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JP4500901B2 - 複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材とその製造方法 - Google Patents

複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、ニホウ化マグネシウム(MgB2)が、2種以上の金属管から形成される複合シース内に充填され、一体化された複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材とその製造方法に関するものである。
従来、超電導材料として、ニオブチタン(NbTi)、ニオブ3錫(Nb3Sn)等の金属系のものが知られている。しかし、これらの金属系超電導材料には、臨界温度が最も高いニオブ3ゲルマニウム(Nb3Ge)でも23K(ケルビン)であり、冷却に高価な液体ヘリウムを使用しなければならないという問題があった。
一方、高温超電導体として、1986年4月に臨界温度が30Kのランタン(La)酸化物系の超電導体が発見されて以降、臨界温度が液体窒素の沸点温度(77K)を超えるイットリウム(Y)系、ビスマス(Bi)系、タリウム(Tl)系、水銀(Hg)系の酸化物系超電導体が相次いで発見された。しかし、これらは、いわゆるセラミックスで構成されていることから、加工性が悪く、長尺均質性に優れる線材を得ることが困難であるという問題があった。また、酸化物系超電導体は、磁気異方性が大きいため、超電導相の結晶方位を揃える必要があった。つまり、基板またはシース材の上に結晶軸の1軸あるいは2軸が配向したものを用いることが高性能化のポイントであった。このことから、結晶方位を揃える制御が非常に難しく、歩留まりやコストの点で課題が山積していた。
21世紀に入って、ニホウ化マグネシウム(MgB2)が39Kで超電導を示すことが発見された。この材料は、主に以下の特徴が知られている。
(1)臨界温度が39Kと、従来の金属系超電導体と比べて20K以上高い。
(2)臨界磁界が20T程度あるいはそれ以上と、従来の金属系超電導体より大きい。
(3)輸送臨界電流密度は、最大で1000A/mm2オーダーである。
(4)磁気異方性が小さく、結晶のa軸、b軸およびc軸のどの方向にも同様の電流を流すことができる。
このように、MgB2超電導体は、臨界温度、臨界磁界ともに金属系超電導体より高いため、超電導マグネットに適用すれば、クエンチ事故のない極めて安定したシステムを構築することができるという顕著なメリットが生じる。また、臨界温度が高いため、液体ヘリウムを冷媒として用いる必要がなく、液体水素などの冷媒が利用可能になる。
一方、これまでに開発されてきたMgB2超電導体を用いた超電導マグネットは、性能の最も高い液体ヘリウム温度においても、発生磁場は1T程度であって、金属系超電導体を用いた超電導マグネットが20T程度であることと比較すると、一桁低いのが現状である。
MgB2長尺線材の高性能化のための基本的な線材作製プロセスとして、酸化物系超電導体で用いられているパウダー・イン・チューブ法をはじめとする各種の手法が検討されている(たとえば、特許文献1参照)。しかし、公知の手法では、まだ、長尺線材における性能向上や熱的安定性を十分に達成することは難しく、線材の断面構造や製造条件の詳細を検討する必要があった。
ところで、超電導線材の最終形状としては、丸や平角線材の方がテープ状線材に比べ汎用性がある。たとえば、超電導マグネットへの適用を考えた場合、マグネットの径方向や軸方向での磁場均一度が重要なファクターになるが、用いる線材の加工精度により大きく異なる。つまり、加工精度の良好な丸線や平角線を用いると、高い磁場均一度を有するマグネットが実現可能であるが、加工精度の向上に難があるテープ状線材では磁場均一度の向上には限界がある。
超電導線材の製造に際しては、通常、金属パイプ中に線材を複数本組み込み、縮径加工(減面加工ともいう)を施すことで、丸あるいは平角形状の長尺線材を得ている。たとえば、外径25mm、長さ1mのビレットは、減面加工によって外径1mmにすると、約500mの長尺の超電導線材となる。長尺線材を作製するためには、減面加工は必要不可欠であり、加工度の大きく取れる製造方法が望ましい。最適な加工度は、超電導線材によって変化すると考えられる。すなわち、加工度が低すぎても、高すぎても高い臨界電流密度は得られず、超電導線材によって許容加工度が存在すると予想される。減面加工前の初期外径をd1、加工後の外径をd2とすると、加工度は、以下のとおりに求められる。
加工度=[1−(d2/d1)2]×100 (%)
また、超電導線材の製造に際しては、交流損失対策として超電導フィラメントをツイストすることがある。交流で使用する場合は、通常、あるピッチでツイスト加工することでその目的が達せられている。
特開2002−352649号公報
超電導マグネットとして使用する線材としては、高い臨界電流密度を有すること、長尺化が可能であること、電気的な安定性があることが最低限必要であり、形状は丸線あるいは平角線で、かつツイスト加工が施されていることが望ましい。
MgB2超電導体の現状での第一の問題点は、4.2Kにおけるコイルの発生磁場が高々1T程度であって、実用に供するにはまだ小さすぎる点である。本格的な工業応用を考えるには、長尺線材で高い臨界電流密度を維持する技術を完成することが必要である。ここでの最大の課題は、すでに知られている短尺のMgB2超電導線の高い性能を、いかにしてコイルを構成可能なほど十分に長い線材において達成するかという工業的手段が確立していない点である。公知の短尺線の性能がそのまま長尺の線材で実現するならば、容易に工業材料として利用可能な5T〜7Tを超えるような磁界発生が実現しても何ら不思議なことではない。
ところが、従来、MgB2超伝導線を使用して作製したコイルを用いて、永久電流により磁気エネルギーを蓄積することができたという報告はない。その理由は、超電導部の臨界電流性能が永久電流を実現することができるほど十分に高くないからである。これは、長尺線材の製造プロセスにおいて、MgB2超電導線材を高性能化する工程が最適化されていないことによると考えられる。MgB2超電導体を工業的に広く適用可能とするためには、最低でも3Tの磁界発生を可能なレベルにし、さらに望ましくは、永久電流による運転を可能にする長尺線材の製造技術を確立する必要がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、実用線材とするために必要な、高臨界電流密度化、長尺線材化、高安定化を同時に達成することのできるMgB2超電導線材とその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
本発明者らは、これまで、主に酸化物系超電導線材およびそのマグネットへの応用を目指した研究開発を進めてきた。この中で、高性能の超電導線材を作製するために必要不可欠な項目として、特に以下の4項目が重要であることを明らかにしてきた。すなわち、
(1)超電導体と熱的に反応しない金属被覆材の選定
(2)最終形状に加工した際の超電導体の充填密度
(3)結晶粒同士の接合性の向上
(4)量子化された磁束線をトラップして、侵入した磁束線を動かないようにするピンニングセンターの導入
である。以上の4項目を同時に実現することで、高い特性を有する超電導線材が得られる。
しかし、臨界電流密度は、物質固有の値ではなく、超電導線材の製造方法にも大きく依存する。このため、従来の酸化物系超電導線材および金属系超電導線材に適用してきた製造方法だけでは、MgB2超電導線材の臨界電流密度はあまり向上しないことが分かった。したがって、超電導材料によってそれぞれ最適化を行う必要があり、MgB2超電導体についても独自の検討が必要になった。
そこで、本発明者らは、上記の課題を解決することに注力し、MgB2超電導線材とその製造方法を鋭意検討した結果、課題を解決する手段を見出した。この手段を適用することにより、加工精度に優れる丸形状でも平角形状でも、高い臨界電流密度と高い安定性を持った長尺線材が容易に製造可能となる。
上記手段は、少なくとも2種の異なる種類の金属管を組み合わせた複合金属管から形成される複合シース中にニホウ化マグネシウムが内包された複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材であって、最外周に銅あるいは銅合金が配置され、その内部にFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼が配置され、最外周の銅あるいは銅合金の内面、または最外周の銅あるいは銅合金の内部に配置されるFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼の外面に銅めっきが施され、加工度99%以上になるまで減面加工され、最外周の銅あるいは銅合金の割合が、線材の全断面積の15%以上であり、かつ最外周の銅あるいは銅合金および超電導コア部の合計の割合が線材の全断面積の85%以下であり、温度580℃〜900℃の真空中または不活性ガス中で熱処理されたものであることを特徴とする。
外周の銅あるいは銅合金の内面、または最外周の銅あるいは銅合金の内部に配置されるFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼の外面に銅めっきを施すと、加工性が向上する。
80℃未満の熱処理温度ではMgB2の生成反応が進まず、臨界電流が向上しない。900℃を超えた温度で熱処理を行うと、MgB2の結晶粒の粗大化が促進され、粒界部分に超電導電流を阻害する非超電導物質(MgB4、MgやBの酸化物)の析出が顕著となる。その結果、粒界部分で臨界電流が極端に低下するため、マクロ的に見た線材全体の臨界電流が低下する。
また、上記手段は、MgB2単芯線または多芯線が、ツイスト加工されて複合シース中に複数本組み込まれているものであることを特徴とする。ツイスト加工により、交流で使用する場合に問題となる各種交流損失を改善することができる。
さらに、上記手段は、最外周に配置される銅あるいは銅合金の外周管の内面、またはFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼から選択され、外周管の内部に配置される内周管の外面に銅めっきを施す工程と、外周管と内周管が組み合わされた複合金属管から形成される複合シースの内周管にマグネシウム粉末およびホウ素粉末の混合粉末あるいはニホウ化マグネシウムの合成粉末を充填する工程と、粉末充填後の線材を99%以上の加工度になるまで減面加工し、最外周に配置された銅あるいは銅合金の割合を線材の全断面積の15%以上であり、かつ最外周の銅あるいは銅合金および超電導コア部の合計の割合を線材の全断面積の85%以下とする工程と、580℃〜900℃の真空中または不活性ガス中で熱処理する工程を含むことを特徴とする。
本発明によれば、実用線材とするために必要な、高臨界電流密度化、長尺線材化を同時に達成することができる。液体ヘリウムによる冷却はもちろんのこと、液体水素、液体ネオン、冷凍機伝導冷却等による冷却によっても機器の運転が可能となり、かつ磁場中においても高い臨界電流密度が得られる。
粉末原料については、全てを一度に混合する方法や、一部を混合した後に残りを混合する方法がある。マグネシウム粉末には平均粒径50μm以下のものを、ホウ素粉末には平均粒径5μm以下のものを用いることによって、高い臨界電流密度が得られる。平均粒径を細かくすることにより、結晶粒同士の反応性が良好になるためである。ナノメートルオーダーにまで粒径を細かくすると効果的である。両粉末については、機械的に混合し、さらに微粉化することで、粉末の表面に存在する酸化層等を除去することができる。
また、マグネシウム粉末およびホウ素粉末に、0.2原子%〜30原子%の鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、タングステン、酸化珪素、炭化珪素、窒化珪素等を単独あるいは複合して添加すると、臨界電流密度が向上する。
さらに、200℃〜1200℃の範囲内で窒素ガス、アルゴンガス、水素ガス、酸素ガスの単独あるいは複合した雰囲気中で、かつ大気圧以上の圧力下で熱処理を行うと、結晶粒同士の接合性が改善され、臨界電流密度が向上する。
線材を作製する際には、混合粉末を成形し、焼結させた後、適当なサイズに粉砕したものをパイプ状の金属シース材に充填して塑性加工を施すパウダー・イン・チューブ法、混合粉末を成形した成形体をパイプ状の金属シース材に充填し、塑性加工を施すロッド・イン・チューブ法等を採用することができる。その場合、超電導体と金属シース材が熱的に反応し、臨界電流密度が低下するおそれがあるので、超電導体と直接接する金属シース材には、超電導体と反応しない材料を選択する。また、金属シース材の肉厚比があまり大きくない場合、高い加工度となると、超電導コア部がシースを突き破って表面から露出することがあるため、最終的な金属シース材の肉厚が、超電導コア部の厚みの1/2程度となるように設計しておくことが好ましい。さらに、超電導線材が、超電導状態から常電動状態に遷移する際に、一気に高い抵抗(電圧)が発生して線材が溶断しないように、電気抵抗の低い金属を線材の断面内に組み込む。このことにより、電気的な安定性が大きく改善される。特に電気抵抗が低い銅あるいは銅合金を使用し、これが最外周に配置されていれば、安定性のみならず、加工性も向上し、長尺線材化に有効となる。また、最外周に配置される銅あるいは銅合金の外周管の内面または外周管の内部に配置される内周管の外面に銅めっきを施すことにより、異種金属間の接合性が向上し、加工性がさらに良好となる。このため、加工途中の中間焼鈍の回数を大幅に減少させることができる。また、1パスあたりの加工度が向上し、最終径まで加工するパス回数が大幅に減少する。これらのことは、低コスト化に極めて有効である。
実際に、めっき処理を行わない場合は、99.9%の加工度で断線し、それ以上の加工が困難となるが、めっき処理を行うことにより、99.98%の加工度まで断線することなく線材を作製することができる。めっき処理には、電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、真空めっき等の一般的なめっき法が適用可能である。
一方、銅をシース材として適用したニホウ化マグネシウム超電導線材の場合、ニホウ化マグネシウムを生成させるために必要な温度で熱処理を行うと、超電導コア部中のマグネシウムと銅が反応し、超電導特性が大きく低下する場合がある。そこで、超電導コア部と銅との間には超電導コア部と反応しないバリア層を設けることが好ましい。このバリア層には、Fe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼を用いると、特性低下が起こらない。このようなバリア層についても、厚みが薄いと、加工度が増大した場合に破損するおそれがあるので注意を要する。
線材の縮径加工には、ドローベンチ、静水圧押出、スエージャー、カセットローラーダイスあるいは溝ロールを用いることができ、1パス当たりの断面減少率が1%〜20%程度の伸線加工を繰り返し行う。必要に応じて多芯化することができ、多芯化に際しては、一般に、丸断面形状あるいは六角断面形状に伸線加工した線材を多芯用の金属パイプの中に組み込み、1パス当たりの断面減少率を1%〜20%程度として所定の線径まで伸線する方法が採られる。
縮径加工は、線材を所望の形状にするとともに、金属シース材内に充填された超電導粉末を高密度化する作用がある。さらに緻密化を図るために、たとえば、冷間あるいは熱間圧延機で加工し、平角状あるいはテープ状の断面とし、必要に応じて適切な温度や雰囲気において熱処理することができ、高い臨界電流密度を有する線材を作製することができる。
上記の方法以外にも、たとえば、溶射法、ドクターブレード法、ディップコート法、スプレーパイロシス法あるいはジェリーロール法等により作製した線材を用いても、同等の超電導特性を得ることが可能である。作製した線材は、目的に応じて2本以上複合させてスパイラル状に巻くことや、リード線状やケーブル線状に成形して利用することができる。
熱処理では、超電導体の特性を高めるため、熱処理雰囲気が適宜選択される。たとえば、酸素ガス、窒素ガス、アルゴンガスを単独あるいは混合したガスを適当な流量だけ気流または封入して熱処理する。MgB2超電導体では、蒸気圧の高いマグネシウムが熱処理中に飛散して組成ずれを起こし、超電導特性が劣化することがあるため、たとえば、マグネシウム焼結体を同時に熱処理等して、擬マグネシウム雰囲気を作った状態で熱処理すると効果的である。また、金属シース材にマグネシウムを含有させることも同様な効果を奏する。
本発明により製造される超電導線材を、たとえば、液体ヘリウム中で使用する場合、臨界磁場の高い金属系超電導体や酸化物系超電導体と組み合わせた構造とすることで、より強い磁場を発生する超電導マグネット等の実用導体を実現することができる。金属系超電導体としては、Nb3Sn系化合物、Nb3Al系化合物、V3Ga系化合物、シェブレル系化合物を用いることができ、必要に応じて2種以上のマグネットを配置する。酸化物系超電導体としては、Y系、Bi系、Tl系、Hg系、Ag−Pb系が好ましく例示される。
また、本発明により製造される超電導線材を、液体水素、液体ネオン中で使用する場合には、酸化物系超電導体と組み合わせることにより、より高性能の超電導マグネット等が実現される。
線材の形状は、丸あるいはアスペクト比の小さい平角状であれば、マグネットにおける磁場均一度が大幅に向上し、たとえば、核磁気共鳴装置等では超高感度のイメージングを実現することが可能となる。
以下、本発明の実例を示す。ただし、本発明は、以下の実例に限定されるものではない。
平均粒径が30μm以下のマグネシウム粉末(Mg純度:99%)と平均粒径が2μm以下のアモルファス状ホウ素粉末(B純度:99%)を用い、マグネシウムとホウ素が原子比で1:2となるように秤量し、アルゴン雰囲気中で10分〜60分間混合した。混合粉末を、外径15mm、内径11mm、長さ500mmの鉄(Fe)パイプに充填した。Feパイプの両端を封止した後、外径18mm、内径15.5mm、長さ540mmの銅(Cu)パイプに組み込むことにより、Cu/Feの複合シースとした。
また、加工度の効果を確認するために、外径6.67mm、内径4.89mm、長さ500mmのFeパイプに上記混合粉末を充填し、両端を封止した後、外径8mm、内径6.89mm、長さ540mmのCuパイプに組み込んで、Cu/Feの複合シースとした。パイプ径の差はあるが、コア部の割合は両者で同じとした。
1パス当たりの断面積の減少率が3%〜20%の範囲内となるように伸線加工を繰り返し、丸断面となるまで縮径した。種々の加工度で作製した線材をサンプリングして各々の臨界電流密度を測定し、加工度と臨界電流密度の関係について調べた。
図1は、作製した超電導線材1の断面構造を示した模式図である。実例1では、超電導線材1は、外周管2にCuパイプ、内周管3にFeパイプが配置され、内周管3の中に超電導コア部4が内包されている。外周管2および内周管3は、以上の例に限定されるものではなく、外周管2をCu合金、内周管3をニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、炭素鋼、ステンレス鋼等とすることができる。また、外周管2と内周管3との間に接合助剤を挿入し、加熱処理によって拡散接合すると、加工性が向上し、長尺線材化には一層効果的である。
図2は、実例1で作製したCu/Fe複合シースMgB2単芯線材の製造工程である。
例1では、1.60mm〜0.55mmまでの線径を有する線材を作製した。外径18mmから伸線を開始した場合、線径0.55mmのときの加工度はおよそ99.9%であるが、加工中に一度も焼鈍を入れなくても99%という大きな加工度まで無断線で伸線することができた。
このようにして作製した線材に、アルゴン雰囲気中で、630℃、1時間の熱処理を施し、MgB2超電導線材を作製した。得られた線材のシースを剥がし、内部の粉末部分を微小部X線で回折分析を行った。その結果、ピーク強度比換算でMgB2超電導体が98%以上含まれていることが分かった。MgB2以外には、若干のMgO、MgB4という非超電導相が含まれていた。
例1で作製した超電導線材1の臨界温度を直流四端子法で測定したところ、全て38Kで超電導状態となることが分かった。次に、加工度を変えた線材の臨界電流密度を温度4.2K、磁場6T中で直流四端子法により測定した。その結果は、図3に示したとおりである。
加工度は、前述したとおり、以下のように算出した。
加工度=[1−(d2/d1)2]×100 (%)
図3から明らかなように、加工度が99%未満の場合、磁場6T中での臨界電流密度は約200A/mm2であまり差がなかった。しかし、加工度が99%以上となると、臨界電流密度が加工度とともに向上し、加工度が99.46%のとき300A/mm2、99.75%のとき400A/mm2、99.87%のとき500A/mm2を超える臨界電流密度が得られた。
以上の結果は、線材の加工度と臨界電流密度には相関関係があって、ニホウ化マグネシウム超電導線材の高臨界電流密度化には、99%以上の加工度に減面加工することが重要であることを示している。
例1のようにして作製した混合粉末を、内周管3としての外径15mm、内径11mm、長さ250mmの純鉄(Fe)パイプに充填した。Feパイプの両端を封止した後、外周管2としての外径18mm、内径15.5mm、長さ290mmの(a)Cuパイプ、(b)Cu−Ag合金パイプ、(c)Cu−Ni合金パイプ、(d)炭素鋼パイプ、(e)ステンレス鋼パイプ、(f)Nbパイプの6種類に組み込み、複合シースとした。
作製した線材の断面構造は、図1に示すとおりである。これら6種類の複合シース線材を伸線加工した。その結果、外周管2にCuパイプあるいはCu合金パイプを配置した場合には、およそ99.9%の加工度となるまで伸線することができた。一方、それ以外の複合シース材では、90.0%〜97.2%の加工度で線材が断線した。表1に断線したときの加工度と線材の臨界電流密度を示す。
加工性が劣る炭素鋼、ステンレス鋼、Nbパイプを外周管2に配置した場合、断線という問題に加え、温度4.2K、磁場6T中における線材の臨界電流密度が低下する。走査型顕微鏡により断線した線材の断面組織を観察した結果、いずれの線材も断線の1パス〜5パス前の伸線時に外周管2および内周管3に亀裂が生じていることが確認された。したがって、これらの線材では、伸線加工後の超電導化させる熱処理の際に、その亀裂部から蒸気圧の高いMgが大気中に蒸発し、線材内部の超電導コア部4が組成ずれ(ホウ素リッチ)することが分かった。
以上の結果は、線材の最外周に配置するシース材と、加工性あるいは臨界電流密度とは相関関係があり、両者を向上させるには、最外周にCuあるいはCu合金を配置することが重要であることを示している。
外周管2のCuパイプと内周管3のNbパイプの肉厚を変化させ、線材全体におけるCuの割合とNbの割合を変えた以外は、実例1と同様のプロセスで、Cu/Nbの複合シースMgB2超電導線材を作製した。実例3では、Cuが線材全体の0.5%〜20%となるように調整した。
仮にCuが安定化材としての効果を発揮するならば、臨界電流近傍で通電を終了すれば、ジュールの法則にしたがった発熱(電流×電流×抵抗)による温度上昇が生じても、線材は焼損しないはずである。このことを明らかにするため、Cuの割合を変えた線材を温度4.2K、磁場4T中で臨界電流を直流四端子法により測定した。Cuの割合を変化しても、超電導コア部4の割合は全て同等であるため、いずれも臨界電流は約400Aと一定である。臨界電流に換算すると、約850A/mm2である。
表2に、臨界電流の400Aに対して105%となる420Aまで通電した場合の線材の外観状態を示した。
Cuの割合が15%以上では線材の焼損(溶断)は確認されなかったが、それよりも少ないと、通電時に線材の温度が上昇し、焼損することが分かった。
外周管2をCu−Ag、Cu−Niに代表されるCu合金パイプにした場合でも、同様の結果が得られた。
以上の結果から、最外周のCuあるいはCu合金は、線材の全断面積の15%以上は確保しておくことが重要であることが分かった。
次に、最外周のCuを線材の全断面積の15%に固定し、バリア層として機能する内周管3としてのNbパイプが、線材の全断面積の8%〜30%となるように調整した。このことは、最外周のCuと超電導コア部4の合計の割合が線材の全断面積92%〜70%に相当する。
そして、最外周のCuと超電導コア部4の合計の割合と臨界電流密度との関係について調べた。その結果が、表3である。
Cuと超電導コア部4の合計が、全断面積の85%以下のときには、温度4.2K、磁場4T中で約850A/mm2の臨界電流密度が得られた。一方、85%を超えると、臨界電流密度は一気に低下し、87%では140A/mm2、92%では120A/mm2となった。このような臨界電流密度の低下の原因を走査型電子顕微鏡により調査した結果、バリア層である内周管3としてのNbパイプが一部破損し、最外周のCuと超電導コア部4が直接接触している箇所が存在した。その部分を組成分析すると、CuとMgの反応層が生成しており、これが性能低下を引き起こした原因となっていることが分かった。
なお、内周管3としてのNbパイプをFeやTaパイプに替えても同様の結果になることが確認された。また、最外周のCuあるいはCu合金は、最低でも線材の全断面積の15%を確保しておかないと、電気的に極めて不安定となることが確認された。
以上の結果から、高臨界電流密度化と高安定化を同時に達成するには、最外周のCuあるいはCu合金の割合を線材の全断面積の15%以上、かつCuあるいはCu合金と超電導コア部4の合計の割合を線材の全断面積の85%以下とすることが重要であることが分かった。
内周管3としてのNbパイプの外面に電気めっき法で厚さ0.5mm以下のCuめっきを施した以外は、同様のプロセスでCu/Nb複合シースMgB2超電導線材を作製した。この線材を伸線加工した結果、外径0.25mmまで無断線で加工することができた。加工度に換算すると、99.98%である。
作製した線材の臨界電流密度を温度4.2K、磁場6T中で直流四端子法により測定した。その結果、実例1と同様に、加工度が増加するにしたがって臨界電流密度が向上し、加工度が99.98%のとき、575A/mm2の臨界電流密度が得られた。
この結果は、内周管3として、Fe、Ta、Tiパイプを採用する場合にも同様であり、さらに、最外周のCuの内面にCuめっきを施しても同様であった。
以上の結果は、最外周のCuあるいはCu合金の内面、またはCuあるいはCu合金の内部に配置される金属管の外面にCuめっきを施すことが、線材の長尺化と臨界電流密度の向上に有効であることを示している。
例1のようにして、Cu/Fe複合シース線材およびCu/Nb複合シース線材を作製した。これらの線材を用いて熱処理条件を検討した。熱処理温度は、500℃〜950℃の範囲で行った。このとき、電気炉内の雰囲気は、(1)真空中、(2)Arフロー中、(3)N2フロー中、(4)大気中の4種類とした。
表4に、各条件で熱処理した線材の温度4.2K、磁場6T中における臨界電流密度を示した。
表4から明らかであるように、温度が580℃〜900℃の範囲内で、かつ雰囲気が真空中、Ar中、N2中で熱処理した場合に、高い臨界電流密度が得られることが分かった。線材内部をX線回折および走査型電子顕微鏡観察した結果、580℃未満の温度ではMgB2が生成していないことが分かった。900℃を超える温度で熱処理をした場合には、MgB2相以外の非超電導相が粗大化し、電流パスを妨げていることが確認された。また、大気中で熱処理を行うと、結晶粒の表面に絶縁体である酸化膜が形成され、臨界電流密度の低下を引き起こすことも分かった。
以上の結果は、複合シースMgB2超電導線材の臨界電流密度と熱処理条件には相関関係があり、臨界電流密度を向上させるためには、温度580℃〜900℃の真空中または不活性ガス中で熱処理することが有効であることを示している。
例1と同様のプロセスで作製したMgB2超電導線材1を、7本1組としてツイスト加工し、図6に示したような7本撚り線材5とした。ツイストピッチは30mmとした。そして、ツイスト加工した7本撚り線材5を多芯用金属シース材6に組み込んだ。多芯用金属シース材6にはCuパイプを用いた。7本撚り線材5を多芯用金属シース材6に組み込む際には若干の隙間が生じるが、加工を行うことで両者は密着してほぼ一体化する。
伸線加工を行い、最終的に外径0.75mm〜1.2mmの超電導多芯線材を得た。実例6では7芯としたが、芯数は適宜変更することができる。
なお、各超電導線材1の金属シース材にはCu/Fe複合シースを用いた。
伸線加工した結果、ツイスト加工した線材が充填されていても、断線することなく所定の径まで加工することができた。
作製した外径1.2mmのMgB2超電導多芯線材を温度600℃、Ar雰囲気で熱処理し、臨界温度を直流四端子法で測定した。38Kで超電導状態になった。臨界電流密度は、温度4.2K、磁場6T中で測定した結果、290A/mm2であった。
また、作製したMgB2超電導多芯線材の交流損失を磁場中で測定した。比較のため、ツイスト加工していない多芯線材についても同様に測定した。印加磁場は0.005T〜0.5T、周波数は50Hzとした。その結果、ツイスト加工したMgB2超電導多芯線材は、ツイスト加工していないものに比べ、交流損失がおよそ1/10に低減することが分かった。
したがって、交流応用の場合には、線材の長手方向にツイスト加工された超電導多芯線材を使用することにより、トータルの交流損失を大幅に低減することができることが明らかとなった。
本発明のMgB2超電導線材は、広く超電導機器に適用することが可能で、たとえば、大型マグネット、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、超電導電力貯蔵装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引上装置、冷凍機冷却超電導マグネット装置、磁気浮上列車等に利用することができる。また、各機器の高効率化が達成される。
本発明のMgB2超電導線材の断面構造を示した模式図である。 本発明のMgB2超電導線材を製造するための工程の一例を示したフロー図である。 例1で作製したMgB2超電導線材の加工度と臨界電流密度の関係を示すグラフである。 ツイスト加工したMgB2超電導多芯線材の断面構造を示した模式図である。
符号の説明
1 MgB2超電導線材
2 外周管
3 内周管
4 超電導コア部
5 7本撚り線材
6 多芯用金属シース材

Claims (3)

  1. 少なくとも2種の異なる種類の金属管を組み合わせた複合金属管から形成される複合シース中にニホウ化マグネシウムが内包された複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材であって、
    最外周に銅あるいは銅合金が配置され、その内部にFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼が配置され、最外周の銅あるいは銅合金の内面、または最外周の銅あるいは銅合金の内部に配置されるFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼の外面に銅めっきが施され、
    加工度99%以上になるまで減面加工され
    最外周の銅あるいは銅合金の割合が、線材の全断面積の15%以上であり、かつ最外周の銅あるいは銅合金および超電導コア部の合計の割合が線材の全断面積の85%以下であり、
    温度580℃〜900℃の真空中または不活性ガス中で熱処理されたものである
    ことを特徴とする複合シース二ホウ化マグネシウム超電導線材。
  2. 請求項1に記載の複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材であって、単芯線または多芯線が、ツイスト加工されて複合シース中に複数本組み込まれていることを特徴とする複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材。
  3. 最外周に配置される銅あるいは銅合金の外周管の内面、またはFe、Nb、Ta、Ti、炭素鋼あるいはステンレス鋼から選択され、外周管の内部に配置される内周管の外面に銅めっきを施す工程と、
    外周管と内周管が組み合わされた複合金属管から形成される複合シースの内周管にマグネシウム粉末およびホウ素粉末の混合粉末あるいはニホウ化マグネシウムの合成粉末を充填する工程と、
    粉末充填後の線材を99%以上の加工度になるまで減面加工し、最外周に配置された銅あるいは銅合金の割合を線材の全断面積の15%以上であり、かつ最外周の銅あるいは銅合金および超電導コア部の合計の割合を線材の全断面積の85%以下とする工程と、
    580℃〜900℃の真空中または不活性ガス中で熱処理する工程
    とを含むことを特徴とする複合シースニホウ化マグネシウム超電導線材の製造方法。
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