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JP4177574B2 - リチウム二次電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭素材料からなる負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物からなる正極と、非水電解液とからなるリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子機器のポータブル化、コードレス化が進むにつれ、その駆動用電源として小型、軽量で高エネルギー密度を有するリチウム二次電池が開発され、急速に普及してきた。このリチウム二次電池は、リチウムの可逆的な吸蔵・放出が可能な炭素材を活物質とした負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を活物質とした正極と、非水電解液とから構成される。現在、主に開発・生産されているリチウム二次電池の負極活物質としては、粉砕の過程で形状を制御した塊状天然黒鉛(球形化天然黒鉛)、コークスまたはこれとコールタールピッチとの造粒粒子を黒鉛化した人造黒鉛、黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)やバルクメソフェーズ粉砕粒やメソフェーズ系炭素繊維(MCF)等が採用されている。また、正極活物質には、合成が容易で、高い電位域で安定した充放電挙動の得られるLiCoO2が広く採用されている。
【0003】
このようなリチウム二次電池に対する市場からの要求性能は多数あるが、とりわけ民生用途のリチウム二次電池に関しては、高容量化(高エネルギー密度化)と低コスト化に関する要望が大きい。高容量化に関しては、銅箔上に形成させた黒鉛からなる負極合材層の密度を1.4g/cm3以上にまで高める手法、アルミニウム箔上に形成させたLiCoO2からなる正極合材層の密度を3.3g/cm3以上にまで高める手法が検討されている。これらは、電極作製が可能な範囲で、正極や負極の活物質密度を高めるものである。また、負極と正極を構成する材料の粒子形状や粒度分布を調整し、嵩密度(またはタップ密度)を高める検討がなされている。
【0004】
負極の黒鉛に関する別の試みとしては、例えば特開平11―54123号公報にあるように、球形度の高い塊状黒鉛のエッジ面を、コールタールピッチ等で被覆した後にこれを炭化することにより、易黒鉛化性炭素に分類される非晶質炭素で黒鉛を被覆する試みも検討されている。これは、黒鉛と電解液との反応性を低減し、初期充電時の黒鉛粒子表面での電解液の分解に伴う充電ロス(負極の不可逆容量)を低減させ、高容量化に結びつけるものである。これらの技術によって、近年のリチウム二次電池では、体積エネルギー密度が350Wh/Lを超える高エネルギー密度が得られている。しかし、高容量化のアプローチも限界に近づいているのが実情である。
【0005】
一方で、リチウム二次電池の構成部材の中で価格比率が大きい正極材料の低コスト化が検討されている。LiCoO2に含まれるコバルトは、資源的に希少であり、高額である。この代替として、安価なLiMn24、LiFexMn2-x4といったマンガン複合酸化物や、LiNiO2、LiCoxNi1-x2等のニッケル複合酸化物を用いる検討が従来からなされている。前者のマンガン複合酸化物は、放電電圧がLiCoO2よりも高く、充電状態の活物質の熱的安定性がLiCoO2に比べて高く、電池の安全性を向上させるといった利点を有する。その反面、3価のマンガンイオンが構造的に不安定であるため、高温雰囲気下でマンガン種が電解液中に溶解して容量劣化を引き起こすといった課題も併せ持っており、マンガン複合酸化物は、広く実用化するには到っていない。後者のニッケル複合酸化物は、0.7電子程度までの充放電反応を実際の電極反応に使用することができるため、LiCoO2に比べて高容量化が図れるという利点を有する。その反面、放電電圧がLiCoO2よりも低く、充電状態の活物質の熱的安定性もLiCoO2より劣り、サイクル寿命特性も低い点が、ニッケル複合酸化物の短所である。この改善のために、特開平8―222220号公報あるいは特開平9―92285号公報では、ニッケルイオンの一部をCoイオンやAlイオンで部分的に置換する試みも検討されている。しかし、その効果は不十分であり、やはり広く実用化されるには到っていない。
【0006】
そこで、LiMn24とLiNiO2との混合材、LiMnxNi1-x2、LiMnyCozNi1-y-z2といった複合酸化物を正極活物質として用いることにより、LiNiO2の高容量という利点をできるだけ確保したまま、LiNiO2の欠点である放電電圧や充電状態の活物質の熱的安定性等の改善を補完する試みも見られる。そのような検討は、特開平8―171910号公報、特開2000−294240号公報等に開示されている。このような正極を採用したリチウム二次電池は、安価で安全性の高い電池として、一部市場に投入されるようになってきている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、LiMn24とLiNiO2の混合材、LiMnxNi1-x2、LiMnyCozNi1-y-z2といった複合酸化物を正極活物質に用い、広く採用されている黒鉛を負極に用いたリチウム二次電池においても、正極中のマンガン種に起因する問題は解決されていない。すなわち、高温雰囲気で電池を保存した際に、正極活物質中のマンガン種が電解液に溶出し、正極容量が低下し、同時に負極の黒鉛に金属マンガンが析出して負極が不活性化するという問題は、解決されていない。電池設計の観点を踏まえると、低い充電状態(SOC)の電池、極端な例として完全放電状態の電池の高温保存による劣化に関して、以下のような解釈がある。
【0008】
図1は、一般的な正極:LiCoO2、負極:黒鉛の構成を有するリチウム二次電池の容量設計バランスの概念を表している。リチウム二次電池の充電制御(例えば4.2Vの定電圧制御など)では、主に充電時の電位変化の大きい正極の電位変化を検知して充電を終止させている。図1中のXに充電終止位置を示す。ここで、正極活物質と負極活物質は、負極理論容量C2が正極理論容量C1よりも大きくなるように電池内に収容する。これは、負極は充電挙動を十分に制御することができないため、負極において過充電が発生したり、金属リチウムが析出してしまうのを抑止するためである。正極理論容量C1は、LiCoO2の0.5電子反応に基づく容量:137mAh/g、負極理論容量C2は、黒鉛のLiC6形成反応に基づく容量:372mAh/gから算出する場合が多い。
【0009】
正極では、LiCoO2からのLi+とe-の引き抜きが起こる初期充電時に、CoO2層状構造の局所的な崩壊が起こる。このため、それに続く放電は、完全に可逆的なものとはならない。使用するLiCoO2の結晶性にもよるが、通常、5mAh/g程度の正極充放電ロス:ΔC+が生ずる。一方、負極では、初期の充電時に、黒鉛粒子表面で電解液の分解による皮膜形成等が起こり、余分な電気量が消費される。このため、例えばエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合溶媒にLiPF6を溶解させた、比較的副反応の少ない電解液を使用した場合にも、30〜40mAh/g程度の負極充放電ロス:ΔC-が生ずる。従って、リチウム二次電池の実作動域における電池容量(4〜3V付近までの電池容量)は、図1中に示したC3となり、放電容量は負極の黒鉛に規制される。図1中のYに放電終止位置を示す。
【0010】
次に、LiMn24とLiNiO2の混合材、LiMnxNi1-x2、LiMnyCozNi1-y-z2といった複合酸化物を正極活物質に用いた場合の容量設計バランスを図2に示す。LiNiO2、LiMnxNi1-x2、LiMnyCozNi1-y-z2結晶では、初期充電時におけるNiO2層状構造の局所的崩壊の程度がLiCoO2に比べて大きいことから、正極の不可逆容量が過大となる。このため、これを通常の黒鉛からなる負極と組み合わせて電池を構成すると、放電容量が正極に規制される。
【0011】
ここで、正極のマンガン含有複合酸化物から溶出するマンガン種は、前記酸化物の固相内で形成される2価マンガンイオン(Mn2+)が主と考えられている。Mn2+の形成反応としては、次の2つが考えられる。
2Mn3+ → Mn4+ + Mn2+ (式1)
Mnn+ → Mn2+ + (n−2)e- (3≦n≦4) (式2)
式1に示した反応は、3価のマンガンイオンの構造的不安定性(配位子場理論におけるヤーン・テラー不安定性)に起因する。この不均化反応は、正極の電位に関わらず、Mn3+の濃度に応じて起こる。式2に示した反応は、低電位におかれた3価以上のマンガンイオンが電気化学的にMn2+に還元される反応である。
【0012】
上記のように正極構成元素としてマンガン種を含んでおり、放電末期の容量が正極に規制された電池を、低いSOC状態で保存すると、Mn3+の濃度が高いために式1の不均化反応が起こりやすい。また、正極の電位そのものが低い状態に保たれるため、式2の高次マンガンイオンの電気化学的な還元反応も起こり、正極活物質の固相内に多量のMn2+が形成される。そして、電池が高温下で保存された場合には、Mn2+の電解液中への溶解度が増し、溶出したMn2+が式3のように反応して、負極表面に金属Mnが析出する。
Mn2+ + 2e- → Mn (式3)
このため、高温下での保存が長期間に及ぶと、いわば自己放電的な反応として式2と式3の反応が継続して進行し、正極活物質の崩壊(変質)と、負極表面の不活性化が起こり、電池容量が大幅に低下する。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記を鑑み、本発明は、銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm3の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm3の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn24とLiNiO2とからなる活物質(a)、LiMnxNi1-x2からなる活物質(b)、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2とからなる活物質(c)、およびLiMnyNizCo1-y-z2からなる活物質(d)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であることを特徴とするリチウム二次電池に関する。
【0014】
活物質(a)または(c)において、LiNiO2は、ニッケルイオンの一部が、コバルトイオンおよびアルミニウムイオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンで置換されたLiNi1-a-bCoaAlb2(0<a+b≦0.25)の組成を有することが好ましい。
活物質(a)において、LiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2との総重量の20〜50重量%であることが好ましい。
活物質(b)において、x値は、0<x<0.5であることが好ましい。
活物質(c)において、LiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との総重量の20〜40重量%であることが好ましい。
活物質(c)において、LiNiO2の含有率は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との総重量の20〜40重量%であることが好ましい。
活物質(d)において、y値は、0<y<0.4、z値は、0<z<0.4であることが好ましい。
【0015】
記黒鉛は、塊状天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズ、バルクメソフェーズ粉砕粒の黒鉛化材および黒鉛化されたメソフェーズ系炭素繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。
前記黒鉛の平均粒子径は、10〜40μmであり、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、前記黒鉛の平均粒子径の70%以下であることが好ましい。
【0016】
すなわち、本発明では、正極活物質として、LiCoO2よりも単位重量あたりの可逆容量が大きいLiMn24とLiNiO2との混合材、LiMnxNi1-x2、LiMnyCozNi1-y-z2といった複合酸化物を使用する。また、導電材やバインダー等も含めた塗膜としての正極合材層の密度を、3.3〜3.7g/cm3という高い範囲に設定する。現在開発・量産化されている電池の正極合材層の密度は3.0〜3.3g/cm3が主流である。以上によって、大幅な電池の高エネルギー密度化を図ることができる。
【0017】
また、本発明では、黒鉛と難黒鉛化性炭素との混合材を使用する。ここで、難黒鉛化性炭素は、ハードカーボンとも呼ばれる非結晶性炭素の一種である。この材料に関し、以下の特徴が知られている。
▲1▼難黒鉛化性炭素は、初期充電時にリチウムを吸蔵できるサイトが黒鉛よりも多い反面、放出しないリチウムも比較的多い。このため、難黒鉛化性炭素は、黒鉛よりも可逆容量は大きいが、充放電ロス(不可逆容量)も大きい。
▲2▼難黒鉛化性炭素は、電解液との反応性が黒鉛よりも小さく、電解液の分解が起こりにくい。
▲3▼難黒鉛化性炭素は、黒鉛に比べて嵩高く、真密度は1.5〜1.6g/cm3程度である。一般的な黒鉛の真密度は2.22〜2.24g/cm3である。
▲4▼難黒鉛化性炭素の放電曲線は、黒鉛と異なり、平坦ではない。
【0018】
上記▲1▼、▲2▼の特徴から、難黒鉛化性炭素を、塊状天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化MCMB、黒鉛化バルクメソフェーズ粉砕粒、黒鉛化MCF等の黒鉛に、添加・混合して負極に使用すると、電解液の分解等の副反応を低減しつつ、負極の充放電ロスを大きくすることができる。つまり、難黒鉛化性炭素の製造条件や黒鉛に対する配合比を適正化して負極を作製することにより、負極の充放電ロスの大きさを図3のように正極のそれに合わせるか、図4のように負極の充放電ロスを正極のそれより大きくすることができる。その結果、実作動域である4〜3V付近までの電池容量(電位変化)が負極(負極電位)に規制されるようになる。このような電池は、容量設計バランスが図2のような正極容量規制の電池に比べて、電池のSOCが低い状態においても正極の電位が高く保たれ、下がることがない。従って、先述の式2に示した正極電位の低下に伴う電気化学的なMn2+の生成が抑止され、Mn2+の生成が、式1の不均化反応によるものだけに緩和される。このため、電池を高温下で長期間保存した場合においても、正極中のMn2+の生成とその溶出に伴う、正・負極容量の劣化を最小限に抑えることができる。
このように、本発明によれば、負極の充放電ロスを大きくできることから、従来よりもマンガン種を含む正極の活物質密度を高め、正極の充放電ロスを大きくしても、信頼性の高いリチウム二次電池を得ることができる。
【0019】
本発明では、難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%に設定する。このようにすると、負極の充放電ロスの大きさを上記したような適正な範囲に制御することが可能となり、かつ、高密度電極を作製する際の負極合材の圧延成形性も充分に確保することができる。この際、主材となる黒鉛の平均粒子径は10〜40μmとし、助材となる難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、黒鉛の平均粒子径の70%以下とすることが好ましい。それぞれの平均粒子径をこのように設定することで、主材である黒鉛の粒子間の空隙を埋める形で、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子を配置または充填することが可能となり、電極の高密度化を最も容易にすることができる。本発明は、このような負極活物質を用いて、バインダー等も含めた塗膜としての負極合材層の密度を1.4〜1.8g/cm3という高い範囲に設定し、より一層の電池の高エネルギー密度化を図るものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
実施の形態1
実施の形態1にかかる発明は、リチウムの可逆的な吸蔵・放出が可能な炭素材料を負極活物質とする負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、非水電解液を具備してなるリチウム二次電池において、負極は、黒鉛と難黒鉛化性炭素の混合材を主体とした負極合材を銅箔上に塗布し、圧延成形によって負極合材層の密度を1.4〜1.8g/cm3とし、前記難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%とし、正極は、LiMn24とLiNiO2との混合材を主体とした正極合材をアルミニウム箔上に塗布し、圧延成形によって正極合材層の密度を3.3〜3.7g/cm3としたものである。以上の構成によると、高エネルギー密度で安全性が高く、高温雰囲気で電池を保存した場合においても容量劣化の少ないリチウム二次電池を、安価に作製することができる。
負極合材層の密度が1.4g/cm3未満では、従来より高容量の電池を得ることができない。一方、1.8g/cm3をこえる高密度負極は、実質上作製が困難である。また、正極合材層の密度が3.3g/cm3未満では、従来より高容量の電池を得ることができない。一方、3.7g/cm3をこえる高密度正極は、実質上作製が困難である。
【0021】
ここで、LiNiO2に含まれる3価のニッケルイオン:Ni3+は、ヤーン・テラー不安定性を持つため、充放電サイクルを繰り返した場合のLiNiO2の構造劣化は大きくなる。その対策としては、ニッケルイオンの一部を3価の状態が安定なコバルトイオン:Co3+及び/またはアルミニウムイオン:Al3+で置換することが有効である。すなわち、LiNiO2は、ニッケルイオンがコバルトイオン及び/またはアルミニウムイオンによって部分的に置換された、実質上、LiNi1-a-bCoaAlb2で表される複合酸化物であることが好ましい。LiNiO2としてLiNi1-a-bCoaAlb2を用いると、サイクル寿命特性の観点からも優れたリチウム二次電池を作製することが可能となる。この場合、複合酸化物の可逆容量を高く維持するために、コバルトイオン及び/またはアルミニウムイオンの置換量は、0<a+b≦0.25を満たすことが好ましい。
【0022】
LiMn24とLiNiO2とを、現在、リチウム二次電池の正極活物質として広く使われているLiCoO2と比較すると、単位重量ないしは単位体積あたりの可逆容量は、LiNiO2>LiCoO2>LiMn24の順で多く、活物質の充電状態の熱的安定性は、一般にLiMn24>LiCoO2>LiNiO2の順に大きい。従って、少なくともLiCoO2のみを単独で正極活物質として使用したリチウム二次電池よりも高容量化を図るためには、LiMn24とLiNiO2との混合正極活物質におけるLiMn24の含有率を50重量%以下に抑える必要がある。一方で、十分な電池の安全性を確保する点からは、LiMn24の同含有率を20重量%以上にする必要がある。以上より、正極におけるLiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2との総重量の20〜50重量%であることが好ましい。
【0023】
前記負極は、黒鉛の他に、さらに不可逆容量が大きく、かつ、電解液との反応性の低い難黒鉛化性炭素を含んでいるため、電解液の分解等の副反応を低減しつつ、負極の充放電ロスを大きくすることができる。つまり、難黒鉛化性炭素の製造条件や黒鉛に対する配合比を適正化して負極を作製することにより、正極と負極の充放電ロスの大きさを同じにするか、ないしは負極の充放電ロスを正極の充放電ロスより大きくすることができる。従って、電池の実作動域(4V〜3V付近)における放電末期の電池容量を負極規制にすることができる。また、電池をSOCの低い状態(完全放電状態など)で高温下に保存した場合にも、正極内でのMn2+の生成とその溶出に伴う、正・負極容量の劣化を最小限に抑えることが可能となる。
【0024】
実施の形態2
実施の形態2にかかる発明は、リチウムの可逆的な吸蔵・放出が可能な炭素材料を負極活物質とする負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、非水電解液を具備してなるリチウム二次電池において、負極は、黒鉛と難黒鉛化性炭素の混合材を主体とした負極合材を銅箔上に塗布し、圧延成形によって負極合材層の密度を1.4〜1.8g/cm3とし、前記難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%とし、正極は、LiMnxNi1-x2を主体とした正極合材をアルミニウム箔上に塗布し、圧延成形によって正極合材層の密度を3.3〜3.7g/cm3としたものである。
【0025】
ここで、正極に使用するLiMnxNi1-x2中のマンガンイオンの置換比率xは、0<x<0.5を満たすことが好ましい。マンガンイオンの置換比率をこの範囲にすると、LiMnxNi1-x2を、いわゆる層状岩塩構造に近い複合酸化物として得ることができ、高率放電特性等にも優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0026】
実施の形態3
実施の形態3にかかる発明は、リチウムの可逆的な吸蔵・放出が可能な炭素材料を負極活物質とする負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、非水電解液を具備してなるリチウム二次電池において、負極は、黒鉛と難黒鉛化性炭素の混合材を主体とした負極合材を銅箔上に塗布し、圧延成形によって負極合材層の密度を1.4〜1.8g/cm3とし、前記難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%とし、正極は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との混合材を主体とした正極合材をアルミニウム箔上に塗布し、圧延成形によって正極合材層の密度を3.3〜3.7g/cm3としたものである。
【0027】
ここで、LiNiO2は、実施の形態1と同様の理由から、ニッケルイオンがコバルトイオン及び/またはアルミニウムイオンによって部分的に置換された、実質上、LiNi1-a-bCoaAlb2で表される複合酸化物であり、0<a+b≦0.25を満たすことが好ましい。
【0028】
また、LiCoO2のみを単独で正極活物質に使用したリチウム二次電池と同等の安全性を確保したまま高容量化を図るには、正極におけるLiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との総重量の20〜40重量%であることが好ましい。同様の理由から、正極におけるLiNiO2の含有率がLiMn24とLiCoO2とLiNiO2との総重量の20〜40重量%であることが好ましい。
【0029】
実施の形態4
実施の形態4にかかる発明は、リチウムの可逆的な吸蔵・放出が可能な炭素材料を負極活物質とする負極と、リチウムを含む遷移金属複合酸化物を正極活物質とする正極と、非水電解液を具備してなるリチウム二次電池において、負極は、黒鉛と難黒鉛化性炭素の混合材を主体とした負極合材を銅箔上に塗布し、圧延成形によって負極合材層の密度を1.4〜1.8g/cm3とし、前記難黒鉛化性炭素の含有率を、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%とし、正極は、LiMnyNizCo1-y-z2を主体とした正極合材をアルミニウム箔上に塗布し、圧延成形によって正極合材層の密度を3.3〜3.7g/cm3としたものである。
【0030】
ここで、正極に使用するLiMnyNizCo1-y-z2中のマンガンイオンとニッケルイオンの置換比率y、zは、それぞれ0<y<0.4、0<z<0.4にすることが好ましい。このような範囲にすると、LiMnyNizCo1-y-z2をいわゆる層状岩塩構造に近い複合酸化物として得ることができ、高率放電特性等にも優れたリチウム二次電池を得ることができる。
【0031】
記した実施の形態1〜4のリチウム二次電池の負極における難黒鉛化性炭素の含有率、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総重量の10〜30重量%である。難黒鉛化性炭素の含有率をこのような範囲に設定すると、正極と負極の充放電ロスの大きさを同じにするか、ないしは負極の充放電ロスを正極の充放電ロスより大きくすることができるとともに、電極の圧延成形性の観点からも好適である。
【0032】
実施の形態
実施の形態5にかかる発明は、上記した実施の形態1〜4のリチウム二次電池の負極における活物質粒子の大きさを最適範囲に規制するものである。主材の黒鉛には、平均粒子径が10〜40μmの塊状天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化MCMB、黒鉛化バルクメソフェーズ粉砕粒、黒鉛化MCFのいずれかを用い、助材の難黒鉛化性炭素には、平均粒子径が黒鉛の平均粒子径の70%以下のものを用いる。このようにすると、主材である黒鉛の粒子間の空隙を埋める形で、真密度の低い助材の難黒鉛化性炭素粒子を配置または充填することが可能となり、高密度の負極を作製することができる。主材黒鉛の平均粒子径を40μm以下にするのは、負極合材層の厚さを約100μm以下にしなければ、満足な放電特性を確保することができないためである。負極合材層の厚さを約100μm以下にするには、物理的に主材黒鉛の平均粒子径を40μm以下に規制する必要がある。また、主材黒鉛の平均粒子径を10μm以上にするのは、10μm未満まで主材粒子を微粒子化するには多大な労力がかかり、コスト高となるためである。
【0033】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて詳しく説明する。
[予備検討]
まず、電池の作製に先立って、本発明で使用する負極と正極の単極評価を実施した。
【0034】
1.負極評価▲1▼
負極材料X、Y、Zの調製
(i)スリランカ原鉱の天然黒鉛を粉砕・高純度化して得た鱗片状天然黒鉛粒子に対し、機械的な衝撃を加えて塊状に形状調整(球形化)して、塊状天然黒鉛を得た。これを黒鉛Xとした。
(ii)フェノール樹脂を不活性ガス雰囲気下で焼成した後に粒度調整を行い、難黒鉛化性炭素を得た。これを助材Yとした。
(iii)塊状黒鉛Xを分級して微粒のみを抽出し、これを助材Zとした。
負極材料X、Y、Zの物性の概略を表1に示す。なお、D50は、レーザー回折式粒度分布測定(湿式法)により求めた体積分率50%時の粒径である。
【0035】
【表1】
Figure 0004177574
【0036】
負極の作製
(i)評価負極x
100重量部の黒鉛Xに、1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC:増粘材)水溶液を100重量部と、結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョンとを加え、十分に混練して、負極合材スラリを作製した。ここで、SBRの添加量は、黒鉛Xの100重量部に対して、固形分で2重量部となるように調整した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いて銅箔(厚さ10μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃の熱風で乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さ75μmで、密度が1.6g/cm3の負極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのニッケル製リードを取りつけ、評価負極xとした。
【0037】
(ii)評価負極y
助剤Yを用いて、上記と同様にして、評価負極yを作製した。ただし、助剤Yは、粉末の真密度が低く、負極合材層の密度を1.6g/cm3まで上げるのは実質上極めて困難であるため、ロールプレスによる圧延では、合材層の密度を1.0g/cm3に調整した。
(iii)評価負極z
助剤Zを用いて、上記と同様にして、評価負極zを作製した。ただし、評価負極yと同様に、負極合材層の密度を1.0g/cm3に調整した。
【0038】
作製した評価負極x〜zを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレンの多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、下記に示す充電と放電を3サイクル繰り返し、負極の可逆容量と初回充放電ロス(不可逆容量)の測定を実施した。
【0039】
充電:定電流定電圧(CCCV)方式
定電流0.5mA/cm2、カット電圧0V(vsLi/Li+
定電圧0V維持、カット電流0.05mA/cm2
雰囲気温度20℃
放電:定電流(CC)方式
定電流1.0mA/cm2、カット電圧1.5V(vsLi/Li+
雰囲気温度20℃
【0040】
この測定により得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロスあるいは不可逆容量)を表2に示す。なお、放電容量に関しては、0〜0.5Vまでの容量と、0〜1.5Vまでの容量を読み取るものとした。
【0041】
【表2】
Figure 0004177574
【0042】
この結果から、黒鉛Xは、ほぼ黒鉛の理論値に近い可逆容量と、35mAh/gの充放電ロスを持つことが解った。助材Yは、放電電位の平坦性が乏しいため、0.5Vまでの放電容量は290mAh/gと小さいものの、1.5Vまでの容量は黒鉛の理論容量を越える高い可逆容量(420mAh/g)を有していた。また、助材Yは、不可逆容量も大きい点から、極めて多くのサイトにリチウムを吸蔵しうるという一般に知られている特徴が確認された。一方、助材Zは、黒鉛Xと殆ど同じ値を示す点が確認された。
【0043】
2.負極評価▲2▼
次に、黒鉛Xに、助材Y、Zを混合した負極材料の特性を評価した。
活物質A〜Fの調製
(i)95重量部の黒鉛Xに、5重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Aを作製した。
(ii)90重量部の黒鉛Xに、10重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Bを作製した。
(iii)80重量部の黒鉛Xに、20重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Cを作製した。
(iv)70重量部の黒鉛Xに、30重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Dを作製した。
(v)65重量部の黒鉛Xに、35重量部の助材Yを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Eを作製した。
(vi)80重量部の黒鉛Xに、20重量部の助材Zを加え、乾式のミキサー内で十分に混合分散させて、活物質Fを作製した。
【0044】
作製した6種類の活物質を用いて、それぞれ負極評価▲1▼の際と同様の手順で負極合材スラリを作製し、これらを銅箔上に塗布して熱風乾燥させた後、ロールプレスを用いて圧延し、負極合材層の厚さが75μmで、密度が1.6g/cm3になるように調整した。そして、これらを所定の大きさに裁断加工し、集電のためのニッケル製リードを取りつけて6種類の評価負極を作製した。以下では、活物質A〜Fに対応する負極をそれぞれa〜fと表す。
【0045】
これら6種の負極を、負極評価▲1▼と同様に100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレン多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、負極評価▲1▼の際と同じ試験条件で単極評価を実施した。この測定で得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロス)をまとめて表3に示す。
【0046】
【表3】
Figure 0004177574
【0047】
これより、混合材料を用いて作製した各負極は、負極評価▲1▼で得られた負極x、y、zでの実測値と、混合材料の各材料の配合比率とから加成計算で予想される値と、ほぼ同じだけの放電容量(可逆容量)、充放電ロスを与えることが解った。
【0048】
3.負極評価▲3▼
上記の負極評価▲2▼において、黒鉛Xに助材Y、Zを混合した負極活物質の電気化学的な特性は明らかとなった。一方、電極作製時の負極活物質のハンドリング(扱いやすさ)も、例えば製造工程内で安定して電極を作製するといった観点から非常に重要である。そこで、その代表的な簡易評価として上記の活物質A〜F、及び黒鉛Xのスラリを銅箔上に塗布・乾燥させて所定の大きさに裁断した電極(未圧延状態)を用意した。この電極の圧延を、一定ギャップのロールプレス機(プレスのロール直径:300mm)を用いて5回繰り返し、圧延回数と合材層密度との関係を調べた。結果を図5にまとめる。
【0049】
この結果から、80重量部の黒鉛Xに20重量部の助材Zを添加した活物質Fは、主材の黒鉛Xを単独で用いたものよりも、合材層の圧延性が向上しており、高密度の成形が非常に容易となっている点が解る。これは活物質Fを用いた合材においては、塗布〜圧延時に主材の塊状天然黒鉛粒子Xの空隙を埋める形で、助材の微粒天然黒鉛粒子Zが配置(充填)された効果と考えられる。
【0050】
一方、助材Yを黒鉛Xに添加した活物質の場合、ある程度の添加量(5〜20重量%)までは、主材の塊状天然黒鉛粒子の空隙を埋める形で難黒鉛化性炭素粒子が配置(充填)される。従って、活物質A〜Cを用いた場合には、負極を高密度化するための圧延成形性は損なわれない。しかし、助材Yは、材料自身の真密度が黒鉛XあるいはZに比較して非常に小さいため、その添加量が30重量%の活物質Dの場合、1.4〜1.6g/cm3程度までの圧延成形がほぼ限界である。また、助材Yの添加量が35重量%の活物質Eでは、4〜5回の圧延を実施しなければ密度が1.4g/cm3をこえる合材層にすることができず、製造工程内で安定して電極作製するのは実質上困難と推察された。このように、高密度電極を作製する上での圧延成形性という観点から、難黒鉛化性炭素Yの添加量は30重量%以下に抑える必要のある点が解った。
【0051】
4.正極評価▲1▼
上記1〜3の予備検討で、負極の基本的な特性は明らかになったため、続いて正極の評価を行った。
正極活物質の調製
(i)Co34とLi2CO3の混合物を大気雰囲気下950℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiCoO2を作製した。
(ii)Ni(OH)2とLiOH・H2Oの混合物を酸素雰囲気下750℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiNiO2を作製した。
(iii)MnO2とLiOH・H2Oの混合物を大気雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整して、スピネル型構造のLiMn24を作製した。
【0052】
(iv)反応晶析でNi2+とMn2+を同時に共沈させてMn0.4Ni0.6(OH)2を得、これにLiOH・H2Oを混合して酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiMn0.4Ni0.62を作製した。
(v)反応晶析でNi2+とMn2+とCo2+を同時に共沈させてMn0.3Ni0.3Co0.4(OH)2とし、これにLiOH・H2Oを加えて酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiMn0.3Ni0.3Co0.42を作製した。
【0053】
これら5種の正極活物質を用いて、以下の手順で正極を作製した。
正極の作製
(i)95重量部のLiCoO2に導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、分散媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して正極合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ20μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃のドライエアで乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さが65μmで、密度が3.5g/cm3の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけ、評価正極gとした。
【0054】
(ii)LiCoO2の代わりにLiNiO2を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極hを作製した。
(iii)LiCoO2の代わりにLiMn24を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極iを作製した。
(iv)LiCoO2の代わりにLiMn0.4Ni0.62を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極jを作製した。
(v)LiCoO2の代わりにLiMn0.3Ni0.3Co0.42を用いたこと以外、正極gと同様にして、評価正極kを作製した。
作製した5種の評価正極g〜kを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレンの多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。次いで、下記に示す充電と放電を3サイクル繰り返し、正極の可逆容量と初回充放電ロス(不可逆容量)の測定を実施した。
【0055】
充電:定電流定電圧(CCCV)方式
定電流0.5mA/cm2、カット電圧4.25V(vsLi/Li+
定電圧4.25V維持、カット電流0.05mA/cm2
雰囲気温度20℃
放電:定電流(CC)方式
定電流1.0mA/cm2、カット電圧3.0V(vs Li/Li+
雰囲気温度20℃
【0056】
この測定により得られた、3サイクル目の放電容量(可逆容量)とその際の放電平均電圧、及び1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロスあるいは不可逆容量)をまとめて表4に示す。
【0057】
【表4】
Figure 0004177574
【0058】
この結果より、正極g(LiCoO2:標準材)と比較して正極h(LiNiO2)は180mAh/gと最大の可逆容量を有する反面、放電電圧が低く、不可逆容量が大きいという欠点のあることが解った。また、正極i(LiMn24)は放電電圧が高いが、可逆容量が118mAh/gと小さく、不可逆容量も比較的大きいという欠点のあることが確認できた。また、マンガンニッケル(コバルト)複合酸化物の活物質を用いた正極j、kは、いずれも正極g(LiCoO2)よりも高い可逆容量と同等の放電電圧を有するが、不可逆容量が多少大きいという欠点を持つことが解る。
【0059】
5.正極評価▲2▼
上記の正極評価▲1▼の結果から、リチウム二次電池の高容量化という観点からは、正極g(LiCoO2:標準材)よりも正極h(LiNiO2)が有望と考えられる。しかしながら、可逆容量の最も大きなLiNiO2は、3価ニッケルイオン:Ni3+がヤーン・テラー不安定性を持つことが主要因となって、充放電サイクルを繰り返した場合には、数十サイクルで構造変化に伴う容量劣化を引き起こす。そして、ニッケルイオンの一部を3価の状態が安定なコバルトイオン:Co3+、及び/またはアルミニウムイオン:Al3+で部分的に置換した複合酸化物:LiNi1-a-bCoaAlb2を用いると、改善効果が得られる点が知られている。
【0060】
そこで、本検討においても、以下の活物質を調製した。
正極活物質の調製
(i)Ni(OH)2の反応晶析においてNi2+とCo2+を共沈させてCo0.15Ni0.85(OH)2を調製し、これにLiOH・H2Oを混合して酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiCo0.15Ni0.852を作製した。
(ii)上記でCoの代わりにAlを用いること以外、同様にしてLiAl0.15Ni0.852を作製した。
(iii)Ni(OH)2の反応晶析においてNi2+とCo2+とAl3+とを共沈させてCo0.10Al0.05Ni0.85(OH)2.05を調製し、これにLiOH・H2Oを混合して酸素雰囲気下800℃で焼成後、粉砕・粒度調整してLiCo0.10Al0.05Ni0.852を作製した。
【0061】
上記3種を用いて正極を作製し、前記の正極h(LiNiO2)と比較した。
(i)95重量部のLiCo0.15Ni0.852に導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、分散媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して正極合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ20μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃のドライエアで乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さが65μmで、密度が3.5g/cm3の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけ、評価正極lとした。
(ii)LiCo0.15Ni0.852の代わりにLiAl0.15Ni0.852を用いたこと以外、正極lと同様にして、評価正極mを作製した。
(iii)LiCo0.15Ni0.852の代わりにLiCo0.10Al0.05Ni0.852を用いたこと以外、正極lと同様にして、評価正極nを作製した。
【0062】
正極l〜nと前記で作製した正極hとを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレン多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。そして、正極評価▲1▼の際と同じパターンの充電と放電を50サイクル繰り返す単極評価を実施した。この際に得られた3サイクル目の放電容量(可逆容量)とその際の放電平均電圧、1サイクル目の充電容量と1サイクル目の放電容量との差(充放電ロスあるいは不可逆容量)、及び50サイクル目の放電容量と容量維持率をまとめて表5に示す。
【0063】
【表5】
Figure 0004177574
【0064】
この結果から、LiNiO2のニッケルイオンの一部(この場合は15mol%)を3価の状態が安定なコバルトイオン:Co3+、及び/またはアルミニウムイオン:Al3+で部分的に置換した複合酸化物:LiCo0.15Ni0.852、LiAl0.15Ni0.852、及びLiCo0.10Al0.05Ni0.852は、初期(3サイクル時)においては、いずれもLiNiO2の有する高い可逆容量をある程度維持しながら、若干ではあるが放電電圧を高めている。また、同時に50サイクル経過時においてはLiNiO2の構造変化に伴う容量の劣化を大幅に抑制している点が確認できる。
【0065】
6.正極評価▲3▼
先述の正極評価▲1▼の結果から、正極j(マンガンニッケル複合酸化物)や正極k(マンガンニッケルコバルト複合酸化物)も、高容量化という観点では、正極e(LiCoO2:標準材)よりも有望と考えられる。しかしながら、これらの材料の欠点として合成の難しさが挙げられる。
これら材料の製造方法には、Ni2+とMn2+またはNi2+とMn2+とCo2+とを中和反応を利用した晶析法で共沈させてMnxNi1-x(OH)2ないしはMnyNizCo1-y-z(OH)2を合成し、これをLiOH・H2Oと混合して焼成する手法(共沈法)、Ni(OH)2とMnO2またはNi(OH)2とMnO2とCo34との混合粉末に、LiOH・H2Oを混合して焼成する手法(混合法)とがある。しかし、前者の共沈法においては、晶析反応時にMn2+が熱力学的に安定なMn4+にまで酸化されやすく、これを抑制しつつ、温度・pH等も厳密に制御して合成を行わなければうまく固溶体が形成できない。また、また後者の混合法では、焼成時に各金属イオンがうまく拡散して均一組成の固溶体を形成するように、材料混合条件や焼成時の反応炉内温度分布、温度プロファイル等の微妙な条件を制御せねばならない。従って、いずれもその合成は容易なものではない。
【0066】
そこで、これらに比べると材料の合成が容易なLiMn24と、LiNiO2、LiCo0.15Ni0.852、LiAl0.15Ni0.852、LiCo0.10Al0.05Ni0.852またはLiCoO2とを、表6に示すような比率で混合した正極活物質I〜VIの検討も行うことにした。ここでは、LiMn24の割合を30重量%で固定した。
【0067】
【表6】
Figure 0004177574
【0068】
正極の作製
(i)95重量部の正極活物質Iに導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、溶剤のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して正極合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをドクターブレードを用いてアルミニウム箔(厚さ20μm)上に一定の厚さに塗布し、これを80℃のドライエアで乾燥させた後に、ロールプレスを用いて圧延し、厚さが65μmで、密度が3.5g/cm3の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけ、評価正極oとした。
(ii)正極活物質Iの代わりに正極活物質IIを用いたこと以外、正極oと同様にして、評価正極pを作製した。
(iii)正極活物質Iの代わりに正極活物質IIIを用いたこと以外、正極oと同様にして、評価正極qを作製した。
(iv)正極活物質Iの代わりに正極活物質IVを用いたこと以外、正極oと同様にして、評価正極rを作製した。
(v)正極活物質Iの代わりに正極活物質Vを用いたこと以外、正極oと同様にして、評価正極sを作製した。
(vi)正極活物質Iの代わりに正極活物質VIを用いたこと以外、正極oと同様にして、評価正極tを作製した。
【0069】
作製した6種類の正極o〜tを100℃の真空雰囲気下で8時間乾燥させた。その後、対極と参照極には金属リチウム、電解液にはエチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液、セパレータにはポリエチレン多孔膜を用いて3極式のビーカーセルを構成した。そして、正極評価▲1▼の際と同じパターンの充電と放電を3サイクル繰り返し、正極の可逆容量とその際の放電平均電圧、及び初回充放電ロス(不可逆容量)の測定を実施した。得られた結果を表7にまとめて示す。
【0070】
【表7】
Figure 0004177574
【0071】
この結果から、LiMn24に対してLiNiO2、LiCo0.15Ni0.852、LiAl0.15Ni0.852、LiCo0.10Al0.05Ni0.852のそれぞれを混合して作製した活物質I〜IV(正極o〜r)は、およそ150〜160mAh/gの可逆容量と20〜25mAh/gの充放電ロスを与えていた。これは、正極j(マンガンニッケル複合酸化物)や正極k(マンガンニッケルコバルト複合酸化物)で得られた値とほぼ同じであることが解る。一方、LiMn24に対してLiCoO2を混合した活物質V(正極s)は、低い可逆容量に留まっている。また、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2とを混合して作製した活物質VI(正極t)は、活物質I〜IVほど高くはないが、145mAh/gと、LiCoO2を単独で用いた正極g(139mAh/g)よりも高い可逆容量を与えることが確認された。
【0072】
[リチウム二次電池の作製]
以上の結果から、本検討で使用する負極・正極の基本的な電気特性は明らかとなったため、次に、実際にリチウム二次電池を作製して各種特性の評価を行うものとした。ここで、リチウム二次電池の作製に際しては、すべて以下の手順によるものとした。
【0073】
(1)負極
100重量部の負極活物質に1重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC:増粘材)水溶液100重量部と、結着材であるスチレンブタジエンラバー(SBR)の水性ディスパージョンを加えて十分に混練して、合材スラリを作製した。ここでSBRの添加量は、負極活物質の100重量部に対する固形分の比率が2重量部となるように調整した。こうして作製したスラリを銅箔(厚さ10μm)の両面に塗工機を用いて一定の厚さに塗布し、100℃の熱風で乾燥させ、その後、ロールプレスを用いて圧延して厚さが75μm(電極の厚さとしては約160μm)で、密度が1.6g/cm3の負極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのニッケル製リードを取りつけて負極とした。
【0074】
(2)正極
95重量部の正極活物質に導電材としてのアセチレンブラック5重量部を加えて乾式のミキサー内で十分に混合分散した後、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部を添加し、分散媒のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適宜加えながら混練して合材スラリを作製した。こうして作製したスラリをアルミニウム箔(厚さ20μm)の両面に塗工機を用いて一定の厚さに塗布し、100℃のドライエアで乾燥させ、ロールプレスを用いて圧延して厚さが65μm(電極の厚さとしては約150μm)で、密度が3.5g/cm3の正極合材層を形成した。そして、これを所定の大きさに裁断加工して、集電のためのアルミニウム製リードを取りつけて正極とした。
【0075】
(3)電池の構成
作製した負極、正極、及び両者の間に介在させるポリエチレン多孔膜セパレータ(厚さ30μm)を、余分な水分を除去する目的で、負極と正極は100℃で8時間、セパレータは50℃で12時間、真空乾燥させた。
【0076】
以上の負極および正極をセパレータを挟持して捲回し、図6に示すように概四角柱状(横断面形状がおよそ長方形状)の極板群1を形成した。この概四角柱状の極板群1を633450サイズ(厚さ6.3mm×幅34mm×高さ50mm)の角型アルミニウム合金製電池ケース4に挿設した。次いで、上部の封口板5に正極リード2を、絶縁性ガスケットにより封口板とは電気的に隔絶された負極端子6に負極リード3をそれぞれ溶接した後、封口板5をレーザー溶接によって電池ケース4に接合した。そして、封口板に具備された注入口より非水電解液を注入し、真空含浸させた。そして、注入口が開いたままの状態で初回の部分充電を施し、初回充電の初期段階に負極上で電解液の分解等が起こって生ずるガスを十分に拡散除去させた。その後、注入口にアルミニウム合金製の封栓7をかぶせ、これをレーザーで溶接することにより、完全にケースを密閉し、リチウム二次電池とした。予備検討のデータに基づくこの電池の設計容量は900〜950mAh程度である。
【0077】
上記において、極板群の構成、正・負極リードの溶接、封口板のケースへの接合、電解液の注入・含浸、初回の部分充電、封栓による密閉の各工程は、すべて露点が−40℃以下のドライエア雰囲気下で実施した。また、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を体積比1:3で混合した溶媒に、1.5Mの濃度となるようにLiPF6を溶解させた溶液を使用した。さらに初回の部分充電に関しては、20℃雰囲気下で、充電レート0.1C(ここでは1C=900mAと仮定して90mA)で3時間実施するものとした。
【0078】
表8および9に示すような負極(負極活物質)と正極(正極活物質)の組み合わせで、上記した手順に従って、リチウム二次電池1〜62を作製した。
【0079】
【表8】
Figure 0004177574
【0080】
【表9】
Figure 0004177574
【0081】
ここで電池1〜14は、比較例であり、予備検討においてデータ収集を行った14種の正極g〜tと負極x(黒鉛X)の組み合わせである。
電池15、16、17は、比較例であり、それぞれ正極g(LiCoO2)、正極h(LiNiO2)、正極i(LiMn24)と負極c(黒鉛Xと助材Yを80:20で混合)の組み合わせである。
電池1〜2は、本発明の実施例となる電池で、正極j(LiMn0.4Ni0.62)と負極(黒鉛Xと助材Yの混合)を組み合わせたものである。電池18および22は、参考例となる電池で、正極jと負極aおよびeとを組み合わせたものである。電池23は、この比較例として正極jと負極f(黒鉛Xと助材Zを80:20で混合)を組み合わせたものである。
電池2〜2は、本発明の実施例となる電池で、正極k(LiMn0.3Ni0.3Co0.42)と負極を組み合わせたものである。電池24および28は、参考例となる電池で、正極kと負極aおよびeとを組み合わせたものである。電池29は、この比較例である。
電池30〜32は、比較例であり、ニッケルイオンの占有サイトをコバルトイオン及び/またはアルミニウムイオンによって部分的に置換して寿命特性を改善したLiNiO2正極(正極l〜正極n)と負極c(黒鉛Xと助材Yを80:20で混合)を組み合わせたものである。
電池3〜3は、本発明の実施例となる電池で、正極o(LiMn24とLiNiO2を30:70で混合)と負極(黒鉛Xと助材Yの混合)を組み合わせたものである。電池33および37は、参考例となる電池で、正極oと負極aおよびeとを組み合わせたものである。電池38はこの比較例として正極oと負極f(黒鉛Xと助材Zを80:20で混合)を組み合わせたものである。
電池39〜44は、正極p(LiMn24とLiCo0.15Ni0.852を30:70で混合)と負極a〜fを組み合わせたものである。なお、電池40〜42は実施例であり、電池39および43は参考例であり、電池44は比較例である。
電池45〜50は、正極q(LiMn24とLiAl0.15Ni0.852を30:70で混合)と負極a〜fを組み合わせたものである。なお、電池46〜48は実施例であり、電池45および49は参考例であり、電池50は比較例である。
電池51〜56は、正極r(LiMn24とLiAl0.10Co0.05Ni0.852を30:70で混合)と負極a〜fを組み合わせたものである。なお、電池52〜54は実施例であり、電池51および55は参考例であり、電池56は比較例である。
電池57〜62は、正極s(LiMn24とLiNiO2とLiCoO2とを30:30:40で混合)と負極a〜fを組み合わせたものである。なお、電池58〜60は実施例であり、電池57および61は参考例であり、電池62は比較例である。
【0082】
[電池の評価]
[1]初期特性と高温保存特性の評価
まず、上記62種の電池に関し、以下の条件で充放電サイクルを3サイクル繰り返して、3サイクル目の放電容量を確認した。
【0083】
充電:定電流定電圧(CCCV)方式
定電流0.2C to 4.2V、定電圧4.2V保持、2時間
放電:定電流(CC)連続放電、0.2C to 3.0V
雰囲気温度:20℃
【0084】
続いて、これら電池(完全放電状態)を60℃の高温環境雰囲気下に1ヶ月間保存(放置)し、その後、再び先記の条件で充放電サイクルを3サイクル繰り返して、3サイクル目の放電容量から高温保存後の電池容量を確認し、初期容量に対する高温保存後の容量回復率を算出した。結果をまとめて表10および11に示す。
【0085】
【表10】
Figure 0004177574
【0086】
【表11】
Figure 0004177574
【0087】
この結果より以下の傾向が読み取れる。
まず、14種の正極g〜tと負極x(黒鉛X)の組み合わせで作製したリチウム二次電池では、マンガン種を正極に含む電池3〜5、9〜14の保存後回復率が80%を下回る低い値となっている。
【0088】
この理由として、予備検討の正極評価においてマンガン種を含む正極i、j、k、o、p、q、r、s、tの充放電ロスはいずれも15〜25mAh/gと大きかったため、比較的充放電ロスの小さい負極xと組み合わせて作製したこれらの電池は、電池の容量設計バランスが図2のように放電末期の容量が正極に規制される形になったと考えられる。上記のように、電池を放電状態で保存した場合には、正極の電位が低い状態に保たれる。従って、長期間の保存(ここでは1ヶ月)を行った場合には、先述した式1の3価マンガンイオンの不均化反応に合わせて、式2に示した電気化学的な還元反応も起こり、正極活物質固相内に多量のMn2+が形成されたと考えられる。そして、ここでは特に電池を高温下(60℃)で保存したため、Mn2+の電解液中への溶解度が増してMn2+の溶出による正極活物質の崩壊(変質)と、溶出したMn2+が負極表面に金属Mnとなって析出する現象(式3、負極の不活性化)が継続的に進行し、その後の電池容量が大幅に低下したと推定される。特に、この現象は、正極活物質としてLiMn24を単独で用いた電池3(正極i)で最も顕著に表れている。
【0089】
また、同様の傾向は、マンガン種を含む正極j、k、o、p、q、r、tと負極f(黒鉛Xと助材Zを80:20で混合)とを組み合わせた電池23、29、38、44、50、56、62でも見られている。これは、予備検討において、負極fの充放電ロスの大きさが負極xと同じであった点から、上記と同じ理由によると推察される。
【0090】
一方、本発明の実施例および参考例の電池である電池18〜22、24〜28、33〜37、39〜43、45〜49、51〜55、57〜61は、高い容量回復率を維持しており、特に、難黒鉛化性炭素Yの配合比率を10重量%以上とした負極(負極b、c、d、e)を用いたものは、その改善効果が顕著である。これに関して、予備検討の負極評価の結果から、これら難黒鉛化性炭素を助材として一部含んだ負極は、塊状天然黒鉛Xを単独で用いた負極xに比べて充放電ロスが大きい。これは難黒鉛化性炭素の、初期充電時にリチウムを吸蔵できるサイトが黒鉛よりも多い反面、放出しないリチウムも比較的多いという特性を反映したものである。このため、難黒鉛化性炭素を助材として一部含んだ負極とマンガン種を含む正極とで作製した本発明の実施例の電池では、正極と負極の設計的な充放電ロスの大きさが図3のように同程度か、ないしは図4のように負極充放電ロスの方が多少大きくなり、放電末期の容量が負極に規制される形になったと考えられる。従ってこれら電池では、完全放電状態においても正極の電位は高く保たれ、少なくとも先述の式2に示した正極電位の低下に伴う電気化学的な還元反応によるMn2+の生成が抑止されて、電池を高温下で保存した場合の正極中のMn2+の生成とその溶出に伴う、正・負極容量の劣化を最小限に抑えることができたものと推定される。
【0091】
[2]安全性試験
上記[1]の評価から、少なくとも本発明の電池形態によれば、マンガン種を含む正極と黒鉛系負極とを用いて作製したリチウム二次電池の最大の欠点である高温保存特性に関して、コバルト酸リチウム正極−黒鉛系負極の組み合わせ(電池1)と比較しても、さほど大きく劣らない程度まで改善されることが解った。そこで、次に本発明の実施例および参考例の電池18〜22、24〜28、33〜37、39〜43、45〜49、51〜55、57〜61と、比較として電池1、電池15(LiCoO2を正極材に用いた電池)、さらに上記の高温保存特性に関しては問題の見受けられないLiNiO2ないしはNiの一部をCo及び/またはAlによって部分的に置換した改良材料を単独で正極活物質に用いた電池2、6、7、8、16、30、31、32に関して、電池の発火に対する安全性試験として、以下の4つを実施した。
【0092】
(1)満充電状態電池の圧壊試験(丸棒によるクラッシュ試験、20℃雰囲気)
(2)満充電状態電池の釘刺し試験(釘刺し速度:20mm/秒、20℃雰囲気)
(3)満充電状態電池の昇温、耐熱試験(20℃より1℃/分で150℃まで昇温した後、150℃で60分間保持)
(4)過充電試験(充電器の故障等を想定し、1.5Cの定電流で電池電圧が12Vに達するまで連続充電、20℃雰囲気)
上記安全性試験における電池発火の有無を表12にまとめて示す。
【0093】
【表12】
Figure 0004177574
【0094】
この結果より、LiNiO2ないしはNiの一部をCo及び/またはAlによって部分的に置換した改良材料を単独で正極活物質に用いた電池2、6、7、8、16、30、31、32では、LiCoO2を正極材料に用いた一般的な電池1、15に比べて、いずれの安全性項目についても大きく劣る点が解る。細部に到るメカニズムに関しては不明であるが、この結果は、主に正極活物質の充電状態における熱的安定性の相違を反映していると推察される。正極活物質中に固溶させたNiイオンの4価状態の安定性がさほど大きくないこと等により、充電状態での正極の安定性が低化した点に起因すると考えられる。
【0095】
これに比較して、本発明の実施例および参考例の電池18〜22、24〜28、33〜37、39〜43、45〜49、51〜55、57〜61は、電池1、電池6(LiCoO2を正極材に用いた電池)と同等の安全性を確保している点が解る。これは、正極活物質中に固溶させたマンガンイオンが4価の状態が安定であり、充電状態において酸素イオンを材料内から放出(解離)させない性質を持つためと考えられる。すなわち、正極j(LiMn0.4Ni0.62)、k(LiMn0.3Ni0.3Co0.42)ではニッケルイオンの一部を部分的に置換したマンガンイオンが前記効果を発現することで正極の安定性を高めたと考えられる。また、正極p(LiMn24とLiCo0.15Ni0.852との混合)、q(LiMn24とLiAl0.15Ni0.852との混合)、r(LiMn24とLiCo0.10Al0.05Ni0.852との混合)、t(LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との混合)では、混合したLiMn24が、充電状態において酸素イオンを材料内から放出(解離)させない上述の性質を持つため、これを混合することでLiNiO2種の熱的な不安定性が補完され、正極全体としての安全性が向上した結果と推察される。
【0096】
以上[1][2]に示した電池評価の結果から、本発明の実施例および参考例の電池18〜22、24〜28、33〜37、39〜43、45〜49、51〜55、57〜61は、電池1、電池6(LiCoO2を正極材に用いた電池)とほぼ同等の高温保存特性と安全性を確保している点が解る。従って、本発明の電池構成とすれば、LiMn24とLiNiO2の混合物やLiMnxNi1-x2、LiMnyNizCo1-y-z2といったマンガンニッケル(コバルト)複合酸化物の高容量、及び安価という利点を活かしつつ、同リチウム二次電池の信頼性を一層高めることができる点が理解できる。
【0097】
なお、本発明の実施例においては、負極の主材である黒鉛として塊状天然黒鉛を使用したが、コークスないしはこれとコールタールピッチとの造粒粒子等を黒鉛化した人造黒鉛、黒鉛化MCMBやバルクメソフェーズ粉砕粒の黒鉛化材、黒鉛化MCFを用いても同様のリチウム二次電池を作製することができる。また、負極合材層の密度に関して、実施例では1.6g/cm3としたが、1.4〜1.8g/cm3の範囲内で同様のリチウム二次電池を作製することができる。
【0098】
実施例中ではLiMn24とLiNiO2の混合物におけるLiMn24の混合比率を30重量%としたが、20〜50重量%の範囲であればよい結果が得られる。LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との混合物に関して、LiMn24の混合比率、LiNiO2の混合比率をともに30重量%としたが、いずれの比率に関しても20〜40重量%の範囲とすれば同様の結果が得られる。この際、LiNiO2の代替として、LiCo0.15Ni0.852、LiAl0.15Ni0.852、LiCo0.10Al0.05Ni0.852の3種を検討したが、LiNi1-a-bCoaAlb2(0<a+b≦0.25)であれば、ほぼ同様の結果を得ることができる。マンガンニッケル(コバルト)複合酸化物としてLiMn0.4Ni0.62、LiMn0.3Ni0.3Co0.42を使用したが、LiMnxNi1-x2としては0<x<0.5、LiMnyNizCo1-y-z2としては0<y<0.4、0<z<0.4の範囲にある層状構造の複合酸化物を使用すれば、詳細な材料の作製法に関わらず、同様のリチウム二次電池とすることができる。また、正極合材層の密度に関して、実施例では3.5g/cm3としたが、3.3〜3.7g/cm3の範囲内で同様のリチウム二次電池を作製することができる。
【0099】
さらに電池の形態について、本発明の実施例では概四角柱状の電極群を角型アルミニウム合金製電池ケースに挿設する形態(図6)としたが、本発明自体はこれに限定されるものではない。
【00100】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、マンガン種を含む正極を用いたリチウム二次電池の高温保存特性を大幅に改善することができ、結果として、高エネルギー密度で安全性に優れた、信頼性の高いリチウム二次電池を安価に提供することが可能となる。従って、産業上の価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なリチウム二次電池の容量設計バランスの概念を表す図である。
【図2】NiO2層状構造を含む充放電ロスの大きい正極と黒鉛負極とでリチウム二次電池を構成した場合の容量設計バランスの概念を表す図である。
【図3】本発明にかかるリチウム二次電池の容量設計バランスの概念を表す図である。
【図4】本発明にかかる別のリチウム二次電池の容量設計バランスの概念を表す図である。
【図5】予備検討で用いた負極の圧延回数と負極合材層の密度との関係を示す図である。
【図6】実施例で作製したリチウム二次電池の一部を切り欠いた斜視図である。
【符号の説明】
1 極板群
2 正極リード
3 負極リード
4 電池ケース
5 封口板
6 負極端子
7 封栓

Claims (8)

  1. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm3の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm3の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn24とLiNiO2とからなる活物質(a)またはLiMn24とLiNiO2とLiCoO2とからなる活物質(c)をみ、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であり、
    活物質(a)または(c)において、LiNiO 2 は、ニッケルイオンの一部が、コバルトイオンおよびアルミニウムイオンよりなる群から選ばれた少なくとも1種のイオンで置換されたLiNi 1-a-b Co a Al b 2 (0<a+b≦0.25)の組成を有する、リチウム二次電池。
  2. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm 3 の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm 3 の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn 2 4 とLiNiO 2 とからなる活物質(a)を含み、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であり、
    活物質(a)において、LiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2との総重量の20〜50重量%であるリチウム二次電池。
  3. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm 3 の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm 3 の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn x Ni 1-x 2 からなる活物質(b)を含み、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であり、
    活物質(b)において、x値が、0<x<0.5であるリチウム二次電池。
  4. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm 3 の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm 3 の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn 2 4 とLiNiO 2 とLiCoO 2 とからなる活物質(c)を含み、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であり、
    活物質(c)において、LiMn24の含有率は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との総重量の20〜40重量%であるリチウム二次電池。
  5. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm 3 の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm 3 の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn 2 4 とLiNiO 2 とLiCoO 2 とからなる活物質(c)を含み、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%で あり、
    活物質(c)において、LiNiO2の含有率は、LiMn24とLiNiO2とLiCoO2との総重量の20〜40重量%であるリチウム二次電池。
  6. 銅箔と、前記銅箔上に形成された密度が1.4〜1.8g/cm 3 の負極合材層とからなる負極、アルミニウム箔と、前記アルミニウム箔上に形成された密度が3.3〜3.7g/cm 3 の正極合材層とからなる正極、ならびに非水電解液を具備してなるリチウム二次電池であって、
    前記負極合材層が、黒鉛と難黒鉛化性炭素とを含み、前記正極合材層が、LiMn y Ni z Co 1-y-z 2 からなる活物質(d)を含み、
    前記難黒鉛化性炭素の含有率は、黒鉛と難黒鉛化性炭素との総量の10〜30重量%であり、
    活物質(d)において、y値が、0<y<0.4、z値が、0<z<0.4であるリチウム二次電池。
  7. 前記黒鉛は、塊状天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化されたメソカーボンマイクロビーズ、バルクメソフェーズ粉砕粒の黒鉛化材および黒鉛化されたメソフェーズ系炭素繊維よりなる群から選ばれた少なくとも1種からなる請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池。
  8. 前記黒鉛の平均粒子径は、10〜40μmであり、前記難黒鉛化性炭素の平均粒子径は、前記黒鉛の平均粒子径の70%以下である請求項1〜6のいずれかに記載のリチウム二次電池。
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