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JP4319425B2 - 無端状金属ベルト用金属リングの製造方法 - Google Patents

無端状金属ベルト用金属リングの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術の分野】
本発明は、無端状金属ベルトに用いられる薄板状の金属リングの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
無段変速機に採用される動力伝達用のベルトにおいては、環状に積層配列された複数のエレメントを複数の金属リングが積層された積層リングにより結束したものが用いられている。この種の積層リングを構成する金属リングは、積層された状態で負荷を受けるため、各金属リング間で摩擦が生じる。従って、各金属リング間の潤滑が不足した場合、摩擦による発熱や金属リング同士の焼き付き等が発生するおそれがある。そこで、下記特許文献1に示す従来の金属リングにおいては、その内周面にメッシュ状の凹凸を形成し、このメッシュ状の凹凸を利用して潤滑油膜を形成していた。
【0003】
金属リングの内周面にメッシュ状の凹凸を形成する方法としては、金属リングを圧延する圧延ローラの表面に溝を形成し、当該圧延ローラによって金属リングを圧延することにより金属リングの表面に前記溝を転写させて凸部を形成するものが知られている。例えば、下記特許文献2に開示された技術においては、圧延ローラの表面に単粒ダイヤモンドによって1本ずつ溝を形成する方法が開示されている。具体的には、圧延ローラを回転させた状態で単粒ダイヤモンドを圧延ローラの表面に押し当て、単粒ダイヤモンドを所定幅の範囲で圧延ローラの軸方向に往復運動させ、表面にメッシュ状の凸部を形成している。
【0004】
このような下記特許文献2に開示された方法で形成された溝は、単粒のダイヤモンド等で加工されていたため、ある程度溝同士の幅を広くしなければ圧延ローラの加工に多大の時間がかかる。このため、従来のメッシュ状の溝は溝同士の間隔が広くなっている。しかしながら、各溝同士の間隔が広くなると、前記溝が転写されて生じる金属リング表面の凸部に応力が集中しやすくなる。特に、表面硬化処理として窒化処理をした場合は、金属リングの表面に発生する圧縮残留応力が前記凸部に集中して耐久性の低下をもたらすおそれがある。
【0005】
また、従来の金属リングの製造方法では、単粒のダイヤモンドで1本ずつ溝を形成しているため圧延ローラの加工に時間がかかる。また、圧延ローラの使用により表面の溝が摩耗し、所定の形状を金属リングに転写できなくなった場合には、一度圧延ローラの表面の溝を研磨して溝をなくした後、新たに溝を形成しなければならない。このように、従来は圧延ローラの加工と保守に多くの工数を必要としていた。
【0006】
【特許文献1】
特開昭55−103133号公報(第2頁、第1図)
【特許文献2】
特開昭61−79041号公報(第4頁、第9図)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、無端状金属ベルトに用いられる薄板状の金属リングの製造方法の改良を目的とし、さらに詳しくは、前記不都合を解消するために応力集中の少ない金属リングを製造すると共に金属リングを圧延する圧延ローラの製造及び保守が容易な金属リングの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、本発明の金属リングの製造方法は、マルエージング鋼製の無端状金属ベルトに用いられる薄板状の金属リングを製造する方法であって、前記金属リングの内周面に当接する圧延ローラの表面に、当該圧延ローラを回転させながら、粗さの番手が#270から#1000である砥石を当接させると共に、該砥石を当該圧延ローラの軸方向に移動させて、幅が25μmから250μmの間でランダムとなるようなメッシュ状の凹凸を当該圧延ローラの表面に設ける圧延ローラ凹凸形成工程と、前記凹凸を形成した圧延ローラにより前記金属リングを圧延し、当該圧延ローラの凹凸が当該金属リングの内周面に転写されて、幅が25μmから250μmの間でランダムとなるようなメッシュ状の凹凸を当該金属リングの内周面に形成する圧延工程、前記圧延工程後に前記金属リングを溶体化する溶体化処理と、前記溶体化処理が行われた金属リングを窒化する窒化処理とを備え、前記窒化処理により前記金属リングの圧縮残留応力を−980N/mm 以上とすることを特徴とする。
【0009】
本発明の金属リングの製造方法によれば、前記金属リングに転写されたメッシュ状の凹凸は、前記圧延ローラに所定の粗さの砥石で形成されたメッシュ状の凹凸が転写されたものであるため、従来のダイヤモンドで形成された溝が転写された凸部に比べてそれぞれの凹凸の大きさ及び幅を小さくすることができる。従って、前記メッシュ状の凹凸に応力集中が起こりにくい。
【0010】
また、前記圧延ローラのメッシュ状の凹凸は、従来のように単粒のダイヤモンド等で1本1本溝を形成する必要がない。従って、前記圧延ローラの表面に容易にメッシュ状の凹凸を形成することができる。また、圧延ローラの使用により凹凸が摩耗した場合であっても、摩耗した凹凸の上からさらに前記砥石でメッシュ状の凹凸を形成することができる。従って、従来のように一度表面を研磨した後、さらに溝を形成する必要がないため、圧延ローラの保守も容易となる。
【0012】
前記金属リングにおいて前記メッシュ状の凹凸が転写された面は前記凹凸により表面積が広くなっているため、窒化が円滑に行われる。また、窒化処理を行うことで金属リングの表面に圧縮残留応力が生じるが、本願発明者等の実験によれば、金属リングの耐久力を良好なものとするためにはマルエージング鋼において圧縮残留応力を約−980N/mm以上とすることが好ましいという結果を得た。これを前記砥石の粗さにすると、番手が#270から#1000の範囲で、金属リングの圧縮残留応力を約−980N/mm以上にすることができる。
【0013】
また、本発明の金属リングの製造方法においては、前記圧延工程後であって前記窒化処理前に前記金属リングを溶体化する溶体化処理が行われる。前記金属リングが圧延された後に溶体化処理がなされると、金属リングの結晶粒が微細化する。この状態で窒化処理がなされると微細化した結晶粒が均一に硬化するため、応力集中が起こりにくくなり、金属リングの破断が生じにくくなる。また、前記メッシュ状の凹凸の状態や前記砥石の寿命を考慮すると、前記圧延ローラを加工する砥石は、粗さの番手が#300から#800の範囲であることが好ましい。また、前記溶体化処理では、前記金属リングをマルエージング鋼の再結晶温度以上で且つ850℃以下の温度に加熱し、前記窒化処理では、アンモニアと窒素ガスの混合ガス、又はアンモニアとRXガスの混合ガス内で、前記金属リングを450℃〜500℃の状態に30〜120分保持することが好ましい。
【0014】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の金属リングの製造方法の実施形態の一例について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は本実施形態の製造方法により形成された金属リングを示す説明図、図2は金属リングを圧延する圧延装置の主要部を示す説明図、図3は金属リングの内周面を圧延する内周圧延ローラを示す説明図、図4は金属リングの内周面の残留圧縮応力と砥石の番手との関係を示すグラフである。
【0015】
まず、図1を参照して金属リング1の構成について説明する。金属リング1は、図1に示すように、薄板状の無端帯状に形成され、ベルト式無断変速機における無端状金属ベルトに用いられる。また、その内周面にはメッシュ状の凹凸2が形成されており、外周面にはそのような加工がなされておらず平滑な面となっている。
【0016】
次に、図2を参照して金属リング1の圧延を行う圧延装置3の主要部分について説明する。本実施形態における圧延装置3は、薄板状の金属リング1が掛け回される一対のテンションローラ4a,4bを水平方向に所定の間隔で離間させて備え、さらにテンションローラ4a,4bの中間に受けローラ5、内周圧延ローラ6、外周圧延ローラ7が垂直方向に並設されている。外周圧延ローラ7は、内周圧延ローラ6の上方に昇降自在に配設されており、受けローラ5に支持された内周圧延ローラ6との間に金属リング1を挟持すると共に、背面側に配設された図示しないモータにより回転駆動されて、金属リング1を圧延するものである。
【0017】
次に、図3を参照して内周圧延ローラ6及びその加工方法について説明する。本実施形態における内周圧延ローラ6は、図3に示すように、表面にメッシュ状の凹凸8が形成されている。このメッシュ状の凹凸8の加工方法は、次の通りである。まず、内周圧延ローラ6を所定の回転数で回転させる。次に、砥石9を内周圧延ローラ6の軸方向に往復動させ、内周圧延ローラ6の表面に所定の力で付勢する。このように、内周圧延ローラ6を回転させた状態でその軸方向に往復動する砥石9を表面に当接させることで、内周圧延ローラ6の表面にメッシュ状の凹凸8を形成している。
【0018】
本実施形態で用いられている砥石9は、ダイヤモンド製の砥石を用いており、番手は#325のものを用いている。本願発明者等による実験によると、#270よりも粗い番手であると、内周圧延ローラ6の表面に形成されるメッシュ状の凹凸8の目が粗くなりすぎるため、金属リング1の凹凸2に転写された際に当該凹凸2に応力集中が発生して好ましくない。また、#1000よりも細かい番手であると、金属リング1の凹凸2に転写された際に凹凸2の深さが充分ではなくなり、積層リングとして使用された際に潤滑油の保持性が低下する。また、砥石9の目が細かくなるので、砥石自体の寿命が短くなり、頻繁に砥石を交換しなければならないため、生産性が低下する。さらに、本願発明者等の実験によれば、金属リング1に転写される凹凸2の状態及び砥石の寿命等を考慮すると、砥石9の番手は#300〜#800の範囲であることが好ましいことを知見した。
【0019】
次に、本実施形態の金属リング1の加工方法について説明する。まず、マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接して円筒状のドラム(図示せず)を形成する。次に、前記溶接時の熱により部分的に硬くなった硬度を均質化するために溶体化処理した後、所定幅に裁断して金属リング1を形成する。
【0020】
次に、図2に示す圧延装置3において圧延工程が行われる。この圧延工程では、左右のテンションローラ4a,4bに金属リング1を掛け渡し、外周圧延ローラ7と内周圧延ローラ6との間に金属リング1を挟持して圧延を行う。具体的には、テンションローラ4aを図2において左側に付勢することにより金属リング1に所定の張力を作用させる。また、外周圧延ローラ7を図3において時計回りに回転させながら内周圧延ローラ6に向けて所定の力で押し付け、外周圧延ローラ7と内周圧延ローラ6との間で金属リング1を圧延しながら外周圧延ローラ7の駆動力により金属リング1を図3において反時計回りに回転させる。このとき、内周圧延ローラ6の表面に形成されたメッシュ状の凹凸8に金属リング1の内周面が押し付けられ、金属リング1の内周面にメッシュ状の凹凸2が転写される。
【0021】
次に、金属リング1に溶体化処理が行われる。溶体化処理は、金属リング1を加熱炉(図示せず)内でマルエージング鋼の再結晶温度以上で850℃以下の温度に加熱することにより行われる。
【0022】
次に、上記工程により圧延され、溶体化処理がなされた金属リング1に窒化処理が行われる。窒化処理は、アンモニアと窒素ガスの混合ガスまたはアンモニアとRXガスとの混合ガスが導入された窒化処理室(図示せず)内で、例えば金属リング1を450℃〜500℃の状態に30〜120分程度保持することにより行われる。
【0023】
以上の工程により形成された金属リング1は、内周面に転写されているメッシュ状の凹凸2は、その幅が25μm乃至250μmの間でランダムに形成された。また、金属リング1の圧縮残留応力は約−1050N/mmであった(図4のa点参照)。従来の製造方法により形成された金属リングの凸部同士の間隔は約300μmで均一であり、このような従来の金属リングの内周面における圧縮残留応力は約−800N/mmであった。このように、本実施形態の製造方法により形成された金属リング1は、凹凸2の幅が従来に比べて細かくなり、圧縮残留応力も大きくなっている。
【0024】
ここで、図4を参照して、本願発明者等の実験により得られた砥石9の粗さと圧縮残留応力との関係について説明する。砥石9と圧縮残留応力とは、図4に示すように砥石9の番手が同じであっても、例えば図4のc点とc’点のように上下にばらつきがある。これは、砥石9により圧延ローラ6を加工する際の加工スピードや加工時間によるばらつきと考えられる。
【0025】
また、砥石9の粗さを#1000としたときは、各凹凸2同士の間隔が密になり、金属リング1の内周面の活性化が図られ窒化処理が良好に行われた結果、圧縮残留応力は約−1150N/mmとなった(図4のb点参照)。そして、砥石9の粗さが粗くなるにつれて圧縮残留応力が小さくなり、砥石9の粗さが約#270となったところで圧縮残留応力が約−980N/mmとなった(図4のc点参照)。
【0026】
一方、図4のd点のように、砥石の番手が#250より粗い場合であっても圧縮残留応力が−980N/mm以上となる場合がある。しかしながら、加工のばらつきによっては、図4のd’点のように−980N/mm以下となってしまう場合もあるため、砥石9の粗さは、本実施形態のように約#270よりも細かくすることが望ましい。
【0027】
また、本実施形態においては、圧延工程後に溶体化処理を行っているため、金属リング1の凹凸2において結晶粒の微細化が図られ、金属リング1の靱性が向上した。このように、本実施形態において製造された金属リング1は、無断変速機の金属ベルトに積層リングとして使用された場合、凹凸2によって各金属リング1間の潤滑が良好なものとなる。また、圧縮残留応力が高く靱性も高いために金属疲労が少ない。
【0028】
また、内周圧延ローラ6は砥石9で加工されているため、1本のダイヤモンドにより加工する場合に比べて加工時間が短い。また、内周圧延ローラ6の保守を行う際にも、一度表面の凹凸2を研磨する必要はなく、直接砥石9で表面を加工すればよいため、保守も容易となる。
【0029】
尚、上記実施形態においては、内周圧延ローラ6の表面にメッシュ状の凹凸8を形成する砥石としてダイヤモンド製の砥石9を使用しているが、これに限らずアルミナあるいは炭化珪素製の砥石を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の製造方法により形成された金属リングを示す説明図。
【図2】金属リングを圧延する圧延装置の主要部を示す説明図。
【図3】金属リングの内周面を圧延する内周圧延ローラを示す説明図。
【図4】金属リングの内周面の残留圧縮応力と砥石の番手との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1…金属リング、2…凹凸(金属リング側)、6…内周圧延ローラ、8…凹凸(圧延ローラ側)、9…砥石。

Claims (3)

  1. マルエージング鋼製の無端状金属ベルトに用いられる薄板状の金属リングを製造する方法であって、
    前記金属リングの内周面に当接する圧延ローラの表面に、当該圧延ローラを回転させながら、粗さの番手が#270から#1000である砥石を当接させると共に、該砥石を当該圧延ローラの軸方向に移動させて、幅が25μmから250μmの間でランダムとなるようなメッシュ状の凹凸を当該圧延ローラの表面に設ける圧延ローラ凹凸形成工程と、
    前記凹凸を形成した圧延ローラにより前記金属リングを圧延し、当該圧延ローラの凹凸が当該金属リングの内周面に転写されて、幅が25μmから250μmの間でランダムとなるようなメッシュ状の凹凸を当該金属リングの内周面に形成する圧延工程
    前記圧延工程後に前記金属リングを溶体化する溶体化処理と、
    前記溶体化処理が行われた金属リングを窒化する窒化処理とを備え、
    前記窒化処理により前記金属リングの圧縮残留応力を−980N/mm 以上とすることを特徴とする金属リングの製造方法。
  2. 前記圧延ローラを加工する砥石は粗さの番手が#300から#800であることを特徴とする請求項1に記載の金属リングの製造方法。
  3. 前記溶体化処理では、前記金属リングをマルエージング鋼の再結晶温度以上で且つ850℃以下の温度に加熱し、
    前記窒化処理では、アンモニアと窒素ガスの混合ガス、又はアンモニアとRXガスの混合ガス内で、前記金属リングを450℃〜500℃の状態に30〜120分保持することを特徴とする請求項1に記載の金属リングの製造方法。
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