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JP3836296B2 - 無端状金属ベルトの製造方法及び熱処理装置 - Google Patents

無端状金属ベルトの製造方法及び熱処理装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機用ベルトに用いられる無端状金属ベルトの製造方法及び前記製造方法に用いられる熱処理装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
1対のプーリ間に張設された動力伝達ベルトを備える無段変速機では、前記動力伝達ベルトとして複数のリングを積層した状態で保持した無端状金属ベルトが用いられている。
【0003】
前記無端状金属ベルトは、前記プーリ間を走行するときには直線状態を呈する一方、前記プーリに沿って走行するときには湾曲状態を呈し、前記直線状態と湾曲状態との繰り返しによる過酷な曲げ変形が加えられる。そこで、前記無端状金属ベルトは、前記過酷な曲げ変形に耐える強度を備えることが必要とされる。
【0004】
前記過酷な曲げ変形に耐える強度を備える材料としてマルエージング鋼が知られている。前記マルエージング鋼は、17〜19%のNiの他、Co,Mo,Ti等を含む低炭素鋼であり、溶体化後、適温に加熱することによりマルテンサイト状態において時効硬化を生じ、高強度、高靱性を兼ね備える超強力鋼であるので、前記無端状金属ベルトに賞用される。
【0005】
前記無端状金属ベルトを構成するリングは、前記マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接して形成されたドラムを所定幅に裁断した後所定の長さに圧延することにより形成されている。しかし、前記動力伝達ベルト用無端状金属ベルトに用いる場合には、さらに、耐摩耗性、耐疲労強度を備えることが望まれるので、前記マルエージング鋼に表面硬化処理を施すことが行われている。
【0006】
前記表面硬化処理は、一般に、前記リングに窒化処理を施してその表層部に窒化層を形成することにより行われる。前記表面硬化処理を行う場合には、まず、所定の長さに圧延された前記リングに、その表面が前記窒化処理に適した状態になるように、溶体化処理を施す。前記溶体化処理を行うと、加熱歪みにより前記リングの寸法に変化が生じるので、次に前記リングに周長補正を施した後、時効処理を施す。
【0007】
前記時効処理は、前記マルエージング鋼に時効硬度を発現させて高強度を付与するためのものであり、前記リングを時効処理室に収容し、該時効処理室内を所定の時効処理温度、例えば480〜520℃に加熱した後、該時効処理温度に所定時間保持することにより行われる。前記時効処理は、前記リングの表面に酸化層が形成されることを避けるために、窒素等の不活性気体雰囲気下で行われる。
【0008】
前記時効処理が終了したならば、前記リングは前記時効処理室内で冷却され、次いで窒化処理に供される。前記窒化処理としては、ガス窒化処理、ガス軟窒化処理または塩浴窒化処理があるが、ここではガス窒化処理及びガス軟窒化処理について説明する。
【0009】
前記時効処理が終了し、時効処理室内で冷却された前記リングは、窒化処理室に移される。
【0010】
前記ガス窒化処理は、前記リングを前記窒化処理室に収容し、該窒化処理室内を所定の窒化処理温度、例えば500〜550℃に加熱した後、前記リングをアンモニアガス雰囲気下、該窒化処理温度に所定時間保持することにより行われる。尚、前記アンモニアガスを含む雰囲気は、純アンモニア以外に他の不活性ガスを含んでいてもよい。そして、前記ガス窒化処理が終了したならば、前記リングは前記窒化処理室内で冷却される。
【0011】
また、前記ガス軟窒化処理は前記窒化処理室内に前記リングを収容し、前記ガス窒化処理におけるアンモニアガス雰囲気に替えて、アンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気を用いる以外は、前記ガス窒化処理と同一にして行われる。
【0012】
前記ガス窒化処理またはガス軟窒化処理によれば、アンモニアの分解により生じる窒素がマルエージング鋼の金属組織中に浸透することにより、前記リングの表面に窒化層を形成して硬化させ、耐摩耗性及び耐疲労強度を向上させることができる。
【0013】
ところが、前記ガス窒化処理またはガス軟窒化処理を行うときには、前記時効処理室と、前記窒化処理室とで、それぞれ所定温度に加熱し、該温度に所定時間保持し、次いで冷却するという操作が繰り返される。このため、前記時効処理と、前記窒化処理とに要する時間が長くなり、製造コストが増大するとの問題がある。
【0014】
前記問題を解決するために、1つの処理室内で、前記時効処理と、前記窒化処理との両方の処理を順次行うことが提案されている。これは、前記リングを処理室に収容し、該処理室内を所定の時効処理温度に加熱した後、該時効処理温度に所定時間保持して時効処理を施した後、冷却することなく、該処理室内の雰囲気をアンモニアガス雰囲気またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気に切り換えて、所定の窒化処理温度に所定時間保持することにより窒化処理を施すものである。
【0015】
前記のように、1つの処理室内で、前記時効処理と前記窒化処理との両方の処理を行うことにより、前記時効処理後の冷却する操作と、時効処理が施された前記リングを前記窒化処理室に収容した後に、該窒化処理室内を前記窒化処理温度に加熱する操作とを省略することができ、その分の時間を短縮することができる。しかしながら、このようにするときには、前記時効処理と窒化処理とで、雰囲気を切り換えた後、その雰囲気が安定しにくいとの不都合がある。
【0016】
また、前記問題を解決するために、1つの処理室内で、前記時効処理と前記窒化処理との両方の処理を同時に行うことが提案されている。これは前記窒化処理のための加熱により、前記時効処理のための加熱を兼ねるものである。
【0017】
しかしながら、このようにするときには、適正な時効硬度と、適正な深さの窒化層とが得られるように雰囲気を調整することが難しいとの不都合がある。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる不都合を解消して、時効処理と窒化処理とに要する処理時間を短縮することができ、しかも前記窒化処理を安定した雰囲気下で行うことができる無端状金属ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【0019】
また、本発明の目的は、前記製造方法に適した熱処理装置を提供することにもある。
【0020】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明の無端状金属ベルト製造方法は、マルエージング鋼の鋼板の端部同士を溶接して形成されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを所定の長さに圧延し、周長補正して、時効処理と窒化処理とを施した後、複数のリングを積層して無段変速機の動力伝達ベルトに用いられる無端状金属ベルトを製造する方法において、所定の長さに圧延されたリングを時効処理室に収容し、該時効処理室内を所定の時効処理温度に加熱して、該リングを該時効処理温度に所定時間保持して時効硬度が最大値未満になる範囲で時効処理を施す工程と、前記時効処理後、前記リングを前記時効処理温度に維持して、前記時効処理室と独立に設けられ、予め前記時効処理温度と同一または前記時効処理温度より高い窒化処理温度に加熱された窒化処理室に移動し、アンモニアガス雰囲気下またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で、該窒化処理温度に所定時間保持して、時効硬度を最大値に到達せしめるガス窒化処理またはガス軟窒化処理を施した後、冷却する工程とを備え、前記時効処理終了後、前記リングの前記時効処理室から前記窒化処理室への移動は、前記時効処理温度と同一または該時効処理温度と前記窒化処理温度との中間の温度に設定された中間室を経由して行われ、前記リングの前記時効処理室から前記中間室への移動と、前記中間室から前記窒化処理室への移動は、前記時効処理室と前記中間室との間と、前記中間室と前記窒化処理室との間に設けられた開閉自在の扉を介して行われることを特徴とする。
【0021】
本発明の製造方法によれば、前記時効処理室で時効処理が施された前記リングは、前記時効処理後、冷却されることなく、前記時効処理温度に維持したまま前記窒化処理室に移動される。前記窒化処理室は、予め所定の窒化処理温度に加熱されているので、移動された前記リングは、そのまま該窒化処理温度に所定時間保持されることにより、純アンモニア以外に他の不活性ガス等を含んでいてもよいアンモニアガス雰囲気下で前記窒化処理温度に所定時間保持するガス窒化処理または、前記リングをアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で前記窒化処理温度に所定時間保持するガス軟窒化処理のいずれかで窒化処理が施される。
【0022】
従って、従来のように前記時効処理後に冷却する操作と、その後に前記窒化処理のための窒化処理温度まで加熱する操作とを省略することができ、処理時間を短縮することができる。しかも、本発明の製造方法では、前記窒化処理室は、前記時効処理室とは独立に設けられているので、時効処理と窒化処理との間で雰囲気を切り換える必要がなく、安定した雰囲気下で窒化処理を行うことができる。
【0024】
本発明の製造方法では、前記時効処理と前記窒化処理とを円滑に連続して行うために、前記窒化処理は、前記時効処理温度と同一または前記時効処理温度より高い窒化処理温度で行う。
【0025】
本発明の製造方法において、前記リングは、窒化処理を施した後、前記窒化処理室内で冷却してもよく、前記窒化処理室の外で冷却してもよい。前記窒化処理後の冷却を前記窒化処理室の外で行うときには、例えば、前記リングは、窒化処理を施した後、開閉自在の扉を介して前記窒化処理室と連通自在に設けられた冷却室に移動し、該冷却室内で冷却する。
【0026】
前記リングは、前記時効処理により時効硬度が発現し高強度が得られるが、該時効処理の後に前記窒化処理を行うと、該窒化処理のための加熱によりさらに時効が進行し、かえって前記強度が低減することがある。そこで、本発明の製造方法では、前記時効処理は時効硬度が最大値未満になる範囲で行うと共に、前記窒化処理により時効硬度を最大値に到達せしめることを特徴とする。尚、本明細書では時効硬度が最大値未満になる範囲の時効を「亜時効」と記載し、時効硬度が最大値に達した後、さらに時効が進行し、前記強度が低減した状態を「過時効」と記載する。
【0027】
本発明の製造方法によれば、前記時効処理室における時効を亜時効になるように行うと共に、その後の窒化処理に伴う加熱で時効硬度を最大値に到達せしめることにより、適切な時効硬度を得ることができる。
【0028】
本発明の製造方法は、前記リングを収容すると共に所定の時効処理温度に加熱されて該リングを該時効処理温度に所定時間保持して時効硬度が最大値未満になる範囲で時効処理する時効処理室と、予め前記時効処理温度と同一または前記時効処理温度より高い窒化処理温度に加熱され、該リングを収容すると共に、該リングをアンモニアガス雰囲気下またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で、該窒化処理温度に所定時間保持して、時効硬度を最大値に到達せしめるガス窒化処理またはガス軟窒化処理を施す窒化処理室とからなり、前記窒化処理室と、前記時効処理室との間に、予め前記時効処理温度と同一または該時効処理温度と前記窒化処理温度との中間の温度に加熱された中間室を備え、各室は開閉自在の扉を介して連通自在に設けられると共に、前記リングは、該時効処理室から該中間室を経由して該窒化処理室に移動されることを特徴とする熱処理装置により有利に実施することができる。
【0029】
本発明の熱処理装置によれば、前記時効処理室と前記窒化処理室とは、開閉自在の扉により仕切られているので、前記窒化処理室の純アンモニア以外に他の不活性ガス等を含んでいてもよいアンモニアガス雰囲気またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気を安定した状態に維持することができる。そして、前記リングは前記時効処理室における時効処理が終了したならば、前記扉を開いて前記窒化処理室を前記時効処理室と連通させることにより、時効処理室から窒化処理室に速やかに移動することができる。
【0030】
また、本発明の熱処理装置は、前記窒化処理室と、前記時効処理室との間に、予め前記時効処理温度と前記窒化処理温度との中間の温度に加熱された中間室を備え、各室は開閉自在の扉を介して連通自在に設けられると共に、前記リングは、該時効処理室から該中間室を経由して該窒化処理室に移動される。
【0031】
前記熱処理装置では、前記所定の長さに圧延されたリングを該時効処理室に収容し、該時効処理室内を所定の時効処理温度に加熱して、該リングを該時効処理温度に所定時間保持して時効処理を施した後、前記リングを第1の扉、該中間室、第2の扉を介して予め所定の窒化処理温度に加熱された該窒化処理室に移動し、純アンモニア以外に他の不活性ガス等を含んでいてもよいアンモニアガス雰囲気またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で該窒化処理温度に所定時間保持して窒化処理を施した後、冷却する。
【0032】
前記中間室は、前記窒化処理温度が前記時効処理温度と同一であるときには、前記時効処理室と同一の温度になっている。また、前記窒化処理温度が前記時効処理温度より高いときには、前記中間室は前記時効処理室と前記窒化処理室との中間の温度になっている。
【0033】
この結果、前記中間室は、前記リングを前記時効処理室から前記窒化処理室に移動する際に、一時収容することにより、前記リングが前記移動の際に受ける温度差の影響を低減することができる。
【0034】
前記熱処理装置は、前記中間室を備えることにより、前記時効処理後に前記リングを前記時効処理室から前記窒化処理室に移動する際に、前記時効処理室の雰囲気が前記窒化処理室に流入してその雰囲気を不安定化することを防止することができる。
【0035】
さらに、本発明の熱処理装置は、前記窒化処理室と開閉自在の扉を介して連通された冷却室を備え、該窒化処理室で窒化処理が施されたリングは、該窒化処理室から該冷却室に移動され、該冷却室内で冷却されることを特徴とする。
【0036】
本発明の熱処理装置は、前記のように独立した冷却室を備えることによって、前記窒化処理室内の雰囲気を安定化することができる。また、前記窒化処理が施されたリングを速やかに前記冷却室に移動させることにより、搬送効率が向上し、自動化に貢献することができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の熱処理装置の構成を示す説明的断面図、図2は時効処理及びガス軟窒化処理の加熱パターンを示すグラフ、図3は時効処理における加熱時間と時効硬度との関係を示すグラフ、図4は無端状金属ベルトの表面からの深さと硬度との関係を示すグラフである。
【0038】
本実施形態に用いるマルエージング鋼は、Cが0.03%以下、Siが0.10%以下、Mnが0.10%以下、Pが0.01%以下、Sが0.01%以下の低炭素鋼であり、18〜19%のNi、4.7〜5.2%のMo、0.05〜0.15%のAl、0.50〜0.70%のTi、8.5〜9.5%のCoを含む18%のNi鋼である。
【0039】
本実施形態の製造方法では、まず、前記組成を有するマルエージング鋼の薄板をベンディングしてループ化したのち、端部を溶接して円筒状のドラムを形成する。次に、これを真空炉中、820〜830℃に20〜60分間保持して溶体化処理する。前記溶体化処理により、結晶を再配列し、溶接歪を除去することができる。
【0040】
次に、前記円筒状のドラムを所定の幅に裁断し、リング状体を形成する。前記リング状体は前記裁断により、その端部にエッジが立っているので、バレル研磨により面取りしたのち、圧下率40〜50%で冷間圧延し、リングを形成する。
【0041】
次に図1(a)に示すように、リングWを熱処理装置に収容して、時効処理及び窒化処理を行う。図1(a)示の熱処理装置は、時効処理室1、窒化処理室2と、両室1,2の間の中間室3とが直線的に配置されてなり、時効処理室1と窒化処理室2とは中間室3との間に設けられた上下動により開閉自在の扉4,5を介して連通される様になっている。また、時効処理室1は中間室3と反対側に開閉自在の搬入口6を、窒化処理室2は中間室3と反対側に開閉自在の搬出口7を備えている。
【0042】
図1(a)示の熱処理装置では、まず、搬入口6からリングWが時効処理室1内に搬入される。リングWが搬入されると、時効処理室1は図示しない加熱手段により加熱されて、所定の時効処理温度まで昇温され、リングWを該時効処理温度に所定時間保持することにより、時効処理を行う。前記時効処理は、図示しない導入手段により時効処理室1に導入される窒素雰囲気下に行うことにより、リングWの表面に酸化層が形成されることを防止して、後続の窒化処理を有利に行うことができる。
【0043】
前記時効処理が終了すると、開閉扉4が開かれ、リングWは時効処理室1から中間室3に移動される。そして、開閉扉4が閉じられると、開閉扉5が開かれ、リングWは中間室3から窒化処理室2に移動される。
【0044】
このとき、窒化処理室2は、図示しない導入手段により少なくともアンモニアガスを含む雰囲気が導入され、時効処理室1における時効処理温度と同一温度または時効処理温度より高い温度に加熱されている。また、中間室3は、時効処理室1における時効処理温度と同一温度または、時効処理室1における時効処理温度とそれより高い窒化処理室2の温度との中間の温度に加熱されている。尚、前記窒化処理室2に導入される雰囲気は、純アンモニア以外に他の不活性ガス等を含むアンモニアガス雰囲気またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気である。
【0045】
本実施形態では、前記の様に中間室3を介して、リングWを時効処理室1から窒化処理室2に移動することにより、リングWが前記移動の際に受ける温度差の影響を低減することができる。また、開閉扉4,5が共に上下動自在であることにより、時効処理室1及び窒化処理室2内の雰囲気を擾乱することなく、安定に維持することができる。
【0046】
次に、リングWは、前記の様に予め時効処理温度と同一温度または時効処理温度より高い窒化処理温度に加熱されている窒化処理室2内で、前記アンモニアガス雰囲気またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気に所定時間保持されることにより窒化処理される。前記窒化処理が終了すると、リングWは、窒化処理室2内で冷却され、搬出口7から搬出される。
【0047】
また、前記熱処理装置は、図1(b)示のように、さらに中間室3の反対側で窒化処理室2に隣接する冷却室8を備えていてもよい。冷却室8は、上下動により開閉自在の扉7を介して窒化処理室2に連通すると共に、窒化処理室2と反対側に上下動により開閉自在の搬出口9を備えている。
【0048】
図1(b)示の熱処理装置では、リングWは図1(a)示の熱処理装置と全く同一にして時効処理室1、窒化処理室2で処理された後、扉7を介して冷却室8に移動せしめられ、冷却室8内で冷却されたのち、搬出口9から搬出される。
【0049】
次に、中間室3及びガス軟窒化処理室2が予め時効処理室1における時効処理温度と同一温度に加熱されているときの、前記熱処理装置における加熱パターンを図2(a)に示す。また、比較のために、従来の時効処理室及びガス軟処理室が全く独立になっている場合の加熱パターンを図2(b)に示す。
【0050】
図2(a)から本実施形態の熱処理装置によれば時効処理Aに続いて、冷却することなく窒化処理Bが行われるので、図2(b)示の従来の場合のように、時効処理Aの後の時効処理室1内で冷却する時間Cと、窒化処理室2内で窒化処理温度まで加熱する時間Dとを省くことができ、(C+D)に相当する時間だけ処理時間を短縮できることが明らかである。
【0051】
また、図2(b)示の従来の場合、窒化処理室2内では、設定温度は上昇しても実際の雰囲気温度(図2(b)に仮想線で示す)の上昇はそれよりも遅くなり、窒化処理室2内の雰囲気温度が均一になるまでに時間がかかる。このため、図2(b)示の従来の場合には窒化処理が不均一になることがあった。しかし、本実施形態では図2(a)示のように、窒化処理Bにおける窒化処理温度が予め時効処理室1における時効処理温度と同一温度に加熱され、窒化処理室2内の雰囲気温度が均一になっているので、前記窒化処理を均一に行うことができる。
【0052】
次に図3を参照して、前記時効処理Aにおける加熱時間と、時効硬度との関係について説明する。図3から、時効処理温度を480℃とした場合には60分間加熱しても時効硬度は最大値に達せず、亜時効領域にあることがわかる。しかし、時効処理温度を500℃とした場合には、60分間の加熱で時効硬度が最大値に達し、加熱時間が60分を超えると過時効になって時効硬度が低減し始めることが明らかである。また、時効処理温度を520℃とした場合には、加熱時間が20分を超えると過時効になって時効硬度が低減し始めることが明らかである。
【0053】
そこで、本実施形態では、前記過時効による時効硬度の低減を避けるために、時効処理Aにおける加熱時間を亜時効領域にとどめ、それに続く窒化処理Bの加熱によって時効硬度が最大値に達するようにする。このため、例えば時効処理温度が500℃である場合、時効処理Aにおける加熱時間は60分未満とすることが好ましい。
【0054】
次に、窒化処理Bにおける窒化処理温度と、加熱時間との関係について、説明する。前記窒化処理によれば、リングWは、その表面から窒素が浸透することにより窒化層が形成され、該窒化層により硬度が発現する。そこで、前記リングWでは、その表面から内部にかけて、窒素が浸透する深さが深くなるほどに硬度が小さくなる硬度勾配が形成される。
【0055】
無段階変速機の動力伝達ベルトに用いられる無端状金属ベルトでは、複数のリングWが重ね合わされた状態で用いられ、エンジン・ブレーキが掛けられたときには、リングW相互の表面で相対的なすべりが生じる。そこで、リングWは、前記すべりに対する耐疲労性の点で、その表面の硬度が大であることは勿論であるが、その表面から内部にかけて適切な硬度勾配が形成されることが望まれる。
【0056】
次に、亜時効となる範囲で時効処理Aが施されたリングWに、図2(a)示のように窒化処理Bを施したときに形成される硬度勾配の状態を表1に示す。表1において、aaは無段階変速機の動力伝達ベルトに最適な硬度勾配、bbは適用可能な硬度勾配、ccは勾配が低く不適当な硬度勾配、ddは勾配が高く不適当な硬度勾配をそれぞれ示す。
【0057】
【表1】
Figure 0003836296
【0058】
表1から、亜時効となる範囲で時効処理Aが施されたリングWに窒化処理Bを施す場合には、窒化処理温度を480〜520℃の範囲とし、加熱時間を45〜60分の範囲とすることにより、無段階変速機の動力伝達ベルトに最適な硬度勾配を得ることができることが明らかである。
【0059】
次に、図2(a)示の加熱パターンに従って、時効処理Aを500℃で40分間、亜時効となる範囲で行い、窒化処理Bを500℃で50分行った場合のリングWの表面からの深さと硬度との関係(硬度勾配)を図4に実線で示す。また、比較のために、図2(a)示の加熱パターンに従って、時効処理Aを500℃で60分間、ピーク時効硬度が得られる様に行い、窒化処理Bを500℃で50分行った場合の硬度勾配を図4に破線で示す。
【0060】
図4から、本実施形態の製造方法による場合(図4に実線で示す)には、リングWの表面での硬度が、比較形態による場合(図4に破線で示す)よりも大であり、リングWの表面から深さ30μmまでの範囲の硬度勾配が比較形態による場合よりも高くなることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱処理装置の一構成例を示す説明的断面図。
【図2】時効処理及びガス軟窒化処理の加熱パターンを示すグラフ。
【図3】時効処理における加熱時間と時効硬度との関係を示すグラフ。
【図4】無端状金属ベルトの表面からの深さと硬度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
1…時効処理室、 2…窒化処理室、 3…中間室、 4,5,7…開閉扉、
8…冷却室。

Claims (5)

  1. マルエージング鋼の鋼板の端部同士を溶接して形成されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを所定の長さに圧延し、周長補正して、時効処理と窒化処理とを施した後、複数のリングを積層して無段変速機の動力伝達ベルトに用いられる無端状金属ベルトを製造する方法において、
    所定の長さに圧延されたリングを時効処理室に収容し、該時効処理室内を所定の時効処理温度に加熱して、該リングを該時効処理温度に所定時間保持して時効硬度が最大値未満になる範囲で時効処理を施す工程と、
    前記時効処理後、前記リングを前記時効処理温度に維持して、前記時効処理室と独立に設けられ、予め前記時効処理温度と同一または前記時効処理温度より高い窒化処理温度に加熱された窒化処理室に移動し、
    アンモニアガス雰囲気下またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で、該窒化処理温度に所定時間保持して、時効硬度を最大値に到達せしめるガス窒化処理またはガス軟窒化処理を施した後、冷却する工程とを備え、
    前記時効処理終了後、前記リングの前記時効処理室から前記窒化処理室への移動は、前記時効処理温度と同一または該時効処理温度と前記窒化処理温度との中間の温度に設定された中間室を経由して行われ、
    前記リングの前記時効処理室から前記中間室への移動と、前記中間室から前記窒化処理室への移動は、前記時効処理室と前記中間室との間と、前記中間室と前記窒化処理室との間に設けられた開閉自在の扉を介して行われることを特徴とする無端状金属ベルトの製造方法。
  2. 前記リングは、窒化処理を施した後、前記窒化処理室内で冷却することを特徴とする請求項1記載の無端状金属ベルトの製造方法。
  3. 前記リングは、窒化処理を施した後、開閉自在の扉を介して前記窒化処理室と連通自在に設けられた冷却室に移動し、該冷却室内で冷却することを特徴とする請求項1または請求項2記載の無端状金属ベルトの製造方法。
  4. マルエージング鋼の鋼板の端部同士を溶接して形成されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを所定の長さに圧延し、周長補正した後、該リングに時効処理と窒化処理とを施す熱処理装置であって、
    前記リングを収容すると共に所定の時効処理温度に加熱されて該リングを該時効処理温度に所定時間保持して時効硬度が最大値未満になる範囲で時効処理する時効処理室と、
    予め前記時効処理温度と同一または前記時効処理温度より高い窒化処理温度に加熱され、該リングを収容すると共に、該リングをアンモニアガス雰囲気下またはアンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気下で、該窒化処理温度に所定時間保持して、時効硬度を最大値に到達せしめるガス窒化処理またはガス軟窒化処理を施す窒化処理室とからなり、
    前記窒化処理室と、前記時効処理室との間に、予め前記時効処理温度と同一または該時効処理温度と前記窒化処理温度との中間の温度に加熱された中間室を備え、
    各室は開閉自在の扉を介して連通自在に設けられると共に、前記リングは、該時効処理室から該中間室を経由して該窒化処理室に移動されることを特徴とする熱処理装置。
  5. 前記窒化処理室と開閉自在の扉を介して連通された冷却室を備え、該窒化処理室で窒化処理が施されたリングは、該窒化処理室から該冷却室に移動され、該冷却室内で冷却されることを特徴とする請求項4記載の熱処理装置。
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