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JP4100228B2 - 炭化珪素単結晶とその製造方法 - Google Patents

炭化珪素単結晶とその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特に光デバイスおよび電子デバイスの基板材料として好適な炭化珪素(SiC)の良質な大型(バルク)単結晶を製造する方法に関し、特に操業上好ましい2000℃以下の温度でそのような炭化珪素単結晶を安定して製造し得る方法に関する。本発明はまた、こうして製造された良質な炭化珪素バルク単結晶にも関する。
【0002】
【従来の技術】
炭化珪素(SiC)は、熱的および化学的に安定な化合物半導体の1種であり、シリコン(Si)に比べて、バンドギャップが約3倍、絶縁破壊電圧が約10倍、電子飽和速度が約2倍、熱伝導率が約3倍大きいという特徴を有する。このような優れた特徴から、炭化珪素は、Siデバイスの物理的な限界を打破するパワーデバイスや、高温で動作する耐環境デバイスといった電子デバイスの基板材料としての応用が期待されている。
【0003】
一方、光デバイスにおいては、短波長化を目指した窒化ガリウム(GaN)系材料の開発が行われている。炭化珪素はGaNに対する格子不整合が他の化合物半導体に比べて格段に小さいので、GaN層のエピタキシャル成長用の基板材料として注目されている。
【0004】
炭化珪素には、原子の積層様式がc軸方向において異なる非常に多くの結晶多型 (ポリタイプ) が存在することはよく知られている。代表的なポリタイプは3C、6H、4H、15Rである。ここで、記号Cは立方晶、Hは六方晶、Rは菱面体構造を意味し、記号の前の数字は1周期の積層分子数を意味する。従って、3Cは3分子の積層を1周期とする立方晶を、4Hおよび6Hは、それぞれ4分子および6分子の積層を1周期とする六方晶を、15Rは15分子の積層を1周期とする菱面体構造を意味する。
【0005】
炭化珪素を電子または光デバイスに応用するには、欠陥がないか、非常に少ない良質の炭化珪素バルク単結晶が必要となる。後述する昇華法(一般的なSiC単結晶の製造方法)では、SiC単結晶の成長時に多型転移により他の結晶形が混入しやすい。それにより、マイクロパイプや積層欠陥といった格子欠陥が発生する。マイクロパイプとは、直径約2μm以上の中空貫通欠陥であり、結晶転移のバーガース・ベクトル(Burgers vector)が大きく、転移芯が中空状になったものである。積層欠陥は結晶転移による積層の乱れである。特にマイクロパイプは致命的な欠陥であるため、マイクロパイプ欠陥のある部分は基板として使用できない。
【0006】
従来より知られている炭化珪素単結晶の製造方法として、気相成長法に属する昇華法および化学気相成長(CVD)法、アチソン法、ならびに液相成長法(液相エピタキシャル[LPE]法とも呼ばれる)に属する溶液成長法が挙げられる。
【0007】
昇華法では、原料の炭化珪素粉末を2200〜2500℃の高温で昇華させ、低温部に配置した炭化珪素単結晶からなる種結晶基板上に炭化珪素を析出させる。CVD法では、原料としてシランガスと炭化水素系ガスとを用い、加熱したSiなどの基板上に気相化学反応により炭化珪素単結晶をエピタキシャル成長させる。
【0008】
アチソン法は、炭素電極の周囲に無水珪酸と炭素を詰めて通電することにより2500〜2700℃の高温に加熱して炭化珪素を製造する方法であり、人造研磨剤用の炭化珪素結晶の工業生産に古くから利用されてきた。炭化珪素単結晶は副産物として生成する。
【0009】
溶液成長法は、黒鉛坩堝中でSiまたはSi含有合金を融解し、その融液中に黒鉛坩堝から炭素を溶解させ、低温部に設置した種結晶基板上に炭化珪素単結晶層を液相析出によって成長させる方法である。Si含有合金を用いる溶液成長法として、溶融CrにCとSiとを溶かし込んだ溶液から同様に炭化珪素単結晶を成長させる方法もある。
【0010】
昇華法で成長させた炭化珪素単結晶は、マイクロパイプ欠陥や積層欠陥などの格子欠陥を多く含んでいる。昇華法では、昇華ガス中にSiCガスが存在せず、炭化珪素粉末から気化したSi、SiC、SiCと、黒鉛治具から気化したCとが存在する。昇華法で多数の格子欠陥が生じるのは、これらの各種のガス分圧を化学量論的に制御することが極めて困難である上、複雑な反応が関与することに起因する。
【0011】
しかし、後述するように、他の方法では炭化珪素バルク単結晶を安定して十分な成長速度で製造できないため、炭化珪素バルク単結晶の多くが昇華法により製造されてきた。昇華法では、製造された炭化珪素バルク単結晶が多数のマイクロパイプ欠陥を含んでいるため、数mm角の半導体デバイスを歩留り良く製造することは困難である。マイクロパイプ欠陥の低減を目指した昇華法の研究も精力的に行われているが、昇華法によりマイクロパイプ欠陥を実質的に持たないマイクロパイプ欠陥フリーの炭化珪素バルク単結晶が得られたとの報告は未だにない。
【0012】
CVD法は、原料をガス状態で供給するため原料供給量が少なく、炭化珪素基板を作製するのに必要なバルク単結晶の製造には向いていない。そのため、CVD法はもっぱら薄膜状の炭化珪素単結晶の成長法として利用されている。
【0013】
アチソン法は、原料中の不純物が多くて、高純度の炭化珪素単結晶を製造することができない上、基板材料に必要な大きさの単結晶を得ることができない。
溶液成長法は、熱的平衡状態下での結晶成長であるため、格子欠陥が非常に少なく、結晶性の良好な良質の炭化珪素単結晶が得られる。しかし、一般に融液内への黒鉛坩堝からの炭素の溶解濃度が低いので、炭化珪素結晶の成長速度は非常に遅い。Siを融液とするSi融液法では、融液温度1650℃で炭化珪素結晶の成長速度は5〜12μm/hrと言われている。この成長速度は、昇華法に比べて1〜2桁小さい。融液温度を2000℃以上に上げて、融液内に溶解し得る炭素濃度を高めることにより、成長速度を高めることが原理的には可能であるが、常圧下ではSi融液の蒸発が激しく、加圧すれば装置が大がかりになり、どちらも工業的製造には問題がある。
【0014】
Si融液の蒸発を抑制しつつ炭素濃度を上げて炭化珪素結晶の成長速度を増大させるため、CrやScなどの遷移金属または希土類金属を融液に添加することも行われる。しかし、そのようにしても、Si融液法では、現在まで厚さ数μm程度の薄膜しか実現されていない。そのため、CVD法と同様、溶液成長法は種結晶基板上に薄膜を形成する方法であって、バルク単結晶の成長には不向きであると考えられてきた。
【0015】
特開2000−264790号公報には、少なくとも1種の遷移金属とSiとCを含む原料を炭素質坩堝 (実際には黒鉛坩堝) 内で加熱溶融して融液とし、この融液を冷却するか、または融液に温度勾配を形成することによって、種結晶基板上に炭化珪素バルク単結晶を析出成長させることが開示されている。具体例として、原子比で31Mo−66Si−3C、54Cr−23Si−23Cまたは29Co−65Si−6Cの系において、成長温度1750〜2150℃での成長速度は、融液の温度勾配にも依存するが、平均で200〜800μm/hrであったと記載されている。
【0016】
しかし、この方法では、炭素は黒鉛坩堝からの溶解により供給するのではなく、炭素を所定割合で含む原料を黒鉛坩堝に仕込む。そのため、坩堝からの炭素と原料として仕込んだ炭素とが不可避的に競合して溶解する。その結果、原料として仕込んだ炭素の一部が融液中に溶け残り、この溶け残り炭素は炭化珪素析出の核となり得るため、融液中に浸漬した種結晶基板上への結晶成長を阻害し、新たに成長する炭化珪素結晶が多結晶化しやすくなる。また、2000℃以下の温度では、100μm/hr以下の成長速度しか得ることができないことが確かめられた。
【0017】
【特許文献1】
特開2000−264790号公報
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、格子欠陥が少ない良質の炭化珪素バルク単結晶を実用的な成長温度と成長速度で安定して製造する方法を提供することを目的とする。具体的な目的は、2000℃以下という操業的に好ましい融液温度での溶液成長法により、実用的な成長速度で、マイクロパイプ欠陥が実質的に存在しない良質な炭化珪素バルク単結晶を安定して製造することである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
本発明により、SiとCとM(M:MnまたはTiの一方)とを含み、SiとMの原子比が、Si1−xなる式で表して、MがMnである場合は0.1≦x≦0.7、MがTiである場合は0.1≦x≦0.25である合金の未溶解のCを含有しない融液中に、炭化珪素の種結晶基板を浸漬し、少なくとも前記種結晶基板周辺における前記合金融液の過冷却によりSiCを過飽和状態とすることによって前記種結晶基板上に炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法が提供される。
【0020】
「少なくとも前記種結晶基板周辺における合金融液の過冷却」は、(1) 合金融液を冷却するか、または(2) 合金融液に温度勾配を設ける、ことにより達成することができる。以下では、(1) の方法を「冷却法」、そして(2) の方法を「温度勾配法」と言う。
【0021】
冷却法では、基板浸漬時の合金融液の温度が1650℃以上、2000℃以下であることが好ましく、より好ましくは1650〜1850℃である。冷却速度は好ましくは1〜6℃/minである。合金融液の冷却をその合金の固相線温度より高い温度で終了した後、融液の加熱と冷却を繰り返すことにより過冷却を繰り返し行って、基板上での炭化珪素単結晶の成長を続けることにより、大きな炭化珪素炭化珪素を製造することができる。
【0022】
温度勾配法では、合金融液の温度勾配を5〜100℃/cmとすることが好ましく、基板近傍の合金融液の温度(以下、成長界面温度という)は好ましくは1450℃以上、2000℃以下、より好ましくは1650〜1850℃である。
【0023】
どちらの方法においても、合金融液中のCは合金融液を収容している炭素質坩堝の溶解により供給されたものであることが好ましい。
本発明の方法により、従来は製造することができなかった、マイクロパイプ欠陥が実質的に存在しない炭化珪素バルク単結晶、好ましくは、溶融KOHによるエッチング後の光学顕微鏡による検査で直径約2μm以上のマイクロパイプが見られないという意味でのマイクロパイプ欠陥が存在しない炭化珪素バルク単結晶を提供することが可能となる。
【0024】
ここで「炭化珪素バルク単結晶」とは、厚さ50μm以上の炭化珪素単結晶であることを意味する。炭化珪素バルク単結晶の厚さは、機械的強度を考慮すると、基板材料の単結晶として取扱い易い200μm以上であることが好ましく、より好ましくは500μm以上であり、最も好ましくは1500μm以上である。
【0025】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、Si−C−Mの3元合金の融液からの炭化珪素単結晶の生成挙動について実験を重ねると共に、それらの三元系状態図の計算からの予測に基づいて、添加金属種M、組成比、SiC結晶成長速度、温度履歴などの条件について検討した。
【0026】
その結果、MがMnまたはTiであって、SiとMの原子比が、Si1−xなる式で表して、MがMnである場合には0.1≦x≦0.7、MがTiである場合には 0.1≦x≦0.25である条件で、2000℃以下の融液温度において、多型転移や格子欠陥の増加を招くことなく、炭化珪素バルク単結晶を実用に十分な成長速度で安定して製造することが可能となることを見出した。
【0027】
実験では、まず黒鉛坩堝にSiと各種金属から選んだ添加元素Mとを仕込み、坩堝をAr大気圧下の均熱炉で1700℃に1時間加熱して、坩堝からの炭素の溶出によりSi−C−M3元合金の融液を生成させた。その後、黒鉛坩堝を1 ℃/minの冷却速度で1500℃まで冷却し、1500℃以下は室温まで放冷した。得られた凝固塊をHF−HNO (1:1)で酸エッチングし、自然核発生で成長した炭化珪素結晶を回収した。得られた炭化珪素結晶のサイズから、炭化珪素単結晶の成長速度に及ぼす添加元素の有効性を判断した。比較のため、添加元素を用いることなくSiのみを仕込んだ融液でも同様に実験した。
【0028】
その結果、添加元素がMnまたはTiである場合に、Siのみを仕込んだ融液から晶出した結晶(数十μm)に比べて非常に大きな結晶(2mm以上)が得られた。これらの結晶は、溶融KOHエッチングによる組織観察によりマイクロパイプ欠陥を含んでおらず、TEM (透過型電子顕微鏡)観察により格子欠陥が非常に少ないことが判明した。
【0029】
Si−MnまたはSi−Tiを仕込んだ合金融液を用いて、炭化珪素単結晶からなる種結晶基板上に炭化珪素バルク単結晶を成長させたところ、SiとM(MはMnまたはTi)の原子比 (Si1−xにおけるx) が上記条件を満たす場合に、十分なC溶解度が確保でき、炭化珪素単結晶が初晶として晶出し、数百μm/hr以上の成長速度でマイクロパイプ欠陥が存在しない良質のバルク単結晶を製造することができることを確認した。
【0030】
添加元素MがMnである場合、Si1−xMnで表されるMnの原子比xが0.1未満であると、Cの溶解度が低く、炭化珪素単結晶の成長速度が小さくなる。一方、xが0.7を超えると、Cの溶解度が高くなりすぎ、種結晶基板上にCが晶出して炭化珪素の結晶成長が阻害される可能性が高くなる。Mnの原子比xは好ましくは0.35〜0.65の範囲である。xが0.35以上で、C溶解量の増大による炭化珪素の成長速度促進効果が顕著に現れる。xが0.65以下で、Cが晶出して炭化珪素の結晶成長を阻害する可能性が、より広い融液温度領域において小さくなる。より好ましいMnの原子比xは0.45〜0.65である。
【0031】
添加元素MがTiである場合、Si1−xTiで表したTiの原子比xが0.1 未満であると、Cの溶解度が低く、炭化珪素単結晶の成長速度が小さくなる。xが0.25を超えると、種結晶基板上にTi含有層が形成されやすくなり、炭化珪素単結晶層の成長が阻害される可能性が高くなる。このTi含有層は炭化チタン(TiC) であると考えられる。Tiの原子比xは好ましくは0.15〜0.25の範囲である。
【0032】
本発明の方法における炭化珪素バルク単結晶の成長は、上述した冷却法と温度勾配法のいずれによっても実施できる。原料のうちCは、融液に未溶解Cが存在しないようにするため、黒鉛坩堝といった炭素質坩堝からの溶解により融液中に供給することが好ましいが、未溶解Cを含有しない融液を形成できれば、Cの一部または全部を他の原料(SiおよびM)と一緒に坩堝に投入してもよい。以下では、主にCを黒鉛坩堝から供給する場合を例にとって説明する。
【0033】
冷却法の場合、原料のSiとTiまたはMnと場合によりCを、所定の割合で坩堝に投入した後、その組成の液相線温度以上に加熱して融解させ、融液を形成する。融液が生成した後も、黒鉛坩堝からのCの溶解により融液中のC濃度が飽和濃度またはその付近に達するまで一定温度で加熱を続ける均熱加熱を行う。Cを添加原料として坩堝に投入した場合には、Cが完全に溶解するまで加熱を続ける。
【0034】
MがMnとTiのいずれの場合も、融液温度は1650℃以上、2000℃以下とすることが好ましく、より好ましくは1650〜1850℃である。温度が1850℃より高温、特に2000℃より高温になると、融液の蒸発が顕著となり、炭化珪素結晶の安定成長を阻害する。融液温度が1650℃より低いと、C溶解量が少なくなり、炭化珪素単結晶の製造効率が低下する。また、MがTiである場合には、固相線温度に近ずくため、単結晶成長の安定性も低下する。
【0035】
生成したSiとM(M=MnまたはTi)とCとの合金の融液中に、製造すべき単結晶の結晶形と同じ結晶形(例、6H)のSiC単結晶からなる種結晶基板を浸漬する。種結晶基板は融液の加熱中のどの時点で浸漬してもよい。
【0036】
その後、合金融液を一定の冷却速度をゆっくり冷却して、融液温度が液相線温度より低いが、固相線温度よりは高い過冷却の状態とすることによってSiCを過飽和状態にする。それにより、種結晶基板上にSiC結晶がエピタキシャル成長し、基板と同じ結晶形の炭化珪素単結晶が基板上に生成する。この時の冷却速度は、成長速度を決定する重要な因子である。
【0037】
図1に、Si−Ti融液(Si0.8Ti0.2)を1850℃で、またはSi−Mn融液(Si0.4Mn0.6)を1650℃で、それぞれ黒鉛坩堝中で均熱加熱してCを飽和濃度まで溶解させた後の冷却速度と種結晶基板上での炭化珪素単結晶の成長速度との関係を示す。この図からわかるように、冷却速度が1℃/minより低いと炭化珪素結晶の成長速度が小さくなる。他方、冷却速度が6℃/minより高いと、自然核発生による炭化珪素の結晶成長が生じるようになり、そのような結晶成長が基板近傍で起こって、基板上で成長した炭化珪素結晶が多結晶化し易くなる。従って、冷却速度は1〜6℃/minの範囲とすることが好ましく、より好ましくは2〜5℃/minの範囲である。
【0038】
冷却が終了すると、炭化珪素晶出の駆動力が失われることになる。種結晶基板上に成長した炭化珪素単結晶が十分な大きさであれば、基板を融液から引き上げて、融液を必要であれば組成を調整してから次回の結晶成長に使用するか、あるいは固相線温度より低温に冷却して、全体を固化させる。
【0039】
しかし、通常は、1回の成長では十分な大きさの炭化珪素バルク単結晶を得ることはできない。その場合、基板を合金融液に浸漬したまま、または一旦融液から引き上げた後、融液を冷却前の均熱加熱温度まで再度昇温して黒鉛坩堝からCを溶解させ (および/またはCを添加して完全に溶解させ)、再び冷却または基板浸漬と冷却を繰り返すことにより、 基板上に成長させた炭化珪素単結晶の厚みを増加させることができる。この均熱加熱と冷却を多数回繰り返すことにより、基板上に厚さ方向に長いバルク単結晶(インゴット)を得ることもできる。その場合、成長厚みの増大に応じて、必要であれば、種結晶基板を上方に少しずつ移動させる。
【0040】
温度勾配法では、坩堝内のSiとM(M=MnまたはTi)とCとの合金の融液に温度勾配を形成し、温度勾配の低温部に浸漬した種結晶基板上に炭化珪素単結晶を成長させる。この温度勾配は、通常は上下方向の勾配とするが、水平方向の勾配とすることもできる。温度勾配は、坩堝の周囲に配置した加熱手段の制御により、場合により坩堝の低温部の周囲に配置した冷却手段を併用して、形成することができる。上下方向の温度勾配は、融液の上部を低温部とする方が、種結晶基板を高温部にさらさなくてすむため、好都合である。
【0041】
温度勾配法の成長界面温度(低温部の基板近傍の温度)は、M=Tiの場合、1650〜2000℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1650〜1850℃の範囲である。一方、M=Mnの場合は、液相線温度がより低いため、成長界面温度は1450〜2000℃の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1650〜1850℃の範囲である。高温部の温度は、成長界面温度との温度差が大きいほど融液内へのC溶解度が大きくなるため成長速度が高くなるが、温度差の制御性の観点から、高温部は成長界面温度より数℃〜数百℃高い温度に設定することが好ましい。高温部の温度が2000℃を大きく超えると、融液の蒸発等により安定成長が阻害されるので、成長界面温度が2000℃に近い場合は、温度勾配を小さくして、高温部の温度が2000℃を大きく超えないようにすることが好ましい。
【0042】
温度勾配は5〜100 ℃/cmの範囲が好ましい。5℃/cm未満では、融液内の溶質である炭化珪素の拡散の駆動力が小さく、炭化珪素結晶の成長速度が小さくなる。温度勾配が100 ℃/cmを超えると、基板近傍で自然核発生による炭化珪素結晶が生じて、基板上に成長した炭化珪素結晶が多結晶化しやすくなる。温度勾配はより好ましくは5〜50℃/cmである。
【0043】
Cを黒鉛坩堝等の炭素質坩堝の溶解により供給する場合には、冷却法と同様に、坩堝内に生成した融液の加熱を続けて、少なくとも高温部において融液中のCが飽和濃度またはその付近に達するようにする。その後又は融液の加熱中に、基板を坩堝の低温部に浸漬する。融液のC溶解量は融液温度に依存するため、融液の温度勾配に起因して融液中にCの濃度勾配が形成される。この濃度差が駆動力となって、融液内のCが高温側から低温側へ拡散する。拡散により輸送されたCは、液相線温度より低い過冷却状態の低温側の融液に浸漬されている炭化珪素種結晶基板上で過飽和となり、炭化珪素となって晶出し、炭化珪素単結晶が成長する。
【0044】
Cの一部または全部を坩堝に添加した場合も、融液に溶解するCの飽和濃度が温度に依存するため、融液中にCの濃度勾配が生成し、上記と同様の結果となる。この場合は、添加したCが完全に溶解してから、種結晶基板を融液の温度勾配の低温部に浸漬する。
【0045】
合金融液を収容する坩堝は、融液との反応による劣化のために融液の漏れを生じることがなく、かつ融液内に不純物として混入しない耐火製材料のものを利用し得る。Cを坩堝からの溶解により供給する場合には、炭素質坩堝、特に黒鉛坩堝が使用される。坩堝からCを溶解させる必要がない(Cの全量を添加する)場合には、黒鉛または他の耐火物製の坩堝を高純度炭化珪素で被覆した坩堝を使用することができる。
【0046】
融液の酸化を防止するため、坩堝やその加熱手段を含む結晶成長装置の周囲を密閉し、密閉空間内を非酸化性雰囲気 (例、希ガス雰囲気) とすることが好ましい。
【0047】
本発明の方法によりドープされた炭化珪素バルク単結晶を製造することもできる。例えば、炭化珪素をAlまたはBでドープするとp型半導体となり、NまたはPでドープするとn型半導体となる。ドープ元素は、坩堝に添加してよく、Nの場合は雰囲気ガスから導入することもできる。
【0048】
本発明の方法により製造された炭化珪素単結晶は、結晶多形が生じないことから、昇華法により製造された単結晶に比べて格子欠陥が著しく少ない。しかも、本発明の方法は、2000℃以下の操業上好ましい温度で実用に十分な成長速度で炭化珪素単結晶を製造できる。従って、本発明により、マイクロパイプ欠陥を含まない炭化珪素バルク単結晶を製造することが可能となる。この炭化珪素バルク単結晶は光デバイスや電子デバイス用の基板として好適である。
【0049】
【実施例1】
本実施例は、図2に示した結晶成長装置を用いた、冷却法による炭化珪素バルク単結晶の製造を例示する。
【0050】
図2に示した結晶成長装置は、合金融液1を収容した黒鉛坩堝3を備え、この坩堝3を高純度黒鉛製の抵抗加熱ヒータ2aが囲んでおり、この抵抗加熱ヒータ2aと黒鉛坩堝3が断熱材9で包囲されている。黒鉛坩堝3の側面は、ヒータ2aと断熱材9に設けられたのぞき穴を介して複数の光パイロメータ4により直接測温される。ヒータ2aはそれらのパイロメータ4の測温値に基づいて制御され、坩堝3はほぼ均一温度に加熱される。結晶成長装置内の雰囲気は、ガス導入口7とガス排出口8を利用してAr雰囲気に調整される。
【0051】
黒鉛坩堝3にSi0.8Ti0.2となる組成の合金原料(SiとTi)を装入し、大気圧のAr雰囲気中で坩堝を1850℃まで加熱して融解させた後、生成した融液中に黒鉛坩堝3の内壁からCが飽和濃度まで溶解するように1850℃の融液温度を5時間保持した。その後、黒鉛製の保持治具5で保持した6H−SiC単結晶からなる種結晶基板6を融液1中に浸漬した。黒鉛坩堝3と保持治具5は、互いに逆方向に回転させた。基板6の浸漬から1時間経過後、温度ヒータ2aの制御により0.5 ℃/minの速度で冷却を開始し、融液1全体の温度が1650℃になるまで冷却を続けた(冷却時間400分)。その後、保持治具5を上昇させて、融液1から基板6を引き上げて回収してから、坩堝を室温まで放冷した。
【0052】
基板上に成長した炭化珪素バルク単結晶の厚み(μm)を測定し、冷却時間(hr)で除して結晶成長速度(μm/hr)を求めた。
また、この炭化珪素バルク単結晶を切断・研磨して[0001]面を得た後、溶融KOH(450〜500℃)中で10分間処理し、その後十分に水洗し、光学顕微鏡によりマイクロパイプ欠陥に特有の約2μm以上の大きさの六角形のエッチピットの個数を数えた。マイクロパイプ欠陥は次の基準で判定した。
【0053】
◎:種結晶のマイクロパイプが閉塞され、マイクロパイプ欠陥が皆無。
○:種結晶のマイクロパイプが閉塞されて低減するが、マイクロパイプ欠陥が残存。
×:種結晶と同程度にマイクロパイプが見られる。
【0054】
【実施例2】
黒鉛坩堝3に装入したSi0.4Mn0.6の合金原料を1650℃で加熱溶融したことと、冷却をこの温度から1450℃まで行ったこと以外は実施例1と同様にして、冷却法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0055】
【実施例3】
冷却速度を2℃/minに増大させたことを除いて、実施例2と同様に冷却法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0056】
【実施例4】
本実施例は、図3に示した結晶成長装置を用いた、温度勾配法による炭化珪素バルク単結晶の製造を例示する。
【0057】
図3に示した結晶成長装置は、合金融液1を収容した黒鉛坩堝3を備え、この坩堝3は石英ガラス製の反応管10内に配置され、反応管10の外周には黒鉛坩堝3を誘導加熱するための高周波コイル2bが設けられている。図3の装置においても、坩堝3の側面は複数の光パイロメータ4によって直接測温される。高周波誘導加熱は、坩堝3の側面の測温値に基づいて制御される。坩堝3と高周波コイル2bとの相対的な位置関係によって坩堝3の上下方向に温度差が形成される。具体的には、コイル2bの巻き数と間隔を変えることによって形成される温度勾配を調整できる。また、大きな温度勾配を得るには、坩堝3の低温部を水冷治具によって強制的に冷却することが有効である。
【0058】
本例では、黒鉛坩堝3の上部が低温部になるようにした。低温部に浸漬される種結晶基板6近傍の融液1の温度は、坩堝3の基板位置レベルにおける側面の温度をパイロメータ4で測定することによって判定した。また、温度勾配は基板6の位置レベルと最も高温の位置レベルにおける側面温度の温度差と離間距離とから算出した。
【0059】
黒鉛坩堝3にSi0.8Ti0.2となる組成の合金原料(SiとTi)を装入し、大気圧のAr雰囲気下で、上部側の種結晶基板6を浸漬すべき位置レベルにおける側面温度 (成長界面温度) が1650℃になるように加熱して、合金原料を融解させた。コイル2bの巻き数と間隔の調節によって、基板6の位置レベルから、高温側である坩堝3の下部側に向けて、5℃/cmの温度勾配が設定された。坩堝下部の最高温度は約1660℃であった。
【0060】
黒鉛坩堝3内に生成した合金融液を、坩堝の内壁から融液中にCが飽和濃度まで溶解するように、上記温度勾配を保持したまま5時間加熱した。その後、黒鉛製の保持治具5で保持した6H−SiC単結晶からなる種結晶基板6を、融液上部の低温部 (側面温度が1650℃の位置レベル)に浸潰した。黒鉛坩堝3と単結晶保持した保持治具5は、互いに逆方向に回転させた。種結晶基板6の浸漬から20時間経過後に、支持治具5を上昇させて融液1から基板6を引き上げて回収してから、融液を室温まで放冷した。
【0061】
基板上に成長した炭化珪素バルク単結晶の厚み(μm)を測定し、成長(浸漬)時間(=20 hr)で除して結晶成長速度(μm/hr)を求めた。また、マイクロパイプ欠陥について、実施例1と同様に判定した。
【0062】
【実施例5】
黒鉛坩堝3に装入した合金原料がSi0.4Mn0.6となる組成であったことを除いて、実施例4と同様にして温度勾配法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0063】
【実施例6】
高温部の加熱温度を高めて温度勾配を20℃/cmに増大したことを除いて実施例5と同様にして、温度勾配法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0064】
【比較例1】
黒鉛坩堝3装入した合金原料がSi0.95Ti0.05となる組成であったことを除いて、実施例1と同様に冷却法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0065】
【比較例2】
黒鉛坩堝3装入した合金原料がSi0.95Mn0.05となる組成であったことを除いて、実施例2と同様に冷却法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0066】
【比較例3】
黒鉛坩堝3装入した合金原料がSi0.95Ti0.05となる組成であったことを除いて、実施例4と同様に温度勾配法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0067】
【比較例4】
黒鉛坩堝3装入した合金原料がSi0.95Mn0.05となる組成であったことを除いて、実施例5と同様に温度勾配法により炭化珪素バルク単結晶を種結晶基板6上に成長させた。
【0068】
以上の実施例と比較例について製造条件と基板上に成長した単結晶の測定結果を表1にまとめて示す。
【0069】
【表1】
Figure 0004100228
【0070】
表1から、本発明の方法により、冷却法と温度勾配法のいずれの結晶成長方法おいても、2000℃以下の融液温度で、マイクロパイプ欠陥を含んでいない炭化珪素バルク単結晶を実用に十分な成長速度で製造することができることがわかる。冷却速度または温度勾配を大きくすると、炭化珪素単結晶の成長速度が増大する。この結果から、合金融液中に溶解したCが基板表面に達する拡散が炭化珪素の結晶成長の律速過程になっているものと考察される。
【0071】
なお、実施例1〜3(冷却法)では、冷却による結晶成長を1回しか実施しなかったため、成長時間がより長い実施例4〜6(温度勾配法)より結晶の厚みは小さくなった。実施例1〜3においても、加熱と冷却を繰り返すことにより結晶の厚みを大きくできることはいうまでもない。
【0072】
実施例1〜6および比較例1〜4で得られた炭化珪素単結晶はいずれも、ラマン分光法および電子線回折により調べた結果、基板と同じ6H−SiCの結晶構造を有していた。
【図面の簡単な説明】
【図1】黒鉛坩堝中でSi0.8Ti0.2融液を1850℃で、又はSi0.4Mn0.6融液を1650℃で、坩堝から溶解したC濃度が飽和するまで均熱加熱した後に冷却して種結晶基板上に炭化珪素単結晶を成長させた場合の冷却速度と成長速度との関係を示すグラフである。
【図2】冷却法により炭化珪素単結晶を製造するために利用し得る結晶成長装置の一例を示す模式的断面図である。
【図3】温度勾配法により炭化珪素単結晶を製造するために利用し得る結晶成長装置の一例を示す模式的断面図である。

Claims (8)

  1. 炭化珪素単結晶の製造方法であって、SiとCとM(M:MnまたはTiの一方)とを含み、SiとMの原子比が、Si1−xなる式で表して、MがMnである場合は . 35≦x≦0 . 65、MがTiである場合は . 15≦x≦0 . 25である合金の未溶解のCを含有しない融液中に、炭化珪素の種結晶基板を浸漬し、少なくとも前記種結晶基板周辺における前記合金融液の過冷却によりSiCを過飽和状態とすることによって前記種結晶基板上に炭化珪素単結晶を成長させることを特徴とする方法。
  2. 前記合金融液の過冷却が合金融液の冷却により達成される、請求項1記載の方法。
  3. 基板浸漬時の合金融液の温度が1650℃以上、2000℃以下の温度範囲であり、前記冷却の速度が1〜6℃/minである、請求項2記載の方法。
  4. 合金融液の冷却をその合金の固相線温度より高い温度で終了した後、融液の加熱と冷却を繰り返すことにより過冷却を繰り返し行い、基板上での炭化珪素単結晶の成長を続ける、請求項2記載の方法。
  5. 前記合金融液の過冷却が合金融液に設けた温度勾配により達成される、請求項1記載の方法。
  6. 合金融液の前記温度勾配が5〜50℃/cmであり、種結晶基板近傍の前記合金融液の温度が1450℃以上、2000℃以下である、請求項5記載の方法。
  7. 前記温度範囲が1650〜1850℃である、請求項3または6記載の方法。
  8. 前記合金融液中のCが合金融液を収容している炭素質坩堝の溶解により供給されたものである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
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