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JP4437936B2 - 葯の裂開が抑制された植物体の生産方法およびこれを用いて得られる植物体、並びにその利用 - Google Patents

葯の裂開が抑制された植物体の生産方法およびこれを用いて得られる植物体、並びにその利用 Download PDF

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Description

本発明は、葯の裂開が抑制された植物体の生産方法およびこれを用いて得られる植物体、並びにその利用に関するものであり、特に葯の裂開に関与する遺伝子の転写を抑制することによる葯の裂開が抑制された植物体の生産方法およびこれを用いて得られる植物体、並びにその利用に関するものである。
従来から、植物において、植物特異的転写因子ファミリーとして、NACファミリーが知られている。シロイヌナズナにおいては、NACファミリーに属する遺伝子は現在までに100以上報告されている。これまでに単離されたNACファミリーは、茎頂分裂組織の形成・維持、花器官形成、側根形成等に必要な転写因子として報告されており、様々な機能を持つことが明らかになりつつある。しかし、NACファミリーが特異的に結合するシス配列等についてはわかっておらず、その機能の解析が待たれるところである(例えば、非特許文献1参照)。
ところで、植物を異なる品種間で交配させ、農産物をハイブリッド化して優良品種を作出することが、現在一般的に行なわれている。これは、植物を異なる品種間で交配させ雑種を作ると、両親より優れた形質が子供に現れる雑種強勢を利用するものである。雑種強勢の利益を受けるためには、互いに異なった品種間で交配させる必要がある。このため、交配を行う品種において、自家受粉が行われないようにする必要がある。このような方法としては、雄性器官を人為的に除去する方法、人為的に交配する方法、花粉の成熟を阻害する化学物質を用いる方法等があるが、これらはその方法を利用できる植物が限られ、また、多大な人的労力を要し手間のかかる作業である。このため、雄性配偶子(花粉)の形成が不完全なため種子形成の不能により稔性を喪失した雄性不稔体を利用する方法が、広く用いられている。これまで、種々の植物において、突然変異により得られた雄性不稔体が品種改良に利用されている。また、雄性不稔体が確立されていない植物品種も多く、遺伝子組換え技術を利用して、人為的に雄性不稔体を確立する試みも報告されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、葯の裂開および花粉の成熟を制御する遺伝子DAD1の発現を制御することによる雄性不稔植物の作出方法が開示されている。
一方、葯の裂開を抑制する試みとしては、細胞毒性を有するバルナーゼを、葯特異的に遺伝子を発現させるTA56プロモーターに結合し、タバコに導入することによって、口辺細胞を人為的に殺したタバコの葯では、葯の裂開が起きなくなることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、非特許文献2では、裂開が起こるためには、口辺細胞は、細胞死を迎えるまでの間は十分機能的であることが必要であることが報告されている。しかし、葯の裂開における分子レベルでの知見は殆ど得られていない。葯の裂開が異常な突然変異体として、delayed-dehiscence 1〜delayed-dehiscence 5、non-dehiscence 1、msH等比較的多数の突然変異体が知られている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、葯の裂開を制御する原因遺伝子として、これまでに明らかにされているものは、上記DAD1等数えるほどしかない。
ここで、本発明者は、任意の転写因子を転写抑制因子に転換するペプチドを種々見出している(例えば、特許文献3〜9、非特許文献4、5参照)。このペプチドは、Class II ERF(Ethylene Responsive Element Binding Factor)タンパク質や植物のジンクフィンガータンパク質(Zinc Finger Protein、例えばシロイヌナズナSUPERMANタンパク質等)から切り出されたもので、極めて単純な構造を有している。
特開2000−300273公報(平成12年(2000)10月31日公開) 特開2004−24108公報(平成16年(2004)1月29日公開) 特開2001−269177公報(平成13年(2001)10月2日公開) 特開2001−269178公報(平成13年(2001)10月2日公開) 特開2001−292776公報(平成13年(2001)10月2日公開) 特開2001−292777公報(平成13年(2001)10月23日公開) 特開2001−269176公報(平成13年(2001)10月2日公開) 特開2001−269179公報(平成13年(2001)10月2日公開) 国際公開第WO03/055903号パンフレット(平成15年(2003)7月10日公開) Xie,Q.,Frugis,G.,Colgan,D.,Chua,N-H., Genes Dev.14,3024-3036,2000 Beals,T.P.,Goldberg,R.B., The Plant Cell, Vol.9,1527-1545,September,1997 日向康吉編著,「花−性と生殖の分子生物学−」,学会出版センター,p116−p117 Ohta,M.,Matsui,K.,Hiratsu,K.,Shinshi,H. and Ohme-Takagi,M.,The Plant Cell, Vol.13,1959-1968,August,2001 Hiratsu,K.,Ohta,M.,Matsui,K.,Ohme-Takagi,M.,FEBS Letters 514(2002)351-354
上記特許文献1では、葯の裂開が起こらないことと、花粉が稔性を有しないことは同時に起こっている。しかし、花粉の稔性の有無にかかわらず、葯の裂開が起こらなければ、雑種強勢を利用した交配において、自家受粉を避けることができる。
また、従来より用いられている雄性不稔体を利用する方法は、結実すると自動的に雑種になるので、雑種第1代を作成するのに有効な方法である。しかし、次世代でも不稔であると結実しないので、次世代では稔性を回復しなければならない。これに対して、葯の裂開は抑制されるが、花粉は稔性を有しているような場合は、花粉自体に生殖能を残しつつ、自家受粉が起きない植物を作成することができ、育種上非常に有用である。このような葯の裂開を、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を抑制することによって抑制する技術は知られていない。
本発明の目的は、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を抑制することによって、葯の裂開が抑制された植物体を生産する方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、NACファミリータンパク質の1つであるAt2g46770遺伝子座においてコードされるタンパク質に、任意の転写因子を転写抑制因子に転換するペプチドを融合させて、植物体内で発現させると、葯の裂開が完全に起こらなくなるか、または、不完全にしか起こらなくなることを見出した。また、これにより、このNACファミリータンパク質(At2g46770遺伝子座においてコードされるタンパク質、以下、適宜「NACAD1」(NAC involving to Anther Development)と称する)が、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子であることを初めて明らかにし、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかる葯の裂開が抑制された植物体の生産方法は、上記課題を解決すべく、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドとを融合させたキメラタンパク質を、植物体で生産させることにより、葯の裂開を抑制することを特徴としている。
上記植物体は、さらに、雌性器官が稔性を有している。また、さらに、花粉自体が稔性を有することが好ましい。
上記生産方法は、上記転写因子をコードする遺伝子と上記機能性ペプチドをコードするポリヌクレオチドとからなるキメラ遺伝子を含む組換え発現ベクターを、植物細胞に導入する形質転換工程を含んでいることが好ましい。
また、上記生産方法は、さらに、上記組換え発現ベクターを構築する発現ベクター構築工程を含んでいてもよい。
上記転写因子は、以下の(a)又は(b)記載のタンパク質であることが好ましい。(a)配列番号134に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。(b)配列番号134に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質。
また、上記転写因子は、配列番号134に示されるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有し、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質であってもよい。
また、上記転写因子をコードする遺伝子として、以下の(c)又は(d)記載の遺伝子が用いられることが好ましい。(c)配列番号135に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。(d)配列番号135に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子をコードする遺伝子。
上記機能性ペプチドは、次に示す式(1)〜(4)
(1)X1−Leu−Asp−Leu−X2−Leu−X3
(但し、式中、X1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、X2はAsn又はGluを示し、X3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
(2)Y1−Phe−Asp−Leu−Asn−Y2−Y3
(但し、式中、Y1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、Y2はPhe又はIleを示し、Y3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
(3)Z1−Asp−Leu−Z2−Leu−Arg−Leu−Z3
(但し、式中、Z1はLeu、Asp−Leu又はLeu−Asp−Leuを示し、Z2はGlu、Gln又はAspを示し、Z3は0〜10個のアミノ酸残基を示す。)
(4)Asp−Leu−Z4−Leu−Arg−Leu
(但し、式中、Z4はGlu、Gln又はAspを示す。)
のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するものであることが好ましい。
また、上記機能性ペプチドは、配列番号3〜19のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するぺプチドであってもよい。
また、上記機能性ペプチドは、以下の(e)又は(f)記載のペプチドであってもよい。(e)配列番号20又は21に示されるアミノ酸配列を有するペプチド。(f)配列番号20又は21に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド。
また、上記機能性ペプチドは、次に示す式(5)
(5)α1−Leu−β1−Leu−γ1−Leu
(但し、式中α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、γ1は、Arg、Gln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。)
で表されるアミノ酸配列を有するものであってもよい。
また、上記機能性ペプチドは、次に示す式(6)〜(8)
(6)α1−Leu−β1−Leu−γ2−Leu
(7)α1−Leu−β2−Leu−Arg−Leu
(8)α2−Leu−β1−Leu−Arg−Leu
(但し、各式中α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、α2は、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、β2はAsn、Arg、Thr、Ser又はHisを示し、γ2はGln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。)
のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するものであってもよい。
また、上記機能性ペプチドは、配列番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37または133に示されるアミノ酸配列を有するぺプチドであってもよい。
また、上記機能性ペプチドは、配列番号38又は39に示されるアミノ酸配列を有するぺプチドであってもよい。
また、本発明にかかる植物体は、上記生産方法により生産され、葯の裂開が抑制されていることを特徴としている。上記植物体には、成育した植物個体、植物細胞、植物組織、カルス、種子の少なくとも何れかが含まれることが好ましい。
また、本発明にかかる植物体の葯の裂開抑制キットは、上記の生産方法を行うためのキットであって、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子をコードする遺伝子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと、プロモーターとを含む組換え発現ベクターを少なくとも含むことを特徴としている。上記葯の裂開抑制キットは、さらに、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含んでいてもよい。
また、本発明にかかる葯の裂開が制御された植物体の生産方法は、以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質、
或いは、以下の(c)又は(d)記載の遺伝子、
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子、
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子をコードする遺伝子を用いることを特徴としている。
本発明に係る葯の裂開が抑制された植物体の生産方法は、以上のように、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドとを融合させたキメラタンパク質を、植物体で生産させる構成を備えているので、葯の裂開に関与する遺伝子の発現が抑制され、葯の裂開が抑制された植物体を生産することが可能となる。したがって、上記キメラタンパク質をコードするキメラ遺伝子で目的の植物を形質転換すれば葯の裂開が抑制された植物を生産することができ、複雑な遺伝子組み替え技術を利用することなく、非常に簡便に目的の植物の葯の裂開を抑制することができるという効果を奏する。
また、本発明で用いられるキメラタンパク質は、内在性の遺伝子に対して、優性に作用するものであるため、本発明にかかるキメラタンパク質は、植物が二倍体や複二倍体であったり、あるいは植物に機能重複遺伝子が存在したりしても、葯の裂開に関わる遺伝子の発現を一様に抑制でき、遺伝子導入可能なあらゆる植物を、葯の裂開が抑制された植物体に容易に形質転換できるという効果を奏する。
また、本発明で用いられる、葯の裂開に関わる遺伝子の転写を促進する転写因子のアミノ酸配列は、種の異なる数多くの植物間において、保存性が高いものと考えられるため、特定のモデル植物で構築したキメラタンパク質を、他の植物に導入することで、さまざまな種の植物において簡便に葯の裂開が抑制された植物体を生産できるという効果を奏する。
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明は、植物体の葯の裂開を抑制する技術であって、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドとを融合させたキメラタンパク質を、植物体で生産させる。これによって得られる植物体では、葯の裂開に関与する遺伝子の転写が抑制され、葯の裂開が抑制された植物体を生産することができる。
ここで、葯の裂開は次のように抑制される。すなわち、上記キメラタンパク質における上記転写因子由来のDNA結合ドメインが、葯の裂開に関与すると推定される標的遺伝子に結合する。上記転写因子は転写抑制因子に転換され、標的遺伝子の転写が抑制される。これにより葯の裂開に関与すると推定されるタンパク質の生成が減少し、その結果、得られる植物体の葯の裂開を抑制することができる。
本発明にかかる生産方法で生産される葯の裂開が抑制された植物体には、葯の裂開が完全に起こらない植物体及び葯の裂開が不完全にしか起こらない植物体が含まれる。ここで葯とは雄ずい(おしべ)の一部で、花粉をつくる袋状の部分である。閉花受精をするもの(例:マメ科)では、花粉が葯内で発芽し、繊維状細胞層の発達をみない柔らかな葯壁を通して花粉管を伸長させるが、一般に葯は裂開して花粉を葯の外に放出する。葯の裂開は、口辺細胞が細胞死を起こし、そこで葯壁が切れることによって起こる。また、口辺細胞が切れただけでは葯は口を開かず、花粉が放出されるためには葯壁が収縮して反りかえることが必要である。本発明でいう葯の裂開が抑制された植物体とは、口辺細胞が切れただけの植物体であってもよく、口辺細胞が切れ且つ葯壁が反りかえって葯が口を開いた植物体であってもよい。なお、口辺細胞とは、葯が口を開く部分にあたる、一層の小さな細胞からなる組織である。
なお、本発明の葯の裂開が抑制された植物体では、雌性器官(めしべ)は、稔性を有している。これにより、本発明の葯の裂開が抑制された植物体に他種の花粉を受粉できる。したがって、雄性器官を人為的に除去したり、人為的に交配させるという手間をかけずに、雑種強勢を利用した交配により、雑種第1代(F1)品種を得ることができる。
また、本発明の葯の裂開が抑制された植物体では、葯の裂開が抑制されていればよく、花粉自体は稔性を有していてもよいし、稔性を有していなくてもよいが、花粉自体が稔性を有していることがより好ましい。これにより、花粉自体には生殖能を残しつつ、自家受粉が起きない植物体を生産することが可能となり、育種等に有用である。すなわち、花粉自体が稔性を有していない雄性不稔体では、それ自身の花粉が利用できないので、自殖によるホモ接合性の個体を作出、維持することができない。ヘテロ接合性の個体を自家受粉することにより、ホモ接合性の個体を作出することはできるが、かかる場合もホモ接合性の個体は1/4しか得られない。これに対し、花粉自体には生殖能を残すことにより、ホモ接合性の個体を作出、維持することが可能となり、育種への応用が考えられる。
以降の説明では、本発明にかかる葯の裂開が抑制された植物体の生産方法に用いられるキメラタンパク質、本発明にかかる植物体の生産方法の一例、これにより得られる植物体とその有用性、並びにその利用についてそれぞれ説明する。
(I)本発明で用いられるキメラタンパク質
上述したように、本発明で用いられるキメラタンパク質は、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドとを融合させたものである。
また、本発明で用いられるキメラタンパク質は、内在性の遺伝子に対して、優性に作用するものであるため、本発明にかかるキメラタンパク質は、植物が二倍体や複二倍体であったり、あるいは植物に機能重複遺伝子が存在したりしても、葯の裂開に関わる遺伝子の発現を一様に抑制できる。それゆえ、遺伝子導入可能なあらゆる植物を、葯の裂開が抑制された植物体に容易に形質転換することが可能となる。
以下に、上記転写因子および機能性ペプチドそれぞれについて説明する。
(I−1)葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子
本発明で用いられる転写因子は、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子であれば特に限定されるものではない。一般に葯は裂開して花粉を葯の外に放出する。従って、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子は多くの植物に保存されている。したがって、本発明で用いられる転写因子には、種々の植物に保存されている同様の機能を有する転写因子が含まれる。
本発明で用いられる転写因子の代表的な一例としては、例えば、NACAD1タンパク質を挙げることができる。NACAD1タンパク質は、配列番号134に示されるアミノ酸配列を有するタンパク質であり、上述したように、シロイヌナズナのNACファミリータンパク質の1つである。本発明では、例えば、このNACAD1タンパク質に後述する機能性ペプチドを融合させることにより、転写因子であるNACAD1タンパク質を転写抑制因子に転換させる。
本発明で用いられる転写因子としては、配列番号134に示されるアミノ酸配列を有するNACAD1タンパク質に限定されるものではなく、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子であればよい。具体的には、配列番号134に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、上記機能を有していれば本発明にて用いることができる。なお、上記の「配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1個又は数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
また上記転写因子としては、配列番号134に示されるアミノ酸配列に対して、20%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%または70%以上の相同性を有するタンパク質であって、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質も含まれる。なおここで「相同性」とは、アミノ酸配列中に占める同じ配列の割合であり、この値が高いほど両者は近縁であるといえる。
本発明で用いられるキメラタンパク質を生産させる際には、後述するように、公知の遺伝子組換え技術を好適に用いることができる。そこで、本発明にかかる植物体の生産方法には、上記転写因子をコードする遺伝子も好適に用いることができる。
上記転写因子をコードする遺伝子としては特に限定されるものではなく、遺伝暗号に基づいて、上記転写因子のアミノ酸配列に対応するものであればよい。具体的な一例としては、例えば、転写因子としてNACAD1タンパク質を用いる場合には、このNACAD1タンパク質をコードする遺伝子(説明の便宜上、NACAD1遺伝子と称する)を挙げることができる。NACAD1遺伝子の具体的な一例としては、例えば、配列番号135に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム(ORF)として含むポリヌクレオチドを挙げることができる。
もちろん、本発明で用いられるNACAD1遺伝子、または、転写因子をコードする遺伝子としては、上記の例に限定されるものではなく、配列番号135に示される塩基配列と相同性を有する遺伝子であってもよい。具体的には、例えば、配列番号135に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、上記転写因子をコードする遺伝子等を挙げることができる。なお、ここでストリンジェントな条件でハイブリダイズするとは、60℃で2×SSC洗浄条件下で結合することを意味する。
上記ハイブリダイゼーションは、J. Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual,2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法等、従来公知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなる(ハイブリダイズしがたくなる)。
上記転写因子をコードする遺伝子を取得する方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法により、多くの植物から単離することができる。例えば、既知の転写因子の塩基配列に基づき作製したプライマー対を用いることができる。このプライマー対を用いて、植物のcDNA又はゲノミックDNAを鋳型としてPCRを行うこと等により上記遺伝子を得ることができる。また、上記転写因子をコードする遺伝子は、従来公知の方法により化学合成して得ることもできる。
(I−2)任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチド
本発明で用いられる、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチド(説明の便宜上、転写抑制転換ペプチドと称する)としては、特に限定されるものではなく、転写因子と融合させたキメラタンパク質を形成させることにより、当該転写因子により制御される標的遺伝子の転写を抑制することができるペプチドであればよい。具体的には、例えば、本発明者によって見出された転写抑制転換ペプチド(特許文献3〜9、非特許文献4、5等参照)を挙げることができる。
本発明者は、Class II ERF遺伝子群の一つであるシロイヌナズナ由来のAtERF3タンパク質、AtERF4タンパク質、AtERF7タンパク質、AtERF8タンパク質を転写因子に結合させたタンパク質が、遺伝子の転写を顕著に抑制するとの知見を得た。そこで、上記タンパク質をそれぞれコードする遺伝子およびこれから切り出したDNAを含むエフェクタープラスミドを構築し、これを植物細胞に導入することにより、実際に遺伝子の転写を抑制することに成功した(例えば特許文献3〜6参照)。また、Class II ERF遺伝子群の一つであるタバコERF3タンパク質(例えば特許文献7参照)、イネOsERF3タンパク質(例えば特許文献8参照)をコードする遺伝子、及び、ジンクフィンガータンパク質の遺伝子群の一つであるシロイヌナズナZAT10、同ZAT11をコードする遺伝子についても上記と同様な試験を行ったところ、遺伝子の転写を抑制することを見出している。さらに本発明者は、これらタンパク質は、カルボキシル基末端領域に、アスパラギン酸−ロイシン−アスパラギン(DLN)を含む共通のモチーフを有することを明らかにした。そして、この共通モチーフを有するタンパク質について検討した結果、遺伝子の転写を抑制するタンパク質は極めて単純な構造のペプチドであってもよく、これら単純な構造を有するペプチドが、任意の転写因子を転写抑制因子に変換する機能を有することを見出している。
また、本発明者は、シロイヌナズナSUPERMANタンパク質は、上記の共通のモチーフと一致しないモチーフを有するが、任意の転写因子を転写抑制因子に変換する機能を有すること、また該SUPERMANタンパク質をコードする遺伝子を、転写因子のDNA結合ドメイン又は転写因子をコードする遺伝子に結合させたキメラ遺伝子は、強力な転写抑制能を有するタンパク質を産生することも見出している。
したがって、本発明において用いられる転写抑制転換ペプチドの一例として、本実施の形態では、Class II ERFタンパク質であるシロイヌナズナ由来のAtERF3タンパク質、同AtERF4タンパク質、同AtERF7タンパク質、同AtERF8タンパク質、タバコERF3タンパク質、イネOsERF3タンパク質、ジンクフィンガータンパク質の一つであるシロイヌナズナZAT10タンパク質、同ZAT11タンパク質等のタンパク質、同SUPERMANタンパク質、これらから切り出したペプチドや、上記機能を有する合成ペプチド等を挙げることができる。
上記転写抑制転換ペプチドの一例の具体的な構造は、下記式(1)〜(4)の何れかで表されるアミノ酸配列となっている。
(1)X1−Leu−Asp−Leu−X2−Leu−X3
(但し、式中、X1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、X2はAsn又はGluを示し、X3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
(2)Y1−Phe−Asp−Leu−Asn−Y2−Y3
(但し、式中、Y1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、Y2はPheまたはIleを示し、Y3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
(3)Z1−Asp−Leu−Z2−Leu−Arg−Leu−Z3
(但し、式中、Z1はLeu、Asp−LeuまたはLeu−Asp−Leuを示し、Z2はGlu、GlnまたはAspを示し、Z3は0〜10個のアミノ酸残基を示す。)
(4)Asp−Leu−Z4−Leu−Arg−Leu
(但し、式中、Z4はGlu、GlnまたはAspを示す。)
(I−2−1)式(1)の転写抑制転換ペプチド
上記式(1)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記X1で表されるアミノ酸残基の数は0〜10個の範囲内であればよい。また、X1で表されるアミノ酸残基を構成する具体的なアミノ酸の種類は特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。換言すれば、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドにおいては、N末端側には、1個の任意のアミノ酸または2〜10個の任意のアミノ酸残基からなるオリゴマーが付加されていてもよいし、アミノ酸が何も付加されていなくてもよい。
このX1で表されるアミノ酸残基は、式(1)の転写抑制転換ペプチドを合成するときの容易さからみれば、できるだけ短いほうがよい。具体的には、10個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましい。
同様に、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記X3で表されるアミノ酸残基の数は少なくとも6個であればよい。また、X3で表されるアミノ酸残基を構成する具体的なアミノ酸の種類は特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。換言すれば、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドにおいては、C末端側には、6個以上の任意のアミノ酸残基からなるオリゴマーが付加されていればよい。上記X3で表されるアミノ酸残基は、最低6個あれば上記機能を示すことができる。
上記式(1)の転写抑制転換ペプチドにおいて、X1およびX3を除いた5個のアミノ酸残基からなるペンタマー(5mer)の具体的な配列は、配列番号40、41に示す。なお、上記X2がAsnの場合のアミノ酸配列が配列番号40に示すアミノ酸配列であり、上記X2がGluの場合のアミノ酸配列が配列番号41に示すアミノ酸配列である。
(I−2−2)式(2)の転写抑制転換ペプチド
上記式(2)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドのX1と同様、上記Y1で表されるアミノ酸残基の数は0〜10個の範囲内であればよい。また、Y1で表されるアミノ酸残基を構成する具体的なアミノ酸の種類は特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。換言すれば、上記式(2)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドと同様、N末端側には、1個の任意のアミノ酸または2〜10個の任意のアミノ酸残基からなるオリゴマーが付加されていてもよいし、アミノ酸が何も付加されていなくてもよい。
このY1で表されるアミノ酸残基は、式(2)の転写抑制転換ペプチドを合成するときの容易さからみれば、できるだけ短いほうがよい。具体的には、10個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましい。
同様に、上記式(2)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドのX3と同様、上記Y3で表されるアミノ酸残基の数は少なくとも6個であればよい。また、Y3で表されるアミノ酸残基を構成する具体的なアミノ酸の種類は特に限定されるものではく、どのようなものであってもよい。換言すれば、上記式(2)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドと同様、C末端側には、6個以上の任意のアミノ酸残基からなるオリゴマーが付加されていればよい。上記Y3で表されるアミノ酸残基は、最低6個あれば上記機能を示すことができる。
上記式(2)の転写抑制転換ペプチドにおいて、Y1およびY3を除いた5個のアミノ酸残基からなるペンタマー(5mer)の具体的な配列は、配列番号42、43に示す。なお、上記Y2がPheの場合のアミノ酸配列が配列番号42に示すアミノ酸配列であり、上記Y2がIleの場合のアミノ酸配列が配列番号43に示すアミノ酸配列である。また、Y2を除いた4個のアミノ酸残基からなるテトラマー(4mer)の具体的な配列は、配列番号44に示す。
(I−2−3)式(3)の転写抑制転換ペプチド
上記式(3)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記Z1で表されるアミノ酸残基は、1〜3個の範囲内でLeuを含むものとなっている。アミノ酸1個の場合は、Leuであり、アミノ酸2個の場合は、Asp−Leuとなっており、アミノ酸3個の場合はLeu−Asp−Leuとなっている。
一方、上記式(3)の転写抑制転換ペプチドにおいては、上記式(1)の転写抑制転換ペプチドのX1等と同様、上記Z3で表されるアミノ酸残基の数は0〜10個の範囲内であればよい。また、Z3で表されるアミノ酸残基を構成する具体的なアミノ酸の種類は特に限定されるものではなく、どのようなものであってもよい。換言すれば、上記式(3)の転写抑制転換ペプチドにおいては、C末端側には、1個の任意のアミノ酸または2〜10個の任意のアミノ酸残基からなるオリゴマーが付加されていてもよいし、アミノ酸が何も付加されていなくてもよい。
このZ3で表されるアミノ酸残基は、式(3)の転写抑制転換ペプチドを合成するときに容易さからみれば、できるだけ短いほうがよい。具体的には、10個以下であることが好ましく、5個以下であることがより好ましい。Z3で表されるアミノ酸残基の具体的な例としては、Gly、Gly−Phe−Phe、Gly−Phe−Ala、Gly−Tyr−Tyr、Ala−Ala−Ala等が挙げられるが、もちろんこれらに限定される物ではない。
また、この式(3)で表される転写抑制転換ペプチド全体のアミノ酸残基の数は、特に限定されるものではないが、合成するときに容易さからみれば、20アミノ酸以下であることが好ましい。
上記式(3)の転写抑制転換ペプチドにおいて、Z3を除いた7〜10個のアミノ酸残基からなるオリゴマーの具体的な配列は、配列番号45〜53に示す。なお、上記Z1がLeuかつZ2がGlu、GlnまたはAspの場合のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号45、46または47に示すアミノ酸配列であり、上記Z1がAsp−LeuかつZ2がGlu、GlnまたはAspの場合のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号48、49または50に示すアミノ酸配列であり、上記Z1がLeu−Asp−LeuかつZ2がGlu、GlnまたはAspの場合のアミノ酸配列が、それぞれ配列番号51、52または53に示すアミノ酸配列である。
(I−2−4)式(4)の転写抑制転換ペプチド
上記式(4)の転写抑制転換ペプチドは、6個のアミノ酸残基からなるヘキサマー(6mer)であり、その具体的な配列は、配列番号7、16、54に示す。なお、上記Z4がGluの場合のアミノ酸配列が配列番号7に示すアミノ酸配列であり、上記Z4がAspの場合のアミノ酸配列が配列番号16に示すアミノ酸配列であり、上記Z4がGlnの場合のアミノ酸配列が配列番号54に示すアミノ酸配列である。
特に、本発明において用いられる転写抑制転換ペプチドは、上記式(4)で表されるヘキサマーのような最小配列を有するペプチドであってもよい。例えば、配列番号7に示すアミノ酸配列は、シロイヌナズナSUPERMANタンパク質(SUPタンパク質)の196〜201番目のアミノ酸配列に相当し、上述したように、本発明者が新たに上記転写抑制転換ペプチドとして見出したものである。
(I−2−5)転写抑制転換ペプチドのより具体的な例
上述した各式で表される転写抑制転換ペプチドのより具体的な例としては、例えば、配列番号3〜19のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するぺプチドを挙げることができる。これらオリゴペプチドは、本発明者が上記転写抑制転換ペプチドであることを見出したものである(例えば、特許文献9参照)。
さらに、上記転写抑制転換ペプチドの他の具体的な例として、次に示す(e)又は(f)記載のオリゴペプチドを挙げることができる。
(e)配列番号20又は21に示されるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチド。
(f)配列番号20又は21に示されるいずれかのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるペプチド。
上記配列番号20に示されるアミノ酸配列からなるペプチドは、SUPタンパク質である。また、上記の「配列番号20又は21に示されるいずれかのアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列」における「1個又は数個」の範囲は特に限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1個から5個、特に好ましくは1個から3個を意味する。
上記アミノ酸の欠失、置換若しくは付加は、上記ペプチドをコードする塩基配列を、当該技術分野で公知の手法によって改変することによって行うことができる。塩基配列に変異を導入するには、Kunkel法またはGapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法により行うことができ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-KやMutant-G(何れも商品名、TAKARA社製))等を用いて、あるいはLA PCR in vitro Mutagenesisシリーズキット(商品名、TAKARA社製)を用いて異変が導入される。
また、上記機能性ペプチドは、配列番号20に示されるアミノ酸配列の全長配列を有するペプチドに限られず、その部分配列を有するペプチドであってもよい。
その部分配列を有するペプチドとしては、例えば、配列番号21に示されるアミノ酸配列(SUPタンパク質の175から204番目のアミノ酸配列)を有するペプチドが挙げられ、その部分配列を有するペプチドとしては、上記(3)で表されるペプチドが挙げられる。
(I−3)転写抑制転換ペプチドの他の例
本発明者は、さらに、上記モチーフの構造について検討した結果、新たに6つのアミノ酸からなるモチーフを見出した。このモチーフは、具体的には、次に示す一般式(5)で表されるアミノ酸配列を有するペプチドである。これらのペプチドも、上記転写抑制転換ペプチドに含まれる。
(5)α1−Leu−β1−Leu−γ1−Leu
但し、上記式(5)中α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、γ1は、Arg、Gln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。
なお、上記一般式(5)で表されるペプチドを、便宜上、次に示す一般式(6)、(7)、(8)又は(9)で表されるアミノ酸配列を有しているペプチドに分類する。
(6)α1−Leu−β1−Leu−γ2−Leu
(7)α1−Leu−β2−Leu−Arg−Leu
(8)α2−Leu−β1−Leu−Arg−Leu
(9)Asp−Leu−β3−Leu−Arg−Leu
但し、上記各式中、α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、α2は、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示す。また、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、β2はAsn、Arg、Thr、Ser又はHisを示し、β3は、Glu、Asp又はGlnを示す。さらに、γ2は、Gln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。
上記式(5)〜(9)で表されるアミノ酸配列を有する転写抑制転換ペプチドのより具体的な例としては、配列番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37または133で表されるアミノ酸配列を有するペプチドを挙げることができる。このうち、配列番号29、30、32、34または133のペプチドは、一般式(6)に示されるペプチドに相当し、配列番号22、25、35、36又は37のペプチドは、一般式(7)に示されるペプチドに相当し、配列番号26、27、28、31、又は33のペプチドは、一般式(8)に示されるペプチドに相当し、配列番号23又は24のペプチドは、一般式(9)に示されるペプチドに相当する。
また、上記一般式(5)〜(9)に示されるペプチド以外にも配列番号38または39で表されるアミノ酸配列を有する転写抑制転換ペプチドを用いることもできる。
(I−4)キメラタンパク質の生産方法
上記(I−2)および(I−3)で説明した各種転写抑制転換ペプチドは、上記(I−1)で説明した転写因子と融合してキメラタンパク質とすることにより、当該転写因子を転写抑制因子とすることができる。したがって、本発明では、上記転写抑制転換ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いて、転写因子をコードする遺伝子とのキメラ遺伝子を得れば、キメラタンパク質を生産させることができる。
具体的には、上記転写抑制転換ペプチドをコードするポリヌクレオチド(説明の便宜上、転写抑制転換ポリヌクレオチドと称する)と上記転写因子をコードする遺伝子とを連結することによりキメラ遺伝子を構築して、植物細胞に導入する。これによりキメラタンパク質を生産させることができる。なお、キメラ遺伝子を植物細胞に導入する具体的な方法については、後述する(2)の項で詳細に説明する。
上記転写抑制転換ポリヌクレオチドの具体的な塩基配列は特に限定されるものではなく、遺伝暗号に基づいて、上記転写抑制転換ペプチドのアミノ酸配列に対応する塩基配列を含んでいればよい。また、必要に応じて、上記転写抑制転換ポリヌクレオチドは、転写因子遺伝子と連結するための連結部位となる塩基配列を含んでいてもよい。さらに、上記転写抑制転換ポリヌクレオチドのアミノ酸読み枠と転写因子遺伝子の読み枠とが一致しないような場合に、これらを一致させるための付加的な塩基配列を含んでいてもよい。
上記転写抑制転換ポリヌクレオチドの具体例としては、例えば、配列番号61、63、65、67、69、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93、97、99、101、103、105、107、109、111、113、115、117、119、121、123、125、127、129、131、137、139、141又は143に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。また、配列番号62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、98、100、102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、122、124、126、128、130、132、138、140、142、144に示されるポリヌクレオチドは、それぞれ、上記例示されたポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドである。また、上記転写抑制転換ポリヌクレオチドの他の具体例としては、例えば、配列番号95、96に示されるポリヌクレオチドを挙げることができる。これらのポリヌクレオチドは、以下の表1に示すように配列番号3〜39、133〜136に示されるアミノ酸配列に対応するものである。
Figure 0004437936
本発明で用いられるキメラタンパク質は、転写因子をコードする遺伝子と転写抑制転換ポリヌクレオチドとを連結した上記キメラ遺伝子から得ることができる。したがって、上記キメラタンパク質は、上記転写因子の部位と、上記転写抑制転換ペプチドの部位とが含まれていればよく、その構成は特に限定されるものではない。例えば、転写因子と転写抑制転換ペプチドとの間をつなぐためのリンカー機能を有するポリペプチドや、HisやMyc、Flag等のようにキメラタンパク質をエピトープ標識するためのポリペプチド等、各種の付加的なポリペプチドが含まれていてもよい。さらに上記キメラタンパク質には、必要に応じて、ポリペプチド以外の構造、例えば、糖鎖やイソプレノイド基等が含まれていてもよい。
(II)本発明にかかる植物体の生産方法の一例
本発明にかかる植物体の生産方法は、上記(I)で説明したキメラタンパク質を植物体で生産させ、葯の裂開を抑制する過程を含んでいれば特に限定されるものではないが、本発明にかかる植物体の生産方法を具体的な工程で示せば、例えば、発現ベクター構築工程、形質転換工程、選抜工程等の工程を含む生産方法として挙げることができる。このうち、本発明では、少なくとも形質転換工程が含まれていればよい。以下、各工程について具体的に説明する。
(II−1)発現ベクター構築工程
本発明において行われる発現ベクター構築工程は、上記(I−1)で説明した転写因子をコードする遺伝子と、上記(I−4)で説明した転写抑制転換ポリヌクレオチドと、プロモーターとを含む組換え発現ベクターを構築する工程であれば特に限定されるものではない。
上記組換え発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
上記プロモーターは、植物体内で遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、アクチンプロモーター、ノパリン合成酵素のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5−二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニットプロモーター等を挙げることができる。この中でも、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターまたはアクチンプロモーターをより好ましく用いることができる。これらのプロモーターを用いれば、得られる組換え発現ベクターでは、植物細胞内に導入されたときに任意の遺伝子を強く発現させることが可能となる。また、上記プロモーターは、葯特異的に遺伝子を発現させることができるプロモーターであることがさらに好ましい。かかるプロモーターとしては、例えばTA56プロモーター、AtMYB26プロモーター、DAD1プロモーター等を挙げることができる。このようなプロモーターを用いることにより、上記キメラタンパク質をコードする遺伝子を葯でのみ発現させて、他の組織に影響を与えることなく、葯の裂開を抑制することが可能となる。また、上記プロモーターは、NACAD1や種々の植物に保存されている同様の転写因子をコードする遺伝子のプロモーターであることが特に好ましい。かかるプロモーターを用いることにより、当該遺伝子の発現の時期及び組織に特異的に遺伝子を発現させることが可能となり、葯の裂開をより効果的に抑制することができる。
上記プロモーターは、転写因子をコードする遺伝子と転写抑制転換ポリヌクレオチドとを連結したキメラ遺伝子を発現しうるように連結され、ベクター内に導入されていればよく、組換え発現ベクターとしての具体的な構造は特に限定されるものではない。
上記組換え発現ベクターは、上記プロモーターおよび上記キメラ遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選別マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT−DNA領域を有していてもよい。T−DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。
上記形質転換ベクターにおいては、ターミネーターを適当な位置に配置することにより、植物細胞に導入された後に、不必要に長い転写物を合成したり、強力なプロモーターがプラスミドのコピー数の減少させたりするような現象の発生を防止することができる。
上記選別マーカーとしては、例えば薬剤耐性遺伝子を用いることができる。かかる薬剤耐性遺伝子の具体的な一例としては、例えば、ハイグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール等に対する薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。これにより、上記抗生物質を含む培地中で生育する植物体を選択することによって、形質転換された植物体を容易に選別することができる。
上記翻訳効率を高めるための塩基配列としては、例えばタバコモザイクウイルス由来のomega配列を挙げることができる。このomega配列をプロモーターの非翻訳領域(5’UTR)に配置させることによって、上記キメラ遺伝子の翻訳効率を高めることができる。このように、上記形質転換ベクターには、その目的に応じて、さまざまなDNAセグメントを含ませることができる。
上記組換え発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに、上記プロモーター、転写因子をコードする遺伝子、および転写抑制転換ポリヌクレオチド、並びに必要に応じて上記他のDNAセグメントを所定の順序となるように導入すればよい。例えば、転写因子をコードする遺伝子と転写抑制転換ポリヌクレオチドとを連結してキメラ遺伝子を構築し、次に、このキメラ遺伝子とプロモーターと(必要に応じてターミネーター等)とを連結して発現カセットを構築し、これをベクターに導入すればよい。
キメラ遺伝子の構築および発現カセットの構築では、例えば、各DNAセグメントの切断部位を互いに相補的な突出末端としておき、ライゲーション酵素で反応させることで、当該DNAセグメントの順序を規定することが可能となる。なお、発現カセットにターミネーターが含まれる場合には、上流から、プロモーター、上記キメラ遺伝子、ターミネーターの順となっていればよい。また、組換え発現ベクターを構築するための試薬類、すなわち制限酵素やライゲーション酵素等の種類についても特に限定されるものではなく、市販のものを適宜選択して用いればよい。
また、上記組換え発現ベクターの増殖方法(生産方法)も特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることができる。一般的には大腸菌をホストとして当該大腸菌内で増殖させればよい。このとき、ベクターの種類に応じて、好ましい大腸菌の種類を選択してもよい。
(II−2)形質転換工程
本発明において行われる形質転換工程は、上記(II−1)で説明した組換え発現ベクターを植物細胞に導入して、上記(I)で説明したキメラタンパク質を生産させるようになっていればよい。
上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入する方法(形質転換方法)は特に限定されるものではなく、植物細胞に応じた適切な従来公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、アグロバクテリウムを用いる方法や直接植物細胞に導入する方法を用いることができる。アグロバクテリウムを用いる方法としては、例えば、Transformation of Arabidopsis thaliana by vacuum infiltration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)を用いることができる。
組換え発現ベクターを直接植物細胞に導入する方法としては、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法等を用いることができる。
上記組換え発現ベクターが導入される植物細胞としては、例えば、花、葉、根等の植物器官における各組織の細胞、カルス、懸濁培養細胞等を挙げることができる。
ここで、本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記組換え発現ベクターは、生産しようとする種類の植物体に合わせて適切なものを適宜構築してもよいが、汎用的な組換え発現ベクターを予め構築しておき、それを植物細胞に導入してもよい。すなわち、本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記(I−1)で説明した組換え発現ベクター構築工程が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
(II−3)その他の工程、その他の方法
本発明にかかる植物体の生産方法においては、上記形質転換工程が含まれていればよく、さらに上記組換え発現ベクター構築工程が含まれていてもよいが、さらに他の工程が含まれていてもよい。具体的には、形質転換後の植物体から適切な形質転換体を選抜する選抜工程等を挙げることができる。
選抜の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ハイグロマイシン耐性等の薬剤耐性を基準として選抜してもよいし、形質転換体を育成した後に、葯の裂開の状況から選抜してもよい。例えば、葯の裂開の状況から選抜する例としては、電子顕微鏡、実体顕微鏡等を用いて、葯の形状を観察する方法を挙げることができる(後述の実施例参照)。
本発明にかかる植物体の生産方法では、上記キメラ遺伝子を植物体に導入するため、該植物体から、有性生殖または無性生殖により葯の裂開が抑制された子孫を得ることが可能となる。また、該植物体やその子孫から植物細胞や、種子、果実、株、カルス、塊茎、切穂、塊等の繁殖材料を得て、これらを基に該植物体を量産することも可能となる。したがって、本発明にかかる植物体の生産方法では、選抜後の植物体を繁殖させる繁殖工程(量産工程)が含まれていてもよい。
なお、本発明における植物体とは、成育した植物個体、植物細胞、植物組織、カルス、種子の少なくとも何れかが含まれる。つまり、本発明では、最終的に植物個体まで成育させることができる状態のものであれば、全て植物体と見なす。また、上記植物細胞には、種々の形態の植物細胞が含まれる。かかる植物細胞としては、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片等が含まれる。これらの植物細胞を増殖・分化させることにより植物体を得ることができる。なお、植物細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて、従来公知の方法を用いて行うことができる。したがって、本発明にかかる植物体の生産方法では、植物細胞から植物体を再生させる再生工程が含まれていてもよい。
また、本発明にかかる植物体の生産方法は、組換え発現ベクターで形質転換する方法に限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。具体的には、例えば、上記キメラタンパク質そのものを植物体に投与してもよい。この場合、最終的に利用する植物体の部位において葯の裂開を抑制できるように、若年期の植物体にキメラタンパク質を投与すればよい。またキメラタンパク質の投与方法も特に限定されるものではなく、公知の各種方法を用いればよい。
(III)本発明により得られる植物体とその有用性、並びにその利用
本発明にかかる植物体の生産方法は、上記キメラタンパク質をコードする遺伝子を植物体で発現させることによる。当該キメラタンパク質における転写因子由来のDNA結合ドメインが、葯の裂開に関与すると推定される標的遺伝子に結合する。転写因子は転写抑制因子に転換され、標的遺伝子の転写が抑制される。これにより葯の裂開を抑制することができる。したがって、本発明には、上記植物体の生産方法により得られる植物体も含まれる。
(III−1)本発明にかかる植物体の具体例
ここで、本発明にかかる葯の裂開が抑制された植物体の具体的な種類は特に限定されるものではなく、葯の裂開の抑制によりその有用性が高まる植物を挙げることができる。かかる植物は、被子植物であってもよいし裸子植物であってもよい。裸子植物としては、例えば、スギ目のスギ科、マツ科、ヒノキ科の植物やマキ科の植物を挙げることができる。また、被子植物としては、単子葉植物であってもよいし、双子葉植物であってもよい。双子葉植物としては、例えば、シロイヌナズナ等のアブラナ科、ツバキ科等の植物を挙げることができる。また、単子葉植物としては、イネ、トウモロコシ、ムギ等のイネ科、ホシクサ科等の植物を挙げることができる。
また、本発明にかかる葯の裂開が抑制された植物体は、果実や種子を商品とする植物、花や植物体そのものを商品とする観葉植物(花卉植物)であってもよい。したがって、本発明にかかる葯の裂開が制限された植物体の具体例をさらに挙げると、ナタネ、ジャガイモ、ホウレンソウ、大豆、キャベツ、レタス、トマト、カリフラワー、さやいんげん、かぶ、めかぶ、大根、ブロッコリー、メロン、オレンジ、スイカ、ネギ、ゴボウなどの各種の食用植物、あるいはバラ、キク、あじさい、カーネーションなどの観葉植物がある。
(III−2)本発明の有用性
本発明は、植物体の葯の裂開を抑制することにより一定の効果がある分野に有用性がある。具体例を以下にいくつか挙げるが、本発明の有用性は、これらに限定されるものではない。
まず、本発明の技術により、葯の裂開が抑制された植物体を作出でき、雑種強勢を利用した交配による品種改良に利用できる。本発明の葯の裂開が抑制された植物体では、花粉が葯の外に放出されないため、イネ等の自殖性植物であっても、自家受粉が行われない。そのため、他種の花粉を授粉することで、種間の交配を簡便に行える。これにより、雑種強勢を利用した、優良品種の一代雑種の探索を簡便かつ効率的に行うことができる。
また、本発明の技術は、トウモロコシ等の他殖性植物にも適用できる。他殖性植物では、現在、人力で雄しべを刈り取る作業(除雄作業)により自家受粉を回避し、他品種の花粉を授粉して品種改良を行っている。これに対し、本発明の技術で葯の裂開が抑制された植物体を生産すれば、このような労力を必要としなくなるため、品種改良に必要な時間やコスト、あるいは優良品種の栽培に必要な手間を、現状に比較して大幅に低減することができる。
特に、本発明の技術により、花粉は稔性を有するが、葯の裂開が抑制された植物体を作出できるため、花粉自体には生殖能を残しつつ、自家受粉が起きない植物体を生産することが可能となり、育種等に有用である。すなわち、花粉自体には生殖能を残すことにより、ホモ接合性の個体を作出、維持することが可能となる。このような純系植物を自家交配することによって、均一な種子繁殖集団を得ることが可能となり、選抜作業を行なう手間や時間を低減することができる。
また、本発明の技術は、タマネギやジャガイモなど、地下茎を商品とする植物にも応用できる。この種の植物では、受粉が起こると、地下茎の成長が著しく阻害され、商品価値が下がることが知られている。そのため、現在、受粉を回避するために除雄作業が必要となり、そのための手間やコストが非常に大きい。本発明の技術により、地下茎を商品とする植物の葯の裂開が抑制された植物体が得られるため、除雄作業を必要とせず、受粉を回避できる。そのため、植物体を育成して商品を生産する際のコストや時間を、現状に比較して大幅に低減できる。
本発明の技術は、果実や花を商品としない植物体にも好適に応用できる。その一例を挙げると、花粉症の予防がある。すなわち、花粉症の原因となる花粉を大量に撒き散らす植物、例えば、スギ、ヒノキ、サワラなどの樹木、カモガヤ、オオアワガエリ、ナガハグサなどのイネ科植物、ブタクサ、ヨモギ、カナムグラなどの雑草類において、本発明の技術により葯の裂開が抑制された植物体を生産すれば、これらの植物体から花粉が飛散する恐れがない。そのため、これらの葯の裂開が抑制された植物体を、自然界の野生型植物体と置き換えてやれば、花粉症の原因となる花粉の飛散が抑えられるため、花粉症を予防できる。
本発明の技術により、遺伝子改変植物体の花粉の自然界への望ましくない拡散を防止できる。一例を挙げると、パルプの原料であるユーカリでは、遺伝子操作により、耐塩性や耐寒性に優れ、樹木が巨大化するなどの、より優れた形質を導入された遺伝子改変植物体が創出され、野外環境下における導入形質の検証実験が行われている。しかし、このような遺伝子改変植物体を野外環境下で育てると、風や昆虫等を媒体とした花粉の拡散を通じて、遺伝子改変植物体が自然界へ広く拡散していき、自然環境が改変される恐れがある。そのため、かかる問題に対処するために、遺伝子改変植物の検証実験を、外界から完全に隔離された、特殊な環境下で行う必要がある。
しかし、本発明の技術を用いて、遺伝子改変植物体を、葯の裂開が抑制された植物体に形質転換させておけば、花粉の撒布による遺伝子改変植物体の自然界への拡散は起こらない。そのため、現状に比較して、実際の野外環境下により近い条件で、遺伝子改変植物体の検証試験を行うことができる。これにより、遺伝子改変植物体に導入した形質を、より自然な環境下で検証できる。
(III−3)本発明の利用の一例
本発明の利用分野、利用方法は特に限定されるものではないが、一例として、本発明にかかる植物体の生産方法を行うためのキット、すなわち葯の裂開抑制キットを挙げることができる。
この葯の裂開抑制キットの具体例としては、上記転写因子をコードする遺伝子と上記転写抑制転換ポリヌクレオチドとからなるキメラ遺伝子を含む組換え発現ベクターを少なくとも含んでいればよく、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含んでいればより好ましい。上記試薬群としては、形質転換の種類に応じた酵素やバッファー等を挙げることができる。その他、必要に応じてマイクロ遠心チューブ等の実験用素材を添付してもよい。
(IV)葯の裂開が制御された植物体の生産方法
本発明者は、NACAD1や種々の植物に保存されている同様の転写因子が、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子であることを初めて明らかにし、本発明を完成させるに至った。従ってかかる転写因子をコードする遺伝子を利用して、葯の裂開が制御された植物体を生産する方法も本発明に含まれる。
すなわち、本発明にかかる葯の裂開が制限された植物体の生産方法は、以下の(a)又は(b)記載のタンパク質をコードする遺伝子、
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質、
或いは、以下の(c)又は(d)記載の遺伝子、
(c)配列番号2に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子、
(d)配列番号2に示される塩基配列からなる遺伝子と相補的な塩基配列からなる遺伝子とストリンジェントな条件でハイブリダイズし、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する転写因子をコードする遺伝子、
を用いるものである。
この植物体の生産方法は、葯の裂開に関与する上記転写因子をコードする遺伝子の発現を抑制させるか、過剰発現させることにより可能となる。上記遺伝子の発現を抑制する方法としては、例えば、アンチセンス法、ジーンターゲッティング法、RNAi法、コサプレッション法、遺伝子破壊型タギング法等を挙げることができる。また、上記遺伝子を過剰発現させる方法としては、例えば、適当なプロモーターとその下流に配置された上記遺伝子とを含むベクターを構築し、植物に導入する方法を挙げることができる。
以下、実施例及び図1ないし図6に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例においては、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターと、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終止領域との間に、転写抑制転換ペプチドのひとつである12アミノ酸ペプチドLDLDLELRLGFA(SRDX)(配列番号19)をコードするポリヌクレオチドをNACAD1遺伝子の下流に結合したポリヌクレオチドを組み込んだ組換え発現ベクターを構築し、これをシロイヌナズナにアグロバクテリウム法を用いて導入することにより、シロイヌナズナを形質転換した。
<形質転換用ベクター構築用ベクターの構築>
形質転換用ベクター構築用ベクターであるp35SGを、図1に示すように、以下の工程(1)〜(4)のとおりに構築した。
(1)インビトロジェン社製pENTRベクター上のattL1、attL2のそれぞれの領域をプライマーattL1−F(配列番号138)、attL1−R(配列番号139)、attL2−F(配列番号140)、attL2−R(配列番号141)を用いてPCRにて増幅した。得られたattL1断片を制限酵素HindIII、attL2断片をEcoRIで消化し、精製した。PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応47℃2分、伸長反応74℃1分を1サイクルとして、25サイクル行った。以下すべてのPCR反応は同じ条件で行った。
(2)クローンテック社製(Clontech社、USA)のプラスミドpBI221を制限酵素XbaIとSacIで切断した後、アガロースゲル電気泳動でGUS遺伝子を除き、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(以下の説明では、便宜上、CaMV35Sと称する)とノパリン合成酵素遺伝子の転写終止領域(以下の説明では、便宜上、Nos−terと称する)を含む35S−Nosプラスミド断片DNAを得た。
(3)以下の配列番号142、143の配列を有するDNA断片を合成し、90℃で2分間加熱した後、60℃で1時間加熱し、その後室温(25℃)で2時間静置してアニーリングさせ2本鎖を形成させた。これを上記35S−Nosプラスミド断片DNAのXbaI−SacI領域にライゲーションし、p35S−Nosプラスミドを完成させた。配列番号142、143の配列を有するDNA断片には、5’末端にBamHI制限酵素部位、翻訳効率を高めるタバコモザイクウイルス由来のomega配列、及び制限酵素部位SmaI、SalI、SstIがこの順に含まれる。
5'-ctagaggatccacaattaccaacaacaacaaacaacaaacaacattacaattacagatcccgggggtaccgtcgacgagctc-3'(配列番号142)
5'-cgtcgacggtacccccgggatctgtaattgtaatgttgtttgttgtttgttgttgttggtaattgtggatcct-3'(配列番号143)
(4)このp35S−Nosプラスミドを制限酵素HindIIIで消化し、上記attL1断片を挿入した。さらにこれをEcoRIで消化し、attL2断片を挿入して、ベクターp35SGを完成させた。
<転写抑制転換ペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み込んだ構築用ベクターの構築>
転写抑制転換ペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み込んだ構築用ベクターであるp35SSRDXGを、図2に示すように、以下の工程(1)〜(2)のとおりに構築した。
(1)12アミノ酸転写抑制転換ペプチドLDLDLELRLGFA(SRDX)をコードし、3’末端に終止コドンTAAを持つように設計した、以下の配列を有するDNAをそれぞれ合成し、70℃で10分加温した後、自然冷却によりアニールさせて2本鎖DNAとした。
5'-gggcttgatctggatctagaactccgtttgggtttcgcttaag-3'(配列番号144)
5'-tcgacttaagcgaaacccaaacggagttctagatccagatcaagccc-3'(配列番号145)
(2)p35SGを制限酵素SmaI、SalIで消化し、この領域に上記のSRDXをコードする2本鎖DNAを挿入して、p35SSRDXGを構築した。
<形質転換用ベクターの構築>
構築用ベクターのatt部位で挟まれたDNA断片と組換えるための、2つのatt部位を有する植物形質転換用ベクターであるpBIGCKHを、図3に示すように、以下の工程(1)から(3)のとおりに構築した。
(1)米国ミシガン州立大学より譲渡されたpBIG(Becker, D. Nucleic Acids Res. 18:203,1990)を制限酵素HindIII、EcoRIで消化し、GUS、Nos領域を電気泳動で除いた。
(2)インビトロジェン社から購入したGateway(登録商標)ベクターコンバージョンシステムのFragmentAをプラスミドpBluscriptのEcoRVサイトに挿入した。これをHindIII−EcoRIで消化し、FragmentA断片を回収した。
(3)回収したFragmentA断片を上記のpBIGプラスミド断片とライゲーションを行い、pBIGCKHを構築した。これらは大腸菌DB3.1(インビトロジェン社)でのみ増殖可能で、クロラムフェニコール耐性、カナマイシン耐性である。
<構築用ベクターへのNACAD1遺伝子の組み込み>
上記構築用ベクターp35SSRDXGにシロイヌナズナ由来の転写因子NACAD1タンパク質をコードする遺伝子を以下の工程(1)〜(3)のとおりに組み込んだ。
(1)シロイヌナズナ葉から調整したmRNAを用いて作成したcDNAライブラリーから、以下のプライマーを用いて、終止コドンを除くシロイヌナズナNACAD1遺伝子のコード領域のみを含むDNA断片をPCRにて増幅した。
プライマー1(NACAD1−F)5'-GATGATGTCAAAATCTATGAGCATATC-3'(配列番号136)
プライマー2(NACAD1−R)5'-TCCACTACCATTCGACACGTGAC-3'(配列番号137)
NACAD1遺伝子のcDNAおよびコードするアミノ酸配列をそれぞれ配列番号135および134に示す。
(2)得られたNACAD1コード領域のDNA断片を、図2に示すように、予め制限酵素SmaIで消化しておいた構築用ベクターp35SSRDXGのSmaI部位にライゲーションした。
(3)このプラスミドで大腸菌を形質転換し、プラスミドを調整して、塩基配列を決定し、順方向に挿入されたクローンを単離し、SRDXとのキメラ遺伝子となったものを得た。
<組換え発現ベクターの構築>
上記構築用ベクター上にあるCaMV35Sプロモーター、キメラ遺伝子、Nos−ter等を含むDNA断片を、植物形質転換用ベクターpBIGCKHに組換えることにより、植物を宿主とする発現ベクターを構築した。組換え反応はインビトロジェン社のGateway(登録商標)LR clonase(登録商標)を用いて以下の工程(1)〜(3)のとおりに行った。
(1)まず、p35SSRDXG1.5μL(約300ng)とpBIGCKH4.0μL(約600ng)に5倍希釈したLR buffer 4.0μLとTE緩衝液(10mM TrisCl pH7.0、1mM EDTA)5.5μLを加えた。
(2)この溶液にLR clonase4.0μLを加えて25℃で60分間インキュベートした。続いて、proteinaseK2μLを加えて37℃で10分間インキュベートした。
(3)その後、この溶液1〜2μLを大腸菌(DH5a等)に形質転換し、カナマイシンで選択した。
<組換え発現ベクターにより形質転換した植物体の生産>
次に、以下の工程(1)〜(3)に示すように、上記キメラ遺伝子を含むDNA断片をpBIGCKHに組み込んだプラスミドであるpBIG−NACAD1SRDXで、シロイヌナズナの形質転換を行い、形質転換植物体を生産した。シロイヌナズナ植物の形質転換は、Transformation of Arabidopsis thaliana by vacuum infiltration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に従った。ただし、感染させるのにバキュウムは用いないで、浸すだけにした。
(1)まず得られたプラスミド、pBIG−NACAD1SRDXを、土壌細菌((Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Sahell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を1リットルの、抗生物質(カナマイシン(Km)50μg/ml、ゲンタマイシン(Gm)25μg/ml、リファンピシリン(Rif)50μg/ml)を含むYEP培地でOD600が1になるまで培養した。次いで、培養液から菌体を回収し、1リットルの感染用培地(Infiltration medium、下表2)に懸濁した。
Figure 0004437936
(2)この溶液に、14日間育成したシロイヌナズナを1分間浸し感染させた後、再び育成させ結種させた。なお、アグロバクテリウムを感染させた世代では、胚珠の生存を妨げる場合を除き、一般に形質転換遺伝子の影響は出ない。そのため、葯の裂開の抑制は起こらず結種した。回収した種子を25%ブリーチ、0.02%Triton X-100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌したハイグロマイシン選択培地(下表3)に蒔種した。
Figure 0004437936
(3)蒔種した約2000粒の種子から平均して50個体のハイグロマイシン耐性植物である形質転換植物体を得た。これらの植物から全RNAを調整し、RT−PCRを用いてNACAD1SRDXの遺伝子が導入されていることを確認した。
pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された植物体の数個体について、葯の形状を走査型電子顕微鏡(JSM−6330F、日本電子データ社製)で観察した。その結果を図4(a)に示す。図4(b)は野生型のシロイヌナズナの葯の形状を同様に走査型電子顕微鏡で観察した結果を示している。図4(a)に示されているように、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換されたシロイヌナズナでは葯の裂開が起こっていない。このように、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換されたシロイヌナズナでは、葯の裂開は完全に起こっていないか、或いは、図には示していないが、不完全にしか起こっていないことが確認された。結果として、図5右側に示すように、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換されたシロイヌナズナ植物体では、果実、種子が殆ど形成されなかった。なお、図5左側は、シロイヌナズナの野生株を示す。
また、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された37個体の植物体について、各個体で収穫された種子の質量の、種子以外の地上部の乾燥重量に対する割合を調べ、正常に結実する全く別のシロイヌナズナ植物体群と比較した。図6にその結果を示す。図6(a)、(b)のグラフにおいて、縦軸は個体数、横軸は(収穫された種子の質量/種子以外の地上部の乾燥重量)×100の階級値を示す。例えば横軸の20は、(収穫された種子の質量/種子以外の地上部の乾燥重量)×100の計算値が10より大きく20以下の階級であることを意味する。図6に示されているように、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された植物体群(図6(a))では、正常に結実する植物体群(図6(b))に比べて各個体で収穫された種子の質量の、種子以外の地上部の乾燥重量に対する割合が低下した個体が数多く観察された。ここで種子の質量とは、1個体全体で収穫された種子の質量の合計をいう。これは、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された植物体群は自然状態では葯の裂開が抑えられるので、種子が殆どできなかったことを示している。また、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された植物体群において得られた種子は、不完全に裂開した葯から放出された花粉を自家受粉したことにより得られたものである。
さらに、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換され、葯の裂開が抑制された植物体において、葯内の花粉を取り出して受粉させた場合に結実するかを調べた。図7に、裂開しなかった葯からピンセットで無理やり花粉を取り出して受粉させた場合を矢印で、何も行なわなかった場合を矢頭で示す。図7の矢印部分に示されているように、葯の裂開が完全に抑制された場合においても、花粉を取り出して受粉させたところ結実したことから、花粉自体は稔性を有していることが確認された。この結果より、pBIG−NACAD1SRDXで形質転換された植物体は、花粉自体には稔性があるが、葯が裂開しないため受粉できず、結果として結実しないことがわかった。また、葯が裂開しない花に受粉させたところ、結実したことから、雌性器官(めしべ)は稔性を有していることが確認された。
このように、本発明では、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を抑制することによって葯の裂開が抑制された植物体を得ることができる。それゆえ、本発明は、各種農業や林業、アグリビジネス、さらには農産物を加工する産業や食品産業等に利用可能であり、しかも非常に有用であると考えられる。
実施例において用いる組換え発現ベクターを構築するための構築用ベクターの構築方法を示す工程図である。 実施例において用いる構築用ベクターp35SGに、転写抑制転換ペプチドSRDXをコードする遺伝子とNACAD1遺伝子とを組み込む工程図である。 形質転換用ベクターpBIGCKHの構築方法を示す工程図である。 (a)は実施例で組換え発現ベクターpBIG−NACAD1SRDXにより形質転換されたシロイヌナズナの葯の形状を示す図であり、(b)は野生型のシロイヌナズナの葯の形状を示す図である。 実施例で組換え発現ベクターpBIG−NACAD1SRDXにより形質転換されたシロイヌナズナ(右側)と、野生型のシロイヌナズナ(左側)を示す図である。 (a)は実施例で組換え発現ベクターpBIG−NACAD1SRDXにより形質転換されたシロイヌナズナの「収穫された種子の質量×100/種子以外の地上部の乾燥重量」の階級値に対し、個体数をプロットしたグラフであり、(b)は野生型のシロイヌナズナの「収穫された種子の質量×100/種子以外の地上部の乾燥重量」の階級値に対し、個体数をプロットしたグラフである。 実施例で、pBIG−NACAD1SRDXにより形質転換され、葯の裂開が抑制された植物体において、葯内の花粉を取り出して受粉させた場合に結実するかを調べた結果を示す図である。

Claims (17)

  1. 以下の(a)又は(b)記載のタンパク質である転写因子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドとを融合させたキメラタンパク質を、植物体で生産させることにより、葯の裂開を抑制することを特徴とする葯の裂開が抑制された植物体の生産方法。
    (a)配列番号134に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号134に示されるアミノ酸配列において、1個から20個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質。
  2. 上記植物体は、さらに、雌性器官が稔性を有していることを特徴とする請求項1に記載の植物体の生産方法。
  3. 上記植物体は、さらに、花粉自体が稔性を有することを特徴とする請求項1または2に記載の植物体の生産方法。
  4. 上記転写因子をコードする遺伝子と上記機能性ペプチドをコードするポリヌクレオチドとからなるキメラ遺伝子を含む組換え発現ベクターを、植物細胞に導入する形質転換工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の植物体の生産方法
  5. 上記転写因子をコードする遺伝子として、以下の(c)に記載の遺伝子が用いられることを特徴とする請求項4に記載の植物体の生産方法。
    (c)配列番号135に示される塩基配列をオープンリーディングフレーム領域として有する遺伝子。
  6. さらに、上記組換え発現ベクターを構築する発現ベクター構築工程を含んでいることを特徴とする請求項4または5に記載の植物体の生産方法。
  7. 上記機能性ペプチドが、次に示す式(1)〜(4)
    (1)X1−Leu−Asp−Leu−X2−Leu−X3
    (但し、式中、X1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、X2はAsn又はGluを示し、X3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
    (2)Y1−Phe−Asp−Leu−Asn−Y2−Y3
    (但し、式中、Y1は0〜10個のアミノ酸残基を示し、Y2はPhe又はIleを示し、Y3は少なくとも6個のアミノ酸残基を示す。)
    (3)Z1−Asp−Leu−Z2−Leu−Arg−Leu−Z3
    (但し、式中、Z1はLeu、Asp−Leu又はLeu−Asp−Leuを示し、Z2はGlu、Gln又はAspを示し、Z3は0〜10個のアミノ酸残基を示す。)
    (4)Asp−Leu−Z4−Leu−Arg−Leu
    (但し、式中、Z4はGlu、Gln又はAspを示す。)
    のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するものであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  8. 上記機能性ペプチドが、配列番号3〜19のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するペプチドであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  9. 上記機能性ペプチドが、以下の(d)、(e)又は(f)記載のペプチドであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
    (d)配列番号20又は21に示されるアミノ酸配列を有するペプチド。
    (e)配列番号20に示されるアミノ酸配列において、1個から20個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド。
    (f)配列番号21に示されるアミノ酸配列において、1個から3個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチド。
  10. 上記機能性ペプチドが、次に示す式(5)
    (5)α1−Leu−β1−Leu−γ1−Leu
    (但し、式中α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、γ1は、Arg、Gln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。)
    で表されるアミノ酸配列を有するものであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  11. 上記機能性ペプチドが、次に示す式(6)〜(8)
    (6)α1−Leu−β1−Leu−γ2−Leu
    (7)α1−Leu−β2−Leu−Arg−Leu
    (8)α2−Leu−β1−Leu−Arg−Leu
    (但し、各式中α1は、Asp、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、α2は、Asn、Glu、Gln、Thr又はSerを示し、β1は、Asp、Gln、Asn、Arg、Glu、Thr、Ser又はHisを示し、β2はAsn、Arg、Thr、Ser又はHisを示し、γ2はGln、Asn、Thr、Ser、His、Lys又はAspを示す。)
    のいずれかで表されるアミノ酸配列を有するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  12. 上記機能性ペプチドが、配列番号22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37または133に示されるアミノ酸配列を有するペプチドであることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  13. 上記機能性ペプチドが、配列番号38又は39に示されるアミノ酸配列を有するぺプチドであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の植物体の生産方法。
  14. 請求項1〜13のいずれか1項に記載の生産方法により生産された、葯の裂開が抑制された植物体。
  15. 植物体には、成育した植物個体、植物細胞、植物組織、カルス、種子の少なくとも何れかが含まれることを特徴とする請求項14に記載の植物体。
  16. 請求項1〜13のいずれか1項に記載の生産方法を行うためのキットであって、
    以下の(a)または(b)に記載のタンパク質である転写因子をコードする遺伝子と、任意の転写因子を転写抑制因子に転換する機能性ペプチドをコードするポリヌクレオチドと、プロモーターとを含む組換え発現ベクターを少なくとも含むことを特徴とする植物体の葯の裂開抑制キット。
    (a)配列番号134に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質。
    (b)配列番号134に示されるアミノ酸配列において、1個から20個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つ、葯の裂開に関与する遺伝子の転写を促進する機能を有するタンパク質。
  17. さらに、上記組換え発現ベクターを植物細胞に導入するための試薬群を含むことを特徴とする請求項16に記載の植物体の葯の裂開抑制キット。
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