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JP4278665B2 - 自動変速機の変速制御装置及び方法 - Google Patents

自動変速機の変速制御装置及び方法 Download PDF

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JP4278665B2 JP2006196135A JP2006196135A JP4278665B2 JP 4278665 B2 JP4278665 B2 JP 4278665B2 JP 2006196135 A JP2006196135 A JP 2006196135A JP 2006196135 A JP2006196135 A JP 2006196135A JP 4278665 B2 JP4278665 B2 JP 4278665B2
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Description

本発明は、変速段に応じて複数のクラッチの何れかを選択して係合させて動力伝達する自動変速機における変速(変速段の切り替え)を行なう、自動変速機の変速制御装置及び方法に関するものである。
自動変速機の変速時(変速段の切り替え時)には、一般にクラッチ等の摩擦係合要素の開放から係合へ又は係合から開放への切り替えを行なうが、この際に、変速時のショックが発生しないように滑らかに、且つ速やかに、摩擦係合要素の操作を行なうようにしたい。特に、変速段を高速段側に切り替えるアップシフト時には、回転変化によって生じるイナーシャトルクを吸収することも必要になる。
例えば、特許文献1に記載された技術では、図22に示すように、アップシフトに際して、係合側クラッチに油圧Pを与えて係合させ、開放側クラッチの油圧Pを解除して開放することになるが、クラッチの掛け替え時には、係合油圧Pは入力トルクに応じて算出される、入力側の回転変化が生じる直前の状態の目標油圧PTAに向かって上昇し、さらに、この目標油圧PTAに到達後は、実際の検出により入力側の回転変化が判断できる(ΔN≧dNs)まで、目標回転変化率に基づき算出される油圧変化δPTAによって上昇する。そして、この際に、係合油圧Pが目標油圧PTAに達することに同期して、エンジントルクTcがダウンする。このエンジントルクTcのダウンにより、変速時の回転変化によって生じるイナーシャトルクを吸収することができる。
特開平10−184410号公報
しかしながら、変速前の状態によっては、エンジントルクの低下により、変速時の回転変化によって生じるイナーシャトルクを吸収することができない場合がある。例えば、アクセルがあまり踏み込まれていないか或いは完全に戻されている状況下等で、スロットル開度が全閉にある場合には、エンジンの出力が下限値に有り、これ以上はエンジンの出力を落とせないため、エンジントルクの低下では、上記のイナーシャトルクの吸収をしえない。
このような場合には、イナーシャトルクの低下(自然低下)を待つか、変速ショックを覚悟してイナーシャトルクの低下を待たずに強引に変速をすることになる。イナーシャトルクの低下を待ったのでは変速に時間が掛かり過ぎ、強引に変速をすれば変速ショックを招き、変速感の悪化や自動車にあっては乗り心地の悪化を招くだけでなく、変速機の磨耗や損傷も招き易くなる。
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、エンジン(外部駆動装置)の出力が下限値に有り、エンジントルクの低下では、変速時の回転変化によって生じるイナーシャトルクの吸収をしえない状況下でも、イナーシャトルクの吸収を行なえるようにして、速やかで滑らかな変速を実現することができるようにした、自動変速機の変速制御装置及び方法を提供することを目的とする。
上記目標を達成するため、本発明の自動変速機の変速制御装置は、複数の摩擦係合要素の何れかを係合させて外部駆動装置から(入力部材に)入力された回転を適宜変速して出力する自動変速機の変速制御(変速段又は変速比の切り換え)を行なう変速制御装置において、上記複数の摩擦係合要素のうち、変速時に係合から開放に切り替える第1の摩擦係合要素と上記の変速時に開放から係合に切り替える第2の摩擦係合要素とのクラッチ容量を制御する制御手段と、変速時の回転変動に伴うイナーシャトルクの補正(吸収又は放出)を、上記外部駆動装置のトルク変更によるものと、上記の第1及び第2の摩擦係合要素の係合によるものと、に配分するイナーシャトルク配分手段と、所定の回転部材の変速前後の回転速度差と第1の動特性とに基づいて、該所定の回転部材の目標回転軌跡に沿って回転変化するのに必要なクラッチ容量を算出するクラッチ容量算出手段と、をそなえ、上記イナーシャトルク配分手段は、変速の前半では次第に増加するか又は変速の後半では次第に減少するように設定された上記第1の動特性に対して、微分演算を予め行なった第2の動特性を求めておき、この第2の動特性と、上記変速前後の回転速度変化とから、目標変速速度を求め、該目標変速速度から変速に要する上記イナーシャトルクの補正量を求め、該イナーシャトルクの補正量に応じて上記の第1の摩擦係合要素及び第2の摩擦係合要素に要求するクラッチ容量を算出し、上記制御手段は、上記クラッチ容量算出手段により算出されたクラッチ容量と、上記イナーシャトルク配分手段により算出されたクラッチ容量とを加算したクラッチ容量を、上記の第1の摩擦係合要素及び第2の摩擦係合要素のクラッチ容量としていることを特徴としている(請求項1)。これにより、外部駆動装置によるイナーシャトルクの補正が不可能な場合や、外部駆動装置のトルクダウン制限ではイナーシャトルクの補正不足する場合にも、摩擦係合要素を用いてイナーシャトルクの補正を行なうことができる。また、制御の切り替えを必要しないロジック構成となる。また、解放/締結のタイミングを完全に同期することができる。さらに、差分演算を用いることなく、微分を得ることができるので、ノイズ等による計算結果の急変が起こらず、安定したイナーシャトルクの演算が行なえる。
上記イナーシャトルク配分手段は、アップシフト時に、補正すべき上記イナーシャトルクと上記外部駆動装置が可能なトルクダウン量とを比較して、上記外部駆動装置により可能な最大トルクダウン量で吸収補正できない吸収不足のトルク分を、上記第1の摩擦係合要素と上記第2の摩擦係合要素との同時係合により吸収補正させることが好ましい(請求項2)。
この場合、上記イナーシャトルク配分手段は、上記第1の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r1と上記第2の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r2とに応じて上記の第1及び第2の摩擦係合要素へのトルク配分を行なうことが好ましい(請求項3)。
さらに、上記イナーシャトルク配分手段は、上記イナーシャトルクの補正量Iinωinに対して、上記第1の摩擦係合要素の分担トルクΔC1,及び上記第2の摩擦係合要素の分担トルクΔC2を、上記第1の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r1と上記第2の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r2とを用いて、次式(A)により算出することが好ましい(請求項4)。
Figure 0004278665
上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0でない限り、上記外部駆動装置と上記の第1及び第2の摩擦係合要素とに対して、何れかが一方的に負担しないように所定の固定配分比に制限して、上記配分を行なうことが好ましい(請求項5)。これにより、イナーシャトルク補正時に、状態の切り替えが急激に起こることによる特性の変化による回転もしくはトルク変動を抑え、また、制御が不安定になることを防ぐことができる。
この場合、上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0のとき、上記固定配分比から、上記外部駆動装置への配分が時間経過とともに0になるように配分比に時間傾斜を設けて配分を行なうこと(請求項6)や、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0よりも大きく所定値以下のとき、上記固定配分比で配分を行なうこと(請求項7)や、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が所定値以上のとき、上記固定配分比で配分を行なう配分状態から、上記の第1及び第2の摩擦係合要素への配分が0に漸減するように、配分比に時間傾斜を設けて配分を行なうことが好ましい(請求項8)。
上記イナーシャトルク配分手段は、ダウンシフト時には、補正すべき上記イナーシャトルクを上記外部駆動装置に負担させることが好ましい(請求項9)。
また、上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量で補正できない不足トルク分を、上記の第1及び第2の摩擦係合要素に配分する際に、上記外部駆動装置の応答遅れと上記の第1及び第2の摩擦係合要素の応答遅れとを考慮して上記外部駆動装置と上記の第1及び第2の摩擦係合要素とに配分指令を行なうことが好ましい(請求項10)。
上記イナーシャトルク配分手段は、上記の第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素との同時係合による上記イナーシャトルクの補正を、入力軸回転が変速前回転と変速後回転との間にあるときに限定して行なうことが好ましい(請求項11)。
上記イナーシャトルク配分手段は、上記式(A)により算出した上記第1の摩擦係合要素の分担トルクΔC1及び上記第2の摩擦係合要素の分担トルクΔC2に対して、これを実際に分担させる際の反映率を設けて、該反映率を上記分担トルクΔC1,ΔC2に乗算することで上記の両摩擦係合要素の分担トルクの総量を制限することが好ましい(請求項12)。これにより、摩擦係合要素分担分が過大になることを防止することができる。
この場合、上記反映率は、さらに、車速に応じて増減されることが好ましい(請求項13)
上記自動変速機が有段変速機である場合には、上記イナーシャトルク配分手段は、変速前に締結している摩擦係合要素の回転速度と、変速後に締結する摩擦係合要素の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求めることが好ましい(請求項14)。これにより、加速による結要の回転速度変化も加味したイナーシャ補正が行える。
上記自動変速機が有段変速機である場合には、上記イナーシャトルク配分手段は、変速による入力回転変化制御開始時の入力回転速度を記憶しておき、該記憶値と、変速後に締結する摩擦係合要素の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求めることが好ましい(請求項15)。これにより、変速開始時からの変化に対して、制御を行う。
上記自動変速機が有段変速機である場合には、上記イナーシャトルク配分手段は、変速前に設定している変速比と出力軸回転速度とから求めた第1の回転速度と、変速後に設定している変速比と出力軸回速度とから求めた第2の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求めることが好ましい(請求項16)。
上記自動変速機が無段変速機である場合には、上記イナーシャトルク配分手段は、変速による入力回転速度変化制御開始時の入力回転速度を記憶しておき、該記憶値と、変速後に設定している変速比と出力軸回転速度とから求めた回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求めることが好ましい(請求項17)。
本発明の自動変速機の変速制御装置によれば、外部駆動装置によるイナーシャトルクの補正が不可能な場合や、外部駆動装置のトルクダウン制限ではイナーシャトルクの補正不足する場合にも、摩擦係合要素を用いてイナーシャトルクの補正を行なうことができ、変速機の出力軸にはイナーシャトルクが乗らなくなって、出力ショックを回避することができる。
また、変速時の目標回転軌跡に動特性を用いることで、制御の切り替えを必要しないロジック構成とでき、また、解放/締結のタイミングを完全に同期することができる。
さらに、摩擦係合要素による補正が出来ない運転領域でも、突き出しを無くすことや減らすことができる。
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[各実施形態に共通する自動変速機の変速制御の構成]
各実施形態を説明する前に、まず、図1〜図5を参照して、各実施形態に共通する自動変速機の変速制御における掛け替え制御の原理及び基本構成について説明する。
なお、各実施形態に係る自動変速機の変速制御装置は、原動機(外部駆動装置)から入力された回転を複数の摩擦係合要素(クラッチ)の何れかを係合させて図示しない駆動輪に伝達する車両用の自動変速機に装備されるものとする。
図2は、一般的な4速自動変速機の構成を示す模式図である。図2に示すように、この自動変速機は、入力軸11と出力軸12との間に介装され、2組のプラネタリギヤ21,22を直列に備えている。
第1のプラネタリギヤ21のサンギヤ(S1)21Sは、ケーシング13との間に摩擦係合要素(以下、クラッチという)としてのブレーキ(クラッチC)23を介装され、このブレーキ23の係合により回転停止し、入力軸11との間に摩擦係合要素としてのクラッチ(クラッチD)24を介装され、このクラッチ24の係合により入力軸11と一体回転するようになっている。以下、クラッチ,ブレーキ等の摩擦係合要素を、単にクラッチという。
また、第1のプラネタリギヤ21のプラネタリピニオンを枢支するキャリア(C1)21Cは、入力軸11との間にクラッチ(クラッチE)25を介装され、このクラッチ25の係合により入力軸11と一体回転し、ケーシング13との間にクラッチとしてのブレーキ(クラッチA)26を介装され、ブレーキ26の係合により回転停止し、第2のプラネタリギヤ22のリングギヤ(R2)22Rとの間にクラッチ(クラッチB)27を介装され、このクラッチ27の係合により第2のプラネタリギヤ22のリングギヤ22Rと一体回転するようになっている。
また、第1のプラネタリギヤ21のリングギヤ(R1)21Rは、第2のプラネタリギヤ22のプラネタリピニオンを枢支するキャリア(C2)22Cに直結されている。
一方、第2のプラネタリギヤ22のサンギヤ(S2)22Sは入力軸11に直結されている。また、第2のプラネタリギヤ22のプラネタリピニオンを枢支するキャリア22Cは、第1のプラネタリギヤ21のリングギヤ21Rに直結されるとともに出力軸12に直結されている。また、第2のプラネタリギヤ22のリングギヤ22Rは、上記のように第1のプラネタリギヤ21のキャリア21Cにクラッチ27を介して接続されている。
そして、例えば、1速相当の変速比を実現するに当たっては、図3に示すように、クラッチ26とクラッチ27を締結状態にし、その他のクラッチを開放状態にする。同様に、2速相当の変速比を実現するに当たっては、図4に示すように、クラッチ27とクラッチ23を締結状態にし、その他のクラッチを開放状態にする。
したがって、1速から2速へ変速する(変速段の切り替えをする)場合には、クラッチ27を締結したままで、締結状態にあるクラッチ26を開放しつつ、開放状態にあるクラッチ23を締結することになる。
この切り替えをより単純化するために、変速機の構成を極限まで単純化すると、図5に示すように、ある変速比(例えば1速)のギヤ列31に直列に接続されたクラッチ33と、他の変速比(例えば2速)のギヤ列32に直列に接続されたクラッチ34とが互いに並列に接続され、クラッチ33,34の係合要素の一方が入力軸35側に接続され他方がギヤ列31,32及びファイナルギヤ37等を介して出力軸36に接続されたものと考えることができる。
そして、上記の1速から2速への変速は、図5に示す2速変速機において、今締結しているクラッチ33を開放しつつ、今開放されているクラッチ34を締結するような変速制御を行なう(これを、「クラッチの掛け替え」と呼ぶ)ことに相当するものと考える。
このような制御系を用いて、変速(シフト)を行なう場合、クラッチの掛け替え(掛け替えフェーズ)の後或いは前に、変速に伴う回転変化によって生じるイナーシャトルクを補正(この場合、吸収)すること(イナーシャフェーズ)が必要になる。
[各実施形態に共通するイナーシャトルク補正の考え方]
(アップシフト時のイナーシャフェーズ)
ここで、アップシフトを行なう際に、回転変化によって生じるイナーシャトルクの吸収方法について図6〜図8を参照して考察する。なお、図6〜図8は、アップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートであり、実線で示す入力軸トルクには、締結状態から開放される開放側クラッチ及び開放状態から締結される締結側クラッチの各クラッチ容量(伝達トルク量)を破線及び一点鎖線で併記し、実線で示す入力軸回転には、開放側クラッチ及び締結側クラッチの各回転状態を破線及び一点鎖線で併記する。なお、図6〜図8はいずれも掛け替えフェーズの途中から示している。
アップシフト時には、一般には、掛け替えフェーズ後にイナーシャフェーズを行なうことになる。イナーシャフェーズにおいて外部駆動装置としての原動機(エンジン)のトルクダウン制御を行わない場合を想定すると、図6に示すように、イナーシャフェーズでは、締結側クラッチの容量を入力軸トルクよりも過剰にすると、入力軸回転は、この過剰なトルク分に比例した変化速度で変化し、この変化速度に比例してイナーシャ分のトルクが放出されるため、出力軸にはこのイナーシャ分トルクが乗ることになる。この結果、出力トルクがステップ状(階段状)に増加することになって、出力ショックを起こし、自動車にあっては乗り心地の低下を招いてしまう。
これに対して、イナーシャフェーズにおいて原動機のトルクダウン制御を行なう場合、図7に示すように、入力軸回転を変化させるために加えた締結側クラッチ容量の過剰分と丁度同じだけ、入力軸トルクを減らせば、生じるイナーシャトルクが原動機のトルクダウン分と相殺し、出力軸にはイナーシャ分トルクが乗らなくなって、出力ショックを回避できる。
しかしながら、原動機のトルクダウン制御では、アップシフト時に生じる原動機のイナーシャトルクを相殺できない場合もある。つまり、図8に示すように、イナーシャフェーズにトルクダウン制御を行なおうとしても、イナーシャトルクを相殺できるだけのトルクダウン量が得られない場合である。このような状況は、例えば、アクセルがあまり踏み込まれていないか、完全に戻されている状況下でのアップシフト時にあたり、このような場合には、そもそも原動機がトルクを出していないのであるから、通常、トルクダウンを十分に実現することが出来ない。
このようなとき、原動機のトルクダウン量不足分だけ、イナーシャトルクを相殺することが出来ず、この結果、出力軸にその不足分だけイナーシャ分トルクが乗ることになってしまう。
そこで、本実施形態に係る変速制御では、原動機のトルクダウンのみに頼るのではなく、クラッチを制御することによりクラッチも利用してイナーシャトルクを相殺するようにしている。
ここで、本実施形態に係るクラッチを用いたイナーシャトルクの補正について説明する。
(各クラッチトルクの入力軸トルク,入力軸回転への影響)
図9はクラッチの伝達トルク(クラッチトルク)Tcとクラッチへの入力軸回転ω1,クラッチの出力軸回転ω2との関係を説明するための図であり、クラッチトルクTcと入力軸回転ω1と出力軸回転ω2とは以下の関係式(B)で表すことができる。
Tc=C*sign(ω1−ω2) ・・・(B)
ただし、C:クラッチの締結容量(=摩擦係数×押さえつけ力)
sign:符号演算子
このような式(B)から、クラッチの入出力の回転方向に応じて、クラッチの締結容量により生じるトルクの符号が変化することが分かる。
図10は、式(B)を図5に示す2速変速機に当てはめた場合の、クラッチ回転数と入力軸回転数の大小関係による入力軸に生じるトルクの関係の変化を示す図である。この図10では、クラッチ1,2の出力側回転数ωc1,ωc2と、黒丸で示した入力軸回転数ωinの大小関係と、その際、入力軸イナーシャに対して掛かる入力軸トルクTinと、クラッチ締結容量から生じるクラッチ1,2のクラッチトルクTc1,Tc2との関係を示している。
図10に示す状態1のように、入力軸回転がクラッチ1,2の出力側回転よりも大きい場合には、クラッチ1,2のクラッチトルクTc1,Tc2は、ともに入力軸トルクを相殺し、入力軸回転を減少させるように働く。つまり、アップシフト時には、クラッチ1,2をそれぞれ単に滑り係合させるだけで、クラッチ1,2を通じて回転変化に伴うイナーシャトルクを相殺することができる。
また、図10に示す状態2のように、入力軸回転がクラッチ1の出力側回転よりも小さく、かつ、クラッチ2の出力側回転よりも大きい場合には、クラッチ1のクラッチトルクTc1は入力軸トルクと同方向に働き、入力軸回転を増加させるように働くが、クラッチ2のクラッチトルクTc2は入力軸トルクを相殺し、入力軸回転を減少させるように働く。したがって、クラッチ1,2をそれぞれ単に滑り係合させただけでは、クラッチ1,2を通じて回転変化に伴うイナーシャトルクを相殺することはできない。
また、図10に示す状態3のように、入力軸回転がクラッチ1,2の出力側回転よりも小さい場合には、クラッチ1,2のクラッチトルクTc1,Tc2は、ともに入力軸トルクと同方向に働き、入力軸回転を増加させるように働く。したがって、この場合のアップシフト時には、クラッチ1,2を通じて回転変化に伴うイナーシャトルクを相殺することはできない。
ここで、状態2において、2つのクラッチのトルクをバランスさせ、かつ、出力軸にトルク変動の起きないように回転変化に伴うイナーシャトルクを相殺できるクラッチ容量の配分の仕方を考える。
(オートアップシフト時のクラッチ容量の配分)
図5に示す2速変速機に関して、入力軸周りのトルクと回転の関係式として式(1)が成立し、出力軸周りのトルクと回転の関係式として式(2)が成立する。
Figure 0004278665
また、式(A)の関係を図5の2つのクラッチに当てはめると、式(3)が成立する。
Figure 0004278665
ここでは、アップシフト時であり、クラッチ1を開放側、クラッチ2を締結側とおき、クラッチ1の出力側回転とクラッチ1の入力軸回転とクラッチ2の出力側回転との大小関係が、クラッチ1の出力側回転>クラッチ1の入力軸回転>クラッチ2の出力側回転、である場合を前提とすると、クラッチトルクとクラッチトルク容量の関係式として、式(4)が成立する。
Figure 0004278665
ここで、車速の上昇に伴うアップシフトであるオートアップシフトの場合について考える。オートアップシフトでは、開放側クラッチの開放に伴い生じる自発的回転変化と、変速によって実現する回転変化の方向が逆であるので、まず掛け替えを行い、続いて、イナーシャフェーズを主に締結側クラッチで制御する。また、入力軸トルクは通常正である。
このような前提から、イナーシャフェーズ開始直前のトルク容量として、式(5)を仮定すると、変速開始後、クラッチ1にイナーシャトルク補正量△C1を、クラッチ2にイナーシャトルク補正量△C2を加えた場合の関係式は次式(6)式で表される。
Figure 0004278665
ここで、式(6)を式(1)に代入すると、式(7)が得られ、さらに、Tin>0を前提として、Tin=|Tin|を式(7)に代入すると、式(8)が得られる。
Figure 0004278665
同様に、式(6)を式(2)に代入すると、式(9)が得られ、これから変速の前後で出力軸への出力トルクTo、出力回転速度ωoを変化させないための条件式として、式(10)が必要となり、これより、イナーシャトルク補正量△C1,△C2の関係式として、式(11)が得られる。
Figure 0004278665
ここで、式(8)を式(11)に代入すると、式(12)となり、結果、式(11)と式(12)とから求めた△C1,△C2とイナーシャトルクの関係式は式(13)となることが分かる。
Figure 0004278665
(足離しアップシフト時のクラッチ容量の配分)
続いて、アクセルペダルを踏み込んで踏み込みダウンシフトの後、アクセルペダルからの足離しによるアップシフトについて考える。この足離しアップシフトでは、開放側クラッチの開放に伴い生じる自発的回転変化と、変速によって実現する回転変化の方向が同方向であるので、まずイナーシャフェーズを主に開放側クラッチで制御する。また、入力軸トルクは通常負である。
以上の前提から、イナーシャフェーズ開始直前のトルク容量として、式(14)を仮定すると、変速開始後、両クラッチにイナーシャトルク補正量△C1,△C2を加えた場合の関係式は式(15)で表される。
Figure 0004278665
ここで、式(15)を式(1)に代入すると、式(16)が得られ、Tin<0を前提として、Tin=−|Tin|を式(16)に代入すると、式(17)が得られる。
Figure 0004278665
Figure 0004278665
この式(17)は、式(8)と同じであり、上記と同様に、式(9)以下の計算も同じになる。したがって、オートアップシフトと足離しアップシフトでのイナーシャトルクをクラッチで吸収する際の両クラッチのイナーシャトルク補正量△C1,△C2とイナーシャトルクとの関係式は、式(13)で同様に与えられることが分かる。
(トルクダウン要求容量の演算手法)
以上の計算結果[特に、式(13)]を用いて、クラッチヘの要求トルクダウン量から、クラッチ1に対するトルクダウン要求容量(イナーシャトルク補正量)△C1、及び、クラッチ2に対するトルクダウン要求容量(イナーシャトルク補正量)△C2を求めて、これに基づいてクラッチ1,2へのイナーシャトルク補正量の配分を行なうようにすることができる。
そこで、各実施形態に係る変速制御装置は、図1に示すように、変速時の回転変動に伴うイナーシャトルクの補正(吸収又は放出)を、外部駆動装置としての原動機(エンジン)2と、クラッチ1,2のうちの何れかと、に配分する制御手段(イナーシャトルク配分手段)1をそなえて構成される。なお、イナーシャトルク配分手段1は、ECU内の機能要素として備えられる。
なお、式(13)からわかるように、各クラッチへのトルクダウン要求容量は、入力軸イナーシャにかかるトルク(Iin・ωin)に、各クラッチの締結で実現する変速比r1,r2を用いたゲイン(係数)を乗算しており、この係数の分母は、変速前変速比r1と変速後変速比r2との差分となっている。したがって、この差分が大きいと、ゲインが大きくなり、トルクダウン要求容量の値は過大に成りがちとなる。有段変速機の場合、1速から2速に、或いは、2速から3速にシフトアップするなど、比較的低速段でのシフトアップの場合、上記の差分は大きく、トルクダウン要求容量の値は過大にならないが、比較的高速段でのシフトアップの場合、上記の差分は小さいため、各クラッチへのトルクダウン要求容量の値は過大に成りがちとなる。
各クラッチにトルクダウン要求をするのは、各クラッチを同時係合すること(即ち、両掴みすること)により変速に伴うイナーシャトルクを補正(ここでは、吸収)するためであり、換言すれば、両クラッチをインターロック傾向にすることで回転エネルギを両クラッチに生じる摩擦エネルギに変換しながら、イナーシャトルクを吸収するものである。したがって、各クラッチへの要求トルクダウン量(トルクダウン要求容量)の値はできるだけ抑えたい。このような観点から、各クラッチへの要求トルクダウン量の値は過大に成らないようにしたい。
また、今想定している状況は、原動機の出力トルクが小さい場合であるため、車速が高速になるほど、イナーシャトルク補正の原動機への負担をできるだけ軽減したい。この点からは、車速が高速になるほど、各クラッチへの要求トルクダウン量の値が大になることを許容し、低車速時には、各クラッチへの要求トルクダウン量の値を抑えるというロジックも付加する。
[第1実施形態]
以下、図11〜図15を用いて、本発明の変速制御であるクラッチを用いたイナーシャトルクの補正にかかる第1実施形態を説明する。
(構成)
図11は、クラッチ1,2に対する要求トルクダウン量を求めるためのイナーシャトルク配分手段1内の演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。
図11に示すように、まず、演算部01で変速前変速比r1と変速後変速比r2との差分(r2−r1)を算出する。次に、演算部02で変速前変速比r1を差分(r2−r1)で除してクラッチ2のゲインを算出し、演算部03で変速前変速比r2を差分(r2−r1)で除してクラッチ1のゲインを算出する。一方、演算部04では、クラッチへの要求トルクダウン量に対して反映率を乗算して要求トルクダウン量を抑える。この反映率は、車速及び変速段に応じて設定され、車速に対しては、低速域では反映率を0、中速域で反映率を立ち上げ、速度増加に応じて反映率を増加させ、高速域では反映率を最大値1とする。このようなマップは、各変速段ごとに設けられ、変速段が高くなるほど、反映率の設定線は高速側にシフトする。これにより、要求トルクダウン量自体が、低速時ほど低く或いは0に抑えられ、また、変速段が高くなるほど低く或いは0に抑えられる。
演算部05では、反映率を乗算されて適宜抑えられた要求トルクダウン量に対して演算部02で算出されたゲインを乗算して、クラッチ2に対するトルクダウン要求容量を求める。同様に、演算部06では、反映率を乗算されて適宜抑えられた要求トルクダウン量に対して演算部03で算出されたゲインを乗算して、クラッチ1に対するトルクダウン要求容量を求める。これにより、各クラッチに対する要求トルクダウン量が、低速時ほど低く或いは0に抑えられ、また、変速段が高くなる低く或いは0に抑えられる。
このように、反映率を用いて各クラッチに対する要求トルクダウン量を抑えることにより、車速に応じて、原動機と各クラッチとへ要求トルクダウン量の分担をバランスさせながら、各クラッチへの要求トルクダウン量の値が過大にならないようにすることができる。
上記の要求トルクダウン量は、イナーシャトルク補正量に対するクラッチ配分量として求めることができる。
図12は、イナーシャトルク補正量に対して、原動機とクラッチとに配分する演算を行なうためのイナーシャトルク配分手段1内の演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。図12に示すように、一般に、原動機にはトルクダウン量に対する上限規制があるので、そのときの原動機回転数、出力トルク、燃焼モード(希薄燃焼モード,理論空燃比燃焼モード等)、運転気筒数、点火時期、水温、原動機に付属する補機の作動状態等のパラメータに基づき、原動機が停止しない範囲での可能なトルクダウン量を算出し、比較部07により、原動機で可能なトルクダウン量とイナーシャトルク補正量とを比較し、少ない方を原動機への要求トルクダウン量とし、この原動機への要求トルクダウン量とイナーシャトルク補正量との差分を演算部08により算出し、この差分をクラッチヘの要求トルクダウン量とする。ただし、クラッチは0以下の容量を作れないので、クラッチヘの要求トルクダウン量の下限を0で制限する。
したがって、図11,図12に示すような手順で、各クラッチに対する要求トルクダウン量が求められる。
図13は、各クラッチに必要なトルク容量を算出するためのイナーシャトルク配分手段1内の演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。図13に示すように、各要求トルクダウン量を、変速制御で必要とされる各クラッチの変速時容量に加算すれば、各クラッチに必要なトルク容量を算出できる。そして、算出した各クラッチのトルク容量に対応したクラッチ係合油圧を各クラッチに与えることで、各クラッチの係合状態が制御されることになる。
なお、ここでは、各クラッチの変速時容量を、入力軸回転速度が線形に減少するように与えている。換言すると、クラッチ1の出力回転ωc1とクラッチ2の出力回転ωc2との間の差回転(ωc1−ωc2)に着目すれば、この差回転が線形に増加するように、各クラッチの変速時容量を与えている。
ただし、クラッチ1の出力側回転速度ωc1と入力軸回転速度ωinとクラッチ2の出力側回転速度ωc2との間に、ωc1>ωin>ωc2の大小関係が成り立つときのみ反映されるようにしている。つまり、比較部010でクラッチ1の出力側回転速度ωc1が入力軸回転速度ωinよりも高いとされ、比較部011で入力軸回転速度ωinがクラッチ2の出力側回転速度ωc2よりも高いとされると、判定部012においてこれが判定されたときのみ、加算許可スイッチ013,014を通じて、クラッチ1への要求トルクダウン量の加算(加算部015)及びクラッチ2への要求トルクダウン量の加算(加算部016)を許可する。
(作用,効果)
このような本実施形態の制御装置をアップシフト時に適用した場合、図14〜図16のタイムチャートに示すようにイナーシャトルクの補正が行なわれる。なお、図14〜図16は、図6〜図8と同様に、アップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートであり、実線で示す入力軸トルクには、締結状態から開放される開放側クラッチ及び開放状態から締結される締結側クラッチの各クラッチ容量(伝達トルク量)を破線及び一点鎖線で併記し、実線で示す入力軸回転には、開放側クラッチ及び締結側クラッチの各回転状態を破線及び一点鎖線で併記する。また、図14〜図16においても、図6〜図8と同様に、いずれも掛け替えフェーズの途中から示している。
(オートアップシフト時に適用した場合の作用,効果)
図14はオートアップシフトに対して、本実施形態を適用した場合のタイムチャートである。図14に示すように、イナーシャフェーズに入ってイナーシャトルクの補正(相殺)が要求されるようになる。原動機のトルクダウン量がトルクダウン量上限に制限されて、原動機のトルクダウン量ではイナーシャトルクの一部しか相殺できず、イナーシャトルクの相殺が不足(原動機で補償できない分)する場合でも、この不足分にあわせてクラッチ1(開放側クラッチ)及びクラッチ2(係合側クラッチ)を両掴みすることで、イナーシャトルクを相殺することができる。これにより、出力軸にはイナーシャ分トルクが乗らなくなって、出力ショックを回避できる。
ただし、クラッチ1の出力側回転速度ωc1が入力軸回転速度ωinよりも小さくなる(ωc1<ωin)までは、クラッチによる補正が出来ないので、この期間には、不足分が突き出すこととなる。
(足離しアップシフト時に適用した場合の作用,効果)
図15は足離しアップシフトに対して、本実施形態を適用した場合のタイムチャートである。図15に示すように、足離しアップでは、通常原動機のトルクは最小限になっているので、これ以上のトルクダウンの余地はなく、また、原動機トルクが負の場合には、むしろトルクアップが必要となり、この場合、例えば、燃料カットを中断しなければならなくなるなど、他の性能への影響が考えられる。
そこで、オートアップの場合と同様に、不足分にあわせてクラッチ1,2の容量を制御することで、回転変化に伴うイナーシャトルク全てを、クラッチ1,2を両掴みすることで相殺することができる。
ただし、クラッチ2の出力側回転速度ωc2が入力軸回転速度ωinよりも大きくなった(ωc2>ωin)後は、クラッチによる補正が出来ないので、この期間には、不足分が突き出すこととなる。
[第2実施形態]
以下、図16〜図21を用いて、本発明の変速制御であるクラッチを用いたイナーシャトルクの補正にかかる第2実施形態を説明する。
第1実施形態では、クラッチ1の出力側回転>クラッチ1の入力軸回転>クラッチ2の出力側回転の大小関係が成り立たない領域において、イナーシャトルク補正の不足分が出力トルクとして突き出す課題が残るが、第2実施形態では、この点を解決するようにしている。つまり、本実施形態では、入力軸回転を、図14,図15に示す第1実施形態のような直線的な回転変化ではなく、図19,図20に示すように、回転変化の始まりと終わりに変化速度を小さくするような動特性をもった曲線的な回転変化を実現する手法を第1実施形態のものに組み合わせたものとなっている。
このため、本実施形態では、イナーシャフェーズにおいて、入力軸回転速度が曲線状に減少するような目標値(図19,図20に示す細線の破線を参照)を設定し、入力軸回転速度がこの目標値に沿って減少するように各クラッチの変速時容量を設定すると共に、クラッチによるイナーシャトルク補正量が曲線状に減少するような目標値(図19,図20に示す細線の破線を参照)を設定し、クラッチのイナーシャトルク補正量を設定し、このように設定された各クラッチの変速時容量とイナーシャトルク補正量とを加算したクラッチ容量を各クラッチに与える。
なお、入力軸回転速度の目標値は、クラッチ1,2の入出力間の差回に着目すれば、目標差回転とすることができる。したがって、クラッチ1の入出力間の差回転(出力回転速度−入力回転速度)に着目すれば、この差回転が曲線状に増加するように、クラッチ2の入出力間の差回転(入力回転速度−出力回転速度)に着目すれば、この差回転が曲線状に減少するように、各クラッチの変速時容量を与えることになる。
(構成)
図16〜図18は、いずれも動特性をもった入力軸目標回転(又は、クラッチ1,2の各出力回転の目標差回転)を生成するためのイナーシャトルク配分手段1内の演算機能の構成及び演算手順の3つの例を示すブロック図である。
図16に示す構成では、演算部017で、クラッチ1,2の各出力回転ωc1,ωc2の差回転(ωc1−ωc2)を算出し、出力規制部(スイッチ)018により、イナーシャフェーズ開始信号が入るまで、0を目標差回転動特性として与え(つまり、「差回転制御なし」とする)、イナーシャフェーズ開始信号入力後には、目標差回転動特性付与部019において、クラッチ1の出力側回転とクラッチ2の出力側回転との差分(ωc1−ωc2)に目標差回転動特性を与える。これと共に、イナーシャフェーズ開始信号入力後には、目標変速速度動特性付与部020において、上記差分(ωc1−ωc2)に目標変速速度動特性を与える。
目標差回転動特性付与部019では、上記差分に対して、クラッチ2の入出力間の差回転(或いは入力軸回転速度)が曲線状に減少するように、動特性を持った目標差回転設定量を制御周期ごとに変更しながら与えて、演算部021で、上記差分からこの目標差回転設定量を減算して目標差回転を得ている。より具体的には、目標差回転動特性付与部019では、一定の制御周期で変更する目標差回転の変化分(ここでは、増分)を制御開始時には微小値として、その後、制御の前半では目標差回転の増分を次第に増加させ、制御の後半では目標差回転の増分を次第に減少させるように動特性を持って目標差回転を与える。
また、目標変速速度動特性付与部020では、目標差回転動特性(目標差回転の変化分)の微分で与えられる目標変速速度動特性から目標変速速度を得ることで、目標差回転の変化速度を動特性付きで得ることができるので、演算部022で、これに対してイナーシャ係数を掛ける事で、イナーシャトルク補正量が得られる。
図17に示す構成では、差回転を、変速前変速比と変速後変速比と出力軸回転から得るものである。つまり、演算部023で、変速前変速比r1と出力軸回転ωoutとを乗算してクラッチ1の出力側回転ωc1を得て、演算部024で、変速後変速比r2と出力軸回転ωoutとを乗算してクラッチ2の出力側回転ωc2を得ており、他は図16と同様である。
図18に示す構成では、イナーシャフェーズ開始信号入力時の入力軸回転ωinを記憶しておき、差回転を、記憶している入力軸回転の値(これが、クラッチ1の出力側回転ωc1に相当する)ωinと、クラッチ2の出力側回転ωc2との差から求めており、他は図16と同様である。
(作用,効果)
このような本実施形態の制御装置をアップシフト時に適用した場合、図19,図20のタイムチャートに示すようにイナーシャトルクの補正が行なわれる。なお、図19,図20、図6〜図8,図14〜図16はと同様に、アップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートであり、実線で示す入力軸トルクには、締結状態から開放される開放側クラッチ及び開放状態から締結される締結側クラッチの各クラッチ容量(伝達トルク量)を破線及び一点鎖線で併記し、実線で示す入力軸回転には、開放側クラッチ及び締結側クラッチの各回転状態を破線及び一点鎖線で併記する。また、図19,図20においても、図6〜図8,図14〜図16と同様に、いずれも掛け替えフェーズの途中から示している。
(オートアップシフト時に適用した場合の作用,効果)
図19は、オートアップシフトにおいて、本実施形態の動特性付きの目標値を用いた制御を適用したものを示し、変速速度はほぼ0から始めることにより、クラッチ1の出力側回転速度<入力軸回転となるまでのクラッチによる補正が出来ない領域でも、突き出しを無くすことができる。
(足離しアップシフト時に適用した場合の作用,効果)
図20は、足離しアップシフトにおいて、本実施形態の動特性付きの目標値を用いた制御を適用したものを示し、変速速度はほぼ0で終了することにより、クラッチ2の出力側回転<クラッチ2の入力軸回転のクラッチによる補正が出来ない領域でも、突き出しを減らすことができる。
このように動特性(変速時の目標回転軌跡)を用いることで、制御の切り替えを必要しないロジック構成とでき、また、解放/締結のタイミングを完全に同期することができる。
また、変速前後の回転速度変化から、目標回転軌跡を求めるための第1の動特性に対して、微分演算を予め行なった第2の動特性を求めておき、この第2の動特性と、上記変速前後の回転速度変化とから、目標変速速度を求めることにより、差分演算を用いることなく、微分を得ることができるので、ノイズ等による計算結果の急変が起こらず、安定したイナーシャトルクの演算が行える。
[その他]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
例えば、図12のイナーシャトルク補正量配分演算にかかる機能構成については、図21に示すようにしてもよい。図21に示すものは、実施形態のものに対して、以下2点の相違がある。
1点目は、原動機が可能なトルクダウン量に対して、配分比を与えるようにしており、これにより、原動機が可能なトルクダウン量が少なく、効果の少ない領域ではクラッチを主に、原動機が可能なトルクダウン量が多く、効果が十分に見込めるところでは、原動機を主にして、トルクダウンを行うことができる。このとき、最大配分を1より小さくすることにより、常に両方に配分するように設定することもできる。
2点目は、原動機への要求トルクダウン量に、クラッチの油圧系の遅れ補正を入れ、クラッチヘの要求トルクダウン量に、原動機のトルク応答遅れ補正を入れており、これにより、原動機及びクラッチの両方の変化のタイミングを合わせることができるようになる。
また、上記の実施形態の説明では、図5の簡略化した2速変速機の構成を前提に本発明にかかる配分制御を説明しているが、本発明は種々の変速機に適用することができ、例えば、図2の4速自動変速機のような構成においても、上記説明の入力軸回転を各クラッチの入力側回転に置き換え、かつ、トルク容量に対して、自動変速機の構成から与えられる各クラッチのトルク分担率に対して補正を行なうことで、同様の制御が実施できる。
本発明の各実施形態にかかる変速制御装置の要部構成図である。 本発明の各実施形態にかかる自動変速機の要部構成例を説明する模式図である。 図2の自動変速機の変速を説明する模式図である。 図2の自動変速機の変速を説明する模式図である。 本発明の各実施形態にかかる自動変速機の掛け替え制御にかかる自動変速機の基本構成を簡略化して示す模式図である。 本発明の各実施形態にかかるアップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートである。 本発明の各実施形態にかかるアップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートである。 本発明の各実施形態にかかるアップシフト時における変速機の入力軸トルク,入力軸回転(入力軸の回転速度),及び出力軸トルクを示すタイムチャートである。 本発明の各実施形態にかかるクラッチの伝達トルクとクラッチへの入で力軸回転との関係を説明するための図である。 本発明の各実施形態にかかるクラッチ回転数と入力軸回転数の大小関係による入力軸に生じるトルクの関係の変化を示す図である。 本発明の第1実施形態における、クラッチに対する要求トルクダウン量を求める演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第1実施形態における、原動機とクラッチとに配分する演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第1実施形態における、各クラッチに必要なトルク容量を算出する演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第1実施形態にかかるアップシフト時の制御を説明するタイムチャートである。 本発明の第1実施形態にかかるアップシフト時の制御を説明するタイムチャートである。 本発明の第2実施形態にかかる動特性をもった目標差回転を生成する演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第2実施形態にかかる動特性をもった目標差回転を生成する演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第2実施形態にかかる動特性をもった目標差回転を生成する演算機能の構成及び演算手順を示すブロック図である。 本発明の第2実施形態にかかるアップシフト時の制御を説明するタイムチャートである。 本発明の第2実施形態にかかるアップシフト時の制御を説明するタイムチャートである。 図12に示す演算機能の構成及び演算手順の変形例を示すブロック図である。 従来技術を説明するタイムチャートである。
符号の説明
1 制御手段(イナーシャトルク配分手段)
2 外部駆動装置としての原動機(エンジン)
11 入力軸
12 出力軸
13 ケーシング
21,22 プラネタリギヤ
23 ブレーキ(クラッチC)
24 クラッチ(クラッチD)
25 クラッチ(クラッチE)
26 ブレーキ(クラッチA)
27 クラッチ(クラッチB)
31,32 ギヤ列
33,34 クラッチ
35 入力軸
36 出力軸
37 ファイナルギヤ

Claims (17)

  1. 複数の摩擦係合要素の何れかを係合させて外部駆動装置から入力された回転を適宜変速して出力する自動変速機の変速制御を行なう変速制御装置において、
    上記複数の摩擦係合要素のうち、変速時に係合から開放に切り替える第1の摩擦係合要素と上記の変速時に開放から係合に切り替える第2の摩擦係合要素とのクラッチ容量を制御する制御手段と、
    変速時の回転変動に伴うイナーシャトルクの補正を、上記外部駆動装置のトルク変更によるものと、上記の第1及び第2の摩擦係合要素の係合によるものと、に配分するイナーシャトルク配分手段と、
    所定の回転部材の変速前後の回転速度差と第1の動特性とに基づいて、該所定の回転部材の目標回転軌跡に沿って回転変化するのに必要なクラッチ容量を算出するクラッチ容量算出手段と、をそなえ
    上記イナーシャトルク配分手段は、変速の前半では次第に増加するか又は変速の後半では次第に減少するように設定された上記第1の動特性に対して、微分演算を予め行なった第2の動特性を求めておき、この第2の動特性と、上記変速前後の回転速度変化とから、目標変速速度を求め、該目標変速速度から変速に要する上記イナーシャトルクの補正量を求め、該イナーシャトルクの補正量に応じて上記の第1の摩擦係合要素及び第2の摩擦係合要素に要求するクラッチ容量を算出し、
    上記制御手段は、上記クラッチ容量算出手段により算出されたクラッチ容量と、上記イナーシャトルク配分手段により算出されたクラッチ容量とを加算したクラッチ容量を、上記の第1の摩擦係合要素及び第2の摩擦係合要素のクラッチ容量としている
    ことを特徴とする、自動変速機の変速制御装置。
  2. 上記イナーシャトルク配分手段は、アップシフト時に、補正すべき上記イナーシャトルクと上記外部駆動装置が可能なトルクダウン量とを比較して、上記外部駆動装置により可能な最大トルクダウン量で吸収補正できない吸収不足のトルク分を、上記第1の摩擦係合要素と上記第2の摩擦係合要素との同時係合により吸収補正させる
    ことを特徴とする、請求項1記載の自動変速機の変速制御装置。
  3. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記第1の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r1と上記第2の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r2とに応じて上記の第1及び第2の摩擦係合要素へのトルク配分を行なう
    ことを特徴とする、請求項2記載の自動変速機の変速制御装置。
  4. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記イナーシャトルクの補正量Iinωinに対して、上記第1の摩擦係合要素の分担トルクΔC1,及び上記第2の摩擦係合要素の分担トルクΔC2を、上記第1の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r1と上記第2の摩擦係合要素を締結した場合に実現する変速比r2とを用いて、次式(A)により算出する
    ことを特徴とする、請求項3記載の自動変速機の変速制御装置。
    Figure 0004278665
  5. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0でない限り、上記外部駆動装置と上記の第1及び第2の摩擦係合要素とに対して、何れかが一方的に負担しないように所定の固定配分比に制限して、上記配分を行なう
    ことを特徴とする、請求項2〜4の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  6. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0のとき、上記固定配分比から、上記外部駆動装置への配分が時間経過とともに0になるように配分比に時間傾斜を設けて配分を行なう
    ことを特徴とする、請求項5記載の自動変速機の変速制御装置。
  7. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が0よりも大きく所定値以下のとき、上記固定配分比で配分を行なう
    ことを特徴とする、請求項5記載の自動変速機の変速制御装置。
  8. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量が所定値以上のとき、上記固定配分比で配分を行なう配分状態から、上記の第1及び第2の摩擦係合要素への配分が0に漸減するように、配分比に時間傾斜を設けて配分を行なう
    ことを特徴とする、請求項5記載の自動変速機の変速制御装置。
  9. 上記イナーシャトルク配分手段は、ダウンシフト時には、補正すべき上記イナーシャトルクを上記外部駆動装置に負担させる
    ことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  10. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記外部駆動装置により可能なトルクダウン量で補正できない不足トルク分を、上記の第1及び第2の摩擦係合要素に配分する際に、上記外部駆動装置の応答遅れと上記の第1及び第2の摩擦係合要素の応答遅れとを考慮して上記外部駆動装置と上記の第1及び第2の摩擦係合要素とに配分指令を行なう
    ことを特徴とする、請求項2〜9の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  11. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記の第1の摩擦係合要素と第2の摩擦係合要素との同時係合による上記イナーシャトルクの補正を、入力軸回転が変速前回転と変速後回転との間にあるときに限定して行なう
    ことを特徴とする、請求項2〜10の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  12. 上記イナーシャトルク配分手段は、上記式(A)により算出した上記第1の摩擦係合要素の分担トルクΔC1及び上記第2の摩擦係合要素の分担トルクΔC2に対して、これを実際に分担させる際の反映率を設けて、該反映率を上記分担トルクΔC1,ΔC2に乗算することで上記の両摩擦係合要素の分担トルクの総量を制限する
    ことを特徴とする、請求項4記載の自動変速機の変速制御装置。
  13. 上記反映率は、車速に応じて増減される
    ことを特徴とする、請求項12記載の自動変速機の変速制御装置
  14. 上記自動変速機が有段変速機であって、
    上記イナーシャトルク配分手段は、変速前に締結している摩擦係合要素の回転速度と、変速後に締結する摩擦係合要素の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求める
    ことを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  15. 上記自動変速機が有段変速機であって、
    上記イナーシャトルク配分手段は、変速による入力回転変化制御開始時の入力回転速度を記憶しておき、該記憶値と、変速後に締結する摩擦係合要素の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求める
    ことを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  16. 上記自動変速機が有段変速機であって、
    上記イナーシャトルク配分手段は、変速前に設定している変速比と出力軸回転速度とから求めた第1の回転速度と、変速後に設定している変速比と出力軸回速度とから求めた第2の回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求める
    ことを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置。
  17. 上記自動変速機が無段変速機であって、
    上記イナーシャトルク配分手段は、変速による入力回転速度変化制御開始時の入力回転速度を記憶しておき、該記憶値と、変速後に設定している変速比と出力軸回転速度とから求めた回転速度との差を、変速前後の回転速度差として、上記の第2の動特性に与えて、目標変速速度を求める
    ことを特徴とする、請求項1〜13の何れか1項に記載の自動変速機の変速制御装置
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