実施の形態1.
図1は実施の形態1を示す図で、同期電動機駆動装置を示すものである。図において、直流電源部1はインバータ装置2と接続され、インバータ装置2に直流電力を供給する。同期電動機6はインバータ装置2と接続され、インバータ装置2より同期電動機6を駆動するための電力が供給される。ここで、直流電源部1は、交流電源を整流回路を用いて直流に変換し平滑したものや、昇圧回路や降圧回路を用いたもの、或いは電池等である。
インバータ装置2は、U相上側スイッチング素子3a、V相上側スイッチング素子3b、W相上側スイッチング素子3c、U相下側スイッチング素子3d、V相下側スイッチング素子3e、W相下側スイッチング素子3fの複数のスイッチング素子3及び複数のスイッチング素子3と並列に接続された還流ダイオード4からなるインバータ主回路5と、同期電動機6に流入する1相分の電流を検出する電流検出手段7a及び電流検出手段7aと異なる相の電流を検出する電流検出手段7bからなる電流検出手段7と、電流検出手段7により検出された電流に基づき複数のスイッチング素子3をオン/オフ制御するPWM信号を発生するインバータ制御手段8と、インバータ制御手段8より得られるPWM信号に基づき複数のスイッチング素子3をオン/オフ駆動するゲートドライブ回路9と、直流電圧検出手段10とを備える。
インバータ制御手段8は、電流検出手段7より得られた電流信号を同期電動機6に流入する3相電流に変換する相電流演算手段11と、相電流演算手段11より得られた電流信号と外部から与えられる回転速度指令値に基づき出力電圧ベクトル指令値を求める出力電圧ベクトル演算手段12と、直流電圧検出手段10より得られる直流電圧信号及び出力電圧ベクトル演算手段12より得られる出力電圧ベクトルに基づき出力電圧ベクトルの変調率・位相角を求める変調率・位相演算手段13と、相電流演算手段11より得られた電流信号、出力電圧ベクトル演算手段12及び外部から与えられる回転速度指令値に基づき通電波形(通電方式及び通電幅)を選択する通電波形選択手段14と、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率及び通電波形選択手段14より得られる通電幅指令値に基づき矩形波通電用のPWM信号を求める矩形波PWM発生手段15と、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率及び通電波形選択手段14より得られる通電幅指令値に基づき正弦波通電用のPWM信号を求める正弦波PWM発生手段16と、通電波形選択手段14より得られる通電方式信号に基づき、矩形波PWM発生手段15と正弦波PWM発生手段16のPWMを選択出力するPWM出力手段17とを備える。
通電波形選択手段は通電波形選択手段14に相当する。
矩形波通電手段は矩形波PWM発生手段15に相当する。
正弦波通電手段は正弦波PWM発生手段16に相当する。
上記のように構成された同期電動機駆動装置の動作を図1を用いて説明する。図において、インバータ装置2は同期電動機6に流入する相電流のうち2相分の電流を電流検出手段7a、7bより検出する。インバータ制御手段8は、電流検出手段7a、7bにより検出した2相分の電流、例えばU相電流Iu及びV相電流Ivと、直流電圧検出手段10より得られた直流電圧信号Vdcを用いて、同期電動機6の回転速度を外部から与えられた回転速度指令値ω*を満たすためのPWM信号を出力する。インバータ制御手段8により得られたPWM信号に基づいてゲートドライブ回路9はインバータ主回路5内に設けられた複数のスイッチング素子3をオン/オフ駆動する。複数のスイッチング素子3のオン/オフ動作により、直流電源部1より供給された直流電力は3相交流電力に変換され、インバータ装置2から同期電動機6に供給され同期電動機6が駆動される。ここで、回転速度指令値ω*はインバータ装置2の上位装置例えばインバータ装置の搭載されたシステムのシステム全体を制御するメインマイクロプロセッサ(図示せず)や他のインターフェース(マンマシンインターフェース等、図示せず)より与えられる。
インバータ制御手段8の動作について、説明する。
インバータ制御手段8内において、電流検出手段7a、7bにより検出された2相分の電流信号Iu、Ivを用いて、相電流演算手段11において、同期電動機6に流入する3相電流Iu、Iv、Iwが求められる。3相電流Iu、Iv、Iwは出力電圧ベクトル演算手段12に与えられ、出力電圧ベクトル演算手段12は3相電流Iu、Iv、Iw及び回転速度指令値ω*より同期電動機6の回転速度が回転速度指令値ω*を満たすように駆動するための出力電圧ベクトル指令値Vo*を演算により求める。
変調率・位相演算手段13は、直流電圧検出手段10より得られる直流電圧Vdcと出力電圧ベクトル演算手段12より得られる出力電圧ベクトル指令値Vo*より出力電圧ベクトルを直流電圧に対する比(変調率)Vk*及び出力電圧ベクトルの位相角θvを求める。3相座標上の出力電圧ベクトルの位相関係は図2のようになる。変調率Vk*は出力電圧ベクトル指令値をVo*、直流電圧をVdcとすると次式により求められる。
Vk*=√2×|Vo*|/Vdc (1)
通電波形選択手段14は、相電流演算手段11より得られる3相電流Iu、Iv、Iw、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、回転速度指令値ω*、外部から与えられる同期電動機駆動条件Jk*により、同期電動機駆動条件Jk*を実現するために最も適した通電方式Md及び通電幅θonを求め出力する。ここで、同期電動機駆動条件Jk*は回転速度指令値ω*と同様に、インバータ装置2の上位装置より与えられる。同期電動機の駆動に要求される条件として、例えば、高効率駆動要求或いは低騒音駆動要求等である。
矩形波PWM発生手段15は、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、出力電圧ベクトル位相角θv及び通電波形選択手段14から得られる通電幅θonより、通電幅をθonとする矩形波通電用PWM信号を発生させる。
正弦波PWM発生手段16は、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、出力電圧ベクトル位相角θvより正弦波通電用のPWM信号を発生させる。
PWM出力手段17は、通電波形選択手段14により出力された通電方式信号Mdに応じて矩形波PWM発生手段15または正弦波PWM発生手段16のいずれか一方のPWM信号を選択し出力する。
以上に示した、インバータ制御手段8はマイクロプロセッサで構成され、インバータ制御手段8内の構成要素はマイクロプロセッサ内でソフトウェアによる処理で実行される。ここで、インバータ制御手段8において、全体的或いは部分的にハードウェアにより構成することも可能である。
正弦波PWM発生手段16のPWM信号発生方法を以下に説明する。図2に出力電圧ベクトルの3相座標上におけるUVW相の関係を示すベクトル図を示す。出力電圧ベクトル演算手段12より得られる出力電圧ベクトル指令値Vo*は図のようになる。このとき、U相を基準とした位相をθvとし、θvを60度毎に分割し図のようにステージを設ける。正弦波PWM発生法の一例として、空間ベクトル変調を用いた場合を説明する。空間ベクトル変調では、出力電圧ベクトルが回転速度周波数ω*で円(図の破線)状の軌跡を描くように、キャリア周期毎に出力電圧ベクトルを適宜切換えるように複数のスイッチング素子3を駆動するためのPWM信号を発生する。
UVW各相の上側スイッチング素子を所定時間内(キャリア周期)にオンする割合(以下オンデューティ)は変調率Vk*より求められ、出力電圧ベクトルが円軌跡を描くように各相のオンデューティを求めると、電圧位相角θvを横軸にして示すと、図3のようになる。図3において、(a)で示される信号は、U、V、W各相のオンデューティ信号Duty_U、Duty_V、Duty_Wを示し、また、周波数fc(以下キャリア周波数)で振幅1の三角波信号であるキャリア信号Scを示す。図3の(b)は図2で示した、ベクトル図のステージを示す。図3の(c)に示すように、PWM信号は各相毎のオンデューティ信号Duty_U、Duty_V、Duty_Wをキャリア信号Scと比較し、オンデューティ信号がキャリア信号より大きくなった場合、Highが出力され、オンデューティ信号がキャリア信号より小さくなった場合、Lowが出力される。この信号をHigh、Low反転したものが各相の下側スイッチング素子のPWM信号となる。最終的に、ここで得られた各相のPWM信号に上側スイッチング素子と下側スイッチング素子の短絡を防止する短絡防止時間Tdが設けられ、正弦波PWM信号として出力される。
このときの各相のPWM信号を図3に示す。図3(c)において、U相上側スイッチング素子3aに対するPWM信号をUp、V相上側スイッチング素子3bに対するPWM信号をVp、W相上側スイッチング素子3cに対するPWM信号をWp、U相下側スイッチング素子3dに対するPWM信号をUn、V相下側スイッチング素子3eに対するPWM信号をVn、W相下側スイッチング素子3fに対するPWM信号をWnとする。このように正弦波PWMでは、各相の上下のスイッチング素子はキャリア周波数でオン/オフを繰り返すので、複数のスイッチング素子3は6素子全てが動作することになる。
次に矩形波PWM発生手段15のPWM信号発生方法について以下に説明する。矩形波PWM発生手段15においては、正弦波PWM発生手段16のPWM発生方法を基準に、矩形波PWMを発生させる。矩形波PWMでは、正弦波PWMよりスイッチング素子の動作数を減少させ、スイッチングによって生じるインバータ装置2の回路損失を低減させることを目的とする。このため、スイッチング動作素子数を減少させつつ、出力電圧ベクトルの軌跡が円(図の破線)状の軌跡を描くように、以下のようにしてPWM信号を発生させる。
正弦波通電時のPWM発生を基準に、出力電圧ベクトルの軌跡が略円状になるように、矩形波通電時は出力される電圧ベクトルの数を低減させる。通電幅θonを120度とした場合、図4に示すように、出力される電圧ベクトルは、V01、V11、V21、V31、V41、V51の6個となる。また、通電幅θonが120度より大きくかつ180度未満である場合、図5に示すように、出力される電圧ベクトルは、V00、V01、V10、V11、V20、V21、V30、V31、V40、V41、V50、V51の12個となる。さらに、通電幅θonを180度とした場合、図6のように出力される電圧ベクトルは、V00、V10、V20、V30、V40、V50の6個となる。正弦波通電では、キャリア周波数fcにより一回転中の発生電圧ベクトルの数が異なる。電圧ベクトルが一回転する電気角上の回転速度をωeとした場合、電圧ベクトルが一回転する間に発生する電圧ベクトルの数Nvは次式で求められる。
Nv=2π×fc/ωe (2)
図4〜図6より、矩形波通電時は、正弦波通電時に発生する電圧ベクトルのうち、特定の位相の電圧ベクトルのみを用いて円状の軌跡を描かせるようにしたものである。
ここで、図7を用いて、図4〜図6に示す電圧ベクトルの発生方法を説明する。図7の(a)で示される波形は、図3で示したものと同様で、正弦波通電時の電圧位相角θvとUVW各相のオンデューティ信号Duty_U、Duty_V、Duty_Wを示すものである。矩形波通電はこの信号を基準とし、各相毎にオンデューティ信号が0.5と交差するステージを非通電区間とし、他の連続する2つのステージを矩形波通電時の基本となる120度通電区間とする。通電幅θonが120度を超える場合、基本となる120度区間のステージから前後の非通電区間へ対称的に通電幅を広げ、120度〜180度の矩形波通電となる。180度通電時は完全に非通電区間がなくなる。
基本となる120度を超えた通電区間をオーバラップ区間とし、その通電幅をθovとする。オーバラップ区間θovを持った場合の矩形波通電時の各相の電圧波形は図7の(c)に示す波形となる。ここで、各ステージにおいて、オーバラップ区間と非通電区間部をステージのモードとして図7の(b)のように定義する。各ステージにおいて、モード0、2はオーバラップ区間であり、モード1は非通電区間となる。ここで、120度通電時はオーバラップ区間(モード0及びモード2)は存在せず、180度通電時は非通電区間(モード1)が存在しなくなる。
各ステージにおいて、モード0及びモード2はUVW相のうちいずれか1相から他の2相へ電圧を印加するか或いはいずれか2相から他の1相へ電圧を印加する状態であり、モード1は所定の1相から他の1相へ電圧印加し、他の1相は非通電区間となる状態である。図7において、各ステージ−モード条件時に発生する電圧ベクトルは図7の(d)に示したとおりである。図7の(d)に記載されたベクトル名は図4〜図6のベクトル名と同じである。ただし、電圧ベクトルの向きは正側の電圧方向とする。
例えばステージ0−モード0に発生する電圧ベクトルV00はU相からV,W相に電圧を印加する状態であり、このとき、U相に直流電圧の正側が印加され、V,W相に直流電圧の負側が印加されるようにする。また、ステージ0−モード1に発生する電圧ベクトルV01はU相からW相に電圧を印加する状態であり、U相に直流電圧の正側が印加され、W相側に直流電圧の負側が印加されるようにする。同様に、V10はU,V相からW相に印加し、V11はV相からW相へ印加し、V20はV相からW,U相に印加し、V21はV相からU相に印加し、V30はV,W相からU相に印加し、V31はW相からU相に印加し、V40はW相からU,V相に印加し、V41はW相からV相に印加し、V50はW,U相からV相に印加し、V51はU相からV相に印加する状態をそれぞれ示す。
上記した各電圧ベクトルを出力するためのPWM信号の発生法は次のようになる。矩形波通電は正弦波通電のスイッチング素子3のオン/オフ動作を低減することが目的であるから極力スイッチング素子3の動作を抑えるようにする。このとき得られる6つのスイッチング素子の動作のためのPWM信号を図7の(e)に示す。
例えば、ステージ0−モード0における動作では、出力される電圧ベクトルはV00であり、U相からV,W相へ電圧印加する状態である。このとき、直流電圧の正側が印加されるU相はインバータ主回路5のU相に接続されたU相上側スイッチング素子3aとU相下側スイッチング素子3dのうち、U相上側スイッチング素子3aのみを動作させ、U相下側スイッチング素子3dは常時オフとする。また、V,W相においては、直流電圧の負側が印加されるため、V,W相ではV相下側スイッチング素子3eとW相下側スイッチング素子3fのみを動作させ、V相上側スイッチング素子3bとW相上側スイッチング素子3cはこのステージ−モード条件では常時オフとする。さらには、図7(e)のようにU相上側スイッチング素子3aを同ステージ−モード間常時オンとするようにし、さらにスイッチング素子の動作を減少させる。このとき、6つのスイッチング素子のうち3つが常時オフであり、1つが常時オンであり、他の2つキャリア周期でのオン/オフ動作となる。これによりステージ0−モード0におけるスイッチング素子の動作数は正弦波PWMと比較し、約1/3となる。
また、ステージ0−モード1における動作では、出力される電圧ベクトルはV01であり、U相からW相に電圧印加する状態である。このとき、直流電圧の正側が印加されるU相はU相上側スイッチング素子3aのみを動作させ、U相下側スイッチング素子3dのは常時オフとする。W相においては、直流電圧の負側が印加されるため、W相下側スイッチング素子3fのみを動作させ、W相上側スイッチング素子3cは常時オフとする。また、通電の行われないV相においては、V相上側スイッチング素子3b、及びV相下側スイッチング素子3eはともに常時オフとなる。さらには、図7(e)のようにU相上側スイッチング素子3aを同ステージ−モード間常時オンとするようにし、さらにスイッチング素子の動作を減少させる。このとき、6つのスイッチング素子のうち4つが常時オフであり、1つが常時オンであり、他の1つがキャリア周期でのオン/オフ動作となる。これによりステージ0−モード1におけるスイッチング素子の動作数は正弦波PWMと比較し、約1/6となる。
他のステージにおいても同様であり、各ステージ−モード毎に、図7(e)のようなPWM信号を発生させスイッチング素子を動作させる。図7(e)の各スイッチング素子のPWM信号において、Aと記載された区間がそのステージ−モード間常時オンの状態を示し、網掛け部はオンデューティに応じてオン/オフを繰り返す区間を示している。図7(e)にあるように、各ステージのモード0及びモード2では通電時に正側となる相の上側スイッチング素子と、負側になる相の下側スイッチング素子の計3つを動作させ、さらには、いずれか一つのスイッチング素子をオンに固定するようにし、正弦波通電時の約1/3の動作数とする。また、各ステージのモード1においては、通電時に正側となる相の上側スイッチング素子と、負側になる相の下側スイッチング素子の計2つを動作させ、さらには、いずれか一つのスイッチング素子をオンに固定するようにし、正弦波通電時の約1/6の動作数とする。ここで、図7(e)において、常時オンとなる区間を、基準となる120度区間の後半60度としているが、任意の区間に変更しても良い。
ここで、各ステージのモード0とその前ステージのモード2とは同一電圧ベクトルを出力する条件であるが、図7ではPWMの発生方法を変えている。これは、このようにしたほうが、モード2でオン/オフ動作を始める相の電圧変動が小さく済むためである。もちろん同一PWMを出力しても良い。
次に、矩形波PWM発生手段15において、以上のようにPWM信号を発生するに当たり、6つのスイッチング素子3のうちオン/オフ動作を行うスイッチング素子に関して、そのオン/オフのオンデューティの設定方法を以下に説明する。正弦波PWM発生手段16では、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトルの変調率Vk*に基づき図3(a)のようなオンデューティが求められる。矩形波PWMにおいても正弦波PWM同様に変調率Vk*より求める。
例えば、ステージ0−モード1の条件について示すと、ここでは、U相からW相へ電圧を印加する場合であり、U相上側スイッチング素子3aはオンに固定であり、W相下側スイッチング素子3fをオン/オフ駆動すればよい。このとき発生する電圧ベクトルV01は、図8(a)に示すように、UW間に電圧を印加した場合に発生する電圧ベクトルVuwである。この電圧ベクトルV01がUW相間に電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|と同じ大きさの電圧を発生させるためには、このときの変調率Vk*を用いて、W相下側スイッチング素子3fのオンデューティをVk*とすればよい。同様に、各ステージのモード1においては、オン/オフ動作を行うスイッチング素子のPWM信号のオンデューティを変調率Vk*とすれば、キャリア周期における平均的な出力電圧の大きさは電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|と等しくなる。
また、ステージ0−モード0の条件について示すと、ここでは、U相からV,W相へ電圧を印加する場合であり、U相上側スイッチング素子3aはオンに固定であり、V相下側スイッチング素子3e及びW相下側スイッチング素子3fをオン/オフ駆動すればよい。このとき発生する電圧ベクトルV00は、図8(b)に示すように、UV間に電圧を印加した場合に発生する電圧ベクトルVuvと、UW間に印加した場合に発生する電圧ベクトルVuwとの合成ベクトルである。この合成ベクトルが電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|と同じ大きさの電圧を発生させるためには、このときの変調率Vk*を用いて、V相下側スイッチング素子3e及びW相下側スイッチング素子3fのオンデューティをVk*の1/√3とすればよい。同様に、各ステージのモード0,2においては、オン/オフ動作を行うスイッチング素子のPWM信号のオンデューティを変調率Vk*の1/√3とすれば、キャリア周期における平均的な出力電圧の大きさは電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|と等しくなる。
以上のように矩形波PWMでは、各ステージのモード0,2とモード1とで上記のようにPWM信号を求めれば、PWMを発生させるキャリア周期における平均的な出力電圧は出力電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|と等しくなる。しかし、電気角1周期、つまり電圧ベクトルが一回転した場合を考えると、通電幅θonにより電気角1周期における電圧の実効値に差が生じる。このため、正弦波通電から矩形波通電への切換えや矩形波通電から正弦波通電への切換え、さらには矩形波通電時の通電幅の切換えを行った場合、出力される電圧が急峻に変化する。これは制御上好ましくなく同期電動機6の出力トルクが急峻に変化し、過電流による停止、或いは制御が不安定になる等の不具合を生じる。
制御上の安定を保った状態で、通電方式や通電幅の切換えを行うには、同期電動機6の出力トルクが切換え前と後とで一定になるようにすれば良い。同期電動機6の出力トルクは同期電動機6に流入する電流の一次周波数成分と比例関係にあるため、切換えの前と後とで出力電圧に含まれる一次周波数成分の大きさと位相を一定とするようにオンデューティを調整すればよい。
前述した正弦波PWM発生手段16によるPWM信号によりインバータ装置2が発生する相間の出力電圧の一次周波数成分を基準に、前述した矩形波PWM発生手段15によるPWM信号によりインバータ装置2が発生する相間の出力電圧に含まれる一次周波数成分を比較すると図9のようになる。このとき、各相毎に電圧を考えると、矩形波通電では非通電区間(モード1)において、非通電となる相においてはインバータ装置2側から電圧は印加されない状態である。しかし、同期電動機6が回転している場合、同期電動機6の回転子にある磁石が回転することにより誘起電圧が発生する。このため、非通電区間においては、インバータ装置2が印加した電圧ベクトルと実際同期電動機6の端子に発生する電圧とに差が生じる。そこで、矩形波通電時の非通電区間においては、出力電圧の一次周波数成分に同期電動機6の回転子から発生する誘起電圧が発生しているものとして求めるものとする。例えば、非通電区間における誘起電圧Vemfに関して、回転子が出力電圧の一次回転速度ωeと同じ回転速度で回転していると仮定し、次式を用いる。ただし、φfは同期電動機6の誘起電圧定数である。
Vemf=ωe×φf (3)
図9に基づき、通電方式や通電幅によらず同期電動機6の出力トルクを一定とするべく、相間出力電圧の一次周波数成分の大きさを一定とさせるために図9の逆数から得られる補正係数K0を用いて、以下の数式により変調率Vk*に補正を行い、補正後の変調率Vk*’を用いて矩形波通電用PWM信号を発生させる。
K0=0.0078×θon+0.0284 (4)
Vk*’=K0×Vk* (5)
以上の補正係数K0を用いることで、通電波形選択手段14による通電方式Mdの切換えや通電幅θonの切換えがあっても、出力トルクがほぼ一定に保たれるため、切換え時の制御が安定性の確保と過電流の防止ができ、瞬時に通電波形選択手段14の出力する通電波形へと切換えができる。
ここでは、相間出力電圧の一次成分を波形切換え時に一定にする演算式の一例として、前記(5)式を用いた。しかし、実際は、インバータ装置2における変調率と実際インバータ装置2より出力される電圧との誤差や、同期電動機6が発生する誘起電圧に含まれる歪成分や電機子反作用による影響等により、前記(5)式では誤差発生し、切換えがスムースに行かない場合もある。このような場合は、それらの誤差要因を考慮し、補正係数を求めることで対応すればよい。
一方、通電波形選択手段14により選択された通電方式Mdや通電幅θonのような通電波形に瞬時に切換える必要がない場合、或いは瞬時に切換えた場合に音や振動の点で好ましくない場合等は、緩やかに通電波形の切換えを行えばよい。例えば、正弦波通電で駆動中に同期電動機6の運転条件が変化し、通電波形選択手段14が矩形波通電波形を選択した場合、まず、矩形波180度通電とし、その後所定の変化率で変化させ、最終的に通電波形選択手段が選択した通電幅θonに移行させればよい。逆に、矩形波通電で駆動中に同期電動機6の運転条件が変化し、通電波形選択手段14が正弦波通電波形を選択した場合、まず、矩形波通電の状態で180度通電となるように所定の変化率で変化させ、180度通電となったところで正弦波通電へと通電方式を切換えればよい。
通電波形選択手段14について詳しく説明する。通電波形選択手段14は、同期電動機駆動条件Jk*を実現するために最も適した通電方式Md及び通電幅θonを求め出力する。ここで、通電波形選択手段14が通電方式に正弦波通電を選択した場合、正弦波通電時は常に180度通電であるから通電幅θonは基本的に180度となる。正弦波通電時は、通電幅θonは無関係となる。ここでは、正弦波通電と、180度矩形波通電は異なるPWM信号を出力する。
理想的には、一つの通電波形により高効率運転と低騒音化に関してどちらも最大の効果が得られることが望ましい。しかし、同期電動機駆動装置や同期電動機の仕様によってはそれらの両立が困難な場合がある。このような場合は、要求仕様は主にどの条件が求められるかにより変化する。例えば、ある程度の騒音は許容して、高効率駆動重視とする場合、または、ある程度の効率低下は許容して、低騒音駆動を重視する場合等である。このような場合に対応し、本発明による同期電動機駆動装置では高効率駆動要求や低騒音駆動要求を同期電動機駆動条件Jk*として設定するものとし、次のように構成する。
例えば、同期電動機駆動条件Jk*として高効率駆動が要求された場合、通電波形選択手段14においては、相電流演算手段11より得られる3相電流Iu、Iv、Iw、出力電圧ベクトル演算手段12より得られる出力電圧ベクトル指令値Vo *、前記回転速度指令値ω*から得られる同期電動機6の運転状態に応じて、効率が最大となる通電方式Md及び通電幅θonを求める。このとき、通電波形選択手段14には、回転速度指令値ω*と3相電流Iu、Iv、Iwより同期電動機6の運転状態が得られる。
このとき、通電波形選択手段14内では、回転速度指令値ω*と3相電流Iu、Iv、Iwを入力とし、最大効率を実現する通電方式Mdと通電幅θonを出力するような、テーブル或いは関数を用いて通電波形の選択を行う。単に3相電流Iu、Iv、Iwを入力とするとテーブルや関数の変数量が多くなり、演算が複雑になるため、3相電流を電流実効値Irmsに変換する等の手段を用いて変数の数を減らしても良い。また、回転速度指令値ω*、3相電流Iu、Iv、Iw及び、同期電動機6の電動機定数から同期電動機6の出力を求めるか、或いは外部から電動機出力情報を受け取る等し、出力に応じたテーブルや関数を用いても良い。
また、通電波形選択手段14内では、出力電圧ベクトルの変調率Vk*を監視し、変調率Vk*に応じて通電波形を切換える。例えば、変調率Vk*がVk*>1となった場合、つまり、出力電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|がインバータ装置が出力可能な直流電圧を超えた電圧飽和状態等である。このとき、インバータ装置2はインバータ制御手段8により求められた必要とする電圧を出力できなくなり、同期電動機6の回転速度を回転速度指令値ω*を満たすように駆動することが困難になる。電圧飽和状態において、同期電動機6の運転範囲を拡大する手法として、弱め励磁制御や過変調運転のような手法があるが、これらの手法の実現は正弦波通電方式の方が有利である。このため、通電波形選択手段14では、電圧飽和状態となった場合、つまりVk*>1となった場合は正弦波通電方式に切換えてもよい。
通電波形選択手段14内で用いられる、テーブル或いは関数、さらには電圧飽和時の通電波形は、インバータ装置2の構成や同期電動機6の仕様により最適となる条件が異なる。このため、実験やシミュレーションによりインバータ装置2と同期電動機6の最適条件を求め、テーブルや関数に反映させればよい。インバータ装置2の構成や同期電動機6の仕様上、電圧飽和時の駆動性として矩形波通電の方が効率或いは安定性の面で優れている場合は、矩形波通電を選択すればよい。インバータ装置2の仕様として、スイッチング素子の特性や短絡防止時間、キャリア周波数である。また、同期電動機6の仕様として、電動機の極数、IPMSMやSPMSM等の回転子形状、集中巻きや分布巻き等の固定子形状、回転子磁石の着磁形状、誘起電圧波形がある。
ここで、通電波形に対する回路効率と、電動機効率と、総合効率について、実験的に求めた結果について説明する。回路効率は(回路出力電力)/(回路入力電力)で求められ、電動機効率は(電動機出力)/(電動機入力=回路出力電力)で求められ、総合効率は(電動機出力)/(回路入力電力)=(回路効率)×(電動機効率)で求められる。あるインバータ装置と図10に示す構造を持つ同期電動機とを組み合わせ、この同期電動機の代表的な動作点である回転速度や負荷トルク条件において、通電波形に対するインバータ装置の回路効率と、電動機効率と、総合効率との関係を実験的に求めた結果をそれぞれ図11、図12、図13に示す。
図10の同期電動機において、同期電動機は、固定子M1、固定子巻線M2、回転子M3、回転子内の永久磁石M4とからなる。また、図11と図12と図13において、各結果は、正弦波通電時のそれぞれの効率を1とし、各通電幅における効率の比として示したものである。また、波形Aは回転速度をω1とし、負荷トルクをτ1とした場合の各効率を示し、波形Bは回転速度をω2とし、負荷トルクをτ1とした場合の各効率を示し、波形Cは回転速度をω3とし、負荷トルクをτ2とした場合の各効率を示し、波形Dは回転速度をω4とし、負荷トルクをτ2とした場合の各効率をそれぞれ示す。ここでω1<ω2<ω3<ω4であり、τ1<τ2である。
インバータ装置2の回路損失は、主にスイッチング素子3のオン/オフ動作により生じるスイッチング損失と、インバータ主回路5に電流が流れることにより生じる導通損とに分けられる。スイッチング損失は、オン/オフ動作するスイッチング素子3の単位時間当たりの動作数が少ないほど低下するため、キャリア周波数が低いほど、また、通電幅が狭くなるほどスイッチング損失は少なくなる。一方、導通損は回路の抵抗成分による発熱であり、回路に流れる電流の2乗に比例して増加するため、電流が大きい高負荷条件になるほど増加する。ここで実験で用いたインバータ装置2の通電波形(通電方式と通電幅)とインバータ効率との関係は図11のようになる。
スイッチング損失を低減するには、単位時間当たりのスイッチング素子のオン/オフの回数を減らせばよい。このため、キャリア周波数を一定とした場合、図11にあるように、負荷の軽い条件であれば、最もスイッチング回数の多い正弦波通電は回路効率が最も悪く、スイッチング回数の少ない矩形波通電の通電幅が狭い条件ほど回路効率は良くなる。
スイッチング損失の低減には、通電幅を狭めることが有効であるが、通電幅を狭めた場合、同期電動機6に流入する電流が歪み、含まれる高調波電流が増加するため、電流値は増加する。このため、インバータ回路の導通損は増加する傾向にある。このため、負荷の重い条件(電流の大きい条件)では、スイッチング損失よりも導通損の方が支配的になり、回路効率の最も良い通電幅は通電幅の広い方向へとずれてくる。
また、同期電動機6における電気的な損失は、主に、銅損と鉄損に分離できる。銅損は同期電動機6の巻き線に流れる電流と巻き線抵抗により発生するジュール熱であり、電流の2乗に比例する。鉄損は、電動機の鉄心部分で、磁気ヒステリシスと渦電流により生じる損失であり、電流の周波数と大きさに依存して発生する。鉄損に関与する主な電流の周波数成分は一次周波数成分(出力電圧ベクトルの回転速度と同期)と、PWM信号によって複数のスイッチング素子3のオン/オフ動作により生じるキャリア周波数成分と、矩形波通電時の出力電圧の矩形波化により生じる高周波成分である。
ここで、実験で用いた図10に示す同期電動機6の通電波形(通電方式と通電幅)と電動機効率との関係は図12のようになる。キャリア周波数一定で、同一回転速度で同一負荷トルクの条件であれば、トルクを得るために必要とされる電流の一次成分に通電波形の違いによる差はほとんど生じない。しかし、高調波成分においては、矩形波通電では、正弦波通電と比べるとスイッチング動作回数の減少によるキャリア周波数成分の減少と、矩形波通電による電流歪みの増加による高調波成分の増加が考えられる。このため、正弦波通電と矩形波通電とでは、電流に含まれる高調波成分の違いにより鉄損と銅損の発生量が変わり、電動機効率に差が生じる。ただし、この結果ではキャリア周波数成分の電流高調波は全電流に占める割合が少ないため、通電幅を狭めスイッチング回数を減少させたとしてもそれほどキャリア周波数成分の減少につながらない。このため、ここで示した電動機では、図12にあるように、高調波成分の多く含まれる矩形波通電で通電幅の狭いものほど鉄損と銅損の増加により電動機効率は低下する。逆に高調波成分の少ない正弦波通電或いは矩形波通電で通電幅が広い条件が電動機効率は良くなる。
図13に示す総合効率は、回路効率と電動機効率の積で与えられるため図11と図12の結果を乗じたものである。図13のように、回転速度や負荷の条件により、総合効率が最大となる通電波形が異なる。このように、電動機効率のみを基準とし通電波形を切換えるのでは、総合効率が必ずしも最大であるとは限らない。このように実験結果による情報やシミュレーションによる解析結果をテーブルや関数として、通電波形選択手段14に備えることで、同期電動機6の運転状態に応じて、総合効率を最大とする通電波形を選択するようにする。
図13に得られた結果を踏まえて、同期電動機駆動条件Jk*が高効率駆動要求時の通電波形選択手段14内に設けられた通電波形選択テーブルの一例を図14に示す。図14はここで用いた同期電動機を用いた場合のテーブル設定例である。図14では、通電波形を選択するために参照する値を速度指令値ω*と電流実効値Irmsとし、総合効率を最大に近づけるための通電波形を出力するテーブルとしている。
図14において説明する。ωAで示されるラインは同期電動機の最大回転速度であり、同期電動機6や同期電動機が駆動する負荷の仕様により決まるものである。I1で示すラインはインバータ装置2或いは同期電動機6の最大電流値であり、インバータ装置2に用いられる半導体素子の許容電流値或いは同期電動機の許容電流値(減磁限界電流等)により決まるものである。また、P1で示すラインは同期電動機6の最大出力を示すラインであり、同期電動機6の仕様により決まるものである。P2で示すラインはインバータ装置2の出力電圧が電圧飽和となる領域を示し、このラインより右側では過変調状態となる。P2は同期電動機6の仕様とインバータ装置2の直流母線電圧Vdcにより決まるものである。以上のωA、I1、P1、P2は用いられるインバータ装置2と同期電動機6と、同期電動機6が駆動する負荷により決まる条件であり、他のI2、P3、P4、P5の条件を図13に示す効率データに基づき決めることになる。
I2は矩形波通電の制限電流値を示し、矩形波通電時にこの電流実効値を超えた場合、強制的に正弦波通電に切換える。矩形波通電時において、負荷トルクが上昇し、電流実効値が電流限界値I1に近づくと、総合効率の点で、正弦波通電と矩形波通電との差が少なくなる。また、矩形波通電は非通電区間では、インバータ装置2より電圧印加がなされないため、この領域は電流制御を行うことができない。しかし、非通電区間において、非通電区間の直前の通電区間に流れていた電流が0となるまで流れ続ける環流電流が発生する。環流電流は非通電区間に流れるため制御をすることができない。このため電流値が大きくなると環流電流も増加し、この環流電流の影響により制御が不安定になる場合があるため、環流電流の影響を受けない電流値で矩形波通電の電流制限値I2を設定し、電流実効値が所定値I2を超えた場合、正弦波通電に切換えるようにすると制御の安定性を維持することができる。
また、P3、P4、P5は、同期電動機6の出力が一定となるラインを示す。図11、図12、図13に示した同期電動機6が主に用いられる運転条件A、B、C、Dごとに、総合効率が最大となる通電波形を実現するように、同期電動機6の出力が一定となるラインを用いて、通電波形を切換える境界線を決めた場合のテーブルである。ここで、矩形波通電の領域は150度通電、165度通電、180度通電というように領域を分割したが、このような場合、同期電動機6の運転条件が通電波形の切換えの領域近傍にある場合、運転条件の微小な変動により、通電波形が頻繁に切換わる場合がある。この現象は制御上特に問題はないが、騒音の原因となるような場合がある、これを避けるためには、通電波形の切換えの境界にヒステリシス特性を設け、頻繁に通電波形の切換えが生じないようにすれば良い。また、図14のような通電波形の境界をなくし、連続的に通電波形を切換えるようにしても良い。
ここで、これらのテーブルは、実際に同期電動機駆動装置として構成するインバータ装置2や同期電動機6の仕様に合わせて設定する必要がある。インバータ装置2の仕様として、スイッチング素子の特性や短絡防止時間、キャリア周波数である。また、同期電動機6の仕様として、電動機の極数、IPMSMやSPMSM等の回転子形状、集中巻きや分布巻き等の固定子形状、回転子磁石の着磁形状、誘起電圧波形がある。ここで示した、回転速度と負荷条件による通電方式の切換えによる効率改善効果は、特に低出力(数kW程度出力以下)で固定子巻線のインピーダンスの大きい電動機ほど効果が大きい。
図14で示した、通電波形切換えのための条件は、回転速度指令値ω*と電流実効値Irmsの2次元のテーブルを参照することにより通電波形を求めるようにしたが、波形切換えをより単純化するためには、参照するパラメータを減らせばよい。例えば、同期電動機6の出力電力をインバータ装置の出力する電圧値と電流値、或いは回転速度と電流値より求め、出力電力値に応じて通電波形を切換えてもよい。また、より単純化し、回転速度や電流実効値、変調率のような一つのパラメータを参照して、通電波形を切換えるようにしてもよい。
図15に通電波形選択手段14に用いられる通電波形選択のためのテーブルにおいて、参照パラメータとして回転速度指令値を一つ用いるように単純化して構成したテーブル例を示す。図15では、通電波形の切換えは境界を設けず、滑らかに通電幅を変化させるように構成した場合の例である。同様に、図16に、回転速度指令値をある速度範囲ごとに分割し、それぞれに通電波形を割り当てて構成した場合の例である。ここで、図15或いは図16は速度指令値が増加するに従い、通電幅を広くするようなテーブルとなっているが、同期電動機6とインバータ装置2の組み合わせによっては、途中通電幅を狭くするようなテーブルを構成したほうが、総合効率がよい場合もある。これは、インバータ装置2と同期電動機6の組み合わせにより変化する。また、図15及び図16においては、テーブル参照のパラメータを回転速度指令値としたが、図15、図16の横軸として電流実効値や変調率を用いても同様である。
さらに、通電波形条件による総合効率の最大化の精度をあまり要求しないような運転条件であれば、より単純化させることも可能である。図13より図10に示す同期電動機では低速側で矩形波通電を用いた方が総合効率がよいので、所定の回転速度未満の領域では矩形波通電を用い、それ以上の回転速度では正弦波通電を用いるようにしてもよい。例えば、同期電動機の最大回転数の約40%までを150度矩形波通電とし、それ以上の領域を正弦波通電とする。正弦波通電であれば、変調率が1以上となった場合にスムースに過変調運転へと移行できる。
一方、同期電動機駆動装置の駆動対象となる同期電動機6において、図14に示すような、総合効率を最大とするためのパラメータ(回転速度、負荷電流、変調率)と通電波形との関係を実験的或いはシミュレーションにより予め求めることができない場合もある。このような場合に用いることができる別手法として、通電波形選択手段14では以下のようにして自動的に最大効率を実現する通電波形を選択するように構成する。このときの自動探索の流れを図17に示す。
図17における自動探索の流れを説明する。図17において、通電波形変更ステップST11において通電波形を120度矩形波通電から所定の通電幅増加割合にて通電波形を切換える。このとき、前回の通電波形が180度矩形波通電であった場合は正弦波通電とする。所定時間待ちステップST12では、通電波形を切換えた後同期電動機の駆動状態が安定するまで同一通電波形を維持する。所定時間待ちステップST12では、駆動状態の安定を検出した後或いは所定時間経過後、次のステップに進む。電流検出ステップST13では、インバータ装置2に流入する電流を検出する。通電波形・電流記録ステップST14では通電波形変更ステップST11で変更した通電波形情報と電流検出ステップST13で検出した電流信号をマイクロプロセッサのメモリ上記録する。通電波形一巡検出ステップST15では、通電波形が一巡したか否か(例えば120度矩形波通電から180度矩形波通電まで変化した後正弦波通電へ切換えたかどうか)を判断し、通電波形が一巡した場合は電流最小通電波形選択ステップST16へ進み、一巡していない場合は通電波形変更ステップST11に戻る。電流最小通電ステップST16においては、マイクロプロセッサのメモリ上に記録された通電波形と電流値との関係より電流値が最小となる通電波形を選択し、この通電波形を実行するように出力する。このように、通電波形を適宜変化させ、これが最も小となる通電波形を選択するようにし、自動的に電流最小となる通電波形つまり、より高効率な通電波形を探索するようにする。
この自動通電波形探索は、回転速度指令値ω*が変化した場合、或いは同期電動機6に流入する電流が変化した場合、或いは所定時間経過後に、再度、最適通電波形を探索するようにする。ここで、通電波形を変化させた後検出する電流はインバータ装置2に流入する電流であれば良いので、図1に示す例では、直流電流となる。別の電流検出要素として、図1の直流電源部1を作り出すために設けられた整流手段(図示せず)の入力となる交流電流を用いても良い。
例えば、同期電動機駆動条件Jk*として低騒音駆動が要求された場合、通電波形選択手段14においては、相電流演算手段11より得られる3相電流Iu、Iv、Iw、出力電圧ベクトル演算手段より得られる出力電圧ベクトル指令値Vk*、前記回転速度指令値ω*から得られる同期電動機6の運転状態に応じて、騒音がが最小となる通電方式及び通電幅を求める。
このとき、通電波形選択手段14内では、回転速度指令値ω*と3相電流Iu、Iv、Iwを入力とし、騒音低減を実現する通電方式Mdと通電幅θonを出力するような、テーブル或いは関数を用いて通電波形の選択を行う。単に3相電流Iu、Iv、Iwを入力とするとテーブルや関数の変数量が多くなり、演算が複雑になるため、3相電流を電流実効値Irmsに変換する等の手段を用いて変数の数を減らしても良い。また、回転速度指令値ω*、3相電流Iu、Iv、Iw及び、同期電動機6の電動機定数から同期電動機6の出力を求めるか、或いは外部から電動機出力情報を受け取る等し、出力に応じたテーブルや関数を用いても良い。
また、通電波形選択手段14内では、出力電圧ベクトルの変調率Vk*を監視し、変調率Vk*に応じて通電波形を切換える。例えば、変調率Vk*がVk*>1となった場合、つまり、出力電圧ベクトル指令値の大きさ|Vo*|がインバータ装置が出力可能な直流電圧を超えた電圧飽和状態等である。このとき、インバータ装置2はインバータ制御手段8により求められた必要とする電圧を出力できなくなり、同期電動機6の回転速度を回転速度指令値ω*を満たすように駆動することが困難になる。電圧飽和状態において、同期電動機6の運転範囲を拡大する手法として、弱め励磁制御や過変調運転のような手法があるが、これらの手法の実現は正弦波通電方式の方が有利である。このため、通電波形選択手段14では、電圧飽和状態となった場合、つまりVk*>1となった場合は正弦波通電方式に切換えてもよい。
通電波形と騒音との関係は、正弦波通電と矩形波通電を比較した場合、正弦波通電のほうが低騒音であり、矩形波通電においては、通電幅が広いほど低騒音である。これは、同期電動機6に流入する電流に含まれる高調波成分が同期電動機の出力トルクに変動分を生じさせるために同期電動機の出力トルクにリップルが生じ、振動や音を発生させるためである。しかし、正弦波通電においては、同期電動機6の出力トルクのリップル成分は少ないものの、インバータ装置2の複数のスイッチング素子3のオン/オフ回数が多いため、キャリア周波数成分の高周波音が発生しやすくなる。このため、キャリア周波数を人間の可聴周波数として用いる場合、キャリア周波数成分の電磁音が生じ、場合によっては矩形波通電よりも騒音が高くなる場合がある。
特に、騒音に関しては、同期電動機6の仕様や同期電動機駆動装置を用いる環境や同期電動機駆動装置を一構成要素として持つシステムにより、騒音の発生する状況が異なる。インバータ装置2と同期電動機6の組み合わせでは騒音とならない通電波形条件においても、同期電動機駆動装置を一構成要素として持つシステムの機械的な共振点と一致し騒音となる場合もある。これらを考慮して、同期電動機駆動装置が用いられる状態に応じて、低騒音を実現する通電波形と同期電動機の運転条件との関係を実験的或いはシミュレーションにより求め、このデータを通電波形選択手段14にテーブルや関数として設けるとよい。
図18に同期電動機駆動条件Jk*として、低騒音条件が要求された場合に用いられる通電波形選択手段14における通電波形選択テーブルの一例を示す。図18に示すテーブルでは、通電波形切換えのための入力パラメータとして、回転速度指令値を用いるものである。速度指令値がω1’’〜ω2’’の範囲とω3’’〜ω4’’の範囲では矩形波通電では電圧や電流波形の歪成分と機械的な共振点とが一致し、騒音が発生する。これらの領域は正弦波通電とし、それ以外の回転速度領域では低騒音となる通電方式を選択するように構成した例である。
同期電動機駆動条件Jk*として高効率駆動または低騒音駆動が要求された場合であっても、制御上通電方式を切換えると、制御そのものが不安定になるり最終的に停止或いは、過電流による停止となる可能性のある場合においては、同期電動機駆動条件Jk*によらず、制御性を確保するため、最も制御の安定した通電波形に強制的に切換えればよい。例えば、前述したように、正弦波通電に比べ、矩形波通電では出力する電圧ベクトルの数が少ないため、正弦波通電よりも制御性が劣化する。これにより、矩形波通電では、加速・減速時や、極低速、極低負荷(電流実効値が所定位置以下)では、制御が継続できない場合がある。このような時は、図14に示したテーブルや関数によらず強制的に正弦波通電とするようにする。
また、電源電圧の変動等により直流電源部1の直流電圧が低下した場合、電圧飽和によりインバータ装置の出力可能な電圧ベクトルの大きさの最大値が低下する。このような場合も通電波形選択手段14内では、出力電圧ベクトルの変調率Vk*を監視し、変調率Vk*がVk*>1となった場合、制御上安定な通電方式である正弦波通電に切換えるようにしても良い。このときは電圧飽和状態であるため、正弦波通電の過変調運転或いは弱め励磁運転により同期電動機6を駆動する。ここで、通電波形を切換える閾値を一点で設定した場合、切換え閾値近傍で頻繁に通電方式が切換わる場合がある。この現象は制御性から見て特に問題はないが、騒音が発生する場合がある。このときは、切換え閾値にヒステリシス特性を設け、切換え閾値近傍で動作した際に、頻繁に通電方式が切換わるのを抑制してもよい。
出力電圧ベクトル演算手段12について詳しく説明する。ここでは、電流検出手段7より得られる電流信号に基づき、外部から与えられる同期電動機6の回転速度が回転速度指令値ω*を満たすように駆動するための出力電圧の大きさと位相角からなる出力電圧ベクトル指令値を求める。ここで、この出力電圧ベクトル指令値を求める制御手法は、最終的に出力電圧の大きさと位相角が得られる手法であればどのような制御手法を用いても良い。
制御手法の例として、制御上の座標軸を同期電動機6に対し、磁束方向(d軸)と出力トルク方向(q軸)とに変換し、それぞれの軸の電圧指令値を求めるベクトル制御方式がある。これは出力電圧ベクトル演算手段12が、同期電動機6に流入する相電流を検出する電流検出手段7と、電流検出手段7により得られた相電流を励磁電流成分とトルク電流成分とに変換する3相2相変換手段と、3相2相変換手段により得られた励磁電流成分及びトルク電流成分に基づき出力電圧指令値を求める電圧指令値演算手段を備え、通電波形選択手段により選択された通電方式或いは通電幅によらず、同一の出力電圧ベクトル指令値演算手段を用いるようにして、矩形波通電及び正弦波通電それぞれに必要なハードウェアを1つとし、さらには出力電圧ベクトル指令値演算を行うソフトウェアも1つとすることが可能となり、インバータ装置の構成の簡略化、小型化、低コスト化が可能となる。さらに、必要となるマイクロプロセッサのRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)の使用量も低下でき、演算負荷も大幅に増加させることがないため、より低コストなマイクロプロセッサが使用可能であり、インバータ装置の低コスト化が可能となる。
または同期電動機6の回転子位置に応じて、所定の進み位相角で電圧を印加する制御方式、または同期電動機6に印加する電圧ベクトルの位相と同期電動機6に流入する電流ベクトルの位相を所定の位相角となるように制御する制御方式、または制御上の座標軸と実回転子座標軸との誤差をなくすように出力電圧を制御する制御方式、または、制御上の座標軸における磁束の発生量が一定となるように出力電圧を制御する制御方式等がある。
また、それぞれの制御手法は、同期電動機6の回転子位置を位置センサ等を用いて直接検出する方式や、位置センサを用いずに検出した電流或いは出力電圧指令値の少なくともいずれか一方を用いて電動機の誘起電圧や突極性を利用して演算により回転子位置を推測する方式、または電動機の中性点の電位の変動を検出して回転子位置を求める方式等があるがどの手法を用いてもよい。
出力電圧ベクトル演算手段12を、電動機の回転子位置或いは速度を検出するための位置センサ或いは速度センサを用いない位置・速度センサレス制御手段とする場合は、センサの取り付けやセンサ信号の処理に対する信頼性の向上と、同期電動機に位置或いは速度センサを取り付けることができない用途においても適用可能となる。また、発生する誘起電圧を検出する必要が無いため、誘起電圧検出に必要な非通電区間を確保する必要が無く、矩形波通電で通電幅を120度〜180度の間で任意に設定することができ、正弦波通電と合わせて、広範囲な通電波形の選択が可能となる。
正弦波通電では、出力電圧ベクトル指令値Vo*の更新は、制御周期Ts毎に行われる。同様に、矩形波通電でも、出力電圧ベクトル指令値Vo*の更新は、制御周期Ts毎に行っても良い。ただし、矩形波通電時は前述したように、出力電圧ベクトル指令値Vo*の位相に応じた、6個ないしは12個の電圧ベクトルしか出力しない。このため、図7に示すステージ−モード条件において、同一ベクトルを出力する位相の範囲においては、出力される電圧ベクトルの位相角は6個ないしは12個の電圧ベクトルに固定され、制御周期Ts毎の電圧ベクトル指令値Vo*により電圧ベクトルの大きさのみが変化することとなる。ここで、矩形波通電では、制御上の電気角位相のみを更新し、制御周波数Fsでの電圧ベクトル指令値の演算をやめ、6個ないしは12個の出力電圧ベクトルに対して一回の演算により出力電圧ベクトル指令値を求めるようにしても良い。このとき、電気角1周期中の出力電圧ベクトル指令値Vo*の演算回数は制御周期Tsによらず6個ないし12個となる。
出力電圧ベクトル指令値演算のタイミングは、矩形波通電時の電圧ベクトル切り換わり、つまりステージやモードの切換え時に行えばよい。しかし、矩形波通電時においては、電圧ベクトルの切り換わり時は電流が過渡的に大きく変化する状態であるため、正弦波通電をベースとした制御方式のような電流の検出を行う制御方式では、制御演算にずれが生じ、制御に悪影響を与える可能性がある。このような場合は、出力電圧ベクトルの切り換わりから所定時間経過後或いは所定位相経過後の電流が安定した状態に電流検出を行い、このときの電流信号を用いて出力電圧ベクトル指令値の演算を行うようにすれば良い。所定位相の例として、図7に示すステージやステージ−モード位相範囲の1/2とすればよい。
同期電動機6は、埋込磁石型同期電動機(IPMSM)、表面磁石型同期電動機(SPMSM)のほかに、永久磁石型同期電動機(PMSM)、ブラシレスDCモータ(BLDCM)、リラクタンスモータ(RM)、シンクロナスリラクタンスモータ(SyRM)、スイッチドリラクタンスモータ(SRM)等のどのような形状のものであってもよい。
ここで、本実施の形態による同期電動機駆動装置に備えられたインバータ制御手段8における動作の流れを図19を用いて説明する。図19はインバータ制御手段8の内部でマイクロプロセッサのソフトウエアにより実現される処理を示す。もちろん同様の処理をハードウエアにより構成しても良い。図19に示す処理は制御周期Ts[s]毎に実施され、インバータ主回路5に備えられた複数のスイッチング素子3のオン/オフ動作を行うためのPWM信号を発生する。
図19において、相電流検出ステップST1により電流検出手段7により検出された同期電動機6に流入する相電流をアナログ/デジタル変換(以下、A/D変換)し相電流信号を得る。ここで、相電流検出ステップST1では、必要に応じて2相の電流Iu、Ivから他の1相の電流Iwを求める。出力電圧ベクトル指令演算ステップST2では、相電流検出ステップST1で得られた相電流Iu,Iv,Iwと、回転速度指令値ω*とから同期電動機6の回転速度が回転速度指令値ω*を満たすように駆動するための出力電圧ベクトル指令値Vo*を演算により求める。直流電圧検出ステップST3では、直流電圧検出手段10より検出された直流電圧VdcをA/D変換し直流電圧信号Vdcを得る。変調率・位相演算ステップST4では、出力電圧ベクトル演算ステップST2で得られた、出力電圧ベクトル指令値Vo*と直流電圧検出ステップST3で得られた直流電圧信号Vdcより、PWM信号を求めるための変調率Vk*と出力電圧ベクトル位相θvを求める。
通電波形選択ステップST5では、相電流検出ステップST1で得られる相電流信号Iu,Iv,Iwと回転速度指令値ω*と変調率・位相演算ステップST4で得られる変調率Vk*と同期電動機駆動条件Jk*とから、同期電動機駆動条件Jk*に最も適した通電波形の通電方式Mdと通電幅θonを求める。通電波形選択ステップST5で通電方式Mdとして矩形波通電が選択された場合、は変調率補正ステップST6に進む。変調率補正ステップST6では、正弦波通電時と電気角1周期における出力電圧の1次周波数成分が同じになるように通電幅θonに応じて変調率Vk*に補正を行い補正変調率Vk*’を求める。矩形波PWM演算ステップST7は、通電波形選択ステップST5で得られた通電幅θonと変調率補正ステップST6で得られた補正変調率Vk*’と変調率・位相演算ステップST4で得られた出力電圧ベクトル位相θvとに基づき、矩形波通電用のPWM信号を求める。
一方、通電波形選択ステップST5において、通電方式Mdとして正弦波通電が選択された場合、正弦波PWM演算ステップST8に進む。正弦波PWM演算ステップST8では、変調率・位相演算ステップST4で得られた変調率Vk*と電圧ベクトル位相θvとに基づき、正弦波通電用のPWM信号を求める。
ここで、図19に示した、同期電動機駆動装置の動作の流れにおいて、全工程を制御周期Ts[s]で行うようにしたが、このとき、矩形波PWM演算ステップST7及び正弦波PWM演算ステップST8で得られるPWM信号のキャリア周波数は1/Ts[Hz]となる。PWM信号のキャリア発生の周期と制御演算の周期は必ずしも同期する必要はない。このときは、矩形波PWM演算ステップST7または正弦波PWM演算ステップST8以外のステップを制御周期Ts[s]で演算を行い、矩形波PWM演算ステップST7または正弦波PWM演算ステップST8の処理を異なる周期Ts’[s]で行っても良い。このようにすることで、PWMのキャリア周波数に応じて制御周期を変える必要がなくなる。
以上に示した実施の形態1における同期電動機駆動装置の構成例では、電流検出手段7として、同期電動機6に流入する相電流を2相の電流直接検出し求める方法について示した。別手法として、直流電源部1とインバータ装置2との間の直流電流を検出し、インバータ装置2の出力した電圧ベクトルとの関係から、3相電流に変換する方法を用いても同様に実現可能である。
以上のように構成したので、一つの回路構成で、120度〜180度間の任意の通電幅が選択可能な矩形波通電と、正弦波通電と、過変調領域を用いた正弦波通電との複数の通電波形を実現することができる。また、駆動する同期電動機に要求される駆動条件(高効率駆動条件、低騒音駆動条件)に応じて最も適した通電波形に短時間で切換えることができる。通電波形の切換えにより同期電動機駆動時の総合効率を所定値以上とし、或いは同期電動機駆動時の騒音を所定値以下とすることが可能となる。さらに、正弦波通電または矩形波通電のどちらか一方のみを備えた同期電動機駆動装置と比べ、総合効率改善或いは騒音低減が可能となる。
矩形波PWM発生手段15は、120度通電時及び180度通電時に電気角で1周期中に出力する電圧ベクトルを6個とするようにしたので、120度及び180度での矩形波通電の出力電圧ベクトルを正弦波通電時の電気角1周期の円軌跡に近似させることが可能となる。
矩形波PWM発生手段15は、120度より大きく、180度より小さい通電幅で通電する場合に電気角で1周期中に出力する電圧ベクトルを12個とするようにしたので、120度及び180度での矩形波通電の出力電圧ベクトルを正弦波通電時の電気角1周期の円軌跡に近似させることが可能となる。
矩形波PWM発生手段15は、通電幅に応じた出力電圧補正手段を備え、正弦波PWM発生手段16により出力される電圧に含まれる1次成分と矩形波PWM発生手段15により出力される電圧に含まれる1次成分とが等しくなるように、通電幅に応じ、出力されるPWMのパルス幅を補正するようにしたので、通電波形切換え時の出力トルク変動を抑制することが可能となり、制御上の安定性を保持したまま瞬時に通電波形を切換えることが可能となる。
矩形波PWM発生手段15は、3相間通電時におけるPWMデューティを2相間通電時の1/√3とするようにしたので、3相間通電時と2相間通電時に発生する出力電圧ベクトルの大きさを同じ大きさにすることが可能となり、電気角1周期中の電圧変動を抑制し、正弦波通電時の円軌跡に近似させ、矩形波通電における制御を安定に保つことが可能となる。また、発生する誘起電圧を検出する必要が無いため、誘起電圧検出に必要な非通電区間を確保する必要が無く、矩形波通電で通電幅を120度〜180度の間で任意に設定することができ、正弦波通電と合わせて、広範囲な通電波形の選択が可能となる。
通電波形選択手段14は、インバータ装置2と同期電動機6を含めて高効率運転を行う際に、駆動状態の安定後、通電波形を適宜切換え、インバータ装置2の入力電流が最小となる通電波形を探索させるようにしたので、同期電動機6とその負荷特性が把握できていない場合、実験による予備検証が行えない場合においても、通電波形切換えによる高効率駆動を実現できる。また、電動機特性のばらつきや回路部品特性のばらつきにより、テーブルや関数により得られた結果と実際の駆動状況にずれを生じる場合においても効率最大通電波形に追従させることが可能となる。
通電波形選択手段14は、通電方式を正弦波通電から矩形波通電に切換えるに当たり、180度矩形波通電に切換えた後、所定の通電幅となるように通電幅を所定の割合で変化させるようにしたので、瞬時に通電波形を切換えた場合に電流波形の急峻な変動や騒音、振動が発生するのを抑制することが可能となる。
通電波形選択手段14は、通電方式を矩形波通電から正弦波通電に切換えるに当たり、通電幅を所定の割合で180度矩形波通電状態に変化させた後、正弦波通電に切換えるようにしたので、瞬時に通電波形を切換えた場合に電流波形の急峻な変動や騒音、振動が発生するのを抑制することが可能となる。
通電波形選択手段14は、出力電圧が飽和状態に近づいた際に、正弦波通電を選択し、過変調運転へと移行させるようにしたので、電圧飽和状態で矩形波通電を継続した場合に制御が不安定になる状態や回転速度指令値を満たす回転速度が得られなくなることを抑制することが可能となる。
通電波形選択手段14は、同期電動機6を加速或いは減速する際に、正弦波通電を選択するようにしたので、矩形波通電時の加速・減速時に制御が不安定になる場合に制御をより安定な状態へ移行させることが可能となる。
通電波形選択手段14は、同期電動機6に流入する電流の実効値が所定の値より小となる場合は正弦波通電を用いるようにしたので、負荷が極めて小である条件で矩形波通電が不安定になる場合に、より制御の安定な状態へ移行させることが可能となる。
出力電圧ベクトル演算手段12は、同期電動機6に流入する相電流を検出する電流検出手段7と、電流検出手段7により得られた相電流を励磁電流成分とトルク電流成分とに変換する3相2相変換手段と、前記3相2相変換手段により得られた励磁電流成分及びトルク電流成分に基づき出力電圧指令値を求める電圧指令値演算手段を備え、前記通電波形選択手段により選択された通電方式或いは通電幅によらず、同一の出力電圧ベクトル指令値演算手段を用いるようにしたので、矩形波通電及び正弦波通電それぞれに必要なハードウェアを1つとし、さらには出力電圧ベクトル指令値演算を行うソフトウェアも1つとすることが可能となり、インバータ装置の構成の簡略化、小型化、低コスト化が可能となる。さらに、必要となるマイクロプロセッサのRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)の使用量も低下でき、演算負荷も大幅に増加させることがないため、より低コストなマイクロプロセッサが使用可能であり、インバータ装置の低コスト化が可能となる。
出力電圧ベクトル演算手段12は、同期電動機6の回転子位置或いは速度を検出するための位置センサ或いは速度センサを必要としない、位置・速度センサレス制御手段としたので、センサの取り付けやセンサ信号の処理に対する信頼性の向上と、同期電動機に位置或いは速度センサを取り付けることができない用途においても適用可能となる。また、発生する誘起電圧を検出する必要が無いため、誘起電圧検出に必要な非通電区間を確保する必要が無く、矩形波通電で通電幅を120度〜180度の間で任意に設定することができ、正弦波通電と合わせて、広範囲な通電波形の選択が可能となる。
出力電圧ベクトル演算手段12は、通電波形選択手段が矩形波通電を選択した際に、矩形波通電時に出力される6個或いは12個の出力電圧ベクトルの切替りから所定時間経過後に電流の検出と出力電圧ベクトル演算を行うようにしたので、矩形波通電において、制御の安定性を確保することができ、正弦波通電と同様の制御性能を得ることが可能となる。
実施の形態2.
図20は実施の形態2を示す図で、同期電動機駆動装置を示すものである。本実施の形態では、出力電圧ベクトル指令値Vo*を求める際に、3相の電流を励磁電流成分(d軸電流)とトルク電流成分(q軸電流)とに変換し、それぞれを同期電動機6の駆動状態に応じて、所定の値へと制御するベクトル制御を用いた場合について説明する。
図において、直流電源部1はインバータ装置2と接続され、インバータ装置2に直流電力を供給する。同期電動機6はインバータ装置2と接続され、インバータ装置2より同期電動機6を駆動するための電力が供給される。
インバータ装置2は、U相上側スイッチング素子3a、V相上側スイッチング素子3b、W相上側スイッチング素子3c、U相下側スイッチング素子3d、V相下側スイッチング素子3e、W相下側スイッチング素子3fの複数のスイッチング素子3及び複数のスイッチング素子3と並列に接続された還流ダイオード4からなるインバータ主回路5と、同期電動機6に流入する1相分の電流を検出する電流検出手段7a及び電流検出手段7aと異なる相の電流を検出する電流検出手段7bからなる電流検出手段7と、電流検出手段7により検出された電流に基づき複数のスイッチング素子3をオン/オフ制御するPWM信号を発生するインバータ制御手段8と、インバータ制御手段8より得られるPWM信号に基づき複数のスイッチング素子3をオン/オフ駆動するゲートドライブ回路9と、直流電圧検出手段10とからなる。
インバータ制御手段8は、電流検出手段7より得られた電流信号と外部から与えられる回転速度指令値と電流位相制御手段21から得られる励磁電流指令値とに基づき出力電圧ベクトル指令値を求める出力電圧ベクトル演算手段20と、出力電圧ベクトル演算手段で用いる速度信号や電圧、電流信号に基づき、同期電動機の出力トルクが最大となる電流位相を実現するための励磁電流指令値を求める電流位相制御手段21と、直流電圧検出手段10より得られる直流電圧信号及び出力電圧ベクトル演算手段20より得られる出力電圧ベクトルに基づき出力電圧ベクトルの変調率・位相角を求める変調率・位相演算手段13と、出力電圧ベクトル演算手段20で用いる電流信号と、出力電圧ベクトル演算手段12及び外部から与えられる回転速度指令値とに基づき通電波形(通電方式及び通電幅)を選択する通電波形選択手段14と、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率及び通電波形選択手段14より得られる通電幅指令値に基づき矩形波通電用のPWM信号を求める矩形波PWM発生手段15と、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率及び通電波形選択手段14より得られる通電幅指令値に基づき正弦波通電用のPWM信号を求める正弦波PWM発生手段16と、通電波形選択手段14より得られる通電方式信号に基づき、矩形波PWM発生手段15と正弦波PWM発生手段16のPWMを選択出力するPWM出力手段17とからなる。
次に同期電動機駆動装置の動作を図20を用いて説明する。図において、図1に示した実施の形態1における同期電動機駆動装置と異なる部分はインバータ制御手段8である。インバータ制御手段8以外の動作は、図1で示したものと同じであるため、これらの動作の説明は省略する。
インバータ制御手段8の動作について、説明する。インバータ制御手段8内において、電流検出手段7a、7bにより検出された2相分の電流信号Iu、Ivは出力電圧ベクトル演算手段20に与えられ、出力電圧ベクトル演算手段20は、2相分の電流信号Iu、Ivと回転速度指令値ω*と励磁電流指令値Iγ*より同期電動機6の回転速度が回転速度指令値ω*を満たすように駆動するための出力電圧ベクトル指令値Vo*を演算により求める。
また、電流位相制御手段21は、出力電圧ベクトル演算手段20において演算過程で用いられる変数である周波数信号ω1、電圧信号Vγ,Vδ、電流信号Iγ,Iδを用いて、同期電動機6の出力トルクを最大とする電流位相を実現するための励磁電流指令値iγ*を演算により求め出力する。
変調率・位相演算手段13は、直流電圧検出手段10より得られる直流電圧Vdcと出力電圧ベクトル演算手段12より得られる出力電圧ベクトル指令値Vo*より出力電圧ベクトルを直流電圧に対する比(変調率)Vk*及び出力電圧ベクトルの位相角θvを求める。
通電波形選択手段14は、出力電圧ベクトル演算手段12より得られるγ軸電流Iγとδ軸電流Iδ、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、回転速度指令値ω*、外部から与えられる同期電動機駆動要求条件Jk*により、同期電動機駆動要求条件Jk*を実現するために最も適した通電方式Md及び通電幅θonを求め出力する。ここで、同期電動機駆動要求条件Jk*は回転速度指令値ω*と同様に、インバータ装置2の上位装置より与えられる。同期電動機の駆動に要求される条件として、例えば、高効率駆動要求或いは低騒音駆動要求等である。
矩形波PWM発生手段15は、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、出力電圧ベクトル位相角θv及び通電波形選択手段14から得られる通電幅θonより、通電幅をθonとする矩形波通電用PWM信号を発生させる。
正弦波PWM発生手段16は、変調率・位相演算手段13より得られる出力電圧ベクトル変調率Vk*、出力電圧ベクトル位相角θvより正弦波通電用のPWM信号を発生させる。
PWM出力手段17は、通電波形選択手段14により出力された通電方式信号Mdに応じて矩形波PWM発生手段15または正弦波PWM発生手段16のいずれか一方のPWM信号を選択し出力する。
実施の形態2における、出力電圧ベクトル演算手段20の構成の一例を図21に示す。図21に示す出力電圧ベクトル演算手段の構成は、演算手段の一例として、汎用的なインバータ装置の制御手法として用いられるものであり、制御軸(γ−δ軸)上の磁束を一定に保つように制御する一次磁束制御の例を示したものである。一般的なベクトル制御においては、3相電流を回転子の磁束方向成分の励磁電流成分(d軸電流)と励磁電流成分から90度位相の進んだトルク電流成分(q軸電流)のd−q座標に変換する。ただし、ここで示した、一次磁束制御においては、正確な回転子位置を検出していないため、d−q座標が正確に得られない。このため、推定したd−q座標として制御上の座標系としてγ−δ座標を用いるものとする。
図21において、インバータ装置2の出力する電圧ベクトルの一次角周波数ω1を積分器22により積分し電気角位相θeを得る。電気角位相θeと同期電動機6に流入する3相電流のうち2相の電流例えばIu、Ivを用いて、制御座標上のγ−δ座標上のγ軸電流Iγとδ軸電流Iδに変換する。
電流フィルタ手段24では、IγとIδから特定の周波数成分を除去し、それぞれのフィルタ値Iγf、Iδfを得る。速度補償器25では、δ軸電流フィルタ値Iδfを入力とし、Iδfの変動に応じて、回転速度指令値ω*を補償するための速度補償量Δωを求める。速度誤差演算手段26では、回転速度指令値ω*より速度補償量Δωを差し引き電圧ベクトルの一次角周波数ω1を求める。
電圧指令演算手段27では、一次角周波数ω1、励磁電流指令値Iγ*、γ−δ軸電流フィルタ値Iγf、Iδfを用いて、同期電動機6の回転速度が回転速度指令値ω*を満たすように駆動するためのγ−δ軸上の電圧指令値Vγ*、Vδ*を制御演算式により求める。電圧ベクトル演算手段28では、電気角位相θeとγ−δ軸上の電圧指令値Vγ*、Vδ*より、出力電圧ベクトルVo*を求める。
実施の形態2における、出力電圧ベクトル演算手段20の構成の図21と異なる例を図22に示す。図22に示す出力電圧ベクトル演算手段20の構成は、演算手段の一例として、一般的なベクトル制御を示したものである。一般的なベクトル制御においては、3相電流を回転子の磁束方向成分の励磁電流成分(d軸電流)と励磁電流成分から90度位相の進んだトルク電流成分(q軸電流)のd−q座標に変換する。ここで示した図22においては、d−q座標をγ−δ座標と表記してあるが、どちらを用いてもよい。
図22において、3相−2相変換手段23は、電流検出手段7より得られた2相分の電流Iu、Ivをγ−δ座標上の電流Iγ、Iδに変換する。電流フィルタ手段24は、3相−2相変換手段23より得られるγ−δ座標上の電流Iγ、Iδそれぞれより、特定の周波数成分を除去し、γ−δ座標電流フィルタ値Iγf、Iδfを得る。速度比較手段30は回転速度指令値ω*と速度推定値ω^より速度誤差ωerrを求める。
速度制御手段31は速度比較手段30より得られる速度誤差ωerrを基に、比例・積分制御によりδ軸電流指令値Iδ*を求める。γ軸電流比較手段32は励磁電流指令値Iγ*と電流フィルタ手段より得られるγ軸電流フィルタ値Iγfを比較し、γ軸電流誤差Iγerrを求める。δ軸電流比較手段33は速度制御手段31より得られるδ軸電流指令値Iδ*と電流フィルタ手段24より得られるδ軸電流フィルタ値Iδfを比較し、δ軸電流誤差Iδerrを求める。電流制御手段34はγ軸電流比較手段31より得られるγ軸電流誤差Iγerrとδ軸電流比較手段32より得られるδ軸電流誤差Iδerrより、比例・積分制御によりγ軸電圧指令値Vγ*とδ軸電圧指令値Vδ*をもとめる。電圧ベクトル演算手段28では、電気角位相推定値θ^とγ−δ軸上の電圧指令値Vγ*、Vδ*より、出力電圧ベクトルVo*を求める。
速度・位置推定手段35は電流制御手段34より得られるγ−δ軸電圧指令値Vγ*、Vδ*と電流フィルタ手段24より得られるγ−δ軸電流フィルタ値Iγf、Iδfと同期電動機6の電動機定数を用いて、同期電動機6の回転子位置θ^及び速度ω^を推定する。速度・位置推定手段35において、回転子の速度・位置の推定は、γ−δ軸電圧指令値Vγ*、Vδ*と電流フィルタ手段24より得られるγ−δ軸電流フィルタ値Iγf、Iδfと同期電動機6の電動機定数を用いて同期電動機の数学的モデルにより求める手法や、同期電動機6の誘起電圧を利用する方法、同期電動機6の突極性を利用し印加した電圧または電流の応答から求める方法、同期電動機6の3相巻線の中性点電圧の変動から求める方法等あるが、どの方式を用いても良い。
同期電動機6として、IPMSMを用いた場合について考えると、IPMSMの出力トルクは回転子に用いられる磁石による磁石トルクと、d軸インダクタンスとq軸インダクタンスの差によって生じるリラクタンストルクとに分類できる。回転子の磁束軸(d軸)から見た電流ベクトルの位相をβとし、電流ベクトルの大きさを一定とした場合、図23に示すように、位相角βにより、磁石トルクとリラクタンストルクの大きさが変化し、IPMSMの出力合成トルクが変化する。図23に示した、合成トルクの最大となる電流ベクトルの位相角βmはIPMSMの回転速度や負荷トルクによって変化する。そこで、電流位相制御手段21により、同期電動機6の運転状態(回転速度及び負荷トルク)に応じ、出力トルクを最大とするように電流位相βの制御を行う。このとき、電流位相βの制御には、励磁電流Iγを用いて行うため、電流位相制御手段21は励磁電流指令値Iγ*を出力する。
電流位相制御手段21では、同期電動機6の数学的モデルを用いて、同期電動機6の動作状態を示す出力電圧ベクトルの一次回転速度ω1、電圧指令値Vγ*、Vδ*、電流フィルタ値Iδf、Iγfより、励磁電流指令値Iγ*を出力する。ここでは、数学的モデルをそのまま用いても良いし、数学的モデルを簡略化し、入力変数を減らす等してテーブルとして用いても良い。
以上には、同期電動機6として、IPMSMを用いた場合について説明したが、SPMSMを用いた場合、SPMSMはリラクタンストルクを持たないため、磁石トルクのみが出力トルクとして得られる。このため、SPMSMにおいては、電流位相角β=0のとき出力トルクが最大となる。
IPMSM、SPMSMによらず電圧飽和時は、回転速度範囲を拡大する手法として、d軸方向に磁石磁束を打ち消す方向に磁束を発生させ、磁石磁束を弱める弱め励磁制御がある。この制御を用いる場合は前記した、出力トルクを最大とする数学的モデルやテーブルから得られる励磁電流指令値Iγ*と異なる励磁電流指令値を用いる必要がある。このような場合は変調率Vk*を監視し、電圧飽和状態(Vk*>1)になった場合に、弱め励磁制御用の励磁電流指令値演算手段を用いればよい。
出力電圧ベクトル演算手段20の例として示した図21と図22の構成例、及び前述した電流位相制御手段21は、主に正弦波通電方式で用いられるものである。本発明では、正弦波通電方式と矩形波通電方式において、同一の制御手法(出力電圧ベクトル演算手段)とし、制御手法を正弦波通電用1手法とするため以下のように構成している。
正弦波通電時は、同期電動機6の負荷にトルクリップルがない理想的な状態であれば、電流検出手段7で得られた相電流を3相−2相変換手段23でγ−δ座標に変換した場合、γ―δ軸電流Iγ、Iδはほぼ直流となる。しかし、矩形波通電を行った場合、同期電動機6の負荷にトルクリップルがない理想的な状態であっても、電流検出手段7で得られた相電流を3相−2相変換手段23でγ−δ座標に変換した場合、γ―δ軸電流Iγ、Iδに交流成分が発生する。これは、矩形波通電により、インバータ装置2の出力する電圧波形が矩形波状となるため、同期電動機6に流入する電流波形も高調波成分を含んだ矩形波状の波形となるためである。
Iγ、Iδに交流成分が含まれた場合、電圧指令演算手段27或いは電流制御手段34はIγ及びIδを用いて出力電圧指令値を求めるため、電圧指令演算手段27或いは電流制御手段34により得られる電圧指令値も交流成分が含まれるようになり、電圧ベクトル演算手段28より得られる出力電圧ベクトル指令値Vo*も交流成分を含むことになる。このとき制御が振動的になり、同期電動機6の駆動を継続できない場合がある。
また、速度・位置推定手段35においては、Iγ、Iδに含まれた交流成分により、速度及び位置の推定値の誤差が増大し、速度・位置情報の精度が低下し、制御性の低下の可能性がある。さらには、電流位相制御手段21にも影響を与え、出力トルクを最大とする励磁電流指令値の精度が低下による効率の低下や、制御が振動的になる場合がある。
これらの、矩形波通電によって生じるIγ、Iδの交流成分による制御上の悪影響を避けるため、電流フィルタ手段24を用いて、特に制御に悪影響を与える交流成分を除去する。これにより、出力電圧ベクトル指令値Vo*に含まれる交流成分の除去、速度・位置推定精度の確保及び励磁電流指令値精度の確保と安定化等により制御の安定化を図る。実験的に正弦波通電と120度〜180度の矩形波通電とを比較した場合、矩形波通電によりIγ、Iδに発生する交流成分は電気角周波数(電圧一次角周波数)の6f或いは12fといった6の倍数の成分である。
そこで、電流フィルタ手段24では、電気角周波数に応じ、帯域除去フィルタを用いて、電気角周波数の6の倍数成分を除去し、正弦波駆動時に得られる電流に近い電流を得られるようにする。ここで、複数の成分に対し帯域除去フィルタを用いた場合、マイクロプロセッサの演算負荷を増加させることになるため、除去する成分を限定しても良い。特に発生量の大きい6f成分のみとしてもよい。また、より簡易なフィルタの構成として、低域通過フィルタとして電気角の6f以上の高調波成分を除去しても良い。
正弦波通電では、出力電圧ベクトル指令値Vo*の更新は、制御周期Ts毎に行われる。同様に、矩形波通電でも、出力電圧ベクトル指令値Vo*の更新は、制御周期Ts毎に行っても良い。ただし、矩形波通電時は前述したように、出力電圧ベクトル指令値Vo*の位相に応じた、6個ないしは12個の電圧ベクトルしか出力しない。このため、図7に示すステージ−モード条件において、同一ベクトルを出力する位相の範囲においては、出力される電圧ベクトルの位相角は6個ないしは12個の電圧ベクトルに固定され、制御周期Ts毎の電圧ベクトル指令値Vo*により電圧ベクトルの大きさのみが変化することとなる。ここで、矩形波通電では、制御上の電気角位相のみを更新し、制御周波数Fsでの電圧ベクトル指令値の演算をやめ、6個ないしは12個の出力電圧ベクトルに対して一回の演算により出力電圧ベクトル指令値を求めるようにしても良い。このとき、電気角1周期中の出力電圧ベクトル指令値Vo*の演算回数は制御周期Tsによらず6個ないし12個となる。
出力電圧ベクトル指令値演算のタイミングは、矩形波通電時の電圧ベクトル切り換わり、つまりステージやモードの切換え時に行えばよい。しかし、矩形波通電時においては、電圧ベクトルの切り換わり時は電流が過渡的に大きく変化する状態であるため、正弦波通電をベースとした制御方式のような電流の検出を行う制御方式では、制御演算にずれが生じ、制御に悪影響を与える可能性がある。このような場合は、出力電圧ベクトルの切り換わりから所定時間経過後或いは所定位相経過後の電流が安定した状態に電流検出を行い、このときの電流信号を用いて出力電圧ベクトル指令値の演算を行うようにすれば良い。所定位相の例として、図7に示すステージやステージ−モード位相範囲の1/2とすればよい。
以上に示した実施の形態2における同期電動機駆動装置の構成例では、電流検出手段7として、同期電動機6に流入する相電流を2相の電流直接検出し求める方法について示した。別手法として、直流電源部1とインバータ装置2との間の直流電流を検出し、インバータ装置2の出力した電圧ベクトルとの関係から、3相電流に変換する方法を用いても同様に実現可能である。
以上のように構成したので、一つの回路構成で、120度〜180度間の任意の通電幅が選択可能な矩形波通と、正弦波通電と、過変調領域を用いた正弦波通電との複数の通電波形を実現することができる。また、電駆動する同期電動機に要求される駆動条件(高効率駆動条件、低騒音駆動条件)に応じて最も適した通電波形に短時間で切換えることができる。通電波形の切換えにより同期電動機駆動時の総合効率を所定値以上とし、或いは同期電動機駆動時の騒音を所定値以下とすることが可能となる。さらに、正弦波通電または矩形波通電のどちらか一方のみを備えた同期電動機駆動装置と比べ、総合効率改善或いは騒音低減が可能となる。
以上に示した、電流フィルタ手段24は矩形波通電時に発生する電流歪みに対する手法であるので、矩形波通電時のみに用いればよい。また、正弦波通電時に前記電流フィルタ手段24を用いても特に問題は無い。
出力電圧ベクトル演算手段20は、3相−2相変換手段23より得られる励磁電流及びトルク電流から所定の周波数成分を除去する電流フィルタ手段24を備え、通電波形選択手段14が矩形波通電を選択した際に、電流フィルタ手段24より得られる所定の周波数成分が除去された励磁電流及びトルク電流を用いて出力電圧ベクトル演算は出力電圧ベクトル指令値を求めるようにしたので、通電波形の矩形波化により生じる電流の高調波成分の影響を受けにくくなり、正弦波通電で用いられる制御方式を用いて、矩形波通電を実現することが可能となる。また、これにより、同期電動機を駆動するための制御方式を通電方式或いは通電幅によらず、同一の電圧指令値演算手段を用いることができ、回転子位置検出のためのハードウェアの削減と、通電方式切換え時の切換え処理の削減と、マイクロプロセッサ処理の軽減が可能となり、同期電動機駆動装置の簡略化、小型化、低コスト化が可能となる。
ここで、同期電動機6の例としては、埋込磁石型同期電動機(IPMSM)と表面磁石型同期電動機(SPMSM)の例について示したが、これ以外にも永久磁石型同期電動機(PMSM)、ブラシレスDCモータ(BLDCM)、リラクタンスモータ(RM)、シンクロナスリラクタンスモータ(SyRM)、スイッチドリラクタンスモータ(SRM)等のどのような形状のものに対しても同様の効果を得られる。
実施の形態3.
図24は実施の形態3を示す図で、同期電動機駆動装置を用いた冷凍・冷蔵庫における構成例を示す。図24において、冷凍冷蔵庫40は、入出力装置41と、冷凍冷蔵庫制御手段42と、ダンパー43と、ファン及びファンモータ44と、ヒータ45と、同期電動機駆動装置46と、密閉型圧縮機47と、冷媒回路48と、温度センサ49とを備える。電源50は冷凍冷蔵庫40に電力を供給する電源である。
図24において、入出力装置41はユーザインターフェイスであり、庫内の温度表示等の冷凍冷蔵庫の運転状態の表示及び庫内の温度設定や省エネモード、低騒音モード等の各種動作設定の入力を行う。冷凍冷蔵庫制御手段42は冷凍冷蔵庫40全体の制御を行うものであり、入出力装置41より得られる動作設定条件に合わせて、温度センサ49から得られる庫内温度情報に基づき、温度や運転条件が所定値となるように、ダンパー43、ファン及びファンモータ44、ヒータ45、密閉型圧縮機47等の各構成要素の運転動作を制御する。また、入出力装置41に表示のための各種情報を送る。
同期電動機駆動装置46は、本発明の同期電動機駆動装置に相当する部分であり、冷凍冷蔵庫制御手段46より与えられた回転速度指令値や同期電動機駆動条件に応じて、冷媒回路48に接続された密閉型圧縮機47を駆動する。また、同期電動機駆動装置46は冷凍冷蔵庫制御手段42に密閉型圧縮機47の動作状態や異常等の各種情報を送る。ここで、密閉型圧縮機47には同期電動機が用いられている。
冷凍冷蔵庫制御手段42は、入出力装置41より得られる運転条件信号に応じて、同期電動機駆動装置46に回転速度指令値や同期電動機駆動条件を送り、密閉型圧縮機47を回転速度指令値や同期電動機駆動条件に応じた通電波形で駆動させるようにする。例えば、入出力装置41に省エネ運転モードが設定された場合、冷凍冷蔵庫制御手段42は冷凍冷蔵庫40全体を省エネ運転させるための動作を行うとともに、同期電動機制御手段46に高効率要求信号を送る。同期電動機駆動装置46はこの高効率要求信号を受け密閉型圧縮機47に設けられた同期電動機が高効率となる通電波形(通電方式及び通電幅)を選択し、高効率駆動を行う。
また、入出力装置41に低騒音運転モードが設定された場合、冷凍冷蔵庫制御手段42は冷凍冷蔵庫40全体を低騒音運転させるための動作を行うとともに、同期電動機制御手段46に低騒音要求信号を送る。同期電動機駆動装置46はこの低騒音要求信号を受け密閉型圧縮機47に設けられた同期電動機が低騒音となる通電波形(通電方式及び通電幅)を選択し、低騒音駆動を行う。標準条件では省エネ運転モードとし、要求に応じて低騒音運転モードとしても良い。
さらに、冷凍冷蔵庫制御手段42に備えられた、タイマー装置或いは、時計により、日中と夜間で自動的に運転条件要求信号を切換えても良い。日中は消費電力を低減するため、省エネ運転モードとし、夜間は日中に比べ冷凍冷蔵庫の運転音が目立つため、低騒音運転モードとする。
以上のように、本発明による同期電動機駆動装置を冷凍冷蔵庫に適用することで、正弦波通電方式或いは矩形波通電方式のどちらか一方の駆動方式を用いた同期電動機駆動装置に比べ、電動機効率と回路効率を含めた総合効率を改善することが可能となり、冷凍冷蔵庫の省エネ化が実現できる。また、正弦波通電方式或いは矩形波通電方式のどちらか一方の駆動方式を用いた同期電動機駆動装置に比べ、低騒音化することが可能となる。
本発明による同期電動機駆動装置を冷凍冷蔵庫に適用することで、使用者の運転要求条件に応じた密閉型圧縮機の駆動が実現可能となる。また、効率と音の面で一日の冷凍冷蔵庫の使用状態に合わせた、密閉型圧縮機の駆動を実現することが可能となる。
実施の形態4.
図25は実施の形態4を示す図で、同期電動機駆動装置を用いた空気調和機における構成例を示す。図25において、室外機51と室内機60とからなるセパレート式の空気調和機について示したものである。室外機51は、空気調和機制御手段52と、温度センサ53と、室外機用ファン及びファンモータ54と、同期電動機駆動装置55と、密閉型圧縮機56と、四方弁57と、室外熱交換器58と、膨張弁59からなる。また、室内機60は、室内機制御手段61と、温度センサ62と、室内機ファン及びファンモータ63と、室内機熱交換器64とを備える。また、電源50は空気調和機に電力を供給する電源である。
図25に示す空気調和機において、室内機制御手段61にリモコン等のユーザインターフェイスを介して設定された運転状態に応じ、室内機制御手段61は、温度センサ62や室外機51内の空気調和機制御手段52より得られる信号に基づき、設定された運転条件(冷房・暖房・除湿運転または設定温度)を満たすように室内機のファンモータや各種構成要素の制御を行う。また、室内機制御手段61は室外機51内の空気調和機制御手段52に運転条件信号を送るとともに運転状態の表示もあわせて行う。
室外機51側においては、室内機60内の室内機制御手段61より得られる運転条件信号と温度センサ53より得られる温度信号に基づき、運転条件を満たすように、室外機ファン及びファンモータ54と、四方弁57と、膨張弁59と、密閉型圧縮機56を制御する。同期電動機駆動装置55は本発明の同期電動機駆動装置にあたる部分であり、空気調和機制御手段52より与えられた回転速度指令値や同期電動機駆動条件に応じて、密閉型圧縮機56を駆動する。密閉型圧縮機56内には同期電動機が用いられる。
空気調和機制御手段52は、室内機制御手段61より得られる駆動条件信号に応じて、同期電動機駆動装置55に回転速度指令値や同期電動機駆動条件を送り、密閉型圧縮機56を回転速度指令値や同期電動機駆動条件に応じた通電波形で駆動させるようにする。
例えば、室内機制御手段61に省エネ運転モードが設定された場合、空気調和機制御手段52は空気調和機全体を省エネ運転させるための動作を行うとともに、同期電動機制御手段55に高効率要求信号を送る。同期電動機駆動装置55はこの高効率要求信号を受け密閉型圧縮機56に設けられた同期電動機が高効率で駆動できる通電波形(通電方式及び通電幅)を選択し、高効率運転を行う。
また、室内機制御手段61に低騒音運転モードが設定された場合、空気調和機制御手段52は空気調和機全体を低騒音運転させるための動作を行うとともに、同期電動機制御手段55に低騒音要求信号を送る。同期電動機駆動装置55はこの低騒音要求信号を受け密閉型圧縮機56に設けられた同期電動機が低騒音となる通電波形(通電方式及び通電幅)を選択し、低騒音駆動を行う。標準条件では省エネ運転モードとし、要求に応じて低騒音運転モードとしても良い。
さらに、空気調和機制御手段52或いは室内機制御手段61に備えられた、タイマー装置或いは、時計により、日中と夜間で自動的に運転条件要求信号を切換えても良い。日中は消費電力を低減するため、省エネ運転モードとし、夜間は日中に比べ空気調和機の運転音が目立つため、低騒音運転モードとする。
以上のように、本発明による同期電動機駆動装置を空気調和機に適用することで、正弦波通電方式或いは矩形波通電方式のどちらか一方の駆動方式を用いた同期電動機駆動装置に比べ、電動機効率と回路効率を含めた総合効率を改善することが可能となり、空気調和機の省エネ化が実現できる。また、正弦波通電方式或いは矩形波通電方式のどちらか一方の駆動方式を用いた同期電動機駆動装置に比べ、低騒音化することが可能となる。
本発明による同期電動機駆動装置を空気調和機に適用することで、使用者の運転要求条件に応じた密閉型圧縮機の駆動が実現可能となる。また、効率と音の面で一日の空気調和機の使用状態に合わせた、密閉型圧縮機の駆動を実現することが可能となる。
ここで示した、実施の形態4においては、同期電動機駆動装置の適用例として、空気調和機の圧縮機用電動機としたが、ファンモータ用電動機に適用することも可能である。同期電動機駆動装置が駆動する対象はどちらも同期電動機であるので構成は同様である。しかし、駆動する負荷が圧縮機とファンモータとで異なり、要求される仕様も異なる。どちらにおいても高効率で低騒音を両立できることが望ましいが、両立が困難でどちらかの仕様に特化する場合も考えられる。圧縮機用途であれば主に効率が重視され、ファンモータ用とでは主に低騒音が重視される。この要求される仕様に応じて通電波形を切換えるように構成すればよい。その通電波形切換えの一例として、効率を求められる圧縮機用途では、低速時に矩形波通電、高速時に正弦波通電となるように構成すればよい。また、低騒音が求められるファンモータ用途では、低速側に正弦波通電、高速側に矩形波通電を用いるように構成すればよい。
1 直流電源部、2 インバータ装置、3a U相上側スイッチング素子、3b V相上側スイッチング素子、3c W相上側スイッチング素子、3d U相下側スイッチング素子、3e V相下側スイッチング素子、3f W相下側スイッチング素子、4 還流ダイオード、5 インバータ主回路、6 同期電動機、7 電流検出手段、8 インバータ制御手段、9 ゲートドライブ回路、10 直流電圧検出手段、11 相電流演算手段、12 出力電圧ベクトル演算手段、13 変調率・位相演算手段、14 通電波形選択手段、15 矩形波PWM発生手段、16 正弦波PWM発生手段、17 PWM出力手段、20 出力電圧ベクトル演算手段、21 電流位相制御手段、22 積分器、23 3相−2相変換手段23、24 電流フィルタ手段、25 速度補償器、26 速度誤差演算手段、27 電圧指令演算手段、28 電圧ベクトル演算手段、30 速度比較手段、31 速度制御手段、32 γ軸電流比較手段、33 δ軸電流比較手段、34 電流制御手段、35 速度・位置推定手段、40 冷蔵庫、41 入出力装置、42 冷凍冷蔵庫制御手段、43 ダンパー、44 ファン及びファンモータ、45 ヒータ、46 同期電動機駆動装置、47 密閉型圧縮機、48 冷媒回路、49 温度センサ、50 電源、51 室外機、52 空気調和機制御手段、53 温度センサ、54 室外機用ファン及びファンモータ、55 同期電動機駆動装置、56 密閉型圧縮機、57 四方弁、58 室外機熱交換器、59 膨張弁、60 室内機、61 室内機制御手段、62 温度センサ、63 室内機用ファン及びファンモータ、64 室内機熱交換器。