す例を示したが、要するに、過渡的な操舵トルクの入力に対し、入力直後は操舵トルク減少方向へ、その後は操舵トルクが増加方向へ、そして所定の時間遅れをもって定常トルクとなるようにアクチュエータトルクを発生する制御を行うものであれば、実施例で示した操舵制御手段に限られることはない。
実施例1〜5では、モータの逆起電力を利用してステアリングホイールの操舵速度を推測したが、ステアリングホイールに角度センサを取り付け、出力値を微分することで操舵速度としてもよいし、ステアリングホイールにタコジェネレータ等の角速度センサを取り付けても良い。更に、モータの角度や角速度を直接計測するセンサを取り付けても良いことはいうまでもない。
実施例1〜5では、操舵トルク微分制御部C部のゲインKを、操舵トルク・車速・操舵速度のそれぞれに応じて変化させる例を示したが、ゲインKを、操舵トルク・車速・操舵速度の3つのパラメータのいずれか一つ、または複数に応じて少なくとも1つに応じて変化させる構成としてもよい。
実施例1〜5では、操舵トルク微分制御部C部の1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク・車速・操舵速度のそれぞれに応じて変化させる例を示したが、1次遅れ時定数τdenを、操舵トルク・車速・操舵速度の3つのパラメータのいずれか一つ、または複数に応じて変化させる構成としてもよい。すなわち、応答性補償制御部B部と操舵トルク微分制御部C部のうち、少なくとも操舵トルク微分制御部C部のゲインを操舵状態や車両状態で変更させる構成が、本特許の根幹となる。
実施例3,4の操舵状態判断部13tは、操舵トルクと操舵速度の極性のみに着目したアルゴリズムとしたが、このアルゴリズムである必要はなく、他の判断手法や信号を用いてもよい。
実施例5の保舵状態判断部13xは、操舵トルクと操舵速度のみに着目したアルゴリズムとしたが、このアルゴリズムである必要はなく、他の判断手法や信号を用いてもよい。
実施例1〜5では、電動パワーステアリング装置のモータアシストトルク制御に適用した車両用操舵制御装置を示した。しかし、例えば、ソレノイドバルブによる制御で逆アシストが可能な油圧パワーステアリングリング装置の油圧アシストトルク制御にも適用することができるし、また、ステア・バイ・ワイヤ制御装置での操舵反力アクチュエータの反力制御に適用することもできるし、さらには、操舵輪である前輪に補助舵角を与えるアクチュエータを備えた補助舵角制御に適用することもできる。要するに、運転者からの操舵トルクを入力する操舵トルク入力手段(ステアリングホイール等)を有する操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両に適用することができる。
実施例1の車両用操舵制御装置が適用された電動パワ−ステアリングシステムを示す全体図である。 実施例1の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における操舵トルクに対するゲイン特性図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における車速に対するゲイン特性図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における操舵速度(モータ速度)に対するゲイン特性図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における操舵トルクに対する1次遅れ時定数特性図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における車速に対する1次遅れ時定数特性図である。 実施例1の操舵トルク微分制御部C部における操舵速度(モータ速度)に対する1次遅れ時定数特性図である。 制御特性の算出に用いる運動方程式の車両2輪モデルを示す図である。 図9に示すモデルを伝動パワーステアリングの制御モデルに書き換えた制御ブロック図である。 操舵トルクから操舵角への伝達関数のダンピングが良くなるように2次系となるアシスト特性計算した場合の厳密解と1次近似によるコントローラの周波数特性図である。 操舵トルクから操舵角への伝達関数のダンピングが良くなるように2次系となるアシスト特性計算した場合の厳密解と1次近似による操舵トルクに対する操舵角の周波数応答特性図である。 従来例の横G/操舵トルク周波数特性図である。 実施例1の応答性補償制御部B部と操舵トルク微分制御部C部と操舵トルク比例制御部D部との総和によるアシストトルク特性図及び応答性補償制御部B部と操舵トルク微分制御部C部とでの時定数・ゲイン・ゲイン絶対値の設定関係図である。 実施例2の操舵トルク微分制御部C部における操舵トルクに対するゲイン特性図である。 実施例2の操舵トルク微分制御部C部における操舵速度(モータ速度)に対するゲイン特性図である。 実施例3の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例3の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・戻しFLGのタイムチャートと操舵状態判断制御ブロック図である。 実施例3の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャート及び操舵角−トルク特性図である。 実施例4の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例4の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャート及び操舵角−トルク特性図である。 実施例5の車両用操舵制御装置の制御ブロック図である。 実施例5の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・戻しFLGのタイムチャートと操舵状態判断制御ブロック図である。 実施例5の車両用操舵制御装置においてレーンチェンジを行った場合の操舵角・操舵トルク・制御量のタイムチャート及び操舵角−トルク特性図である。
符号の説明
1 ステアリングホイール
2 舵取り機構
3 操舵軸
4 トルクセンサ
5 モータ(アクチュエータ)
6 ピニオン
7 ラック軸
8,9 タイロッド
10,11 転舵輪
12 減速機
13 コントローラ(操舵制御手段)
14 車速センサ
15 バッテリ
B部 応答性補償制御部(補償制御部)
C部 操舵トルク微分制御部
D部 操舵トルク比例制御部

Claims (12)

  1. 運転者からの操舵トルクが入力される操舵系に設けられたトルク制御用のアクチュエータと、該アクチュエータを制御する操舵制御手段と、を備えた車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、過渡的な操舵トルクの入力に対し、入力直後は操舵トルク減少方向へ、その後は操舵トルクが増加方向へ、そして所定の時間遅れをもって定常状態で発生するトルクとなるようにアクチュエータトルクを発生する制御を行うことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  2. 請求項1に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、操舵系の慣性補償・応答性補償を目的とした補償制御部と、操舵トルク微分制御部と、を有し、前記補償制御部のゲインの極性は正で、前記操舵トルク微分制御部のゲインの極性は負であり、且つ、前記操舵トルク微分制御部の時定数は、前記補償制御部の時定数より大きな値に設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  3. 請求項1または請求項2に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵制御手段は、操舵トルク微分制御部のゲイン絶対値を、補償制御部のゲイン絶対値より小さい値に設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  4. 請求項2または請求項3に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、ゲインを操舵トルクが大きくなるほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  5. 請求項2乃至4の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、ゲインを車速が高くなるほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  6. 請求項2乃至5の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、ゲインを操舵速度が速いほど大きな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  7. 請求項2乃至6の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、1次遅れ時定数を、操舵トルク、車速、操舵速度の少なくとも1つに応じて変化させる設定としたことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  8. 請求項2に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、ゲインを、操舵トルクが第1設定値までの直進操舵域までは一定値とし、操舵トルクが第1設定値から第2設定値までの操舵領域では操舵トルクが大きくなるほど大きな値とし、操舵トルクが第2設定値を超えると操舵トルクが大きくなるほど小さな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  9. 請求項2に記載された車両用操舵制御装置において、
    前記操舵トルク微分制御部は、ゲインを、操舵速度が第1設定値までの直進操舵域までは一定値とし、操舵速度が第1設定値から第2設定値までの操舵領域では操舵速度が速くなるほど大きな値とし、操舵速度が第2設定値を超えると操舵速度が大きくなるほど小さな値となるように設定したことを特徴とする車両用操舵制御装置。
  10. 請求項2乃至9の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断するハンドル切り/戻し判断手段を設け、
    前記操舵トルク微分制御部は、ハンドルの切り過程では制御量を第一の制限値に制限し、ハンドルの戻し過程では制御量を第一の制限値より小さい第二の制限値に制限することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  11. 請求項2乃至9の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの切り操作とハンドル戻し操作を判断するハンドル切り/戻し判断手段を設け、
    前記操舵トルク微分制御部は、ハンドルの切り過程では制御出力に第一のゲインを積算し、ハンドルの戻し過程では制御出力に第一のゲインより小さい第二のゲインを積算することを特徴とする車両用操舵制御装置。
  12. 請求項2乃至9の何れか1項に記載された車両用操舵制御装置において、
    ハンドルの保舵を判断する保舵判断手段を設け、
    前記操舵トルク微分制御部は、保舵直後は制御のゲインを大きくすることを特徴とする車両用操舵制御装置。
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