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JP3898636B2 - バインダー樹脂組成物と製造方法及びその用途 - Google Patents

バインダー樹脂組成物と製造方法及びその用途 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレン共重合物、エチレンプロピレンジエン共重合物などのポリオレフィン系樹脂や塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリルニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、ナイロン樹脂の保護又は美粧を目的として用いられるバインダー樹脂組成物及びその製造方法に関する。更に詳しくは、これらポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のシートやフィルム、成型物に対し、優れた付着性やその他の物性に優れる塗料、印刷インキ、接着剤あるいはプライマー用のバインダー樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチックは、軽量、防錆、デザインの自由度が広い等多くの利点があるため、近年、自動車部品、電気部品、建築資材等の材料として広く用いられている。とりわけポリオレフィン系樹脂は、価格が安く成形性・耐薬品性・耐熱性・耐水性・良好な電気特性など多くの優れた性質を有するため、工業材料として広範囲に使用されており、将来その需要の伸びも期待されている。しかしながら、ポリオレフィン系樹脂は極性を有する合成樹脂と異なり、非極性でかつ結晶性のため、接着が困難であるという欠点も持ち合わせている。
【0003】
これに対して、塗装や接着の前処理として、成形物の表面をプラズマ処理やガス炎処理し活性化する方法、あるいは、塩素化ポリオレフィンを主成分としたプライマー(下塗り剤)を塗装すると言った方法が採られている。
【0004】
自動車のポリプロピレンバンパー塗装においては、例えば、特開昭57−36128号公報、特公昭63−36624号公報に塩素化変性ポリオレフィンを主成分としたプライマー組成物が開示されている。
【0005】
これら塩素化物からなるプライマーは、これまでのポリオレフィンに対する付着性は優れるものの、最近では素材の高剛性化、低温焼き付けに伴い付着性が十分得られない素材も現れ、従来の塩素化ポリオレフィン系樹脂では十分対応できていないのが現状である。
【0006】
さらには、塩素化ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン素材に対しては比較的優れた付着性を示すが、その他の素材(塩ビ、ポリカーボネート、PET、ABS、ナイロン)に対しては、付着性が十分でないのが現状である。
【0007】
これまでに提案されている塩素化ポリオレフィン樹脂等は、チーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したアイソタクチックポリプロピレン(以下、IPP)を塩素化した、塩素化IPPを主成分としたものであった。
【0008】
これに対して、メタロセン化合物を重合触媒として製造したシンジオタクチックポリプロピレン(以下、SPP)を塩素化した、塩素化SPPを使用した接着剤が開示されている(特許第3045498号、特開平7-18016号)。しかしながら、この塩素化SPPは、従来のチーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造した塩素化IPPよりは溶剤溶解性が向上しているが、素材がポリプロピレンの場合に優れた付着性を示したのみで、その他の素材(塩ビ、ポリカーボネート、PET、ABS、ナイロン)に対しては、付着性が十分でないといった欠点を持っている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ポリプロピレン素材を含めた各種ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系素材に対し、付着性及び耐ガソホール性が良好で、かつ溶剤溶解性にも優れるバインダー樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、メタロセン系触媒の共存下にプロピレンと他のα−オレフィンを共重合して得られた、Mw/Mnが2以下であるイソタクチックなプロピレン系ランダム共重合体を塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した、重量平均分子量が3000〜250000である塩素化プロピレン系ランダム共重合体であることを特徴とするバインダー樹脂組成物、及び/またはメタロセン系触媒の共存下にプロピレンと他のα−オレフィンを共重合して得られた、Mw/Mnが2以下であるイソタクチックなプロピレン系ランダム共重合体、α,β−不飽和カルボン酸またはその無水物を0.1〜20重量%グラフトした後、塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した、重量平均分子量が30000〜220000であるカルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体であることを特徴とするバインダー樹脂組成物により上記問題点を解決するに至った。
【0011】
本発明の原料であるプロピレン系ランダム共重合体は、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて、主成分であるプロピレンと、他のα−オレフィンを共重合して得られた共重合体である。ウインテック(日本ポリケム(株)製)等の市販品を用いることもできる。
【0012】
コモノマーである他のα−オレフィンとしては、エチレン又は炭素数4以上のオレフィンからなる群から少なくとも1種を選択することができる。炭素数4以上のオレフィンとしては、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等が挙げられる。メタロセン触媒を用いることにより、チーグラー・ナッタ触媒よりも、共重合しうるコモノマーの範囲を広げることができる。
【0013】
本発明で用いるメタロセン触媒とは、公知のものが使用できる。具体的には、以下に述べる成分(A)及び(B)、さらに必要に応じて(C)を組み合わせて得られる触媒が望ましい。
成分(A);共役五員環配位子を少なくとも一個を有する周期律表4〜6族の遷移金属化合物であるメタロセン錯体。
成分(B);化合物(B)とメタロセン錯体(A)を反応させることにより、該メタロセン錯体(A)を活性化することの出来る助触媒(イオン交換性層状ケイ酸塩)。
成分(C);有機アルミニウム化合物。
【0014】
本発明のプロピレン系ランダム共重合体は、公知の方法(特開2001-206914など)で製造することができる。例えば、反応釜にプロピレン、エチレン、水素を供給しながら連続的にアルキルアルミニウムとメタロセン触媒を添加しながら製造を行う。
【0015】
本発明のプロピレン系ランダム共重合体は、示差走査型熱量計(以下、DSC)による融点(以下、Tm)が、115〜165℃のものが好ましい。165℃より高いと溶剤溶解性が低下する。115℃より低いと素材への付着性が低下する。より好ましくは115〜135℃の低融点プロピレン系ランダム共重合体である。尚、本発明におけるDSCによるTmの測定方法は、セイコー社製DSC測定装置を用い、試料(約5mg)を採り200℃で5分間融解後、40℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化した後に、更に10℃/minで200℃まで昇温して融解したときの融解ピーク温度及び融解終了温度で評価した。
【0016】
本発明のプロピレン系ランダム共重合体は、バンバリーミキサー、ニーダー、押し出し機等を使用し、融点以上350℃以下の温度でラジカル発生剤の存在下で熱減成したもの、あるいは熱減成しないものを、単独あるいは混合して使用しても構わない。反応に用いるラジカル発生剤は公知のものの中より適宜選択することが出来るが、特に有機過酸化物系化合物が望ましい。
【0017】
上記有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート等があげられる。
【0018】
本発明の塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体は、上記プロピレン系ランダム重合体に塩素を導入することにより得られる。
【0019】
塩素化反応は、上記プロピレン系ランダム共重合体をクロロホルム等の塩素系溶剤に溶解した後、紫外線を照射しながら、あるいは、上記有機過酸化物の存在下ガス状の塩素を吹き込むことにより行われる。
【0020】
塩素含有率は、10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%が最適である。この範囲より低いと、各種素材への付着性は良くなるが、有機溶剤への溶解性が低下する。また、この範囲より高いと、各種素材との付着性が低下する。尚、塩素含有率は、JIS−K7229に準じて測定した値である。
【0021】
本発明で用いる塩素化プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量(以下、Mw)は、3000〜250000である。3000未満では樹脂の凝集力が不足し、250000を超えるとインキ及び接着剤のハンドリングが低下するため好ましくない。尚、本発明におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂)によって測定された値である。
【0022】
また、本発明のカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体は、上記プロピレン系ランダム共重合体にα,β-不飽和カルボン酸及び塩素を導入することにより得られるが、その製造は次に挙げる2つの方法により製造可能である。すなわち、熱減成したプロピレン系ランダム共重合体あるいは熱減成しないプロピレン系ランダム共重合体に直接α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させた後、塩素化反応を行う方法(第一の方法)と、塩素化反応を行った後にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させる方法(第二の方法)である。
【0023】
以下にその具体的な製造方法を例示する。第一の方法において、まず熱減成したプロピレン系ランダム共重合体あるいは熱減成しないプロピレン系ランダム共重合体に直接α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合する方法は、ラジカル発生剤の存在下で上記樹脂を融点以上に加熱溶融して反応させる方法(溶融法)、上記樹脂を有機溶剤に溶解させた後、ラジカル発生剤の存在下で加熱撹拌して反応させる方法(溶液法)等、公知の方法によって行うことが出来る。
【0024】
溶融法の場合には、バンバリーミキサー、ニーダー、押し出し機等を使用し融点以上350℃以下の温度で短時間に反応させるので、操作が簡単であるという利点がある。
【0025】
一方、溶液法に於いては、有機溶剤としてトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤を使うことが望ましいが、他にエステル系溶剤、ケトン系溶剤等を一部混合して使用しても差し支えない。反応に用いるラジカル発生剤は公知のものの中より適宜選択することが出来るが、特に有機過酸化物系化合物が望ましく、上記で記載した化合物が使用可能である。
【0026】
しかしながら、溶液法の場合はα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合した後、塩素化反応をする場合には上記溶媒からクロロホルム等の塩素化溶媒に置き換える必要があるため、第一の方法では溶融法の方が好ましい。
【0027】
上記カルボキシル基変性後に行われる塩素化反応は、プロピレン系ランダム共重合体またはα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合したプロピレン系ランダム共重合体を、クロロホルム等の塩素系溶剤に溶解した後、紫外線を照射しながら、あるいは、上記有機過酸化物の存在下ガス状の塩素を吹き込む事により行われる。
【0028】
第二の方法である塩素化反応を行った後α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト重合させる方法では、まず、プロピレン系ランダム共重合体をクロロホルム等の塩素系溶剤に溶解し、第一の方法と同様に塩素化反応を行い塩素化プロピレン系ランダム共重合体を製造した後、溶媒をトルエン、キシレン等の溶媒に変更し、次いでα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物を上記有機過酸化物の存在下でグラフト共重合を行う。反応温度は50℃以上、溶媒の沸点以下の温度で実施できる。しかしながら、第二の方法は反応温度が50℃以上100℃以下では、α,β-不飽和カルボン酸あるいはその無水物のグラフト重合性が低く、また、100℃以上溶剤の沸点以下では塩素化プロピレン系ランダム共重合体が脱塩酸を起こす可能性があり、第二の方法より第一の方法が好ましい。
【0029】
第一の方法において、プロピレン系ランダム共重合体にα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合する目的は、本発明のバインダー樹脂組成物をプライマーとして使用した場合に、上塗り塗料との付着性を付与するためである。塩素化ポリオレフィンは元来極性は低く、そのままではプライマー(下塗り剤)として使用した場合、PP素材との付着性は良好であるが、極性の高い上塗り塗料(例えばポリウレタン塗料、メラミン塗料)との付着性はほとんどない。従って、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合することによって塩素化ポリオレフィンの極性を高めることが重要になる。使用できるα,β-不飽和カルボン酸またはその無水物としては、例えば、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、アコニット酸及びこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、メサコン酸などが例示できるが、ポリオレフィン樹脂へのグラフト性を考慮すると無水マレイン酸が最も適している。
【0030】
本発明において、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合によって導入する量は、0〜20重量%が最適で、好ましくは0〜10重量%である。10重量%を超えるとプライマーとして使用した場合、耐湿性が低下する傾向にある。
【0031】
塩素含有率は、10〜40重量%、好ましくは15〜30重量%が最適である。この範囲より低いと、各種素材への付着性は良くなるが、有機溶剤への溶解性が低下する。また、この範囲より高いと、各種素材との付着性が低下する。尚、塩素含有率は、JIS−K7229に準じて測定した値である。
【0032】
本発明で用いる塩素化プロピレン系ランダム共重合体及びカルボキシル基含有塩素化プロピレン系ランダム共重合体の重量平均分子量(以下、Mw)は、前者の場合には30000〜250000である。3000未満では樹脂の凝集力が不足し、250000を超えるとスプレー性が低下するため好ましくない。また後者の場合には30000〜220000である。30000未満では樹脂の凝集力が不足し220000を越えるとスプレー性が低下するため好ましくない。尚、本発明におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂)によって測定された値である。
【0033】
塩素化ポリオレフィンは紫外線や、高熱にさらされると脱塩酸を伴い劣化する。塩素化ポリオレフィンが脱塩酸により劣化を起こすと、樹脂の着色とともにポリプロピレン素材への付着性低下等の物性低下をはじめ、遊離する塩酸により作業環境の悪化を引き起こすことから、安定剤を添加する必要がある。この効果を得るために、樹脂成分(固形分)に対して、安定剤を0.1〜5重量%添加するのが好ましい。安定剤として、エポキシ化合物が例示できる。エポキシ化合物は特に限定されないが、塩素化樹脂と相溶するものが好ましく、エポキシ当量が100から500程度のもので、一分子中のエポキシ基が1個以上有するエポキシ化合物が例示できる。たとえば、天然の不飽和基を有する植物油を過酢酸などの過酸でエポキシ化したエポキシ化大豆油やエポキシ化アマニ油、また、オレイン酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の不飽和脂肪酸をエポキシ化したエポキシ化脂肪酸エステル類。エポキシ化テトラヒドロフタレートに代表されるエポキシ化脂環化合物。ビスフェノールAや多価アルコールとエピクロルヒドリンを縮合した、例えば、ビスフェノールAグリシジルエーテル、エチレングリコールグリシジルエーテル、プロピレングリコールグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等が例示される。また、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、sec-ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、フェノールポリエチレンオキサイドグリシジルエーテル等に代表されるモノエポキシ化合物類が例示される。また、ポリ塩化ビニル樹脂の安定剤として使用されている、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の金属石鹸類、ジブチル錫ジラウレート、ジブチルマレート等の有機金属化合物類、ハイドロタルサイト類化合物も使用でき、これらを併用して使用してかまわない。
【0034】
本発明の組成物は、有機溶剤に溶解して用いることもできる。溶液濃度は用途により適宜選択すればよいが、溶液濃度は高すぎても低すぎても塗工作業性が損なわれるため、樹脂濃度は5〜60重量%が好ましい。使用する溶剤はトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤が好ましく、他に酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、n-ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系溶剤、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式系溶剤が使用することができる。さらには、樹脂溶液の保存安定性を高めるために、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールターシャリーブチルエーテル等のプロピレン系グリコールエーテルを、単独または2種以上混合して上記溶剤に対し1〜20重量%添加する事が好ましい。
【0035】
本発明のバインダー樹脂組成物を、有機溶剤に溶解させる場合の処方としては、反応溶媒であるクロロホルム等の塩素化溶媒を沸点の差を利用して上記溶媒に変換することによって可能である。また、反応の終了した反応液に、安定剤としてのエポキシ化合物等を添加した後、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給して固形化し、上記溶剤に溶解しても良い。固形化の方法はすでに知られている公知の方法、例えば押出機の吹出口部分に水中カットペレタイザーを備えたベント付押出機、ベント付き押出機及びストランド状の樹脂をカットするペレタイザー等を使用して実施できる。
【0036】
本発明にかかるバインダー樹脂組成物は、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できる塗料、印刷インキ、接着剤及びプライマーとして用いることができる。そのままコーティングして用いてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、溶剤、顔料、その他の添加剤を加えて用いてもよい。また、該組成物はそれだけでバランスのとれた塗膜物性を示すが、必要であれば環化ゴム、石油樹脂、クマロンインデン樹脂、塩素化ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、アルキッド樹脂などをさらに添加して用いても差し支えない。特に、本発明のバインダー樹脂組成物が30wt%以上含有することが好ましい。
【0037】
【作用】
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の特徴の一つは、従来のチーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体よりも融点・ガラス転移点が低いといった特徴がある。したがって、塩素含有率を低くしても溶剤溶解性が良く、さらに、融点が低いことで低温焼き付け時の付着性が良くなったものと考えられる。
【0038】
また、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の特徴として分子量分布が非常に狭い(Mw / Mn =約2以下)ことが上げられる。さらには、α,β-不飽和カルボン酸またはその無水物をグラフト共重合する場合は、有機過酸化物等を使用するため、従来のチーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体では必ず分子量の低下、即ち低分子量成分が生成するが、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体では、その生成がほとんどないこともあらたに判明したものである。
【0039】
本発明においては明確な理由は分からないが、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体は、従来のチーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体とは異なり、ポリオレフィン系素材以外に塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系等幅広い素材に対し、優れた付着性を示すことを見いだした。また、低分子量成分の少ないメタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体を用いることによって、耐ガソホール性が良好になったものと考えられる。
【0040】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが本発明はこれによって限定されるものではない。
【0041】
[実施例−1]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%−エチレン約3%)(日本ポリケム株式会社製 MFR=2.0g/10min Tm=125℃)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約1500mPa・sのプロピレン系ランダム共重合体を得た。この樹脂500gをグラスライニングされた反応釜に投入した。5Lのクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながらガス状の塩素を反応釜底部より吹き込み塩素化した。途中3点抜き取りを行い、溶媒であるクロロホルムをエバポレーターで留去した。その後、トルエン/シクロヘキサン=70/30(重量比)で置換し、安定剤としてエピコート828(油化シェルエポキシ(株)製)を対樹脂2重量%添加して、樹脂濃度20重量%の塩素化プロピレン系ランダム共重合体樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0042】
[実施例−2]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%−エチレン約3%)(ウインテック、日本ポリケム(株)製 MFR=2.0g/10min Tm=125℃)500gをグラスライニングされた反応釜に投入した。5Lのクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながらガス状の塩素を反応釜底部より吹き込み塩素化した。途中3点抜き取りを行い、溶媒であるクロロホルムをエバポレーターで留去した。その後、トルエン/シクロヘキサン=70/30(重量比)で置換し、安定剤としてエピオールTB(日本油脂(株)製)を対樹脂2重量%添加して、樹脂濃度20重量%の塩素化プロピレン系ランダム共重合体樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0043】
[実施例−3]
メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%−エチレン約3%)(日本ポリケム株式会社製 MFR=2.0g/10min Tm=125℃)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約2000mPa・sのプロピレン系ランダム共重合体を得た。この樹脂500gを撹拌器、冷却管、温度計および滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコ中で190℃に加熱溶解させた。フラスコ内の窒素置換を10分間行った後、撹拌しながら無水マレイン酸25gを約5分かけて投入し、ラジカル発生剤としてジ-t-ブチルパーオキシド2gを約30分間かけて滴下した。さらに30分間反応を継続した後、アスピレーターでフラスコ内を減圧しながら未反応の無水マレイン酸を取り除いた。次にこの生成物をグラスライニングされた反応釜に投入し、5Lのクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながらガス状の塩素を反応釜底部より吹き込み塩素化した。途中抜き取りを行い、それぞれ溶媒であるクロロホルムをエバポレーターで留去した後、トルエン/シクロヘキサン=70/30(重量比)で置換し無水マレイン酸で変性された塩素化プロピレン系ランダム共重合体の20重量%溶液を得た。安定剤としてエピコート828(油化シェルエポキシ(株)製)を対樹脂4%添加した。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0044】
[実施例−4]
L/D=34、φ=40mmの二軸押出機に、メタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体(プロピレン約97%−エチレン約3%)(日本ポリケム株式会社製 MFR=7.0g/10min Tm=125℃)500g、無水マレイン酸30g、ジクミルパーオキサイド15gを投入した。滞留時間は10分、バレル温度は180℃(第1バレル〜第7バレル)として反応し、第7バレルにて脱気を行い、未反応の無水マレイン酸を除去し無水マレイン酸変性プロピレン系ランダム共重合体を得た。この樹脂500gをグラスライニングされた反応釜に投入し、5Lのクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながらガス状の塩素を反応釜底部より吹き込み塩素化した。途中抜き取りを行い、それぞれ溶媒であるクロロホルムをエバポレーターで留去し、トルエン/シクロヘキサン=70/30(重量比)で置換し無水マレイン酸で変性された塩素化プロピレン系ランダム共重合体の20重量%溶液を得た。安定剤としてそれぞれエピオールSB(日本油脂(株)製)を対樹脂4%添加した。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0045】
[比較例−1]
チーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したアイソタクチックポリプロピレン(IPP)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約2000mPa・sのIPPを得た。この樹脂500gを用い、実施例1と同様にして、樹脂濃度20重量%の塩素化IPP樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0046】
[比較例−2]
シンジオタクチックポリプロピレン(SPP MFR=3.7g/10min)500gを用い、実施例1と同様にして、樹脂濃度20重量%の塩素化SPP樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0047】
[比較例−3]
チーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したアイソタクチックポリプロピレン(IPP)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約2000mPa・sのIPPを得た。この樹脂500gを用い、実施例2と同様にして、樹脂濃度20重量%の無水マレイン酸で変性された塩素化IPP樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0048】
[比較例−4]
シンジオタクチックポリプロピレン(SPP MFR=3.7g/10min)をバレル温度350℃に設定した二軸押出機に供給して熱減成を行い、190℃における溶融粘度が約2000mPa・sのSPPを得た。この樹脂500gを実施例2と同様にして、樹脂濃度20重量%の無水マレイン酸で変性された塩素化SPP樹脂溶液を得た。樹脂の物性を表1に示す。得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置したが、液状、外観に変化は見られなかった。
【0049】
[比較例―5]
実施例1において、安定剤を添加せずに、樹脂濃度20重量%の塩素化プロピレン系ランダム共重合体樹脂溶液を得た。この樹脂溶液を1ヶ月室温で放置しておいたところ、いずれの樹脂溶液も赤褐色に変色した。
【0050】
[樹脂物性の測定方法]
・MFR(Melt Flow Rate)
JIS−K−6758ポリプロピレン試験方法のメルトフローレート(条件:230℃、加重2.16kgf)により測定した。
・Tm
セイコー社製DSC測定装置を用い、試料(約5mg)を採り、200℃で5分間融解した。その後、40℃まで10℃/minの速度で降温して結晶化した後に、更に10℃/minで200℃まで昇温して、融解したときの融解ピーク温度及び融解終了温度で評価した。
・塩素含有率
JIS−K7229に準じて測定。
・重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)
GPC(標準物質:ポリスチレン樹脂)によって測定。また、表中Mw/Mnは、分子量分布を示す。
【0051】
[液状試験]
得られた樹脂溶液を室温にて1ヶ月放置し、液状、外観を目視により評価した。
評価基準
○:1ヶ月後も、液状、外観に変化がない。
△:1ヶ月後、赤褐色に変色。
×:1ヶ月後、ゲル化。
【0052】
[プライマー試験]
実施例−3,4及び比較例−3,4より得られた樹脂溶液(固形分20%)100gと二酸化チタン20gをサンドミルで3時間混練した後、NO.4フォードカップで13〜15秒/20℃になるようにキシレンで粘度調整を行い、超高剛性PP板(TX-933A,三菱化学(株)製)、塩ビ、ポリカーボネート(PC)、PET、ABS、ナイロン-6にエアー式スプレーガンによって膜厚が約10μmになるように塗装した。次に、2液硬化型ウレタン塗料を塗装した(膜厚約30μm)。80℃で30分乾燥し、室温にて24時間放置し物性評価を行った。プライマー試験結果を表2に示す。
・付着性
塗面上に1mm間隔で素地に達する100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180゜方向に引き剥し、塗膜の残存する程度で判定した。
・耐ガソホール性
塗装板をレギュラーガソリン/エタノール=9/1(v/v)に120分浸漬し塗膜の状態を観察した。
良好;塗膜に異常のない状態
不良;塗膜に異常のある状態
・耐水性
40℃の温水に塗装板を240時間浸漬し、塗膜の状態と付着性を調べた。
良好;全く剥離がない場合
不良;剥離が生じた場合
【0053】
[接着性試験]
・ヒートシール試験
得られた樹脂溶液(固形分20wt%)をコーティングロッド#14で未処理PP、塩ビ、PETに塗工した。24時間室温で乾燥した後、塗工面を重ね合わせ、80℃の1kg/cm2で2秒間の圧着条件でヒートシールを行った。24時間後、テンシロンにて180°剥離強度(g/cm)を測定した(引っ張り速度:50mm/min)。接着性試験結果を表3に示す。
【0054】
[インキ試験]
得られた樹脂溶液(固形分20wt%)100gと二酸化チタン20gをサンドミルで3時間練肉した後、#3ザーンカップで25〜30秒/20℃の粘度になるようにトルエンで希釈しインキを調整した。得られたインキについて、粘着テープ剥離試験とヒートシール試験を行った。インキ試験結果を表4に示す。
・粘着テープ剥離試験
ヒートシール試験と同様な方法で、未処理PP、塩ビ、PETにインキを塗工した。24時間室温で乾燥した後、セロファン粘着テープをインキ塗工面に貼り付け、一気に剥がした時の塗工面の状態を調べた。
評価基準
良好:剥がれが全くない状態
不良:剥がれがある状態
・ヒートシール試験
接着性試験と同じ。
【0055】
【表1】
Figure 0003898636
【0056】
【表2】
Figure 0003898636
【0057】
【表3】
Figure 0003898636
【0058】
【表4】
Figure 0003898636
【0059】
【発明の効果】
表1よりメタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の塩素化物は、塩素含有率が低くても液状が良好である。また、表2よりメタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の塩素化物は、従来のチーグラー・ナッタ触媒を重合触媒として製造したIPPの塩素化物より耐ガソホール性が良好である。さらに、表2〜4よりメタロセン触媒を重合触媒として製造したプロピレン系ランダム共重合体の塩素化物は、ポリプロピレン素材のみならず、塩ビ、ポリカーボネート、PET、ABS、ナイロン等の素材に対しても良好な付着性を示している。従って、この塩素化プロピレン系ランダム共重合体及び/またはカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体を含むバインダー樹脂組成物が、産業上有用であり、特に、塗料、接着剤、ヒートシール剤、印刷インキ、プライマー用に有効であることが分かる。

Claims (10)

  1. メタロセン系触媒の共存下にプロピレンと他のα−オレフィンを共重合して得られたMw/Mnが2以下であるイソタクチックなプロピレン系ランダム共重合体を、塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した、重量平均分子量が3000〜250000である塩素化プロピレン系ランダム共重合体と安定剤及び有機溶剤を含むことを特徴とするバインダー樹脂組成物。
  2. 請求項1記載の塩素化プロピレン系ランダム共重合体が、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物を0〜20重量%グラフト重合した後、塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した、あるいは塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した後、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水酸を0〜20重量%グラフト重合した、重量平均分子量が30000〜220000であるカルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体であるバインダー樹脂組成物。
  3. プロピレン系ランダム共重合体が、示差走査型熱量計(DSC)により測定した融点(Tm)が115〜165℃である請求項1又は2記載のバインダー樹脂組成物。
  4. メタロセン系触媒の共存下にプロピレンと他のα−オレフィンを共重合して得られた、示差走査型熱量計(DSC)による融点(Tm)が115〜165℃のプロピレン系ランダム共重合体を熱減成後、あるいは熱減成せずに、塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した塩素化プロピレン系ランダム共重合体とする請求項1または2記載のバインダー樹脂組成物の製造方法。
  5. 塩素化プロピレン系ランダム共重合体が、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物を0〜20重量%グラフト重合した後、塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した、あるいは塩素含有率が10〜40重量%まで塩素化した後、α、β−不飽和カルボン酸又はその無水物を0〜20重量%グラフト重合した、カルボキシル基含有塩素化ポリプロピレン系ランダム共重合体である請求項4記載のバインダー樹脂組成物の製造方法。
  6. 請求項1〜3いずれか1項記載のバインダー樹脂組成物を有効成分とする、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できる塗料。
  7. 請求項1〜3いずれか1項記載のバインダー樹脂組成物を有効成分とする、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できる印刷インキ。
  8. 請求項1〜3いずれか1項記載のバインダー樹脂組成物を有効成分とする、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できる接着剤。
  9. 請求項1〜3いずれか1項記載のバインダー樹脂組成物を有効成分とする、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できるヒートシール剤。
  10. 請求項1〜3いずれか1項記載のバインダー樹脂組成物を有効成分とする、ポリオレフィン系、塩ビ系、ポリカーボネート系、PET系、ABS系、ナイロン系のフィルム、シート、成型物に適用できるプライマー。
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