JP4021669B2 - インク組成物、及びインクジェット記録方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フタロシアニン化合物を含むインク組成物、特にシアン色インクジェット記録用水溶性インクと、そのインク保存安定性の改良方法、フタロシアニン化合物の析出防止方法及びインクジェット記録方法並びインクジェット記録の利用による画像記録物のオゾンガス褪色耐性の改良方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、画像記録材料としては、特にカラー画像を形成するための材料が主流であり、具体的には、インクジェット方式の記録材料、感熱転写方式の記録材料、電子写真方式の記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等が盛んに利用されている。また、撮影機器ではCCDなどの撮像素子において、ディスプレーではLCDやPDPにおいて、カラー画像を記録・再現するためにカラーフィルターが使用されている。これらのカラー画像記録材料やカラーフィルターでは、フルカラー画像を再現あるいは記録する為に、いわゆる加法混色法や減法混色法の3原色の色素(染料や顔料)が使用されているが、好ましい色再現域を実現出来る吸収特性を有し、且つさまざまな使用条件、環境条件に耐えうる堅牢な色素がないのが実状であり、改善が強く望まれている。
【0003】
インクジェット記録方法は、材料費が安価であること、高速記録が可能なこと、記録時の騒音が少ないこと、更にカラー記録が容易であることから、急速に普及し、更に発展しつつある。インクジェット記録方法には、連続的に液滴を飛翔させるコンティニュアス方式と画像情報信号に応じて液滴を飛翔させるオンデマンド方式が有り、その吐出方式にはピエゾ素子により圧力を加えて液滴を吐出させる方式、熱によりインク中に気泡を発生させて液滴を吐出させる方式、超音波を用いた方式、あるいは静電力により液滴を吸引吐出させる方式がある。また、インクジェット用インクとしては、水性インク、油性インク、あるいは固体(溶融型)インクが用いられる。
【0004】
このようなインクジェット用インクに用いられる色素に対しては、溶剤に対する溶解性あるいは分散性が良好なこと、高濃度記録が可能であること、インク保存安定性に優れること、色相が良好であること、光、熱、環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)に対して堅牢であること、水や薬品に対する堅牢性に優れていること、受像材料に対して定着性が良く滲みにくいこと、インクとして長期保存性に優れていること、毒性がないこと、純度が高いこと、更には、安価に入手できることが要求されている。
【0005】
良好なシアン色相を有し、光、湿度、熱に対して堅牢な色素であること、中でも多孔質の白色無機顔料粒子を含有するインク受容層を有する受像材料上に印字する際には環境中のオゾンなどの酸化性ガスに対して堅牢であることが望まれているが、特にインク保存安定性との両立が強く望まれている。
【0006】
これまでシアン色素としては、殆どの場合、色相と光堅牢性に優れたフタロシアニン化合物が使用されているが、酸化性ガス、特にオゾンに対しては充分な堅牢性を有しておらず、インク安定性をも満足できていないので改良が望まれている。
【0007】
最も広範囲に報告され、利用されている代表的なフタロシアニン化合物としては、以下の▲1▼〜▲6▼で分類されるフタロシアニン誘導体が挙げられる。
【0008】
▲1▼Direct Blue 86又はDirect Blue 199のような銅フタロシアニン化合物[例えば、Cu-Pc-(SO3Na)m:m=1〜4の混合物](以下,Pcはフタロシアニン骨格を意味する)。
【0009】
▲2▼特開昭62−190273号、特開昭63−28690号、特開昭63−306075号、特開昭63−306076号、特開平2−131983号、特開平3−122171号、特開平3−200883号、特開平7−138511号等に記載のフタロシアニン色素[例えば、Cu-Pc-(SO3Na)m(SO2NH2)n:m+n=1〜4の混合物]
【0010】
▲3▼特開昭63−210175号、特開昭63−37176号、特開昭63−304071号、特開平5−171085号、特開平10−36741号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu-Pc-(CO2H)m(CONR1R2)n:m+n=0〜4の混合物〕
【0011】
▲4▼特開昭59−30874号、特開平1−126381号、特開平1−190770号、特開平6−16982号、特開平7−82499号、特開平8−34942号、特開平8−60053号、特開平8−113745号、特開平8−310116号、特開平10−140063号、特開平10−298463号、特開平11−29729号、特開平11−320921号、EP173476A2号、EP468649A1号、EP559309A2号、EP596383A1号、DE3411476号、US6086955号、WO 99/13009号、GB2341868A号等に記載のフタロシアニン色素[例えば、Cu-Pc-(SO3H)m(SO2NR1R2)n:m+n=0〜4の混合物、且つ、m≠0]
【0012】
▲5▼特開昭60−208365号、特開昭61−2772号、特開平6−57653号、特開平8−60052号、特開平8−295819号、特開平10−130517号、特開平11−72614号、特表平11−515047号、特表平11−515048号、EP196901A2号、WO 95/29208号、WO 98/49239号、WO 98/49240号、WO 99/50363号、WO 99/67334号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu-Pc-(SO3H)l(SO2NH2)m(SO2NR1R2)n:l+m+n=0〜4の混合物〕
【0013】
▲6▼特開昭59−22967号、特開昭61−185576号、特開平1−95093号、特開平3−195783号、EP649881A1号、WO 00/08101号、WO 00/08103号等に記載のフタロシアニン色素〔例えば、Cu-Pc-(SO2NR1R2)n:n=1〜5の混合物〕
【0014】
ところで、現在一般に広く用いられているDirect Blue 87又はDirect Blue 199に代表されるフタロシアニン色素については、一般に知られているマゼンタ色素やイエロー色素、トリフェニルメタン系シアン色素に比べ耐光性に優れるという特徴がある。
しかしながら、フタロシアニン色素は酸性条件下ではグリーン味の色相であり、シアンインクには不適当である。そのためこれらの色素をシアンインクとして用いる場合は中性からアルカリ性の条件下で使用するのが最も適している。しかしながら、インクが中性からアルカリ性でも、用いる被記録材料が酸性紙である場合印刷物の色相が大きく変化する可能性がある。
さらに、昨今環境問題として取りあげられることの多い酸化窒素ガスやオゾン等の酸化性ガスによってもグリーン味に変色及び消色し、同時に印字濃度も低下してしまう。
今後、使用分野が拡大して、広告等の展示物に広く使用されると、光や環境中の活性ガスに曝される場合が多くなるため、特に良好な色相を有し、光堅牢性及び環境中の活性ガス(NOx、オゾン等の酸化性ガスの他SOxなど)堅牢性に優れた色素及びインク組成物がますます強く望まれるようになる。
【0015】
一方、インクジェット記録方式のインク(以下、後者をインクジェット記録用インクともいう)としては水系のインクが主に用いられている。水系インクは、基本的に色素、水及び有機溶剤から構成されており、臭気、人体及び周辺環境への安全性の配慮から、水を主溶媒とする。また、色素としては、一般的には酸性染料、塩基性染料、反応性染料及び直接染料等の水溶性染料が使用されている。
【0016】
このようなインクジェット記録用インク(及び色素)に関しては、以下に示す様々な要求特性が挙げられる。
【0017】
すなわち、
(1)インクの粘度、表面張力、比電導度、密度、pH等の物性値が適当であること、
(2)インクの長期保存安定性が良好であること、
(3)溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせないこと、
(4)被記録材での速乾性が良好であること、
(5)記録画像が鮮明であり、耐光性、耐水性が良好であること、
などであるが、従来のインクはこれら全ての特性を満足するには至っていない。
【0018】
通常使用されている水系インクの場合、水溶性染料を使用している。このため、記録画像に水が掛かった場合は染料が溶出し、記録画像が滲んだり、消失してしまうなど耐水性に大きな問題がある。特にインクジェット記録方式におけるヘッドの目詰まりが課題であり、現在、インク保存安定性を主眼とした様々の検討がなされている。
【0019】
例えば、顔料あるいは油溶性染料を色素として用いたインクや、水溶性染料を用いた水性インクに有機溶剤や樹脂等を添加する方法などが検討されている。しかしながら、顔料を用いたインクは分散安定性が悪く保存安定性が劣ったり、ノズルの目詰まりを引き起こす等の問題がある。また、油溶性染料を用いたインクでは有機溶剤が使用されているため、臭気など環境衛生等に問題があったり、インクの滲みが大きく画像品位の低下を招くなどの問題があった。また、添加剤を加えたインクの場合でも、保存安定性が劣ったり、ノズルの目詰まり、あるいはインクが高粘度化しインクの飛翔が悪い等の問題点もあった。
【0020】
特開2000−303014号、特開2000−313837号等に開示のものは、分散安定性が良化され、優れた保存安定性を示すフタロシアニン顔料に関するものであるが、いずれも色相と光及び酸化性ガス堅牢性を両立させるには至っておらず、市場の要求を充分に満足する製品を提供するには至っていない。
【0021】
最近では特開平6−340835号公報、特開平12−239584号公報、WO00/08102号等に染料又は顔料によって着色されたポリエステル樹脂を分散質とする水系分散体を用いたインクが記載されている。しかしながら、この方法を利用しても前記課題が未だ充分に解決されておらず、他方、染料についても、画像濃度の低下、耐水性の低下、保存安定性、ノズルの目詰まり等に直接関与する樹脂との相溶性や着色樹脂微粒子の平均粒径の制御が課題であると記されている。
【0022】
従来、使用されているインクジェット用の水性シアン色インクには、銅フタロシアニン化合物をスルホン化したスルホ基やスルホ基の塩を置換基とする銅フタロシアニン化合物等の水溶性染料が用いられている。このような化合物の合成法においては、スルホ基の導入数をコントロールすることが難しく、スルホ基が分子中に1又は2個導入された水溶性の低い副生成物が混入してくる。そのため、インク保存安定性は不充分となり目詰まりを生じる。
【0023】
また、油溶性染料としては、スルファモイル基及び/又はスルホ基とアミン化合物とのイオン対を含むスルホン酸のアンモニウム塩を有するフタロシアニン化合物が知られている。このフタロシアニン化合物は、金属フタロシアニン化合物をクロルスルホン酸でクロロスルホン化した後、取り出して得られたフタロシアニン化合物のクロロスルホン化体とアミン化合物とを反応させて製造される(例えば、細田豊著「理論製造染料化学」昭和43年7月15日5版発行、(株)技報堂発行、798〜799頁)。この製造法ではフタロシアニン化合物のクロルスルホン体とアミン化合物との反応において、スルホン酸アミド基が形成される他に、クロロスルホニル基が一部加水分解して、スルホ基として残存したり、スルホ基とアミン化合物との対イオンを形成したスルホン酸のアンモニウム塩を含むフタロシアニン化合物が得られる。
【0024】
このようにして得られたフタロシアニン化合物をインクジェット記録用色素として用いた場合、インクの溶媒に対する溶解性が低くインクの調製ができなかったり、必要な濃度のインクが作製できないなどの問題点がある。また、残存スルホ基の影響で、普通紙に印字した時に滲みが生じたり、記録画像の耐水性が悪くなったり、その他の諸特性に好ましくない影響を与えることがあった。
【0025】
このようにインク、特にインクジェット記録方式に用いられるインクの諸特性は、色素固有の特性に依存するところが大きく、前記の諸条件を満たす色素を選択することが極めて重要である。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、
(1)色再現性に優れた吸収特性を有し、且つ光,熱,湿度及び環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する新規な着色組成物を提供すること、
(2)とりわけ、上記(1)に記載の特性を有し,かつ、インクジェット記録などの印刷用のインクなどに用いられる各種着色組成物を提供すること、
(3)更に、該フタロシアニン色素誘導体の使用により良好な色相を有し、光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性が高く、耐水性に優れた画像を形成することができ、特にインクの長期保存安定性に優れた、インクジェット記録用インク及びインクジェット記録方法及び形成画像の保存安定性の改良方法を提供すること、及び
(4)上記のインクジェット記録方法を利用することによって、画像記録物のオゾンガス褪色耐性を向上させる画像堅牢化方法を提供することを目的とする。
【0027】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、良好な色相と光、ガス(特にオゾンガス)に対し高堅牢でインクの長期保存安定性の高いフタロシアニン化合物を詳細に検討したところ、従来知られていない(1)特定の吸収特性、(2)特定の酸化電位、(3)特定の色素構造、(4)インク中での結晶析出がなく高い水溶性、また耐水性を有する下記一般式( III )で表されるフタロシアニン化合物を含有する着色組成物により、上記目的が達成されることを見出し、この新規な知見を用い、本発明を完成するに至った。すなわち、上記の本発明の課題は、下記の手段によって達せられる。
【0028】
すなわち、本発明は、下記の着色組成物、インクジェット用インク、インクジェット記録方法及びオゾンガス褪色耐性の改良方法、中でもインク保存安定性改良方法によって達せられる。
1.酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であるフタロシアニン化合物において、不斉炭素が少なくとも一つ含有することを特徴とする着色組成物。
2.酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であるフタロシアニン化合物において、不斉炭素が少なくとも一つ含有することを特徴とする着色組成物を用いる事による画像のオゾン耐性改良方法。
3.酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であり、分子量が680〜3500の範囲のフタロシアニンにおいて、不斉炭素が少なくとも一つ含有することを特徴とする着色組成物。
4.酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であり、分子量が680〜3500の範囲のフタロシアニンにおいて、不斉炭素が少なくとも一つ含有することを特徴とする着色組成物を用いる事による画像のオゾン耐性改良方法。
5.下記一般式(III)で表される化合物中に不斉炭素を少なくとも一つ有することを特徴とするインク。
【0029】
【化4】
【0030】
一般式(III)中、X1、X2、X3及びX4はそれぞれ独立に−SO−Z、−SO 2 −Z、−SO 2 NR 1 R 2 、−CONR 1 R 2 、−CO 2 R 1 又は−COR 1 を表す。
Zはそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。但し、X 1 、X 2 、X 3 、X 4 のいずれかに少なくとも一つの不斉炭素を有する。a1〜a4は、それぞれX1〜X4の置換基数を表す。a1〜a4はそれぞれ独立に1又は2の整数を表す。なお、a1〜a4が2を表す時、複数のX1〜X4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。Mは水素原子、金属原子又はその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物である。
【0034】
6.支持体上に白色無機顔料粒子を含有する受像層を有する受像材料にインク滴を記録信号に応じて吐出させ、受像材料上に画像を記録するインクジェット記録方法であって、前記5に記載のインクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
7.一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物の水溶液の分光吸収において、分光吸収曲線における660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nmから640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの吸光度比b/aが1未満であるフタロシアニン化合物を含有する着色組成物。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0036】
[フタロシアニン化合物]
本発明に用いるフタロシアニン化合物(本発明の化合物と称する)は、分子内に少なくとも一つの不斉炭素を含有することから、同一構造に対して複数の立体異性体が存在するが、本発明においては、可能性のある全ての立体異性体を包含している。本発明のインクは複数の立体異性体の一種、又はその複数を混合物として含有する。また、本発明の化合物において、不斉炭素が複数の場合、1つの置換基に2つ以上存在してもよく、また別々の置換基に跨って存在しても良い。
【0037】
一般に、分子に不斉炭素を導入することで、複数の立体異性体が存在するようになると、立体異性体間の積み重なりは不可能なので、結晶化を阻害することができ、インク中における色素の保存安定性の改良が期待できる。
【0038】
本発明者らは、数種のフタロシアニン化合物の結晶性、保存安定性について検討したところ、不斉炭素を導入することで、上記課題を解決でき、導入前から有していた物性(良好な色相、堅牢性等)と両立可能なことを見出した。
【0039】
本発明では、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、フタロシアニン骨格に電子求引性基を導入して酸化電位を1.0V(vs SCE)よりも貴とすることが望ましい。酸化電位は貴であるほど好ましく、酸化電位が1.1V(vs SCE)よりも貴であるものがより好ましく、1.2V(vs SCE)より貴であるものが最も好ましい。
【0040】
本発明者らは着色画像のオゾンガス堅牢性について研究したところ、着色画像に用いる化合物の酸化電位とオゾンガス堅牢性との間に相関があり、酸化電位の値が飽和カロメル電極(SCE)に対して1.0Vよりも貴であるフタロシアニン化合物を用いてオゾンガス堅牢性がより改良されることが分かった。
【0041】
着色画像のオゾンガス堅牢性が改良される理由としては、化合物とオゾンガスのHOMO(最高被占軌道)及びLUMO(最低空軌道)の関係によって説明できる。すなわち、着色化合物のHOMOとオゾンガスのLUMOとの反応により着色化合物が酸化されて、その結果着色画像のオゾンガス堅牢性が低下していると考えられるため、オゾンガス堅牢性を向上させるには、化合物のHOMOを下げてオゾンガスとの反応性を低下させればよい。
【0042】
酸化電位の値は、試料から電極への電子の移りやすさを表わし、その値が大きい(酸化電位が貴である)ほど試料から電極への電子の移りにくい、言い換えれば、酸化されにくいことを表わす。化合物の構造との関連では、電子求引性基を導入することにより酸化電位はより貴となり、電子供与性基を導入することにより酸化電位はより卑となる。
【0043】
酸化電位の測定方法は下記に詳述するが、化合物がボルタンメトリーにおいて陽極で、化合物の電子が引き抜かれる電位を意味し、その化合物の基底状態におけるHOMOのエネルギーレベルと近似的に一致すると考えられている。
【0044】
酸化電位の値(Eox)は当業者が容易に測定することができる。この方法に関しては、例えばP.Delahay著“New InstrumentalMethods in Electrochemistry”(1954年 Interscience Publishers社刊)やA.J.Bard他著“Electrochemical Methods”(1980年 JohnWiley & Sons社刊)、藤嶋昭他著“電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)に記載されている。
【0045】
酸化電位の測定について具体的に説明する。酸化電位は、過塩素酸ナトリウムや過塩素酸テトラプロピルアンモニウムといった支持電解質を含むジメチルホルムアミドやアセトニトリルのような溶媒中に、被験試料を1×10-4〜1×10-6mol・dm-3の濃度に溶解して、サイクリックボルタンメトリーや直流ポーラログラフィーを用いてSCE(飽和カロメル電極)に対する値として測定する。
また、用いる支持電解質や溶媒は、被験試料の酸化電位や溶解性により適当なものを選ぶことができる。用いることができる支持電解質や溶媒については藤嶋昭他著“電気化学測定法”(1984年 技報堂出版社刊)101〜118ページに記載がある。
【0046】
酸化電位の値は、液間電位差や試料溶液の液抵抗などの影響で、数10ミルボルト程度偏位することがあるが、標準試料(例えばハイドロキノン)を用いて校正することにより、測定された電位の値の再現性を保証することができる。
【0047】
本発明における酸化電位は、0.1mol・dm-3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド中(化合物の濃度は1×10-3mol・dm-3)で、参照電極としてSCE(飽和カロメル電極)、作用極としてグラファイト電極、対極として白金電極を使用し、直流ポーラログラフィーにより測定した値を使用する。
【0048】
また、化合物の構造によっても酸化電位は異なるため、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるためには、元々酸化電位が貴である色素構造を選択したほうが、オゾンガス堅牢性の観点だけでなく、その他の堅牢性、色相、物性などを調節するために電子求引性基又は電子供与性基を任意に導入することができるため、分子設計の観点からもより好ましいと言える。
【0049】
例えば、求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、化合物の構造のうち任意の位置に電子求引性基を導入して酸化電位をより貴とすることが好ましい。従って、置換基の電子求引性や電子供与性の尺度であるハメットの置換基定数σp値を用いれば、σp値が大きい置換基を導入することにより酸化電位をより貴とすることができる。
【0050】
ハメットの置換基定数σp値について説明する。ハメット則は、ベンゼン誘導体の反応又は平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L. P. Hammettにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば、J. A. Dean編“Lange's Handbook of Chemistry”第12版(1979年 McGraw-Hill)や「化学の領域」増刊、122号、96〜103頁(1979年 南光堂)に詳しい。
【0051】
本発明に用いるフタロシアニン化合物は、溶液の分光吸収曲線における660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nmから640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの吸光度比b/aが1未満であって、かつ一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物である。本明細書においては、吸光度比は下記の条件のもとで得られる吸光度比を指している。すなわち、JIS Z8120-86の定義に準拠する分光光度計によって、測定温度を15〜30℃の範囲から選択し、測定セル長10mmとし、本発明のフタロシアニン化合物を2.5mg〜3.5mgの範囲でメスフラスコに秤量した後に、蒸留水を加え溶解させながら100mlになるまで蒸留水を添加して得られた溶液で分光吸収曲線を求め、求めた分光曲線の660nmから680nmに至る吸収帯内の最大吸光度bと、600nmから640nmに至る吸収帯内の最大吸光度aとの比b/aをもって吸光度比とする。
【0052】
上記の吸光度比の求め方を説明する。上記分光光度計,測定セル長、pHの条件のもとで、縦軸を吸光度(ABS)、横軸を波長(nm)にとったフタロシアニン化合物水溶液の分光吸収曲線において、660nmから680nmにおける最大吸光度bが1.0(0.8〜1.0であればよい)になるように蒸留水で希釈して測定されており、このときの600nm〜640nmにおける最大吸光度aを読みとって本発明で規定した条件下での吸光度比b/aが容易に求められる。なお、水溶液の調製や希釈に用いる上記の蒸留水としてはpHが5〜8内にある蒸留水を用いるものとする。
【0053】
この吸光度比b/aの値が1未満の水溶性フタロシアニン化合物であると、着色剤としての形成画像の堅牢性(特に、光堅牢性及びオゾンガス堅牢性)がより良好な特性を有する。吸光度比b/aの値が0.8未満であることが好ましく、0.6以下であることが特に好ましい。
【0054】
次に本発明のインクに用いられる下記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物について詳細に説明する。本発明のインクは、着色剤として下記一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物を含有する。
【0055】
【化7】
【0056】
一般式(III)中、X1、X2、X3及びX4はそれぞれ独立に−SO−Z、−SO 2 −Z、−SO 2 NR 1 R 2 、−CONR 1 R 2 、−CO 2 R 1 又は−COR 1 を表す。これらの不斉炭素を有する置換基は、フタロシアニンの各ベンゼン環に少なくとも一つずつ有することが好ましく、フタロシアニン骨格全体の置換基のσp値の合計で1.6以上となるように導入することが好ましい。これらの置換基の中でも、−SO−Z、−SO2−Z、−SO2NR1R2、又は−CONR1R2が好ましく、特に−SO2−Z、又は−SO2NR1R2が最も好ましい。ここで、前述のように、その置換基数を表すa1〜a4が2を表す時、複数のX1〜X4はそれぞれ同一でも異なっていても良く、それぞれ独立に上記のいずれかの基を表す。
【0057】
Zはそれぞれ独立に置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。好ましくは、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基であり、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換複素環基が最も好ましい。
【0058】
R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のシクロアルキル基、置換もしくは無置換のアルケニル基、置換もしくは無置換のアラルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基を表す。好ましくは水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基であり、その中でも水素原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換複素環基が最も好ましい。但し、R1,R2がいずれも水素原子であることは好ましくない。
【0059】
R1、R2及びZが表す置換もしくは無置換のアルキル基としては、炭素原子数が1〜30のアルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0060】
R1、R2及びZが表す置換もしくは無置換のシクロアルキル基としては、炭素原子数が5〜30のシクロアルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0061】
R1、R2及びZが表す置換もしくは無置換のアルケニル基としては、炭素原子数が2〜30のアルケニル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルケニル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0062】
R1、R2及びZが表す置換もしくは無置換のアラルキル基としては、炭素原子数が7〜30のアルキル基が好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、分岐のアルキル基が好ましく、特に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が特に好ましい。置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が染料の会合性を高め堅牢性を向上させるので特に好ましい。この他、ハロゲン原子やイオン性親水性基を有していても良い。
【0063】
R1、R2及びZが表す置換もしくは無置換のアリール基としては、炭素原子数が6〜30のアリール基が好ましい。置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。中でも染料の酸化電位を貴とし堅牢性を向上させるので電子吸引性基が特に好ましい。電子吸引性基としては、ハメットの置換基定数σpが正のものを挙げることが出来る。中でも、ハロゲン原子、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、アシルアミノ基、スルホンアミド基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基好ましく、シアノ基、カルボキシル基、スルファモイル基、カルバモイル基、スルホニル基、イミド基、アシル基、スルホ基、4級アンモニウム基が更に好ましい。
【0064】
R1、R2及びZが表す複素環基としては、5員又は6員環のものが好ましく、それらは更に縮環していてもよい。また、芳香族複素環であっても非芳香族複素環であっても良い。以下にR1、R2及びZで表される複素環基を、置換位置を省略して複素環の形で例示するが、置換位置は限定されるものではなく、例えばピリジンであれば、2位、3位、4位で置換することが可能である。ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、シンノリン、フタラジン、キノキサリン、ピロール、インドール、フラン、ベンゾフラン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、オキサゾール、ベンズオキサゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾール、イソオキサゾール、ベンズイソオキサゾール、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾリジン、チアゾリンなどが挙げられる。中でも芳香族複素環基が好ましく、その好ましい例を先と同様に例示すると、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、ピラゾール、イミダゾール、ベンズイミダゾール、トリアゾール、チアゾール、ベンゾチアゾール、イソチアゾール、ベンズイソチアゾール、チアジアゾールが挙げられる。それらは置換基を有していても良く、置換基の例としては、後述のZ,R 1 ,R 2 が更に置換基を持つことが可能な場合の置換基と同じものが挙げられる。好ましい置換基は前記アリール基の置換基と、更に好ましい置換基は、前記アリール基の更に好ましい置換基とそれぞれ同じである。
【0067】
Z、R 1 、R 2 が更に置換基を有することが可能な基であるときは、以下に挙げたような置換基を更に有してもよい。
【0068】
炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数7〜18の直鎖又は分岐鎖アラルキル基、炭素数2〜12の直鎖又は分岐鎖アルケニル基、炭素数2〜12の直鎖又は分岐鎖アルキニル基、炭素数3〜12の直鎖又は分岐鎖シクロアルキル基、炭素数3〜12の直鎖又は分岐鎖シクロアルケニル基(以上の各基は分岐鎖を有するものが染料の溶解性及びインクの安定性を向上させる理由から好ましく、不斉炭素を有するものが特に好ましい。例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、sec-ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、2−メチルスルホニルエチル、3−フェノキシプロピル、トリフルオロメチル、シクロペンチル)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子)、アリール基(例えば、フェニル、4−t−ブチルフェニル、2,4−ジ−t−アミルフェニル)、複素環基(例えば、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシ基、アミノ基、アルキルオキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、2−メトキシエトキシ、2−メタンスルホニルエトキシ)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、3−t−ブチルオキシカルバモイルフェノキシ、3−メトキシカルバモイル)、アシルアミノ基(例えば、アセトアミド、ベンズアミド、4−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノキシ)ブタンアミド)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ、ブチルアミノ、ジエチルアミノ、メチルブチルアミノ)、アニリノ基(例えば、フェニルアミノ、2−クロロアニリノ、ウレイド基(例えば、フェニルウレイド、メチルウレイド、N,N−ジブチルウレイド)、スルファモイルアミノ基(例えば、N,N−ジプロピルスルファモイルアミノ)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、オクチルチオ、2−フェノキシエチルチオ)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−オクチルフェニルチオ、2−カルボキシフェニルチオ)、アルキルオキシカルボニルアミノ基(例えば、メトキシカルボニルアミノ)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド)、カルバモイル基(例えば、N−エチルカルバモイル、N,N−ジブチルカルバモイル)、スルファモイル基(例えば、N−エチルスルファモイル、N,N−ジプロピルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル)、スルホニル基(例えば、メタンスルホニル、オクタンスルホニル、ベンゼンスルホニル、トルエンスルホニル)、アルキルオキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、ブチルオキシカルボニル)、複素環オキシ基(例えば、1−フェニルテトラゾール−5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アゾ基(例えば、フェニルアゾ、4−メトキシフェニルアゾ、4−ピバロイルアミノフェニルアゾ、2−ヒドロキシ−4−プロパノイルフェニルアゾ)、アシルオキシ基(例えば、アセトキシ)、カルバモイルオキシ基(例えば、N−メチルカルバモイルオキシ、N−フェニルカルバモイルオキシ)、シリルオキシ基(例えば、トリメチルシリルオキシ、ジブチルメチルシリルオキシ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(例えば、フェノキシカルボニルアミノ)、イミド基(例えば、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、複素環チオ基(例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、2,4−ジ−フェノキシ−1,3,5−トリアゾール−6−チオ、2−ピリジルチオ)、スルフィニル基(例えば、3−フェノキシプロピルスルフィニル)、ホスホニル基(例えば、フェノキシホスホニル、オクチルオキシホスホニル、フェニルホスホニル)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェノキシカルボニル)、アシル基(例えば、アセチル、3−フェニルプロパノイル、ベンゾイル)、イオン性親水性基(例えば、カルボキシル基、スルホ基、ホスホノ基及び4級アンモニウム基)が挙げられる。
【0069】
前記一般式(III)で表される化合物が水溶性である場合には、イオン性親水性基を有することが好ましい。イオン性親水性基には、スルホ基、カルボキシル基、ホスホノ基及び4級アンモニウム基等が含まれる。前記イオン性親水性基は、カルボキシル基、ホスホノ基、及びスルホ基が好ましく、特にカルボキシル基、スルホ基が好ましい。カルボキシル基、ホスホノ基及びスルホ基は塩の状態であってもよく、塩を形成する対イオンの例には、アンモニウムイオン、アルカリ金属イオン(例、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン)及び有機カチオン(例、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラメチルグアニジニウムイオン、テトラメチルホスホニウム)が含まれる。対イオンの中でもアルカリ金属塩が好ましく、特にリチウム塩は染料の溶解性を高めインク安定性を向上させるため特に好ましい。イオン性親水性基の数としては、フタロシアニン系染料1分子中少なくとも2個以上有するものが好ましく、特にスルホ基及び/又はカルボキシル基を少なくとも2個以上有するものが特に好ましい。
【0070】
前記一般式(III)において、X 1 、X 2 、X 3 、X 4 は、いずれかに少なくとも一つの不斉炭素を有する。不斉炭素は、イオン性親水性基を有しない置換基に導入するのが好ましく、不斉炭素の導入数は1以上16以下の範囲にあり、好ましくは1以上8以下で、更に好ましくは1以上4以下である。
【0071】
a 1 〜a 4 は、それぞれX 1 〜X 4 の置換基数を表す。a1〜a4はそれぞれ独立に1又は2を表す。なお、a 1 〜a 4 が2を表す時、複数のX 1 〜X 4 はそれぞれそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0074】
Mは、水素原子、金属元素又はその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表す。Mとして好ましい物は、水素原子、金属原子としては、Li、Na、K、Mg、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi等が挙げられる。酸化物としては、VO、GeO等が挙げられる。 また、水酸化物としては、Si(OH)2、Cr(OH)2、Sn(OH)2等が挙げられる。さらに、ハロゲン化物としては、AlCl、SiCl2、VCl、VCl2、VOCl、FeCl、GaCl、ZrCl等が挙げられる。なかでも特に、Cu、Ni、Zn、Al等が好ましく、Cuが最も好ましい。
【0075】
本発明の化合物において、L(2価の連結基)を介してPc(フタロシアニン環)が2量体(例えば、Pc−M−L-M−Pc)又は3量体を形成してもよく、その時のMはそれぞれ同一であっても異なるものであってもよい。
【0076】
Lで表される2価の連結基は、オキシ基−O−、チオ基−S−、カルボニル基−CO−、スルホニル基−SO2−、イミノ基−NH−、メチレン基−CH2−、及びこれらを組合せて形成される基が好ましい。
【0081】
一般式(III)中、a1〜a4はそれぞれ独立に1又は2の整数を表し、特に好ましいのは、4≦a1+a2+a3+a4≦6であり、その中でも特に好ましいのはa1=a2=a3=a4=1のときである。
【0082】
一般式(III)で表される化合物の中でも、特に好ましい置換基の組合せは、以下の通りである。
【0083】
X1〜X4としては、それぞれ独立に−SO2−Z又は−SO2NR1R2が特に好ましい。
【0084】
Zはそれぞれ独立に、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基が好ましく、その中でも置換アルキル基、置換アリール基、置換複素環基が最も好ましい。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、置換基中に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が好ましい。また、会合性を高め堅牢性を向上させるという理由から、水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が置換基中に有する場合が好ましい。
【0085】
R1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換の複素環基が好ましく、その中でも水素原子、置換アルキル基、置換アリール基、置換複素環基が最も好ましい。ただしR1、R2が共に水素原子であることは好ましくない。特に染料の溶解性やインク安定性を高めるという理由から、置換基中に不斉炭素を有する場合(ラセミ体での使用)が好ましい。また、会合性を高め堅牢性を向上させるという理由から、水酸基、エーテル基、エステル基、シアノ基、アミド基、スルホンアミド基が置換基中に有する場合が好ましい。
【0087】
X 1 、X 2 、X 3 、X 4 はいずれかに少なくとも一つの不斉炭素を有する。その不斉炭素の導入数は、1以上16以下の範囲にあり、好ましくは1以上8以下で、更に好ましくは、1以上4以下である。
【0088】
a1〜a4はそれぞれ独立に1又は2であることが好ましく、特に全てが1であることが好ましい。
【0089】
Mは、水素原子、金属元素又はその酸化物、水酸化物もしくはハロゲン化物を表し、特にCu、Ni、Zn、Alが好ましく、なかでも特に特にCuが最も好ましい。
【0091】
前記一般式(III)で表される化合物の好ましい置換基の組合せについては、種々の置換基の少なくとも1つが前記の好ましい基である化合物が好ましく、より多くの種々の置換基が前記好ましい基である化合物がより好ましく、全ての置換基が前記好ましい基である化合物が最も好ましい。
【0105】
下記一般式(IV)で表されるフタロシアニン誘導体は、その合成時において不可避的に置換基Rn(n=1〜16)の置換位置(R1:1位〜R16:16位とここで定義する)異性体を含む場合があるが、これら置換位置異性体は互いに区別することなく同一誘導体として見なしている場合が多い。また、Rの置換基に異性体が含まれる場合も、これらを区別することなく、同一のフタロシアニン誘導体として見なしている場合が多い。
【0106】
【化10】
【0107】
本明細書中で定義するフタロシアニン化合物において構造が異なる場合とは、一般式(IV)で説明すると、置換基Rn(n=1〜16)の構成原子種が異なる場合、置換基Rnの数が異なる場合又は置換基Rnの位置が異なる場合の何れかである。
【0108】
下記一般式(I)で表されるフタロシアニン誘導体は、その合成法によって不可避的に置換基Xn(n=1〜4)及びYm(m=1〜4)の導入位置及び導入個数が異なる類縁体混合物である場合が一般的であり、これら類縁体混合物を統計的に平均化して表している場合が多い。
【化14】
本発明は、これらの類縁体混合物を以下に示す三種類に分類すると、特定の混合物が特に好ましいことを見出したものである。すなわち前記一般式(I)、(II)及び(III)で表されるフタロシアニン系染料類縁体混合物を置換位置に基づいて以下の三種類に分類して定義する。
【0109】
(1)β-位置換型:2及び又は3位、6及び又は7位、10及び又は11位、14及び又は15位に特定の置換基を有するフタロシアニン染料。
【0110】
(2)α-位置換型:1及び又は4位、5及び又は8位、9及び又は12位、13及び又は16位に特定の置換基を有するフタロシアニン染料
【0111】
(3)α,β-位混合置換型:1〜16位に規則性なく、特定の置換基を有するフタロシアニン染料
【0112】
本明細書中において、構造が異なる(特に、置換位置が異なる)フタロシアニン化合物の誘導体を説明する場合、上記β-位置換型、α-位置換型、α,β-位混合置換型を使用する。
【0113】
本発明に用いられるフタロシアニン誘導体は、例えば白井−小林共著、(株)アイピーシー発行「フタロシアニン−化学と機能−」(P.1〜62)、C.C.Leznoff−A.B.P.Lever共著、VCH発行‘Phthalocyanines−Properties and Applications’(P.1〜54)等に記載、引用もしくはこれらに類似の方法を組合せて合成することができる。
【0114】
本発明の一般式(I)で表されるフタロシアニン化合物は、世界特許00/17275、同00/08103、同00/08101、同98/41853、特開平10−36471号などに記載されているように、例えば無置換のフタロシアニン化合物のスルホン化、スルホニルクロライド化、アミド化反応を経て合成することができる。この場合、スルホン化がフタロシアニン核のどの位置でも起こり得る上にスルホン化される個数も制御が困難である。従って、このような反応条件でスルホ基を導入した場合には、生成物に導入されたスルホ基の位置と個数は特定できず、必ず置換基の個数や置換位置の異なる混合物を与える。従ってそれを原料として本発明の化合物を合成する時には、複素環置換スルファモイル基の個数や置換位置は特定できないので、本発明の化合物としては置換基の個数や置換位置の異なる化合物が何種類か含まれるα,β-位混合置換型混合物として得られる。
【0115】
前述したように、例えばスルファモイル基のような電子求引性基を数多くフタロシアニン核に導入すると酸化電位がより貴となり、オゾン耐性が高まる。上記の合成法に従うと、電子求引性基が導入されている個数が少ない、即ち酸化電位がより卑であるフタロシアニン染料が混入してくることが避けられない。従って、オゾン耐性を向上させるためには、酸化電位がより卑である化合物の生成を抑えるような合成法を用いることがより好ましい。
【0116】
本発明の一般式(III)で表されるフタロシアニン化合物は、例えば下記式で表されるフタロニトリル誘導体(化合物P)及び/又はジイミノイソインドリン誘導体(化合物Q)を一般式(V)で表される金属誘導体と反応させるか、或いは下記式で表される4-スルホフタロニトリル誘導体(化合物R)と一般式(V)で表される金属誘導体を反応させて得られるテトラスルホフタロシアニン化合物から誘導することができる。
【0117】
【化11】
【0118】
前記各式中、Xpは上記一般式(III)におけるX1〜X4に相当する。Yqは水素原子を表わす。また、化合物Rにおいて、M’はカチオンを表す。
【0119】
一般式(V):M−(Y)d一般式(V)中、Mは前記一般式( III )のMと同一であり、Yはハロゲン原子、酢酸陰イオン、アセチルアセトネート、酸素などの1価又は2価の配位子を示し、dは1〜4の整数である。 一般式(V)で示される金属誘導体としては、Al、Si、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ge、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Pt、Pbのハロゲン化物、カルボン酸誘導体、硫酸塩、硝酸塩、カルボニル化合物、酸化物、錯体等が挙げられる。具体例としては塩化銅、臭化銅、沃化銅、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、塩化コバルト、臭化コバルト、酢酸コバルト、塩化鉄、塩化亜鉛、臭化亜鉛、沃化亜鉛、酢酸亜鉛、塩化バナジウム、オキシ三塩化バナジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化アルミニウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、アセチルアセトンマンガン、塩化マンガン、塩化鉛、酢酸鉛、塩化インジウム、塩化チタン、塩化スズ等が挙げられる。
【0120】
金属誘導体と一般式(III)で示されるフタロニトリル化合物の使用量は、モル比で1:3〜1:6が好ましい。また、金属誘導体と一般式(III)で示されるジイミノインドリン誘導体の使用量は、モル比で1:3〜1:6が好ましい。
【0121】
反応は、通常、溶媒の存在下に行われる。溶媒としては、沸点80℃以上、好ましくは130℃以上の有機溶媒が用いられる。例えばn−アミルアルコール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、エトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、スルフォラン、ニトロベンゼン、キノリン、尿素等がある。溶媒の使用量はフタロニトリル化合物の1〜100質量倍、好ましくは5〜20質量倍である。
【0122】
反応において、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン(DBU)或いはモリブデン酸アンモニウムを添加しても良い。添加量はフタロニトリル化合物及び/又はジイミノイソインドリン誘導体1モルに対して、0.01〜10倍モル好ましくは0.01〜2倍モルである。
【0123】
反応温度は70〜300℃、好ましくは70〜250℃の反応温度の範囲にて行なうのが好ましく、70〜190℃の反応温度の範囲にて行なうのが特に好ましい。60℃未満では反応速度が極端に遅い。300℃を超えるとフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0124】
反応時間は0.5〜20時間、好ましくは0.5〜15時間の反応時間の範囲にて行なうのが好ましく、0.5〜10時間の反応時間の範囲にて行なうのが特に好ましい。0.5時間未満では未反応原料が多く存在し、20時間以上ではフタロシアニン化合物の分解が起こる可能性がある。
【0125】
これらの反応によって得られる生成物は通常の有機合成反応の後処理方法に従って処理した後、精製してあるいは精製せずに製品として用いられる。
即ち、例えば、反応系から遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶やカラムクロマトグラフィー(例えば、ゲルパーメーションクロマトグラフィ(SEPHADEXTMLH−20:Pharmacia製)等にて精製する操作を単独、あるいは組合せて行ない、製品として提供することができる。
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、氷、又は有機溶媒に投入し、中和してあるいは中和せずに遊離したものを精製せずに、あるいは再結晶、カラムクロマトグラフィー等にて精製する操作を単独に、あるいは組合せて行なった後、製品として提供することができる。
また、反応終了後、反応溶媒を留去して、あるいは留去せずに水、氷、又は有機溶媒に投入し、中和してあるいは中和せずに、有機溶媒/水溶液にて抽出したものを精製せずに、あるいは晶析、カラムクロマトグラフィーにて精製する操作を単独あるいは組合せて行なった後、製品として提供することができる。
【0126】
上記の合成法に従えば望みの置換基を特定の数だけ導入することができるのである。特に本発明のように酸化電位を貴とするために電子求引性基を数多く導入したい場合には、上記の合成法は一般式(I)の合成法と比較して極めて優れたものである。
【0127】
得られる前記一般式(III)で表される化合物は、通常、Xpの各置換位置における異性体である下記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物の混合物、すなわちβ-位置換型となっている。
【0128】
【化12】
【0129】
上記一般式(a)−1〜(a)−4で表される化合物は、β-位置換型(2及び又は3位、6及び又は7位、10及び又は11位、14及び又は15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)であり、α位置換型及びα,β−位混合置換型とは全く構造の異なる(特定の置換基の導入位置が異なる)化合物であり、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴である。
【0130】
以下に、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性、(2)画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性;(1)と(2)に分けて説明する。
【0131】
(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素(本発明のフタロシアニン化合物):
【0132】
<1>本発明では、例えば一般式(III)中のX1、X2、X3、及びX4で表される、特定の置換基が堅牢性の向上に非常に重要である。
【0133】
酸化電位(Eox)の値は試料から電極への電子の移りやすさを表わし、その値が大きい(酸化電位が貴である)ほど試料から電極への電子の移りにくい、言い換えれば、酸化されにくいことを表す。
【0134】
フタロシアニン化合物の構造との関連では、電子求引性基を導入することにより酸化電位はより貴となり、電子供与性基を導入することにより酸化電位はより卑となる。
【0135】
本発明では、例えば求電子剤であるオゾンとの反応性を下げるために、フタロシアニン骨格に電子求引性基を導入して酸化電位をより貴とすることが望ましい。
【0136】
従って、電子求引性としての上記特定の置換基X1、X2、X3、及びX4を、特定の位置(β-位置換型)に特定の数{例えば、一般式(III)で表されるフタロシアニン母核で説明すると、(2位及び又は3位)、(6位及び又は7位)、(10位及び又は11位)、(14位及び又は15位)の各組に少なくとも上記の特定の置換基を1個以上含有する}、フタロシアニン母核に選択的に導入した化合物が、対応するフタロシアニン化合物の酸化電位をより貴とすることができると言える。
【0137】
すなわち、本発明の目的の一つである形成画像の保存性改良(耐光性・耐オゾンガス性等)を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴(フタロシアニン化合物の酸化電位を支配する)である。
【0138】
<2>本発明の一般式( III )で表されるフタロシアニン化合物は上記β-位置換型(2及び又は3位、6及び又は7位、10及び又は11位、14及び又は15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)にあたる。
【0139】
本発明は、上記β-位置換型(2及び又は3位、6及び又は7位、10及び又は11位、14及び又は15位に特定の置換基を有するフタロシアニン化合物)に由来する、水溶性フタロシアニン化合物の会合体を有効利用している。
フタロシアニン化合物の会合体とは、2分子以上のフタロシアニン分子が会合体を形成したものをいう。
【0140】
本明細書において、オゾンガス耐性と称しているのは、オゾンガスに対する耐性を代表させて称しているのであって、オゾンガス以外の酸化性雰囲気に対する耐性をも含んでいる。すなわち、上記の本発明に係る一般式(III)で示されるフタロシアニン化合物は、自動車の排気ガスに多い窒素酸化物、火力発電所や工場の排気に多い硫黄酸化物、これらが太陽光によって光化学的にラジカル連鎖反応して生じたオゾンガスや酸素−窒素や酸素−水素ラジカルに富む光化学スモッグ、美容院などの特殊な薬液を使用する場所から発生する過酸化水素ラジカルなど、一般環境中に存在する酸化性ガスに対する耐性が強いことが特長である。したがって、屋外広告や、鉄道施設内の案内など画像の酸化劣化が画像寿命を制約している場合には、本発明に係るフタロシアニン化合物を画像形成材料として用いることによって、酸化性雰囲気耐性、すなわち、いわゆるオゾンガス耐性を向上させることができる。
【0141】
本発明者は、前記フタロシアニン化合物の会合体を利用することにより、単分子分分散状態におけるよりも光や熱及び酸化性ガス(特にオゾンガス)に対する安定性が著しく向上することを見いだした。
【0142】
<3>更に、会合体を形成することで形成画像のスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)が著しく良化し、且つ、各種被記録材差(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)に起因する紙依存性が極めて小さい{色相(色再現性)良好・耐水性向上;例えば、強固な会合体により、存在状態又は媒染状態の差が小さいことに起因する}ことも見いだした。
【0143】
尚、染料が会合しているか否かは、例えば Wright,J.D.著(江口太郎訳)「分子結晶」(化学同人) で説明されているように、吸収スペクトルにおける吸収極大(λmax)のシフトから容易に判断することができ、一般的には、長波側にシフトするJ会合体、短波側にシフトするH会合体の2つに分類される。本発明においては、水溶性フタロシアニン会合体は吸収極大が短波側にシフトすることで会合体を形成し、この会合体を利用している。
【0144】
故に、本発明のフタロシアニン化合物の構造上の特徴、すなわち、特定の置換基を特定の位置(β-位置換型)に特定の数、フタロシアニン母核に導入した化合物が、会合状態を促進して形成画像の堅牢性と色相において最も好ましい構造であることを見出すに至った。
【0145】
すなわち上述のフタロシアニン化合物の構造上の特徴は、フタロシアニン化合物の会合性促進と有機溶剤に対する溶解安定性の両立が可能で、本発明の目的の一つである(1)形成画像の保存性改良を達成する手段、及び、もう一つの目的である(2)形成画像の極めて良好なスペクトル特性(シアン色相:画像形成材料用シアン染料として優れた吸収特性)を有し、且つ、(3)各種被記録材(例えば、普通紙、インクジェット用専用紙等)差に起因する紙依存性が小さいことを達成するための極めて重要な構造の特徴である。
【0146】
以上纏めると、本発明ではいずれの置換型においても、例えば一般式(III)中のX1、X2、X3、及びX4で表される、特定の置換基が堅牢性の向上(高酸化電位)に非常に重要であることが見出され、更に、特定の置換基を特定の位置(例えば、α-位置換型及び又はα,β-位混合置換型よりは圧倒的にβ-位置換型の方がより好ましい)に特定の数{例えば、フタロシアニン化合物1分子あたり4個以上8個以下でかつ一般式(III)で表されるフタロシアニン母核で説明すると、(2位及び又は3位)、(6位及び又は7位)、(10位及び又は11位)、(14位及び又は15位)の各組に少なくとも特定の置換基を1個以上含有する}、フタロシアニン母核に選択的に導入した誘導体(会合性促進)が、本発明の目的を達成する手段として極めて重要な構造上の特徴を有するフタロシアニン化合物であることを確認した。
【0147】
すなわち、本発明の推定される機構としては、▲1▼良好な分光吸収特性(フタロシアニン化合物の会合状態の促進);▲2▼高い画像堅牢性(高酸化電位と強固な会合状態の促進により、例えば、フタロシアニン化合物と親電子試薬であるオゾンガスとの酸化反応による褪色を抑制する)を有する本発明のフタロシアニン化合物の、特定の置換基を特定の置換位置に特定の数だけ選択的に導入による、高酸化電位で且つ完全β-位置換型フタロシアニン化合物会合体によると推測される。
【0148】
(2)画像形成用着色組成物(本発明のフタロシアニン化合物を含有するインクジェット用インク)
【0149】
上述したように、画像形成用着色組成物(例えば、インクジェット用インク)に対する要求特性は、(1)インクの粘度、表面張力、比電導度、密度、pH等の物性値が適当であること;(2)溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせないこと;(3)被記録材での速乾性が良好であること;(4)記録画像が鮮明であり、耐光性、耐水性が良好であること;(5)インクの長期保存安定性が良好であることなどである。
【0150】
インクカートリッジ中のインクは色素化合物が高濃度で調液されているため、長期にわたる保存や、高温・低温下に曝されることで色素化合物が析出するなどの大きな問題がある。
【0151】
現在まで、上述(1)〜(4)及び(5)インク保存安定性の向上;を主眼とした様々の検討がなされているが、従来のインクはこれら全ての特性を満足するには至っていなかった。
【0152】
<1>本発明のフタロシアニン化合物を用いた着色組成物(以下、インクジェット記録用インクともいう)は、上記要求特性(1)〜(5)を満足させる狙いで、本発明のフタロシアニン化合物の好ましいフタロシアニン母核に導入する特定の置換基(位置選択的に導入する機能性基)の種類を規定した。
【0153】
先述したように、鋭意検討の結果、各種堅牢性(光、オゾンガス等)、色相を満足するためには、フタロシアニン化合物の会合を促進することが解決の手段の一つであった。しかし、フタロシアニン化合物に限らず全ての有機物では、会合が成長すると分子の集合体は巨大化し、やがて結晶化する傾向にある。
【0154】
水溶性フタロシアニンの分子一つ一つが会合することなく水中に存在する場合、分子の周りを取り囲むようにして多くの水分子が存在するようになる。すなわち分子は水の溶媒和を受けており、分子が溶解する。しかし、フタロシアニン化合物が分子同士で相互作用し(会合し)凝集し始めると、水の溶媒和を受けにくくなり、やがて不溶化する。
【0155】
すなわち、この分子の凝集体が巨大化しないように制御すれば、分子の結晶析出を防ぐことが可能となる。不斉炭素の導入によって立体異性体を生じ、結晶の成長に重要な分子同士の積み重なりが困難になり、凝集体の成長すなわちフタロシアニン化合物の結晶析出が抑制できることが予想される。
【0156】
ここで、上述の画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性との両立の関係から、例えば、上記一般式(III)中の特定の置換基X1、X2、X3、及びX4に注目し、結晶化を抑制する狙いで、フタロシアニン化合物に不斉炭素を導入したところ、前記課題を解決できることが分かった。
【0157】
更に詳しくは上記一般式(III)中の特定の置換基{-(X)a}に着目して、鋭意検討した結果、前述の好ましい置換基例で挙げた特定の置換基種を用いることにより、上記要求特性(1)〜(5)を満足させるに至った。
【0158】
<2>本発明のフタロシアニン化合物を用いた着色組成物(以下、インクジェット記録用インクともいう)は、上記要求特性(1)〜(5)を満足させる狙いで、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい分子量の範囲を規定した。
【0159】
すなわち、フタロシアニン化合物の母核に画像形成用着色組成物としての最適な機能性基を導入するため、フタロシアニン化合物の分子量は必然的に増加する。
【0160】
一方、シアン色素(シアン画像形成用着色組成物に用いる色素)としてのフタロシアニン化合物の発色団(特定のフタロシアニン色素母核)に起因するモル吸光係数(ε)は、分子量増加と共に減少する。
【0161】
例えば、インクジェット記録用インクとして上記フタロシアニン化合物を用いる場合、シアン画像は鮮明で発色濃度が高く且つマゼンタ、イエロー及びブラック染料とともに用いた場合の広い可視領域の色調を色出しすることができる(色再現域が広い)が必要である。
【0162】
故に、ある領域以上の分子量を有する上記フタロシアニン化合物を用いる場合、例えば水性インクジェット記録用インクを調整時、水を媒体として調整するが、上記フタロシアニン化合物を該水性インクジェット記録用インク中に含有する最適な重量%の範囲を超えて使用しなければならない。
【0163】
そこで、本発明のフタロシアニン化合物(フタロシアニン化合物の母核に画像形成用着色組成物としての最適な機能性基を導入した誘導体)の最適な分子量の範囲は、シアン画像形成用着色組成物に用いる色素の使用量から算出して、インクの要求特性を満足させるべく検討した結果、本発明のフタロシアニン化合物を前記記載の分子量の範囲に規定することにより上記要求特性(1)〜(5)を満足させるに至った。
【0164】
以上、本発明のフタロシアニン化合物の構造と性能の相関について、(1)画像形成用着色組成物に用いられる色素に対する要求特性、(2)画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性;(1)と(2)に分けて説明したが、これらの特定の置換基による構造上の特徴によってもたらされる色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等の向上効果並び画像形成用着色組成物(インク)に対する要求特性、特にインク保存安定性の付与は、前記先行技術から全く予想することができないものである。
【0165】
本発明では、いずれの置換型においても酸化電位が1.0V(vs SCE)よりも貴であることが堅牢性の向上に非常に重要で、フタロシアニン化合物中に一つ以上の不斉炭素を有することでインク安定性が際立って改良されることが見出され、その効果の大きさは前記先行技術から全く予想することができないものであった。また、原因は詳細には不明であるが、中でもα,β-位混合置換型よりはβ-位置換型の方が色相・光堅牢性・オゾンガス耐性等において明らかに優れている傾向にあった。
【0166】
本発明のフタロシアニン化合物の具体例を、下記表1〜表9(例示化合物101〜190)に示すが、本発明に用いられるフタロシアニン化合物は、下記の例に限定されるものではない。
【0167】
下記表1〜表9中、一般式(IV)は(m+n)価のフタロシアニン基(置換基Xの導入位置は、本発明で定義したβ位置換型である)を表す。Xは、X1及び/又はX2を表し、aは1〜2の数を表す。mは0〜8の数を表し、nは0〜8の数を表す。但し、m及びnはそれぞれ独立に、0<m+n≦8を満たす数を表す。
【0168】
【化13】
【0169】
【表1】
【0170】
【表2】
【0171】
【表3】
【0172】
【表4】
【0173】
【表5】
【0174】
【表6】
【0175】
【表7】
【0176】
【表8】
【0177】
【表9】
【0178】
上記フタロシアニン化合物の用途としては、画像、特にカラー画像を形成するための画像記録材料が挙げられ、具体的には、以下に詳述するインクジェット方式記録材料を始めとして、感熱転写型画像記録材料、感圧記録材料、電子写真方式を用いる記録材料、転写式ハロゲン化銀感光材料、印刷インク、記録ペン等であり、好ましくはインクジェット方式記録材料、感熱転写型画像記録材料、電子写真方式を用いる記録材料であり、更に好ましくはインクジェット方式記録材料である。また、米国特許4808501号明細書、特開平6−35182号公報などに記載されているLCDやCCDなどの固体撮像素子で用いられているカラーフィルター、各種繊維の染色のための染色液にも適用できる。本発明の色素は、その用途に適した溶解性、熱移動性などの物性を、置換基により調整して使用する。また、上記フタロシアニン化合物は、用いられる系に応じて均一な溶解状態、乳化分散のような分散された溶解状態、固体分散状態で使用する事が出来る。
【0179】
[インク組成物]
本発明のインク組成物、及びインクジェット用インクは、前記本発明の化合物を含有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他の添加剤を含有してなる。該インク組成物に含有される本発明の化合物は、被記録材料などに対して染料、及び着色剤などとして作用する。該インク組成物は、インクや塗料などの画像形成用着色組成物として好ましく用いられ、とりわけインクジェット記録用インクとして好適に用いられる。インクジェット記録用インクは、親油性媒体や水性媒体中に本発明の化合物を溶解及び/又は分散させることによって作製することができる。好ましくは、水性媒体を用いたインクである。
必要に応じてその他の添加剤を、本発明の効果を害しない範囲内において含有される。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。これらの各種添加剤は、水溶性インクの場合にはインク液に直接添加する。油溶性染料を分散物の形で用いる場合には、染料分散物の調製後分散物に添加するのが一般的であるが、調製時に油相又は水相に添加してもよい。
【0180】
乾燥防止剤はインクジェット記録方式に用いるノズルのインク噴射口において該インクジェット用インクが乾燥することによる目詰まりを防止する目的で好適に使用される。
【0181】
前記乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶剤が好ましい。具体的な例としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、チオジグリコール、ジチオジグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、アセチレングリコール誘導体、グリセリン、トリメチロールプロパン等に代表される多価アルコール類、エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノエチル(又はブチル)エーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−エチルモルホリン等の複素環類、スルホラン、ジメチルスルホキシド、3−スルホレン等の含硫黄化合物、ジアセトンアルコール、ジエタノールアミン等の多官能化合物、尿素誘導体が挙げられる。これらのうちグリセリン、ジエチレングリコール等の多価アルコールがより好ましい。また上記の乾燥防止剤は単独で用いても良いし2種以上併用しても良い。これらの乾燥防止剤はインク中に10〜50質量%含有することが好ましい。
【0182】
浸透促進剤は、インクジェット用インクを紙により良く浸透させる目的で好適に使用される。浸透促進剤としてはエタノール、イソプロパノール、ブタノール,ジ(トリ)エチレングリコールモノブチルエーテル、1,2−ヘキサンジオール等のアルコール類やラウリル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムやノニオン性界面活性剤等を用いることができる。これらはインク中に5〜30質量%含有すれば通常充分な効果があり、印字の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない添加量の範囲で使用するのが好ましい。
【0183】
紫外線吸収剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。紫外線吸収剤としては特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号明細書等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤も用いることができる。
【0184】
褪色防止剤は、画像の保存性を向上させる目的で使用される。前記褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。より具体的にはリサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのIないしJ項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
【0185】
防黴剤としては、デヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン及びその塩等が挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
【0186】
pH調整剤としては前記中和剤(有機塩基、無機アルカリ)を用いることができる。前記pH調整剤はインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる目的で、該インクジェット記録用インクがpH6〜10と夏用に添加するのが好ましく、pH7〜10となるように添加するのがより好ましい。
【0187】
表面張力調整剤としてはノニオン、カチオンあるいはアニオン界面活性剤が挙げられる。界面活性剤の例としては、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等のアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー等のノニオン系界面活性剤が好ましい。また、アセチレン系ポリオキシエチレンオキシド界面活性剤であるSURFYNOLS(AirProducts&Chemicals社)も好ましく用いられる。また、N,N−ジメチル−N−アルキルアミンオキシドのようなアミンオキシド型の両性界面活性剤等も好ましい。更に、特開昭59−157,636号の第(37)〜(38)頁、リサーチ・ディスクロージャーNo.308119(1989年)記載の界面活性剤として挙げたものも使うことができる。
【0188】
消泡剤としては、フッ素系、シリコーン系化合物やEDTAに代表されるキレート剤等も必要に応じて使用することができる。
【0189】
本発明のフタロシアニン化合物を水性媒体に分散させる場合は、特開平11-286637号、特願平2000-78491号、同2000-80259号、同2000-62370号等の各公報に記載されるように、色素と油溶性ポリマーとを含有する着色微粒子を水性媒体に分散したり、特願平2000-78454号、同2000-78491号、同2000-203856号、同2000-203857号の各明細書のように高沸点有機溶媒に溶解した本発明の化合物を水性媒体中に分散することが好ましい。本発明の化合物を水性媒体に分散させる場合の具体的な方法、使用する油溶性ポリマー、高沸点有機溶剤、添加剤及びそれらの使用量は、上記特許公報等に記載されたものを好ましく使用することができる。あるいは、前記フタロシアニン化合物を固体のまま微粒子状態に分散してもよい。分散時には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。分散装置としては、簡単なスターラーやインペラー攪拌方式、インライン攪拌方式、ミル方式(例えば、コロイドミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル等)、超音波方式、高圧乳化分散方式(高圧ホモジナイザー;具体的な市販装置としてはゴーリンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、DeBEE2000等)を使用することができる。上記のインクジェット記録用インクの調製方法については、先述の特許以外にも特開平5−148436号、同5−295312号、同7−97541号、同7−82515号、同7−118584号、特開平11−286637号、特願2000−87539号の各公報に詳細が記載されていて、本発明のインクジェット記録用インクの調製にも利用できる。
【0190】
水性媒体は、水を主成分とし、所望により、水混和性有機溶剤を添加した混合物を用いることができる。前記水混和性有機溶剤の例には、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール)、グリコール誘導体(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル)、アミン(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンイミン、テトラメチルプロピレンジアミン)及びその他の極性溶媒(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、アセトニトリル、アセトン)が含まれる。尚、前記水混和性有機溶剤は、二種類以上を併用してもよい。
【0191】
本発明のインクジェット記録用インク100質量部中は、前記フタロシアニン化合物を0.1質量部以上20質量部以下含有するのが好ましく、0.2質量部以上10質量部以下含有するのがより好ましい。また、本発明のインクジェット用インクには、前記フタロシアニン化合物とともに、他の色素を併用してもよい。2種類以上の色素を併用する場合は、色素の含有量の合計が前記範囲となっているのが好ましい。
【0192】
本発明のインクジェット記録用インクは、粘度が40cp以下であるのが好ましい。また、その表面張力は20mN/m以上70mN/m以下であるのが好ましい。粘度及び表面張力は、種々の添加剤、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、比抵抗調整剤、皮膜調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、防黴剤、防錆剤、分散剤及び界面活性剤を添加することによって、調整できる。
【0193】
本発明のインクジェット記録用インクは、単色の画像形成のみならず、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。
【0194】
適用できるイエロー染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカップリング成分(以降カプラー成分と呼ぶ)としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類、ピラゾロンやピリドン等のようなヘテロ環類、開鎖型活性メチレン化合物類、などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分として開鎖型活性メチレン化合物類などを有するアゾメチン染料;例えばベンジリデン染料やモノメチンオキソノール染料等のようなメチン染料;例えばナフトキノン染料、アントラキノン染料等のようなキノン系染料などがあり、これ以外の染料種としてはキノフタロン染料、ニトロ・ニトロソ染料、アクリジン染料、アクリジノン染料等を挙げることができる。
【0195】
適用できるマゼンタ染料としては、任意のものを使用することが出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてピラゾロン類、ピラゾロトリアゾール類などを有するアゾメチン染料;例えばアリーリデン染料、スチリル染料、メロシアニン染料、シアニン染料、オキソノール染料などのようなメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料、例えばナフトキノン、アントラキノン、アントラピリドンなどのようなキノン染料、例えばジオキサジン染料等のような縮合多環染料等を挙げることができる。
【0196】
適用できるシアン染料としては、任意のものを使用する事が出来る。例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、アニリン類などを有するアリールもしくはヘテリルアゾ染料;例えばカプラー成分としてフェノール類、ナフトール類、ピロロトリアゾールのようなヘテロ環類などを有するアゾメチン染料;シアニン染料、オキソノール染料、メロシアニン染料などのようなポリメチン染料;ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料などのようなカルボニウム染料;フタロシアニン染料;アントラキノン染料;インジゴ・チオインジゴ染料などを挙げることができる。
【0197】
前記の各染料は、クロモフォアの一部が解離して初めてイエロー、マゼンタ、シアンの各色を呈するものであってもよく、その場合のカウンターカチオンはアルカリ金属や、アンモニウムのような無機のカチオンであってもよいし、ピリジニウム、4級アンモニウム塩のような有機のカチオンであってもよく、さらにはそれらを部分構造に有するポリマーカチオンであってもよい。
適用できる黒色材としては、ジスアゾ、トリスアゾ、テトラアゾ染料のほか、カーボンブラックの分散体を挙げることができる。
【0198】
[インクジェット記録方法]
本発明のインクジェット記録方法は、前記インクジェット記録用インクにエネルギーを供与して、公知の受像材料、即ち普通紙、樹脂コート紙、例えば特開平8−169172号公報、同8−27693号公報、同2−276670号公報、同7−276789号公報、同9−323475号公報、特開昭62−238783号公報、特開平10−153989号公報、同10−217473号公報、同10−235995号公報、同10−337947号公報、同10−217597号公報、同10−337947号公報等に記載されているインクジェット専用紙、フイルム、電子写真共用紙、布帛、ガラス、金属、陶磁器等に画像を形成する。
【0199】
画像を形成する際に、光沢性や耐水性を与えたり耐候性を改善する目的からポリマー微粒子分散物(ポリマーラテックスともいう)を併用してもよい。ポリマーラテックスを受像材料に付与する時期については、着色剤を付与する前であっても、後であっても、また同時であってもよく、したがって添加する場所も受像紙中であっても、インク中であってもよく、あるいはポリマーラテックス単独の液状物として使用しても良い。具体的には、特願2000−363090号、同2000−315231号、同2000−354380号、同2000−343944号、同2000−268952号、同2000−299465号、同2000−297365号等の各明細書に記載された方法を好ましく用いることが出きる。
【0200】
以下に、本発明のインクを用いてインクジェットプリントをするのに用いられる記録紙及び記録フィルムについて説明する。
記録紙及び記録フィルムにおける支持体は、LBKP、NBKP等の化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGP等の機械パルプ、DIP等の古紙パルプ等からなり、必要に応じて従来公知の顔料、バインダー、サイズ剤、定着剤、カチオン剤、紙力増強剤等の添加剤を混合し、長網抄紙機、円網抄紙機等の各種装置で製造されたもの等が使用可能である。これらの支持体の他に合成紙、プラスチックフィルムシートのいずれであってもよく、支持体の厚みは10〜250μm、坪量は10〜250g/m2が望ましい。
支持体には、そのままインク受容層及びバックコート層を設けてもよいし、デンプン、ポリビニルアルコール等でサイズプレスやアンカーコート層を設けた後、インク受容層及びバックコー卜層を設けてもよい。更に支持体には、マシンカレンダー、TGカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー装置により平坦化処理を行ってもよい。本発明では支持体として、両面をポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブテン及びそれらのコポリマー)でラミネートした紙及びプラスチックフィルムがより好ましく用いられる。
ポリオレフィン中に、白色顔料(例えば、酸化チタン、酸化亜鉛)又は色味付け染料(例えば、コバルトブルー、群青、酸化ネオジウム)を添加することが好ましい。
【0201】
支持体上に設けられるインク受容層には、顔料や水性バインダーが含有される。顔料としては、白色顔料が好ましく、白色顔料としては、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、合成非晶質シリカ、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、二酸化チタン、硫化亜鉛、炭酸亜鉛等の白色無機顔料、スチレン系ピグメント、アクリル系ピグメント、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。インク受容層に含有される白色顔料としては、多孔性無機顔料が好ましく、特に細孔面積が大きい合成非晶質シリカ等が好適である。合成非晶質シリカは、乾式製造法によって得られる無水珪酸及び湿式製造法によって得られる含水珪酸のいずれも使用可能であるが、特に含水珪酸を使用することが望ましい。
【0202】
インク受容層に含有される水性バインダーとしては、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアルキレンオキサイド、ポリアルキレンオキサイド誘導体等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。これらの水性バインダーは単独又は2種以上併用して用いることができる。本発明においては、これらの中でも特にポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールが顔料に対する付着性、インク受容層の耐剥離性の点で好適である。
インク受容層は、顔料及び水性結着剤の他に媒染剤、耐水化剤、耐光性向上剤、界面活性剤、その他の添加剤を含有することができる。
【0203】
インク受容層中に添加する媒染剤は、不動化されていることが好ましい。そのためには、ポリマー媒染剤が好ましく用いられる。
ポリマー媒染剤については、特開昭48−28325号、同54−74430号、同54−124726号、同55−22766号、同55−142339号、同60−23850号、同60−23851号、同60−23852号、同60−23853号、同60−57836号、同60−60643号、同60−118834号、同60−122940号、同60−122941号、同60−122942号、同60−235134号、特開平1−161236号の各公報、米国特許2484430号、同2548564号、同3148061号、同3309690号、同4115124号、同4124386号、同4193800号、同4273853号、同4282305号、同4450224号の各明細書に記載がある。特開平1−161236号公報の212〜215頁に記載のポリマー媒染剤を含有する受像材料が特に好ましい。同公報記載のポリマー媒染剤を用いると、優れた画質の画像が得られ、かつ画像の耐光性が改善される。
【0204】
耐水化剤は、画像の耐水化に有効であり、これらの耐水化剤としては、特にカチオン樹脂が望ましい。このようなカチオン樹脂としては、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン、ポリエチレンイミン、ポリアミンスルホン、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、カチオンポリアクリルアミド、コロイダルシリカ等が挙げられ、これらのカチオン樹脂の中で特にポリアミドポリアミンエピクロルヒドリンが好適である。これらのカチオン樹脂の含有量は、インク受容層の全固形分に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%であることが好ましい。
【0205】
耐光性向上剤としては、硫酸亜鉛、酸化亜鉛、ヒンダードアミン系酸化防止剤、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの中で特に硫酸亜鉛が好適である。
【0206】
界面活性剤は、塗布助剤、剥離性改良剤、スベリ性改良剤あるいは帯電防止剤として機能する。界面活性剤については、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載がある。界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。有機フルオロ化合物の例には、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例えば、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例えば、四フッ化エチレン樹脂)が含まれる。有機フルオロ化合物については、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭61−20994号、同62−135826号の各公報に記載がある。その他のインク受容層に添加される添加剤としては、顔料分散剤、増粘剤、消泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、pH調整剤、マット剤、硬膜剤等が挙げられる。なお、インク受容層は1層でも2層でもよい。
【0207】
記録紙及び記録フィルムには、バックコート層を設けることもでき、この層に添加可能な成分としては、白色顔料、水性バインダー、その他の成分が挙げられる。バックコート層に含有される白色顔料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、擬べーマイト、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム等の白色無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂等の有機顔料等が挙げられる。
【0208】
バックコート層に含有される水性バインダーとしては、スチレン/マレイン酸塩共重合体、スチレン/アクリル酸塩共重合体、ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子、スチレンブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン等の水分散性高分子等が挙げられる。バックコート層に含有されるその他の成分としては、消泡剤、抑泡剤、染料、蛍光増白剤、防腐剤、耐水化剤等が挙げられる。
【0209】
インクジェット記録紙及び記録フィルムの構成層(バックコート層を含む)には、ポリマーラテックスを添加してもよい。ポリマーラテックスは、寸度安定化、カール防止、接着防止、膜のひび割れ防止のような膜物性改良の目的で使用される。ポリマーラテックスについては、特開昭62−245258号、同62−136648号、同62−110066号の各公報に記載がある。ガラス転移温度が低い(40℃以下の)ポリマーラテックスを媒染剤を含む層に添加すると、層のひび割れやカールを防止することができる。また、ガラス転移温度が高いポリマーラテックスをバックコート層に添加しても、カールを防止することができる。
【0210】
本発明のインクは、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して、放射圧を利用してインクを吐出させる音響インクジェット方式、及びインクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式等に用いられる。インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
【0211】
【実施例】
以下、本発明を実施例にもとづいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0212】
前記一般式(I)で表される化合物は、上述の方法に従えば合成することが可能である。また、一般式(II)、一般式(III)で表されるフタロシアニン染料は、(特願2001-24352、、同2001-96610、同2001-57063、及び同2001-47013)に記載の方法により合成することができる。また、出発物質、染料中間体及び合成ルートについてはこれらにより限定されるものでない。
【0213】
(合成例)
以下、実施例に本発明のフタロシアニン色素誘導体の合成法を詳しく説明するが、出発物質、色素中間体及び合成ルートについて限定されるものでない。
【0214】
本発明の代表的なフタロシアニン化合物は、例えば下記合成ルートから誘導することができる。以下の実施例において、λmaxは吸収極大波長であり、εmaxは吸収極大波長におけるモル吸光係数を意味する。
【0215】
合成例1:
化合物Aの合成
窒素気流下、4−ニトロフタロニトリル(東京化成)26.0gを200mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、30.3gの3−メルカプト−プロパン−スルホン酸ナトリウム(アルドリッチ)を添加した。続いて、内温20℃で攪拌しているところへ、24.4gの無水炭酸ナトリウムを徐々に加えた。反応液を攪拌しながら、30℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液をヌッチェでろ過し、ろ液を15000mLの酢酸エチルにあけて晶析し、引き続き室温で30分間撹拌して、析出した粗結晶をヌッチェでろ過し、酢酸エチルで洗浄し、乾燥した。得られた粗結晶を、メタノール/酢酸エチルから再結晶した(収量42.5g)
その内、42.4gを300mLの酢酸に溶解し、内温20℃で攪拌しているところへ、2.5gNa2WO4・2H2Oを添加した後、氷浴中、内温10℃まで冷却した。引き続き、35mLの過酸化水素水(30%)を発熱に注意しながら徐々に滴下した。内温15〜20℃で30分間撹拌した後に、反応液を内温60℃まで加温して、同温度で1時間撹拌した。20℃まで冷却した後、反応液に1500mLの酢酸エチルを注入し、引き続き同温度にて30分間撹拌した後に、析出した粗結晶をヌッチェでろ過し、200mLの酢酸エチルで洗浄し、乾燥した。得られた粗結晶を、メタノール/酢酸エチルを用いて加熱洗浄して精製して、41.0gの化合物Aを得た。1H-NMR(DMSO-d6),δ値TMS基準:1.8〜1.9(2H,t);2.4〜2.5(2H,m);3.6〜3.7(2H,t);8.3〜8.4(1H,d);8.4〜8.5(1H,d);8.6〜8.7(1H,s)。
【0216】
化合物Bの合成
化合物Aの30.27gを70ml のジメチルホルムアセトアミドに懸濁させ、アセトにトリル500mLを添加した。そこに塩化スルホニル 19mLを15分間で滴下した。その後内温70℃で2時間攪拌した。室温まで冷却し、不溶物をろ過後、1.5Lの氷水に添加した。析出物を濾取し、その固体をイソプロパノール200mL に添加して、15分間攪拌した。固体を濾過し、イソパノールで洗浄した。その固体を減圧下で乾燥した(収量 66.40g)。
D/L−1−アミノ−2−プロパノール5.64gをジメチルホルムアセトアミド50mL に溶解し、氷浴で内温4℃に保った。そこへ、先の固体10.0gを内温が12℃を越えないように徐々に添加した。添加後、1時間室温で攪拌した。その反応混合物を、1N−塩酸150mL、氷150gの混合液に添加した。析出した固体を濾取し、充分な蒸留水で洗浄した。その固体をアセトンで再結晶した(収量6.31g)。同定は1H−NMRで行った。1H-NMR(DMSO-d6),δ値TMS基準:1.0〜1.1(3H,d);1.8〜2.0(2H,m);2.7〜2.9(2H,t);3.0〜3.2(2H,t);3.5〜3.7(4H,m);4.7〜4.8(1H,d);7.1〜7.2(1H,t);8.3〜8.5(2H,dd);8.6〜8.7(1H,s)。
【0217】
合成例2:具体的化合物例154の合成
窒素気流下、化合物A 4.0 g 、化合物B 10.9gをエチレングリコール45mLに80℃で溶解させた。そこに塩化銅 1.45 gを添加し内温を120℃まで加温し、そのまま2時間、温度を保ち攪拌した。過熱したままメタノール150mLを徐々に加え、還流を30分続けた。室温まで冷却後、析出物を濾取し、150mLの水に溶解した。不溶物を濾別後、内温60℃まで加温し、そこに15.7gの水酸化リチウムを添加した。内温を80℃に保ち、エタノール300mLを徐々に加え、30分間還流させた。析出物を濾下し、加熱したエタノールで洗浄した。精製はゲルパーメーションクロマトグラフィ(SEPHADEXTMLH−20:Pharmacia製、展開溶媒:水)で行った。収量 4.25 g 収率 28 %。同定は以下の方法で行った。質量分析法:FAB−MS(NEGA 1395)、元素分析(実測値C, 39.02;H, 3.40; N, 8.72;計算値C48H41CuLi3N12O14S3・3H2OとしてC:38.94、H:3.48、N:8.69)。
【0218】
[比較化合物の合成例]
a)比較化合物1の合成
冷却管の付いた三つ口フラスコに、クロロスルホン酸150mLを加え、攪拌しながら引き続き20℃を超えない温度を保ちながら25.0g の銅フタロシアニンをゆっくり分割添加した。(発熱するため冷却を同時に実施した)
次いでこの混合物を100℃まで、1時間かけて加温し、更に135℃まで1時間かけて加温を続け、ガスの発生が終了するまで同温度で5時間撹拌した。その後この反応液を10℃まで冷却した後、次いで、反応液を1500mLの飽和食塩水と500gの氷との混合物にゆっくり添加して青色結晶の目的物を析出させた。懸濁液内の温度は、氷を補足的に添加することによって0〜5℃に保った。更に室温で1時間攪拌した後に、ヌッチェでろ過し、1000mLの冷飽和食塩水で洗浄した。得られた固体を700mLの0.1M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。溶液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。水溶液を熱時ゴミ取りろ過した後、ろ液を攪拌しながら塩化ナトリウム270mLを徐々に添加した塩析した。この塩析液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、150mLの20%食塩水で洗浄した。引き続き、80%エタノール200mLに得られた結晶を加え、1時間還流下撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、更に、60%エタノール水溶液200mLに得られた結晶を加え、1時間還流撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、エタノ−ル300mLで洗浄後乾燥して、34.2gの下記比較化合物1を青色結晶として得た。λmax : 624.8nm;εmax=3.40×104;λmax : 663.8nm;εmax=3.57×104(水溶液中)。得られた化合物を分析した結果、本明細書中で定義したフタロシアニン銅(II)-置換位置が、フタロシアニン銅(II)-置換位置がα,β−混合型で且つスルホ基置換数比、約4個:3個:2個=1:3:1の混合物(ESI−MS)}であることが確認できた。
【0219】
b)比較化合物2の合成
冷却管の付いた三つ口フラスコに、ニトロベンゼン100mL加え、180℃まで1時間かけて昇温し、そこに4−スルホフタル酸一ナトリウム塩43.2g、塩化アンモニウム4.7g、尿素58g、モリブデン酸アンモニウム0.68g、塩化銅(II)6.93gを加え、同温度で6時間撹拌した。反応液を40℃まで冷却したのち、50℃の加温したメタノ−ル200mLを注入して、生成した固形物を粉砕してながら室温で1時間攪拌した。得られた分散物をヌッチェでろ過し、400mLのメタノールで洗浄した。続いて得られた固体を塩化ナトリウムで飽和した1000mLの1M塩酸水溶液を加え、煮沸して未反応の銅塩を溶かし出した。冷却後沈殿した固体をヌッチェでろ過し、100mLの1M塩酸飽和食塩水溶液で洗浄した。得られた固体を700mLの0.1M水酸化ナトリウム水溶液に溶解させた。溶液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。水溶液を熱時ゴミ取りろ過した後、ろ液を攪拌しながら塩化ナトリウム270mLを徐々に添加した塩析した。この塩析液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、150mLの20%食塩水で洗浄した。引き続き、80%エタノール200mLに得られた結晶を加え、1時間還流下撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、更に、60%エタノール水溶液200mLに得られた結晶を加え、1時間還流撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、エタノール300mLで洗浄後乾燥して、29.25gの青色結晶として得た。λmax : 629.9nm;εmax=6.11×104(水溶液中)。得られた化合物を分析(質量分析法:ESI−MS、元素分析、中和滴定等種々の機器解析方法により測定)した結果、本明細書中で定義したフタロシアニン銅(II)-置換位置が、β-位置換型{それぞれの各ベンゼン核の(2又は3位)、(6又は7位)、(10又は11位)、(14又は15位)にスルホ基を1個、銅フタロシアニン一分子中スルホ基を合計4個有する}であることが確認できた。
【0220】
c)比較化合物3の合成
冷却管の付いた三つ口フラスコに、クロロスルホン酸150mLを加え、攪拌しながら引き続き20℃を超えない温度を保ちながら25.0g の銅フタロシアニンをゆっくり分割添加した。(発熱するため冷却を同時に実施した)
次いでこの混合物を100℃まで、1時間かけて加温し、更に135℃まで1時間かけて加温を続け、ガスの発生が終了するまで同温度で5時間撹拌した。その後この反応液を10℃まで冷却した後、次いで、反応液を1500mLの飽和食塩水と500gの氷との混合物にゆっくり添加して青色結晶の目的物を析出させた。懸濁液内の温度は、氷を補足的に添加することによって0〜5℃に保った。更に室温で1時間攪拌した後に、ヌッチェでろ過し、1000mLの冷飽和食塩水で洗浄した。得られた固体を700mLの0.1Mのアンモニア水に溶解させた。溶液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。水溶液を熱時ゴミ取りろ過した後、ろ液を攪拌しながら塩化ナトリウム270mLを徐々に添加した塩析した。この塩析液を攪拌しながら80℃まで加温し、同温度で1時間撹拌した。室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、150mLの20%食塩水で洗浄した。引き続き、80%エタノール200mLに得られた結晶を加え、1時間還流下撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、更に、60%エタノール水溶液200mLに得られた結晶を加え、1時間還流撹拌し、室温まで冷却した後、析出した結晶をろ過し、エタノ−ル300mLで洗浄後乾燥して、34.2gの下記比較化合物3を青色結晶として得た。λmax : 624.8nm;εmax=3.40×104;λmax : 663.8nm;εmax=3.57×104(水溶液中)。得られた化合物を分析した結果、本明細書中で定義したフタロシアニン銅(II)-置換位置が、フタロシアニン銅(II)-置換位置がα,β−混合型で且つスルホ基置換数比、約4個:3個:2個=1:3:1の混合物(ESI−MS)}であることが確認できた。
【0221】
d)比較化合物4の合成
窒素気流下、トリメリット酸無水物 5.00 g、尿素 15.63 g、塩化銅 2.10 g、モリブデン酸アンモニウム四水和物 0.64 g、をニトロベンゼン 75 mLに懸濁させた。攪拌しながら、内温180℃まで加温し、そのまま5時間、温度を保ち攪拌した。室温まで冷却後、不溶物を濾別後、濾液に酢酸ナトリウム 10 gのメタノール溶液を添加し、目的物を沈殿させた。固体を濾取し、メタノールでたき洗いすることで精製した。収量 8.5g 収率 15 %。同定は以下の方法で行った。質量分析法:FAB−MS(NEGA 835)、元素分析(実測値C, 49.55; H, 1.93; N, 12.95;計算値C36H12CuN8Na4O8・2H2OとしてC:49.36; H:1.84;N:12.79)。
【0222】
【化14】
【0223】
[実施例1]
下記の成分に脱イオン水を加え1リッターとした後、30〜40℃で加熱しながら1時時間撹拌した。その後KOH 10mol/LにてpH=9に調製し、平均孔径0.25μmのミクロフィルターで減圧濾過しシアン用インク液を調製した。
【0224】
インク液Dの組成:
本発明のフタロシアニン化合物(例示化合物154) 6.80g
ジエチレングリコール 10.65g
グリセリン 14.70g
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 12.70g
トリエタノールアミン 0.65g
オルフィンE1010 0.9g
【0225】
フタロシアニン化合物を、下記表10に示すように変更した以外は、インク液Dの調製と同様にして、インク液A、B、E、比較用のインク液として、以下の化合物を用いてインク液F、G、H、Iを調整した。染料を変更する場合は、添加量がインク液Dに用いた染料に対して等モルとなるように使用した。染料を2種以上併用する場合は等モルずつ使用した。
【0226】
(画像記録及び評価)
以上の各実施例(インク液A、B、D、E)及び比較例(インク液F、G、H、I)のインクジェット用インクについて、下記評価を行った。その結果を表−9に示した。
なお、表−10において、「色調」、「紙依存性」、「耐水性」及び「耐光性」は、各インクジェット用インクを、インクジェットプリンター(EPSON(株)社製;PM−700C)でフォト光沢紙(EPSON社製PM写真紙<光沢>(KA420PSK、EPSON)に画像を記録した後で評価したものである。
【0227】
<色調>
フォト光沢紙に形成した画像を、390〜730nm領域のインターバル10nmによる反射スペクトルをGRETAG SPM100−II(GRETAG社製)を用いて測色し、これをCIE(国際照明委員会) L*a*b*色空間系に基づいて、a*、b*を算出した。
JNC(社団法人日本印刷産業機械工業会)のJAPAN Colour (日本印刷産業連合会のメンバー21社から提供された、各社の校正刷りのベタパッチを測色し、その平均値に対して色差(ΔE)が最小になるように、Japan Colour Ink SF−90及びJapan Paperを使用して印刷したときの色)の標準シアンのカラーサンプルと比較してシアンとして好ましい色調を下記のように定義した。
L* : 53.6±0.2の範囲において、
○: a*(−35.9±6の範囲)、及び、b*(−50.4±6の範囲)
△: a*、b*の一方のみ(上記○で定義した好ましい領域)
×: a*、b*のいずれも(上記○で定義した好ましい領域外)
ここで、参考に用いた JAPAN Colorの標準シアンのカラーサンプルの測色値を以下に示す。
L*: 53.6±0.2
a*:−37.4±0.2
b*:−50.2±0.2
ΔE: 0.4(0.1〜0.7)
(1)印刷機:マンローランドR−704, インキ:Japan ColourSF−90,用紙:特菱アート。
(2)測色 :測色計;X−rite 938, 0/45,D50,2deg.,black backing。
【0228】
<紙依存性>
フォト光沢紙に形成した画像と、別途にプロフェショナルフォトペーパーPR101(CANON社製;QBJPRA4)に形成した画像との色調を比較し、両画像間の差が小さい場合をA(良好)、両画像間の差が大きい場合をB(不良)として、二段階で評価した。
【0229】
<耐水性>
画像を形成したフォト光沢紙を、1時間室温乾燥した後、10秒間脱イオン水に浸漬し、室温にて自然乾燥させ、滲みを観察した。滲みが無いものをA、滲みが僅かに生じたものをB、滲みが多いものをCとして、三段階で評価した。
【0230】
<耐光性>
前記画像を形成したフォト光沢紙に、ウェザーメーター(アトラスC.I65)を用いて、キセノン光(85000lx)を14日間照射し、キセノン照射前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1、1.5及び2.0の3点で測定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0231】
<暗熱保存性>
前記画像を形成したフォト光沢紙を、80℃−15%RHの条件下で7日間試料を保存し、保存前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。色素残存率について反射濃度が1,1.5,2の3点にて評価し、いずれの濃度でも色素残存率が90%以上の場合をA、2点が90%未満の場合をB、全ての濃度で90%未満の場合をCとした。
【0232】
<耐オゾンガス性>
シーメンス型オゾナイザーの二重ガラス管内に乾燥空気を通しながら、5kV交流電圧を印加し、これを用いてオゾンガス濃度が0.5±0.1ppm、室温、暗所に設定されたボックス内に、前記画像を形成したフォト光沢紙を14日間放置し、オゾンガス下放置前後の画像濃度を反射濃度計(X-Rite310TR)を用いて測定し、色素残存率として評価した。なお、前記反射濃度は、1.0、1.5及び2.0の3点で測定した。ボックス内のオゾンガス濃度は、APPLICS製オゾンガスモニター(モデル:OZG−EM−01)を用いて設定した。
何れの濃度でも色素残存率が70%以上の場合をA、1又は2点が70%未満をB、全ての濃度で70%未満の場合をCとして、三段階で評価した。
【0233】
<インク保存安定性>
インクについて保存安定性及び目詰まり回復性の試験を実施することで染料の溶解性を評価した。インク保存安定性は、インク液A〜Kをポリエチレン製容器に入れ、−15℃条件下24時間保存後、引き続き、60℃の条件下で24時間保存する;−15℃(24hr.)⇒60℃(24hr.)の繰り返しを10サイクル繰り返して、保存前後の不溶物析出の有無を調べ、下記基準で評価した。
【0234】
[判定基準]
経時後の記録液を試験管にとり目視で観察した。
○:不溶分が全く認められない状態である。
△:不溶分が少量認められる状態である。
×:不溶分が目立ち、実用レベルでない状態である。
【0235】
<目詰まり回復性>
プリンターに各インクを充填し、キャップをしない状態で40℃の環境に1ヶ月間放置し、放置後、全ノズルが正常吐出するまでに要するクリーニングの動作回数から、下記基準で評価した。
【0236】
[判定基準]
A;クリーニング2回以内で復帰する。
B;クリーニング3〜5回で復帰する。
C;クリーニング6回以上で復帰する。
NG;復帰しない。
表10に示すように、本発明の不斉炭素を含有したフタロシアニン化合物を用いると、上記の試験では全く析出物はなくインク保存安定性の改良ができた。
【0237】
<溶解度>
蒸留水5mlに対して、染料を混合させ、マグネティックスターラーで30分間攪拌した。攪拌後、染料が溶媒に完溶したかどうかを確認した。評価は、以下に示されるように定義し、3段階で行った
染料0.5gが溶媒5mlに完溶する:○
染料0.5gは完溶しないが、染料0.2gでは溶媒5mlに完溶する:△
染料0.2gは溶媒5mlに完溶しない:×
【0238】
【表10】
【0239】
表10に示すように、インク液A〜Eから得られたシアン画像は、インク液F〜Iから得られたシアン画像よりも堅牢性が高く、特に耐オゾンガス性には顕著な差が認められた。
また、本発明の調製法によるインク液は、厳しい保存条件に曝されても低溶解成分の析出による印字の悪化が無く、インク保存安定性、及び目詰まり回復性に優れる事が判った。
【0240】
<分光吸収性>
本発明のフタロシアニン化合物を2.5mg〜3.5mgの範囲でメスフラスコに秤量した後に、蒸留水を加え溶解させながら100mlになるまで蒸留水を添加して目的吸光度内(吸光度a及び吸光度bのいずれか大きい値が0.85〜1.00の範囲内)に入るように調整した後下記の測定条件で分光光度計により分析を実施した。
(測定条件)
使用装置:島津自記分光光度計UV−260
セル:石英セル、光路長10mm;
測定温度:20℃;
希釈液 :蒸留水(pH=7.0)
【0241】
インク液A〜Eに使用した本発明の化合物の例示化合物101、117、126、154、159及び比較化合物1〜4の溶液中の分光吸収を測定した。測定は、水溶液の最大吸光度bが1.0になるように蒸留水で希釈して行った。
【0242】
上記の分光吸収曲線から求めた吸光度比b/aが1.0未満ならば○、それ以上ならば×とした。
【0243】
<酸化電位>
酸化電位の値は、本発明のフタロシアニン化合物を10.0mgから25.0mgの範囲で秤量し、0.1mol・dm-3の過塩素酸テトラプロピルアンモニウムを支持電解質として含むN,N−ジメチルホルムアミド 5mlから15ml(色素の濃度は約0.001mol・dm-3)で直流ポーラログラフィーにより測定した。ポーラログラフィ装置には、作用極として炭素(GC)電極を、対極として回転白金電極を用いて、酸化側(貴側)に掃引して得た酸化波を直線近似してそのピーク値との交点と残余電流値との交点の中点を酸化電位の値(vs SCE)とした。評価は酸化電位が1.0以上ならば○、それ未満ならば×とした。
【0244】
表10から明らかなように、本発明のインクジェット用インクは色調に優れ、紙依存性が小さく、耐水性及び耐光性並びに耐オゾン性に優れるものであった。さらに耐光性、耐オゾン性等の画像保存性、特にインク保存安定性に優れることは明らかである。
【0245】
[実施例2]
実施例1で作製した同じインクを用いて、実施例1の同機にて画像を富士写真フイルム製インクジェットペーパーフォト光沢紙EXにプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0246】
[実施例3]
実施例1で作製した同じインクを、インクジェットプリンターBJ−F850(CANON社製)のカートリッジに詰め、同機にて同社のフォト光沢紙GP−301に画像をプリントし、実施例1と同様な評価を行ったところ、実施例1と同様な結果が得られた。
【0247】
[実施例4]
実施例1の試験方法を、下記の環境試験方法に変更した以外は、実施例1と同じ操作を用いて試験を行なった。すなわち、自動車の排気ガスなどの酸化性ガスと太陽光の照射を受ける屋外環境をシミュレートした酸化性ガス耐性試験方法として、 H.Iwano, et al; Journal of Imaging Science and Technology ,38巻、140-142(1944)に記載の相対湿度80%、過酸化水素濃度120ppm、蛍光灯照射チャンバーを用いた酸化耐性試験方法を用いて試験した。試験の結果は、実施例1と同様の結果であった。
【0248】
【発明の効果】
本発明によれば、
(1)着色剤として特定構造のフタロシアニン化合物を使用することにより、色再現性に優れた吸収特性を有し、かつ光、熱、湿度及び環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有し、インクジェット記録などの印刷用のインクなどに用いられる着色組成物が提供され、
(2)上記の着色組成物は、インクの長期保存安定性が良好で、溶解成分の溶解安定性が高く、ノズルを目詰まりさせることなく、被記録材での速乾性に優れ、
(3)上記着色組成物の使用により良好な色相を有し、光及び環境中の活性ガス、特にオゾンガスに対して堅牢性の高い画像を形成することができるインクジェット用インク及びインクジェット記録方法が提供され、さらに
(4)上記のインクジェット記録方法を利用することによって、画像記録物のオゾンガス褪色耐性を改良する方法が提供される。
Claims (2)
- 下記一般式( III )で表される化合物中に不斉炭素を少なくとも一つ有することを特徴とするインク組成物。
- 支持体上に白色無機顔料粒子を含有する受像層を有する受像材料にインク滴を記録信号に応じて吐出させ、受像材料上に画像を記録するインクジェット記録方法であって、請求項1に記載のインク組成物を用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
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