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JP4006460B1 - 高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金およびその製造方法 - Google Patents

高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高強度化、高導電率化とともに、優れた曲げ加工性を兼備した銅合金を提供することを目的とする。
【解決手段】強度と導電率とのバランスからNi、Si、Pを各々特定量含有する銅合金組織の、50〜200nmの特定サイズの析出物の数密度を保証した上で、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度を一定範囲に制御してP含有析出物を存在させ、このP含有析出物による結晶粒成長抑制のピン止め効果によって、平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させ、前記銅合金に高強度、高導電率および曲げ加工性を兼備させる。
【選択図】なし

Description

本発明は、高強度、高導電率であり、かつ曲げ加工性に優れた、コルソン系銅合金に関し、例えば、家電、半導体装置用リードフレーム等の半導体部品、プリント配線板等の電気・電子部品材料、開閉器部品、ブスバー、端子・コネクタ等の機構部品や産業用機器などに用いられる銅合金板条として好適な銅合金およびその製造方法に関する。
電子機器の小型化及び軽量化の要請に伴い、電気・電子部品の小型化及び軽量化が進んでいる。そして、この電気・電子部品の小型化及び軽量化が端子部品の小型化及び軽量化のために、これらに使用される銅合金材料も板厚及び幅が小さくなり、ICにおいては、板厚が0 . 1 〜 0 .1 5 mmと薄い銅合金板も使用されるようになってきている。
その結果、これらの電気・電子部品に使用される銅合金材料には、より一層高い引張強度が求められるようになっている。例えば、自動車用コネクタなどでは、8 0 0 M P a以上の高強度銅合金板が求められるようになっている。
また、電気・電子部品の前記薄板化及び幅狭化の傾向は、銅合金材料の導電性部分の断面積を減少させる。この断面積の減少による導電性の低下を補うためには、銅合金材料自体に、導電率が4 0 %I A C S 以上の良好な導電率が求められるようになっている。
さらに、これらコネクタ、端子、スイッチ、リレー、リードフレームなどに用いられる銅合金板は、前記高強度および高導電率はもちろんのこと、ノッチング後の90°曲げなど、厳しい曲げ加工性が要求されることが多くなってきている。
従来から、高強度な銅合金材料としては、4 2 アロイ(Fe - 4 2質量% Ni合金)が知られている。この4 2 アロイは約5 8 0 M P a 程度の引張強さを有し、異方性も少なく、また曲げ加工性も良好である。しかしながら、この4 2 アロイは8 0 0 M P a以上の高強度化の要求には応えられない。また、4 2 アロイはNiを多量に含有するため、価格が高いという問題点もある。
このため、前記種々の特性に優れ、且つ安価なコルソン合金(Cu−Ni−Si系合金)が電気・電子部品用に使用されるようになった。このコルソン合金は、ケイ化ニッケル化合物(Ni2 Si)の銅に対する固溶限が温度によって著しく変化する合金で、焼入・焼戻によって硬化する析出硬化型合金であり、耐熱性や高温強度も良好で、これまでも、導電用各種バネや高抗張力用電線などに広く使用されている。
しかし、このコルソン合金においても、銅合金材料の強度を向上させると、導電性や曲げ加工性は低下する。即ち、高強度のコルソン合金において、良好な導電率及び曲げ加工性とすることは非常に困難な課題であり、更なる強度、導電性及び曲げ加工性の向上が求められている。
このコルソン合金の強度、導電性及び曲げ加工性の向上の方策は従来から提案されている。例えば、特許文献1によれば、Ni、Siに加えて、Sn、Zn、Fe、P 、Mg、Pb量などを規定し、導電性に加え、曲げ部の耐はんだ剥離性、耐熱クリープ特性、耐マイグレーション特性、熱間加工性を維持しつつ強度及び打抜き加工性を向上させている。
特許文献2によれば、Ni、Siに加えて、Mg量と合金中に存在する析出物及び介在物のうち粒径が10μm 以上のものの単位面積あたりの個数を規定し、導電率、強度及び高温強度を向上させている。
特許文献3によれば、Ni、Siに加えてMgを含有し、同時にS の含有量を制限して好適な強度、導電性、曲げ加工性、応力緩和特性、メッキ密着性を向上させている。
特許文献4によれば、Fe量を0.1%以下に制限し、強度、導電率、曲げ加工性及びを向上させている。
特許文献5によれば、介在物の大きさが10μm以下であり、かつ、5 〜10μm の大きさの介在物個数を制限し、強度、導電率、曲げ加工性、エッチング性、メッキ性を向上させている。
特許文献6によれば、Ni2Si 析出物の分散状態を制御し、強度、導電率、曲げ加工性を向上させている。
特許文献7によれば、銅板表面組織の結晶粒の延伸形状を規定する事で、耐磨耗性を向上させている。
特開平9−209061号公報 (全文) 特開平8−225869号公報 (全文) 特開2002−180161号公報 (全文) 特開2001−207229号公報 (全文) 特開2001−49369号公報 (全文) 特開2005−89843号公報 (全文) 特開平5−279825号公報 (全文)
しかし、特許文献1はコルソン合金の各成分含有量を規定したのみであり、成分組成のみの制御では十分な強度が得られないし、実際にも、十分な強度が得られていない。
特許文献2は、コルソン合金の組織に注目し、存在する析出物及び介在物の大きさ、個数を規定しているものの、それ以上に組織には踏み込んでおらず、また、溶体化工程も規定していないために、十分な強度が得られていない。
特許文献3は、導電率が低く要求に達せず(実施例では29〜33%IACS)また、規定される量までSを減らすことによる製造コストの増大が懸念され、実用的では無い。
特許文献4のようにFe量を0.1%以下に制限するだけでは、十分な導電率、強度及び曲げ性は得られない。
特許文献5は、コルソン合金の組織に注目し、存在する介在物の大きさ、個数を規定しているものの、それ以上に組織には踏み込んでおらず、また、溶体化工程の制御も不十分であり、十分な強度が得られていない。
特許文献6は、コルソン合金の組織に注目し、100万倍の透過型電子顕微鏡で組織観察される、ケイ化ニッケル析出物(Ni2 Si)の平均粒径を3〜10nmにするとともに、間隔を25nm以下として、析出物の分散状態を制御している。しかし、基本的に、Ni、Siの含有量が多すぎるため、導電率が十分高くない。
特許文献7は、銅板表面組織の結晶粒の延伸形状を規定しているものの、結晶粒の形状だけでは十分な強度が得られず、溶体化工程の制御も不十分であり、導電率が十分高くない。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、高強度、高導電率であり、かつ優れた曲げ加工性を兼備したコルソン系銅合金およびその製造方法を提供することである。
この目的を達成するために、本発明の高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金の要旨は、質量%で、Ni:0.4〜4.0%、Si:0.05〜1.0%、P:0.005〜0.5%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、この銅合金組織の、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で0.2〜7.0個/μm2 であり、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が0.1〜50at%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、(Σx)/nで表される平均結晶粒径が10μm 以下であることとする。
この目的を達成するために、本発明の高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金の製造方法の要旨は、上記要旨あるいは後述する好ましい態様などのの銅合金の板を製造する方法であって、銅合金の鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効硬化処理、歪取り焼鈍を含む工程により銅合金板を得るに際し、溶体化処理における400℃までの平均昇温速度を5〜100℃/hの範囲、400℃から溶体化処理温度までの平均昇温速度を100℃/s以上、溶体化処理温度を700℃以上、900℃未満とし、溶体化処理後の平均冷却速度を50℃/s以上と各々することである。
上記目的を達成するために、本発明の高強度および曲げ加工性に優れた銅合金は、更に、銅合金組織の前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10であることが好ましい。
本発明の高強度および曲げ加工性に優れた銅合金は、更に、質量%で、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01〜3.0%を含有しても良い。また、質量%で、Zn:0.005〜3.0%を含有しても良い。また、質量%で、Sn:0.01〜5.0%を含有しても良い。
本発明は、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させて、銅合金の曲げ加工性を向上させる。そして、組織におけるこの結晶粒微細化を、Ni−Si−P、Fe−P、Fe−Ni−P、Ni−Si−Fe−P等のP含有析出物(以下、リン化物、リン化合物とも言う)の結晶粒成長抑制のピン止め効果によって達成することを特徴とする。
本発明者らは、上記P含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、Pを含有しない通常のNi2 Si系析出物のピン止め効果に比して著しく大きいことを知見した。そして、同時に、このピン止め効果の大きさは、P含有析出物におけるPの含有量(原子濃度)によって左右されることも知見した。
言い換えると、従来のコルソン系銅合金組織において、平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させることが、実質的に困難であった理由は、Pを含有しない通常のNi2 Si系析出物だけでは、ピン止め効果には大きな限界があったためと推考される。
ここで、合金成分としてPを含有しても、銅合金組織において存在する析出物全てがP含有析出物となる訳ではない。即ち、実際の銅合金組織においては、P含有析出物の他に、他のPを含有しないNi2 Si系などの析出物が混在する。言い換えると、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きいP含有析出物と、結晶粒成長抑制のピン止め効果が小さい、Pを含有しない他のNi2 Si系などの析出物が混在することとなる。
このため、実際の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、銅合金組織におけるP含有析出物の量に依存する。言い換えると、銅合金組織の平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させるためには、銅合金組織中に一定量以上のP含有析出物を存在させることが必要である。
この点、本発明では、銅合金組織中に存在するP含有析出物の量を直接規定するのではなく、銅合金組織中に存在する上記特定サイズ(50〜200nm)の全析出物中のPの原子濃度によって、P含有析出物の量を制御する。銅合金組織中に混在するP含有析出物とPを含有しない他の析出物の中から、P含有析出物だけをピックアップして分析、測定することは非効率で、かつ測定が不正確となるからである。
したがって、本発明では、これら特定サイズの全析出物(Pを含有するか否かにかかわらない全析出物)を対象として、Pの原子濃度を測定し、この析出物中のPの平均原子濃度によって、銅合金組織中におけるP含有析出物の量を制御する。また、この前提として、本発明では、上記特定サイズの全析出物(化合物)の数密度を保証(規定)する。
これによって、本発明では、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮させ、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させて、銅合金の曲げ加工性を向上させる。
これら特定サイズの析出物(化合物)の数密度の保証と、析出物中のPの平均原子濃度の制御は、前提として、Pなどの本発明範囲での含有量の制御と、溶体化処理時における昇温速度と溶体化処理後の冷却速度の制御によって可能となる。そして、この析出物に含まれるPの平均原子濃度の制御(P含有析出物量の制御)によらなければ、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させることは難しい。
この他、本発明では、導電率を高めに維持するために、基本合金成分であるNi、Siの含有量を比較的低く制御する。そして、前記したP含有析出物やNi2 Siを含めた他の析出物を微細に析出させて強度を向上させ、Ni、Siの含有量を比較的低く制御しても高強度とする。
これによって、本発明は、高強度、高導電率および優れた曲げ加工性をバランスよく備えた銅合金を得る。
(銅合金の成分組成)
先ず、前記各種用途用として、必要強度や導電率、更には、高い曲げ加工性や耐応力緩和特性を満たすための、本発明コルソン系合金における化学成分組成を、以下に説明する。
本発明では、高強度、高導電率、また、高い曲げ加工性を達成するために、質量%で、Ni:0.4〜4.0%、Si:0.05〜1.0%、P:0.005〜0.5%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金からなる基本組成とする。この組成は、銅合金組織の結晶粒を微細化するとともに、析出物(Ni2 Si)に含まれるPの平均原子濃度を制御するための、成分組成側からの重要な前提条件となる。なお、以下の各元素の説明において記載する%表示は全て質量%である。
この基本組成に対し、更に、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01〜3.0%を含有しても良い。また、Zn:0.005〜3.0%を含有しても良い。また、Sn:0.01〜5.0%を含有しても良い。
Ni:0.4〜4.0%
Niは、Siとの化合物(Ni2 Siなど)を晶出または析出させることにより、銅合金の強度および導電率を確保する作用がある。また、Pとの化合物も形成する。Niの含有量が0.4%未満と少な過ぎると、晶・析出物の生成量が不十分であるため所望の強度が得られないばかりか、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。また、偏析しやすい晶出物の割合が高くなって最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、Niの含有量が4.0%を越えて多過ぎると、導電率が低下するのに加えて、析出物数密度が大きくなりすぎ、曲げ加工性が低下する。したがって、Ni量は0.4〜4.0%の範囲とする。
Si:0.05〜1.0%
Siは、Niとの化合物(Ni2 Si)を晶・析出させて銅合金の強度および導電率を向上させる。また、Pとの化合物も形成する。Siの含有量が0.05%未満と少な過ぎる場合は、晶・析出物の生成が不十分であるため所望の強度が得られないばかりか、結晶粒が粗大化する。また、偏析しやすい晶出物の割合が高くなって、最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、Siの含有量が1.0%を越えて多過ぎると、析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下すると同時に、析出物に含まれるPとSiの原子数比P/Siが低くなりすぎる。したがって、Si含有量は0.05〜1.0%の範囲とする。
P:0.005〜0.5%
Pは、P含有析出物を生成させるとともに、P含有析出物中のPの原子濃度を上記した特定範囲に制御するための重要元素である。P含有析出物(リン化物、リン化合物)を形成することで、強度、導電率が向上するとともに、リン化物の形成により結晶粒が微細化し、曲げ加工性が向上する。但し、これらの効果の内、特に曲げ加工性向上効果は、P含有析出物のPの原子濃度を上記した特定範囲に制御することによって発揮される。
Pの含有量が0.005%未満と少な過ぎる場合には、これらの作用、効果が有効に発揮されない。一方、Pの含有量が0.5%を超えて多過ぎると、析出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれるPの原子濃度が高くなりすぎる。したがって、Pの含有量は0.005〜0.5%の範囲とする。
ここで本発明で言うP含有析出物とは、Ni−Si−Pの基本組成では、Ni−Si−PのP含有析出物である。これにFeやMgなどを含有すると、Ni−Si−PのP含有析出物とともに、あるいはこれに代わって、(Fe、Mg)−P、(Fe、Mg)−Ni−P、Ni−Si−(Fe、Mg)−P等のP含有析出物が生成する。また、Cr、Ti、Co、Zrなどを含有すると、これらFeやMgなどの部分が、一部乃至全部置換したP含有析出物が生成する。
Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zr:合計で0.01〜3.0%
これらの元素は、上記した通り、リン化物を形成することで、強度、導電率を向上させるとともに、結晶粒微細化にも効果がある。これらの効果を発揮させる場合には、選択的に、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01%以上含有させる。しかし、これらの元素の合計含有量(総量)が3.0%を超えると、析出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれるPの原子濃度が低くなりすぎる。したがって、選択的に含有させる場合のCr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrの含有量は、合計で(総量で)0.01〜3.0%の範囲とする。
Zn:0.005〜3.0%
Znは電子部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させる場合には、選択的に0.005%以上含有させる。しかし、3.0%を越えて過剰に含有すると、却って溶融Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、含有量が多くなると、導電率も大きく低下させる。したがって、Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含有させ、その場合のZn含有量は0.005〜3.0%の範囲、好ましくは0.005〜1.5%の範囲とする。
Sn:0.01〜5.0%
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与する。このような効果を有効に発揮させる場合には、選択的に0.01%以上含有させる。しかし、5.0%を越えて過剰に含有すると、その効果が飽和し、また、含有量が多くなると導電率を大きく低下させる。したがって、Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含有させ、その場合のSn含有量は0.01〜5.0%の範囲、好ましくは0.01〜1.0%の範囲とする。
その他の元素含有量:
その他の元素は、基本的に不純物であって、できるだけ少ないほうが好ましい。例えば、Al、Be、V 、Nb、Mo、W などの不純物元素は、粗大な晶・析出物を生成しやすくなり、曲げ加工性が劣化するばかりか、導電率の低下も引き起こしやすくなる。したがって、これらの元素は総量で0.5%以下の極力少ない含有量にすることが好ましい。この他、銅合金中に微量に含まれるB 、C 、Na、S 、Ca、As、Se、Cd、In、Sb、Bi、MM(ミシュメタル)等の元素も、導電率の低下を引き起こしやすくなるので、これらの総量で0.1%以下の極力少ない含有量に抑えることが望ましい。但し、これらの元素を低減するためには、地金使用や精錬などの製造コストが上昇しがちであり、製造コストの上昇を抑制するためには、これら元素の総量の各々上記した上限までの含有は許容する。
(銅合金組織)
本発明では、以上のCu−Ni−Si−P系合金組成を前提に、この銅合金の組織を設計して、平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させて、銅合金の曲げ加工性を向上させる。
そして、この組織設計を、銅合金組織中に存在する析出物に含まれるPの平均原子濃度の制御(P含有析出物量の制御)によって達成する。この析出物に含まれるPの平均原子濃度の制御によらなければ、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きいP含有析出物を銅合金組織中に適正量確保できない。この結果、銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させることは難しい。
(析出物の数密度)
但し、この前提として、銅合金組織に存在する析出物の数密度を保証することが必要である。銅合金組織に存在する析出物の数密度が少な過ぎる、あるいは多過ぎると、これら析出物に含まれるPの平均原子濃度、あるいはPとSiとの平均原子濃度を制御したとしても、曲げ性の向上効果が十分に発揮できない場合も当然起こり得る。したがって、本発明では、析出物による結晶粒径微細化効果を保証するために、特定サイズの析出物の数密度を一定範囲とする。
即ち、前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が0.2〜7.0個/μm2 であることとする。ここで規定する特定サイズの析出物は、Pを含有するか否かにかかわりなく、各析出物のサイズ(最大径)のみを選別基準としている。
この析出物の数密度が0.2個/μm2 より小さいと、析出物が少な過ぎる。このため、この析出物に含まれるPあるいはPとSiとの平均原子濃度を制御しても、結晶粒径微細化効果が十分に発揮できず、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可能性がある。
一方、この析出物の数密度が7.0個/μm2 よりも大きいと、析出物が多過ぎ、曲げ加工時に、せん断帯の形成が促進され、却って曲げ加工性が低下する。したがって、50〜200nmのサイズの析出物の数密度は、0.2〜7.0個/μm2 、好ましくは0.5〜5.0個/μm2 の範囲とする。
(析出物の数密度測定方法)
析出物の数密度測定方法は、後述する、析出物に含まれるPの平均原子濃度測定の前段となる。具体的には、製造された最終の銅合金(板など)から試料を採取して、電解研磨によりTEM観察用薄膜サンプルを作製する。そして、このサンプルを例えば日立製作所製:HF−2200電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM)により、倍率×30000倍で明視野像を得る。この明視野像を焼付、現像し、その写真より析出物の直径及び数を測定し、各析出物の最大の径が50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物を特定する。この測定から50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物の数密度(個/μm2 )を算出できる。
(析出物に含まれるPの平均原子濃度)
析出物の数密度を保証した上で、本発明では、銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させるために、銅合金組織の、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズのケイ化ニッケルなどの析出物に含まれるPの平均原子濃度を0.1〜50at%の範囲に制御する。
前記した通り、本発明では、銅合金組織中に存在するP含有析出物の量を直接規定するのではなく、銅合金組織中に存在する上記特定サイズ(50〜200nm)の全析出物中のPの平均原子濃度によって、P含有析出物の量を制御する。したがって、本発明では、これら特定サイズの全析出物(Pを含有するか否かにかかわらない析出物)を対象としてPの原子濃度を測定し、これらの析出物中のPの平均原子濃度によって、銅合金組織中におけるP含有析出物の量を制御する。
前記析出物内に含まれるPの平均原子濃度が低過ぎて、0.1at%未満となると、銅合金組織の結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。一方、前記析出物内に含まれるPの平均原子濃度が高過ぎて、50at%を越えると、銅合金組織へのP以外の固溶元素が多くなりすぎて、導電率が低下する。したがって、析出物に含まれるPの平均原子濃度は0.1〜50at%の範囲、好ましくは0.5〜40at%の範囲とする。
(析出物に含まれるPとSiとの原子数比)
本発明では、銅合金の結晶粒径の微細化を保証するために、更に、銅合金組織の前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10であることが好ましい。
析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01よりも小さいと、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可能性が高くなる。一方、析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で10より大きいと、固溶Si量が多くなりすぎ、導電率が低下する可能性が高くなる。したがって、析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siは平均で、好ましくは0.01〜10、より好ましくは0.10〜5.0とする。
(析出物内に含まれるPの平均原子濃度測定方法)
前記析出物の数密度を測定した、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡による、同一の明視野像(同一の観察像)の各析出物に対して、例えばNoran社製NSSエネルギー分散型分析装置(EDX)により、各析出物の成分定量分析を実施する。この分析の際のビーム径は5nm以下で実施する。この分析を、前記最大の径が50〜200nmのサイズの各析出物(全析出物)に対してのみ実施し(これ以外のサイズの析出物に対しては実施せず)、視野内の各析出物(全析出物)内のP及びSiの原子濃度(at%)をそれぞれ測定する。そして、明視野像内の、析出物内に含まれるP及びSiの平均原子濃度を算出する。
(析出物内に含まれるPとSiとの原子数比測定方法)
この析出物内(析出物中)に含まれるP及びSiの平均原子濃度の測定から、50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siの平均も算出できる。
これらの測定乃至算出の再現性と精度向上のために、銅合金から採取する測定用試料は任意の10箇所からの10個とし、上記析出物内に含まれるP及びSiの平均原子濃度、PとSiとの原子数比P/Si、析出物の数密度などの各数値は、これら10個の平均とする。
(平均結晶粒径)
本発明では、これら銅合金組織の析出物制御によって微細化させた、銅合金組織の結晶粒径が、曲げ加工性を実質的に向上させる目安として、銅合金組織の平均結晶粒径を規定する。即ち、倍率350倍の電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、(Σx)/nで表される平均結晶粒径が10μm 以下であることとする。
平均結晶粒径が10μm を越えて大きくなると、本発明が得ようとする曲げ加工性が得られない。したがって、平均結晶粒径は10μm 以下、好ましくは7μm 以下とする。
(平均結晶粒径測定方法)
本発明で、これら平均結晶粒径の測定方法を、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM )に、後方散乱電子回折像[EBSP: Electron Back Scattering (Scattered) Pattern]システムを搭載した結晶方位解析法と規定するのは、この測定方法が、高分解能ゆえに高精度であるためである。
EBSP法は、FESEM の鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は3次元オイラー角として、位置座標(x、y)などとともに記録される。このプロセスが全測定点に対して自動的に行なわれるので、測定終了時には数万〜数十万点の結晶方位データが得られる。
このように、EBSP法には、X 線回折法や透過電子顕微鏡を用いた電子線回折法よりも、観察視野が広く、数百個以上の多数の結晶粒に対する、平均結晶粒径、平均結晶粒径の標準偏差、あるいは方位解析の情報を、数時間以内で得られる利点がある。また、結晶粒毎の測定ではなく、指定した領域を任意の一定間隔で走査して測定するために、測定領域全体を網羅した上記多数の測定ポイントに関する、上記各情報を得ることができる利点もある。なお、これらFESEM にEBSPシステムを搭載した結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/Vol.52 No.2(Sep.2002)P66-70などに詳細に記載されている。
これらFESEM にEBSPシステムを搭載した結晶方位解析法を用いて、本発明では、製品銅合金の板厚方向の表面部の集合組織を測定し、平均結晶粒径の測定を行なう。
ここで、通常の銅合金板の場合、主に、以下に示す如きCube方位、Goss方位、Brass 方位(以下、B方位ともいう)、Copper方位(以下、Cu方位ともいう)、S方位等と呼ばれる多くの方位因子からなる集合組織を形成し、それらに応じた結晶面が存在する。これらの事実は、例えば、長島晋一編著、「集合組織」(丸善株式会社刊)や軽金属学会「軽金属」解説Vol.43、1993、P285-293などの記載されている。
これらの集合組織の形成は同じ結晶系の場合でも加工、熱処理方法によって異なる。圧延による板材の集合組織の場合は、圧延面と圧延方向で表されており、圧延面は{ABC}で表現され、圧延方向は<DEF>で表現される(ABCDEFは整数を示す)。かかる表現に基づき、各方位は下記の如く表現される。
Cube方位 {001}<100>
Goss方位 {011}<100>
Rotated-Goss方位 {011}<011>
Brass 方位(B方位) {011}<211>
Copper方位(Cu方位) {112}<111>
(若しくはD方位{4 4 11}<11 11 8 >
S方位 {123}<634>
B/G方位 {011}<511>
B/S方位 {168}<211>
P方位 {011}<111>
本発明においては、基本的に、これらの結晶面から±15°以内の方位のずれのものは同一の結晶面(方位因子)に属するものとする。また、隣り合う結晶粒の方位差が5°以上の結晶粒の境界を結晶粒界と定義する。
その上で、本発明においては、測定エリア300 ×300 μm に対して0.5 μm のピッチで電子線を照射し、上記結晶方位解析法により測定した結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、上記平均結晶粒径を(Σx)/n、と表す。
(製造条件)
次に、銅合金の組織を上記本発明規定の組織とするための、好ましい製造条件について以下に説明する。本発明銅合金は基本的に銅合金板であり、これを幅方向にスリットした条や、これら板条をコイル化したものが本発明銅合金の範囲に含まれる。
本発明でも、一般的な製造工程と同様に、特定成分組成に調整した銅合金溶湯の鋳造、鋳塊面削、均熱、熱間圧延、そして冷間圧延と、溶体化処理(再結晶焼鈍)、時効硬化処理(析出焼鈍)、歪取り焼鈍などを含む工程により最終(製品)板が得られる。但し、上記製造工程の内でも、以下に説明する好ましい各製造条件を組み合わせて実施することで、本発明規定の組織、強度・高導電率及び曲げ加工性を得ることが可能となる。
先ず、熱間圧延の終了温度は550〜850℃とすることが好ましい。この温度が550℃より低い温度域で熱間圧延を行うと、再結晶が不完全なため不均一組織となり、曲げ加工性が劣化する。熱間圧延の終了温度が850℃より高いと、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が劣化する。この熱間圧延後は水冷することが好ましい。
次に、この熱間圧延後で、溶体化処理(再結晶焼鈍)前の、冷間圧延における冷延率を70〜98%とすることが好ましい。冷延率が70%より低いと、再結晶核となるサイトが少なすぎる為に、本発明が得ようとする平均結晶粒径よりも必然的に大きくなり、曲げ加工性が劣化する可能性がある。一方、冷延率が98%より高いと、結晶粒径のばらつきが大きくなるために、結晶粒が不均一となり、本発明が得ようとする曲げ加工性が劣化する可能性がある。
(溶体化処理)
溶体化処理は、本発明における銅合金組織の析出物制御によって、結晶粒径を微細化させ、銅合金の曲げ加工性を向上させるために重要な工程である。特に、溶体化処理開始時における昇温速度と、溶体化処理後の溶体化処理温度からの冷却速度との制御は、銅合金組織の析出物制御のために重要となる。
この点、本発明では、溶体化処理における400℃までの平均昇温速度を5〜100℃/hの範囲、400℃から溶体化処理温度までの平均昇温速度を100℃/s以上、溶体化処理温度を700℃以上、900℃未満とし、溶体化処理後の平均冷却速度を50℃/s以上と各々する。
溶体化処理工程における昇温、冷却過程では、まず、室温から約600℃以下の比較的低温の領域では、ケイ化ニッケル析出物(Ni2 Si)などの析出が起こり、約600℃以上の高温の領域では、これら析出物が再固溶する。また、本発明銅合金の再結晶温度範囲は約500〜700℃であり、銅合金の結晶粒径はこの再結晶時の析出物の分散状態に大きく影響を受ける。
溶体化昇温開始時より400℃到達までの平均昇温速度は、比較的小さくし、5〜100℃/hとする。但し、平均昇温速度がこの5℃/hより小さいと、析出した析出物が粗大化してしまい、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。一方、平均昇温速度が100℃/hより大きいと、析出物の生成量が少なくなる。このため、析出物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
次に、上記400℃から溶体化温度までの平均昇温速度は、比較的大きくし、100℃/s以上とする。昇温速度が100℃/s未満と、100℃/sより小さいと、再結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
溶体化処理温度は700℃以上、900℃未満とする。溶体化処理温度は700℃より低いと、溶体化が不十分となり、本発明が得ようとする高強度が得られないばかりか、曲げ性が低下する。一方、溶体化処理温度が900℃以上と、900℃よりも高いと、析出物の数密度が小さくなりすぎるとともに、析出物に含まれるPの原子濃度が低くなりすぎ、本発明が得ようとする曲げ加工性及び高導電率が得られない。
溶体化処理後の平均冷却速度は50℃/s以上とする。冷却速度が50℃/sより小さいと、結晶粒の成長が促進され、本発明が得ようとする平均結晶粒径より大きくなるとともに、曲げ加工性が低下する。
(溶体化処理後の処理)
この溶体化処理後(再結晶焼鈍後)に、約300〜450℃の範囲の温度で析出焼鈍(中間焼鈍、二次焼鈍)を行ない、微細な析出物を形成させ、銅合金板の強度と導電率を向上(回復)させても良い。また、これら焼鈍後に、10〜30%の範囲で最終の冷間圧延を行なっても良い。なお、この最終の冷間圧延前で、前記溶体化処理後に、導電率を回復するための中間焼鈍を行なっても良い。
以上説明した、これらの製造条件を適切に組み合わせて実施することで、本発明の前記要件を満たす高強度・高導電率及び曲げ加工性に優れた銅合金を得ることが可能となる。かくして得られる本発明の銅合金は高強度・高導電率及び曲げ加工性が優れているので、家電、半導体部品、産業用機器並びに、自動車用電機電子部品に幅広く有効に活用できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
以下に、本発明の実施例を説明する。Cu合金組成と製造方法、特に溶体化処理条件を変えて、Cu合金組織中の析出物内のP平均原子濃度などを種々変えて、得られたCu合金薄板の平均結晶粒径を変化させ、強度、導電率、曲げ性などの特性を各々評価した。
具体的には、下記表1、2に示す化学成分組成の銅合金を、それぞれクリプトル炉において大気中で木炭被覆下で溶解し、鋳鉄製ブックモールドに鋳造し、厚さが50mm、幅が75mm、長さが180mmの鋳塊を得た。そして、鋳塊の表面を面削した後、950℃の温度で厚さが20mmになるまで熱間圧延し、750℃以上の熱間圧延終了温度から水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間圧延を行い、厚さが0.25mmの板を得た。
続いて、塩浴炉を使用し、表2、3に示すように、昇温、冷却条件を種々変えて溶体化処理を行なった。なお、溶体化温度における板の保持時間は共通して3 0秒間とした。次に、仕上げ冷間圧延により、各々厚さが0.20mmの冷延板にした。この冷延板を450 ℃×4hの人工時効硬化処理して最終の銅合金板を得た。
このようにして製造した銅合金板に対して、各例とも、上記最終銅合金板から切り出した試料を使用して、組織調査と、引張試験による強度(0.2%耐力)測定、導電率測定、曲げ試験及び評価を実施した。これらの結果を表3、4に示す。
ここで、表1、2に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成はCuであり、表1 、2に記載以外の他の元素として、Al、Be、V 、Nb、Mo、W などの不純物元素は総量で0.5%以下であった。この他、B 、C 、Na、S 、Ca、As、Se、Cd、In、Sb、Bi、MM(ミシュメタル)等の元素もこれらの総量で0.1%以下であった。なお、表1、2の各元素含有量において示す「−」は検出限界以下であることを示す。
これら銅合金試料組織の調査は、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度 (at%) 、同じく50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの平均原子数比P/Si、同じく50〜200nmのサイズの析出物の平均数密度 (個/μm2)を、各々前記した方法により測定した。
また、銅合金試料組織の、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時に、(Σx)/nで表される平均結晶粒径 (μm)を、前記した電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した。具体的には、製品銅合金の圧延面表面を機械研磨し、更に、バフ研磨に次いで電解研磨して、表面を調整した試料を用意した。その後、日本電子社製FESEM(JEOL JSM 5410)を用いて、EBSPによる結晶方位測定並びに結晶粒径測定を行った。測定領域は300 μm×300 μmの領域であり、測定ステップ間隔0.5 μmとした。EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL 社製 (OIM)を用いた。
(引張試験)
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向としたJIS13号B試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、0.2%耐力(MPa) を測定した。同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。
(導電率測定)
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mm の短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。
(曲げ加工性の評価試験)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm、長さ30mmに切出し、1000kgfの荷重をかけて曲げ半径0.15mmでGood Way(曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察した。この際に、割れの無いものを○、割れが生じたものを×と評価した。この曲げ試験に優れていれば、前記密着曲げあるいはノッチング後の90°曲げなどの厳しい曲げ加工性にも優れていると言える。
表1、3から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例1〜18は、溶体化処理が好ましい条件範囲内で行なわれて、製品銅合金板を得ている。
このため、発明例1〜18の組織は、前記各測定方法による、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で0.2〜7.0個/μm2 の範囲であり、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が0.1〜50at%の範囲であり、平均結晶粒径が10μm 以下である。また、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10である。
この結果、発明例1〜18は、0.2%耐力が800MPa以上、導電率が40%IACS以上の高強度、高導電率であって、かつ、曲げ加工性に優れている。
これに対して、比較例19〜27、33〜35の銅合金は成分組成が本発明範囲から外れている。このため、溶体化処理(製造方法)は好ましい条件範囲内で行なわれているにもかかわらず、曲げ加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなっている。
比較例19の銅合金はPを含有していない。このため、析出物に含まれるPの平均原子濃度が0であり、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。このため、曲げ加工性とともに、強度が低い。
比較例20の銅合金は、Niの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
比較例21の銅合金は、Niの含有量が下限を低めに外れている。このため、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が4at%であるにもかかわらず、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、強度が著しく低い。
比較例22の銅合金は、Siの含有量が上限を高めに外れている。このため、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が1.5at%であるにもかかわらず、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
比較例23の銅合金は、Siの含有量が下限を低めに外れている。このため、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が20at%であるにもかかわらず、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、強度、導電率が著しく低い。
比較例24の銅合金は、Pの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
比較例25の銅合金は、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が少な過ぎ、また、Feの含有量が上限3.0%を高めに外れている。このため、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
比較例26の銅合金は、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が少な過ぎ、また、Cr、Coの含有量が上限3.0%を高めに外れている。このため、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、強度、導電率が著しく低い。
また、比較例27〜35の銅合金は成分組成は本発明範囲内であるにもかかわらず、溶体化処理条件(製造方法)が好ましい条件範囲から外れている。この結果、曲げ加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなっている。
比較例27は溶体化処理における400℃までの平均昇温速度が小さ過ぎる。このため、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が3.7at%で、平均結晶粒径が6μm であるにもかかわらず、曲げ加工性とともに、強度が著しく低い。
比較例28は溶体化処理における400℃までの平均昇温速度が大き過ぎる。このため、析出物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
比較例29は400℃から溶体化温度までの平均昇温速度が小さ過ぎる。このため、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
比較例30は、溶体化処理温度が低過ぎる。このため、溶体化が不十分となり、強度が低く、曲げ性が低い。
比較例31は、溶体化処理温度が高過ぎる。このため、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度も0.2at%と小さく、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性及び導電率が低い。
比較例32は、溶体化処理後の平均冷却速度が小さ過ぎる。このため、50〜200nmのサイズの析出物の数密度や、これに含まれるPの平均原子濃度は範囲内であるものの、結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が大きく、曲げ加工性が低い。また、強度も低い。
比較例33、35の銅合金はPを含有していない。また、Cr、Coの含有量が上限3.0%を高めに外れている。更に、溶体化処理温度が高過ぎ、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎる。このため、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化し、曲げ加工性が低い。また導電率も著しく低い。
比較例34は、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が範囲内であるにもかかわらず、平均結晶粒径が10μm を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性及び強度が低い。
以上の結果から、高強度、高導電率化させた上で、曲げ加工性にも優れさせるための、本発明銅合金板の成分組成、組織、更には、組織を得るための好ましい製造条件の意義が裏付けられる。
Figure 0004006460
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以上説明したように、本発明によれば、高強度化、高導電率化とともに、優れた曲げ加工性を兼備した銅合金を提供することができる。この結果、小型化及び軽量化した電気電子部品用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、リードフレーム、コネクタ、端子、スイッチ、リレーなどの、高強度高導電率化と、厳しい曲げ加工性が要求される用途に適用することができる。

Claims (6)

  1. 質量%で、Ni:0.4〜4.0%、Si:0.05〜1.0%、P:0.005〜0.5%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、この銅合金組織の、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で0.2〜7.0個/μm2 であり、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が0.1〜50at%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、(Σx)/nで表される平均結晶粒径が10μm 以下であることを特徴とする高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金。
  2. 前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10である請求項1に記載の銅合金。
  3. 前記銅合金が、更に、質量%で、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01〜3.0%を含有する請求項1または2に記載の銅合金。
  4. 前記銅合金が、更に、質量%で、Zn:0.005〜3.0%を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金。
  5. 前記銅合金板が、更に、質量%で、Sn:0.01〜5.0%を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の銅合金。
  6. 請求項1乃至5のいずれかの銅合金の板を製造する方法であって、銅合金の鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効硬化処理、歪取り焼鈍を含む工程により銅合金板を得るに際し、溶体化処理における400℃までの平均昇温速度を5〜100℃/hの範囲、400℃から溶体化処理温度までの平均昇温速度を100℃/s以上、溶体化処理温度を700℃以上、900℃未満とし、溶体化処理後の平均冷却速度を50℃/s以上と各々することを特徴とする高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金の製造方法。
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