JP4380029B2 - 微生物を利用した物質の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物を利用した物質の製造法に関する。本発明において、微生物とはエシェリヒア属細菌あるいはコリネ型細菌を代表とするものであり、従来より物質生産に供されてきたものである。また、生産される物質とは、L−アミノ酸、核酸、抗生物質、ビタミン、成長因子、生理活性物質など、従来より微生物により生産されてきたものである。本発明は、微生物を利用した物質の製造法において、最終目的産物である物質の生産性を改善するための手段を開示するものである。
【0002】
【従来の技術】
多くの生物は、呼吸によって生命活動に必要なエネルギーを獲得している。微生物の呼吸では、一般に種や生育環境に応じて多様な酵素複合体が働いており、エネルギー獲得効率も様々である。炭水化物、タンパク質、脂肪酸は、解糖系やβ酸化によりアセチルCoAとなり、クエン酸回路に入って分解される。その時、NADHの形で蓄えられたエネルギーは、NADH脱水素酵素(NDH)とそれに続く酸化還元酵素からなる電子伝達系により菌体内からのプロトン排出に利用され、それにより細胞膜内外でプロトン濃度勾配が形成される。そして、このプロトン濃度勾配は、ATP合成の駆動力として利用される。この時、電子伝達の経路には、NDHと酸化還元酵素の組み合わせにより、プロトン排出能が高い経路と低い経路が存在し、プロトン排出能が高い経路はエネルギー効率が良く、プロトン排出能が低い経路はエネルギー効率が低いと考えられる。このように、1種類の微生物が、同時に複数の呼吸鎖電子伝達経路を並列に持ち、その経路にエネルギー効率が高い経路と低い経路が存在する。
【0003】
エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)の好気条件での呼吸鎖には2種類のNDHと2種類の末端酸化酵素が存在している。すなわち、NDHについてはエネルギー効率の良いNDH-1(nuoオペロンにコードされる)とエネルギー効率の悪いNDH-II(ndhにコードされる)が知られている。また、末端酸化酵素については、エネルギー効率が良く、SoxM型(Castresana, J. and Saraste, M. Trends in Biochem. Sci. 20, 443-448 (1995))に分類されるシトクロムbo型酸化酵素(cyoABCDオペロンにコードされる)と、エネルギー効率が悪いシトクロムbd型酸化酵素(cydABにコードされる)が知られている。これらの呼吸鎖酵素は、生育環境にレスポンスし、発現量を変化させていることが知られているが(Minagawa et al., The Journal of Biological Chemistry, 265:11198-11203 (1990)、Tseng et al., Journal of Bacteriology, 178:1094-1098 (1996)、Green et al., Molecular Microbiology, 12:433-444 (1994)、Bongaerts et al., Molecular Microbiology, 16:521-534 (1995))、それらの発現様式の生理的意義については未だ不明な点が多い。
【0004】
また、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、シトクロムbc1複合体が存在し、少なくとも2種類の末端酸化酵素、SoxM型酸化酵素とシトクロムbd型酸化酵素の存在が確認されている(平成11年度 代謝工学に関する第2回目のシンポジウム講演要旨集)。このことより、キノンプールから酸素分子への電子伝達経路は、シトクロムbc1複合体を経由しSoxM型酸化酵素を介する経路と、シトクロムbd型酸化酵素だけを介する経路の2種類の経路が存在することがわかる。前者は1電子が伝達される際のプロトン輸送比が高くエネルギー効率が高い電子伝達経路であり、後者は1電子が伝達される際のプロトン輸送比が低くエネルギー効率が低い経路であると考えられる。
【0005】
エシェリヒア・コリの末端酸化酵素については、シトクロムbo型酸化酵素のみを持つ変異株、シトクロムbd型酸化酵素だけを持つ変異株、及び、両者を持つ野生株の好気培養における生育収量を比較すると、生育収量はシトクロムbd型酸化酵素だけを持つ変異株が最も低く、末端酸化酵素の種類とそのエネルギー獲得効率に依存する(平成7年度日本生物工学会講演要旨集演題番号357)。
【0006】
また、エネルギー効率の良いNDH-Iやシトクロムbo型酸化酵素を欠損した株は、エネルギー効率が悪化することが報告されている(Calhoun et al., Journal of Bacteriology, 175:3020-3925 (1993))。しかし、NDH-IやSoxM型酸化酵素などの効率の良い呼吸鎖遺伝子の増幅によるエネルギー効率の変化に関しては未だ知見はなく、物質生産に結びつけた試みは知られていない。また、NDH-IIやシトクロムbd型酸化酵素など効率の悪い呼吸鎖酵素の欠損化を物質生産に結びつける試みも報告されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
L−アミノ酸、核酸を始めとする生体内での物質の生合成には、エネルギーが必要である。そのとき利用されるエネルギーの多くは、NADHやNADPHなどの還元力や、ATPとして蓄えられたエネルギーである。そこで、本願発明者らは微生物を利用した目的物質の製造法において、目的物質生産時に利用されるエネルギーの供給を増加させれば、目的物質の生産性が向上すると考えた。この様な考えに基づき、本発明は、エネルギー効率が向上した微生物を創製し、それを用いた目的物質の生産法を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、エネルギー供給が増加した微生物を造成する方法としては、エネルギー獲得効率の高い呼吸鎖経路の増強あるいは、エネルギー獲得効率の低い呼吸鎖経路の欠損化を行なうことで達成されると考えた。具体的には、エシェリヒア・コリにおいて、エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素としてシトクロムbo型酸化酵素をコードする遺伝子の増幅、またはエネルギー効率の悪い呼吸鎖酵素としてNDH-IIをコードする遺伝子の欠損化により、エネルギー効率が向上したと考えられる株を造成した。そして、それらを用いてL−アミノ酸生産を行い、エネルギー効率が向上した株ではL−アミノ酸生産性が向上することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下のとおりである
(1)微生物を培地中に培養し、該培地中に目的物質を生成蓄積させ、該目的物質を採取する、微生物を利用した目的物質の製造法において、前記微生物は、呼吸鎖経路として、エネルギー効率の良い呼吸鎖経路と、エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路を保持する微生物の親株から創製され、以下の性質の一方又は両方を有する変異株又は遺伝子組換え株であることを特徴とする、微生物を利用した目的物質の製造法:
(A)エネルギー効率の良い呼吸鎖経路増強されている、
(B)エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路が欠損している。
(2)エネルギー効率の良い呼吸鎖経路に関与する呼吸鎖酵素をコードする遺伝子のコピー数の上昇、又は同遺伝子の発現調節配列の改変により前記呼吸鎖経路が増強された、(1)の目的物質の製造法。
(3)エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路に関与する呼吸鎖酵素をコードする遺伝子が破壊されたことにより呼吸鎖経路が欠損した(1)又は(2)の目的物質の製造法。
(4)エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素がSoxM型酸化酵素酸化酵素、bc1複合体もしくはNDH−1又はそれらの2種又は3種である(1)〜(3)のいずれかの目的物質の製造法。
(5)エネルギー効率の悪い呼吸鎖酵素がシトクロムbd型酸化酵素もしくはNDH−II又はそれらの両方である(1)〜(4)のいずれかの目的物質の製造法。
(6)前記微生物は、SoxM型酸化酵素の活性が増強され、かつ、NDH−IIを欠損した、(1)〜(5)のいずれかの目的物質の製造法。
(7)SoxM型酸化酵素がシトクロムbo型酸化酵素である(1)〜(6)のいずれかの目的物質の製造法。
(8)前記微生物がエシェリヒア属細菌又はコリネ型細菌である(1)〜(7)のいずれかの目的物質の製造法。
(9)目的物質がL−アミノ酸又は核酸である(1)〜(8)のいずれかの目的物質の製造法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の製造法により製造される物質は、微生物により製造され得る物質であれば特に制限されず、例えばL−スレオニン、L−リジン、L−グルタミン酸、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−フェニルアラニン等の種々のL−アミノ酸;グアニル酸、イノシン酸等の核酸類;ビタミン類;抗生物質;成長因子;生理活性物質などが挙げられる。
【0011】
本発明に用いる微生物は、上記のような目的物質の生産能を有し、かつ、呼吸鎖経路として、エネルギー効率の良い呼吸鎖経路と、エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路を保持する微生物の親株から創製され、、以下の性質の一方又は両方を有する変異株又は遺伝子組換え株である。
(A)エネルギー効率の良い呼吸鎖経路増強されている、
(B)エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路が欠損している。
【0012】
エシェリヒア・コリやコリネ型細菌等の微生物は、一般的に、同時に複数の呼吸鎖電子伝達経路を並列に持ち、1電子当たりのプロトン輸送比が高い経路と低い経路に分けられる。例えば、エシェリヒア・コリでは、電子供与体がNADHである場合、NADHからキノンプールへのプロトン伝達を触媒するNADH脱水素酵素として、NDHIとNDHIIがある。これらのうち、NDHIはエネルギー効率が良く、NDHIIはエネルギー効率が悪い。すなわち、電子一個当たり排出できるプロトンの分子数(プロトン輸送比(proton translocation value))は、NDHIでは2であると考えられているが、NDHIIでは0である。
本発明においては、上記のような1電子当たりのプロトン輸送比が高い経路、すなわちエネルギー効率の良い呼吸鎖経路の増強を行い、エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路の欠損を行う。エネルギー効率の良い呼吸鎖経路の増強は、該呼吸鎖経路に関与する呼吸鎖酵素の活性を増強することにより行うことができる。また、エネルギー効率の悪い呼吸鎖経路の欠損は、該呼吸鎖経路に関与する呼吸鎖酵素の活性を低下又は消失させることにより行うことができる。
【0013】
本発明における呼吸鎖経路に関与する呼吸鎖酵素とは、呼吸鎖を構成する酵素であれば特に制限されないが、具体的には電子供与体からユビキノン、ジメチルメナキノン、メナキノン等のキノンプールへの電子伝達を触媒する脱水粗酵素、及び、キノンプールから電子受容体への電子伝達を触媒する酸化酵素が挙げられる。
【0014】
一方、キノンプールからの電子伝達により水分子を生成する反応を触媒する酸化酵素にはSoxM型(bo型)とbd型があるが、プロトン輸送比はbo型では2であるのに対し、bd型は1であり、bo型の方がエネルギー効率は高い。
【0015】
本発明においてエネルギー効率が「良い」又は「悪い」とは、絶対的なものではなく、上記のように相対的な概念である。
次に、エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素の活性を増強する手段、及び、エネルギー効率の悪い呼吸鎖酵素の活性を低下又は消失させる手段を説明する。
【0016】
エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素の活性の増強は、例えば、同酵素をコードする遺伝子を断片を、微生物細胞内で機能するベクター、好ましくはマルチコピー型ベクターと連結して組換えDNAを作製し、これを微生物に導入して形質転換すればよい。形質転換株の細胞内の前記酵素遺伝子のコピー数が上昇する結果、酵素活性が増幅される。以下に、エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素の遺伝子としてシトクロムbo型酸化酵素をコードするcyoオペロン(cyoABCDE)を例として説明する。
【0017】
エシェリヒア・コリのcyoオペロンの配列はすでに報告されており(Chepuri et al., The Journal of Biological Chemistry, 265:11185-11192 (1990))、その配列をもとに同オペロンをクローニングすることができる。cyoオペロンは、エシェリヒア属細菌の遺伝子を用いることも、コリネ型細菌などの他の生物由来の遺伝子を用いることも可能である。
【0018】
遺伝子のクローニング及び微生物への導入に使用されるベクターとしては、例えばエシェリヒア・コリ細胞内で自律複製可能なプラスミド、具体的にはpUC19、pUC18、pBR322、pHSG299、pHSG298、pHSG399、pHSG398、RSF1010、pSTV29等が挙げられる。また、コリネ型細菌への遺伝子の導入には、コリネ型細菌及びエシェリヒア・コリにおいて自律複製可能なシャトルベクターを用いることが好ましい。例えば、コリネ型細菌で自律複製可能なプラスミドとしては、以下のものが挙げられる。
【0019】
pAM 330 特開昭58−67699号公報参照
pHM 1519 特開昭58−77895号公報参照
pAJ 655 特開昭58−192900号公報参照
pAJ 611 同 上
pAJ 1844 同 上
pCG 1 特開昭57−134500号公報参照
pCG 2 特開昭58−35197号公報参照
pCG 4 特開昭57−183799号公報参照
pCG 11 同 上
pHK4 特開平5−7491号公報参照
【0020】
cyoオペロンを含むDNA断片とベクターを連結して組換えDNAを調製するには、gltBD遺伝子の末端に合うような制限酵素でベクターを切断する。連結は、T4 DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
【0021】
上記のように調製した組換えDNAを微生物に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法( Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。コリネ型細菌の形質転換は、電気パルス法(特開平2−207791号公報参照)が有用である。
【0022】
シトクロムbo型酸化酵素活性の増幅は、cyoオペロンを宿主の染色体DNA上に多コピー存在させることによっても達成できる。エシェリヒア属細菌やコリネ型細菌等の微生物の染色体DNA上にcyoオペロンを多コピーで導入するには、染色体DNA上に多コピー存在する配列を標的に利用して相同組換えにより行う。染色体DNA上に多コピー存在する配列としては、レペッティブDNA、転移因子の端部に存在するインバーティッド・リピートが利用できる。あるいは、特開平2−109985号公報に開示されているように、cyoオペロンをトランスポゾンに搭載してこれを転移させて染色体DNA上に多コピー導入することも可能である。いずれの方法によっても形質転換株内のcyoオペロンのコピー数が上昇する結果、シトクロムbo型酸化酵素活性が増幅される。
【0023】
シトクロムbo型酸化酵素活性の増幅は、上記の遺伝子増幅による以外に、cyoオペロンのプロモーター等の発現調節配列を強力なものに置換することによっても達成される(特開平1−215280号公報参照)。たとえば、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージのPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、amyEプロモーター等が強力なプロモーターとして知られている。これらのプロモーターへの置換により、cyoオペロンの発現が強化されることによってシトクロムbo型酸化酵素活性が増強される。発現調節配列の増強は、cyoオペロンのコピー数を高めることと組み合わせてもよい。
【0024】
エネルギー効率の良い呼吸鎖酵素の活性の増強は、微生物を突然変異処理し、同酵素の細胞内の活性が上昇するように同酵素の遺伝子に変異を導入することによっても達成される。そのような変異には、酵素の比活性が高くなるようなコード領域の変異、及び、遺伝子の発現量が増加するような発現調節配列の変異等がある。突然変異処理としては、紫外線照射、またはN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)もしくは亜硝酸等の通常変異処理に用いられている変異剤によって処理する方法が挙げられる。
【0025】
エネルギー効率の悪い呼吸鎖酵素の活性を低下又は消失させるには、例えば、同酵素の細胞内の活性が低下又は消失するように、同酵素の遺伝子に変異を導入するか、あるいは、同遺伝子が正常に機能しないように微生物の染色体上の遺伝子を破壊する。以下に、エネルギー効率の悪い呼吸鎖酵素の遺伝子としてNDH-IIをコードするndhを例として、ndh遺伝子を破壊する方法を説明する。
【0026】
エシェリヒア・コリのndhの配列はすでに報告されており(Young et al., European Journal of Biochemistry, 116:165-170 (1981))、その配列をもとに同遺伝子をクローニングすることができる。ndh遺伝子は、エシェリヒア属細菌の遺伝子を用いることも、コリネ型細菌などの他の生物由来の遺伝子を用いることも可能である。
【0027】
染色体上のndh遺伝子の破壊は、ndh遺伝子の内部を欠失し、正常に機能するndhを産生しないように改変したndh遺伝子(欠失型ndh遺伝子)を含むDNAで微生物を形質転換し、欠失型ndh遺伝子と染色体上のndh遺伝子との間で組換えを起こさせることにより、行うことができる。このような相同組換えによる遺伝子破壊は既に確立しており、直鎖DNAを用いる方法や温度感受性複製制御領域を含むプラスミドを用いる方法などがあるが、温度感受性複製制御領域を含むプラスミドを用いる方法が好ましい。
【0028】
欠失型ndh遺伝子を、宿主染色体上のndh遺伝子と置換するには以下のようにすればよい。すなわち、温度感受性複製制御領域と欠失型ndh遺伝子と薬剤耐性マーカー遺伝子とを挿入して組換えDNAを調製し、この組換えDNAでコリネ型細菌を形質転換し、温度感受性複製制御領域が機能しない温度で形質転換株を培養し、続いてこれを薬剤を含む培地で培養することにより、組換えDNAが染色体DNAに組み込まれた形質転換株が得られる。
【0029】
こうして染色体に組換えDNAが組み込まれた株は、染色体上にもともと存在するndh遺伝子配列との組換えを起こし、染色体ndh遺伝子と欠失型ndh遺伝子との融合遺伝子2個が組換えDNAの他の部分(ベクター部分、温度感受性複製制御領域及び薬剤耐性マーカー)を挟んだ状態で染色体に挿入されている。したがって、この状態では正常なndh遺伝子が優性であるので、形質転換株はndhを発現する。
【0030】
次に、染色体DNA上に欠失型ndh遺伝子のみを残すために、2個のndh遺伝子の組換えにより1コピーのndh遺伝子を、ベクター部分(温度感受性複製制御領域及び薬剤耐性マーカーを含む)とともに染色体DNAから脱落させる。その際、正常なndh遺伝子が染色体DNA上に残され、欠失型ndh遺伝子が切り出される場合と、反対に欠失型ndh遺伝子が染色体DNA上に残され、正常なndh遺伝子が切り出される場合がある。いずれの場合も、温度感受性複製制御領域が機能する温度で培養すれば、切り出されたDNAはプラスミド状で細胞内に保持される。次に、温度感受性複製制御領域が機能しない温度で培養すると、欠失型ndh遺伝子が染色体DNA上に残された場合は、正常なndh遺伝子を含むプラスミドが細胞から脱落するため増殖できないが、正常なndh遺伝子が染色体DNA上に残された場合は増殖できる。したがって、温度感受性複製制御領域が機能する温度で増殖することができ、温度感受性複製制御領域が機能しない温度で増殖できない株を選択することによって、染色体DNA上のndh遺伝子が破壊され、正常なndh遺伝子をプラスミド上に保持する株を得ることができる。
【0031】
上記のようにして得られるndh遺伝子破壊株は、温度感受性複製制御領域が機能する温度(例えば低温)で培養すればndh遺伝子を細胞内に保持し、温度感受性複製制御領域が機能しない温度(例えば高温)で培養すればndh遺伝子を欠損する。
【0032】
尚、本発明に用いる微生物として、染色体DNA上のndh遺伝子を破壊し、正常なndh遺伝子をプラスミド上に保持させた後にrecA-にした株を用いると、低温で培養中にプラスミド上のndh遺伝子が染色体へ組み込まれるのを防ぎ、遺伝子の脱落を確実にすることができる点で好ましい。
【0033】
エシェリヒア・コリ用の温度感受性複製起点を有するベクターとしては、例えばWO99/03988号国際公開パンフレットに記載のプラスミドpMAN997等が、また、コリネ型細菌用の温度感受性複製起点を有するベクターとしては、例えば特開平5-7491号公報に記載のプラスミドpHSC4等が挙げられるが、これらに限定されず、他のベクターを用いることもできる。
【0034】
上記のようにして取得される微生物として具体的には、SoxM型酸化酵素もしくはNDH−1又はそれらの両方が増強された微生物、シトクロムbd型酸化酵素もしくはNDH−II又はそれらの両方の活性が低下又は消失した微生物、及び、SoxM型酸化酵素もしくはNDH−1又はそれらの両方が増強され、かつ、シトクロムbd型酸化酵素もしくはNDH−II又はそれらの両方の活性が低下又は消失した微生物が挙げられる。より具体的には、例えば、SoxM型酸化酵素の活性が増強され、かつ、NDH−IIを欠損したエシェリヒア・コリが挙げられる。また、SoxM型酸化酵素としては、シトクロムbo型酸化酵素が挙げられる。
【0035】
本発明を適用する微生物としては、上記性質を付与し得る微生物であれば特に制限されず、エシェリヒア・コリ等のエシェリヒア属細菌、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)等のコリネ型細菌、バチルス・サブチリス等のバチルス属細菌、セラチア・マルセッセンス等のセラチア属細菌、サッカロマイセス・セレビシエ等の酵母等が挙げられる。
【0036】
具体的には、発酵生産物がL−スレオニンの場合はエシェリヒア・コリVKPM B-3996(RIA 1867)(米国特許第5,175,107号参照)、コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム AJ12318(FERM BP-1172)(米国特許第5,188,949号参照)等であり、L−リジンの場合はエシェリヒア・コリ AJ11442(NRRL B-12185, FERM BP-1543)(米国特許第4,346,170号参照)、エシェリヒア・コリW3110(tyrA)(同株はエシェリヒア・コリW3110(tyrA)/pHATerm(FERM BP-3653)からプラスミドpHATermを脱落させることにより得られる。WO 95/16042国際公開パンフレット参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12435(FERM BP-2294)(米国特許第5,304,476号)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ3990(ATCC31269)(米国特許第4,066,501号参照)等であり、L−グルタミン酸の場合はエシェリヒア・コリ AJ12624 (FERM BP-3853)(フランス特許出願公開第2,680,178号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12821(FERM BP-4172)(特開平5-26811号、フランス特許出願公開第2,701,489号)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12475(FERM BP-2922)(米国特許第5,272,067号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ13029(FERM BP-5189)(JP 95/01586号国際公開パンフレット参照)等であり、L−ロイシンの場合はエシェリヒア・コリ AJ11478(FERM P-5274)(特公昭 62-34397号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ3718(FERM P-2516)(米国特許第3,970,519号参照)等であり、L−イソロイシンの場合はエシェリヒア・コリKX141(VKPM B-4781)(欧州特許出願公開第519,113号参照)、ブレビバクテリウム・フラバム AJ12149(FERM BP-759)(米国特許第4,656,135号参照)等であり、L−バリンの場合はエシェリヒア・コリ VL1970(VKPM B-4411)(欧州特許出願公開第519,113号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12341(FERM BP-1763)(米国特許第5,188,948号参照)等であり、L−フェニルアラニンの場合は、エシェリヒア・コリ AJ12604(FERM BP-3579)(特開平5-236947号、欧州特許出願公開第 488,424号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12637(FERM BP-4160)(フランス特許出願公開第 2,686,898号参照)等である。
【0037】
本発明に用いる微生物は、目的物質に応じて、目的物質の生合成に関与する酵素の活性が増強されていてもよい。また、目的物質の産生に不利な酵素の活性が低下又は消失していてもよい。
【0038】
上記のような微生物を培地中に培養し、該培地中に目的物質を生成蓄積させ、該目的物質を採取することにより、目的物質を製造することができる。
使用する目的物質生産用の培地は、利用される微生物に応じて従来より用いられてきた周知の培地を用いてかまわない。つまり、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機成分を含有する通常の培地である。本発明を実施するための特別な培地は必要とされない。
【0039】
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースやでんぷんの加水分解物などの糖類、グリセロールやソルビトールなどのアルコール類、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類等を用いることができる。
【0040】
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
【0041】
有機微量栄養源としては、ビタミンB1、L−ホモセリン、L−チロシンなどの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。これらの他に、必要に応じて、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0042】
培養は、利用される微生物に応じて従来より用いられてきた周知の条件で行ってかまわない。例えば、好気的条件下で16〜120時間培養を実施するのがよく、培養温度は25℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
【0043】
培養終了後の培地液からの代謝産物の採取は、本願発明において特別な方法が必要とされることはない。すなわち、本発明は従来より周知となっているイオン交換樹脂法、沈澱法その他の方法を組み合わせることにより実施できる。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0045】
【実施例1】
シトクロムbo型酸化酵素遺伝子のクローニング
エシェリヒア・コリのシトクロムbo型酸化酵素をコードするcyoオペロン(cyoABCDE)の配列はすでに報告されており(Chepuri et al., The Journal of Biological Chemistry, 265:11185-11192 (1990))、その配列をもとに同オペロンをクローニングした。
【0046】
具体的には、cyoオペロンを含む小原のファージライブラリー(Kohara et al., Cell, 50:495-508 (1987))から目的とするcyo オペロン遺伝子の取得を行った。同オペロンを含む小原のファージクローン147[2H5]から、Wizard lambda prep(Promega)を用いてファージDNAを取得した。取得したファージDNA 147[2H5]をPshBIで処理し、得られた5.5Kbのcyoオペロンを含む断片を平滑末端化し、pMW119(ニッポンジーン)のSmaI部位に挿入して、プロモーター領域を含むcyoオペロンをクローニングした。得られたプラスミドには、cyoオペロンがpMW119上のラクトースオペロンプロモーターとは逆向きに挿入されている。このプラスミドをpMW(CYO)B と命名した。
【0047】
pMW(CYO)Bをエシェリヒア・コリW3110株(国立遺伝学研究所(日本国静岡県三島市)から入手)に導入し、W3110/pMW(CYO)B を得た。既知の方法(Kita et al., The Journal of Biological Chemistry, 259:3368-3374 (1984))を用いて、W3110とW3110/pMW(CYO)B 株の細胞抽出液中に存在する末端酸化酵素活性として、 ユビキノールオキシダーゼ活性を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、pMW(CYO)B 導入株では末端酸化酵素活性が増強されていることがわかった。この末端酸化酵素活性の増強は、cyoオペロン増強によるシトクロムbo型酸化酵素活性の増強に由来すると考えられる。
【0050】
【実施例2】
NDH-II欠損株の取得
NDH-II欠損株を作製するために、内部が分断されたNDH-IIの部分配列(破壊型NDH-II遺伝子)を作製した。NDH-IIの部分配列は、公知のエシェリヒア・コリのNDH-IIをコードする遺伝子ndhの配列(Young et al., European Journal of Biochemistry, 116:165-170 (1981))をもとにクローニングした。
【0051】
具体的には、以下のようにして破壊型NDH-II遺伝子を作製した(図1)。まず、NDH-IIの部分配列を含む約2.4kbのDNA断片を、ndh-1プライマー(配列番号1)とndh-2(配列番号2)をプライマーに用い、エシェリヒア・コリ染色体DNAよりPCRにより増幅した。この断片をpGEM-T vector(Promega)にクローニングし、pGEM-ndhを得た。このpGEM-ndhを制限酵素EcoRI、StuIで処理して得られる0.5kbのDNA断片を回収し、EcoRI、SmaIで処理したpTWV229(宝酒造)に連結し、pTWV-ndhを得た。
【0052】
次に、pGEM-ndhを制限酵素StuIで処理して得られる0.9kbのDNA断片を回収し、pTWV-ndhのHincII部位に挿入した。これにより、ndhの部分配列の内部にpTWV229のマルチクローニングサイトの一部を含むpTWVΔndhを得た。pTWVΔndhは、ndh配列内部のStuI部位にpTWV229由来の17bpの配列が挿入された配列を持つ。続いて、pTWVΔndhをHindIIIとEcoRIで処理し得られる1.5kbの断片を、温度感受性プラスミドpMAN997(WO99/03988号国際公開パンフレット参照)のHindIII、 EcoRI部位に挿入し、pTS-Δndhを得た。このプラスミド pTS-Δndhの温度感受性の性質を利用した一般的な相同性組換えの手法(Matuyama et al., Journal of Bacteriology, 162:1196 (1985))で、W3110株のゲノム上のndhと相同組換えを行い、ゲノム上のndhのコーディング領域にpTWV229由来の17bpの配列が挿入され、正常なNDH-IIタンパクを発現しないW3110(ndh) 株を取得した。このW3110(ndh)株に、W3110(tyrA)よりP1トランスダクションにより、テトラサイクリン耐性を指標として、tyrA欠損を導入し、W3110(ndh,tyrA) 株を取得した。
【0053】
前記pMAN997は、pMAN031(J. Bacteriol., 162, 1196 (1985))とpUC19(宝酒造社製)のそれぞれのVspI-HindIII断片を繋ぎ換えたものである(図2)。
また、W3110(tyrA)株は、欧州特許公開92年488424号公報に詳しい記載があるが、その調製方法について簡単にふれると以下の通りである。
国立遺伝学研究所(静岡県三島市)よりE. coli W3110株を入手した。同株をストレプトマイシン含有のLBプレートにまき、コロニーを形成する株を選択してストレプトマイシン耐性株を取得した。選択したストレプトマイシン耐性株と、E. coli K-12 ME8424株を混合して、完全培地(L-Broth:1% Bacto trypton, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl)で37℃の条件下、15分間静置培養して接合を誘導した。E. coli K-12 ME8424株は、(HfrPO45, thi, relA1, tyrA::Tn10, ung-1, nadB)の遺伝形質を有し、国立遺伝学研究所より入手できる。その後、培養物を、ストレプトマイシン、テトラサイクリンおよびL−チロシンを含有する完全培地(L-Broth:1% Bacto trypton, 0.5% Yeast extract, 0.5% NaCl, 1.5% agar)にまき、コロニーを形成する株を選択した。この株を、E. coli W3110(tyrA)株と命名した。
【0054】
欧州特許公開92年488424号公報には、この菌株にプラスミドを導入して形成される株が多く記載されている。たとえば、プラスミドpHATermを導入して得られる株は、エシェリヒア・コリW3110(tyrA)/pHATermと命名され、1991年11月16日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)に、ブダペスト条約に基づき国際寄託されており、FERM BP-3653の受託番号が付与されている。この菌株からプラスミドpHATermを常法により脱落させることによってエシェリヒア・コリW3110(tyrA)株を取得することができる。
【0055】
【実施例3】
L−リジンの製造
W3110(tyrA) と実施例2で取得された W3110(ndh,tyrA) 株に、実施例1で取得したpMW(CYO)Bを導入し、W3110(tyrA)/pMW(CYO)B とW3110(ndh,tyrA)/pMW(CYO)Bを得た。同様に、W3110(tyrA)にpMW119を導入して、W3110(tyrA)/pMW119株を得た。このW3110(tyrA)/pMW(CYO)B 株、W3110(ndh,tyrA)/pMW(CYO)B 株と、対象としてW3110(tyrA)/pMW119を用いて、フラスコ培養によりL−リジン生産性を評価した。培養は、下記組成の培地を用い、37℃で24〜48時間振盪することによって行った。結果を表2に示す。
【0056】
(培地組成)
グルコース 40 g/L
MgSO4・7H2O 1 g/L
KH2PO4 1 g/L
FeSO4・7H2O 0.01 g/L
MnSO4・5H2O 0.01 g/L
Yeast Extract (Difco) 2 g/L
L-チロシン 0.1 g/L または 0.05 g/L
KOHでpH7.0に調整し、115℃で10分間オートクレーブした。ただし、グルコースとMgSO4・7H2Oは別殺菌した。また培養前に、180℃で乾熱滅菌した局方CaCO3 30g/Lと、抗生物質アンピシリン100μg/Lを加えた。
【0057】
【表2】
【0058】
L−リジン生産性エシェリヒア・コリにおいて、シトクロムbo型酸化酵素活性を増強することにより、L−リジン生産性が向上することが判明した。これは、エネルギー効率の良い呼吸鎖経路の増強によりエネルギー獲得効率が向上し、そのエネルギーがL−リジン生産に利用されるためであると考えられる。
【0059】
また、L−リジン生産性エシェリヒア・コリにおいて、NDH-IIを欠損させることによって、L−リジン生産性が向上することが判明した。これはエネルギー効率が悪い呼吸鎖経路の欠損によりエネルギー獲得効率が向上し、そのエネルギーがL−リジン生産に利用されるためであると考えられる。
【0060】
【実施例3】
L−スレオニンの製造
L−スレオニン生産菌エシェリヒア・コリVKPM B-3996(RIA 1867)(米国特許第5,175,107号参照。以下、「B-3996株」という)に、上記方法で取得されたpMW(CYO)Bを導入し、B-3996/pMW(CYO)Bを得た。B-3996 株は、ストレプトマイシン耐性マーカーを有する広域ベクタープラスミドpAYC32(Chistorerdov, A.Y., Tsygankov, Y.D.Plasmid, 1986, 16, 161-167を参照のこと)にスレオニンオペロンを挿入して得られたプラスミドpVIC40(WO90/04636国際公開パンフレット)を保持している。B-3996 株は、USSR Antibiotics Research Institute (VNIIA)に、登録番号 RIA1867のもとに寄託されている。
【0061】
対象として、B-3996にpMW119を導入してB-3996/pMW119を得た。これらB-3996/pMW(CYO)BとB-3996/pMW119を用いて、フラスコ培養によりL−スレオニン生産性を評価した。培養は、表3記載の組成を有する培地を用い、培養時間 38 時間、温度37℃、攪拌114〜116rpmでおこなった。表3中、A成分、B成分、C成分は別々に調製 して殺菌し、冷却後、A成分16/20容量、B成分4/20容量、C成分30g/Lとなるように混合した。結果を表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
L−スレオニン生産性エシェリヒア・コリにおいて、シトクロムbo型酸化酵素活性を増強することにより、L−スレオニン生産性が改善されることが判明した。
【0065】
【実施例4】
L−フェニルアラニンの製造
エシェリヒア・コリW3110(tyrA)/pACMAB, pBR-aroG4株から、一般的なプラスミドの精製法にしたがってプラスミドpACMABを回収した。同プラスミドは、L−フェニルアラニン生合成固有系の脱感作型コリスミン酸ムターゼ−プレフェン酸デヒドラターゼ(CM-PDH)遺伝子を含有するDNA断片をプラスミドベクターpACYC184(Apr)のBamHI、HindIII切断部位に挿入して得たプラスミドである(WO97/08333号国際公開パンフレット参照)。W3110(tyrA)/pACMAB, pBR-aroG4株(AJ12604と命名されている)は、平成3年1月28日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所(郵便番号305 日本国茨城県つくば市東一丁目1番3号)にFERM P-11975の受託番号で寄託され、平成3年9月26日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管されて、FERM BP-3579の受託番号で寄託されている。
【0066】
pACMABをSalIで処理し、末端を平滑化した。これに、前述の小原ファージDNA 147[2H5]をPshBI処理して得られた5.5kbのcyoオペロンを含有するDNA断片を平滑末端化したものを挿入した。得られたプラスミドpACMAB-cyoを、W3110(tyrA)/pBR-aroG4に導入した。得られた形質転換株を、L−フェニルアラニン生産用培地(グルコース20g、リン酸水素2ナトリウム29.4g、リン酸2水素カリウム6g、塩化ナトリウム1g、塩化アンモニウム2g、クエン酸ナトリウム10g、グルタミン酸ナトリウム0.4g、硫酸マグネシウム7水和物3g、塩化カルシウム0.23g、サイアミン塩酸塩2mg、L−チロシン100mgを水1Lに含む。pH7.0)を用いて、37℃で40時間培養した。培地中のL−フェニルアラニンを高速液体クロマトグラフィーにより定量した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】
【0068】
L−フェニルアラニン生産性エシェリヒア・コリにおいて、シトクロムbo型酸化酵素活性を増強することにより、L−フェニルアラニン生産性が向上することが判明した。
【0069】
【発明の効果】
本発明により、微生物を培地中に培養し、該培地中に目的物質を生成蓄積させ、該目的物質を採取する、微生物を利用した目的物質の製造法において、従来とは異なる原理によって、その目的物質の生産性を改善することができる。
【0070】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 NDH-II遺伝子破壊株作製用プラスミドpTS-Δndhの構築を示す図。
【図2】 pMAN997の構築を示す図。
Claims (7)
- エシェリヒア属細菌又はコリネ型細菌に属する微生物を培地中に培養し、該培地中にL−アミノ酸を生成蓄積させ、該L−アミノ酸を採取する、微生物を利用したL−アミノ酸の製造法において、前記微生物はシトクロムbo型酸化酵素の活性が増大した変異株又は遺伝子組換え株である、微生物を利用したL−アミノ酸の製造法。
- シトクロムbo型酸化酵素をコードする遺伝子のコピー数の上昇、又は同遺伝子の発現調節配列の改変により前記シトクロムbo型酸化酵素活性が増大した、請求項1記載のL−アミノ酸の製造法。
- 前記微生物はNDH−IIを欠損した、請求項1または2に記載のL−アミノ酸の製造法。
- 前記シトクロムbo型酸化酵素がcyoオペロンによってコードされる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のL−アミノ酸の製造法。
- 前記微生物がエシェリヒア・コリである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のL−アミノ酸の製造法。
- 前記微生物がコリネバクテリウム・グルタミカムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載のL−アミノ酸の製造法。
- 前記L−アミノ酸がL−リジン、L−スレオニン、L−フェニルアラニンからなる群より選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載のL−アミノ酸の製造法。
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