JP4162373B2 - 光起電力装置の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、集積型の光起電力装置に関し、特に酸化亜鉛からなる透明電極を備えた光起電力装置の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽電池に代表される光起電力装置は、太陽光を直接電気に変換することができることから、新しいエネルギー源として実用化が進められている。斯かる光起電力装置を構成する材料としては、従来単結晶シリコンや多結晶シリコン等の結晶系半導体材料や、GaAs、InP等の化合物半導体材料、或いは非晶質シリコンや非晶質シリコンゲルマニウム等の非晶質半導体材料が知られている。このうち非晶質半導体材料を用いた光起電力装置は、他の材料を用いた光起電力装置に比べて製造温度が低く、且つ容易に大面積化を図ることができ、1枚の基板上で容易に集積化が図れるという特徴を有している。
【0003】
図1は、斯かる非晶質半導体材料を用いた集積型の光起電力装置の構成を示す断面構造図である。同図を参照して、集積型の光起電力装置につき説明する。基板1はガラス或いはプラスチック等の透光性且つ絶縁性を有する材料からなり、該基板1表面に複数の第1電極2…が分割配置されている。該第1電極2は通常酸化錫(SnO2)膜から構成されており、その表面には基板1側から入射した入射光を散乱させるための粗面が設けられている。この粗面は通常テクスチャ面と呼ばれている。
【0004】
光電変換層3は非晶質半導体材料からなり、通常は第1電極2側から順に、厚さ約100Å程度のp型非晶質シリコンカーバイド膜、厚さ4000Å程度の真性非晶質シリコン膜、及び厚さ200Å程度のn型非晶質シリコン膜が積層されて構成される。また、第2電極4は、AgやAl等の高反射性の金属膜から構成される。
【0005】
そして、上記第1電極2、光電変換層3及び第2電極4の積層体から単位セル10が構成され、相隣接する単位セル10同士は、一方の単位セル10の第1電極2と他方の単位セル10の第2電極4とが電気的に結合されることにより、互いに電気的に直列接続されている。
【0006】
図2は、斯かる従来の光起電力装置の製造工程を説明するための工程別断面構造図である。
まず、図2(A)に示す如く、基板1表面にテクスチャ面を有する酸化錫(SnO2)膜からなる透明電極膜21が形成される。図2(B)に示す如く、透明電極膜21の所定部がレーザ光の照射により除去され、複数の第1電極2…に分割される。
【0007】
次いで、図2(C)に示す如く、第1電極2…上を含んで基板1上に、内部にpin接合を有する非晶質半導体膜31が形成される。
【0008】
そして、図2(D)に示す如く、非晶質半導体膜31の所定部がレーザ光の照射により除去されて、複数の光電変換層3…に分割される。
【0009】
さらに、図2(E)に示す如く、光電変換層3…上を含んで基板1上に金属膜4が形成される。そして、この金属膜41の所定部がレーザ光の照射により除去されて複数の第2電極4に分割されることで、図1に示した光起電力装置が製造される。
【0010】
ところで、従来透明電極としての第1電極を構成する材料としては上述したように、SnO2が用いられている。然し乍ら、SnO2の形成には500℃程度以上の高温を必要とするために製造コストの増大を招くと共に、プラスチック基板等の耐熱性の低い基板を用いることができず、基板選択の自由度も小さかった。
【0011】
そこで、近年第1電極を酸化亜鉛から構成することが検討されている。即ち、酸化亜鉛はスパッタ法を用いて200℃程度以下の低温で作製できるために、製造コストの低減を図ることができ、且つ基板温度選択の自由度も大きくなると言った利点を有する。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
然し乍ら、本出願人らが鋭意検討したところ、第1電極として酸化亜鉛を用いた場合、酸化亜鉛膜の所定部をレーザ光の照射により除去して複数の第1電極に分割する際に、相隣接する第1電極間の電気的な分離がSnO2膜を用いた場合に比べて困難であるという課題を見出した。このために、第1電極を酸化亜鉛から構成した光起電力装置においては隣接する単位セル間での漏れ電流が発生しやすく、光電変換特性の低下を招いていた。
【0013】
まず、本願発明者等は、上述の課題が生じる原因について鋭意検討した。その結果推察された原因について、図3に示す概念的な断面図を参照して説明する。尚、同図において図1と同様の機能を呈する部分には同一の符号を付している。
【0014】
まず、酸化亜鉛膜に照射するレーザ光の強度が大きい場合、酸化亜鉛膜の温度上昇により、当該酸化亜鉛膜中に含まれる抵抗値を下げるためのAl或いはMg若しくはGa等のドーピング材が基板1中に拡散し、図3(A)に示す如く基板1表面に拡散領域1Aが形成される。そして、斯かる拡散領域1Aを介して相隣接する第1電極2、2間での漏れ電流が発生するものと考えられる。
【0015】
一方、斯かる拡散領域1Aの形成を抑制せんとしてレーザ光の強度を小さくすると、図3(B)に示すが如く酸化亜鉛膜21の残留物21Aが発生し、この残留物21Aを介して相隣接する第1電極2間での漏れ電流が発生するものと考えられる。
【0016】
以上のように、第1電極を酸化亜鉛から構成した場合、照射するレーザ光の強度が大きいと酸化亜鉛中に含まれるAl、MgやGa等のドーピング材の拡散により基板表面に拡散領域が形成され、レーザ光の強度が小さいと酸化亜鉛の残留物が生じる。そして、これら拡散領域或いは残留物を介して相隣接する第1電極間での漏れ電流が生じるために、光電変換特性が低下していたものと推察される。
【0017】
また、近年、ガラス基板を用いた薄膜半導体装置は、大型化する傾向にあり、特に屋外で使用されることが多い太陽電池装置等は、機械的強度が要求されている。しかしながら、その対策としては、プロセスが煩雑で低コスト化が難しい強化ガラスとの貼り合わせや、十分な強度や膜特性を持たせることが難しい透明電極付きガラス基板を後から強化処理する方法が検討されているにすぎなかった。ここで、強化処理したガラスは強化処理後にガラス溶融点に近い500℃程度以上に温度を上げてしまうと、強化処理の効果がなくなって、強度が低下してしまう問題がある。上記したSnO2膜は一般に用いられている材料であるにも関わらず、通常、この500℃以上の温度で形成しなければ十分な特性が得られないことから強化ガラスを基板として利用することができない。このため、透明電極を付けた後でガラス基板を強化処理する方法が検討されている。
【0018】
さらに、透明電極をエネルギービームを用いて加工する際には、瞬間的に融点である2000℃程度までその部分が温度上昇するように、エネルギーを加えなければならない。そのため、500℃以下の温度で良好な特性の透明電極が形成できたとしてもその透明電極を複数の領域に分割するためにエネルギービームを照射した場合には、ガラス側にもその照射エネルギーによる熱が伝わる。この結果、温度が局所的には500度以上まで上昇してしまい、ガラスのその部分が微小なクラックの発生や強度の不均一低下により、かえって全体として強度が不十分なものになってしまう。
【0019】
従って、本発明は斯かる従来の課題を解決し、酸化亜鉛からなる第1電極を備えた光起電力装置において、光電変換特性の向上が図れる製造方法を提供することを目的とする。
【0020】
また、本発明は、基板として強化ガラスを用いることができ、機械的強度が十分で且つ光電変換特性の向上が図れる製造方法を提供することを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記従来の課題を解決するために、本発明は、透明基板表面に、酸化亜鉛からなる第1電極と、光電変換層と、第2電極とからなる複数の単位セルを備える光起電力装置の製造方法であって、基板表面に酸化亜鉛膜を形成する工程と、該酸化亜鉛膜の所定部をエネルギービームの照射により前記透明基板側に所定の膜厚以上残した状態で除去して、該酸化亜鉛膜を複数の第1電極に予備的に分割する工程と、予備的に複数に分割された前記第1電極を備える前記基板表面にエッチング処理を施し、隣り合う分割領域の電気的分離を行う工程と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、前記エッチング処理より、前記第1電極の表面にテクスチャ面を形成することを特徴とする。
【0023】
上記したように、本発明にあっては酸化亜鉛膜の所定部をエネルギービームの照射により除去し、複数の第1電極に分割した後に、エッチング処理を施すことによって、基板表面に形成された拡散領域或いは酸化亜鉛の残留物できる。従って、本発明によれば相隣接する第1電極間の漏れ電流を従来に比べ大幅に低減することが可能となり、優れた光電変換特性を有する光起電力装置を製造することが可能となる。
【0025】
前記透明基板として、強化ガラスを用いることができる。
【0026】
上記したように、エネルギービームにより複数の領域に分割する工程において、意図的に透明電極のガラス基板側に所定の膜厚以上の透明電極を残し、エッチング工程により、隣り合う分割領域電気的分離を行うことにより、エネルギービームによる透明電極加工時にガラス側にもその照射エネルギーにより熱が伝わることによる微小なクラックの発生や強度の不均一低下により基板強度が低下するといった問題点を解決できる。
【0027】
更に、エネルギービームによる透明電極の加工時に発生する飛散物の付着により完全に分離できない場合のエッチングの適用の際に問題となっていた基板と透明電極間のエッチングが進行し易い部分のオーバーエッチング現象を防止でき、加工部近傍の透明導電膜の剥離防止によるデバイスの信頼性及び特性向上が可能となる。
【0028】
なお、上記した第2の構成によれば、ガラス融点にまで温度が上昇することがなくなり、強化処理の効果を維持することができるので、強化ガラスを用いる場合に特に有効である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以上の知見をもとに得られた本発明の実施の形態に係る光起電力装置の製造方法について、以下に説明する。尚、本実施形態に係る製造方法の大部分の工程は従来の工程と同一であるので、前述の図2並びに本発明の特徴を示す図4を参照して説明する。
【0030】
まず、図2(A)に示す如く、基板1上にスパッタ法を用いて酸化亜鉛膜21を形成する。
【0031】
次に、図2(B)に示す如く、酸化亜鉛膜21の所定部をレーザ光の照射により除去して複数の第1電極2…に分割する。この段階で、前述の図3に示した如く基板1中の拡散領域1A又は酸化亜鉛膜の残留物21Aが生成されているものと考えられる。
【0032】
次いで、この複数に分割された前記第1電極2を備える基板1表面にエッチング処理を施す。そして、本発明においては斯かるエッチング処理を施すことにより、上記拡散領域1A又は酸化亜鉛の残留物21Aを除去する。従って、エッチング処理としてはドライエッチングを用いても良いし、或いはウェットエッチングを用いても良いが、拡散領域1Aが形成された基板1を除去できる方法、或いは酸化亜鉛の残留物21Aを除去できる方法で行う必要がある。このためにはエッチングに用いるエッチングガス或いはエッチング溶液の選定が重要であり、基板1の構成材料又は酸化亜鉛をエッチングすることができるエッチングガス或いはエッチング溶液を選択して用いる必要がある。例えば、ウェットエッチングを用いてエッチング処理を行う場合には塩酸溶液や酢酸溶液を用いることが好ましい。また、これに限らず、基板1を構成する材料或いは酸化亜鉛をエッチングできるものであれば、他のエッチングガス或いはエッチング溶液を用いることができることは言うまでもない。
【0033】
次いで、図2(C)に示す如く、エッチング処理の施された第1電極2上を含んで基板1上に、プラズマCVD法を用いて厚さ約100Åのp型非晶質シリコンカーバイド膜、膜厚約4000Åの真性非晶質シリコン膜及び膜厚約200Åのn型非晶質シリコン膜をこの順に積層することにより非晶質半導体膜31を形成する。
【0034】
そして、図2(D)に示す如く、非晶質半導体膜31の所定部をレーザ光の照射により除去し、複数個の光電変換層3に分割する。
【0035】
さらに、図2(E)に示す如く、光電変換層3上を含んで基板1上にスパッタ法を用いて銀からなる金属膜41を形成する。そして、この金属膜41の所定部をレーザ光の照射により除去して複数の第2電極4に分割することで、集積型の光起電力装置が製造される。
【0036】
以上のように、本発明にあっては酸化亜鉛膜をレーザ光の照射により除去した後に、エッチング処理を施すことによって、基板1表面に形成された拡散領域1A或いは酸化亜鉛の残留物21Aを除去している。従って、本発明によれば相隣接する第1電極間の漏れ電流を従来に比べ大幅に低減することが可能となり、優れた光電変換特性を有する光起電力装置を製造することが可能となる。
【0037】
以下に、本発明の第1実施例について、図4を参照してさらに説明する。
【0038】
この第1実施例にあっては、図4(A)に示す如く、基板1としてガラス基板を用意する。基板サイズは、30×40cm、厚み5mmである。
【0039】
図4(B)に示す如く、この基板1表面の略全面にスパッタ法を用いて厚さ約1μmの酸化亜鉛膜21を形成した。酸化亜鉛膜の形成条件は表1の通りである。
【0040】
【表1】
【0041】
次に、図4(C)に示す如く、この酸化亜鉛膜21の所定部を、波長1.06μm、パルス周波数3kHz、強度4.0×107W/cm2のYAGレーザの照射により除去して複数の第1電極2…に分割した。尚、この条件のYAGレーザ照射によれば酸化亜鉛膜21を完全に除去することができず、基板1表面に酸化亜鉛の残留物21Aが観察された。
【0042】
次いで、図4(D)に示す如く、複数の第1電極2…が形成された基板1を0.5wt.%の塩酸溶液中に30秒間程度浸漬することによりエッチング処理を施し、その後に基板1を純水により洗浄した。加えて、斯かる条件のエッチング処理によれば、第1電極2の表面にテクスチャ面が形成された。
【0043】
そして、上記した図2に示す如く、第1電極2上を含んで基板1上に、プラズマCVD法を用いて厚さ約100Åのp型非晶質シリコンカーバイド層、厚さ約1500Åの真性非晶質シリコン層、厚さ約200Åのn型微結晶シリコン層、厚さ約100Åのp型非晶質シリコン層、厚さ約1000Åの真性非晶質シリコンゲルマニウム層、厚さ約200Åのn型非晶質シリコン層をこの順で積層することにより、非晶質半導体膜31を形成した。各層の形成条件は表2に示す通りである。また、反応圧力は50Paに制御した。
【0044】
【表2】
【0045】
そして、この非晶質半導体膜31の所定部分を、波長1.06μm、パルス周波数3kHz、強度1.3×108W/cm2のYAGレーザの照射により除去し、複数の光電変換層3…に分割した。
【0046】
さらに、この光電変換層3上を含んで基板1上にスパッタ法を用いて厚さ約1μmの銀からなる金属膜41を形成し、この金属膜の所定部分を波長0.51μm、強度2×103W/cm2のArレーザの照射により除去して複数の第2電極4に分割することにより、実施例の光起電力装置を製造した。
【0047】
また、比較のために、第1電極2を分割した後にエッチング処理を施さない以外は第1実施例と同一の方法で、比較例の光起電力装置を製造した。
【0048】
まず、実施例の光起電力装置と比較例の光起電力装置のそれぞれについて、隣接する第1電極2間の抵抗値を測定した結果を表3に示す。また、実施例の光起電力装置と比較例の光起電力装置のそれぞれに対してAM1.5、100mW/cm2の光を照射し、光電変換特性を測定した結果を表4に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
表3から明らかなように、本第1実施例装置の方が隣接する第1電極2の絶縁抵抗が向上している。また、これに伴い、表4に示すが如く、本第1実施例の装置の方が曲線因子が向上することにより、高い光電変換率を得ることができた。
【0052】
以上説明した如く、本発明によれば酸化亜鉛を第1電極として用いたときにあっても、従来に比べて優れた光電変換特性を有する光起電力装置を製造することができる。
【0053】
加えて、第1電極分割後に施すエッチング処理を、該第1電極表面にテクスチャ面を形成できる方法で行うと、該テクスチャ面により入射光が散乱されることにより光電変換特性が向上するので、更に好ましい。
【0054】
ところで、透明電極をエネルギービームを用いて加工する際には、瞬間的に融点である2000℃程度までその部分が温度上昇するように、エネルギーを加えなければならない。そのため、透明電極を複数の領域に分割するためにエネルギービームを照射した場合には、ガラス側にもその照射エネルギーによる熱が伝わる。この結果、温度が局所的には500℃以上まで上昇してしまい、ガラスのその部分が微小なクラックの発生や強度の不均一低下が生じることがある。
【0055】
また、上記したように、エネルギービームによる透明電極の分離加工時に発生する飛散物の付着により完全に電気的に分離できない場合には、エッチング等のプロセスにより分離を図ることが有効である。その際、図5に示すように、基板1と透明電極2間のエッチングが進行し易い部分21Bのオーバーエッチング現象により、加工部近傍の透明電極2の剥離等によりデバイスの信頼性及び特性低下が生じる虞がある。
【0056】
そこで、以下に示す第2の実施例においては、強化ガラスの利用を容易にし、且つオーバーエッチング現象の発生しない方法を提供する。
【0057】
以下に、本発明の第2の実施例について、図6を参照して説明する。
この第2の実施例にあっては、図6(A)に示す如く、基板1として強化ガラス基板を用いた。基板サイズは、30×40cm、厚み5mmである。そして、図6(B)に示す如く、この基板1表面の略全面にスパッタ法を用いて厚さ8000Åの酸化亜鉛膜21を形成した。酸化亜鉛膜の形成条件は上述した表1の通りである。
【0058】
次に、図6(C)に示す如く、酸化亜鉛膜21の所定部を、波長1.06μm、パルス周波数3kHzのNd:YAGレーザを用いて、この実施例では、2.0×106W/cm2のレーザパワー密度、10mm/秒の加工速度で、光起電力装置が35段集積接続となるように分割加工した。このYAGレーザの照射による分割加工は、分割部分に意図的に酸化亜鉛膜21Cを残す。上記条件のYAGレーザの照射により、加工後に膜厚約2000Åの酸化亜鉛膜21が意図的に残した。
【0059】
次いで、図6(D)に示す如く、上記レーザ加工を施した基板1を1.0wt.%の塩酸溶液中に20秒間程度浸漬することによりエッチング処理を施して分割部分に残存した酸化亜鉛膜の除去を行い、その後に基板1を純水により洗浄した。この条件におけるエッチングによる酸化亜鉛膜のエッチング膜厚は約2500Åであり、残存した酸化亜鉛膜が除去され、複数の第1電極2が形成される。そして、斯かる条件のエッチング処理によれば、第1電極2の表面にテクスチャ面が形成された。このエッチング処理の後、エネルギービームの加工断面を1万倍のSEMにより観察した。この観察の結果、加工部には、酸化亜鉛膜の残留物はなかった。更に、テスターにより隣接する第1電極2間の抵抗値を測定したところ、1MΩ以上と電気的に分離されていることを確認した。
【0060】
そして、第1電極2上を含んで基板1上に、プラズマCVD法を用いて厚さ約100Åのp型非晶質シリコンカーバイド層、厚さ約1500Åの真性非晶質シリコン層、厚さ約200Åのn型微結晶シリコン層、厚さ約100Åのp型非晶質シリコン層、厚さ約1000Åの真性非晶質シリコンゲルマニウム層、厚さ約200Åのn型非晶質シリコン層をこの順で積層することにより、非晶質半導体膜31を形成した。各層の形成条件は前述した表2に示す条件と同じ条件で形成した。
【0061】
その後、この非晶質半導体膜31の所定部分を、波長0.53μm、パルス周波数3kHz、YAGレーザ第2高調波を用いて、良好な加工性が得られる強度2×107W/cm2のレーザパワー密度、10mm/秒の加工速度で照射して、複数の光電変換層3に分割した。
【0062】
さらに、この光電変換層3上を含んで基板1上にDCスパッタ法を用いて厚さ約4000Åのアルミニウムからなる金属膜41を形成した。この膜の形成は、Ar400sccmの1Paの雰囲気下で大きさ300cm2のAlターゲーットに、0.1kWの電力を印加して行った。この金属膜の所定部分を波長0.53μm、パルス周波数3kHz、YAGレーザ第2高調波を用いて、良好な加工性が得られる強度2×107W/cm2のレーザパワー密度、10mm/秒の加工速度で除去して複数の第2電極に分割することにより、第2の実施例の光起電力装置を製造した。
【0063】
また、比較のために、上記した第1の実施例に示すように、厚さ8000Åの酸化亜鉛膜21の所定部を、波長1.06μm、パルス周波数3kHzのNd:YAGレーザを用いて、2.0×107W/cm2のレーザパワー密度、10mm/秒の加工速度で、光起電力装置が35段集積接続となるように分割加工した。上記レーザ加工を施した基板1を1.0wt.%の塩酸溶液中に20秒間程度浸漬することにより、エッチング処理を施して酸化亜鉛の残留物の除去を行い、その後に基板1を純水により洗浄した。その後、第2の実施例2と同じ方法で第1の実施例の光起電力装置を製造した。第2の実施例の光起電力装置と第1の実施例の光起電力装置のそれぞれに対してAM1.5、100mW/cm2、の光を照射し、25℃の条件下で光電変換特性を測定した結果を表5に示す。
【0064】
【表5】
【0065】
表5より、第2の実施例の方が、第1の実施例に比べて、F.Fが向上している。
【0066】
段面SEMにより、素子断面を観察したところ、第1の実施例においては、エッチング後に、ガラス基板と酸化亜鉛膜の界面部分でオーバーエッチング現象による酸化亜鉛膜の剥離が見られ、これによるリーク成分の増加がF.Fが低下した原因であると考えられる。これに対して、第2の実施例では、オーバーエッチング現象は全く見られなかった。
【0067】
また、第1の実施例、第2の実施例の青板ガラス、強化ガラスそれぞれ用いた場合の母数50の場合での平均破壊加重の比較を第6表に示す。
【0068】
【表6】
【0069】
第6表から明らかなように、強化ガラスを用いた第2の実施例においては強化ガラスとしての強度が十分維持できている。これに対して、第1の実施例においては、強化ガラスを基板として用いているにもかかわらず、強化処理を行っていない青板ガラスを用いた場合より強度が低下している。また、同じ青板ガラス基板同士でも、第2の実施例を適用した場合の方が強度が若干優れていることが確認された。
【0070】
これは、レーザによる透明電極の分離加工を行った際に、下地のガラス側にもその照射エネルギーによる熱が伝わることで、強化ガラスであっても温度が局所的には500℃以上まで上昇してしまい、その部分の強度が不均一に低下してしまいかえって全体としても強度が不十分なものになってしまったためと考えられる。また、SEM断面による加工部のガラス表面を観察したところ、第1の実施例では一部に微小なクラックが見られるのに対して、第2の実施例では、全くクラックの発生がなく、第2の実施例により機械的強度の向上が可能であることが分かった。
【0071】
次に、本発明の第2の実施例において、エネルギービームにより複数の領域に分割する工程において、意図的に透明電極のガラス基板に残す膜の膜厚を変化させた。即ち、エネルギービームにより複数の領域に分割する工程において、レーザパワー及び/又は加工速度を調整して、意図的に残す透明電極の膜厚を変化させた。そして、これらの基板を用いて太陽電池の出力の相対比較を行った。表7においては、レーザパワーを変化させ、加工速度は10mm/秒で一定にした。規格化は、残存させた膜厚2000Åの場合にて行った。エッチングは1wt.%の塩酸により20秒行った。この場合のエッチングの膜厚は2500Åであった。
【0072】
【表7】
【0073】
表7より、エッチングの膜厚に比べて10%以下の膜厚を意図的に残しても、オーバーエッチングの抑制には十分ではなく、出力の低下を招いた。今回の実験では、エッチング膜厚に比べて20%以上の膜厚手は、第1の実施例よりは出力の改善が見られ、エッチング膜厚まではその優位性が確認できた。また、エッチング膜厚以上の膜厚では、効果がないのは明らかであり、望ましくはエッチング膜厚の80%以下20%以上である。
【0074】
上記した第2の実施例においては、エネルギービームにより複数の領域に分割する工程において、意図的に透明電極のガラス基板側に所定の膜厚以上の透明電極を残し、エッチング工程により、隣り合う分割領域電気的分離を行うことにより、従来問題となっていたエネルギービームによる透明電極加工時にガラス側にもその照射エネルギーにより熱が伝わることによる微小なクラックの発生や強度の不均一低下により基板強度が低下するといった問題点を解決できる。
【0075】
更には、エネルギービームによる透明電極の加工時に発生する飛散物の付着(数10Å以下の膜厚)により完全に分離できない場合のエッチングの適用の際に問題となっていた基板と透明電極間のエッチングが進行し易い部分のオーバーエッチング現象を防止でき、加工部近傍の透明導電膜の剥離防止によるデバイスの信頼性及び特性向上が可能となる。
【0076】
なお、本発明の第2の実施例は、強化ガラスを用いた場合に更に効果的であり、強化処理したガラスはガラス融点に近い500℃程度以上に温度を上げてしまうと、強化処理の効果がなくなってしまう。そこで、上記絶縁膜及び透明導電膜は基本的にこの500℃以下で形成されることになる。酸化錫に比べて、特に酸化亜鉛を用いた場合には、500℃以下でも比較的良好な光透過率や導電率が得られるため好適である。
【0077】
また、本実施例においては、透明電極として、DCスパッタによる酸化亜鉛を用いたが、これは300℃という比較的低い基板温度でも良好な膜特性が得られるためであり、500℃程度以下で十分な導電特性が得られるのであれば、酸化錫などの別材料、MOCVDなどの別の形成方法でも適用可能である。
【0078】
また、本実施例では、ガラス基板表面に絶縁無機材料の被覆は施していないが、絶縁膜材料の被覆を施したガラス基板でも効果があることが確認されている。
【0079】
また、上記実施例においては、積層型の太陽電池装置にこの発明を適用した例につき説明したが、pinの単層の太陽電池装置にこの発明は勿論適用することができる。
【0080】
また、上記実施例においては、非晶質シリコン及び非晶質炭化シリコン及び微結晶シリコンを構成要素とする光起電力装置への適用について述べたが、他の構成要素を含む薄膜半導体を用いた他の構造の半導体素子でも同様の効果が得られるのはもちろんである。
【0081】
尚、本発明は太陽電池に限らず、光センサ等他の光起電力装置についても適用できることは言うまでもない。
【0082】
また、上記実施例においては、透明電極の分離加工用のエネルギービームとしてYAGレーザ光を用いたが、エキシマレーザのラインビームによる分離加工を適用してもよいことはもちろんである。
【0083】
【発明の効果】
以上のように、本発明にあっては、酸化亜鉛膜の所定部をエネルギービームの照射により除去し、複数の第1電極に分割した後に、エッチング処理を施すことによって、基板表面に形成された拡散領域或いは酸化亜鉛の残留物を除去する。従って、本発明によれば、相隣接する第1電極間の漏れ電流を従来に比べ大幅に低減することが可能となり、優れた光電変換特性を有する光起電力装置を製造することができる。
【0084】
また、エネルギービームにより複数の領域に分割する工程において、意図的に透明電極のガラス基板側に所定の膜厚以上の透明電極を残し、エッチング工程により、隣り合う分割領域電気的分離を行うことにより、エネルギービームによる透明電極加工時にガラス側にもその照射エネルギーにより熱が伝わることによる微小なクラックの発生や強度の不均一低下により基板強度が低下するといった問題点を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】光起電力装置の断面構造図である。
【図2】光起電力装置の製造工程を説明するための工程別構造断面図である。
【図3】従来の課題が生じる原因を説明するための概念的な断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例にかかる光起電力装置の製造工程の要部を説明するための工程別構造断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例にかかる光起電力装置の課題部分を示す断面構造図である。
【図6】本発明の第2の実施例にかかる光起電力装置の製造工程の要部を説明するための工程別構造断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 第1電極
3 光電変換層
4 第2電極
1A 拡散領域
21A 残留物
Claims (6)
- 透明基板表面に、酸化亜鉛からなる第1電極と、光電変換層と、第2電極とからなる複数の単位セルを備える光起電力装置の製造方法であって、
基板表面に酸化亜鉛膜を形成する工程と、
該酸化亜鉛膜の所定部をエネルギービームの照射により前記透明基板側に所定の膜厚以上残した状態で除去して、該酸化亜鉛膜を複数の第1電極に予備的に分割する工程と、
予備的に複数に分割された前記第1電極を備える前記基板表面にエッチング処理を施し、隣り合う分割領域の電気的分離を行う工程と、
を備えることを特徴とする光起電力装置の製造方法。 - 前記透明基板は強化ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の光起電力装置の製造方法。
- 前記透明基板側に残す膜厚は、エッチング処理で除去するエッチング膜厚の20%以上80%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光起電力装置の製造方法。
- 前記エネルギービームは、YAGレーザの固体レーザビーム若しくはエキシマレーザのラインビームであることを特徴とする請求項1に記載の光起電力装置の製造方法。
- 前記エッチング処理により、前記第1電極の表面にテクスチャ面を形成することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光起電力装置の製造方法。
- 前記エッチング処理は、酸を用いたウェットエッチング或いはハロゲン系ガスを用いたドライエッチングにより行われることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の光起電力装置の製造方法。
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