JP3671011B2 - 半導体膜のレーザーアニール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体装置、特に、液晶表示装置(LCD:liquid crystal display)であって、多結晶半導体層を用いた薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)を表示部及び周辺部に形成した周辺駆動回路一体型LCDの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、LCDは、小型、薄型、低消費電力などの利点から、OA機器、AV機器等の分野で実用化が進められており、特に、各画素に画像情報の書き換えタイミングを制御するスイッチング素子としてTFTを配置したアクティブマトリクス型は、大画面、高精細の動画表示が可能となるため、各種テレビジョン、パーソナルコンピュータなどのディスプレイに用いられている。
【0003】
TFTは、絶縁性の基板上に金属層とともに半導体層を所定形状に形成することにより得られる電界効果型トランジスタ(FET:field effect transistor)である。アクティブマトリクス型LCDにおいては、TFTは、液晶を挟んだ一対の基板間に形成された、液晶を駆動する画素である各キャパシタの一方の電極に接続されている。
【0004】
特に、半導体層として、それまで多用されてきた非晶質シリコン(a−Si)に代わって、多結晶シリコン(p−Si)を用いたLCDが開発され、p−Siの結晶粒(グレイン)の形成あるいは成長のためにレーザービーム照射を用いたアニールが行われている。一般に、p−Siはa−Siに比べて移動度が高く、TFTが小型化され、高開口率及び高精細化が実現される。また、ゲートセルフアライン構造による微細化、寄生容量の縮小による高速化が達成されるため、n−chTFTとp−chTFTの電気的相補結線構造即ちCMOSを形成することにより、高速駆動回路を構成することができる。このため、駆動回路部を同一基板上に表示画素部と一体形成することにより、製造コストの削減、LCDモジュールの小型化が実現される。
【0005】
絶縁性基板上へのp−Siの成膜方法としては、低温で生成したa−Siを高温でアニールすることによる再結晶化、あるいは、高温での固相成長法等があるが、いずれの場合も、900℃以上の処理となるため、耐熱性の点で、絶縁性基板として安価な無アルカリガラス基板を使うことができなかった。このため、基板として高価な石英ガラス基板が必要となり、コストがかかっていた。これに対し、レーザーアニールを用いて、基板温度600℃以下の比較的低温でのシリコン結晶化処理を行うことで、絶縁性基板として、無アルカリガラス基板を用いる方法が開発されている。TFT基板製造の全工程において処理温度を600℃以下にしたプロセスは、低温プロセスと呼ばれ、低コストのLCDの量産には必須のプロセスである。
【0006】
図22は、このようなレーザーアニールを行うためのレーザー光照射装置の構成図である。図中、(51)はレーザー光発振源、(52,61)はミラー、(53,54,55,56)はシリンドリカルレンズ、(57,58,59,62,63)は集光レンズ、(60)はライン幅方向のスリット、(65)はライン長方向のスリットである。(64)は表面にa−Siが形成された被処理基板(70)を支持するステージである。
【0007】
レーザー光は、例えば、エキシマレーザーであり、レーザー光発振源(51)から射出されたレーザー光は、シリンドリカルレンズ(53,55)及び(54,56)からなる2組のコンデンサーレンズにより、各々上下左右方向に対して照射エネルギーの出力分布がフラットな平行光に変形される。この平行光は、図23に示すように、レンズ(58,59,62,63)により一方向に収束されるとともに、図24に示すように、レンズ(57)により他の一方向に引き延ばされ、被照射領域が帯形のライン状に整形されて被処理基板(70)に照射される。また、スリット(60,65)は、各々ライン幅及びライン長方向の両端部分を遮断して被照射領域形状を明瞭に規定し、有効照射領域の強度を一定にするものである。被処理基板(70)を載置したステージ(64)は、(X,Y)方向に可動で、照射ラインビームが走査され、大面積処理が行われ、高スループットでのレーザーアニールが実現される。なお、本装置においては、レンズ等の光学系の設計により被照射領域を長方形、更には正方形等に整形したシートビーム照射も可能となる。
【0008】
図25に、図22に示される装置を用いたエキシマレーザーアニール(以下、ELAと称する)における、被処理基板の状態を示している。被処理基板(1)は、普通の無アルカリガラス基板であり、その表面には、a−Siが形成されている。基板(1)は、表示画素がマトリクス状に配置されることになる画素部(2)と、画素部(2)周辺に配置されることになるゲートドライバー(3)及びドレインドライバー(4)とからなるLCDを構成するアクティブマトリクス基板(5)を複数枚含んだマザーガラス基板である。画素部(2)では、液晶を駆動する画素キャパシタの一方の電極である表示電極がマトリクス状に配置形成され、これらに各々TFTが接続形成されることになる。ゲートドライバー(3)は主にシフトレジスタからなり、ドレインドライバー(4)は、主に、シフトレジスタ及びサンプル・ホールド回路からなっている。これらドライバーは、CMOS等のTFTのアレイにより形成される。
【0009】
各TFTは、図26に示すように、ELAによりa−Siから結晶化されて得られたp−Siを動作層に用いて形成される。即ち、島状にエッチングされたp−Si(11)中に、ノンドープのチャンネル領域(CH)、ライトドープのLD領域(LD)及びヘビードープのソース・ドレイン領域(S,D)が形成され、チャンネル領域(CH)上には、ゲート絶縁膜を挟んで、ゲート電極(13)が配されている。そして、ソース及びドレイン領域(S,D)には、各々ソース電極及びドレイン電極が接続形成され、周辺駆動回路部においてCMOS等の配線、画素部において、信号線、画素電極への接続構造が形成される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
図22の装置により生成されたラインビームは、図25において、その基板(1)上への帯形の被照射領域のエッジラインをCで示すように、各照射レーザーパルスを所定のオーバーラップ量をもってずらしていくことにより、矢印で示す如く、走査が行われ、全体がアニールされる。ところが、このようなラインビームが走査された後、形成されたp−Si中に図のRに示すような、結晶化が十分に行われずに、グレインが小さいままに残った結晶化不良領域が、被照射領域のラインの長方向に沿ったライン状に生じ、縞模様を呈して存在していた。この結晶化不良領域(R)は、移動度が低く、高抵抗であるため、この領域で形成されたTFTは、特性の悪いものなる。TFTの特性が悪化すると、画素部にあっては、画素キャパシタへの充電が十分に行われずコントラスト比が低下したり、周辺駆動回路部においては、誤動作を招くなど、表示へ悪影響を及ぼす。
【0011】
このような、結晶化不良領域(R)が生じるのは、図27に示すような照射レーザービームのエネルギーのばらつきに起因していると推測される。図は、レーザービームの走査進行方向における照射位置に関するエネルギープロファイルを示している。ライン幅Aのうち、その両端部は、光の回折等により、エネルギーが下がって幅Bにわたってエッジがぼやけている。レーザーアニールにおいては、グレインサイズは照射エネルギーが高いほど大きくなるが、ある値を越えると急激に小さくなる。このため、照射レーザーエネルギーのばらつきのために、図のXで示すような、グレインサイズが急激に小さくなるエネルギーEuを越えると、これに対応する領域は結晶化不良領域(R)となる。
図22に示すような、複数のレンズからなる光学系においては、レンズ表面に存在する微小な凹凸や、異物等により、光の回折、散乱、干渉等が起こり、更にこれがライン幅方向に集光されるとともに、ライン長方向に引き延ばされることにより、ライン状の被照射領域の中に、更に細いライン状の結晶化不良領域が生じるものと考えられる。例えば、レンズ表面に付着するような異物は、クリーンルーム内に僅かに存在していても、レーザーアニール時には、大きな影響を及ぼすことになる。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明はこの課題を解決するために成され、本発明の半導体膜のレーザーアニール方法は、基板上の半導体膜にレーザービームを照射して膜質を改良する半導体膜のレーザーアニール方法において、レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーの変化は、レーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置よりも比較的後方位置でより小さくされ、前記レーザービームの前記前方位置で大きな粒径を有するグレインを形成し、前記前方位置におけるレーザーエネルギーのばらつきによって生じる微結晶領域を、前記レーザービームの前記後方位置で結晶化するものである。
【0014】
また、基板上の非晶質半導体膜にレーザービームを照射して多結晶半導体膜を得る半導体膜のレーザーアニール方法において、レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーの変化は、レーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置よりも比較的後方位置でより小さくされ、前記レーザービームの前記前方位置で大きな粒径を有するグレインを形成し、前記前方位置におけるレーザーエネルギーのばらつきによって生じる微結晶領域を、前記レーザービームの前記後方位置で結晶化するものである。
更に、本発明の半導体膜のレーザーアニール方法は、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記レーザービームが走査される進行方向における十分後方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギー値よりも十分に小さい半導体膜のレーザーアニール方法である。
【0015】
更にまた、本発明の半導体膜のレーザーアニール方法は、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記レーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギーと同程度か、または、これを越える半導体膜のレーザーアニール方法である。
【0016】
以上により、半導体層には、レーザービームの進行方向の比較的前方に位置する高エネルギー部が通過した後に、逐次的に、それよりも小さなエネルギー部が通過することになる。このため、初めに大きなエネルギーで大きな結晶粒が形成された後、比較的小さなエネルギーにより、先に形成された大きな結晶粒を保ちながら、残存結晶化不良領域の結晶化が成され、結晶性の向上が図られる。
【0017】
また、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記レーザービームが走査される進行方向における十分後方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギー値よりも十分に小さい構成であるので、半導体層上を通過する照射レーザービームの、進行方向の十分な後方において、エネルギーが結晶粒径を最大にする値を越えて半導体結晶を再非晶質化させることを防ぐとともに、結晶性の悪い領域の結晶化がある程度成されるので、全域にわたってほぼ結晶粒径の均一な多結晶半導体層が得られる。
【0018】
また、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記レーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギーと同程度か、または、これを越える構成であるので、半導体層上を通過する照射レーザービームは、先に結晶粒径を最大にする閾値付近以上のエネルギーを越えてアニールされるが、その後、逐次エネルギーが低下していき、閾値エネルギーを越えない十分に高い最適エネルギーによるアニール、即ち、結晶粒径を十分に大きくするエネルギー範囲での最良のアニールが行われる。従って、結晶粒径が大きく、かつ、均一性の優れた多結晶半導体層が形成される。
【0019】
また、前記レーザービームは、発振源から射出されたレーザーを複数のレンズからなる光学系によりその被照射領域を所定の形状に整形して得られ、前記基板上の非晶質半導体膜と前記光学系の焦点位置との距離を調節することで、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーが制御されている構成である。
【0020】
即ち、本発明の半導体膜のレーザーアニール方法は、前記レーザービームは、発振源から射出されたレーザーを複数のレンズからなる光学系によりその被照射領域を所定の形状に整形して得られ、前記基板上の非晶質半導体膜と前記光学系の焦点位置との距離を調節することで、前記レーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーが制御されている半導体膜のレーザーアニール方法であるので、レーザーアニールすべき非晶質半導体膜が形成された基板と、光学系の焦点位置との距離を変えることで、好適な被照射位置−エネルギー分布を有したレーザービームが得られ、良好なレーザーアニールが行われる。
【0021】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施の形態である、ELAにおける被処理基板の状態を示す平面図である。被処理基板(1)は、普通の無アルカリガラス基板であり、その表面には、a−Siが形成されている。基板(1)は、表示画素がマトリクス状に配置形成される画素部(2)と、画素部(2)周辺に配置形成されるゲートドライバー(3)及びドレインドライバー(4)からなるLCDを構成するアクティブマトリクス基板(5)を6枚含んだマザーガラス基板である。画素部(2)では、液晶を駆動する画素キャパシタの一方の電極である表示電極がマトリクス状に配置され、これらに各々TFTが接続形成された構造とされる。ゲートドライバー(3)は主にシフトレジスタからなり、ドレインドライバー(4)は、主に、シフトレジスタ及びサンプル・ホールド回路からなっている。これらドライバーは、CMOS等のTFTのアレイにより形成され、各TFTは、本発明のELA法により形成されたp−Siをチャンネル及びソース・ドレイン層に用いて形成される。
【0022】
ELAは図22に示されるレーザー光照射装置により実現されるライン(シート)ビームの照射及びその走査である。ラインビームは、図1において、その基板(1)上への帯形の被照射領域のエッジラインをCで示すように、ライン状の各照射レーザーパルスを所定のオーバーラップをもって基板(1)上で順次ずらしていくことで、図の矢印で示す如くに走査が行われ、全面がアニールされる。図22に示すELA装置において、例えば、ラインビームは、ライン長が80〜300mm、ライン幅が0.1〜1mm程度であり、このラインを、被処理基板(1)上で移動し、ライン幅方向に複数回(ここでは2回)走査することにより、被処理基板(1)の全域がアニールされ、大面積処理を可能としている。
【0023】
本発明の実施の形態にかかる照射ライン(シート)ビームの、ライン(シート)幅方向における位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルを図2から図4に示す。なお、図5は照射ライン(シート)ビームの、ライン(シート)幅方向における位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルの参考例を示したものである。図2は、基本的なビームプロファイルを台形に整形した場合、図3は同じく台形のビームプロファイルにおいて、一方のエッジをぼかした場合、図4及び図5はビームプロファイルを明瞭に規定しない場合を示している。いずれの場合も、ビームが走査される進行方向の比較的前方において、シリコン粒を微結晶化させる閾値エネルギーEthを越えているとともに、それよりも後方では閾値エネルギーEthを越えることのない形状となっている。このため、閾値エネルギー直下の、十分大きなグレインサイズを得るエネルギー範囲内にあるビームの最適領域(GR)により、最も良好なレーザーアニールが行われる。
【0024】
図6は、ELAにおいて、結晶性がレーザー照射時の膜温度に依存する関係を表している。温度は、パイロメーター等、周知である格子状態の光学的観察による測定値であり、ELAのエネルギーに関係している。図では、出発膜であるa−Siの結晶化態様を、各々照射開始後、時間が経過するに従って膜温度が上昇し、照射終了後、膜温度が下がっていく様子が示されている。図のaでは、膜温度の最高到達点が、グレインが形成され始める膜温度である多結晶化温度Tgを越えることが無く、膜温度が下がって不活性化後もa−Siのままとなっている。bでは、膜温度の最高到達点が多結晶化温度Tgを越え、膜温度が下がって不活性化後、グレインサイズの小さなp−Si(S)が形成される。cでは、膜温度の最高到達点が更に高く、大きなグレインサイズのp−Si(L)が形成される。そしてdでは、照射開始後、多結晶化温度Tgを越えた後、更に、グレインが小さくなる微結晶化温度TMを越えており、温度が下がって不活性化後、微結晶シリコン即ちマイクロクリスタル(M−cry)が形成される。これら、a,b,c,dの差異はELAエネルギーにより現れる。良好なアニールを行ってグレインサイズの大きなp−Si(L)を得るには、膜温度TMを越えない範囲で、できるだけ高い温度まで上昇させる必要があることが分かる。
【0025】
図7に、照射時間、即ち、照射レーザーパルスのショット数とグレインサイズの関係を示す。図6における微結晶化温度TM以下であれば、ショット数及びELAエネルギーが上昇するに従ってグレインサイズが大きくなる。但し、グレインサイズの増大は、初めの数ショットまでが大きく、その後は、緩やかにグレインサイズが大きくなっていく。
【0026】
このようなELAの性質は、以下の実験及びその考察により導かれた。
【0027】
まず、後で詳述するような、比較的高エネルギーのELAで形成したp−Si膜にセコエッチを行い、SEM、光学顕微鏡等により、膜状態を調べた結果、図8に示すようなELAの性質が分かった。図の上段は、レーザービームの照射位置−エネルギーの関係を示すビームプロファイルであり、位置はラインビームの幅方向、即ち、進行方向に関する前後位置、温度は格子状態の光学的観察により測定される膜温度であり、ビームエネルギーに関係している。図の下段は、前記ビームプロファイルに対応したELA被処理膜の状態図である。ビームプロファイルは台形を呈しており、その頂上部が微結晶化温度TMを越えており、これに対応する膜状態はマイクロクリスタル(M−cry)となっている。また、台形のプロファイルの側面では、膜温度が直線あるいは緩やかな曲線状の急傾斜になっており、位置に関して、頂上部即ちマイクロクリスタル領域に近づく従って膜温度が上昇し、多結晶化温度Tg、次いで微結晶化温度TMを越えている。そして、ビームプロファイルの多結晶化温度Tg以下の温度領域に対応する、最も外側の被処理膜状態はa−Siとなっており、多結晶化温度Tgから微結晶化温度TMまでの温度領域に対応する被処理膜状態はp−Siとなっている。但し、p−Siのグレインサイズは、a−Si領域から連続的に、膜温度がTgを越えて上昇するに従って大きくなっている。最も特徴的な点は、膜温度TMまではグレインサイズは温度の上昇に従って大きくなるが、膜温度TMを越えると急激に小さくなってマイクロクリスタルとなるところである。そして、膜温度TMを越えない最も高い温度領域MXにおいて、最大のグレインサイズが得られることが分かる。
【0028】
図9は、図8に示すエネルギープロファイルを呈するラインビームを走査して被処理膜を光学顕微鏡で観察することにより判明した膜状態図(中段)と、これに対応するビーム走査進行方向位置とグレインサイズとの関係図(下段)である。エネルギープロファイルを上段に示すラインビームは、図の左側から各照射レーザーパルス位置が順次ずらされて進んできて、現時点で図示の位置にあることを示してる。本実験では、ラインビーム走査は、95%レーザーパルスオーバーラップによる20ショット重ね打ちで行われている。レーザーパルスの各ショットにおいて、ビームプロファイルエッジ部のMX領域に当たる膜は、順次、十分大きなグレインサイズGMのp−Siが形成されていくが、同時に、エネルギープロファイルのMX領域より進行方向前方にある膜温度TM以上の温度領域においてM−cryが形成されて、縞模様を呈している。即ち、より先のショットにおいて形成されたM−cryは、それに続くショットにより結晶化が図られるが、最大のグレインサイズGMを得るための温度領域MXは、膜領域においては細線状に形成されたp−Siとなるに過ぎず、それ以外の領域では、先に形成されたM−cryのグレインサイズを更に増大するほどのエネルギーは与えられないことがわかる。なお、ビームプロファイルの走査進行方向前方側エッジにも十分大きなグレインサイズGMを得るMX領域があるが、その後のビームプロファイルの頂上部が通過する間に、M−cryが形成される。
【0029】
また、比較的低エネルギーのELAで形成されたp−Si膜にセコエッチを施してSEM、光学顕微鏡等の光学的観察を行った結果、図10に示すELAの性質が分かった。図8と同様に、図の上段は、レーザービーム走査の進行方向における照射位置に関するエネルギープロファイルであり、下段は、このビームプロファイルに対応したELA被処理膜の状態図である。ビームプロファイルは台形を呈しているが、エネルギーは比較的低いので、その頂上部が微結晶化温度TMを越えることはなく、多結晶化温度Tgを越える温度領域に対応する膜領域でそれほど大きくはないグレインサイズのp−Siが形成されている。多結晶化温度Tg以下ではa−Siの領域となっている。
【0030】
図11は、図10に示すエネルギープロファイルを呈するラインビームを走査して被処理膜を光学顕微鏡で観察することにより判明した膜状態図(中段)と、これに対応するビーム走査進行方向位置とグレインサイズとの関係図(下段)である。図の上段にそのエネルギープロファイルを示すようなラインビームは、図9と同様、95%レーザーパルスオーバーラップの20ショット重ね打ち走査により、図の左側から進んできて図示の位置にある。この場合、レーザーエネルギーは、微結晶化温度TMを越えることはないので、再非晶質化によるマイクロクリスタルが形成されることはなく、ショット数が増えるにつれて結晶化され、グレインサイズが大きくなっていく。初めの4ショットで、グレインサイズGgを示すp−Siが形成された後、更に、ショットが重ねられるに従って比較的緩やかにグレインサイズが大きくなっている。そして、12ショット目でほぼこのELAエネルギーにより得られる最大のグレインサイズGpとなり、その後は大きな変化はない。
【0031】
以上の実験より次のことが分かった。ELAにおいて、シリコンのグレインサイズを大きくするためには、エネルギーを上げればいいが、あるエネルギー値よりも大きくなると、再非晶質化が起こり、グレインサイズが急激に小さくなってマイクロクリスタルが生成される。即ち、図12にELAエネルギーとグレインサイズとの関係を示すように、エネルギーが高くなるにつれてグレインサイズは大きくなっていき、十分大きなグレインサイズGMを得るエネルギーEdを越えて更に高くなると、グレインサイズは最大となる。更にエネルギーが高くなると、グレインサイズは小さくなり、やがて急激に小さくなる。ここで、このような閾値エネルギーと、グレインサイズを最大にするエネルギーが厳密に一致するかどうかは分かっていないが、グレインサイズを最大にするエネルギーは、閾値エネルギーに極めて近く、かつ、閾値エネルギーの方が大きくなっているので、以下の記述では、グレインサイズを最大にするエネルギーと、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーを実施上一致するものとみなし、主に、閾値エネルギーに関して説明していく。
【0032】
図12より、グレインサイズGM以上を得るためには、エネルギーはEdとEuの間の範囲内にあれば良く、特に、最大のグレインサイズを得るためには、図の関係曲線の形状からして、再非晶質化閾値エネルギーを越えない範囲内で、レーザーエネルギーをできるだけ大きくすればよいことがわかる。しかし、図27に示すように、照射レーザーエネルギーのばらつきは免れないため、局所的にも、グレインサイズが急激に小さくなる閾値エネルギーを越えると、これに対応する領域が結晶化不良領域となって、この領域に形成されるTFTの特性を悪化させてしまう。
【0033】
従って、図2から図5に示すように、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEthに関して、照射レーザービームの走査進行方向の前方から後方に向かって、エネルギーが緩やかに低下し、プロファイルエッジが閾値エネルギーEthよりも上側の領域から下側の領域へと交差するエネルギープロファイルとすることにより、良好なELAが行われる。即ち、ビームプロファイルの前方において、閾値エネルギーEthを越えていることにより、プロファイルエッジの閾値エネルギーEthとの交差部直後の領域(GR)で、閾値エネルギーEthを越えない最大のエネルギーによるアニールが行われ、最大のグレインサイズを有するp−Si膜の形成が行われる。言い換えれば、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEth直下のエネルギー領域において、グレインサイズを最も大きくするエネルギー領域(GR)が存在する。このGR領域よりも前方の閾値エネルギーEthを越えた領域では、マイクロクリスタルが形成されることになるが、その後、GR領域が通過することで、グレインサイズは最大にされる。また、GR領域よりも後方において、閾値エネルギーEthを越えないので、いったん形成されたグレインが微結晶化することはない。従って、GR領域が被処理膜の同一領域において、所定回数ショットされるべく、オーバーラップ量及びパルス周波数を設定することで、被処理膜の全域にわたって良好なアニールが行われ、最大のグレインサイズを有するp−Si膜の形成が可能となる。
【0034】
【実施例】
まず第1の実施例として、図13は、図22のELA装置において、レーザービームの焦点位置と被処理基板の距離を300μmに設定した時のビームプロファイルである。プロファイルの左側においてエネルギーが跳ね上がった形状を呈している。図14は、図13のエネルギープロファイルを呈したラインビームの進行方向を、図13の左方向にして走査した時の光学顕微鏡写真である。セコエッチを行ってグレインサイズの違いから生じる干渉光が異なっ色を表すようにすることで、膜状態を調べることができる。図14の(a)(b)(c)は、各々エネルギー390mJ/平方cm、400mJ/平方cm、410mJ/平方cmの時のものである。また、図15には、同じく図13のラインビームの進行方向を右方向にして走査した時の同様の光学顕微鏡写真である。図14では、概ね膜質の良好なp−Si膜が得られていることが分かる。これに対して、図15では、(a)及び(b)で結晶化不良領域が縦に筋状に黒くなっているのが認められる。(c)では更に、結晶化不良領域が黒く目立っており、膜質がかなり悪いことが分かる。
これらの観察から次のことが推察される。即ち、図13にエネルギープロファイルを示すラインビームでは、エネルギーが跳ね上がった部分が微結晶化温度即ちグレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEthを越えやすくなっており、特に、レーザーエネルギーが高くなればなるほど、その確率は高まる。このため、図13の右方向に進行するラインビームでは、照射領域の最後部で微結晶化を行いながらアニールされるので、ビームの前方で形成されたp−Siが、ビームの後方でマイクロクリスタルになって図15に示されるように結晶化不良領域として残ってしまう。このようなことは、エネルギーが高い程起こりやすく、大きなグレインサイズを得ようとすると、かえってマイクロクリスタルを生成してしまうという問題を招く。
【0035】
これに対して、ラインビームの進行方向を図13の左方向にとると、ビームの前方でマイクロクリスタルが生成されやすくなるが、その後、ビームが通過している間に閾値エネルギー直下のエネルギー領域により良好な結晶化が行われて、グレインサイズの大きなp−Siが形成される。図14(c)では、僅かに結晶化不良域が黒く生じているのが認められ、レーザーエネルギーが410mJ/平方cmの付近に、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEthがあることが分かる。
【0036】
従って、図13にエネルギープロファイルを示すラインビームは、そのエネルギーを410mJ/平方cm程度に設定し、かつ、図の左方向に進行方向をとって走査することにより、最良の結晶化アニールが行えることが分かる。即ち、この時、ビームの前方でマイクロクリスタルが形成されるが、その後、ビームの中央部から後方にかけて、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEthよりも高いエネルギー領域から、閾値エネルギーEthよりも低いエネルギー領域へと移行する部分があり、図4に示すような、最も良好なアニールが行われる最適ビーム領域(GR)が存在している。本実施例では、20ショット重ね打ちを行っており、最適ビーム領域(GR)によるショット数はそれよりも減るが、図6、図7及び図11に示しているように、グレインの形成は初めの数ショットでほぼ完成されるので、所望のショット数が得られるように、レーザーパルスのオーバーラップ量と周波数を最適に設定することで、良好なアニールを行うことができる。
【0037】
次に第2の実施例として、図16は、図22のELA装置において、レーザービームの焦点位置と被処理基板の距離を600μmに設定した時のビームプロファイルである。このように、焦点距離を変えることで、回折及び干渉時の極微の光のずれを利用してビームプロファイルを変形することができる。また、図17は、図16にエネルギープロファイルを示すラインビームの進行方向を図の左方向にとった場合の顕微鏡写真、図18は、同じく右方向の顕微鏡写真である。図17及び図18において、(a)(b)(c)は、レーザーエネルギーが各々390mJ/平方cm、400mJ/平方cm、410mJ/平方cmの場合である。両図とも、(a)(b)では良好な結晶状態が示されているが、(c)を比べると、図17において結晶化不良領域が目立っている。即ち、エネルギー410mJ/平方cm付近に、グレインサイズを急激に小さくなる閾値エネルギーがある。このビームプロファイルは、図16に示すように、比較的右側にエネルギーが高くなった領域があるので、左方向に走査した場合は、レーザービームの後の方でマイクロクリスタルが形成され、その後、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEth直下の良好なアニールを行う最適ビーム領域(GR)が短くなり、マイクロクリスタルの結晶化が十分に行われずに図17に示すように結晶化不良領域が生成してしまう。
【0038】
これに対して、ラインビームを右方向に走査した場合は、レーザーエネルギー照射の初めの方で、グレインサイズを急激に小さくする閾値エネルギーEthを越えたアニールが行われ、その後、図4と同様、閾値エネルギーEth直下の最良のアニールが行われる最適ビーム領域(GR)が十分に長くなるので、図18に示されるような結晶性の良好な膜がp−Si膜が得られる。
【0039】
続いて、参考例として、図19は、レーザーの焦点位置と被処理基板の距離を900・高ニした時のビームプロファイルの参考例である。また、図20及び図21は、図19のエネルギープロファイルを呈するラインビームの進行方向を各々左方向及び右方向にとった場合の顕微鏡写真である。(a)(b)(c)は、先の実施例と同様、レーザーエネルギーが各々390mJ/平方cm、400mJ/平方cm、410mJ/平方cmの場合である。図20及び図21のいずれも良好な結晶性が示されている。図19のビームプロファイルを見ると、中央やや右にエネルギーが突出した部分があり、これを頂点として、その両側で緩やかにエネルギーが低下した、図5に類似の形状となっている。このため、ラインビームの走査方向を左方向あるいは右方向のいずれにとっても、グレインサイズを最大にするエネルギーEthよりも高い領域からエネルギーEthよりも低い領域へと移行する、グレインサイズを十分に大きくする最適ビーム領域(GR)が存在しており、良好なアニールが行われている。
【0040】
【発明の効果】
以上の説明から明らかな如く、本発明で、基板上に形成された非晶質半導体層をレーザーアニールにより結晶化して得られる多結晶半導体層を用いた半導体装置の製造方法において、照射レーザービームの走査進行位置に関して、比較的前方において、グレインサイズを最大にする閾値エネルギーを越えるエネルギー領域が存在し、かつ、十分後方において、グレインサイズを最大にする閾値エネルギーを越えないエネルギー領域が存在する位置−エネルギー関係のプロファイルを呈したレーザービーム照射を行う。これにより、閾値エネルギー直下の、グレインサイズを十分に大きくするエネルギー領域において最良のアニールが成され、結晶性の極めて良好な多結晶半導体層を形成することができる。従って、画素部とともに、周辺駆動回路部を同一基板上に形成した駆動回路一体型液晶表示装置において、画素部及び駆動回路部を構成する多結晶シリコン薄膜トランジスタの特性が向上され、表示品位の良い表示装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態にかかるELA時の被処理基板の平面図である。
【図2】 本発明の実施の形態にかかるレーザービームの走査進行方向の位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルである。
【図3】 本発明の実施の形態にかかるレーザービームの走査進行方向の位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルである。
【図4】 本発明の実施の形態にかかるレーザービームの走査進行方向の位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルである。
【図5】 レーザービームの走査進行方向の位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルの参考例である。
【図6】 本発明の実施の形態にかかるELAにおける照射時間(パルスショット数)−膜温度の関係図である。
【図7】 本発明の実施の形態にかかるELAにおける照射時間(パルスショット数)−グレインサイズの関係図である。
【図8】 本発明の実施の形態にかかるELAにおけるビームプロファイルと膜状態との対応関係図である。
【図9】 本発明の実施の形態にかかるELAにおけるビームプロファイル、膜状態及び位置−グレインサイズ関係の対応関係図である。
【図10】 本発明の実施の形態にかかるELAにおけるビームプロファイルと膜状態との対応関係図である。
【図11】 本発明の実施の形態にかかるELAにおけるビームプロファイル、膜状態及び位置−グレインサイズ関係の対応関係図である。
【図12】 本発明の実施の形態にかかるELAにおけるレーザーエネルギー−グレインサイズの関係図である。
【図13】 本発明の第1の実施例にかかるELAにおける位置−エネルギーの関係を表すビームプロファイルである。
【図14】 本発明の第1の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図15】 本発明の第1の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図16】 本発明の第2の実施例にかかるELAにおける位置−エネルギーの関係を表すビームプロファイルである。
【図17】 本発明の第2の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図18】 本発明の第2の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図19】 ELAにおける位置−エネルギーの関係を表すビームプロファイルの参考例である。
【図20】 本発明の第3の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図21】 本発明の第3の実施例にかかるELAにより形成されたp−Si膜の顕微鏡写真である。
【図22】 従来のELAにおける被処理基板の平面図である。
【図23】 ELA装置の構成図である。
【図24】 ELA装置の光学系の原理図である。
【図25】 ELA装置の光学系の原理図である。
【図26】 TFT部の平面図である。
【図27】 ELAにおける照射位置−エネルギー関係を表すビームプロファイルである。
Claims (5)
- 基板上の半導体膜にパルスレーザービームを照射して膜質を改良する半導体膜のレーザーアニール方法において、
前記パルスレーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーの大きさは、該パルスレーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置よりも比較的後方位置でより小さくされ、
前記パルスレーザービームの前記前方位置で大きな粒径を有するグレインを形成し、前記前方位置におけるレーザーエネルギーのばらつきによって生じる微結晶領域を、前記パルスレーザービームの前記後方位置で結晶化することを特徴とする半導体膜のレーザーアニール方法。 - 基板上の非晶質半導体膜にパルスレーザービームを照射して多結晶半導体膜を得る半導体膜のレーザーアニール方法において、
前記パルスレーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーの大きさは、該パルスレーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置よりも比較的後方位置でより小さくされ、
前記パルスレーザービームの前記前方位置で大きな粒径を有するグレインを形成し、前記前方位置におけるレーザーエネルギーのばらつきによって生じる微結晶領域を、前記パルスレーザービームの前記後方位置で結晶化することを特徴とする半導体膜のレーザーアニール方法。 - 前記パルスレーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記レーザービームが走査される進行方向における十分後方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギー値よりも十分に小さいことを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載の半導体膜のレーザーアニール方法。
- 前記パルスレーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーは、前記パルスレーザービームが走査される進行方向における比較的前方位置において、結晶粒径を最大にするエネルギーと同程度か、または、これを越えることを特徴とする請求項1もしくは請求項2または請求項3に記載の半導体膜のレーザーアニール方法。
- 前記パルスレーザービームは、発振源から射出されたレーザーを複数のレンズからなる光学系によりその被照射領域を所定の形状に整形して得られ、前記基板上の非晶質半導体膜と前記光学系の焦点位置との距離を調節することで、前記パルスレーザービームの被照射領域における位置に関するエネルギーが制御されていることを特徴とする請求項1から請求項4いずれかに記載の半導体膜のレーザーアニール方法。
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