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JP4587855B2 - ガスセンサ素子の処理方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスセンサ素子の処理方法に係り、特に、被測定ガス中に含まれるNOxやSOx等の、結合酸素を有するガス成分を測定するガスセンサ素子において、そのガス測定特性を改善するための処理方法に関するものである。
従来から、被測定ガス中に含まれるNOxやSOx等の結合酸素を有する被測定ガス成分を測定するガスセンサ素子を備えたNOxセンサやSOxセンサ等が、燃焼ガス中や内燃機関の排気ガス中のNOxやSOx等の測定装置として、一般に使用されている。そして、かかるNOxセンサやSOxセンサ等のガスセンサには、様々な構造を有するものがあり、その中の一種として、被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめ得る貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極が固体電解質上に積層形成されてなる電気化学的セルを含むガスセンサ素子を有して構成されたものが、知られている。
このような構造を有するガスセンサのセンサ素子うち、例えばNOxセンサ素子は、その内部構造の一例を概念的に示す図1から明らかなように、ZrO2 等の酸素イオン伝導性の固体電解質体10を有しており、この固体電解質体10の内部に、第一拡散律速部12を介して、固体電解質体10の先端側において外部に連通せしめられた第一内部空所14と、第二拡散律速部16を介して第一内部空所14に連通せしめられた第二内部空所18と、固体電解質体10の基部側において開口して、大気に連通せしめられた基準空気導入通路20とが、それぞれ設けられている。これによって、固体電解質体10の外部に存在する被測定ガスが、第一拡散律速部12を通じて、所定の拡散抵抗の下に、第一内部空所14内に導びかれ、また、かかる第一内部空所14内の雰囲気(被測定ガス)が、所定の拡散抵抗の下に、第二内部空所18内に導入せしめられる一方、固体電解質体10の基部側開口部を通じて、基準空気導入通路20内に、基準空気が導入せしめられるようになっている。
また、かかるNOxセンサ素子にあっては、固体電解質体10における第一内部空所14の形成部位たる第一固体電解質体部分22と、この第一固体電解質体部分22における第一内部空所14内への露呈部位と外部空間への露呈部位とにそれぞれ形成された内側ポンプ電極24と外側ポンプ電極26とからなる電気化学的セルにて、主ポンプセル28が構成されると共に、第二内部空所18と基準空気導入通路20とを隔てる第二固体電解質体部分30と、この第二固体電解質体部分30の第二内部空所18内への露呈部位と基準空気導入通路20内への露呈部位とにそれぞれ形成された測定用電極32と基準電極34とからなる電気化学的セルにて、測定用ポンプセル36が構成されている。更に、第一及び第二固体電解質体部分22,30と、内側ポンプ電極24と基準電極34とからなる電気化学的セルにて、酸素分圧検出セル38が構成されている。なお、図1中、40は、NOxセンサ素子を加熱するヒータである。
これによって、かかるNOxセンサ素子では、主ポンプセル28の二つの電極24,26間に、図示しない可変電源にて、所望の電圧が印加せしめられて、所定の方向に電流が流されることにより、第一内部空所14内の雰囲気(被測定ガス)中の酸素が、外部の被測定ガス存在空間に汲み出され、或いはそれとは逆に、外部の被測定ガス存在空間から、酸素が、第一の内部空所14内に汲み入れられ得るようになっており、また、第一内部空所14内の雰囲気と基準空気導入通路20内の基準空気との間の酸素濃度差に基づいて、酸素分圧検出セル38の二つの電極24,34間に発生する起電力が、所定の電位差計(図示せず)等にて測定され得るようになっている。更に、測定用ポンプセル36の二つの電極32,34間に、図示しない定電圧電源から所望の電圧が印加せしめられることにより、第二内部空所18内の雰囲気(被測定ガス)中の酸素が、基準空気導入通路20に汲み出され得るようになっている。そして、そのような測定用ポンプセル36の測定用電極32が、特に、NOxを還元乃至は分解し得るロジウム(Rh)等の貴金属材料とジルコニア(ZrO2 )等のセラミックス材料からなる多孔質サーメットにて構成されて、NOxの還元乃至は分解触媒として機能せしめられ得るように構成されている。
かくして、かくの如き構造とされたNOxセンサ素子にあっては、主ポンプセル28による酸素のポンピング作用にて、第一内部空所14内に、酸素がポンプイン又はポンプアウトされると共に、酸素分圧検出セル38にて検出される第一内部空所14内の雰囲気中の酸素分圧の値に基づいて、主ポンプセル28の二つの電極24,26間に電圧を印加せしめる可変電源の電圧が制御されることにより、第一内部空所14内の雰囲気中の酸素分圧が、NOxが還元されない所定の、望ましくは低い値に制御されるようになっている。そして、この酸素分圧が制御された第一内部空所14内の雰囲気が、第二拡散律速通路16を通じて第二内部空所18に導かれて、第二内部空所18内で、NOxの還元乃至は分解触媒として機能する測定用電極32にて、かかる雰囲気中のNOxが還元され、その際に生成する酸素が、測定用ポンプセル36による酸素のポンピング作用により、第二内部空所18から基準空気導入通路20にポンプアウトされるようになっており、またこのとき、第一内部空所14内の雰囲気中の酸素分圧(酸素濃度)が一定に制御されているために、測定ポンプの測定用電極32と基準電極34との間に、NOxの濃度に比例したポンプ電流が流れるようになっている。
而して、このような従来のNOxセンサ素子においては、測定ポンプにおけるポンプ電流値が測定されることにより、その測定値に基づいて、被測定ガス中のNOxの濃度が求められるようになっているのである。
ところで、このような構造を有する従来のガスセンサ素子のガス測定感度について、本発明者等が、NOxセンサ素子を用いた様々な実験を行ったところ、かかる従来のガスセンサ素子において、以下の如き問題点が内在していることが判明した。
すなわち、上述の如き構造を有する、製造後、未だ測定に供されていない未使用のNOxセンサ素子について、それを実際に車に装着して、その耐久評価試験を行った結果、かかるNOxセンサ素子においては、その測定開始から約50時間程度の経過時点で、NOx測定感度が20%程度減少し、その後、安定するといったNOx測定感度の初期劣化が生ずることが認められ、また、そのような未使用のNOxセンサ素子を用いて、NOxを含まない被測定ガス中のNOx濃度を測定したところ、本来ならば、ポンプ電流値が0となって、NOx濃度が0となるはずが、約0.8μA程度のポンプ電流値が検出されて、それに応じたNOx濃度が測定されるといったNOx測定感度の初期オフセットが発生することも確認された。
そして、これらの結果から、従来のガスセンサ素子においては、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化と初期オフセットとが不可避的に惹起せしめられ、それが、被測定ガス中の被測定ガス成分の測定に際して悪影響を及ぼしていることが判明したのである。
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を測定するガスセンサ素子において、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化や初期オフセットの発生を有利に解消乃至は抑制することが出来、以て、被測定ガス成分の測定特性を向上せしめ得る技術を提供することにある。
而して、かかる課題の解決のために、本発明者等は、先ず、被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を測定するガスセンサ素子において、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化や初期オフセットが生ずる原因について、種々検討を行った。そして、ガスセンサ素子として、製造後、未だ測定に供されていない、未使用のNOxセンサ素子を用いた、燃焼ガス中のNOの測定試験を繰り返し行った結果、以下の如き事実が判明した。
すなわち、未使用状態のNOxセンサ素子を用いたNOxの測定開始から、その測定時間がある程度経過するまでは、NOxセンサ素子における測定用電極の表面上でNOが還元乃至は分解される際に生じたN(窒素)の一部が測定用電極上に吸着されて、NOの還元乃至は分解に活性な電極面積が徐々に減少するといった現象が生じ、しかも、そのような測定用電極表面上へのNの吸着現象は、Nの吸着量が所定の量に達した時点で略停止するようになることが、判明した。
また、貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極は、その形成のための焼結時に、貴金属材料が不可避的に酸化される。そのため、未使用のNOxセンサ素子を初めて使用して、NOx濃度を測定する際には、酸化した貴金属材料がNOxと共に還元され、そこで放出される酸素が、NOxの還元により発生する酸素と共にポンプアウトされる。それ故、NOxセンサ素子の使用の初期段階(測定開始当初)においては、NOxから生ずる酸素をポンプアウトする際に、測定用電極の酸化した貴金属材料から発生する酸素をポンプアウトする分だけ、余分なポンプ電流が流れることとなることも、判明したのである。
かくして、これらの判明事実から、ガスセンサ素子において惹起される被測定ガス成分の測定感度の初期劣化が、未使用のガスセンサ素子を用いた、目的とする被測定ガス成分の測定開始から、所定の測定時間が経過するまでの間に、被測定ガス成分における酸素との結合成分の一部が、限られた量において、測定用電極上に吸着されることに起因するものであり、また、被測定ガス成分の測定感度の初期オフセットは、酸化した測定用電極の貴金属材料が、ガスセンサ素子の使用の初期段階で還元されて、酸素を放出するために、発生するものであるとの結論を得たのである。
そして、本発明者等は、かかる結論に基づいて、更に鋭意研究を重ねた結果、測定用電極に吸着可能な吸着性成分と結合酸素とを有する吸着性ガス成分と、かかる吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素にて酸化せしめられる可燃性ガスとを、それぞれ、所定の量において含む雰囲気中において、ガスセンサ素子を、特定条件の下で、加熱処理することにより、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化や初期オフセットの発生が効果的に解消乃至は抑制され得ることを、見出したのである。
すなわち、本発明は、かくの如き知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様とするところは、被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめ得る貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極を、所定の固体電解質に形成して構成した電気化学的セルを含み、該測定用電極にて、該被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめると共に、かかる被測定ガス成分の還元乃至は分解により発生する酸素量を測定することによって、前記被測定ガス中の該被測定ガス成分の濃度を求めるガスセンサ素子において、そのガス測定特性を改善するための処理方法であって、前記測定用電極に吸着され得る吸着成分と酸素とが結合せしめられてなる吸着性ガス成分を1000ppm以上の濃度で含むと共に、可燃性ガスを、該吸着性ガス成分の還元乃至は分解により生ずる酸素にて、実質的に化学量論的に酸化せしめられる量において含み、且つ酸素濃度が0.2%以下に制限された処理雰囲気中において、前記ガスセンサ素子を、600〜1000℃の温度で3〜24時間加熱することにより、前記吸着性ガス成分を還元乃至は分解して、該吸着性ガス成分中の吸着成分を前記測定用電極に吸着せしめると共に、該測定用電極を構成する前記貴金属材料を還元するようにしたことを特徴とするガスセンサ素子の処理方法にある。
また、このような本発明に従うガスセンサ素子の処理方法における有利な第二の態様においては、前記吸着性ガス成分はNOであり、且つかかるNOが、前記処理雰囲気中に、3000〜7000ppmの範囲内の濃度において含まれることとなる。
さらに、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法における好ましい第三の態様では、前記処理雰囲気中の酸素濃度が、10-8〜0.1%とされる。
更にまた、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法における別の望ましい第四の態様においては、前記ガスセンサ素子の前記処理雰囲気中での加熱処理が、750〜900℃の温度で4〜6時間の間、実施される。
また、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法における他の有利な第五の態様では、前記可燃性ガスとして、炭化水素ガスが用いられる。
要するに、かかる本発明に従うガスセンサ素子の処理方法の第一の態様においては、ガスセンサ素子を、ガス測定装置として使用して、被測定ガス成分の測定を開始する前に、吸着性ガス成分を1000ppm以上の濃度で含む理論空燃費近傍の雰囲気中において、通常の使用状態に略相当する600〜1000℃の範囲内の温度で3〜24時間の間、加熱処理することで、未使用のガスセンサ素子の測定用電極に対して、吸着性ガス成分の吸着成分(元素)を吸着させるようにしたのである。
それ故、そのような本発明手法を実施することによって、ガスセンサ素子の使用時に、還元により酸素を放出した、被測定ガス成分中の酸素との結合成分(例えば、被測定ガス成分がNOであるときのN等の元素)からなる吸着成分が、ガスセンサ素子の測定用電極に対して吸着されるようなことが、上述の如き加熱処理により、予め、測定用電極に吸着された吸着性ガス成分の吸着成分(元素)にて阻止せしめられ、以て、そのような被測定ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着量を、0若しくは可及的に小さな値と為すことが出来る。そして、その結果、被測定ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着に伴って、被測定ガス成分の還元に活性な電極面積が徐々に減少するといった現象の発生を、効果的に解消乃至は抑制せしめることが可能となる。
また、このような本発明に係るガスセンサ素子の処理方法では、ガスセンサ素子が、その加熱処理時に晒される処理雰囲気の酸素濃度が0.2%以下に制限されていることに加えて、かかる処理雰囲気中に、可燃性ガスが、吸着性ガス成分の還元で生ずる酸素にて、実質的に化学量論的に酸化せしめられる量において含まれているところから、ガスセンサ素子の加熱処理に伴う吸着性ガス成分の還元により酸素が生じるものの、そのような酸素が、可燃性ガスの酸化により確実に消費されて、処理雰囲気中での還元能力が安定的に確保され得、それにより、ガスセンサ素子の加熱処理に伴って、測定用電極を構成する貴金属材料が、確実に還元せしめられる。また、実質的に、可燃性ガスの全量が酸化せしめられるため、酸化されない可燃性ガスの成分が測定用電極に吸着せしめられて、被測定ガス成分の還元に活性な電極面積が減少せしめられるようなことも、未然に回避され得る。
それ故、本発明手法にあっては、測定用電極の貴金属材料が、ガスセンサ素子を用いた測定開始の初期段階で還元されて、酸素を放出するようなことを、効果的に防止することが出来る。
従って、かくの如き本発明に従うガスセンサ素子の処理方法によれば、ガスセンサ素子の使用の初期段階において、被測定ガス成分における酸素との結合成分の測定用電極への吸着に起因して、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化が発生するようなことや、測定用電極の貴金属材料の還元による酸素の放出により、被測定ガス成分の測定感度の初期オフセットが生ずるようなことを、効果的に解消乃至は抑制することが出来る。そして、その結果として、ガスセンサ素子による被測定ガス成分の測定が、そのガスセンサ素子の使用開始当初から、より高い測定感度をもって、更に正確に且つ安定的に行われ得て、被測定ガス成分の測定値の信頼性が極めて有利に高められ得るのであり、以て、かかるガスセンサ素子における被測定ガス成分の測定特性が、飛躍的に向上され得ることとなるのである。
また、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法の第二の態様によれば、吸着性ガス成分としてNOを特定の範囲内の濃度で含む雰囲気中での加熱処理により、ガスセンサ素子における測定用電極上でNOが還元される際に、Nの一部が、測定用電極に対して、より確実に且つ十分な量において吸着され得る。そして、その結果として、被測定ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着に起因して、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化が生ずるようなことが、更に一層有利に防止され得て、ガスセンサ素子のガス測定特性が、より有利に改善され得ることとなる。
さらに、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法の第三の態様では、処理雰囲気中の酸素濃度が、より少ない濃度とされるため、測定用電極を構成する貴金属材料の還元が更に確実に行われ得て、かかる貴金属材料の還元による酸素の放出により、被測定ガス成分の測定感度の初期オフセットが生ずるようなことが、より確実に防止され得、これによっても、ガスセンサ素子のガス測定特性が、更に一層有利に改善され得る。
更にまた、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法の第四の態様によれば、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理が、より効率的且つ確実に実施され得て、ガスセンサ素子のガス測定特性の改善が、より効果的に行われ得る。
また、本発明に従うガスセンサ素子の処理方法の第五の態様によれば、可燃性ガスの酸化により、無害な生成物が得られることとなるため、ガスセンサ素子のガス測定特性の改善が、安全に実施され得るといった利点が得られる。
ところで、本発明に従う処理方法によってガス測定特性が改善されるガスセンサ素子は、例えば、燃焼ガスや内燃機関の排気ガス等の被測定ガス中のNOxやSOx等の結合酸素を有する被測定ガス成分の濃度を測定する、公知の構造を有するものであって、燃焼室を備えた各種の装置や自動車を始めとした車両等に取り付けられて、使用されるものである。つまり、本発明手法にあっては、その適用対象として、従来から一般に使用されるNOxセンサ素子やSOxセンサ素子等が、用いられるのである。
そして、そのような本発明手法の適用対象となるガスセンサ素子は、貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極を、所定の固体電解質に形成して構成した電気化学的セルを含んで構成されるものであるが、そのような電気化学的セルの測定用電極を与える貴金属材料は、その種類が特に限定されるものではなく、被測定ガス中のNOxやSOx等の結合酸素を有する被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめ得るもののうちで、従来からサーメット電極の構成材料として用いられる貴金属材料が、適宜に採用される。具体的には、かかる貴金属材料として、RhやPd、Pt、RhとPtの合金、PtとPdの合金等が、例示され得る。
また、そのような貴金属材料と共に測定用電極を構成するセラミックス材料も、例示の貴金属材料等と配合してなる組成物を焼結せしめて得られる焼結体(サーメット)を形成するもので、且つサーメット電極の構成材料として一般に使用されるものであれば、その種類が、何等限定されるものではなく、例えば、ZrO2 等が用いられる。更に、かかる構成材料からなる測定用電極が形成される固体電解質も、酸素イオン伝導性を有する特性を活かして、従来からガスセンサ素子に使用されるZrO2 等が用いられる。
そして、かくの如き貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極を備えた電気化学的セルを含んで構成されるガスセンサ素子、換言すれば、本発明手法にてガス測定特性が改善され得るガスセンサ素子は、測定用電極にて、被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめると共に、かかる被測定ガス成分の還元乃至は分解により発生する酸素量を測定することによって、被測定ガス中の被測定ガス成分の濃度が求められるような、公知の構造を有して構成されるものである。
すなわち、先に詳述した、公知の構造を有するNOxセンサ素子の一例を示す図1を援用して説明すると、かかるガスセンサ素子は、例えば、被測定ガスが、第一拡散律速部12を通じて第一内部空所14内に導入されて、この第一内部空所14内の被測定ガス中の酸素分圧が、主ポンプセル28と酸素分圧検出セル38の協働作用により、被測定ガス成分が還元されない一定の値に制御されるようになっている。そして、かくして酸素分圧が制御された第一内部空所14内の被測定ガスが、第二拡散律速通路16を通じて第二内部空所18内に導かれ、そこで、上述せる如き材料からなり、還元乃至は分解触媒として機能する測定用電極32と接触せしめられて、かかる第二内部空所18内に導かれた被測定ガス中の被測定ガス成分が還元乃至は分解され、更に、その際に生成する酸素が、かかる測定用電極32を含んで構成される測定用ポンプセル36にて、基準空気導入通路20にポンプアウトされる一方、このポンプアウトされる酸素量に応じて測定用ポンプセル36に流れるポンプ電流の値が測定される。そして、かかるポンプ電流の測定値に基づいて、被測定ガス中の被測定ガス成分の濃度が求められるようになっているのである。
また、図1に示される構造を備えたガスセンサ素子と同様に、電気化学的セルからなる主ポンプセル28と酸素分圧検出セル38とを有し、それらの協働作用により、第一内部空所14内に導かれた被測定ガスの酸素分圧(酸素濃度)を一定に制御した状態で、かかる被測定ガスを第二内部空所18内に導入させ得るようになっているものの、測定用ポンプセル36に代えて、それを構成する測定用電極32と基準電極34と第二固体電解質体部分30とからなる電気化学的セルにて構成された測定用酸素分圧検出セルが設けられて、この測定用酸素分圧検出セルにおける二つの電極32,34間に、第二部空所18内の被測定ガスと基準空気導入通路20内の基準空気との間の酸素濃度差に基づいて発生する起電力が測定され、そして、この測定値に基づいて、被測定ガス中の被測定ガス成分の濃度が求められるように構成されたガスセンサ素子にあっても、本発明手法にてガス測定特性が改善され得るガスセンサ素子とすることが可能である。
而して、本発明手法にあっては、かくの如き構造とされたガスセンサ素子が、被測定ガスが流通せしめられる部位に取り付けられる等して、かかる被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分の測定装置として初めて使用されて、被測定ガス成分の測定が開始される前に、特定のガス成分を含む処理雰囲気中において加熱処理されることで、処理雰囲気中に含まれるガス成分の吸着成分(元素)が測定用電極に吸着せしめられると共に、測定用電極の貴金属材料が還元せしめられ、それによって、測定装置としての使用開始当初(被測定ガス成分の測定開始当初)に生ずる被測定ガス成分中の所定成分(元素)の測定用電極への吸着や、測定用電極の構成材料たる貴金属材料の還元が阻止され、以て、ガスセンサ素子のガス測定特性の改善が図られるようになっているのである。
より詳細には、ガスセンサ素子に対する加熱処理時に、ガスセンサ素子が晒される処理雰囲気には、測定用電極に吸着され得る吸着成分(元素)と酸素とが結合せしめられてなる吸着性ガス成分が含まれる。このような吸着性ガス成分を含む処理雰囲気中において、ガスセンサ素子が加熱処理されることにより、吸着性ガス成分が還元されると共に、酸素を放出した吸着成分が、ガスセンサ素子の測定用電極に吸着せしめられ、以て、ガスセンサ素子の使用による被測定ガス成分の測定時における被測定ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着が、予め測定用電極に吸着せしめられた吸着性ガス成分の吸着成分にて阻止されるようになる。そして、それによって、被測定ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着に伴って、被測定ガス成分の還元に活性な電極面積が徐々に減少するといった現象の発生が効果的に解消乃至は抑制せしめられ、その結果として、ガスセンサ素子の測定感度の初期劣化の発生が、有利に防止され得ることとなる。
なお、ここで用いられる吸着性ガス成分は、ガスセンサ素子にて測定される被測定ガス成分の種類によって、何等制限されるものではないものの、好ましくは、かかる吸着性ガス成分として、その吸着成分が、ガスセンサ素子を使用した被測定ガス成分の測定開始の初期段階で、測定用電極に吸着せしめられる被測定ガス成分中の吸着成分と同一であるものが、用いられることとなる。つまり、例えば、被測定ガス中のNOx濃度を測定するガスセンサ素子に対する加熱処理を施す場合には、吸着性ガス成分として、NOやNO2 等が好適に使用されるのであり、また、被測定ガス中のSOx濃度を測定するガスセンサ素子に対する加熱処理を施す場合には、吸着性ガス成分として、SO2 等を用いることが、望ましいのである。
ここにおいて、かかる吸着性ガス成分を含む雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理は、吸着性ガス中の吸着成分をガスセンサ素子の測定用電極に吸着させることにより、未だ被測定ガス成分の測定に使用されていないガスセンサ素子の使用開始の初期段階における被測定ガス中の吸着成分の測定用電極への吸着を阻止せしめることを、その目的の一つとして実施される。従って、被測定ガス成分中の吸着成分と同じ吸着成分を有する吸着性ガス成分を用いた場合、未使用のガスセンサ素子に対する加熱処理時における吸着性ガス成分中の吸着成分の吸着力と、ガスセンサ素子の使用開始の初期段階における被測定ガス成分中の吸着成分の吸着力とが同一とされるため、吸着性ガス成分中の吸着成分の吸着力の差を何等考慮することなく、単に、ガスセンサ素子を使用した被測定ガス成分の測定時と同様な状態で、ガスセンサ素子に対する加熱処理を行うだけで、ガスセンサ素子の使用による被測定ガス成分の測定時と同様に、吸着性ガス成分中の吸着成分が、測定用電極に対して確実に吸着され得て、かかる加熱処理の所期の目的が、容易に達成され得るようになるのである。
そして、ここでは、このようなガスセンサ素子の加熱処時における吸着性ガス成分の処理雰囲気中の濃度が1000ppm以上とされる。けだし、この処理雰囲気中の吸着性ガス成分の濃度が1000ppmを下回る場合、吸着性ガス成分濃度が少な過ぎるために、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理により測定用電極に吸着せしめられる吸着成分の吸着量が不足して、未だ被測定ガスの測定に供されていないガスセンサ素子の使用開始の初期段階における被測定ガス中の吸着成分の測定用電極への吸着を十分に阻止せしめることが出来なくなり、それによって、ガスセンサ素子の測定感度の初期劣化を効果的に抑制乃至は防止することが困難となってしまうからである。
なお、この吸着性ガス成分の処理雰囲気中の濃度の上限は、吸着性ガス成分が無駄とならないように、経済性等を考慮して、適宜に決定されるところである。また、かかる処理雰囲気中の吸着性ガス成分の濃度は、上述の如き範囲内であれば、使用される吸着性ガス成分の種類に応じて、適宜に変更され得る。例えば、吸着性ガス成分がNO2である場合には、1000ppm以上の濃度が採用され、また、吸着性ガス成分がNOである場合には、3000〜7000ppmの範囲が、好適に採用される。このように、吸着性ガス成分の種類に応じて、処理雰囲気中の吸着性ガス成分の濃度を変更すれば、ガスセンサ素子の処理雰囲気中での加熱処理により、吸着性ガス成分中の吸着成分が、測定用電極に対して、より確実に且つ十分に吸着され得ると共に、吸着性ガス成分の無駄な使用が有利に防止され得て、余分なコストの削減が効果的に図られ得る。
また、そのような吸着性ガスを含む処理雰囲気中には、可燃性ガスも、含まれる。この可燃性ガスは、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理による吸着性ガス成分の還元により生じた酸素にて酸化されることで、かかる酸素を消費し、それによって、吸着性ガス成分の還元に起因した処理雰囲気中の酸素濃度の増加を抑えて、処理雰囲気の還元能力の低下を防止する役割を果たすものである。
従って、かかる可燃性ガスは、吸着性ガス成分の還元と同時に酸化され得るものであれば、その種類が、特に限定されるものではなく、公知のものが適宜に採用され得るのであるが、望ましくは、この可燃性ガスとして、炭化水素ガスが使用され、その中でも、例えば、メタンやプロピレン等、低温では比較的に酸化し難いものが、より好適に用いられる。
ここで、そのような炭化水素ガスを可燃性ガスとして用いれば、可燃性ガスの酸化により、CO2 とH2O といった無害な生成物が得られることとなるため、ガスセンサ素子のガス測定特性の改善が、安全に実施され得るといった利点がある。また、かかる炭化水素ガスの中でもメタンやプロピレン等の低い温度では比較的に酸化し難いものを使用する場合には、例えば、低い温度でも容易に酸化せしめられる可燃性ガスを用いる場合とは異なって、可燃性ガスが、処理雰囲気中の吸着性ガス成分が還元されて発生した酸素にて酸化される前に、処理雰囲気中に不可避的に微量に含まれる酸素にて酸化せしめられるようなことが有利に阻止され得て、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素にて確実に酸化され得、以て、吸着性ガス成分の還元に起因した処理雰囲気中の酸素濃度の増加が更に一層確実に防止され得るといった利点が、得られる。
そして、かくの如き可燃性ガスは、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素にて、実質的に化学量論的に酸化せしめられる量において、処理雰囲気中に含有せしめられている必要がある。つまり、処理雰囲気中に含まれる可燃性ガスの略全量が、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素の略全量にて酸化され、かかる可燃性ガスの酸化反応の後において、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素と可燃性ガスとが、どちらも、全く残存しないか若しくは残存していても、その量が極めて微量となるような量において、可燃性ガスが、処理雰囲気中に含まれていなければならないのである。
何故なら、可燃性ガスが、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素にて酸化され得る量よりも少ない量において、処理雰囲気中に含まれている場合には、ガスセンサ素子に対する加熱処理時に、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素の処理雰囲気中の濃度が増大して、処理雰囲気の還元能力が損なわれるからであり、また、可燃性ガスが、吸着性ガス成分の還元により生ずる酸素にて酸化され得る量よりも多くの量において、処理雰囲気中に含まれている場合には、かかる酸素にて酸化されない可燃性ガスの成分が測定用電極に吸着して、測定用電極の被測定ガス成分の還元に活性な電極面積が減少してしまい、それによって、ガスセンサ素子の測定感度の劣化が生ずる恐れがあるからである。
また、そのような可燃性ガスと前記せる吸着性ガス成分とが各々上述の如き濃度で含まれる処理雰囲気は、その酸素濃度が0.2%以下とされていなけらればならない。何故なら、前述せる如く、本発明手法は、特定の処理雰囲気中でガスセンサ素子を加熱処理することで、吸着性ガス成分中の吸着成分を測定用電極に吸着せしめると同時に、測定用電極を構成する貴金属材料を還元せしめるようにしたものであるが、0.2%を越える高い酸素濃度とされた処理雰囲気中において、ガスセンサ素子の加熱処理を行う場合には、測定用電極の構成材料たる貴金属材料の還元が十分に行われ得なくなってしまい、それによって、ガスセンサ素子の使用開始当初におけるガス測定感度の初期オフセットの発生を防止することが困難となってしまうからである。
すなわち、ガスセンサ素子の測定用電極は、貴金属材料とセラミックス材料のサーメットにて構成されているため、そのようなサーメットからなる測定用電極の形成のための焼結時に、貴金属材料が不可避的に酸化せしめられる。そして、そのように、測定用電極の構成材料たる貴金属材料が酸化されたままの状態で、ガスセンサ素子が、その製造後に、初めて、被測定ガスの測定に供されたときに、測定用電極が、加熱された被測定ガスとの接触により加熱されて、測定用電極の貴金属材料が還元せしめられ、その際に生ずる酸素が、被測定ガス中の被測定ガス成分から発生する酸素と一緒に、ガスセンサ素子の酸素ポンプ作用にてポンプアウトされる。その結果、未使用のガスセンサ素子を初めて用いたときに、かかるガスセンサ素子にて測定される被測定ガス成分の濃度が、測定されるべき被測定ガス成分の還元により生ずる酸素量と貴金属材料の還元により生ずる酸素量との合計量に基づいて求められるようになり、そのために、製造後、初めて被測定ガスの測定に供されるガスセンサ素子において、被測定ガス中の被測定ガス成分の測定濃度が、実際の濃度よりも大きな値となってしまうといった、ガス測定感度のオフセットが生ぜしめられることとなる。
従って、本発明手法では、このようなガスセンサ素子におけるガス測定感度の初期オフセットの発生原因となる測定用電極の酸化した貴金属材料を排除すべく、ガスセンサ素子に対して、その使用開始に先立って、加熱処理を施して、測定用電極を構成する貴金属材料を還元せしめるようにしたのであって、そのような還元操作を確実に行う上で、加熱処理時にガスセンサ素子が晒される処理雰囲気の酸素濃度が、0.2%以下とされているのである。また、処理雰囲気の酸素濃度が0.2%を上回る場合には、ガスセンサ素子の加熱処理時における吸着性ガス成分の還元作用も低下せしめられて、かかる吸着性ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着量が不十分となる恐れがあり、これを未然に防止する上でも、処理雰囲気の酸素濃度が0.2%以下とされている必要がある。
なお、この処理雰囲気中の酸素濃度の下限は、特に限定されるものではなく、無駄なコストを掛けることなく、処理雰囲気の酸素濃度を低下させ得る程度において、適宜に決定されるものである。また、かかる処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理により、測定用電極の構成材料たる貴金属材料の還元と、吸着性ガス成分中の吸着成分の測定用電極への吸着とを、より確実に且つ十分に為す上において、処理雰囲気中の酸素濃度は、好適には、10-8〜0.1%程度の範囲内の値とされる。
そして、上述の説明からも明らかなように、本発明手法における処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理は、ガスセンサ素子が、その製造後に、ガス測定装置として初めて使用される、ガスセンサ素子の使用開始当初に惹起される測定用電極への吸着成分の吸着現象と測定用電極の構成材料たる貴金属材料の還元現象とを、その使用前に、予め生ぜしめることにより、それらの現象の発生に起因するガスセンサ素子の測定感度の初期劣化や初期オフセットの発生を未然に解消して、ガスセンサ素子におけるガス測定特性の改善を図るようにしたものである。
従って、ここでは、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理が、ガスセンサ素子の使用環境温度に準ずる600〜1000℃の温度で、実施されることとなる。即ち、かかる加熱処理が600℃を下回る温度で実施される場合には、処理雰囲気に含まれる吸着性ガス中の還元成分の測定用電極への吸着と、測定用電極の構成材料たる貴金属材料の還元とが、不十分なとものとなってしまい、そのために、目的とするガス測定特性の改善効果を十分に得ることが出来なくなってしまう。そして、特に、ガスセンサ素子における初期オフセットの発生の解消乃至は抑制効果が不十分なものとなる。また、ガスセンサ素子が、処理雰囲気中において、1000℃を越える温度で加熱処理される場合には、必要以上に高い温度で、ガスセンサ素子に対する加熱処理が行われることになるため、吸着成分の脱離反応が活発化し、それによって、目的とするガス測定特性の改善効果が減少せしめられることとなる。特に、ガスセンサ素子における測定感度の初期劣化の発生の解消乃至は抑制効果が不十分なものとなる。それ故に、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理温度が、600〜1000℃の範囲内の温度とされていなければならないのである。そして、そのような範囲内において、加熱処理によるガス測定特性の改善効果を更に有利に得るためには、かかる加熱処理温度が、好適には、750〜900℃程度の範囲内の温度とされる。
また、そのような温度でのガスセンサ素子の加熱処理は、3〜24時間の間、継続的に実施される。何故なら、加熱処理時間が3時間を下回るような短い時間である場合には、かかる加熱処理によって得られるガスセンサ素子のガス測定特性の改善効果が十分に得られないからであり、また、24時間を超える長時間に亘って加熱処理が実施される場合には、加熱処理が冗長的なものとなって、かかる加熱処理の効率性、ひいては加熱処理されたガスセンサ素子の生産性が著しく損なわれることとなるからである。なお、この加熱処理時間の好適範囲は、4〜6時間である。
このように、本発明手法では、処理雰囲気中でのガスセンサ素子の加熱処理が、600〜1000℃の温度で3〜24時間の間、好適には750〜900℃の温度で4〜6時間の間、実施されることとなるが、それらの加熱処理温度と加熱処理時間が、規定の範囲内や好適範囲内において、例えば、処理雰囲気中に含まれる吸着性ガス成分の種類や濃度等に応じて、具体的に決定されて、加熱処理が行われることとなる。
かくして、本発明手法によれば、吸着性ガス成分と可燃性ガスとを特定の量において含み、且つ酸素濃度が十分に低い値に制限された処理雰囲気中において、ガスセンサ素子を、その使用環境と同様な温度で所定の時間の間、加熱処理することで、被測定ガス成分の測定感度の初期劣化と初期オフセットの発生を、効果的に解消乃至は抑制することが出来る。そして、それによって、ガスセンサ素子における被測定ガス成分の測定特性を、極めて有利に高めることが出来、以て、ガスセンサ素子の使用開始当初から、被測定ガス成分の測定を、より正確に且つ安定的に行うことが可能となるのである。
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、各種の形態において実施され得るものである。従って、当業者の知識に基づいて採用される本発明についての種々なる変更、修正、改良に係る各種の実施の形態が、何れも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、本発明の範疇に属するものであることが、理解されるべきである。
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明の特徴を更に明確にすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によっても、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。
<実施例1>
先ず、ガスセンサ素子として、RhとZrO2 からなる多孔質サーメットにて構成された、NOxの還元乃至は分解触媒として機能する測定用電極が、ZrO2 からなる固体電解質上に形成された電気化学的セルを有する、図1に示される如き構造を備えた供試用NOxセンサ素子を、7個準備した。
そして、それら準備された7個の供試用NOxセンサ素子のうちの5個のものを用い、それら5個の供試用NOxセンサ素子のそれぞれを、加熱炉内において、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃の互い異なる温度で6時間の間、加熱処理した。このとき、各炉内の雰囲気は、加熱処理開始時に、酸素濃度が10-7%に制限された、N2 を主成分とする処理雰囲気とし、また、加熱処理開始後には、そのような炉内の処理雰囲気中に、N2 を7.5L/minの流量で、またNOを49ml/minの流量で、更にC36を6ml/minの流量で、それぞれ同時に吹き込むことにより、炉内の処理雰囲気が、吸着性ガス成分としてのNOを約6486ppmを含むと共に、可燃性ガスとしてのC36を、NOの還元により生ずる酸素にて略化学量論的に酸化せしめられる量において含むようにした。
かくして、吸着性ガス成分と可燃性ガスとを本発明において規定される範囲内の量で含み、且つ酸素濃度が本発明の規定範囲内とされた処理雰囲気中において、本発明で特定される条件の下で加熱することによる特性改善処理が施されてなる5個のNOxセンサ素子を得た。そして、それら5個のNOxセンサのうち、600℃で加熱処理されたものを本発明例1とし、また、700℃、800℃、900℃、1000℃でそれぞれ加熱処理されたものを、各々、本発明例2、本発明例3、本発明例4、本発明例5とした。
一方、上記の如くして加熱処理された5個の供試用NOxセンサ素子を除く残りの2個のうちの1個の供試用NOxセンサ素子を、本発明に従う特性改善処理が何等施されていない比較例1のNOxセンサ素子とした。
また、先に準備された7個の供試用NOxセンサ素子のうち、最後に残った1個の供試用NOxセンサ素子を用い、これを加熱炉内において、1100℃の温度で3時間の間、加熱処理した。この加熱処理開始時と加熱処理開始後におけるそれぞれの炉内の雰囲気は、本発明例1〜5の作製時において、5個の供試用NOxセンサ素子を加熱処理した際と同じ雰囲気とした。これによって、吸着性ガス成分と可燃性ガスとを本発明において規定される範囲内の量で含み、且つ酸素濃度が本発明の規定範囲内とされた処理雰囲気中ではあるものの、加熱温度が本発明で特定される範囲の温度よりも高い温度とされた条件の下で加熱処理されたNOxセンサ素子を得た。そして、これを比較例2とした。
次に、かくして得られた、未だNOx濃度の測定に供されていない、未使用の7個のNOxセンサ素子(本発明例1〜5及び比較例1,2)を、総排気量1800ccのエンジンの排気パイプにおけるNOx吸蔵触媒配設部位よりも排気流通方向後方側の部位に、それぞれ取り付けた状態で、下記表1に示されるような回転数と排気ガス温度と運転時間とが互いに異なる条件とされた7種類の運転パターン(パターン1〜7)をパターン1から順に繰り返すように、エンジンを作動させて、各NOxセンサ素子のNOx測定感度の経時的変化を調べるライフサイクル耐久評価試験を行った。そして、試験開始から50時間経過後、100時間経過後、300時間経過後、及び500時間経過後に、本発明例1〜5及び比較例1,2の各NOxセンサ素子における試験開始(使用開始)時点のNOx測定感度に対する各時間経過後のNOx測定感度の減少割合にて表されるNOx測定感度劣化(負の百分率にて表す)を、各NOxセンサ素子毎に、公知の手法により、それぞれ測定した。その結果を図2に示した。
Figure 0004587855
かかる図2のグラフから明らかなように、NOx濃度の測定のための使用に先立って、本発明に従う加熱処理による特性改善処理が施された本発明例1〜5のNOxセンサ素子は、何れも、使用開始から100時間経過するまでに、NOx測定感度劣化が、−5%程度の極めて小さな値において認められるものの、その後は、NOx測定感度劣化が、殆ど進行することなく、NOx測定感度が安定化せしめられている。これに対して、NOx濃度の測定に使用する前に、本発明に従う加熱処理による特性改善処理が何等実施されていない比較例1のNOxセンサ素子にあっては、NOx測定感度劣化が、使用開始から50時間経過後に、早くも−20%程度となり、500時間経過後には、−25%程度にまで落ち込んでいる。また、NOx濃度の測定のための使用に先立って、本発明において特定される加熱温度よりも高い温度で加熱処理が施された比較例2のNOxセンサ素子においては、加熱処理時間が本発明において規定される範囲の下限値の極めて短時間とされているにも拘わらず、NOx測定感度劣化が、使用開始から50時間経過後に−15%程度となり、500時間経過後には、−40%程度となっており、加熱処理が何等施されていない比較例1のNOxセンサ素子よりも更に著しいNOx測定感度劣化が認められる。
これらの結果から、本発明に従って、NOxセンサ素子に対して、NOx濃度の測定に初めて使用される前に、特定の加熱処理による特性改善処理を行うことにより、NOx測定感度の初期劣化が、極めて効果的に低減され得ることが、明確に認識される。
<実施例2>
先ず、前記実施例1で準備された供試用NOxセンサ素子と同じ構造を有する、供試用NOxセンサ素子の7個を準備した。そして、それら7個の供試用NOxセンサ素子のうちの5個のものに対して、前記実施例1で実施された加熱処理と同じ条件で、本発明に従う加熱処理による特性改善処理を行って、前記実施例1と同様に、かかる特性改善処理における加熱温度が互いに異なる5個のNOxセンサ素子(本発明例1〜5)を得た。
一方、上記の如くして加熱処理された5個の供試用NOxセンサ素子を除く残りの2個のうちの1個の供試用NOxセンサ素子を、そのまま使用して、前記実施例1と同様に、本発明に従う加熱処理による特性改善処理が何等行われていない比較例1のNOxセンサ素子とした。
また、先に準備された7個の供試用NOxセンサ素子のうち、最後に残った1個の供試用NOxセンサ素子を用い、これを加熱炉内において、500℃の温度で24時間の間、加熱処理した。この加熱処理開始時と加熱処理開始後におけるそれぞれの炉内の雰囲気は、本発明例1〜5の作製時において、5個の供試用NOxセンサ素子を加熱処理した際と同じ雰囲気とした。これによって、吸着性ガス成分と可燃性ガスとを本発明において規定される範囲内の量で含み、且つ酸素濃度が本発明の規定範囲内とされた処理雰囲気中ではあるものの、加熱温度が本発明で特定される範囲の温度よりも低い温度とされた条件の下で加熱処理されたNOxセンサ素子を得た。これを比較例3とした。
そして、かくして得られた7個のNOxセンサ素子(本発明例1〜5及び比較例1,3)を、それぞれ、NOxが全く含まれていない雰囲気中で、センサ自身に内蔵されたヒータにより、素子温度が800℃となるまで加熱すると共に、測定用電極を含む第二内部空所内の酸素濃度制御電圧が450mVで、且つ内側ポンプ電極を含む第一内部空所内の酸素濃度制御電圧が300mVとなるように、各内部空所内の酸素濃度制御電圧を制御した状態下において、NOxの測定を行う場合と同様に、各NOxセンサ素子の測定用電極を含んで構成される電気化学的セルに流れるポンプ電流値(図1に示される構造のNOxセンサ素子における測定用ポンプセル36に流れるポンプ電流値)を、各NOxセンサ素子毎に測定した。そして、その際に測定された各NOxセンサ素子のポンプ電流値にて、各NOxセンサ素子のNOx測定感度の初期オフセット値を求めた。その結果を図3に示した。
かかる図3のグラフから明らかなように、NOx濃度の測定のための使用に先立って、本発明に従う加熱処理による特性改善処理が施された本発明例1〜5のNOxセンサ素子は、何れも、NOx測定感度の初期オフセット値が、0.1μA以下の極めて小さな値に抑えられている。これに対して、NOx濃度の測定に使用する前に、本発明に従う加熱処理による特性改善処理が何等実施されていない比較例1のNOxセンサ素子にあっては、NOx測定感度の初期オフセット値が、0.8μA程度の極めて大きな値となっている。また、NOx濃度の測定のための使用に先立って、本発明において特定される加熱温度よりも低い温度で加熱処理が施された比較例3のNOxセンサ素子においては、加熱処理時間が本発明において規定される範囲の上限値の充分に長い時間とされているにも拘わらず、NOx測定感度の初期オフセット値が、0.3μA程度で、本発明例1〜5のNOxセンサ素子のそれぞれにおけるNOx測定感度の初期オフセット値よりも明らかに大きな値となっていることが認められる。
これは、本発明に従って、NOxセンサ素子に対して、NOx濃度の測定に初めて使用される前に、特定の加熱処理による特性改善処理を行うことにより、NOx測定感度の初期オフセット値が極めて十分に低下せしめられ得ることを、如実に示しているのである。
NOxセンサ素子の一例に係るものの内部構造を概念的に示す断面説明図である。 実施例1において得られた、各種のNOxセンサ素子におけるNOx測定感度劣化の経時的変化を示すグラフである。 実施例2において得られた、各種のNOxセンサ素子におけるNOx測定感度の初期オフセット値を示すグラフである。
符号の説明
10 固体電解質体 12 第一拡散律速部
14 第一内部空所 16 第二拡散律速部
18 第二内部空所 20 基準空気導入通路
22 第一固体電解質体部分 24 内側ポンプ電極
26 外側ポンプ電極 28 主ポンプセル
30 第二固体電解質体部分 32 測定用電極
34 基準電極 36 測定用ポンプセル
38 酸素分圧検出セル 40 ヒータ

Claims (5)

  1. 被測定ガス中の結合酸素を有する被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめ得る貴金属材料とセラミックス材料のサーメットからなる測定用電極を、所定の固体電解質に形成して構成した電気化学的セルを含み、該測定用電極にて、該被測定ガス成分を還元乃至は分解せしめると共に、かかる被測定ガス成分の還元乃至は分解により発生する酸素量を測定することによって、前記被測定ガス中の該被測定ガス成分の濃度を求めるガスセンサ素子において、そのガス測定特性を改善するための処理方法であって、
    前記測定用電極に吸着され得る吸着成分と酸素とが結合せしめられてなる吸着性ガス成分を1000ppm以上の濃度で含むと共に、可燃性ガスを、該吸着性ガス成分の還元乃至は分解により生ずる酸素にて、実質的に化学量論的に酸化せしめられる量において含み、且つ酸素濃度が0.2%以下に制限された処理雰囲気中において、前記ガスセンサ素子を、600〜1000℃の温度で3〜24時間加熱することにより、前記吸着性ガス成分を還元乃至は分解して、該吸着性ガス成分中の吸着成分を前記測定用電極に吸着せしめると共に、該測定用電極を構成する前記貴金属材料を還元するようにしたことを特徴とするガスセンサ素子の処理方法。
  2. 前記吸着性ガス成分がNOであり、且つかかるNOが、前記処理雰囲気中に、3000〜7000ppmの範囲内の濃度において含まれている請求項1に記載のガスセンサ素子の処理方法。
  3. 前記処理雰囲気中の酸素濃度が、10-8〜0.1%とされている請求項1又は請求項2に記載のガスセンサ素子の処理方法。
  4. 前記ガスセンサ素子の前記処理雰囲気中での加熱処理が、750〜900℃の温度で4〜6時間の間、実施される請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載のガスセンサ素子の処理方法。
  5. 前記可燃性ガスが、炭化水素ガスである請求項1乃至請求項4のうちの何れか1項に記載のガスセンサ素子の処理方法。
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