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JP4442009B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents

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JP4442009B2
JP4442009B2 JP2000283550A JP2000283550A JP4442009B2 JP 4442009 B2 JP4442009 B2 JP 4442009B2 JP 2000283550 A JP2000283550 A JP 2000283550A JP 2000283550 A JP2000283550 A JP 2000283550A JP 4442009 B2 JP4442009 B2 JP 4442009B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、運転者の操舵を補助する、車両搭載用の電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
運転者の操舵を補助する車両搭載用の電動パワーステアリング装置としては、例えば、公開特許公報「特開平10−236323:電動パワーステアリング装置の制御装置」や、特許公報「第2874275号:直流モータの回転速度,加速度検出装置」等に記載されているものが一般に知られている。
【0003】
これらの従来技術における、操舵トルクに対する操舵アシスト・トルク(又は、操舵アシスト電流)は、車速が小さい時程大きくなる様に設計されており、かつ、原点付近において、操舵トルクに対してリニアに増加する様に設計されている。即ち、これらの従来技術における操舵アシスト・トルクの操舵トルクに対するグラフでは、操舵アシスト・トルクは原点近傍において、正の比例定数に従って増加する。
【0004】
しかしながら、操舵トルクが小さい場合には、運転者に操舵(方向変更)の意思が無い場合が多く、この様な場合に操舵アシスト・トルクが操舵機構に働くと、不要な操舵アシスト・トルクのために操縦安定性が劣化する恐れがある。
【0005】
この様な課題に対する若干の対策としては、例えば、図9に示す様に、操舵トルクτに対してアシスト・トルクTA を制御する方法等が考えられる。図9は、従来の操舵トルクτに対するアシスト・トルクTA のグラフである。
この様に、比較的幅広の不感帯(−T0≦τ≦T0)を設けることにより、上記の様な不要な操舵アシスト・トルクが無くなり、操縦安定性の改善に一応の効果を見ることができる。
この様な不感帯を設けたアシスト・トルクの算出事例は、例えば、公開特許公報「特開平07−132845:学習機能付き電動パワーステアリング」等に見られる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの従来技術においても依然として、操舵角の中立位置付近における十分な安定性は得られ難く、特に車両が高速で直進している場合等では、操舵角の中立位置付近における操舵感が軽くなり過ぎて、操舵感覚の安定性(落ち着き)、即ち所謂「中立感」が十分には得られていない、或いは得難いのが現状である。
【0007】
例えば、操舵機構に設けられるトーション・バーのバネ定数を大きくすることによりこの様な中立感を向上させることは不可能ではないが、この様な対策を実施した場合、以下の様な新たな問題が派生する。
(1)操舵トルクを検出するトルク・センサの測定精度が低下する。
(2)トルク・センサの測定精度を下げずにトーション・バーのバネ定数を大きくするためには、トーション・バーを中心とした操舵機構(ハードウェア)の改良が必要となり、製造コストの増大を招く。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、上記の様な所謂「中立感」が適度に得られる電動パワーステアリング装置を、製造コスト等の面で比較的安価に実現することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、第1の手段は、運転者の操舵を補助するアシストトルクTA を付与するモータを備えた操舵機構と、前記モータを駆動制御する制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、ステアリングホイールに対する操舵トルクτを独立変数x(−a≦x≦a)として持ち、「x>0⇒f(x)≦0」と「f(−x)=−f(x)」を満たし、且つ、1周期の略正弦波形状又は略鋸波形状、或いは傾いた略N字形状を有する関数f(x)で表される中立感補償トルクTC を操舵トルクτの値に応じて変化するアシストトルクT A を構成する項又は構成要素の1つとすることにより、中立感補償トルクT C モータに対するトルク指令値を構成する項又は構成要素の1つとして含み、アシストトルクT A は、「−b≦x≦b,a<b」成る所定の範囲内において、操舵トルクτの1次以上の奇数次の項で構成された多項式により、記述、近似、又は算出されることを特徴とする。
【0012】
また、第2の手段は、上記の第1の手段において、関数f(x)の最大値を車両の車速Vn に対して略単調に増加させることである。
【0013】
また、第3の手段は、上記の第1又は第2の手段において、関数f(x)の1周期の波形の波長、又は、独立変数xの定義域の上限値aを車両の車速Vn に対して略単調に増加させることである。
【0014】
また、第4の手段は、上記の第1乃至第3の何れか1つの手段において、中立感補償トルクTC の原点近傍において、「TC =f(x)=0(−ε≦x≦ε≦a)」成る不感帯を設けることである。
【0015】
また、第5の手段は、上記の第1乃至第4の何れか1つの手段において、関数f、又は、関数fの独立変数xとして用いられる物理量を動的に変更することである。
以上の手段により、前記の課題を解決することができる。
【0016】
【作用及び発明の効果】
図1に、本発明の基本概念(作用原理)を説明する模式的なグラフを示す。図1(a)において、関数fの独立変数xは、ステアリングホイールに対する操舵トルクτ、ステアリングホイールの中立位置を基準とした操舵角θ、又は、これらの関連値(例えば、後述のξやΘ等)であり、これらは運転席からステアリングホイールに向かって右回りの向きを正の向きとする物理量である。
【0017】
例えば、この独立変数xとして、ステアリングホイールの中立位置を基準とした操舵角θを選択した場合、−a0 ≦θ≦a0 成る原点近傍の操舵角範囲において、縦軸方向のトルクTC はトーション・バーのバネ定数を補うので、このトルクTC は適度なバネ定数のトーション・バーがステアリングホイールに対して及ぼすトルクを有効な結果として擬似的に生成する(補償する)。ただし、縦軸の符号についても同様に、運転席からステアリングホイールに向かって右回りの向きを正の向きとする。
【0018】
また、トーション・バーを有する操舵機構において、ステアリング・ホイールの回転速度が小さい場合、中立位置を基準とした操舵角θと操舵トルクτとは原点近傍において比例する。従って、上記の独立変数xとしてステアリングホイールに対する操舵トルクτを選択した場合にも、縦軸方向のトルクTC (=f(x))により、適当なトーション・バーがステアリングホイールに対して及ぼすトルクと略同じトルクを有効な結果として擬似的に生成(補償)することができる。
【0019】
従って、図1(a)に示す様な関数f(x)を用いて、トルク(中立感補償トルクTC )を操舵機構に作用させれば、従来の操舵機構に新たなトーション・バーを追加する等の操舵機構の改造を行うことなく、適度な中立感を実現することができる。
【0020】
図1(b)は、|x|≧a0 成る領域における、TC =f(x)の変化を示すグラフである。これらの領域(|x|≧a0 )における変化率(|dTC /dx|)は、大き過ぎると、|x|=a0 の近傍においてモータに対するトータルのトルク指令値Tが急変するため、操舵感に違和感を生じる恐れが有る。また、変化率(|dTC /dx|)が小さ過ぎると中立感を必要としない領域にまで、中立感補償トルクTC が生成されてしまい、本来の理想的なアシスト・トルクの大きさが実現されなくなる恐れが生じる。
従って、例えば、図1(b)の例では、独立変数xの定義域の上限値a(関数f(x)のx>0におけるx軸との切片座標)は、図中のa1 ,a2 ,a3 等が良い。
【0021】
また、これらの関数f(x)は、例えば、図1(c)に示す様に、正弦波等から構成しても良い。これらの関数f(x)の形状は、1周期の略正弦波形状又は略鋸波形状、或いは傾いた略N字形状等から構成することができる。
【0022】
図2は、本発明の実施形態(第2の手段)を断片的に例示する、操舵トルクτに対するアシスト・トルクTA のグラフである。本グラフは、図1(b)において独立変数xとして操舵トルクτを選択し、かつ、a=a2 =T0 として、図9の従来のアシスト・トルクに関数f(τ)を追加(加算)することにより、本発明による新たなアシスト・トルクTA を構成したものである。
例えば、この様な形で、本発明の中立感補償トルクTC (=f(x))をモータに対するトルク指令値を構成する項の1つとして追加(加算)することにより、本発明を具体的に実施することができる。
【0023】
また、図2に示す様な形の、本発明による新たなアシスト・トルクTA は、「−b≦τ≦b」なる所定の領域において、例えば、次式(1)に示す様な、操舵トルクτの1次以上の奇数次の項で構成された多項式により、記述又は近似することができる。
【数1】
A =f(τ)=c1 τ+c3 τ3 +c5 τ5 …(1)
また、次式(2)に記載の導関数の関数値より、操舵機構の中立位置近傍(τ≒0)でのバネ定数は、式(1)の1次の項の係数c1 を調整することにより、最適化できることが判る。
【数2】
f′(0)=c1 (<0) …(2)
【0024】
通常、アシスト・トルクTA 等は、テーブルデータ等に基づいた補間処理により算出されることが多いが、この様な記述又は近似に基づいた演算処理によっても、アシスト・トルクTA を算出することが可能である。
従って、アシスト・トルクTA の算出方法としては、データ処理速度(演算速度)や、システムの開発容易性、保守・拡張性、メモリー使用量等を考慮して、これらの内から都合の良い処理方式を選択すれば良い。
【0025】
また、上記の様な、独立変数xの上限値aや関数f(x)の最大値を、走行中の車両の速度Vn に応じて略単調に増加させれば、高速で走行(直進)している場合程、より大きな中立感補償トルクTC が得られるので、その結果、運転者は直進時等に車速Vn に大きく依存することなく、適度の安定した中立感を得ることができる。
【0026】
また、中立感補償トルクTC (=f(x))の原点近傍において、「TC =0(−ε≦x≦ε≦a)」成る若干の不感帯を設けることにより、独立変数xの測定精度に応じた中立感補償トルクTC を生成することができる。例えば、独立変数xとして、操舵角θを選択する場合、操舵角の中立位置θ0 が正確に決定されるまでにある程度の時間を要することがある。中立位置θ0 を走行状態等から自動的に学習させる場合等がこれに当る。
【0027】
例えば、この様な場合等には、上記の様な不感帯を設けることにより、本来の所望の向きとは逆向きに中立感補償トルクTC が作用する恐れが無くなる。
また、この様な手法により、中立位置近傍において、小さな遊び領域が形成されることになり、これにより若干余裕の有る中立感が実現できる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
(第1実施例)
図3は、本発明の各実施例に係わる電動パワーステアリング装置100のハードウェア構成図である。
【0029】
ステアリングシャフト10の一端には、ハンドル(ステアリングホイール)11が取り付けられ、他端にはギヤボックス12に軸承されたピニオン軸13が結合されている。ピニオン軸13は、ギヤボックス12に嵌装されたラック軸14に噛合され、また図示していないが、このラック軸14の両端はボールジョイント等を介して図略の操向車輪に連結されている。また、ステアリングシャフト10には、アシストトルクを付与するブラシレス直流モータM(以下、単に「モータM」という)が、2つの歯車17を介して連結されている。
【0030】
この直流モータMには、モータ制御装置110の駆動回路113より、電流検出器115を介してU,V,Wの3相に対する各モータ駆動電流iu,iv,iwが供給される。
更に、ステアリングシャフト10には、運転者からステアリングホイール(ハンドル)11に加えられたマニュアル操舵力の大きさ及びその方向(操舵トルクτ)を検出するためのトルク検出器15が設けられている。
【0031】
また、モータMには、その回転角を検出する同期用のレゾルバR/D(回転角センサ)が内蔵されており、CPU111は、レゾルバR/Dが出力するモータMの位相信号n(6ビット情報;0≦n<63)を入力して、モータMの回転角θM (位相:0≦θM <2π)を算出する。
【0032】
モータ制御装置110は、CPU111、ROM112b、RAM112a、駆動回路113、入力インターフェイス(IF)114、電流検出器115等から構成されている。駆動回路113は、図略のバッテリー、PWM変換器、PMOS駆動回路等から構成され、チョッパ制御により駆動電流を正弦波にしてモータMに電力を供給する。
【0033】
モータ制御装置110のCPU111には、上記の位相信号nや、ハンドルの操舵トルクτの検出に利用されるトルクセンサ15、車速Vn の算出に利用される車速計50等からの出力信号(測定値)が入力インターフェイス(IF)114を介して入力される。CPU111は、これらの入力値から所定のトルク計算に基づいて、モータMが出力すべきトルク値(指令トルクT)を決定し、更に、この指令トルクTに基づいてd軸とq軸の各電流指令値(id* ,iq* )を決定する。だだし、本実施例においては、「id* =0」とする。
【0034】
図4は、本第1実施例に係わる、電動パワーステアリング装置100のモータMを駆動制御するモータ制御装置110の論理的構成を示すブロック図である。本図4のトルク電流変換部280は、q軸の電流指令値iq* を指令トルクTに基づいて決定する制御ブロックであり、主にiq* −Tマップ(テーブルデータ)等から構成されている。
操舵トルク演算部330は、図略のローパス・フィルタ(1次遅れフィルタ)や位相補償部等から構成されている。
【0035】
指令トルク演算部200は、角度検出部310により算出されたモータMの位相θM や、操舵トルク演算部330により算出されたハンドルの操舵トルクτや、車速演算部320により算出された車速Vn や、操舵角演算部500により算出されたハンドル回転角θH 等に基づいて、出力すべき所望のトルク(指令トルクT)の値を算出する。
例えば、角度検出部310は、レゾルバR/Dの出力値n(6ビット信号)に基づいて、次式(3)により、モータMの回転角(位相)θM を算出する。
【数3】
θM =2πn/64 …(3)
【0036】
指令トルク演算部200は、主に、アシスト・トルクTA を算出するアシストトルク演算部210と、慣性補償トルクTK を算出する慣性補償トルク演算部220と、ダンパー・トルクTD を算出するダンパー・トルク演算部230と、ハンドル戻しトルクTR を算出するハンドル戻しトルク演算部240等から構成されている。指令トルク演算部200は、次式(4)に従って、指令トルクTを算出する。
【数4】
T=TA +TK +TD +TR …(4)
【0037】
図5は、本第1実施例の、操舵トルクτからアシスト・トルクTA を求めるグラフである。アシストトルク演算部210では、本グラフに基づいて、補間処理等によりアシスト・トルクTA を算出する。
本グラフの主な特徴は次の通りである。
【0038】
(1)「−b≦τ≦b」なる所定の領域において、前記の式(1)により近似することができる。
(2)原点Oに対して、点対称である。
(3)車速Vn の中速領域、及び高速領域では、原点近傍において、「τ>0⇒f(τ)≦0」と「f(−τ)=−f(τ)」を満たす1周期の略正弦波形状の関数f(τ)で表される中立感補償トルクTC が、図9に示す形状の従来のアシスト・トルクに追加されて、本図5のアシスト・トルクTA が形成されている。
【0039】
(4)τ>0においては、車速Vn が大きい程、アシスト・トルクTA は小さい。ただし、右回りの向きが正の向きであり、ここではTA の絶対値の大小については述べていない。
(5)τ<0においては、車速Vn が大きい程、アシスト・トルクTA は大きい。ただし、右回りの向きが正の向きであり、ここではTA の絶対値の大小については述べていない。
(6)上記の略正弦波形状の関数f(τ)の振幅(最大値)は、車速Vn が大きい程大きい。
【0040】
(7)上記の略正弦波形状の関数f(τ)の波長(関数fの定義域の上限)は、車速Vn が大きい程大きい。
(8)|τ|≧bの領域においては、アシスト・トルクTA は一定値を示す。
(9)関数f(τ)の原点近傍の微小区間(−ε≦x≦ε≦a)の値、従ってアシスト・トルクTA の原点近傍の微小区間(−ε≦x≦ε≦a)の値は、一定値0を示す。即ち、原点近傍において、アシスト・トルクTA には、不感帯が有り、この不感帯の領域の幅εは、車速Vn が大きい程小さい。
【0041】
図6は、本第1実施例の、操舵角θに対する操舵トルクτを高速領域(Vn ≒100km/h)で測定した結果を示すグラフである。ただし、本グラフにおいて、Grf1は図9に示した従来のアシスト・トルクTA に従って、操舵の補助を行った際のグラフであり、T0は図9の不感帯の定義域の上限値である。
また、操舵角αは、ステアリング・ホイールにT0の操舵トルクを与えた際に釣り合うステアリング・ホイールの中立位置(操舵角原点)からの回転角を示すものである。
【0042】
また、本図6のGrf2は、図5の本第1実施例のアシスト・トルクTA に従って、操舵の補助を行った際のグラフである。
本図6から判る様に、本第1実施例におけるトーション・バーの原点付近での見かけ上の有効な(実効的な)バネ定数は、従来(Grf1)よりも大きくなっている。即ち、図5の本第1実施例のアシスト・トルクTA に基づいてモータ・トルクを制御すれば、中立位置(原点)近傍において安定した中立感が得られることが判る。
【0043】
また、この様な方法で、中立感の補償を行えば、プログラムの修正が必要なく、補間処理で利用される、図5に示した様な「操舵トルクτからアシスト・トルクTA を決定するグラフのテーブルデータ」の変更(図9→図5)のみで、所望の中立感補償トルクTC を実現することができる。
【0044】
(第2実施例)
上記の第1実施例においては、図4のアシストトルク演算部210で用いられるデータマップを従来のものから改良する(図9→図5)ことにより、中立感の補償を行ったが、本第2実施例においては、図4のアシストトルク演算部210は従来のもの(図9使用)から一切変更せず、その代りに新規に「中立感補償トルク演算部250」を、図4の各トルク演算部210(図9使用),220,230,240に対して並列に追加することにより、上記と略同様の中立感の補償を行う。
【0045】
即ち、本第2実施例においては、トータルの指令トルクTを、第1実施例の指令トルク演算部200(図4)と酷似の新たな指令トルク演算部201(図略)により、前記式(4)の代わりに、次式(5)に従って算出する。
【数5】
T=TA +TK +TD +TR +TC …(5)
【0046】
図7は、本第2実施例の中立感補償トルク演算部250の論理的構成を示すブロック図である。本中立感補償トルク演算部250は、リアルタイムに検出される車速Vn ,操舵トルクτ、及びハンドル回転角θH に基づいて、中立感補償トルクTC の値を決定するものである。
【0047】
中立位置学習部251は、公知又は任意の方法で、車速Vn ,操舵トルクτ、及びハンドル回転角θH に基づいて、操舵角θ(≡θH −θ0 )の中立位置θ0 を統計的に推定する。
有効領域制限部252は、操舵角θ=0(中立位置)を中心とした、中立感補償トルクTC の操舵角θに関する有効範囲をゲインG3により定量的に規定するものである。
ただし、この様な有効領域制限部252の機能の要否は、トーション・バーを中心とするトルクセンサ15の構造(仕様)にも依存するため、有効領域制限部252は、トルクセンサ15の構造(仕様)等によっては無くとも良い。
【0048】
車速依存ゲインG1演算部253は、中立感補償トルクTC の大きさ(絶対値)が車速Vn に対して単調に増加するようにゲインG1を決定する。
車速依存ゲインG2演算部254は、関数fの波長(独立変数ξの定義域の上限値)が車速Vn に対して単調に増加するようにゲインG2を決定する。ただし、ここで、μは適当な正の定数であり、例えば、1〜1/2程度の数で良い。
【0049】
波形形成部255は、図1(c)に例示した様に、中立感補償トルクTC の波形を規定する。関数fは、変数ξ(≡G2・τ)を独立変数とし、「x>0⇒f(x)≦0」と「f(−x)=−f(x)」を満たす、1周期の略正弦波形状を有する。
以上の各部の機能により、中立感補償トルクTC は、次式(6)の様に決定される。
【数6】
C =G3・G1・f(τ/(μ+G1)) …(6)
【0050】
例えば、この様な方法により、中立感補償トルクTC を決定すれば、有効領域制限部252の作用により、中立位置付近(θ≒0)以外の操舵角領域で、操舵トルクτが小さい場合に、中立感補償トルクTC が働くことが抑止され、自然で円滑な操舵感が得られる。
【0051】
また、従来のアシストトルク演算部210とは独立に、新規に上記の様な「中立感補償トルク演算部250」を設けることにより、図5の様な形態にアシスト・トルクTA のデータマップを書き換える必要がなくなる。従って、アシスト・トルクTA のデータマップを書き換えずに、中立感補償を行うことができるため、各トルク演算部210,220,230,240,250の独立性が確保でき、プログラムを開発する上で、各部の独立性や、保守・拡張性を維持することができる。
【0052】
(第3実施例)
図8は、本第3実施例の中立感補償トルク演算部260の論理的構成を示すブロック図である。本中立感補償トルク演算部260は、リアルタイムに検出される車速Vn ,操舵トルクτ、ハンドル回転角θH 、及びモータ回転角θM に基づいて、中立感補償トルクTC の値を決定するものであり、上記の第2実施例の「中立感補償トルク演算部250」の代りとして使用するものである。
【0053】
本第3実施例の中立位置学習部261、有効領域制限部262、車速依存ゲインG1演算部263、車速依存ゲインG2演算部264、及び波形形成部265は、それぞれ上記の本第2実施例の中立位置学習部251、有効領域制限部252、車速依存ゲインG1演算部253、車速依存ゲインG2演算部254、及び波形形成部255と略同等の機能を奏する。
【0054】
従って、本第3実施例では、中立感補償トルクTC は、次式(7)の様に決定される。
【数7】
C =G3・G1・F((θH −θ0 )/(μ+G1)) …(7)
【0055】
ただし、上記の有効領域制限部262は、操舵速度推定部266により推定された操舵速度ωに基づいて、操舵速度ω=0を中心とした、中立感補償トルクTC の操舵速度ωに関する有効範囲をゲインG3により定量的に規定するものである。
だだし、ここで、操舵速度推定部266は、モータMの回転角θM や操舵トルクτの時間に対する変化率等に基づいて、操舵速度ωを推定するものである。
以上の様な有効領域制限部262の作用により、中立感が必要とされる操舵速度領域、即ち、ω≒0なる低速操舵領域においてのみ、必要量の中立感補償トルクTC が出力される。
【0056】
尚、前記の第1実施例においては、中立感補償トルクTC の生成のために、操舵角θを利用していないので、この方法は第2実施例の中立感補償トルク演算部250(図7)、或いは、第3実施例の中立感補償トルク演算部260(図8)を用いる方法よりも次の点で優れている。
即ち、中立位置学習部251、261を使用する方法においては、中立位置θ0 を正確に求めるまでに時間を要するため、それまでの間、中立感補償トルクTC の生成を正確に行うことができない。
【0057】
しかしながら、中立感補償トルクTC は、元来、車速Vn が大きな高速領域において、特に必要とされるものであるため、第2実施例の中立感補償トルク演算部250(図7)、或いは、第3実施例の中立感補償トルク演算部260(図8)を用いて中立感補償トルクTC を生成する上記の方法も、十分に有用なものである。
また、これらの方法は、前記の様に従来のアシストトルク演算部(210)とは独立に、設計できるので、保守・開発上有利な場合がある。
【0058】
また、これらの第1実施例〜第3実施例などの方法は、操舵角センサやトルクセンサ等の各種の物理量検出センサの測定精度等を踏まえて好適又は最良のものを選択すれば良い。
例えば、上記の各実施例においては、第3実施例、第2実施例、第1実施例の順に、操舵角θに対して高い検出精度が要求されるが、第3実施例では、所望の操舵角領域(θ≒0付近)と、所望の操舵速度領域(ω≒0付近)においてのみ、所望量の中立感補償トルクTC が生成されることが保証されるため、操舵角θに対して高い検出精度が得られる場合には、第3実施例を採用することが望ましい。
【0059】
或いは、上記の通り中立位置θ0 を正確に求めるまでには時間を要するため、例えば、上記の各実施例を第1実施例、第2実施例、第3実施例の順に、動的に切り換えて実行するようにしても良い。
これらの実現方式の選択は、図3に示される各種のセンサ等を中心としたハードウエア構成の実際の具体的かつ詳細な仕様によって決定すれば良い。
【0060】
また、上記の各実施例においては、ハンドル回転角θH は、図4の操舵角演算部500により求めているが、ハンドル回転角θH は、公知或いは任意のステアリング・センサ(操舵角センサ)により、直接検出するようにしても良い。この様なハードウェア構成は、特に、上記の操舵角θに対して高い検出精度が要求される場合等に有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本概念(作用原理)を説明する模式的なグラフ。
【図2】本発明の断片的な実施形態(第2の手段)を例示する、操舵トルクτに対するアシスト・トルクTA のグラフ。
【図3】本発明の各実施例に係わる電動パワーステアリング装置100のハードウェア構成図。
【図4】本発明の第1実施例に係わる、電動パワーステアリング装置100のモータMを駆動制御するモータ制御装置110の論理的構成を示すブロック図。
【図5】本発明の第1実施例に係わる、操舵トルクτに対してアシスト・トルクTA を与えるグラフ。
【図6】本発明の第1実施例に係わる、操舵角θに対する操舵トルクτを測定した結果を示すグラフ。
【図7】本発明の第2実施例に係わる、中立感補償トルク演算部250の論理的構成を示すブロック図。
【図8】本発明の第3実施例に係わる、中立感補償トルク演算部260の論理的構成を示すブロック図。
【図9】従来技術における、操舵トルクτに対するアシスト・トルクTA のグラフ。
【符号の説明】
M … モータ
R/D … レゾルバ(モータMの回転角センサ)
n … レゾルバ出力信号
θM … モータ回転角(位相:0≦θM <2π)
θH … ハンドル回転角
θO … ハンドル中立位置
θ … 操舵角(θH −θO
n … 車速
τ … 操舵トルク
ω … 操舵速度
T … 指令トルク
A … アシスト・トルク
C … 中立感補償トルク
10 … ステアリング・シャフト
11 … ステアリング・ホイール(ハンドル)
100 … 電動パワーステアリング装置
110 … モータ制御装置
111 … CPU
200 … 指令トルク演算部
210 … アシストトルク演算部
250 … 中立感補償トルク演算部(第2実施例)
260 … 中立感補償トルク演算部(第3実施例)
251,
261… 中立位置学習部
252,
262… 有効領域制限部
253,
263… 車速依存ゲインG1演算部
254,
264… 車速依存ゲインG2演算部
255,
265… 波形形成部
f,F … 中立感補償トルクを生成する関数
x … 中立感補償トルクを生成する関数の独立変数(一般形)
a … 独立変数xの上限値

Claims (5)

  1. 運転者の操舵を補助するアシストトルクTA を付与するモータを備えた操舵機構と、前記モータを駆動制御する制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
    ステアリングホイールに対する操舵トルクτを独立変数x(−a≦x≦a)として持ち、
    「x>0⇒f(x)≦0」と「f(−x)=−f(x)」を満たし、
    且つ、
    1周期の略正弦波形状又は略鋸波形状、或いは傾いた略N字形状を有する関数f(x)で表される中立感補償トルクTC を前記操舵トルクτの値に応じて変化する前記アシストトルクT A を構成する項又は構成要素の1つとすることにより、中立感補償トルクT C 前記モータに対するトルク指令値を構成する項又は構成要素の1つとして含み、
    前記アシストトルクT A は、「−b≦x≦b,a<b」成る所定の範囲内において、前記操舵トルクτの1次以上の奇数次の項で構成された多項式により、記述、近似、又は算出される
    ことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
  2. 前記関数f(x)の最大値は、前記車両の車速Vn に対して略単調に増加することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
  3. 前記関数f(x)の1周期の波形の波長、又は、前記独立変数xの定義域の上限値aは、前記車両の車速Vn に対して略単調に増加することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
  4. 前記中立感補償トルクTC は、原点近傍において、「TC =f(x)=0(−ε≦x≦ε≦a)」成る不感帯を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
  5. 前記関数f、又は、前記関数fの前記独立変数xとして用いられる物理量を動的に変更することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の電動パワーステアリング装置。
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