JP4522625B2 - 柑橘属発酵物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、健康機能の向上作用を増大させて付加価値を高め、飲料品や医薬品等に利用することができるように構成された柑橘属発酵物及びその製造方法に関するものである。より詳しくは、発酵原料としての柑橘果実又はその一部を微生物発酵処理することにより、その発酵原料中のフラバノン配糖体を微生物変換し、より健康機能向上作用の高い成分を生成させるように構成された柑橘属発酵物及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
柑橘属の果実は、果汁、果皮、じょうのう膜及びさのうから構成されており、ヘスペリジンやナリンジン等のフラバノン配糖体が多量に含有されている。前記ヘスペリジンやナリンジンには、抗アレルギー作用、抗ウィルス作用及び抗炎症作用があることが確認されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、柑橘属果実又はその一部を用いて前記フラバノン配糖体よりもさらに健康機能の向上効果が高い成分を効率よく得ることができたという知見に基づいてなされたものである。その目的とするところは、健康機能の向上作用を増大させてその付加価値を高めることができるように構成された柑橘属発酵物及びその製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の柑橘属発酵物は、黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)及びアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)から選ばれる少なくとも一種を用いて、柑橘属の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、前記柑橘属をミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区、ブンタン区若しくはダイダイ区、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区若しくはミカン区に属する柑橘とするとともに、前記発酵原料中よりも高濃度のフラバノンアグリコンを含有することを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に記載の発明の柑橘属発酵物は、黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)及びアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)から選ばれる少なくとも一種を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ブンタン区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、8‐ヒドロキシナリンゲニンを含有することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明の柑橘属発酵物は、黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはダイダイ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはミカン区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、8‐ヒドロキシヘスペレチンを含有することを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明の柑橘属発酵物は、黒麹菌としてアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはダイダイ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはミカン区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、8‐ヒドロキシヘスペレチンを含有することを特徴とする。
【0007】
請求項5に記載の発明の柑橘属発酵物は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の発明において、前記果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種は、柑橘属果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項6に記載の発明の柑橘属発酵物は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の発明において、抗酸化作用を有することを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明の柑橘属発酵物の製造方法は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の柑橘属発酵物の製造方法であって、前記黒麹菌を用いて、前記発酵原料を微生物発酵処理することを特徴とするものである。
【0010】
請求項8に記載の発明の柑橘属発酵物の製造方法は、請求項7に記載の発明において、前記微生物発酵処理に先立って、前記黒麹菌を含む培地を好気的条件下で振盪培養する予備培養処理を行った後、その予備培養処理後の培地を前記発酵原料に付着させて微生物発酵処理を行うようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項9に記載の発明の柑橘属発酵物の製造方法は、請求項7又は請求項8に記載の発明において、前記微生物発酵処理を2〜14日間行うことを特徴とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
柑橘属発酵物は、アスペルギルス属に分類される黒麹菌を用いて、柑橘属の果実又はその一部からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られるものである。この柑橘属発酵物には、有効成分として高い抗酸化作用を有する8−ヒドロキシヘスペレチン(8-hydroxyhesperetin)、又は8‐ヒドロキシナリンゲニン(8-Hydroxynaringenin)及び6‐ヒドロキシナリンゲニン(6-Hydroxynaringenin)が含有されており、例えば飲料品、食品、医薬品等の素材に添加して健康増進活性を有する健康食品や健康ドリンク等に利用される。また、この柑橘属発酵物には、前記発酵原料中よりも高濃度のフラバノンアグリコン(ヘスペレチンやナリンゲニン等)も含有されており、健康機能の向上に寄与している。なお、前記黒麹菌としては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)又はアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)が好適に使用される。
【0013】
発酵原料としては、インド北東部アッサム地方を起源とするミカン科ミカン亜科カンキツ属の柑橘が用いられる。これらの柑橘としては、ミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区(ライム、ベルガモット等)、ブンタン区(グレープフルーツ、スウィーティー、ポメロ、ブンタン、八朔、夏柑、安政柑、甘夏柑等)若しくはダイダイ区(スイートオレンジ、サワーオレンジ、鳴門、ダンカン、伊予柑等)、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区(ユズ、スダチ、カボス、日向柑等)若しくはミカン区(温州ミカン、地中海マンダリン、ポンカン、紀州ミカン等)に属する柑橘が挙げられる。
【0014】
これら発酵原料としては、収穫後の柑橘属果実又はその一部(その果実の構成成分)が用いられる。なお、これら発酵原料は、冷蔵保存又は冷凍保存されたものであっても構わない。前記柑橘属果実の構成成分としては、柑橘属果実から剥離、分離若しくは単離された柑橘属の果皮(アルベド及びフラベド)、じょうのう膜並びにさのうから選ばれる少なくとも1種が使用される。さらに、この発酵原料としては、果実から分離された部分を用いることもできるが、製造に要する手間を省くとともに柑橘属果実の有効利用を容易に図ることができることから、柑橘属果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣を使用するのが最も好ましい。この搾汁残渣には、柑橘属の果皮(アルベド及びフラベド)と、じょうのう膜と、さのうの一部と、搾汁しきれなかった極少量の果汁とが含まれている。
【0015】
この発酵原料中には、ヘスペレチン(hesperetin;3',5,7-trihydroxy-4'-methoxyflavanone;C16H14O6)とルチノースとの配糖体であるヘスペリジン(hesperidin)(ビタミンP)、ナリンゲニン(naringenin;4',5,7-trihydroxyflavanone)とネオヘスペリジオース(neohesheridiose)との配糖体であるナリンジン(naringin)等のフラバノン配糖体が含有されている。例えば、ライム区、ダイダイ区、ミカン区及びユズ区にはヘスペリジンが比較的多量に含有されるものが多く、ブンタン区にはナリンジンが多量に含有されるものが多い。
【0016】
微生物発酵処理は、前記黒麹菌を発酵原料に接種した後、所定の発酵条件下で黒麹菌に発酵原料中のフラバノン配糖体を微生物変換させる処理である。この微生物変換は、主として黒麹菌の栄養菌糸が生産するグルコシダーゼ(β−グルコシダーゼ)によりフラバノン配糖体からフラバノンアグリコンを遊離させるアグリコン生成過程と、その生成されたフラバノンアグリコンを、主として胞子形成期にある黒麹菌から生産されるヒドロキシラーゼによってヒドロキシ化するヒドロキシ化過程とを備えている。そして、これら両過程により、前記発酵原料が微生物変換された柑橘属発酵物中には、ヘスペレチンやナリンゲニン等のフラバノンアグリコンと、前記ヘスペレチン又はナリンゲニンがヒドロキシ化された8−ヒドロキシヘスペレチン(8-hydroxyhesperetin)、又は8‐ヒドロキシナリンゲニン(8-Hydroxynaringenin)及び6‐ヒドロキシナリンゲニン(6-Hydroxynaringenin)とが共存している。
【0017】
前記8−ヒドロキシヘスペレチンは、下記化1で示される構造を有している。
【0018】
【化1】
この8‐ヒドロキシヘスペレチンは、化学式がC16H14O7で、分子量が約319のフラボノイド化合物(3',5,7,8-tetrahydroxy-4'-methoxyflavanone 又は 2,3-dihydro-5,7,8-trihydroxy-2-(3-hydroxy-4-methoxyphenyl)-4H-1-benzopyran-4-one)であり、ヘスペレチンの8位に水酸基を備えた有機化合物である。この8−ヒドロキシヘスペレチンは、メタノール、エタノール及びジメチルスルフォキシド(DMSO)に可溶で、若干溶解性は悪いが水にも可溶である。さらに、前記ヘスペレチンには抗酸化作用がほとんど見られないのに対し、この8−ヒドロキシヘスペレチンはα−トコフェロール(ビタミンE)とほぼ同等又はそれ以上の抗酸化活性を有している。
【0019】
前記8‐ヒドロキシナリンゲニンは、下記化2で示される構造を有している。
【0020】
【化2】
この8‐ヒドロキシナリンゲニンは、化学式がC15H12O6で、分子量が約289のフラボノイド化合物(4',5,7,8-tetrahydroxyflavanone又は2,3-Dihydro-5,7,8-trihydroxy-2-(4-hydroxyphenyl)-4H-1-benzopyran-4-one)であり、ナリンジンの8位に水酸基を備えた有機化合物である。この8−ヒドロキシナリンゲニンは、メタノール、エタノール及びDMSOに可溶で、若干溶解性は悪いが水にも可溶である。さらに、前記ナリンゲニンには抗酸化作用がほとんど見られないのに対し、この8−ヒドロキシナリンゲニンはα−トコフェロール(ビタミンE)とほぼ同等又はそれ以上の抗酸化活性を有している。
【0021】
前記6‐ヒドロキシナリンゲニンは、下記化3で示される構造を有している。
【0022】
【化3】
この6‐ヒドロキシナリンゲニンは、化学式がC15H12O6で、分子量が約289のフラボノイド化合物(4',5,6,7-tetrahydroxyflavanone又は2,3-Dihydro-5,6,7-trihydroxy-2-(4-hydroxyphenyl)-4H-1-benzopyran-4-one)であり、ナリンゲニンの6位に水酸基を備えた有機化合物である。この6−ヒドロキシナリンゲニンは、メタノール、エタノール及びDMSOに可溶で、若干溶解性は悪いが水にも可溶である。さらに、前記ナリンゲニンには抗酸化作用がほとんど見られないのに対し、この6−ヒドロキシナリンゲニンはα−トコフェロール(ビタミンE)にかなり近い抗酸化活性を有している。
【0023】
黒麹菌を発酵原料に接種する方法としては、黒麹菌の胞子を発酵原料に直接振りかけて付着させることができる。また、予め黒麹菌を含む培地を好気的条件で振盪培養する予備培養処理を行った後、その予備培養処理後の培地を発酵原料全体に行き渡るように振りかけて付着させたり、前記予備培養後の培地中に発酵原料を浸漬させることによって接種することも可能である。これらの接種方法のうち、発酵原料の微生物発酵処理が比較的均一に進むことから、予備培養処理後の培地を発酵原料に振りかけて付着させるのが最も好ましい。
【0024】
前記予備培養処理は、微生物発酵処理に用いられる黒麹菌を予め十分に増殖させるとともに活性化させることによって、微生物発酵処理を迅速かつ円滑に進行させるために行われる。この予備培養処理は、20〜40℃の好気的条件下で最低5日以上行われ、好ましくは黒麹菌の菌糸体が培地表面を3分の1程度覆う状態となるまで行われる。
【0025】
前記培地としては、ポテトデキストロース含有培地やツァペック培地等の糸状菌用培地又はオカラ等の有機物を含有する種々の液体培地が好適に使用される。さらに、この予備培養処理では、黒麹菌の生育を良好にするために、培養開始時点における培地のpHを3〜7に調整するのが好ましい。また、前記振盪培養する際の振盪速度としては、好ましくは50rpm/分以上、より好ましくは50〜200rpm/分である。この振盪速度が50rpm/分未満の場合には、黒麹菌を含有した培地全体が好気的でないため、菌糸の増殖が十分にできない。また、振盪速度が200rpm/分を越える場合には、培地の揺れが激しく、黒麹菌の菌体形成が抑制されるおそれがある。
【0026】
上記予備培養処理により活性化された黒麹菌を発酵原料に接種する場合の微生物発酵処理条件としては、微生物発酵処理を好気的条件で行うことが容易であることから、例えば有底筒状に形成された培養皿等の底部が広く深さが浅い培養容器が好適に用いられる。さらに、この培養容器の底面に万遍なく発酵原料を広げるように載置するとよい。また、発酵温度としては、黒麹菌の生育に好適な条件として、好ましくは10〜40℃、より好ましくは20〜40℃で行われる。加えて、黒麹菌の生育に好適な条件として、暗所で微生物発酵処理を行うのが好ましい。
【0027】
8−ヒドロキシヘスペレチンを多量に得るための微生物発酵処理の発酵期間としては、好ましくは2〜14日、より好ましくは2〜10日、さらに好ましくは3〜8日である。この発酵期間が2日未満の場合には、黒麹菌による微生物発酵がほとんど進行していないことから十分な量の8−ヒドロキシヘスペレチンが生成されていない。逆に14日を越える場合には、微生物変換により生成された8−ヒドロキシヘスペレチンの分解が進み、抗酸化作用が低下する。
【0028】
8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンを多量に得るための微生物発酵処理の発酵期間としては、好ましくは2〜14日、より好ましくは2〜10日、さらに好ましくは3〜8日である。この発酵期間が2日未満の場合には、黒麹菌による微生物発酵がほとんど進行していないことから十分な量の8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンが生成されていない。逆に14日を越える場合には、微生物変換により生成された8−ヒドロキシナリンゲニン又は6−ヒドロキシナリンゲニンの分解が進み、抗酸化作用が低下する。
【0029】
また、フラバノンアグリコン(ヘスペレチン、ナリンゲニン等)を多量に得るための発酵期間としては、好ましくは2〜12日、より好ましくは2〜9日、さらに好ましくは3〜7日である。この発酵期間が2日未満の場合には、黒麹菌による微生物発酵がほとんど進行していないことから十分な量のフラバノンアグリコンが生成されていない。逆に12日を越える場合には、微生物変換により生成されたフラバノンアグリコンの分解が進むおそれがある。
【0030】
上記微生物発酵処理により得られる柑橘属発酵物は、発酵により繊維質の分解が進み非常にもろくて崩れやすい状態となる。柑橘属発酵物中には発酵途中で繊維質の分解が不充分な発酵原料や発酵中に形成された接種菌株の菌糸体等の固形分が存在しており、その固形分は微生物発酵処理前の発酵原料と比較し、体積で約10分の1程度となる。この柑橘属発酵物は、そのまま飲料品、食品、医薬品等の素材に添加するか、或いはミキサーやホモジナイズ処理した後に前記素材に添加して利用することが可能である。また、前記柑橘属発酵物中に生成された抗酸化作用等を有する有効成分を精製した後、前記素材中に添加するように構成してもよい。
【0031】
この柑橘属発酵物中の有効成分を精製する際には、まず、接種菌体及び未発酵原料を主体とする固形分を取り除く固形分除去処理が行われる。この固形分除去処理は、前記固形分を含有する柑橘属発酵物を極性溶媒中に浸漬させ、有効成分を溶媒中に移行させて抽出した後、ガーゼ、粗メッシュ等で濾過又は2000×g、30分間程度の軽い遠心分離を行って固形分を取り除く処理である。なお、前記柑橘属発酵物を極性溶媒中で抽出する際の抽出条件としては、常温で2時間以上抽出するのが抽出効率の面からも好ましい。
【0032】
前記極性溶媒としては、メタノール、エタノール、それらの水溶液又は水が好適に用いられる。また、ブタノールやイソプロパノール等の低級アルコール又はそれらの水溶液も使用可能である。さらに、この極性溶媒としては、大量の柑橘属発酵物を処理する場合の経済的な観点から、好ましくはメタノール、その水溶液又は水が用いられ、精製コスト面から最も好ましくは水が用いられる。また、飲料品、食品、医薬品等の素材にそのまま添加する場合には、エタノール、その水溶液又は水を用いるのが好ましい。また、黒麹菌を死滅させて微生物発酵を停止させるためには、メタノール、エタノール又はその高濃度(例えば20容量%以上)の水溶液を用いるのが好ましい。
【0033】
さらに、前記固形分除去処理後の柑橘属発酵物中に含まれるペクチンを主体とする水溶性繊維成分を分離除去するための繊維分除去処理を行うことも可能である。この繊維分除去処理は、前記固形分除去処理後の柑橘属発酵物を遠心分離して、水溶性繊維成分を(遠心管等の底部に)沈澱させることによって除去する処理である。なお、この繊維分除去処理は、前記極性溶媒としてメタノール又はエタノールを用いた場合には11000×g、20分間程度の遠心力で遠心分離すればよく、前記極性溶媒として水又は水溶液を用いた場合にはそれよりも強い遠心力で遠心分離される。
【0034】
上記実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 柑橘属発酵物は、アスペルギルス属に分類される黒麹菌を用いて、柑橘属の果実又はその一部からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られるものである。このため、この柑橘属発酵物は、前記発酵原料中に含まれるフラバノン配糖体が黒麹菌により微生物変換されたフラバノンアグリコンが高濃度で含有されており、それらフラバノンアグリコンが有する抗炎症作用や抗酸化作用等により健康機能の向上効果を発揮することができる。また、この柑橘属発酵物中には、同黒麹菌により微生物変換された8−ヒドロキシヘスペレチン、8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンから選ばれる少なくとも1種のフラボノイド化合物が含有されており、微生物発酵処理前の発酵原料と比較して極めて高い抗酸化作用を発揮することができる。
【0035】
そして、この柑橘属発酵物は、主として前記フラボノイド化合物により生体内で活性酸素を消去して過酸化脂質の生成を抑制し、酸化ストレスに起因する癌、動脈硬化、糖尿病の合併症等の生活習慣病の予防に役立てることができるうえ、酸化ストレスを低減させることができる。さらに、前記フラバノンアグリコン及びフラボノイド化合物により、健康の維持や疲労の回復等に役立てることができ、その付加価値を容易に高めることができる。さらに、この柑橘属発酵物は、飲料品、食品、医薬品等の素材に添加することによって健康食品や健康ドリンク等の様々な製品に利用することが可能であることから、柑橘属の利用拡大を容易に図ることができる。
【0036】
・ 発酵原料として柑橘属果実から果汁を搾汁した後の残渣を用いることによって、果汁よりも高い濃度でフラバノン配糖体が含有されていることから、前記フラバノンアグリコン及びフラボノイド化合物の製造効率を容易に高めることができる。加えて、前記搾汁残渣は、これまでほとんど利用されることがなく廃棄処分されていたものであることから、本実施形態の柑橘属発酵物を製造するための原料として用いることにより、その有効利用を図ることができるとともに製造コストを容易に低減させることができる。そのうえ、柑橘属発酵物の製造後には、前記発酵原料の10分の1程度の固形分が廃棄処分されるにとどまり、廃棄物の体積を顕著に減量させることができる。このため、廃棄にかかる運搬コストを容易に低減させることができるうえ、食品リサイクル法を遵守するのが極めて容易となる。
【0037】
・ 柑橘属発酵物は、黒麹菌を用いて、柑橘属の果実又はその一部からなる発酵原料を微生物発酵処理することにより、前記発酵原料中に含まれるフラバノン配糖体を微生物変換してフラバノンアグリコンを生成させることによって製造される。また、8−ヒドロキシヘスペレチン、8−ヒドロキシナリンゲニン及び6−ヒドロキシナリンゲニンから選ばれる少なくとも1種のフラボノイド化合物も生成させることができる。このため、高い健康機能向上効果を発揮するとともにその付加価値を高めることができる柑橘属発酵物を極めて容易に製造することができる。
【0038】
さらに、前記微生物発酵処理に先立って黒麹菌の予備培養処理を行うことにより、微生物発酵処理に用いる黒麹菌を予め十分に増殖させるとともに活性化させ、微生物発酵処理を迅速かつ円滑に進行させることができる。加えて、微生物発酵処理を2〜14日間行うことによって、多量のフラバノンアグリコン及びフラボノイド化合物を含有する柑橘属発酵物を容易に製造することができる。
【0039】
また、固形分除去処理により柑橘属発酵物中の固形分を取り除くことによって、取り扱い性や機能成分の濃度を容易に向上させた柑橘属発酵物を容易に製造することができる。さらに、この取り除かれた固形分は、次の微生物発酵処理における発酵スターターとしても再利用することが可能であり、この場合には廃棄物をより一層減量させることができる。
【0040】
前記固形分除去処理に続いて、繊維分除去処理により柑橘属発酵物中の水溶性繊維成分を取り除くことによって、抗酸化作用をより一層増強させた柑橘属発酵物を容易に製造することができる。さらに、この取り除かれた水溶性繊維成分は、整腸作用を有する機能性食品や飲料品等に添加して再利用することが可能であり、柑橘属の利用拡大及び有効利用をさらに効果的に図ることができる。
【0041】
【実施例】
以下、前記実施形態を具体化した実施例及び比較例について説明する。
<柑橘属発酵物の製造>
本実験では、柑橘属の微生物発酵処理に際し以下の菌株を使用した。なお、ATCCはAmerican Type Culture Collection、RIBは国税庁醸造研究所、IAMは(財)応用微生物学研究奨励会より分譲を受けた菌株を示す。
アスペルギルス・ニガー属
・Aspergillus niger ATCC−10549、38857
アスペルギルス・アワモリ属(ニガー属と分けない分類もある)
・Aspergillus awamori RIB−2804
・Aspergillus shirousami IAM−2414、RIB−2503
・Aspergillus usami IAM−2185、RIB−2001
アスペルギルス・フェニシス属
・Aspergillus saitoi IAM−2210
これら菌株の予備培養処理は、pHを5.0に調整し、121℃、15分間オートクレーブ滅菌したポテトデキストロース−ブロス培地(DIFCO社製)をフラスコ内に500ml用意し、培地が十分に冷めた後に分譲菌株を接種し、100rpmの好気的条件下で振盪培養することにより行った。そして、培地に菌を接種して7日以上経過し、フラスコ内で菌体が十分に育成された予備培養処理後の培地液を微生物発酵処理に用いる接種用菌とした。
【0042】
(実施例1―1:ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ブンタン区)
ブンタン区に属する柑橘としてグレープフルーツやスウィーティー、ブンタン、ハッサク等が知られている。それらの中で代表的なものとしてグレープフルーツ(スタールビー種)を選択し微生物発酵処理を実施した。
【0043】
柑橘発酵原料には、グレープフルーツ果実と、その果実から果汁を搾汁した後に残った搾汁残渣との2種類を用いた。グレープフルーツ果実は果実を8等分にカットしたもので、搾汁残渣はグレープフルーツ果実のうち、果皮とじょうのう膜及びさのうの一部が残ったもの(極僅かながら果汁も含まれている)である。本実験では、前記発酵原料を通気性が良くなるように予めオートクレーブ滅菌した底部の広い容器(有底円筒状の容器)に万遍なく広げて置き、上記接種用菌をその発酵原料全体に行き渡るように振りかけることにより接種を行った。菌を接種した後の果実及び搾汁残渣は、30℃の恒温室内で暗黒条件下にて微生物発酵処理を行った。
【0044】
そして、上記菌株接種後所定日数経過後の各グレープフルーツ発酵物をサンプリングし、−20℃の冷凍庫にて冷凍保管した。次に、前記微生物発酵処理後のサンプル(固形分を含むグレープフルーツ発酵物)を100gあたり500mlのエタノールに浸漬させ、37℃の暗黒条件下で2日間、有効成分の抽出操作を行った。抽出後の液を11000×gで30分間遠心分離し、得られた上澄み液を以下の分析に使用した。
【0045】
(実施例1―2:ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区)
ライム区に属する柑橘としてライム、ベルガモット等が知られている。それらの中で代表的なものとしてライムを選択し、上記実施例1−1と同様に微生物発酵処理を実施した。
【0046】
(実施例1―3:ミカン科カンキツ属初生カンキツ亜属ダイダイ区)
ダイダイ区に属する柑橘としてオレンジやダイダイ、イヨカン等が知られている。それらの中で代表的なものとしてオレンジ(バレンシア)を選択し、上記実施例1−1と同様に微生物発酵処理を実施した。
【0047】
(実施例1―4:ミカン科カンキツ属後生カンキツ亜属ミカン区)
ミカン区に属する柑橘として温州ミカンやマンダリン、ポンカン等が知られている。それらの中で代表的なものとして温州ミカン(以下ミカンと表記する)を選択し、上記実施例1−1と同様に微生物発酵処理を実施した。
【0048】
(実施例1―5:ミカン科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区)
ユズ区に属する柑橘としてユズやスダチ、カボス、日向夏等が知られている。それらの中で代表的なものとしてユズを選択し、上記実施例1−1と同様に微生物発酵処理を実施した。
【0049】
(比較例1)
上記各種柑橘の未発酵の発酵原料(果実及び搾汁残渣)100gを500mlのエタノールに浸漬させ、37℃の暗黒条件下で2日間、有効成分の抽出操作を行った。抽出後の液を11000×gで30分間遠心分離して得られた上澄み液をコントロールとして以下の分析に使用した。
【0050】
<抗酸化活性の測定>
実施例1の各種柑橘属発酵物(各種柑橘属果実及び搾汁残渣発酵物抽出液)と、比較例1の各種柑橘未発酵物抽出液とを用いて、DPPH(1,1-Diphenyl-2-picrylhydrazy)によるラジカル捕捉能の測定を実施した。
【0051】
本試験に使用する試薬の準備として、DPPH20mgをエタノール100mlに溶解させた後0.80μmのミリポアフィルターで濾過することにより、500μMのDPPH溶液を作製した。また、バッファーにはTris緩衝液(0.2M、pH7.4)を用いた。
【0052】
まず、前記DPPH溶液2mlとTris緩衝液0.8mlとを混合した混合液に、各サンプル液を0.2ml加えて合計3mlの反応液を調製し、ボルテックスでよく攪拌した後に室温暗所に置き20分間反応させた。なお、コントロール(ブランクテスト)としては、前記サンプル液の代わりに水0.2mlを使用して同様に反応を行った。また、比較のため、前記サンプル液の代わりに50〜100μMの範囲内の各種濃度のα−トコフェロール標準液0.2mlを加えた区分も用意し、同様に反応を行った。
【0053】
次に、各反応液を再度攪拌した後、マイクロシリンジを用いて各反応液10μlを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(島津製作所製のLC−10A)にインジェクトした。このHPLCの溶媒には、十分に脱気したメタノール/蒸留水=70/30を使用し、流速1ml/分の条件で測定を行った。測定用のカラムにはTSK−GEL OCTYL−80TS(150×4.6mm I.D.)、カラム温度35℃、UV検出器の波長は517nmで測定を行った。
【0054】
溶出開始からおよそ9分後にDPPHのピークが出現することから、そのピーク高さ(HEIGHT)を測定し、下記数1により各サンプルのDPPHラジカル捕捉能(%)を求めた。結果を表1〜表6に示す。
【0055】
【数1】
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
その結果、菌種による差異としてアスペルギルス・ニガーは抗酸化能の上昇が見られるのが早く、アスペルギルス・サイトイでは逆に抗酸化能の上昇がやや遅くなる傾向が確認された。さらに、各柑橘属間の比較では、最適な発酵菌種に違いが見られたものの、ごく一部を除きほぼすべての区で微生物発酵処理前と比較して抗酸化能の向上が確認された。また、果実よりも搾汁残渣の方が抗酸化能が高い傾向があることも確認された。なお、上記α−トコフェロール標準液50,75,100,125μMを加えた区分のラジカル捕捉能はそれぞれ18.2,40.6,52.9,69.5%であった。従って、柑橘果実及び搾汁残渣(果皮、じょうのう膜及びさのう)を、アスペルギルス・ニガーやアスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ(フェノシス)に分類される黒麹菌を用いて2〜14日間微生物処理することにより、極めて高い抗酸化能を持つ柑橘属発酵物が得られることが確認された。以下に、各柑橘及び搾汁残渣それぞれの結果について詳細を記す。
【0062】
(グレープフルーツ果実及び搾汁残渣:ブンタン区)
グレープフルーツ果実発酵物の中では、Aspergillus awamori RIB-2804 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵果実と比較し30%以上抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus niger、Aspergillus shirousami 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0063】
グレープフルーツ搾汁残渣発酵物の中では、Aspergillus shirousami IAM-2414 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵搾汁残渣と比較し2倍程度の抗酸化能の向上が確認された。Aspergillus niger 、Aspergillus awamori、Aspergillus usami 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0064】
(ライム果実及び搾汁残渣:ライム区)
ライム果実発酵物の中では、Aspergillus niger ATCC-10549 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵果実と比較し3倍弱程度まで抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus awamori 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0065】
ライム搾汁残渣発酵物の中では、Aspergillus awamori RIB-2804 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵搾汁残渣と比較し20〜30%程度抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus niger 、Aspergillus shirousami 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は、Aspergillus shirousami及びAspergillus niger を除き7〜10日が最適との結果となった。
【0066】
(オレンジ果実及び搾汁残渣:ダイダイ区)
オレンジ果実発酵物の中では、Aspergillus saitoi IAM-2210 で5日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵果実と比較し40%程度抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus niger でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は5〜10日が最適との結果となった。
【0067】
オレンジ搾汁残渣発酵物の中では、Aspergillus saitoi IAM-2210 で13日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵搾汁残渣と比較し60〜70%程度の抗酸化能の向上が確認された。Aspergillus niger 、Aspergillus shirousami 及び Aspergillus awamori でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜14日が最適との結果となった。
【0068】
(ミカン果実及び搾汁残渣:ミカン区)
ミカン果実発酵物の中では、Aspergillus niger ATCC-10549 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵果実と比較し40%以上抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus awamori 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0069】
ミカン搾汁残渣発酵物の中では、Aspergillus awamori RIB-2804 で9日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵搾汁残渣と比較し10〜20%倍程度の抗酸化能の向上が確認された。Aspergillus niger 、Aspergillus shirousami及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0070】
(ユズ果実及び搾汁残渣:ユズ区)
ユズ果実発酵物の中では、Aspergillus niger ATCC-10549 で7日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵果実と比較し2倍近く抗酸化能が向上していることが確認された。Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0071】
ユズ搾汁残渣発酵物の中では、Aspergillus niger ATCC-10549 で7日間微生物発酵処理した区分が最も高い抗酸化活性を示し、未発酵搾汁残渣と比較し2倍以上の抗酸化能の向上が確認された。Aspergillus awamori 及び Aspergillus saitoi でも発酵前と比較し抗酸化能の向上が確認された。発酵期間は7〜10日が最適との結果となった。
【0072】
<柑橘属発酵物中の有効成分の確認>
上記実施例1で得られた各柑橘属発酵物中に含まれる有効成分(代表的なフラバノン配糖体、フラバノンアグリコン、8−ヒドロキシヘスペレチン(8OH−HE)及び8−ヒドロキシナリンゲニン(8OH−NA))の含有量を以下の方法で確認した。なお、前記含有量は、発酵原料の湿重量(Fresh Weight)100gから生成された重量(mg)を示す(以下、便宜的にmg/100gFWと記載する)すなわち、上記実施例1及び比較例1で得られた各柑橘属発酵物(果実及び搾汁残渣発酵物抽出液)と、コントロールの未発酵物抽出液とを高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製LC10A)を用いて、下記分析条件にて成分の分析を行い、各柑橘属果実及び搾汁残渣の微生物発酵処理前後における各有効成分の変動について確認を実施した。
Column : YMC-Pack ODS-A A303 (250x4.6mmI.D.)
Mobile phase : 40%methanol-water
Flow rate : 1ml/min
Injection volume : 10μl
Column Temperature: 40℃
紫外吸光度 : λ=280nm
なお、この実験では、先に我々が単離した8−ヒドロキシヘスペレチン(特願2001−73577の<ヘスペリジン変換物の製造>)、8−ヒドロキシナリンゲニン、6−ヒドロキシナリンゲニン(特願2001−93020の<ナリンジン変換物の製造>)及びフラバノン配糖体のエリオシトリンをそれぞれ100ppm濃度でエタノール中に溶解させた標準サンプルと、市販のフラバノン配糖体(ナリンジン、ナリルチン、ネオエリオシトリン、ヘスペリジン、ネオヘスペリジン)、及び市販のアグリコン(ナリンゲニン、エリオディクティオール、ヘスペレチン)をそれぞれ100ppmの濃度でエタノール又はジメチルスルフォキシド(DMSO)中に溶解させた標準サンプルを作成し、これら標準品を前記抽出液と同条件にて分析し、各抽出液中における含有量(mg/100gFW)を定量した。結果を上記表1〜表6に示す。
【0073】
その結果、微生物発酵処理前の段階で各発酵原料中にフラバノン配糖体は非常に多量に含まれていたものの、フラバノンアグリコン及び8OH−HE及び8OH−NAはほとんど存在していないことが確認された。柑橘の種類により差はあるが同じ重量で比較すると果実よりも搾汁残渣のほうがフラバノン配糖体を高濃度で含んでいることから、フラボノイド変換を目的とする処理を行う場合、搾汁残渣は非常に好適な発酵原料であるといえる。
【0074】
また、上記の結果は、柑橘の果実及び搾汁残渣にアスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ及びアスペルギルス・サイトイ等の黒麹菌を接種し微生物発酵処理を進めていくことで、柑橘の果実及び搾汁残渣中に大量に存在するフラバノン配糖体が減少し、その代わりにフラバノンアグリコン、8OH−HE及び8OH−NAの生成が見られたものと理解される。このフラバノン配糖体からフラバノンアグリコン、8OH−HE及び8OH−NAへの変換は、黒麹菌由来酵素の作用によりフラバノン配糖体(ヘスペリジンやナリンジン)についている糖が切断されてフラバノンアグリコン(ヘスペレチンやナリンゲニン)になり、さらに、生成されたフラバノンアグリコンの一部に黒麹菌由来の酵素が働き水酸基が付加されて8OH−HE、8OH−NA又は6−ヒドロキシナリンゲニン(6OH−NA)が生成されたものであると考えられる。なお、6OH−NAは8OH−NAと比較し生成量が少ないため、今回実施したHPLCの分析では柑橘属の発酵物がごく小さいピークしか検出されなかったためデータには示さなかった。
【0075】
上記のように黒麹菌由来の酵素の働きにより、フラバノン配糖体から変換されたフラバノンアグリコンは、抗アレルギー作用、抗ウィルス作用、抗炎症作用等の種々の健康機能向上作用を有し、かつ体内への吸収性を向上させるというメリットがある。さらにフラバノンアグリコンに水酸基が付与された8OH−HE、8OH−NA及び6OH−NAは、柑橘属発酵物の抗酸化能をより一層高めることに寄与する。
【0076】
また、上記結果から、フラバノンアグリコン、8OH−HE、8OH−NA等の生成量が多いサンプルでは、DPPHラジカル捕捉能もほぼ比例しつつ高まる傾向が見られ、微生物発酵処理により生成されたフラバノンアグリコン、8OH−HE及び8OH−NAは、柑橘属発酵物全体の抗酸化能にとって大きく寄与していることが確認された。微生物を用いた発酵のため各サンプルで多少のバラツキがある点を差し引けば、フラバノンアグリコン、8OH−HE、8OH−NAの変換効率の優れている菌株(アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ及びアスペルギルス・サイトイ)は、抗酸化能の評価とほぼ相関した結果が得られたといえる。
【0077】
以上の結果から、黒麹菌を用いて微生物発酵処理することにより、抗酸化能の低かったフラバノン配糖体がより抗酸化能が高く体内吸収性に優れたフラバノンアグリコン、8OH−HE及び8OH−NAに変換されたことが確認された。さらに、それら変換物を含有する柑橘属発酵物は、非常に高い抗酸化作用を発揮し、健康機能を著しく向上させる働きを有することが強く示唆される。
【0078】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 発酵原料として柑橘属果実から搾汁した果汁を用いてもよい。
・ 柑橘属発酵物中に、好ましくは0.5mg/100gFW以上、より好ましくは0.8〜100mg/100gFW、より一層好ましくは3〜60mg/100gFWのヘスペレチンを含有するとよい。
【0079】
・ 柑橘属発酵物中に、好ましくは1.0mg/100gFW以上、より好ましくは1.3〜500mg/100gFW、さらに好ましくは10〜300mg/100gFWのナリンゲニンを含有するとよい。
【0080】
・ 柑橘属発酵物中に、好ましくは0.3mg/100gFW以上、より好ましくは0.8〜100mg/100gFW、さらに好ましくは1.0〜20mg/100gFWの8−ヒドロキシヘスペレチンを含有するとよい。
【0081】
・ 柑橘属発酵物中に、好ましくは0.3mg/100gFW以上、より好ましくは1.0〜100mg/100gFW、さらに好ましくは1.0〜20mg/100gFWの8−ヒドロキシナリンゲニンを含有するとよい。また、柑橘属発酵物中に発酵原料よりも高濃度の6−ヒドロキシナリンゲニンを含有するとよい。
【0082】
・ 柑橘属発酵物(特にライム区の柑橘)中に、好ましくは0.1mg/100gFW以上、より好ましくは2.0〜50mg/100gFW、さらに好ましくは3〜20mg/100gFWのエリオディクティオールを含有するとよい。
【0083】
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0084】
・ 前記フラバノンアグリコンは、ヘスペレチン又はナリンゲニンであることを特徴とする前記柑橘属発酵物。
【0085】
・ 前記発酵原料をライム区、ダイダイ区、ミカン区又はユズ区に属する柑橘とするとともに、前記フラバノンアグリコンをヘスペレチンとすることを特徴とする前記柑橘類発酵物。前記発酵原料をライム区及びミカン区に属する柑橘とするとともに、前記フラバノンアグリコンをヘスペレチンとすることを特徴とする前記柑橘類発酵物。
【0086】
前記発酵原料をブンタン区に属する柑橘とするとともに、前記フラバノンアグリコンをナリンゲニンとすることを特徴とする前記柑橘類発酵物。
【0087】
・ 前記発酵原料よりも高い抗酸化活性を有することを特徴とする請求項6に記載の柑橘属発酵物。
【0088】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明によれば、次のような効果を奏する。
本発明の柑橘属発酵物によれば、健康機能の向上作用を増大させてその付加価値を高めることができる。本発明の柑橘属発酵物の製造方法によれば、健康機能の向上作用を増大させてその付加価値を高めることができる柑橘属発酵物を容易に製造することができる。
Claims (9)
- 黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)及びアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)から選ばれる少なくとも一種を用いて、柑橘属の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、
前記柑橘属をミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区、ブンタン区若しくはダイダイ区、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区若しくはミカン区に属する柑橘とするとともに、
前記発酵原料中よりも高濃度のフラバノンアグリコンを含有することを特徴とする柑橘属発酵物。 - 黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)及びアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)から選ばれる少なくとも一種を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ブンタン区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、
8‐ヒドロキシナリンゲニンを含有することを特徴とする柑橘属発酵物。 - 黒麹菌としてアスペルギルス・アワモリ属(Aspergillus awamori)を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはダイダイ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはミカン区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、
8‐ヒドロキシヘスペレチンを含有することを特徴とする柑橘属発酵物。 - 黒麹菌としてアスペルギルス・フェニシス属(Aspergillus phoenicis)を用いて、柑橘属としてミカン科ミカン亜科カンキツ属初生カンキツ亜属ライム区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはダイダイ区の果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、又はミカン科ミカン亜科カンキツ属後生カンキツ亜属ユズ区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種、若しくはミカン区の果実、果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種からなる発酵原料を微生物発酵処理することによって得られ、
8‐ヒドロキシヘスペレチンを含有することを特徴とする柑橘属発酵物。 - 前記果皮、じょうのう膜及びさのうから選ばれる少なくとも1種は、柑橘属果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の柑橘属発酵物。
- 抗酸化作用を有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の柑橘属発酵物。
- 請求項1から請求項6のいずれかに記載の柑橘属発酵物の製造方法であって、
前記黒麹菌を用いて、前記発酵原料を微生物発酵処理することを特徴とする柑橘属発酵物の製造方法。 - 前記微生物発酵処理に先立って、前記黒麹菌を含む培地を好気的条件下で振盪培養する予備培養処理を行った後、その予備培養処理後の培地を前記発酵原料に付着させて微生物発酵処理を行うようにしたことを特徴とする請求項7に記載の柑橘属発酵物の製造方法。
- 前記微生物発酵処理を2〜14日間行うことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の柑橘属発酵物の製造方法。
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