JP4006460B1 - 高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】強度と導電率とのバランスからNi、Si、Pを各々特定量含有する銅合金組織の、50〜200nmの特定サイズの析出物の数密度を保証した上で、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度を一定範囲に制御してP含有析出物を存在させ、このP含有析出物による結晶粒成長抑制のピン止め効果によって、平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させ、前記銅合金に高強度、高導電率および曲げ加工性を兼備させる。
【選択図】なし
Description
先ず、前記各種用途用として、必要強度や導電率、更には、高い曲げ加工性や耐応力緩和特性を満たすための、本発明コルソン系合金における化学成分組成を、以下に説明する。
Niは、Siとの化合物(Ni2 Siなど)を晶出または析出させることにより、銅合金の強度および導電率を確保する作用がある。また、Pとの化合物も形成する。Niの含有量が0.4%未満と少な過ぎると、晶・析出物の生成量が不十分であるため所望の強度が得られないばかりか、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。また、偏析しやすい晶出物の割合が高くなって最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、Niの含有量が4.0%を越えて多過ぎると、導電率が低下するのに加えて、析出物数密度が大きくなりすぎ、曲げ加工性が低下する。したがって、Ni量は0.4〜4.0%の範囲とする。
Siは、Niとの化合物(Ni2 Si)を晶・析出させて銅合金の強度および導電率を向上させる。また、Pとの化合物も形成する。Siの含有量が0.05%未満と少な過ぎる場合は、晶・析出物の生成が不十分であるため所望の強度が得られないばかりか、結晶粒が粗大化する。また、偏析しやすい晶出物の割合が高くなって、最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、Siの含有量が1.0%を越えて多過ぎると、析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下すると同時に、析出物に含まれるPとSiの原子数比P/Siが低くなりすぎる。したがって、Si含有量は0.05〜1.0%の範囲とする。
Pは、P含有析出物を生成させるとともに、P含有析出物中のPの原子濃度を上記した特定範囲に制御するための重要元素である。P含有析出物(リン化物、リン化合物)を形成することで、強度、導電率が向上するとともに、リン化物の形成により結晶粒が微細化し、曲げ加工性が向上する。但し、これらの効果の内、特に曲げ加工性向上効果は、P含有析出物のPの原子濃度を上記した特定範囲に制御することによって発揮される。
これらの元素は、上記した通り、リン化物を形成することで、強度、導電率を向上させるとともに、結晶粒微細化にも効果がある。これらの効果を発揮させる場合には、選択的に、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01%以上含有させる。しかし、これらの元素の合計含有量(総量)が3.0%を超えると、析出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれるPの原子濃度が低くなりすぎる。したがって、選択的に含有させる場合のCr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrの含有量は、合計で(総量で)0.01〜3.0%の範囲とする。
Znは電子部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させる場合には、選択的に0.005%以上含有させる。しかし、3.0%を越えて過剰に含有すると、却って溶融Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、含有量が多くなると、導電率も大きく低下させる。したがって、Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含有させ、その場合のZn含有量は0.005〜3.0%の範囲、好ましくは0.005〜1.5%の範囲とする。
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与する。このような効果を有効に発揮させる場合には、選択的に0.01%以上含有させる。しかし、5.0%を越えて過剰に含有すると、その効果が飽和し、また、含有量が多くなると導電率を大きく低下させる。したがって、Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含有させ、その場合のSn含有量は0.01〜5.0%の範囲、好ましくは0.01〜1.0%の範囲とする。
その他の元素は、基本的に不純物であって、できるだけ少ないほうが好ましい。例えば、Al、Be、V 、Nb、Mo、W などの不純物元素は、粗大な晶・析出物を生成しやすくなり、曲げ加工性が劣化するばかりか、導電率の低下も引き起こしやすくなる。したがって、これらの元素は総量で0.5%以下の極力少ない含有量にすることが好ましい。この他、銅合金中に微量に含まれるB 、C 、Na、S 、Ca、As、Se、Cd、In、Sb、Bi、MM(ミシュメタル)等の元素も、導電率の低下を引き起こしやすくなるので、これらの総量で0.1%以下の極力少ない含有量に抑えることが望ましい。但し、これらの元素を低減するためには、地金使用や精錬などの製造コストが上昇しがちであり、製造コストの上昇を抑制するためには、これら元素の総量の各々上記した上限までの含有は許容する。
本発明では、以上のCu−Ni−Si−P系合金組成を前提に、この銅合金の組織を設計して、平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させて、銅合金の曲げ加工性を向上させる。
但し、この前提として、銅合金組織に存在する析出物の数密度を保証することが必要である。銅合金組織に存在する析出物の数密度が少な過ぎる、あるいは多過ぎると、これら析出物に含まれるPの平均原子濃度、あるいはPとSiとの平均原子濃度を制御したとしても、曲げ性の向上効果が十分に発揮できない場合も当然起こり得る。したがって、本発明では、析出物による結晶粒径微細化効果を保証するために、特定サイズの析出物の数密度を一定範囲とする。
析出物の数密度測定方法は、後述する、析出物に含まれるPの平均原子濃度測定の前段となる。具体的には、製造された最終の銅合金(板など)から試料を採取して、電解研磨によりTEM観察用薄膜サンプルを作製する。そして、このサンプルを例えば日立製作所製:HF−2200電界放出型透過電子顕微鏡(FE-TEM)により、倍率×30000倍で明視野像を得る。この明視野像を焼付、現像し、その写真より析出物の直径及び数を測定し、各析出物の最大の径が50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物を特定する。この測定から50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物の数密度(個/μm2 )を算出できる。
析出物の数密度を保証した上で、本発明では、銅合金組織における平均結晶粒径を10μm 以下に微細化させるために、銅合金組織の、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズのケイ化ニッケルなどの析出物に含まれるPの平均原子濃度を0.1〜50at%の範囲に制御する。
本発明では、銅合金の結晶粒径の微細化を保証するために、更に、銅合金組織の前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10であることが好ましい。
前記析出物の数密度を測定した、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡による、同一の明視野像(同一の観察像)の各析出物に対して、例えばNoran社製NSSエネルギー分散型分析装置(EDX)により、各析出物の成分定量分析を実施する。この分析の際のビーム径は5nm以下で実施する。この分析を、前記最大の径が50〜200nmのサイズの各析出物(全析出物)に対してのみ実施し(これ以外のサイズの析出物に対しては実施せず)、視野内の各析出物(全析出物)内のP及びSiの原子濃度(at%)をそれぞれ測定する。そして、明視野像内の、析出物内に含まれるP及びSiの平均原子濃度を算出する。
この析出物内(析出物中)に含まれるP及びSiの平均原子濃度の測定から、50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siの平均も算出できる。
本発明では、これら銅合金組織の析出物制御によって微細化させた、銅合金組織の結晶粒径が、曲げ加工性を実質的に向上させる目安として、銅合金組織の平均結晶粒径を規定する。即ち、倍率350倍の電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、(Σx)/nで表される平均結晶粒径が10μm 以下であることとする。
本発明で、これら平均結晶粒径の測定方法を、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM )に、後方散乱電子回折像[EBSP: Electron Back Scattering (Scattered) Pattern]システムを搭載した結晶方位解析法と規定するのは、この測定方法が、高分解能ゆえに高精度であるためである。
Goss方位 {011}<100>
Rotated-Goss方位 {011}<011>
Brass 方位(B方位) {011}<211>
Copper方位(Cu方位) {112}<111>
(若しくはD方位{4 4 11}<11 11 8 >
S方位 {123}<634>
B/G方位 {011}<511>
B/S方位 {168}<211>
P方位 {011}<111>
次に、銅合金の組織を上記本発明規定の組織とするための、好ましい製造条件について以下に説明する。本発明銅合金は基本的に銅合金板であり、これを幅方向にスリットした条や、これら板条をコイル化したものが本発明銅合金の範囲に含まれる。
溶体化処理は、本発明における銅合金組織の析出物制御によって、結晶粒径を微細化させ、銅合金の曲げ加工性を向上させるために重要な工程である。特に、溶体化処理開始時における昇温速度と、溶体化処理後の溶体化処理温度からの冷却速度との制御は、銅合金組織の析出物制御のために重要となる。
この溶体化処理後(再結晶焼鈍後)に、約300〜450℃の範囲の温度で析出焼鈍(中間焼鈍、二次焼鈍)を行ない、微細な析出物を形成させ、銅合金板の強度と導電率を向上(回復)させても良い。また、これら焼鈍後に、10〜30%の範囲で最終の冷間圧延を行なっても良い。なお、この最終の冷間圧延前で、前記溶体化処理後に、導電率を回復するための中間焼鈍を行なっても良い。
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向としたJIS13号B試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、0.2%耐力(MPa) を測定した。同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mm の短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm、長さ30mmに切出し、1000kgfの荷重をかけて曲げ半径0.15mmでGood Way(曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行い、曲げ部における割れの有無を50倍の光学顕微鏡で目視観察した。この際に、割れの無いものを○、割れが生じたものを×と評価した。この曲げ試験に優れていれば、前記密着曲げあるいはノッチング後の90°曲げなどの厳しい曲げ加工性にも優れていると言える。
Claims (6)
- 質量%で、Ni:0.4〜4.0%、Si:0.05〜1.0%、P:0.005〜0.5%を各々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、この銅合金組織の、倍率30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で0.2〜7.0個/μm2 であり、この範囲のサイズの析出物に含まれるPの平均原子濃度が0.1〜50at%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数をn、それぞれの測定した結晶粒径をxとした時、(Σx)/nで表される平均結晶粒径が10μm 以下であることを特徴とする高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金。
- 前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、50〜200nmのサイズの析出物に含まれるPとSiとの原子数比P/Siが平均で0.01〜10である請求項1に記載の銅合金。
- 前記銅合金が、更に、質量%で、Cr、Ti、Fe、Mg、Co、Zrのうち一種または二種以上を合計で0.01〜3.0%を含有する請求項1または2に記載の銅合金。
- 前記銅合金が、更に、質量%で、Zn:0.005〜3.0%を含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の銅合金。
- 前記銅合金板が、更に、質量%で、Sn:0.01〜5.0%を含有する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の銅合金。
- 請求項1乃至5のいずれかの銅合金の板を製造する方法であって、銅合金の鋳造、熱間圧延、冷間圧延、溶体化処理、冷間圧延、時効硬化処理、歪取り焼鈍を含む工程により銅合金板を得るに際し、溶体化処理における400℃までの平均昇温速度を5〜100℃/hの範囲、400℃から溶体化処理温度までの平均昇温速度を100℃/s以上、溶体化処理温度を700℃以上、900℃未満とし、溶体化処理後の平均冷却速度を50℃/s以上と各々することを特徴とする高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金の製造方法。
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