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JP4011355B2 - 軟磁性膜および薄膜磁気ヘッド - Google Patents

軟磁性膜および薄膜磁気ヘッド Download PDF

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JP4011355B2 JP2002026404A JP2002026404A JP4011355B2 JP 4011355 B2 JP4011355 B2 JP 4011355B2 JP 2002026404 A JP2002026404 A JP 2002026404A JP 2002026404 A JP2002026404 A JP 2002026404A JP 4011355 B2 JP4011355 B2 JP 4011355B2
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、軟磁性膜に関し、特に、薄膜磁気ヘッドの磁極に利用されることができる軟磁性膜に関する。
【0002】
なお、本明細書中では、合金の組成は原子%に基づき表記されるものとする。
【0003】
【従来の技術】
例えばFeCoN合金層は広く知られる。このFeCoN合金層では、比較的に高い飽和磁束密度(2.4T程度)が確立されることができる。しかも、こういったFeCoN合金層がNiFe強磁性層上に積層されると、FeCoN合金層中で良好な磁気異方性は確立されることができる(IEEE Transactions On Magnetics vol.36 第2506頁〜第2508頁 2000年)。NiFe強磁性層上のFeCoN合金層はいわゆる高飽和磁束密度の軟磁性膜として機能することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
例えばハードディスク駆動装置(HDD)に組み込まれる書き込み用の薄膜磁気ヘッドでは、上部磁極や下部磁極の飽和磁束密度が高められることが望まれる。飽和磁束密度が高められると、薄膜磁気ヘッドの書き込みギャップでは強いギャップ磁界すなわち書き込み磁界は形成されることができる。書き込み磁界の増強は一層の記録密度の向上に大いに貢献することができる。高飽和磁束密度の軟磁性膜が求められる。
【0005】
前述のFeCoN合金層が例えば薄膜磁気ヘッドの上部磁極に利用されてもよい。しかしながら、このFeCoN合金層では、磁気異方性の確立にあたってNiFe強磁性層の下地層が利用される。したがって、上部磁極と非磁性ギャップ層との間にはNiFe強磁性層が挟み込まれる。NiFe強磁性層の飽和磁束密度は1.1T程度であることから、たとえFeCoN合金層が利用されても、期待されるとおりに書き込み磁界は強められることができない。
【0006】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、薄膜磁気ヘッドの書き込み磁界の増強に大いに貢献することができる軟磁性膜を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明によれば、強磁性原子を含む非磁性下地上に積層される強磁性層を備えることを特徴とする軟磁性膜が提供される。
【0008】
強磁性原子を含む非磁性下地上で強磁性層が積層されると、強磁性層では一軸磁気異方性が確立される。強磁性層の軟磁性は確立される。しかも、強磁性層の下地は磁性を有する必要はない。したがって、軟磁性膜の適用範囲は広げられることができる。
【0009】
強磁性原子はFe、NiおよびCoの少なくともいずれか1種であればよい。非磁性下地はNiFe合金であればよい。こういった非磁性下地はAl、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含んでもよい。例えばNiFe合金に25原子%以上の濃度でCrが添加されると、NiFe合金は完全に非磁性化することができる。
【0010】
強磁性層は、FeおよびCoの少なくともいずれか1種を含む合金であればよい。合金はFeCo合金であればよい。こういった合金は高い飽和磁束密度を有する。FeCo合金はO、NおよびCの少なくともいずれか1種をさらに含んでもよく、Al、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含んでもよい。
【0011】
以上のような軟磁性膜は、例えばハードディスク駆動装置(HDD)といった磁気記録媒体駆動装置で磁気情報の書き込みにあたって用いられる薄膜磁気ヘッドの磁極に利用されることができる。こういった薄膜磁気ヘッドは、下部磁極と、下部磁極上に積層される非磁性層と、非磁性層上に積層されて、強磁性原子を含む非磁性下地層と、非磁性下地層上に積層されて、強磁性原子を含む上部磁極とを備えればよい。非磁性下地層上に積層される上部磁極は本発明に係る軟磁性膜を構成する。こういった薄膜磁気ヘッドは、例えばHDDに組み込まれるヘッドスライダに搭載されればよい。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0013】
図1は磁気記録媒体駆動装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は、例えば平たい直方体の内部空間を区画する箱形の筐体本体12を備える。収容空間には、記録媒体としての1枚以上の磁気ディスク13が収容される。磁気ディスク13はスピンドルモータ14の回転軸に装着される。スピンドルモータ14は、例えば7200rpmや10000rpmといった高速度で磁気ディスク13を回転させることができる。筐体本体12には、筐体本体12との間で収容空間を密閉する蓋体すなわちカバー(図示せず)が結合される。
【0014】
収容空間には、垂直方向に延びる支軸15回りで揺動するキャリッジ16がさらに収容される。このキャリッジ16は、支軸15から水平方向に延びる剛体の揺動アーム17と、この揺動アーム17の先端に取り付けられて揺動アーム17から前方に延びる弾性サスペンション18とを備える。周知の通り、弾性サスペンション18の先端では、いわゆるジンバルばね(図示せず)の働きで浮上ヘッドスライダ19は片持ち支持される。浮上ヘッドスライダ19には、磁気ディスク13の表面に向かって弾性サスペンション18から押し付け力が作用する。磁気ディスク13の回転に基づき磁気ディスク13の表面で生成される気流の働きで浮上ヘッドスライダ19には浮力が作用する。弾性サスペンション18の押し付け力と浮力とのバランスで磁気ディスク13の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダ19は浮上し続けることができる。
【0015】
こうした浮上ヘッドスライダ19の浮上中に、キャリッジ16が支軸15回りで揺動すると、浮上ヘッドスライダ19は半径方向に磁気ディスク13の表面を横切ることができる。こうした移動に基づき浮上ヘッドスライダ19は磁気ディスク13上の所望の記録トラックに位置決めされる。このとき、キャリッジ16の揺動は例えばボイスコイルモータ(VCM)といったアクチュエータ21の働きを通じて実現されればよい。周知の通り、複数枚の磁気ディスク13が筐体本体12内に組み込まれる場合には、隣接する磁気ディスク13同士の間で1本の揺動アーム17に対して2つの弾性サスペンション18が搭載される。
【0016】
図2は浮上ヘッドスライダ19の一具体例を示す。この浮上ヘッドスライダ19は、平たい直方体に形成されるAl2 3 −TiC(アルチック)製のスライダ本体22と、このスライダ本体22の空気流出端に接合されて、読み出し書き込みヘッド23を内蔵するAl2 3 (アルミナ)製のヘッド素子内蔵膜24とを備える。スライダ本体22およびヘッド素子内蔵膜24には、磁気ディスク13に対向する媒体対向面すなわち浮上面25が規定される。磁気ディスク13の回転に基づき生成される気流26は浮上面25に受け止められる。
【0017】
浮上面25には、空気流入端から空気流出端に向かって延びる2筋のレール27が形成される。各レール27の頂上面にはいわゆるABS(空気軸受け面)28が規定される。ABS28では気流26の働きに応じて前述の浮力が生成される。ヘッド素子内蔵膜24に埋め込まれた読み出し書き込みヘッド23は、後述されるように、ABS28で前端を露出させる。ただし、ABS28の表面には、読み出し書き込みヘッド23の前端に覆い被さるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)保護膜が形成されてもよい。なお、浮上ヘッドスライダ19の形態はこういった形態に限られるものではない。
【0018】
図3に詳細に示されるように、読み出し書き込みヘッド23は、渦巻きコイルパターン31で生起される磁界を利用して磁気ディスク13に情報を記録する誘導書き込みヘッド素子32を備える。この誘導書き込みヘッド素子32は本発明に係る薄膜磁気ヘッドとして機能する。電流の供給に応じて渦巻きコイルパターン31で磁界が生成されると、渦巻きコイルパターン31の中心を貫通する磁性コア33内で磁束流は伝わる。渦巻きコイルパターン31は例えばCuといった導電金属材料で構成されればよい。
【0019】
図4を併せて参照すると明らかなように、磁性コア33は、例えば、渦巻きコイルパターン31の中心位置から浮上面25に向かって前方に延び、前端で浮上面25に臨む下部磁極34および上部磁極35を備える。下部磁極34には、浮上面25に隣接して渦巻きコイルパターン31の外側で磁極本体層34aの表面から立ち上がる前方磁極片34bと、渦巻きコイルパターン31の中心位置で磁極本体層34aの表面から立ち上がる後方磁極片34cとが形成される。前方磁極片34bの頂上面と後方磁極片34cの頂上面とは1平坦面36内に規定される。下部磁極34は例えばNiFeから構成されればよい。
【0020】
下部磁極34上には、平坦面36に沿って広がる非磁性層37が積層される。この非磁性層37は、浮上面25で露出する前端から後方に向かって広がる。非磁性層37上には、強磁性原子を含む非磁性下地層38がさらに積層される。非磁性下地層38の表面には上部磁極35の先端が受け止められる。こうして非磁性下地層38は非磁性層37とともに下部磁極34および上部磁極35の間に挟み込まれる。下部磁極34および上部磁極35の間には書き込みギャップが形成される。ただし、下部磁極34および上部磁極35の間には非磁性下地層38のみが挟み込まれてもよい。
【0021】
非磁性下地層38は、例えば25原子%以上の濃度でCrを含むNiFe合金で構成されればよい。その他、非磁性下地層38の形成にあたって、例えばFe、NiおよびCoの少なくともいずれか1種から選択される強磁性原子に基づき合金が生成されてもよい。このとき、合金には、例えばAl、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種から選択される非磁性原子がさらに混ぜ合わせられる。こういった非磁性原子の働きで合金の非磁性化は実現されればよい。
【0022】
上部磁極35は、非磁性下地層38上に積層される強磁性層35aと、渦巻きコイルパターン31の中心位置から前方に延びて、少なくとも前端で強磁性層35aに受け止められる磁極本体層35bとを備える。強磁性層35aで上部磁極35は下部磁極34に向き合わせられる。上部磁極35の後端は渦巻きコイルパターン31の中心位置で下部磁極34の後方磁極片34cに接続される。
【0023】
強磁性層35aは例えばFeCo合金で構成されればよい。FeCo合金にはO、NおよびCの少なくともいずれか1種が添加されてもよい。FeCo合金には、Al、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種がさらに添加されてもよい。その他、強磁性層35aは、少なくともFeやCoといった強磁性原子を含む合金で構成されてもよい。こういった強磁性層35aは、後述されるように、前述の非磁性下地層38上で軟磁性および高い飽和磁束密度(例えば2.4T程度以上)を示す。その一方で、磁極本体層35bは例えばNiFeから構成されればよい。
【0024】
図4に示されるように、読み出し書き込みヘッド23は、磁気抵抗効果(MR)素子41を利用して磁気ディスク13から磁気情報を読み取る読み出しヘッド42をさらに備える。周知の通り、MR素子41は上下1対のシールド層43、44に挟み込まれる。上下シールド層43、44の間で読み出しギャップは規定される。上下シールド層43、44は例えばFeNやNiFeといった磁性材料から構成されればよい。MR素子41には巨大磁気抵抗効果(GMR)素子やトンネル接合磁気抵抗効果(TMR)素子が用いられることができる。
【0025】
この読み出し書き込みヘッド23では、図4に示されるように、誘導書き込みヘッド素子32の下部磁極34と読み出しヘッド42の上シールド層43との間に均一な厚みの非磁性層45が挟み込まれる。この非磁性層45の働きで下部磁極34は上シールド層43から磁気的に分離される。非磁性層45は例えばAl2 3 から構成されればよい。ただし、誘導書き込みヘッド素子32の下部磁極34は読み出しヘッド42の上シールド層43を兼ねてもよい。
【0026】
いま、誘導書き込みヘッド素子32で渦巻きコイルパターン31に電流が供給されると、渦巻きコイルパターン31で磁界が生起される。渦巻きコイルパターン31の中心から上部磁極35や下部磁極34を通じて磁束流は伝わる。磁束流は、非磁性層37および非磁性下地層38を迂回しながら上部磁極35と下部磁極34との間を行き交う。こうして浮上面25から漏れ出る磁束流に基づき書き込み磁界すなわち記録磁界は生成される。この書き込み磁界は、浮上面25に対向する磁気ディスク13を磁化する。
【0027】
特に、こういった誘導書き込みヘッド素子32では、上部磁極35の先端で高い飽和磁束密度は確立される。したがって、誘導書き込みヘッド素子32の書き込みギャップでは強いギャップ磁界すなわち書き込み磁界は形成されることができる。こうして書き込み磁界が強められると、磁気ディスク13には、高い保磁力を有する素材が使用されることができる。その結果、単位面積当たりに一層多くの記録トラックは配置されることができる。磁気記録密度の向上は実現されることができる。
【0028】
次に誘導書き込みヘッド素子32の製造方法を簡単に説明する。この製造にあたって予めアルチック製のウェハー(図示せず)上には、周知の方法に従って、上下シールド層43、44や上下シールド層43、44の間で例えばAl2 3 に埋め込まれるMR素子41が作り込まれる。図5に示されるように、最終的にMR素子41は基準平面51まで削り込まれる。この削り込みで削り代52は削り落とされる。こうした削り込みの結果、基準平面51すなわち浮上面25でMR素子41は露出する。
【0029】
上シールド層43上には、下部磁極34や渦巻きコイルパターン31が形成される。平坦化研磨処理の結果、前方磁極片34bおよび後方磁極片34cの頂上面は平坦面36で露出する。平坦面36上には、例えば図6に示されるように、非磁性層37および非磁性下地層38が相次いで積層形成される。こういった積層形成にあたって例えばスパッタリングが用いられればよい。非磁性下地層38上には続いて例えばAl2 3 といった非磁性膜の盛り上がり53が形成される。その後、こういった盛り上がり53や非磁性下地層38上にフォトレジスト膜54は形成される。このフォトレジスト膜54には、上部磁極35の形状を象った空間55が規定される。
【0030】
その後、空間55内で強磁性層35aが積層形成される。こういった強磁性層35aの積層形成にあたってスパッタリングが用いられる。スパッタリングのターゲットには、例えば、FeCo、FeCoN、FeCoAlO、その他のCoFe合金が用いられればよい。いわゆる公転成膜が実施されると、非磁性下地層38上で成膜される強磁性層35aでは公転方向に沿って磁化容易軸が確立されることができる。
【0031】
公転成膜では、図7に示されるように、ウェハー56すなわち非磁性下地層38は例えば回転台57上に搭載される。回転台57が回転すると、非磁性下地層38は任意の円軌道上を移動する。図8から明らかなように、シールド板58に形成される貫通孔59の働きで、円軌道上の所定位置すなわちスパッタリングのターゲット61の真下を通過するたびに非磁性下地層38にはスパッタ粒子が降り注ぐ。こうしてスパッタ粒子は空間55内で非磁性下地層38や非磁性膜の盛り上がり53上に堆積していく。非磁性下地層38上の強磁性層35aでは移動方向に沿って磁化容易軸ESは確立される。こうして非磁性下地層38上で強磁性層35aの軟磁性は確立される。
【0032】
その後、空間55内で強磁性層35a上に磁極本体層35bは積層形成される。この積層形成には例えばスパッタリングが用いられればよい。こうして空間55内には、渦巻きコイルパターン31の中心位置から基準平面51に向かって延びる上部磁極35は形成される。
【0033】
その後、図9に示されるように、上部磁極35にはトリミング処理が施される。トリミング処理にあたって上部磁極35上にはフォトレジスト膜63が形成される。例えばイオンミルに基づき、幅狭な上部磁極35a、35b、非磁性下地層38、非磁性層37および下部磁極34は削り出される。こうして誘導書き込みヘッド素子32はウェハー上に作り込まれる。誘導書き込みヘッド素子32は最終的に例えばAl2 3 といった非磁性膜で覆われればよい。その後、前述のように削り代52が削り落とされると、誘導書き込みヘッド素子32は完成する。
【0034】
本発明者は、前述の強磁性層35aの磁界特性を検証した。検証に先立って本発明者はNiFe合金に基づき非磁性下地層を準備した。NiFe合金の非磁性化にあたって非磁性原子すなわちCr原子が添加された。図10に示されるように、25原子%以上の濃度でCr原子がNiFe合金中に添加されると、NiFe合金は完全に非磁性化されることが確認された。飽和磁束密度(Bs)の測定にあたって試料振動型磁力計(VSM)が使用された。測定対象すなわちNiFe合金層は800kA/mの磁場に曝された。
【0035】
続いて、本発明者は、前述のような公転成膜に基づきNi61Fe14Cr25合金非磁性下地層上にFe68.6Co29.4Al0.4 1.6 合金強磁性層を形成した。非磁性下地層は、ガラス製基板の表面に形成される膜厚5nmのTi膜上に成膜された。非磁性下地層の膜厚は2nmに設定された。強磁性層の成膜にあたって、スパッタリングのターゲットには、Fe70Co30合金粉末とAl2 3 (アルミナ)粉末との混合焼結体が用いられた。アルミナの配合率は0.1〜3.0原子%に設定された。スパッタリングはArガス雰囲気下で実施された。チャンバ内の圧力は0.1〜1.0Paに設定された。投入電力密度は1.0〜10.0×10-4W/m2 に設定された。ターゲットと基板との距離は90〜180mmに設定された。こうして下地層上には膜厚300nmの強磁性層が形成された。スパッタリング中、基板は水で冷却された。こうしてNiFeCr合金非磁性下地層上に形成されたFeCoAlO合金強磁性層のBH曲線は検証された。図11から明らかなように、このFeCoAlO合金強磁性層では一軸磁気異方性が確立されることが確認された。
【0036】
このとき、本発明者は、比較例に係る2種類の強磁性層を用意した。第1比較例では、膜厚5nmのTi膜上に直接に膜厚300nmのFeCoAlO合金強磁性層が成膜された。第2比較例では、膜厚5nmのTi膜と膜厚300nmのFeCoAlO合金強磁性層との間に膜厚2nmのNi80Fe20合金強磁性下地層が挟み込まれた。第1比較例に係る強磁性層では、図12から明らかなように、等方的な磁気特性が確認された。したがって、NiFeCr合金非磁性下地層の働きでFeCoAlO合金強磁性層では一軸磁気異方性が確立されることが裏付けられた。その一方で、第2比較例に係る強磁性層では、図13から明らかなように、前述と同様に一軸磁気異方性の確立が確認された。したがって、NiFe合金下地層が完全に非磁性化されたにも拘わらず、本実施形態に係るFeCoAlO合金強磁性層では、NiFe合金強磁性下地層の場合と同様に一軸磁気異方性が確立されることが裏付けられた。NiFe合金強磁性下地層の働きでFeCoAlO合金強磁性層の磁気異方性が確立されることは、IEEE Transactions On Magnetics、vol.36、2000年、第2506頁〜第2508頁に開示される。
【0037】
続いて、本発明者は、BH測定角度を変化させながら、NiFeCr合金非磁性下地層上のFeCoAlO合金強磁性層で飽和磁束密度Bsおよび残留磁束密度Brを測定した。図14から明らかなように、飽和磁束密度Bsおよび残留磁束密度Brの比すなわちBs/Br値は磁化容易軸の方向で極大値を示すことが確認された。加えて、Bs/Br値は磁化困難軸の方向で極小値を示すことが確認された。その後、本発明者は、FeCoAlO合金強磁性層の磁化容易軸に直交する方向にFeCoAlO合金強磁性層に直流磁場を印加した。磁場の大きさは240kA/mに設定された。磁場の印加にあたってFeCoAlO合金強磁性層は摂氏280度の高温環境下に置かれた。磁場の印加は3時間維持された。こうした高温環境下での磁場の印加後、再びNiFeCr合金非磁性下地層上のFeCoAlO合金強磁性層で飽和磁束密度Bsおよび残留磁束密度Brは測定された。図15から明らかなように、一軸磁気異方性に変化は観察されなかった。その結果、FeCoAlO合金強磁性層の形成時に高温環境下で磁場が印加されなくても、前述の公転成膜に基づきFeCoAlO合金強磁性層の一軸磁気異方性は確立されることが確認された。
【0038】
さらに、本発明者は、前述と同様に、公転成膜に基づきNi61Fe14Cr25合金非磁性下地層上にFe65Co35合金強磁性層を形成した。Fe65Co35合金強磁性層の膜厚は300nmに設定された。NiFeCr合金非磁性下地層上に形成されたFeCo合金強磁性層のBH曲線は検証された。図16から明らかなように、このFeCo合金強磁性層では一軸磁気異方性が確立されることが確認された。しかも、2.45[T]といった高い飽和磁束密度は維持されることが確認された。
【0039】
このとき、本発明者は、比較例に係る強磁性層を用意した。この比較例では、膜厚5nmのTi膜上に直接に膜厚300nmのFeCo合金強磁性層が成膜された。このFeCo合金強磁性層では、図17から明らかなように、等方的な磁気特性が確認された。したがって、NiFeCr合金非磁性下地層の働きでFeCo合金強磁性層では一軸磁気異方性が確立されることが裏付けられた。なお、NiFeCr合金非磁性下地層上に形成されたFeCo合金強磁性層では、Ti膜の有無に拘わらず一軸磁気異方性の確立が確認された。
【0040】
(付記1) 強磁性原子を含む非磁性下地上に積層される強磁性層を備えることを特徴とする軟磁性膜。
【0041】
(付記2) 付記1に記載の軟磁性膜において、前記強磁性原子はFe、NiおよびCoの少なくともいずれか1種であることを特徴とする軟磁性膜。
【0042】
(付記3) 付記2に記載の軟磁性膜において、前記非磁性下地はNiFe合金であることを特徴とする軟磁性膜。
【0043】
(付記4) 付記2に記載の軟磁性膜において、前記非磁性下地はAl、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする軟磁性膜。
【0044】
(付記5) 付記4に記載の軟磁性膜において、前記非磁性下地は25原子%以上の濃度でCrを含むことを特徴とする軟磁性膜。
【0045】
(付記6) 付記1〜5のいずれかに記載の軟磁性膜において、前記強磁性層は、FeおよびCoの少なくともいずれか1種を含む合金であることを特徴とする軟磁性膜。
【0046】
(付記7) 付記6に記載の軟磁性膜において、前記合金はFeCo合金であることを特徴とする軟磁性膜。
【0047】
(付記8) 付記7に記載の軟磁性膜において、前記FeCo合金はO、NおよびCの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする軟磁性膜。
【0048】
(付記9) 付記8に記載の軟磁性膜において、前記FeCo合金はAl、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする軟磁性膜。
【0049】
(付記10) 付記7に記載の軟磁性膜において、前記FeCo合金はAl、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする軟磁性膜。
【0050】
(付記11) 下部磁極と、下部磁極上に積層される非磁性層と、非磁性層上に積層されて、強磁性原子を含む非磁性下地層と、非磁性下地層上に積層されて、強磁性原子を含む上部磁極とを備えることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0051】
(付記12) 付記11に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記強磁性原子はFe、NiおよびCoの少なくともいずれか1種であることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0052】
(付記13) 付記12に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記非磁性下地層はNiFe合金であることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0053】
(付記14) 付記12に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記非磁性下地層はAl、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0054】
(付記15) 付記14に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記非磁性下地層は25原子%以上の濃度でCrを含むことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0055】
(付記16) 付記11に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記強磁性層は、FeおよびCoの少なくともいずれか1種を含む合金であることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0056】
(付記17) 付記16に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記合金はFeCo合金であることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0057】
(付記18) 付記17に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記FeCo合金はO、NおよびCの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0058】
(付記19) 付記18に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記FeCo合金はAl、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0059】
(付記20) 付記17に記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記FeCo合金はAl、B、Ga、Si、Ge、Y、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Ni、Mo、W、Rh、Ru、PdおよびPtの少なくともいずれか1種をさらに含むことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【0060】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、軟磁性膜は薄膜磁気ヘッドの書き込み磁界の増強に大いに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 ハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を概略的に示す平面図である。
【図2】 一具体例に係る浮上ヘッドスライダの構造を概略的に示す拡大斜視図である。
【図3】 本発明に係る薄膜磁気ヘッドすなわち誘導書き込みヘッド素子の構造を概略的に示す拡大平面図である。
【図4】 図3の4−4線に沿った部分断面図である。
【図5】 下部磁極や渦巻きコイルパターンの形成工程を概略的に示すウェハーの部分断面図である。
【図6】 上部磁極の形状を象るフォトレジスト膜の様子を概略的に示すウェハーの部分断面図である。
【図7】 いわゆる工程成膜に基づき非磁性下地層上に強磁性層を成膜する工程を概略的に示すスパッタリングの概念図である。
【図8】 いわゆる工程成膜に基づき確立される磁気異方性の概念を概略的に示すウェハーの拡大平面図である。
【図9】 図6の9−9線に沿った断面図に対応し、上部磁極のトリミング処理を概略的に示す図である。
【図10】 NiFe合金に添加されるCrの含有量と飽和磁束密度との関係を示すグラフである。
【図11】 本発明に係るFeCoAlO合金強磁性層すなわち軟磁性膜のBHヒステリシスを表すグラフである。
【図12】 第1比較例に係るFeCoAlO合金強磁性層のBHヒステリシスを表すグラフである。
【図13】 第2比較例に係るFeCoAlO合金強磁性層(軟磁性膜)のBHヒステリシスを表すグラフである。
【図14】 成膜後のFeCoAlO合金強磁性層で、飽和磁束密度に対する残留磁束密度の比率とBH測定角度との関係を示すグラフである。
【図15】 高温環境下で磁場に曝された後に、FeCoAlO合金強磁性層で、飽和磁束密度に対する残留磁束密度の比率とBH測定角度との関係を示すグラフである。
【図16】 本発明に係るFeCo合金強磁性層すなわち軟磁性膜のBHヒステリシスを表すグラフである。
【図17】 比較例に係るFeCo合金強磁性層のBHヒステリシスを表すグラフである。
【符号の説明】
32 薄膜磁気ヘッドとしての誘導書き込みヘッド素子、34 下部磁極、35 上部磁極、35a 軟磁性膜としての強磁性層、37 非磁性層、38 非磁性下地(層)。

Claims (1)

  1. 下部磁極と、下部磁極上に積層される非磁性層と、非磁性層上に積層されて、非磁性のNiFeCr合金で構成される非磁性下地層と、非磁性下地層上に積層されて、強磁性のFeCo合金またはFeCoAlO合金で構成される強磁性層と、NiFe合金で構成されて、強磁性層の表面で広がって強磁性層と協働で上部磁極を形成する磁極本体層とを備えることを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
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