JP4491103B2 - 多分岐高分子、その製造方法、固体電解質及び電気化学素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多分岐高分子及びその製造方法に関する。さらに、本発明は、該多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質及び該固体電解質を含んだ電気化学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電池、コンデンサー、センサー、エレクトロクロミック素子、電気化学ダイオード等の電気化学素子の開発において、その主要構成部分である電解質を固体化することにより、信頼性及び安全性の向上が図られている(特開昭58−1973号公報、特開昭58−19807号公報、特開昭58−75779号公報等)。しかし、電解質の完全固体化に関しては、そのイオン伝導度は十分とは言えない。これに対し、例えば、特開昭59−196577号公報、特開昭61−214374号公報、特開平1−213355号公報等では、高分子固体電解質に有機溶媒を含有させゲル化したものを電解質に適用することが提案されており、これによって、イオン伝導度が改善されている。しかし電気化学素子の信頼性、安全性等を考慮すると、本来の意味での完全固体化の実現が待ち望まれているが現状である。
【0003】
多くの高分子材料は絶縁体であるが、ある種の高分子材料は電解質塩と固溶体を形成しイオンの良導体となる。例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)は電解質塩を溶解し、塩を解離し、自由体積空間をイオンとして輸送することができる。これはPEOの特異的な構造によるもので、こうした働きはポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリエチレンイミン、ポリエチレンスルフィド等の官能基(イオン解離基)を有する高分子に特有の性質であることが知られている。しかし、これらの高分子材料においても、一分岐高分子では高いイオン伝導度が報告されているものの、液体並みのイオン伝導度は達成されていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、均質性及び固体強度に優れた高いイオン伝導度を有する固体電解質の基材高分子となる多分岐高分子及びその製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、該多分岐高分子を基材高分子とした固体電解質、及び該固体電解質を含んだ電気化学素子を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、
(1) 少なくとも、式(I):
【0006】
【化7】
【0007】
(式中、R1 〜R3 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R4 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(A)及び式(II):
【0008】
【化8】
【0009】
(式中、R5 〜R7 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R8 〜R12はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のハロアルキル基を示す。ただし、R8 〜R12の少なくとも一つは炭素数1〜4のα−ハロアルキル基を示す。)で表される単量体(B)を含有してなる単量体混合物を共重合させて得られる多分岐高分子、
(2) 前記(1)記載の多分岐高分子に、少なくとも式(I):
【0010】
【化9】
【0011】
(式中、R1 〜R3 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R4 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(A)及び式(II):
【0012】
【化10】
【0013】
(式中、R5 〜R7 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R8 〜R12はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のハロアルキル基を示す。ただし、R8 〜R12の少なくとも一つは炭素数1〜4のα−ハロアルキル基を示す。)で表される単量体(B)をグラフト重合させて得られる多分岐高分子、
(3) 前記(2)記載の多分岐高分子をカチオン交換し、リチウムイオンを結合させた多分岐高分子、
(4) 前記(2)記載の多分岐高分子の製造方法であって、リビングラジカル重合によりグラフト重合を行う多分岐高分子の製造方法、
(5) 少なくとも基材高分子と電解質塩からなる固体電解質であって、該基材高分子が前記(1)〜(3)いずれか記載の多分岐高分子である固体電解質、並びに
(6) 前記(5)記載の固体電解質を含んでなる電気化学素子
に関する。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の多分岐高分子には、種々の態様がある。
【0015】
1.第1の態様
本発明の多分岐高分子の第1の態様は、少なくとも、式(I):
【0016】
【化11】
【0017】
(式中、R1 〜R3 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R4 は水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のアシル基を示す。nは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(A)及び式(II):
【0018】
【化12】
【0019】
(式中、R5 〜R7 はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基、R8 〜R12はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜4のハロアルキル基を示す。ただし、R8 〜R12の少なくとも一つは炭素数1〜4のα−ハロアルキル基を示す。)で表される単量体(B)を含有してなる単量体混合物を共重合させて得られる。
【0020】
本明細書において、炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。炭素数1〜4のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。炭素数1〜4のハロアルキル基としては、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基、1−クロロエチル基、1−クロロプロピル基、1−クロロ−1−メチルエチル基、1−クロロブチル基、1−クロロ−1−メチルプロピル基等が挙げられる。式(I)において、nは1〜20、好ましくは2〜15の整数を示す。
【0021】
式(I)で表される単量体(A)の好適な市販品としては、「ブレンマーPME−100」〔R1 、R2 =水素原子、R3 =メチル基、R4 =メチル基、n≒2〕、「ブレンマーPME−200」〔R1 、R2 =水素原子、R3 =メチル基、R4 =メチル基、n≒4〕、「ブレンマーPME−400」〔R1 、R2 =水素原子、R3 =メチル基、R4 =メチル基、n≒9〕(以上、日本油脂製)等が挙げられる。
【0022】
式(II)で表される単量体(B)の好適な例としては、4−クロロメチルスチレン等が挙げられる。
【0023】
本発明では、単量体混合物に、式(III):
【0024】
【化13】
【0025】
(式中、R13〜R15はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。mは1〜20の整数を示す。)で表される単量体(C)がさらに含有されていることが好ましい。
【0026】
式(III)において、mは1〜20、好ましくは2〜15の整数を示す。式(III)で表される単量体(C)の好適な市販品としては、「ライトエステルP−1M」〔R13、R14=水素原子、R15=メチル基、m≒2〕(共栄社製)等が挙げられる。
【0027】
また、単量体混合物には、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物及び/又は単量体(B)以外のスチレン化合物がさらに含有されていることが好ましい。
【0028】
単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物としては、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリル酸メチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-(エトキシカルボニルオキシ)エチル、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、メタクリロイルコリン等が挙げられる。
【0029】
単量体(B)以外のスチレン化合物としては、スチレン−4−スルホン酸、1,4−ジビニルベンゼン、4,4’−ジビニルビフェニル等が挙げられる。
【0030】
なお、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物並びに単量体(B)以外のスチレン化合物は、多官能性で架橋性を有する化合物であっても良い。又、イオン解離を促進する極性官能基(イオン解離基)を有していることが好ましい。
【0031】
単量体混合物中の単量体(A)の量は20〜99モル%が好ましく、単量体(B)の量は1〜80モル%が好ましい。単量体混合物中の、単量体(C)、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物並びに単量体(B)以外のスチレン化合物の量は、いずれも0〜20モル%が好ましい。
【0032】
本発明の単量体(A)、単量体(B)、単量体(C)及び単量体(A)、(C)以外のアクリル化合物、単量体(B)以外のスチレン化合物は、それぞれ単一のものであっても良いし、2種以上の混合物であってもよい。
【0033】
少なくとも単量体(A)及び単量体(B)を含有した単量体混合物の共重合は、例えば、重合開始剤等の触媒の存在下、単量体混合物を溶媒に溶解させて行うことができる。
【0034】
溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、クメン、ベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられ、これらの中ではトルエンが好ましい。溶媒の量は、特に限定されないが、通常、単量体混合物100重量部に対して、50〜500重量部程度であることが好ましい。
【0035】
重合開始剤としては、ペルオキシピバル酸t−ブチル、過酸化ベンゾイル、α, α'-アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、通常、単量体混合物100重量部に対して、0.5〜5重量部が好ましい。
【0036】
反応温度は、特に限定されないが、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0037】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、 1H−NMR等により容易に確認することができる。
【0038】
反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた多分岐高分子を単離することができる。
【0039】
このようにして得られる多分岐高分子の数平均分子量は、特に限定されないが、2,000〜100,000が好ましく、5,000〜50,000がより好ましい。なお、多分岐高分子の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0040】
本発明の第1の態様の多分岐高分子は、通常、共重合に供した単量体に由来する構造単位が線状に不規則に配列した主鎖と、単量体のオレフィン置換基を側鎖として有する。
【0041】
2.第2の態様
本発明では、第2の態様として、第1の態様の多分岐高分子に対して、さらに、少なくとも式(I)で表される単量体(A)及び式(II)で表される単量体(B)をグラフト重合させて、より高度に分岐した多分岐高分子を得ることができる。グラフト重合による分岐鎖は主鎖に対し1回のみ分岐していてもよいし、グラフト重合による一次分岐鎖からさらに1回以上分岐していてもよい。なお、単量体(A)及び単量体(B)は、第1の態様の多分岐高分子に対してグラフト重合させてもよく、あるいは別々にグラフト重合させてもよい。同時にグラフト重合する場合は、単量体(A)及び単量体(B)を含有した単量体混合物を同時にグラフト重合させればよい。また、別々にグラフト重合させる場合、その順序は特に限定されず、例えば、第1の態様の多分岐高分子に対して単量体(A)をグラフト重合させた後に、単量体(B)をグラフト重合させる方法や、第1の態様の多分岐高分子に対して単量体(B)をグラフト重合させた後に、単量体(A)をグラフト重合させる方法、さらに第1の態様の多分岐高分子に対して単量体(A)をグラフト重合させた後に、単量体(B)をグラフト重合させ、再度単量体(A)をグラフト重合させる方法のように、第1の態様の多分岐高分子に対して2回以上グラフト重合させる態様であってもよい。
【0042】
本発明では、式(III)で表される単量体(C)、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物及び/又は単量体(B)以外のスチレン化合物からなる群より選ばれた少なくも1種を、単量体(A)及び/又は単量体(B)とは独立してグラフト重合させてもよく、あるいは単量体(A)及び/又は単量体(B)とともにグラフト重合させてもよい。その態様としては、単量体(A)及び単量体(B)と共に単量体混合物に含有させて同時にグラフト重合させてもよく、あるいは単量体(A)及び単量体(B)と別々にグラフト重合させてもよい。
【0043】
グラフト重合させる単量体総量中の単量体(A)の量は50〜99モル%が好ましく、単量体(B)の量は1〜50モル%が好ましい。グラフト重合させる単量体総量中の、単量体(C)、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物並びに単量体(B)以外のスチレン化合物の量は、いずれも0〜20モル%が好ましい。
【0044】
なお、グラフト重合に用いる単量体(A)〜(C)、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物並びに単量体(B)以外のスチレン化合物は、いずれも第1の態様で例示したものを同様に使用することができる。
【0045】
本発明では、グラフト重合の方法は特に限定されないが、リビングラジカル重合により行うことが好ましい。グラフト重合をリビングラジカル重合で行うことにより、単量体及び/又は触媒の投入量や投入時期を調節することで、ブロック共重合、重合度を調節した重合、分岐回数の調節等が可能になる。なお、前記共重合反応の終了後は、反応溶液から、生成した多分岐高分子を単離することなく、該反応溶液中で該多分岐高分子のグラフト重合を行ってもよい。
【0046】
グラフト重合は第1の態様の多分岐高分子が有する単量体(B)由来の側鎖部分を開始点として起こる。この側鎖部分を開始点として起こるグラフト重合により生じる分岐鎖を一次分岐鎖と呼び、この時分岐回数を1回とする。従って、主鎖を形成する共重合の際、単量体中の単量体(B)の割合を多くしておけば、グラフト重合による一次分岐鎖の数は多くなる。グラフト重合を行う際にも単量体(B)を用いることにより、グラフト重合で形成された一次分岐鎖にも単量体(B)由来の側鎖部分、すなわちグラフト重合の開始点が生じ、さらに新たな二次分岐鎖が生じ、この時分岐回数を2回とする。そして、この二次分岐鎖にもグラフト重合の開始点が生じるので、三次、四次等の高次の分岐鎖を生じ、この時分岐回数をそれぞれ3回、4回とする。よって、グラフト重合を複数回行うことにより、より高度に分岐した多分岐回数の多分岐高分子を得ることができる。
【0047】
リビングラジカル重合は、金属触媒の存在下で行うことが好ましい。金属触媒としては、銅触媒が好ましく、特に塩化銅(I) と2,2' −ビピリジル誘導体のコンプレックスが好ましい。金属触媒の使用量は、グラフト重合させる単量体の総量100重量部に対して、0.01〜10重量部が好ましい。
【0048】
溶媒としては、コハク酸ジエチル、コハク酸ジメチル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等が挙げられ、これらの中ではコハク酸ジエチルが好ましい。溶媒の量は、特に限定されないが、通常、単量体の総量100重量部に対して、50〜500重量部程度であることが好ましい。
【0049】
反応温度は、特に限定されないが、通常、20〜200℃が好ましく、反応雰囲気は、大気であってもよく、あるいは窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0050】
反応の終了は、薄層クロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、 1H−NMR等により容易に確認することができる。
【0051】
反応終了後は、濾過、濃縮、抽出、精製等の公知の操作により、得られた多分岐高分子を単離することができる。
【0052】
前記グラフト重合により得られる多分岐高分子の数平均分子量は、特に限定されないが、4,000〜1,000,000が好ましく、8,000〜500,000がより好ましい。なお、多分岐高分子の数平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0053】
前記グラフト重合により得られる多分岐高分子の分岐回数は、1〜10回が好ましく、1〜5回がより好ましい。なお、本発明における分岐の有無は以下の方法で確認することができる。即ち、単量体(A)及び単量体(B)のみを用いた共重合により得られた第1の態様の多分岐高分子には、 1H−NMRでσ=約4.5ppmにベンジル位のシグナルが、7.1〜7.3ppmに多数の芳香族領域シグナルが観測され、単量体(B)のグラフト重合開始点の残存が確認することができる。一方、得られた多分岐高分子にさらにグラフト重合を行った第2の態様の多分岐高分子では、 1H−NMRでσ=約4.5ppmのベンジル位のシグナルはほぼ消失し、芳香族領域で観測されるシグナルは約7.2ppmに1本のみとなり、単量体(B)のグラフト重合開始点は全てグラフト重合に費やされ消失していることを確認することができる。
【0054】
また、本発明の多分岐高分子は、カチオン交換により、リチウムイオンを結合させた多分岐高分子であることが好ましい。カチオン交換は、例えば、金属リチウム、水素化リチウム、酸化リチウム、水酸化リチウム等により、行うことができる。
【0055】
本発明ではさらに、このようにして得られた多分岐高分子からなる基材高分子と電解質塩とを含有した固体電解質を提供する。
【0056】
電解質塩としては、LiClO4 、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6 、LiSbF6 、CF3 SO3 Li、CF3 CO2 Li、C2 F4 (SO3 Li)2 、(CF3 SO2 )2 NLi、(CF3 SO2 )3 CLi、LiClF4 、LiAlCl4 、LiAlO4 、LiCl、LiI、これらの混合塩等のリチウム塩電解質が好ましく、なかでもLiPF6 、LiBF4 、(CF3 SO2 )2 NLi及び(CF3 SO2 )3 CLiが特に好ましい。
【0057】
固体電解質中の電解質塩の含有量は、固体電解質の基材高分子である多分岐高分子のエチレンオキシドユニット(エチレングリコールユニット)、即ち−OCH2 CH2 O−に対し、0.5〜30モル%が好ましく、1〜10モル%がより好ましい。
【0058】
本発明の固体電解質には、必要に応じて、電気化学的に不活性な可塑剤、酸化チタン、酸化珪素等の金属酸化物、プラスチックフィラー及び/又はイオン伝導性フィラー等のフィラー等が添加されていてもよい。
【0059】
本発明の固体電解質は、例えば、基材高分子及び電解質塩をアセトニトリル等の溶媒に溶解させ、溶媒を蒸発させて得ることができるが、電解液及び電解質塩を含むゲルの状態でも使用することができる。
【0060】
さらに、本発明では、本発明の固体電解質を含んだ電気化学素子を提供する。かかる電気化学素子としては、一次、二次電池、キャパシタ、エレクトロクロミック素子等が挙げられ、本発明の固体電解質は、それらの電解質、電極バインダー等として使用することができるが、特にリチウム二次電池、キャパシタの電解質として有効である。
【0061】
本発明の電気化学素子が好ましく適用される電池としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子化合物のセパレーター、容器、正負極端子等からなる、角型、円筒型、コイン型、ペーパー型等の各種電池が挙げられる。
【0062】
リチウム二次電池の場合、正極材料としては、例えばLiCoO2 、LiNiO2 、LiMnO4 等が挙げられ、負極材料としては、リチウムイオンを吸蔵・離することのできるカーボンで石油系コークス、天然グラファイト、グラファイト化メソフェーズ小球体、PIC(Pseudo Isotropic Carbon )、FMC(Fine Mosaic Carbon)、有機物の焼成品等が挙げられる。
【0063】
固体電解質が実用電池の電気化学素子として使用される場合、以下の性能:
1.広い温度範囲での液体並のイオン伝導度
2.電極(リチウム)/電解質界面の低抵抗化
3.レドックス反応安定性
4.成膜性/隔膜としての強度
5.不燃性、難燃性、自己消火性等の燃焼特性
が求められるが、本発明の多分岐高分子を含有した固体電解質はこれらの性能を満足するものである。
【0064】
【実施例】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
実施例1
<共重合> 単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)29g(110ミリモル)及び単量体(B)として4−クロロメチルスチレン1.3g(8.5ミリモル)からなる単量体混合物をトルエン45gに溶解した。この溶液に、重合開始剤としてペルオキシピバル酸t−ブチル「パーブチルPV」(日本油脂製)1.5gを加え、アルゴン気流下、80℃で3時間加熱撹拌した。反応液を室温に冷却した後、ヘキサン45gを加え、良く撹拌すると粘稠な沈澱を生じた。上澄みを除去し、残渣にもう一度ヘキサン45gを加えて良く撹拌して、上澄みを除去した。残渣を70℃で3時間真空乾燥した。得られた多分岐高分子(数平均分子量:31,000)の 1H−NMR測定では、δ=約4.5ppmにベンジル位のプロトンシグナルが、また7.1〜7.3ppmに多数の芳香族プロトンシグナルが観測された。
【0066】
<グラフト重合> 上記の共重合操作で得られた多分岐高分子10g、単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)14g(51ミリモル)及び単量体(B)として4−クロロメチルスチレン0.63g(4.1ミリモル)からなる単量体混合物をコハク酸ジエチル28gに溶解した。この溶液に、アルゴン気流下、塩化銅(I) 0.63g及び4,4’−ビピリジル0.09gを加えた。この混合液を、アルゴン気流下で110℃、5時間加熱撹拌した。反応液に活性炭3g及び水酸化マグネシウム5gを加え、加圧濾過器で濾過した。濾液を減圧濃縮し得られた粘稠な残渣を70℃で、5時間減圧乾燥した。得られた多分岐高分子(数平均分子量:68,000)の 1H−NMR測定では、δ=約4.5ppmのベンジル位のプロトンシグナルがほぼ消失し、芳香族領域は約7.2ppmに1本のシグナルのみが観測された。
【0067】
<イオン伝導度測定> 上記のグラフト重合操作で得られた多分岐高分子をアセトニトリルに溶解させ、得られた溶液に電解質塩としてLiBF4 を溶解させた後、厚さ80μmのPETフィルム上にアプリケータを用いて流延し、アセトニトリルを揮発させて均一な固体電解質膜(膜厚:約200μm)を得た。その後、イオン伝導度σを下記の方法で測定した。なお、以上の操作は、アルゴンガスを充填したグローブボックス内において行った。
【0068】
得られた固体電解質膜から2cm2 の試験片を切り出し、SUS電極を用いた導電率測定セルを用いて、グローブボックス内で電極間の交流インピーダンスを測定した(周波数:1〜106 Hz)。イオン伝導度は複素インピーダンス解析により求めた。測定装置は「SI1255型インピーダンスアナライザ」(ソーラトロン社製)を用いた。測定したイオン伝導度σを表1に示す。
【0069】
実施例2
<共重合> 単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)29g(110ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン1.3g(8.5ミリモル)及び単量体(C)として「ライトエステルP−1M」(共栄社製)0.7g(2.8ミリモル)からなる単量体混合物を使用した他は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:26,000)を得た。
【0070】
<グラフト重合> 上記の共重合操作で得られた多分岐高分子10g、単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)14g(51ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン0.63g(4.1ミリモル)及び単量体(C)として「ライトエステルP−1M」(共栄社製)0.35g(1.4ミリモル)からなる単量体混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:53,000)を得た。
【0071】
<イオン伝導度測定> 実施例1と同様にして固体電解質膜を調製し、イオン伝導度測定を行った。
【0072】
実施例3
<共重合> 単量体(A)として「ブレンマーPME−100」(日本油脂製)28.6g(110ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン1.3g(8.5ミリモル)及びアクリロニトリル0.26g(4.9ミリモル)からなる単量体混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:29,000)を得た。
【0073】
<グラフト重合> 上記の共重合操作で得られた多分岐高分子10g、単量体(A)として「ブレンマーPME−100」(日本油脂製)13.9g(74ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン0.63g(4.1ミリモル)及びアクリロニトリル0.13g(2.5ミリモル)からなる単量体混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:64000)を得た。
【0074】
<イオン伝導度測定> 実施例1と同様にして固体電解質膜を調製し、イオン伝導度測定を行った。
【0075】
実施例4
<共重合> 単量体(A)として「ブレンマーPME−100」(日本油脂製)29g(150ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン1.3g(8.5ミリモル)、単量体(C)として「ライトエステルP−1M」(共栄社製)0.4g(1.6ミリモル)及びスチレン−4−スルホン酸0.4g(2.2ミリモル)からなる単量体混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:30,000)を得た。
【0076】
<グラフト重合> 上記の共重合操作で得られた多分岐高分子を10g、単量体(A)として「ブレンマーPME−100」(日本油脂製)13.9g(74ミリモル)、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン0.63g(4.1ミリモル)、単量体(C)として「ライトエステルP−1M」(共栄社製)0.2g(0.79ミリモル)及びスチレン−4−スルホン酸0.2g(2.2ミリモル)からなる単量体混合物を使用した以外は、実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:66,000)を得た。
【0077】
<イオン伝導度測定> 実施例1と同様にして固体電解質膜を調製し、イオン伝導度測定を行った。
【0078】
実施例5
<共重合> 実施例1と同様にして多分岐高分子(数平均分子量:31,000)を得た。
【0079】
<グラフト重合> 上記の共重合操作で得られた多分岐高分子10g、単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)5.0g(18ミリモル)からなる単量体混合物をコハク酸ジエチル28gに溶解した。この溶液に、アルゴン気流下、塩化銅(I) 0.21g及び4,4’−ビピリジル0.03gを加えた。この混合液を、アルゴン気流下、110℃で4時間加熱撹拌した。反応液に活性炭3g及び水酸化マグネシウム5gを加え加圧濾過器で濾過した。濾液を減圧濃縮して残渣を得た。
【0080】
この残渣をコハク酸ジエチル28gに溶解し、単量体(B)として4−クロロメチルスチレン0.21g(1.4ミリモル)を加えた。この溶液に、アルゴン気流下、塩化銅(I) 0.21g及び4,4’−ビピリジル0.03gを加えた。この混合液を、アルゴン気流下、110℃で1時間加熱撹拌した。その後、単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)5.0g(18ミリモル)を加え、アルゴン気流下、3時間加熱撹拌した。反応液に活性炭3g及び水酸化マグネシウム5gを加え加圧濾過器で濾過した。濾液を減圧濃縮して残渣を得た。得られた多分岐高分子の 1H−NMR測定では、δ=約4.5ppmにベンジル位のプロトンシグナルが観測され、芳香族プロトンとして、約7.2ppmのシグナルと7.1〜7.3ppmの多数のシグナルとが観測された。
【0081】
この残渣をコハク酸ジエチル28gに溶解し、単量体(A)として「ブレンマーPME−200」(日本油脂製)5.0g(18ミリモル)を加えた。この溶液に、アルゴン気流下、塩化銅(I) 0.21g及び4,4’−ビピリジル0.03gを加えた。この混合液を、アルゴン気流下、110℃で4時間加熱撹拌した。反応液に活性炭3g及び水酸化マグネシウム5gを加え加圧濾過器で濾過した。濾液を減圧濃縮し得られた粘稠な残渣を70℃、5時間減圧乾燥した。得られた多分岐高分子(数平均分子量:66,000)の 1H−NMR測定では、芳香族領域としては、約7.2ppmに1本のシグナルのみが観測された。
【0082】
<イオン伝導度測定> 実施例1と同様にして固体電解質膜を調製し、イオン伝導度測定を行った。
【0083】
比較例1
ポリエチレンオキサイドのアセトニトリル溶液をLiBF4 との塩溶効果により調製し、実施例1と同様にして製膜して、イオン伝導度を測定した。
【0084】
【表1】
【0085】
以上の結果より、実施例1〜5で得られた固体電解質膜は、比較例1で得られたものよりも、高いイオン伝導度を有することが分かる。
【0086】
実施例6
ホモジナイザーの容器に所定量のN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)と「セフラルソフトG180」〔フッ化ビニリデン−3フッ化エチレン共重合体を主鎖、側鎖にポリフッ化ビニリデンにより構成されている〕(セントラル硝子社製)とを入れ、これを加温しながら3500rpmから7000rpmで分散溶解させた。この溶液にさらにDMFを添加し、2500rpmから7000rpmで分散溶解させた。セフラルソフト溶液の濃度は10重量%とした。上記セフラルソフト溶液40gをホモジナイザーの容器に入れ、正極活物質としてコバルト酸リチウム(セイミケミカル社製、粒径2〜3μm)43g及びアセチレンブラック「HS−100」(電気化学工業社製)3gを添加し、12000rpmで5分間室温で分散・混合して正極用塗布液とした。この塗布液をアルミ箔(縦:30mm、横:30mm、厚み:30μm)にメタルマスク印刷機で直径15mmの円形状に印刷し、24時間放置してDMFを蒸発させ、正極とした。この電極の膜厚は0.15mmであった。上記セフラルソフト溶液40gをホモジナイザーの容器に入れ、負極活物質として黒鉛「SFG25」(ロンザ社製、90%累積粒径:25μm)9gを添加し、12000rpmで5分間室温で分散・混合して負極用塗布液とした。この塗布液を銅箔(縦:30mm、横:30mm、厚み:30μm)にメタルマスク印刷機で直径15mmの円形状に印刷し、24時間放置してDMFを蒸発させ、負極とした。この電極の膜厚は0.15mmであった。この両金属箔を直径15mmの円形に切り出し、両塗布膜の間に実施例1で調製した直径17mmの固体電解質膜を挟み、周囲をポリオレフィン系のホットメルト接着剤でシールしてコイン型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0087】
この電池の内部抵抗は50Ωと小さかった。また、両電極と固体電解質膜との密着性に問題のないことがわかった。このセルを1mAで2Vまで充電後、1Vまで放電した。放電容量は、1.5Fであった。また、良好なキャパシタ特性を示し、3日後も特性の劣化は見られなかった。
【0088】
実施例7
固体電解質膜として実施例3で得られた固体電解質膜を使用した以外は、実施例5と同様にしてコイン型リチウムイオン二次電池を作製し、評価した。
【0089】
この電池の内部抵抗は20Ωと極めて小さく、さらに、両電極と固体電解質膜との密着性に問題のないことがわかった。このセルを1mAで2Vまで充電後、1Vまで放電した。放電容量は、1.8Fであった。また、良好なキャパシタ特性を示し、3日後も特性の劣化は見られなかった。
【0090】
比較例2
比較例1で作製した固体電解質膜を使用した以外は、実施例6と同様にしてリチウム二次電池を作製した。この電池の初期の内部抵抗は200Ωで、両電極と固体電解質との密着性が悪く、3日後の内部抵抗は1000Ωと大きくなり充放電が不可能になった。
【0091】
【発明の効果】
本発明によれば、均質性及び固体強度に優れた高いイオン伝導度を有する高分子固体電解質の基材となる多分岐高分子及びその製造方法を提供することが可能となった。よって、該多分岐高分子を用いることにより、均質性及び固体強度に優れた高いイオン伝導度を有する固体電解質を得ることができる。そして、このような固体電解質を、電気化学素子に用いた場合、電極との良好な電気化学的界面の形成が可能である等の良好な特性を得ることができる。
Claims (11)
- (ア)少なくとも、式(I):
(イ)単量体(A)、単量体(B)、及び式(III):
(ウ)単量体混合物(a)又は(b)において、単量体(A)及び単量体(C)以外のアクリル化合物及び/又は単量体(B)以外のスチレン化合物をさらに含有してなる単量体混合物(c)を共重合させて得られる多分岐高分子、並びに
(エ)単量体混合物(c)において、前記アクリル化合物及び/又はスチレン化合物が多官能性で架橋性を有する多分岐高分子、からなる群より選択されるいずれか一種の、数平均分子量が2,000〜100,000の多分岐高分子に、少なくとも式(I):
- アクリル化合物及び/又はスチレン化合物が多官能性で架橋性を有する請求項2記載の多分岐高分子。
- 分岐回数が1〜10回である請求項1〜3いずれか記載の多分岐高分子。
- 請求項1〜4いずれか記載の多分岐高分子をカチオン交換し、リチウムイオンを結合させた多分岐高分子。
- 請求項1〜4いずれか記載の多分岐高分子の製造方法であって、リビングラジカル重合によりグラフト重合を行う多分岐高分子の製造方法。
- 金属触媒の存在下でリビングラジカル重合を行う請求項6記載の多分岐高分子の製造方法。
- 金属触媒が塩化銅(I)と2,2'−ビピリジル誘導体のコンプレックスである請求項7記載の多分岐高分子の製造方法。
- 少なくとも基材高分子と電解質塩からなる固体電解質であって、該基材高分子が請求項1〜5いずれか記載の多分岐高分子である固体電解質。
- 電解質塩がリチウム塩である請求項9記載の固体電解質。
- 請求項9又は10記載の固体電解質を含んでなる電気化学素子。
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