本発明の露光装置は、例えば、露光光として紫外光を用い、投影光学系と基板(例えば、ウエハ)間を液体で満たす液浸法が適用されるあらゆる露光方法及び露光装置に有用である。そのような露光装置には、例えば、基板を静止させた状態で該基板に原版のパターンを投影転写する露光装置や、基板と原版とを同期スキャンしながら該基板に該原版のパターンをスリット光によりスキャン露光する露光装置が含まれうる。
以下、本発明の好適な実施形態を例示的に説明する。図1は、本発明の好適な実施形態の構成を概略的に示す図である。図1において、ArFエキシマレーザやF2レーザなどの露光光源(不図示)から射出された光が照明光学系2に提供される。照明光学系2は、露光光源から提供された光を用いて、レチクル(原版)1の一部をスリット光(スリットを通過したような断面形状を有する光)により照明する。スリット光によってレチクル1を照明している間、レチクル1を保持しているレチクルステージ(原版ステージ)3とウエハ(基板)9を保持しているウエハステージ(基板ステージ)10は、一方が他方に同期しながらスキャン移動する。このような同期スキャンを通して、結果としてレチクル1上のパターン全体が投影光学系4を介してウエハ9上に連続的に結像し、ウエハ9表面に塗布されたレジストを感光させる。
レチクルステージ3やウエハステージ10の二次元的な位置は、参照ミラー11とレーザー干渉計12によってリアルタイムに計測される。この計測値に基づいて、ステージ制御装置13は、レチクル1(レチクルステージ3)やウエハ9(ウエハステージ10)の位置決めや同期制御を行う。ウエハステージ10には、ウエハ9の上下方向(鉛直方向)の位置や回転方向、傾きを調整、変更或いは制御する駆動装置が内蔵されており、露光時は、この駆動装置により投影光学系4の焦点面にウエハ9上の露光領域が常に高精度に合致するようにウエハステージ10が制御される。ここで、ウエハ9上の面の位置(上下方向位置と傾き)は、不図示の光フォーカスセンサーによって計測され、ステージ制御装置13に提供される。
露光装置本体は、不図示の環境チャンバの中に設置されており、露光装置本体を取り巻く環境が所定の温度に保たれる。レチクルステージ3、ウエハステージ10、干渉計12を取り巻く空間や、投影レンズ4を取り巻く空間には、更に個別に温度制御された空調空気が吹き込まれて、環境温度が更に高精度に維持される。
この実施形態では、投影光学系4とウエハ9との間の空間或いは間隙を液体で満たす液浸法は、ウエハ9の上方かつ投影光学系4の近傍に配置された液体供給ノズル5と、投影光学系4を挟んで液体供給ノズル5の反対側に配置された液体回収ノズル6によって実現される。
以下、この実施形態において実施される液浸法について詳細に説明する。露光中にウエハ9をスキャンする方向の上流側であって投影光学系4の近傍に液体供給ノズル5が配置されている。ここで、スキャン方向の上流側とは、例えば、ウエハを右から左に向かって左方向(第2方向)に移動させる場合について説明すると、その反対方向(第1方向)である右側である。すなわち、スキャン方向(第2方向)を矢印で示した場合に、矢印の始点側の方向(第1方向)が上流側である。投影光学系4を挟んで液体供給ノズル5の反対側(すなわち、スキャン方向の下流側)には、液体回収ノズル6が配置されている。
液体供給ノズル5は、供給管16を介して液体供給装置7と接続されており、同様に液体回収ノズル6は、回収管17を介して液体回収装置8と接続されている。液体供給装置7は、例えば、液体を貯めるタンク、液体を送り出す圧送装置、液体の供給流量の制御を行う流量制御装置を含みうる。液体供給装置7には、更に、液体の供給温度を制御するための温度制御装置を含むことが好ましい。液体回収装置8は、例えば、回収した液体を一時的に貯めるタンク、液体を吸い取る吸引装置、液体の回収流量を制御するための流量制御装置を含みうる。液浸制御装置18は、更に、ウエハステージ10の現在位置、速度、加速度、目標位置、移動方向といった情報をステージ制御装置13から受けて、これらの情報に基づいて、液浸の開始や中止、流量等の制御指令を液体供給装置7や液体回収装置8に与える。
液浸用の液体は、露光光の吸収が少ないものから選ばれ、更に石英や蛍石などの屈折系光学素子とほぼ同程度の屈折率を有することが望まれる。具体的には、液浸用の液体としては、純水、機能水、フッ化液(例えば、フルオロカーボン)などが候補として掲げられる。液浸用の液体は、予め脱気装置を用いて溶存ガスが十分に取り除かれたものが好ましい。これは、気泡の発生を抑制し、また、気泡が発生しても即座に液体中に吸収できるからである。例えば、環境気体中に多く含まれる窒素、酸素を対象とし、液体に溶存可能なガス量の80%以上を除去すれば、十分に気泡の発生を抑制することができる。もちろん、不図示の脱気装置を露光装置に備えて、常に液体中の溶存ガスを取り除きながら液体供給装置7に液体を供給してもよい。脱気装置としては、例えば、ガス透過性の膜を隔てて一方に液体を流し、もう一方を真空にして液体中の溶存ガスをその膜を介して真空中に追い出す、真空脱気装置が好適である。
次に、図2を参照しながら、投影光学系4とウエハ9の間に液を満たす工程を説明する。
まず、ウエハ9が静止した状態又は移動している状態で、液体供給ノズル5よりウエハ9上に、例えばほぼ一定流量で液体fを供給し、液体供給ノズル5の下面とウエハ9の上面に液体を密着させることで、十分な液膜を形成する(図2(a))。
次に、供給ノズル5より液体を供給し続けたまま、ウエハ9の移動を開始し又は更に移動させ、(図2(a))で形成した液膜を途切れさせることなく、ウエハ9の移動を利用して投影光学系4下面まで液膜を導く(図2(b)、図2(c))。
ウエハ9が更に移動して露光開始位置に至るとスリット光によるスキャン露光が開始される(図2(d))。スリット露光中においても、図2(c)と同様に、供給ノズル5より液体を供給し続け、更に、投影光学系4に対してスキャン方向Sの下流側(図2では、左側)より流出する液体を回収ノズル6で回収することにより、ウエハ9と投影光学系4の間が安定して液で満たされる(図2(d))。
ウエハ9が更に移動して露光終了位置に至るとスリット光による露光が終了する(e)。スリット光による露光が終了すると、液体供給ノズル5からの液体の供給を停止し(図2(e))、ウエハ9をスキャン方向Sに移動させながら、ウエハ9上に残った液体を液体回収ノズル9によって回収する(図2(f)、図2(g))。
以上のように、ウエハ9の移動に伴って液膜が広がるように、ウエハ9を移動させながらウエハ9の表面上に連続的に液体を供給する方法によれば、投影光学系4の最終面とウエハ9との間隙を連続的な液膜(途切れない液膜)で満たすことができる。そして、このような方法によれば、投影光学系4とウエハ9との間隙にノズルを向けて該間隙に液体を供給する特許文献2に記載された方法に比べて、投影光学系とウエハとの間隙が小さい場合においてもその間隙に確実に液膜を形成することができ、しかも、その液膜中の存在しうる気泡を低減することができる。また、このような方法によれば、液膜はウエハに対する相対速度が遅いので、液体回収ノズル6を通して確実に回収されうる。したがって、外部への液体の飛散が効果的に防止されうる。
上記のような液体の供給・回収のシーケンスは、露光ショット領域毎(レチクル像の1回の転写毎)に実施されてもよいし、ウエハ上の全部又は一部の露光ショット領域を1つの単位として実施されてもよい。後者の場合、露光ショット領域間でのウエハのステップ移動時においても液体の供給及び回収を実施してもよいし、ステップ移動時においては液体の供給及び回収を停止してもよい。
上記のような液浸は、ウエハを静止させた状態で露光を実施する露光装置(いわゆるステッパー等)にも適用することができる。この場合は、例えば、露光ショット領域間でウエハをステップ移動させる際に、次に露光すべき露光ショット領域と投影光学系4の下面との間に液膜を広げるように液体の供給及び回収を制御すればよい。
次に、図3〜図7を参照しながら液体供給ノズル5と液体回収ノズル6の具体的な構成及び配置の好適な例を説明する。
図3は、図1の露光装置をウエハ9より上方で切断し、見下ろした平面図である。投影光学系4の最終面4sを挟んで、ウエハ9の移動方向S(投影光学系4から見て+X方向)の上流側(投影光学系4から見て−X方向)に液体供給ノズル5が、下流側(投影光学系4から見て+X方向)に液体回収ノズル6が配置されている。ウエハの移動方向は、露光装置がスキャナー(走査露光装置)である場合には、露光時のウエハのスキャン方向と同じにすることが安定して液膜を形成する上で望ましい。
液体供給ノズル5は、その下面(下端)が投影光学系4の最終面(下面)4sとほぼ同じ高さかそれよりも若干高くなるように配置されることが好ましく、これによって、空気層を排除しながら液体が投影レンズ4の最終面に十分密着しながらウエハとともに移動することができ、液膜への気泡の混入を防ぐことができる。
液体回収ノズル6は、その下面(下端)が投影光学系4の最終面(下面)4sとほぼ同じ高さかそれよりも若干低くなるように配置されることが好ましく、これにより液体の取りこぼし(完全に回収できないこと)を防止しながら、ウエハ上の液体を効率よく回収することができる。
液体供給ノズル5の液体を吐出する出口の総長L1は、少なくとも露光光束が通る領域の長さLeと同じかそれより長いことが好ましく、投影光学系4の最終面4sの幅と同じかそれより長いことが更に好ましい。液体回収ノズル6の長さL2は、液体供給ノズル5の液体吐出口の長さL1と同じかそれよりも長いことが好ましく、投影光学系最終面4sの幅と同じかそれより長いことが更に好ましい。
供給ノズル5からウエハ9と投影光学系4の下面との間の空間(液浸空間)に供給する液体の流量Vは、式(1)に従って決定することが望ましい。
V≧L1・d・υ ・・・・式(1)
ここで、dは、ウエハと投影光学系最終面(下面)との間の液を満たす部分の間隔である。υは、液浸時のウエハの移動速度であり、スキャン露光時においてはウエハのスキャン速度が適用される。
さらに、液体供給ノズル5から液浸空間に供給する液体の流量Vは、供給ノズル5の液体吐出口での液体の平均流速をμとすると、式(2)で示される。
V=L1・w・μ ・・・・式(2)
ここで、wは、液体吐出口の幅である。式(1)と式(2)より式(3)が導かれる。
μ≧d・υ/w ・・・・式(3)
即ち、より一般的には、供給ノズル5の液体吐出口における液体の平均流速(即ち吐出口単位面積あたりの供給流量)が、投影光学系最終面4sとウエハ9との間隙の間隔dとウエハステージ10の移動速度υとの積を吐出口の幅wで除した値と等しいかそれより大きくなるように、供給する液体の流量を決定すればよい。ここで、wを厳密に定義すると、対応する液体供給ノズル5におけるウエハ9の移動方向に沿った液体吐出口の幅の最小値となる。
ウエハの端部から露光を開始することを可能にするためには、ウエハの端部が露光領域(露光光が照射される領域)に到達する前に投影光学系4の最終面(下面)4sの下に液膜を十分成長させる必要がある。そこで、図3に示す構成例では、ウエハ9の外側に、ウエハ9とほぼ(実質的に)同じ高さの同面板(平面板)19を設けることにより、ウエハ9の外側の領域においても液膜を形成することを可能にしている。
図4は、液体供給ノズル5及び液体回収ノズル6の構成及び配置に関する第2の構成例を示す図である。図4に示す第2の構成例は、液体供給ノズル5と液体回収ノズル6の口が連続部材20a、20bの面(ウエハステージ又はウエハに対向する対向面)内に設けられている点で図3に示す第1の構成例と異なる。
連続部材20a及び20bの底面(対向面)は、投影光学系最終面4sとほぼ同じ高さである。また、投影光学系最終面4sの外周端は、投影光学系4の鏡筒の外周部と密接するように配置されている。このような構成によれば、ウエハ9と液体供給ノズル5の底面との間隔、ウエハ9と液体回収ノズル6の底面との間隔、及びウエハ9と投影光学系最終面4sとの間隔をほぼ同一にし、更に、液体供給ノズル5の底面、投影光学系最終面4s、液体回収ノズル6の底面を連続した面として構成することができる。
投影光学系最終面4sから連続した面内に各ノズル5、6を配置した構成は、次のような利点を有する。液体供給ノズル5から供給された液体は、液体供給ノズル5が開口した連続部材20aの底面とウエハ9とに密着して液膜を形成する。この液膜は、ウエハ9とともに、連続部材20aの底面に対して連続して繋がった投影光学系最終面4sに向かって進む。したがって、この液膜は、投影光学系4の最終面4s、更には連続部材20bの底面にスムーズに進入することができる。このように、投影光学系最終面4sとそれに連続した連続部材20a、20bは、それらとウエハ9との間隙のほぼ全面を液体で満たすことを可能にする。
また、液膜は常にその上面及び下面が平面と密着しながらウエハ9とともに移動するので、液膜を取り巻く環境(気体)との接触は実質的に液膜の側面のみとなる。したがって、液膜と気体との接触面積が小さく、更に液膜は、ほぼ一定の間隙を流れるために速度変化が少なく流れに乱れが起こりにくく、液膜中に気泡が発生しにくい。また、このことは液体中への気体の溶解を低減するため、温度や局所的な圧力変化に起因して液膜中に微少気泡が発生することを抑制することができる。
連続部材20a、20bは、その底面(下面)が投影光学系4の最終面(下面)4sと連続している限り、薄板形状であってもよいし、ブロック形状であってもよいし、その他の形状を有してもよい。また、連続部材20a、20bは、ノズル5、6の底面及び/又は投影光学系4の鏡筒の底面と一体化した部分として構成されてもよい。
図5は、液体供給ノズル5と液体回収ノズル6の構成及び配置に関する第3の構成例を示す図である。図5に示す第3の構成例は、液体供給ノズル5(5a、5b)と液体回収ノズル6(6a、6b)の双方を投影光学系最終面4sを挟んで両側に配置した点で、図4に示す第2の構成例と異なる。
液体供給ノズル5a、5bは、相対的に投影光学系4の最終面4sに近い位置に投影光学系4を挟むように配置され、液体回収ノズル6a、6bは、相対的に投影光学系4の最終面4sから遠い位置、すなわち液体供給ノズル5a、5bの外側に配置されうる。
図5に示す矢印の+X方向にウエハ9が移動している際は、液体供給ノズル5aからウエハ9と最終面4sとの間隙に液体を供給し、液体供給ノズル5bからの供給は停止する。このとき、液体回収ノズル6bにより殆どの液体は回収されうる。しかしながら、液体供給ノズル5aから供給される液体の流量によっては反対方向にも液体が流れる可能性がある。そこで、液体回収ノズル6bの他、液体回収ノズル6aも動作させ、逆方向に流れる液も回収することにより、液体の飛散やこぼれを防止することができる。このような効果を考慮すると、液体回収ノズルは、投影光学系最終面4sの周囲を取り囲むように全周に配置されることが好ましく、液体供給ノズルから液体が供給される際には常に液体回収ノズルを作動させることが好ましい。
一方、図5に示す矢印の−X方向にウエハ9が移動している際は、上記とは逆に、液体供給ノズル5bより液体を供給し、5aからの液体の供給は停止する。これにより、ウエハの移動方向の正逆に関わらず、常にウエハ9と投影レンズ最終面4sとの間隙を液体で満たすことができる。また、双方のノズル5a、5bからの液体の供給を切り替えることで、ウエハの移動方向を反転させる際にも、液膜を途切れさせずに(液膜を分離させずに)、ウエハ9と投影レンズ最終面4sとの間隙を液体で満たすことができる。
投影レンズ最終面4sの形状は円形である必要はない。例えば、ノズルに面する部分を直線とし、例えば図5のような俵形にすることにより、液体供給ノズル5a、5bと液体回収ノズル6a、6bをより露光光束の光路に近づけることができる。これにより、液体を満たすために必要な時間やウエハの移動距置を少なくすることができる。特にスキャナーの場合は、露光光束がウエハ面上でスリット形状であり、それに近接する投影レンズ最終面4sにおいてもスキャン方向に短くスキャン方向に直交する方向に長い断面形状の光束が使われる。そこで、このような光束の断面形状に合わせて、投影光学系4の最終面の形状をスキャン方向の幅が狭い俵型等の形状にすることができる。もちろん、投影光学系の最終面の形状は俵型に限られるものではなく、矩形や円環弧(円環の一部分)の形状など、様々な形状にしうる。
図6は、液体供給ノズル及び液体回収ノズルの構成及び配置に関する第4の構成例を示す図である。図6に示す第4の構成例では、投影光学系最終面4sを取り囲む周囲4辺にそれぞれ液体供給ノズル5a〜5dを設け、更に、それらの外周を取り囲むように液体回収ノズル6a〜6dを設けている。図中矢印+X方向にウエハが移動するときは、このウエハ移動方向における上流側に設けられた液体供給ノズル5aより液体を供給し、矢印−X方向にウエハが移動するときは、液体供給ノズル5bより液体を供給する。また、矢印+Y方向にウエハが移動するときには、供給ノズル5cから液体を供給し、矢印−Y方向にウエハが移動するときには、液体供給ノズル5dから液体を供給する。
液体の回収は、ウエハの移動方向における下流側に配置された液体回収ノズルによって殆どが行われるため、対象となる回収ノズルのみを作動させる構成であってもよい。しかしながら、誤動作などの不測の事態に備えて、液体回収ノズル6a〜6cは、この4つすべてを少なくとも液体を供給している間は同時に作動させた方が、液体の飛散やこぼれをより確実に防止することができる。もちろん、複数個の液体回収ノズルを配置する代わりに、投影光学系最終面4sの周囲を取り囲むように全周にわたった一つの液体回収ノズルを配置してもよい。液体供給ノズル6a〜6cから供給する液体の流量は、式(3)に従って決定すればよい。以上のような構成によれば、ウエハの移動方向は、X、Y方向に制限されず、斜め方向への移動においても液膜の維持が可能となる。
このように、投影光学系最終面4sを取り囲むように複数の液体供給ノズルを配置し、更にウエハ移動時には、その移動方向における上流(投影光学系から見て移動方向の反対側)に配置された液体供給ノズルから液体が供給されるように、供給に使用する液体供給ノズルを切り替えることにより、ウエハの移動方向によらず投影光学系最終面4sとウエハとの間隙を常に液体で満たすことが可能となる。その結果、スキャン露光中だけでなくウエハ面内でのステップ移動中やウエハの移動方向を変える際においても、常に液膜を途切れさせずに、ウエハ9と投影レンズ最終面4sの間を液体で満たしておくことができる。これにより、一枚のウエハの中で露光開始からウエハ全面の露光が完了するまで、投影光学系最終面4sとウエハ9との間隙を液膜を途切れさることなく常に液体で満たすことが可能となる。その結果、ショット毎に液膜を形成する必要がなくなり、露光装置の生産性が大幅に向上する。
図7は、液体供給ノズル及び液体回収ノズルの構成及び配置に関する第5の構成例を示す図である。この構成例では、液体供給ノズル5a〜5hと液体回収ノズル6a〜6hが、投影光学系最終面4sの外周を取り囲むように、円周上に並べられている。液体供給ノズルは、液体回収ノズルの内側に配置される。このように、各ノズルを円周上に配置することで、ウエハステージ10が斜めに移動する場合においても、その移動方向における上流にほぼ対応する液体供給ノズルから液体を供給し、少なくとも移動方向下流に位置する液体回収ノズルから液体を回収することで、投影光学系最終面とウエハとの間隙を液体で満たすことが可能となる。
例えば、ウエハが矢印で示すように+X、+Y方向の斜め45°に移動する場合は、少なくとも液体供給ノズル5bと5cから液体を供給し、少なくとも液体回収ノズル6fと6gから液体を回収するように各ノズルを制御すればよい。このように、各ノズルを円周上に配置することによって、より柔軟にウエハの様々な移動方向に対応して液膜を形成することが可能になる。図7では、複数個の分割された液体回収ノズルが示されているが、第4の構成例に関して説明したことと同様に、誤動作などの不測の事態に備えて、液体回収ノズル6a〜6hのすべてを少なくとも液体を供給している間は同時に作動させた方が液体の飛散やこぼれをより確実に防止することができる。もちろん、複数の液体回収ノズルを配置する代わりに、投影光学系最終面4sの周囲を取り囲むように全周にわたった一つの液体回収ノズルを配置してもよい。
ウエハと投影レンズ最終面4sとの間隙が液体で満たされていない状態や、液体の満たし方が不完全で未だ間隙に気体が存在する場合には、これまで説明したように、ウエハの移動方向の上流側から液体を供給することが好ましい。しかしながら、完全にウエハ9と投影レンズ最終面4sとの間隙が液体で満たされた後は、ウエハの移動方向に拘わらず、すべての液体供給ノズルから液体を供給してもよい。この場合、供給する液体の流量や回収流量が増え、ランニングコストが高くなる欠点がある反面、供給ノズルの切り替えを頻繁に行う必要がなくなるため、切り替えに要する時間がなくなり、露光装置の生産性が向上する。また、供給ノズルを高速で切り替える駆動装置が不要となり、更には液体供給装置を小型化できるという利点もある。このような液体の供給の制御は、図7に示す構成例に限られず、図5、図6に示すノズルの構成にも適用することができ、この場合においても同様の効果を得ることができる。
図7に示す構成例において、液体供給ノズルから供給する液体の流量については、基本的には、個々の液体供給ノズルに対してそれぞれ式(3)を適用して決定すればよい。また、これを簡略化して、すべての液体供給ノズルから同一流量の液体を均一に供給することができる。この場合は、図7に示す構成例においては液体供給ノズルの吐出口の形状が露光光束の中心の周りに同状に配置されているので、ウエハの移動方向によらず液体供給口の幅を一定値w'とし、式(4)に従って総流量V'を決定すればよい。
V'≧π・D・d・υ ・・・・式(4)
ここで、πは円周率、Dは吐出口の平均直径、dはウエハと投影光学系最終面との間隔、υは液浸時のウエハの移動速度である。
次に、本発明の他の好適な実施形態を図8と図9を参照しながら説明する。図8は、投影光学系最終面4s及びその周辺に設けられた各ノズルの上方からウエハステージ10を見た平面図である。なお、本来の作図法によれば、各ノズル5、6の吹き出し口は、ウエハ9に対向するように設けられているため、上方から見た平面図では隠れ線(破線)によって表されるべきであるが、解りやすくするために実線で表現している。
ウエハステージ上10に吸着されたウエハ9に隣接して平面板21が設けられている。平面板21は、その上面がウエハステージ10上に真空吸着などによって固定されるウエハの上面とほぼ(実質的に)同じ高さになるように、配置されている。投影光学系最終面4sの直下に平面板21が位置している際に、ウエハ9をウエハステージ10上から回収し、及び、ウエハ9をウエハステージ10上に載置することができるように、不図示のウエハ搬送装置が配置されている。
図9を参照しながら本実施形態の工程を説明する。図9は、図8の主要部の横断面図を用いて各部の挙動を工程順に示している。
露光中は、必要に応じて液体供給ノズル5より液体が供給され、液体回収ノズル6により液体が回収されつつ、ウエハ9と投影光学系最終面4sとの間隙が液体で常に満たされた状態に維持される(図9(a))。一枚のウエハ9に対する一連の露光が終了した時点で、ウエハ9に隣接する平面板21が投影光学系最終面4sの直下に位置するようにウエハステージ10を移動する(図9(b))。ウエハステージ10を移動する際には液体供給ノズル5より液体を供給し、液体回収ノズル6より液体を回収し続けることにより、平面板21が投影光学系最終面4sの下に位置した状態においても、投影光学系最終面4sの下は常に液体で満たされている。次に、この状態を維持しつつウエハステージ10上に吸着固定されている露光済みのウエハ9をウエハステージ10より不図示のウエハ収納部に回収する。更に、新しいウエハ9'をウエハステージ10上に載置し、吸着固定させる(図9(c))。
そして、液体供給ノズル5から液体を供給し、液体回収ノズル6によって液体を回収しながらウエハステージ10を移動し、投影光学系最終面4sの下に常に液体を満たし続けながら、ウエハ9'を投影光学系最終面4sの直下に送り込む(図9(d))。
このように、露光終了後においても液体の供給と回収を続けながら平面板21を露光位置に移動させることで、ウエハ上の液体の殆どを回収することができる。したがって、特別な液体の回収動作をすることなく、ウエハの交換をスムーズに行うことができるため、露光装置の生産性を向上させることができる。更に、投影光学系最終面4sはウエハの交換に関わらず常に液体で満たされるため、環境雰囲気に含まれる不純物が直接的に投影光学系最終面4sに触れることがない。しかも、液体と空気との接触部が最小限に抑えられるため、液体中に取り込まれる不純物の量が最小限に抑えることができる。したがって、不純物による投影光学系最終面4sの曇りを抑制することができる。
逆に、ウエハ交換の度に液体を回収した場合には、投影光学系最終面4sの表面は、一時的に薄い液膜が付いた状態に置かれる。液体が純水などの場合には、環境中に含まれる無機成分や親水性の有機成分が純水の膜の中に取り入れられやすく、純水が蒸発したときには、無機成分や有機成分が投影光学系の表面に残存し、曇りの原因となる可能性が非常に高い。
また、図9(b)、(c)に示すように、ウエハステージ10上のウエハを交換している最中には、投影光学系最終面4sと平面板21との間に液膜が維持されている状態になっているが、この直前まで液膜はウエハ上に塗布された感光剤表面に接して露光光を受けていたことになる。感光剤が露光される時には多かれ少なかれ感光剤に含まれていた成分がガス状物質となって放出され、その上面に接している液膜にこのガス状物質が溶け込んでしまう。
露光直後の液膜にはこのガス状物質が溶け込んだ汚染された状態になっているため、次の露光開始前までに液膜を新しい液体に十分に置換した方がよい。さもなければ、溶け込んだ不純物によって液膜中の透過率が変化して露光量制御に悪影響を与え、線幅バラツキの増大など露光装置の生産性を悪化させる不具合が生じる可能性がある。更に、溶け込んだ不純物が過飽和の状態になって気泡として発生し結像不良が生じる懸念もある。液膜中に溶け込んだ不純物が露光光によって化学反応を引き起こし、それが投影光学系最終面の曇りの原因となる可能性もある。そこで、以下では、このような問題とその解決方法について考える。
液体供給ノズル5から絶えず新しい液体が供給され、液体回収ノズル6から絶えず回収されている状態であれば、置換速度が遅いとしても、一応液膜は新しい液体で置換されることになる。したがって、ウエハ9上あるいは平面板21上において、ノズル5、6による供給と回収だけで次の露光に十分な液膜の純度が高められることもあると考えられる。また、供給及び回収の流量を露光直後に大きくし、露光直前に元の流量に戻すことにより、液膜の純度をさらに改善することができる。この場合において、流量の変更とともにウエハ9及び平面板21を移動させ、さらに流量の変更量に応じてウエハ9及び平面板21の移動速度も変更した方が液膜の置換速度が上がる。ウエハ9又は平面板21を往復又は回転運動させながら液体の供給・回収を行えば、連続的に液膜を置換することができるので更によい。
このうような供給流量と回収流量の増減をショット領域毎に実施してもよいし、ウエハ毎に実施してもよいし、必要に応じて実施する間隔やタイミングを変えられるようにしても良い。しかし、使用する感光剤の材質よっては露光をしていない状態でもアウトガスが発生するため、感光剤上に液膜が接触するだけで汚染が進行する場合もあり、更に必要な露光量に対して非常にアウトガスの多いのものもある。したがって、予想以上に液膜が汚染されやすい場合もある。
そこで、より積極的に投影光学系最終面下の液膜を新しい液体と置換する別の方法として、図8のように平面板21の中央などの適切な位置に液体吸引口22を設けてもよい。この吸引口22には不図示の吸引ポンプやシリンダーなどの吸引装置が接続されており、気体や液体を吸引することができる。即ち、図10に示すように、投影光学系最終面4s直下に平面板21が送り込まれた状態で、吸引口22から液体を回収すると同時に、液体供給ノズル5から供給される液体の流量を少なくとも吸引口22から吸引される量と同じ流量だけ増やす。これにより投影光学系最終面下の液膜の殆どは、外周方向(液体回収ノズル6方向)ではなく中央の吸引口22に向かう流れを持つこととなり、平板21が静止している状態においても、この液膜を常に新しい液体で置換し続けることができる(図10(b)、図10(c))。
以上のような構成により、投影光学系最終面下における液体の置換速度が飛躍的に向上する。また、汚染の懸念のある感光剤上ではなくステンレス鋼やフッ素樹脂等の化学的に汚染されにくく清浄度を保ちやすい材質を適用できる平面板21上で液膜の置換を行うので、非常に純度の高い液体で投影光学系最終面の下の間隙を満たすことができる。したがって、外気中に存在する不純物や感光剤表面から発生する不純物ガス成分が投影光学系最終面に与える曇りなどの影響を更に効果的に抑えることができる。
図9、図10に示すような平面板21上での液膜の置換は、ウエハ交換時に限定されるものではなく、一枚のウエハの一連の露光シーケンス中においても、定期・不定期に拘わらず、必要に応じて実施することができる。
図9、図10に示す構成例では、ウエハステージ上に平面板21を設け、ウエハステージと不図示のウエハ搬送装置との間でウエハを受け渡しする際に、投影光学系最終面4s直下に平面板21が位置する。しかしながら、平面板21は、例えば、露光前に実施する不図示のオフアクシス顕微鏡による位置合わせ計測工程を行う際など、露光前後に必要な各種作業や露光装置の維持・管理に必要な各種作業を行う際においても、投影光学系最終面の直下に位置するように構成されてもよい。ここで、複数のウエハステージ位置において投影光学系最終面の直下に平面板21や吸引口22が必要な場合は、複数の平面板や吸引口をウエハステージ上に配置してもよい。もちろん、図3で示した同面板19のように、ウエハを取り囲むように平面板を配置してよく、この平面板に複数の吸引口を各種工程を行う際の投影光学系最終面の位置に合わせて設けてもよい。
図9、図10では、平面板21がウエハステージ10上に配置されているが、不図示の専用の駆動装置を設けて、平面板21をウエハステージ10から独立して移動できるように構成してもよい。ただし、この場合は、平面板21は、ウエハステージ10上に吸着固定されたウエハとの間に大きな間隙が形成されないように駆動されるべきである。例えば、図9(a)から(b)の状態に移行する際や、図9(c)から(d)の状態に移行する際には、ウエハステージ10と平面板21は、互いに隣接する位置関係を保つように連携しながら投影光学系最終面付近を移動するように駆動されるべきである。ここで、少なくともウエハと平面板21との間隙が投影光学系最終面の直下を通過する間は、平面板21の高さがウエハ上面とほぼ(実質的に)同じ高さに維持されるべきである。
投影光学系最終面と平面板21との間に液膜を移動させた後は、平面板21についてはその位置を維持し、ウエハステージ10についてはその位置を任意に変更し、種々の工程を行うことができる。このように平面板21をウエハステージ10から独立して移動させる機構を設けることにより、ウエハステージ10が露光以外の種々の作業のために使用されている時間区間を利用して、投影光学系最終面の下を液体で満たし続けることができる利点がある。また、このような機構を設けることにより、複数の平面板や吸引口を設けたり、平面板を大きくしたりする必要がなくなるので、露光装置を小型化することができる。
平面板21の適当な箇所に露光光の照度分布を計測するための照度ムラセンサや、露光光の絶対照度を計測するための絶対照度計を設けてもよい。この場合、一旦液体を回収することなく投影光学系最終面下に液体を満たし続けたままで、しかも露光状態とほぼ同じ液浸状態で照度ムラや絶対照度を計測することができる。これにより、露光装置の生産性を落とすことなく、高い精度で照度ムラや絶対照度を計測することができる。以上のように、平面板はウエハステージとは個別に移動できることが生産性の点で好ましいが、走査型露光装置の場合においては、走査時の積算照度ムラを計測できる点で照度ムラセンサを平面板と一緒にウエハステージ上に配置することにも利点がある。
吸引口22から気体や液体を吸引する機能を用いることにより、投影光学系最終面4sへの初期液膜の生成をより迅速に行うことができる。図11を参照しながら吸引口22を用いた初期液膜の生成方法を説明する。
初めに、投影レンズ最終面4sの外周を囲むように配置された液体供給ノズル5のほぼ中央の直下に、吸引口22が位置するように平面板21を移動させる。この状態において、液体供給ノズル5の全周から液体を平面板21上に供給する(図11(a))。
供給された液体は、投影レンズ最終面4sを含む平行平面(連続部材)20と平面板21の間に、中央に気体gを残したまま、液体供給ノズル5の配置に従って周状或いは環状に液膜fを形成する。このまま液体を供給し続けただけでは、液膜fの内側に気体gが封じ込められているため、気体gは外に排出されない。したがって、投影レンズ最終面4sの下の空間を何時まで経っても液体で完全に満たすことはできない。
そこで、液体供給ノズル5から液体を周状或いは環状に最終面4s下の空間に供給した状態で吸引口22を通して気体gを吸引する。この吸引によって気体gの圧力は外部環境の圧力よりも負圧になり、外周に形成されている液膜には、この圧力差によって、外周から吸引口22に向かう力が働き、液膜は吸引口22に向かって速やかに広がり始める(図11(b))。更に、吸引口22を通して吸引を続けると、液体が吸引口22を通して吸引され始める頃には、投影光学系最終面4sと平面板21との間の隙間は、気体gのない液膜で満たされる(図11(c))。
次に、吸引口22からの吸引を停止する。吸引を停止した状態では、ウエハステージ10が停止している間は液体供給ノズル5からの液体の供給を停止してもよい。しかしながら、液体が静止した状態では、周囲環境を構成する気体や不純物が絶えず液体の中に取り込まれている。そのため、気泡や不純物の濃度が高くなり、発生した気泡が消失せずに露光時まで残ったり、露光によって微少な気泡が発生したり、更には取り込まれた不純物によって投影光学系最終面が曇ったりする不具合が生じうる。この不具合を避けるためには、ウエハステージ10が停止している間も絶えず液体を供給し続け、この液体を供給している間は、少なくとも液体回収ノズル6により液体を回収することが好ましい。
図11(a)〜(c)の間は、液体回収ノズル6は停止しておいてもよいが、振動や突発的な液体供給量の変動などにより外部に液体が飛び散るのを防ぐためには、常に液体回収ノズル6は稼働させておくことが好ましい。
最後に、液体の供給と回収を続けたまま投影光学系最終面の直下にウエハ9が位置するようにウエハステージ21を移動させる(図11(d))。
このように、吸引により、周状或いは環状に形成された液膜を中央に向かって成長させれば、より迅速に気泡の無い液膜を形成することが可能であり、ひいては露光装置の生産性を向上させる利点がある。また、この方法によれば、ステージの移動が不要であるため、より開口数の大きい投影光学系を採用した場合など、特に大きな面積の液膜を生成する方法としても適している。
もちろん、吸引口22を用いることにより、液膜の回収を迅速に行うこともできる。即ち、投影光学系最終面4sと平面板21との間に液膜を移した状態から、液体供給ノズル5からの液体の供給を停止し、吸引口22より液体を吸引することで、投影光学系最終面4sと液体吸引板21の間にあった液膜の殆どを迅速に回収することができる。この時、液体の回収をより完全に行うために、ウエハステージ10を動かしながら液体を吸引してもよい。この液膜の回収機能を使用することによって、即座に液膜を回収することができるため、装置の保守・点検作業や故障時の対応作業を遅滞なく迅速に開始することが可能となる。
図11を参照しながら、平面板21に設けた吸引口22を用いることにより、初期液膜を迅速に生成する方法を説明した。この方法とは別に、図12に示すように、吸引口22の代わりに液体注入口23を平面板21に設けて、不図示の液体供給装置から液体注入口23を通して液体を供給しても、以下のように初期液膜を迅速に生成することができる。即ち、図12において、まず初めに投影レンズ最終面4sの外周を囲むように配置された液体供給ノズル5のほぼ中央の直下に、液体注入口23が位置するように平面板21を移動させる。この状態から液体注入口23を通して液体を平面板21上に供給する。供給した液体は、投影レンズ最終面4sと液体注入口23を含む平面板21との間に、小さな液膜を形成する(図12(a))。
さらに続けて液体注入口23を通して液体を供給することにより、この小さな液膜fは放射状に広がり(図12(b))、投影光学系最終面4sと平面板21との間隙が液体で満たされる。
必要に応じて液体回収ノズル6を通して液体を回収することにより、平面板21や投影光学系最終面4sから液体がはみ出すことを防ぐことができる(図12(c))。
また、液体注入口23を利用することでも、図10を参照して説明したことと同様に、平面板21を静止させた状態で、周囲に液体を飛散、漏出させることなく投影光学系最終面下の液膜を新しい液体で絶えず満たし続けることができる。具体的には、液体注入口23より液体を供給すると同時に、液体回収ノズル6を通して液体を回収する。もちろん、このときには、液体供給ノズル5からの液体の供給は中断した方がよい。
このようにすれば、平面板21と投影光学系最終面4sとの間の空間のほぼ中央より液体を満たし始めるので、吸引口22を使って投影光学系最終面4sの外周より液体を満たし始める方法よりも、より周囲の気体との接触面積を小さくすることができる。したがって、初期液膜中に溶解する気体や気体中に含まれる不純物の量をより小さくすることができるため、より安定した露光・解像性能が得られ、また不純物による曇りに対する抑制効果を一層高めることができる。
また、液体注入口23に加えて、図10、図11で示した液体吸引口22を、平面板21に設けて、初期液膜の生成や液膜の置換には液体注入口22を使用し、液膜部を周囲の環境気体に置換するための液体の回収には液体吸引口23を使用してもよい。液体注入口22の機能と液体吸引口23の機能を同じ開口部で実現することもできる。即ち、平面板21に設けた開口に対して、吸引装置(不図示)及び液体供給装置(不図示)の両方を切換バルブを介して連通させ、この切換バルブを切り替えることにより、吸引口22と注入口23の機能を必要に応じて切り替えることができる。このようにすれば平面板21をよりコンパクトにできる。
図8〜図12を参照して説明した平面板21、吸引口22、注入口23の適用は、本明細書において明示的に説明した液体供給ノズルや液体回収ノズルとの組み合わせにおいて使用されることに限定されず、例えばWO99/49504号公報に開示されている液体供給用や液体回収用の配管など、種々の液体供給・回収機構との組み合わせにおいて使用されうる。
図13は、液体供給ノズルと液体回収ノズルの構成及び配置に関する第6の構成例を示す斜視図である。図13に示す構成例は、液体供給ノズル5が配置された液接触面20aの外周側に、液接触面20aよりもウエハに近い位置に配置された外周面(突出面)20cが設けられている点、すなわち、段差がある点が図6に示す構成例と異なる。外周面20cには、液体回収ノズル6が周状に配置されている。
このように、投影光学系最終面4sの液膜が形成される液接触面20aの外周側に、液接触面20aよりもウエハに近い位置に外周面20cを設けることにより、液体が液接触面20aの外側に逃げにくくなる。これによって、液体回収ノズル6を通して液体を回収する能力を小さくことを可能にし、ひいては液体回収ノズル6や液体回収装置8を小型化することができる。ここで、図13に示す構成例では、液体回収ノズル6が外側の面20c側に設けられているが、液体回収ノズルは、例えば20a側に設けられてもよいし、より確実な液体の回収のために面20a、20cの双方に設けられてもよい。
また、図13に示す構成例では、内側の面20aに対して段差をもって形成された外側の面20cが投影光学系最終面4sを全周にわたって取り囲む用に設けたが、例えば液浸時のウエハの移動方向が限定される場合には、外側の面20c或いは段差部は、ウエハの移動方向の下流側のみに設けられてもよい。この場合、外側20c或いは段差部の長さは、液体回収ノズルの長さと同じか、それよりも長いことが望ましい。
液体供給ノズル5や液体回収ノズル6のノズル口は、単なる開口として構成してもよいが、液の供給量や回収量の場所ムラを少なくし、更に液ダレしにくくするという点では、微少な穴を複数有する多孔板や多孔質体をノズル口に設けることが望ましい。特に繊維状や粒状(粉状)の金属材料や無機材料を焼結した多孔質体が好適である。またこれらに使用される材料(少なくとも表面を構成する材質)としてはステンレス、ニッケル、アルミナ、石英ガラスが液浸用媒体として使用される純水やフッ化液との相性の点で好適である。
図14は、液体供給ノズル及び液体回収ノズルの構成及び配置に関する第7の構成例を示す斜視図である。図14に示す構成例は、投影光学系最終面4sを取り囲む最外周部に不活性ガス吹き出し部24を設けた点で、これまでに挙げた第1〜第6の構成例と異なる。
不活性ガス吹き出し部(吹き出し環)24は、不図示の不活性ガス供給装置と連通しており、その下方に配置されるウエハや平面板に向かって、ほぼ均一な速度で不活性ガスを吹き出すことができるように構成されている。投影光学系最終面4sとウエハや平面板との間に液膜が形成されている状態で、不活性ガス吹き出し部24より不活性ガスを吹き出すことにより、この液膜に対してその外周側から不活性ガスにより圧力を加えることにより液膜を構成している液体が外に飛散することを防止することができる。この利点は、ウエハや平面板が移動している際に特に有効に機能する。また、不活性ガスを供給することにより、液膜が中心方向に押されるので、液膜がウエハや平面板の表面に付着したまま残ってしまうことを防止することができる。また、不活性ガスを供給することにより、ウエハや平面板の表面を乾燥させることができる。ここで、ウエハや平面板を乾燥させるためだけに不活性ガスを利用するのであれば、不活性ガスの圧力は低くてもよい。
また不活性ガス吹き出し部24には吹き出し速度の場所ムラを抑えるために、液体供給ノズル5と同様、その吹き出し口に多孔板や多孔質体をノズル口に設けても良く、またおよそ0.1mm程度の微少な隙間から不活性ガスを吹き出すスリットノズルとすれば、さらに不活性ガスの消費量を抑える利点があり尚良い。
以上のような構成によれば、ウエハや平面板の上面に液体が残存することをより確実に防止することができる。これは、ウエハ交換時や保守点検時に、残存した液体を回収するためのユニットや作業が不要とし、露光装置の生産性を向上させること、及び、装置の大型化を防ぐことに寄与する。また、不活性ガスの供給により、ウエハ上面に塗布された感光剤表面が濡れた状態に置かれる時間を短時間に抑え、さらに即座に感光剤表面を乾燥させることができる。したがって、感光剤の露光後の現像工程に影響を与える、濡れ状態に対する依存性を極力低減することができるため、安定した解像性能を感光剤に期待することができる。
図14に示す構成例では、投影光学系最終面4sとほぼ同面となる液接触面20aに液体供給ノズル5と液体回収ノズル6を設け、その外周側に平面20aよりもウエハに近い平面20cを設け、平面20cに不活性ガス吹き出し部を設けている。このように液接触面20aよりもウエハに近い面に不活性ガス吹き出し部を設けることにより、比較的少ないガス流量で、大きな圧力差を得ることができ、露光装置のランニングコストを抑え、また、不活性ガスが外部に与える影響を最小限に抑えることができる。もちろん、不活性ガス吹き出し部の効果は、これを液接触面20a内に設けた場合においても、十分に発揮されうる。また、図3〜図5に示す構成例においても、液体供給口5や液体回収口6の外側であって、ウエハ移動方向の上流側に、それらと同じ長さかそれより長い不活性ガス吹き出し部を設けることができる。
図14に示す不活性ガス吹き出し部24の更に外周側に、不図示のガス吸い込み部(吸い込み環)を設けて、不活性ガス吹き出し部24から吹き出された不活性ガスを、このガス吸い込み部によって吸い込んで回収し、露光領域の周囲に影響を及ぼさない場所にその吸い込んだ不活性ガスを排気することにより露光領域の周囲の領域に与える不活性ガスの影響を最小限に抑えることができる。ここで、露光領域の周囲に与える不活性ガスの影響の代表的な例としては、例えば、不活性ガスがウエハステージの位置を計測する干渉計の光路や、光学的フォーカスセンサの光路に流れ込んで、光路中の気体の成分が時間的、空間的に不均一となり、それが計測値の揺らぎ成分となって計測誤差の原因となることが挙げられる。
またこの不活性ガスには、有機物や酸性ガス、アルカリ性ガスなど光学系の曇りや感光剤に影響を与える不純物や水分を十分に取り除いた空気や窒素を使用するのが適当である。また特に窒素を使用すれば投影光学系最終面下に満たされた液体中に、大気中の酸素が溶け込むのを防ぐことができるため、特に液体として純水や機能水を使用する場合に、液体との接触面が酸化腐食するのを防止できる利点がある。
図15は、液体供給ノズル5の好ましい構成例を示す図である。図3〜図8、図13、図14に示した液体供給ノズル5の吹き出し口形状はスリット状である。これに対して、図15に示す構成例では、一つのノズルユニット(排出ユニット)5にn個(複数個)のノズルJ1〜Jnを備えている。これらのノズルJ1〜Jnは、それぞれ開閉バルブV1〜Vnを介して液体供給装置7と接続されており、それぞれのノズルJ1〜Jnに対応した開閉バルブV1〜Vnの動作を切り替えることにより、液体をそれぞれ個別に供給・停止することができる。
また、これらのノズル群は、一列だでなく、複数列に配置されてもよく、これによれば、供給流量を増やすことも可能であるし、さらには複雑な形状に液膜を形成することも可能である。
複数のノズルで構成されるノズルユニット5は、例えば図16に示すようにウエハ外周境界部から液浸を行う場合において、下方にウエハがあるノズルに対応する開閉バルブのみ開いて液を供給し、さらにウエハの移動に伴って下方にウエハが入ってくるノズルに対応するバルブを順次開いてさらに液をウエハ上に供給するように制御されうる。これにより、液がウエハの外側にはみ出す事を防ぐことができる。これは、液体の回収のための装置負荷を低減する。
図16では、ウエハが移動してノズル列の下方の領域内に入ってゆくケースを示しているが、ウエハがノズル列の下方の領域から外れるケースについても適用しうる。また、ウエハの外側に同面板を設けてもよく、この場合は、同面板の外縁に対応して各ノズルからの液体の供給を制御すればよく、これにより同面板の大きさを最小化することができる。したがって、ウエハステージの移動距離を小さくすることができ、装置サイズを小型化することができる。
また、図15に示す構成例では、ノズルユニット5の各ノズルからの液の供給・停止が対応する開閉バルブの開閉によって行われる。これに代えて、例えばインクジェットプリンターで利用されているように、ノズルユニットの各ノズルに液滴を吐出・停止する機能を埋め込むことも可能であり、また連続して液体を供給する他に、液滴を高周波で吐出させることによって、実質的に連続した液膜をウエハ上に形成させることも可能である。具体的にはバブルジェット(登録商標)ノズルやサーマルジェットノズル、あるいはピエゾジェットノズルなどの構造及び機能を適用することができる。
本発明の好適な実施の形態によれば、液浸法を適用した投影露光装置において、液滴を周囲に飛散させることなく、投影光学系最終面と基板との間に短時間で液膜を形成することが可能であり、更に投影露光時に問題となる微少な気泡の発生を抑制することが可能である。また、基板毎に、又は、露光に先立って実施する位置合わせ工程毎に、又は、露光装置の性能を維持するための各種工程毎に、個別に液体を回収する作業が不要になる。また、投影光学系最終面を常に純度の高い液体で覆うことができ、しかも環境雰囲気との接触面積を小さくすることができるため、所定の露光・解像性能を安定して得ることが可能となり、更には環境中や感光剤中に含まれる不純物による曇りを抑制あるいは防止することができる。これらにより、露光装置の規模を大きくすることなく、また露光装置の生産性を損なうことなく、高精度かつ安定した投影露光が可能になり、微細なパターンを安定してかつ良好に基板に転写することができる。
次に、上述した露光装置を利用して、マイクロデバイス等のデバイスの一例としての半導体デバイスを製造するプロセスを説明する。図17は半導体デバイスの全体的な製造プロセスのフローを示す図である。ステップ1(回路設計)では半導体デバイスの回路設計を行う。ステップ2(マスク作製)では設計した回路パターンに基づいてマスクを作製する。
一方、ステップ3(ウエハ製造)ではシリコン等の材料を用いてウエハを製造する。ステップ4(ウエハプロセス)は前工程と呼ばれ、上記のマスクとウエハを用いて、上記の露光装置によりリソグラフィ技術を利用してウエハ上に実際の回路を形成する。次のステップ5(組み立て)は後工程と呼ばれ、ステップ5によって作製されたウエハを用いて半導体チップ化する工程であり、アッセンブリ工程(ダイシング、ボンディング)、パッケージング工程(チップ封入)等の組み立て工程を含む。ステップ6(検査)ではステップ5で作製された半導体デバイスの動作確認テスト、耐久性テスト等の検査を行う。こうした工程を経て半導体デバイスが完成し、ステップ7でこれを出荷する。
上記ステップ4のウエハプロセスは以下のステップを有する。ウエハの表面を酸化させる酸化ステップ、ウエハ表面に絶縁膜を成膜するCVDステップ、ウエハ上に電極を蒸着によって形成する電極形成ステップ、ウエハにイオンを打ち込むイオン打ち込みステップ、ウエハに感光剤を塗布するレジスト処理ステップ、上記の露光装置によって回路パターンをレジスト処理ステップ後のウエハに転写する露光ステップ、露光ステップで露光したウエハを現像する現像ステップ、現像ステップで現像したレジスト像以外の部分を削り取るエッチングステップ、エッチングが済んで不要となったレジストを取り除くレジスト剥離ステップ。これらのステップを繰り返し行うことによって、ウエハ上に多重に回路パターンを形成する。
本発明によれば、液浸法を適用した露光装置及び露光方法の実用性を高めること、例えば、投影光学系の最終面と基板との間隙をより確実に液体で満たすこと、又は、投影光学系の最終面がそれを取り巻く雰囲気に晒される可能性を低減すること、又は、露光装置の構造を簡単化し、露光装置を小型化することができる。