複数のコンピュータを接続してLANを構成することにより、ファイルやデータなどの情報の共有化、プリンタなどの周辺機器の共有化を図ったり、電子メールやデータ・コンテンツの転送などの情報の交換を行なったりすることができる。
従来、光ファイバーや同軸ケーブル、あるいはツイストペア・ケーブルを用いて、有線でLAN接続することが一般的であったが、この場合、回線敷設工事が必要であり、手軽にネットワークを構築することが難しいとともに、ケーブルの引き回しが煩雑になる。また、LAN構築後も、機器の移動範囲がケーブル長によって制限されるため、不便である。
そこで、有線方式によるLAN配線からユーザを解放するシステムとして、無線LANが注目されている。無線LANによれば、オフィスなどの作業空間において、有線ケーブルの大半を省略することができるので、パーソナル・コンピュータ(PC)などの通信端末を比較的容易に移動させることができる。
近年では、無線LANシステムの高速化、低価格化に伴い、その需要が著しく増加してきている。特に最近では、人の身の回りに存在する複数の電子機器間で小規模な無線ネットワークを構築して情報通信を行なうために、パーソナル・エリア・ネットワーク(PAN)の導入の検討が行なわれている。例えば、2.4GHz帯や、5GHz帯など、監督官庁の免許が不要な周波数帯域を利用して、異なった無線通信システムが規定されている。
無線ネットワークに関する標準的な規格の1つにIEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.11(例えば、非特許文献1を参照のこと)や、HiperLAN/2(例えば、非特許文献2又は非特許文献3を参照のこと)やIEEE302.15.3、Bluetooth通信などを挙げることができる。IEEE802.11規格については、無線通信方式や使用する周波数帯域の違いなどにより、IEEE802.11a規格、IEEE802.11b規格…などの各種無線通信方式が存在する。例えば、IEEE802.11eには、無線ネットワークにおけるQoS管理について規定されている。
一般的には、無線技術を用いてローカル・エリア・ネットワークを構成するために、エリア内に「アクセス・ポイント」又は「コーディネータ」と呼ばれる制御局となる装置を1台設けて、この制御局の統括的な制御下でネットワークを形成する方法が用いられている。
アクセス・ポイントを配置した無線ネットワークでは、ある通信装置から情報伝送を行なう場合に、まずその情報伝送に必要な帯域をアクセス・ポイントに予約して、他の通信装置における情報伝送と衝突が生じないように伝送路の利用を行なうという、帯域予約に基づくアクセス制御方法が広く採用されている。すなわち、アクセス・ポイントを配置することによって、無線ネットワーク内の通信装置が互いに同期をとるという同期的な無線通信を行なう。
ところが、アクセス・ポイントが存在する無線通信システムで、送信側と受信側の通信装置間で非同期通信を行なう場合には、必ずアクセス・ポイントを介した無線通信が必要になるため、伝送路の利用効率が半減してしまうという問題がある。
これに対し、無線ネットワークを構成する他の方法として、端末同士が直接非同期的に無線通信を行なう「アドホック(Ad−hoc)通信」が考案されている。とりわけ近隣に位置する比較的少数のクライアントで構成される小規模無線ネットワークにおいては、特定のアクセス・ポイントを利用せずに、任意の端末同士が直接非同期の無線通信を行なうことができるアドホック通信が適当であると思料される。
例えば、IEEE802.11系の無線LANシステムでは、制御局を配さなくとも自律分散的にピア・ツウ・ピア(Peer to Peer)で動作するアドホック・モードが用意されている。この動作モード下では、ビーコン送信時間になると各端末がランダムな期間をカウントし、その期間が終わるまでに他の端末のビーコンを受信しなかった場合に、自分がビーコンを送信する。
ここで、IEEE802.11を例にとって、従来の無線ネットワーキングの詳細について説明する。
IEEE802.11におけるネットワーキングは、BSS(Basic Service Set)の概念に基づいている。BSSは、AP(Access Point:制御局)のようなマスタが存在するインフラ・モードで定義されるBSSと、複数のMT(Mobile Terminal:移動局)のみにより構成されるアドホック・モードで定義されるIBSS(Independent BSS)の2種類で構成される。
インフラ・モード:
インフラ・モード時のIEEE802.11の動作について、図18を参照しながら説明する。インフラ・モードのBSSにおいては、無線通信システム内にコーディネイションを行なうAPが必須である。
APは、自局周辺で電波の到達する範囲をBSSとしてまとめ、いわゆるセルラ・システムで言うところの「セル」を構成する。AP近隣に存在するMTは、APに収容され、BSSのメンバとしてネットワークに参入する。すなわち、APは適当な時間間隔でビーコンと呼ばれる制御信号を送信し、このビーコンを受信可能であるMTはAPが近隣に存在することを認識し、さらにAPとの間でコネクション確立を行なう。
図18に示す例では、通信局STA0がAPとして動作し、他の通信局STA1並びSTA2がMTとして動作している。ここで、APとしての通信局STA0は、同図右側のチャートに記したように、一定の時間間隔でビーコン(Beacon)を送信する。次回のビーコンの送信時刻は、ターゲット・ビーコン送信時刻(TBTT:Target Beacon Transmit Time)というパラメータの形式によりビーコン内で報知されている。そして、時刻がTBTTに到来すると、APはビーコン送信手順を動作させている。
これに対し、AP周辺のMTは、ビーコンを受信することにより、内部のTBTTフィールドをデコードすることにより次回のビーコン送信時刻を認識することが可能であるから、場合によっては(受信の必要がない場合には)、次回あるいは複数回先のTBTTまで受信機の電源を落としスリープ状態に入ることもある。
インフラ・モード時には、APのみが所定フレーム周期でビーコンを送信する。他方、周辺MTはAPからのビーコンを受信することでネットワークへの参入を果たし、自らはビーコンを送信しない。なお、本発明は、APのようなマスタ制御局の介在なしでネットワークを動作させることを主眼とし、インフラ・モードとは直接関連しないことから、インフラ・モードに関してはこれ以上説明を行なわない。
アドホック・モード:
もう一方のアドホック・モード時のIEEE802.11の動作について、図19を参照しながら説明する。
アドホック・モードのIBSSにおいては、MTは複数のMT同士でネゴシエーションを行なった後に自律的にIBSSを定義する。IBSSが定義されると、MT群は、ネゴシエーションの末に、一定間隔毎にTBTTを定める。各MTは自局内のクロックを参照することによりTBTTが到来したことを認識すると、ランダム時間の遅延の後、未だ誰もビーコンを送信していないと認識した場合にはビーコンを送信する。
図19に示す例では、2台のMTがIBBSを構成する様子を示している。この場合、IBSSに属するいずれか一方のMTが、TBTTが到来する毎にビーコンを送信することになる。また、各MTから送出されるビーコンが衝突する場合も存在している。
また、IBSSにおいても、MTは必要に応じて送受信機の電源を落とすスリープ状態に入ることがある。但し、スリープ状態は本発明の要旨とは直接関連しないので、本明細書では説明を省略する。
IEEE802.11における送受信手順
続いて、IEEE802.11における送受信手順について説明する。
アドホック環境の無線LANネットワークにおいては、一般的に隠れ端末問題が生じることが知られている。隠れ端末とは、ある特定の通信局間で通信を行なう場合、通信相手となる一方の通信局からは聞くことができるが他方の通信局からは聞くことができない通信局のことであり、隠れ端末同士ではネゴシエーションを行なうことができないため、送信動作が衝突する可能性がある。
隠れ端末問題を解決する方法論として、RTS/CTS手順によるCSMA/CAが知られている。IEEE802.11においてもこの方法論が採用されている。
ここで、CSMA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance:搬送波感知多重アクセス)とはキャリア検出に基づいて多重アクセスを行なう接続方式である。無線通信では自ら情報送信した信号を受信することが困難であることから、CSMA/CD(Collision Detection)ではなくCSMA/CA(Collision Avoidance)方式により、他の通信装置の情報送信がないことを確認してから、自らの情報送信を開始することによって、衝突を回避する。
また、RTS/CTS方式では、データ送信元の通信局が送信要求パケットRTS(Request To Send)を送信し、データ送信先の通信局から確認通知パケットCTS(Clear To Send)を受信したことに応答してデータ送信を開始する。そして、隠れ端末はRTS又はCTSのうち少なくとも一方を受信すると、RTS/CTS手続に基づくデータ伝送が行なわれると予想される期間だけ自局の送信停止期間を設定することにより、衝突を回避することができる。
図20には、RTS/CTS手順の動作例を示している。但し、無線通信環境下には、通信装置#1、#2、#3、#4が配置され、通信装置#1は隣接する通信装置#2と通信可能であり、通信装置#2は隣接する通信装置#1、#3と通信可能であり、通信装置#3は隣接する通信装置#2、#4と通信可能であり、通信装置#4は隣接する通信装置#3と通信可能な状態にあるが、通信装置#1は通信装置#3にとって隠れ端末となり、通信装置#4は通信装置#2にとって隠れ端末となっている。
図示の例では、データを送信する通信装置#2から通信装置#3に送信要求(RTS)が送信され、通信装置#3は通信装置#2に確認通知(CTS)を返送する。
このとき、通信装置#2及び通信装置#3からそれぞれ隠れ端末となり得る位置にある通信装置#1並びに#4では、伝送路の利用を検出してこの通信が終了するまで送信を行なわない制御を行なう。より具体的には、通信装置#1では、RTSパケットに基づいて他の通信装置#2が送信元となるデータ送信が開始されたことを検出し、以後引き続くデータ・パケットの送信が完了するまでの間は、伝送路が既に利用されていることを認識することができる。また、通信装置#4では、CTSパケットに基づいて他の通信装置#3が受信先となるデータ送信が開始されたことを検出し、通信装置#3からのACKパケットの返送を検出するまでの間は、伝送路が既に利用されていることを認識することができる。
なお、情報送信元である通信装置#2がRTSを送信した際、他の通信装置がたまたまほぼ同時になんらかの信号を送信した場合には、信号が衝突するため、情報受信先である通信装置#3はRTSを受信できない。この場合、通信装置#3はCTSを返送しない。この結果、通信装置#2は、しばらくの間CTSが受信されないことを理由に、先のRTSが衝突したことを認識することができる。そして、通信装置#2は、ランダム・バックオフをかけつつ、RTSを再送する手順が起動される。基本的には、このように衝突のリスクを負いながら送信権の獲得を競合する。
IEEE802.11におけるアクセス競合方法
続いて、IEEE802.11において規定されているアクセス競合方法について説明する。
IEEE802.11では、4種類のフレーム間スペース(IFS:Inter Frame Space)が定義されている。ここでは、そのうち3つのIFSについて図21を参照しながら説明する。IFSとしては、短いものから順にSIFS(Short IFS)、PIFS(PCF IFS)、DIFS(DCF IFS)が定義されている。
IEEE802.11では、基本的なメディア・アクセス手順としてCSMAが採用されているが(前述)、送信機が何かを送信する前には、メディア状態を監視しながらランダム時間にわたりバックオフのタイマーを動作させ、この間に送信信号が存在しない場合に始めて送信権が与えられる。
通常のパケットをCSMAの手順に従って送信する際(DCF(Distributed Coordination Functionと呼ばれる)には、何らかのパケットの送信が終了してから、まずDIFSだけメディア状態を監視し、この間に送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権が与えられることになっている。
これに対し、ACKなどの例外的に緊急度の高いパケットを送信する際には、SIFSのフレーム間スペースの後に送信することが許されている。これにより、緊急度の高いパケットは、通常のCSMAの手順に従って送信されるパケットよりも先に送信することが可能となる。
要するに、異なる種類のフレーム間スペースIFSが定義されている理由は、IFSがSIFS、PIFS、DIFSのいずれであるか、すなわちフレーム間スペースの長さに応じてパケットの送信権争い優先付けが行なわれる、という点にある。
IEEE802.11における帯域保証(1)
CSMAによるアクセス競合を行なう場合、一定の帯域を保証して確保することが不可能である。このため、IEEE802.11では、帯域を保証して確保するためのメカニズムとして、PCF(Point Coordination Function)が存在する。しかし、PCFの基本はポーリングであり、アドホック・モードでは動作せず、インフラ・モードにおいてのみ、APの管理下で行なわれるので、ここでは説明を省略する。
IEEE802.11における帯域保証(2)
IEEE802.11では、さらなる帯域保証手段が検討されており、Enhanced DCF(EDCF)と呼ばれる手法が採用される予定となっている(IEEE802.11eにおけるQoS拡張)。EDCFは、帯域を保証する必要のある優先度の高いトラヒックに関してはランダム・バックオフ値のとりうる幅を短く設定し、それ以外のトラヒックに関しては図21に示したフレーム間スペースIFSやバックオフ値のとりうる幅を長く設定するようにした。この結果、PCFほど確定的ではないものの、優先度の高いトラヒックを統計的に優先して送信可能にするメカニズムが実現する。
図22には、EDCF動作により帯域を保証するトラフィックに優先送信を提供する様子を示している。同図に示す例では、STA1が優先トラヒックをSTA0に送信しようとし、STA2が非優先トラヒックをSTA0に送信しようとしている場合を想定している。また、両トラヒックとも基準IFSはDIFS相当の時間が適用されているものと仮定する。
時刻T0からメディアがクリアになると、STA1及びSTA2がともにDIFSだけ時間の経過を待つ。T0からDIFS経過後(時刻T1)でもまだメディアがクリアなため、STA1とSTA2はともにランダム・バックオフにて決定した時間だけメディアがクリアであることを確認し始める。
EDCF動作によれば、STA1のバックオフ値は優先トラヒックのため短く、STA2のバックオフ値は非優先トラヒックのため長い。図22に示す例では、各通信局の時刻T1からのバックオフ値を矢印にて示している。STA1のバックオフ値だけ時間が経過した時刻T2において、STA1はRTSを送信し始める。一方、STA2は、STA1から送信されたRTSを検知し、バックオフの値を更新して次回の送信に備える。
また、STA0は、RTSを受信してからSIFSが経過した時刻T3にてCTSを返送する。CTSを受信したSTA1は、CTSを受信してからSIFSが経過した時刻T4でデータの送信を開始する。そして、STA0は、STA1からのデータを受信してからSIFSが経過した時刻T5にてACKを返送する。
STA0によるACKの返送が終了した時刻T6において、メディアが再びクリアになる。ここで、STA1及びSTA2はともに再度DIFSだけ時間の経過を待つ。そして、DIFS経過後(時刻T7)でもまだメディアがクリアであるから、STA1及びSTA2はともにランダム・バックオフにて決定した時間だけメディアがクリアであることを確認し始める。ここでも、STA1のバックオフ値は優先トラヒックのため再び短く設定され、時刻T8においてSTA2 のバックオフ値よりも早くRTSの送信が行なわれる。
上述したような手順により、アクセス権を競合するSTA1とSTA2の間では、取り扱うトラヒックの優先度に応じてアクセス権獲得の優劣が提供されている。なお、図示していないが、STA2のバックオフ値も徐々に小さくなるため、アクセス権利が与えられなくなるということはない。
International Standard ISO/IEC 8802−11:1999(E) ANSI/IEEE Std 802.11, 1999 Edition, Part11:Wireless LAN Medium Access Control(MAC) and Physical Layer(PHY) Specifications
ETSI Standard ETSI TS 101 761−1 V1.3.1 Broadband Radio Access Networks(BRAN); HIPERLAN Type 2; Data Link Control(DLC) Layer; Part1: Basic Data Transport Functions
ETSI TS 101 761−2 V1.3.1 Broadband Radio Access Networks(BRAN); HIPERLAN Type 2; Data Link Control(DLC) Layer; Part2: Radio Link Control(RLC) sublayer
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
A.システム構成
本発明において想定している通信の伝搬路は無線であり、複数の通信局間でネットワークを構築する。本発明で想定している通信は蓄積交換型のトラヒックであり、パケット単位で情報が転送される。また、以下の説明では、各通信局は単一のチャネルを想定しているが、複数の周波数チャネルすなわちマルチチャネルからなる伝送媒体を用いた場合に拡張することも可能である。
本発明に係る無線ネットワーク・システムは、コーディネータを配置しない自律分散型のシステム構成であり、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームによりチャネル・リソースを効果的に利用した伝送制御が行なわれる。また、各通信局は、CSMA(Carrier Sense Multiple Access:キャリア検出多重接続)に基づくアクセス手順に従い直接非同期的に情報を伝送するアドホック通信を行なうこともできる。
このように制御局を特に配置しない自律分散型の無線通信システムでは、各通信局はチャネル上でビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。通信局は伝送フレーム周期の先頭でビーコンを送信するので、伝送フレーム周期はビーコン間隔によって定義される。また、各通信局は、伝送フレーム周期に相当する期間だけチャネル上をスキャン動作することにより、周辺局から送信されるビーコン信号を発見し、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を知る(又はネットワークに参入する)ことができる。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信システムを構成する通信装置の配置例を示している。この無線通信システムでは、各通信装置が自律分散的に動作し、特定の制御局を配置しないアドホック・ネットワークが形成されている。同図では、通信装置#0から通信装置#6までが、同一空間上に分布している様子を表わしている。
また、同図において各通信装置の通信範囲を破線で示してあり、その範囲内にある他の通信装置と互いに通信ができるのみならず、自己の送信した信号が干渉する範囲として定義される。すなわち、通信装置#0は近隣にある通信装置#1、#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#1は近隣にある通信装置#0、#2、#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#2は近隣にある通信装置#1、#3、#6と通信可能な範囲にあり、通信装置#3は近隣にある通信装置#2と通信可能な範囲にあり、通信装置#4は近隣にある通信装置#0、#1、#5と通信可能な範囲にあり、通信装置#5は近隣にある通信装置#4と通信可能な範囲にあり、通信装置#6は近隣にある通信装置#2と通信可能な範囲にある。
ある特定の通信装置間で通信を行なう場合、通信相手となる一方の通信装置からは聞くことができるが他方の通信装置からは聞くことができない通信装置、すなわち「隠れ端末」が存在する。
図2には、本発明の一実施形態に係る無線ネットワークにおいて通信局として動作する無線通信装置の機能構成を模式的に示している。図示の無線通信装置は、制御局を配置しない自律分散型の通信環境下において、同じ無線システム内では効果的にチャネル・アクセスを行なうことにより、衝突を回避しながらネットワークを形成することができる。
図示の通り、無線通信装置100は、インターフェース101と、データ・バッファ102と、中央制御部103と、ビーコン生成部104と、無線送信部106と、タイミング制御部107と、アンテナ109と、無線受信部110と、ビーコン解析部112と、情報記憶部113とで構成される。
インターフェース101は、この無線通信装置100に接続される外部機器(例えば、パーソナル・コンピュータ(図示しない)など)との間で各種情報の交換を行なう。
データ・バッファ102は、インターフェース101経由で接続される機器から送られてきたデータや、無線伝送路経由で受信したデータをインターフェース101経由で送出する前に一時的に格納しておくために使用される。
中央制御部103は、無線通信装置100における一連の情報送信並びに受信処理の管理と伝送路のアクセス制御を一元的に行なう。基本的には、CSMAに基づき、伝送路の状態を監視しながらランダム時間にわたりバックオフのタイマーを動作させ、この間に送信信号が存在しない場合に送信権を獲得するというアクセス競合を行なう。
本実施形態では、アクセス競合に優先送信のメカニズムを採り入れて、柔軟なQoSを実現している。すなわち、自局のビーコン送信後に優先送信モードとなり、フレーム間スペースIFSとランダム・バックオフ値のとりうる幅を短く設定し、統計的に優先して送信可能となる。また、他局のビーコン送信後やトラフィックの優先度が低いときには、通常動作モードとなり、フレーム間スペースIFSとランダム・バックオフ値のとりうる幅をより長く設定する。後述するように、優先送信モード下ではより短いフレーム間スペースSIFSを、通常動作モード下では長いフレーム間スペースLIFSを設定する。優先送信モード下では、確定的ではないが、統計的には優先して送信可能となる。
また、中央制御部103では、ビーコン送信タイミングの設定処理などの動作制御が行なわれる。例えば、より長い優先期間が必要なときは、次のビーコン送信タイミングまでの期間が長くなる位置へ自局のビーコン送信タイミングを移動する。また、他局とビーコンが衝突したときに、自局のビーコン送信位置の移動や、自局のビーコン送信停止、他局へのビーコン送信位置変更(ビーコン送信位置の移動又は停止)要求などの衝突回避処理を行なう。
ビーコン生成部104は、近隣にある無線通信装置との間で周期的に交換されるビーコン信号を生成する。無線通信装置100が無線ネットワークを運用するためには、自己のビーコン送信位置や周辺局からのビーコン受信位置などを規定する。これらの情報は、情報記憶部113に格納されるとともに、ビーコン信号の中に記載して周囲の無線通信装置に報知する。ビーコン信号の構成については後述する。無線通信装置100は、伝送フレーム周期の先頭でビーコンを送信するので、伝送フレーム周期はビーコン間隔によって定義されることになる。
無線送信部106は、データ・バッファ102に一時格納されているデータやビーコン信号を無線送信するために、所定の変調処理を行なう。また、無線受信部110は、所定の時間に他の無線通信装置から送られてきた情報やビーコンなどの信号を受信処理する。
無線送信部106及び無線受信部110における無線送受信方式は、例えば無線LANに適用可能な、比較的近距離の通信に適した各種の通信方式を適用することができる。具体的には、UWB(Ultra Wide Band)方式、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式、CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式などを採用することができる。
アンテナ109は、他の無線通信装置宛に信号を所定の周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の無線通信装置から送られる信号を収集する。本実施形態では、単一のアンテナを備え、送受信をともに並行しては行なえないものとする。
タイミング制御部107は、無線信号を送信並びに受信するためのタイミングの制御を行なう。例えば、伝送フレーム周期の先頭における自己のビーコン送信タイミングや、他の通信装置からのビーコン受信タイミング、スキャン動作周期、RTS/CTS方式に則った各パケット(RTS、CTS、データ、ACKなど)の送信タイミング(フレーム間スペースIFSやバックオフの設定)などを制御する。
ビーコン解析部112は、隣接局から受信できたビーコン信号を解析し、近隣の無線通信装置の存在などを解析する。例えば、隣接局のビーコンの受信タイミングや近隣ビーコン受信タイミングなどの情報は近隣装置情報として情報記憶部113に格納される。
情報記憶部113は、中央制御部103において実行される一連のアクセス制御動作などの実行手順命令(衝突回避処理手順などを記述したプログラム)や、受信ビーコンの解析結果から得られる近隣装置情報などを蓄えておく。
本実施形態に係る自律分散型ネットワークでは、各通信局は、所定のチャネル上で所定の時間間隔でビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。ビーコンを送信する伝送フレーム周期のことを、ここではスーパーフレーム(Super Frame)と定義し、例えば40ミリ秒とする。
新規に参入する通信局は、スキャン動作により周辺局からのビーコン信号を聞きながら、通信範囲に突入したことを検知するとともに、ビーコンに記載されている情報を解読することによりネットワーク構成を知ることができる。そして、ビーコンの受信タイミングと緩やかに同期しながら、周辺局からビーコンが送信されていないタイミングに自局のビーコン送信タイミングを設定する。
B.スーパーフレームの構築
各通信局はビーコン情報を報知することにより、近隣(すなわち通信範囲内)の他の通信局に自己の存在を知らしめるとともに、ネットワーク構成を通知する。ビーコン送信周期のことを、「スーパーフレーム(T_SF)」と定義し、例えば40ミリ秒とする。
本実施形態に係る各通信局のビーコン送信手順について、図3を参照しながら説明する。
ビーコンで送信される情報が100バイトであるとすると、送信に要する時間は18マイクロ秒となる。40ミリ秒に1回の送信なので、通信局毎のビーコンのメディア占有率は2222分の1と十分小さい。
各通信局は、周辺で発信されるビーコンを聞きながら、ゆるやかに同期する。新規に通信局が現われた場合、新規通信局は既存の通信局のビーコン送信タイミングと衝突しないように、自分のビーコン送信タイミングを設定する。
また、周辺に通信局がいない場合、通信局01は適当なタイミングでビーコンを送信し始めることができる。ビーコンの送信間隔は40ミリ秒である。図3中の最上段に示す例では、B01が通信局01から送信されるビーコンを示している。
以降、通信範囲内に新規に参入する通信局は、既存のビーコン配置と衝突しないように、自己のビーコン送信タイミングを設定する。
例えば、図3中の最上段に示すように、通信局01のみが存在するチャネル上において、新たな通信局02が現われたとする。このとき、通信局02は、通信局01からのビーコンを受信することによりその存在とビーコン位置を認識し、図3の第2段目に示すように、通信局01のビーコン間隔のほぼ真中に自己のビーコン送信タイミングを設定して、ビーコンの送信を開始する。
さらに、新たな通信局03が現われたとする。このとき、通信局03は、通信局01並びに通信局02のそれぞれから送信されるビーコンの少なくとも一方を受信し、これら既存の通信局の存在を認識する。そして、図3の第3段に示すように、通信局01及び通信局02から送信されるビーコン間隔のほぼ真中のタイミングで送信を開始する。
以下、同様のアルゴリズムに従って近隣で通信局が新規参入する度に、ビーコン間隔が狭まっていく。例えば、図3の最下段に示すように、次に現われる通信局04は、通信局02及び通信局01それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングでビーコン送信タイミングを設定し、さらにその次に現われる通信局05は、通信局02及び通信局04それぞれが設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングでビーコン送信タイミングを設定する。
但し、帯域(スーパーフレーム周期)内がビーコンで溢れないように、最小のビーコン間隔Bminを規定しておき、Bmin内に2以上のビーコン送信タイミングを配置することを許容しない。例えば、40ミリ秒のスーパーフレーム周期でミニマムのビーコン間隔Bminを2.5ミリ秒に規定した場合、電波の届く範囲内では最大で16台の通信局までしか収容できないことになる。
スーパーフレーム内に新規のビーコンを配置する際、各通信局はビーコン送信の直後に優先利用領域(TPP)を獲得することから(後述)、1つのチャネル上では各通信局のビーコン送信タイミングは密集しているよりもスーパーフレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、本実施形態では、図3に示したように基本的に自身が聞こえる範囲でビーコン間隔が最も長い時間帯のほぼ真中でビーコンの送信を開始するようにしている。但し、各通信局のビーコン送信タイミングを集中して配置し、残りのスーパーフレーム周期では受信動作を停止して装置の消費電力を低減させるという利用方法もある。
図4には、スーパーフレーム周期内で配置可能なビーコン送信タイミングの構成例を示している。但し、同図に示す例では、40ミリ秒からなるスーパーフレーム周期における時間の経過を、円環上で時針が右回りで運針する時計のように表している。
図4に示す例では、0からFまでの合計16個の位置がビーコン送信を行なうことができる時刻すなわちビーコン送信タイミングを配置可能なスロットとして構成されている。図3を参照しながら説明したように、既存の通信局が設定したビーコン間隔のほぼ真中のタイミングで新規参入局のビーコン送信タイミングを順次設定していくというアルゴリズムに従って、ビーコン配置が行なわれたものとする。Bminを2.5ミリ秒と規定した場合には、1スーパーフレームにつき最大16個までしかビーコンを配置することができない。すなわち、16台以上の通信局はネットワークに参入できない。
なお、図3並びに図4では明示されていないが、各々のビーコンは、各ビーコン送信時刻であるTBTT(Target Beacon Transmission Time)から故意に若干の時間オフセットを持った時刻で送信されている。これを「TBTTオフセット」と呼ぶ。本実施形態では、TBTTオフセット値は擬似乱数にて決定される。この擬似乱数は、一意に定められる擬似ランダム系列TOIS(TBTT Offset Indication Sequence)により決定され、TOISはスーパーフレーム周期毎に更新される。
TBTTオフセットを設けることにより、2台の通信局がスーパーフレーム上では同じスロットにビーコン送信タイミングを配置している場合であっても、実際のビーコン送信時刻をずらすことができ、あるスーパーフレーム周期にはビーコンが衝突しても、別のスーパーフレーム周期では各通信局は互いのビーコンを聞き合う(あるいは、近隣の通信局は双方のビーコンを聞く)ことができる。通信局は、スーパーフレーム周期毎に設定するTOISをビーコン情報に含めて周辺局に報知する(後述)。
また、本実施形態では、各通信局は、データの送受信を行なっていない場合には、自局が送信するビーコンの前後は受信動作を行なうことが義務付けられる。また、データ送受信を行なわない場合であっても、数秒に一度は1スーパーフレームにわたり連続して受信機を動作させてスキャン動作を行ない、周辺ビーコンのプレゼンスに変化がないか、あるいは各周辺局のTBTTがずれていないかを確認することも義務付けられる。そして、TBTTにずれを確認した場合には、自局の認識するTBTT群を基準に−Bmin/2ミリ秒以内をTBTTと規定しているものを「進んでいる」、+Bmin/2ミリ秒以内をTBTTと規定しているものを「遅れている」ものと定義し、最も遅れているTBTTに合わせて時刻を修正する。
C.ビーコンのフレーム・フォーマット
図5には、本実施形態に係る自律分散型の無線通信システムにおいて送信されるビーコン・フレームのフォーマット一例を示している。
図示の例では、ビーコンには、送信元局を一意に示すアドレスであるTA(Transmitter Address)フィールドと、当該ビーコンの種類を示すTypeフィールドと、周辺局から受信可能なビーコンの受信時刻情報であるNBOI(Neighboring Beacon Offset Information)フィールドと、当該ビーコンを送信したスーパーフレーム周期におけるTBTTオフセット値(前述)を示す情報であるTOIS(TBTT Offset Indication Sequence)フィールドと、TBTTの変更やその他各種の伝達すべき情報を格納するALERTフィールドと、当該通信局が優先的にリソースを確保している量を示すTxNumフィールドと、当該スーパーフレーム周期内で複数のビーコンを送信する場合に当該ビーコンに割り振られた排他的な一意のシリアル番号を示すSerialフィールドなどが含まれている。
Typeフィールドには、当該ビーコンの種類が8ビット長のビットマップ形式で記述される。本実施形態では、ビーコンが、各通信局が1スーパーフレーム毎のその先頭で1回だけ送信する「正規ビーコン」、あるいは優先的送信権を得るために送信されている「補助ビーコン」のいずれであるかを識別するための情報として、プライオリティを示す0から255までの値を用いて示される。具体的には、1スーパーフレーム毎に1回送信することが必須である正規ビーコンの場合は最大のプライオリティを示す255が割り当てられ、補助ビーコンに対してはトラフィックのプライオリティに相当する0から254までのいずれかの値が割り当てられる。
NBOIフィールドは、スーパーフレーム内において自局が受信可能な隣接局のビーコンの位置(受信時刻)を記述した情報である。本実施形態では、図4に示したように1スーパーフレーム内で最大16個のビーコンを配置なスロットが用意されていることから、受信できたビーコンの配置に関する情報を16ビット長のビットマップ形式で記述する。すなわち、自局の正規ビーコンの送信時刻TBTTのスロットをNBOIフィールドの先頭ビット(MSB)にマッピングするとともに、その他の各スロットを自局のTBTTを基準とした相対位置(オフセット)に対応するビット位置にそれぞれマッピングする。そして、自局の送信ビーコン並びに受信可能なビーコンの各スロットに割り当てられたビット位置に1を書き込み、それ以外のビット位置は0のままとする。
図6にはNBOIの記述例を示している。同図に示す例では、通信局0が「1100,0000,0100,0000」のようなNBOIフィールドを作っている。これは、図4に示したように最大16局を収容可能な各スロットに通信局0〜FがそれぞれTBTTを設定しているような通信環境下で、図3に示した通信局0が、「通信局1並び通信局9からのビーコンが受信可能である」旨を伝えることになる。つまり、受信ビーコンの相対位置に対応するNBOIの各ビットに関し、ビーコンが受信可能である場合にはマーク、受信されてない場合にはスペースを割り当てる。また、MSBが1になっているのは自局がビーコンを送信しているためで、自局がビーコンを送信している時刻に相当する場所もマークする。
各通信局は、あるチャネル上でお互いのビーコン信号を受信すると、その中に含まれるNBOIの記述に基づいて、チャネル上でビーコンの衝突を回避しながら自己のビーコン送信タイミングを配置したり周辺局からのビーコン受信タイミングを検出したりすることができる。
TOISフィールドでは、上述のTBTTオフセットを決定する擬似ランダム系列が格納されており、当該ビーコンがどれだけのTBTTオフセットを以って送信されているかを示す。TBTTオフセットを設けることにより、2台の通信局がスーパーフレーム上では同じスロットにビーコン送信タイミングを配置している場合であっても、実際のビーコン送信時刻がずらすことができ、あるスーパーフレーム周期にはビーコンが衝突しても、別のスーパーフレーム周期では各通信局は互いのビーコンを聞き合う(あるいは、近隣の通信局は双方のビーコンを聞く)ことができる。
図7には、TBTTと実際のビーコン送信時刻を示している。図示のように、TBTT、TBTT+20マイクロ秒、TBTT+40マイクロ秒、TBTT+60マイクロ秒、TBTT+80マイクロ秒、TBTT+100マイクロ秒、TBTT+120マイクロ秒のいずれかの時刻となるようTBTTオフセットを定義した場合、スーパーフレーム周期毎にどのTBTTオフセットで送信するかを決定し、TOISを更新する。また、送信局が意図した時刻に送信できない場合には、TOISにオールゼロなどを格納し、ビーコンを受信可能な周辺局に対し、今回のビーコン送信タイミングは意図した時刻に行なえなかった旨を伝達する。
ALERTフィールドには、異常状態において、周辺局に対して伝達すべき情報を格納する。例えば、ビーコンの衝突回避などのため自局の正規ビーコンのTBTTを変更する予定がある場合や、また周辺局に対し補助ビーコンの送信の停止を要求する場合には、その旨をALERTフィールドに記載する。
TxNumフィールドは、当該局がスーパーフレーム周期内で送信している補助ビーコンの個数が記載される。通信局はビーコン送信に続いてTPPすなわち優先送信権が与えられることから、スーパーフレーム周期内での補助ビーコン数は優先的にリソースを確保して送信を行なっている時間率に相当する。
Serialフィールドには、当該スーパーフレーム周期内で複数のビーコンを送信する場合に当該ビーコンに割り振られた排他的な一意のシリアル番号が書き込まれる。当該ビーコンのシリアル番号として、スーパーフレーム内に送信する各々のビーコンに排他的な一意の番号が記載される。本実施形態では、自局の正規ビーコンを基準に、何番目のTBTTで送信している補助ビーコンであるかの情報が記載される。
D.正規ビーコンのTBTTの設定
通信局は電源投入後、まずスキャン動作すなわちスーパーフレーム長以上にわたり連続して信号受信を試み、周辺局の送信するビーコンの存在確認を行なう。この過程で、周辺局からビーコンが受信されなかった場合には、通信局は適当なタイミングをTBTTとして設定する。
一方、周辺局から送信されるビーコンを受信した場合には、周辺局から受信した各ビーコンのNBOIフィールドを当該ビーコンの受信時刻に応じてシフトしながら論理和(OR)をとって参照することにより、最終的にマークされていないビット位置に相当するタイミングの中からビーコン送信タイミングを抽出する。
基本的には、通信局はビーコン送信の直後に優先利用領域(TPP)を獲得することから、各通信局のビーコン送信タイミングはスーパーフレーム周期内で均等に分散している方が伝送効率上より好ましい。したがって、周辺局から受信したビーコンから得たNBOIのORをとった結果、スペースのランレングスが最長となる区間の中心をビーコン送信タイミングとして定める。
但し、ランレングスが最長となるTBTT間隔が最小のTBTT間隔よりも小さい場合(すなわちBmin以下の場合)には、新規通信局はこの系に参入することができない。
図8には、新規に参入した通信局が周辺局から受信したビーコンから得た各ビーコンのNBOIに基づいて自局のTBTTを設定する様子を示している。
通信局は電源投入後、まずスキャン動作すなわちスーパーフレーム長以上にわたり連続して信号受信を試み、周辺局の送信するビーコンの存在確認を行なう。この過程で、周辺局からビーコンが受信されなかった場合には、通信局は適当なタイミングをTBTTとして設定する。一方、周辺局から送信されるビーコンを受信した場合には、周辺局から受信した各ビーコンのNBOIフィールドを当該ビーコンの受信時刻に応じてシフトしながら論理和(OR)をとって参照することにより、最終的にマークされていないビット位置に相当するタイミングの中からビーコン送信タイミングを抽出する。
図8に示す例では、新規に登場した通信局Aに着目し、通信局Aの周辺には通信局0、通信局1、通信局2が存在しているという通信環境を想定している。そして、通信局A は、スキャン動作によりスーパーフレーム内にこの3つの局0〜2からのビーコンが受信できたとする。
NBOIフィールドは、周辺局のビーコン受信時刻を自局の正規ビーコンに対する相対位置に対応するビットにマッピングしたビットマップ形式で受信ビーコンのは位置情報を記述している(前述)。そこで、通信局Aでは、周辺局から受信できた3つのビーコンのNBOIフィールドを各ビーコンの受信時刻に応じてシフトして時間軸上でビットの対応位置を揃えた上で、各タイミングのNBOIビットのORをとって参照する。
周辺局のNBOIフィールドを統合して参照した結果、得られている系列が図9中“OR of NBOIs”で示されている「1101,0001,0100,1000」であり、1はスーパーフレーム内で既にTBTTが設定されているタイミングの相対位置を、0はTBTTが設定されていないタイミングの相対位置を示している。この系列において、スペース(ゼロ)の最長ランレングスは3であり、候補が2箇所存在していることになる。図8に示す例では通信局Aは、このうち15ビット目を自局の正規ビーコンのTBTTに定めている。
通信局Aは、15ビット目の時刻を自局の正規ビーコンのTBTT(すなわち自局のスーパーフレームの先頭)として設定し、ビーコンの送信を開始する。このとき、通信局Aが送信するNBOIフィールドは、ビーコン受信可能な通信局0〜2のビーコンの各受信時刻を、自局の正規ビーコンの送信時刻からの相対位置に相当するビット位置をマークしたビットマップ形式で記載したものである、図13中の“NBOI for TX (1 Beacon TX)”で示す通りとなる。
なお、通信局Aが優先送信権利を得るなどの目的で補助ビーコンを送信する際には、さらにこの後、周辺局のNBOIフィールドを統合した“OR of NBOIs”で示されている系列のスペース(ゼロ)の最長ランレングスを探し、探し当てたスペースの箇所に補助ビーコンの送信時刻を設定する。図8に示す例では、2つの補助ビーコンを送信する場合を想定しており,“OR of NBOIs”の6ビット目と11ビット目のスペースの時刻に補助ビーコンの送信タイミングを設定している。この場合、通信局Aが送信するNBOIフィールドは、自局の正規ビーコンと周辺局の受信ビーコンの相対位置に加え、さらに自局が補助ビーコン送信を行なっている箇所(正規ビーコンに対する相対位置)にもマークされ、“NBOI for TX (3 Beacon TX)”で示されている通りとなる。
各通信局が上述したような処理手順で自局のビーコン送信タイミングTBTTを設定してビーコンの送信を行なう場合、各通信局が静止して電波の到来範囲が変動しないという条件下では、ビーコンの衝突を回避することができる。また、送信データの優先度に応じて、補助ビーコン(又は複数のビーコンに類する信号)をスーパーフレーム内で送信することにより、優先的にリソースを割り当て、QoS通信を提供することが可能である。また、周辺から受信したビーコン数(NBOIフィールド)を参照することにより、各通信局がシステムの飽和度を自律的に把握することができるので、分散制御システムでありながら、通信局毎に系の飽和度を加味しつつ優先トラヒックの収容を行なうことが可能となる。さらに、各通信局が受信ビーコンのNBOIフィールドを参照することで、ビーコン送信時刻は衝突しないように配置されるので、複数の通信局が優先トラヒックを収容した場合であっても、衝突が多発するといった事態を避けることができる。
E.ビーコン衝突シナリオと衝突回避手順
図9には、ある周波数チャネル上において、新規参入局がNBOIの記述に基づいて既存のビーコンとの衝突を回避しながら自己のビーコン送信タイミングを配置する様子を示している。同図の各段では、通信局STA0〜STA2の参入状態を表している。そして、各段の左側には各通信局の配置状態を示し、その右側には各局から送信されるビーコンの配置を示している。
図9上段では、通信局STA0のみが存在している場合を示している。このとき、STA0はビーコン受信を試みるが受信されないため、適当なビーコン送信タイミングを設定して、このタイミングの到来に応答してビーコンの送信を開始することができる。ビーコンは40ミリ秒(スーパーフレーム)毎に送信されている。このとき、STA0から送信されるビーコンに記載されているNBOIフィールドのすべてのビットが0である。
図9中段には、通信局STA0の通信範囲内でSTA1が参入してきた様子を示している。STA1は、ビーコンの受信を試みるとSTA0のビーコンが受信される。さらにSTA0のビーコンのNBOIフィールドは自局の送信タイミングを示すビット以外のビットはすべて0であることから、上述した処理手順に従ってSTA0のビーコン間隔のほぼ真中に自己のビーコン送信タイミングを設定する。
STA1が送信するビーコンのNBOIフィールドは、自局の送信タイミングを示すビットとSTA0からのビーコン受信タイミングを示すビットに1が設定され、それ以外のビットはすべて0である。また、STA0も、STA1からのビーコンを認識すると、NBOIフィールドの該当するビット位置に1を設定する。
図9の最下段には、さらにその後、通信局STA1の通信範囲にSTA2が参入してきた様子を示している。図示の例では、STA0はSTA2にとって隠れ端末となっている。このため、STA2は、STA1がSTA0からのビーコンを受信していることを認識できず、右側に示すように、STA0と同じタイミングでビーコンを送信し衝突が生じてしまう可能性がある。
NBOIフィールドはこの現象を回避するために用いられる。まず、STA1のビーコンのNBOIフィールドは自局の送信タイミングを示すビットに加え、STA0がビーコンを送信しているタイミングを示すビットにも1が設定されている。そこで、STA2は、隠れ端末であるSTA0が送信するビーコンを直接受信はできないが、STA1から受信したビーコンに基づいてSTA0のビーコン送信タイミングを認識し、このタイミングでのビーコン送信を避ける。
そして、図10に示すように、このときSTA2は、STA0とSTA1のビーコン間隔のほぼ真中にビーコン送信タイミングを定める。勿論、STA2の送信ビーコン中のNBOIでは、STA2とSTA1のビーコン送信タイミングを示すビットを1に設定する。このようなNBOIフィールドの記述に基づくビーコンの衝突回避機能により、隠れ端末すなわち2つ先の隣接局のビーコン位置を把握しビーコンの衝突を回避することができる。
F.送信優先区間TPPを利用した通信帯域の保証
通信局として動作する無線通信装置100は、特定の制御局を配置しない通信環境下で、緩やかな時分割多重アクセス構造を持った伝送(MAC)フレームにより伝送チャネルを効果的に利用した伝送制御、又はCSMA/CAに基づくランダム・アクセスなどの通信動作を行なう。
本実施形態では、各通信局はビーコンを一定間隔で送信しているが、ビーコンを送信した後しばらくの間は、該ビーコンを送信した局に送信の優先権を与えることで、信号の往来を自律分散的に管理し、通信帯域(QoS)を確保するようにしている。図11には、ビーコン送信局に優先権が与えられる様子を示している。本明細書では、この優先区間をTransmission Prioritized Period(TPP)と定義する。
図12には、ビーコン送信局に優先送信期間TPPを与える場合のスーパーフレーム周期(T_SF)の構成例を示している。同図に示すように、各通信局からのビーコンの送信に続いて、そのビーコンを送信した通信局のTPPが割り当てられるが、TPPに続く区間をFairly Access Period(FAP)と定義され、通信局間では通常のCSMA/CA方式により通信が行なわれる。そして、次の通信局からのビーコン送信タイミングでFAPが終わり、以降は同様にビーコン送信局のTPPとFAPが続く。
各通信局は、基本的にはスーパーフレーム周期毎に1回のビーコンを送信するが、場合に応じて複数個のビーコンあるいはビーコンに類する信号を送信することが許容され、ビーコンを送信する度にTPPを獲得することができる。言い換えれば、通信局は、スーパーフレーム周期毎に送信するビーコンの個数に応じて優先的な送信用のリソースを確保できることになる。ここで、通信局がスーパーフレーム周期の先頭で必ず送信するビーコンのことを「正規ビーコン」、それ以外のタイミングでTPP獲得又はその他の目的で送信する2番目以降のビーコンのことを「補助ビーコン」と呼ぶ。
図13には、TPP区間内におけるビーコン送信局並びにそれ以外の局が送信権を得るための動作について図解している。
ビーコン送信局は、自局のビーコンを送信した後、優先送信モードで動作し、より短いバケット間隔SIFSの後に送信を開始することができる。図示の例では、ビーコン送信局はSIFSの後にRTSパケットを送信する。そして、その後も、送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
一方、通常動作モードで動作するその他の局は、ビーコンが送信された後、まずSIFSよりも長いフレーム間スペースLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、送信権利が与えられる。このため、ビーコン送信局が先にSIFS経過後にRTS信号を送信すると、送信を開始することができなくなる。
図14には、通信局がTPP区間及びFAP区間においてそれぞれ送信を開始するための動作を図解している。
TPP区間内では、通信局は、自局のビーコンを送信した後、より短いバケット間隔SIFSの後に送信を開始することができる。図示の例では、ビーコン送信局はSIFSの後にRTSパケットを送信する。そして、その後も送信されるCTS、データ、ACKの各パケットも同様にSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
これに対し、FAP区間では、ビーコン送信局は、他の周辺局と同様にLIFS+ランダム・バックオフだけ待機してから送信開始する。言い換えれば、すべての通信局にランダムなバックオフにより送信権が均等に与えられることになる。図示の例では、他局のビーコンが送信された後、まずLIFSだけメディア状態を監視し、この間にメディアがクリアすなわち送信信号が存在しなければ、ランダム・バックオフを行ない、さらにこの間にも送信信号が存在しない場合に、RTSパケットを送信する。なお、RTS信号に起因して送信されるCTS、データ、ACKなどの一連のパケットはSIFSのフレーム間スペースで送信することにより、近隣局に邪魔されず、一連の通信手順を実行することができる。
上述した信号の往来管理方法によれば、優先度の高い通信局がより短いフレーム間スペースを設定することで優先的に送信権を獲得することができる。しかしながら、優先度が高く設定されている通信局がより短いフレーム間スペースで送信権を獲得する結果として、優先度が低い通信局は送信権をなかなか得ることができず、帯域保証(QoS管理)が柔軟性に欠けるという問題がある。
そこで、本発明の他の実施形態では、ビーコン送信後の通信局に優先送信期間が与えられるが、この優先期間内では、ビーコン送信局が伝送路を占有するのではなく、より高い確率で送信権を得るように設定し、それ以外の局であっても、一定の確率で送信権を得るように構成する。すなわち、ビーコン送信局の優先期間であってもすべての通信局は統計的には送信権を得ることができるので、より柔軟なQoS管理を実現することができる。
CSMAによるアクセス競合方式では、各通信局は、伝送路の状態を監視しながらランダム時間にわたりバックオフのタイマーを動作させ、この間に送信信号が存在しない場合に送信権を獲得する。本発明では、例えば、ビーコン送信局は、それ以外の局よりもバックオフ値のとりうる幅を短く設定する。これによって、すべての通信局がランダム・バックオフによるアクセス競合を行なうことにより、より柔軟なQoS管理を実現することができる。
また、ビーコン送信局により短いフレーム間スペースSIFSを与え、それ以外の局にはビーコン送信局と同等又はより長いフレーム間スペースLIFSを与えるようにしてもよい。
優先送信権を得たビーコン送信局は、より短いフレーム間スペースSIFS、及びより短い範囲から乱数を引いたランダム・バックオフを待ってから送信することによって、統計的に高い確率で送信権を獲得する。これに対し、ビーコン送信局以外の通信局は、ビーコン送信局と同等若しくはより長いフレーム間スペースLIFS、及びビーコン送信局と同様若しくはより長い範囲から乱数を引いたランダム・バックオフを待ってから送信する。
例えば、ビーコン送信局及びそれ以外の通信局が下表に示すようなフレーム間スペースIFS並びにランダム・バックオフの乱数を引く範囲でContention Windowを設定することが可能である。
上記の例では、例えば優先送信区間TPPを得た通信局が34マイクロ秒のフレーム間スペースIFSの後、1マイクロ秒から15マイクロ秒の間から乱数を引き、12マイクロ秒のランダム・バックオフを選択したとする。このとき、直前のパケット送信後から46マイクロ秒間だけチャネルがクリアであれば、この通信局は送信権を得ることができる。
このとき、優先送信権を得ていない他の通信局は、43マイクロ秒のフレーム間スペースIFSの後、さらに1マイクロ秒のランダム・バックオフを引いたとすると、この通信局は、自局の優先送信期間TPPでないにも拘らず送信権を得ることができる。
TPP区間内の通信局に比べて、TPP区間外の通信局は送信権を獲得する確率は低くなるが、ランダム・バックオフによる通信権を得ることが可能である。すなわち、すべての通信局がランダム・バックオフによるアクセス競合を行なうことにより、より柔軟なQoS管理を実現することができる。
図15には、ビーコン送信局に対して統計的に優先して送信可能となる優先期間を与えるようにした場合のスーパーフレーム周期(T_SF)の構成例を示している。
図12に示した例では、ビーコン送信局がほぼ独占的に送信権を獲得することができる所定期間のTPPに続いて、すべての通信局が統計的に均等な機会でアクセス競合を行なうFAPが設けられている。
これに対し、この実施形態では、ビーコン送信局のTPP区間内であっても、それ以外の通信局も統計的には送信権を獲得することができることから、図15に示すようにFAPを設ける必要はなく、ビーコン送信局は次の通信局のビーコン送信タイミングが到来するまでの間TPPを継続することができる。
このように次のビーコン送信タイミングが到来するまでの間TPPを継続する場合には、通信局は、トラフィックのリソースを確保するために補助ビーコンをスーパーフレーム内に配置する必要がなくなる。したがって、余分なビーコン送信に伴う帯域の無駄を省き、リソースの限界を拡張することができる。勿論、この場合であっても、図12に示した場合と同様にFAP区間を設けるようにしてもよい。
また、ビーコン送信局は、次のビーコンが送信されるまで優先期間を獲得するが、より長い優先期間が必要なときには、次のビーコン送信タイミングまでの期間が長くなる位置へ自局のビーコン送信タイミングを移動するようにしてもよい。
図16には、通信局がより長い優先送信期間TPPを獲得するための動作手順を図解している。同図に示す例では、通信局#2がTPPの延長を要求するとする。このとき、通信局#2のビーコンの直後には通信局#3のビーコンがあるためにTPPは短く制限されている。そこで、通信局#2は、ビーコンの位置を通信局 #1のTPP内へ移動し、TPPの延長を行なっている。
図17には、通信局が自局のビーコン送信タイミングを移動するための動作をフローチャートの形式で示している。この処理手順は、実際には無線通信装置100内の中央制御部103において所定の実行命令プログラムを実行するという形態で実現される。
通信局は、自局のビーコン送信タイミングを移動するため、少なくとも1スーパーフレーム分だけスキャンを実行する(ステップS1)。また、TBTTを変更する旨をALERTフィールドに記載したビーコンを周辺局に報知し(ステップS2)、さらに図8を参照しながら説明した上記の手順により、NBOI情報を基に次のTBTTまでの間隔が長いTBTTを発見し、ビーコンの移動先を検出する(ステップS3)。そして、新規のTBTTにてビーコンを送信することにより(ステップS4)、ビーコン送信タイミングの移動先を周辺局に報知する。