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JP4498663B2 - 透過型結晶分析体の厚さ設定方法 - Google Patents

透過型結晶分析体の厚さ設定方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する分野】
この出願の発明は、非破壊分析方法および非破壊分析装置における透過型結晶分析体の厚み設定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
物体の内部構造を非破壊分析する技術としては、たとえばX線を利用して物体内の像を得る各種技術が既に提案されており、その一つに日本国特許第2694049号がある。
【0003】
これは、単色X線を物体に照射し、物体からの屈折X線を結晶分析体(結晶分析板、結晶分析器等とも称する)に導き、結晶分析体から発せられる透過ビーム及び回折ビームによって物体内の像を得るものであって、結晶分析体が角度分析能力を持つことを利用している。角度分析によって得られる像は、透過ビームと回折ビームのコントラストの異なる類似の像(反対符号を有する像、すなわち一方は白黒そして他方が黒白)の対となっている。
【0004】
また、他の一つには、米国特許第5,850,425号がある。これは、単色X線を物体に照射し、物体からの屈折X線を結晶分析体に導き、結晶分析体から発せられる結晶分析体のブラッグ反射により反射X線を利用するものである。
【0005】
また、その他に、単色X線を物体に照射し、物体からの屈折X線を2回反射する1組の非対称反射型結晶分析体に導くことにより、1回目の反射により歪んだ画像を2回目の反射により歪みが矯正された画像を得る技術も既に提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの従来の非破壊分析技術においては、以下のような問題点があった。
【0007】
すなわち、日本国特許第2694049号の非破壊分析技術においては、透過型結晶分析体の角度分析能力を利用した場合、単色X線を生み出すモノクロメータの原子面と結晶分析体の原子面を平行にすることを考慮していないために波長分布の影響が残ってしまうという問題があり、さらには、結晶分析体を特定の厚さにすることを考慮していないために欲しい物体の像を一度に得られないので、結晶分析体を漸次回転しつつ白黒像さらには黒白像を蓄積し、計算機にかけてコントラストのある像を形成するといった煩雑な操作を必要とするといった問題があったのである。
【0008】
また、上記いずれの非破壊分析技術も、明視野画像において、つまり直接入射するX線の強度の影響を持つX線に重畳し、物体の情報であるX線画像を得ることを主体とした構成では、コントラストが悪く判別のし難い画像しか得られなかった。
【0009】
そこで、この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、特に暗視野画像において、つまり直接入射するX線の強度の影響を持たない、不要なX線の背景照射を削減または低減し、X線による物体の情報であるX線画像を得ることを主体とした構成を実現することができ、物体内の高コントラスト像を一度に、且つ容易に得ることのできる、新しい非破壊分析方法および非破壊分析装置における透過型結晶分析体の厚み設定方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成するにあたり、本発明の透過型結晶分析体の厚み設定方法は、単色平行電磁波または粒子線を物体に照射し、物体からの電磁波または粒子線を動力学的回折作用を発現させる角度で配置した所定厚さの透過型結晶分析体に入射させ、この透過型結晶分析体から発せられる電磁波または粒子線によって物体内の像を得る非破壊分析方法において、予め、透過型結晶分析体の前記所定厚さを、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に物体がないときに、透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって透過方向に出射する前方方向回折単色平行電磁波または粒子線の強度が略ゼロとなり、かつ前記透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって回折方向に出射する回折方向単色平行電磁波または粒子線の強度が最大となる厚さに設定し、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に分析対象となる物体を置き、前記透過型結晶分析体に物体からの電磁波または粒子線を入射させたときに、透過型結晶分析体の前記透過方向に出射する電磁波または粒子線に基づいて前記物体の内部の暗視野画像が得られるようにしたことを特徴としている。
【0011】
さらに本発明は、単色平行電磁波または粒子線を物体に照射し、物体からの電磁波または粒子線を動力学的回折作用を発現させる角度で配置した所定厚さの透過型結晶分析体に入射させ、この透過型結晶分析体から発せられる電磁波または粒子線によって物体内の像を得る非破壊分析装置において、予め、透過型結晶分析体の前記所定厚さを、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に物体がないときに、透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって透過方向に出射する前方方向回折単色平行電磁波または粒子線の強度が略ゼロとなり、かつ前記透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって回折方向に出射する回折方向単色平行電磁波または粒子線の強度が最大となる厚さに設定し、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に分析対象となる物体を置き、前記透過型結晶分析体に物体からの電磁波または粒子線を入射させたときに、透過型結晶分析体の前記透過方向に出射する電磁波または粒子線に基づいて前記物体の内部の暗視野画像が得られるようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明を好適に実施する上では、電磁波または粒子線源からの電磁波または粒子線を単色平行化する手段を設けること、電磁波または粒子線を単色平行化する手段が対称または非対称モノクロメータであること、暗視野画像を検出する電磁波または粒子線検出装置、さらには電磁波または粒子検出装置による検出データを用いて画像を生成する画像処理装置を用いることが有効である。また、電磁波または粒子線として、X線、中性子線を好適に用いることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
[第1の実施形態]
この出願の発明は、まず、たとえば図1および図2に例示したように、単色平行X線Ii(1)を分析対象の物体(2)に照射し、物体(2)からの透過X線、屈折X線、回折X線または小角散乱X線等のX線(以下、説明の便宜上、これらをまとめて屈折X線等と呼ぶこととする)(3)を透過型結晶分析体(4a)に入射させた際の透過型結晶分析体(4a)による動力学的回折作用を利用したものであり、透過型結晶分析体(4a)の厚さを、予め、物体がないときに、透過型結晶分析体(4a)の動力学的回折作用によって得られる前方方向回折X線(入射方向回折X線あるいは透過方向回折X線とも称し、同意義である)(41a)および回折方向回折X線(42a)のいずれか一方の強度が、いずれか他方の強度に比較して直接入射するX線の影響の少ないX線の強度において略ゼロ(ちょうどゼロを含む。以下同じ)となるような厚さに設定しておくことで、物体(2)内の像の暗視野画像(5)および明視野画像(6)のいずれか一方、または両方を一度に得ることができるようにしている。
【0014】
より具体的には、図3にも拡大例示したように、動力学的回折作用とはX線が完全に近い結晶中で多重散乱することによる効果であり、これによってX線は、結晶中の多数の結晶格子面で前方方向(入射方向あるいは透過方向とも称する)の波(O波と呼ぶ)と回折方向の波(G波と呼ぶ)が多数回繰り返し反射を受けて、O波とG波とに分光されて出てくる。
【0015】
このときのO波およびG波と透過型結晶分析体(4a)の厚さとの関係は、次式により表すことができる。
【0016】
【数1】
Figure 0004498663
【0017】
この出願の発明では、上記数1において、
【0018】
【数2】
Figure 0004498663
【0019】
のときにO波強度I O およびG波強度IGのいずれか一方が、いずれか他方に比べて直接入射するX線の影響の少ないX線の強度において略0になるような透過型結晶分析体(4a)の厚さHを選択する。このとき、略0になる方の波が暗視野画像(5)を構築し、他方の波が明視野画像(6)を構築する。すなわち以下のような関係である。
【0020】
【数3】
Figure 0004498663
【0021】
この厚さHの選択に従ってO波・G波による暗視野・明視野画像が実現されることについて図4に沿ってさらに説明すると、まず単色平行X線P(W)(1)が物体(2)に照射されると、物体(2)の持つ散乱・屈折作用Q(W)を受けて散乱・屈折した屈折X線等R(W)(3)が生じる。この屈折X線等R(W)(3)が透過型結晶分析体(4a)に、数1を満たす単色平行X線(1)と透過型結晶分析体(4a)の結晶の格子面に視斜角θで入射すると、透過型結晶分析体(4a)の持つ動力学的回折作用IO(W), IG(W)を受けて前方方向のO波および回折方向のG波に分光される。図5は、動力学的回折作用IO(W)およびIG(W)のより詳細な理論曲線を例示したものである。このとき、透過型結晶分析体(4a)の厚さを上記数3におけるHOとした場合には、O波が動力学的回折作用IO(W)を受けて暗視野画像(5)を、G波が動力学的回折作用IG(W)を受けて明視野画像(6)を構築し、その逆にHGとした場合には、G波が動力学的回折作用IG(W)を受けて暗視野画像(5)を、O波が動力学的回折作用IO(W)を受けて明視野画像(6)を構築するようになる。
【0022】
ここで重要な点は、上記関係を満たす透過型結晶分析体(4a)の厚さがある周期で現れることである。たとえば、透過型結晶分析体(4a)を結晶格子サイズ5.4311Åを持つダイヤモンド型結晶のシリコンにより作製し、シリコン4,4,0反射を用いた場合、図6に例示したように、X線のエネルギー35keVに対しては67.5μmの周期でIOまたはIGが略0となる厚さHが存在する。ここでIO=0となるときはIGが最大値をとり、IOが最大値をとるときはIG=0をとる。したがって、この周期に合わせて透過型結晶分析体(4a)の厚さを調整することで、従来技術のような透過型結晶分析体(4a)の回転は行うことなく、物体(2)の像を高コントラストで一度に暗視野画像(5)および明視野画像(6)のいずれか一方、または両方を得ることができる。
【0023】
たとえば、周期性を考慮し、透過型結晶分析体(4a)を上記厚さが周期的に表れる楔形等の形状とした場合も、図6に示したように、周期的に暗視野画像から明視野画像が順次スリット状に得られる。したがって、たとえば図7に例示したように、透過型結晶分析体(4a)の出力側にスリット(11)を設け、このスリット(11)及び楔状の透過型結晶分析体(4a)を物体(2)に対して相対的にスライド移動させる、またはその逆に物体(2)をスリット(11)及び楔状の透過型結晶分析体(4a)に対して相対的にスライド移動させることで、スリット(11)を通過したスリット状態の画像が複数得られ、それらを合成することにより、任意の視野の画像、つまり暗視野画像および明視野画像のいずれか一方または両方を得ることができる。
【0024】
なお、O波つまり前方方向回折X線(41a)およびG波つまり回折方向回折X線(42a)のいずれか一方の強度が、いずれか他方の強度に比較して直接入射するX線の影響の少ないX線の強度において略ゼロになるとは、上述の説明からも明らかであるが、直接入射するX線の強度の影響をもつ不要なX線が重畳しないこと、強度の強い画像の背景照明となる不要なX線の強度が略ゼロになること、すなわち物体(2)がない場合の理論強度が略ゼロになることを意味している。
【0025】
このような強度に設定可能な透過型結晶分析体(4a)の厚さ範囲は、上記数1からもわかるように結晶格子サイズや入射する屈折X線等(3)の強度・波長などの様々な要因によって変動するが、たとえば数μm〜数10mmが可能である。なおまた、この場合の透過型結晶分析体(4a)の必要仕上げ精度は厚さの1%以下であることが実用上望ましいことである。
【0026】
以上の厚さに設定された透過型結晶分析体(4a)からの前方方向回折X線(41a)および回折方向回折X線(42a)はX線検出装置(10)(図1・図2参照)によって検出され、X線検出装置(10)からのX線検出データを用いて画像処理装置(図示していないがX線検出データを受信可能に構成する)によって画像が生成される。図2の例ではIOから暗視野画像(5)、IGから明視野画像(6)が生成されている。
【0027】
[第2の実施形態]
また、この出願の発明は、たとえば図8(a)(b)および図9に例示したように、反射型結晶分析体(4b)を用いる場合において、非対称モノクロメータ(8)を経て、単色平行X線Ii(1)を分析対象の物体(2)に照射し、物体(2)からの屈折X線等(3)を反射型結晶分析体(4b)に入射させた際の反射型結晶分析体(4b)による動力学的回折作用を利用し、屈折X線等(3)が反射型結晶分析体(4b)において反射型結晶分析体(4b)の動力学的回折作用によって回折条件を満足し且つ透過するようになる。この場合、単色平行X線(1)と反射型結晶分析体(4b)との角度および反射型結晶分析体(4b)の厚さを選択設定しておくことにより、反射型結晶分析体(4b)からの透過X線IT(41b)によって生成される暗視野画像(5)を得ることができるようにもしている。
【0028】
この場合ではさらに、単色平行X線(1)と反射型結晶分析体(4b)との角度を別に選択して、反射型結晶分析体(4b)の動力学的回折作用によって回折条件を満足し、ブラッグ反射条件における反射X線IB(42b)によって生成される明視野画像(6)も得ることができる。
【0029】
また、特に、反射型結晶分析体(4b)に直接入射して暗視野画像(5)に重畳する不要なX線、つまり暗視野画像(5)の不要な背景照明となるX線を排除・低減する場合には、図8および図9に示した非対称の反射型結晶分析体(4b)を用いることにより、かかるX線を十分反射させて削減することで、コントラストの良い暗視野画像を得ることができる。
【0030】
[第3の実施形態]
<X線検出装置>
上述の第1の実施形態および第2の実施形態において、透過型結晶分析体(4a)・反射型結晶分析体(4b)からのX線の検出はX線検出装置(10)により行うが、このX線検出装置(10)としては、2次元検出器(たとえば、X線フィルム、原子核乾板、X線撮像管、X線蛍光増倍管、X線イメージインテンシファイア、X線用イメージングプレート、X線用CCD、X線用非晶質体等)にもとづくフラット型パネルまたは円柱形パネルなど、あるいはラインセンサー1次元検出器を用いることができる。
【0031】
いずれのX線検出装置(10)を用いるかは、分析対象となる物体(2)の種類や状態等によって任意に選択すればよい。また、たとえば、物体の移動、回転、傾斜等とラインセンサー1次元検出器または2次元検出器とによる組合せ走査は、次述の画像処理装置による断層画像および立体画像の生成に有用であり、たとえばX線CT(コンピュータトモグラフィ)技術を導入することで新たな非破壊分析画像を得ることが可能にもなる。
【0032】
<画像処理装置>
画像処理装置(図示していない)は、上記X線検出装置(10)によるX線検出データに基づき、暗視野画像(5)および明視野画像(6)のいずれか一方または両方として、通常のX線散乱画像を生成できるものであり、画像合成処理等により暗視野・明視野の断層画像や立体画像を生成可能となっていてもよい。
【0033】
<X線源>
物体(2)に照射するX線のX線源(図示していない)も、分析対象の物体(2)によって任意に選択すればよく、たとえば、工業材料用には波長=約0.5Å以下、実効焦点=約0.5mm×0.5mm以下、出力=約50W以上のX線を発生可能なものを、医療用には、波長=約0.3Å以下、実効焦点=約0.5mm×0.5mm以下、出力=約1000W(パルス可)以上のX線を発生可能なものを用いることができる。
【0034】
<単色平行化手段>
上記X線源からのX線は、物体(2)に到達する際には、単色ビーム且つ平行ビーム(平面波とも称する)となっていることが必要である。この単色平行化は、たとえば、放物線状ミラーに多層膜モノクロミラーを用いることによって可能となる。また、放物線状反射ミラーあるいはキャピラリーで集光して平行ビーム化した後、モノクロメータあるいは非対称モノクロメータにより単色化することも可能である。図1の例では、非対称モノクロメータ(8)によってX線源(図示していない)からの入射X線(7)を単色平行化しており、図2の例では、非対称モノクロメータ(8)(図示していない)からの単色平行X線(1)をコリメータ(9)によって方向を変えて物体(2)に照射している。またこのコリメータ(9)自体を単色平行化用のモノクロメータとして使用するようにしてもよい。もちろん単色平行化の手段はこれらに限定されず、従来公知の各種手段を適宜用いることができる。
【0035】
また、単色平行化手段としてモノクロメータあるいは非対称モノクロメータ(8)を用いる場合では、図1、図2、図8および図9に示したように、モノクロメータあるいは非対称モノクロメータ(8)をその原子面(80)が透過型結晶分析体(4a)・反射型結晶分析体(4b)の原子面(40a)(40b)と平行となるように設けることが非常に重要なポイントであり(図2ではコリメータ(9)の原子面(90)も平行にする)、これによって、色消し条件を満たし、且つ得られる回折X線の角度広がりが限りなく小さくなるために、角度感度がより高くなり、物体(2)中の屈折等の現象全てを角度固定の透過型結晶分析体(4a)・反射型結晶分析体(4b)によって捉えることが可能になる。
【0036】
なお、図1では非対称モノクロメータ(8)および透過型結晶分析体(4a)が互いに一体化したもの、図2ではコリメータ(9)および透過型結晶分析体(4a)が互いに一体化したコ字型のもの、図8では非対称モノクロメータ(8)および反射型結晶分析体(4b)が互いに一体化したコ字型のものとなっているが、両者を切り離しても、ゆるく連結するなどしてもよいことは言うまでもない。図9は、その一例として非対称モノクロメータ(8)および反射型結晶分析体(4b)を切り離して配設したものとなっている。いずれの場合でも、非対称モノクロメータ(8)及びコリメータ(9)と透過型結晶分析体(4a)及び反射型結晶分析体(4b)とを互いの原子面(80)(90)(40a)(40b)が平行となるように組立て加工、調整する必要がある。
【0037】
<拡大画像取得手段>
透過型結晶分析体(4a)・反射型結晶分析体(4b)からのX線を拡大した画像として得たい場合には、たとえば図10に例示したように、X線源(図示していない)からの入射X線(7)を非対称モノクロメータ(8)で単色平行化し、単色平行X線(1)を物体(2)に照射し、物体(2)からの屈折X線等(3)をさらに1枚ないし複数枚からなる複合化した非対称モノクロメータ(8a)(8b)を経て透過型結晶分析体(4a)に入射させることで、透過型結晶分析体(4a)からの前方方向回折X線(41a)および回折方向回折X線(42a)により生成される暗視野画像(5)および明視野画像(6)を拡大画像として得ること、および分解能を上げた画像として得ることが可能となる。
【0043】また、たとえば図11に例示したように、透過型結晶分析体(4a)からの前方方向回折X線(41a)および回折方向回折X線(42a)を、さらに1枚ないし複数枚からなる複合化した非対称モノクロメータ(8c)(8d)を経てX線検出装置(10)へ出力することで、暗視野画像(5)および明視野画像(6)を拡大画像として得ることも可能である。
【0038】
なお、図10および図11は透過型結晶分析体(4a)を用いた場合の一実施形態であるが、反射型結晶分析体(4b)を用いた場合でも、同様に1枚ないし複数枚からなる複合化した非対称モノクロメータ(8a)(8b)(8c)(8d)を反射型結晶分析体(4b)の前後に設置した構成とすることで、拡大画像および高分解能画像を得られる。
【0039】
また、図1と同様に図10も非対称モノクロメータ(8)(8b)および透過型結晶分析体(4a)が互いに一体化したものとなっているが(図11のものは図1と実質同一)、互いの原子面(80)および原子面(40a)が平行となっている限り、両者が離れていても、ゆるく連結されていてもよい。
【0040】
[第4の実施形態]
ところで、第1及び第2の実施形態においては、結晶分析体として、透過型のもの(透過型結晶分析体(4a))および反射型のもの(反射型結晶分析体(4b))というようにその機能・性質が予め定まっているものを用いているが、これ以外に、いずれにも共用できる結晶分析体を用意しておき、分析時に予めその厚さを調整して透過型および反射型に使用可能なものとすることで、両型共用の非破壊分析装置を実現することもできる。すなわち、第1の実施形態で説明した厚さ条件および第2の実施形態で説明した厚さ条件の両方を同時に満足するように厚さ調整すれば、結晶分析体を透過型にも反射型にも使用できるのである。
【0041】
これにより、たとえば図2および図8を、透過型結晶分析体(4a)専用、反射型結晶分析体(4b)専用ではなく、両型共用分析装置として提供可能になる。
【0042】
なお、たとえば、透過型に使用する場合では図2のように斜め上方から屈折X線等(3)を入射させ、反射型に使用する場合では図8(a)のように真っ直ぐ上方から屈折X線等(3)を入射させることが望ましい(反射型にて斜め入射も可能ではある)ので、入射X線(7)あるいは単色平行X線(1)を図2および図8(a)に示したような方向からコリメータ(9)あるいは非対称モノクロメータ(8)に照射可能な構成とし、またX線検出装置(10)についても図2および図8(a)に示したような位置に設定可能な構成としておく必要がある。
【0043】
したがって、上記厚さ条件に設定した結晶分析体を用いれば、屈折X線等(3)の入射方向などを変えるだけで、任意に透過型および反射型を選択でき、両型共用の非破壊分析を実現できる。
【0044】
この出願の発明は、上記のとおりの特徴を有するものであるが、以下に、添付した図面に沿って実施例を示し、さらに詳しくその実施の形態について説明する。
【0045】
【実施例】
[実施例1]
図12は、厚さ1.0mmのアルミニウム中に直径140μmのボロンファイバーを埋め込んで成る物体(2)を図2の実施形態に従って撮像したものである。透過型結晶分析体(4a)としては、ダイヤモンド型結晶のシリコン4,4,0反射を用いている。その厚さを上記数1および数3の関係を満たすHに調整したところ、図12から明らかなように、G波つまり回折方向回折X線(42a)によってボロンファイバーを鮮明に写し出した暗視野画像(5)が得られた。これと同時に明視野画像(6)も得られることは言うまでもない。
【0046】
[実施例2]
図13は、厚さ7.0mmのワックス中に直径0.4mmのナイロンファイバーを埋め込んで成る物体(2)を図2の実施形態に従って撮像したものである。透過型結晶分析体(4a)としては、ダイヤモンド型結晶のシリコンからなるものを用いている。その厚さを上記数1および数3の関係を満たすHに調整したところ、図13から明らかなように、G波つまり回折方向回折X線(42a)によってナイロンファイバーを鮮明に写し出した暗視野画像(5)が得られた。これと同時に明視野画像(6)も得られることは言うまでもない。
【0047】
[実施例3]
図14は、昆虫を内蔵した琥珀からなる物体(2)を図2の実施形態に従って撮像したものである。透過型結晶分析体(4a)としてダイヤモンド型結晶のシリコンを用い、単色平行X線(1)はエネルギー35keVとした。図14から明らかなように、昆虫を鮮明に写し出した暗視野画像(5)が得られた。これと同時に明視野画像(6)も得られることは言うまでもない。
【0048】
[実施例4]
図15は、分析対象の物体(2)としての乾燥した魚を図8の実施形態に従って撮像したものである。反射型結晶分析体(4b)として結晶シリコン4,4,0反射を用い、その厚さは1mmに設定した。図15から明らかなように、透過X線IT(41b)によって乾燥した魚を鮮明に写し出した暗視野画像(5)が得られた。また別に、反射X線IB(42b)によって明視野画像(11)も得られることは言うまでもない。
【0049】
もちろん、この出願の発明は以上の各例に限定されるものでなく、細部については様々な態様が可能である。
【0050】
なお、この出願の発明を、以上述べた方法または装置として、X線の代わりに他の電磁波または中性子線や電子線等の粒子線を用い、数1、数2、数3のもとに実施することは容易であり、X線と同様に、他の電磁波または粒子線による優れた非破壊分析が可能である。この場合、たとえば、物体(2)からの透過粒子線、屈折粒子線、回折粒子線または小角散乱粒子線を透過型結晶分析体(4a)反射型結晶分析体(4b)に入射させ、X線検出装置(10)の代わりに粒子線検出装置を用いて透過型結晶分析体(4a)からの前方方向回折粒子線および回折方向回折粒子線を、または反射型結晶分析体(4b)からの透過粒子線および反射粒子線を暗視野画像(5)および明視野画像(6)として検出し、その粒子線検出データを用いた画像処理が可能な画像処理装置によって画像生成を行うようにすればよい。
【0051】
X線(10-3nm〜10nm)以外の電磁波としては、たとえば、ガンマ線(10-2nm以下)、紫外線(1nm〜400nm)、可視光線(400nm〜800nm)、赤外線(800nm〜4000nm)を挙げることができ、いずれを用いてもこの出願の発明に従った上記非破壊分析が可能である。なお、これらの電磁波名および波長域の出典は「改訂第4版 物理学辞典」(培風館、1998年発行)における”電磁波”であるが、この出典における電磁波名および波長域が唯一ではなく、この出願の発明に従った上記非破壊分析が可能であればいずれの電磁波であっても適用可能である。
【0052】
以上のこの出願の発明は、従来技術では解明し確認できなかった食品、薬品、医療診断対象物、半導体、有機・無機物等のあらゆる物体に対して、その構造および機能を非破壊、高コントラスト、且つ高分解能(たとえば少なくとも数十ミクロンメートルレベル以下)で分析することが可能な、検査・加工システム、医療診断システム、状態・形態変化の観察システム等の新しい総合的システムをも提供することができる。これにより、あらゆる分野において、様々な物体の中から当該分野に有用な物体を正確に特定し、新しい有用食品、有用薬品等の生産物、生成物として提供することが可能となる。
【0053】
特に、技術革新の著しい進歩が見られる微細技術分野においては、この出願の発明の実施により高い相乗効果を上げることが実現可能となる。たとえば、動物、人間等の脳、肝臓等における生理状態の解明、癌の発生・成長過程状態の解明、さらには癌の発生・成長過程や形態変化の状態と投薬との因果関係の解明によって、あらゆる物体の中から新薬として適当である物体を特定し提供可能となる。
【0054】
また、蛋白質構造解析などの高分子分野における構造解析において、X線回折分析等における原子構造レベルの構造解析と組み合わせることで、どのようなマクロ形態の構造であるかを対応させながら分析・解明し、新たな薬、抗体等を設計し提供可能となる。
【0055】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、生体・非生体、結晶・非結晶、単材・複合材、固体・液体などを問わずあらゆる物体の内部構造の高コントラスト像を一度に、且つ容易に暗視野画像および明視野画像として得ることのできる、新しい非破壊分析方法および非破壊分析装置が提供される。
【0056】
特に、暗視野画像によるX線の画像は、従来見られなかったX線の透視画像に比較し、分析対象である物体の構造を、簡単な構成で、非常に高いコントラストで、高精度に、極めて見やすく、容易に分析できることに大きな特徴を有している。
【0057】
また、この出願の発明の非破壊分析方法および装置を用いて非破壊分析することにより、様々な分野において有用な作用効果等のある物体を特定し、それを新たな生産物、生成物等として提供可能にもなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 透過型結晶分析体を用いた場合のこの出願の発明の一実施形態を例示した図である。
【図2】 透過型結晶分析体を用いた場合のこの出願の発明の別の一実施形態を例示した図である。
【図3】 透過型結晶分析体における動力学的回折作用について説明するための図である。
【図4】 透過型結晶分析体における明視野画像および暗視野画像について説明するための図である。
【図5】 透過型結晶分析体が持つ動力学的回折作用の理論曲線を例示した図である。
【図6】 透過型結晶分析体の厚さとO波およびG波との関係を例示した図である。
【図7】 透過型結晶分析体を用いた場合のこの出願の発明のさらに別の一実施形態を例示した図である。
【図8】 (a)は反射型結晶分析体を用いた場合のこの出願の発明の一実施形態を例示した図であり、(b)は反射型結晶分析体を例示した斜視図である。
【図9】 反射型結晶分析体を用いた場合のこの出願の発明の別の一実施形態を例示した図である。
【図10】 物体と透過型結晶分析体の間に非対称モノクロメータを設置した場合のこの出願の発明の一実施形態を例示した図である。
【図11】 透過型結晶分析体とX線検出装置との間に非対称モノクロメータを設置した場合のこの出願の発明の一実施形態を例示した図である。
【図12】 この出願の発明による非破壊分析の一実施例を示した図である。
【図13】 この出願の発明による非破壊分析の別の一実施例を示した図である。
【図14】 この出願の発明による非破壊分析の別の一実施例を示した図である。
【図15】 この出願の発明による非破壊分析の別の一実施例を示した図である。
【符号の説明】
1 単色平行X線
2 物体
3 屈折X線等
4a 透過型結晶分析体
40a 原子面
41a 前方方向回折X線
42a 回折方向回折X線
4b 反射型結晶分析体
40b 原子面
41b 透過X線
42b 反射X線
5 暗視野画像
6 明視野画像
7 入射X線
8 非対称モノクロメータ
8a,8b,8c,8d 非対称モノクロメータ
80 原子面
9 コリメータ
90 原子面
10 X線検出装置
11 スリット

Claims (2)

  1. 単色平行電磁波または粒子線を物体に照射し、物体からの電磁波または粒子線を動力学的回折作用を発現させる角度で配置した所定厚さの透過型結晶分析体に入射させ、この透過型結晶分析体から発せられる電磁波または粒子線によって物体内の像を得る非破壊分析方法において、
    予め、透過型結晶分析体の前記所定厚さを、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に物体がないときに、透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって透過方向に出射する前方方向回折単色平行電磁波または粒子線の強度が略ゼロとなり、かつ前記透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって回折方向に出射する回折方向単色平行電磁波または粒子線の強度が最大となる厚さに設定し、
    前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に分析対象となる物体を置き、前記透過型結晶分析体に物体からの電磁波または粒子線を入射させたときに、透過型結晶分析体の前記透過方向に出射する電磁波または粒子線に基づいて前記物体の内部の暗視野画像が得られるようにしたことを特徴とする非破壊分析方法における透過型結晶分析体の厚さ設定方法
  2. 単色平行電磁波または粒子線を物体に照射し、物体からの電磁波または粒子線を動力学的回折作用を発現させる角度で配置した所定厚さの透過型結晶分析体に入射させ、この透過型結晶分析体から発せられる電磁波または粒子線によって物体内の像を得る非破壊分析装置において、
    予め、透過型結晶分析体の前記所定厚さを、前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に物体がないときに、透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって透過方向に出射する前方方向回折単色平行電磁波または粒子線の強度が略ゼロとなり、かつ前記透過型結晶分析体の動力学的回折作用によって回折方向に出射する回折方向単色平行電磁波または粒子線の強度が最大となる厚さに設定し
    前記単色平行電磁波または粒子線の照射路上に分析対象となる物体を置き、前記透過型結晶分析体に物体からの電磁波または粒子線を入射させたときに、透過型結晶分析体の前記透過方向に出射する電磁波または粒子線に基づいて前記物体の内部の暗視野画像が得られるようにしたことを特徴とする非破壊分析装置における透過型結晶分析体の厚み設定方法。
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