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JP3562422B2 - 燃料噴射制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料噴射制御装置に関し、詳細には内燃機関の燃焼音を抑制する燃焼音抑制制御を行う燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ディーゼルエンジン等の内燃機関においては、ディーゼルノック現象が生じることが知られている。ディーゼルノックは、燃焼時の着火遅れなどにより燃焼圧力の上昇率が過大になり、燃焼ガスに共振が生じるために燃焼音が急激に増大する現象である。一般に、燃焼音の増大は着火遅れが大きくなる低温始動時や、吸気温度や燃焼室温度上昇の遅れに伴う着火遅れが生じる過渡運転時等に特に発生しやすい。また、高圧燃料噴射を行なう機関では噴射圧力の増大に伴う燃焼速度の増加により燃焼音の増大が生じやすくなる。
【0003】
上記の燃焼音の増大を防止するためには、主燃料噴射に先立って気筒内に少量の燃料を噴射するパイロット燃料噴射が有効なことが知られている。主燃料噴射に先立ってパイロット燃料噴射を行なうと、パイロット燃料噴射により噴射された燃料が主燃料噴射に先立って燃焼するため、主燃料噴射が行われた時には気筒内は燃料の着火、燃焼に適した温度と圧力とになる。このため、パイロット燃料噴射を行なうと、主燃料噴射により噴射された燃料の着火遅れが短縮され内燃機関の燃焼音が増大することが防止される。また、一般にパイロット燃料噴射による燃焼音の抑制効果は、パイロット燃料噴射量、噴射時期により大きく変化する。このため、最大の燃焼音抑制効果を得るためには、実際の機関運転中に機関の燃焼音を検出し、燃焼音の低下幅が最も大きくなるようにパイロット燃料噴射量、噴射時期を設定する必要がある。
【0004】
ところが、実際の燃焼音の大きさは気筒毎或いは機関毎にばらつきがあるため、単に燃焼音そのものの大きさを比較したのでは正確なパイロット燃料噴射の効果を判定することは困難である。例えば、もともと燃焼音が大きい気筒(または機関)ではパイロット燃料噴射により燃焼音が大きく低下したとしても燃焼音そのものはまだ高いレベルにある。また、逆に、もともと燃焼音が小さい気筒では、パイロット燃料噴射によりわずかしか燃焼音が低下しなかった場合でも燃焼音そのものは低いレベルになる。このため、燃焼音そのものを比較したのでは、パイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握することはできず、最大の燃焼音抑制効果が得られるようにパイロット燃料噴射量等を制御することが困難となる。
【0005】
このため、最大の燃焼音抑制効果を得るためにはパイロット燃料噴射による燃焼音低下幅を正確に検出してパイロット燃料噴射量等を制御することが必要となる。
パイロット燃料噴射による燃焼音低下幅を検出するものではないが、例えば、特開平8−246935号公報には、ディーゼル機関において主燃料噴射と重複する副燃料噴射を行なう場合に、燃焼音抑制効果が最大になるように副燃料噴射時期を制御する燃料噴射制御装置が開示されている。
【0006】
同公報の装置では、燃焼音を代表する値として筒内圧力を使用し、筒内圧力を検出する筒内圧センサにより検出した圧力に基づいて副燃料噴射時期を制御しているが、その際に、各気筒の燃焼圧力のばらつき等を補正するため、基準状態として気筒内で燃焼が生じない状態(モータリング)時の各気筒の筒内圧力を基準筒内圧として使用している。
【0007】
すなわち、同公報の装置では予めモータリング時の筒内圧を測定しておき、機関運転中の実際の筒内圧とモータリング時の基準筒内圧との差に基づいて副燃料噴射の時期を最大の燃焼音抑制効果が得られるように制御している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、実際の運転では筒内圧センサ等で検出した燃焼音値には、種々のノイズが含まれている。また、このノイズは各気筒毎に異なる大きさを持っている。このため、運転時のセンサ出力信号はノイズの混入のためにS/N比が小さくなっており、特に基準筒内圧と実際の筒内圧との差が比較的小さいような場合には、筒内圧の正確な変化を抽出することが困難になる。このため、上記特開平8−246935号公報のように、単に基準状態の燃焼音と実際の燃焼音との差を燃焼音の代表値として使用する手法をパイロット燃料噴射制御に適用したのでは、パイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握することができず、適切な燃焼音抑制制御を行なうことができない問題がある。
【0009】
本発明は上記従来技術の問題に鑑み、パイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握し、適切に燃焼音を抑制可能な燃料噴射制御装置を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載した発明によれば、内燃機関の各気筒の燃焼音を検出する燃焼音検出手段と、機関各気筒に主燃料噴射と、該主燃料噴射に先立ってパイロット燃料噴射とを行う燃料噴射手段と、前記検出した各気筒の燃焼音の周波数成分のうち、パイロット燃料噴射実行時における音圧とパイロット燃料噴射停止時における音圧との差が極大となる特定周波数の周波数成分を抽出する抽出手段と、予め定めた基準状態で検出した各気筒の燃焼音の前記特定周波数成分の音圧である基準燃焼音値と、パイロット燃料噴射実行時の各気筒の前記特定周波数成分の音圧である燃焼音値とに基づいて、各気筒の燃焼音の大きさを代表する燃焼音代表値を算出する燃焼音代表値算出手段と、前記算出された燃焼音代表値に基づいて前記パイロット燃料噴射量または噴射時期を補正するパイロット燃料噴射量補正手段と、を備えた燃料噴射制御装置において、前記特定周波数は、パイロット燃料噴射と主燃料噴射との時間間隔であるパイロット燃料噴射インターバルに応じて変化する、燃料噴射制御装置が提供される。
【0011】
請求項2に記載した発明によれば、前記特定周波数は、fを前記パイロット燃料噴射インターバルの逆数、nを0または正の整数としたときに、fの(n+(1/2))倍の周波数である請求項1に記載の燃料噴射制御装置が提供される。
【0012】
すなわち、請求項1及び請求項2の発明では検出した燃焼音そのものを燃焼音値として用いるのではなく、燃焼音の特定周波数成分の音圧を燃焼音値として使用する。この特定周波数成分は、パイロット噴射の有無による音圧の変化が他の周波数成分より大きくなる周波数成分とされる。このような特定周波数成分を燃焼音値として使用することにより、パイロット噴射量等の変化により燃焼音値は大きく変化するようになる。従って、燃焼音の特定周波数成分を燃焼音値として使用することにより燃焼音値のS/N比が大きくなり、相対的に燃焼音値に対するノイズの影響を抑制する事が可能となるためパイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握することが可能となる。
【0013】
なお、燃焼音検出手段としては、各気筒の筒内圧力を検出する筒内圧センサ等を用いることができる。また、基準状態としては、パイロット燃料噴射の影響がない状態、例えば機関運転時のパイロット燃料噴射停止時またはモータリング時等の状態が使用される。
【0014】
すなわち、請求項1及び請求項2の発明では特定周波数は、パイロット燃料噴射インターバルに応じて変化する。
後述するように、パイロット噴射実行時の実際の燃焼音の周波数分析を行なうと、一定周波数毎に周期的に音圧が小さくなる周波数成分が存在する。これらの特定周波数は機関回転数、負荷が一定の場合でもパイロット燃料噴射と主燃料噴射とのインターバルに応じて変化し、Fを特定周波数、fをパイロット燃料噴射インターバルの逆数、nを正の整数とすると、F=(n+(1/2))×fの関係があることが判明している
【0015】
また、パイロット噴射を停止した状態での運転では上記のような周期的な振動成分の低下は生じない。
このため、燃焼音の上記特定周波数成分は、他の周波数成分に較べてパイロット燃料噴射実行時には音圧の低下幅が大きくなる。すなわち、これらの特定周波数成分では他の周波数成分に較べてパイロット燃料噴射実行時の音圧低下幅に対するノイズの影響が小さくなる。従って、これらの特定周波数成分の音圧を燃焼音値として使用することにより正確にパイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を把握することが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明を自動車用ディーゼル機関に適用した場合の実施形態の概略構成を示す図である。
図1において、1は内燃機関(本実施形態では#1から#4の4つの気筒を備えた4気筒4サイクルディーゼル機関)、10aから10d は機関1の#1から#4の各気筒内に直接燃料を噴射する燃料噴射弁、3は各燃料噴射弁10aから10d が接続される共通の蓄圧室(コモンレール)を示す。コモンレール3は、高圧燃料噴射ポンプ5から供給される加圧燃料を貯留し、貯留した高圧燃料を各燃料噴射弁10aから10d に分配する機能を有する。
【0017】
本実施形態では、高圧燃料噴射ポンプ5は、例えば吐出量調節機構を有するプランジャ形式のポンプとされ、図示しない燃料タンクから供給される燃料を所定の圧力に昇圧しコモンレール3に供給する。ポンプ5からコモンレール3への燃料圧送量は、コモンレール3圧力が目標圧力になるようにECU20によりフィードバック制御される。
【0018】
図1に20で示すのは、機関の制御を行う電子制御ユニット(ECU)である。ECU20は、リードオンリメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、マイクロプロセッサ(CPU)、入出力ポートを双方向バスで接続した公知の構成のディジタルコンピュータとして構成されている。ECU20は、燃料噴射弁10aから10dの開弁時期、時間等の開弁動作を制御してメイン燃料噴射の噴射時期及び噴射量を制御する燃料噴射制御等の機関の基本制御を行う。
【0019】
これらの制御を行なうために、本実施形態ではコモンレール3にはコモンレール内燃料圧力を検出する燃料圧センサ31が設けられている他、機関1のアクセルペダル(図示せず)近傍にはアクセル開度(運転者のアクセルペダル踏み込み量)を検出するアクセル開度センサ21が設けられている。また、図1に23で示すのは機関1のカム軸の回転位相を検出するカム角センサ、25で示すのはクランク軸の回転位相を検出するクランク角センサである。カム角センサ23は、機関1のカム軸近傍に配置され、クランク回転角度に換算して720度毎に基準パルスを出力する。また、クランク角センサ25は、機関1 のクランク軸近傍に配置され所定クランク回転角毎(例えば15度毎)にクランク角パルスを発生する。
【0020】
また、本実施形態では機関1の各気筒には燃焼音を検出する燃焼音センサ15aから15bが設けられている。燃焼音センサとしては、本実施形態では各気筒の筒内圧力を検出する筒内圧センサが使用される。
本実施形態では、燃焼音センサとして、筒内圧センサ以外にも、各気筒の燃焼音発生を検出できるようにゲート回路を設定した音響センサ等をエンジンルームに配置してエンジン騒音を検出するようにしたものや、機関1のシリンダブロックの各気筒の爆発行程時の振動を検出するノックセンサ(振動センサ)等も使用可能である。また、図1では各気筒毎に1つの燃焼音センサを設けているが、例えば、シリンダガスケットに歪センサを設けて筒内圧によるガスケットの歪を検出するような形式の筒内圧センサを使用するような場合には、互いに隣接する気筒間の位置にセンサを設け、それぞれの気筒の燃焼期間に合わせてゲート回路をオープンするようにすれば、1つの燃焼音センサで2つまたはそれ以上の気筒の燃焼音を検出することも可能となる。
【0021】
燃料圧センサ31、アクセル開度センサ21からのアナログ出力信号は図示しないAD変換器を介してECU20の入力ポートに供給される。カム角センサ23、クランク角センサ25からのパルス信号は直接ECU20の入力ポートに入力される。ECU20は、クランク角センサ25から入力するクランク角パルス間隔に基づいてクランク軸回転速度を算出するとともに、カム角センサ23からの基準パルス入力後のクランク角パルスの数からクランク軸の位相を算出する。本実施形態では、各燃焼音センサ15a〜15dの出力は、ゲート回路18及び高速AD変換器16とを介してECU20の入力ポートに供給される。高速AD変換器16は、高速のサンプリングが可能なAD変換器であり、本実施形態ではサンプリング間隔1KHz以上、好ましくは5KHz程度の間隔のサンプリングが可能なAD変換器が使用される。
【0022】
ECU20は、後述する方法で各気筒の燃料噴射時期から算出した時期から所定の期間ゲート回路18にゲートオープン信号を出力する。ゲートオープン信号がゲート回路18に入力している間、対応する気筒の燃焼音センサ15からのアナログ信号がゲート回路18から高速AD変換器16に入力し、AD変換されてデジタル信号としてECU20の入力ポートに供給される。この、ゲートオープンの期間は、主燃料噴射による燃焼が生じている期間に設定される。なお、ゲート回路18としては公知の構成のものが使用可能である。
【0023】
ECU20の出力ポートは、それぞれ図示しない駆動回路を介して高圧燃料噴射ポンプ5と各気筒の燃料噴射弁10aから10d に接続されている他、ゲート回路18に接続され、ゲート回路18にゲートオープン信号を供給している。
本実施形態では、ECU20は各気筒にメイン燃料噴射を行なう前にパイロット燃料噴射を行う。前述したように、各気筒の燃焼音はパイロット燃料噴射量により変化する。そこで、パイロット燃料噴射による最大の燃焼音抑制効果を得るためには、パイロット燃料噴射による各気筒の燃焼音の変化を正確に検出し、燃焼音が最小になるようにパイロット燃料噴射量や噴射時期を調節する必要がある。本実施形態では各気筒の燃焼音センサ15a〜15dにより検出した燃焼音(本実施形態では燃焼圧力)を信号処理して燃焼音代表値を算出するとともに、この燃焼音代表値に基づいて各気筒の燃焼音が最小になるようにパイロット燃料噴射量を増減するフィードバック制御を行う。
【0024】
以下、本実施形態の燃焼音代表値算出について説明する。
本実施形態では、検出した燃焼音の周波数のうちパイロット燃料噴射の有無による音圧変化(本実施形態では燃焼圧力変化)が大きい周波数成分を用いて燃焼音の大きさを代表する燃焼音代表値を算出する。
図2は、メイン燃料噴射による燃料の燃焼時における筒内圧力の周波数分析結果を示す図である。図2において縦軸は各周波数成分の音圧(燃焼圧)レベル(dB)を示し、横軸は周波数を示している。また、図2、カーブIはパイロット燃料噴射を行なわない場合(パイロット燃料噴射停止時)の各周波数成分の燃焼圧レベルを、カーブIIはカーブIと同一条件下でパイロット燃料噴射を実施した場合の各周波数成分の燃焼圧レベルを、カーブIII は同一回転数におけるモータリング時(燃料噴射カット時)の各周波数成分の燃焼圧レベルを、それぞれ示している。
【0025】
図2に示すように、各周波数成分の燃焼圧レベルはパイロット燃料噴射停止時(カーブI)に最大となり、モータリング時(カーブIII )に最小となる。また、パイロット燃料噴射実施時(カーブII)には、各周波数成分の燃焼圧レベルはパイロット噴射の効果により各周波数成分の燃焼圧レベルは低下してパイロット噴射停止時(カーブI)とモータリング時(カーブIII ) との中間になる。ところが、図2カーブIIに示すように、パイロット燃料噴射時には全部の周波数成分の燃焼圧レベルが一様に低下するのではなく、燃焼圧レベルが他の周波数成分に較べて大きく低下する周波数成分が存在することが判明している。また、この周波数成分は、パイロット燃料噴射時期とメイン燃料噴射時期との時間間隔(パイロット燃料噴射インターバル)(秒)の逆数fの(n+(1/2))倍の周波数(nは0または正の整数)を有することが判明している。すなわち、パイロット燃料噴射停止時(図2、カーブI)とパイロット燃料噴射実施時(図2、カーブII)とを比較すると、パイロット燃料噴射実施時には全体的にパイロット燃料噴射停止時に較べて音圧レベルは低下するが、特に(n+(1/2))×fの周波数を有する周波数成分ではパイロット燃料噴射実施時には音圧レベルが極小になる(すなわちカーブIIで見ると音圧レベルが(n+(1/2))×fの周波数毎に落ち込む)。従って、これらの周波数成分ではパイロット燃料噴射停止時の音圧レベルとパイロット燃料噴射実施時の音圧レベルとの差が極大になることが判る。
【0026】
このように、パイロット燃料噴射実行時に(n+(1/2))×fの周波数毎に音圧レベルが落ち込む理由は以下のように考えられる。
すなわち、パイロット燃料噴射が行なわれると噴射された燃料が燃焼室内で燃焼し、燃焼による圧力波が発生する。次いでパイロット燃料噴射インターバルが経過するとメイン燃料噴射が行なわれ、メイン燃料噴射により噴射された燃料が燃焼することにより圧力波が発生する。このパイロット燃料噴射により発生する圧力波とメイン燃料噴射による発生する圧力波とは燃焼内で反射し相互に干渉する。このため、パイロット燃料噴射とメイン燃料噴射との時間間隔に応じて、n×f時の周波数成分では音圧レベルが増幅され、(n+(1/2))×fの周波数成分では音圧レベルが減衰するものと考えられる。
【0027】
上述したように、パイロット燃料噴射実施時には(n+(1/2))×fの周波数成分は他の周波数成分より音圧レベルの低下が大きくなる。このため、例えばパイロット燃料噴射停止時とパイロット燃料噴射実施時との音圧レベルを比較する際に上記周波数成分でパイロット燃料噴射停止時と実施時とを比較すると、他の周波数成分より音圧レベルの差が大きくなる。このことは、音圧レベルの測定値にノイズが混入するような場合にも、ノイズに対して音圧レベルの低下幅が大きく現れることになる。すなわち、上記(n+(1/2))×fの周波数成分の音圧レベルを計測することにより、パイロット燃料噴射の燃焼音抑制効果を定量的に算出する際にS/N比の大きな信号を得ることが可能となる。以下の説明では、上記(n+(1/2))×fの周波数を特定周波数と呼ぶこととする。
【0028】
上述のように、パイロット燃料噴射実施時に燃焼圧センサ15で検出した音圧(燃焼圧)レベルの特定周波数成分に基づいてパイロット燃料噴射の燃焼音抑制効果を評価することにより、正確な燃焼音抑制制御を行なうことが可能となる。しかし、実際には燃焼圧力には各気筒毎のばらつきがあるため、各気筒の特定周波数成分の音圧レベルそのものを制御に用いたのでは各気筒毎の制御誤差が大きくなる可能性がある。そこで、本実施形態では、各気筒毎に基準運転状態における燃焼音の上記特定周波数成分の音圧レベルと、パイロット燃料噴射実施時の燃焼音の上記特定周波数成分の音圧レベルとを用いて、無次元の燃焼音代表値を算出し、この燃焼音代表値に基づいてパイロット燃料噴射量を制御するようにしている。
【0029】
図3は、本実施形態の燃焼音代表値の算出方法を説明する図である。
図3は、図2の一つの特定周波数を中心とした比較的狭い周波数帯域の音圧レベルを拡大して示したものであり、カーブIからIII は図2と同様にそれぞれパイロット燃料噴射停止時、パイロット燃料噴射実施時、モータリング時の各周波数成分の音圧レベルを示している。
【0030】
本実施形態では、各気筒の特定周波数を中心とした幅Wの周波数帯域をとり、カーブIとカーブIII とで囲まれる面積(図3にAで示す面積)に対する、カーブIIとカーブIII とで囲まれる面積(図3にBで示す面積)の比R(=B/A)をそれぞれの気筒の燃焼音代表値として使用する。カーブIはパイロット燃料噴射停止時の燃焼音であるため、各気筒の燃焼音の最大値と考える事ができる。また、III はモータリング時(気筒内で燃焼が生じていない時)の燃焼音値であるため燃焼音を全く含まない音圧レベル、すなわちノイズの大きさを表している。このため、面積Aは各気筒の音圧レベルのうち燃焼音のみに起因する音圧レベルの最大値と考えられる。同様に、カーブIIとカーブIII とで囲まれる部分の面積は、パイロット燃料噴射実施時の燃焼音のみに起因する音圧レベルの大きさを表すことになる。また、カーブIとカーブIII とは機関運転条件(回転数、負荷)が定まれば各気筒毎に固定されるため、面積Aは機関運転条件が定まれば各気筒毎に特有の一定値となる。従って、面積BとAとの比B/Aはパイロット燃料噴射実施時に各気筒の燃焼音が最大値に対してどの程度低下したかを表す値になる。
【0031】
実際の運転では、パイロット燃料噴射インターバルは機関運転条件(機関回転数、負荷)毎に最適な値になるように設定されている。このため、機関運転条件が変化するとパイロット燃料噴射インターバルも変化し、それに応じて特定周波数も変化する。また、機関運転条件が変化すると各気筒のパイロット燃料噴射停止時の燃焼音の音圧レベル(図2、図3、カーブI)とモータリング時の音圧レベル(同、カーブIII )も変化する。
【0032】
本実施形態では、ECU20は以下に説明する手順で各気筒の燃焼音代表値Rを算出するとともに、算出した燃焼音代表値Rが最小になるように各気筒のパイロット燃料噴射量を調節する。
すなわち、ECU20は、各気筒の圧縮上死点付近の主燃料噴射による燃料の燃焼期間中にゲート回路18にゲートオープン信号を出力し、該当する気筒の燃焼音センサ(15a〜15dの一つ)の出力を高速AD変換器16でAD変換し、ディジタル信号としてECU20に入力する。
【0033】
ECU20は、機関運転条件(機関負荷、回転数)から定まるパイロット燃料噴射インターバル(1/f)に基づいて特定周波数(n+(1/2))×fを算出し、上記により入力した音圧信号をFFT(高速フーリエ変換)処理し、特定周波数のうち予め定めた周波数(例えば2.5f)を中心とした幅W(図3)の周波数帯域の音圧レベルを算出する。
【0034】
そして、予めECU20のROMに記憶した各機関運転条件におけるカーブIとカーブIII とから、上記特定周波数帯域Wの音圧レベルを求め、これらの音圧レベルから図3の面積AとBとを算出する。燃焼音代表値Rは面積AとBとを用いて、R=B/Aとして算出される。
なお、本実施形態ではパイロット燃料噴射インターバルは、予めECU20のROMに、機関負荷を表すアクセル開度と機関回転数とを用いた数値テーブルとして格納されている。また、同様に、各気筒の各運転条件におけるカーブIとカーブIII とは、実際に各運転条件においてパイロット燃料噴射停止運転とモータリングとを行なって燃焼音センサ15a〜15dで計測した音圧レベルの各周波数成分の値としてECU20のROMに格納されている。
【0035】
上記操作により、実際のパイロット燃料噴射運転時の燃焼音抑制効果を定量的に表す燃焼音代表値が算出される。
次いで、ECU20は上記により算出した燃焼音代表値Rが最小になるようにパイロット燃料噴射量を増減補正する。パイロット燃料噴射量は、機関運転条件(回転数、負荷)毎に基準値QPLが定められており、パイロット燃料噴射インターバルと同様に機関回転数とアクセル開度とを用いた数値テーブルとしてECU20のROMに格納されている。本実施形態では、上記基準値QPLに補正量ΔQPLを加えた値を実際のパイロット燃料噴射量として設定するとともに、各気筒のΔQPLの値が燃焼音代表値Rが最小になるように増減補正する。
【0036】
具体的には、ECU20はΔQPLの値を各サイクル毎に一定量ずつ増大させ、前回のサイクルからの燃焼音代表値Rの変化を検出し、Rが最小となるΔQPLを気筒毎に決定する。すなわち、ΔQPLを増大させたときにRが一様に低下する場合にはECU20は各サイクル毎にΔQPLの増大を続け、Rの値が前回より増大するようになったときのΔQPLの値を求め、その気筒の現在の運転条件下におけるパイロット燃料噴射量補正量の最適値として記憶する。また、ΔQPLを増大させたときにRが一様に増大する場合には、次に各サイクル毎にΔQPLを一定量ずつ減少させ、Rの値が増大に転じるΔQPLの値をその気筒の現在の運転条件下におけるパイロット燃料噴射量補正量の最適値として記憶する。この操作を気筒毎に行なうことにより、現在の機関運転条件下で燃焼音を最小にする最適補正量ΔQPLが求められる。
【0037】
上記により算出された最適補正量は、機関運転条件とともにメインスイッチがオフにされた場合も記憶保持が可能なバックアップRAMに記憶され、次回に同一の条件での運転が行なわれたときには補正量ΔQPLの初期値として使用される。これにより、各気筒の燃焼音が最小になるように実際のパイロット燃料噴射量が制御される。
【0038】
なお、上記実施形態ではパイロット燃料噴射インターバルを固定したままで、燃焼音が最小になるようにパイロット燃料噴射量を補正する場合について説明したが、同様な手法でパイロット燃料噴射量を固定したままで燃焼音が最小になるようにパイロット燃料噴射インターバルを補正することも可能である。更に、上記の方法で、まずパイロット燃料噴射インターバル(または噴射量)を固定したままで燃焼音が最小になるようにパイロット燃料噴射量(またはインターバル)を補正し、次にパイロット燃料噴射量(またはインターバル)を固定したままでパイロット燃料噴射インターバル(または噴射量)を補正して更に燃焼音が低下するようにすることも可能である。
【0039】
上述したように、本実施形態では音圧レベルの特定周波数成分に基づいて燃焼音代表値Rを算出することにより、パイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握することが可能となる。このため、例えば燃料噴射弁の劣化等により燃料噴射弁の燃料噴射量特性(通電時間と燃料噴射量との関係)が変化したような場合にも、常にパイロット燃料噴射量は最適な値に制御されるようになる。
【0040】
また、例えばパイロット燃料噴射により噴射した燃料を燃焼させずに予混合気を燃焼室内に形成させるような燃焼形態が必要とされる場合にも、上記特定周波数成分に基づく燃焼音代表値Rが1になるように(すなわち燃焼音が図2カーブIに近づくように)パイロット燃料噴射インターバルを制御することにより、パイロット燃料噴射により噴射した燃料が燃焼することなく確実に予混合気を形成するようにパイロット燃料噴射インターバルを調節することが可能となる。
【0041】
更に、例えば、燃焼音代表値R算出の際に、人間が最も不快に感じる周波数(例えば3KHz)に最も近い特定周波数を使用するようにすれば、不快な周波数の燃焼音成分を集中的に低下させることが可能となる。
なお、上記実施形態では燃焼音センサの出力を処理するために高速AD変換とFFT処理とが必要となるが、通過帯域可変のバンドパスフィルタ(可変バンドパスフィルタ)とピークホールド回路とを用いても同様な制御が可能となる。
【0042】
図4は、可変バンドパスフィルタとピークホールド回路とを用いた実施形態の構成を示す、図1と同様な図である。
図4の構成では、図1の高速AD変換器16の代わりに、可変バンドパスフィルタ41とピークホールド回路43とが使用される点が図1の実施形態と相違している。可変バンドパスフィルタ41はECU20からの制御信号に応じて通過周波数帯域が変更可能なフィルタであり、本実施形態では可変バンドパスフィルタ41の通過周波数帯域の幅は極めて狭い値に設定されている。ECU20は、機関運転条件から前述した方法で特定周波数を算出し、可変バンドパスフィルタ41の通過周波数帯域の中心値を算出した特定周波数に設定する。これにより、ゲート回路18がオープンすると可変バンドパスフィルタ41には特定周波数付近の極めて狭い帯域の周波数成分のみが通過するようになり、FFT変換を行なうことなく特定周波数成分の音圧レベルが検出されるようになる。本実施形態では、ゲートオープン期間中の特定周波数成分の音圧レベル最大値をピークホールド回路43で検出し、この最大値に基づいて図3と同様な方法で燃焼音代表値Rを算出する。これにより、高速AD変換器やFFT処理を必要とすることなく簡易に燃焼音代表値Rを算出することが可能となる。
【0043】
【発明の効果】
各請求項に記載の発明によれば、パイロット燃料噴射による燃焼音抑制効果を正確に把握することが可能となるため、最大の燃焼音抑制効果を得るようにパイロット燃料噴射を制御することが可能となる共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を自動車用ディーゼル機関に適用した場合の実施形態の概略構成を示す図である。
【図2】燃焼音周波数成分による音圧レベル変化を示す図である。
【図3】図1の実施形態の燃焼音算出原理を説明する図である。
【図4】本発明の、図1とは異なる実施形態の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
1…ディーゼル機関
10a〜10d…燃料噴射弁
15a〜15d…燃焼音センサ
16…高速AD変換器
18…ゲート回路
20…電子制御ユニット(ECU)
41…可変バンドパスフィルタ
43…ピークホールド回路

Claims (2)

  1. 内燃機関の各気筒の燃焼音を検出する燃焼音検出手段と、
    機関各気筒に主燃料噴射と、該主燃料噴射に先立ってパイロット燃料噴射とを行う燃料噴射手段と、
    前記検出した各気筒の燃焼音の周波数成分のうち、パイロット燃料噴射実行時における音圧とパイロット燃料噴射停止時における音圧との差が極大となる特定周波数の周波数成分を抽出する抽出手段と、
    予め定めた基準状態で検出した各気筒の燃焼音の前記特定周波数成分の音圧である基準燃焼音値と、パイロット燃料噴射実行時の各気筒の前記特定周波数成分の音圧である燃焼音値とに基づいて、各気筒の燃焼音の大きさを代表する燃焼音代表値を算出する燃焼音代表値算出手段と、
    前記算出された燃焼音代表値に基づいて前記パイロット燃料噴射量または噴射時期を補正するパイロット燃料噴射量補正手段と、
    を備えた燃料噴射制御装置において、
    前記特定周波数は、パイロット燃料噴射と主燃料噴射との時間間隔であるパイロット燃料噴射インターバルに応じて変化する、燃料噴射制御装置
  2. 前記特定周波数は、fを前記パイロット燃料噴射インターバルの逆数、nを0または正の整数としたときに、fの(n+(1/2))倍の周波数である請求項1に記載の燃料噴射制御装置
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