JP3830123B2 - 表面被覆超硬合金およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、表面被覆超硬合金およびその製造方法に関し、特に、炭化タングステン基超硬合金で構成された超硬基体(以下、単に超硬基体という)に、人工ダイヤモンド被覆を施す際、超硬基体と人工ダイヤモンドとの間の耐剥離性を向上させるために、超硬基体の表面にラジカル窒化処理を行い、気相合成法により人工ダイヤモンドを形成することに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、基体の表面に、人工ダイヤモンドの被覆層を生成させる方法としては、例えば、特開昭58−91100号公報などに記載される熱電子放射法や、特開昭58−110494号公報などに記載されるマイクロ波法、さらに特開昭58−135117号公報などに記載される高周波プラズマ法などの気相合成法が知られている。
【0003】
これらの方法を用いて人工ダイヤモンド被覆層を1〜10μmの平均層厚で形成してなる被覆超硬合金工具が知られており、またこの被覆超硬工具が、例えば純AlやAl−Si合金などのAl合金、さらにCu合金などの非鉄金属材料、および炭素材などの非金属材料の連続切削や断続切削に用いられていることも良く知られるところである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、こうした工具やその他摺動部材等の機械的特性を用いた応用では、基板との密着性が著しく重要である。一般に、被覆超硬合金を構成する人工ダイヤモンド被覆層は、これの形成が比較的高温の700〜900℃の反応温度で行われるため、人工ダイヤモンド被覆形成後、超硬基体と人工ダイヤモンド被覆層との間に大きな熱収縮差が生じ、これが原因で人工ダイヤモンド被覆層には大きな圧縮残留応力が存在するようになり、これが剥離の原因となる。したがって気相合成法による人工ダイヤモンドと超硬基体との密着性は、工具やその他摺動機械部材に適用する場合、重要となる。
【0005】
本発明者らがこの密着性に及ぼす因子を調査した結果、(a)気相合成法により人工ダイヤモンドを形成する際に超硬基体上に炭化物が形成されたり、非ダイヤモンド成分の超硬基体界面への混入が影響することがわかった。また、(b)人工ダイヤモンド膜を形成する際に、基板の硬度や表面状態が密着力に影響を及ぼすことも挙げられる。
【0006】
上記(a)の因子に関しては、超硬基体中に含有されるコバルトが原因で炭化物が形成されたり、非ダイヤモンド成分が生成することが知られており、これを回避するために、超硬基体中のコバルトを硝酸等の酸により除去することが一般に行われている。しかしながら、酸によるコバルト除去処理は、処理条件が超硬基体の種類によって異なるばかりか、処理工程が煩雑で、またコバルト以外の超硬基体自身(炭化タングステン)の酸化による劣化を招く危険性がある。
【0007】
また、超硬基体に含有されるコバルトは、炭化タングステン粒を結びつけるバインダーの役割を果たす物質であるため、コバルトの除去は、過剰に行われると超硬基体の靭性を劣化させる。そのため、密着力に影響する上記因子(b)の、人工ダイヤモンド膜を形成する際に、基板の硬度低下を招いたり、ダイヤモンド被覆後の被膜の密着強度を低下させる原因となる。そのため、コバルトを除去する処理は、非常な注意を要することとなる。
【0008】
したがって、本発明の目的は、超硬基体と人工ダイヤモンドとの間の耐剥離性を向上させた表面被覆超硬合金およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、上記目的を達成するために、本発明者らは、窒化処理に用いるプラズマを制御することにより、処理部材へのダメージを軽減することが可能なラジカル窒化法(例えば、特開平6−220606号記載の方法)を用いることで、超硬基体の表面に気相合成法により人工ダイヤモンドを密着性よく被覆できる改質層を形成しうることを見い出したものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
ラジカル窒化は、特開平6−220606号に開示されているように、金属部材を300〜650℃の温度に維持して、アンモニアガスと水素ガスを用い、金属部材の表面に対して0.001〜2mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行い、金属部材の表面をイオン窒化するものである。
【0011】
本発明者らの研究によると、超硬基体にラジカル窒化を施すと、窒化の反応ガスである水素プラズマにより、超硬基体表面のコバルトが適度に除去され、かつ残留するコバルトも表面にコバルトの窒化物が形成され、その後の人工ダイヤモンド被覆の際に、コバルトとカーボンの反応性が低下し、ダイヤモンドの生成に有効となることが分かった。
【0012】
【実施例】
次に、この発明の表面被覆超硬合金を実施例により具体的に説明する。まず被覆する超硬合金基体として、JIS規格に定められたK種超硬基体(コバルト含有量6%)を用意し、15mm角、厚さ5mmに切断し、試料とした。
【0013】
(実施例1)
実施例1として、作製した試料の一つにラジカル窒化処理を施した。窒化処理炉に試料をセット後、真空槽内を10-7Torrまで排気し、排気を続けながら水素ガスを1000ml/分で供給し、1Torrに維持した。同時に加熱ヒーターで試料が550℃に均一化されるまで1時間加熱した。
【0014】
次に、直流電源から、−400Vの電圧を試料に印加して水素ガスによる直流グロー放電プラズマを起こし、真空チャンバー内壁と試料の表面を30分間清浄化した。次に、水素ガスとアンモニアガスを、それぞれ、2000ml/分、500ml/分で真空チャンバー内に導入し、圧力を1Torrに維持し、印加電圧−400Vで水素ガスとアンモニアガスの直流グロー放電プラズマを発生させイオン窒化処理を開始した。窒化処理を8時間継続した後、プラズマを停止し、ガスの供給と加熱を停止して室温まで冷却した。
【0015】
ついで、取り出した試料を平均粒径0.5μmのダイヤモンドパウダーを分散含有アルコール中に10分間保持の条件で、超音波表面傷つけ処理を施した。人工ダイヤモンドの合成は、マイクロ波プラズマCVD装置を用いた。マイクロ波出力400W、反応ガス組成:メタン/水素=1/100とし、圧力を40Torrに維持し、試料温度を910℃に保持して、5時間ダイヤモンドを成膜した。
【0016】
(比較例1)
比較例1として、実施例1と同様の超硬基体を5%硝酸水溶液中に10分間浸漬の表面エッチング処理を施して表面部のコバルトを除去し、さらに実施例1と同様の超音波表面傷つけ処理を施した状態でダイヤモンドを実施例1と同様に成膜した。
【0017】
(比較例2)
比較例2として、特に表面処理を施してない超硬基体試料に実施例1と同様の超音波表面傷つけ処理を施した状態でダイヤモンドを実施例1と同様に成膜した。
【0018】
それぞれの試料を走査型電子顕微鏡によってダイヤモンドの生成状態を確認した結果、比較例1の試料は、一辺が1μm程度の(100)面が上を向いたダイヤモンド粒子が集まった多結晶膜が生成していた。
【0019】
一方、本発明のラジカル窒化処理を施した試料は、コバルトの除去処理をしていないにも係わらず、自形を持った多結晶ダイヤモンドに囲まれた2μm程度の粒子からなる多結晶膜が観察された。
【0020】
なお、前処理を行わなかった比較例2では、被膜の生成ができなかった。
【0021】
次に、それぞれの試料に対し、ラマン分光分析を行った。図1に比較例1の試料のラマンスペクトルを、図2に本発明による実施例1の試料のラマンスペクトルを示す。
【0022】
コバルト除去処理を行ったダイヤモンド被膜のスペクトルは、1550cm-1を中心としたDLC成分の含有も認められるが、1333cm-1に現れるダイヤモンドに帰因するピークがはっきり認められる。これに対して図2の実施例ではダイヤモンドのピークが若干低くブロードであり、DLC成分の含有も認められるが、図1と同様にダイヤモンドの生成が確認された。コバルト除去を十分施していない試料のスペクトルでは、通常、非ダイヤモンド成分の含有が多い。しかし、本発明に示すようにラジカル窒化を施すことによりコバルト除去を施した試料と同等のダイヤモンドの生成が確認され、ラジカル窒化の気相合成法による人工ダイヤモンド膜の膜質改善に対する効果が確認された。
【0023】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、炭化タングステン基超硬合金で構成された超硬基体(以下、単に超硬基体という)に、窒化処理に用いるプラズマを制御することにより、処理部材へのダメージを軽減することが可能なラジカル窒化処理を行うことによって、従来、酸等によるコバルトの除去処理を行わなければ生成できなかった気相合成法による人工ダイヤモンドの被膜を本発明の処理によって基体表面に改質層を形成することで、形成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は比較例1の試料のラマン分光測定スペクトルを示す図である。
【図2】図2は本発明による実施例1の試料のラマン分光測定スペクトルを示す図である。
Claims (4)
- 炭化タングステン基超硬合金で構成された超硬基体と、
窒化処理に用いるプラズマを制御するラジカル窒化処理によって前記超硬基体表面中のコバルトを窒化物にすることによって形成された改質層と、
該改質層の表面に気相合成法により形成された人工ダイヤモンド被覆層と、
を有することを特徴とする表面被覆超硬合金。 - 請求項1記載の表面被覆超硬合金において、前記人工ダイヤモンド被覆層の層厚が0.2から10μmであることを特徴とする表面被覆超硬合金。
- 炭化タングステン基超硬合金を超硬基体として用い、
窒化処理に用いるプラズマを制御するラジカル窒化処理によって前記超硬基体表面中のコバルトを窒化物にすることによって改質層を形成し、
該改質層の表面に気相合成法により人工ダイヤモンド被覆層を形成する、
ことを特徴とする表面被覆超硬合金の製造方法。 - 請求項3記載の表面被覆超硬合金の製造方法において、前記人工ダイヤモンド被覆層を層厚0.2から10μmに形成することを特徴とする表面被覆超硬合金の製造方法。
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